説明

グリース組成物、グリース封入軸受、自在継手および直動装置

【課題】高速高面圧などの過酷な摺動条件下での使用において、モリブデン低含有でも優れた低摩擦性を実現できるグリース組成物、および、このグリース組成物を封入してなる軸受、自在継手および直動装置を提供する。
【解決手段】グリース封入軸受1は、グリース組成物7が少なくとも転動体4の周囲に封入されてなり、このグリース組成物7は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含み、上記添加剤が、油溶性のジチオカルバミン酸モリブデンと、炭素数2以上の脂肪酸の金属塩とを含み、上記グリース組成物中におけるモリブデン含有量が0.1重量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグリース組成物、および、該グリース組成物を封入した軸受、自在継手、ボールねじ、直動装置などに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から産業界で潤滑剤の高性能化を図る目的で、潤滑剤に種々の添加剤を配合し潤滑性を向上させる試みがなされている。軸受などが高速高面圧条件下で使用される場合、封入したグリース組成物の潤滑膜が破断しやすくなる。潤滑膜が破断すると金属接触が起こり、発熱、摩擦摩耗が増大する不具合が発生する。このため、高速高面圧などの過酷条件下での運転においても優れた潤滑性を示すグリース組成物に対する要求がある。従来、このような高面圧条件下における摩擦を低減するため、有機金属系化合物などの極圧剤をグリース組成物に添加することがなされている。
【0003】
例えば、有機金属系化合物として、ジアルキルジチオカルバミン酸モリブデン(モリブデンジチオカーバメート)や、モリブデンジチオフォスフェートなどのモリブデン化合物を含む等速ジョイント用グリースが提案されている(特許文献1および特許文献2参照)。また、等速ジョイントから発生する振動の低減等を目的として、極圧剤として、基油に溶解する油溶性のモリブデンジチオカーバメートと、基油に溶解しない非油溶性のモリブデンジチオカーバメートとを併用した等速ジョイント用グリースが提案されている(特許文献3参照)。また、二硫化モリブデンを含有せず、有機モリブデン化合物とCaスルフォネートを含有したグリースが開示されている(特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−197072号公報
【特許文献2】特開平10−147791号公報
【特許文献3】特開2003−165988号公報
【特許文献4】特開平09−324190号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年において益々厳しくなっている高速高面圧の過酷条件下での使用においては、従来の添加剤では必ずしも充分とはいえず、さらに性能向上が望まれている。また、上記各特許文献に記載のモリブデン化合物は、PRTRの規制物質であり、環境保護の観点からもモリブデン化合物の使用量低減が望まれ、使用自体も問題視されている。また、モリブデン量を極少量とする場合、高速高面圧の過酷条件下での使用において十分な低摩擦性を発揮させることは困難であった。これらの背景に鑑み、モリブデン量を低減させながらも、高速高面圧の低摩擦特性に優れる低摩擦添加剤を開発することが望まれている。
【0006】
本発明はこのような問題に対処するためになされたものであり、高速高面圧などの過酷な摺動条件下での使用において、モリブデン低含有(0.1重量%以下)でありながら優れた低摩擦性を実現できるグリース組成物、および、このグリース組成物を封入してなる軸受、自在継手および直動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物であって、上記添加剤が、油溶性のジチオカルバミン酸モリブデン(以下、MoDTCと記す)と、炭素数2以上の脂肪酸の金属塩とを含み、上記グリース組成物中におけるモリブデン含有量が0.1重量%以下であることを特徴とする。
【0008】
上記脂肪酸が、炭素数2〜18の脂肪酸であることを特徴とする。また、上記金属塩の金属が、リチウム、ナトリウム、またはカルシウムであることを特徴とする。
【0009】
上記油溶性のMoDTCの含有量が、上記基油および上記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜1.6重量部であることを特徴とする。
【0010】
上記脂肪酸の金属塩の含有量が、上記基油および上記増ちょう剤の合計量100重量部に対して1〜7重量部であることを特徴とする。
【0011】
上記添加剤が、炭酸カルシウム(以下、炭酸Caと記す)を含むことを特徴とする。また、上記炭酸カルシウムの含有量が、上記基油および上記増ちょう剤の合計量100重量部に対して1〜7重量部であることを特徴とする。
