説明

ゲッタ層と調整サブ層とを備える構造および製造方法

【解決手段】構造は、少なくとも一つの装置、例えば超小型電子チップと、制御された気圧の下で基板(2)と封止カバーとによって画定されたキャビティ内に配設された少なくとも一つのゲッタ(6)と、を備える。ゲッタ(6)は、好ましくは金属性の少なくとも一層のゲッタ層(7)と、調整サブ層(8)とを含む。調整サブ層は、基板(2)上に純金属から形成され、ゲッタ層(7)と基板との間に配置される。調整サブ層(8)は、ゲッタ層(7)の活性化温度を調節するように設計される。ゲッタ層(7)は2層の基本ゲッタ層(7a,7b)を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制御された気圧の下で密閉されたキャビティ(cavity)を備える構造であって、該構造内に少なくとも一つの装置とゲッタとが配設され、該ゲッタが少なくとも一つのゲッタ層を含み、上記キャビティが基板と封止カバーとによって画定される構造に関する。
【背景技術】
【0002】
真空内での集積は、多数の装置、例えばマイクロ電気機械システム(MEMS)のような超小型電子装置の性能の改善を可能にする。しかしながら、真空中でのカプセル封止の使用は、多くの問題、特に、時間の経過に対する真空レベルの維持と封止された雰囲気の質の維持という問題を引き起こす。
【0003】
この方向において、薄膜内に堆積された不揮発性ゲッタ(NEG)材料は、多数の文献の主題となってきた。これらの材料は、酸素、水素化物の形成により、またはその反面、単純な表面吸着により、自身が接触する膨大なガスに反応してこれを捕獲する。このように、真空のキャビティを画定する物質の脱離は、他の材料の脱着した要素に吸着し、かつ/またはこれを吸収するゲッタ材料により補償される。
【0004】
カプセル封止の構造内で不揮発性のゲッタ材料を集積することは、特に、特許文献1に記載されている。この特許は、保護層で覆われた反応層を備えるゲッタを基板上で使用することを記述する。この文献において、保護層は、反応層が周囲温度において外部環境と反応することを防止する。ゲッタの反応層は、その活性化温度がある温度、すなわち、その温度を超えると反応層の原子が保護層を貫いて拡散し、周囲環境のガスの一部を吸収するという温度に達したときにのみ動作する。活性化温度は、ゲッタ材料に固有の特性である。
【0005】
通常、既知の単層または多層のゲッタは、設定された温度範囲に限定された吸収能力または吸着能力を有する。マイクロシステムの分野では、装置の製造に不可欠な技術方法によって課される制約に適用可能なゲッタ材料を処理できることが利点である。このような制約は温度の場合があり、この場合は、ゲッタ材料の活性化温度と、例えば密閉された2つの基板の封止により密閉されたキャビティの作成プロセスとの間でマッチングが行われなければならない。さらに、ゲッタ材料は、その密閉されたキャビティ内で装置が使用される時に同時に反応性を残しつつ、該装置の作製に使用される、ガスを含む環境に耐え得るものでなければならない。
【0006】
特許文献2は、パラジウム膜上に堆積されたチタン膜によって構成される薄膜の形態で、基板上にゲッタを製造することを記述する。このチタンゲッタ膜はアルミニウムまたは銅で形成される電磁シールド層上に形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第6,923,625号公報
【特許文献2】国際公開第03/028096号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、要求される温度範囲内で最適のポンピング能力をゲッタが提供する構造を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、この目的は、ゲッタ層の活性化温度の調整サブ層が、該ゲッタ層と、基板および/または封止カバーと、の間に配置されて、前記サブ層(8)は前記基板および/または前記封止カバーの上に形成され、上記ゲッタ層が、上記調整サブ層の上方に配設された異なる組成の複数のエレメンタリ(elementary)ゲッタ層によって形成される、という事実により達成される。
【0010】
本発明の更なる目的は、このような構造を製造する方法を提供することにある。
【0011】
他の利点および特徴は、非制限的な例示の目的のためにのみ与えられ、添付の図面に示された以下の本発明の特定の実施の形態の記述から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】従来の技術による構造の断面図を示す。
