説明

コンクリート構造物中の鋼材に対する防食方法および連続繊維シート

【課題】施工後長時間防食機能が持続する耐久性に優れたコンクリート構造物中の鋼材に対する防食方法およびこれに用いる連続繊維シートを提供する。
【解決手段】例えば鉄筋コンクリート構造物の電気防食に使用される連続繊維シート1であって、合成樹脂繊維または無機物繊維のシートに導電性金属線13が編み込まれ、シートには、その表裏を貫通する穴14が複数設けられている。
連続繊維シートは、鉄筋コンクリート構造物の表面に導電性を有する接着剤で固着され、その上がアルカリ性電解質水溶液を保持した保持材で覆われた状態で電気防食が行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物の耐荷力を向上させかつ鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物の中の鋼材の腐食を防止する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物、例えば鉄筋コンクリート構造物において、電気化学的防食が鉄筋腐食を防止する工法として採用されている。また、近年、既設の鉄筋コンクリート構造物、特に建物の柱および橋脚等の耐荷力不足が問題化しており、耐荷力の向上のために、これらの表面を連続繊維シート(アラミド繊維製)で被覆する工法が広く行われている。
しかし、すでに塩害等が生じている構造物に対しては、表面を連続繊維シートで被覆するのみではその腐食の進行を止めることが難しい。そこで、連続繊維シートにチタン線を編み込み導電性を付与して、耐荷力を向上させるともに電気防食を行うことができる技術が開示されている(特許文献1)。
【特許文献1】特開2007−284726号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1に開示された技術は、アラミド繊維を編んで繊維束を形成するときに同時にチタン線を編み込むことにより、連続繊維シートに導電性を付与する。
しかし、特許文献1に開示された連続繊維シートによる防食は、施工後長時間経過すると、施工場所または周囲の環境等によってチタン線の通電性能が低下して陽極の電位が上昇し、通電性能が低下する場合がある。
また、特許文献1に開示された連続繊維シートによる防食において、従来の外部電源方式による電気防食と同様に、時間経過に伴ってコンクリートに連結された陽極近傍で生ずるアノード反応によってコンクリートのpHが徐々に低下し、コンクリートの強度低下を招くおそれがある。
【0004】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、施工後長時間防食機能が持続する耐久性に優れた鉄筋コンクリート構造物の防食方法およびこれに用いる連続繊維シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る連続繊維シートは、コンクリート構造物中の鋼材に対する電気防食に使用される連続繊維シートであって、合成樹脂繊維または無機物繊維のシートに導電性金属線が編み込まれて形成され、前記シートにはその表裏を貫通する穴が複数設けられる。
好ましくは、前記穴の総面積が前記シートの1m2あたりに1×10-32以上3.5×10-22以下である。
前記シートは、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維またはガラス繊維のいずれかで形成される。
【0006】
好ましくは、前記導電性金属線は、その表面がニッケルメッキもしくは白金メッキされたチタン線、または酸化貴金属被膜チタン線である。
本発明に係るコンクリート構造物中の鋼材に対する防食方法は、合成樹脂繊維または無機物繊維のシートに導電性金属線が編み込まれ前記シートにその表裏を貫通する穴が複数設けられた連続繊維シートを、導電性を有する接着剤を使用して前記穴を塞ぐことなく鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に固着し、アルカリ性電解質水溶液を保持するまたは保持可能な保持材を前記連続繊維シートの表面に固着し、前記保持材に前記アルカリ性電解質水溶液を保持させた状態で前記導電性金属線を外部電源の陽極に接続して通電する。
【0007】
前記穴は、その総面積が前記シート1の1m2あたりに1×10-32以上3.5×10-22以下である。
前記シートは、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維またはガラス繊維のいずれかで形成される。
上記における「鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物」とは、RC、SRC、PCおよびPRC等の、鋼材で強化されたコンクリート構造物全般をいう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は繊維束の向きが1方向の連続繊維シート1の概略図、図2は繊維束が縦横の2方向に織り込まれた連続繊維シート1Bの概略図である。
