説明

コイル、変圧素子、スイッチング電源装置

【課題】より巻き数が大きく、かつ、薄型でありながら、反りや歪みが発生しにくいコイルを提供する。
【解決手段】1次側コイルは、絶縁性の基板を挟んで対向する導体形成層34,35を含む。導体形成層34における導体パターン341〜344と、導体形成層35における導体パターン351〜354とは、接続部361〜367によって交互に連結されて一体化している。導体パターン341〜344および導体パターン351〜354は、それぞれ、互いに隣り合うように同方向に巻回しており、各々の巻回中心側の端部同士および巻回外周側の端部同士がそれぞれ連結されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面に沿って巻回するコイル、ならびにそのようなコイルを備えた変圧素子およびスイッチング電源装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、スイッチング電源装置として種々のDC−DCコンバータが提案され、実用に供されている。その多くは、電力変換トランス(変圧素子)の1次側コイルに接続されたスイッチング回路のスイッチング動作により直流入力電圧をスイッチングし、スイッチング出力を電力変換トランスの2次側コイルに取り出す方式を採用したものである。スイッチング回路のスイッチング動作に伴い、2次側コイルに現れる電圧は、整流回路によって整流された後、平滑回路によって直流に変換されて出力される。
【0003】
最近、このようなスイッチング電源装置のコンパクト化が求められており、それに伴って変圧素子の小型化および薄型化が進んでいる。このため、1次側コイルや2次側コイルとして、樹脂製の基板上に設けられた薄膜状(あるいは薄板状)のコイルが採用されている(特許文献1参照)。
【0004】
なお、上記のようなコイルに関連するものとして、特許文献2,3には、絶縁基板上に導電パターンが設けられたインダクタが開示されている。
【特許文献1】特開平9−326316号公報
【特許文献2】特開2000−232019号公報
【特許文献3】特開平8−107018号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、より大きな変圧比が要求される場合には、1次側コイルの巻き数と2次側コイルの巻き数との比(巻数比)を大きくする必要があるので、いずれか一方のコイルの巻き数を増大させなければならない。しかしながら、限られた形成面積においてコイルの断面積を高めつつ、コイルの巻き数を増やすとなると、必然的にコイルの各ターンの幅が狭くなる。そうした場合、上記のような樹脂基板に設けられた薄膜状(あるいは薄板状)のコイルでは、製造時や使用時における温度変化に伴う応力に起因する反りや歪みが発生しやすくなる。
【0006】
具体的には、高温環境下に置かれると、金属からなるコイルは、主に巻回方向へ伸びることとなる。図10(A)は、図示しない樹脂基板上に設けられたコイル130を上面から眺めた概略図であり、図10(B)は、図10(A)のXIB−XIB線に沿った断面の概略図である。さらに、図10(C)は、図10(A)に示したコイル130を構成する巻線体131T1〜131T3における位置P101から位置P102までの区間を直線状に伸ばした様子を表し、特に、実線が駆動前の常温時に対応し、破線が駆動中(後)の高温時に対応している。図10(C)では、巻回方向Rに沿った紙面横方向が樹脂基板の表面における位置P101から位置P102までのコイル130に沿った距離に相当し、紙面上下方向が樹脂基板の表面と直交する方向(厚み方向)におけるコイル130の変位に相当する。このようなコイル130が自らの巻回方向に熱膨張しようとした場合、コイル130は樹脂基板と密着しているので単独では変位することができない。そのため、コイル130の熱膨張率と樹脂基板の熱膨張率との間に大きな差がある場合、基板とコイル130との接合界面近傍において応力が生じる。特に、コイル130の巻き数を増やすことで、コイル130の各巻線体131T1〜131T3の幅を狭くすると共に全長を長くすると、高温環境下での巻回方向Rに沿った応力は顕著に大きくなる。そのような応力を緩和するため、コイル130は、図10(B),10(C)に示したように実線で示した基板表面に平行な所定位置から、破線で示した位置へ樹脂基板と共に変位することとなる。この結果、樹脂基板およびコイルが一体となったコイル基板全体として、反りを発生させる。
【0007】