【図2】本発明に係る構造の断面図を示す。
【図3】本発明に係る構造の断面図を示す。
【図4】本発明に係る構造の多層ゲッタの積層体の断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図2に示すように、構造1は、超小型電子チップとなり得るものであり、通常、少なくとも一つの装置3を備える。装置3は、例えば超小型電子タイプであり、2つの基板2および4により、かつ、周辺の密閉された封止接合5によって画定される封止されたキャビティ内に配設される。キャビティの緊密性は、上記両基板の間に配置されて装置3を取り囲む封止接合5によって提供される。超小型電子装置3は、例えば第1の基板2上に形成される。キャビティは、一般的に、外気に対して負圧であり、好ましくは、真空で、または、窒素もしくはアルゴンの制御された圧力下にある。
【0014】
従来から、キャビティの高さは、装置3を取り囲む封止接合5の高さにより規定される(図1)。しかしながら、キャビティの容積を増大させるように、第2の基板4は、より薄い中央部分を有するカバーをなすように構築されることができる。
【0015】
第2の基板4は、例えばシリコン、酸化もしくは窒化シリコン、またはガラスから形成される。第1の基板2は、ガリウムヒ素(GaAs)を除けば、例えばシリコン、または他のどのような半導体材料から、または、すでに形成された装置がその上に集積化され得る他の材料から形成される。
【0016】
図3に示す他の実施の形態において、構造1は、基板2によって、および、カプセル封止層11によって画定され緊密に封止され密閉されたキャビティを備える。次に、該構造の緊密さは、カプセル封止層11と基板2との間の接着により保証される。それから、カプセル封止層は、図1の基板4のように、封止カバーとして機能する。該封止カバーは、カプセル封止層に加えて他の層を備えることができる。図3に示す実施の形態において、キャビティの高さは、基板上に堆積された犠牲材料12の厚さによって規定される。
【0017】
上記負圧のレベルの永続性および/またはキャビティ内の雰囲気の質の永続性を保証するために、キャビティは、その内壁の少なくとも一つに少なくとも一つのゲッタ6を備える。ゲッタ6は、多層タイプであって、基板2または4のいずれかとゲッタ層7との間に配置される少なくとも一つの調整サブ層8を備え、ゲッタ層7は、通常、吸収剤および/または吸収層を形成する。ゲッタ層7は、例えば、好ましくは高い窒素ポンピング能力を有するように選択された金属材料から形成される。この気体は、一般的に装置のカプセル封止に使用される。複数のゲッタ6が互いに異なる活性化温度を提供する場合は、これらゲッタ6を、例えばゲッタ6をゲッタ6aおよび追加のゲッタ6b(図3および4)、または第1のゲッタ6aおよび第2のゲッタ6bに分離して区別すると好都合である。
【0018】
例えば、図4において、ゲッタ6が基板2上に形成される。調整サブ層8より先に、接着サブ層9が基板2の上に堆積されると好都合である。接着サブ層9は、基板2上の調整サブ層8の接着力を高めるよう設計されると好都合である。シリコン基板については、接着サブ層9は通常、例えばチタンまたはジルコニウムから、なんらかの適切な技術を用いて形成され、20nmと100nmとの間に含まれる厚さを提供すると好都合である。
【0019】
ゲッタ層7の真下でこれに接するように配置された調整サブ層8は、ゲッタ層の活性化温度を調節可能にするように、すなわち、キャビティ内に存在する空気にゲッタ層が反応する温度を調節可能にするように設計される。調整サブ層8は、好ましくは、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、白金(Pt)、銀(Ag)、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、金(Au)、アルミニウム(Al)から形成され、ゲッタ層7aの厚さが約数百ナノメートルであるとき、好ましくは50nmと500nmとの間に含まれる厚さを提供し、通常は100nmと2000nmとの間に含まれる厚さを提供する。調整サブ層の厚さは、数十ナノメートル、通常は10nmと90nmとの間、ゲッタ層7aの厚さが約数百ナノメートルであるときは通常100nmと900nmとの間にまで低減されることができる。例えば、300nmのゲッタ層7aについては30nmの調整サブ層8で十分である。