説明

コラーゲンおよび/またはヒアルロン酸産生促進用組成物

【課題】 安全でありかつ有意なコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進能を有する新規素材、並びに角質水分低下抑制能および皮膚粗さ改善能を有する新規素材を提供すること。
【解決手段】 ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するための組成物、並びに該ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、角質水分低下を抑制するための組成物および皮膚の粗さを改善するための組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するための組成物、並びにそれに関連する発明に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、動物の結合組織には、その主要成分として、コラーゲン、ヒアルロン酸、エラスチン、コンドロイチン硫酸、ヘパラン硫酸、デルマタン硫酸、ラミニンなどが含まれていることが分かっている。なかでも、コラーゲンおよびヒアルロン酸は、後述の通り、結合組織において重要な役割を果たしている。
【0003】
即ち、コラーゲンは、動物の結合組織を構成する主要蛋白質であり、特にヒトの体の総蛋白質の30%近くをコラーゲンが占める。コラーゲンの主たる機能は、生体組織の骨格構造の形成にあるので、動物の組織形態の骨格構造を構成する主成分として皮膚、軟骨組織、角膜、心臓、肝臓等に広く分布する。コラーゲンは、各種細胞の接着、細胞の分化や増殖に対して特異的に作用し、細胞機能の調節因子としての役割も持っているため、コラーゲンの減少は、角膜潰瘍等の角膜障害、リューマチ、関節炎、変形性関節炎、骨関節炎等の関節障害、炎症性疾患等の様々な疾患を引き起こすことがある。
【0004】
皮膚真皮細胞外マトリックスでは、コラーゲン線維が網目状の束を形成することにより組織形態を維持している。コラーゲン線維は、成熟し増殖して架橋形成が進行すると太く直線的な線維束となり、若い皮膚での適度なハリを与えている。しかし、老化した皮膚では線維芽細胞の活性(例えば、コラーゲン産生活性等)が低下するのに伴い、真皮細胞外マトリックスのコラーゲン線維が著しく減少したり、異常な老化架橋が形成されるため硬直して、本来の弾力性に富むハリが失われてしまう。その結果、皮膚にはシワやタルミが形成される。光老化によるヘアレスマウス線維束構造の変化が詳細に検討され(非特許文献1参照)、UVBを照射したヘアレスマウスには、シワが形成され、シワの形成と一致するようにコラーゲン線維束構造が崩壊し皮膚弾力性が低下していくことが示されている。また、コラーゲンは水分保持機能に優れていることも知られている。
【0005】
コラーゲンの減少による状態を改善するために、種々のコラーゲン合成促進物質が見出されている。例えば、レチノイン酸(例えば、非特許文献2参照)、グリシン、プロリンおよびアラニンからなる3種アミノ酸を含有する製剤(例えば、特許文献1参照)、カンゾウ、ソウハクヒ、アロエ、スギナ、キンギンカ、オウバク、ガイヨウ又はゲンチアナ等の植物抽出物(例えば、特許文献2参照)、TGF−β、アスコルビン酸類等が知られている。また別のコラーゲン合成促進物質として、タイプIプロコラーゲンの182〜241残基のペプチド(例えば、非特許文献3参照)、およびこのタイプIプロコラーゲンの182〜241残基のペプチドから選択されたLys−Thr−Thr−Lys−Serペプチド(例えば、非特許文献4参照)が知られている。
【0006】
一方、ヒアルロン酸は、皮膚、軟骨、関節液、臍帯、眼硝子体、その他の結合組織に存在する酸性ムコ多糖の一種である。なかでも皮膚表皮では、基底層から顆粒層まで広くヒアルロン酸が分布しており、表皮細胞外空間の構造を支え、表皮基底層から角層への栄養分・老廃物などの物質輸送に関与したり、表皮細胞のターンオーバーを促進するトリガーとして働いたりすることが知られている。また、ヒアルロン酸は、わずか1gで約6Lもの水分を保持できるという強力な保水作用を有し、その作用により、細胞間隙に水分を保持する役割を担っていることも知られている。ヒアルロン酸は、加齢により徐々に減少することが知られ、この減少もまたコラーゲンの場合と同様に、皮膚のシワやタルミの形成、皮膚の弾力性やハリの低下、または皮膚の乾燥や肌荒れといった皮膚の老化を招く一因となっている。しかし、ヒアルロン酸は高分子化合物であるため、皮膚の外側から表皮に供給することは容易ではなく、表皮細胞間などにヒアルロン酸を供給するためには、生体内におけるヒアルロン酸の生合成の促進が重要である。
【0007】
ヒアルロン酸の減少による状態を改善するために、種々のヒアルロン酸合成促進物質が見出されている。例えば、アロエ抽出物、オクラ抽出物、水溶性β−1,3−グルカン誘導体、酵母抽出物(特許文献3)、ツカサノリ科トサカモドキ属に属する海藻の抽出物(特許文献4)、ラベンダー抽出物(特許文献5)、ダービリア科ダービリア属に属する海藻の抽出物(特許文献6)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平7−194375号公報
【特許文献2】特開2001−206835号公報
【特許文献3】特開2004−051533号公報
【特許文献4】特開2000−136147号公報
【特許文献5】特開平10−182402号公報
【特許文献6】特開平09−176036号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Fragrance Journal、4、p36-37、1998
【非特許文献2】R. Marks ら、 British Journal of Dermatology、122、91-98、1990
【非特許文献3】K. Katayama ら、 Biochemistry、30、7097-7104、1991
【非特許文献4】K. Katayama ら、 J. Biol. Chem.、268(14)、9941-9944、1990
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
