説明

グルコシルセラミド画分およびこれを含む加工品

【課題】低コストで得ることができるグルコシルセラミド画分を提供する。
【解決手段】グルコース部位と、脂肪酸基と、スフィンゴイド塩基部位とを有するグルコシルセラミドを含む。このグルコシルセラミドは、例えば桃から抽出されるものであり、脂肪酸残基として2−ヒドロキシパルミチン酸を最も多く含み、スフィンゴイド塩基部位としてトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンを最も多く含む。また、グルコシルセラミドに加えてステロール配糖体も含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なグルコシルセラミド画分およびそれを含む加工品に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミドは、炭素数16から20の長鎖アミノアルコールであるスフィンゴイド塩基に脂肪酸が結合した、いわゆるスフィンゴ脂質の一種である。このセラミドは、皮膚の角質細胞間脂質の主成分として多量(40%から60%)に含まれており、皮膚内部からの水分の蒸発を防止するバリア機能を担っている。
【0003】
近年の研究では、細胞間脂質中のセラミドが加齢に伴い減少して、しわ、ドライスキンあるいは肌荒れの原因になることが示唆されている。また、アトピー性皮膚炎の患者では、健常者よりもセラミドの含量が大幅に減少していることも確認されている。
【0004】
このように、皮膚におけるセラミド含量は皮膚の健康状態や年齢の指標として重要視されており、また、セラミドの補充が肌の保湿効果や美白効果があることが知られてからは化粧品原料としてのニーズが高くなった。更に、セラミドの内服効果が認められてからは、美容サプリメント素材としてのニーズが高まった。
【0005】
ところで、従来、セラミドとして牛脳由来のガラクトシルセラミドや化学合成品が利用されてきたが、前者はBSE問題以降の利用が困難になり、後者は安全性の観点からは食品素材としての利用には制限があった。このため、現在では、米糠や小麦胚芽などの植物由来のグルコシルセラミドが利用されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002−138037号公報
【特許文献2】特開2003−231640号公報
【特許文献3】特開2005−220084号公報
【特許文献4】特開2005−187392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これらの植物に含まれるグルコシルセラミドの量は0.1から0.2(mg/g乾燥重量)と微量であるので、抽出や精製に多大なコストを要するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、低コストで得ることができるグルコシルセラミド画分を提供することを目的とする。
【0008】
なお、セラミドの効果あるいは機能としては、皮膚保湿作用や美白・美肌作用に加えて、大腸ガン抑制作用、抗嘔吐作用、免疫賦活作用あるいは抗腫瘍効果などが知られている(例えば、特許文献2から4参照)。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のグルコシルセラミド画分は、脂肪酸残基として2−ヒドロキシパルミチン酸の割合が最も多く、スフィンゴイド塩基部位としてトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンの割合が最も多いものである。このグルコシルセラミド画分は、例えば、桃から抽出され、2−ヒドロキシ脂肪酸残基の炭素数が18,20,22,23,24,25または26でありかつ飽和脂肪酸である少なくとも1種の脂肪酸残基と、4−ヒドロキシスフィンガニン、4−ヒドロキシ−トランス−8−スフィンゲニン、4−ヒドロキシ−シス−8−スフィンゲニン、スフィンガニン、トランス−4−スフィンゲニン、およびトランス−4,トランス−8−スフィンガジエニンからなる群のうちの少なくとも1種のスフィンゴイド塩基部位とを更に含んでいる。
【0010】
本発明の加工品は、本発明のグルコシルセラミド画分を含むものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグルコシルセラミド画分によれば、脂肪酸残基として2−ヒドロキシパルミチン酸を最も多く含み、スフィンゴイド塩基部位としてトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンを最も多く含んでいるので、人体に対して優れた効果を得ることができる。特に、桃から抽出することができるので、このようなグルコシルセラミド画分を容易に低コストで得ることができると共に、グルコシルセラミドを多く抽出することができる。よって、このグルコシルセラミド画分を用いるようにすれば、低コストで人体に優れた効果を有する加工品が得られる。
