説明

コランダム単結晶の育成方法、コランダム単結晶およびコランダム単結晶ウェーハ

【課題】高品質でかつ高収率のコランダム単結晶インゴットの育成方法を、このインゴットから作製された高輝度発光素子用の高品質かつ高収率のコランダム単結晶と共に提供する。
【解決手段】コランダムの単結晶を育成するに際し、原料を容器内に収納した後、該容器を炉内に導く一方、炉内には炉の上部を高温とし、下部に向けて 0.1〜10.0℃/mmの温度勾配を付与した領域を設けておき、該容器を炉の上部から下部に向けてこの温度勾配を付与した領域を移動させることによって、該容器内の原料を一方向に凝固させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体発光素子基板材料として使用されるコランダム単結晶の育成方法、この方法によって育成されたコランダム単結晶およびこのコランダム単結晶からなるウェーハに関し、特に結晶欠陥の少ないコランダム単結晶を歩留り良く得ようとするものである。
【背景技術】
【0002】
コランダムを主成分とする物質、例えばアルミナ(Al2O3)単結晶(通称サファイア)の育成方法については、従来、キロプロス法、チョクラルスキー法(CZ法)、熱交換法(HEM法)、ベルヌーイ法およびエッジデファインドフィルムフェド成長法(EFG法)などが公知の単結晶育成法として知られて いる。
【0003】
これら公知の単結晶育成法の特徴は次のとおりである。
キロプロス法は、封止されていないルツボ内のアルミナ融液または溶液中に冷却された種結晶を浸漬し、かかる融液または溶液中で種結晶周辺の融液または溶液から種結晶と同一方位を有する単結晶を析出させる育成法である。
CZ法は、封止されていないルツボ中のアルミナ融液に種結晶を浸漬し、この種結晶を上方に引き上げることにより、気液界面近傍にて種結晶と同一方位の単結晶を融液から連続的に凝固させる方法である。
HEM法は、アルミナ融液が入った封止されたルツボの底部に種結晶を設置し、この種結晶を冷却することにより種結晶周辺部の融液温度を低下させ、該種結晶周りに種結晶と同一方位を持つ単結晶を成長させることを特徴とする単結晶育成法である。
ベルヌーイ法は、ルツボを用いず、封止されていない炉の炉底部に種結晶を設置し、炉上部より、水酸化炎中にて融解した微小コランダム粉末融液を種結晶上に積み重ねることによって、該種結晶から種結晶と同一方位を持つ単結晶を成長させる方法である。
上記した4種の育成法はいずれも、バルク(塊)状のサファイア単結晶を得ることを目的とする単結晶育成法である。
【0004】
一方、EFG法は、アルミナ融液の入った封止されていないルツボ上部にダイと呼ばれる所望の形状の溝を持つ形状制御用治具を設置し、その上部から種結晶を接触させ、この種結晶を上方に移動させる際に、表面張力によって融液が種結晶に連続的に付着しながら冷却される工程で、種結晶と同一の方位を持つ単結晶として凝固することで、ダイの形状により規定される主として平板状または円柱またはリング状のサファイア単結晶を得ることを目的とする単結晶育成法である。
【0005】
これらの方法により育成されたサファイア単結晶は、LED基板およびLD基板を初めとする光学素子の基板として利用される他、サファイアがダイアモンドに次ぐ硬度(モース硬度:9)を持ち、疵がつきにくいことを利用して、腕時計の文字盤カバー、高真空装置の窓および飛行機の風防などに利用されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
LEDやLDなどの発光素子基板として、上記したような方法で育成されたコランダム(例えばAl2O3) 単結晶から切り出され研磨された円盤状板材が、単結晶基板ウェーハとして用いられているが、以下に述べるような問題点が指摘されている。
(1) 単結晶基板ウェーハ内の結晶欠陥である高密度の転位に起因する、高輝度発光素子の収率の低さ。
(2) インゴットから切り出される単結晶ウェーハ基板の総重量の該インゴット重量に対する収率の低さ。すなわち歩留りが低い点。
これらの問題点は、高品質、すなわち低転位密度であるコランダム単結晶インゴットの育成の難しさと、育成されたインゴットの有効利用可能な部分がインゴットの一部分に限られることに起因する。
【0007】
上記した(1), (2)の問題点が存在する結果、高輝度発光素子用基板は高コストとなり、かかる高輝度発光素子が高価格であることの原因となっている。
【0008】
本発明は、上記の実情に鑑み開発されたもので、高品質でかつ高収率のコランダム単結晶インゴットの育成方法を、このインゴットから作製された高輝度発光素子用の高品質かつ高収率のコランダム単結晶と共に提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、本発明の解明経緯について説明する。
