説明

コアレス電気機械装置、移動体、及びロボット

【課題】2相の電磁コイルの電気抵抗やインダクタンスを実質的に同一にして、コアレス電気機械装置の効率を良くする。
【解決手段】コアレス電気機械装置であって、第1の部材20に配置された永久磁石200と、第2の部材15に配置された2相の空芯の電磁コイル100A、100Bと、第2の部材に配置されたコイルバックヨーク115とを備え、電磁コイル100A、100Bは、有効コイル領域と、コイルエンド領域とを有し、2相の電磁コイルの有効コイル領域は、同じ形状を有しており、永久磁石200とコイルバックヨーク115との間の円筒面に配置されており、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、円筒面の内側方向または外側方向に曲げられており、2相の電磁コイルは同じ電気抵抗値を有しており、コイルバックヨーク115は、有効コイル領域を覆い、コイルエンド領域を覆っていない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コアレスの電動モーターや発電機などの電気機械装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ティースにインナーコイルとアウターコイルを巻き、アウターコイルのコイルエンドを外側に折り曲げている電動モーターが知られている(例えば特許文献1)。この電動モーターは、ティースとコイル(電磁コイル)とで電磁石を形成し、電磁石と永久磁石との相互作用で回転する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−246342号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ティースを有しないコアレス電動モーターでは、電磁コイルは電磁石を形成せず、電磁コイルを流れる電流と永久磁石との間のローレンツ力、およびその反作用により回転する。かかるコアレス電動モーターでは、電磁コイルの電気抵抗やインダクタンスがローレンツ力に影響を与える。2相の電磁コイルを有するコアレス電動モーターの場合、各相の電磁コイルの電気抵抗やインダクタンスが同一となるような電磁コイルの配置が難く、コアレス電動モーター(電気機械装置)の効率を良くすることが難しい、という問題があった。
【0005】
本願発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決し、2相の電磁コイルの電気抵抗やインダクタンスを、実質的に同一にして、コアレス電気機械装置の効率を良くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0007】
[適用例1]
相対的に移動可能な円筒形状の第1と第2の部材を有するコアレス電気機械装置であって、前記第1の部材に配置された永久磁石と、前記第2の部材に配置された2相の空芯の電磁コイルと、前記第2の部材に配置されたコイルバックヨークと、を備え、前記電磁コイルは、前記第1の部材を前記第2の部材に対して相対的に移動させる力を生じさせる有効コイル領域と、コイルエンド領域とを有しており、前記2相の電磁コイルの前記有効コイル領域は、同じ形状を有しており、前記永久磁石と前記コイルバックヨークとの間の円筒領域に配置されており、前記2相の電磁コイルのうちの第1の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域は、前記円筒面の内側方向または外側方向に曲げられており、前記2相の電磁コイルは同じ電気抵抗値を有しており、前記コイルバックヨークは、前記有効コイル領域の外周領域を覆い、前記コイルエンド領域の外周領域を覆っていない、コアレス電気機械装置。
コイルバックヨークを有するコアレス電気機械装置の場合、電磁コイルのうちのコイルバックヨークと重なる部分が、電磁コイルのインダクタンスの値に大きく寄与する。したがって、この適用例によれば、2相の電磁コイルの電気抵抗、インダクタンスを実質的に同一にできるので、コアレス電気機械装置の効率を良くすることが可能となる。
【0008】
[適用例2]
適用例1に記載のコアレス電気機械装置において、前記第1の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域が曲げられる前の形状と、前記2相の電磁コイル形状と、は同一形状を有し、前記第1の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域を、前記円筒面の内側方向または外側方向に曲げることにより形成されている、コアレス電気機械装置。
この適用例によれば、2相の電磁コイルは、コイルエンド領域が曲げられていない平らな状態では同一形状、すなわち、同一の電気抵抗、同一のインダクタンスであり、その一方の相の電磁コイルにつき、インダクタンスの値に影響を与えにくいコイルエンドの部分を曲げて形成されているので、2相の電磁コイルの電気抵抗、インダクタンスを実質的に同一にできる。
【0009】
[適用例3]