安全でありかつ有意なコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進能を有する更なる有用な新規素材の開発が望まれている。本発明は、かかる従来の問題に鑑み、安全でありかつ有意なコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進能を有する新規素材、並びに角質水分低下抑制能および皮膚粗さ改善能を有する新規素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物が、安全でありかつ有意なコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進能を有する新規素材、並びに角質水分低下抑制能および皮膚粗さ改善能を有する新規素材として利用され得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、
[1] ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するための組成物、
[2] ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を用いて、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進する方法、
[3] 細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するための組成物の製造のための、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用、
[4] ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、角質水分低下を抑制するための組成物、
[5] ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、皮膚の粗さを改善するための組成物、
[6] ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を用いて、角質水分低下を抑制する方法、
[7] ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を用いて、皮膚の粗さを改善する方法、
[8] 角質水分低下を抑制するための組成物の製造のためのダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用、並びに
[9] 皮膚の粗さを改善するための組成物の製造のためのダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用、
に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、コラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進能を有する新規素材が提供される。また本発明に使用されるダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物は、細胞に作用させても細胞数を有意に減少させないことが示されている。従って、本発明により、コラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進能を有し、かつ細胞毒性を示さずに安全に使用され得る新規素材、並びに角質水分低下抑制能および皮膚粗さ改善能を有する新規素材が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物(以下、「加水分解物」と称することがある)を含有する、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するための組成物を提供する。
【0015】
ダイズ(Glycin max)は、背丈約60〜70cm程度となるマメ科の一年草植物である。その種子は、枝豆などとして、あるいは豆腐や味噌、醤油などに加工されて、食用に供されることが多いことで知られる。
【0016】
本発明に用いられるダイズタンパク質は、上述のダイズ植物に由来する任意のタンパク質であり得るが、好ましくは、ダイズ植物の種子に由来する任意のタンパク質であり得る。
【0017】
従って、本発明においては、ダイズ植物の種子そのものや該種子の破砕物又は粉砕物等を、ダイズタンパク質として用いてもよいが、好ましくはダイズ植物中の全成分からタンパク質成分を分離・精製したもの、より好ましくは、ダイズ植物の種子中の全成分からタンパク質成分を分離・精製したものが用いられる。このように分離・精製して得られたダイズタンパク質は、そのプロテアーゼ加水分解物がコラーゲンまたはヒアルロン酸産生促進能を有する限り、ダイズ植物またはダイズ植物の種子中に含まれる実質的に全種類のタンパク質を含むものでもよく、また、一部の種類のタンパク質を含むものであってもよい。
【0018】
ダイズタンパク質としては、市販品も好適に用いられ得、例えば、日清コスモフーズ(株)、ADMファーイースト(株)、昭和産業(株)、不二製油(株)、(株)光洋商会などの製造業者または供給業者から容易に入手可能である。
【0019】
なお、本明細書において、ダイズ植物の種子とは、ダイズ種子と通常呼ばれる構造物全体を指すのみならず、例えば、脱皮ダイズ種子、脱脂ダイズ種子(粉末)、ダイズ種子全体より得られる雪花菜(オカラ)等でもあり得る。
【0020】
本発明で使用されるプロテアーゼとしては、特に限定されず、例えば、サーモリシン、パパイン、ブロメライン、トリプシン、キモトリプシン、パンクレアチン、スブリチンなどが挙げられる。本発明に用いられるプロテアーゼは、1種類のみでもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、より高いコラーゲンまたはヒアルロン酸産生促進効果を得る観点から、サーモリシンが好ましい。
【0021】
サーモリシン(EC3.4.24.4)は、Bacillus thermoproteolyticusという耐熱性菌によって生産される耐熱性のプロテアーゼである。サーモリシンは一般に、大きな側鎖をもった疎水性のアミノ酸残基(例えば、イソロイシン、ロイシン、バリン、フェニルアラニン、メチオニン、アラニンなど)のアミノ基側のペプチド結合を切断することが知られている。
【0022】