調整サブ層8の最小の厚さは、概略的に、ゲッタ層7aの厚さの5%と10%の間であり、例えば8%に等しい。より一般的には、調整サブ層8は、例えば、パラジウムを除き、純物質の状態で堆積されて、例えば白金のように、要求される活性化範囲内のゲッタ層7に関して化学的に中立である金属材料から形成される。調整サブ層8は、ゲッタ層7との相互作用の後に、中立的になる物質、または、ある種の化学種、例えば酸素に対してトラップとなる材料から形成されることもできる。とりわけ銅またはニッケルの場合はそうであり、これらは、チタニウムのゲッタ層とともにTiCuタイプまたはTiNiタイプの金属間化合物、酸素が部分的に溶解可能な化合物を形成することができる。調整サブ層8は、炭素、酸素および窒素のうちからの一つまたは複数の化学元素に対して強い化学親和力を有する材料から形成されることもできる。サブ層は、例えばクロムまたはアルミニウムから形成されることができる。この場合、アルミニウムサブ層8は、外気に曝されるとゲッタ層7用の保護物として機能し、これにより、サブ層8が酸化被膜の成長を妨げるので、ゲッタの特性に障害を及ぼすことなくゲッタの保管時間を伸ばす。この構造は、数ヶ月に亘って外気へ露出した後でも不変のポンピング能力を取得する上で特に有利である。
【0020】
アルミニウムサブ層が存在すると、ゲッタは、その使用に先立つなんらの前処理を行うことなく直接活性になる。アルミニウム調整サブ層8とチタニウムゲッタ層7aから成る、ゲッタの積層体の活性化温度は、約400℃である。
【0021】
さらに、特定の実施の形態においては、ゲッタを保護するために、ゲッタ層7の上に保護層10を配設可能である。これにより、ゲッタ6は、長期に亘って外気に曝された後もそのポンピング能力を維持することができ、または、ゲッタ6にダメージを与え得る積極的な技術的プロセスから保護されることができる。例えば、もしも、アルミニウム調整サブ層8が、ゲッタ6が外気から保護されることを可能にするなら、保護層10として作動するクロムの薄膜がゲッタ層7の上に使用され得る。例えばクロムから形成される保護層10の厚さは、10nmと50nmとの間に含まれることが可能で、20nmに等しいと有利である。保護層10を追加することは、ゲッタの活性化温度をわずかに、20nmのクロム層では通常約摂氏20度分だけ上昇させることに寄与する。
【0022】
他の実施の形態において、外気内での保管の間に発生する酸化によるか、それとも、構造の製造中にゲッタが曝される積極的な技術的工程によって、ゲッタが表面において仮にダメージを蒙れば、再生の前処理が容易に履行され得る。再生の前処理は、ゲッタのポンピング能力を減じる層をゲッタが吸収することを可能にする期間の間、その活性化温度に近い温度で、ゲッタを二次真空中に、好ましくは約10−7mbarの圧力で、またはゲッタにより吸収されない中性ガスの分圧下に曝すことにある。その後ゲッタは、周囲の温度、通常は20℃に近い温度にまで冷却される。例えば上述した実施の形態と組合せられ得る特別な実施の形態において、ゲッタは、外気に曝される前に、その表面に吸着してこれによりゲッタを外気から一時的に保護する既知のガス、好ましくは窒素に曝される。本発明において記述される一組のゲッタ6aを再生するために、例えば350℃の温度が数時間に亘って適用される。
【0023】
例えば熱処理真空チャンバ内で基板の全表面の上に堆積された犠牲ゲッタを加えるのは有効かもしれない。この犠牲ゲッタは、再生前処理が実行されるときに処理されるべきゲッタ6(またはゲッタ6a,6b)の活性化温度よりも低い活性化温度を有するように選択される。犠牲ゲッタは、それからチャンバ内の真空の質を改善する目的を果たす。ゲッタの処理が実行される前に、ゲッタと反応しがちな残存ガスの分圧を限定するために、例えばアルゴンのような中性ガスをチャンバに流すと有効かもしれない。次に、ゲッタは、自らが反応する酸化気体に曝され、その後上述したように再生されうる。
【0024】
通常、これらの酸化気体は、技術的工程処置、特に、ポリマ樹脂の犠牲層を除去する処置が実行される時に生成される。従来の方法において、図3に示す構造を製造する時に、ゲッタ材料7がこのような酸化気体に曝される。実際に、ゲッタ6aおよび装置3は、犠牲樹脂12によって封止され、その後カプセル封止層11によって封止される。犠牲樹脂は、カプセル封止層11が堆積される前に、例えば熱により成形される。装置とゲッタは、カプセル封止層11中に形成された孔から犠牲樹脂12の層から解放される。例えば、犠牲樹脂12は、フォトリソグラフィで使用される標準的な肯定極性の樹脂および/またはポリイミドタイプの負極性の樹脂であり得る。これらの樹脂はいずれも酸化性雰囲気中の熱処理で破壊され得る。次に、活性化温度が犠牲樹脂のベーキング温度よりも高くなるように、少なくとも一つの調整サブ層8と少なくとも一つのゲッタ層7でなるゲッタ6を選択すると、特に興味深い。このようにして、ポリマが発生源である汚染物によるゲッタの汚染、これによるそのポンピング能力の低減または無効化までもが防止される。