適用例1または2に記載のコアレス電気機械装置において、前記2相の電磁コイルのうちの第2の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域は、前記第1の相の前記コイルエンド領域が曲げられた方向と反対方向に曲げられている、コアレス電気機械装置。
この適用例によれば、他方の電磁コイルも曲げられているので、2相の電磁コイルのインダクタンスの値のわずかな違いを緩和できる。
【0010】
[適用例4]
適用例1〜3のいずれか一つに記載のコアレス電気機械装置において、有効コイル領域を形成する前記2相の電磁コイルの間隔は、前記電磁コイルの前記有効コイル領域における前記電磁コイルの太さの2倍の大きさである、コアレス電気機械装置。
この適用例によれば、電磁コイルの占積率を上げることができるので、コアレス電気機械装置の効率を良くすることが可能となる。
【0011】
[適用例5]
適用例1〜4のいずれか一つに記載のコアレス電気機械装置を備える移動体。
【0012】
[適用例6]
適用例1〜4のいずれか一つに記載のコアレス電気機械装置を備えるロボット。
【0013】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、モーターや発電装置などのコアレス電気機械装置のほか、それを用いた移動体、ロボット等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第1の実施例を示す説明図である。
【図2】電磁コイルのコイルエンド領域近傍を拡大して示す説明図である。
【図3】電磁コイル100Aと100Bのコイル形状の相違を拡大して示す説明図である。
【図4A】平面上に電磁コイル100A、100Bを形成した状態を示す説明図である。
【図4B】電磁コイル100A、100Bを重ね合わせる前の状態を示す説明図である。
【図4C】電磁コイル100A、100Bを重ね合わせた状態を示す説明図である。
【図5】第2の実施例を示す説明図である。
【図6】第2の実施例の電磁コイル100Aと100Bのコイル形状の相違を拡大して示す説明図である。
【図7】第3の実施例を示す説明図である。
【図8】第3の実施例の100Aと100Bのコイル形状の相違を拡大して示す説明図である。
【図9】本発明の変形例によるモーター/発電機を利用した移動体の一例としての電動自転車(電動アシスト自転車)を示す説明図である。
【図10】本発明の変形例によるモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である。
【図11】本発明の変形例によるモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[第1の実施例]
図1は、第1の実施例を示す説明図である。図1(A)は、電動モーター10を回転軸230と平行な面で切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示し、図1(B)は、電動モーター10を回転軸230と垂直な切断線1B−1Bで切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示している。電動モーター10は、略円筒状のステーター15が外側に配置され、略円筒状のローター20が内側に配置されたラジアルギャップ構造のインナーローター型モーターである。ステーター15は、ケーシング110の内周に沿って配置されたコイルバックヨーク115と、コイルバックヨーク115の内側に配列された複数の電磁コイル100A、100Bと、を有している。本実施例では、電磁コイル100A、100Bを区別しない場合には、単に電磁コイル100と呼ぶ。コイルバックヨーク115は、磁性体材料で形成されており、略円筒形形状を有している。電磁コイル100Aと、100Bとは、樹脂130によりモールドされて、同一の円筒面に配置されている。電磁コイル100Aと、100Bの回転軸230に沿った方向の長さは、コイルバックヨーク115の回転軸230に沿った方向の長さよりも長くなっている。すなわち、図1(A)において、電磁コイル100A、100Bの左右方向の端部は、コイルバックヨーク115と重ならない。本実施例では、コイルバックヨーク115と重なっている領域を有効コイル領域と呼び、コイルバックヨーク115と重ならない領域をコイルエンド領域と呼ぶ。本実施例では、電磁コイル100Bの有効コイル領域とコイルエンド領域、および、電磁コイル100Aの有効コイル領域は、同一の円筒面にあるが、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、当該円筒面から外側に曲がっている。
【0016】
ステーター15には、さらに、ローター20の位相を検出する位置センサーとしての磁気センサー300が、配置されている。磁気センサー300として、例えばホール素子を有するホールセンサーを用いることができる。磁気センサー300は、略正弦波のセンサー信号を生成する。このセンサー信号は、電磁コイル100を駆動するための駆動信号を生成するために用いられる。したがって、磁気センサー300は、電磁コイル100A、100Bに対応して2つ設けられていることが好ましい。磁気センサー300は、回路基板310の上に固定されており、回路基板310は、ケーシング110に固定されている。