【0012】
上記基油が、高度精製油または鉱油であることを特徴とする。また、上記高度精製油の硫黄含有率が、0.1重量%未満であることを特徴とする。また、上記増ちょう剤が、ウレア化合物であることを特徴とする。
【0013】
本発明のグリース封入軸受は、本発明のグリース組成物を封入してなることを特徴とする。
【0014】
本発明の自在継手は、本発明のグリース組成物を封入してなることを特徴とする。
【0015】
本発明の直動装置は、案内部材に沿って直線移動し、本発明のグリース組成物を封入してなることを特徴とする。また、上記直動装置は、外周面にらせん状のねじ溝を有する案内部材であるねじ軸と、内周面に上記ねじ軸に対応するらせん状のねじ溝を有するボールねじナットと、上記両ねじ溝間に介在する複数のボールとを備えたボールねじであり、上記ボールの周囲に上記グリース組成物が封入されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明のグリース組成物は、添加剤として油溶性のMoDTCと炭素数2以上の脂肪酸の金属塩とを含むので、高速高面圧などの過酷条件下での使用においても、モリブデン低含有(0.1重量%以下)でありながら優れた潤滑性を示し、耐摩耗性の向上および低摩擦化が図れる。また、添加剤として、炭酸Caを併用することで、より低摩擦化が図れる。
【0017】
上記基油として高度精製油または鉱油の使用することで、潤滑性を維持しつつ低コスト化が図れる。また、上記増ちょう剤としてウレア化合物を使用することで、耐熱耐久性に優れ、摺動部への介入性と付着性にも優れる。
【0018】
本発明のグリース封入軸受、自在継手、および直動装置は、本発明のグリース組成物を封入してなるので、高速高面圧条件下で使用しても、摺動面における摩擦係数が小さく摩耗も抑制できる。また、封入するグリースがモリブデン低含有であり、環境保護の観点からも好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のグリース封入軸受の一例として深溝玉軸受を示す断面図である。
【図2】本発明の自在継手の一例として等速ジョイントを示す断面図である。
【図3】本発明の直動装置の一例としてボールねじを示す断面図である。
【図4】脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸の炭素数と、摩擦係数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のグリース組成物は、基油と増ちょう剤とからなるベースグリースに添加剤を配合して得られ、添加剤として(1)油溶性のMoDTC、および、(2)炭素数2以上の脂肪酸の金属塩を含み、かつ、(3)グリース組成物中におけるモリブデン含有量が0.1重量%以下(非含有(0重量%)ではない)であることを特徴としている。これらをグリース組成物に添加すると、少ないモリブデン含有量でありながら、摺動面においてモリブデン被膜を生成でき、このモリブデン被膜などにより耐摩耗性の向上および低摩擦化が図れると考えられる。
【0021】
本発明で使用するMoDTCとしては、下記式(1)で示されるジアルキルジチオカルバミン酸モリブデンなどのうち、油溶性のものが挙げられる。油溶性のMoDTCを用いることで、0.1重量%以下の少ないモリブデン含有量で耐熱耐久性に優れ、熱分解せず、極圧性効果が高い。
【0022】
【化1】

(式中、R1 およびR2 はそれぞれ炭素原子数 1〜24、好ましくは 3〜18 のアルキル基であり、X+Y= 4 の整数であり、かつXは 0〜3 、Yは 4〜1 である。)
【0023】
本発明で使用する油溶性のMoDTCとは、溶解後の全重量に対して0.5重量%のMoDTCをグリース組成物に使用する基油に加えて撹拌し、これを70℃×24時間保持後に目視で観察した結果、基油中に不溶解分が析出していないMoDTCをいう。不溶解分が析出していると基油が透明にならず、MoDTCがコロイド状態、あるいは懸濁状態になり、目視で判断できる。油溶性のMoDTCの市販品としては、例えば、アデカ社製:サクラルーブ100、165、200などが挙げられる。
【0024】
本発明のグリース組成物は、該組成物中におけるモリブデン含有量が0.1重量%以下である。より好ましくは、0.06重量%以下である。なお、上記油溶性のMoDTC以外のモリブデン含有化合物は含まないことが好ましい。上記油溶性のMoDTCの配合割合は、これを満たすような範囲とする。
【0025】
油溶性のMoDTCの配合割合(含有量)は、ベースグリース100重量部に対して0.5〜1.6重量部とすることが好ましい。配合割合が0.5重量部未満であると、高速高面圧条件下で十分な低摩擦化が図れないおそれがある。また、配合割合が1.6重量部をこえると、MoDTCの種類によってはグリース組成物中におけるモリブデン含有量が0.1重量%をこえる場合があり、モリブデン低含有とすることができない。
