コア−シェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いた薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法
感度、選択性および長時間安全性を向上させることができる薄膜型高活性ガスセンサーを開示する。また、その薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法であって、製造工程の単純化、薄膜化および小型化を図ることができるものを開示する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法に関する。詳しくは、コア−シェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いた薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法に関する。コア−シェル構造の複合ナノ粒子用いることで、感度、選択性および長期安定性を向上させることができ、製造工程の単純化、薄膜化および小型化を図ることができる。
【背景技術】
【0002】
一般に、薄膜型高活性ガスセンサーの特徴は、センサーの表面にガスが吸着すると、所定の温度範囲内にて電気伝導度の変化を示すことにある。このような電気伝導度の変化は、ガスとセンサー材料との間で電子移動を誘発し、半導体材料の性質に応じて伝導度の増加または減少を生じさせる。この電気的変化が電気回路に印加されるのであり、このようにしてガスセンサーが構成される。また、このような薄膜型高活性ガスセンサーは、価格が低く、応答特性が速いという特徴を持っている。半導体型ガスセンサーのセンサ材料としてSnO2、TiO2、ZnO、ZrO2、WO3、In2O3、V2O5などが用いられる。
【0003】
薄膜型高活性ガスセンサーは、センサ材料の製作形態によって薄膜型と厚膜型に区分される。薄膜型の半導体型ガスセンサーは、化学的蒸着法または物理的蒸着法によって製造されるため、厚膜型に比べて比表面積が小さく、その結果として感度が低下するという欠点を持っている。そのため、市販の半導体型ガスセンサーには厚膜型が採用されている。
【0004】
厚膜型半導体型ガスセンサーに用いられるセンサーチップは、一般に、アルミナ回路基板、電極、センサ材料(半導体)厚膜およびヒーターから構成され、ヒーターによってセンサ材料の特性に応じて300℃〜500℃の範囲で駆動される。厚膜型ガスセンサーの性能はセンサ材料の比表面積または粒径によって大きく左右される。
【0005】
図1は従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程を示す図である。
【0006】
次に、従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程を図1を参照して説明する。まず、半導体型センサ材料を様々な化合物伝導体から液相で合成した後、洗浄、濾過および乾燥過程を経て純粋な酸化物粉体を得る。
【0007】
この酸化物粉体は、乾燥の後に互いに凝集している状態であるから解砕が必要であり、各種ガスセンサーで要求される粒径の酸化物粉体を得るために粉砕および分級過程を経る。一般に、半導体センサーには粒径0.5〜2.0μmの酸化物粉体が多用される。センサ材料の感度を向上させるためには貴金属触媒を担持しなければならないが、この工程も通常貴金属化合物水溶液中で行われる。したがって、貴金属触媒の担持後には再び洗浄、濾過および乾燥過程を必要とする。貴金属の担持された酸化物粉体をガス探知のためのセンサ材料として使用するためには、電極回路の描かれたアルミナ基板上に塗布されなければならないが、現在商用化されている工程はスクリーンプリント技術である。よって、貴金属が担持された酸化物粉体は、有機バインダーとの混合工程によってペースト状態に作られなければならない。この過程ではSiO2などの高融点を示す微粉体が混合されることもあるが、これは半導体物質の焼結工程で粒径の粗大化によるセンサ材料の比表面積の増大を防止するための手段である。製造された貴金属担持酸化物粉体ペーストは、スクリーンプリント工程によってアルミナ電極回路基板に塗布され、熱処理工程によって電極回路基板上で焼結付着する。焼結は700〜1000℃の高温で行われるが、焼結温度は物質によって異なる。
【0008】
センサーにおける対象ガスとの感知反応は一般に表面反応であるため、ガスセンサーの感度は比表面積によって大きく左右される。半導体センサーの場合は、対象ガスと半導体センサ材料との間で電子のやり取りが起こり、その結果として発生する電気伝導度または電気抵抗の変化をモニタリングして対象ガスの感知および濃度変化を測定するから、感度を向上させるために半導体センサ材料の粒径は小さければ小さいほど良い。
【0009】
図2はSnO2ガスセンサーの原理を示す図である。
【0010】
次に、図2を参照して、半導体センサ材料の粒径と感度との相関関係について説明する。ここでは、薄膜型高活性ガスセンサーのセンサ材料として最も多く活用されているSnO2がCOガスと反応することを例とした。
【0011】
SnO2金属酸化物を大気中で300〜400℃に加熱すると、SnO2粒子内には熱エネルギーが与えられて電子が多くなり、ここに酸素気体(O2)が吸着すると、SnO2内の電子を捕獲してO-の状態になる。これにより、SnO2の表面層には図2に示すようにSnO2粒子の表面に空乏層が発生し、これによりSnO2の電位障壁は高くなり、電気伝導度は低くなる。還元性気体または可燃性気体がSnO2の周辺に存在すると、この気体は酸素と出会って酸化するため、酸素気体に捕獲された自由電子はSnO2粒子内に戻り、電位障壁は低くなって粒子間の電気伝導度は増加する。結局、酸素気体の吸着量と脱着量がセンサーの感度を左右し、基本的に酸素の吸着量を多くするためにはSnO2粉末の比表面積が大きくなければならない。
【0012】
図3は、SnO2粒子の大きさによるガスセンサーの抵抗変化を示す。電子空乏層のみからなっている結晶粒サイズ6nm以下のSnO2の電気抵抗は、ガスの吸着と脱着によって大きく増加しており、SnO2の感度向上のためにはSnO2粒径の微粒化が必須的であることを示している。
【0013】
上述したように、半導体金属酸化物のガス感知性能を向上させるためにはセンサ材料のナノ化が必須である。
【0014】
それにも拘らず、従来の商用化技術で、0.5〜2.0μmの金属酸化物粉体を用いるのは、高温熱処理過程における酸化物粉体の粗大化のためである。熱処理工程における金属酸化物粉体の粗大化を防止するために、SiO2などの高融点酸化物微粉体を一緒に仕込んだりもするが、SiO2微粉体の過量添加はガス吸着量の減少およびセンサー物質の電気抵抗上昇をもたらすため、センサー全体的にはガス感知特性を低下させる要因として作用する。
【0015】
また、半導体センサ材料自体のみでは、安定な性能を確保することが難しいから、センサ材料の感度向上および駆動温度の降下のために例えばPt、Pdなどの貴金属触媒を担持して使用する。ところが、貴金属触媒の添加によって使用温度を低め且つ感度を向上させる効果はあるが、選択性を低下させるという問題点を生じさせる。すなわち、あらゆるガスに対する反応速度が活性化されるため、どんなガスにも速く反応し、結果として選択性は低下するが、このような問題点は実際ガスセンサーの使用において誤動作の原因になる。
