説明

グリースで潤滑した回転式アノード軸受けを備えたX線管用液冷式軸受け外被

【課題】CTイメージング・システム等において、ガントリ負荷の増大、ピーク動作電力及び平均動作電力の増大、並びに全体的な軸受け性能の向上を可能にするために、回転式アノード軸受けの動作温度を低下させてアノード軸受けを潤滑する改善された方法を提供する。
【解決手段】回転式アノード軸受け外被が、真空室(108)を有するX線管フレーム(106)を含んでいる。アノード(110)が真空室(108)の内部に位置しており、軸受け(117)を介してシャフト(114)上で回転する。軸受け(117)は、X線管フレーム(106)の内面(126)に取り付けられている。軸受け(117)は熱エネルギをシャフト(114)からX線管フレーム(106)へ伝達する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、X線イメージング・システム及びその冷却手法に関する。さらに具体的には、本発明は、X線管の内部に設けられている回転式アノードの軸受けを冷却するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
CTイメージング・システムのようなX線管を含むX線イメージング・システムは典型的には、360°の画像を形成するために様々な速度で回転するガントリを含んでいる。ガントリはX線管のようなX線源を含んでおり、X線源は高エネルギ電子ビームによるアノードへの電子衝突によってX線を発生する。電子ビームは、アノードから真空ギャップによって物理的に離隔したカソードから発生する。アノードは、1対又は複数対のアノード軸受け上でモータを介して回転するシャフトに結合されたターゲットを有する。X線はターゲットから放出されて、ファン(扇形)形状のビームの形態で投射される。X線ビームは患者のような撮像対象を透過する。ビームは、対象によって減弱した後に、放射線検出器のアレイに入射する。アレイの各々の検出器素子が、検出器位置でのビーム減弱の測定値である別個の電気信号を発生する。全ての検出器からの減弱測定値を別個に取得して、画像の形成のための透過プロファイルを形成する。
【0003】
撮像時間を高速化し、且つ画質を高め得るように、ガントリの回転速度を速め、またX線管のピーク動作電力及び平均動作電力を増大させることが望ましい。ガントリ回転速度を速めるとX線管軸受けに加わる機械的負荷が増大し、ピーク動作電力及び平均動作電力を増大させるとX線管軸受けに加わる熱負荷が増大する。
【0004】
現在のX線管はしばしば、インサートの内部に封入されたフレームを有する。フレームの内部は高真空下にある。フレームとインサートとの間に油浴が位置している。油浴はフレームを冷却するために利用される。熱エネルギは、回転式アノード軸受けからフレームへ、真空室を通して輻射する。次いで、熱エネルギはフレームから油浴へ伝わる。熱せられたオイルは、熱交換器を通るオイルの循環によって冷却される。オイルの熱エネルギは、熱交換器において周囲空気へ伝達されるか、又は代替的には、外部の冷却器に出入りして循環する冷却材に伝達される。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来は、アノード軸受けは、静止型軸受け外被の内部に位置する玉軸受け及び軸受けレースを含んでいる。軸受けの外レースは静止型外被に組み付けられており、軸受けの内レースは回転シャフトに組み付けられている。軸受けは銀又は鉛で潤滑されている。銀又は鉛は、潤滑剤が真空室の内部で放出されてX線管の動作性能の劣化を招くことを防ぐ接着性を有するため用いられている。銀及び鉛系の潤滑剤は、軸受け表面に留まって、軸受け玉と軸受けレースとの間の摩擦を小さくする。軸受けレースは典型的には、軸受け外被の内壁に結合されており、軸受けの内部の熱エネルギは、軸受け外被、軸受け外被の周りに位置する電気モータの回転子、及び多数の真空室内区域を通って、フレームへ輻射された後に油浴に伝達される。動作温度を低下させると共に軸受け玉と軸受けレースとの間の摩擦を小さくするために回転式アノード軸受けを冷却して潤滑するこの方法は、ピーク動作電力及び平均動作電力が増大し、またガントリ回転速度が速まった場合には不十分である。