【0026】
本発明のグリース組成物における添加剤は、上記油溶性のMoDTCに加えて、炭素数2以上の脂肪酸の金属塩を必須成分として含む。脂肪酸の金属塩を併用することで、モリブデン低含有(0.1重量%以下)でありながら、耐摩耗性の向上および低摩擦化が図れる。
【0027】
本発明で使用できる脂肪酸としては、炭素数2以上の1価飽和脂肪酸、1価不飽和脂肪酸、2価飽和脂肪酸、2価不飽和脂肪酸などが挙げられる。また、脂環族脂肪酸、芳香族脂肪酸も使用できる。脂肪酸の炭素数としては、2〜18が好ましく、2〜8がより好ましく、2〜4が特に好ましい。金属塩の金属種を同一とすると、後述の図4に示すように、低級脂肪酸である炭素数2〜8の脂肪酸の金属塩は、炭素数が10以上の脂肪酸の金属塩に対してより低摩擦化が図れ、その中でも炭素数2〜4の脂肪酸の金属塩は、さらなる低摩擦化が図れる。
【0028】
本発明で好適な脂肪酸は、炭素数2〜18の1価飽和脂肪酸であり、具体的には、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸(酪酸)、ペンタン酸(吉草酸)、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸(カプリル酸)、ノナン酸、デカン酸、ドデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸(ステアリン酸)などが挙げられる。また、脂肪酸金属塩を構成する金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属が挙げられ、これらの中でも、リチウム、ナトリウム、カルシウムが好ましい。
【0029】
本発明で好適な脂肪酸金属塩としては、酢酸ナトリウム(C2)、酪酸ナトリウム(C4)、ヘキサン酸ナトリウム(C6)、カプリル酸ナトリウム(C8)、デカン酸ナトリウム(C10)、ステアリン酸ナトリウム(C18)などが挙げられる。なお、括弧内は脂肪酸の炭素数を示す。これらの中でも、極圧性に優れ、低摩擦化が図れることから、酢酸ナトリウム(C2)、酪酸ナトリウム(C4)が特に好ましい。
【0030】
脂肪酸金属塩の配合割合(含有量)は、ベースグリース100重量部に対して1〜7重量部とすることが好ましい。特に好ましくは2〜6重量部である。配合割合が1重量部未満であると、低摩擦化の効果の向上が少ない。また、配合割合が7重量部をこえると、上記油溶性のMoDTCの低摩擦発現を阻害し、特に低面圧下で十分な低摩擦化が図れない。
【0031】
本発明では添加剤に、炭酸Caを含むことが好ましい。炭酸Caを含むことで、摺動面における低摩擦化の効果をさらに向上できる。炭酸Caの配合割合(含有量)は、ベースグリース100重量部に対して1〜7重量部とすることが好ましい。配合割合が1重量部未満であると、低摩擦化の効果の向上が少ない。また、配合割合が7重量部をこえても、併用による低摩擦化の効果の向上がそれ以上に望めない。
【0032】
本発明のグリース組成物において、添加剤として、必須成分である油溶性のMoDTCおよび脂肪酸金属塩に加えて、上記炭酸Caを併用することで、高速高面圧などの過酷条件下での使用において、モリブデン低含有(0.1重量%以下)でありながら、従来の非油溶性のモリブデン粉末を通常量配合(1〜5重量%程度)した場合と同等に、低摩擦化が図れる。
【0033】
本発明のグリース組成物は、必要に応じて上記以外の公知の添加剤を含有させてもよい。このような添加剤として、例えば、ジノニルナフタレンスルフォネート、ソルビタンエステルなどの防錆剤、アミン系、フェノール系化合物などの酸化防止剤、亜硝酸ナトリウム、セバシン酸ナトリウムなどの腐食防止剤、グラファイト、二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤、脂肪酸アミド、脂肪酸、アミン、油脂類などの油性剤、ポリメタクリレート、ポリスチレンなどの粘度指数向上などが挙げられる。なお、これらは、単独または2種類以上組合せて添加できる。
【0034】
本発明のグリース組成物の基油は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、高度精製油、鉱油、動植物油、エステル系合成油、合成炭化水素油、リン酸エステル油、シリコーン油、フッ素油およびこれらの混合油などを使用できる。これらの中でも、潤滑性とコストを考慮した場合、高度精製油または鉱油の使用が好ましい。
【0035】
高度精製油は、例えば、減圧蒸留の残油から得られるスラッグワックスを接触水素化熱分解し、合成することにより得られる。また、フィッシャー・トロプシュ法により合成されるGTL油などが挙げられる。高度精製油は、硫黄含有率が0.1重量%未満であることが好ましく、より好ましくは0.01重量%未満である。高度精製油の市販品としては、昭和シェル石油社製シェルハイバックオイルX46、X68などが挙げられる。また、鉱油としては、スピンドル油、冷凍機油、タービン油、マシン油、ダイナモ油などが挙げられる。
