説明

ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト

生体材料として有用な、Ca/Pモル比が2.05〜2.55の範囲内にあり、Ca/(P+Si)モル比が1.66未満である、無機ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトである。そのヒドロキシアパタイトは、炭酸イオンを実質的に含まない。材料は、相対的に高い溶解性を有しており、溶液内にケイ素を放出可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトに係り、特に、医用インプラント材料、その製作及び使用に用いられるケイ酸塩置換リン酸カルシウムヒドロキシアパタイトに関するものである。また、本発明は、そのようなヒドロキシアパタイトからなる生体材料及びその使用に係るものでもある。
【背景技術】
【0002】
病気や外傷が原因で、外科医は骨組織を置き換える必要があり、彼らは、外科治療の間、骨移植片(自家移植片又は同種移植片)又は骨と置き換えるための合成材料を使用することが出来る。骨と置き換えるために使用される合成材料のタイプの中で、外科医は、金属(例えば、ステンレス製股関節又は膝関節インプラント)、高分子(例えば、寛骨臼カップのポリエチレン)、セラミックス(マクロ多孔性骨移植(macroporous bone graft)としてのヒドロキシアパタイト)、又は無機−有機複合材料(例えば、固定プレートのためのヒドロキシアパタイト−ポリ乳酸複合材料)を、使用する。これらの材料の多くは、体内で(治療期間に適切な期間内に)再吸収不可能であり、インプラント周辺又は内部における新たな骨の形成を刺激するものではない。
【0003】
過去30〜40年以上に亘って開発が進められ、骨と置き換えるために用いられてきた合成材料の一つとして、ヒドロキシアパタイト(HA、Ca10(PO46(OH)2 )がある。この材料は、その表面における骨細胞の成長、及び新たな骨の形成をサポートするが、体内において不溶性が高く、そのために10年以上も体内に留まる。医療用途において、ヒドロキシアパタイトは、一般的に被覆剤として使用され、被覆工程の間、高温(>1500℃)に晒される。又は、マクロ多孔性セラミックとして使用されるのであり、それは大きな孔(>100μm)を含み、高温(例えば1200℃)でマクロ多孔性構造体を焼結することにより製造される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒドロキシアパタイトの特性を向上させるために、少量のケイ素又はケイ酸イオンを含む材料が開発されている。ケイ素が、骨形成及び骨代謝に重要な役割を果たすことが明らかにされている。ケイ素置換ヒドロキシアパタイト材料の合成は、WO 98/08773及び対応する米国特許第6312468号にて説明されている。その材料は、0.1〜5wt%のケイ素を含む。カルシウムイオンとリン含有イオンとのモル比は、1:0.5〜1:0.7である。最も好ましいケイ素の範囲は0.5〜1.0wt%である。焼結中、これらの材料が単相組織となることが明らかにされている。これらの材料は、動物実験及び人体への臨床研究において骨癒合(bone healing)の速度を速めることが明らかにされているが、これらの材料もまだ不溶性が高い。Guth等の研究(Key Eng. Mater. 、2006、309-311 、pp.117-120)においては、14日間の浸漬におけるこれら材料から離脱するケイ素の量が、0.1〜0.4ppmのレベルに達するに過ぎないことが示されている。2.6wt%のケイ酸塩に相当する0.8wt%のケイ素を含むSiHA試料(ケイ素置換ヒドロキシアパタイト)は、細胞培養液に浸漬された。
【0005】
ヒドロキシアパタイトセラミックスは、体内において易溶性ではなく、妥当な期間を経過しても消滅しないであろう(C.P.A.T Klein et al 、J. Biomed. Mater. Res.、1983、17,769 )。理想的な完全吸収のために提案された時間は1ヶ月から3年の間であり、その間に新しい骨に置き換えられるであろう。また、硫酸カルシウムや炭酸カルシウムなどの材料からカルシウムイオンが脱離することにより、骨修復を加速し及び/又は骨芽細胞を刺激することが出来る(I.D. Xynos et al、Calc. Tiss. Int.、2000、67、321-329 )。
【0006】
US 2005/0244449においては、単独で又は生体材料混合物で使用される人工骨生体材料用途のケイ素置換オキシアパタイト化合物(Si−OAp)の合成が、説明されている。そのケイ素置換オキシアパタイト化合物は、以下の構造を有する。
Ca5(PO43-X(SiO4X(1-X)/2 0<X<1.0である。
この材料の合成は、真空雰囲気の高温下において、ケイ素を含む合成リン酸カルシウム混合物の加熱を含むものであり、これにより、構造からすべてのヒドロキシル基が除去される。生成物は、ケイ素置換ヒドロキシアパタイトとは大きく異なる特性を有している。
【0007】
英国特許第395713号においては、ケイ素含有アパタイト単結晶の合成が説明されている。そのプロセスは、個々の結晶の長軸の長さが5〜500μmである、より一般的には20〜200μmである、単結晶を生成するものである。合成は、70〜150℃の間の温度にて実施され、リン酸オクタカルシウムが中間段階として利用される。生成物は、CO3 を含み、0.4〜2.4wt%、好ましくは0.5〜1wt%の範囲内にある少ないケイ素含有量である。Ca/Pモル比は、1:1.4〜1:2の範囲内にあり、Ca/(P+Si)モル比は、1:1.4から1:1.2の範囲内である。
【0008】
EP特許第1426066号においては、シリカ(SiO2 )、カルシア(CaO)及びヒドロキシアパタイトからなる混合物であって、一般的に67重量%がケイ素(SiO2 内)であるものを、反応させることなく、物理的に混合することについて、説明されている。3つの別個の酸化物化合物は、有機高分子マトリックス中に分布している。英国特許第2363115号においては、多孔性及び/又は多結晶性ケイ素からなるインプラント材料が説明されている。そのケイ素は、リン酸カルシウムセメント系や高分子を混ぜることが可能であり、リン酸カルシウムのマトリックス中に散在する別個の相として存在する。
【0009】
特開2002−137914号公報においては、優れたイオン交換能力と抗菌作用を有すると言われているケイ酸イオンを含むヒドロキシアパタイトが説明されている。そこで説明されている手法により得られる粉末は、か焼されておらず、化学量論レベル又はそれより高いCa/(P+Si)の比を有する。炭酸イオンが、電荷の平衡を保つために含められる。そのような粉末は、加熱においてCaO相を含むヒドロキシアパタイトを産生すると考えられている。
【0010】
Journal of Solid State Chemistry、181 (2008) 1950-1960、Palard et al. においては、二次相の存在なしに純粋なシリカ被覆ヒドロキシアパタイトを得ることの問題について、説明している。10/6のCa/(P+Si)の比を用いて、水性析出法により粉末が準備された。その粉末は、炭酸塩を含んでいた。か焼(calcination )において、炭酸塩を含まないアパタイトが得られた。か焼による生成物については、以下の化学式が使用されており、X>1であるSiXHA 粉末の性質は、X≦1であるものの性質と大きく異なることが報告されている。
Ca10(PO46-X(SiO4X(OH)2-X 0≦X≦2である。
先のケースでは、2つの相が700℃より同時に現れる。それらの相は、アパタイト及びリン酸トリカルシウムと同定されている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
明確にするために、アパタイト又はヒドロキシアパタイト材料へケイ素を組み込むことは、ケイ素又はケイ酸塩置換と呼ばれることがある。これらの語は、区別しないで用いられ得る。これは、上記置換が、実質的に、アパタイト又はヒドロキシアパタイト格子内におけるリン原子のケイ素原子への置換だからである(厳密に言えば、Si又はPは、中性原子(neutral atom)ではなくイオンとして構造内に存在する)。しかしながら、リン又はケイ素原子は常に酸素と結合しており、本発明においては、例えば、但し限定されるものではないが、SiO44- 又はPO43- イオンのリン酸塩又はケイ酸塩を形成している。
【0012】
一の態様において、本発明は、Ca/Pモル比が2.05〜2.55の範囲内であり、Ca/(P+Si)モル比が1.66未満である、無機ケイ酸塩置換リン酸カルシウムヒドロキシアパタイトを、提供する。好ましくは、ケイ素原子含有量が2.9〜6wt%である。一の実施形態において、本発明のヒドロキシアパタイトは、下記式(I)で表される。
Ca10-δ(PO46-X(SiO4X(OH)2-X (I)
ここで、1.1≦X≦2.0であり、また、δはカルシウム欠損であり、Ca/( P+Si)モル比は1.667未満となる。
【0013】
好ましくは1.2≦X≦2.0であり、より好ましくは1.4≦X≦2.0であり、最も好ましくは1.6≦X≦2.0である。一般に、化合物はヒドロキシルイオンを含むことが好ましい。
【0014】