【0006】
ガントリ動作負荷を増大させ、ピーク動作電力及び平均動作電力を増大させることが望まれることに加えて、X線管軸受けの寿命を延ばすことも望ましい。このように、ガントリ負荷の増大、ピーク動作電力及び平均動作電力の増大、並びに全体的な軸受け性能の向上を可能にするために、回転式アノード軸受けの動作温度を低下させてアノード軸受けを潤滑する改善された手法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、真空室を有するX線管フレームを含む回転式アノード軸受け外被を提供する。アノードが真空室の内部に位置しており、軸受けを介してシャフト上で回転する。軸受けは、X線管フレームの内面に取り付けられている。軸受けは、熱エネルギをシャフトからX線管フレームへ伝達する。
【0008】
本発明の各実施形態は幾つかの利点を与える。かかる利点の一つは、回転式アノードとX線管フレームとの間に回転式アノードの軸受けを通る連続的で短距離の熱エネルギ伝導路を提供することである。この伝導路によってアノードとX線管フレームとの間の熱エネルギ伝達効率が高まり、アノード及び軸受けの動作温度が低下する。
【0009】
本発明の一実施形態によって与えられるもう一つの利点は、回転式アノード軸受けをX線管フレームに取り付けることによりアノード軸受けの直接的冷却を提供することである。これにより、やはり熱エネルギ伝達効率が高まり、軸受けの動作温度が低下する。
【0010】
加えて、本発明の一実施形態によって与えられるもう一つの利点は、軸受け外被内でのガリウム又はガリウム合金のような液体金属の利用を提供することであり、液体金属が熱分路として作用して、熱エネルギ伝達効率がさらに高まり、軸受けの動作温度が低下する。回転式アノード軸受けのX線管フレームへの直接的な結合及び液体金属冷却材の軸受け外被内への導入によって、真空グリースによる回転式アノード軸受けの潤滑を可能にする。グリース潤滑剤を用いると、軸受けの動作寿命が延び、またガントリ回転速度を速め、軸受けに加わる熱負荷を増大することが可能になる。
【0011】
本発明の一実施形態によって与えられるさらにもう一つの利点は、モータ回転子、及び回転式アノードのシャフトの後端に取り付けられ且つ/又は結合されたその他モータ構成要素を活用することである。モータ構成要素をシャフトの端部に結合することにより、アノードとモータとの間の距離が増す。モータ構成要素とアノードとの離隔距離をこのように増すと、モータ構成要素の動作温度が低下し、これによりモータの動作寿命が延びる。
【0012】
さらに、上述の各利点は別個に、また組み合わせて、X線管の性能、信頼性及び堅牢性を高めることができる。
【0013】
本発明自体は、付随する利点と共に、以下の詳細な説明を添付図面と共に参照することにより最も十分に理解されよう。
【0014】
本発明をさらに完全に理解するために、添付図面にさらに詳細に図示した実施形態を参照して、本発明の実例として以下で説明する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1に、従来のX線管アセンブリ10の断面ブロック模式図を示す。X線管アセンブリ10は、貯液槽の形態でオイル14を収容したインサート12を含んでいる。オイル14は、インサート12を通じて循環し、内部に収容されたX線管フレーム16を冷却する。フレーム16は真空室17を有し、その内部に回転式アノード18及び静止型カソード20が位置している。アノード18はシャフト24に結合されており、シャフト24は一組の軸受け25上で回転する。軸受け25は軸受け玉26及び軸受け外レース28を含んでおり、軸受け内レース(図示されていない)がシャフト24と一体形成されている。軸受け玉25は軸受けレースの内部に保たれて支持されている。
【0016】
