説明

グルタミン酸トランスポーターモジュレーター同定のためのトランスジェニック哺乳動物および細胞

本発明は、神経および/または精神疾患治療のための候補化合物を同定するために有用なトランスジェニック非ヒト哺乳動物を含む。トランスジェニック哺乳動物へ組み入れるゲノムはレポーター遺伝子に作動可能になるようにグルタミン酸トランスポータープロモーターを結合した導入遺伝子である。トランスジェニック非ヒト哺乳動物およびそこから分離した細胞は神経および/または精神疾患治療に有用な候補化合物の同定のための生体内モデルとして使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一部については、アメリカ合衆国政府からの助成金(国立衛生研究所 交付番号NS33958)によって行われた。したがって、アメリカ合衆国政府は、本発明について一定の権利を有する。
【0002】
本発明の技術分野
本発明は、作動可能なようにグルタミン酸トランスポーターのプロモーターをレポーター遺伝子に結合したゲノムを組み込んだ細胞人工染色体(BAC)トランスジェニック非ヒト哺乳動物および細胞に関する。さらに、本発明は神経および/または精神疾患治療に有用な化合物を同定する方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
グルタミン酸とアスパラギン酸は哺乳動物の中枢神経系での主要な興奮性神経伝達物質である。これら興奮性のアミノ酸(EAA)は、N−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体、α−アミノ3−ヒドロキシ−5−メチル−4−イソオキサゾール(AMPA)受容体、カイニン酸受容体およびG蛋白共役代謝調節受容体と呼ばれるイオンチャンネル内蔵型受容体(ligand-gated ion channels)を活性化する(非特許文献1)。逆に、EAAの細胞外蓄積およびEAA受容体の過剰な活性化が、中枢神経系(CNS)の急性傷害時にみられる神経細胞の細胞死にも関与しているという多くの証拠がある(非特許文献2)。「興奮毒性」として知られている過程は、筋萎縮側索硬化症(ALS)などの慢性神経変性病でみられる神経細胞脱落に関係している可能性もある。ニューロンに対して毒性を持つのはこのプールであるので、興奮毒性はEAAの細胞外濃度変化に基づくものである。グルタミン酸の細胞内濃度(約5〜10mM)およびアスパラギン酸の細胞内濃度(約1〜5mM)は、細胞外濃度(<1〜10μM)の1000〜10000倍である。重要なことは、グルタミン酸の細胞外低濃度は、ニューロンおよびアストロ細胞への輸送によって維持されていることである(非特許文献3)。
【0004】
ナトリウム依存性高アフィニティトランスポーターを発現する以下の5つの異なったグルタミン酸トランスポーターがクローニングされている:GLT−1(ヒト興奮性アミノ酸トランスポーター2またはEAAT2)(非特許文献4、非特許文献5)、EAAC1/EAAT3(非特許文献4、非特許文献6)、GLAST/EAAT1(非特許文献4、非特許文献7)、EAAT4(非特許文献8、非特許文献9)およびEAAT5(非特許文献3、非特許文献4)。そのうえ、GLT−1およびGLASTのmRNAにはオルタナティブスプライシングに由来する不均一性の証拠がある。EAAT1/GLASTおよびEAAT2/GLT−1の発現は、通常アストログリアに限定される。EAAT3/EAAC1およびEAAT4の発現はニューロンに限定される、一方、EAAT5の発現は網膜に限定される(非特許文献3を参照)。
【0005】
シナプス前トランスポーターがシナプス伝達中のEAAのクリアランスに重要な働きを担っていると考えられていたが、現在では、アストログリアトランスポーターであるEAAT2/GLT−1および、より少ない程度であるがEAAT1/GLASTがグルタミン酸トランスポートの大部分を担っていることが知られている。この裏づけは以下を含む:1)計算によると、総脳タンパクの約1%がGLT−1である(非特許文献3)、2)GLT−1アンチセンスノックダウンおよび/またはGLT−1ヌルマウスの組織は、貢献度は脳領域によって異なるものの、このトランスポートが総グルタミン酸トランスポート活性の95%までを占めることを示唆する(非特許文献10、非特許文献11)および3)脳標本中のトランスポーター介在電位に関する電気生理学的記録は、前脳でのシナプス伝達中のグルタミン酸塩のクリアランスにおいて、GLT−1が主要な役割を有することを強く示唆する(非特許文献3、非特許文献12、非特許文献13、非特許文献14、非特許文献15)。
【0006】
GLT−1(EAAT2)の発現はインビボ(in vivo)およびインビトロ(in vitro)の両方でダイナミックに制御されている。GLT−1は成人の中枢神経系での主要なトランスポーターであるが、ラットおよびヒトの両方で、その発現は発生の初期段階にはむしろ低く、シナプス形成の間に増加してくる(非特許文献16、非特許文献17)。ニューロンの病変、特にシナプス終末の欠損は選択的な(ただし、一時的な)GLT−1およびGLAST発現の低下を引き起こす(非特許文献18、非特許文献19)。これらのデータは、ニューロンの存在がGLT−1の発現に関与していることを示唆している。梗塞や外傷による脳損傷を含む中枢神経系への急性傷害の動物モデルでGLT−1および/またはGLASTの発現が低下していることをいくつかの異なるグループが示す(非特許文献3を参照)。EAAT2/GLT−1の発現低下はALS患者(非特許文献20、非特許文献21、非特許文献22)、SOD1変異マウスモデル(非特許文献23、非特許文献24、非特許文献25)およびSOD1 G93A変異ラットモデル(非特許文献26)で繰り返し観察されている。しかし、ニューロンの欠損と関係しているすべての中枢神経系疾患がGLT−1の欠損と関係している訳ではない。
【0007】
GLT−1発現はインビボでは非常に高いにもかかわらず、継代培養している「正常」アストロ細胞では通常検出できない。興味あることに、ニューロンと共培養したアストロ細胞はGLT−1のグリアでの発現が誘導される。このことは、インビトロではニューロンがGLT−1の発現を誘導および/または維持していることを示唆している(非特許文献27、非特許文献28)。このニューロンの作用は少なくとも一部は可溶性分泌分子を介している(非特許文献27)。DbcAMP、上皮細胞増殖因子、下垂体アデニル酸シクラーゼ活性化ポリペプチドおよびイムノフィリンなどいくつかの低分子がこのニューロンの作用を模倣することができる(非特許文献27、非特許文献28、非特許文献29、非特許文献30、非特許文献31)。GLT−1タンパクの発現上昇はGLT−1 mRNA発現上昇によって起こり、アストロ細胞の形態を変化させる。これは、アストロ細胞の分化でみられるのと類似している。しかし、GLT−1の発現上昇が必ずしも機能上の活性上昇を引き起こすとは限らない。トランスポータータンパクの細胞表面上への輸送も必要である。アストロ細胞培養は、ニューロンがGLT−1発現を制御する方法を調べるための貴重なモデルシステムであることをこれらの研究は示唆している。
【0008】
DbcAMPの作用はプロテインキナーゼAの阻害剤によって妨げられ(非特許文献27、非特許文献32)、dbcAMP、上皮細胞増殖因子またはニューロン培養上清によるGLT−1の発現上昇は、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3−キナーゼ)の阻害剤または転写因子であるNFkBの阻害剤によって妨げられる(非特許文献27、非特許文献32)。この報告を除いて、GLT−1発現を実質的にコントロールするメカニズムについてはほとんど知られていない。
【0009】
反対に、GLAST(EAAT1)は発生段階を通して発現低下しているが、成人のバーグマングリアによって発現している小脳および内耳有毛細胞を取り囲んでいるグリアによって発現している蝸牛においては依然として主要なグルタミン酸トランスポーターである。
【0010】
研究は、GLASTが海馬および小脳のGABA性介在ニューロンのAMPAおよび代謝型グルタミン酸受容体の活性化の抑制を補助していることを示す(非特許文献33)。したがって、GLAST数の変化は多くの興奮性シナプス反応の大きさおよび期間に変化を及ぼすかもしれない。GLASTの発現は発生の過程で上昇し、また、神経疾患および/または精神疾患で変化しているが、インビボでのGLAST発現を制御しているメカニズムは良くわかっていない。
【非特許文献1】Ehlers et al., 1996, Curr. Opin. Cell. Biol. 8:484-489
【非特許文献2】Choi, 1992, J. Neurobiol. 1261-1276
【非特許文献3】Danbolt, 2001, Prog. Neurobiol. 65:1-105
【非特許文献4】Arriza et al., 1993, J. Biol. Chem. 268:15329-15332
【非特許文献5】Pines et al., 1992 Nature 360:464-467
【非特許文献6】Kanai et al., 1996, In: Neurotransmitter Transporters: Structure, Function and Regulation, Reith, M.E.A., ed., Humana Press Inc., Totowa NJ, 171-213
【非特許文献7】Storck et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:10955-10999
【非特許文献8】Fairman et al., 1995, Nature 375:599-603
【非特許文献9】Lin, C.L.G. et al., 1998, Mol. Brain. Res. 63:174-179
【非特許文献10】Rothstein et al., 1996, Neuron 16:675-686
【非特許文献11】Tanaka et al., 1997, Science 276:1699-1702
【非特許文献12】Bergles et al., 1997, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 94:14821-14825
【非特許文献13】Bergles and Jahr, 1997, Neuron 19:1297-1308
【非特許文献14】Bergles et al., 1998, J. Neurosci. 18:7709-7716
【非特許文献15】Diamond et al., 1998, Neuron 21:425-433
【非特許文献16】Furuta et al., 1997, J. Neurosci. 17:8363-8375
【非特許文献17】Sutherland et al., 1996, J. Neurosci. 16:2191-2207
【非特許文献18】Ginsberg et al., 1995, J. Neurochem. 65:2800-2803
【非特許文献19】Ginsberg et al., 1999, Neuroscience 88:1059-1071
【非特許文献20】Fray et al., 1998, Eur. J. Neurosci. 10:2481-2489
【非特許文献21】Rothstein et al., 1992, N. Engl. J. Med. 326:1464-1468
【非特許文献22】Rothstein et al., 1995, Ann. Neurol. 38:73-84
【非特許文献23】Bruijn et al., 1997, Neuron 18:327-33
【非特許文献24】Keller et al., 1997, Neuroscience 80:685-696
【非特許文献25】Kruman et al., 1999, Exp. Neurol. 160:28-39
【非特許文献26】Howland et al., 2002, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 99:1604-1609
【非特許文献27】Schlag et al., 1998, Mol. Pharmacol. 53:355-369
【非特許文献28】Swanson et al., 1997, J. Neurosci. 17:932-940
【非特許文献29】Duan et al., 1999, J. Neurosci. 19:10193-10200
【非特許文献30】Gegelashvili et al., 1997, J. Neurochem. 69:2612-2615
【非特許文献31】Rodriguez-Kern et al., 2003, Neurochem. Int. 43:363-370
【非特許文献32】Zelenaia et al., 2000, Mol. Pharmacol. 57:667-678
【非特許文献33】Lopez-Bayghen et al., 2003, Brain Res. Mol. Brain Res. 115:1-9
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
一般的に、タンパク発現の変化はDNA上の明確に定義されていない領域であるプロモーター遺伝子と制御因子の相互作用を介したコードされた遺伝子の転写制御によってコントロールされている。プロモーター遺伝子は必ずしも単独で働くものはなく、開始コドンの上流にあるとも限らない。グルタミン酸受容体の調節は、神経疾患および/または精神疾患のための効果的な治療法を同定するための手段を提示する。したがって、グルタミン酸トランスポーターのプロモーターを調節する化合物を同定するための技術とともにグルタミン酸トランスポーターのプロモーターを調節することのできる方法および構成のための技術が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の要約
本発明は、少なくとも一部分は神経疾患および/または精神疾患治療に有用な化合物を同定するための新規なトランスジェニック非ヒト哺乳動物および細胞の産生に基づく。
【0013】
ひとつの実施例では、細菌人工染色体(BAC)導入遺伝子を有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物を含んでいる。BACはGLT−1部位またはGLAST部位のいずれかを有するゲノムDNAを含むと同時に、作動可能なように、そのプロモーター部位に結合したレポーター遺伝子を含む。好ましい実施例ではBACはその非ヒト哺乳動物と同じ種に由来する。
【0014】
好ましくは、非ヒト哺乳動物は哺乳類であり、より好ましくはマウスである。別の好ましい実施例では、BACはBACクローンRPCI−23−361H22またはBACクローンRPCI−24−287G11を含む。
【0015】
別の好ましい実施例では、レポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼおよび蛍光タンパク(例えば、緑色蛍光タンパク、高感度緑色蛍光タンパク、赤色蛍光タンパク、黄色蛍光タンパク、青色蛍光タンパクまたは青緑色蛍光タンパク)で構成されるグループから選択される1以上のタンパクをコードする遺伝子配列を含む。
【0016】
別の実施例では、本発明は、本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物から分離された細胞(例えば、初代培養細胞または不死化細胞)を特徴とする。ひとつの実施例では、その細胞はアストロ細胞であり、好ましくは、そのアストロ細胞は細菌人工染色体GLT−1プロモーター活性を示す。別の実施例では、その細胞はオリゴデンドロサイトであり、好ましくは、そのオリゴデンドロサイトは細菌人工染色体GLT−1プロモーター活性を示す。さらに別の実施例では、その細胞は細菌人工染色体GLT−1プロモーター活性且つ細菌人工染色体GLASTプロモーター活性を示す。
【0017】
別の実施例では、本発明は、神経疾患および/もしくは精神疾患を治療可能とする、並びに/またはGLT−1および/もしくはGLASTプロモーターの調節を可能とする化合物を同定する方法を特徴とする。この方法は本発明の細胞とテスト化合物が接触し、レポーター遺伝子発現が調節されるか否かを調べ、その結果、神経疾患および/または精神疾患を治療可能とする化合物としてGLT−1および/またはGLASTプロモーターを調節する化合物を同定することを含む。ひとつの実施例では、テスト化合物はレポーター遺伝子の発現を上昇させる。別の実施例では、テスト化合物はレポーター遺伝子の発現を低下させる。
【0018】
ひとつの実施例では、レポーター遺伝子の発現はレポーター遺伝子のmRNAのレベルを測定することによって検出される(例えば、ノザンブロット法、RT−PCR法もしくは定量性RT−PCR法、プライマーエクステンション法またはヌクレアーゼプロテクション法)。
【0019】
別の実施例では、レポーター遺伝子の発現はレポーター遺伝子によってコードされるポリペプチドを検出することによって検出される(例えば、ウエスタンブロット法、ELISA法またはRIA法)。別の実施例では、ポリペプチドはルシフェラーゼ活性を測定することによって検出される(例えば、標準のルシフェラーゼアッセイを用いる)。別の実施例では、ポリペプチドはクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ活性を測定することによって検出される(例えば、標準のクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼアッセイを用いる)。さらに別の実施例では、ポリペプチドは蛍光タンパクの蛍光を測定することによって検出される。
【0020】
別の実施例では、本発明は、神経疾患および/もしくは精神疾患を治療可能とする、並びに/またはGLT−1および/またはGLASTプロモーターの調節を可能とするような化合物を同定する方法を提示する。この方法はトランスジェニック非ヒト哺乳動物とテスト化合物が接触し、レポーター遺伝子発現が調節されるかどうかを調べ、その結果、神経疾患および/または精神疾患を治療可能とする化合物としてGLT−1および/またはGLASTプロモーターを調節する化合物を同定することを含む。好ましい実施例では、テスト化合物は髄腔内、静脈内、筋肉内、皮内もしくは腹腔内注射または経口摂取によって動物に投与される。
【0021】
本発明は、また、グルタミン酸トランスポータープロモーター活性を上昇させうる化合物を、神経疾患および/もしくは精神疾患または神経障害および/もしくは精神障害を患う哺乳動物に投与することを含む、その哺乳動物を治療する方法を包含する。別の実施例では、この方法はグルタミン酸トランスポータープロモーター活性を低下させうる化合物をその哺乳動物に投与することを含む。
【0022】
別の実施例では、本発明は、細菌人工染色体導入遺伝子(BAC)を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物から細胞を分離する方法を提供する。BACはGLT−1遺伝子部位およびGLAST遺伝子部位から成るグループから選択されるひとつの部位を有するゲノムDNAを含むと同時に、作動可能なようにその部位のプロモーターを結合させたレポーター遺伝子を含む。当該方法は、レポーター遺伝子に特異的な抗体を細胞集団に加え、抗体−細胞複合体の形成に適した条件下で、その細胞集団とその抗体を接触させ、その細胞集団から抗体−細胞複合体を選別し、そして必要な細胞を分離することを含む。
【0023】
ひとつの実施例では、抗体は物理的支持体と結合させる。好ましくは、その物理的支持体はマイクロビーズ、マグネチックビーズ、パニング表面、高密度遠心のための高密度粒子、吸着カラムおよび吸着膜から成るグループから選択される。さらに別の実施例では、物理的支持体はストレプトアビジンビーズとビオチンビーズから成るグループから選択される。
【0024】
別の実施例では、抗体−細胞複合体は、蛍光活性化細胞選別(FACS)および磁気活性化細胞選別(MACS)から成るグループから選択される方法を使用することで、前記の細胞集団から分離される。
【0025】
また、本発明は2つの細菌人工染色体導入遺伝子を有する非ヒト二重トランスジェニック動物を含む。最初の細菌人工染色体導入遺伝子は、作動可能にひとつ目のレポーター遺伝子と結合したGLT−1ゲノムDNAを含み、2番目の細菌人工染色体導入遺伝子は、作動可能にふたつ目のレポーター遺伝子と結合したGLASTゲノムDNAを含む。別の実施例では、本発明は非ヒト二重トランスジェニック動物から分離された細胞を含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明の他の特徴と利点は以下の詳細な説明と特許請求の範囲から明らかになる。
【0027】
略語と短縮形
本明細書中では以下の略語と短縮形が使用される。
BAC:細菌人工染色体
EAA:興奮性アミノ酸
EAAT:興奮性アミノ酸トランスポーター
ELISA:酵素免疫測定吸着法
GFAP:グリア線維酸性タンパク
PCR:ポリメラーゼ連鎖反応
PND:生後日数
RT−PCR:逆転写ポリメラーゼ連鎖反応
【0028】
定義
本明細書中で使用される定義は説明を目的とするものであり、本発明の範囲を制限するものではない。
【0029】
本明細書中で用いられる冠詞「a」および「an」は、この冠詞の文法的対象物が、1または1以上(例えば、少なくとも1)であることを言及する。一例として、「要素(an element)」は1つの要素または1以上の要素を意味する。
【0030】
本明細書中で使用されるように、それぞれの「アミノ酸」は、以下の表に示すように、そのフルネームによって表されるか、それに対応する3文字コードまたはそれに対応する1文字コードで表される。
【0031】
【表1】

【0032】
本明細書中で使用される表現「アミノ酸」は、天然および合成アミノ酸の両方、並びにDおよびLアミノ酸の両方を含む。「標準アミノ酸」は、天然のペプチドで見られる共通の20種のL-アミノ酸のいずれかを意味し、「非標準アミノ酸残基」は天然物由来か合成によるかにかかわらず、標準アミノ酸以外のアミノ酸のいずれかを意味する。また、本明細書中で使用されるように、「合成アミノ酸」は、これには制限されないが、塩、アミノ酸誘導体(アミド等)および置換化合物を含む化学的に修飾されたアミノ酸を包含する。本発明のペプチドに含まれるアミノ酸、特にカルボキシル末端またはアミノ末端は、メチル化、アミド化、アセチル化、またはペプチド活性に悪影響を与えることなくペプチドの循環半減期(circulating half life)を変えることができる他の化学基の置換により修飾することができる。さらに本発明のペプチド類には、ジスルフィド結合があってもなくてもよい。
【0033】
「アミノ酸」という用語は、「アミノ酸残基」と互換性を持って使用され、遊離アミノ酸およびペプチドのアミノ酸残基を言うことができる。この用語が遊離アミノ酸またはペプチド残基のいずれについて言及しているかは、この用語が使用される文脈から明らかとなる。
【0034】
アミノ酸は、以下に示す一般的な構造を有する。
【0035】
【化1】

【0036】
アミノ酸は側鎖Rに基づいて、7つのグループに分類される:(1)脂肪族の側鎖、(2)ヒドロキシ(OH)基を含む側鎖、(3)硫黄原子を含む側鎖、(4)酸性基またはアミド基を含む側鎖、(5)塩基性基を含む側鎖、(6)芳香族環を含む側鎖、(7)側鎖がアミノ基に融合されているアミノ酸であるプロリン。
【0037】
本発明のペプチド化合物を表現するために使用される命名法は、それぞれのアミノ酸残基において、アミノ基が左、カルボキシル基が右、として示される従来の方法に従う。本発明の選択された特定の実施例を表す化学式では、明確に示されていないが、アミノ末端、カルボキシ末端基は特に記載していない限り生理学的なpH値で推定される構造であると理解される。
【0038】