本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトは、カルシウム、リン、酸素及び水素イオン、より厳密に言えばカルシウム、リン酸及びヒドロキシルイオンをも含むヒドロキシアパタイト相に、高いレベルのケイ素が組み込まれている。それらはヒドロキシアパタイト構造を呈し、好ましくはサブミクロンな結晶形態(sub-micron crystal morphology )を呈する。その場合、一体構造を呈し、粒界で分離している融合した粒状構造よりなるセラミックや生体セラミックとは分類されない。本発明の化合物は、好ましくは、焼結されていない材料の形態である。これは、合成の間、ヒドロキシアパタイトの焼結温度より低い温度で材料を加熱し、焼結が生じないようにすることによって、得られる。更に、本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトは、高温において熱的に不安定な傾向がある。それ故に、好ましくは、粉末又は粉末成形体(compacted powder)として用いられ、また、好ましくは、焼結されたセラミックヒドロキシアパタイトの手法によって融合されない。
【0015】
有利には、本発明のヒドロキシアパタイトは、ヒドロキシアパタイトセラミックス又は以前に報告されたケイ素置換ヒドロキシアパタイトセラミックスと比較して、高いレベルの溶解性を示すことが認められており、また、溶液内への浸漬中に高いレベルのケイ素を放出する。例えば、同様の実験条件で試験した場合、先行技術である材料と同様のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトセラミックスと比較して、本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトにおいては、10〜100倍のケイ素が放出される。また、本発明のヒドロキシアパタイトを、細胞培養液の如き生理溶液中に、好ましくは最大で48時間、浸漬せしめると、培養液中のカルシウムイオン濃度が驚くほど変化しない、又は増加することが認められている。これは、同じタイムスケールにおいて培養液のカルシウム含有量が減少する、ケイ素置換のレベルが低いヒドロキシアパタイトと、対照をなす。従って、本発明は、公知のヒドロキシアパタイトより活性の高い新規なヒドロキシアパタイトを提供することが出来る。骨刺激イオン(bone-stimulating ions )を、直ちに及び新たな骨の形成を刺激するような量において、放出可能であり、同時に、治療期間内に体内へ再吸収可能である。
【0016】
本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトにおけるケイ素原子含有量は、好ましくは少なくとも2.9wt%であり、より好ましくは少なくとも3.5wt%であり、最も好ましくは少なくとも5wt%である。これらの値は、それぞれ、ケイ酸塩(SiO4 )含有量の少なくとも9.5wt%、少なくとも11.5wt%、及び少なくとも16wt%と同等である。特に骨形成や骨代謝に用いられる生物医学的用途のためには、ヒドロキシアパタイトを溶液に浸した際に多量のケイ素が放出されるように、ケイ素含有量が多いことが望ましい。また、ヒドロキシアパタイトの特性は、ケイ素原子含有量が2.9wt%(ケイ酸塩で9.5wt%)又はそれより多い領域で、変化すると考えられている。ケイ素原子含有量の最大は、好ましくは6wt%(ケイ酸塩で20wt%)である。ケイ素原子含有量は、好ましくは3.5〜6wt%(ケイ酸塩で11.5〜20wt%)の範囲内であり、より好ましくは5〜6wt%(ケイ酸塩で16〜20wt%)の範囲内である。
【0017】
リン含有イオンに対するカルシウムのモル比(Ca/Pモル比)は、化学量論のヒドロキシアパタイトのそれ(10:6、又は1:0.6であり、若しくは1.67であるCa/Pモル比)より、又は、上述した、リン酸カルシウム内にケイ酸塩を組み込んだ先行材料より、大きい。従って、一の実施形態において、Ca/Pモル比は少なくとも2.05である。
【0018】
Ca/(P+Si)モル比は、1.66未満であり、好ましくは1.65より大きくない。これは、他のケイ酸塩含有ヒドロキシアパタイト合成物における、1.667というCa/(P+Si)モル比と比較して、著しく小さい。Ca/(P+Si)モル比は、好ましくは1.50〜1.65の範囲内であり、より好ましくは1.60〜1.65の範囲内であり、更に好ましくは1.60〜1.64の範囲内である。
【0019】
好ましくは、Ca/Pモル比は、少なくとも2.1であり、より好ましくは少なくとも2.2であり、最も好ましくは少なくとも2.3である。
【0020】
Ca/Pモル比及びCa/(P+Si)モル比をここで与えられた範囲内とすることにより、構造内に‘スペース’が与えられ、高いレベルでのケイ素又はケイ酸塩イオンの組み込みが可能となる。リン含有イオンに対するカルシウムのモル比(Ca/Pモル比と表現されている)が2.05未満(例えば、Ca/Pモル比が2.0、1.7又は1.4)であると、構造内には、多量のケイ素又はケイ酸塩イオンが存在するためには不十分な‘スペース’が生じるであろう。構造内においてケイ素が置き換わることが出来る唯一の場所は、リンである(カルシウム又はヒドロキシルイオンとは置き換わることが出来ず、直接的には酸素イオンと置き換わることが出来ない)。
【0021】
Ca/Pモル比の最大は2.55であり、好ましくは2.5である。2.55より高い比は可能であるが、付加的な相を出現させるであろう。従って、Ca/Pモル比は、2.05〜2.55の範囲内であり、好ましくは2.1〜2.55の範囲内であり、より好ましくは2.2〜2.5の範囲内であり、最も好ましくは2.3〜2.5の範囲内である。
【0022】
好ましくは、本発明のヒドロキシアパタイト材料は、炭酸イオン(CO3 )を含まない。炭酸イオンの最大不純物レベルは、ケイ酸及びリン酸イオンの総量に基づくモル比として、0.1%、より好ましくは0.01%である。それ故に、合成物中におけるリン酸塩(又はケイ酸塩)と炭酸塩との置換は、実質的に存在しない。
【0023】
好ましくは、ヒドロキシアパタイトは、結晶形態にあり、特に多結晶であり、例えば多結晶粒子である。結晶平均長軸長さ(crystallite average long-axis length)は、改善された溶解性のために5μm又はそれ未満とされ、好ましくは少なくとも0.05μmである。好ましくは、結晶長軸長さは0.05〜5μmの範囲内である。
【0024】
好ましくは、加熱後の粉末の比表面積は10〜90m2 /gの範囲内であり、より好ましくは20〜50m2 /gの間である。本発明に従って製造されるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト粉末の比表面積は、同じ温度で加熱したヒドロキシアパタイト(Ca/P=1.667であり、Siを含まず)粉末の比表面積よりも、著しく大きい。例えば、900℃の加熱後の、本発明に従って製造される一のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト粉末の比表面積は、27m2 /gであり、一方、対応する非置換ヒドロキシアパタイト粉末の比表面積は、13m2 /gである。本発明に従って製造される粉末の比表面積が大きいことは、例えば、但し限定されるものではないが、溶解性、タンパク質付着及び細胞接着に有益な効果をもたらすであろう。
【0025】
好ましくは、本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト粒子は、実質的に純粋な相である。これは、不純物相が実質的に存在しないことを意味する。そのため、例えば、X線回折において、回折パターンに二次相が認識されることなく、唯一の多結晶相が認識されるであろう。単一のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相の存在は、伝統的なX線回折解析を用いて、得られた回折パターンとヒドロキシアパタイトの一般的なパターンとを比較することにより、決定することが出来る。ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相の正確な回折ピーク位置は、一般的なヒドロキシアパタイトの回折ピーク位置と比較して、少しシフトする。これは、リン酸塩のケイ酸塩への置き換わりが、単位格子パラメータに変化を及ぼすからである。これは、少量のケイ酸塩置換について、以前に報告されている(例えば、I.R. Gibson et al 、J. Biomed. Mater. Res.、44(1999)422-428 )。ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトに組み込まれたケイ素又はケイ酸塩の量、及びケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトにおけるCa/Pモル比についても、化学的解析、例えば蛍光X線(XRF)を用いることによって、求めることが出来るであろう。本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト粒子は、XRFによって決定されるCa/(P+Si)モル比が1.66未満であり、好ましくは1.65より大きくなく、例えば1.64より大きくなく、また、Ca/Pモル比が2.05と2.55との間の範囲にあることにより、特徴付けられる。単一相を確実にするためのCa/(P+Si)モル比が1.667未満である合成物は、加熱において得られる。Ca/(P+Si)モル比を1.667とし、Ca/Pモル比を2.475とする設計(design)を用いることによって、900℃の加熱後の合成物は、Si含有HA相と、不純物相としてのCaOを含んでいるであろう。対照的に、Ca/(P+Si)モル比を1.65とし、Ca/Pモル比を2.475とする設計は、900℃の加熱後に、CaOも他の不純物相も存在しない単一のSi含有HA相を生じる。加熱処理がされたケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相のFTIR解析では、3565と3580cm-1との間にOH伸縮振動の存在が示されており、これは、構造内にある程度のヒドロキシル基が未だ存在することを示しており、また、材料が、未だにヒドロキシアパタイトの様な相(hydroxyapatite-like phase)であることが確認される。