このようなコイル基板の反りは、それを搭載する変圧素子などのコンパクト化を妨げる要因となる。また、この種のコイル基板では、コイルが設けられた樹脂基板の裏面に、アルミニウムなどの熱伝導率の高い冷却基板を接触させ、コイルの冷却を行うことがあるが、その場合、あらかじめ樹脂基板に反りが生じていると、樹脂基板と冷却基板との間に隙間が生じてしまい冷却効率が低下してしまう。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、より巻き数が大きく、かつ、薄型でありながら、反りや歪みが発生しにくいコイルを提供することにある。本発明の第2の目的は、コンパクトな構成でありながら、より大きな変圧比を得るのに適した変圧素子およびそれを備えたスイッチング電源装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のコイルは、複数の導体パターンをそれぞれ有すると共に絶縁層を挟んで対向する一組の導体形成層を含むものである。ここで、一方の導体形成層における複数の導体パターンと、他方の導体形成層における複数の導体パターンとが絶縁層を貫く複数の接続部によって交互に連結されて一体となり、全体として一組の導体形成層に沿って巻回している。
【0010】
本発明の変圧素子は、磁芯と、その磁芯の周囲を巻回する1次側コイルおよび2次側コイルとを備え、1次側コイルおよび2次側コイルのうちの少なくとも一方として、上記本発明のコイルを用いるようにしたものである。さらに、本発明のスイッチング電源装置は、直流入力電圧をスイッチングして入力交流電圧を生成するスイッチング回路と、磁芯の周囲を巻回する1次側コイルおよび2次側コイルを有し入力交流電圧を変圧して出力交流電圧を出力する変圧素子と、この変圧素子の2次側に並列接続され出力交流電圧の整流動作を行うことで直流出力電圧を生成する整流回路とを備え、変圧素子における1次側コイルおよび2次側コイルのうちの少なくとも一方として、上記本発明のコイルを用いるようにしたものである。
【0011】
本発明のコイルでは、一方の導体形成層の各々に設けられた複数の導体パターンと、他方の導体形成層の各々に設けられた複数の導体パターンとが複数の接続部によって交互に連結され、一体化して巻回しているので、加熱された場合であっても、一の導体形成層のみにおいて巻回する一本の連続したコイルと比べ、全体における巻回方向に沿って膨張しようとする応力が軽減される。これは、複数に分割された導体パターンの各々の歪みが他の導体パターンへ伝達しにくいためである。
【0012】
本発明のコイルでは、一組の導体形成層の各々において、複数の導体パターンが互いに隣り合うように同方向に巻回し、複数の導体パターンにおける巻回中心側の端部同士および巻回外周側の端部同士がそれぞれ連結されるようにするとよい。こうすることで、コイルが比較的短い区間で区切られ、巻回方向に沿って膨張しようとする応力成分が巻回方向へ蓄積しにくいうえ、所定の領域内において導体が占める面積の割合、すなわち線積率と、全体としての巻き数(あるいは巻回量)とを向上させるのに有利となる。さらに、複数の導体パターンは、それぞれの巻回量が1周未満であり、かつ、一方の導体形成層における一の導体パターンと、これと連結された他方の導体形成層における一の導体パターンとで一周以上巻回していると、全体としての反りや歪みを効果的に抑制しつつ、線積率および全体としての巻き数(あるいは巻回量)の向上を図るのにいっそう有利となる。
【0013】
また、本発明のコイルでは、一方の導体形成層における導体パターンの巻回量と、他方の導体形成層における導体パターンの巻回量とが互いに異なるようにしてもよい。また、複数の接続部が、一組の導体形成層に沿って均等配置されるようにするとよい。全体としての反りや歪みが、より均質に低減されるからである。
【発明の効果】
【0014】
本発明のコイルによれば、一組の導体形成層にそれぞれ設けられた複数の導体パターンが複数の接続部によって交互に連結されて一体となり、全体として一組の導体形成層に沿って巻回するようにしたので、加熱された際、全体として巻回方向に沿って膨張しようとする応力を軽減することができる。したがって、一の導体形成層のみにおいて巻回する場合と比べ、反りや歪みの発生を抑制しつつ、さらなる巻き数の増加や薄型化を図ることができる。特に、各導体形成層において、複数の導体パターンを互いに隣り合うように同方向に巻回させ、各々の巻回中心側の端部同士および巻回外周側の端部同士をそれぞれ連結するようにすると、熱膨張に伴う絶縁層と導体パターンとの間に発生する応力を短い区間で分断することができ、その応力が巻回方向へ蓄積するのをより効果的に防ぐことができる。さらに、線積率、および全体としての巻き数(あるいは巻回量)の双方を向上させることができる。
【0015】