LEDまたはLDなどの発光素子は、上記したようなコランダム単結晶ウェーハ基板上にMOCVD(有機金属気相化学蒸着法)等により、GaN(窒化ガリウム)等の単結晶相を多数層にわたって堆積して作成する方法が用いられている。発光素子の発光強度は、これら発光のために堆積される単結晶層(以後、発光層と呼ぶ)中の結晶欠陥である転位の密度(以後、転位密度と呼ぶ)の多寡により大きく影響されることが分かっている。すなわち、発光層中に存在する転位は、発光効率の低下および熱の発生の原因となる。
【0010】
さらに、発光層中の転位密度は、基板であるコランダム単結晶ウェーハに存在する転位密度と大きな相関を持っていることも分かっている。これは、発光層を基板上にMOCVD等で成長させる工程で、基板中の転位が、堆積されるGaNなどの単結晶層にそのまま引き継がれ、発光層中に残存することが原因である。従って、高輝度発光素子を作製するためには、基板中の転位密度を低減する必要がある。
【0011】
基板中の転位密度については、非特許文献1および非特許文献2等に記載されているように、上記したコランダム単結晶育成法ごとに異なり、キロプロス法では10〜103個/cm2、CZ法およびHEM法では102〜104個/cm2、EFG法では103〜105個/cm2、ベルヌーイ法では105〜107個/cm2程度となっている。現在、LEDやLDなどの高輝度発光素子の基板としては、転位密度≦104個/cm2のものが使用されている。
従って、この条件に合致する単結晶育成方法は、キロプロス法、CZ法、HEM法およびEFG法である。但し、上記の転位密度の範囲から、CZ法、HEM法およびEFG法では、育成された単結晶の全てが高輝度発光素子用基板として使用できるわけではなく、育成単結晶の選別された部分または作製された単結晶ウェーハの一部分が高輝度発光素子用基板として使用できるにすぎない。
このため、高輝度発光素子の該単結晶ウェーハからの収率は、全体として低下することとなる。
【非特許文献1】「OPT-ELECTRONICS REVIEW 11(2)PP.77-84(2003)」
【非特許文献2】「マテリアルインテグレーション 17(11)PP.37-42(2004)」
【0012】
一方、キロプロス法においては、収率低下の要因となる問題点は以下のとおりである。
すなわち、キロプロス法においては、融液または溶液中に種結晶を一部分浸漬し、冷却されている種結晶の周辺部から同一方位を持つ単結晶を析出させる。この工程は、融液または溶液中で行われるため、析出する単結晶の直径制御が困難である。その後、種結晶を上部に引き上げる工程が行われることもあるが、よく知られているCZ法によるシリコン単結晶の育成時に行われるような直径制御はキロプロス法においては非常に困難であり、現在知られているキロプロス法育成コランダム単結晶のインゴット形状から明らかなように、その直径は、種結晶部分から離れるに従って大きくなってしまう。そのため、このキロプロス法育成単結晶インゴットから所望の方位と直径を持つコランダム単結晶ウェーハを作成するときには、該単結晶インゴットから所望の方位をX線方位測定機などで確定し、その方位に合わせて、所望の直径のコアドリルを用いてインゴットをくり抜くことが必要である。そのため、該インゴットの直径が大きくても、利用できる部分が限られてしまうため、全体としての単結晶ウェーハの収率が低下することになる。
【0013】
上記した従来のコランダム単結晶育成法における高輝度発光素子基板としての問題点は、要約すれば次の二点である。
(1) ベルヌーイ法では勿論であるが、CZ法、HEM法およびEFG法においても、高輝度発光素子基板として必要と考えられている、結晶欠陥としての転位密度≦104個/cm2を満たすインゴットの部分が、これらの結晶育成法自体の持つ制約から、インゴット全体ではなく、その一部分にすぎないこと。そのため、これらの単結晶育成法により得られた単結晶ウェーハ基板上に形成される高輝度発光素子の収率が低下する。
(2) 転位密度≦104個/cm2を満たすキロプロス法においても、単結晶育成法自体の制約から、直径制御が困難であり、そのため、所望の方位、直径を持つ単結晶ウェーハ基板として利用できるインゴットの部分がインゴットの一部分に限られるため、単結晶ウェーハ基板として用いることのできるインゴット部分の重量の該インゴット総重量に対する収率が低下する。
【0014】
そこで、発明者らは、上記したような高輝度ウェーハ基板を作成する単結晶育成方法の問題点を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、以下に述べる解決手段に想到し、本発明を完成させるに到ったのである。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.コランダムの単結晶を育成するに際し、原料を容器内に収納した後、該容器を炉内に導く一方、炉内には炉の上部を高温とし、下部に向けて 0.1〜10.0℃/mmの温度勾配を付与した領域を設けておき、該容器を炉の上部から下部に向けてこの温度勾配を付与した領域を移動させることによって、該容器内の原料を一方向に凝固させることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0016】