図1に示される連続繊維シート1は、アラミド繊維が束ねられた比較的太い繊維束11,…,11、アラミド繊維がこれよりも細く束ねられた横糸12,…,12、およびチタン線13,13,13からなる。連続繊維シート1は、(長手方向を揃えて)同一方向に1列に密に並べられた繊維束11と、繊維束11の一定本数間隔ごとに繊維束11と(その長手方向が)同一方向に配されたチタン線13とが、これらの長手方向(並び方向と直交する方向)に一定の間隔で横糸12,…,12により連結されてシート状に形成されている。
【0009】
連続繊維シート1を形成する繊維束11および横糸12には、例えば東レ・デュポン(株)社製のパラ系アラミド繊維KEVLAR(登録商標)が使用される。
連続繊維シート1は、チタン線13を含まない場合に目付量が200〜1000g/m2となるように形成されるのが好ましい。
連続繊維シート1は、鉄筋コンクリート構造物の表面に被覆されて鉄筋コンクリート構造物の耐荷力を向上させる働きをする。
チタン線13は、その表面がニッケルメッキもしくは白金メッキされたチタン線、または白金、パラジウム、ロジウム、オスミウム、イリジウムもしくはルテニウムなどの白金族の金属酸化物によって被覆されたチタン線が使用される。
【0010】
連続繊維シート1において、チタン線13,13,13は略45mm間隔に配されている。チタン線13は、連続繊維シート1により電気防食を行う場合、陽極として機能する。
連続繊維シート1における隣り合うチタン線13,13の間には、連続繊維シート1を貫通する穴14,…,14が、繊維束11の長手方向およびこれと直交する方向にそれぞれ適度な間隔を有して多数設けられている。穴14は、繊維束11の一部を切断して設けられるので、耐荷力という連続繊維シート1の機能を低下させない程度の大きさおよび数に制限される。
【0011】
例えば、穴14は、断面が円形の場合にはその径が1mm以上30mm以下が好ましい。また、穴14の総面積は、連続繊維シート1の1m2あたりに1×10-32以上3.5×10-22以下が好ましい。
図2に示される連続繊維シート1Bは、アラミド繊維が束ねられた繊維束11B,…,11B、およびチタン線13B,…,13Bからなる。連続繊維シート1Bは、経糸(たていと)および緯糸(よこいと)をいずれも繊維束11Bとして平織りされたものである。チタン線13B,…,13Bは、経糸または緯糸に沿わせて編み込まれる。
【0012】
繊維束11Bには、連続繊維シート1の繊維束11と同様に、例えば東レ・デュポン(株)社製のパラ系アラミド繊維KEVLAR(登録商標)が使用される。チタン線13Bには径が0.1mmのものが単独でまたは数本が撚られて使用される。
連続繊維シート1Bは、編み目状に粗く織られていてもよい。連続繊維シート1Bは、その目付量が、チタン線13B,…,13Bを含まない場合に100〜1000g/m2となるように形成されるのが好ましい。
連続繊維シート1Bにおいて、チタン線13B,…,13Bは略45mm間隔に配されている。
【0013】
連続繊維シート1Bにおける隣り合うチタン線13B,13Bの間には、連続繊維シート1Bを貫通する穴14B,…,14Bが、経糸または緯糸が伸びる直交する2方向にそれぞれ適度な間隔を有して多数設けられている。穴14Bは、経糸および緯糸である繊維束11Bの一部を切断して設けられるので、耐荷力という連続繊維シート1Bの機能を低下させない程度の大きさおよび数に制限される。穴14Bは、断面が円形の場合にはその径として1mm以上30mm以下が好ましく、その総面積は、連続繊維シート1の1m2あたりに1×10-32以上3.5×10-22以下が好ましい。
【0014】
連続繊維シート1,1Bにおいて、繊維束11および横糸12を、または繊維束11Bを、アラミド繊維に換えて他の合成繊維、例えばポリアミド繊維(ナイロン:登録商標)、ポリエステル繊維、およびポリプロピレン繊維等を使用してもよい。また、合成繊維以外にも、例えば耐アルカリ性が強化されたガラス繊維、炭素繊維等の無機物による高強度繊維を使用することができる。
また、チタン線13,13Bに換えて他の良電導性金属、例えば白金の線、ニッケルめっきチタン線、白金めっきチタン線または酸化貴金属皮膜チタン線等を使用してもよい。
【0015】
図3は保持板15に保持された連続繊維シート1が鉄筋コンクリート構造物に固着される様子を示す図、図4は連続繊維シート1が固着され耐荷力を向上させた鉄筋コンクリート構造物の概略を示す図、図5は連続繊維シート1が固着された鉄筋コンクリート構造物の断面図である。
鉄筋コンクリート構造物に固着される前の連続繊維シート1は、保持板15に保持されている。保持板15は、金属の板の一方の面16に連続繊維シート1の規則的に配された穴14,…,14と同じ配置で突出する複数の突起17,…,17を有している。保持板15の一方の面16は、突起17,…,17も含め全体がフッ素樹脂塗料によりコーティングされている。連続繊維シート1は、その穴14,…,14に突起17,…,17が嵌め入れられた状態で、準備される。
【0016】
さて、連続繊維シート1は、次のようにして鉄筋コンクリート構造物に固着される。
初めに、導電性接着剤18が鉄筋コンクリート構造物の表面に塗布される。導電性接着剤18は、鉄筋コンクリート構造物に固着される連続繊維シート1のアラミド繊維間に隙間なく浸透するように、十分な量が塗布される。