本発明の変圧素子およびスイッチング電源装置によれば、上記本発明のコイルを備えるようにしたので、変圧比の向上を図りつつ、さらなるコンパクト化を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための最良の形態(以下、単に実施の形態という。)について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態としてのスイッチング電源装置の回路構成を表すものである。このスイッチング電源装置は、高圧バッテリ10から供給される高圧の直流入力電圧Vinをより低い直流出力電圧Voutに変換し、図示しない低圧バッテリに供給して負荷6を駆動するDC−DCコンバータとして機能するものである。なお、本実施の形態に係る変圧素子も、以下併せて説明する。
【0018】
このスイッチング電源装置は、1次側高圧ラインL1Hと1次側低圧ラインL1Lとの間に設けられたスイッチング回路1および入力平滑コンデンサ2と、1次側コイル31および2次側コイル32A,32Bを有する変圧素子としてのトランス3とを備えている。1次側高圧ラインL1Hの入力端子T1と1次側低圧ラインL1Lの入力端子T2との間には、高圧バッテリ10から出力される直流入力電圧Vinが印加されるようになっている。このスイッチング電源装置は、トランス3の2次側に設けられた整流回路4と、この整流回路4に接続された平滑回路5とをさらに備えている。
【0019】
スイッチング回路1は、4つのスイッチング素子S1〜S4から構成されたフルブリッジ型の回路構成となっている。具体的には、スイッチング素子S1,S2の一端同士が互いに接続されると共に、スイッチング素子S3,S4の一端同士が互いに接続されている。また、スイッチング素子S1,S3の他端同士が互いに接続されると共にスイッチング素子S2,S4の他端同士が互いに接続され、これらの他端同士は、それぞれ入力端子T1,T2に接続されている。スイッチング回路1はこのような構成により、図示しない駆動回路から供給される駆動信号に応じて、入力端子T1,T2間に印加される直流入力電圧Vinを入力交流電圧に変換するようになっている。なお、これらスイッチング素子としては、例えば電界効果型トランジスタ(MOS−FET;Metal Oxide Semiconductor-Field Effect Transistor)やIGBT(Insulated Gate Bipolor Transistor)などのスイッチ素子が用いられる。
【0020】
入力平滑コンデンサ2は、入力端子T1,T2から入力された直流入力電圧Vinを平滑化するためのものである
【0021】
トランス3の一対の2次側コイル32A,32Bは接続部Cで互いに接続され、この接続部Cが出力ラインLOを介して出力端子T3に導かれている。つまり、このスイッチング電源装置はセンタタップ型のものである。このトランス3は、スイッチング回路1によって生成された入力交流電圧を変圧し、一対の2次側コイル32A,32Bの各端部A,Bから、互いに180度位相が異なる出力交流電圧を出力するようになっている。なお、この場合の変圧比は、1次側コイル31と2次側コイル32A,32Bとの巻数比によって定まる。
【0022】
整流回路4は、一対の整流ダイオード4A,4Bからなる単相全波整流型のものである。整流ダイオード4Aのカソードはトランス3の2次側コイル32Aの端部Aに接続され、整流ダイオード4Bのカソードはトランス3の2次側コイル32Bの端部Bに接続されている。また、これら整流ダイオード4A,4Bのアノード同士は互いに接続され、接地ラインLGに接続されている。つまり、この整流回路4はセンタタップ型のアノードコモン接続の構成となっており、トランス3からの出力交流電圧の各半波期間を、それぞれ整流ダイオード4A,4Bによって個別に整流して直流電圧を得るようになっている。
【0023】
平滑回路5は、チョークコイル51と出力平滑コンデンサ52とを含んで構成されている。チョークコイル51は出力ラインLOに挿入配置されており、その一端は接続部Cに接続され、その他端は出力ラインLOの出力端子T3に接続されている。チョークコイル51は、例えばフェライトなどの磁性材料からなる磁芯の周囲に、例えば銅(Cu)やアルミニウム(Al)などの高導電性材料からなる配線が巻回した構造を有している。出力平滑コンデンサ52は、出力ラインLO(具体的には、チョークコイル51の他端)と接地ラインLGとの間に接続されている。接地ラインLGの端部には、出力端子T4が設けられている。このような構成により平滑回路5では、整流回路4で整流された直流電圧を平滑化して直流出力電圧Voutを生成し、これを出力端子T3,T4から低圧バッテリ(図示せず)に給電するようになっている。