本明細書中で使用される用語「相当する」は、ポリヌクレオチド配列が参照ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部と相同である(すなわち、厳密には進化的に関連していないが、同一である)か、またはポリペプチド配列が参照ポリペプチド配列と同じであることを意味している。
【0039】
本明細書中で使用される用語「相補的である」は、対象の配列が参照ポリヌクレオチド配列のすべてまたは一部と相同であることを意味する。例として、ヌクレオチド配列「TATAC」は、参照配列「TATAC」に対応し、参照配列「GTATA」を相補している。
【0040】
グルタミン酸トランスポーターmRNAに関して使用される用語「発現」は、グルタミン酸トランスポーターmRNAが結果として合成される、グルタミン酸トランスポーター核酸配列の転写を言う。グルタミントランスポータータンパクに関して使用される「発現」は、グルタミントランスポータータンパクが結果として合成される、グルタミントランスポーターmRNAの翻訳を言う。
【0041】
本明細書中で使用され、核酸に適用される用語「断片」は、比較的大きい核酸の配列を言う。核酸の「断片」は長さが少なくとも約20のヌクレオチドであってもよい。例えば、少なくとも約50〜約100のヌクレオチドである。好ましくは少なくとも約100〜約500のヌクレオチド、より好ましくは少なくとも約500〜約1000のヌクレオチド、さらに好ましくは少なくとも約1000〜約1500のヌクレオチド、特に好ましくは少なくとも約1500〜約2500のヌクレオチド、最も好ましくは少なくとも約2500のヌクレオチドである。
【0042】
本明細書中で使用され、タンパク質またはペプチドに適用される用語「断片」は、比較的大きいタンパクまたはペプチド配列を言う。タンパクまたはペプチドの「断片」は長さが少なくとも約20のアミノ酸であってもよい。例えば、長さが少なくとも約50のアミノ酸、好ましくは長さが少なくとも約100のアミノ酸、より好ましくは長さが少なくとも約200のアミノ酸、さらに好ましくは長さが少なくとも約300のアミノ酸、および最も好ましくは長さが少なくとも約400のアミノ酸である。
【0043】
本明細書中で使用される用語「遺伝子」は、単独で、または他のエレメントとの組み合わせで、細胞内において発現できるエレメントまたはエレメントの組み合わせを示す。一般に、遺伝子は以下を含む(5’から3’末端):(1)原核細胞、ウイルス、または真核細胞(トランスジェニック哺乳動物を含む)のどのような細胞内でも機能できる5’非翻訳リーダー配列を含むプロモーター領域(2)目的とするタンパクをコードする構造遺伝子またはポリヌクレオチド配列(3)転写の終了やRNA配列の3’領域のポリアデニレーションを通常引き起こす3’非翻訳領域。これらエレメントのそれぞれは、隣接しているエレメントへ連続的に接続することにより作動可能に結合している。上記エレメントを含む遺伝子は、標準の組換えDNAの方法で、どんな発現ベクターにも挿入される。
【0044】
本明細書中で使用する「遺伝子産物」は、転写、逆転写、重合、翻訳、翻訳後および/または遺伝子発現の間に生産されるすべての産生物を含む。遺伝子産物は、これには限定されないが、タンパク、ポリペプチド、ペプチド、ペプチド断片またはポリヌクレオチド分子を含む。
【0045】
また、本明細書中で使用する用語「GLT−1」(または代わりに「GLT1」)は、齧歯動物のアストログリアグルタミン酸トランスポーター2遺伝子について言う。マウスGLT−1 cDNA配列はGenBankのアクセスNo.AB007810、AB007812およびAB007811並びにウツノミヤ−テイトらの文献(1997, FEBS Lett. 416:312-316)に記載されている。本明細書中で使用する用語「EAAT2」はヒトのアストログリアグルタミン酸トランスポーター2遺伝子を言う。例えば、ヒトのEAAT2 cDNA配列を開示する米国特許第5,658,782号を参照。
【0046】
本明細書中で使用する用語「GLAST」は、齧歯動物のアストログリアグルタミントランスポーター1遺伝子をいう。マウスGLAST cDNA配列は、GenBankアクセスNo.NM_148938に記載されている。本明細書中で使用する用語「EAAT1」は、ヒトのアストログリアグルタミン酸トランスポーター1遺伝子を言う。例えば、ヒトのEAAT1 cDNA配列を開示する米国特許第5,658,782号を参照。
【0047】
本明細書中で使用する用語「阻害」は、コントロール値に対して活性または機能を少なくとも約10パーセント抑えるか、またはブロックすることを意味する。好ましくは、コントロール値に比べて50%、より好ましくは75%、さらに好ましくは95%まで活性を抑えるか、またはブロックする。
【0048】
用語「単離された核酸分子」は、核酸の天然源に存在している他の核酸分子から分離された核酸分子を含む。例えばゲノムDNAについて、用語「単離された」はゲノムDNAが元々結合している染色体から分離された核酸分子を含む。好ましくは「単離された」核酸は、その核酸が由来する生体のゲノムDNAの中でその核酸の両側に元々ある配列(すなわち、その核酸の5’および3’末端に位置する配列)を含まない。例えば、様々な実施例では、単離されたGLT−1またはGLAST核酸分子が含む、その核酸が由来する細胞のゲノムDNA中のその核酸分子の両側に元々あるヌクレオチド配列を、約5kb,4kb,3kb,2kb,1kb,0.5kbまたは0.1kb未満とすることができる。さらに「単離された」核酸分子は、組み替え技術で生産される際の他の細胞材料もしくは培養液、または化学的に合成される際の化学的前駆体もしくは他の化学物質を実質的に含まないことができる。
【0049】
本明細書中で使用される用語「哺乳動物」は、あらゆる非ヒト哺乳動物についても言う。例えば、その哺乳動物は、齧歯動物、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ブタである。好ましい非ヒト哺乳動物は、ラットおよびマウスを含む齧歯動物のファミリーから選ばれ、より好ましくはマウスである。本明細書中で使用される「トランスジェニック哺乳動物」は、組換え型のDNAを用いた微量注入法もしくはトランスフェクション、または組換え型ウイルスへの感染等の亜細胞レベルにおける慎重な遺伝子操作で、直接的または間接的に受け取られた遺伝情報を持つ1つ以上の細胞を含む哺乳動物を示す。また、用語「トランスジェニック哺乳動物」は、遺伝情報が生殖細胞に導入され、その結果、その情報を子孫に移す能力が与えられるトランスジェニック哺乳動物についてもいう。また、その子孫が実際に導入遺伝子を有する場合、それらもまたトランスジェニック哺乳動物である。
【0050】
本明細書中で使用される「変異」は、参考配列に関連する核酸またはポリペプチド配列(好ましくは、自然に起こる標準または「野生型」の配列)の変化を言い、転座、欠失、挿入、置換/点変異を含む。本明細書中で使用される「変異体」は、変異を含む核酸またはタンパクのいずれかを示す。
【0051】
本明細書中で使用される「神経障害」は、これには限定されないが、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、三塩基反復配列伸長疾患(例えば、ハンティントン病(HD)、脊髄または延髄の筋萎縮、脊髄小脳失調タイプ1、2、6および7、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症、およびマシャド・ジョセフ病)、シヌクレイン病(例えば、パーキンソン病(PD)、レビー小体型痴呆(DLB)および多系統萎縮症(MSA))、多発性硬化症(MS)、アルツハイマー病、脳腫瘍(例えば、グリア芽腫)、脳卒中/脳虚血、脳血管疾患、てんかん(例えば、側頭葉てんかん)、HIVに関連した痴呆、コルサコフ病、疼痛、頭痛(例えば、偏頭痛)、ピック病、進行性核上麻痺、ヤコブ病、ベル麻痺、失語症、睡眠障害、緑内障、およびメニエール病を含む神経系の疾患および障害を言う。
【0052】
一般に「核酸分子」は、DNA分子(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)およびヌクレオチド類似体を用いて産生するDNAまたはRNAの類似体を含むことを意図する。核酸分子は、一本鎖または二本鎖であるが、好ましくは二本鎖のDNAである。
【0053】
通常、用語「オリゴヌクレオチド」は、長さ約50ヌクレオチド以下の短いポリヌクレオチドをいう。また本明細書中で、DNA配列(例えば、A、T、GおよびC)によってヌクレオチド配列を表示するとき、これは「u」が「T」に置き換えられる、対応するRNA配列(例えば、a、u、g、c)を含むことが理解される。
【0054】
本明細書中で使用される用語「ペプチド」、「ポリペプチド」および「タンパク」は、互換性を持って使用され、ペプチド結合によって共有結合したアミノ酸残基を含む化合物を示す。タンパクまたはペプチドは少なくとも2つのアミノ酸を含むべきであり、タンパクまたはペプチドの配列に含むことができるアミノ酸の最大数に制限はない。ポリペプチドは、ペプチド結合でお互いに結合した2つ以上のアミノ酸を含むすべてのペプチドまたはタンパクを含む。本明細書中で使用されるように、その用語は、例えば、当該技術分野で一般的にペプチド、オリゴペプチド、およびオリゴマーと呼ばれる短鎖、並びに、多くのタイプがあり当該技術分野で一般的にタンパクと呼ばれる長鎖の両方をいう。「ポリペプチド」は、例えば、特に、生物学的に活性のある断片、実質的に相同なポリペプチド、オリゴペプチド、ホモダイマー、ヘテロ二量体、ポリペプチド変異体、修飾されたポリペプチド、誘導体、アナログ、融合タンパクを含む。ポリペプチドは、天然ペプチド、組み換えペプチド、合成ペプチド、またはその結合物を含む。
【0055】
本明細書中で使用される「ポリヌクレオチド」は、cDNA、RNA、DNA/RNAハイブリッド、アンチセンスRNA、リボザイム、ゲノムDNA、合成型、およびセンスとアンチセンス鎖の混合重合体を含み、非天然または、誘導、合成もしくは準合成のヌクレオチド塩基を含むように化学的または生化学的に修飾できる。また、本発明の範囲に含まれるのは、これには限定されないが、除去、挿入、1以上のヌクレオチドの置換、他のポリヌクレオチド配列との融合を含む野性型または合成遺伝子の変更である。遺伝子の一次配列におけるそのような変化は、受動免疫を引き出すペプチド能力の発現を変化させない。
【0056】
「薬理学的に許容できる」は、ヒトまたは動物での使用において、生理的に許容できることを意味する。
【0057】
本明細書中で使用される用語「薬剤の組成」は、ヒトおよび動物に使用する製剤を含む。
【0058】
本明細書中で使用される用語「防ぐ(prevent)」、「防止(preventing)」、「予防(prevention)」および「予防療法(prophylactic treatment)」等は、障害または病気を有していないが、発症するリスクのある、または感染しやすい対象の障害または病気の発症確率を減少させることをいう。
【0059】
本明細書中で使用される「プロモーター」は、構造遺伝子の発現の開始および制御において活性化するDNA配列の領域をいう。通常、DNAのこの配列は、必ずしも単独で働くわけではなく、構造遺伝子のコーディング配列から上流に存在し、正しい部位で転写を開始するのに必要なRNA合成酵素および/または他のエレメントの認識を提供することによってコード領域の発現をコントロールしている。
【0060】
本明細書中で使用される用語「精神障害」は、心の疾患と障害について言及し、米国精神医学会によって発行された精神障害の診断と統計のためのマニュアル第4版(DSM−IV)(ワシントンDC(1994))で記載された疾患と障害を含む。精神障害は、これには限定されないが、不安症(例えば、急性ストレス障害広場恐怖症、全般性不安障害、強迫神経症、パニック障害、心的外傷性ストレス障害、分離不安障害、対人恐怖および特定の恐怖症)、幼年期の障害(例えば、注意欠陥多動障害、行為障害および反抗挑戦性障害)、摂食障害(例えば、拒食症および神経性過食症)、気分障害(例えば、うつ、双極性障害、気分循環性障害、気分変調性障害および大うつ病性障害)、人格障害(例えば、反社会性人格障害、回避的人格障害、境界性人格障害、依存性人格障害、演技性人格障害、自己愛性人格障害、強迫性人格障害、妄想性人格障害、統合失調質人格障害および統合失調型人格障害)、精神障害(例えば、短期精神病性障害、 妄想性障害、統合失調性感情障害、統合失調症様障害、統合失調症および二人組精神病)、薬物関連障害(例えば、アルコール依存、覚醒剤依存、大麻依存、コカイン依存、幻覚発現物質の依存、吸入用の依存、ニコチン依存、オピオイド依存、フェンシクリジン依存および鎮静剤依存)、適応障害、自閉症、せん妄、認知症、多発脳梗塞性認知症、学習および記憶障害(例えば、記憶喪失および加齢による記憶の低下)およびトゥレット障害を含む。
【0061】
本明細書中で使用される「サンプル」は、正常組織のサンプル、血液、唾液、糞、または尿を含む対象物からの生物サンプルをいう。またサンプルは、関係ある化合物または細胞を含む対象物から得られたいかなる材料源であってもよい。
【0062】
本明細書中で使用される「対象」は、ヒトまたは非ヒト哺乳動物である。非ヒト哺乳動物は、例えば、ヒツジ、ウシ亜科、ブタ、イヌ科、ネコ科等の家畜やペットおよびマウス哺乳動物、並びに爬虫類、鳥類および魚を含む。好ましくは、対象はヒトである。
【0063】
「実質的に精製された」は、他の化合物(例えば、他のペプチド、核酸、炭水化物、脂質)または元々ある他の細胞が取り除かれた実質的に均一であるペプチドまたは核酸配列を言う。「実質的に精製された」は、他の化合物との人工または合成の混合物、または生物活性を妨げない不純物が存在することを除外するものではない。例えば不完全な精製、安定化剤の添加または薬学的に許容できる調製物へ製剤化の結果として、それらが存在してもよい。
【0064】
本明細書中で使用される核酸分子の「サブユニット」はヌクレオチドであり、ポリペプチドの「サブユニット」はアミノ酸である。
【0065】
本明細書中で使用される用語「治療する(treat)」、「治療(treating)」および「治療法(treatment)」という用語等は、障害および/またはそれに関連する症状を減少または改善することを言う。除外はされないが、当然のことながら障害や病状の治療においては、それに関連する障害、病状または症状を完全に取り除く必要はない。
【0066】
本明細書中で使用される用語「バリアント」は、参照核酸配列または参照ペプチド配列と配列がそれぞれ異なっているが、参照分子の基本的な特性を保有している核酸配列またはペプチド配列を言う。核酸バリアントの配列変化は、参照核酸によってコードされたペプチドのアミノ酸配列を変化させないこともあり、またアミノ酸置換、付加、欠失、融合および切断をもたらすこともある。ペプチドバリアントの配列変化は、通常、限定的または保守的であり、参照ペプチドとバリアントの配列は全体的に非常に類似しており、多くの領域で同一である。バリアントと参照ペプチドは、アミノ酸配列において置換、付加、欠失の1つ以上のどんな組み合わせによっても異なることができる。核酸またはペプチドのバリアントは、対立遺伝子バリアントのように自然に起こるものであっても、自然に起こることが知られていないバリアントであってもよい。自然に起こらない核酸やペプチドのバリアントは、突然変異生成技術または直接合成で作ることができる。
【0067】
図面の説明
本発明を説明するために、本発明のひとつの実施例を図に表す。ただし、本発明は図に表された実施例の厳格な配列と手法には限定されない。
【0068】
図1は、本発明のBACトランスジェニック構造遺伝子を作成するためのBAC修飾ステップの典型的な概要を示す。本発明のBAC修飾システムは2ステップの相同組換プロセスを含む。最初に、共組換えステップとしてBACにシャトルベクターを組み込み、次に、分離ステップとしてシャトルベクターの切断、欠失およびBACの選択部位に意図する修飾の正確な配置を行う。
【0069】
図2はGLAST BAC構造遺伝子に作成した修飾の概要を示す。GLAST BAC構造遺伝子はDsRedレポーター遺伝子に結合される。
【0070】
図3はGLT−1 BAC構造遺伝子に作成した修飾の概要を示す。GLT−1 BAC構造遺伝子はeGFPレポーター遺伝子に結合される。
【0071】
図4は、GLASTとGLT−1 BACプロモーターレポーターマウスのバリデーションを示す一連の画像であり、図4A〜図4Dを含む。図4Aは、成体GLAST−BAC−DsRedマウスの脳の一連の画像であり、明視野画像(図4A−1)、同じ脳のDsRed蛍光(図4A−2)、同じ脳の小脳のクローズアップ(図4A−3)の図4A−1〜図4A−3を含む。図4Bは、成体GLT−1−BAC−eGFPマウスの脳を示す一連の画像であり、明視野画像(図4B−1)、同じ脳のeGFP蛍光(図4B−2)の図4B−1、図4B−2を含む。図4Cと図4Dはレポーター遺伝子を組み込んだトランスジェニックマウスと野生型マウスでGLASTまたはGLT−1タンパクの発現に相違がないことを示すウエスタンブロット画像である。593はGLASTレポーター遺伝子発現が強く、573はGLASTレポーター遺伝子発現が弱い。335はGLP−1レポーター遺伝子発現が強く、356はGLP−1レポーター遺伝子発現が弱い。
【0072】
図5は、BACトランスジェニックマウスの発育変動を示す一連の画像であり、図5Aおよび図5Bを含む。図5Aは出生後(PND)の脳の異なった領域におけるGLASTプロモーター活性を示す。図5Bは出生後(PND)の脳の異なった領域におけるGLT−1プロモーター活性の発育変動を示す一連の画像である。
【0073】
図6は、GLAST−DsRed/GLT−1−eGFP BACダブルトランスジェニックマウスの生後1日目から24日目のGLASTおよびGLT−1トランスポーターの異なる発現パターンを強調した一連の画像であり、図6A〜図6Hを含む。図6Aおよび図6Bは小脳(Cblm)を示す。図6Cおよび図6Dは大脳皮質(Ctx)を示す。図6Eおよび図6Fは海馬(Hipp)を示す。図6Gおよび6Hは脊髄(SC)を示す。目盛りは300μmである。
【0074】
図7は、GLASTとGLT−1プロモーターが生後24日目に海馬と脊椎の細胞のいくつか異なったサブセットで活性化していることを示す一連の画像であり、図7A〜図7Eを含む。図7Aは海馬歯状回内のGFAPタンパク、GLASTプロモーター活性化およびGLT−1プロモーター活性化が放射グリア内と重なるが、常に顆粒細胞層内というわけではないことを示す。図7Bは海馬CA3領域で多くのGFAP+アストロ細胞がGLASTとGLT−1プロモーター活性を発現することを示す。しかしながら、いくつかの非アストロ細胞GLAST発現細胞も存在する。図7C〜図7Eはダブルトランスジェニックマウスの脊椎を示す。C)腹側白質柱、D)背側白質柱、E)GFAP染色された灰白質(Gm)/白質(Wm)の境界(目盛りは50μm)。図7Cと図7Dに示すように、GLASTおよびGLT−1プロモーターは細胞の異なったサブセットで活性化されている。しかしながら、図7Eに示されているように、GLASTプロモーター活性化細胞はGFAP+ではない。
【0075】
図8は、様々な細胞集団内のGLT−1とGLASTプロモーター活性を示す一連の画像であり、図8A〜8Jを含む。図8Aは、GLT−1とGLASTプロモーターが歯状回の放射グリア内で、共に活性化していることを示す。図8Bは、GLT−1プロモーター活性化細胞の大部分が脳梁内でGLT−1プロモーター発現と神経マーカー(すなわちNeuN)がネガティブであることを示す。図8Cは、脳梁内のGLASTプロモーター活性化細胞がオリゴデンドログリアでないことを示す。図8Dは、大脳皮質内の細胞集団が非GLT−1プロモーター活性化GLAST細胞であることを示す(すなわち、GLASTプロモーターは活性化されているが、GLT−1プロモーターは活性化されていない)。これらの小型円形細胞はNeuNとの共染色に基づくとニューロンまたはニューロン前駆細胞であるように見える。図8Eは、大脳皮質内のGLASTプロモーター活性化細胞の多くは、オリゴデンドロ細胞であることを示す。図8Fは、線条体のGLASTプロモーター活性化細胞の大部分がアストロ細胞ではないことを示し、一方、図8Gは、GLASTプロモーター活性化細胞がオリゴデンドロ細胞であることを示す。図8Hに示されるように、脊椎ではGLT−1とGLASTプロモーター活性は完全に独立しており、また、完全にニューロンと重ならなかった。大部分の灰白質アストロ細胞はGLT−1プロモーター活性を示した。GLASTプロモーター活性化細胞は白質で顕著であり、これらの細胞の多くがニューロン(図8H)やミクログリア(図8J)ではなく、オリゴデンドログリア(図8I)に見える。目盛りは50μmである。
【0076】
発明の詳細な説明
本発明は、神経障害および/または精神障害の治療に有用な候補化合物を特定するためのトランスジェニック非ヒト哺乳動物およびその哺乳動物から分離された細胞含む。
【0077】
本発明は、少なくとも一部は、神経および精神障害の治療に有用な化合物を特定するために用いる新規な非ヒトトランスジェニック哺乳動物および細胞の生産に基づく。本発明の哺乳動物と細胞は、グルタミン酸トランスポーター部位および作動可能なようにグルタミン酸トランスポータープロモーターに結合したレポーター遺伝子を含む細菌人工染色体(BAC)由来の導入遺伝子を有する。本発明に用いるBAC導入遺伝子は、好ましくは非ヒトトランスジェニック哺乳動物と同じ種から得らて、好ましくは元来のグルタミン酸トランスポータープロモーターと調節エレメントを含む。どんな特定の理論によっても拘束されることなしに、これらの同一種BAC−レポーター導入遺伝子を用いることは、レポーター遺伝子が元来のグルタミン酸トランスポーター遺伝子と同じように生体内で制御されることを確実にする。
【0078】
また本発明は、作動可能なように細菌人工染色体(BAC)クローンから得られたプロモーター配列に結合したレポーター遺伝子をゲノム内に含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物の生産に関する。BACクローンは、GLT−1部位とGLAST部位から成るグループから選択される部位を含むゲノム配列を含む。好ましくは、BACクローンはRPCI−23−361−H22とRPCI−24−287G11から成るグループから選択される。
【0079】
もう一つの側面では、本発明は、レポーター遺伝子に作動可能なように結合したグルタミン酸トランスポータープロモーターを含む細胞を同定し、それを供与するために有用な非ヒトトランスジェニック哺乳動物、好ましくはトランスジェニック齧歯類、より好ましくはトランスジェニックマウスを提供する。本発明によると、その細胞は、トランスジェニック哺乳動物から分離され、神経および/または精神障害の治療に有用な候補化合物を特定するためのスクリーニング手段に用いるために培養される。好ましくは、トランスジェニック哺乳動物の中枢神経系(CNS)からその細胞は得られる。さらに、試験化合物をトランスジェニック哺乳動物に投与することができ、その化合物のレポーター遺伝子の発現調節能力を評価することができる。それによって、グルタミン酸トランスポータープロモーター(すなわち、GLT−1とGLAST)の活性の指標を提供する。
【0080】
別の実施例では、グルタミン酸トランスポーター部位および作動可能なようにグルタミン酸トランスポーターに結合されたレポーター遺伝子を含むBACクローン由来の核酸配列は、トランスジェニック哺乳動物およびその細胞のゲノムに組み入れられる。好ましくは、グルタミン酸トランスポータープロモーターは、GLT−1プロモーターおよびGLASTプロモーターから成るグループから選ばれる。レポーター遺伝子は、レポーター遺伝子マーカーを発現していない細胞からレポーター遺伝子マーカーを発現している細胞を識別するための検出可能マーカーとして機能する。また、ある場合には、レポーター遺伝子は、レポーター遺伝子マーカーを発現していない細胞からレポーター遺伝子マーカーを発現している細胞を分離するために用いることができる。