【0016】
半導体金属酸化物を用いたガスセンサーは、価格が低いという非常に大きい利点を持っているが、他の方式のガスセンサーとの競争が不可避なので、製造工程をさらに単純化させることができる新しい経済的な工程の開発が必要である。従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程は、金属酸化物粉体の合成および後処理、ペースト製造工程、スクリーンプリント工程を含んでいるから、本件発明の方法に比べて複雑な製造工程を採用している。また、最近、スマートセンサーの開発に関心が増加することによりセンサーの複雑化および小型化技術に対する要求が切実に要求されている。ところが、従来の技術で採用しているスクリーンプリント技術であると、センサーの小型化に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】韓国特許出願公開KR10-2007-0059975A
【特許文献2】特開2007-071866
【特許文献3】特許3541355
【特許文献4】韓国特許出願公開KR10-2003-0009201A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためのもので、その目的は、センサーのセンサ材料として使われる半導体金属酸化物の結晶粒サイズを微細にし、熱処理工程の際に粒径の粗大化を抑えて感度を長時間維持することができ、選択性に優れるうえ、製造工程の単純化、薄膜化および小型化を図ることができる、コア−シェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いた薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、コアーシェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いた薄膜型高活性ガスセンサーを提供する。ここで、複合ナノ粒子は、コアと、このコアを被覆するシェルとを含む。
【0020】
このガスセンサーにおいて、上記コアは、優れた電気伝導度および抗酸化特性を有する金属ナノ粒子とすることができる。好ましくは、Au、Ag、Pt、Pd、IrおよびRhの中から選択される1種または複数である。
【0021】
また、上記シェルは、半導体特性を有する半導体金属酸化物ナノ粒子からなるものとすることができる。好ましくは、TiO2、SnO2、ZnO、ZrO2、WO3、In2O3、V2O5およびRuOの中から選択される1種または複数である。
【0022】
本発明の一態様は、薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法であって、金属ナノ粒子コアと、前記コアの表面を覆う金属酸化物ナノ粒子シェルとからなる複合ナノ粒子を電極回路基板上に塗布する工程を含むものを提供する。
【0023】
この方法において、前記複合ナノ粒子は、液滴塗布(液滴下被覆、ドロップコーティング)法、ディップコーティング(浸漬塗布)法、スピンコート(スピンコーティング)法、およびインクジェットプリント法の中から選択されるいずれかの方法によって前記電極回路基板上に塗布して薄膜を形成するようにすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明による薄膜型高活性ガスセンサーは、センサ材料についての実際のナノ化実現が可能であり、ガスセンサーの感度、選択性および長期安定性を大きく向上させることができるという利点がある。
【0025】
また、本発明による薄膜型高活性ガスセンサーは、金属酸化物質の粉砕、分級工程およびペースト製造工程が不要であるので、製造工程をシンプルにすることができ、このため、生産化を大きく向上させることができるという利点を有する。また、薄膜化および小型化を図ることができるという利点を有する。
【0026】
さらに、本発明の薄膜型高活性ガスセンサーは、活性増大に起因して感度を向上させることができるので、駆動温度を低めることができ、そのため、駆動電力を低減でき、初期駆動の際に安定化時間を大幅に減少できるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程を示すフローチャートである。
【図2】SnO2ガスセンサーの原理を説明する図である。
【図3】SnO2の粒子サイズによるガスセンサーの抵抗変化を示す図である。
【図4】コア−シェル構造をなす金属−金属酸化物複合ナノ粒子を示す模式図である。
【図5】コア−シェル構造をなすAu−SnO2複合ナノ粒子の透過電顕(TEM)写真である。
【図6】コア−シェル構造をなすAu−TiO2複合ナノ粒子の透過電顕(TEM)写真である。
【図7】コア−シェル構造をなすAu−SnO2複合ナノ粒子の熱安定性試験結果を示すグラフである。
【図8】コア−シェル構造をなすAu−TiO2複合ナノ粒子の熱安定性試験結果を示すグラフである。
【図9】コア−シェル構造をなすAu−SnO2複合ナノ粒子の薄膜が備えられた電極回路基板を示す写真である。
【図10】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの300℃におけるCOガス検知特性を示すグラフである。
【図11】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの250℃におけるCOガス検知特性を示すグラフである。
【図12】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの200℃におけるCOガス検知特性を示すグラフである。
【図13】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの250℃における電気抵抗の安定化時間を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、コア−シェル構造をなす複合ナノ粒子を用いた本発明の薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
図4はコア−シェル構造をなす金属−金属酸化物複合ナノ粒子を示す模式図である。
【0030】
本発明の薄膜型高活性ガスセンサーは、コア−シェル構造の複合ナノ粒子10を電極回路基板上に塗布して薄膜を形成した後、該薄膜を熱処理することにより製造される。
【0031】
図4に示すように、コア−シェル構造の各複合ナノ粒子10は、金属ナノ粒子コア110と、金属酸化物ナノ粒子からなり、金属ナノ粒子コア110の表面を覆うシェル130とを含む。
【0032】
上記のコア110は、Au、Ag、Pt、Pd、Ir、Rhのナノ粒子などといった、電気伝導度に優れるうえ、酸化し難い金属ナノ粒子から構成することができ、これにより、電子の移動を円滑にしてガスセンサの感度を向上させることができる。
【0033】