熱エネルギは伝導式で伝達されて、アノード18からシャフト24、軸受け玉26及び軸受けレース28を通って静止型軸受け外被30へ到る。軸受け外被30から、熱エネルギは輻射して、モータ回転子34の内部に位置する真空室17の第一の部分32を通り、モータ回転子34へ到る。四角形46は、回転子34の回転を生ずるモータの固定子を表わしている。モータ回転子34から、熱エネルギは輻射して、モータ回転子34の外部である真空室17の第二の部分36を通り、フレーム16へ到る。
【0017】
また、さらなる熱エネルギが、シャフト24から、シャフト24と軸受け外被30又は外被30に取り付けられた要素40との間に位置する真空室17の第三の部分38を通って輻射する。同様に、前述したように、軸受け外被30から、このさらなる熱エネルギは、第一の部分32、モータ回転子34、第二の部分36を通って、フレーム16へ伝わる。以上に述べたフレーム内部に存在する相当量の熱エネルギがオイル14へ伝わる。オイル14は循環して熱交換器及び外部冷却器(両方とも図示されていない)を介して冷却される。
【0018】
幾分かの熱エネルギはまた、シャフト24を通って軸受け外被30へ伝わり、オイル14によって冷却される。上述についての熱伝導路を矢印42で示す。また、上述の熱輻射を矢印44で示す。
【0019】
軸受け玉26は従来は、銀又は鉛によって固体潤滑されている。軸受けを潤滑し冷却するこの方法は、ガントリ回転速度が速まり、またピーク動作電力及び平均動作電力が増大した場合には不十分である。本発明は、既存のX線管回転式アノード軸受け構成でのこの制限及び他の制限を克服するものであり、以下で詳述する。
【0020】
以下の図面では、同じ構成要素を参照するために同じ参照番号を用いる。主として計算機式断層写真法(CT)システムのX線管の内部の回転式アノードの軸受けを冷却するシステムに関して本発明を説明するが、本発明は、X線システム、マンモグラフィ・システム、血管撮像システム、外科用C型システム、放射線撮像(RAD)システム、RAD兼フルオロスコピィ・システム、並びにCT−陽電子放出断層写真法(PET)又はCT−核医学のような混合型モダリティを含む他の公知のモダリティ等を含めた様々なシステムに合わせて構成して適用することができる。
【0021】
以下の説明では、構築された一つの実施形態について様々な動作パラメータ及び構成要素を説明する。これら特定のパラメータ及び構成要素は例として含められており、限定のためのものではない。
【0022】
図2及び図3に、本発明の一実施形態によるX線源又はX線管アセンブリ51を組み入れたCTイメージング・システム50の遠近図及びブロック模式図を示す。イメージング・システム50は、X線管アセンブリ51及び検出器アレイ56を有するガントリ52を含んでいる。管アセンブリ51は、検出器アレイ56に向かってX線ビーム58を投射する。管アセンブリ51及び検出器アレイ56は、並進式で動作可能なテーブル60の周囲を回転する。テーブル60は、管アセンブリ51と検出器アレイ56との間でz軸に沿って並進してヘリカル・スキャンを行なう。ビーム58は、患者ボア64の内部に配置された患者62を透過した後に、検出器アレイ56で検出される。検出器アレイ56は、ビーム58を受光すると投影データを生成し、このデータを用いてCT画像を形成する。
【0023】
X線管アセンブリ51及び検出器アレイ56は中心軸66の周りを回転する。ビーム58は多数の検出器素子68によって受光される。各々の検出器素子68が、入射したX線ビーム58の強度に対応する電気信号を発生する。ビーム58は患者62を透過するに従って減弱する。ガントリ52の回転及びX線管アセンブリ51の動作は制御機構70によって制御される。制御機構70は、電力信号及びタイミング信号をX線管アセンブリ51へ供給するX線制御器72、並びにガントリ52の回転速度及び位置を制御するガントリ・モータ制御器74を含んでいる。データ取得システム(DAS)76が、検出器素子68から発生されたアナログ・データをサンプリングし、アナログ・データをディジタル信号へ変換して以降の処理に供する。画像再構成器78が、サンプリングされてディジタル化されたX線データをDAS76から受け取って、高速画像再構成を実行してCT画像を形成する。主制御器又はコンピュータ80がCT画像を大容量記憶装置82に記憶させる。