【0081】
本明細書中で使用するヌクレオチド配列(cDNA)は、公知であり(例えば、GenBank)、一般に利用可能である配列に基づき、標準の分子生物学技術(Maniatus et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Laboratory (1982); Ausubel et al., Current Protocols in Molecular Biology, John Wiley and Sons, Volume 2 (1991))を用いてクローニングされた。
【0082】
また、一般に当該技術分野で知られているように、コンストラクトは、例えば目標ゲノムへの導入を媒介する導入遺伝子、トランスジェニック哺乳動物の部位の発現を媒介する導入遺伝子、導入遺伝子のオン/オフ外部調節を媒介する導入遺伝子、および他の求められる特徴を媒介するための導入遺伝子に、(ともに融合することで)関係する選択された核酸領域を含んでもよい。
【0083】
もう一つの側面では、本発明は、導入遺伝子を含むDNAコンストラクトに関する。そのようなコンストラクトは発現ベクターであり、好ましくは、大量の導入遺伝子の調製を可能にするプラスミドである。そのようなプラスミドでは、導入遺伝子の両端は制限部位になっており、好ましくは、複製の開始点を含む。そのようなコンストラクトは、従来の組換え手法を用いて、レポーター遺伝子配列を含むベクターにプロモーター配列をクローニングするか、またはプロモーター配列を含むベクターにレポーター遺伝子をクローニングすることにより構築することができる。プロモーターをコードしているDNA配列は、そのプロモーターの誘導がレポーター遺伝子の発現を引き起こすような適切なフレームで、レポーター遺伝子配列と共にコンストラクトに組み入れられる。
【0084】
もう一つの側面では、本発明はゲノムが導入遺伝子を含む受精卵または胚幹細胞に関する。導入遺伝子を含むDNAコンストラクトは、次の文献に記載される標準手法によってトランスジェニック哺乳動物に組み込むことができる:
Hogan et al., “Manipulating the Mouse Embryo”, Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1986
Kraemer et al., “Genetic Manipulation of the Early Mammalian Embryo”, Cold Spring harbor Laboratory Press, 1985
Wagner et al., 米国特許第4,873,191号
Krimpenfort et al., 米国特許第5,175,384号
Krimpenfort et al., Biotechnology, 9: 88 (1991)
これらの全てが本明細書中に参考として援用される。
好ましくは、DNA断片はマウス、ウサギ、猫、犬またはブタ等の比較的大きな家畜等の非ヒト哺乳動物の受精卵の前核中にマイクロインジェクトされる。この注入後の胚を初代の哺乳動物が得られる擬似妊娠した雌の卵管または子宮に移植する。初代哺乳動物(F0)はトランスジェニック(ヘテロ)であり、1:1の割合でF1の非トランスジェニック哺乳動物とトランスジェニック哺乳動物を得るために同種の非トランスジェニック哺乳動物と交配することができる。トランスジェニック哺乳動物の一系統からのヘテロ哺乳動物は、2つの部位でヘテロである哺乳動物を生産するために、別の異なったトランスジェニック哺乳動物と交配できる。導入遺伝子を含むゲノムを有する哺乳動物はPCR法、サザンブロット法、または本明細書中で開示されたその他の方法等、標準の手法で特定される。
【0085】
F1またはF2世代のヘテロ個体は、レポーター遺伝子を発現する。従って、ヘテロのトランスジェニック哺乳動物は、プロモーター活性を調節できる候補薬物をスクリーニングするために有用である。また、そのようなトランスジェニック哺乳動物は、プロモーター活性化における発育変化の研究に有用である。
【0086】
もう一つの側面では、本発明は、グルタミン酸トランスポータープロモーター活性の調節に有効な化合物を特定するための方法を提供する。この方法は、候補化合物をトランスジェニック哺乳動物に投与すること、およびレポーター発現の表現型を測定することによってプロモーター活性をモニタリングすることを含む。好ましくは、脳内投与または静脈内投与もしくは腹腔内投与等の従来の注入法を用いて候補化合物を種々の投与量で別々のトランスジェニック哺乳動物に投与する。
【0087】
また本発明は、レポーター遺伝子に作動可能なように結合したグルタミン酸トランスポータープロモーターを含むゲノムを有するトランスジェニック哺乳動物から分離した細胞または細胞株に関する。そのような細胞は、当該技術分野で公知の通常の方法を用いることによりトランスジェニック哺乳動物の中枢神経系の適切な領域から得られる。本発明の細胞は、神経障害および/または精神障害の患者の治療に有用である。
【0088】
1つの実施例では、本発明のトランスジェニック哺乳動物から分離した細胞はmGLT1−BAC−eGFP−GRiP1、mGLAST−BAC−DsRed−GRiP1およびmGLT1−BAC−eGFP/mGLAST−BAC−DsRed−GRiP1から成るグループから選択される。
【0089】
もう一つの側面では、本発明は、トランスジェニック哺乳動物から細胞を得る方法を含む。標準の技術を用いることで、トランスジェニック哺乳動物から細胞を分離できる。例えば、薬物/代謝物選択法、蛍光標識細胞分取法、免疫的検出法「パニング法」または免疫組織染色法のいずれかの適切な検出法を使用することで、トランスジェニック哺乳動物から、またはトランスジェニック哺乳動物由来のサンプル中の細胞集団からその細胞を分離できる。そして、これらの細胞は神経障害および/または精神障害の患者を治療するための基になる細胞として増殖させることができる。
【0090】
1つの実施例では、トランスジェニック哺乳動物から分離した細胞は、哺乳動物の中枢神経系から得られる。好ましくは、中枢神経系から分離した細胞はアストロサイト、オリゴデンドロサイト、オリゴデンドロサイト前駆細胞、内皮細胞、ミクログリア、ニューロン、上衣細胞、放射グリア、バーグマングリアおよびタン細胞から成るグループから選択される。
【0091】
別の実施例では、中枢神経系組織試料以外のサンプルからトランスジェニック哺乳動物から分離した細胞を得る。分離細胞は、BAC導入遺伝子を含む細胞を選択するために、候補細胞のプールとして使用できる胚幹細胞、骨髄細胞、または他のタイプの細胞から成るグループから選択できる。BAC遺伝子はGLT−1部位とGLAST部位から成るグループから選択した部位を含むゲノムDNAを含む。好ましくは、その細胞には検出可能なレベルのレポーター遺伝子発現がある。
【0092】
本発明の非ヒトトランスジェニック哺乳動物および細胞は、神経障害および/または精神障害ための治療薬を特定する新規な診断標的と手段を提供する。本発明によって治療できる神経障害は、興奮毒性および/またはグルタミン酸神経伝達に関連していると報告された障害を含む。特に含まれているのは、運動ニューロン機能に影響する特定の神経障害である。
【0093】
記述のように、特に興味深い神経障害および/または精神障害とは、グルタミン酸等の興奮アミノ酸の異常な放出または除去に関連した障害を含む。いくつかの中枢神経系ニューロンタイプが、特に興奮毒性グルタミン酸によって悪影響を受ける。例えば、Choi, D.W.(1988, Neuron 1: 623)およびその引用文献を参照。特に好ましい神経障害としては、アルツハイマー病(AD)、ハンチントン病(HD)、パーキンソン病(PD)および最も好ましい筋萎縮性側索硬化症(ALS)を含む。
【0094】
さらに、本発明の方法と構成は学習や記憶等の脳機能に関連する正常なグルタミン酸神経伝達を調節する治療薬の選択を提供する。例えば、本明細書中に記載された方法と構成を用いて特定された治療薬は学習と記憶力を高めるために使用できる。
【0095】
プロモーター
蛋白質発現の転写調節は、一般的にDNAのほとんど定義されない領域である遺伝子プロモーターを用いた正の調節因子および負の調節因子の相互作用を通じて達成される。その領域とは必ずしも開始コドンの上流に限らない。プロモーターはゲノムDNAのひとつの領域であり、通常はmRNAの転写開始部位の5’側にある。プロモーターはmRNAの転写タイミングとレベルの制御に関与し、例えば、RNAポリメラーゼや他の転写因子等の細胞内タンパクが結合する部位を含む。技術的および実用的な問題があるため、通常、クローン化されたプロモーターは開始ATGからすぐ上流の短いDNA断片である。
【0096】
また、プロモーターは遺伝子内、遺伝子の前、および遺伝子の後の広いDNA領域を含むことができる。前後に全体の遺伝子と重要な長さのDNAを含むBAC DNAは、より正確に野性型プロモーター活性を複製できる。実際、プロモーター断片は常に自然なインビボ遺伝子制御を再現できるわけではない。
【0097】
プロモーター領域は付加的なプロモーター因子、すなわち、転写開始の頻度を制御するエンハンサーを含むことができる。通常、これらは開始部位の上流30−110bpの領域に位置するが、多くのプロモーターでは、また、開始部位下流の機能因子を含むことが示される。プロモーター因子の間の間隔は、しばしばフレキシブルなので、因子がお互いに逆転または移動したときでも、そのプロモーター機能は保持される。プロモーターによって、個々の因子は転写を活性化するために協力し、または独自に機能できる。
【0098】
プロモーターの活性を評価する方法は、レポーター遺伝子等の遺伝子産物にプロモーターを作動可能に結合することである。レポーター遺伝子は制御配列の機能を特定し、評価するのに用いられる。容易に検査ができるタンパクをコードするレポーター遺伝子は、当該技術分野では周知である。一般に、レポーター遺伝子とは、レシピエントの生体または組織で存在しない、または発現していない遺伝子であって、何らかの容易に検出が可能な特性、例えば、酵素活性によって発現が示されるタンパクをコードする遺伝子である。レポーター遺伝子の発現は、レシピエント細胞にDNAを導入後、適切な時期に検出される。
【0099】
本明細書中の他の場所で議論するように、適切なレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ、ベータ・ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ、分泌型アルカリホスファターゼ、または蛍光タンパクをコードする遺伝子を含む(例えば、Ui-Tei et al., 2000 FEBS Lett. 479:79-82)。一般に、プロモーター領域はレポーター遺伝子に結合し、プロモーター活性とプロモーター駆動の転写を調節する薬物の能力を評価するのに用いられる。
【0100】
本発明の1つの側面は、所望のプロモーター配列を含む細菌人工染色体(BAC)クローンに関する。BAC DNAは、全遺伝子およびより正確な野性型プロモーターを供与できる付加的な配列を含むので、BACはプロモーター配列の供給源として以上に有利な点がある。BACはホスト内で安定であるので、扱いやすい。遺伝子の機能解析を支持して、BACは異種のDNAセグメントを用いてトランスジェニック動物を作製するのに非常に有用である。
【0101】
単離核酸分子
本発明の1つの側面は、グルタミン酸トランスポーターおよびレポーター遺伝子またはその生物活性部位を含むBACを有する単離核酸分子に関する。同時にBACは、核酸分子および核酸断片を含むグルタミン酸トランスポーターを特定するためのハイブリダイゼーションプローブとして使用するのに十分な核酸断片も含む。また、本発明はグルタミン酸トランスポータープロモーターおよびレポータ遺伝子の増幅/変異のためのPCRプライマーをも含む。
【0102】
一般に、広く認められた操作を用いることによって、本発明の最適な実施を達成できる。例えば、伝令RNAを単離するための技術、cDNAライブラリーを作成およびスクリーニングするための方法、核酸を精製、解析する方法、組み換えベクターDNAを作製する方法、制限酵素でDNAを切断する方法、DNAを結合する方法、安定的、一時的な手法によって宿主細胞にDNAを導入する方法、宿主細胞を培養する方法、ポリペプチドを単離、精製して、抗体を作製する方法が一般的にこの分野で知られている。上記Sambrook et al.参照。
【0103】
標準的な分子生物学技術および本明細書中に提供された配列情報を使用することで、本発明に用いられる核酸分子は単離できる。プロモーター領域に対応するGLT−1またはGLASTの核酸配列の全てまたは一部を使用して、標準のハイブリダイゼーションとクローン技術を用いて核酸分子を単離できる(上記Sambrook et al.参照)。
【0104】
さらに、GLT−1またはGLASTプロモーター領域の全てまたは一部を網羅する核酸分子は、GLT−1またはGLASTプロモーター領域の配列に基づいてデザインされた合成オリゴヌクレオチドプライマーを用いたポリメラーゼ連鎖反応(PCR法)によって得られる。
【0105】
本発明に使用される核酸は、標準のPCR増幅技術に従って、テンプレートと適切なプライマーとしてcDNA、mRNAあるいはゲノムDNAを使用することによって増幅できる。そのように増幅された核酸は、適切なベクターにクローン化し、DNA配列分析によって特徴付けることができる。その上、標準の合成技術、例えば、自動DNA合成装置を用いることによってGLT−1またはGLASTヌクレオチド配列に対応するオリゴヌクレオチドを作製することができる。
【0106】
また別の実施例では、本発明に使用される単離核酸分子は、GLT−1またはGLASTのヌクレオチド配列の相補鎖、またはこれらのヌクレオチド配列の一部を含む。GLT−1またはGLASTのヌクレオチド配列に相補的な核酸分子は、GLT−1またはGLASTのヌクレオチド配列にハイブリダイゼーションし、その結果、安定な二重鎖を形成するようなGLT−1またはGLASTのヌクレオチド配列を十分相補するものである。「相補的である」という用語または類似の用語は、例えば、二重鎖DNA分子間、オリゴヌクレオチドプライマーと配列決定や増幅のために必要な一本鎖核酸上のプライマー結合部位間のようなヌクレオチドまたは核酸の間でのハイブルダイゼーションまたは塩基対形成について言及する。一般に、補足的なヌクレオチドは、AとT(もしくはAとU)またはCとGである。最適に並べられて対比されたとき、適切にヌクレオチドを挿入または除去された一本鎖ヌクレオチドが、少なくとも約95%、通常は少なくとも約98%、好ましくは約99〜100%、対を形成している場合に、2つの一本鎖RNA分子またはDNA分子が実質的に相補的であると言われる。相補的なポリヌクレオチド配列は、周知のコンピュータアルゴリズムとソフトウェアの利用を含むさまざまなアプローチによって同定できる。
【0107】
また別の実施例では、本発明に用いる単離核酸分子は、GLT−1またはGLASTの全長ヌクレオチド配列と少なくとも約50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%または99.9%以上の同一のヌクレオチド配列またはこれらの配列の一部または相補鎖を含む。1つの実施例では、本発明に用いる核酸分子は、GLT−1またはGLASTの一部、すべてまたはその相補鎖を含むヌクレオチド配列を含んでいる。そして、少なくとも長さとしては25、30、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、1000、1050、1100、1150、1200、1250、1300、1350、1400、1250、1300、1350、1400、1450、1500、1550、1600、1650、1700、1750、1800、1850、1900、1950、1994、2000、2050、2073、2100、2150、2200、2250、2300、2350、2400、2450、2500、2550、2600、2650、2700、2750、2800、2850、2900、2950、3000、3050、3100、3150、3200、3250、3300、3350、3400、3441、3450、3500、3550、3600、3650、3700、3750、3800、3841、3850、3900、3950、4000、4050、4100、4150、4200、4250、4300、4350、4400、4450、4500、4550、4600、4650以上(または同じくらいの長さ)のヌクレオチド(例えば、隣接のヌクレオチド)となる。
【0108】
二つの核酸配列またはアミノ酸配列の同一性パーセントを調べるために、配列は最適の比較目的用に並べられる(例えば、最適なアライメント(配列比較)のために、最初と二番目のアミノ酸または核酸配列のひとつまたは両方に隙間を入れ、配列を比較するために非相同性配列を無視できるようにする)。好ましい実施例では、比較のために並べられた参照配列の長さは、その参照配列の少なくとも30%、好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%、さらに好ましくは少なくとも60%、最も好ましくは、少なくとも70%、80%または90%である(例えば、100ヌクレオチドを有するヌクレオチド配列に2番目の配列を並べるときには、少なくとも30、好ましくは少なくとも40、より好ましくは少なくとも50、さらに好ましくは少なくとも60、および最も好ましくは少なくとも70、80または90のヌクレオチドを並べる)。そして、アミノ酸残基またはヌクレオチドと対応するアミノ酸の位置もしくはヌクレオチドの位置が比較される。1つ目配列の位置が2番目の配列に対応する位置と同じアミノ酸残基またはヌクレオチドで占められているとき、その分子はその位置において同一である(本明細書中で用いられるアミノ酸または核酸が「同一である」とはアミノ酸または核酸が「相同である」と同等である)。2つの配列間の同一性パーセントとは、ギャップの数、および2つの配列を最適に比較するために導入されるそれぞれに必要なギャップの長さを考慮に入れ、配列によって分けられた同じ位置の数のことである。
【0109】
数学的アルゴリズムを用いることで配列の比較および2つの配列間の同一性パーセントを決定することが出来る。好適な実施例では、2つのアミノ酸配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(Genetics Computer Groupを通してオンラインで利用可能)にGAPプログラムを組み入れたNeedlemanとWunschのアルゴリズム(1970, J. Mol. Biol. 48:444-453)およびBlossum 62マトリクスまたはPAM250マトリクスのいずれか、ならびに16、14、12、10、8、6、または4のギャップウエイトおよび1、2、3、4、5、または6の長さウエイトを用いて決定される。さらに別の好適な実施例では、2つのヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、GCGソフトウェアパッケージ(Genetics Computer Groupを通してオンラインで利用可能)とGAPプログラムおよびNWSgapdna.CMPマトリクスならびに40、50、60、70、または80のギャップウエイトおよび1、2、3、4、5、または6の長さウエイトを使用して決定される。GAPプログラムと同時に使用される好ましいパラメータの非限定的な例は、12のギャップペナルティ、4のギャップ伸長ペナルティおよび5のフレームシフトギャップペナルティを用いたBlosum 62スコアマトリクスを含む。
【0110】
別の実施例では、2つのアミノ酸またはヌクレオチド配列間の同一性パーセントは、PAM120ウエイト残基表、12のギャップ長ペナルティおよび4のギャップペナルティを用いてALIGNプログラム(バージョン2.0またはバージョン2.0U)を組み入れたMeyersとMillerのアルゴリズムを用いて決定する(Comput.Appl.Biosci. 4:11-17 (1988))。
【0111】
さらに本発明に用いる核酸とタンパク配列は、例えば、他のファミリーメンバーや関連配列を同定するために公共のデータベースで検索を実行する「問い合わせ配列」として使用できる。NBLASTおよびXBLASTプログラム(バージョン2.0)(Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-10.)を使用することで、そのような検索を実施できる。本発明のGLT−1またはGLAST核酸分子の相同ヌクレオチド配列を得るために、NBLASTプログラム、スコア=100、ワード長=12でBLASTヌクレオチド検索が実施できる。本発明に使用されるグルタミン酸輸送体タンパク分子への相同のアミノ酸配列を得るために、XBLASTプログラム、スコア=50、ワード長=3でBLASTタンパク検索が実施できる。比較を目的としてギャップアライメントを得るためには、ギャップBLASTが利用できる(Altschul et al. 1997, Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載)。BLASTとギャップBLASTプログラムを利用するとき、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTおよびNBLAST)のデフォルトパラメータを使用できる。National Center for Biotechnology Informationのウェブサイトを参照。
【0112】
本発明に使用される核酸分子は、GLT−1またはGLASTプロモーター領域の核酸配列の一部分しか含むことができない。通常、プローブ/プライマー(例えば、オリゴヌクレオチド)は十分に精製されたオリゴヌクレオチドを含む。通常、オリゴヌクレオチドはGLT−1および/またはGLASTプロモーター領域のセンス配列の少なくとも約12、15、好ましくは約20または25、より好ましくは30、35、40、45、50、55、60、65、または75の連続したヌクレオチドまたはその相補配列に対して厳しい条件下でハイブリダイズするヌクレオチド配列の領域を含む。
【0113】
例となるプローブまたはプライマーは、少なくとも12もしくは15(もしくは同等)、または20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75もしくはそれ以上の長さのヌクレオチドおよび/または本明細書中に記載された単離核酸分子の連続ヌクレオチドを含む。また、本発明の範囲の中に含まれるのは、本明細書中に記載された単離核酸分子の連続ヌクレオチドを含むプローブまたはプライマーであるが、そのプローブまたはプライマー配列中の1、2、3、4、5、6、7、8、9または10個の塩基が異なっている。GLT−1またはGLASTヌクレオチド配列に基づくプローブは、ゲノム配列を検出(例えば、特異性の検出)するために使用できる。好適な実施例では、プローブはさらに標識基を含む。例えば、その標識基は、放射性同位元素、蛍光化合物、酵素、または補酵素であってもよい。別の実施例では、プライマーの1セットは、例えば、GLT−1またはGLAST配列の選択的な領域、例えば、本明細書中に記載されたドメイン、領域、部位またはその他の配列を増幅するためのPCR法に用いられるのに適したプライマーを提供する。プライマーの長さは、少なくとも5、10または50塩基対であり、100または200未満である。プライマーは、本明細書中に開示された配列または自然発生変異型配列との比較において同一であるか、または1、2、3、4、5、6、7、8、9または10塩基対以下の違いであるべきである。そのようなプローブは、GLT−1またはGLASTによって発現がコントロールされているタンパクを誤発現している細胞や組織を特定するための診断テストキットの一部として利用できる。例えば、対象から取得した細胞サンプル中のプロモーター活性レベルを測定することによって、ゲノムプロモーターが変異しているかまたは欠失しているかどうかを検出できる。