上記のシェル130は、金属酸化物ナノ粒子が前記コア上にて単層を形成するようにして構成されたものとすることができる。または、金属酸化物ナノ粒子が前記コア上で直接シェルを形成するように構成することができる。前記シェルは、TiO2、SnO2、ZnO、ZrO2、WO3、In2O3、V2O5、RuOのナノ粒子といった半導体特性を有する半導体金属酸化物ナノ粒子から構成することができる。
【0034】
コア−シェル構造の複合ナノ粒子は、沈殿法、ゾル−ゲル法、水熱合成法などの従来のナノ粒子製造方法によって製造することができる。
【0035】
コア−シェル構造をなす各複合ナノ粒子にてシェルを構成する半導体金属酸化物ナノ粒子は、コア上に不均一(heterogeneous)な核生成によって形成される。そのため、比表面積が大きく、粒径が1〜数十nmの半導体金属酸化物ナノ粒子を得ることができる。また、高温の熱処理中、シェルを構成する半導体金属酸化物ナノ粒子の成長は、大幅に阻害される。
【0036】
このように半導体金属酸化物ナノ粒子は、粒径が数nmと非常に小さく、比表面積が大きいことから、センサーの感度が大幅に向上する。そのため、感度を向上させる目的で白金触媒といった貴金属触媒を添加しなくてもよい。
【0037】
本発明によるガスセンサーの感度向上について、従来のガスセンサと比較すると、次のとおりである。本発明によるガスセンサーの感度向上は、ガス吸着量の増大と、センサ材料内における電子空乏層の比率の増大により実現できる。ガス吸着量の増大と空乏層比率の増大は、センサ材料をナノ粒子とし、半導体金属酸化物の比表面積を広げたことに起因する。これに対し、従来のセンサーにおける感度向上は、白金触媒などの貴金属触媒の添加により、反応ガスのイオン化または分解の速度を増大ことで実現している。あらゆる種類のガスに対する感度が向上するので、ガスセンサーにおけるガスに対する選択性が低下するという問題がある。したがって、本発明によるガスセンサーは、ガスセンサーにおけるガスに対する選択性を損なうことなく、ガスセンサーの感度を向上させることができるという大きな利点を有する。ガスセンサの感度の向上が、従来のガスセンサーにおける化学的効果でなく、センサ材料についての表面積の増加及び電子空乏層比率の増加などといった物理的な硬化により実現されているからである。
【0038】
コア−シェル構造の複合ナノ粒子を純粋な溶液に再分散させて、複合ナノ粒子の濃厚なコロイド溶液を製造し、このコロイド溶液を液滴塗布、ディップコーティング法、スピンコート法、または、インクジェットプリント法によって電極回路基板上に塗布する。これにより、電極回路基板上にセンサ材料薄膜を形成することができる。このセンサ材料薄膜は、十分な付着強度を得るべく、熱処理することができる。
【0039】
上述のように、本発明の薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法であると、金属酸化物についての粉砕、分級およびペースト製造が不要なので、製造工程を簡素化させることができ、したがって、生産性を大きく向上させることができる。
【0040】
また、コア−シェル構造の複合ナノ粒子が高濃度のコロイド状態で電極回路基板上にて薄膜化されるため、高温焼結工程を必要とせず、400〜500℃の低温焼結工程によって薄膜に十分な付着強度を与えることができる。
【0041】
SnO2は、一般に700〜800℃で焼結が行われる。ところが、焼結されたSnO2と、電極回路基板との付着強度が低いため、SiO2微粉体を焼結助剤として使用している。しかし、本発明の場合、400〜500℃の熱処理工程で十分な付着強度を得ることができ、SiO2などの非導電性焼結助剤を混合することで感度が低下することもない。
【0042】
本発明は、少量の半導体性の金属酸化物ナノ粒子を用いて駆動されるため、初期駆動時におけるガスセンサーの安定化時間を短縮させることができる。市販のSnO2を用いた従来のガスセンサーは24〜48時間の安定化時間を必要とするが、本発明のガスセンサーは、安定化時間が10時間以内で良いという利点がある。
【0043】
また、従来の技術ではガスセンサ材料をナノ粒子とすることが本当に難しかった。なぜなら、半導体性金属酸化物の感知特性を高めるためには優れた結晶性が要求されるが、結晶性を高めるために熱処理温度を上げると、結晶粒成長が同時に起こって比表面積が減少し、その結果としてガスセンサ材料の感度が低下するからである。結局、半導体金属酸化物センサ材料の結晶粒成長が起こらない条件の下で熱処理するしかなかった。
【0044】
しかし、本発明のコア−シェル構造の複合ナノ粒子であると、ガスセンサ材料を実際にナノ粒子に形成することができ、結晶粒成長なしに高温での熱処理を行うことができる。
【0045】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに詳しく説明する。本発明の権利範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>Au−SnO2複合ナノ粒子の合成:
まず、500mLの超純水に0.1gのHAuCl4を溶解し、沸点まで加熱した後、還元剤として1gのクエン酸三ナトリウムを溶解した100mLの超純水を添加して粒径12〜15nmのAuナノ粒子コロイドを合成した。次いで、この反応溶液20mLについてpHを11に調節した後、40mM Na2SnO3水溶液1mLを添加してから60℃で2時間反応させてAu−SnO2複合ナノ粒子を合成した。そのTEM写真は図6のとおりである。
【0047】
<実施例2>Au−TiO2複合ナノ粒子の合成:
チタニウムアルコキシドとしてのチタニウムイソプロポキシドと、錯塩形成剤としてのトリエタノールアミンとを1:2の比率で混合した後、この混合溶液にチタニウムイオンが0.01mMとなるように超純水を混合してチタニウムアルコキシド錯塩希釈溶液を製造した。この反応溶液100mLに、実施例1で合成したAuナノ粒子コロイド溶液3.3mLを混合した後、オートクレーブに入れて24時間80℃の温度で水熱合成処理してAu−TiO2複合ナノ粒子を合成した。そのTEM写真は図7のとおりである。
【0048】
<熱的安定性試験>
実施例1のAu−SnO2複合ナノ粒子の熱安定性を次のように評価した。100〜500℃の温度範囲で2時間熱処理した後、X線回折分析によってAu−SnO2複合ナノ粒子のシェルを構成するSnO2の結晶構造の変化を観察した。その果を図7に示す。図7において、▲はSnO2(cassiterite)であり、●はAuである。
【0049】
ここで、SnO2はスズ石(cassiterite)の結晶構造を示した。100℃で熱処理した試料の結晶粒サイズは6nmであり、500℃で熱処理した試料の結晶粒サイズは7nmであった。これにより、SnO2の結晶粒成長が極めてわずかであることを見て取ることができる。
【0050】
実施例2のAu−TiO2複合ナノ粒子の熱安定性を次のように評価した。100〜1000℃の温度範囲で2時間熱処理した後、X線回折分析によってAu−TiO2複合ナノ粒子のシェルを構成するTiO2の結晶粒サイズおよび結晶構造の変化を観察した。その結果を図8に示す。図8において、■はTiO2であり、●はAuである。
【0051】