【0017】
ローター20は、中心に回転軸230を有し、その外周に複数の永久磁石200を有している。各永久磁石200は、回転軸230の中心から外部に向かう径方向(放射方向)に沿って磁化されている。なお、図1(B)において永久磁石200に付したN、Sの文字は、永久磁石200の電磁コイル100A、100B側の極性を示している。永久磁石200と電磁コイル100とは、ローター20とステーター15の対向する円筒面に対向して配置されている。ここで、永久磁石200の回転軸230に沿った方向の長さは、コイルバックヨーク115の回転軸230に沿った方向の長さと同じ長さである。すなわち、永久磁石200と、コイルバックヨーク115にはさまれた領域と、電磁コイル100Aまたは100Bとが重なる領域が有効コイル領域となる。回転軸230は、ケーシング110の軸受け240で支持されている。本実施例では、ケーシング110の内側に、波バネ座金260を備えている。この波バネ座金260は、永久磁石200の位置決めを行っている。但し、波バネ座金260は別の構成部品で置き換えることも可能である。
【0018】
図2は、電磁コイルのコイルエンド領域近傍を拡大して示す説明図である。図2(A)は、電動モーター10を回転軸230と平行な面で切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示し、図2(B)は、回転軸230と垂直な切断線2B−2Bで切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を、図2(C)は、回転軸230と垂直な切断線2C−2Cで切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を、図2(D)は、回転軸230と垂直な切断線2D−2Dで切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示している。図2(A)、図2(D)には、コイルガイド270を記載している。ここで、切断線2B−2Bと、切断線2C−2Cは、電磁コイル100A、100Bのコイルエンド領域を切る切断線であり、切断線2D−2Dは、電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域を切る切断線である。コイルガイド270は、電磁コイル100A、100Bを配置する際に、電磁コイル100A、100Bの位置決めを容易に行うために用いられる。
【0019】
図2(B)示す断面では、電磁コイル100Aを形成する導線および電磁コイル100Bを形成する導線いずれも、円筒面の円周に沿った方向となっている。また、この断面では、電磁コイル100Aが円筒面の外側方向に曲げられているので、電磁コイル100Aが外側の円周上にあり、電磁コイル100Bが内側の円周上にある。電磁コイル100Aが円筒面の外側方向に曲げられているのは、電磁コイル100Aと100Bとがぶつかって設置できなくなるのを防止するためである。図2(C)示す断面では、電磁コイル100Aを形成する導線の配線方向が円筒面の円周に沿った方向となっているが、電磁コイル100Bを形成する導線の配線方向は、図の表裏方向であり、回転軸230と平行な方向となっている。図2(D)に示す断面では、電磁コイル100Aを形成する導線及び電磁コイル100Bを形成する導線の配線方向は、いずれも図の表裏方向であり、回転軸230と平行な方向となっている。
【0020】
図3は、電磁コイル100Aと100Bのコイル形状の相違を拡大して示す説明図である。電磁コイル100Aは、コイルバックヨーク115と重ならなくなったところP1から、外側に折れ曲がっている。この折れ曲がったところP1から、電磁コイル100Aの端P2までの長さは、(L1+φ1)である。ここで。φ1は、電磁コイル100Aを形成する導体の集合の円筒面に沿った方向の太さである。また、電磁コイル100Bについて、コイル100Aが折れ曲がったところP1から、電磁コイル100Bの端P3までの長さは、(L1+φ1)である。すなわち、折り曲げ前の電磁コイル100Aと100Bとはローターの回転軸方向の長さが同じであり、電磁コイル100Aの電気抵抗と、電磁コイル100Bの電気抵抗は、同じ値である。
【0021】
図4Aは、平面上に電磁コイル100A、100Bを形成した状態を示す説明図である。図4A(A1)は電磁コイル100Aの平面図を示し、図4A(B1)は電磁コイル100Bの平面図を示している。電磁コイル100Aと電磁コイル100Bとは、同じ材質、同じ径の導体で形成されている。図4A(A2)は電磁コイル100Aの側面図を示し、図4A(B1)は電磁コイル100Bの側面図を示している。図4A(A1)と(B1)及び図4A(A2)と(B2)を比較すればわかるように、平面上に電磁コイル100A、100Bを形成した状態では、電磁コイル100A、100Bは同じ形状である。また、電磁コイル100Aの巻数と電磁コイル100Bの巻数は同じ数である。したがって、電磁コイル100Aの電気抵抗と、電磁コイル100Bの電気抵抗は、同じ値である。また電磁コイル100Aのインダクタンスと電磁コイル100Bのインダクタンスは、同じ値である。また、電磁コイル100A、100Bの導体の束の太さをφ1としたとき、有効コイル領域におけるコイル束の間隔をL2とすると、L2≒2×φ1の関係を有している。