プロテアーゼは、市販品も好適に用いられ得、例えば、サーモリシンは大和化成(株)などの製造業者から容易に入手可能である。また、本発明においては、サーモリシンと同等のペプチド切断特性(切断配列特異性など)を有するプロテアーゼとして当該分野で公知のプロテアーゼを、サーモリシンとして用いることができる。
【0023】
ダイズタンパク質をプロテアーゼで加水分解する場合に用いられる反応条件は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。例えば、市販のプロテアーゼを使用する場合には、その使用説明書に従って使用することができる。具体的な例としては、水などの溶媒に、ダイズタンパク質濃度が、一般的には0.1〜30%(w/v)、好ましくは1〜10%(w/v)程度となるようにダイズタンパク質又はダイズタンパク質を含む原料を懸濁し、この懸濁液に、一般的には0.001〜3%(w/v)、好ましくは0.01〜0.125%(w/v)程度となるようにプロテアーゼを加えて加水分解反応を行う態様が挙げられる。一般的には、30〜80℃、好ましくは40〜70℃、より好ましくは50〜60℃の反応温度が使用され得る。また一般的には、2〜30時間、好ましくは3〜24時間、より好ましくは10〜20時間、さらに好ましくは12〜18時間の反応時間が使用され得る。反応液のpHとしては、使用するプロテアーゼの至適pH付近であることが好ましく、例えば、サーモリシンを使用する場合のpHは、7.0〜8.5付近であることが好ましい。
【0024】
反応の停止手段についても、特に制限はなく、公知の手段を用いることができる。かかる手段としては、例えば、加熱処理等が挙げられる。例えば、上記反応物を80〜100℃程度の温度で3〜20分間、好ましくは5〜15分間、加熱処理することにより、反応物中に含まれるプロテアーゼを失活させることができる。例えば、サーモリシンを使用する場合の加熱処理としては、85℃で15分間の加熱処理や100℃で5分間の加熱処理などが挙げられる。
【0025】
上記のような加水分解反応により得られるプロテアーゼ加水分解物は、必要に応じて、当業者に公知の任意の方法によりさらに処理され得る。例えば、ろ過等の処理により、該加水分解物中の大きな固体粒子を取り除くことが好ましい。ろ過条件等は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。例えば、ろ紙が目詰まりを起こしやすい場合等には、ろ過助剤等も好適に用いられ得る。
【0026】
また、前記加水分解物を減圧濃縮し、次いで凍結乾燥することにより、粉末化することもできる。減圧濃縮および凍結乾燥の際に使用される条件や機器類は、特に制限されず、技術常識に従って当業者により適宜選択され得る。このようにして粉末化された加水分解物は、そのまま又は水などの溶媒に溶かして、用いることができる。
【0027】
本発明に用いられる加水分解物は、ダイズタンパク質をプロテアーゼで加水分解することにより生じた多種多様なペプチドを実質的に全て含んだ状態であってもよいし、又は、そのような多種多様なペプチドを、細胞におけるコラーゲンまたはヒアルロン酸産生促進能の有無を指標として、公知の方法で、さらに分画・精製して得られる一部分(例えば、コラーゲンおよびヒアルロン酸産生促進能を殆ど増加させないようなペプチドを除いたもの等)であってもよい。しかし簡便には、ダイズタンパク質をプロテアーゼで加水分解して得られる多種多様なペプチドを実質的に全て含んだ状態でそのまま用いる。
なお、コラーゲン産生促進能の有無は、例えば、後述の実施例2等に記載のようにして確認することができる。また、ヒアルロン酸産生促進能の有無は、例えば、後述の実施例7に記載のようにして確認することができる。
【0028】
本発明に用いられるダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の平均分子量は、好ましくは300〜10000である。該平均分子量は、細胞への浸透性を高め、より高い効果を得る観点から、より好ましくは400〜5000であり、さらに好ましくは500〜3500であり、さらにより好ましくは550〜3200である。従って、該平均分子量は、例えば、1000〜2000であり得る。加水分解物の平均分子量は、当業者に公知の任意の方法により測定され得、例えば、下記実施例に記載のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)法により容易に測定され得る。
【0029】
後述の実施例に示すように、係るダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を添加した培養液で皮膚線維芽細胞または表皮角化細胞を培養することにより、該細胞におけるコラーゲンまたはヒアルロン酸産生量が増加することが確認されている。
【0030】
本明細書において用語「細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進する」とは、被験物を細胞に作用させた場合に、当該被験物を細胞に作用させない場合と比較して、細胞におけるコラーゲン、ヒアルロン酸、またはその両方の産生量が増加することを意味する。尚、コラーゲンにはタイプI〜XIX等の各種のタイプが知られているが、少なくともいずれかのタイプのコラーゲンが産生されることをいい、特に好ましくは、皮膚中で特に大きな役割を果たすタイプIおよび/またはタイプIIIのコラーゲンが産生されることをいう。例えば、この用語は、ヒト細胞の培養系試験において被験物を100μg/mlの濃度で作用させた場合に、当該被験物を作用させない場合と比較して、細胞におけるコラーゲンまたはヒアルロン酸産生量が、例えば約110%以上、より好ましくは約120%以上、さらに好ましくは約130%以上まで達することを意味する。また特定の態様では、当該用語における細胞とは線維芽細胞または角化細胞を意味し、さらに特定の態様では、皮膚線維芽細胞または表皮角化細胞を意味する。
【0031】
本発明の組成物は、上述のようなダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する。かかる特徴を有することにより、該組成物は、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進のために用いることができる。該組成物はたとえば、医薬組成物、食品、化粧料又は飼料として、さらにはコラーゲンまたはヒアルロン酸に関連する生理状態の解明のための研究試薬として好適に使用され得る。