【0025】
この実施の形態は、超小型装置の部材およびそのカプセル封止層が構築される樹脂層を焼くために、MEMSおよび赤外線検出器の製造に特に有利である。
【0026】
ゲッタ材料は、直接封止のためにゲッタが堆積される基板の性向を高める目的で、一般的な酸化ドライ・プロセス処理に通常曝される。この処理は、したがって、2つの基板が接触させられるときにキャビティを画定する2つの基板の間の接着力エネルギを増大させることに寄与する。酸化処理の影響を限定するために、クロムの保護層10が次に推奨される。300℃よりも低いと有利である低い活性化温度でのゲッタ6aの選択は、封止を強固にでき、かつゲッタを400℃に近い温度で活性化できる。その結果、ゲッタは、2つの基板の間の封止の圧密処理が実行されたときに活性化される。
【0027】
調整サブ層8は、実質的に5×10−6/℃と20×10−6/℃との間に含まれる熱膨張率、またはアルミニウムについては23×10−6/℃もの熱膨張率を有し、かつ、その形成温度Teとその(ケルビン温度での)溶解温度Tfとの間の比率が実質的に0.1と0.3との間に含まれることが好ましい。次に、関連するゲッタ層7の活性化温度は、調整サブ層8の膨張係数の増加関数であり、かつ、比率Te/Tfの増加関数であり、調整サブ層8の溶解温度とともに低減する態様で変化する。金属の膨張係数は、該金属の溶解温度が上昇すると、低減することが知られている。限定された温度範囲に亘って、ゲッタ6の活性化温度と、活性サブ層8を形成する金属の溶解温度とを関連づける方程式を経験的に決定することが可能である。特に、次の金属、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、金(Au)、銅(Cu)、銀(Ag)、およびアルミニウム(Al)について、ゲッタの活性化温度Taを、調整サブ層を構成する金属の溶解温度Tfに関連づける方程式は: Ta=−0.0727×Tf+447であり、ここで、TaおよびTfは摂氏で表現される。この場合、室温に近い温度でシリコン基板上に堆積が実行される。この方程式は物理的意義を有しないにも拘わらず、現象の説明を可能にする。
【0028】
調整サブ層8のゲッタ層7への効果は、以下のように解釈され得る。薄膜として堆積された金属材料中のゲッタ効果は、吸着された化学種の層内部への拡散によって発生する。従って、ゲッタ効果は、微細構造に、すなわち、金属材料を構成する粒子のサイズ、形状および配向性に関連づけられる。表面からゲッタ内部への化学種の吸収は、粒子の境界に沿った拡散によって発生する。これは、粒子内における種の拡散と比較して相対的に低い温度で発生する、熱的に活性化された現象に相当する。従って、ゲッタ効果を最も提供しやすい構造は、粒子が円柱状になって小サイズとなり、これにより粒子の境界における拡散を増進する構造である。さらに、堆積構造は、金属が堆積される基板の温度、すなわち形成温度(Te)と、金属の溶解温度(Tf)との間の比率、すなわち(ケルビン温度での)比率Te/Tfに大いに依存することが知られている。一方でモウチャンおよびデムチシンの図表(The Movchan and Demchisin diagrams)(B.A. Movchan, A.V. Demchisin, 1969, Phys. Met. Metallogr., 28, p.83)、並びに他方でソーントン(Thornton)の図表(J.A. Thornton, 1986, J. Vac. Sci. Technol., A4(6), p.3059)は、比率Te/Tfに従って、かつ、圧力に従って微細構造の予測されたマッピングを提供する。これらの図表によれば、堆積の構造が円柱状タイプであるゾーンが0.3Tf(Tfはケルビン温度)から始まることが明らかである。モウチャンおよびデムチシンにとって、この値未満において構造は、円柱間の間隙により分離された半球体の態様であり、また、0.5Tfを超えると、構造はより等方性かつ等軸(equiaxial)になる。0.3Tfと0.5Tfとの間で円柱状の粒子はより大きくなる。これが、低温で制限された、分子の表面移動であり、これらの条件下で獲得される構造の説明を可能にする。異なるタイプの構造の間の遷移を規定する温度(0.3Tfと0.5Tf)は、概算のものであり、ガイドラインとしてのみ機能するが、厳密に言うと、それぞれの金属について正に経験的に規定されるべきものである。