【0114】
別の実施例では、本発明に用いる核酸分子は、本明細書中に開示された配列の変異体を含むことができる。核酸変異体は、対立変異体(同じ部位)、ホモログ(異なった部位)およびオルソログ(異なった生物、例えば、ラット)等の自然に起こるもの、または非自然発生的なものである。非自然発生変異体はポリヌクレオチド、細胞または生体に応用される変異誘発技術で作製することができる。変異体はヌクレオチド置換、欠失、反転、および挿入を含むことができる。
【0115】
本明細書中に使用される用語「厳密な条件下でハイブリダイゼーションする」は、相互にハイブリダイゼーションするヌクレオチド配列に対し、かなりの同一性または相同性のあるヌクレオチド配列のもとでハイブリダイゼーションおよび洗浄するための条件について説明することを意図する。その条件は、ハイブリダイゼーションするヌクレオチドともう一方のヌクレオチドとについて、好ましくは70%以上、より好ましくは約80%以上、さらに好ましくは約85%または90%以上が同一の配列であることである。この厳密な条件は公知であり、Current Protocols in Molecular Biology, Ausubel et al., eds., John Wiley & Sons, Inc. (1995)のセクション2、4および6に見られる。さらに、Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Sambrook et al., Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989)の7、9および11章でも見られる。厳密なハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な実施例は、約65〜70℃で、4×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(SSC)溶液中(または約42〜50℃で、50%ホルムアルデヒドを含む4×SSCの変法ハイブリダイゼーション)でハイブリダイゼーションした後、約65〜70℃で、1×SSCで一回以上洗浄する。また、より厳密なハイブリダイゼーション条件の非限定的な実施例は、約65〜70℃で1×SSC(または約42〜50℃で、50%ホルムアルデヒドを含む1×SSCの変法ハイブリダイゼーション)でハイブリダイゼーションした後、約65〜70℃で、0.3×SSCで一回以上洗浄する。また、厳密さを低下させたハイブリダイゼーション条件の非限定的な実施例は、約50〜60℃で4×SSC(または約40〜45℃で50%ホルムアルデヒドを含む6×SSCの変法ハイブリダイゼーション)でハイブリダイゼーションした後、約50〜60℃で2×SSCで一回以上洗浄する。上に列挙した値の間の範囲、例えば65〜70℃または42〜50℃もまた、本発明は含むことを意図する。SSPE(1×SSPEは、0.15M NaCl,10mM NaH2PO4,1.25mM EDTA,pH7.4)は、ハイブリダイゼーションバッファーおよび洗浄バッファーにおいてSSC(1×SSCは、0.15M NaCl,15mMクエン酸ナトリウム)に置き換えることができる。その場合、ハイブリダイゼーション後の洗浄は15分で終了する。長さが50塩基対未満でハイブリッド形成が見込まれるハイブリダイゼーション温度は、ハイブリッド形成の融解温度(Tm)よりも5〜10℃低くするべきである。そのTmは以下の式で決定される。長さ18塩基対未満のハイブリダイゼーションのためには、Tm(℃)=2×(A+T塩基数)+4×(G+C塩基数)となる。長さが18〜49塩基対では、Tm(℃)=81.5+16.6(log10[Na+])+0.41(%G+C)−(600/N),式中、Nはハイブリッドする塩基の数、[Na+]はハイブリダイゼーションバッファー中のナトリウムイオンの濃度である(1×SSCの[Na+]は、0.165M)。核酸分子のニトロセルロース膜またはナイロン膜等の膜への非特異的なハイブリダイゼーションを減らすために、ハイブリダイゼーションバッファーおよび/または洗浄バッファーに付加的な薬物を加えることは当業者に認識されている。その薬物は、これには限定されないが、ブロッキング薬物(例えば、BSA、サケまたはニシン精子キャリアDNA)、界面活性剤(例えば、SDS)、キレート剤(例えば、EDTA)、Ficoll、PVP等を含む。ナイロン膜を使用したときには、特に、厳密なハイブリダイゼーション条件の好ましい非限定的な実施例は、約65℃で、0.25〜0.5M NaH2PO4,7%SDSでハイブリダイゼーションした後、約65℃で0.02M NaH2PO4,1%SDS(Church and Gilbert (1984) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:1991-1995参照)または0.2×SSC,1%SDSで1回以上洗浄する。
【0116】
好ましくは、本発明に用いられる、GLT−1またはGLASTの配列と厳密な条件下でハイブリダイズする単離核酸分子は、自然発生する核酸分子に対応する。本明細書中に用いられる「自然発生」核酸分子とは、自然に発生するヌクレオチド配列を有するRNAまたはDNA分子をいう。
【0117】
BAC、組み換え発現ベクター、宿主細胞
本発明のもう一つの側面は、ベクターに関する。例えば、GLT−1またはGLAST核酸分子を含む組み換え発現ベクターである。ベクターとは、それが結合した別の核酸を輸送できる核酸分子をいう。1つのタイプのベクターはプラスミドであって、付加されるDNA断片を連結することができる円形の二本鎖のDNAループをいう。別のタイプのベクターはウイルスベクターであり、付加されるDNA断片をウイルスゲノムに連結することができる。
【0118】
本発明に用いるための好ましいベクターのタイプは、細菌人工染色体(BAC)である。BACはバクテリアE.coliで見つけられた自然発生のF因子プラスミドに基づいたベクターであり、E.coli細胞中でDNA断片(インサートサイズ100kb〜300kb:平均150kb)をクローン化するために使用される。BACはゲノムライブラリーを作成するベクターとしてしばしば使用される。
【0119】
BACには、大きなDNAをクローン化する従来のシステムである酵母人工染色体(YAC)に較べていくつかの利点がある。これらは大きな分子を運搬する能力(100〜300kb)、高いクローン安定性、低いキメラ化率およびそれらの扱いやすさを含んでいる。BACは種々のゲノムマッピングおよび配列解析のために保管されたゲノムDNAの主要な源として機能した。実際に、物理的なコンティグは現在、他のさまざまな実験用生物と同様に全ヒトゲノムとマウスゲノムに利用可能である。BACシステムを使用する利点は、BAC DNAが、対応する野生型遺伝子の正確な複製を提供できる付加的な配列を加えた全体の遺伝子を含んでいることである。例えば、BACクローンから得られたグルタミン酸トランスポータープロモーターは、対応する野性型プロモーター活性のより優れた発現量を提供する。
【0120】
あるベクターは、それらが導入される宿主細胞の中で自律的に複製ができる(例えば、バクテリアの複製起点を持つバクテリアベクターおよびエピソーム型の哺乳動物ベクター)。他のベクター(例えば、非エピソーム型の哺乳動物ベクター)は、宿主細胞への導入のときに宿主細胞のゲノムに組み込まれる。その結果、宿主のゲノムと共に複製される。そのうえ、あるベクターは、それらが作動可能に結合される遺伝子の発現を指示できる(すなわち、発現ベクター)。一般に、遺伝子組み換え技術で用いられる発現ベクターはしばしばプラスミドの型をしている。本明細書中では、プラスミドが最も一般的に用いられる型のベクターであるので、「プラスミド」と「ベクター」は互換性を持って使用できる。しかしながら、本発明は同等の機能を果たすウイルスベクター(例えば、複製機能を欠損するレトロウイルス、アデノウィルスおよびアデノ関連ウイルス)等の他の型の発現ベクターを含むことを意図する。
【0121】
本発明の組み換え発現ベクターは、宿主細胞中での核酸発現に適した型の本発明の核酸を含み、そのことはその組み換え発現ベクターがその発現のために宿主細胞に基づいて選択された1つ以上の制御配列を含むことを意味する。その制御配列は発現させるべき核酸配列に作動可能に結合している。組み換え発現ベクターおいて、「作動可能に結合する」とは、関連するヌクレオチド配列に、そのヌクレオチド配列の発現を可能にする(例えば、インビトロ転写/翻訳システム中で、またはベクターが宿主細胞に導入されるときの宿主細胞中で)方法で、制御配列に結合することを意味することを意図する。用語「制御配列」は、プロモーター、エンハンサーおよび他の発現コントロールエレメント(例えば、ポリアデニル化シグナル)を含むことを意図する。例えば、そのような制御配列はGoeddel (1990) Methods Enzymol. 185:3-7に記載されている。制御配列は、多くのタイプの宿主細胞でヌクレオチド配列を構成的に発現するよう指示するもの、およびある宿主細胞(例えば、組織特異的制御配列)のみで、ヌクレオチド配列の発現を指示するものを含む。好適な実施例では、本発明の発現ベクター中の制御配列は本発明のGLT−1またはGLASTプロモーターから得られ、本明細書中の他の場所で記載されるように発現される核酸配列はレポーター遺伝子である。発現ベクターのデザインが形質転換される宿主細胞の選択、求められるタンパク発現の程度等の因子に依存することは当業者によって理解される。本発明の発現ベクターは宿主細胞に導入され、その結果、本明細書中に記載される核酸によってコードされた融合蛋白質または融合ペプチドを含むタンパクやペプチドを産生する。
【0122】
本明細書中で用いられる「レポーター」または「レポーター遺伝子」は、検出可能なマーカーをコードする核酸分子を示す。好ましいレポーター遺伝子は、ルシフェラーゼ(例えば、ホタルルシフェラーゼまたはウミシイタケルシフェラーゼ)、β-ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)および蛍光タンパク(例えば、緑色蛍光タンパク、赤色蛍光タンパク(DsRed)、黄色蛍光タンパク、青色蛍光タンパク、青緑色蛍光タンパクまたは強化されたGFP(eGFP)のような強化バリアントを含めたこれらのバリアントを含む。レポーター遺伝子はレポーターアッセイで検出可能でなければならない。レポーターアッセイは、レポーターmRNAのレベル、レポータータンパクのレベル、またはレポータータンパク活性量の測定を含む多くの手段によってレポーター遺伝子発現または活性のレベルを測定できる。
【0123】
mRNAレベルを測定するための方法は当該技術分野で周知であり、これには限定されないが、ノザンブロット法、逆転写PCR法、プライマー伸長法、およびヌクレアーゼプロテクションアッセイを含む。レポータータンパクレベルの測定方法は、また当該技術分野で周知であり、これには限定されないが、ウエスタンブロット法、ELISA、およびRIAアッセイを含む。さらに、レポーター活性測定は当該技術分野で周知であり、ルシフェラーゼアッセイ、β-ガラクトシダーゼおよびクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)アッセイを含む。蛍光タンパク活性は蛍光タンパクの蛍光を検出することにより測定できる。したがって、本明細書中の他の場所に記載されたレポーター活性を検出するあらゆる方法を使用することによって、GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性を測定できる。
【0124】
好ましくは、本発明の組み換え発現ベクターは、真核生物細胞(例えば、哺乳動物細胞)での発現のために設計される。あるいはまた、組み換え発現ベクターはインビトロで転写および翻訳できる。
【0125】
本発明のもう一つの側面は、本発明のBAC−レポーター核酸分子を導入する宿主細胞に関する。例えば、ベクター(例えば、組み換え発現ベクター)内のGLT−1もしくはGLAST BAC−レポーター核酸分子または宿主細胞のゲノムの特異的部位に相同的に組み込まれる配列を含むGLT−1、GLAST BAC−レポーター核酸分子である。用語「宿主細胞」および「組換え型宿主細胞」は本明細書中で互換性を持って使用される。この用語は特定の対象の細胞を言うだけではなく、その細胞の子孫または潜在的能力のある子孫をも言うと理解される。ある修飾が変異または環境的影響のどちらかによって後世で起こるかもしれないので、その子孫は事実上親細胞と同一ではないかもしれないが、それでも本明細書中に用いられる用語の範囲の中に含まれる。
【0126】
宿主細胞は原核細胞または真核細胞である。例えば、E.coli等のバクテリア細胞、昆虫細胞、酵母または哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、COS細胞(例えば、COS7細胞)、C6神経グリオーマ細胞、HEK293T細胞またはニューロン等)中で、GLT−1またはGLAST BAC−レポーター核酸分子を含むベクターは増殖しおよび/または発現することができる。他の適した宿主細胞は当業者に知られている。
【0127】
従来のトランスフォーメーションまたはトランスフェクション技術で原核生物または真核細胞にベクターDNAを挿入できる。本明細書中に用いられる用語「トランスフォーメーション」および「トランスフェクション」は、リン酸カルシウムもしくは塩化カルシウム共沈、DEAEデキストランを介するトランスフェクション、リポフェクションまたはエレクトロポレーションを含む、外来核酸(例えば、DNA)を宿主細胞に導入するためのさまざまな公知技術を示すことを意図する。トランスフォーメーションまたはトランスフェクションのための適当な方法はSambrookらのマニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual. 2nd ed., Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989)および他の研究室のマニュアルで見られる。
【0128】
哺乳動物細胞の安定的なトランスフェクションのためには、使用される発現ベクターとトランスフェクション技術に依存して、少量の細胞のみが外来DNAをゲノムに導入することができることが知られている。これらの導入のための材料を特定および選択するために、通常、選択マーカ(例えば、抗生物質に対する抵抗性)をコードする遺伝子を、対象となる遺伝子に沿った宿主細胞に導入する。好ましい選択マーカーは、G418、ハイグロマイシンおよびメトトレキサート等の薬物に対する耐性を与えるものを含む。選択マーカーをコードする核酸は、GLT−1またはGLAST BAC−レポーター核酸分子をコードする同じベクターで、またはそれぞれ別のベクターで、宿主細胞に導入することができる。導入核酸をトランスフェクトされた細胞は、薬剤選択によって分離できる(例えば、選択マーカー遺伝子を組み込まれた細胞が生き残り、他の細胞が死ぬ)。
【0129】
原核宿主培養細胞または真核宿主培養細胞等の本発明の宿主細胞は、作動可能にGLT−1またはGLASTプロモーターに結合された核酸分子によってコードされたmRNAまたはタンパク(例えば、レポーターmRNAまたはレポータータンパク)を産生するために用いられる。従って、本発明はさらに本発明の宿主細胞を用いたmRNAまたはタンパクを産生するための方法を提供する。1つの実施例では、その方法は作動的に結合した核酸分子によってコードされたmRNAおよび/またはタンパクが産生されるように適した培養液で本発明の宿主細胞を培養することを含む。別の実施例では、その方法は、さらに培養液からのmRNAおよび/またはタンパクまたは宿主細胞を分離すること含む。
【0130】
トランスジェニック哺乳動物とその由来細胞
また、本発明の宿主細胞は、非ヒトトランスジェニック哺乳動物を生産するのに使用できる。例えば、1つの実施例では、本発明の宿主細胞は、GLT−1またはGLAST BAC−レポーター核酸分子配列が導入された受精卵母細胞または胚幹細胞である。そして、その宿主細胞は、外因性のGLT−1またはGLAST BAC−レポーター配列をゲノムの中に導入された非ヒトトランスジェニック哺乳動物または内因性のプロモーター配列を変更した、または変更していない相同組み換え型の哺乳動物の作成に使用できる。その哺乳動物は所望のプロモーター機能および/またはプロモーター活性の研究、並びにそのプロモーター(すなわち、GLT−1およびGLAST)活性の調節物質の特定および/または評価に有用である。本明細書中に用いられる「トランスジェニック哺乳動物」は非ヒト哺乳動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはマウスまたはラット等の齧歯動物である。それらは1つ以上の細胞が導入遺伝子を含んでいる。トランスジェニック哺乳動物のその他の実施例は、非ヒト霊長類、ヒツジ、イヌ、ウシ、ヤギ、トリ、両生類、等を含んでいる。導入遺伝子は、発生段階のトランスジェニック哺乳動物からの細胞のゲノムに挿された、および成動物のゲノムに残る外因性のDNAであり、その結果、トランスジェニック哺乳動物の1つ以上の細胞型または組織において、コード化された遺伝子産物の発現を指示する。
【0131】
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、GLT−1またはGLAST BAC−レポーター核酸分子を、例えば、マイクロインジェクション法、レトロウイルス感染によって受精卵母細胞の雄性前核に導入し、偽妊娠させた雌の里親哺乳動物内で受精卵母細胞を発生させることによって作製できる。胚の操作およびマイクロインジェクション法でトランスジェニック哺乳動物、特にマウス等の哺乳動物を生産する方法は当該技術分野では一般的になっており、例えば、Lederらの米国特許第4,736,866号および第4,870,009号、Wagnerらの米国特許第4,873,191号およびHogan,BのManipulating the Mouse Embryo(Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)に記載されている。同様の方法は、他のトランスジェニック哺乳動物の生産に使用される。トランスジェニック創始哺乳動物は、そのゲノム中のレポーター導入遺伝子の存在および/またはその哺乳動物の組織または細胞中でのレポーター遺伝子の発現に基づいて特定できる。そして、トランスジェニック創始哺乳動物は、導入遺伝子を運ぶ追加哺乳動物の繁殖に使用できる。さらに、GLT−1またはGLAST BAC−レポーターを含む導入遺伝子を運ぶトランスジェニック哺乳動物は、他の導入遺伝子を運ぶ他のトランスジェニック哺乳動物を繁殖することができる。
【0132】
好適な実施例では、本発明のトランスジェニック哺乳動物は、GLT−1またはGLAST部位を含む細菌人工染色体(BAC)を用いて生産される。好適な実施例では、そのGLT−1またはGLAST遺伝子座は、それが挿入されているトランスジェニック哺乳動物と同じ遺伝子座から得られる。別の好適な実施例では、GLT−1またはGLAST部位を含むBACは、GLT−1またはGLASTプロモーターの制御下にあるレポーター遺伝子を含んでいることから、これらは修飾されている。BACを修飾する方法の例は、Gong,S.らによって説明されており(Gong, S. et al., 2002 Genome Res. 12:1992-1998)、また、本明細書中の実施例の中の別の場所にも記載されている。トランスジェニックレポーターマウスを生産するために、修飾されたBACは最終的に直線状にされ、マウスの前核に注入される。
【0133】
GLT−1とGLAST遺伝子座を含むBACクローンは、GLT−1またはGLAST核酸プローブ(例えば、GLT−1またはGLAST cDNAプローブ)でBACライブラリーをスクリーニングすることによって特定できる。多くのBACライブラリーは、当該技術分野で公知であり、Children's Hospital Oakland Research Institute(CHORI)のBACPAC Resource Center(BPRC)(747 52nd St. Oakland, Ca. 94609, USA)を通して利用可能である。好適な実施例では、BACクローンRPCI−23−361H22(また、RP23−361H22とよばれる)はGLT−1遺伝子導入マウスの構築に使用される。さらに好適な実施例では、BACクローンRPCI−24−287G11(また、RP24−287G11とよばれる)はGLAST遺伝子導入マウスの構築に使用される。マウス15番染色体上にGLAST BAC配列があり、GLASTは、Build34.1で、マウス15番染色体上、遺伝子座8425087−8425252のslc1a−ru3遺伝子である。マウス2番染色体上にGLT−1 BAC配列があり、GLT−1はBuild34.1で、マウス2番染色体上、遺伝子座102411193−102482861のslc1a2遺伝子である。
【0134】
レポーター遺伝子は、GLT−1またはGLAST cDNA配列をレポーター遺伝子に隣接させ、BAC内でGLT−1またはGLAST遺伝子座にレポーター遺伝子を挿入するための相同組み替えを用いることによって、GLT−1またはGLASTプロモーターを作動的に結合できる。
【0135】
BAC修飾は、最初は、相同組み替えのための欠損を補足できるひとつまたは複数の酵素を宿主細胞へ導入することによる相同組み替えの能力の回復、およびシャトルベクターが相同組み替えによってBACへ相互組み込みされる細胞を特定するための複製シャトルベクターの自由な選択を含む。
【0136】
本発明の側面のひとつは、以下の2ステップの相同組み替え過程を用いるBAC修飾システムを含む:BACへシャトルベクターを完全に挿入する共挿入ステップおよびシャトルベクターの除去とそれに続く欠失およびBAC上の選択部位へ意図した修飾を正確に配置する解決ステップ。この2ステップ修飾プロトコールは、どんな不要の配列も後に残さないでBACへの正確な修飾をもたらすのでトランスジェニック研究のために非常に望ましい。
【0137】
第1ステップでは、組み換えカセットを運ぶシャトルベクターは、ホストのBACに電気穿孔処理され、正しい相互組み込みが選択される。相互組み込みは当該技術分野で公知の方法、例えば、コロニーPCR法を使用することで特定され、その陽性クローンはサザンブロット解析で確認できる。第2ステップでは、決定されたクローンがコロニーPCR法等の公知の方法で選択およびテストされ、陽性クローンはサザンブロット解析で確認できる。修飾されたBACは2または3の異なった制限酵素による切断でフィンガープリントされ、それに再構成または除去がないことを確かめるために野生型BACのものと比較される。
【0138】
また、本明細書中に記載された非ヒトトランスジェニック哺乳動物のクローンは、Wilmut et al. (1997, Nature 385:810-813)並びに国際公開WO97/07668およびWO97/07669に記載される方法によって生産できる。要約すると、トランスジェニック哺乳動物から細胞、例えば体細胞を分離し、増殖周期を出て、G0フェーズに入れるように誘導できる。次に、その静止状態の細胞を、静止状態の細胞を分離したのと同じ種の哺乳動物の除核卵母細胞に、例えば電気パルスを用いて融合させることができる。次に、再構成された卵母細胞を桑実または胚細胞に発生させるために培養し、そして、偽妊娠させた雌の里親哺乳動物に移す。この雌の里親哺乳動物から生まれた子は細胞、例えば体細胞が分離された哺乳動物のクローンになる。
【0139】