【0032】
医薬組成物としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物におけるコラーゲンおよび/またはヒアルロン酸量の低下に起因する疾患の治療剤または予防剤が挙げられる。具体的には、本発明の組成物は、慢性関節リウマチ、変形性関節症等の関節疾患用の治療剤および/または予防剤として、また、紫外線曝露、加齢等による皮膚のシワもしくはタルミの予防剤および/または治療剤として、さらに皮膚の弾力性もしくはハリの低下に対する予防剤および/または治療剤として好適に使用され得る。
【0033】
食品としては、例えば、ヒトをはじめとする哺乳動物におけるコラーゲンおよび/またはヒアルロン酸量の低下に起因する状態の改善用または予防用の食品が挙げられる。具体的には、本発明の組成物は、関節痛などの症状に対する改善または予防のための食品として、または紫外線曝露、加齢等による皮膚のシワもしくはタルミの改善または予防のための食品として、さらに皮膚の弾力性もしくはハリの低下に対する改善または予防のための食品として好適に使用され得る。
【0034】
化粧料としては、例えば、紫外線曝露、加齢等による皮膚のシワもしくはタルミの予防および/または改善のための化粧料、皮膚の弾力性もしくはハリの低下に対する予防および/または改善のための化粧料が挙げられる。
【0035】
飼料としては、例えば、ウシ、ブタ、ニワトリ、ヒツジ、ウマなどの家畜や、イヌ、ネコなどのペット動物におけるコラーゲンおよび/またはヒアルロン酸量の低下に起因する状態の改善用または予防用の飼料が挙げられる。具体的には、本発明の組成物はまた、角膜潰瘍等の角膜障害、リューマチ、関節炎、変形性関節炎、骨関節炎等の関節障害、炎症性疾患等の様々なコラーゲンおよび/またはヒアルロン酸量の低下に起因する疾患の改善用または予防用の飼料としても好適に使用され得る。
【0036】
本組成物中の前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の含有量は、組成物の剤型等によっても異なるが、一般には、高いコラーゲンおよび/またはヒアルロン酸産生促進効果を得る観点から、好ましくは0.0001〜100重量%、より好ましくは0.001〜95重量%、さらに好ましくは0.01〜90重量%、特に好ましくは0.1〜80重量%である。
【0037】
本発明の組成物は、前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の他に製剤分野や食品分野等の分野において通常使用される担体、基剤、および/または添加剤等を本発明の目的を達成する範囲内で適宜配合して調製することができる。
【0038】
担体としては、例えば、糖類(例えば、マンニトール、乳糖、デキストラン等)、セルロース類(例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、結晶性セルロース等)、水難溶性ガム類(例えば、アラビアガム、トラガントガム等)、架橋ビニル重合体、脂質類等が1種または2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0039】
基剤としては、例えば、水、油脂類、鉱物油類、ロウ類、脂肪酸類、シリコーン油類、ステロール類、エステル類、金属石鹸類、アルコール等が1種または2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0040】
添加剤としては、例えば、界面活性剤、可溶化成分、乳化剤、油分、安定化剤、増粘剤、防腐剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、pH調整剤、保湿剤、紫外線吸収剤、キレート剤、経皮吸収促進剤、抗酸化剤、崩壊剤、可塑剤、緩衝剤、ビタミン類、アミノ酸類、着色剤、香料等が1種または2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0041】
さらに本発明の組成物には、必要に応じて他の有用な作用を付加するために、美白成分、抗炎症成分、抗菌成分、細胞賦活化成分、収斂成分、抗酸化成分、ニキビ改善成分、コラーゲン等の生体成分合成促進成分、血行促進成分、保湿成分、老化防止成分等の各種成分を1種または2種以上組み合わせて配合されてもよい。
【0042】
本発明の組成物は、内服剤(食品及び飼料を含む)または外用剤(化粧料を含む)等の任意の剤型であり得る。
【0043】
内服剤(食品及び飼料を含む)としては、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、硬カプセル剤、軟カプセル剤、ドライシロップ剤、液剤(ドリンク剤、懸濁剤、シロップ剤を含む)、ゲル剤、リポソーム剤、エキス剤、チンキ剤、レモネード剤、ゼリー剤等の任意の形態で使用され得る。
【0044】
また食品とする場合には、パン、麺、惣菜、食肉加工食品(例えば、ハム、ソーセージなど)、水産加工食品、調味料(例えば、ドレッシングなど)、乳製品、菓子(例えば、ビスケット、キャンディー、ゼリー、アイスクリームなど)、スープ、ジュースなどの任意の一般の食品に含有させた食品形態としても提供され得る。このような形態にする場合、前記の加水分解物は、目的とする食品の性質等に依存して、当業者に公知の方法により適宜配合され得る。
【0045】
外用剤としては、例えば、液状、乳液状、クリーム状、ローション状、ペースト状、ムース状、ジェル状、シート状(基材担持)、エアゾール状、スプレー状等の任意の形態で使用され得る。
【0046】
化粧料としては、例えば、ローション、乳液、クリーム、オイル、パック等の基礎化粧料、またファンデーション、頬紅、口紅等のメーキャップ化粧料、さらに洗顔料、クレンジング、ボディ洗浄料等の洗浄料、入浴剤等の任意の形態で使用され得る。
【0047】
飼料としては、任意の形態で使用され得るため、特に限定は無い。
【0048】
本発明はさらに、前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を用いることを特徴とする、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進する方法を提供する。