X線回折分析の結果より、シェルに形成されたTiO2の結晶構造はアナターゼ(anatase)であることを見て取ることができる。一般に、アナターゼ構造のTiO2結晶は600〜700℃の温度で結晶粒成長と共に結晶構造がルチル(Rutile)構造に変化する。ところが、Au−TiO2複合ナノ粒子は、高温でも結晶成長が非常に抑制されており、1000℃でも結晶構造がアナターゼとして残っているということを、X線回折分析結果から見て取ることができる。X線回折分析結果からScherrer方程式によってTiO2の結晶粒サイズを求めた。100℃で2時間熱処理したTiO2の結晶粒サイズは8nmであり、800℃で2時間熱処理した試料のTiO2の結晶粒サイズは10nmであって、殆ど結晶粒成長が起こっていないことが知られた。
【0052】
<実施例3>電極回路基板の製造:
実施例1で合成されたAu−SnO2複合ナノ粒子を15,000rpmの速度で遠心分離して1wt% Au−SnO2となるように超純水に再分散してAu−SnO2複合ナノ粒子の濃厚コロイド溶液を得た。
【0053】
アルミナ基板上にマイクロピペットを用いて容量50μLのAu−SnO2複合ナノ粒子の濃厚コロイド溶液を滴下した後、乾燥させてセンサ材料薄膜を得た。次いで、センサ材料薄膜を350℃で3時間熱処理し、図9に示すようにAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を有する電極回路基板を製造した。
【0054】
<CO感知特性の調査>
(1)300℃におけるCO検知特性:
実施例3のAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を有する電極回路基板を用いて、300℃の温度でCOガス濃度200〜1000ppmの範囲におけるCO検知特性を計測した。計測中にO2の濃度は21%となるように調節し、10分間隔でCOガス注入による抵抗変化を測定することでガス検知特性を評価した。その評価結果は図10のとおりである。
【0055】
図10の分析結果から、次のことが見て取れる。COの注入によって抵抗が大きく減少し、抵抗の減少幅は、COガスの濃度が高まるにつれて大きくなった。したがって、Au/SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子がCOガスに対して高い感度で反応したことが見て取れる。
【0056】
(2)250℃におけるCO検知特性:
実施例3のAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を有する電極回路基板を用い、250℃の温度及びCO濃度1000ppmにて、CO検知特性を15分間隔で3回計測した。計測結果を図11に示す。この結果より、評価温度で検知信号のベースラインが一定であり、ガス検知反応の再現性が非常に優れることを見て取ることができる。
【0057】
(3)200℃におけるCO検知特性:
実施例3のAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子薄膜を有する電極回路基板を用いて、200℃の温度及びCO濃度1000ppmにて、CO検知特性を15分間隔で2回計測した。計測結果を図12に示す。
【0058】
<安定化時間に対する試験>
Au−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を含むセンサー電極について、抵抗変化が安定する時間を250℃で試験した。このセンサー電極を250℃の電気炉に入れ、流入ガスなしに抵抗変化を24時間測定した。その測定結果を図13に示す。
【0059】
一般に、半導体ガスセンサ材料の駆動初期の抵抗変化は一定ではなく、センサー材料の種類に応じて抵抗が引き続き変化し、24〜48時間経過後に安定化がなされる。半導体センサ材料の「安定化時間」は、最終抵抗値の90%値に達する時間(T90%)として定義される。Au−SnO2複合ナノ粒子の場合、安定化時間(T90%)は560分であるので、Au−SnO2複合ナノ粒子が10時間以内に安定化することが見て取れる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の薄膜型高活性ガスセンサーであると、センサ材料を、実際にナノ粒子をなすようにすることができ、ガスセンサーの感度、選択性および長期安定性を大幅に向上させることができる。また、この薄膜型高活性ガスセンサーを製造する方法では、工程を単純化させて生産性を大幅に向上させることができ、薄膜化および小型化を図ることができる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施例について説明の目的で開示したが、当業者であれば、添付した請求の範囲に開示された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、様々な変形、追加または置換を加え得ることを理解するであろう。
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法に関する。詳しくは、コア−シェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いた薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法に関する。コア−シェル構造の複合ナノ粒子用いることで、感度、選択性および長期安定性を向上させることができ、製造工程の単純化、薄膜化および小型化を図ることができる。
【背景技術】
【0002】
一般に、薄膜型高活性ガスセンサーの特徴は、センサーの表面にガスが吸着すると、所定の温度範囲内にて電気伝導度の変化を示すことにある。このような電気伝導度の変化は、ガスとセンサー材料との間で電子移動を誘発し、半導体材料の性質に応じて伝導度の増加または減少を生じさせる。この電気的変化が電気回路に印加されるのであり、このようにしてガスセンサーが構成される。また、このような薄膜型高活性ガスセンサーは、価格が低く、応答特性が速いという特徴を持っている。半導体型ガスセンサーのセンサ材料としてSnO2、TiO2、ZnO、ZrO2、WO3、In2O3、V2O5などが用いられる。
【0003】
薄膜型高活性ガスセンサーは、センサ材料の製作形態によって薄膜型と厚膜型に区分される。薄膜型の半導体型ガスセンサーは、化学的蒸着法または物理的蒸着法によって製造されるため、厚膜型に比べて比表面積が小さく、その結果として感度が低下するという欠点を持っている。そのため、市販の半導体型ガスセンサーには厚膜型が採用されている。
【0004】
厚膜型半導体型ガスセンサーに用いられるセンサーチップは、一般に、アルミナ回路基板、電極、センサ材料(半導体)厚膜およびヒーターから構成され、ヒーターによってセンサ材料の特性に応じて300℃〜500℃の範囲で駆動される。厚膜型ガスセンサーの性能はセンサ材料の比表面積または粒径によって大きく左右される。
【0005】
図1は従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程を示す図である。
【0006】