また、本発明のトランスジェニック哺乳動物および相同組換え型の哺乳動物は、GLT−1および/またはGLAST BAC−レポーター導入遺伝子を含む安定性細胞株を生産するのに使用できる。その細胞株は、一過性のトランスフェクションで起こるような導入遺伝子の過剰発現がなく、したがって、導入遺伝子の自然な細胞環境下をより厳密に反映できるように作られるので、有用である。その細胞株は、トランスジェニック哺乳動物または相同組換え型の哺乳動物(例えば、マウス)から所望の細胞(例えば、繊維芽細胞またはアストログリア細胞)を分離し、標準方法を用いてそれらを培養することで作製できる。いくつかの実施例では、初代培養細胞(すなわち、非不死化細胞)が好ましく、またはその細胞は培養中に永久に増殖するために不死化(例えば、SV40ラージT抗原等の遺伝子を加えることにより)する。
【0140】
トランスジェニック哺乳動物およびその由来細胞
遺伝子導入マウスは生体内の遺伝学的研究のための重要なツールである。BACに挿入されたゲノムDNAは十分に大きいので、BACは全転写単位とその関連制御領域を運ぶ。したがって、BACは、従来のトランスジェニックアプローチを用いることでは達成できなかった多くの機能研究に使用できる。BACコンストラクトを操作する能力は、細胞標識および単離研究と同様に遺伝子発現および機能研究のための戦略を提供する。
【0141】
より多くの実際のプロモーターDNAを含むこと以外に、BACレポーターマウスは低いプロモーター活性化レベルを有する細胞を可視化する機会を提供する。その細胞は、多くの場合、in situハイブリダイゼーションまたはタンパクエピトープに対する抗体を用いた免疫組織染色を用いて検出される。例えば、GLT−1/EAAT2は、脳組織(総タンパク量の約1%)で非常に高い発現レベルを有しており、標準の免疫組織染色法を用いれば強い神経網染色を示す。したがって、トランスポーターが重要な役割を果たしている細胞の個々の発現パターンを区別することは難しい。
【0142】
これらのマウスが提供する別の利点は、蛍光レポーターおよび電気生理学を使用する生組織を研究ための能力があることである。すなわち、機能的発現レベルを研究するために「パッチクランプ」特異的細胞を特定することが可能である。例えば、シナプス性および周辺の両方のグルタミン酸の取り込みに対するGLASTトランスポーターの相対的寄与を調べることができる。さらに、異なった色のレポーター(GLT−1プロモーターレポーターはeGFP;GLASTレポーターはDsRed)マウスが構築されるので、特定の細胞中の発現を比較することが可能である。その上、相対的なeGFPレベルがプロモーターレポーターマウスの相対的プロモーター活性化を表示することが示されたので、GLT−1 BACプロモーターレポーターは、グルタミン酸に関連する薬理学的活性化剤および阻害剤を特定し、開発するために有用である。
【0143】
本発明は、GLT−1および/またはGLASTプロモーターの調節下でレポーター遺伝子を発現する生殖細胞や体細胞を有するトランスジェニック非ヒト哺乳動物を含む。GLT−1および/またはGLASTプロモーターが活性化している細胞は、当業者に公知の標準検出技術または本明細書の別の場所に開示されている技術によって測定できるレポーター遺伝子の発現によって容易に検出できる。本発明は、さらに動作可能にグルタミン酸トランスポータープロモーターに結合されたレポーター遺伝子を運び、生存能力のあるトランスジェニック哺乳動物に発生できる非ヒト哺乳動物の胚を含む。そのトランスジェニック哺乳動物の子孫は、有性生殖による繁殖後にレポーター遺伝子を運ぶ。
【0144】
本発明のトランスジェニック非ヒト哺乳動物は、活性のあるGLT−1および/またはGLASTプロモーターを含む組織における発光によって特徴付けられる。本発明の好適な実施例では、トランスジェニック非ヒト哺乳動物は、プロモーター活性を調節する分子および化合物を、特定および最適化するためのヒトGLT−1および/またはGLASTプロモーター機能のモデルまたは代用として利用される。そのようにして特定された分子および化合物は、欠陥があるグルタミン酸トランスポータープロモーター機能に関連する疾患の予防と治療に使用できる。これらの疾患は、これには限定されないが、ALS、多発性硬化症、脳卒中、アルツハイマー等を含む。すなわち本発明は、異なった器官と組織における、グルタミン酸トランスポータープロモーター活性をモニターするための生体内システムを提供する。
【0145】
GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性は、本発明のトランスジェニック哺乳動物を使用することで、モニターできる。新生マウスのGLASTプロモーター活性は、脳内の大脳皮質および脳室内前駆細胞増殖領域で最も高いと認められた。
皮質におけるこの活性は、発生の過程では非常に低下する。一方、GLASTプロモーターは、成体マウスの海馬歯状回の放射状グリアおよび小脳のバーグマングリアの中で高い活性が認められている。GLASTプロモーターレポータートランスジェニックマウスは、発生段階の中枢神経系の放射状グリアおよび多くのアストロサイトの両方において、GLASTプロモーターについての活性を示したが、哺乳動物が成熟するにつれて、ほとんどのアストロサイトにおいて低下した。灰白質での限定的な発現パターンに対して、GLASTプロモーターの広範囲な活性化が、多くの中枢神経系領域(すなわち、脊椎および脳梁)にわたる白質内のオリゴデンドロサイトで認められた。ただし中枢神経系の全てにおいてではない(すなわち、小脳)。GLASTプロモーター活性は、これには限定されないが、内皮細胞、NG2陽性細胞およびマイクログリアを含む様々な非神経細胞では認められなかった。成体の中枢神経系では、最も高いプロモーター活性が、歯状回の顆粒層下に局在する放射状グリアで認められた。
【0146】
GLT−1プロモーター活性に関しては、GLT−1プロモーターレポーターマウスの組織学的な解析によって、中枢神経系でのGLT−1プロモーター活性は主にアストロサイトに制限されているが、CA3すい体神経においても、より低いレベルで認められることが明らかとなった。
【0147】
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、同一の哺乳動物のGLT1および/またはGLASTの細胞での発現パターンを評価する方法を提供する。
すなわち本発明は、作動可能なようにGLTプロモーターを結合したレポーター遺伝子(すなわち、eGFP)を含むトランスジェニック哺乳動物と、作動可能なようにGLASTプロモーターを結合した異なるレポーター遺伝子(すなわち、DsRed)を含む異なったトランスジェニック哺乳動物を交配し、その結果ダブルトランスジェニック哺乳動物を作製することを含む。
異なったレポーター(すなわち、異なった色)を有するダブルトランスジェニック哺乳動物を用いる利点は、特定細胞における両プロモーターの発現を比較することが可能となることである。また、トランスジェニック哺乳動物でもダブルトランスジェニック哺乳動物でも、GLT−1および/またはGLAST BACプロモーターレポーターは、プロモーター活性の潜在的な薬理学の活性化物質と阻害物質を特定し、評価するために有用である。ダブルトランスジェニック哺乳動物は、特定のBACプロモーター発現細胞を特定し、生切片(living slice)のトランスポーター機能を解析し、異なった病理学的、生理学的、および薬学的パラダイムにおけるトランスポータープロモーター活性のアップレギュレーションおよびダウンレギュレーションを評価するために有用である。
【0148】
本発明のトランスジェニック哺乳動物は、異なったレポーター遺伝子の発現を測定することで、GLASTおよびGLT1発現の両方の評価に使用できる。
本明細書の開示によれば、GLASTおよびGLT1プロモーター活性が認められたダブルトランスジェニック哺乳動物では、一部重なる領域がある。さらに、GLASTおよびGLT1プロモーター活性が認められたダブルトランスジェニック哺乳動物では、一部異なった領域がある。例えば、海馬では、両プロモーターは、活性があり顕著なものであった。しかし、脊椎では、GLASTおよびGLT1のプロモーター活性にオーバラップがほとんどなく、GLT1発現は灰白質に広く存在し、GLASTプロモーター活性は白質で強く存在していた(また、GLASTプロモーター活性は、白質におけるGLASTプロモーター活性と比べて顕著ではないが、灰白質にも存在していた)。GLASTとGLT1の同程度の独立したプロモーター活性は、外皮、線条体および脳幹で見られた。
【0149】
また、トランスジェニク哺乳動物の異なった領域(すなわち、脳の異なった領域)が、異なったGLT−1およびGLASTプロモーター活性パターンを示したという観察に加えて、GLT−1およびGLASTプロモーター活性パターンが異なった細胞集団で示されたこともまた観察された。
すなわち、このトランスジェニク哺乳動物は、低いプロモーター活性化レベルの細胞を可視化する能力を提供する。そうでなければ、in situハイブリダイゼーション法を用いた先行技術または蛋白質エピトープに対する抗体を用いた免疫組織染色によって行う。例えば、GLT−1は、脳組織(総タンパク量の約1%)で非常に高い発現レベルを有しており、標準の免疫組織染色技術を用いて強い染色表現型を示す。したがって、トランスポーターが、重要な役割を果たす個々の細胞発現パターンを区別することもまた困難である。
【0150】
本発明は、またGLASTおよび/またはGLT−1プロモーター活性の異なったパターンを示す異なる細胞タイプの決定を含む。すなわち、本発明は、異なる細胞タイプがGLASTおよび/またはGLT−1プロモーターの重複する活性と重複しない活性を示す本発明のトランスジェニック哺乳動物を使用した観察に関する。本明細書中の開示は、GLASTおよびGLT−1の両プロモーターが海馬歯状回のグリア線維性酸性タンパク(GFAP)陽性アストロサイトおよび放射状グリアの中で活性化しているが、GLASTプロモーターがGLT−1プロモーターまたはGFAPタンパク(アストロサイトのマーカー)に関係なく観察的に活性化している顆粒細胞層の細胞があることを示す。したがって、顆粒細胞層中に、GLASTを発現している非アストロサイトの細胞集団がある。そういうものとして、本発明は、顆粒細胞層中に存在するGLT1プロモーター発現およびNeuN(神経のマーカー)が、陰性であるGLASTプロモーター陽性細胞集団を含む。
【0151】
本発明は、GLT−1プロモーターは活性化されていないが、GLASTプロモーターが活性化されている大脳皮質に存在する細胞集団を含む。これらの細胞は、NeuN抗体(神経のマーカー)での共染色に基づくと、神経細胞または神経細胞前駆体に類似している小円形細胞である。大脳皮質中の多くのGLASTプロモーター活性化細胞はまた、発生段階のオリゴデンドロサイト(PLPプロモーターレポーター陽性)と重複する。多くのGLAST陽性細胞は、アストロサイトまた神経細胞ではないので、本発明は、GLASTプロモーターが活性化されており、GLT−1プロモーターは活性化されていないオリゴデンドログリアの細胞集団を含む。実際、線条体では発生段階の後期の間、多くのGLASTプロモーター活性化細胞はPLPオリゴデンドロサイトプロモーターレポーターに重複したが、この発現は若い哺乳動物では観察されなかった。
【0152】
脊椎では、GLT−1プロモーターを発現しているかなり多くの灰白質アストロサイトにおいて、GLT−1およびGLASTプロモーターレポーターの発現は完全に分かれていた。GLAST発現細胞は白質で見られており、これらの細胞の多くが神経細胞またはマイクログリアではなく、オリゴデンドログリアであるように見えた。
【0153】
複数の脳領域では、GLAST+/GLT1−細胞が、神経細胞体に隣接し、一緒に関与していることがしばしば観察された。これらの細胞はオリゴデンドログリア(PLP−)でなく、GFAPまたはマイクログリアマーカーで染色されなかった。
【0154】
GLT1プロモーター活性ではなく、GLASTプロモーター活性が、生後初期の前駆体細胞にでは発現しているようである。
GLAST陽性細胞は、生後初期の脳室周囲の白質および灰白質に非常に局所化しているのが観察された。生後後期でさえ、GLASTは、脳室周囲のNeuN陽性細胞によって発現していたが、成体の脳では完全に消失した。
【0155】
本発明はGLT−1および/またはGLASTプロモーター活性の異なった発現パターンを有する細胞集団を含む。本発明はまた、トランスジェニック哺乳動物から得られる細胞サンプルからのそのような細胞集団を得る方法を提供する。そのような方法は、哺乳動物から細胞集団を分離し、その細胞中のレポーターマーカーの発現をアッセイすることを含む。検出可能なマーカーを発現するその細胞は、細胞亜集団を提供するために、細胞集団から分離できる。その細胞はまた、GFAP(アストロサイト)、PLP(オリゴデンドロサイト)およびNeuN(ニューロン)等の異なる細胞マーカーに基づいて分離できる。さらに、本発明の細胞は、レポーターマーカーおよび/または細胞マーカーのいろいろな組み合わせを使ってトランスジェニック哺乳動物から分離できる。
【0156】
本発明はまた、作動可能なようにグルタミン酸トランスポータープロモーターに結合したレポーター遺伝子を発現するトランスジェニックマウス細胞株を作製する方法を含む。前記方法は、(a)本発明のトランスジェニックマウスから細胞を分離すること(b)前記レポーター遺伝子を発現する前記トランスジェニックマウス細胞株の分離細胞の増殖と生存を維持する状態に、当該分離細胞を置くことを含む。
【0157】
中枢神経系の細胞は、これには制限されないが、前脳、後脳、脳全体および脊椎を含むさまざまな組織由来の哺乳動物の中枢神経系細胞から得ることができる。その細胞は、本明細書中に別に記載している詳細な方法または当該技術分野で公知の方法を用いて分離および培養することができる。例えば、参照として本明細書中に全体として組み込まれている米国特許5,958,767において開示された方法を用いる。ひとつの実施例では、脳組織を無菌手順を用いて取り出し、トリプシンおよびコラゲナーゼ等の酵素処理またはミンチ処理若しくは鈍器を用いた処理等の物理的方法を含む当該技術分野で公知のいずれかの方法を用いて細胞を解離する。中枢神経系由来細胞および他の多分化能幹細胞の解離は、無菌組織培養液中で実施できる。解離された細胞を200〜2000rpmの間、通常は400〜800rpmの間で低速遠心分離し、上清培養液を吸引し、そして細胞を培養液で再懸濁する。
【0158】
レポーターマーカー(すなわち、蛍光タンパク)を発現する細胞は、ロイらによって述べられているように、蛍光活性化セルソーターを用いて分離できる(2000, J Neurosci Res. 59:321-331)。そのような蛍光タンパクの実施例は、これには限定されないが、ルシフェラーゼタンパクおよび緑色蛍光タンパクを含む(Heim et al., 1996, Curr. Biol. 6:178-182)。
【0159】
本発明によれば、これには限定されないが、レポーター遺伝子の発現および細胞表面マーカーを含む細胞の表現型は、所望の細胞タイプを特定し、分離するための独自のマーカーとして使用できる。すなわち、本発明の細胞のレポーター遺伝子の発現(または、さもなければGLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性)との組み合わせで、その独自の細胞表面マーカーは、トランスジェニック哺乳動物に由来する混合細胞集団から特定の細胞集団を分離するために用いることができる。当業者は、細胞表面マーカーに対する特異的な抗体が物理的担体(すなわち、ストレプトアビジンビーズ)に結合でき、したがって特定の細胞表面を有する細胞を分離する機会が提供されることを理解するであろう。細胞マーカーに基づく細胞の分離は、レポーターのマーカー(すなわち、蛍光タンパク)に基づく細胞の分離と組み合わせることができる。例えば、その細胞はフローサイトメトリーに基づくセルソーターを用いて分離できる。そして分離された細胞は、本明細書中に開示された方法または通常の方法を用いてインビトロで培養し、増殖させることができる。
【0160】
本発明の更なる実施例は、トランスジェニック哺乳動物に由来する細胞集団を除去または分離する方法を包含する。所望の細胞タイプ(すなわち、アストロサイト、オリゴデンドロサイト、ニューロンまたは前駆細胞)を特異的に結合する抗体を、混合細胞集団中でインキュベートし、これには限定されないが、磁性分離を含む分離ステップによって、混合細胞集団から特定の細胞集団を除去できる。磁性分離の過程は、これには限定されないが、ダイナビーズ(商品名)(Dynal Biotech, Brown Deer, WI)を含む磁性ビーズを使用することによって実施される。また、MACS分離薬物(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)は、混合細胞集団から所望の細胞集団を除去するのに使用される。所望の細胞タイプの分離に続いて、その細胞は、実験的/治療的の使用のために細胞集団を濃縮するためにインビトロで培養される。そのようにして、本発明は濃縮された所望の細胞タイプの集団を含む。
【0161】
さらに別の実施例では、分離された細胞はグリア限定前駆細胞である。そのような細胞は、未分化のグリア限定前駆細胞の特性を保有し、オリゴデンドロサイトへの分化および、ある場合にはアストロサイトへの分化ができる。これらの細胞は1を超えた細胞タイプへの分化能力を有する多機能である。好ましくは、未分化のグリア限定前駆細胞は、これには限定されないが、GLAST BACプロモーターレポーターマウス、GLT BACプロモーターレポーターマウスおよび二重交配GLAST/GLT BACプロモーターレポーターマウスを含む本発明のトランスジェニック哺乳動物から分離される。
【0162】
また、本発明の分離細胞は不死化できる。初代培養細胞は、限られた回数の分裂後、老化に達するので、延長した複製能力を有する不死化細胞株を確立することは有利である。不死化細胞株の使用は、研究プロジェクトを通して、一貫した材料を提供する。
【0163】
いくつかの細胞は、複製の老化を通過することによって、一時的に不死化し、したがって培養条件に簡単に適合する。しかし、これらの一時的に不死化された細胞は、不変的に不安定な遺伝子型を有し、多くの遺伝子変異を有する。このことは、それらの細胞を最初の組織の表現型の信頼性を有さない代替物としてしまう。したがって、理想的な細胞不死化プロトコールは、増殖を延長するだけでなく、親組織と同一の遺伝子型および組織マーカーを有する細胞を産生する。
【0164】
培養中の哺乳動物細胞を不死化するためのいくつかの方法が存在する。v−myc,Epstein−Barrウイルス(EBV),Simianウイルス40(SV40)T抗原,アデノウイルスE1AおよびE1B並びにヒトパピローマウイルス(HPV)E6およびE7を含むウイルス遺伝子は、「ウイルス形質転換」として知られるプロセスによって不死化を誘導できる。多くの場合は、これらのウイルス遺伝子は、細胞を複製の老化状態に追い込む癌抑制遺伝子を不活化することによって、不死化を達成する。
【0165】
不死化細胞株を作製する別の方法は、テロメラーゼ逆転写酵素タンパク(TERT)の発現である。特にそれらの細胞は、テロメアの長さによって最も影響される。
このタンパクは、ほとんどの体細胞では不活性であるが、hTERTが外因的に発現しているときには、その細胞は、複製の老化を回避するのに十分なテロメアの長さを維持できる。テロメラーゼで不死化したいくつかの細胞株の分析により、その細胞が安定した遺伝子型を維持し、重要な表現型マーカーを保有することが確認された。
【0166】
細胞が初代培養細胞であっても、また不死化細胞であっても、細胞培養中の中枢神経系組織に由来する細胞を支持できるあらゆる培養液が細胞の培養に使用できる。中枢神経系に由来する細胞の増殖を支持する培養液組成物は、これに制限されないが、最少必須イーグル培地,ADC−1,LPM(ウシ血清アルブミンなし),F10(HAM),F12(HAM),DCCM1,DCCM2,RPMI1640,BGJ培地(Fitton−Jackson変法有りおよび無し),バーゼルイーグル培地(イーグル塩含有BME),ダルベッコ変法イーグル培地(血清なしDMEM),Yamane,IMEM−20,グラスゴー変法イーグル培地(GMEM),Leibovitz L−15培地,McCoy’s5A培地,培地M199(イーグル塩含有M199E),培地M199(ハンクス塩含有M199E),最少必須イーグル培地(イーグル塩含有MEM),最少必須イーグル培地(ハンクス塩含有MEM)および最少必須イーグル培地(非必須アミノ酸含有MEM−NAA)等を含む。
【0167】
本発明の方法で有用な培養液の追加の非限定的な実施例は、ウシまたは他の種の胎児血清等が少なくとも約1%から30%、好ましくは5%から15%、最も好ましくは約10%の濃度である培養液源を含むことができる。トリまたは他の種の胚抽出物は、約1%〜30%、好ましくは少なくとも約5%〜15%、もっとも好ましくは約10%の濃度で存在できる。
【0168】
もう1つの側面では、その培養液が、Iscove's変法ダルべッコ培養液(IMDM),RPMI,DMEM,DMEM/F12,フィッシャー・アルファ培養液,Leibovitz's,L−15,NCTC,F−10,F−12,MEMおよびMcCoy's等の基本培養液、グルコース等の適当な糖質源、MOPS,HEPESまたはTris、好ましくはHEPES等のバッファーおよびEGF,bFGF,血小板由来増殖因子(PDGF),神経増殖因子(NGF)およびアナログ、誘導体及び/またはそれらの組み合わせ、好ましくはEGFおよびbFGFの組み合わせ等の神経幹細胞の増殖を刺激する1以上の増殖因子として知られている無血清(0〜0.49%を含む)または血清を除去した(0.5〜5.0%を含む)標準培養液を含む。
【0169】
通常、標準培養液は、無機塩、糖、ホルモン、必須アミノ酸、ビタミン等の細胞の生存に必要なさまざまな必須成分を含む。好ましくは、DMEMまたはF−12が標準培養液であり、最も好ましくは、DMEMとF−12の50/50混合である。両培養液は市販されている(DMEM; GIBCO, Grand Island, NY; F-12, GIBCO, Grand Island, NY)。DMEMとF−12が事前に混合された培養液もまた市販されている。培養液に添加グルタミンを加えることは、有利である。培養液にヘパリンを加えることもまた有利である。培養液に重炭酸ナトリウムを加えることは、さらに有利である。培養液にN2サプリメントを加えることもまた有利である。好ましくは、細胞を培養する条件は、できるだけ生理的条件に近くすべきである。
【0170】
分離に続いて、しばらくの間、または細胞がコンフルエントに達して他の培養装置に移される前まで、細胞は培養装置内の細胞培養液中でインキュベートされる。最初の播種の後、細胞は、パッセージ0(P0)の細胞集団を産出するために約6日間培養が維持される。細胞は、不定の回数、継代することができる。各継代は、約6〜7日間の培養を含み、その間の細胞の倍加時間は3〜5日間の範囲となる。培養装置は、インビトロで細胞を培養する際に一般的に使用されるどんな培養装置であってもよい。
【0171】
細胞は、コンフルエントに達するまで、N2サプリメントを加えた標準細胞培養液中で培養できる。好ましくは、コンフルエントのレベルは70%を超える。より好ましくは、コンフルエントのレベルは90%を超える。
培養の期間は、インビトロで細胞を培養するために適したどんな時間であってもよい。細胞培養液は、細胞を培養している間、いつでも取り替えることができる。好ましくは、細胞培養液は3〜4日間毎に取り替えられる。次に細胞は培養装置から集められ、すぐに使用されるか、あるいは後に使用するために凍結保存される。細胞はトリプシン・EDTA処理、または培養装置から細胞を集めるために使用する他の手順によって集められる。
【0172】
本明細書中に記載された細胞は、ルーチンの手順にしたがって凍結保存できる。好ましくは、液体窒素の気相内において、約1〜1000万個の細胞が10%のDMSOを含有する細胞培養液中で凍結保存される。凍結細胞は、37℃の恒温槽内で振盪することによって融解し、新鮮な増殖培養液で再懸濁し、普通に増殖させることができる。
【0173】
スクリーニングアッセイ