【0049】
本発明の方法においては、前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物をコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進効果が得られる有効量以上用いればよい。
【0050】
すなわち、本発明の方法における前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用量は通常、内服剤の場合には、成人1人体重約50kgあたり好ましくは約0.001〜10000mg/日、より好ましくは約1〜1000mg/日、さらに好ましくは約1〜100mg/日である。外用剤の場合における当該使用量は通常、成人1人体重約50kgあたり好ましくは約0.1μg〜2g/日である。
【0051】
さらに外用剤として用いる場合、前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の皮膚への適用量は、好ましくは約1ng〜500μg/cm2、より好ましくは約0.01〜50μg/cm2、さらに好ましくは約0.1〜10μg/cm2である。
【0052】
本発明はさらに、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するための組成物の製造のための、前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用を提供する。
【0053】
前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用量は、前記組成物中の含有量となるように使用すればよい。
【0054】
本発明の他の態様は、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、角質水分低下を抑制するための組成物に関する。角質水分低下を抑制するための組成物は、該ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を有効成分とし、これを公知の担体等に配合して製剤化してもよい。ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物としては前記と同様のものが用いられ得、より高い角質水分低下抑制効果を得る観点から、プロテアーゼとしてはサーモリシンが好ましい。また、担体や剤型等は前記と同様のものが用いられ得る。角質水分低下を抑制するための組成物の投与量は、その製剤形態、投与方法、及びこれに適用される被験体の年齢、体重、症状によって適宜設定され、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物として、好ましくは0.0002g/kg/日〜5g/kg/日、より好ましくは0.002g/kg/日〜5g/kg/日、さらに好ましくは0.01g/kg/日〜5g/kg/日である。投与方法としては、本発明の該組成物をそのまま経口投与するほか、任意の食品等に添加して日常的に摂取させることもできる。また、該組成物は外用としても用いられ得、使用量および適用量は、前記同様であり得る。
【0055】
本発明は、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を用いることを特徴とする、角質水分低下を抑制する方法を提供する。
【0056】
かかる方法においては、前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を、角質水分低下抑制効果が得られる有効量以上用いればよい。
【0057】
また、本発明は、角質水分低下を抑制するための組成物の製造のためのダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用に関する。
本発明の該組成物を用いることにより、高い角質水分低下抑制効果、即ち、高い保水力向上作用を奏する。
【0058】
さらに、本発明の他の態様は、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、皮膚の粗さを改善するための組成物に関する。皮膚の粗さを改善するための組成物は、該ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を有効成分とし、これを公知の担体等に配合して製剤化してもよい。ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物としては前記と同様のものが用いられ得、より高い皮膚の粗さを改善する効果を得る観点から、プロテアーゼとしてはサーモリシンが好ましい。また、担体や剤型等は前記と同様のものが用いられ得る。該組成物の投与量および投与方法、ならびに外用としての使用量および適用量も前記同様であり得る。
【0059】
本発明は、さらにダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を用いることを特徴とする、皮膚の粗さを改善する方法を提供する。
【0060】
かかる方法においては、前記ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を、皮膚の粗さを改善する効果が得られる有効量以上用いればよい。
【0061】
また本発明は、皮膚の粗さを改善するための組成物の製造のためのダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の使用に関する。
本発明の該組成物を用いることにより、皮膚の粗さ改善効果を奏する。
【0062】
以下、本発明を実施例、比較例および参考例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例等によりなんら限定されるものではない。
【実施例】
【0063】
実施例1 ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の調製