【0026】
本発明のヒドロキシアパタイト多結晶粒子は、好ましくは実質的に不純物相を含まないものである一方、それらは、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトを含む材料に付加的な特性を導入することが可能な一又はそれ以上の成分を、粒子として混合することが可能である。そのような混合において、好ましくは、本発明のヒドロキシアパタイト粒子は、他の成分からなるマトリックス中に埋め込まれる。例えば、ヒドロキシアパタイトが生物医学的応用において用いられる際には、より複雑な生物医学材料が形成可能である。一の実施形態において、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相は、一又はそれ以上の他の有機及び/又は無機材料と混合可能であり、好ましい比(重量換算)は0.1:99.9〜99.9:0.1であり、より好ましくは1:100〜100:1である。
【0027】
本発明の化合物と混合可能な無機化合物は、炭酸カルシウム、ヒドロキシアパタイト、置換ヒドロキシアパタイト、リン酸トリカルシウム、硫酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、リン酸オクタカルシウム、非晶質リン酸カルシウム、ブルシャイト(brushite)、モネタイト(monetite)、リン酸テトラカルシウム、ピロリン酸カルシウム、バイオガラス、ケイ酸カルシウムガラス、ケイ酸カルシウムベースガラス(calcium silicate-based glass)、リン酸カルシウムガラス、リン酸カルシウムベースガラス(calcium phosphate-based glass )、ケイ酸カルシウムベースガラス−セラミック、リン酸カルシウムベースガラス−セラミック、生体活性ガラス、生体活性ガラス−セラミックス、生体適合性ガラス、生体適合性ガラス−セラミックス、アルミナ及びジルコニアを含むが、これらに限定されるものではない。
【0028】
本発明の化合物と混合可能な有機化合物は、高分子、天然高分子、合成高分子、生分解性高分子、糖類、タンパク質、ゲル、脂質、薬剤、成長因子、サイトカインを含むが、これらに限定されるものではない。有機化合物は、随意に、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ(乳酸−グリコール酸)、他の生分解性高分子、生分解性高分子の混合物、及び生分解性高分子のコポリマーの一つ又はそれ以上よりなるが、これらに限定されるものではない。天然高分子は、例えば、コラーゲン、キチン、キトサン、セルロース及びゼラチン、又は、高分子のこれらの属に含まれる特定のものの中から一又はそれ以上のものが使用され得るが、これらに限定されるものではない。
【0029】
本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトは、生物医学材料のような生体材料に、また、例えば、医療用インプラント材料として、再生医学の骨格として、或いは組織培養において細胞増殖をサポートするために、用いることが可能である。これらの生体材料は、粉末、細粒、バルク固体、又はこれらが組み合わされた形態である。‘粒子(powder )’とは、平均粒径が0.05〜100μmの範囲内にある粒子を表現しており、‘細粒(granules)’とは、平均粒径が100μm〜10mmの範囲内にある粒子を表現している。これらの生体材料の多孔性構造は、メソ多孔性、マイクロ多孔性、マクロ多孔性、又はこれらの組合せである。生体材料は、様々な技術に使用される基体(substrate )に塗り付けることが可能な被覆剤(coating )の形態であっても良い。好ましくは、本発明に従って製造される生体材料は、本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相を含み、X線回折によって観察される他の相を有するものではないが、本発明のヒドロキシアパタイトと、上述した無機及び/又は有機化合物の一又はそれ以上との混合物を形成するために、他の相が意図的に加えられても良い。
【0030】
他の態様において、本発明は、本発明に従うケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトからなる生物医学装置に関するものである。生物医学装置は、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトのみからなるものであっても、一又はそれ以上の無機及び/又は有機相を随意に含んでいても良い。生物医学装置は、細胞、タンパク質、mRNA及びDNAより選択される(但し、これらに限定されるものではない)、一又はそれ以上の生物学的存在(biological entities )と結び付けても良い。
【0031】
更なる態様において、本発明は、例えば医療用インプラントのような医療用具(medical device)への本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの使用に関するものである。そのような医療用具の例としては、骨格材料(scaffold material )、骨置換材料(bone replacement material )、骨インプラント(bone implant)、歯科インプラント(dental implant)、骨代用材(bone substitute )、歯代用材(dental implant)、軟組織代用材(soft tissue substitute)、薬物送達デバイス(drug delivery device)、細胞送達デバイス(cell delivery device)、細胞増殖基体(cell growth substrate )、医薬品(medicinal product )、有機−無機複合インプラントの構成要素、有機−無機複合骨格の構成要素、有機−無機複合骨代用材の構成要素、有機−無機複合脊椎ケージインプラント(spinal cage implant )の構成要素、有機−無機複合固定用スクリューインプラント(fixation screw implant)の構成要素、有機−無機複合固定用プレートインプラント(fixation plate implant)の構成要素、有機−無機複合固定用インプラント(fixation implant)の構成要素、有機−無機複合固定用具(fixation device )の構成要素、被覆剤、セメント、セメントの成分、フィラー、他の生物医学材料へのフィラーサプリメント(filler supplement )がある。
【0032】
更なる態様において、本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトにおける、水溶液に加えた際にpHを急激に上昇させる能力は、コラーゲン溶液のような(但し、限定されるものではない)高分子成分との複合物を形成するために、使用することが出来る。コラーゲン溶液と本発明のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトとを混ぜ合わせると、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトがコラーゲン溶液のゲル化をもたらすことによって、pHが上昇する。
【0033】
本発明に従うケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトは、また、他の分野において使用されても良い。かかる分野には、但し限定されるものではないが、クロマトグラフィーにおいて使用される材料、吸着による重金属の除去の如き浄化方法において使用される材料、及び触媒材料が含まれる。
【0034】
本発明の別の態様は、無機ケイ酸塩置換リン酸カルシウムヒドロキシアパタイトの製造方法にして、(a)カルシウム、リン及びケイ素を含み、Ca/Pモル比が2.05〜2.55の範囲内であり、Ca/(P+Si)モル比が1.66未満である反応物より、pHが少なくとも9で、ケイ酸塩置換アパタイトを沈殿する工程と、(b)その沈殿物を400〜1050℃の温度にてか焼する工程とを、含む無機ケイ酸塩置換リン酸カルシウムヒドロキシアパタイトの製造方法である。
【0035】
一般に、“アパタイト(apatite )”という語と、“ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)”という語は、区別しないで用いられ得る。“ヒドロキシアパタイト(hydroxyapatite)”は、しばしば、Ca10(PO46(OH)2 に注目させ、“アパタイト(apatite )”は、M10(XO46(L)2 という組成物の材料の総称(しばしば地質学上のミネラル)か、或いは、リン酸カルシウムの場合に、中間体又はヒドロキシアパタイトの非化学量論形態(non-stoichiometric form )を説明するために用いられる。明確にするために、本明細書においては、“ケイ酸塩置換アパタイト(silicate-substituted apatite)”という語は、合成工程の間の加熱前に生成する材料を表す。加熱において、より明確な組成の合成物が形成され、それ故に、ここでは“ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト(silicate-substituted hydroxyapatite )”と表現する。後者の術語(nomenclature)は、材料がケイ酸及びヒドロキシルイオンの両方を含有することを明確にするために用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0036】