【0036】
本発明のグリース組成物の増ちょう剤は、特に限定されず、通常グリースの分野で使用される一般的なものを使用できる。例えば、金属石けん、複合金属石けんなどの石けん系増ちょう剤、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物などの非石けん系増ちょう剤を使用できる。金属石けんとしては、ナトリウム石けん、カルシウム石けん、アルミニウム石けん、リチウム石けんなどが、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、他のポリウレア化合物、ジウレタン化合物などが挙げられる。これらの中でも、耐熱耐久性に優れ、摺動部への介入性と付着性にも優れたウレア化合物の使用が好ましい。
【0037】
ウレア化合物は、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られる。ポリイソシアネート成分としては、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサンジイソシアネー卜などが挙げられる。また、モノアミン成分は、脂肪族モノアミン、脂環族モノアミンおよび芳香族モノアミンを用いることができる。脂肪族モノアミンとしては、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどが挙げられる。脂環族モノアミンとしては、シクロヘキシルアミンなどが挙げられる。芳香族モノアミンとしては、アニリン、p-トルイジンなどが挙げられる。
【0038】
これらのウレア化合物の中でも、上述の耐熱耐久性、摺動部への介入性と付着性に特に優れることから、ポリイソシアネート成分として芳香族ジイソシアネートを用い、モノアミン成分として脂肪族モノアミンおよび/または脂環族モノアミンを用いた、脂肪族ウレア化合物や脂環族ウレア化合物の使用が特に好ましい。
【0039】
基油にウレア化合物などの増ちょう剤を配合して、上記の各添加剤を配合するためのベースグリースが得られる。ウレア化合物を増ちょう剤とするベースグリースは、基油中で上記ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応させて作製する。
【0040】
ベースグリース100重量部中に占める増ちょう剤の配合割合は、1〜40重量部、好ましくは3〜25重量部である。増ちょう剤の含有量が1重量部未満では、増ちょう効果が少なくなり、グリース化が困難となり、40重量部をこえると得られたベースグリースが硬くなりすぎ、所期の効果が得られ難くなる。
【0041】
本発明のグリース組成物は、高速高面圧などの過酷条件下で用いられる機械部品、例えば、軸受、自在継手、直動装置、ボールねじなどに封入するグリースとして使用できる。以下、これらについて説明する。
【0042】
本発明のグリース封入軸受を図1に基づいて説明する。図1は深溝玉軸受の断面図である。グリース封入軸受1は、外周面に内輪転走面2aを有する内輪2と内周面に外輪転走面3aを有する外輪3とが同心に配置され、内輪転走面2aと外輪転走面3aとの間に複数個の転動体4が配置される。この複数個の転動体4は、保持器5により保持される。また、外輪3等に固定されるシール部材6が、内輪2および外輪3の軸方向両端開口部8a、8bにそれぞれ設けられている。少なくとも転動体4の周囲に本発明のグリース組成物7が封入される。
【0043】
軸受として玉軸受について例示したが、本発明のグリース組成物は、上記以外の円筒ころ軸受、円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、針状ころ軸受、スラスト円筒ころ軸受、スラスト円すいころ軸受、スラスト針状ころ軸受、スラスト自動調心ころ軸受などの転がり軸受、または、滑り軸受の封入グリースとしても使用できる。
【0044】
本発明の自在継手を図2に基づいて説明する。図2は本発明の自在継手の一例としてツェッパ型等速ジョイントを示す一部切欠き断面図である。図2に示すように、等速ジョイント11は、外方部材(外輪ともいう)12の内面および球形の内方部材(内輪ともいう)13の外面に軸方向の六本のトラック溝14、15を等角度に形成し、そのトラック溝14、15間に組み込んだトルク伝達部材(ボールともいう)16をケージ17で支持し、このケージ17の外周を球面17aとし、かつ内周を内方部材13の外周に適合する球面17bとしている。また、外方部材12の外周とシャフト18の外周とをブーツ19で覆い、外方部材12と、内方部材13と、トラック溝14、15と、トルク伝達部材16と、ケージ17と、シャフト18とに囲まれた空間に本発明のグリース組成物20が封入されている。