粉末状分離ダイズタンパク質(製品名「PR-800」、不二製油株式会社製)50gを2Lの蒸留水に分散し、0.1N NaOHでpH8.0に調整した。500mgのサーモリシン(Bacillus thermoproteolyticus由来、製品名「サモアーゼPC10F」、大和化成株式会社製、100 units/mg)を添加して、60℃で15時間での分解を行なった。反応後、100℃で10分間煮沸してサーモリシンを失活させた。放冷後、25gのろ過助剤(ラジオライト500、昭和化学工業株式会社)を添加し、撹拌した後、ろ過を行なった。得られたろ液を500mlまで減圧濃縮し、その後凍結乾燥をして、最終的にダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物として、26gのサーモリシン加水分解物を得た。
【0064】
このようにして得られた加水分解物の平均分子量をGPC法により測定した。凍結乾燥後のサーモリシン加水分解物100mgを、0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)2.0ml中に溶解し、被験溶液とした。Sephadex G25(Mediumタイプ、Amersham Biosciences社製)を充填したカラム(φ2.6×100cm)を、同じ0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化した。このカラムに被験溶液を2.0ml負荷して、流速1.0ml/分で溶出した。分子量既知のペプチド標品として、Insulin(ウシ膵臓由来、シグマ社製、分子量5733)、Insulin A chain(ウシ膵臓由来、シグマ社製、分子量2532)、およびBradykinin(シグマ社製、分子量1050)を用いた。214nmでペプチドを検出し、溶出時間から分子量分布および平均分子量を推定した。その結果、本実施例により得られたダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物の平均分子量は、約1500であることが推定された。
【0065】
実施例2 皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生検定(1)
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(CRL−1836;ATCC)を、48ウェルカルチャープレート中で培養した。より詳細には、12500細胞/1cm2密度でプレートに播種し、37℃で、5%炭酸ガスおよび95%空気の環境下で約72時間培養を行なった。培養液は、Dulbecco’s Modified Eagle Medium(D−MEM)に牛胎仔血清(FBS)を10重量%の濃度で含有させた培地を各ウェル500μLずつ使用した。細胞がコンフルエントになった時点で、培養液を除去し、D−MEMに実施例1で調製したサーモリシン加水分解物を100、300、または1000μg/ml濃度添加した培地を500μlずつ添加した。なお、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を添加しない培地を500μl添加したものをコントロールとして用いた。さらに72時間培養した後、培養液を採取し、培養液中のタイプIコラーゲン濃度を、酵素結合免疫測定法(Anti−Human Procollagen typeI C−peptide EIA Kit;タカラバイオ株式会社製)で定量した。定量結果をもとに、コントロール培養液中のタイプIコラーゲン量を100%として、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物添加培養液のタイプIコラーゲン量を算出した。結果を表1に示す。
【0066】
【表1】

【0067】
表1に示されるとおり、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物添加培養液でヒト正常皮膚由来線維芽細胞を培養することにより、該細胞のタイプIコラーゲン産生量が有意に増加することが見出された。驚くべきことに、1000μg/ml濃度でダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を用いた場合には、コントロールに比べて200%のタイプIコラーゲン産生量が得られるという顕著に高いコラーゲン産生促進効果が認められた。
【0068】
実施例3 毒性試験
実施例2で培養液を採取した後の細胞に対してD−MEMを250μl添加した後、Cell Counting Kit−8(同仁化学研究所製)を用いて生細胞の数を計測した。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
表2に示されるとおり、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物添加培養液で培養されることによる生細胞数の有意な差は見られなかった。
【0071】
実施例4 ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の分子量分画物の調製
1)加水分解処理
脱脂大豆粉末(商品名プロファム974、ADMファーイースト株式会社製)1gを40mlの蒸留水に分散し、0.1N NaOHでpH8.5に調整した。これに50mgのサーモリシン(製品名「サモアーゼPC10F」、大和化成株式会社製)を添加して、60℃で15時間での分解を行った。反応後、100℃で10分間煮沸してサーモリシンを失活させた。放冷後、1gのろ過助剤(ラジオライト500、昭和化学工業株式会社)を添加し、撹拌した後、ろ過を行った。
【0072】
2)粗ペプチドの回収
上述のようにして得られたろ液40mlを、強酸性イオン交換樹脂(商品名「Dowex 50W×2,H+form,50−100mesh」、ダウケミカルカンパニー製)を充填した150ml容カラムに通した後、カラムの5倍容の脱イオン水で洗浄し、非ペプチド成分を除去した。2Mのアンモニア溶液を通液し、カラム吸着成分を溶出させて、ペプチド画分を回収した。エバポレーターを用いてアンモニアを除去し、更に濃縮して乾固させた。5mlの水を加えて乾固物を溶解した後、遠心分離(10,000rpm、30分間)を行い、不溶物を除去した。その上清を凍結乾燥した結果、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物として、125mgの粗ペプチドが得られた。
【0073】
3)分子量分画