反応物のCa/Pモル比が2.05と2.55との間であり、Ca/(P+Si)モル比が1.66未満、好ましくは1.65より大きくなく、多量のケイ酸イオンが添加され(ケイ素で2.9wt%〜6wt%、ケイ酸塩で9.5〜20wt%)、そして、加熱することによって、明確な量の付加的な相を含まない、本質的に純粋なケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相を製造することが出来る、ケイ酸塩置換アパタイトを製造する。
【0037】
反応物は、好ましくは、カルシウム及び水素イオン以外のカチオンを本質的に含んでおらず、また、好ましくは、リン酸、ケイ酸及びヒドロキシルイオン以外のアニオンを本質的含まない。沈殿反応は、好ましくは、水溶液条件において実施される。
【0038】
合成は、冒頭にカルシウムイオンの水溶液又は懸濁液を調製することを含んでいても良い。これにより、カルシウム塩や酸化カルシウムのようなカルシウム含有反応物を使用することになるであろう。これは、例えば、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム又は硝酸カルシウムである。また、カルシウム含有反応物の混合物も用いられるであろう。
【0039】
亜リン酸イオン(phosphorus ion)を含有する第二の溶液は、例えば、リン酸塩(phosphate salt)やリン酸(phosphate acid)などのリン含有反応物を使用して、調製されるであろう。これは、例えば、リン酸(phosphoric acid )、リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム又はリン酸ナトリウムである。また、リン含有反応物の混合物も用いられるであろう。
【0040】
反応物は、Ca/Pモル比が2.05と2.55との間になるような量において用いられる。この比がより大きいと、より少量のリン含有化合物が用いられ、置き換えられるケイ素又はケイ酸イオンの量がより多くなる。一の実施形態において、反応物のCa/Pモル比は少なくとも2.05であり、Ca/(P+Si)モル比は1.50〜1.65の範囲内、好ましくは1.60〜1.65、より好ましくは1.60〜1.64である。好ましくは、Ca/Pモル比は、少なくとも2.1であり、より好ましくは少なくとも2.2、最も好ましくは少なくとも2.3である。Ca/Pモル比の最大は2.55であり、好ましくは2.5である。2.55より高い比は可能であるが、付加的な相の出現を引き起こすかもしれない。従って、Ca/Pモル比は、2.05〜2.55の範囲内であり、好ましくは2.1〜2.55、より好ましくは2.2〜2.5、最も好ましくは2.3〜2.5である。
【0041】
本発明の方法における反応物のケイ素原子含有量は、好ましくは少なくとも2.9wt%であり、より好ましくは少なくとも3.5wt%であり、最も好ましくは少なくとも5wt%である。ケイ素原子含有量の最大は、好ましくは6wt%である。ケイ素原子含有量は、好ましくは3.5〜6wt%の範囲内であり、より好ましくは5〜6wt%の範囲内である。
【0042】
沈殿反応は、高濃度又は低濃度の溶液を用いて実施可能である。高濃度溶液では、より少量の反応溶液を用いて、より多くの生成物を得ることが可能となり、大規模な工程にとっては明確な恩恵となる。
【0043】
沈殿反応の間に、好ましくは、リン含有溶液(B)がカルシウム含有溶液/懸濁液(A)に加えられる。或いは、カルシウム含有溶液/懸濁液(A)がリン含有溶液(B)に加えられても良い。或いは、反応物(A)及び(B)が、反応槽に同時に加えられても良い。好ましくは、カルシウム含有溶液/懸濁液(A)にリン含有溶液(B)が加えられる際には、液滴、スプレー又は少量の一定分量などの分散形態において加えられる。カルシウム含有溶液/懸濁液は、他の反応物が添加される間、例えばマグネチックスターラを用いて撹拌される。これにより、反応混合物の部分的なpHが低くなり過ぎることはなく、常に全体としてアルカリ性が維持される。反応は、反応物が溶液又は懸濁液としてとどまる条件の下で実施され、好ましくは3〜95℃の温度範囲内において、より好ましくは10〜50℃、最も好ましくは15〜25℃又は室温にて、実施される。
【0044】
沈殿反応におけるケイ素は、ケイ素含有反応物、例えば、有機ケイ素化合物、ケイ酸塩(silicate salt )又はケイ酸(silicate acid )より供給されるであろう。それらは、但し限定されるものではないが、テトラエチルオルソシリケート、テトラメチルオルソシリケート、シリコンアセテート(silicon acetate )及びケイ酸を含む。或いは、ケイ素含有反応物の混合物を用いることも可能である。多数の方法により、ケイ素含有反応物の必要量が、反応混合物中に導入されるであろう。ケイ素含有反応物は、直接的に用いられても良いし、水、好ましくは脱イオン化水又は蒸留水に添加されて、或いは、例えばエタノールやアセトンのような有機溶媒に添加されて、或いは、アルカリ溶液又は酸性溶液に添加されて、用いられても良い。好ましくは、ケイ素含有反応物は直接、用いられる。例証目的のために、仮に、0.099モルの水酸化カルシウムと0.0417モルのリン酸を使用すると(Ca/Pモル比は2.37)、0.0183モルのテトラエチルオルソシリケートが使用され得る。これにより、1.65のCa/(P+Si)モル比が達成される。
【0045】
ケイ素含有反応物、又はケイ素含有反応物を含む溶液は、様々な方法において反応に加えられる。好ましくは、リン含有溶液(反応物B)の添加より先に、カルシウム含有溶液/懸濁液(反応物A)に加えられる。或いは、リン含有溶液(反応物B)に加え、その後にカルシウム含有溶液/懸濁液(反応物A)に加えても良い。他にも、リン含有溶液(反応物B)がカルシウム含有溶液/懸濁液(反応物A)に加えられた後に、ケイ素含有化合物又はケイ素含有化合物を含む溶液を反応混合物に加えることも可能である。また、ケイ素含有化合物又はケイ素含有化合物を含む溶液を、カルシウム含有溶液/懸濁液(反応物A)に対して、リン含有溶液(反応物B)と同時に加えても良い。
【0046】
沈殿反応の間、pHは、好ましくは9又はそれより上に保持され、好ましくは10又はそれより上である。pHの最大は13であり、好ましくは12である。pHは、9〜13の範囲内に保持され、好ましくは10〜12の範囲内である。本方法における、2.05〜2.55の範囲内にあるCa/Pモル比の使用は、ある実験条件の下、アンモニアのようなアルカリ/塩基を添加することなく、反応混合物のpHが高いpHであり、‘自己緩衝(self-buffered )’であることを意味する。合成に有害なアンモニア上記の除去が要求されないことから、環境面及び工業面の両方で重要な恩恵である。‘自己緩衝’な反応混合物とするために、反応物は選択され、それらの溶液中での挙動により塩基性条件となる。例えば、仮にカルシウム含有反応物が、水酸化カルシウム(Ca(OH)2 )、酸化カルシウム、又は溶液中でアルカリ性のpHを示すその他のカルシウム含有化合物であり、2.05と2.55との間のCa/Pモル比が使用されている場合、最大条件の下に(under most conditions )、‘自己緩衝(self-buffering)’反応物としての役割を果たすであろう。これにより、非常に高いpH(10より高い)の溶液を生成するかもしれない。Ca/Pモル比が2.05〜2.55の範囲内にあることから、リン含有イオン源がオルソリン酸、H3PO4であっても、反応混合物中では、リン酸と比較すると、アルカリ性の水酸化カルシウム又は酸化カルシウムは比較的過剰であり、それ故に、反応の終わりであっても、酸より多くのアルカリが存在する(即ち、これは、Ca/Pモル比が1.667であるヒドロキシアパタイトの合成において観察されるような、中和反応ではない)。仮に、pHを9〜13の範囲内に、好ましくは10〜12の範囲内に維持するための調整が必要とされる場合は、例えば水酸化アンモニウム溶液のような、適切なアルカリ/塩基が添加される。本明細書に示すCa/Pモル比を用いた全ての合成の具体例では、アルカリ/塩基の添加は要求されない。これは、合成が、常に、適切な高いpHにて自己緩衝であることを意味している。本発明の実施形態におけるこの側面は、大規模製造の容易性という重要な利点を有し(合成は、アンモニア蒸気を除去するための空気抽出を有さない、オープンな施設で行われるであろう)、また、反応の破棄物がアンモニアを含まないことから、環境管理の容易性という重要な利点をも有する。
【0047】