【0024】
コンピュータ80はまた、操作者からの命令及び走査パラメータを操作コンソール84を介して受け取る。表示器86によって、操作者は再構成された画像及びコンピュータ80からのその他データを観察することができる。操作者が供給した命令及びパラメータはコンピュータ80によって制御機構70の動作に利用される。加えて、コンピュータ80は、テーブル60を並進させてガントリ52内で患者62を配置するテーブル・モータ制御器88を動作させる。
【0025】
図4に、本発明の一実施形態によるX線管アセンブリ100の断面ブロック模式図を示す。X線管アセンブリ100は、冷却材104を内部に有する冷却材貯液槽の形態のインサート102又はかかる冷却材貯液槽を収容したインサート102を含んでいる。冷却材は、オイルの形態であってもよいし、又は当技術分野で公知のその他冷却材の形態であってもよい。軸受け外被又はフレーム106が冷却材104の内部に位置しており、当技術分野で公知の手法を用いて冷却材104によって熱的に冷却される。フレーム106は真空室108を包囲しており、真空室108に回転式アノード110及び静止型カソード112が位置している。アノード110は、ハブ116を介してシャフト114に取り付けられている。シャフト114は真空室108の内部に位置しており、軸受け玉118を含む第一の組の軸受け117、及び軸受け玉120を含む第二の組の軸受け119上で回転する。軸受け玉118及び120は、所定位置に保たれて、第一の軸受け外レース122及び第二の軸受け外レース124によってそれぞれ支持されている。軸受け玉118及び120はまた、シャフト24の一体化した部分であってよい軸受け内レース(図示されていない)にも保たれて支持されている。軸受けレース122及び124はフレーム106の内面126に取り付けられている。四角形128によって表わされている1又は複数のモータ構成要素がシャフト114の後端130に取り付けられて、シャフト114の後端130を回転させるのに利用される(モータの固定子及び回転子のみを図示する)。モータ構成要素128も真空室108の内部に位置している。
【0026】
アノード110の内部の熱エネルギは伝導式で直接伝達されて、ハブ116、シャフト114、軸受け玉118及び120、並びに軸受けレース122及び124を通ってフレーム106へ到る。この熱エネルギの伝達は、矢印132によって表わされているような単一の連続的な伝導式熱エネルギ経路の形態にある。
【0027】
第一の組の軸受け玉118は、シャフト114の前端134側でハブ116の近くに装着されている。第二の組の軸受け玉120は、シャフト114の後端130側でモータ構成要素(1又は複数)128の近くに装着されている。軸受け玉118及び120、並びに軸受けレース122及び124は、当技術分野で公知のように銀又は鉛を用いて固体潤滑されていてよい。軸受け117及び119がフレーム106に直接結合されているため、これらの軸受け117及び119は冷却材104によって効率的に冷却される。これにより、ピーク電力及び平均電力を図1のX線管アセンブリ10よりも増大させ、また軸受け117及び119の動作寿命を延ばすことが可能になる。軸受け外レース122及び124は、フレーム106に一体形成されていてもよいし、結合されていてもよいし、取り付けられていてもよい。
【0028】
また、フレーム106は本質的に軸受け117及び119の外被であるため、より広い表面積の軸受け外被が冷却材104と接触し、これにより、フレーム106と冷却材104との間の対流式熱伝達が増大することに留意されたい。熱エネルギはまた、矢印138で示すように、シャフト114から、第一の軸受けの組118と第二の軸受けの組120との間の真空域136へ、そしてフレーム106へ輻射される。輻射された熱エネルギ138は、X線管アセンブリ10内部の輻射された熱エネルギ44とは対照的に、単一の真空域のみを通過する。
【0029】