【0022】
図4Bは、電磁コイル100A、100Bを重ね合わせる前の状態を示す説明図である。図4B(A1)は電磁コイル100Aを回転軸230の放射方向から見た図を示し、図4B(B1)は電磁コイル100Bを回転軸230の放射方向から見た図を示している。図4B(A2)は電磁コイル100Aを回転軸230と平行な方向から見た図を示し、図4B(B1)は電磁コイル100Bを回転軸230と平行な方向から見た図を示している。図4(A1)、(A2)に示すように、電磁コイル100Aについては、全体が平面形状から円筒面に沿って曲げられているとともに、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は円筒面から外側方向に曲げられている。一方、図4(B1)、(B2)に示すように、電磁コイル100Bについては、全体が平面形状から円筒面に沿って曲げられているが、電磁コイル100Bのコイルエンド領域は円筒面から外側方向に曲げられていない。なお、形状を変えても電気抵抗は変わらないので、電磁コイル100Aの電気抵抗と電磁コイル100Bの電気抵抗は同じ値である。一方、電磁コイル100Aと電磁コイル100Bとは、有効コイル領域の形状は同じ形状であるが、コイルエンド領域の形状が異なる。すなわち、インダクタンスのうち、有効コイル領域に起因するインダクタンスは同じであるが、コイルエンド領域に起因するインダクタンスは、異なる。すなわち、電磁コイル100Aのインダクタンスと電磁コイル100Bのインダクタンスとは、若干異なることになる。一般的には、コイルエンド領域を曲げると、電磁コイル100Aの磁束方向の面積sが小さくなるので、インダクタンスは小さくなる。たとえば、コイルのインダクタンスLは、以下の式で示される。
【数1】

ここで、kは長岡係数であり、μは透磁率、nは電磁コイルの巻数、sは電磁コイルの断面積、lは電磁コイルの長さである。
【0023】
図4Cは、電磁コイル100A、100Bを重ね合わせた状態を示す説明図である。なお、図4Cでは、コイルバックヨーク115を記載している。電磁コイル100Aの有効コイル領域の2つの導体の束の間に、2つの電磁コイル100Bの有効コイル領域の導体の束が収まっている。また、電磁コイル100Bの有効コイル領域の2つの導体の束の間に、2つの電磁コイル100Aの有効コイル領域の導体の束が収まっており、電磁コイル100Aと100Bは重なっていない。また、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、円筒面から外側に曲げられており、電磁コイル100Bのコイルエンド領域と半径方向にずれている。このように、電磁コイル100Aのコイルエンド領域を外側に曲げることにより、電磁コイル100Aと100Bとを同じ円筒面上にぶつからないように配置することができる。本実施例では、電磁コイル100A、100Bの導体の束の太さφ1と、有効コイル領域におけるコイル束の間隔をL2との間にはL2≒2×φ1の関係を有している。すなわち、電磁コイル100A、100Bが配置される円筒面は、電磁コイル100A、100Bの導体の束によりほぼ占められているので、電磁コイルの占積率を向上させ、電動モーター10(図1)の効率を向上させることができる。
【0024】
次に、電磁コイル100Aと100Bの、電気抵抗とインダクタンスについて説明する。図4Bで示した電磁コイル100Aと100Bの形状は、図4Cで示した電磁コイル100Aと100Bの形状と同じである。したがって、図4Bで説明したように、電磁コイル100Aの電気抵抗と電磁コイル100Bの電気抵抗は、同じ値である。コイルバックヨーク115がないときのインダクタンスについては、図4Bで説明したように、有効コイル領域に起因するインダクタンスは同じであるが、コイルエンド領域に起因するインダクタンスは、異なっており、電磁コイル100Aのインダクタンスと電磁コイル100Bのインダクタンスとは、若干異なっている。しかし、本実施例にように、コイルバックヨーク115と電磁コイル100Aとが重なった状態では、電磁コイル100Aのインダクタンスは、コイルバックヨーク115と電磁コイル100Aとが重なった部分、すなわち有効コイル領域のインダクタンスが支配的となる。電磁コイル100Bについても同様である。ここで、電磁コイル100Aの有効コイル領域と、電磁コイル100Bの有効コイル領域は、同じ形状であるので、電磁コイル100Aのインダクタンスと電磁コイル100Bのインダクタンスとは、ほぼ同じ値となる。したがって、電磁コイル100Aと永久磁石200との間のローレンツ力と、電磁コイル100Bと永久磁石200との間のローレンツ力とは同じ大きさとなるので、両者のバランスが取れる結果、電動モーター10の効率を向上させることができる。
【0025】