本発明は、調節物質、すなわちGLT−1および/またはGLASTプロモーターに結合し、例えばGLT−1および/またはGLASTプロモーター活性を刺激または阻害効果を有する候補化合物または試験化合物または薬物(例えば、核酸、ペプチド、ペプチド模倣物、小分子または他の薬物)を同定するための方法(本明細書中では、「スクリーニングアッセイ」と言う)を提供する。
【0174】
1つの実施例では、本発明はGLT−1および/またはGLASTプロモーター活性を調節できる候補化合物または試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。別の実施例では、本発明はGLT−1および/またはGLASTプロモーターに結合する、またそうでなければ活性を調節する候補化合物または試験化合物をスクリーニングするためのアッセイを提供する。本発明の試験化合物は、当該技術分野で公知のコンビナトリアルライブラリー法の多くのアプローチのいずれかを用いて得られる:生物学的ライブラリー、空間的にアドレス可能で平行な固相または液相ライブラリー、デコンボリューションを必要とする合成ライブラリー方法、「1ビーズ1化合物」ライブラリー方法、アフィニティークロマトグラフィー選択を使用する合成ライブラリー方法。生物学的ライブラリアプローチは、ペプチドライブラリーに限定される、一方、他の4つのアプローチは、ペプチド、非ペプチドオリゴマーまたは小分子の化合物ライブラリーに適用できる(Lam, 1997, Anticancer Drug Des. 12:45)。
【0175】
当該技術分野において、見られる分子ライブラリーの合成のための方法の実施例は、例えば以下の文献にある:DeWitt et al., 1993, Proc. Natl. Acad. USA 90:6909; Erb et al., 1994, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:11422; Zuckermann et al., 1994, J. Med. Chem. 37:2678; Cho et al., 1993, Science 261:1303; Carrell et al., 1994, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2059; Carell et al., 1994, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 33:2061; and Gallop et al., 1994, J. Med. Chem. 37:1233。
【0176】
化合物のライブラリーは、溶液中(Houghten, 1992, Biotechniques 13:412-421)またはビーズ(Lam, 1991, Nature 354:82-84)、チップ(Fodor, 1993, Nature 364:555-556)、バクテリア(Ladner U.S. Pat. No. 5,223,409)、スポア(Ladner U.S. Pat. No.‘409)、プラスミド(Cull et al., 1992, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89:1865-1869)またはファージ(Scott and Smith, 1990, Science 249:386-390; Devlin, 1990, Science 249:404-406; Cwirla et al., 1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:6378-6382; Felici, 1991, J. Mol. Biol. 222:301-310; and Ladner supra)上に存在できる。
【0177】
好適な実施例では、アッセイは、作動可能なようにGLT−1またはGLASTプロモーターまたはそれらの部分に結合したレポーター遺伝子(例えば、その発現は、GLT−1またはGLASTプロモーターまたはそれらの部分の制御下にある)を発現した細胞(例えば、BAC−レポータートランスジェニック哺乳動物から分離された細胞)が、試験化合物と接触し、GLT−1またはGLASTプロモーター活性を調節する試験化合物の能力を検出する細胞ベースのアッセイである。GLT−1またはGLASTプロモーター活性を調節する試験化合物の能力を検出することは、レポーター遺伝子の発現(例えば、レポーターのmRNAまたはポリペプチド発現レベル)または活性をモニターすることによって実施できる。本明細書中の他の場所に記載されるように、そのレポーターは検出可能なマーカーである。例えば、そのレポーターは、ノザンブロット法、RT−PCR法、プライマー伸長法またはヌクレアーゼプロテクションアッセイ等によってその発現を測定できる核酸配列である。またそのレポーターは、例えば、ウエスタンブロット法、ELISAまたはRIAアッセイによって、その発現を測定できるポリペプチドをコードする核酸配列である。また、レポーター発現は、レポーターによってコードされたポリペプチドの活性を、標準グルタミン酸トランスポートアッセイ、ルシフェラーゼ・アッセイ、ベータ−ガラクトシダーゼアッセイ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ(CAT)アッセイまたは蛍光タンパクアッセイ等を用いて測定することによって、モニターできる。
その細胞は、GLT−1またはGLASTプロモーターの制御下でレポーターを発現する細胞である。
【0178】
ダブルBAC−レポータートランスジェニック哺乳動物を得るために、BAC−レポータートランスジェニック哺乳動物(すなわち、GLT−1 BAC−レポータートランスジェニック哺乳動物)は、異なるダブルBAC−レポータートランスジェニック哺乳動物(すなわち、GLAST BAC−レポータートランスジェニック哺乳動物)と交配できる。従って、GLT−1およびGLASTレポーター活性の両方を発現する細胞は、ダブルBAC−レポータートランスジェニック哺乳動物から分離し、本明細書中で議論されているスクリーニングアッセイに使用できる。すなわち、特定の細胞の両プロモーターの発現を比較することは可能である。
【0179】
候補化合物の存在下におけるGLT−1またはGLASTプロモーターの制御下でのレポーター発現レベルまたは活性レベルは、候補化合物の非存在下におけるレポーター発現レベルまたは活性レベルと比較される。そして、候補化合物は、この比較に基づいて、GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性の調節物質として同定できる。例えばレポーターmRNAの発現またはタンパク発現もしくは活性が、候補化合物の非存在下におけるよりも、候補化合物の存在下において高い(統計的に有意に高い)ときに、その候補化合物がGLT−1および/またはGLASTプロモーター活性の刺激物質として同定される。逆に、レポーターmRNAまたはタンパクの発現または活性が、候補化合物非存在下よりも存在下において低い(統計的に有意に低い)ときには、その候補化合物は、GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性の阻害物質として同定される。
【0180】
また、プロモーターに結合する、および/またはプロモーターに結合するタンパク(例えば、転写因子)を調節する試験化合物の能力も検出できる。結合タンパクに結合するGLT−1および/またはGLASTプロモーターに結合するおよび/または調節する試験化合物の能力を検出することは、例えば、試験化合物、GLT−1および/またはGLASTプロモーターまたは試験化合物または結合タンパクに対するGLT−1および/またはGLASTプロモーターの結合が、複合体の標識成分を検出することによって、決定できるような放射性同位元素/酵素で標識された結合タンパクをカップリングすることによって、達成できる。例えば、化合物(例えば、試験化合物、適当なグルタミン酸トランスポータープロモーターまたは結合タンパク)は、直接的または間接的に、32P,125I,35S,14C,または3Hで標識され、その放射性同位元素は、放射線放出の直接計測またはシンチレーション計測によって検出できる。あるいはまた、化合物は、例えば西洋わさびペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたはルシフェラーゼによって酵素的に標識され、その酵素標識は、適当な基質の産生物への変換を評価することによって検出される。
【0181】
あらゆる相互物質の標識なしに、GLT−1および/またはGLASTプロモーターと相互作用する化合物(例えば、試験化合物またはGLT−1および/もしくはGLASTプロモーター結合タンパク)の能力を測定することは、また本発明の範囲内にある。例えば、マイクロフィジオメーター(microphysiometer)は、化合物またはGLT−1および/またはGLASTプロモーターのいずれの標識なしにGLT−1および/またはGLASTプロモーターと化合物の相互作用を検出するために使用できる(McConnell et al., 1992, Science 257:1906-1912)。本明細書中で使用されるように、「マイクロフィジオメーター」(例えば、Cytosensor(商品名))は、light-addressable potentiometric sensor(LAPS)を用いて、その環境での細胞酸性度を測定する分析装置である。この酸性度の変化は、化合物とGLT−1および/またはGLASTプロモーターとの相互作用の指標として使用できる。
【0182】
本発明のさらに別の側面では、BAC−レポータートランスジェニック細胞は、GLT−1および/またはGLASTプロモーターと結合または相互作用するタンパクを同定するための1ハイブリッドアッセイ(BD Matchmaker One-Hybrid System (1995) Clontechniques X(3):2-4; BD Matchmaker Library Construction & Screening Kit (2000) Clontechniques XV(4):5-7; BD SMART technology overview (2002) Clontechniques XVII(1):22-28; Ausubel, F. M., et al. (1998 et seq.) Current Protocols in Molecular Biology Eds. Ausubel, F. M., et al., pp. 13.4.1-13.4.10等を参照)の「ベイト」として使用できる。そのようなタンパクは、GLT−1および/またはGLASTプロモーター結合タンパクまたはGLT−1および/またはGLASTプロモーター−bpとみなされる。これらの結合タンパクはGLT−1および/またはGLASTプロモーター活性に関連する。また、そのようなGLT−1および/またはGLASTプロモーター結合タンパクは、GLT−1および/またはGLASTプロモーターからの翻訳の制御に関与しているようである。
【0183】
もう1つの側面では、本発明は本明細書中に記載された2つ以上のアッセイの組み合わせに関する。例えば調節薬物は、細胞ベースまたは無細胞アッセイを用いて同定でき、GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性を調節する薬物の能力はインビボ、例えば神経疾患のための哺乳動物モデル等の哺乳動物で確認できる。
【0184】
さらに本発明は、上記のスクリーニングアッセイによって同定される新規薬物に関する。従って、適切な哺乳動物モデル(例えば、神経疾患のための哺乳動物モデル)で同定された、本明細書中に記載された薬物の使用は、本発明の範囲内にある。例えば、本明細書中に記載された同定薬物(GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性調節物またはGLT−1および/またはGLASTプロモーター結合タンパク)は、その薬物による治療の有効性、毒性または副作用を評価するために、哺乳動物モデルに使用できる。あるいはまた、本明細書中に記載された同定薬物は、その薬物の作用機序を評価するために、哺乳動物モデルに使用できる。さらにまた、本発明は、本明細書中に記載される治療のための上記スクリーニングアッセイによって同定された新規薬物の使用に関する。
【0185】
治療方法
また、グルタミン酸プロモーターを調節する能力のあるスクリーニング化合物に加えて、本発明は、神経障害なおよび/または精神障害の処置に役立つ化合物を特定する方法を包含する。グルタミン酸トランスポータープロモーター(すなわち、GLT−1および/またはGLASTプロモーター)の発現および/または活性の評価は、特に、細胞または組織等の中のそれをコードしているレポーターマーカーまたはmRNAのレベルを評価することによって実施でき、そのレベルは、化合物を投与していない他の特定の細胞または組織中のレベルと比較することができる。あるいはまた、化合物と接触した細胞または組織中のそれをコードするレポーターマーカーまたはmRNAのレベルは、化合物を投与する前の細胞または組織中のそれをコードするレポーターマーカーまたはmRNAのレベルと比較できる。場合によっては、障害はグルタミン酸トランスポーターの発現の異常に関連している。別の場合には、障害はグルタミン酸トランスポーターの生物活性の異常に関連している。
【0186】
さらに、本発明のレポーター遺伝子配列に作動可能に結合したBACプロモーター配列を含む細胞または組織は、化合物と接触し、レポーター分子のレベルを評価し、化合物を投与する前の細胞および/または組織の中の別の特定のレポーター分子のレベルと比較できる。さらに、レポーター分子のレベルは、化合物と接触していない別の特定の細胞または組織中のレポーター分子のレベルと比較できる。
【0187】
本発明は哺乳動物の神経障害および/または精神障害の治療に役立つ化合物を特定する方法を含む。その方法は、哺乳動物(その細胞または組織を含む)、好ましくは中枢神経系のGLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性を調節する化合物を特定することを含む。化合物がGLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性を調節する能力は、異常なGLT−1および/またはGLASTプロモーター活性が介在または関連する神経障害および/または精神障害を治療または予防することによって、治療の利益を提供する。これは、GLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性の異常なレベルがそのような障害に関係または介在しており、GLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性を調節することで、その障害を予防または治療できるからである。
【0188】
GLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性を調節する化合物は、神経障害および/または精神障害の強力な治療または予防処置であり、その化合物の特定は、その疾患のための可能性のある治療を特定するものである。
【0189】
トランスジェニック哺乳動物およびそこから分離された細胞を用いて化合物を同定したのち、同定された化合物が、哺乳動物のGLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性レベルを調節できるかどうかを評価するために他の哺乳動物(例えば、ヒト)にその化合物を投与できる。化合物の活性を評価する1つの方法は、化合物の投与の前後に哺乳動物のGLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性レベルを比較することである。化合物を投与した後の哺乳動物中のグルタミン酸トランスポータータンパクまたは対応するグルタミン酸トランスポータータンパクをコードするmRNAのレベルが化合物を投与する前のグルタミン酸トランスポータータンパクまたはそれに対応するmRNAのレベルと比較して高いことは、その化合物が哺乳動物のグルタミン酸トランスポータープロモーターの活性の低下と関係している神経障害および/または精神障害の治療に役立つことを示す。
【0190】
化合物を投与した後の哺乳動物中のグルタミン酸トランスポータータンパクまたは対応するグルタミン酸トランスポータータンパクをコードするmRNAのレベルが化合物を投与する前のグルタミン酸トランスポータータンパクまたはそれに対応するmRNAのレベルと比較して低いことは、その化合物がグルタミン酸トランスポータープロモーターの活性の上昇と関係している神経障害および/または精神障害の治療に役立つことを示す。
【0191】
ある実施例では、本発明は、対象(例えば、ヒト等の哺乳動物)にGLT−1および/またはGLASTプロモーター調節物質を含む治療に効果的な量の薬剤成分を投与することを含む神経障害および/または精神障害の治療方法を提供する。
【0192】
GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性を調節、すなわち、GLT−1および/またはGLAST遺伝子発現を調節するため、本明細書中に開示された化合物または本発明のスクリーニングアッセイによって同定された化合物は、細胞または対象に投与することができる。哺乳動物細胞(ヒト細胞を含む)へのGLT−1および/またはGLASTプロモーター調節物質の投与は、GLT−1および/またはGLAST mRNAおよび/またはポリペプチドの発現を調節(例えば、アップレギュレートまたはダウンレギュレート)できる。その結果、細胞のグルタミン酸トランスポーターが増加および減少する。この方法では、GLT−1および/またはGLASTプロモーター調節物質は、公知の手順で哺乳動物(ヒトを含む)に投与できる。
【0193】
一般に、本発明の好ましい治療法(予防処置を含む)は、哺乳動物、特にヒトを含む、それを必要としている哺乳動物に、治療に効果的な量のGLT−1および/またはGLASTプロモーター調節物質を投与することを含む。その処置は、神経障害および/または精神障害に苦しむ、罹患する、影響されているまたはリスクがある対象、特にヒトに適切に施される。また、本発明のGLT−1および/またはGLASTプロモーター調節物質は、GLT−1および/またはGLASTが関係する他のあらゆる疾患の治療に使用できる。
【0194】
選択的な生物特性を高めるために、適切な機能を付加することによって、本発明の化合物は修飾できる。そのような修飾は、公知であり、生物学的コンパートメント(例えば、中枢神経系)への浸透性、経口吸収性および注射による投与を可能とする溶解性を高め、並びに代謝および排泄率を変える修飾を含む。
【0195】
所定の治療で用いられる本発明の所定のGLT−1および/またはGLAST調節物質の実際の好ましい量は、利用される特定の活性化合物、特定の製剤組成、適用方法、投与の特定部位、患者の体重、健康状態、性別等、治療に対する特定の適応等および医師または獣医師を含む当業者によって認識されるその他の同様の要因にしたがって変化することが理解される。投与の所定のプロトコールのための最適投与比率は、当業者による通常の用法・用量検討試験または当該技術分野で公知または本明細書中に開示されたあらゆる方法によって容易に決定される。
【0196】
例えば、本発明のある実施例では、対象のGLT−1および/またはGLAST発現または活性のレベルは、少なくとも一度測定される。GLT−1および/またはGLASTレベルと、例えば同じ患者、別の患者または健常人から得られた投与前または投与後のGLT−1および/またはGLASTレベルの測定値との比較は、本発明による治療が求められる効果を有するか否かを検討するのに役立ち、その結果、適切な用量レベルの調整を可能にする。GLT−1および/またはGLAST発現レベルの検討は、公知のまたは本明細書中に記載されたあらゆる適切なサンプリング/発現アッセイ法を用いて実施できる。好ましくは、組織または体液サンプルが、最初に対象から採取される。適切なサンプルの実施例は、血液、口腔または頬の細胞および毛根を含む毛髪サンプルを含む。他の適切なサンプルは当業者に公知である。サンプルのタンパクレベルおよび/またはmRNAレベル(例えば、GLT−1および/またはGLASTレベル)の検討は、これには限定されないが、ELISA、ブロッティング/化学発光法、リアルタイムPCR法等を含む公知の適切なあらゆる技術を用いて実施できる。
【0197】
本発明のある化合物は、通常、神経障害および/または精神障害の治療または予防のために投与できる。本発明のある実施例では、その化合物は神経変性に関連する疾患または障害の予防または治療のために投与される。
【0198】
治療の適用のため、本発明のGLT−1および/またはGLAST調節物質は、哺乳動物等、特にヒトに対し、単独で、または1以上の許容できる担体および任意には他の治療成分と共にGLT−1および/またはGLAST調節物質を含む薬剤組成の一部として、適切に投与できる。その担体は、製剤の他の成分と適合性がありそのレシピエントに有害ではないという意味で、許容できなければならない。
【0199】
本発明の薬剤組成は、経口、直腸投与、経鼻、外用(口腔、舌下を含む)、腟内、または非経口投与(皮下、筋肉内、静脈内、皮内を含む)に適した薬剤組成を含む。製剤を、タブレット、徐放性カプセルおよびリポソーム等のユニット剤形中に都合良く存在させ、そして薬剤学の技術分野で公知のあらゆる方法を用いて調製できる。例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences, Mack Publishing Company, Philadelphia, PA (17th ed. 1985)を参照。
【0200】
その調整方法は、分子と、1以上の補助的成分を構成するキャリア等の投与される成分とを結合させるステップを含む。一般に、活性成分を液体キャリアであるリポソームもしくは微細分割固体キャリアまたはその両方と均一に、且つ密接に結合させてその組成物を調製する。次に、必要であれば、その生成物を成形する。
【0201】
本発明の組成は経口投与に適しており、各々が活性成分の規定量を含むカプセル、小袋もしくは錠剤、粉末もしくは粒子、水性液体もしくは非水性液体中の溶液もしくは懸濁液、または水中油型乳化液、油中水型乳化液もしくはリポソームのパック等の個々の単位として、およびボーラス等として存在する。
【0202】
錠剤は、任意に1以上の補助的成分と共に、圧縮および成形で作製される。圧縮錠は、粉末または粒剤等の易流動性形態の活性成分を、任意にバインダー、潤滑剤、不活性希釈剤、保存剤、界面活性剤剤または分散剤と混合し、適切な機械で圧縮することによって作製できる。成形錠剤は、不活性液体希釈剤で湿潤した粉末化合物の混合物を適切な機械で成形することによって作製できる。錠剤は任意にコーティングまたは分割され、その中の活性成分の放出を遅くまたは調整するように製剤化される。
【0203】
局所投与に適した組成は、通常、スクロースおよびアカシアまたはトラガントの風味のある成分を含む薬用キャンディー、並びにゼラチンおよびグリセリンまたはスクロースおよびアカシア等の不活性主成分の中に活性成分を含むトローチを含む。
【0204】
非経口投与に適した組成は、酸化防止剤、バッファー、静菌薬および対象レシピエントの血液と等張にする溶質を含む水性および非水性の無菌注射液、並びに懸濁化剤および増粘剤を含む水性および非水性の無菌懸濁液を含む。その製剤は、封をしたアンプルおよびバイアル等のユニット投与量容器またはマルチ投与量容器に入れられ、使用する直前に注射液等の滅菌済み液体キャリアを添加するだけでよいフリーズドライ状態(凍結乾燥)で保管される。即時的な注射液および懸濁液は、無菌の粉末、顆粒および錠剤から調製されてもよい。
【0205】