2.コランダムの単結晶を育成するに際し、原料を容器内に収納した後、該容器を複数の線状またはコイル状のヒーターを上下方向に並べて配置した炉内に設置し、ついで複数のヒーターの出力を制御することにより、上部が高温で下方に向けて 0.1〜10.0℃/mmの温度勾配を有し、最低温度が該原料の凝固温度に一致させた加熱帯を形成し、この加熱帯を該温度勾配を維持しつつ、該容器の下部から上部に向けて移動させることによって、該容器内の原料を一方向に凝固させることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0017】
3.上記2において、前記温度勾配を有する加熱帯を該容器の下部から上部に向けて移動させつつ、該容器を昇降移動させることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0018】
4.上記1〜3のいずれかにおいて、前記容器の底部にコランダムの種結晶を設置し、その上部に原料を充填したことを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0019】
5.上記4において、前記種結晶により規定される単結晶の成長方位が、コランダム単結晶におけるa軸であることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0020】
6.上記4において、前記種結晶により規定される単結晶の成長方位が、コランダム単結晶におけるc軸であることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0021】
7.上記4において、前記種結晶により規定される単結晶の成長方位が、コランダム単結晶におけるR軸であることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0022】
8.上記4〜7のいずれかにおいて、前記容器の内径をD、前記種結晶の径をdとするとき、d/Dを0.01〜1.0の範囲を設定したことを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【0023】
9.上記1〜8のいずれかに記載の単結晶育成方法で育成されたことを特徴とするコランダム単結晶。
【0024】
10.上記9に記載のコランダム単結晶からなることを特徴とするコランダム単結晶ウェーハ。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、ベルヌーイ法では勿論であるが、CZ法やHEM法、EFG法よりも高品質かつ高収率のコランダム単結晶を育成することができる。
また、本発明によれば、単結晶育成用容器の直径を最適化することにより、キロプロス法よりも収率よく高輝度発光素子用単結晶ウェーハ基板を得ることが可能となる。
さらに、これらの効果により、コランダム単結晶ウェーハを基板とする高品質・低コストのLEDやLD発光素子の作成が可能となる 。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を具体的に説明する。
さて、本発明では、所望とする単結晶ウェーハの直径に外周研削代を加えた直径を持つ高耐熱性の容器中に、コランダム単結晶の原料を収納し、この容器を、所定の温度勾配を付与した炉内を移動させるか、または容器は所定位置に固定したまま、炉の各位置での温度および温度勾配を適切に変化させることにより、容器に収納されたコランダム単結晶原料を一方向に凝固させる方法である。
【0027】
図1に、原料を収納した容器を、所定の温度勾配を付与した炉内を移動させることによってコランダム単結晶を育成する場合について図解する。
図中、番号1が容器、2が原料、3が種結晶、4が容器支持台である。この容器支持台4は、その底部が水冷構造になっていて、容器1が炉内を移動中にも種結晶3が溶解しない仕組みになっている。5はヒーターである。
【0028】
さて、この育成方法では、コランダム単結晶の原料2を容器1内に収納した後、炉内の上部に導く。炉内には、炉の上部から下部に向けて適切な温度勾配を付与した領域を設けておく。そして、容器1を炉の上部から下部に向けて適切な速度でこの領域を移動させることによって、容器内の原料を一旦溶解したのち、一方向に凝固させるのである。
【0029】
本発明において、特に重要なことは、容器内に収納した原料を溶解後、適切な温度勾配の下で凝固させることであり、この処理により、育成する単結晶の結晶欠陥を効果的に低減することができる。