【0029】
もしも異なる金属で、しかし同一の温度条件Teおよび圧力条件の下で異なる調整サブ層8が形成されると、前述した理由で、比率Te/Tfが増大すると粒子サイズは大きくなる。従って、同一の形成温度Teについて、ルテニウムのサブ層は、アルミニウムのサブ層よりも薄い微細構造を提供し、従って、より大きな粒子の境界を提供する。サブ層8上でのゲッタ層7の成長は、調整サブ層8の表面におけるゲッタ材料原子の移動度によって部分的に制御される。その微細構造(粒子境界でのゲッタ層7の優先的な発芽、トリプルノードまたは下地構造の半球体間のノード)および/またはその高い溶解温度に起因して、ルテニウムのサブ層8はゲッタ金属の表面移動を制限でき、従って、ゲッタ層7がアルミニウム上に堆積される場合とは逆に、前記調整サブ層8をより薄い構造にすることができる。
【0030】
従って、この理由により、ある同一の調整サブ層8についてゲッタ層7の活性化温度Taを調節することが可能である。調整サブ層8の微細構造は、たいていは粒子境界で発生する拡散プロセスによってゲッタが活性化され得るように調整サブ層に十分に薄い構造を与える温度範囲内を維持しつつ、単にその形成温度Teに従って調整されなければならない。
【0031】
互いに異なる活性化温度を有する複数のゲッタ6を備える構造において、これらのゲッタ6は、少なくともゲッタ6aと追加のゲッタ6bとに分割され得る。この例において、ゲッタが、少なくとも2つの基本層7aおよび7bにより形成されるゲッタ層7を備えることは必須ではない。
【0032】
このように、密閉されたキャビティ内に少なくとも一つのゲッタ6aと追加のゲッタ6bとを備える構造のために、異なる活性化温度を有する少なくとも一つのゲッタ6aと追加のゲッタ6bとを簡単にかつ工業的態様で実現することが可能である。例えばゲッタ6aの調整サブ層は、追加のゲッタ6bの調整サブ層の部分よりも大きな粒子構造を提供する。換言すると、ゲッタ6aの調整サブ層8の粒子は、追加のゲッタ6bの調整サブ層8の粒子よりも大きい。このため、2つの調整サブ層の上に同時に堆積されたゲッタ層は、ゲッタ6aにおけるよりも追加のゲッタ6bにおいて、より微細な結晶構造を提供する。従って、2つのゲッタ6aおよび6bの調整サブ層用に同一の材料を使用するが、異なる温度で2つのサブ層を注意深く作成することにより、異なる2つの活性化温度を有する2つのゲッタ6aおよび6bを取得することが可能である。従って、2つのゲッタ6aおよび6bは、ゲッタ層7を構成する材料が2つのゲッタについて同一であろうとなかろうと、2つの異なる活性化温度を有する。
【0033】
ゲッタ層用に同一の材料を使用し、かつ、調整サブ層に関する限り2つの異なる材料を使用することにより、2つの異なる活性化温度を有する2つのゲッタ6aおよび6bを取得することもできる。
【0034】
このことは、同一の種類の調整サブ層をもってゲッタ活性化温度を制御することが可能になるので、追加の技術的利点を構成する。連続的な堆積、フォトリソグラフィ、およびエッチング工程により、ある同一の基板上にいくつかの調整サブ層を作成することも想定され得る。その後、ゲッタ層7、および適用可能であれば保護層10が引き続いて堆積され、フォトリソグラフィおよびエッチングによりパターニングされる。その結果、ゲッタ層7、および適用可能であれば保護層10が全てのゲッタについて同一であり得る。
【0035】
調整サブ層8がゲッタ層と基板2との間に配置されるため、基板2とゲッタ層7との間の化学的相互作用をなくすことも可能である。従って、ゲッタ層7のポンピング能力は維持される。
【0036】
調整サブ層8上に堆積されたゲッタ層7は、例えばTiまたはZrから形成され、100nmと2000nmとの間に含まれる厚さを示す。ゲッタ層の活性化温度は、調整サブ層8の作用がなければ、425℃よりも高く、450℃に近い。調整サブ層8の作用があれば、ゲッタ層7の活性化温度は、この調整サブ層8の種類に従って変化する。チタニウムまたはジルコニウムのゲッタ層7の活性化温度は、調整サブ層8に依存して、実質的に275℃と425℃の間で次第に変化し得る。
【0037】
下の表(表1)は、その調整サブ層8の種類に応じて、例えばチタニウムゲッタ層7についてゲッタ6の活性化温度の値を与える。全ての堆積は、同一の、室温に近い温度Teでシリコン基板上に実行される。