【0024】
次に、図2〜図5を参照し、トランス3について、より詳細に説明する。
【0025】
図2は、トランス3の要部構成を表す斜視図であり、図3は、その分解斜視図である。さらに、図4は、1次側コイル31および2次側コイル32A,32Bのみの構成を表す分解斜視図であり、図5(A),5(B)は、1次側コイル31を構成する導体パターン群34,35(後出)の、図4に示した矢印Vの方向から眺めた平面構成をそれぞれ表すものである。
【0026】
図2および図3に示したように、トランス3は、1次側コイル31および2次側コイル32A,32Bのほか上部コア30Aおよび下部コア30Bを有している。上部コア30Aは、いわゆるE型コアと呼ばれ、例えばフェライトなどの磁性材料からなる平板状部材の両端および中心部に突起部301〜303が設けられたものである。一方、下部コア30Bは、同じくフェライトなどの磁性材料からなる平板状部材である。下部コア30Bは、突起部301〜303と接し、中心部の突起部301と両端の突起部302,303との間に空間を確保するように上部コア30Aと対向して配置されている。
【0027】
1次側コイル31は、例えばエポキシなどの樹脂からなり開口33Kが設けられた絶縁性の基板33と、基板33を挟んで対向する一組の導体形成層34,35とを有している。導体形成層34,35は、それぞれ、複数の導体パターン341〜344,351〜354が所定の隙間を隔てて互いに隣り合うように開口33Kの周囲を同方向に巻回したものである。導体形成層34においては、導体パターン341〜344同士の隙間を充填すると共に、導体パターン341〜344を覆うように絶縁性のレジスト(図示せず)が設けられている。導体形成層35についても同様である。この1次側コイル31は、基板33の開口33Kが上部コア30Aの突起部301によって貫かれるように配置されている。このため、導体形成層34,35における導体パターン341〜344,351〜354が突起部301の周囲を巻回するようになっている。
【0028】
なお、上方(図4に示した矢印Vの方向)から眺めた場合、導体形成層34における各導体パターン341〜344は、図5(A)に示したように、巻回外周側から巻回中心側へ向けて右回りに巻回している。一方、導体形成層35における各導体パターン351〜354は、図5(B)に示したように、巻回外周側から巻回中心側へ向けて左回りに巻回している。導体パターン341〜344および導体パターン351〜354は、基板33を貫く接続部361〜367によって、巻回中心側の端部同士および巻回外周側の端部同士が交互に連結されて一体となり、一本の導線として機能するように構成されている。具体的には、導体パターン341の巻回中心側の端部341Eが導体パターン351の巻回中心側の端部351Sと接続部361によって接続され、導体パターン351の巻回外周側の端部351Eが導体パターン342の巻回外周側の端部342Sと接続部362によって接続され、導体パターン342の巻回中心側の端部342Eが導体パターン352の巻回中心側の端部352Sと接続部363によって接続され、導体パターン352の巻回外周側の端部352Eが導体パターン343の巻回外周側の端部343Sと接続部364によって接続され、導体パターン343の巻回中心側の端部343Eが導体パターン353の巻回中心側の端部353Sと接続部365によって接続され、導体パターン353の巻回外周側の端部353Eが導体パターン344の巻回外周側の端部344Sと接続部366によって接続され、導体パターン344の巻回中心側の端部344Eが導体パターン354の巻回中心側の端部354Sと接続部367によって接続されている(図4)。また、導体パターン341の巻回外周側の端部341Sは引出線L1Pと接続され、導体パターン354の巻回外周側の端部354Eは引出線L2Pと接続されている。
【0029】
導体パターン341〜344および導体パターン351〜354は、それぞれの巻回量が1周未満であるとよい(図3〜図5では0.75周である場合を例示している)。さらに、導体形成層34における一の導体パターンと、これと連結された導体形成層35における一の導体パターンとで1周以上巻回していることが望ましい。例えば、導体パターン341と導体パターン351とで1周以上(1.5周)している。なお、図3〜図5では、接続部361〜367を導体形成層34,35に沿って均等配置し、導体パターン341〜344および導体パターン351〜354の各々の巻回量を全て0.75周としたが、互いに異なった巻回量であってもよい。
【0030】