完全な反応物の添加に続いて、混合を確保するために一定の間、撹拌されるであろう。典型的な場合では1〜1000分間であり、好ましくは30〜360分間である。混合の後、沈殿した反応混合物は、反応を完全なものとする間、熟成される。これは、室温で、若しくは、より低い(凝固より大きい)又はより高い(沸点以下)温度で、及び、1時間から数週間未満、好ましくは10時間から7日間の間、より好ましくは16時間から3日間の間、実施可能である。熟成の後、反応混合物は、ろ液(液剤)と沈殿生成物とに分離される。これは、例えば適切な分離技術を用いて実施される。かかる技術には、ろ過、噴霧乾燥及び遠心分離が含まれるが、これらに限定されるものではない。収集した固形物は、室温又は高温にて、或いは、要求される乾燥度の生成物とするために乾燥器内において、乾燥される。この段階で、乾燥された生成物は、仮に粉末又は細粒に対するスプレー乾燥ではなくむしろ固形化した生成物としての乾燥であった場合には、ミルや粒径を小さくするための他の処理を用いて、粉末まで細かくされるか、又は、ミルや粒径を小さくするための他の処理を用いて、固形化した生成物を破砕して細粒まで細かくされても良く、その後、必要に応じてふるいにかけられる。一方で、固体バルク乾燥生成物として維持しても良い。
【0048】
乾燥されたケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相は、好ましくは空気雰囲気中で、か焼又は加熱される。これは、従来のセラミックの緻密化が生じることなく、結晶/粒子サイズを大きくするために、ヒドロキシアパタイトバイオセラミックスの一般的な焼結温度より低い温度にて実施される。か焼又は加熱温度は、1050℃以下であり、好ましくは1000℃以下、より好ましくは900℃以下である。最低温度は400℃、好ましくは600℃、より好ましくは700℃である。この温度は、400〜1050℃の範囲内で、好ましくは600〜1000℃の範囲内で、より好ましくは700〜1000℃の範囲内で、特に約700℃であり、例えば750〜1000℃である。温度は、ヒドロキシアパタイトバイオセラミックスの焼結温度より低いことが望ましい。1050℃より大きい温度にて材料を焼結すると、結晶サイズが急速に増大し、表面積が大きく減少し、及び、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトが相分解して多相の合成物となる可能性がある。か焼又は加熱工程は少なくとも1秒、好ましくは少なくとも1分、より好ましくは少なくとも10分、続く。か焼又は加熱工程の最大時間は200時間であるが、好ましくは600分、より好ましくは180分である。か焼又は加熱工程の時間は1秒〜200時間の範囲内、好ましくは1〜600分の範囲内、より好ましくは10〜180分の範囲内であり、要求される結晶径及び/又は表面積のレベルに基づいて選択される期間である。ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相は、固体生成物として、或いは、粉末又は細粒として、か焼することが出来る。一方、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトは、ろ液から沈殿したケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト化合物を分離した後に乾燥することなく、か焼又は加熱することが出来る。
【0049】
工程(b)において、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相は、水蒸気を含む雰囲気下においてか焼又は加熱される。これは、炉内に水又は水蒸気を含む空気を供給し、この空気を容器内に通過させることによって、達成されるであろう。化合物にはヒドロキシル基が補われ、或いは、存在するヒドロキシル基は、か焼/加熱の間、化合物にとどまることが助長される。
【0050】
本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの製造方法は、例えば、ゾル−ゲル法や熱水法に使用され得るが、これらに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、Ca/Pモル比が2.475であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約5.8wt%(ケイ酸塩で19wt%)であり、900℃で1時間、加熱したもののX線回折(XRD)パターンである。
【図2】本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、Ca/Pモル比が2.36であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約5.2wt%(ケイ酸塩で17.1wt%)であり、900℃で1時間、加熱したもののX線回折(XRD)パターンである。
【図3】本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、Ca/Pモル比が2.25であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約4.6wt%(ケイ酸塩で15.1wt%)であり、900℃で1時間、加熱したもののX線回折(XRD)パターンである。
【図4】図3のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトのFTIRスペクトルである。
【図5】本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、Ca/Pモル比が2.15であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約4.0wt%(ケイ酸塩で13.2wt%)であり、900℃で1時間、加熱したもののX線回折(XRD)パターンである。
【図6】図5のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトのFTIRスペクトルである。
【図7】本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、Ca/Pモル比が2.36であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約5.2wt%(ケイ酸塩で17.1wt%)であり、900℃で1時間、加熱したもののX線回折(XRD)パターンである。
【図8】本発明に係るケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、Ca/Pモル比が2.36であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約5.2wt%(ケイ酸塩で17.1wt%)であり、各々、600、700、800及び900℃の異なる温度で加熱したもののX線回折(XRD)パターンである。
【図9】比較上のケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、Ca/Pモル比が2.38であり、Ca/(P+Si)モル比が1.667であり、ケイ素含有量が約5.2wt%(ケイ酸塩で17.1wt%)であり、900℃で1時間、加熱したもののX線回折(XRD)パターンである。CaOの不純物相の存在を示している(矢印)。
【実施例】
【0052】
これより、以下の非限定的な実施例及び添付の図面を参照しながら、本発明を説明する。以下において、コントロール1は、Ca/Pモル比が1.67であり、ケイ素を含まないヒドロキシアパタイトであって、1000℃で1時間、加熱されたものである。コントロール2は、Ca/Pモル比が1.75であり、0.8wt%のケイ素を含む、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、1000℃で1時間、加熱されたものである。
【0053】
実施例1
Ca/Pモル比が2.475であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約5.8wt%(ケイ酸塩で19wt%)であるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの合成
0.495モルの水酸化カルシウム(36.679g)が、1000mlの脱イオン水に添加され、その水性懸濁液は、マグネチックスターラを用いて約10〜15分間、撹拌された。0.1モルのテトラエチルオルソシリケート(TEOS)(20.836g)が直接、撹拌している水酸化カルシウム懸濁液に添加された。この混合物は5〜10分間、撹拌された。0.2モルのオルトリン酸(85%濃度のリン酸の23.053g)が1000mlの脱イオン水に添加され、マグネチックスターラを用いて約5〜10分間、撹拌された。その後、リン酸溶液が滴下漏斗に入れられ、その液滴が、60〜120分を超える時間をかけて、水酸化カルシウム/TEOS懸濁液に加えられた。リン酸溶液の添加の後、反応混合物のpHを確認したところ、高いCa/Pモル比の反応物が使用されていることに起因して、pHが10より大きい状態であった。それ故に、アンモニアは添加されなかった。反応混合物は更に2時間、撹拌され、その後、約24時間、熟成された。全体の反応は室温で実施された。その後、懸濁液は、ブフナー漏斗、ろ紙及び真空ポンプを用いてろ過された。ろ液を除去して湿ったろ過ケーキが得られ、90℃の乾燥器内に約2日間、載置された。この後、乾燥したろ過ケーキが取り出され、乳鉢及び乳棒を用いて微粉にまで砕かれ、炉(chamber furnace )に載置され、大気雰囲気下、900℃で1時間、加熱された。2.5℃/minの加熱速度及び10℃/minの冷却速度が用いられた。X線回折(XRD)を用いた特性評価のために、加熱した粉末の微細な試料が用いられた。
【0054】