対象の治療への適用は、対象となる部位に投与されるためにしばしば局所的になる。対象組成物を対象部位に与えるために、注射およびカテーテル、套管針、投射物、プルロニックゲル、ステント、持続薬物放出ポリマーまたは内部へのアクセスを提供する他の装置の使用等、様々な技術を用いることができる。患者から取り出したために、器官または組織が接触可能である場合には、対象組成物を含む媒体にその器官または組織を浸すこと、対象組成物をその器官に塗布すること、またはあらゆる便利な方法を適用することができる。
【0206】
所定の療法において、本発明の所定のGLT−1および/またはGLAST調節物質が使用されるときの実際の好ましい量は、利用される特定の活性化合物、特定の製剤化組成物、適用の方法、投与の特定部位、患者の体重、健康全般、性別等、治療される適応症等、および医師または獣医師を含む当業者によって認識されるその他のファクターによって変化することが理解される。当業者は、従来の投与量決定試験を使用することで、得られた所定の投与プロトコールのための最適の投与比率を容易に決定できる。
【0207】
また、本発明はGLT−1および/またはGLASTプロモーター活性における薬物(例えば、薬剤)の効果をモニターするための方法を含む。GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性における薬物の影響のモニターは、基礎的な薬剤スクリーニングだけではなく、臨床試験中においても適用できる。例えば、本明細書中に記載され、スクリーニングアッセイによって決定される、GLT−1またはGLASTプロモーター活性を上昇させる薬物の効果は、GLT−1またはGLASTプロモーター活性の低下を示している被験者の臨床試験でモニターできる。それに対して、スクリーニングアッセイによって決定される、GLT−1またはGLASTプロモーター活性を低下させる薬物の効果は、GLT−1またはGLASTプロモーター活性の上昇を示している被験者の臨床試験でモニターできる。この臨床試験では、GLT−1またはGLASTプロモーターの発現および活性、並びに好ましくは、神経障害および/または精神障害に関係した他の遺伝子の発現または活性が、特定細胞の表現型の「読みだし」またはマーカーとして使用できる。
【0208】
例えば、限定するものではないが、GLT−1および/またはGLASTプロモーター活性(例えば、本明細書中に記載されるスクリーニングアッセイで特定された化合物、薬剤または小分子)で治療されることによって、細胞内にて調節されたGLT−1および/またはGLASTを含む遺伝子が特定できる。すなわち、神経障害および/または精神障害に対する薬物の効果を研究するために、例えば、臨床試験では、細胞を分離し、RNAを調製し、GLT−1および/またはGLASTおよび障害に関係する他の遺伝子それぞれの発現レベルを解析できる。遺伝子発現のレベル(例えば、遺伝子の発現パターン)は、本明細書中に記載されるノザンブロット解析またはRT−PCR法、あるいは産生されたタンパクの量の測定、本明細書中に記載される方法のひとつまたはGLT−1および/またはGLASTまたは他の遺伝子の活性レベルの測定によって定量できる。このように、遺伝子発現パターンは、薬物に対する細胞の生理反応を示すマーカーとして機能できる。従って、この反応状態は事前に、および薬物での個々の治療中の様々な時点で測定できる。
【0209】
好適な実施例では、本発明は、薬物(例えば本明細書中に記載されたスクリーニングアッセイで特定されたアゴニスト、アンタゴニスト、ペプチド模倣物質、タンパク、ペプチド、核酸、小分子、または他の薬剤候補)を用いた被験者に対する治療効果をモニターする方法を提供し、以下のステップを含む、:(i)薬物投与の前に被験者から前投与サンプルを取得する、(ii)前投与サンプル中のGLT−1および/またはGLASTタンパク、mRNAおよび/または遺伝子DNAの発現のレベルを検出する、(iii)被験者から1以上の投与後サンプルを取得する、(iv)投与後サンプル中のGLT−1および/またはGLASTタンパク、mRNAおよび/または遺伝子DNAの発現または活性レベルを検出する、(v)投与後サンプルまたは複数のサンプル中のGLT−1および/またはGLASTタンパク、mRNAおよび/または遺伝子DNAの発現または活性のレベルと、投与前サンプル中のGLT−1および/またはGLASTタンパク、mRNA、および/または、遺伝子DNAの発現または活性のレベルを比較する、(vi)それに従って、被験者への薬物の投与を変更する。例えば、薬物の投与量の増量は、検出されるより高いレベル、すなわち、薬物の効果を高めるために、GLT−1および/またはGLASTの発現または活性を上昇させるのに望ましい。あるいはまた、薬物の投与量の減量は、検出されるより低いレベル、すなわち、薬物の効果を高めるために、GLT−1および/またはGLASTの発現または活性を低下するのに望ましい。このような実施例によると、GLT−1および/またはGLAST発現または活性は、観察可能な表現型応答がないときでさえ薬物の有効性の指標として使用できる。
【0210】
治療的使用
実施例として、皮質の上側の運動ニューロンおよび脳幹と脊椎の下側の運動ニューロンに進行性分解がある最も一般的な成体運動ニューロン疾患である筋萎縮性側索硬化症(ALS)を用いる。本発明は、本明細書中に開示されたスクリーニング方法によって特定した化合物の治療的使用を提供する。しかしながら、本発明はALSの治療に限定すべきではなく、むしろすべての神経障害および/または精神障害の治療に使用される。
【0211】
ALS症例の大部分(95%)が、明らかに特発性(特発性筋萎縮性側索硬化症:SALS)であるが、約5%は家族性(家族性筋萎縮性側索硬化症:FALS)である。FALS症例は、銅亜鉛スーパオキシドジスムターゼ(CuZnSOD)をコードする遺伝子であるSOD−1の変異に関連していることが判明している。家族性および特発性の両方のALSに共通であるのは、アストログリアグルタミン酸トランスポーターGLT−1/EAAT2タンパクの欠失である。本明細書中の他の場所で議論するように、GLT−1/EAAT2タンパクは、グルタミン酸のシナプスクリアランスの大部分の原因となる主なタンパクである。特に、GLT−1/EAAT2タンパクは興奮毒性の神経変性から守る。ALS組織における機能的なグルタミン酸トランスポーターの測定は、影響を受けたALS脳領域中での著しい減少を明らかにした。機能的なグルタミン酸トランスポーターの欠失は、65%以上の特発性のALS患者に見られるアストログリアグルタミン酸トランスポータータンパクであるGLT−1/EAAT2タンパクの劇的な低下の結果のようである。メカニズムにかかわらず、アンチセンスオリゴヌクレオチドでGLT−1/EAAT2タンパクを減少することは、トランスポート活性の減少が直接的に神経細胞死を誘発することを示した。これらと他の研究は、GLT−1/EAAT2タンパク(アストロサイト機能不全に関連している)の機能的な欠失は、遺伝性および特発性の両方のALSにおける運動ニューロンの欠失に寄与していることを示している。
【0212】
本発明は、GLT−1プロモーター活性を上昇させる能力を持っている候補化合物をスクリーニングするために、トランスジェニック哺乳動物および/またはそこから分離された細胞を使用して特定された化合物を含む。そのような化合物は、ALSまたはGLT−1プロモーター活性の低下に関係した他の障害等の神経障害を治療するための治療法として使用できる。すなわち、このグルタミン酸トランスポーターは、正常な興奮性シナプス伝達に重要であるが、その機能不全は、これには限定されないが、ALS、多発性硬化症、アルツハイマー、脳卒中、脳腫瘍およびてんかんを含む神経障害に関係していることを示した。したがって、GLT−1プロモーターの活性および/またはグルタミン酸トランスポーターの機能を上昇させる化合物の能力は減少しているGLT−1プロモーター活性および/またはグルタミン酸トランスポータータンパク機能不全に関係しているグルタミン酸興奮毒性を阻止または予防するための療法を提供できる。もちろん、本発明は、GLT−1に関連している疾患および障害に限定するべきでなく、GLT−1および/またはGLASTに関連している疾患と障害に関連している。
【0213】
また本発明は、本明細書に開示されているスクリーニング法を使用することにより特定された化合物を含む。いくつかの側面では、本発明はグルタミン酸トランスポータープロモーター活性を低下させる能力を有する化合物を含む。そのような化合物は、グルタミン酸トランスポーターの活性の上昇および/またはグルタミン酸トランスポーターの量の増加に関連する神経障害および/または精神障害を治療するための治療法として使用される。どんな特定の理論によっても拘束されることなく、そのような疾患または障害は、所望のグルタミン酸トランスポータープロモーターを上昇させる能力を有する化合物の投与に起因することがありうる。したがって、本発明は、以前に化合物で上昇させた同じグルタミン酸トランスポータープロモーターを低下させる能力を持つ化合物を含む。したがって、GLT−1および/またはGLASTプロモーターの活性および/またはそれぞれのグルタミン酸トランスポーターの機能を低下させる化合物の能力は、過剰なプロモータ活性化に関連している障害に対する治療法を提供できる。
【実施例】
【0214】
ここで、以下の実施例を参照して本発明について説明する。これらの実施例は、例示の目的のためだけに提供され、本発明はこれらの実施例に制限されない。むしろ本明細書中に提供された教示の結果として明らかなすべてのバリエーションを含む。
【0215】
実施例1:GLASTおよびGLT−1のためのBACトランスジェニックマウスの生産
BACトランスジェニックマウスは、グルタミン酸トランスポーターの生物学的性質の研究、並びにGLASTおよびGLT−1遺伝子を活性化できるスクリーニング化合物のための細胞生産に有用である。GLASTまたはGLT−1遺伝子に加えて最初のエクソンの上流の少なくとも40kb、すべてのイントロンおよび最終エクソンの下流の少なくとも20kbを含む細菌人工染色体(BAC)を有するトランスジェニックマウスを生産した。それぞれの場合で、プロモーターが活性化したときに蛍光タンパクが産生されるようにeGFP cDNAを開始ATGコドンの中に置いた。BAC−PAC Resources(オークランド、カリフォルニア)から取得したBACマウスRPCI−24−287G11およびRPCI−23−361H22(それぞれのクローンはRP24−287G11およびRP23−361H22とも呼ばれる)の両方を、それぞれGLASTおよびGLT−1レポーターマウスのために使用した。GLAST BAC配列はマウス15番染色体上にある。GLASTはBuild 34.1でマウス15番染色体上の遺伝子座8425087−8425252のslc1a3遺伝子である。GLT−1 BAC配列はマウス2番染色体上にある。GLT−1はBuild 34.1でマウス2染色体上の遺伝子座102411193−102482861のslc1a2遺伝子である(Waterston et al., 2002, Nature 420:520-62を参照)。
【0216】
単一のC57BL/6J雄性マウスから得られた組織より作成されたRPCI−24BACライブラリーからRP24−287G11(GLAST)クローンを得た。脾臓と脳のゲノムDNAのサンプルを、単離し、制限酵素MboIで部分的に切断した。サイズで選択されたMboI断片をpTARBAC1ベクターのBamHI制限部位の間にクローン化した。結合した生成物をDH10Bエレクトロポレーション用細胞(BRL Life Technologies)に形質導入した。
【0217】
Roswell Park Cancer Instituteで3匹のC57BL/6J雌性マウスから得られ、プールされた組織より作成されたRPCI−23BACライブラリーからRPCI−23−361H22(GLT−1)クローンを得た。マウスの腎臓および脳のゲノムDNAのサンプルを単離し、制限酵素EcoRIおよびEcoRIメチラーゼの混合によって部分的に切断した。サイズで選択されたEcoRI断片をpBACe3.6ベクターのEcoRI制限部位の間にクローン化した。結合した生成物をDH10Bエレクトロポレーション用細胞(BRL Life Technologies)に形質導入した。
【0218】
BAC修飾のための手順は、Gong,S.らによって説明されている手順(Gong et al., 2002, Genome Res. 12:1992-1998, 参考として本明細書に組み込んだ)にマイナーな変更を加えた(図1を参照)。最初に、開始ATGを壊した〜500bp遺伝子特定領域(Aボックス)を、2コピーのレポーターeGFP cDNAを含むシャトルベクターpLD53SC.E−Eに挿入した。そして、このシャトルベクターは相同組み換えによってBACに挿入された。成功した融合体を選択し、不要なベクター配列を排除するために2つのeGFP領域間の2番目の組み換えを実施した。最終的な修飾BACを直鎖状にし、トランスジェニックレポーターマウスを生産するためにマウス前核に注入した。創始マウスは、eGFP転写物を検出するPCR法で特定した。これらの創始マウスを野性型と繁殖し、独立したF1系を生産した。
【0219】
サザンブロットおよびeGFP蛍光レベルを用いて、どの系統が最も高いレポーターレベルを示すかを調べた後、進行中の薬物研究のために初代培養アストロサイトを以下の標準手順に従って準備した。生後間もないマウス(生後12日目まで、通常は生後3日目)を麻痺し、断頭した。薄層流フード内で、脳を頭蓋骨から外し、カルシウム/マグネシウムが含まれていないハンクス液(HBSS)の入ったペトリ皿に置いた。小脳、脳幹および大脳皮質以外の他の脳組織、そして髄膜を採取し、組織を小片に切断した。破砕、洗浄および濾過後、トリプシン/DNAse Iでインキュベートすることで解離分散を実施した。解離した細胞は、10%ウマ血清、1%ペニシリン/ストレプトマイシン/グルタミン、および1%ピルビン酸を加えたMEMで懸濁させた。
【0220】
A.材料と方法
BACコンストラクト
BAC−PACリソースからともに得られたマウスBAC RPCI−24−287G11およびRPCI−23−361H22を、GLASTおよびGLT−1レポーターマウスにそれぞれ使用した。GLAST遺伝子全部と、第1エクソンの上流18kbおよび最後のエクソンの下流60kbを含むBAC RPCI−24−287G11を、Yangらが記載するように(参照することにより本明細書に組み込まれている、1997, Nat. Biotechnol. 1:859-865)SV−RecAシャトルベクターとの二重相同結合アプローチを用いて修飾し、DsRedのcDNAを挿入した。A−boxとよばれる最初の相同性領域は、公開されているオンラインマウスゲノム(http://www.ensembl.org/Mus_musculus/index.html)に基づくと、配列5’-TTCCCTGTAAAAGCCTCAATT-3’(SEQ ID NO:1)およびその逆の相補配列5’-GCTCTTCTCCGTTGCTTTTGGTCAT-3’(SEQ ID NO:2)の間の721bpを含んでいた。B−boxとよばれる2番目の相同性領域は、公開されているオンラインマウスゲノムに基づくと、配列5’-AAGACCAAAAGCAACGGAG- 3’(SEQ ID NO:3)およびその逆の相補配列5’-TGCTGGGGTTAAAGGTGTG-3’(SEQ ID NO:4)の間の618bpを含んでいた。エクソン2のGLAST開始コドンは、AAGに変異し、そして、DsRed cDNA(DsRed発現、Clontech)は、図3に示すように、A−boxの直後である同じエクソンの下流に挿入された。
【0221】
GLT−1遺伝子全部と、第1エクソンの上流45kbおよび最後のエクソンの下流24kbを含むBAC RPCI−23−361H22を、マイナー変更したGongらが記載する方法により(参照することにより本明細書に組み込まれている、2002, Genome Res. 12:1992-1998)、pLD53SC.E−Eシャトルベクターを用いて修飾し、eGFPのcDNAを開始コドンのATとGの間に挿入した(図2)。A−boxの相同性領域をベクター中のAscI部位とSmaI部位を使用して、pLD53SC.E−Eシャトルベクターにクローン化した。公開されているオンラインマウスゲノムのGLT−1エクソン1開始コドンの上流配列に基づき(http://www.ensembl.org/Mus_musculus/index.html)、配列5’-AGGCGCGCCCAGGGCGCAGCGGCCTCT-3’(SEQ ID NO:5)(下線がAscI部位)と5’-TTCCCCCGGGATGGCGTGGGGAACGCCC-3’(SEQ ID NO:6)(下線がSmaI部位)のPCRプライマーで502bpを用いてA−boxを作製した。
【0222】
最終的に修飾されたBAC遺伝子を、レポーター機能を有効にするためにFugene6トランスフェクション試薬(Roche)を用いてHEK−293細胞と初代培養アストロサイトに導入し、直鎖状にして、トランスジェニックレポーターマウスを生産するためにマウス前核に注入した。創始マウスは、DsRed(GLAST)またはeGFP(GLT−1)転写を検出するPCR法によって特定された。これらのB6SJLハイブリッド系統の創始マウスは、独立したF1系統を生産するために、C57Bl/6野性型マウスと繁殖した。
【0223】
ウエスタンブロッティング
マウスを麻痺し、屠殺して、大脳皮質(GLT−1のため)または小脳(GLASTのため)のどちらかを解剖で取り出し、標準の細胞溶解バッファー中で破砕した。超音波処理した後、タンパク濃度をBradfordアッセイ(Pierce)で測定し、サンプルバッファー(250mM Tris−HCl,pH6.8,4%SDS,10%グリセロール,および1%β−メルカプトエタノール)で1:1に希釈した。3分間、95℃で加熱することによって変性させ、10μgのタンパクを4〜10%のポリアクリルアミドゲル(Invitrogen)の各レーンに、標準タンパクのラダーと共に添加した。非特異的な部位は5%の脱脂乳でブロックし、タンパク結合のレベルを調節するためのウサギポリクローナル抗アクチン抗体および抗GLAST抗体(濃度(1:100)、エピトープ)または抗GLT−1抗体(濃度(1:25,000)、エピトープ)のどちらかを用いて4℃で一夜インキュベートしブロットした。西洋わさびペルオキシダーゼで標識された抗ウサギ2次抗体でブロットをインキュベートすることによって抗体標識を検出し、Enhanced Chemiluminescence(アマーシャムファルマシア)で可視化した。
【0224】
組織学と定量
マウスを麻痺し、脳室血管カニュレーションを通して4%のパラホルムアルデヒドで灌流し、同じ固定液中で一夜固定し、20%のグリセロールを加えたリン酸緩衝液で24時間凍結保護した後、凍結した。40−45μmの切片を作製し、スライド上に乗せた。ニコンE800顕微鏡またはZeiss LSM510 Meta共焦点顕微鏡のどちらかでデジタル画像を撮った。GLT−1プロモーターの相対的活性化レベルはImage J software(NIH)を用いて定量化した。
【0225】
免疫組織染色
切片は、GFAP(Sigma)またはNeu N(Chemicon)抗体のどちらかで一夜インキュベートした。数回の洗浄後、蛍光標識AMCA(青)を結合した2次抗体でインキュベートした。GFAP(Sigma、1:500希釈)、NeuN(Chemicon、1:2000希釈)、Iba1(WAKO、1μg/ml)、Nestin(Chemicon、1:100希釈)、NG2(1:2000希釈)、2次抗体(AMCAを結合している抗体、1:200希釈、Vector Labs)。
【0226】
電気生理学
GLASTプロモーター活性を用いて非アストロサイト中の機能発現をチェックし、これらの細胞の電流とアストロサイトの電流を比較するために、急性スライスから全体細胞の電圧固定記録を実施した。ケージドD−アスパラギン酸(Huang et al., 2005, Biochemistry 44:3316-3326)のレーザパルス光分解に対するそれらの反応を調べた。D−アスパラギン酸は、AMPA受容体または代謝型グルタミン酸受容体を活性化しないグルタミン酸トランスポーターの高親和性基質である。どんな特定の理論によっても拘束されることなしに、このアプローチは細胞の広い領域を刺激し、焦点音圧を利用するよりも高い感度を提供する。トランスポーター活性を検出できる確率を増加させるために、グルタミン酸トランスポーターに高い浸透性があるSCN-を含む内部溶液を用いて実験を実施した。
【0227】
急性海馬スライス(400μm)を塩化コリン(110mM),KCl(2.5mM),CaCl2(0.5mM),MgSO4(7mM),NaH2PO4(1.25mM),コリン炭酸水素塩(25mM),D−グルコース(25mM),Na−ピルビン酸(3.1mM)およびキヌレン酸(1mM)を含む氷冷した溶液中でP13−17ラットまたはマウスから作製した。スライスはNaCl(119mM),KCl(2.5mM),CaCl2(2.5mM),MgCl2(1.3mM),NaH2PO4(1mM),NaHCO3(26.2mM)およびD−グルコース(11mM)を含む人工のCSFで30分間、37℃で回復させ、次に、95%O2および5%CO2の分圧で、溶液に浸したチャンバー内で維持した。細胞全体の記録は、KSCN(130mM),EGTA(10mM),HEPES(20mM),MgCl2(1mM)を含むpH7.3の内部作成溶液を用いて錐体神経から作成した。電流は3kHzでフィルターにかけられたAxopatch200B増幅器で記録し、pClampソフトウェアを用いてデジタル化した。CWアルゴンレーザー(Spectraphysics2017)のUV出力は、MNI−D−アスパラギン酸(500μM)の光分解を起こすために、錐体神経の細胞体および樹状突起上200μmの場所に焦点を合わせた。アンタゴニストは、電位依存性Na+チャンネル、AMPA/カイニン酸受容体、NMDA受容体およびGABAA受容体をブロックするために使用した。グルタミン酸トランスポーターの働きは、TBOA(200mM)を用いて阻害した。各実験では、ケージ化化合物の溶液は溶液槽に存在している同じ濃度のアンタゴニストを含んだ。
【0228】
B.結果
GLAST−およびGLT−1−BACプロモーターレポーターマウスの生産
GLASTおよびGLT−1 BACを図1〜2に示されるように修飾し、トランスジェニックマウスを産生した。GLAST−DsRed導入遺伝子のための62匹以上の可能性のある創始マウスのうち3匹が陽性の遺伝子型であった。これらのうちの2系統である593および570が、3番目の573よりもはるかに強いレポーター発現表現型を示した。おそらくこれは先頭から最後まである導入遺伝子コピーが非常に多く入ったからであろう。
【0229】
同様に、GLT−1−eGFP導入遺伝子のための51匹の可能性のある創始マウスのうち、2匹が系統356よりはるかに強い表現型を示す系統335の陽性遺伝子型を示した。
【0230】
図4に示されるように、脳全体レベルであっても総プロモーター活性を見ることができる。GLASTプロモーターの最も高い活性化が小脳にあるのが観察された。それに比較して、GLT−1プロモーターの活性は小脳では比較的少なく、最も高い活性は大脳皮質で観察された。
【0231】
GLASTおよびGLT−1遺伝子の全体がBACコンストラクト内に存在しているが、GLASTの場合は最初のコードするエクソン、GLT−1の場合は開始コドンがポリA鎖テールのシグナルを後ろに結合しているレポーターcDNAによって遮断されているために、GLASTまたはGLT−1のmRNAまたはタンパクは、これらの導入遺伝子によって産生されなかった。
【0232】