特定の方式の軸受け及び軸受けレースを図示しているが、様々な軸受け及び軸受けレースを用いてよい。従って、図示のような軸受けレースの軸受け通路の内部に保たれた玉軸受け、転がり軸受け、又は当技術分野で公知のその他シャフト転がり要素軸受け及び/若しくは軸受けレースを用いてよい。
【0030】
モータ(全ては図示されていない)は、モータ回転子、モータ固定子、又は当技術分野で公知のその他モータ構成要素を備えた半径方向磁束型モータ又は軸方向磁束型モータであってよい。回転子が固定子の内部で回転する従来の方式の半径方向磁束型電気モータを用いる場合には、四角形128が回転子を表わし、破線の四角形140が固定子を表わす。軸方向磁束型モータを用いる場合には、モータ回転子及びモータ固定子の両方が真空108内に位置してよく、従って、四角形128が固定子及び回転子の両方の組み合わせを表わす。軸方向磁束型の実施形態では、固定子及び回転子は中心軸142の周りで平行に回転する。破線144が、軸方向磁束型モータの固定子と回転子との間の空気ギャップGを図示するように示されている。軸方向磁束型モータを用いる場合には固定子140は利用されない。真空室に隣接してその外部にモータ固定子を設け、真空室の内部にモータ回転子を設けた軸方向磁束型モータを用いてもよい。この最後のサンプルの実施形態では、四角形128は軸方向磁束型モータの回転子のみを表わす。
【0031】
シャフト114に沿った何らかの位置ではなく後端130にモータ構成要素128を結合すると、モータ構成要素128がアノード110から離隔することにより、モータ構成要素128の動作温度が低下する。このように動作温度が低下すると、アノード110の回転速度を速めることも可能になり、モータの動作寿命が延びる。
【0032】
図5に、本発明のもう一つの実施形態によるX線管アセンブリ150の断面ブロック模式図を示す。X線管アセンブリ150は、X線管アセンブリ100と同様に、冷却材154を内部に有する冷却材貯液槽の形態のインサート152又はかかる冷却材貯液槽を収容したインサート152を含んでいる。軸受け外被又はフレーム156が冷却材154の内部に位置しており、当技術分野で公知の手法を用いて冷却材144によって熱的に冷却される。フレーム156は第一の真空室158を包囲しており、真空室158に回転式アノード160及び静止型カソード162が位置している。アノード160は、ハブ166を介してシャフト164に取り付けられている。シャフト164は、第一の組の軸受け167及び第二の組の軸受け玉169上で回転する。軸受け167及び169は、軸受け玉168及び170、並びに軸受け外レース172及び174をそれぞれ有する。軸受け玉168及び170は、所定位置に保たれて、第一の軸受け外レース172及び第二の軸受け外レース174によってそれぞれ支持されている。軸受けレース172及び174はフレーム156の内面176に取り付けられている。1又は複数のモータ構成要素178がシャフト164の後端180に取り付けられて、やはり第一の真空室158か、又は図示のように別個の若しくは第二の真空室182の内部に位置している。従来の方式の電気モータを用いる場合には、四角形179が固定子を表わす。
【0033】
しかしながら、X線管アセンブリ100とは異なり、X線管アセンブリ150のシャフト164は、真空室158及び182の内部に部分的に位置すると共に、グリースで潤滑されて液体金属で冷却される軸受け域184の内部に位置し、軸受け域184は本質的に、軸受け玉168及び170の周囲の潤滑のための真空グリースと、軸受けの組168と組170との間のシャフト164の中央部分186の周囲の冷却のための液体金属とを含んでいる。真空グリースは太線の円171によって示されている。軸受け域184は、シャフト164の中央部分186を包囲している。軸受け玉168及び170、並びに軸受けレース172及び174は、軸受け玉118及び120、並びに軸受けレース122及び124と同様のものである。軸受け玉168及び170、並びに軸受けレース172及び174は、軸受け域184の内部に位置しており、内部に収容された材料物質によって潤滑されて冷却される.