【0012】
また、ステロール配糖体を含んでいれば、人体に対してより優れた効果を得ることができる。更に、摘果桃から抽出するようにすれば、低コストでグルコシルセラミドおよびステロール配糖体を多く抽出することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
本発明の一実施の形態に係るグルコシルセラミド画分は、例えば桃から抽出されるものであり、グルコース部位と、脂肪酸基と、スフィンゴイド塩基部位とを有するグルコシルセラミドを含んでいる。このグルコシルセラミドは、脂肪酸残基として2−ヒドロキシパルミチン酸を最も多く含んでおり、また、スフィンゴイド塩基部位としてトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンを最も多く含んでいる。主要なグルコシルセラミドの分子種の一例としては、化1に示したものが挙げられる。
【0015】
【化1】

【0016】
また、このグルコシルセラミドは、脂肪酸残基として、2−ヒドロキシパルミチン酸に加えて、例えば、炭素数が18,20,22,23,24,25または26でありかつ飽和脂肪酸である少なくとも1種の2−ヒドロキシ脂肪酸残基を含んでいる。更に、スフィンゴイド塩基部位として、トランス−4,シス−8−スフィンガジエニンに加えて、例えば、4−ヒドロキシスフィンガニン、4−ヒドロキシ−トランス−8−スフィンゲニン、4−ヒドロキシ−シス−8−スフィンゲニン、スフィンガニン、トランス−4−スフィンゲニン、およびトランス−4,トランス−8−スフィンガジエニンからなる群のうちの少なくとも1種を含んでいる。
【0017】
なお、グルコシルセラミド画分におけるグルコシルセラミドの脂肪酸残基およびスフィンゴイド塩基部位の組成は、例えば、グルコシルセラミドを分解してガスクロマトグラフィーおよびマススペクトロメトリーにより解析することができる。
【0018】
このグルコシルセラミド画分を抽出する桃の部位は、果肉、皮、葉、摘果桃などのいずれでもよいが、果肉または摘果桃に多く含まれているので果肉または摘果桃を用いるようにすれば好ましい。
【0019】
このグルコシルセラミド画分は、また、ステロール配糖体を含んでいることが好ましい。植物性のステロール配糖体はコレステロールを下げる効果があるからである。
【0020】
グルコシルセラミド画分は、例えば、次のようにして、桃から抽出することができる。まず、桃を乾燥粉砕した試料に有機溶媒を加え、例えば超音波処理することによりグルコシルセラミドを溶出させる。続いて、必要に応じて、溶出液中に共雑するグリセロ脂質の分解を促進させるために、例えば、42℃程度で保温したのち、有機溶媒および蒸留水を加えて混和し、遠心分離を行う。得られた有機溶媒層を濃縮乾固することによりグルコシルセラミド画分が得られる。
【0021】
このグルコシルセラミド画分は、皮膚保湿作用、大腸がん抑制作用、抗嘔吐作用、免疫賦活作用、抗腫瘍効果、美肌・美白作用を有しているので、例えば、食品素材、経口医薬・医療品、サプリメント、栄養剤、美容剤などの飲用剤や、外用剤に用いられる。このグルコシルセラミド画分は、安全性が高く、かつ、安価で多量に得ることが可能であるので、食品、栄養剤、美容剤などの飲用剤に適している。
【0022】
このグルコシルセラミド画分によれば、脂肪酸残基として2−ヒドロキシパルミチン酸を最も多く含み、スフィンゴイド塩基部位としてトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンを最も多く含んでいるので、人体に対して優れた効果を得ることができる。特に、桃から抽出することができるので、このようなグルコシルセラミド画分を容易に低コストで得ることができると共に、グルコシルセラミドを多く抽出することができる。よって、このグルコシルセラミド画分を用いるようにすれば、低コストで人体に優れた効果を有する加工品が得られる。
【0023】
また、ステロール配糖体を含んでいれば、人体に対してより優れた効果を得ることができる。更に、摘果桃から抽出するようにすれば、低コストでグルコシルセラミドおよびステロール配糖体を多く抽出することができる。
【実施例】
【0024】
さらに、実施例に基づいて具体的に説明する。
【0025】