GPC法により分子量分画を行った。Sephadex G−25(Mediumタイプ、Amersham Biosciences社製)を充填したカラム(φ2.6×100cm)を0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)で平衡化した。次いで、このカラムに、凍結乾燥後の上記粗ペプチド125mgを0.1Mリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)2.0ml中に溶解した粗ペプチド溶液を全量負荷し、流速1.0ml/分で溶出した。分子量既知のペプチド標品として、実施例1で使用したものと同様の標品を用い、214nmでペプチドを検出した。溶出時間から分子量分布および平均分子量を推定した。分子量分布3000〜3400(平均分子量約3200)のフラクション(F1)、分子量分布2000〜3000(平均分子量約2500)のフラクション(F2)、分子量分布1000〜2000(平均分子量約1500)のフラクション(F3)、および分子量分布100〜1000(平均分子量約550)のフラクション(F4)を得た。これらを脱塩処理後に凍結乾燥することにより、26.0mg(F1)、32.8mg(F2)、16.4mg(F3)および4.2mg(F4)の粉末を得た。
【0074】
実施例5 分子量分画物を用いた、皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生検定
実施例2においてサーモリシン加水分解物を100、300、または1000μg/ml濃度添加して実施した代わりに、実施例4で得たF1〜F4粉末を各々100μg/ml濃度添加して実施した以外は、実施例2と同様にして、皮膚線維芽細胞におけるタイプIコラーゲン産生促進効果を調べた。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】

【0076】
表3に示されるとおり、平均分子量550〜3200のF1〜F4添加培養液でヒト正常皮膚由来線維芽細胞を培養することにより、該細胞のタイプIコラーゲン産生量が有意に増加することが見出された。
【0077】
実施例6 分子量分画物を用いた、毒性試験
実施例5で培養液を採取した後の細胞に対して、実施例3と同様にして生細胞の数を計測した。結果を表4に示す。
【0078】
【表4】

【0079】
表4に示されるとおり、F1〜F4添加培養液で培養されることによる生細胞数の有意な差は見られなかった。
【0080】
実施例7 皮膚表皮角化細胞におけるヒアルロン酸産生検定
ヒト正常表皮角化細胞(NHEK、倉敷紡績株式会社製)を48ウェルカルチャープレート中で培養した。より詳細には、25000細胞/1cm2密度でプレートに播種し、37℃で、5%炭酸ガスおよび95%空気の環境下で約72時間培養を行なった。培養液は、HuMedia KG−2(倉敷紡績株式会社製)を各ウェル400μLずつ使用した。72時間後に培養液を除去し、実施例1に記載のようにして調製したダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を、30、100または300μg/ml濃度添加したHuMedia KG−2培地を400μLずつ添加した。なお、当該加水分解物を添加しない培地を400μL添加したものをコントロールとして用いた。さらに72時間培養した後、培養液を採取し、培養液中のヒアルロン酸濃度を酵素結合免疫測定法(ヒアルロン酸測定キット;生化学工業株式会社製)で定量した。定量結果をもとにコントロール培養液中のヒアルロン酸量を100%として、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物添加培養液のヒアルロン酸量を算出した。結果を表5に示す。
【0081】
【表5】

【0082】
表5に示されるとおり、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物添加培養液でヒト正常表皮角化細胞を培養することにより、該細胞のヒアルロン酸産生量が有意に増加することが見出された。驚くべきことに、100または300μg/ml濃度でダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を用いた場合には、コントロールに比べて250%以上のヒアルロン酸産生量が得られるという顕著に高いヒアルロン酸産生促進効果が認められた。
【0083】
実施例8 ヘアレスマウスを用いた抗シワ検定
へアレスマウスを用いて紫外線によるシワ発生に対する予防効果を、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物の塗布試験により検定する。すなわち、5週齡雄性へアレスマウスを3群に分け(8匹/1群)、3週間にわたり、第1週目に90mJ/cm、第2週目に120mJ/cm、第3週目に150mJ/cmのUVB紫外線を1週間あたり3回照射する。また紫外線を照射している3週間、各群のヘアレスマウスには、ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物等を含有する試験溶液を50μl(適用量:1μg/cm)ずつ1日3回背中に塗布する。そして、第1回目の紫外線照射から24日後に、目視にてシワを7段階にスコア化(表6)し、シワ発生の予防効果を評価する。この抗シワ検定により、プロテアーゼ加水分解物を含有する試験溶液を塗布した群に優れたシワ発生の予防効果が認められる。
【0084】
【表6】

【0085】
実施例9 皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生検定(2)
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(CRL−1836;ATCC)を、60φシャーレ中で培養した。より詳細には、2500細胞/1cmの密度でシャーレに播種し、37℃で、5%炭酸ガス及び95%空気の環境下で、サブコンフルエントになるまで6日間培養を行なった。培養液は、Dulbecco's Modified Eagle Medium(DMEM)に牛胎仔血清(FBS)を10重量%の濃度で含有した培地を3ml使用した。次いで、FBSを添加しない上記培養液(すなわち、無血清培地)に交換し、さらに1日間培養した。その後、実施例1で調製したサーモリシン加水分解物を3000μg/ml濃度添加した無血清培地3mlに交換して24時間培養した。一方、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物を添加しない無血清培地3mlに交換したものをコントロールとした。