以上、本実施例の電動モーター10は、永久磁石200と、2相のコアレス(空芯)の電磁コイル100A、100Bと、コイルバックヨーク115とを備えている。各相の電磁コイル100A、100Bはそれぞれ、有効コイル領域と、コイルエンド領域とを有している。そして、各相の電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域は、同じ形状を有している。各相の電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域は、永久磁石200とコイルバックヨーク115との間の円筒面に配置されている。電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、円筒面の外側方向に曲げられている。さらに、各相の電磁コイル100A、100Bは同じ電気抵抗値を有している。また、コイルバックヨーク115は、各相の電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域を覆い、コイルエンド領域を覆っていないことから、各相の電磁コイル100A、100Bのインダクタンスは実質的に同じ値である。したがって、電磁コイル100Aと永久磁石200との間のローレンツ力と、電磁コイル100Bと永久磁石200との間のローレンツ力とは同じ大きさとなるので、両者のバランスが取れる結果、電動モーター10の効率を向上させることができる。
【0026】
さらに、図4A〜図4Cで説明したように、各相の電磁コイル100A、100Bは、平面上で同一形状である電磁コイル100A、100Bを円筒面に沿って曲げ、A相の電磁コイル100Aのコイルエンド領域を、円筒面の外側方向に曲げることにより形成されているので、各相の電磁コイル100A、100Bは同じ電気抵抗値にすることが容易である。
【0027】
また、各相の電磁コイル100A、100Bが有する2つの有効コイル領域のコイルを形成する導体の束の間の間隔L2は、電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域における導体のコイルの束の太さφ1の2倍の大きさであるので、二相コイルを互いの間に効率よく配置することで電磁コイルの占積率を大きくでき、電動モーター10の効率を向上させることができる。
【0028】
[第2の実施例]
図5は、第2の実施例を示す説明図である。図5(A)は、電動モーター10を回転軸230と平行な面で切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示し、図5(B)は、電動モーター10を回転軸230と垂直な切断線5B−5Bで切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示している。第1の実施例では、電磁コイル100Aのコイルエンド領域が、電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域が配置される円筒面の外側方向に曲げられているが、第2の実施例では、電磁コイル100Aのコイルエンド領域が、電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域が配置される円筒面の内側方向に曲げられている点が異なる。また、第2の実施例では、磁気センサー300を備えていない代わりに、エンコーダー320を備えている。磁気センサー300を備えないのは、以下の理由による。すなわち、第2の実施例では、電磁コイル100Aのコイルエンド領域が円筒面の内側方向に曲げられているので、第1の実施例と同様に磁気センサー300を配置すると、磁気センサー300と、永久磁石200との間に電磁コイル100Aのコイルエンド領域が位置することになる。すなわち、磁気センサー300と電磁コイル100Aのコイルエンド領域とが、接近することになる。その結果、電磁コイル100Aに流れる電流により生じる磁束により、磁気センサー300が受ける磁束密度が影響を受ける恐れがある。なお、本実施例では、磁気センサー300を備えていない代わりに、永久磁石200の機械角を検知するためのエンコーダー320を備えている。
【0029】
図6は、第2の実施例の電磁コイル100Aと100Bのコイル形状の相違を拡大して示す説明図である。電磁コイル100Aは、点P4から円筒面の内側方向に曲げられて、点P5まで伸びている。電磁コイル100Bは、点P4で曲げられずに、円筒面にそって点P6まで伸びている。電磁コイル100Aにおける点P4から点P5までの長さL3と、電磁コイル100Bにおける点P4から点P6までの長さL3は同じ長さである。電磁コイル100A、100Bの点P4より、点P5及び点P6までの形状は、それぞれ同形である。したがって、電磁コイル100A、100Bの電気抵抗の値は同じである。また、点P4は、コイルバックヨーク115と重なっていない。すなわち、電磁コイル100Aの曲げられていない部分は、有効コイル領域であり、電磁コイル100Aの有効コイル領域と電磁コイル100Bの有効コイル領域は、同形である。電磁コイル100A、100Bの有効コイル領域は、コイルバックヨーク115と重なっており、電磁コイル100Aのインダクタンスと電磁コイル100Bのインダクタンスは、いずれも有効コイル領域におけるインダクタンスが支配的となるため、電磁コイル100A、100Bのインダクタンスは実質的に同じ値である。