本発明の一実施形態では、軸受け域184の内部の材料物質は、真空グリース、並びにガリウム及び/又はガリウム合金を含んでいる。ガリウム/ガリウム合金の濃度は、応用に応じて変えてよい。ガリウム/ガリウム合金は、液体金属の形態にあって、関連する冷却性及び潤滑性を有している。真空グリースを用いることにより、流体弾性力学的領域で作用し得る軸受け潤滑剤が提供され、従って軸受け167及び169が低摩擦レベルで動作することが可能になる。さらに、これにより、許容可能なガントリ回転速度、アノード160の許容可能な回転速度が速まり、軸受け167及び169の動作寿命が延びる。
【0034】
ハブ166、シャフト164、軸受け玉168及び170、並びに軸受けレース172及び174から成る連続的な熱伝導エネルギ媒体が、アノード160とフレーム156との間に存在する。加えて、軸受け域184を付加することにより、熱エネルギはまた、伝導式で伝達されて、シャフト164から軸受け域184内部に収容された材料物質を通ってフレーム156へ到る。軸受け域184は、シャフト164とフレーム156との間の熱伝導性表面積を拡大して、熱エネルギ伝達効率を高める。
【0035】
隙間シール190が、真空室158と真空室182との間に位置して、真空室158及び182を軸受け域184から分離している。シール190はフレームの内面176に位置しており、シール190とシャフト164との間の隙間を実質的に狭く又は密にしている。この隙間は数ミクロン程度であり、例えば、本発明の一実施形態では約30ミクロンである。隙間が狭く、液体金属の表面張力が大きいことにより、軸受け域184の内部の真空グリース潤滑剤及び液体金属冷却材が真空室158及び182に流入するのを防いでいる。液体金属冷却材は、真空グリースの蒸気が発生した場合に真空室158及び182内に拡散しないようにするシールとして作用する高密度のものであってよい。第一のシール189がシャフト164の前端191側に位置している。また、第二のシール193が後端180側に位置している。シール190は、フレーム156の内部の環境に耐えることが可能であり、当技術分野で公知の様々な形式及び方式を有していていよい。
【0036】
軸受け域184内部の液体金属冷却材又はグリース潤滑剤が真空室158及び182に流入するのをさらに防ぐために、シャフト164は、真空室152及び182から離隔すうようにシール190とシャフト164との間の隙間の内部に冷却材及び/又は潤滑剤を導く又は強制誘導する溝192を含んでいてよい。溝192の構成及びシャフト164の回転によって、液体金属及びグリースは軸受け域184に強制誘導される。図示の実施形態では、第一の組の螺旋溝194が第一のシール189と整列して前端191側に位置し、第二の組の螺旋溝196が第二のシール193と整列して後端180側に位置している。第一の組の溝194は第二の組の溝196とは反対に配向されて、液体金属及びグリースが第一の真空室158及び第二の真空室182に流入するのをそれぞれ防いでいる。
【0037】
X線管アセンブリ150のモータ(全ては図示されていない)は、モータ構成要素128と同様に、半径方向磁束型モータ又は軸方向磁束型モータ及びこれらのモータ構成要素178であってよく、モータ回転子、モータ固定子、又は当技術分野で公知のその他モータ構成要素を含み得る。モータ構成要素178は後端180に結合されているので、モータ構成要素178は低下した動作温度で動作する。この動作温度の低下によって、やはりアノード160の回転速度を速め、モータの動作寿命を延ばすことが可能になる(モータの全ての構成要素は図示されていない)。
【0038】
軸受け域184にガリウム/ガリウム合金を用いることにより、熱分路が設けられて、シャフト164と軸受けレース172及び174との間の熱勾配が小さくなり、これにより熱補償が不要になる。熱補償とは、加熱による相対的膨張に起因した軸受けの軸方向及び半径方向の遊びの効果を言い、この熱補償が、シャフト164と軸受けレース172及び174との間の熱勾配を小さくしたため最小化されている。熱分路としてガリウム/ガリウム合金を用い、またアノード160、シャフト164、モータ構成要素178、並びに特に軸受け168及び170の動作温度を低下させることにより、フレーム156内部の軸受け潤滑剤として真空グリースを用いることが可能になる。動作温度を低下させると、真空グリースの蒸発を防ぎ、軸受け168及び170の潤滑のために軸受け域184内部で真空グリースを用いることが可能になる。