さらに、それぞれのトランスポータータンパクレベルは、図4に示されるように、野生型マウスと比べて、BACレポータートランスジェニックマウスでは変化がないことが観察された。GLASTまたはGLT−1プロモーターの追加コピーは転写エレメントのためのシンクとして機能し、その結果、実際に、トランスジェニックマウスでは特定のトランスポータータンパクレベルが減少した。これでは次々に、トランスポーターの増加または減少を研究するのにあまり有用でないマウスを作製することになるであろう。しかしながら、そうでなかった。図4のウエスタンブロットは、強いレポーター系統マウス(593、335)、それらの野性型同腹兄弟マウス(+/+)、および弱いレポーター系統マウス(573、356)には等しい量のGLAST/GLT−1タンパクの発現があることを示している。対照として、ノックアウト哺乳動物(−/−)(Tanaka et al., 1997, Science 276:1699-1702; Watase et al., 1998, Eur. J. Neurosci. 10:976-988)およびヘテロのノックアウト哺乳動物(+/−)からの総タンパクを用いた。各ブロットにおいて、アクチンのバンドは、各レーンへのサンプルの添加が等しいことを示している。
【0233】
GLASTプロモーター活性の発育変動
生後1、10、24、および40日目の全脳、海馬、小脳および脊椎のGLASTプロモーター活性を調べた。図5Aの複合パネルの中に示されているように、新生マウス、生後(PND)1日のマウスのGLASTプロモーター活性は大脳皮質と脳室周囲の前駆細胞増殖領域で最も高かった。大脳皮質でのこの活性はPND25までにかなり減少したが、GLASTプロモーターの活性は成体マウス(PND40)の海馬歯状回の放射グリアおよび小脳のバーグマングリアの中で強く活性化されていた。脊椎での発現は白質と灰白質で認められたが、発生段階では、脊髄後柱の白質で顕著であった。組織学的に、DsRedタンパク産生物は細胞体に局所化されたままで残っている傾向があったが、発生過程で時折見られた。共焦点顕微鏡を用いた、より厳密な調査は、DsRedタンパクが細胞内で集合体を形成する傾向があることを示した。
【0234】
GLT−1プロモーター活性の発育変動
生後1、10、24および40日目のGLT−1−eGFP BACレポーター系統マウスの調査によって中枢神経系、主にアストロサイトに強いプロモーター活性があることが明らかになった。eGFP発現のレベルがプロモーター活性の相対的レベルを示しているので、同じ画像内または同じ顕微鏡およびカメラ設定で撮られた画像によって、直接プロモーター活性レベルを比較できる。eGFPレポータータンパクの局在は、細胞体と突起中に認められた(図5B)。
【0235】
実施例2:GLASTおよびGLT−1プロモーターは、生後1および24日目に異なった脳領域で活性化されている(ダブルトランスジェニック)。
すでに示した免疫組織染色の結果は、アストロサイトがGLASTおよびGLT−1の両方を発現することを示した。GLT−1およびGLASTの細胞発現パターンを調べるために、GLAST−DsRedおよびGLT−1−eGFP BACトランスジェニックマウスを交配し、ダブルトランスジェニックマウスを作製した。これらのダブルトランスジェニックマウスはGLASTとGLT−1の両方を発現する細胞の同定に使用された。これらのダブルトランスジェニックマウスはGLT−1およびGLASTプロモーター活性レベルを同時に見る機会を提供した。低い能力の顕微鏡およびさらに高い能力の顕微鏡の両方で、GLASTとGLT−1発現の間に重なる例が極めてわずかしかなかった。PND1および24のマウスの特定の脳領域からの画像を図6に示した。小脳(図6Aおよび図6B)では、GLASTプロモーター活性は、PND1では外部顆粒層に、そしてPND24では主としてバーグマングリア中に認められたが、GLT−1プロモーターは常に活性化されていた。大脳皮質では、皮質の異なる層ではなく両プロモーターはPND1(図6C)で強く活性化されていた。PND24(図6D)では、GLT−1発現は、層6を除いて皮質で優位であり、その部位は、何らかのGLASTプロモーター活性が認められる脳質に隣接している。成体動物では、この室周囲部位でのGLAST発現はなくなった。
【0236】
海馬では、PND1(図6E)で、両プロモーターは活性化し、顕著であった。PND24(図6F)では、GLT−1プロモーター活性は両プロモーターが活性化されている歯状回(白矢印)の顆粒下層を除いた海馬内で優位であった。
【0237】
GLT−1発現が灰白質で広く見られている脊椎(図6Gおよび図6H)では、GLASTおよびGLT−1のプロモーター活性化の間には重なりがほとんどなかった。GLASTプロモーターレポーターは灰白質で見られたが、白質により強く存在していた。重要なことに、二重に発現している細胞は脳または脊椎ではほとんど見られなかった。共焦点顕微鏡による詳細な観察によって脊椎の白質と灰白質の両方で完全に独立して発現していることが明らかとなった。GLASTとGLT−1の同様の独立発現は、皮質、線条体および脳幹で見られた。しかしながら、異なった二重発現は海馬の歯状回および小脳の放射状グリアで認められた。
【0238】
実施例3:GLASTおよびGLT−1プロモーターは異なるサブセットの細胞で活性化されている。
GLASTおよびGLT−1プロモーターの重複活性化および非重複活性化の両方を示す細胞タイプを探索するために、アストロサイトを特定するためのGFAPマーカーをPND24のいくつかの領域の共焦点画像に追加した。これらの試験のいくつかをGLAST−DSRedプロモーターレポーターおよびGLT1−eGFPプロモーターレポーターの両方を発現するダブルトランスジェニック動物から得られた組織で実施した。図7Aで示すように、GLASTおよびGLT−1プロモーターの両方が、海馬歯状回のGFAP陽性アストロサイト(黄色矢印)と放射状グリアで活性化されていたが、GLASTプロモーターがGLT−1プロモーターまたはGFAPタンパクから独立して活性化していた顆粒細胞層(gcl)中の細胞も存在した(白色矢印)。図7Bで示すように、海馬CA3領域の細胞のより高い倍率では、GFAP陽性アストロサイトが、GLASTおよびGLT−1プロモーターの活性化を示すことが分かった(黄色矢印)。しかしながら、明らかなGLAST発現非アストロサイト細胞もあった(白色矢印)。
【0239】
PND24のダブルトランスジェニック動物からの脊椎では、図7Eに示されているように、白質と灰白質の境界ではなく、前白質柱(図7C)および後白質柱(図7D)におけるGLT−1およびGLASTプロモーター活性化の間にはほとんど重複がなく、これらのプロモーターが異なった細胞サブセットで活性化されていることを示した。しかしながら、GLAST陽性細胞はGFAP陽性ではなかった(図7E)。
【0240】
実施例4:GLASTプロモーターはオリゴデンドログリアおよび未同定の細胞の一部で活性化されている。
PND24までは、調べられたすべての領域で、すべてのGFAP陽性アストロサイトが、GLT−1プロモーター陽性であり、その逆もまた同様であった。しかしながら、図7に示されるように、これはいつもGLASTプロモーター活性化によるわけではない。GLASTプロモーターはいくつかのGFAP/GLT−1陽性細胞(特に小脳皮質および海馬)中で活性化されていたが、また、非アストロサイト細胞中でも活性化されていた。したがって、他の細胞タイプのマーカーを、これらの他の細胞タイプが何であるかを特定するためにいくつかの脳領域で染色した。
【0241】
図8AはGLT−1およびGLASTプロモーターが歯状回の放射グリア中で、ともに活性化していることを示す。GLT−1プロモーター活性および神経マーカーNeuN(青色)が陰性の、GLASTプロモーター活性陽性細胞の別の小集団が、顆粒細胞層で認められた。
【0242】
脳梁(図8B)では、かなりの多くの細胞で、GLT−1プロモーター発現と神経マーカーの両方が陰性であった。次の実験セットで、オリゴデンドロサイトマーカーであるミエリンプロテオリピドタンパク(PLP)を用いることによって、これらの細胞がオリゴデンドロサイトであるかどうかを調べた。GLAST発現とオリゴデンドログリア間の重なりを評価するために、GLAST−DsRed BACプロモーターレポーターマウスをPLP−eGFPプロモーターレポーターマウスと交配した(Fuss et al., Dev. Biol. 218:259-274)。図8Cに示されるように、PND24の脳梁の画像は、もしあったとしても、GLASTプロモーターレポーター細胞のごくわずかがオリゴデンドロ細胞であることを示した。したがって、脳梁におけるGLASTプロモーター活性化細胞のいくつかはPLP陽性でなく、GLT−1プロモーター陽性でもなかった。
【0243】
また、GLT−1プロモーター非活性化GLAST細胞も皮質にあった。図8Dに示されるように、NeuN抗体の共染色に基づくと、神経細胞または神経細胞の前駆細胞である小型円形細胞が存在していた。それらは典型的な脳室周囲白質であり、脳室周囲白質前駆細胞の残留物のようであった。これらのGLASTプロモーター活性化/NeuN陽性細胞の数は、PND10で高く、時間とともに徐々に減少し、PND49ではいくらか見られ、PND58では見えなくなった。
【0244】
また、図8Eに示されるように、PND24およびPND43では、皮質中の多くのGLASTプロモーター活性化細胞がオリゴデンドロ細胞(PLPプロモーターレポーター陽性)と重なったが、PND10ではそうならなかった。
【0245】
オリゴデンドロサイトのGLASTプロモーター活性化の局在は予想されなかった。多くのGLAST陽性細胞がアストロサイトまたは神経細胞ではなかったので、それらが広く存在するオリゴデンドロサイトの前駆細胞であるNG2細胞と重なるかどうかを検討するために、次の実験は計画された。しかしながら、NG2抗体で共染色される部分は、すべての脳領域でGLASTプロモーターレポーター細胞のいずれとも重ならなかった。このことはNG2細胞で、グルタミン酸トランスポーター電位を検出できない他の生理学的データと一致する。
【0246】
共焦点GFAP免疫反応解析およびGLT1プロモーターレポーター解析(図8F)で検出されたように、線条体では、GLASTプロモーター活性化細胞の大部分がアストロサイトではなかった。しかしながら、多くのGLASTプロモーター活性化細胞がPND24(図8G)とPND43のPLPオリゴデンドロサイトプロモーターレポーターと重なったが、この発現は生後初期動物(図8G)では見られなかった。
【0247】
脊椎(図8)では、GLT−1およびGLASTプロモーターレポーターの発現は完全に別々であり、かなり大多数の灰白質アストロサイトがGLT−1プロモーター活性化を示した。GLAST発現細胞は白質で広がり、これらの細胞の多くは神経細胞(8H)またはミクログリア(8J)ではなく、オリゴデンドロサイト(8I、白矢印)と思われる。
【0248】
複数の脳領域では、GLAST陽性/GLT−1陰性細胞が、しばしば神経の細胞体に隣接して一緒に見られた。これらの細胞はオリゴデンドログリア(PLP陰性)ではなく、GFAPまたはミクログリアマーカーで染色されなかった。これらのGLAST陽性/GLT−1陰性細胞は神経周囲グリアであると考えられる。
【0249】
本明細書中に提示された結果は、GLT−1とは異なり、GLASTは生後初期の前駆細胞で発現しているらしいことを示す。生後初期の時点で、GLAST陽性細胞が脳室周囲白質および脳室周囲灰白質に強く局所しているのが観察された。生後後期の時点でも、GLASTはNeuN陽性脳室周囲細胞で強く発現したが、成体の脳ではそれらは完全に消失した。
【0250】
本発明は、その好適な実施例を参照して詳細に説明される。しかしながら、この開示の考慮において、当業者が、添付する請求項で説明される本発明の趣旨と範囲の中で修正および改良ができることは、理解される。
【図面の簡単な説明】
【0251】
【図1】本発明のBACトランスジェニック構造遺伝子を作成するためのBAC修飾ステップの典型的な概要を示す。
【図2】GLAST BAC構造遺伝子に作成した修飾の概要を示す。
【図3】GLT−1 BAC構造遺伝子に作成した修飾の概要を示す。
【図4】GLASTとGLT−1 BACプロモーターレポーターマウスのバリデーションを示す。
【図5A】BACトランスジェニックマウス出生後(PND)の脳の異なった領域におけるGLASTプロモーター活性を示す。
【図5B】BACトランスジェニックマウス出生後(PND)の脳の異なった領域におけるGLT−1プロモーター活性の発育変動を示す。
【図6】GLAST−DsRed/GLT−1−eGFP BACダブルトランスジェニックマウスの生後1日目から24日目のGLASTおよびGLT−1トランスポーターの異なる発現パターンを示す。
【図7】GLASTとGLT−1プロモーターが生後24日目に海馬と脊椎の細胞のいくつか異なったサブセットで活性化していることを示す。
【図8−1】図8A〜Cは、歯状回の放射グリア細胞および脳梁内の細胞におけるGLT−1とGLASTプロモーター活性を示す。
【図8−2】図8Dは、大脳皮質内の細胞集団が非GLT−1プロモーター活性化GLAST細胞であることを示す。
【図8−3】図8Eは、大脳皮質内のGLASTプロモーター活性化細胞の多くは、オリゴデンドロ細胞であることを示す。
【図8−4】図8F〜Jは、線条体細胞のGLASTプロモーター活性及び脊髄細胞のGLT−1とGLASTプロモーター活性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
細菌人工染色体導入遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト動物であって、
a)前記細菌人工染色体導入遺伝子が、GLT−1部位およびGLAST部位から成る群から選択される部位を含むゲノムDNAを含み、
b)前記部位が、前記部位のプロモーターに作動可能に結合したレポーター遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項2】
前記動物が、哺乳動物である請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項3】
前記哺乳動物が、齧歯動物である請求項2に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項4】
前記細菌人工染色体導入遺伝子が、細菌人工染色体導入遺伝子クローンRPCI−23−361H22を含む請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項5】
前記細菌人工染色体導入遺伝子が、細菌人工染色体導入遺伝子クローンRPCI−24−287G11を含む請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項6】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼ、β−ガラクトシダーゼ、クロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼおよび蛍光タンパクから成る群から選択される少なくとも1のタンパクをコードする核酸配列を含む請求項1に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項7】
前記ルシフェラーゼが、ホタルルシフェラーゼおよびウミシイタケルシフェラーゼから成る群から選択される請求項6に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項8】
前記蛍光タンパクが、緑色蛍光タンパク、高感度緑色蛍光タンパク、赤色蛍光タンパク、黄色蛍光タンパク、青色蛍光タンパクおよび青緑色蛍光タンパクから成る群から選択される請求項6に記載のトランスジェニック非ヒト動物。
【請求項9】
細菌人工染色体導入遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物から分離した細胞であって、
a)前記細菌人工染色体が、GLT−1部位およびGLAST部位から成る群から選択される部位を含むゲノムDNAを含み、
b)前記部位が、前記部位のプロモーターに作動可能に結合したレポーター遺伝子を含む細胞。
【請求項10】
前記細胞が、初代培養細胞である請求項9に記載の細胞。
【請求項11】
前記細胞が、不死化細胞である請求項9に記載の細胞。
【請求項12】
前記細胞が、アストロサイトである請求項9に記載の細胞。
【請求項13】
前記細胞が、細菌人工染色体GLT−1プロモーター活性を示す請求項12に記載の細胞。
【請求項14】
前記細胞が、オリゴデンドロサイトである請求項9に記載の細胞。
【請求項15】
前記細胞が、細菌人工染色体GLASTプロモーター活性を示す請求項14に記載の細胞。
【請求項16】
前記細胞が、細菌人工染色体GLT−1プロモーター活性および細菌人工染色体GLASTプロモーター活性を示す請求項9に記載の細胞。
【請求項17】
神経疾患を治療可能とする化合物を同定する方法であって、
a)テスト化合物と、
細菌人工染色体導入遺伝子を含む非ヒト哺乳動物から分離した細胞であって、前記細菌人工染色体がGLT−1部位およびGLAST部位から成る群から選択される部位を含むゲノムDNAを含み、前記部位が前記部位のプロモーターに作動可能に結合したレポーター遺伝子を含む細胞とを接触させること;および
b)レポーター遺伝子の発現が調節されるか否かを調べて、神経疾患治療可能な化合物としてレポーター遺伝子の発現を調節する化合物を同定することを含む方法。
【請求項18】
前記レポーター遺伝子の発現が、アップレギュレートされる請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記レポーター遺伝子の発現が、ダウンレギュレートされる請求項17に記載の方法。
【請求項20】
精神疾患を治療可能とする化合物を同定する方法であって、
a)テスト化合物と、
細菌人工染色体導入遺伝子を含む非ヒト哺乳動物から分離した細胞であって、前記細菌人工染色体がGLT−1部位およびGLAST部位から成る群から選択される部位を含むゲノムDNAを含み、前記部位が前記部位のプロモーターに作動可能に結合したレポーター遺伝子を含む細胞とを接触させること;および
b)レポーター遺伝子の発現が調節されるか否かを調べて、精神疾患治療可能な化合物としてレポーター遺伝子の発現を調節する化合物を同定することを含む方法。
【請求項21】
前記レポーター遺伝子の発現が、アップレギュレートされる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記レポーター遺伝子の発現が、ダウンレギュレートされる請求項20に記載の方法。
【請求項23】
神経疾患を治療可能とする化合物を同定する方法であって、
a)テスト化合物と、
細菌人工染色体導入遺伝子を含む非ヒト哺乳動物であって、前記細菌人工染色体がGLT−1部位およびGLAST部位から成る群から選択される部位を含むゲノムDNAを含み、前記部位が前記部位のプロモーターに作動可能に結合したレポーター遺伝子を含む非ヒト哺乳動物とを接触させること;および
b)レポーター遺伝子の発現が調節されるか否かを調べて、神経疾患治療可能な化合物としてレポーター遺伝子の発現を調節する化合物を同定することを含む方法。
【請求項24】
前記レポーター遺伝子の発現が、アップレギュレートされる請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記レポーター遺伝子の発現が、ダウンレギュレートされる請求項23に記載の方法。
【請求項26】
精神疾患を治療可能とする化合物を同定する方法であって、
a)テスト化合物と、
細菌人工染色体導入遺伝子を含む非ヒト哺乳動物であって、前記細菌人工染色体がGLT−1部位およびGLAST部位から成る群から選択される部位を含むゲノムDNAを含み、前記部位が前記部位のプロモーターに作動可能に結合したレポーター遺伝子を含む非ヒト哺乳動物とを接触させること;および
b)レポーター遺伝子の発現が調節されるか否かを調べて、精神疾患治療可能な化合物としてレポーター遺伝子の発現を調節する化合物を同定することを含む方法。
【請求項27】
前記レポーター遺伝子の発現が、アップレギュレートされる請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記レポーター遺伝子の発現が、ダウンレギュレートされる請求項26に記載の方法。
【請求項29】
神経疾患または神経障害を患う哺乳動物を治療する方法であって、
グルタミン酸トランスポータープロモーター活性を上昇させる化合物を前記哺乳動物に投与することを含み、
前記グルタミン酸トランスポータープロモーターが、GLT−1およびGLASTから成る群から選択され
前記化合物が、請求項17または請求項23の方法によって同定された化合物である方法。
【請求項30】
精神疾患または精神障害を患う哺乳動物を治療する方法であって、
グルタミン酸トランスポータープロモーター活性を上昇させる化合物を前記哺乳動物に投与することを含み、
前記グルタミン酸トランスポータープロモーターが、GLT−1およびGLASTから成る群から選択され
前記化合物が、請求項20または請求項26の方法によって同定された化合物である方法。
【請求項31】
細菌人工染色体導入遺伝子を含むトランスジェニック非ヒト哺乳動物から細胞を分離する方法であって、
前記細菌人工染色体がGLT−1部位およびGLAST部位から成る群から選択される部位を含むゲノムDNAを含み、
前記部位が前記部位のプロモーターに作動可能に結合したレポーター遺伝子を含み、
前記方法が、
レポーター遺伝子に特異的な抗体を細胞集団に加え、
抗体−細胞複合体の形成に適した条件下で、前記細胞集団と前記抗体を接触させ、
前記細胞集団から前記抗体−細胞複合体を実質的に選別し、
その結果、前記細胞を分離することを含む。
【請求項32】
前記抗体が、物理的支持体と結合している請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記物理的支持体が、マイクロビーズ、マグネチックビーズ、パニング表面、高密度遠心のための高密度粒子、吸着カラムおよび吸着膜から成る群から選択される請求項31に記載の方法。
【請求項34】
前記物理的支持体が、ストレプトアビジンビーズおよびビオチンビーズから成る群から選択される請求項31に記載の方法。
【請求項35】
前記抗体−細胞複合体が、蛍光活性化細胞選別(FACS)および磁気活性化細胞選別(MACS)から成る群から選択される方法を用いて、前記細胞集団から実質的に分離される請求項31に記載の方法。
【請求項36】
2つの細菌人工染色体導入遺伝子を有する非ヒト二重トランスジェニック動物であって、
第一の細菌人工染色体導入遺伝子は、第一のレポーター遺伝子と作動可能に結合したGLT−1ゲノムDNAを含み、
第二の細菌人工染色体導入遺伝子は、第二のレポーター遺伝子と作動可能に結合したGLASTゲノムDNAを含む非ヒト二重トランスジェニック動物。
【請求項37】
2つの細菌人工染色体導入遺伝子を有する非ヒト二重トランスジェニック動物から分離された細胞であって、
第一の細菌人工染色体導入遺伝子は、第一のレポーター遺伝子と作動可能に結合したGLT−1ゲノムDNAを含み、
第二の細菌人工染色体導入遺伝子は、第二のレポーター遺伝子と作動可能に結合したGLASTゲノムDNAを含む。別の実施例では、本発明は非ヒト二重トランスジェニック動物から分離された細胞を含む細胞。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【公表番号】特表2008−515392(P2008−515392A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530260(P2007−530260)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/030816
【国際公開番号】WO2006/026608
【国際公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【出願人】(505322108)ジョンズ ホプキンズ ユニヴァーシティー (4)
【Fターム(参考)】