この試料のXRDパターンを図1に示す。全ての回折ピークは、二次相(secondary phase )が出現することなく、ヒドロキシアパタイトの一般的なパターンのピーク位置と一致することが観察される。回折ピーク位置は、ヒドロキシアパタイトと比較するとシフトしており、これは、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相の単位格子パラメータの変化を示唆している。幅広いピークは、小さな結晶を暗示している。
【0055】
実施例2
Ca/Pモル比が2.36であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約5.2wt%(ケイ酸塩で17.1wt%)であるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの合成
0.495モルの水酸化カルシウム(36.679g)が、1000mlの脱イオン水に添加され、その水性懸濁液は、マグネチックスターラを用いて約10〜15分間、撹拌された。0.09モルのテトラエチルオルソシリケート(TEOS)(18.750g)が直接、撹拌している水酸化カルシウム懸濁液に添加された。この混合物は5〜10分間、撹拌された。0.21モルのオルトリン酸(85%濃度のリン酸の24.215g)が1000mlの脱イオン水に添加され、マグネチックスターラを用いて約5〜10分間、撹拌された。その後、リン酸溶液が滴下漏斗に入れられ、その液滴が、60〜120分を超える時間をかけて、水酸化カルシウム/TEOS懸濁液に加えられた。リン酸溶液の添加の後、反応混合物のpHを確認したところ、高いCa/Pモル比の反応物が使用されていることに起因して、pHが10より大きい状態であった。それ故に、アンモニアは添加されかった。反応混合物は更に2時間、撹拌され、その後、約24時間、熟成された。全体の反応は室温で実施された。その後、懸濁液は、ブフナー漏斗、ろ紙及び真空ポンプを用いてろ過された。ろ液を除去して湿ったろ過ケーキが得られ、90℃の乾燥器内に約2日間、載置された。この後、乾燥したろ過ケーキが取り出され、乳鉢及び乳棒を用いて微粉にまで砕かれ、炉(chamber furnace )に載置され、大気雰囲気下、900℃で1時間、加熱された。2.5℃/minの加熱速度及び10℃/minの冷却速度が用いられた。X線回折(XRD)を用いた特性評価のために、加熱した粉末の微細な試料が用いられた。
【0056】
この試料のXRDパターンを図2に示す。全ての回折ピークは、二次相が出現することなく、ヒドロキシアパタイトの一般的なパターンのピーク位置と一致することが観察される。回折ピーク位置は、ヒドロキシアパタイトと比較するとシフトしており、これは、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相の単位格子パラメータの変化を示唆している。幅広いピークは、小さな結晶を暗示している。
【0057】
実施例3
Ca/Pモル比が2.25であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約4.6wt%(ケイ酸塩で15.1wt%)であるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの合成
0.495モルの水酸化カルシウム(36.678g)が、1000mlの脱イオン水に添加され、その水性懸濁液は、マグネチックスターラを用いて約10〜15分間、撹拌された。0.08モルのテトラエチルオルソシリケート(TEOS)(16.664g)が直接、撹拌している水酸化カルシウム懸濁液に添加された。この混合物は5〜10分間、撹拌された。0.22モルのオルトリン酸の重量が計られ(85%濃度のリン酸の25.362g)、これが1000mlの脱イオン水に添加され、マグネチックスターラを用いて約5〜10分間、撹拌された。その後、リン酸溶液は滴下漏斗に入れられ、その液滴が、60〜120分を超える時間をかけて、水酸化カルシウム/TEOS懸濁液に加えられた。リン酸溶液の添加の後、反応混合物のpHを確認したところ、高いCa/Pモル比の反応物が使用されていることに起因して、pHが10より大きい状態であった。それ故に、アンモニアは添加されなかった。反応混合物は更に2時間、撹拌され、その後、約24時間、熟成された。全体の反応は室温で実施された。その後、懸濁液は、ブフナー漏斗、ろ紙及び真空ポンプを用いてろ過された。ろ液を除去して湿ったろ過ケーキが得られ、90℃の乾燥器内に約2日間、載置された。この後、乾燥したろ過ケーキが取り出され、乳鉢及び乳棒を用いて微粉にまで砕かれ、炉(chamber furnace )に載置され、大気雰囲気下、900℃で1時間、加熱された。2.5℃/minの加熱速度及び10℃/minの冷却速度を用いられた。X線回折(XRD)及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いた特性評価のために、加熱した粉末の微細な試料が用いられた。
【0058】
この試料のXRDパターンを図3に示す。全ての回折ピークは、二次相が出現することなく、ヒドロキシアパタイトの一般的なパターンのピーク位置と一致することが観察される。回折ピーク位置は、ヒドロキシアパタイトと比較するとシフトしており、これは、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相の単位格子パラメータの変化を示唆している。幅広いピークは、小さな結晶を暗示している。
【0059】
このケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相の単位格子パラメータ、及び、Ca/Pモル比が1.67であり、ケイ素が添加されていない化学量論的なヒドロキシアパタイトであって、1000℃で1時間、加熱されたもの(コントロール1)の単位格子パラメータは、リードベル法ソフトウェアパッケージ(Rietveld refinement software package)を用いて決定し、その結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト相のFTIRスペクトルを図4に示す。約3571cm-1におけるピークは、ヒドロキシル伸縮振動に対応し、材料が構造内にヒドロキシル基を含むことを示しており、そのためにヒドロキシアパタイト相として分類されるのである。約997、893、828、810、760、687、529、510cm-1におけるピークは、ケイ酸塩置換の結果である振動に対応する。
【0062】
実施例4
Ca/Pモル比が2.15であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約4.0wt%(ケイ酸塩で13.2wt%)であるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの合成
0.495モルの水酸化カルシウム(36.679g)が、1000mlの脱イオン水に添加され、その水性懸濁液は、マグネチックスターラを用いて約10〜15分間、撹拌された。0.07モルのテトラエチルオルソシリケート(TEOS)(14.583g)が直接、撹拌している水酸化カルシウム懸濁液に添加された。この混合物は5〜10分間、撹拌された。0.23モルのオルトリン酸の重量が計られ(85%濃度のリン酸の26.516)、これが1000mlの脱イオン水に添加され、マグネチックスターラを用いて約5〜10分間、撹拌された。その後、リン酸溶液が滴下漏斗に入れられ、その液滴が、45〜60分を超える時間をかけて、水酸化カルシウム/TEOS懸濁液に加えられた。リン酸溶液の添加の後、反応混合物のpHを確認したところ、高いCa/Pモル比の反応物が使用されていることに起因して、pHが10より大きい状態であった。それ故に、アンモニアは添加されなかった。反応混合物は更に2時間、撹拌され、その後、約24時間、熟成された。全体の反応は室温で実施された。その後、懸濁液は、ブフナー漏斗、ろ紙及び真空ポンプを用いてろ過された。ろ液を除去して湿ったろ過ケーキが得られ、90℃の乾燥器内に約2日間、載置された。この後、乾燥したろ過ケーキが取り出され、乳鉢及び乳棒を用いて微粉にまで砕かれ、炉(chamber furnace )に載置され、大気雰囲気下、900℃で1時間、加熱された。2.5℃/minの加熱速度及び10℃/minの冷却速度が用いられた。X線回折(XRD)及びフーリエ変換赤外分光法(FTIR)を用いた特性評価のために、加熱した粉末の微細な試料を用いられた。
【0063】
この試料のXRDパターンを図5に示す。全ての回折ピークは、二次相が出現することなく、ヒドロキシアパタイトの一般的なパターンのピーク位置と一致することが観察される。回折ピーク位置は、ヒドロキシアパタイトと比較するとシフトしており、これは、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの様な相(silicate-substituted hydroxyapatite-like phase)の単位格子パラメータの変化を示唆している。幅広いピークは、小さな結晶を暗示している。
【0064】
このケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの様な相の単位格子パラメータ、及び、Ca/Pモル比が1.67であり、ケイ素が添加されていない化学量論的なヒドロキシアパタイトであって、1000℃で1時間、加熱されたもの(コントロール1)の単位格子パラメータは、リードベル法ソフトウェアパッケージを用いて決定し、その結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの様な相のFTIRスペクトルを図6に示す。約3570cm-1におけるピークは、ヒドロキシル伸縮振動に対応し、材料が構造内にヒドロキシル基を含むことを示しており、そのためにヒドロキシアパタイトの様な相として分類されるのである。約997、893、828、810、760、687、529、510cm-1におけるピークは、ケイ酸塩置換の結果である振動に対応する。