【0039】
図6について説明する。同図には、本発明のもう一つの実施形態に従ってアセンブリ100及び150の一方のようなX線管アセンブリを動作させる方法が示されている。
【0040】
ステップ200では、アノード110及び160の一方のようなアノードが、フレーム106及び156の一方のような静止型フレームの内部で回転する。アノードは、軸受けの組117、119、167及び169のような1又は複数の軸受け上でシャフト114及び164の一方のようなシャフトを介して回転する。
【0041】
ステップ202では、軸受け玉が、軸受けレース122、124、172及び174のような1又は複数の軸受け外レースを介してシャフト164に支持されてシャフト164上で回転する。軸受け外レースは、内面126及び176のようなX線管フレームの内面に取り付けられる。ステップ204では、軸受け玉及び軸受けレースはグリースで潤滑されて、軸受け域184のようにグリースで潤滑されて液体金属で冷却される区域内に位置し得る。軸受け玉及び軸受けレースは、上述のようにガリウム又はガリウム合金等のような液体金属を含有する真空グリースの内部に位置し得る。
【0042】
ステップ206では、熱エネルギが、連続的な伝導式熱エネルギ媒体を介してアノードからフレームへ伝達される。熱エネルギは、ハブ116及び166の一方のようなハブ、シャフト、軸受け玉及び軸受けレースを介してX線管フレームへ伝導式で伝達される。ステップ208では、熱エネルギはまた、シャフトから、真空域136のような真空室の単一のみの真空ステージ又は部分を介してフレームへ直接輻射され得る。ステップ210では、熱エネルギはまた、グリースで潤滑されて液体金属で冷却される区域を介して、シャフトからX線管フレームへ伝導式で直接伝達され得る。ステップ206、208及び210では、熱エネルギは、アノードからフレームの外面へ、モータ構成要素でない伝達媒体を介して伝達される。ステップ206及び210では、熱エネルギは、アノードから冷却材104又は154のようなフレーム外部の冷却材へ、非輻射式で伝達される。
【0043】
ステップ212では、シャフトは、モータ構成要素128及び178、並びに固定子140及び179によって表わされるもののようなシャフト後端に装着されたモータを介して回転する。シャフトは、従来の方式の電気モータ又は軸方向磁束型モータを介して回転することができる。
【0044】
以上に述べた各ステップは、説明のための例を掲げるためのものであって、応用に応じて各ステップを相次いで、同期して、同時に、又は異なる順序で実行してよい。
【0045】
本発明は、冷却効率を高め、またX線管構成要素の実用寿命を延ばすX線管アセンブリを提供する。これらのX線管アセンブリは、ガントリ回転速度を速め、X線管のピーク電力及び平均電力の要件を増大させることを可能にする。ガントリ回転速度を速め、X線管ピーク動作電力を増大させることにより、撮像時間をさらに高速化し、また画質を高めることができる。
【0046】
1又は複数の実施形態に関連して本発明を説明したが、所載の特定の機構及び手法は本発明の原理を説明するものに過ぎず、特許請求の範囲によって定義した本発明の要旨及び範囲から逸脱せずに所載の方法及び装置に対して多くの改変を加え得ることを理解されたい。各請求項において図面の参照番号に対応付けられた参照番号は、請求される発明の理解を容易にするために付されているに過ぎず、請求される発明の範囲を制限するためのものではない。本出願の請求項の記載は、明細書の説明の一部となるように明細書に取り込まれる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】従来のX線管アセンブリの断面ブロック模式図である。
【図2】本発明の一実施形態によるX線管アセンブリを組み入れたCTイメージング・システムの遠近図である。
【図3】本発明の一実施形態によるCTイメージング・システムのブロック模式図である。
【図4】本発明の一実施形態によるX線管アセンブリの断面ブロック模式図である。
【図5】本発明のもう一つの実施形態によるX線管アセンブリの断面ブロック模式図である。
【図6】本発明のもう一つの実施形態によるX線管アセンブリを動作させる方法を示す図である。
【符号の説明】
【0048】
10、51、100、150 X線管アセンブリ
12、102、152 インサート
14 オイル
16 X線管フレーム
17、108、158、182 真空室