【表1】

【0038】
ジルコニウムの溶解温度はチタニウムの溶解温度よりも高いので、ジルコニウム堆積の微細構造はチタニウムのそれよりも薄くなければならない。従って、表1に示す活性化温度は、ジルコニウムのゲッタサブ層を有する場合はチタニウムのゲッタ層を有する場合よりも実質的に低くなければならない。
【0039】
ゲッタ層7は、複数の基本ゲッタ層、好ましくは異なる化学組成の2つの基本ゲッタ層7a,7bの積層により形成されると有利である。基本ゲッタ層は、調整サブ層8上で互いの上に堆積される。2つの基本ゲッタ層7a,7bが使用される場合、第1の基本ゲッタ層7aは調整サブ層8に接しており、自身を覆う第2の基本ゲッタ層7bの活性化温度よりも高い活性化温度を示す。従って、基本ゲッタ層7a,7bは、調整サブ層8からより遠くへ離隔して配置される程、低くなる活性化温度を示す。従って、第2のゲッタ層7bが飽和させられると、第1の基本ゲッタ層7aの活性化温度での熱処理は、第2の基本ゲッタ層7bの再生を可能にする。従って、第2の基本ゲッタ層7bの活性化温度を考慮しつつ、要求された活性化温度を取得するために、調整サブ層8により、第1の基本ゲッタ層7aの活性化温度を調整することが可能である。
【0040】
好ましくは、第1の基本ゲッタ層7aは調整サブ層8に接してチタニウムから形成され、好ましくは100nmと1000nmとの間に含まれる厚さを有する。その場合、基本ゲッタ層7aの上に堆積される第2の基本ゲッタ層7bは、例えばジルコニウムから形成され、好ましくは200nmと1000nmとの間に含まれる厚さを有する。
【0041】
2つの異なる基本ゲッタ層7a,7bの使用は、第1の層7aの活性化によりチップをその耐用年限の間に修理するために特に有利である。
【0042】
さらに、典型的には、(ある特定のアプリケーション用に)ゲッタが赤外線の反射体であるものとして選択される場合に、多層ゲッタの調整サブ層8は、赤外線に対するゲッタの反射率を増大させるように選択されることができる。この反射機能は、特に調整サブ層8の材料の種類に応じて選択されると有利である。この調整サブ層8は、銅またはアルミニウムから形成されると有利である。例えばボロメータにおいて、この反射率は、ゲッタをIR反射体として設置するために充分である。この場合、ゲッタ6はもう一つの必須機能:IR反射体を提供する。もしもこの層がチタニウムから形成されると、それは既に赤外線に対する一定の反射率を有する。それから、適切な調整サブ層の使用は、ゲッタ全体の赤外線に対する反射率の増大を可能にする。
【0043】
調整サブ層8、ゲッタ層7および接着サブ層9を少なくとも備える多層ゲッタ6は、適用可能であれば、超小型電子装置3の形成前または形成後に、キャビティ内のどこにでも、例えば基板2または4上に形成され得る。このようなゲッタ6は、上記キャビティを画定する2つの基板2および4に接するように形成されることもできる。
【0044】
接着サブ層9は、何らかの適切な技術、好ましくは基板2への蒸着により堆積されると好都合である。次に、調整サブ層8、それから第1および第2の基本ゲッタ層(7a,7b)が引き続いて接着サブ層9上に堆積される。この堆積は、蒸着によると好都合である。これらの異なる層の堆積工程は、同一の堆積装置で遂行されると好都合である。接着サブ層9を形成する材料(例えばTiまたはZr)がゲッタの性質を有する場合、この層は、この堆積装置内の真空の質を改善することに寄与し得る。
【0045】
次に、ゲッタ6は従来の方法で、例えばリソグラフィおよびドライプロセスエッチング、好ましくは非反応性プラズマにより、および/またはウェットプロセスエッチングにより、ゲッタ層7が要求される領域に正確に位置するようにパターニングされ得る。ゲッタ層7上のリソグラフィに使用されるポジ・レジン接着力は、必要であれば接着促進剤、好ましくはヘクサジメチルシラザン(hexadimethylsilazane)(HDMS)を添加することにより、向上され得る。
【0046】
層7、8、9および10は、使用される材料に応じて、通常の液体化学試薬から、および/または、中性プラズマによってエッチングされる。調整サブ層のウェットエッチングが例えば白金およびルテニウムにとって容易でないとき、ゲッタ層7と保護層10は、ウェットプロセスでエッチングされることが可能で、その積層体の残余は、中性プラズマによってエッチングされることが可能であると好都合である。異なる層の腐食剤の間で不適合性が存在する場合には、2つのエッチングモードが使用されることもできる。このような不適合性は、オーバーエッチング現象または特定の層の毀損をも引き起こし得る。