(実施例1−1〜1−4)
まず、桃の果肉、皮、葉、摘果桃を用意し、水洗いした後、凍結乾燥し、粉砕して乾燥粉末とした。次いで、乾燥粉末とした各試料0.3gに、クロロホルムとメタノールとを1:1の体積比で混合したもの、およびメタノール性0.8M水酸化カリウムをそれぞれ2mlずつ加え、5分間の超音波処理(ケニス 超音波ホモジナイザーVC−130)によってグルコシルセラミドを溶出させた。続いて、溶出液中に共雑するグリセロ脂質の分解を促進させるために42℃で30分間保温した後、クロロホルム5mlおよび蒸留水2.25mlを加えてよく混和し、3500rpmで15分間遠心分離した。そののち、クロロホルム層を濃縮乾固させ、これをグルコシルセラミド画分として回収した。
【0026】
次いで、乾固させたグルコシルセラミド画分をクロロホルムとメタノールとを2:1の体積比で混合した混合溶媒150μlに溶解させ、そのうち4μlをクロロホルムとメタノールと酢酸と水とを20:3.5:2.3:0.7の体積比で混合した展開溶媒を用いてケイ酸薄層クロマトグラフィーに供した。展開後、オルシノール−硫酸試薬を用いて発色させ、レーンアンドスポットアナライザー(Lane&Spot analyzer)(アトー)によって標準物質(グルコシルセラミドおよびステロール配糖体,いずれもマトレア(Matreya)製の大豆由来精製品)とのスポットの濃さからグルコシルセラミドおよびステロール配糖体の含量を推定した。
【0027】
比較例1−1〜1−4として、温州みかんパルプ、りんご搾汁残渣、米糠、および小麦胚芽を用意し、実施例1−1〜1−4と同様にして、乾燥粉末試料を作製し、グルコシルセラミド画分を抽出して、グルコシルセラミドおよびステロール配糖体の含量を推定した。
【0028】
表1に得られた結果を示す。表1に示したように、桃にはグルコシルセラミドが多く含まれていることが分かった。また、桃の部位では、果肉または摘果桃に多く含まれていることが分かった。更に、桃から抽出したグルコシルセラミド画分には、ステロール配糖体が多く含まれていることも分かった。
【0029】
【表1】

【0030】
(実施例2)
桃の果肉から抽出したグルコシルセラミドの構成成分の組成を調べた。まず、実施例1−1と同様にして桃の果肉からグルコシルセラミド画分を抽出し、ケイ酸薄層クロマトグラフィーによりグルコシルセラミドを分離精製した。次いで、分離精製したグルコシルセラミド2mgをスクリューキャップ付ガラス試験管に入れ、無水メタノール性1N塩酸2mlを加えて100℃で4時間加熱して分解した。放冷後、蒸留水1mlを加えてから、脂肪酸メチルエステルを2mlのヘキサンで3回抽出し、抽出液をガスクロマトグラフィーおよびマススペクトロメトリーに供し、脂肪酸残基の鎖長を推定した。
【0031】
また、分離精製したグルコシルセラミド2mgを1mlの含水メタノール性1N塩酸とともに70℃で18時間反応させて分解した。次いで、共雑する脂肪酸メチルエステルおよび遊離脂肪酸を1mlのヘキサンで3回回収した。続いて、精製後のメタノール層に濃水酸化カリウム液を加えてpHを9.7以上に調整し、等容の蒸留水を加えてから、2mlのジエチルエーテルで3回スフィンゴイド塩基を抽出した。ジエチルエーテル層を濃縮乾固した後、スフィンゴイド塩基をメタノール1mlに溶解させ、これに新鮮な0.2M過ヨウ素酸ナトリウム0.2mlを加え、室温の暗所で2時間静置した。ヘキサン2.4mlと蒸留水1.2mlを混和して3500rpmで15分間遠心し、上層をヘキサンで3回抽出した。抽出液を濃縮乾固し、得られた脂肪性アルデヒドをガスクロマトグラフィーおよびマススペクトロメトリーに供し、スフィンゴイド塩基の鎖長および極性部位の構造を推定した。
【0032】
表2に得られた結果を他の植物から抽出したグルコシルセラミドの構成成分の組成と共に示す。表2において、2−ヒドロキシ脂肪酸はxh:y(xは=炭素数、yは二重結合数)と略記した。また、スフィンゴイド塩基の略記の意味は、t18:0が4−ヒドロキシスフィンガニン、t18:18tが4−ヒドロキシ−トランス−8−スフィンゲニン、t18:18cが4−ヒドロキシ−シス−8−スフィンゲニン、d18:0がスフィンガニン、d18:18tがトランス−8−スフィンゲニン、d18:18cがシス−8−スフィンゲニン、d18:14tがトランス−4−スフィンゲニン、d18:24t,8tがトランス−4,トランス−8−スフィンガジエニン、d18:24t,8cがトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンである。
【0033】
【表2】

【0034】