2次側コイル32A,32Bは、例えばエポキシなどの樹脂からなり開口32Kが設けられた基板32Cの、互いに異なる面にそれぞれ設けられている。なお、図3では、2次側コイル32Bを、基板32Cの下側の面(1次側コイル31と対向する側)に設けるようにしたが、2次側コイル32Aを基板32Cの下側の面に設けるようにしてもよい。ここで、基板32Cの開口32Kは、上部コア30Aの突起部301によって貫かれている。したがって、2次側コイル32A,32Bは、いずれも突起部301の周囲を巻回するようになっている。なお、本実施の形態では、2次側コイル32A,32Bの巻き数を1としている。さらに、2次側コイル32Aおよび2次側コイル32Bは、各々の一方の端部32A1,32B1が、基板32Cを貫通する接続部C(図4)によって互いに導通すると共に引出線LOとそれぞれ接続されるように構成されている。また、各々の他方の端部32A2,32B2は、それぞれ、引出線L1S,L2Sと接続されている。
【0031】
上記した導体パターン341〜344,351〜354、および2次側コイル32A,32Bは、例えば銅やアルミニウムなどの高導電性材料によって構成されたプリントコイルである。
【0032】
このような構成の1次側コイル31を形成する場合には、例えば以下のようにすればよい。まず、エポキシなどからなる絶縁性の基板33の両面に銅箔を設けた基体を用意し、ドリル加工などによりその基体の所定位置に貫通孔を形成する。次いで、電解めっきや無電解めっきなどにより、その貫通孔の壁面に銅めっきを施し、導体パターン341〜344と導体パターン351〜354とを繋ぐ接続部361〜367を形成する。さらに、基体の両面を感光材料で覆い、選択的な露光および現像ののち、ウェットエッチングなどにより銅箔の選択的な除去を行うことで、基板33の両面に導体パターン341〜344,351〜354を形成する。最後に、必要部分をレジストで覆うなどして導体形成層34,35を形成することで1次側コイル31が完成する。
【0033】
次に、以上のような構成のスイッチング電源装置の動作について説明する。
【0034】
スイッチング回路1では、入力端子T1,T2から供給される直流入力電圧Vinをスイッチングして入力交流電圧が生成され、この入力交流電圧はトランス3の1次側コイル31へ供給される。そしてトランス3では入力交流電圧が変圧され、2次側コイル32A,32Bから、変圧された出力交流電圧が出力される。
【0035】
整流回路4では、この出力交流電圧が整流ダイオード4A,4Bによって整流される。これにより、センタタップC(出力ラインLO)と整流ダイオード4A,4Bの接続点D1との間に、整流出力が発生する。
【0036】
平滑回路5では、このセンタタップC(出力ラインLO)と整流ダイオード4A,4Bの接続点D1との間に生じる整流出力が平滑化され、出力端子T3,T4から直流出力電圧Voutとして出力される。そしてこの直流出力電圧Voutは、図示しない低圧バッテリに給電されてその充電に供されると共に、負荷6が駆動される。
【0037】
ここで、このスイッチング電源装置では、スイッチング回路1において、スイッチング素子S1,S4がオン状態になる期間と、スイッチング素子S2,S3がオン状態になる期間とが、交互に繰り返されるようになっている。以下、このスイッチング電源装置の動作を、図6および図7を参照してより詳細に説明する。
【0038】
まず、図6に示したように、スイッチング回路1のスイッチング素子S1,S4がオン状態になると、スイッチング素子S1からスイッチング素子S4の方向に1次側ループ電流Ia1が流れる。すると、トランス3の2次側巻線32A,32Bにそれぞれ現れる電圧VOA,VOBは、整流ダイオード4Bに対して逆方向となる一方、整流ダイオード4Aに対して順方向となる。このため、整流ダイオード4Aから2次側コイル32A、そして出力ラインLOへ、出力電流Ixが流れる。これにより、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷6が駆動される。
【0039】
また、このとき、整流ダイオード4A、トランス3の2次側コイル32A、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る2次側ループ電流Ia2も流れており、出力平滑コンデンサ52への充電(エネルギーの蓄積)が行われるようになっている。
【0040】