次に、従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程を図1を参照して説明する。まず、半導体型センサ材料を様々な化合物伝導体から液相で合成した後、洗浄、濾過および乾燥過程を経て純粋な酸化物粉体を得る。
【0007】
この酸化物粉体は、乾燥の後に互いに凝集している状態であるから解砕が必要であり、各種ガスセンサーで要求される粒径の酸化物粉体を得るために粉砕および分級過程を経る。一般に、半導体センサーには粒径0.5〜2.0μmの酸化物粉体が多用される。センサ材料の感度を向上させるためには貴金属触媒を担持しなければならないが、この工程も通常貴金属化合物水溶液中で行われる。したがって、貴金属触媒の担持後には再び洗浄、濾過および乾燥過程を必要とする。貴金属の担持された酸化物粉体をガス探知のためのセンサ材料として使用するためには、電極回路の描かれたアルミナ基板上に塗布されなければならないが、現在商用化されている工程はスクリーンプリント技術である。よって、貴金属が担持された酸化物粉体は、有機バインダーとの混合工程によってペースト状態に作られなければならない。この過程ではSiO2などの高融点を示す微粉体が混合されることもあるが、これは半導体物質の焼結工程で粒径の粗大化によるセンサ材料の比表面積の増大を防止するための手段である。製造された貴金属担持酸化物粉体ペーストは、スクリーンプリント工程によってアルミナ電極回路基板に塗布され、熱処理工程によって電極回路基板上で焼結付着する。焼結は700〜1000℃の高温で行われるが、焼結温度は物質によって異なる。
【0008】
センサーにおける対象ガスとの感知反応は一般に表面反応であるため、ガスセンサーの感度は比表面積によって大きく左右される。半導体センサーの場合は、対象ガスと半導体センサ材料との間で電子のやり取りが起こり、その結果として発生する電気伝導度または電気抵抗の変化をモニタリングして対象ガスの感知および濃度変化を測定するから、感度を向上させるために半導体センサ材料の粒径は小さければ小さいほど良い。
【0009】
図2はSnO2ガスセンサーの原理を示す図である。
【0010】
次に、図2を参照して、半導体センサ材料の粒径と感度との相関関係について説明する。ここでは、薄膜型高活性ガスセンサーのセンサ材料として最も多く活用されているSnO2がCOガスと反応することを例とした。
【0011】
SnO2金属酸化物を大気中で300〜400℃に加熱すると、SnO2粒子内には熱エネルギーが与えられて電子が多くなり、ここに酸素気体(O2)が吸着すると、SnO2内の電子を捕獲してO-の状態になる。これにより、SnO2の表面層には図2に示すようにSnO2粒子の表面に空乏層が発生し、これによりSnO2の電位障壁は高くなり、電気伝導度は低くなる。還元性気体または可燃性気体がSnO2の周辺に存在すると、この気体は酸素と出会って酸化するため、酸素気体に捕獲された自由電子はSnO2粒子内に戻り、電位障壁は低くなって粒子間の電気伝導度は増加する。結局、酸素気体の吸着量と脱着量がセンサーの感度を左右し、基本的に酸素の吸着量を多くするためにはSnO2粉末の比表面積が大きくなければならない。
【0012】
図3は、SnO2粒子の大きさによるガスセンサーの抵抗変化を示す。電子空乏層のみからなっている結晶粒サイズ6nm以下のSnO2の電気抵抗は、ガスの吸着と脱着によって大きく増加しており、SnO2の感度向上のためにはSnO2粒径の微粒化が必須的であることを示している。
【0013】
上述したように、半導体金属酸化物のガス感知性能を向上させるためにはセンサ材料のナノ化が必須である。
【0014】
それにも拘らず、従来の商用化技術で、0.5〜2.0μmの金属酸化物粉体を用いるのは、高温熱処理過程における酸化物粉体の粗大化のためである。熱処理工程における金属酸化物粉体の粗大化を防止するために、SiO2などの高融点酸化物微粉体を一緒に仕込んだりもするが、SiO2微粉体の過量添加はガス吸着量の減少およびセンサー物質の電気抵抗上昇をもたらすため、センサー全体的にはガス感知特性を低下させる要因として作用する。
【0015】
また、半導体センサ材料自体のみでは、安定な性能を確保することが難しいから、センサ材料の感度向上および駆動温度の降下のために例えばPt、Pdなどの貴金属触媒を担持して使用する。ところが、貴金属触媒の添加によって使用温度を低め且つ感度を向上させる効果はあるが、選択性を低下させるという問題点を生じさせる。すなわち、あらゆるガスに対する反応速度が活性化されるため、どんなガスにも速く反応し、結果として選択性は低下するが、このような問題点は実際ガスセンサーの使用において誤動作の原因になる。
【0016】
半導体金属酸化物を用いたガスセンサーは、価格が低いという非常に大きい利点を持っているが、他の方式のガスセンサーとの競争が不可避なので、製造工程をさらに単純化させることができる新しい経済的な工程の開発が必要である。従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程は、金属酸化物粉体の合成および後処理、ペースト製造工程、スクリーンプリント工程を含んでいるから、本件発明の方法に比べて複雑な製造工程を採用している。また、最近、スマートセンサーの開発に関心が増加することによりセンサーの複雑化および小型化技術に対する要求が切実に要求されている。ところが、従来の技術で採用しているスクリーンプリント技術であると、センサーの小型化に限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】韓国特許出願公開KR10-2007-0059975A
【特許文献2】特開2007-071866
【特許文献3】特許3541355
【特許文献4】韓国特許出願公開KR10-2003-0009201A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、上述した従来の問題点を解決するためのもので、その目的は、センサーのセンサ材料として使われる半導体金属酸化物の結晶粒サイズを微細にし、熱処理工程の際に粒径の粗大化を抑えて感度を長時間維持することができ、選択性に優れるうえ、製造工程の単純化、薄膜化および小型化を図ることができる、コア−シェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いた薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成すべく、本発明の一態様は、コアーシェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いた薄膜型高活性ガスセンサーを提供する。ここで、複合ナノ粒子は、コアと、このコアを被覆するシェルとを含む。
【0020】
このガスセンサーにおいて、上記コアは、優れた電気伝導度および抗酸化特性を有する金属ナノ粒子とすることができる。好ましくは、Au、Ag、Pt、Pd、IrおよびRhの中から選択される1種または複数である。
【0021】
また、上記シェルは、半導体特性を有する半導体金属酸化物ナノ粒子からなるものとすることができる。好ましくは、TiO2、SnO2、ZnO、ZrO2、WO3、In2O3、V2O5およびRuOの中から選択される1種または複数である。
【0022】