表2に示したように、桃の果肉から抽出したグルコシルセラミドは、脂肪酸残基として2−ヒドロキシパルミチン酸を最も多く含んでおり、スフィンゴイド塩基部位としてトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンを最も多く含んでいた。また、他の脂肪酸残基としては、炭素数が18,20,22,23,24,25または26でありかつ飽和脂肪酸である2−ヒドロキシ脂肪酸残基を含んでいた。他のスフィンゴイド塩基部位としては、4−ヒドロキシスフィンガニン、4−ヒドロキシ−トランス−8−スフィンゲニン、4−ヒドロキシ−シス−8−スフィンゲニン、スフィンガニン、トランス−4−スフィンゲニン、およびトランス−4,トランス−8−スフィンガジエニンを含んでいた。このように、桃の果肉から抽出したグルコシルセラミドは、他の植物から抽出したグルコシルセラミドとは構成成分の組成が異なっていたが、他の果物から抽出したグルコシルセラミドとは類似が見られた。
【0035】
(実施例3−1〜3−6)
桃の果実の収穫時期を変えて成熟度の異なる果肉を6種類用意した。各果肉について、実施例1−1と同様にして、乾燥粉末試料を作製し、グルコシルセラミド画分を抽出して、ケイ酸薄層クロマトグラフィーによりグルコシルセラミドおよびステロール配糖体の含量を推定した。
【0036】
表3および図1に得られた結果を示す。表3および図1に示したように、果実の成熟と共に桃の果肉に含まれるグルコシルセラミドおよびステロール配糖体の量は増加する傾向が見られたが、グルコシルセラミドについては顕著な差異ではなかった
【0037】
【表3】

【0038】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、グルコシルセラミド画分の組成を具体的に説明したが、他の組成を含んでいてもよい。また、組成比は実施例に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0039】
食品素材、医薬品、医療品、サプリメント、栄養剤、美容剤などに用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】桃の果実の成熟度と、果肉から抽出したグルコシルセラミド画分に含まれるグルコシルセラミドおよびステロール配糖体の量との関係を表す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸残基として2−ヒドロキシパルミチン酸の割合が最も多く、スフィンゴイド塩基部位としてトランス−4,シス−8−スフィンガジエニンの割合が最も多いことを特徴とするグルコシルセラミド画分。
【請求項2】
桃から抽出したことを特徴とする請求項1記載のグルコシルセラミド画分。
【請求項3】
2−ヒドロキシ脂肪酸残基の炭素数が18,20,22,23,24,25または26でありかつ飽和脂肪酸である少なくとも1種の脂肪酸残基と、
4−ヒドロキシスフィンガニン、4−ヒドロキシ−トランス−8−スフィンゲニン、4−ヒドロキシ−シス−8−スフィンゲニン、スフィンガニン、トランス−4−スフィンゲニン、およびトランス−4,トランス−8−スフィンガジエニンからなる群のうちの少なくとも1種のスフィンゴイド塩基部位と
を更に含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のグルコシルセラミド画分。
【請求項4】
更に、ステロール配糖体を含むことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1に記載のグルコシルセラミド画分。
【請求項5】
摘果桃から抽出したことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1に記載のグルコシルセラミド画分。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか1に記載のグルコシルセラミド画分を含むことを特徴とする加工品。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2010−120892(P2010−120892A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−297664(P2008−297664)
【出願日】平成20年11月21日(2008.11.21)
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【出願人】(397021280)あぶくま食品株式会社 (2)
【Fターム(参考)】