【0047】
ポジ・レジン、および、使用された場合のプロモータの全部または一部を除去するステップは、マイクロエレクトロニクス産業で使用される従来の製品によって実行されることができ、好ましくは、その後に、サブ層8に影響を及ぼさなければ発煙硝酸を用いた洗浄を行う。結果として、必要であれば、非反応性プラズマを用いたドライ・エッチングにより、以前の技術的ステップに起因してゲッタ層7の表面に存在する汚染物質または残留物を除去することを可能にする。
【0048】
ゲッタは、堆積が行われるときにリフトオフプロセスによってパターニングされることもできる。負極性の感光性ドライフィルムが基板に積層される。5μmと50ミクロンとの間に含まれる、好ましくは15ミクロンに等しい厚さを有するドライフィルムは、従来のフォトリソグラフィステップにより、露光され現像される。次に、この組立部品は、現像の残留物を除去する目的で第2真空処理を受ける。次に、ゲッタの堆積が、例えばスパッタリングにより、好ましくは蒸着により行われる。次に、非露光のドライフィルムの除去が、ゲッタ材料の性質を変更しない特定の製品によって行われる。
【0049】
上述の製造方法によって、ある同一の基板上におよび/またはある同一のキャビティ内に、異なる活性化温度を示すいくつかのゲッタ6を順次得ることが可能である。ゲッタ6のパターニングが化学エッチングによって達成される場合は、異なるゲッタの異なる調整サブ層8を堆積させてパターニングすると好都合である。次に、ゲッタ層7が堆積され、それから化学エッチングによりパターニングされる。調整層8とゲッタ層7とは、互いの直後には、そして同一の装置では形成されないので、上述したように再生の前処理を使用することが好ましい。
【0050】
リフトオフによってゲッタ6のパターニングを達成する場合は、既に形成されたゲッタ上にドライフィルムを被覆することにより、ゲッタ6の堆積を引き続いて遂行し得る。次に、いくつかの異なるゲッタの活性化温度は、単一の構造内で調整され得る。
【0051】
ゲッタの表面が調整されることができるので、吸着または吸収されるモル数に関して各ゲッタのポンピング能力を制御することが可能であり、これにより、ゲッタを収容するキャビティ内の圧力が調節可能になる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御された気圧の下で密閉されたキャビティ(cavity)であって、少なくとも一つの装置(3)と、少なくとも一つのゲッタ層(7)を含むゲッタ(6a)とが内部に配設され、基板と封止カバーとによって画定されるキャビティを備える構造であって、
前記ゲッタ層(7)の活性化温度の調整サブ層(8)が、前記ゲッタ層(7)と、前記基板(2)および/または前記封止カバー(4,11)と、の間に配置されて、前記サブ層(8)は前記基板および/または前記封止カバーの上に形成され、
前記ゲッタ層(7)が、前記調整サブ層(8)の上方に配設された異なる組成の複数の基本(elementary)ゲッタ層(7a,7b)によって形成される、
ことを特徴とする構造。
【請求項2】
前記封止カバーは、
基板(4)と、
2つの前記基板(2,4)の間に配置された封止接合(5)と、
を含むことを特徴とする請求項1に記載の構造。
【請求項3】
前記封止カバーは、少なくとも一つのカプセル封止層(11)を含むことを特徴とする請求項1に記載の構造。
【請求項4】
前記調整サブ層(8)の材料は、金属であり、ルテニウム(Ru)、クロム(Cr)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、銀(Ag)および金(Au)から選択されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の構造。
【請求項5】
前記調整サブ層(8)の熱膨張率は、5×10−6/℃と23×10−6/℃との間に含まれることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の構造。
【請求項6】
前記調整サブ層の上に配設された前記基本ゲッタ層(7a,7b)は、前記調整サブ層(8)からより遠くに配置される程、活性化温度が低くなることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の構造。
【請求項7】