一方、図7に示したように、スイッチング回路1のスイッチング素子S1,S4がオフ状態になると共にスイッチング素子S2,S3がオン状態になると、スイッチング素子S3からスイッチング素子S2の方向に1次側ループ電流Ib1が流れる。すると、トランス3の2次側コイル32A,32Bにそれぞれ現れる電圧VOA,VOBは、整流ダイオード4Aに対して逆方向となる一方、整流ダイオード4Bに対して順方向となる。このため、整流ダイオード4Bから2次側コイル32B、そして出力ラインLOへ、出力電流Ixが流れる。これにより、直流出力電圧Voutが図示しない低圧バッテリに給電されると共に、負荷6が駆動される。
【0041】
また、このとき、整流ダイオード4B、トランス3の2次側コイル32B、チョークコイル51および出力平滑コンデンサ52を順に通る2次側ループ電流Ib2も流れており、出力平滑コンデンサ52への充電(エネルギーの蓄積)が行われるようになっている。
【0042】
続いて、1次側コイル31の作用について説明する。このスイッチング電源装置では、その動作の際、上記のように1次側コイル31(導体形成層34,35)に1次側ループ電流Ia1,Ib1が流れるようになっている。そのため、導体形成層34,35そのものの温度が上昇する場合がある。その場合、基板33と導体形成層34,35との熱膨張率の相違により、基板33と導体形成層34,35との接合界面において応力が発生することとなる。ところが、このスイッチング電源装置では、導体形成層34における導体パターン341〜344と、導体形成層35における導体パターン351〜354とが接続部361〜367によって交互に連結され、一体化して巻回している。こうした構成により、導体形成層34,35の温度上昇が生じた際には、複数に分割された導体パターン341〜344,351〜354の個々の歪みが他の導体パターンへ伝達しにくいうえ、導体形成層34と導体形成層35との間で、各々において発生する応力の一部が相殺されるので、全体における巻回方向に沿って膨張しようとする応力が軽減される。したがって、1次側コイル31が基板33の一方の側において巻回する導体パターンのみからなる場合と比べ、反りや歪みの発生を抑制しつつ、さらなる巻き数の増加や薄型化を図ることができる。
【0043】
特に、導体形成層34において導体パターン341〜344を互いに隣り合うように同方向に巻回させると共に、導体形成層35において導体パターン351〜354を互いに隣り合うように同方向に巻回させ、導体パターン341〜344と導体パターン351〜354とを交互に連結するようにしたので、熱膨張に伴う基板33と導体パターン341〜344,351〜354との間に発生する応力が、比較的短い区間で区切られて巻回方向に蓄積しにくくなる。そのうえ、線積率、および全体としての巻回数の双方を向上させることができる。したがって、1次側コイル31全体の反りや歪みの発生を抑制しつつ、さらなる巻き数の増加や薄型化を図ることができる。よって、この1次側コイル31を備えたトランス3においては、変圧比の向上を図りつつ、さらなるコンパクト化を実現することができる。
【0044】
また、本実施の形態では、導体パターン341〜344,351〜354の巻回量がいずれも1周未満(0.75周)であり、かつ、導体パターン341〜344のうちの1つと、これと連結された導体パターン351〜354のうちの1つとで(すなわち、連続する2つの導体パターンが合わせて)1周以上巻回しているので、全体としての反りや歪みをより効果的に抑制しつつ、線積率および全体としてのターン数を向上させることができる。ここで、導体パターン341〜344,351〜354のいずれか1つでも巻回量が1周以上となると、1次側コイル31全体としての反りや歪みが生じやすくなる。また、連続する2つの導体パターンが合わせて1周未満の巻回量であると、線積率が低下し、コンパクト化が困難となってしまう。
【0045】
また、本実施の形態では、接続部361〜367を、導体形成層34,35に沿って均等に配置するようにしたので、1次側コイル31全体としての反りや歪みを、より均質に低減することができる。
【0046】
<変形例1>
次に、図8を参照して、本実施の形態における第1の変形例(変形例1)について説明する。図8は、1次側コイル31の変形例としての1次側コイル70を表す分解斜視図である。
【0047】