【0067】
実施例5
Ca/Pモル比が2.05〜2.55の間にあり、ケイ素含有量が3〜6重量%(ケイ酸塩で9.5〜20wt%)の間にあるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの相対的な溶解性の測定
実施例1及び4の加熱処理を施した試料、ヒドロキシアパタイトのコントロール試料(Ca/Pモル比=1.67、ケイ素含有せず、1000℃で加熱処理、コントロール1)、及び、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイト(Ca/Pモル比=1.75、0.8重量%のケイ素、1000℃で加熱処理、コントロール2)の粉末について、生理溶液に浸漬するとどの程度の量のケイ素を放出するか測定するために、テストが行われた。各粉末は、粒径を小さくするためにボールミルで粉砕された。各試料について、その一部(0.5g)が、滅菌プラスチックボトル内の50mlのDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(DMEM、一般的な細胞培養液)に添加された。ボトルは室温下のオービタルシェーカー(orbital shaker)上に載置され、粉末と溶液とを絶え間なく混合された。これは室温下で行われた。適当な時点の後、溶液が取り出され、0.2μmのフィルターに通された。その後、ろ過された溶液をICP−OES(誘導結合プラズマ発光分光分析)によって解析し、溶液内のケイ素イオン(silicon ion )及びカルシウムイオンが測定された。
【0068】
実施例1、コントロール1及びコントロール2について、1時間、浸漬した後のSiイオン濃度(μg/ml、ppmに相当する)の結果を、表3に示す。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例1、コントロール1及び2の合成物を1時間、浸漬した後の、DMEM培養液のCaイオン濃度(μg/ml、ppmに相当する)の結果を、表4に示す。
【0071】
【表4】

【0072】
実施例4、コントロール1及びコントロール2について、1日、浸漬した後のSiイオン濃度(μg/ml、ppmに相当する)の結果を、表5に示す。
【0073】
【表5】

【0074】
実施例4、コントロール1及び2の合成物を1日、浸漬した後の、DMEM培養液のCaイオン濃度(μg/ml、ppmに相当する)の結果を、表6に示す。
【0075】
【表6】

【0076】
実施例6
高濃度の反応物を用いた、Ca/Pモル比が2.475であり、Ca/(P+Si)モル比が1.65であり、ケイ素含有量が約5.8wt%(ケイ酸塩で19wt%)であるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの合成
実施例1〜4で説明した沈殿反応は、より高濃度の又はより低濃度の溶液を用いても実施可能である。例えば、実施例1の4倍の濃度であるCa/Pモル比が2.475である場合について、0.495モルの水酸化カルシウム(36.679g)が250mlの水に添加され、好ましくは、脱イオン水又は蒸留水(反応物A)及び0.2モルのリン酸(23.053g)が250mlの水に添加され、好ましくは脱イオン水又は蒸留水(反応部B)である。この例において、用いられるテトラエチルオルソシリケートの量は0.1モル(20.836g)であり、これは反応物Aに添加される。これにより、より少量の反応溶液を用いて、より多くの生成物を得ることが可能となり、大規模製造にとって明確な恩恵をもたらす。沈殿プロセス及びそれに続く製造工程は、実施例1〜4において説明したものと同様である。より高濃度の反応物の使用は、効果的な反応混合物の撹拌を要求するが、同程度のレベルの生成物を得るためにはより少ない量の反応溶液で足り、また、リン酸溶液をCa(OH)2 /TEOS溶液/懸濁液に添加するために要求される時間を短くする。沈殿は、全く同一の条件を用いて3回、繰り返され、合成1、合成2、合成3と名付けた1回分が製造された。
【0077】
この具体的な実施例では、生成物は900℃で1時間、加熱された。この試料(合成1)のXRDパターンを、図7に示す。データは、他の図に示されたデータよりもより長時間に亘って収集された。全ての回折ピークは、二次相が出現することなく、ヒドロキシアパタイトの一般的なパターンのピーク位置と一致することが観察される。回折ピーク位置は、ヒドロキシアパタイトと比較するとシフトしており、これは、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの様な相の単位格子パラメータの変化を示唆している。幅広いピークは小さな結晶を暗示し、ピーク位置はアパタイトの様な相(apatite-like phase)を暗示している。
【0078】
3倍の試料についての蛍光X線測定によりCa、P及びSiの量が測定され、設計値と比較され、その結果が表7に示されている。合成物に組み込まれたケイ素(又はケイ酸塩)の量は、理論値と同程度であり、類似している。Ca/Pモル比及びCa/(P+Si)モル比は、3つの独立した合成間で全て同程度であり、若干、設計値より低い。このデータ及びXRDのデータより、900℃の加熱後に例えば5.8wt%のケイ素を含む単相の材料を製造するためには、1.667未満のCa/(P+Si)モル比(HAの標準値であり、他者は低レベルのSi置換のSi−HA材料を報告している)が要求される。例えば、Ca/(P+Si)モル比が1.65である設計での合成では、不純物を含まない単相が得られるのであり、これは、生成物の実際のCa/(P+Si)モル比が1.63であるということになる。設計上のCa/(P+Si)モル比が1.667であり不純物相が得られた例は、実施例8にある。
【0079】
【表7】

【0080】
実施例7
設計上のCa/Pモル比が2.36、Ca/(P+Si)モル比が1.65、ケイ素含有量が約5.2wt%(ケイ酸塩で17.1wt%)であるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトであって、600〜900℃で加熱されたものの合成
実施例2のプロセスが、同様のCa/Pモル比及びケイ素含有量にて4回、繰り返され、各回において、最終の加熱工程がそれぞれ600、700、800、900℃の異なる温度とされた。2.5℃/minの加熱速度及び10℃/minの冷却速度が用いられた。個々の温度にて加熱された各粉末の試料が、X線回折(XRD)を用いた特性評価のために用いられた。
【0081】
この試料のXRDパターンを図8に示す。全ての回折ピークは、二次相が出現することなく、ヒドロキシアパタイトの一般的なパターンのピーク位置と一致することが観察される。回折ピーク位置は、ヒドロキシアパタイトと比較するとシフトしており、これは、ケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの様な相の単位格子パラメータの変化を示唆している。加熱温度が上昇するに従って、ピークは狭くなっていき、これは、結晶サイズの増大を暗示している。特定の加熱温度を選択することにより、材料の結晶サイズを制御可能である。
【0082】
実施例8
Ca/Pモル比が2.38であり、Ca/(P+Si)モル比が1.667であり、ケイ素含有量が約5.2wt%(ケイ酸塩で17.1wt%)であるケイ酸塩置換ヒドロキシアパタイトの合成
0.5モルの水酸化カルシウム(37.049g)が、1000mlの脱イオン水に添加され、その水性懸濁液は、マグネチックスターラを用いて約10〜15分間、撹拌された。0.09モルのテトラエチルオルソシリケート(TEOS)(18.750g)が直接、撹拌している水酸化カルシウム懸濁液に添加された。この混合物は5〜10分間、撹拌された。0.21モルのオルトリン酸(85%濃度のリン酸の24.215g)が1000mlの脱イオン水に添加され、マグネチックスターラを用いて約5〜10分間、撹拌された。その後、リン酸溶液が滴下漏斗に入れられ、その液滴が、60〜120分を超える時間をかけて、水酸化カルシウム/TEOS懸濁液に加えられた。リン酸溶液の添加の後、反応混合物のpHを確認したところ、高いCa/Pモル比の反応物が使用されていることに起因して、pHが10より大きい状態であった。それ故に、アンモニアは添加されなかった。反応混合物は更に2時間、撹拌され、その後、約24時間、熟成された。全体の反応は室温で実施された。その後、懸濁液は、ブフナー漏斗、ろ紙及び真空ポンプを用いてろ過された。ろ液を除去して湿ったろ過ケーキが得られ、90℃の乾燥器内に約2日間、載置された。この後、乾燥したろ過ケーキが取り出され、乳鉢及び乳棒を用いて微粉にまで砕かれ、炉(chamber furnace )に載置され、大気雰囲気下、900℃で1時間、加熱された。2.5℃/minの加熱速度及び10℃/minの冷却速度が用いられた。X線回折(XRD)を用いた特性評価のために、加熱した粉末の微細な試料が用いられた。
【0083】