18、110、160 回転式アノード
20、112、162 静止型カソード
24、114、164 シャフト
25、117、119、167、169 軸受け
26、118、120、168、170 軸受け玉
28、122、124、172、174 軸受け外レース
30、106、156 静止型軸受け外被
32 真空室の第一の部分
34 モータ回転子
36 真空室の第二の部分
38 真空室の第三の部分
40 要素
42 熱伝導路
44 熱輻射
46、179 固定子
50 CTイメージング・システム
52 ガントリ
56 検出器アレイ
58 X線ビーム
60 テーブル
62 患者
64 患者ボア
66 中心軸
68 検出器素子
70 制御機構
86 表示器
104、154 冷却材
116、166 ハブ
126、176 フレームの内面
128、140、178 モータ構成要素
130、180 シャフトの後端
132 伝導式熱エネルギ経路
134、191 シャフトの前端
136 真空域
138 熱輻射
142 中心軸
144 空気ギャップ
171 真空グリース
184 グリースで潤滑されて液体金属で冷却される軸受け域
186 中央部分
189、190、193 隙間シール
192 溝
194、196 螺旋溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空室(108)を有するX線管フレーム(106)と、
前記真空室(108)の内部に位置し、少なくとも1個の軸受け(117)を介してシャフト(114)上で回転するアノード(110)と、
を備えた回転式アノード軸受け外被であって、
前記少なくとも1個の軸受け(117)は、前記X線管フレーム(106)の内面(126)に取り付けられて、熱エネルギを前記シャフト(114)から前記X線管フレーム(106)へ伝達する、
回転式アノード軸受け外被。
【請求項2】
前記シャフト(114)、前記少なくとも1個の軸受け(117)、及び前記フレーム(106)は、前記アノード(110)と前記フレーム(106)の外面との間で連続的な非流体型熱エネルギ伝達媒体を形成している、請求項1に記載の外被。
【請求項3】
前記シャフト(114)の後端(130)に結合されたモータ回転子(128)をさらに含んでいる請求項1に記載の外被。
【請求項4】
前記少なくとも1個の軸受け(117)と前記真空室(108)との間に結合された少なくとも1個のシール(190)をさらに含んでいる請求項1に記載の外被。
【請求項5】
前記少なくとも1個の軸受け(117)を包囲しており、前記真空室(108)から離隔して、グリースで潤滑されて液体金属で冷却される区域(184)をさらに含んでいる請求項1に記載の外被。
【請求項6】
前記グリースで潤滑されて液体金属で冷却される区域(184)は真空グリース(171)を含んでいる、請求項5に記載の外被。
【請求項7】
前記少なくとも1個の軸受け(117)は、真空グリース(171)で潤滑されて、液体金属で冷却される、請求項1に記載の外被。
【請求項8】
前記シャフト(114)は液体金属で冷却される、請求項1に記載の外被。
【請求項9】
前記シャフト(114)は、冷却材及び潤滑剤が前記真空室(108)に流入するのを防ぐ少なくとも一組の溝(142)を含んでいる、請求項1に記載の外被。
【請求項10】
冷却材(104)で少なくとも部分的に充填されたインサート(102)と、
該インサート(102)の内部に位置し、真空室(108)を有するX線管フレーム(106)と、
前記真空室(108)の内部に位置しており、少なくとも1個の軸受け(117)を介してシャフト(114)上で回転するアノード(110)と、
を備えた撮像用管アセンブリであって、
前記少なくとも1個の軸受け(117)は、前記X線管フレーム(106)の内面(126)に取り付けられて、熱エネルギを前記シャフト(114)から前記X線管フレーム(106)へ伝達する、
撮像用管アセンブリ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−210339(P2006−210339A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−8155(P2006−8155)
【出願日】平成18年1月17日(2006.1.17)
【出願人】(300019238)ジーイー・メディカル・システムズ・グローバル・テクノロジー・カンパニー・エルエルシー (1,125)
【Fターム(参考)】