図8に示したように、1次側コイル70は、互いに異なる4つの導体形成層71〜74を有しており、導体形成層71〜74には、導体パターン711〜714,721〜724,731〜734,741〜744が設けられている。なお、導体パターン711〜714の各々は、導体形成層71においては互いに絶縁されている。導体パターン721〜724,731〜734,741〜744についても同様である。また、4つの導体形成層71〜74の相互間には、図示しない絶縁層がそれぞれ設けられている。ここで、導体形成層71および導体形成層72が対をなしており、導体形成層73および導体形成層74もまた対をなしている。すなわち、導体形成層71,72において、導体パターン711〜714および導体パターン721〜724は図示しない絶縁層を貫く接続部751〜757によって交互に連結されて一体となっている。同様に、導体形成層73,74において、導体パターン731〜734および導体パターン741〜744は図示しない絶縁層を貫く接続部771〜777によって交互に連結されて一体となっている。さらに、導体形成層72における導体パターン724の一端と、導体形成層73における導体パターン731の一端とが接続部76によって連結されることで、導体パターン711〜714,721〜724,731〜734,741〜744が一本の導線として機能するように構成されている。
【0048】
この場合においても、上記実施の形態と同様、1次側コイル31全体の歪みや反りの発生を抑制することができる。
【0049】
<変形例2>
次に、図9を参照して、本実施の形態における第2の変形例(変形例2)について説明する。図9は、1次側コイル31の変形例としての1次側コイル80を表す分解斜視図である。
【0050】
図9に示したように、1次側コイル80は、互いに異なる4つの導体形成層81〜84を有しており、導体形成層81〜84には、導体パターン811〜814,821〜824,831〜834,841〜844が設けられている。なお、導体パターン811〜814の各々は、導体形成層81においては互いに絶縁されている。導体パターン821〜824,831〜834,841〜844についても同様である。また、4つの導体形成層81〜84の相互間には、図示しない絶縁層がそれぞれ設けられている。ここで、導体形成層81および導体形成層82が対をなしており、それらに挟まれた導体形成層83および導体形成層84もまた対をなしている。すなわち、導体形成層81,82において、導体パターン811〜814および導体パターン821〜824は図示しない絶縁層を貫く接続部851〜857によって交互に連結されて一体となっている。同様に、導体形成層83,84において、導体パターン831〜834および導体パターン841〜844は図示しない絶縁層を貫く接続部871〜877によって交互に連結されて一体となっている。さらに、導体形成層82における導体パターン824の一端と、導体形成層83における導体パターン831の一端とが接続部86によって連結されることで、導体パターン811〜814,821〜824,831〜834,841〜844が一本の導線として機能するように構成されている。
【0051】
この場合においても、上記実施の形態と同様、1次側コイル31全体の歪みや反りの発生を抑制することができる。
【0052】
以上、実施の形態および変形例を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれらの実施の形態等に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。
【0053】
例えば、上記実施の形態等では、本発明のコイルを、トランス3の1次側コイル31に適用する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、トランス3の2次側コイル32A,32Bや、平滑回路5のチョークコイル51に適用することも可能である。また、本発明のコイルにおける導体および隙間の輪郭の形状は、上記実施の形態等で説明したものに限定されるものではない。上記実施の形態等では、それらの輪郭を、連続する曲線としたが、屈曲した不連続な線としてもよい。すなわち、それらの輪郭は、導体の巻回方向以外のベクトル成分を有するものであればよい。また、上記実施の形態等では、巻回する導体を基板の両面に設けるようにしたが、いずれか一方の面にのみに設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施の形態に係るスイッチング電源装置の構成を表す回路図である。
【図2】図1に示したトランスの外観構成を表す斜視図である。
【図3】図1に示したトランスの分解斜視図である。
【図4】図1に示したトランスのうち、1次側コイルおよび2次側コイルの詳細な構成を表す分解斜視図である。
【図5】図4に示した1次側コイルの平面構成を表す平面図である。
【図6】図1に示したスイッチング電源装置の基本動作を説明するための回路図である。
【図7】図1に示したスイッチング電源装置の基本動作を説明するための回路図である。
【図8】図1に示したトランスにおける第1の変形例としての1次側コイルの平面構成を表す平面図である。