この試料のXRDパターンを図9に示す。回折ピークが、ヒドロキシアパタイトの一般的なパターンのピーク位置か、又は、酸化カルシウムの第2相のものと一致することが観察される(例えば、2θが約37.5°、矢印を付す)。この結果を、実施例2、図2で得られるものと比較すると、同様の量のSiが添加されて製造されているが、設計されたCa/(P+Si)モル比は1.65である。この例は、設計Ca/(P+Si)モル比が1.667とされると、単相の生成物が得られず、設計比が1.65である場合(実施例2)とは異なり、図9の如きHAの様な相(HA-like phase )とCaOが得られることを、明らかにする。同様に、実施例1、3、4と同様の合成物であって、設計Ca/(P+Si)モル比が1.65よりむしろ1.667であるものを製造すると、例えば900℃の加熱においてCaOの不純物相も得られる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
Ca/Pモル比が2.05〜2.55の範囲内であり、Ca/(P+Si)モル比が1.66未満である、無機ケイ酸塩置換リン酸カルシウムヒドロキシアパタイト。
【請求項2】
ケイ素原子含有量が、2.9〜6wt%である請求項1に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項3】
ケイ素原子含有量が、3.5〜6wt%である請求項2に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項4】
ケイ素原子含有量が、5〜6wt%である請求項3に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項5】
結晶形態にある先行する請求項の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項6】
実質的に不純物相が、存在しない先行する請求項の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項7】
平均結晶長軸長さが、0.05〜5μmの範囲内である請求項5又は請求項6に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項8】
前記Ca/Pモル比が、2.1〜2.55の範囲内である先行する請求項の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項9】
前記Ca/Pモル比が、2.2〜2.5の範囲内である請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項10】
前記Ca/Pモル比が、2.3〜2.5の範囲内である請求項1乃至請求項7の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項11】
前記Ca/(P+Si)モル比が、1.65より大きくない請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項12】
前記Ca/(P+Si)モル比が、1.50〜1.65の範囲内である請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項13】
前記Ca/(P+Si)モル比が、1.60〜1.64の範囲内である請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項14】
炭酸イオンを実質的に含まない請求項1乃至請求項10の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイト。
【請求項15】
請求項1乃至請求項14の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイトと、少なくとも他の一つの成分との混合物からなる組成物。
【請求項16】
無機ケイ酸塩置換リン酸カルシウムヒドロキシアパタイトの製造方法にして、
(a)カルシウム、リン及びケイ素を含み、Ca/Pモル比が2.05〜2.55の範囲内であり、Ca/(P+Si)モル比が1.66未満である反応物より、pHが少なくとも9で、ケイ酸塩置換アパタイトを沈殿する工程と、
(b)その沈殿物を400〜1050℃の温度にてか焼する工程とを、
含む無機ケイ酸塩置換リン酸カルシウムヒドロキシアパタイトの製造方法。
【請求項17】
前記反応物中のケイ素原子含有量が、2.9〜6wt%である請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記沈殿物を熟成する工程を含む請求項16又は請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記反応物が、カルシウム塩、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムであるカルシウム含有反応物を含む請求項16乃至請求項18の何れか1項に記載の方法。
【請求項20】
前記カルシウム含有反応物が、水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム及び硝酸カルシウムより選ばれたものである請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記カルシウム含有反応物が、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムであって、pHが少なくとも10で維持された沈殿反応が生じる請求項20に記載の方法。
【請求項22】
反応物が、リン酸塩又はリン酸であるリン含有反応物を含む請求項16乃至請求項21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
反応物が、有機ケイ素化合物、ケイ酸塩又はケイ酸であるケイ素含有反応物を含む請求項16乃至請求項22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
沈殿反応のpHが9〜13の範囲内に、好ましくは10〜12の範囲内に維持される請求項16乃至請求項23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
か焼温度が600〜1000℃の範囲内、好ましくは700〜900℃の範囲内である
請求項16乃至請求項24の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記沈殿物が1〜600分間、好ましくは10〜180分間、か焼される請求項16乃
至請求項25の何れか1項に記載の方法。
【請求項27】
工程(b)において、前記沈殿物が水蒸気を含む雰囲気下においてか焼される請求項1
6乃至請求項26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
リン含有反応物を添加する前に、カルシウム含有反応物にケイ素含有反応物を添加する請求項16乃至請求項27の何れか1項に記載の方法。
【請求項29】
前記Ca/Pモル比が2.1〜2.55の範囲内である請求項16乃至請求項28の何れか1項に記載の方法。
【請求項30】
前記Ca/Pモル比が2.2〜2.5の範囲内である請求項16乃至請求項28の何れか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記Ca/(P+Si)モル比が1.65より大きくない請求項12乃至請求項16の何れか1項に記載の方法。
【請求項32】
前記Ca/(P+Si)モル比が1.50〜1.65の範囲内である請求項16乃至請求項31の何れか1項に記載の方法。
【請求項33】
前記Ca/(P+Si)モル比が1.60〜1.64の範囲内である請求項16乃至請求項32の何れか1項に記載の方法。
【請求項34】
請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイトを含む生体医用材料。
【請求項35】
請求項1乃至請求項15の何れか1項に記載のヒドロキシアパタイトを含む医療用具。
【請求項36】
医療用インプラント、骨格材料、骨置換材料、骨インプラント、歯科インプラント、骨代用材、歯代用材、軟組織代用材、薬物送達デバイス、細胞送達デバイス、細胞増殖基体、医薬品、有機−無機複合インプラントの構成要素、有機−無機複合骨格の構成要素、有機−無機複合骨代用材の構成要素、有機−無機複合脊椎ケージインプラントの構成要素、有機−無機複合固定用スクリューインプラントの構成要素、有機−無機複合固定用プレートインプラントの構成要素、有機−無機複合固定用インプラントの構成要素、有機−無機複合固定用具の構成要素、被覆剤、セメント、セメントの成分、フィラー、又は他の生物医学材料へのフィラーサプリメントである請求項35に記載の医療用具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2012−514573(P2012−514573A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544918(P2011−544918)
【出願日】平成21年12月23日(2009.12.23)
【国際出願番号】PCT/GB2009/002954
【国際公開番号】WO2010/079316
【国際公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(511165843)ザ ユニバーシティー コート オブ ザ ユニバーシティー オブ アバーディーン (1)
【氏名又は名称原語表記】THE UNIVERSITY COURT OF THE UNIVERSITY OF ABERDEEN
【住所又は居所原語表記】Regent Walk,Aberdeen,Aberdeenshire AB24 3FX,United Kingdom
【Fターム(参考)】