ここに、炉内に予め付与しておくべき温度勾配は 0.1〜10.0℃/mmの範囲とすることが肝要である。というのは、この温度勾配が 0.1℃/mm未満では、結晶育成時の抜熱効果が小さすぎるため、小さな降下速度で容器を降下させても多結晶化するという問題があり、一方10.0℃/mm超では、結晶育成時の抜熱効果が大きすぎるため周液界面の半径方向の温度差が大きくなりすぎ、多結晶化または熱歪によりクラックが発生するという問題が生じるためである。より好ましくは 0.5〜8.5℃/mmの範囲である。
なお、炉内の最高温度は、原料の主成分であるアルミナ(Al2O3)の溶解温度が約2050℃であるので、それよりも高い2060〜2100℃程度とすることが好適である。
【0030】
また、このとき、容器の移動速度すなわち降下速度は0.05〜6.5mm/h程度とすることが好ましい。というのは、この降下速度が0.05mm/hに満たないと、単結晶は育成可能であるが、生産性が著しく低下し、本発明の目的の1つであるコスト低減に寄与せず、一方6.5mm/hを超えると、固液界面での可能な抜熱量に対し、融液の凝固時に放散される熱量が大きすぎるため多結晶化しやすくなるためである。
【0031】
上記したように、溶解した原料を適切な温度勾配の下で凝固させることにより、結晶欠陥の発生が低減する理由は、まだ明確に解明されたわけではないが、発明者らは、次のように考えている。
すなわち、本発明の方法によれば、キロプロス法と同様に結晶欠陥発生の主たる要因である固液界面近傍での温度勾配をCZ法、HEM法やEFG法に比べ適切に制御することが可能であり、その結果、CZ法、HEM法やEFG法よりも結晶欠陥の密度の低い単結晶を育成することができるものと考えられる。
【0032】
また、本発明では、原料を収納した容器は炉内に設置したまま移動させず、加熱手段であるヒーターの出力を制御することにより、適切な温度勾配を有する加熱帯を形成し、かつこの加熱帯を該温度勾配を維持しつつ、容器の下部から上部に向けて移動させることによって、原料を一方向に凝固させることもできる。
【0033】
この場合に重要なことは、加熱帯の最低温度を原料の凝固温度に一致させ、この加熱帯を温度勾配を維持しつつ、容器の下部から上部に向けて移動させることである。
この場合において、加熱帯に付与すべき温度勾配および該加熱帯の移動速度は、前述した容器を移動させる場合と同じである。
【0034】
さらに、本発明では、上述した2つの加熱方式を同時に実施することもできる。
すなわち、ヒーターの出力を制御することにより、適切な温度勾配に制御した加熱帯を炉の下部から上部に向けて適切な速度で移動させつつ、原料を収納した容器を炉の上部から下部に向けて適切な速度で移動させる方式である。
この方式によれば、前述した2つの方式よりも、より細かい温度調節ができる利点がある。
【0035】
本発明において、図1に示した種結晶3は、必ずしも必要とするわけではないが、単結晶の方位を制御するには、適切な方位の種結晶を配置しておくことが好ましい。
ここに、かような種結晶を用いることにより、コランダム単結晶の成長方位を、図2に示すような、a軸またはc軸、さらにはR軸に沿うように適宜調整することができる。
【0036】
また、本発明で用いる、原料を収納するための容器としては、コランダム結晶より100℃以上高い融点を持ち、酸素分圧:1%以下の、不活性雰囲気中において非活性な材料を用いることが有利である。
というのは、アルミナ(Al2O3)の溶解温度である2050℃以上の高温においては、容器に軟化や融解又は分解や蒸発が生じることにより、単結晶を安定して育成することが困難になるばかりでなく、単結晶中に容器を構成する物質が不純物として混入し、単結晶に必要な特性を劣化させるおそれがあるためである。
かような材料としては、Ir,Mo,Wなどが挙げられる。
【0037】
さらに本発明では、図3に示すように、容器の内径をD、種結晶の径をdとするとき、d/Dを0.01〜1.0の範囲設定することが好ましい。より好ましくは0.04〜1.0の範囲、さらに好ましくは0.1〜1.0の範囲である。
というのは、種結晶の径dが、容器の内径Dに近づくほど、育成される単結晶の増径時において凝固熱と抜熱量の不安定さに起因する結晶欠陥の導入の可能性を低減できると同時に、種結晶を収納する容器部分の径dと目的とする結晶系である容器径Dの間の増径部を一体型の容器とする、作製時における技術的困難性が低減するからである。この点、d/Dが0.01未満では、十分な効果が得難くなる。
【0038】
また、本発明におけるコランダム単結晶の原料としては、アルミナ(Al2O3)単体は勿論のこと、このアルミナ中に微量のTi,Cr,Fe等を配合した、いわゆる機能性光学素子原料や人造宝石用原料が使用できることは言うまでもない。
【0039】
上記したように、本発明に従い、適切な温度勾配の下でコランダム単結晶を育成することにより、単結晶内部の転位密度を1.0×104個/cm2以下まで、効果的に低減することができる。
【実施例】
【0040】
実施例1