【図9】図1に示したトランスにおける第2の変形例としての1次側コイルの平面構成を表す平面図である。
【図10】従来のコイルにおける平面図、断面図、および温度変化による変位の様子を模式的に表した概念図である。
【符号の説明】
【0055】
10…高圧バッテリ、1…スイッチング回路、2…入力平滑コンデンサ、3…トランス、30A…上部コア、30B…下部コア、301〜303…突起部、31,70,80…1次側コイル、33…基板、34,35,81〜84…導体形成層、341〜344,351〜354…導体パターン、32A,32B…2次側コイル、32C…基板、4…整流回路、4A,4B…整流ダイオード、5…平滑回路、51…チョークコイル、52…出力平滑コンデンサ、6…負荷、L1P,L2P,L1S,L2S…引出線、OL1〜OL6…輪郭、S1〜S4,S5,S6…スイッチング素子、C1,C2…コンデンサ、L1H…1次側高圧ライン、L1L…1次側低圧ライン、LO…出力ライン、LG…接地ライン、T1,T2…入力端子、T3,T4…出力端子、A,B…端部(引出端)、C,361〜367,751〜757,76,771〜777,851〜857,871〜877…接続部(引出端)、Vin…直流入力電圧、Vout…直流出力電圧、Ia1,Ib1…1次側ループ電流、Ia2,Ib2…2次側ループ電流、Ix…出力電流。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の導体パターンをそれぞれ有すると共に絶縁層を挟んで対向する一組の導体形成層を含み、
一方の前記導体形成層における前記複数の導体パターンと、他方の前記導体形成層における前記複数の導体パターンとが前記絶縁層を貫く複数の接続部によって交互に連結されて一体となり、全体として前記一組の導体形成層に沿って巻回している
ことを特徴とするコイル。
【請求項2】
前記一組の導体形成層の各々において、前記複数の導体パターンが互いに隣り合うように同方向に巻回しており、
前記複数の導体パターンにおける巻回中心側の端部同士および巻回外周側の端部同士がそれぞれ連結されている
ことを特徴とする請求項1に記載のコイル。
【請求項3】
前記複数の導体パターンは、それぞれの巻回量が1周未満であり、かつ、一方の前記導体形成層における一の導体パターンと、これと連結された他方の前記導体形成層における一の導体パターンとで1周以上巻回している
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のコイル。
【請求項4】
前記複数の接続部は、前記一組の導体形成層に沿って均等配置されている
ことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のコイル。
【請求項5】
磁芯と、
前記磁芯の周囲を巻回する1次側コイルおよび2次側コイルと
を備え、
前記1次側コイルおよび2次側コイルのうちの少なくとも一方は、
複数の導体パターンをそれぞれ有すると共に絶縁層を挟んで対向する一組の導体形成層を含み、
一方の前記導体形成層における前記複数の導体パターンと、他方の前記導体形成層における前記複数の導体パターンとが前記絶縁層を貫く複数の接続部によって交互に連結されて一体となり、全体として前記一組の導体形成層に沿って巻回している
ことを特徴とする変圧素子。
【請求項6】
直流入力電圧をスイッチングして入力交流電圧を生成するスイッチング回路と、
磁芯の周囲を巻回する1次側コイルおよび2次側コイルを有し、前記入力交流電圧を変圧して出力交流電圧を出力する変圧素子と、
前記変圧素子の2次側に並列接続され、前記出力交流電圧の整流動作を行うことで直流出力電圧を生成する整流回路と
を備え、
前記変圧素子における1次側コイルおよび2次側コイルのうちの少なくとも一方は、
複数の導体パターンをそれぞれ有すると共に絶縁層を挟んで対向する一組の導体形成層を含み、
一方の前記導体形成層における前記複数の導体パターンと、他方の前記導体形成層における前記複数の導体パターンとが前記絶縁層を貫く複数の接続部によって交互に連結されて一体となり、全体として前記一組の導体形成層に沿って巻回している
ことを特徴とするスイッチング電源装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−45127(P2010−45127A)
【公開日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−207334(P2008−207334)
【出願日】平成20年8月11日(2008.8.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】