【0030】
したがって、第2の実施例においても、電磁コイル100Aの電気抵抗と、電磁コイル100Bの電気抵抗の値を同じ値とし、電磁コイル100Aのインダクタンスと、電磁コイル100Bのインダクタンスの値を実質的に同じ値にすることができる。その結果、電磁コイル100Aと永久磁石200との間のローレンツ力と、電磁コイル100Bと永久磁石200との間のローレンツ力とを同じ大きさとすることができるので、両者のバランスが取れる結果、電動モーター10の効率を向上させることができる。
【0031】
[第3の実施例]
図7は、第3の実施例を示す説明図である。図7(A)は、電動モーター10を回転軸230と平行な面で切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示し、図7(B)は、電動モーター10を回転軸230と垂直な切断線7B−7Bで切ったときの断面を断面と垂直な方向から見たときの図を模式的に示している。第1、第2の実施例では、電磁コイル100Aのコイルエンド領域を円筒面の外側方向または内側方向に曲げ、電磁コイル100Bについては、コイルエンド領域を円筒面の外側方向または内側方向に曲げていない。これに対し、第3の実施例では、電磁コイル100Aのコイルエンド領域を円筒面の外側方向に曲げ、電磁コイル100Bのコイルエンド領域を円筒面の内側方向に曲げている点が異なる。
【0032】
図8は、第3の実施例の100Aと100Bのコイル形状の相違を拡大して示す説明図である。電磁コイル100Aは、点P7から円筒面の外側方向に曲げられて、点P8まで伸びている。電磁コイル100Bは、点P7から円筒面の内側方向に曲げられて、点P9まで伸びている。電磁コイル100Aにおける点P7から点P8までの長さL4と、電磁コイル100Bにおける点P7から点P9までに長さL4は同じ長さである。電磁コイル100A、100Bの点P7より図面左方向は、同形である。したがって、電磁コイル100A、100Bの電気抵抗の値は同じである。
【0033】
電磁コイル100A、100Bの厚さをL5とすると、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、外側方向にL5/2曲げられており、電磁コイル100Bのコイルエンド領域は、内側方向にL5/2曲げられている。なお、第1の実施例では、電磁コイル100Aのコイルエンド領域は、外側方向にL5曲げられることになる。すなわち、第3の実施例における電磁コイル100Aの変形量は、第1の実施例における電磁コイル100Aの変形量の半分である。したがって、第3の実施例の電磁コイル100Aのインダクタンスの値は、第1の実施例の電磁コイル100Aのインダクタンスの値よりも、円筒形に変形させた図4Bに示すような電磁コイル100Bのインダクタンスの値に近い。また、電磁コイル100Bについても、電磁コイル100Bのコイルエンド領域が、内側方向にL5/2曲げられているので、第3の実施例の電磁コイル100Aのインダクタンスの値は、円筒形に変形させた図4Bに示すような電磁コイル100Bのインダクタンスの値よりも、第1の実施例の電磁コイル100Aのインダクタンスの値に近づいている。したがって、第1の実施例に比べて、第3の実施例の方が、電磁コイル100Aのインダクタンスと電磁コイル100Bのインダクタンスの値の差が小さい。
【0034】
したがって、第3の実施例においても、電磁コイル100Aの電気抵抗と、電磁コイル100Bの電気抵抗の値を同じ値とし、電磁コイル100Aのインダクタンスと電磁コイル100Bのインダクタンスの値を実質的に同じ値にすることができる。その結果、電磁コイル100Aと永久磁石200との間のローレンツ力と、電磁コイル100Bと永久磁石200との間のローレンツ力とを同じ大きさとすることができるので、両者のバランスが取れる結果、電動モーター10の効率を向上させることができる。
【0035】
なお、第3の実施例では、磁気センサー300を備える構成であるが、電磁コイル100Aが円筒面の内側方向に曲げられているため、第2の実施例と同様に、磁気センサー300を備えずに、エンコーダー320を備える構成であってもよい。
【0036】
図9は、本発明の変形例によるモーター/発電機を利用した移動体の一例としての電動自転車(電動アシスト自転車)を示す説明図である。この自転車3300は、前輪にモーター3310が設けられており、サドルの下方のフレームに制御回路3320と充電池3330とが設けられている。モーター3310は、充電池3330からの電力を利用して前輪を駆動することによって、走行をアシストする。また、ブレーキ時にはモーター3310で回生された電力が充電池3330に充電される。制御回路3320は、モーターの駆動と回生とを制御する回路である。このモーター3310としては、上述した各種の電動モーター10を利用することが可能である。
【0037】