この例は、図1に示したような、原料を収納した容器を、所定の温度勾配を付与した炉内を移動(降下)させることによってコランダム単結晶を育成する場合で、かつ種結晶を使用しない場合の例である。
内径が105mmの容器内に、原料としてAl2O3粉を収納し、この容器を表1に示すような種々の温度勾配を付与した炉内に導き、上記の温度勾配になる領域を上部から下部に向けて0.05〜6.5mm/hの速度で降下させた。容器としてはIr製のものを用い、酸素分圧は0.1%以下とした。
【0041】
かくして得られたコランダム単結晶インゴットの平均転位密度ならびに転位密度が1.0×104個/cm2以下の適正単結晶の歩留りについて調べた結果を、表1に併記する。
また、表1には、各コランダム単結晶の成長方位についても併せて示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1より明らかなように、本発明に従い得られたコランダム単結晶は、成長方位の如何にかかわらず、平均転位密度が低く、また適正な転位密度の単結晶の歩留りも良好であった。
なお、従来のキロプロス法により得られる適正単結晶の歩留りが30%程度であることと比較すると、歩留りが格段に向上したことが分かる。
【0044】
実施例2
この例は、原料を収納した容器は炉内に設置したまま移動させず、加熱手段であるヒーターの出力を制御することにより、適切な温度勾配を有する加熱帯を形成し、かつこの加熱帯を該温度勾配を維持しつつ、容器の下部から上部に向けて移動させて、コランダム単結晶を育成する場合で、しかも種結晶を使用しない場合の例である。
内径が105mmの容器内に、原料としてAl2O3粉を収納した後、この容器を炉内の所定位置に固定した。ついで、ヒーターの出力を制御して、表2に示すような温度勾配が種々に異なる加熱帯を形成すると共に、この温度勾配を維持しつつ、加熱帯を0.05〜6.5mm/hの速度で上方に移動させた。容器としてはIr製のものを用い、酸素分圧は0.1%以下とした。
【0045】
かくして得られたコランダム単結晶インゴットの平均転位密度ならびに転位密度が1.0×104個/cm2以下の適正単結晶の歩留りについて調べた結果を、表2に併記する。
また、表2には、各コランダム単結晶の成長方位についても併せて示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2より明らかなように、本発明に従い得られたコランダム単結晶は、成長方位の如何にかかわらず、平均転位密度が低く、また適正な転位密度の単結晶の歩留りも良好であった。
【0048】
実施例3
この例は、図1に示したような、原料を収納した容器を、所定の温度勾配を付与した炉内を移動(降下)させることによってコランダム単結晶を育成する場合の例である。
底部に、表3−1〜表3−3に示す種々の配向軸を有する種結晶を配置した容器内に、原料としてAl2O3粉を収納し、この容器を同じく表3−1〜表3−3に示すような種々の温度勾配を付与した炉内に導き、上記の温度勾配になる領域を上部から下部に向けて0.05〜6.5mm/hの速度で降下させた。容器としてはIr製のものを用い、酸素分圧は0.1%以下とした。
なお、表3−1は単結晶の成長方位をa軸方向とした場合、表3−2は単結晶の成長方位をc軸方向とした場合、表3−3は単結晶の成長方位をR軸方向とした場合である。
【0049】
かくして得られたコランダム単結晶インゴットの平均転位密度ならびに転位密度が1.0×104個/cm2以下の適正単結晶の歩留りについて調べた結果を、表3−1〜表3−3に併記する。
【0050】
【表3−1】

【0051】
【表3−2】

【0052】
【表3−3】

【0053】
表3−1〜表3−3より明らかなように、本発明に従い得られたコランダム単結晶は、平均転位密度が低く、また適正な転位密度の単結晶の歩留りも良好であった。特に、d/D比が0.04〜1.0の範囲を満足する場合には、平均転位密度は1.0×104個/cm2以下で、しかも適正な転位密度の単結晶の歩留りは70%以上と極めて優れていた。
なお、従来のキロプロス法により得られる適正単結晶の歩留りが30%程度であることと比較すると、歩留りが格段に向上したことが分かる。
【0054】
実施例4
この例は、原料を収納した容器は炉内に設置したまま移動させず、加熱手段であるヒーターの出力を制御することにより、適切な温度勾配を有する加熱帯を形成し、かつこの加熱帯を該温度勾配を維持しつつ、容器の下部から上部に向けて移動させて、コランダム単結晶を育成する場合の例である。
底部に、表4−1〜表4−3に示す種々の配向軸を有する種結晶を配置した容器内に、原料としてAl2O3粉を収納したのち、この容器を炉内の所定位置に固定した。ついで、ヒーターの出力を制御して、表2−1〜表2−3に示すような温度勾配が種々に異なる加熱帯を形成すると共に、この温度勾配を維持しつつ、加熱帯を0.05〜6.5mm/hの速度で上方に移動させた。容器としてはIr製のものを用い、酸素分圧は0.1%以下とした。