【0086】
24時間後に、培養した細胞から、市販のRNA抽出キット(QIAGEN製、商品名:Rneasy Mini)を用いてそれぞれのトータルRNAを抽出した。得られたトータルRNAから、常法に従ってcDNAを合成した。
【0087】
タイプIIIコラーゲンをコードする遺伝子の発現量の定量は、タイプIIIコラーゲン(α1(III))の遺伝子配列に対するプライマーセットを含むキット(Applied Biosystems社製、商品名:TaqMan(登録商標)Gene Expression Assays, Assay ID: Hs00164103_ml)を用いて行なった。このキットを添付のプロトコールに従って、上記で調製したcDNAと共にABIリアルタイムPCRシステム(機器名:ABI PRISM(登録商標)7000 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製))にかけて、タイプIIIコラーゲンの発現量を定量した。
【0088】
定量結果を元に、コントロールにおける発現量を100%として、サーモリシン加水分解物を添加して培養した細胞におけるタイプIIIコラーゲン遺伝子の発現量を算出した。その結果、ダイズタンパク質のサーモリシン加水分解物添加培養液でヒト正常皮膚由来線維芽細胞を培養することにより、該細胞のタイプIIIコラーゲン遺伝子の発現量は218%にもなり、有意に増加することが認められた。従って、ダイズタンパク質をサーモリシンで分解することにより得られる分解物が、タイプIIIコラーゲンの産生も増強し得ることが確認された。
【0089】
実施例10 経口摂取による美肌効果検定
1)角質水分低下抑制効果
以下のようにして、角質層の乾燥に及ぼすぺプチド経口投与の影響を検討した。
5週齢の雌のヘアレスマウス(各群5匹)に対し、被験ぺプチド(実施例1と同様にして調製したダイズタンパク質のサーモリシン分解物(平均分子量1500)又は市販のコラーゲンぺプチド(テラピア鱗コラーゲンぺプチド、商品名:マリンコラーゲンリッチ500、日本化薬製))を、5g/kg/日となるように食餌に混ぜて自由摂食させた。一方、被験ペプチドを含まない食餌を摂取させたものを対照群とした。
【0090】
経口摂取開始から1週間後より、デルマレイ−200機器(東光電気株式会社製)を用い、マウスにUVB照射を行なった。照射頻度は3回/1週間とし、照射強度を1週毎に120、150、180mJ/cmと増加させ、以後は180mJ/cmで試験終了まで照射を継続した。角質水分の測定には、角質水分量測定装置スキコン−200(アイ・ビイ・エス株式会社製)を使用した。
【0091】
その結果、ペプチドを含まない食餌量を摂取した対照群(初期値:43.5μS)では、UV照射2週目から角質水分量の低下が観察され、12週目には半量以下(19.9μS)にまで水分が低下していた。一方、ダイズタンパク質のサーモリシン分解物を摂取した群(初期値:42.6μS)では、12週目においても34.3μSの角質水分量を維持することが明らかとなった。またコラーゲンペプチドについても(初期値:40.9μS)、12週目において31.2μSを維持していた。以上より、ダイズタンパク質のサーモリシン分解物を投与した群では、対照群よりも統計学的に有意に高い角質水分低下抑制効果が有ることが認められた。またダイズタンパク質のサーモリシン分解物による角質水分低下抑制効果は、一般に美肌効果を有することが知られているコラーゲンペプチドに匹敵するものであり、即ち高い保水力向上作用を有することが明らかとなった。
【0092】
2)皮膚の粗さ改善効果
また上記と同様の試験系において、UV照射12週目におけるヘアレスマウスの皮膚の粗さを2次元皮膚表面解析装置ビジオスキャン(Courage+Khazaka社製)を用いて解析を行なった。その結果、対照群のスコア(0.938)に比べて、ダイズタンパク質のサーモリシン分解物の投与群では0.472、コラーゲンペプチド投与群では0.496といずれも、対照群と比較して統計学的に有意に低い数値を示すことが明らかとなった。従って、ダイズタンパク質のサーモリシン分解物は、コラーゲンペプチドと同様に、その経口摂取により皮膚の粗さを有意に改善させる効果を持つことが認められた。
【0093】
以下に、本発明の組成物の処方例を示す。
清涼飲料水の処方例1
原料 1本(50g)当たりの配合量(g)
ダイズタンパク質の
サーモリシン加水分解物 1.0
ビタミンC 0.5
ビタミンB2 0.05
エリスリトール 5.0
香料 0.01
精製水 43.44
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の組成物は、コラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生促進能を有し、かつ細胞毒性を示さずに安全に使用され得る新規素材であるため、たとえば、医薬組成物、食品、化粧料又は飼料として、さらにはコラーゲンまたはヒアルロン酸に関連する生理状態の解明のための研究試薬として好適に使用され得、また、角質水分の低下を抑制するために及び皮膚の粗さを改善するために使用され得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイズタンパク質のプロテアーゼ加水分解物を含有する、細胞におけるコラーゲンおよびヒアルロン酸からなる群より選択される少なくとも1種の産生を促進するための食品又は飼料組成物。

【公開番号】特開2012−143244(P2012−143244A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−75626(P2012−75626)
【出願日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【分割の表示】特願2007−542262(P2007−542262)の分割
【原出願日】平成18年9月6日(2006.9.6)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】