本発明の一態様は、薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法であって、金属ナノ粒子コアと、前記コアの表面を覆う金属酸化物ナノ粒子シェルとからなる複合ナノ粒子を電極回路基板上に塗布する工程を含むものを提供する。
【0023】
この方法において、前記複合ナノ粒子は、液滴塗布(液滴下被覆、ドロップコーティング)法、ディップコーティング(浸漬塗布)法、スピンコート(スピンコーティング)法、およびインクジェットプリント法の中から選択されるいずれかの方法によって前記電極回路基板上に塗布して薄膜を形成するようにすることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明による薄膜型高活性ガスセンサーは、センサ材料についての実際のナノ化実現が可能であり、ガスセンサーの感度、選択性および長期安定性を大きく向上させることができるという利点がある。
【0025】
また、本発明による薄膜型高活性ガスセンサーは、金属酸化物質の粉砕、分級工程およびペースト製造工程が不要であるので、製造工程をシンプルにすることができ、このため、生産化を大きく向上させることができるという利点を有する。また、薄膜化および小型化を図ることができるという利点を有する。
【0026】
さらに、本発明の薄膜型高活性ガスセンサーは、活性増大に起因して感度を向上させることができるので、駆動温度を低めることができ、そのため、駆動電力を低減でき、初期駆動の際に安定化時間を大幅に減少できるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】従来の厚膜型高活性ガスセンサーの製造工程を示すフローチャートである。
【図2】SnO2ガスセンサーの原理を説明する図である。
【図3】SnO2の粒子サイズによるガスセンサーの抵抗変化を示す図である。
【図4】コア−シェル構造をなす金属−金属酸化物複合ナノ粒子を示す模式図である。
【図5】コア−シェル構造をなすAu−SnO2複合ナノ粒子の透過電顕(TEM)写真である。
【図6】コア−シェル構造をなすAu−TiO2複合ナノ粒子の透過電顕(TEM)写真である。
【図7】コア−シェル構造をなすAu−SnO2複合ナノ粒子の熱安定性試験結果を示すグラフである。
【図8】コア−シェル構造をなすAu−TiO2複合ナノ粒子の熱安定性試験結果を示すグラフである。
【図9】コア−シェル構造をなすAu−SnO2複合ナノ粒子の薄膜が備えられた電極回路基板を示す写真である。
【図10】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの300℃におけるCOガス検知特性を示すグラフである。
【図11】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの250℃におけるCOガス検知特性を示すグラフである。
【図12】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの200℃におけるCOガス検知特性を示すグラフである。
【図13】Au−SnO2複合ナノ粒子ガスセンサーの250℃における電気抵抗の安定化時間を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下に、コア−シェル構造をなす複合ナノ粒子を用いた本発明の薄膜型高活性ガスセンサーおよびその製造方法について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0029】
図4はコア−シェル構造をなす金属−金属酸化物複合ナノ粒子を示す模式図である。
【0030】
本発明の薄膜型高活性ガスセンサーは、コア−シェル構造の複合ナノ粒子10を電極回路基板上に塗布して薄膜を形成した後、該薄膜を熱処理することにより製造される。
【0031】
図4に示すように、コア−シェル構造の各複合ナノ粒子10は、金属ナノ粒子コア110と、金属酸化物ナノ粒子からなり、金属ナノ粒子コア110の表面を覆うシェル130とを含む。
【0032】
上記のコア110は、Au、Ag、Pt、Pd、Ir、Rhのナノ粒子などといった、電気伝導度に優れるうえ、酸化し難い金属ナノ粒子から構成することができ、これにより、電子の移動を円滑にしてガスセンサの感度を向上させることができる。
【0033】
上記のシェル130は、金属酸化物ナノ粒子が前記コア上にて単層を形成するようにして構成されたものとすることができる。または、金属酸化物ナノ粒子が前記コア上で直接シェルを形成するように構成することができる。前記シェルは、TiO2、SnO2、ZnO、ZrO2、WO3、In2O3、V2O5、RuOのナノ粒子といった半導体特性を有する半導体金属酸化物ナノ粒子から構成することができる。
【0034】
コア−シェル構造の複合ナノ粒子は、沈殿法、ゾル−ゲル法、水熱合成法などの従来のナノ粒子製造方法によって製造することができる。
【0035】
コア−シェル構造をなす各複合ナノ粒子にてシェルを構成する半導体金属酸化物ナノ粒子は、コア上に不均一(heterogeneous)な核生成によって形成される。そのため、比表面積が大きく、粒径が1〜数十nmの半導体金属酸化物ナノ粒子を得ることができる。また、高温の熱処理中、シェルを構成する半導体金属酸化物ナノ粒子の成長は、大幅に阻害される。
【0036】
このように半導体金属酸化物ナノ粒子は、粒径が数nmと非常に小さく、比表面積が大きいことから、センサーの感度が大幅に向上する。そのため、感度を向上させる目的で白金触媒といった貴金属触媒を添加しなくてもよい。
【0037】
本発明によるガスセンサーの感度向上について、従来のガスセンサと比較すると、次のとおりである。本発明によるガスセンサーの感度向上は、ガス吸着量の増大と、センサ材料内における電子空乏層の比率の増大により実現できる。ガス吸着量の増大と空乏層比率の増大は、センサ材料をナノ粒子とし、半導体金属酸化物の比表面積を広げたことに起因する。これに対し、従来のセンサーにおける感度向上は、白金触媒などの貴金属触媒の添加により、反応ガスのイオン化または分解の速度を増大ことで実現している。あらゆる種類のガスに対する感度が向上するので、ガスセンサーにおけるガスに対する選択性が低下するという問題がある。したがって、本発明によるガスセンサーは、ガスセンサーにおけるガスに対する選択性を損なうことなく、ガスセンサーの感度を向上させることができるという大きな利点を有する。ガスセンサの感度の向上が、従来のガスセンサーにおける化学的効果でなく、センサ材料についての表面積の増加及び電子空乏層比率の増加などといった物理的な硬化により実現されているからである。
【0038】
コア−シェル構造の複合ナノ粒子を純粋な溶液に再分散させて、複合ナノ粒子の濃厚なコロイド溶液を製造し、このコロイド溶液を液滴塗布、ディップコーティング法、スピンコート法、または、インクジェットプリント法によって電極回路基板上に塗布する。これにより、電極回路基板上にセンサ材料薄膜を形成することができる。このセンサ材料薄膜は、十分な付着強度を得るべく、熱処理することができる。
【0039】