【0045】
自在継手としてツェッパ型等速ジョイントについて例示したが、本発明のグリース組成物は、上記以外のバーフィールド型などの固定型等速ジョイント、ダブルオフセット型、クロスグルーブ型、トリポード型等速ジョイントなどのスライド型等速ジョイント、または、クロスジョイントなどの不等速自在継手の封入グリースとしても使用できる。
【0046】
本発明の直動装置を図3に基づいて説明する。図3は本発明の直動装置の一例であるボールねじを示す断面図である。図3に示すように、本発明のボールねじは、案内部材であるねじ軸21の外周面に形成したねじ溝22と、ボールナット23の内周面に形成したねじ溝24の間に複数のボール25を介在させたものであり、ねじ軸21またはボールナット23の回転動力をボール25を介してボールナット23(またはねじ軸21)に伝達し、ボールナット23を軸方向に移動させるものである。ねじ軸21とボールナット23との間でボール25の周囲に本発明のグリース組成物が封入され、ボールねじ用シール部材26によってシールされている。
【実施例】
【0047】
本発明を実施例および比較例により具体的に説明するが、これらの例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
実施例1〜実施例17および比較例1〜比較例8
表1および表2に示す割合で、基油をジウレア系増ちょう剤(オクチルアミンおよびシクロヘキシルアミンを4,4'−ジフェニルメチルジイソシアネートと反応させて得られるジウレア化合物)で増ちょうさせたベースグリースを得た。このベースグリースに表1および表2に記載の添加剤を混合し、3段ロールミルでミル処理を行なった後、脱泡しグリース組成物を得た。なお、表中のMo含有量は、グリース組成物全体中におけるモリブデン含有量(重量%)である。得られたグリース組成物について、以下に示すSRV摩擦摩耗試験に供し、摩擦係数を測定した。結果を表1および表2に示す。なお、表2および表3における1)〜6)は、表1下部に示した1)〜6)と同様である。
【0049】
<SRV摩擦摩耗試験>
テストピース: ボール 直径10mm(SUJ2)
円盤プレート 直径24mm×7.85mm(SUJ2)
評価条件: 点接触最大面圧 1.45GPa、2.62GPa
周波数 10Hz
振幅 1.2mm
時間 30分間
試験温度 40℃
測定項目: 動摩擦係数;(測定時間内で一定となった値)の平均値
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
表1に示すように、各実施例は、添加剤として油溶性のMoDTCと酢酸金属塩を配合することで、モリブデン低含有(0.1重量%以下)でありながら低摩擦化が図れることが分かった。さらに、炭酸Caを併用することで、より低摩擦化が図れることが分かった。
【0053】
実施例18〜実施例23および比較例9、比較例10
表3に示す割合で、基油をジウレア系増ちょう剤(オクチルアミンおよびシクロヘキシルアミンを4,4'−ジフェニルメチルジイソシアネートと反応させて得られるジウレア化合物)で増ちょうさせたベースグリースを得た。このベースグリースに表3に記載の添加剤を混合し、3段ロールミルでミル処理を行なった後、脱泡しグリース組成物を得た。なお、表中のMo含有量は、グリース組成物全体中におけるモリブデン含有量(重量%)である。得られたグリース組成物について、実施例1と同様に、上記SRV摩擦摩耗試験に供し、摩擦係数を測定した。結果を表3および図4に示す。なお、図4において、横軸は脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸の炭素数を、縦軸は測定された摩擦係数をそれぞれ示し、炭素数0は比較例9の結果である。
【0054】
【表3】

【0055】
表3および図4に示すように、各実施例は、添加剤として油溶性のMoDTCと炭素数2〜18の脂肪酸の金属塩を配合することで、モリブデン低含有(0.1重量%以下)でありながら低摩擦化が図れることが分かった。また、各実施例において、炭素数10以上の脂肪酸に対して、炭素数2〜8の低級脂肪酸はより低摩擦化が図れ、その中でも炭素数2〜4の脂肪酸は、さらに低摩擦化が図れることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明のグリース組成物は、高速高面圧などの過酷条件下での使用においても、モリブデン低含有(0.1重量%以下)で優れた潤滑性を有する。このため、高速高面圧条件下で使用される、例えば、軸受、自在継手、直動装置、ボールねじなどの潤滑グリースとして好適に利用できる。
【符号の説明】
【0057】
1 グリース封入軸受
2 内輪
3 外輪
4 転動体
5 保持器
6 シール部材
7 グリース組成物
8a、8b 開口部
11 等速ジョイント
12 外方部材(外輪)
13 内方部材(内輪)