なお、表4−1は単結晶の成長方位をa軸方向とした場合、表4−2は単結晶の成長方位をc軸方向とした場合、表4−3は単結晶の成長方位をR軸方向とした場合である。
【0055】
かくして得られたコランダム単結晶インゴットの平均転位密度ならびに転位密度が1.0×104個/cm2以下の適正単結晶の歩留りについて調べた結果を、表4−1〜表4−3に併記する。
【0056】
【表4−1】

【0057】
【表4−2】

【0058】
【表4−3】

【0059】
表4−1〜表4−3より明らかなように、本発明に従い得られたコランダム単結晶、平均転位密度が低く、また適正な転位密度の単結晶の歩留りも良好であった。特に、d/D比が0.04〜1.0の範囲を満足する場合には、平均転位密度は1.0×104個/cm2以下で、しかも適正な転位密度の単結晶の歩留りは70%以上と極めて優れていた。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】原料を収納した容器を、所定の温度勾配を付与した炉内を移動させることによってコランダム単結晶を育成する要領を示した図である。
【図2】コランダム単結晶の成長方位であるa軸、c軸およびR軸を示した図である。
【図3】容器の内径をDと種結晶の径をdとの関係を示した図である。
【符号の説明】
【0061】
1 容器
2 原料
3 種結晶
4 容器支持台
5 ヒーター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コランダムの単結晶を育成するに際し、原料を容器内に収納した後、該容器を炉内に導く一方、炉内には炉の上部を高温とし、下部に向けて 0.1〜10.0℃/mmの温度勾配を付与した領域を設けておき、該容器を炉の上部から下部に向けてこの温度勾配を付与した領域を移動させることによって、該容器内の原料を一方向に凝固させることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項2】
コランダムの単結晶を育成するに際し、原料を容器内に収納した後、該容器を複数のヒーターを上下方向に並べて配置した炉内に設置し、ついで複数のヒーターの出力を制御することにより、上部が高温で下方に向けて 0.1〜10.0℃/mmの温度勾配を有し、最低温度が該原料の凝固温度に一致させた加熱帯を形成し、この加熱帯を該温度勾配を維持しつつ、該容器の下部から上部に向けて移動させることによって、該容器内の原料を一方向に凝固させることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項3】
請求項2において、前記温度勾配を有する加熱帯を該容器の下部から上部に向けて移動させつつ、該容器を昇降移動させることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかにおいて、前記容器の底部にコランダムの種結晶を設置し、その上部に原料を充填したことを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項5】
請求項4において、前記種結晶により規定される単結晶の成長方位が、コランダム単結晶におけるa軸であることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項6】
請求項4において、前記種結晶により規定される単結晶の成長方位が、コランダム単結晶におけるc軸であることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項7】
請求項4において、前記種結晶により規定される単結晶の成長方位が、コランダム単結晶におけるR軸であることを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれかにおいて、前記容器の内径をD、前記種結晶の径をdとするとき、d/Dを0.01〜1.0の範囲を設定したことを特徴とするコランダム単結晶の育成方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の単結晶育成方法で育成されたことを特徴とするコランダム単結晶。
【請求項10】
請求項9に記載のコランダム単結晶からなることを特徴とするコランダム単結晶ウェーハ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−247706(P2008−247706A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−94031(P2007−94031)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000200301)JFEミネラル株式会社 (79)
【出願人】(594075204)株式会社第一機電 (9)
【Fターム(参考)】