前記調整サブ層(8)と、対応する基板および/またはカバーと、の間に接着サブ層(9)が配設されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の構造。
【請求項8】
前記接着サブ層(9)は、チタンおよびジルコニウムから選択されることを特徴とする請求項7に記載の構造。
【請求項9】
前記調整サブ層(8)の厚さは、実質的に50nmと500nmとの間に含まれることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の構造。
【請求項10】
各基本ゲッタ層(7a,7b)の材料は、金属であり、チタンおよびジルコニウムから選択されることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の構造。
【請求項11】
前記ゲッタ層(7)の厚さは、実質的に100nmと2000nmとの間に含まれることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の構造。
【請求項12】
前記調整サブ層(8)はIR反射体であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の構造。
【請求項13】
前記ゲッタ(6a)とは異なる活性化温度を有する少なくとも一つの追加のゲッタ(6b)を備えることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の構造。
【請求項14】
前記ゲッタ(6a)の前記調整サブ層(8)の材料と、前記追加のゲッタ(6b)の材料は同一であることを特徴とする請求項13に記載の構造。
【請求項15】
前記ゲッタ(6a)の前記ゲッタ層(7)の材料と、前記追加のゲッタ(6b)の材料は同一であることを特徴とする請求項13または14に記載の構造。
【請求項16】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載の構造を製造する方法であって、
基板および/またはカバーの上に、前記調整サブ層(8)と前記基本ゲッタ層(7a,7b)とを連続して堆積させることと、
これらの層をパターニングすることと、
最上層の基本ゲッタ層(7b)の外部表面を洗浄することと、
を備える方法。
【請求項17】
前記調整サブ層(8)の堆積温度は、その溶解温度(Tf)に従って、かつ、前記ゲッタ層(7)の活性化温度に従って選択されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記調整サブ層(8)の熱膨張率は、前記ゲッタ層(7)の活性化温度に従って選択されることを特徴とする請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記調整サブ層(8)の形成温度と溶解温度との比率は、実質的に0.1と0.3との間に含まれることを特徴とする請求項16または18に記載の方法。
【請求項20】
前記ゲッタ層(7)の外部表面の前処理工程を備えることを特徴とする請求項16乃至19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記前処理工程は、二次真空内の熱処理を含むことを特徴とする請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ゲッタ(6a)の活性化温度よりも低い活性化温度を有する犠牲ゲッタ層を形成することを備えることを特徴とする請求項16乃至21のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−501426(P2011−501426A)
【公表日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−529422(P2010−529422)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001420
【国際公開番号】WO2009/087284
【国際公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(510225292)コミサリア ア レネルジー アトミック エ オ ゼネルジー アルテルナティブ (97)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】Batiment Le Ponant D,25 rue Leblanc,F−75015 Paris, FRANCE
【Fターム(参考)】