上述のように、本発明の薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法であると、金属酸化物についての粉砕、分級およびペースト製造が不要なので、製造工程を簡素化させることができ、したがって、生産性を大きく向上させることができる。
【0040】
また、コア−シェル構造の複合ナノ粒子が高濃度のコロイド状態で電極回路基板上にて薄膜化されるため、高温焼結工程を必要とせず、400〜500℃の低温焼結工程によって薄膜に十分な付着強度を与えることができる。
【0041】
SnO2は、一般に700〜800℃で焼結が行われる。ところが、焼結されたSnO2と、電極回路基板との付着強度が低いため、SiO2微粉体を焼結助剤として使用している。しかし、本発明の場合、400〜500℃の熱処理工程で十分な付着強度を得ることができ、SiO2などの非導電性焼結助剤を混合することで感度が低下することもない。
【0042】
本発明は、少量の半導体性の金属酸化物ナノ粒子を用いて駆動されるため、初期駆動時におけるガスセンサーの安定化時間を短縮させることができる。市販のSnO2を用いた従来のガスセンサーは24〜48時間の安定化時間を必要とするが、本発明のガスセンサーは、安定化時間が10時間以内で良いという利点がある。
【0043】
また、従来の技術ではガスセンサ材料をナノ粒子とすることが本当に難しかった。なぜなら、半導体性金属酸化物の感知特性を高めるためには優れた結晶性が要求されるが、結晶性を高めるために熱処理温度を上げると、結晶粒成長が同時に起こって比表面積が減少し、その結果としてガスセンサ材料の感度が低下するからである。結局、半導体金属酸化物センサ材料の結晶粒成長が起こらない条件の下で熱処理するしかなかった。
【0044】
しかし、本発明のコア−シェル構造の複合ナノ粒子であると、ガスセンサ材料を実際にナノ粒子に形成することができ、結晶粒成長なしに高温での熱処理を行うことができる。
【0045】
以下、本発明を実施例を挙げてさらに詳しく説明する。本発明の権利範囲は下記の実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>Au−SnO2複合ナノ粒子の合成:
まず、500mLの超純水に0.1gのHAuCl4を溶解し、沸点まで加熱した後、還元剤として1gのクエン酸三ナトリウムを溶解した100mLの超純水を添加して粒径12〜15nmのAuナノ粒子コロイドを合成した。次いで、この反応溶液20mLについてpHを11に調節した後、40mM Na2SnO3水溶液1mLを添加してから60℃で2時間反応させてAu−SnO2複合ナノ粒子を合成した。そのTEM写真は図6のとおりである。
【0047】
<実施例2>Au−TiO2複合ナノ粒子の合成:
チタニウムアルコキシドとしてのチタニウムイソプロポキシドと、錯塩形成剤としてのトリエタノールアミンとを1:2の比率で混合した後、この混合溶液にチタニウムイオンが0.01mMとなるように超純水を混合してチタニウムアルコキシド錯塩希釈溶液を製造した。この反応溶液100mLに、実施例1で合成したAuナノ粒子コロイド溶液3.3mLを混合した後、オートクレーブに入れて24時間80℃の温度で水熱合成処理してAu−TiO2複合ナノ粒子を合成した。そのTEM写真は図7のとおりである。
【0048】
<熱的安定性試験>
実施例1のAu−SnO2複合ナノ粒子の熱安定性を次のように評価した。100〜500℃の温度範囲で2時間熱処理した後、X線回折分析によってAu−SnO2複合ナノ粒子のシェルを構成するSnO2の結晶構造の変化を観察した。その果を図7に示す。図7において、▲はSnO2(cassiterite)であり、●はAuである。
【0049】
ここで、SnO2はスズ石(cassiterite)の結晶構造を示した。100℃で熱処理した試料の結晶粒サイズは6nmであり、500℃で熱処理した試料の結晶粒サイズは7nmであった。これにより、SnO2の結晶粒成長が極めてわずかであることを見て取ることができる。
【0050】
実施例2のAu−TiO2複合ナノ粒子の熱安定性を次のように評価した。100〜1000℃の温度範囲で2時間熱処理した後、X線回折分析によってAu−TiO2複合ナノ粒子のシェルを構成するTiO2の結晶粒サイズおよび結晶構造の変化を観察した。その結果を図8に示す。図8において、■はTiO2であり、●はAuである。
【0051】
X線回折分析の結果より、シェルに形成されたTiO2の結晶構造はアナターゼ(anatase)であることを見て取ることができる。一般に、アナターゼ構造のTiO2結晶は600〜700℃の温度で結晶粒成長と共に結晶構造がルチル(Rutile)構造に変化する。ところが、Au−TiO2複合ナノ粒子は、高温でも結晶成長が非常に抑制されており、1000℃でも結晶構造がアナターゼとして残っているということを、X線回折分析結果から見て取ることができる。X線回折分析結果からScherrer方程式によってTiO2の結晶粒サイズを求めた。100℃で2時間熱処理したTiO2の結晶粒サイズは8nmであり、800℃で2時間熱処理した試料のTiO2の結晶粒サイズは10nmであって、殆ど結晶粒成長が起こっていないことが知られた。
【0052】
<実施例3>電極回路基板の製造:
実施例1で合成されたAu−SnO2複合ナノ粒子を15,000rpmの速度で遠心分離して1wt% Au−SnO2となるように超純水に再分散してAu−SnO2複合ナノ粒子の濃厚コロイド溶液を得た。
【0053】
アルミナ基板上にマイクロピペットを用いて容量50μLのAu−SnO2複合ナノ粒子の濃厚コロイド溶液を滴下した後、乾燥させてセンサ材料薄膜を得た。次いで、センサ材料薄膜を350℃で3時間熱処理し、図9に示すようにAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を有する電極回路基板を製造した。
【0054】
<CO感知特性の調査>
(1)300℃におけるCO検知特性:
実施例3のAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を有する電極回路基板を用いて、300℃の温度でCOガス濃度200〜1000ppmの範囲におけるCO検知特性を計測した。計測中にO2の濃度は21%となるように調節し、10分間隔でCOガス注入による抵抗変化を測定することでガス検知特性を評価した。その評価結果は図10のとおりである。
【0055】
図10の分析結果から、次のことが見て取れる。COの注入によって抵抗が大きく減少し、抵抗の減少幅は、COガスの濃度が高まるにつれて大きくなった。したがって、Au/SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子がCOガスに対して高い感度で反応したことが見て取れる。
【0056】
(2)250℃におけるCO検知特性:
実施例3のAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を有する電極回路基板を用い、250℃の温度及びCO濃度1000ppmにて、CO検知特性を15分間隔で3回計測した。計測結果を図11に示す。この結果より、評価温度で検知信号のベースラインが一定であり、ガス検知反応の再現性が非常に優れることを見て取ることができる。
【0057】
(3)200℃におけるCO検知特性:
実施例3のAu−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子薄膜を有する電極回路基板を用いて、200℃の温度及びCO濃度1000ppmにて、CO検知特性を15分間隔で2回計測した。計測結果を図12に示す。
【0058】
<安定化時間に対する試験>
Au−SnO2コア−シェル構造の複合ナノ粒子の薄膜を含むセンサー電極について、抵抗変化が安定する時間を250℃で試験した。このセンサー電極を250℃の電気炉に入れ、流入ガスなしに抵抗変化を24時間測定した。その測定結果を図13に示す。
【0059】
一般に、半導体ガスセンサ材料の駆動初期の抵抗変化は一定ではなく、センサー材料の種類に応じて抵抗が引き続き変化し、24〜48時間経過後に安定化がなされる。半導体センサ材料の「安定化時間」は、最終抵抗値の90%値に達する時間(T90%)として定義される。Au−SnO2複合ナノ粒子の場合、安定化時間(T90%)は560分であるので、Au−SnO2複合ナノ粒子が10時間以内に安定化することが見て取れる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の薄膜型高活性ガスセンサーであると、センサ材料を、実際にナノ粒子をなすようにすることができ、ガスセンサーの感度、選択性および長期安定性を大幅に向上させることができる。また、この薄膜型高活性ガスセンサーを製造する方法では、工程を単純化させて生産性を大幅に向上させることができ、薄膜化および小型化を図ることができる。
【0061】
以上、本発明の好適な実施例について説明の目的で開示したが、当業者であれば、添付した請求の範囲に開示された本発明の精神と範囲から逸脱することなく、様々な変形、追加または置換を加え得ることを理解するであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、このコアを被覆するシェルとからなるコア−シェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いたことを特徴とする薄膜型高活性ガスセンサー。
【請求項2】
前記コアは、優れた電気伝導度および抗酸化特性を有する金属ナノ粒子からなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型高活性ガスセンサー。
【請求項3】
前記シェルは、半導体特性を有する半導体金属酸化物ナノ粒子からなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型高活性ガスセンサー。
【請求項4】
金属ナノ粒子コアと、このコアの表面を覆う金属酸化物ナノ粒子シェルとからなる複合ナノ粒子を電極回路基板上に塗布する工程を含んでなることを特徴とする薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法。
【請求項5】
前記複合ナノ粒子を液滴塗布法、ディップコーティング法、スピンコート法、およびインクジェットプリント法の中から選択されるいずれか一つによって前記電極回路基板上に塗布して薄膜を形成することを特徴とする請求項4に記載の薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法。
【請求項1】
コアと、このコアを被覆するシェルとからなるコア−シェル構造の複合ナノ粒子をセンサ材料として用いたことを特徴とする薄膜型高活性ガスセンサー。
【請求項2】
前記コアは、優れた電気伝導度および抗酸化特性を有する金属ナノ粒子からなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型高活性ガスセンサー。
【請求項3】
前記シェルは、半導体特性を有する半導体金属酸化物ナノ粒子からなることを特徴とする請求項1に記載の薄膜型高活性ガスセンサー。
【請求項4】
金属ナノ粒子コアと、このコアの表面を覆う金属酸化物ナノ粒子シェルとからなる複合ナノ粒子を電極回路基板上に塗布する工程を含んでなることを特徴とする薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法。
【請求項5】
前記複合ナノ粒子を液滴塗布法、ディップコーティング法、スピンコート法、およびインクジェットプリント法の中から選択されるいずれか一つによって前記電極回路基板上に塗布して薄膜を形成することを特徴とする請求項4に記載の薄膜型高活性ガスセンサーの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図5】
【図6】
【図9】
【図2】
【図3】
【図4】
【図7】
【図8】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図5】
【図6】
【図9】
【公表番号】特表2012−522242(P2012−522242A)
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−503305(P2012−503305)
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004016
【国際公開番号】WO2010/114198
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(312004743)インダストリアル コーペレーション ファウンデーション チョンブク ナショナル ユニバーシティー (1)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL COOPERATION FOUNDATION CHONBUK NATIONAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】664−14 Deokjin−dong 1−ga,Deokjin−gu, Jeonju, 561−756 Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月21日(2009.7.21)
【国際出願番号】PCT/KR2009/004016
【国際公開番号】WO2010/114198
【国際公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(312004743)インダストリアル コーペレーション ファウンデーション チョンブク ナショナル ユニバーシティー (1)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL COOPERATION FOUNDATION CHONBUK NATIONAL UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】664−14 Deokjin−dong 1−ga,Deokjin−gu, Jeonju, 561−756 Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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