図10は、本発明の変形例によるモーターを利用したロボットの一例を示す説明図である。このロボット3400は、第1と第2のアーム3410,3420と、モーター3430とを有している。このモーター3430は、被駆動部材としての第2のアーム3420を水平回転させる際に使用される。このモーター3430としては、上述した各種の電動モーター10を利用することが可能である。
【0038】
図11は、本発明の変形例によるモーターを利用した鉄道車両を示す説明図である。この鉄道車両3500は、電動モーター3510と、車輪3520とを有している。この電動モーター3510は、車輪3520を駆動する。さらに、電動モーター3510は、鉄道車両3500の制動時には発電機として利用され、電力が回生される。この電動モーター3510としては、上述した各種の電動モーター10を利用することができる。
【0039】
以上、いくつかの実施例に基づいて本発明の実施の形態について説明してきたが、上記した発明の実施の形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨並びに特許請求の範囲を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物が含まれることはもちろんである。
【符号の説明】
【0040】
1B−1B…切断線
2B−2B…切断線
2C−2C…切断線
2D−2D…切断線
10…電動モーター
15…ステーター
20…ローター
100、100A、100B…電磁コイル
110…ケーシング
115…コイルバックヨーク
130…樹脂
200…永久磁石
230…回転軸
240…軸受け
260…波バネ座金
270…コイルガイド
300…磁気センサー
310…回路基板
320…エンコーダー
3300…自転車
3310…モーター
3320…制御回路
3330…充電池
3400…ロボット
3410…第2のアーム
3420…第2のアーム
3430…モーター
3500…鉄道車両
3510…電動モーター
3520…車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相対的に移動可能な円筒形状の第1と第2の部材を有するコアレス電気機械装置であって、
前記第1の部材に配置された永久磁石と、
前記第2の部材に配置された2相の空芯の電磁コイルと、
前記第2の部材に配置されたコイルバックヨークと、
を備え、
前記電磁コイルは、前記第1の部材を前記第2の部材に対して相対的に移動させる力を生じさせる有効コイル領域と、コイルエンド領域とを有しており、
前記2相の電磁コイルの前記有効コイル領域は、同じ形状を有しており、前記永久磁石と前記コイルバックヨークとの間の円筒領域に配置されており、
前記2相の電磁コイルのうちの第1の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域は、前記円筒面の内側方向または外側方向に曲げられており、
前記2相の電磁コイルは同じ電気抵抗値を有しており、
前記コイルバックヨークは、前記有効コイル領域の外周領域を覆い、前記コイルエンド領域の外周領域を覆っていない、コアレス電気機械装置。
【請求項2】
請求項1に記載のコアレス電気機械装置において、
前記第1の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域が曲げられる前の形状と、前記2相の電磁コイル形状と、は同一形状を有し、前記第1の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域を、前記円筒面の内側方向または外側方向に曲げることにより形成されている、コアレス電気機械装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のコアレス電気機械装置において、
前記2相の電磁コイルのうちの第2の相の電磁コイルの前記コイルエンド領域は、前記第1の相の前記コイルエンド領域が曲げられた方向と反対方向に曲げられている、コアレス電気機械装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のコアレス電気機械装置において、
前記有効コイル領域を形成する前記2相の電磁コイルの間隔は、前記電磁コイルの前記有効コイル領域における前記電磁コイルの太さの2倍の大きさである、コアレス電気機械装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のコアレス電気機械装置を備える移動体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のコアレス電気機械装置を備えるロボット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−244643(P2012−244643A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−108958(P2011−108958)
【出願日】平成23年5月16日(2011.5.16)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】