14、15 トラック溝
16 トルク伝達部材(ボール)
17 ケージ
18 シャフト
19 ブーツ
20 グリース組成物
21 ねじ軸
22 ねじ溝
23 ボールナット
24 ねじ溝
25 ボール
26 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤と、添加剤とを含むグリース組成物であって、
前記添加剤が、油溶性のジチオカルバミン酸モリブデンと、炭素数2以上の脂肪酸の金属塩とを含み、前記グリース組成物中におけるモリブデン含有量が0.1重量%以下であることを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸が、炭素数2〜18の脂肪酸であることを特徴とする請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記金属塩の金属が、リチウム、ナトリウム、またはカルシウムであることを特徴とする請求項2記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記油溶性のジチオカルバミン酸モリブデンの含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して0.5〜1.6重量部であることを特徴とする請求項1、請求項2または請求項3記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記脂肪酸の金属塩の含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して1〜7重量部であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項6】
前記脂肪酸が、炭素数2〜4の脂肪酸であることを特徴とする請求項2ないし請求項5のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項7】
前記脂肪酸が、酢酸または酪酸であることを特徴とする請求項6記載のグリース組成物。
【請求項8】
前記添加剤が、炭酸カルシウムを含むことを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項9】
前記炭酸カルシウムの含有量が、前記基油および前記増ちょう剤の合計量100重量部に対して1〜7重量部であることを特徴とする請求項8記載のグリース組成物。
【請求項10】
前記基油が、高度精製油または鉱油であることを特徴とする請求項1ないし請求項9のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項11】
前記高度精製油の硫黄含有率が、0.1重量%未満であることを特徴とする請求項10記載のグリース組成物。
【請求項12】
前記増ちょう剤が、ポリイソシアネート成分とモノアミン成分とを反応して得られるウレア化合物であることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか一項記載のグリース組成物。
【請求項13】
前記モノアミン成分が、脂肪族モノアミンおよび脂環族モノアミンから選ばれた少なくとも1つのモノアミンであることを特徴とする請求項12記載のグリース組成物。
【請求項14】
グリース組成物を封入してなるグリース封入軸受であって、前記グリース組成物が請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載のグリース組成物であることを特徴とするグリース封入軸受。
【請求項15】
グリース組成物を封入してなる自在継手であって、前記グリース組成物が請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載のグリース組成物であることを特徴とする自在継手。
【請求項16】
案内部材に沿って直線移動し、グリース組成物を封入してなる直動装置であって、前記グリース組成物は、請求項1ないし請求項13のいずれか一項記載のグリース組成物であることを特徴とする直動装置。
【請求項17】
前記直動装置は、外周面にらせん状のねじ溝を有する案内部材であるねじ軸と、内周面に前記ねじ軸に対応するらせん状のねじ溝を有するボールねじナットと、前記両ねじ溝間に介在する複数のボールとを備えたボールねじであり、前記ボールの周囲に前記グリース組成物が封入されてなることを特徴とする請求項16記載の直動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−77283(P2012−77283A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−109126(P2011−109126)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】