ここで使用される導電性接着剤18は、一般に接着剤として使用されるエポキシ樹脂に導電性を有する炭素粉末を混入したものである。導電性接着剤18は、炭素粉末の混入により体積抵抗率が104Ω・cm以下に調整されたものであり、かつ硬化した後に曲げ強度が40MPa以上、引張強度が30MPa以上、および引張せん断強度が10MPa以上となるものが好ましい。
【0017】
導電性接着剤18とするために混入される炭素は、アセチレンブラックが好ましく、混入量は導電性接着剤18中に2〜30重量%が好ましい。そのほかにもカーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ファーネスブラックが使用できる。
続いて、塗布された導電性接着剤18が保持板15に保持された連続繊維シート1で覆われて、連続繊維シート1は保持板15とともに仮止めされる。
導電性接着剤18が硬化した後に、保持板15が取り外される。保持板15は、その表面にコーティングされたフッ素樹脂により、容易に取り外すことができる。保持板15が取り外された後の鉄筋コンクリート構造物に固着された連続繊維シート1は、穴14,…,14が導電性接着剤18により塞がれてなく、穴14,…,14の底部にコンクリート19の表面が露出した状態である。
【0018】
連続繊維シート1の外面に、厚板状の保持材20が導電性接着剤18により接着固定される。保持材20には、隙間容積の大きな耐アルカリ性のグラスウール、セラミックウールまたは綿状の合成樹脂を厚板に成形したものが使用される。保持材20は、その繊維間に多量の吸水性高分子21の粉末が保持されたものである。保持材20の繊維間に保持される吸水性高分子21は、例えばポリアクリル酸ナトリウムである。
この接着作業は、穴14,…,14に導電性接着剤18が入り込まないように、また保持材20の内部に導電性接着剤18が浸透しないように、最小限の導電性接着剤18が塗布されることにより行われる。
【0019】
導電性接着剤18が硬化し、保持材20が連続繊維シート1に固着された後に、水酸化ナトリウム水溶液が保持材20に向けて噴霧される。水酸化ナトリウム水溶液の噴霧は、保持材20内の吸水性高分子21の膨潤(吸水)状態を確認しながら、ゆっくりと注意深く行われる。
噴霧する液体に、水酸化ナトリウム水溶液ではなく水酸化リチウム水溶液または水酸化カリウム水溶液を使用してもよい。
最後に、保持材20からの水分の蒸発を抑えるために、保持材20の表面が水分浸透防止処理がなされた樹脂シートまたは炭素繊維シート等により被覆される。
【0020】
なお、図3〜5における符合22は鋼材である。
連続繊維シート1Bの鉄筋コンクリート構造物への施工も、上に説明した連続繊維シート1を鉄筋コンクリート構造物に施工する場合と全く同様にして行われる。
連続繊維シートとして、連続繊維シート1,1Bにおける穴14,14Bを有しないものを用い、連続繊維シートが導電性接着剤18によって鉄筋コンクリート構造物に固着された後に、ドリル等により連続繊維シートの表面から鉄筋コンクリート構造物に至る複数の孔を設けてもよい。また、鋭角的な先端を有する突起を縦横についてそれぞれ所定の間隔で突出させた型を、鉄筋コンクリート構造物に固着後の連続繊維シートの表面に打ち付けることにより、連続繊維シートの表面から鉄筋コンクリート構造物に至る複数の孔を設けてもよい。このようにして、連続繊維シート1,1Bにおける穴14,14Bと同等視できる孔が設けられた連続繊維シート固着後の鉄筋コンクリート構造物に対して、連続繊維シート1,1B固着後の鉄筋コンクリート構造物に対すると同様にして、保持材20および吸水性高分子21が取り付けられ、水酸化ナトリウム水溶液等が噴霧される。
【0021】
連続繊維シート1,1Bの鉄筋コンクリート構造物への施工は、次のようにしても行うことができる。
例えば、鉄筋コンクリート構造物に連続繊維シート1,1Bが導電性接着剤18により固着された後、連続繊維シート1,1Bの表面との間で若干の隙間を有するようにして耐アルカリ性のFRP成型容器または金属の容器が鉄筋コンクリート構造物に固定される。固定は、FRP成型容器の端縁では連続繊維シート1,1Bの表面との間で密閉性が保てるように行われる。
【0022】
続いて、吸水性高分子21が混入されゲル状となった水酸化リチウム水溶液がFRP成型容器等と連続繊維シート1,1Bとの間の隙間に注入される。
なお、連続繊維シート1,1Bが鉄筋コンクリート構造物の表面の一部に施工(固着)される場合には、鉄筋コンクリート構造物の表面における連続繊維シート1,1Bが施工された部分およびその周囲を保持材20および吸水性高分子21で被覆し、保持材20および吸水性高分子21をFRP成型容器で密閉性が維持できるように保持してもよい。
図6は電気防食の持続性を調べるための試験供試体の概要を示す図である。図6における(a)は本発明の実施例である試験供試体2であり、(b)は比較例における試験供試体51である。
【0023】
図6(a),(b)における試験供試体2,51は、φ=13mmの丸鋼22Cが埋め込まれたコンクリート19の直方体状ブロックの上面に連続繊維シート1,52が導電性接着剤18により固着されたものである。
連続繊維シート1,52は、これを形成するアラミド繊維の目付量が415g/m2のものが使用され、導電性接着剤18は、炭素を15%含むものが使用された。
ここで、試験供試体2は、φ=6mmの穴14の数が400mm×100mmあたり8つ設けられた連続繊維シート1が固着されたものである。また、試験供試体51は、φ=6mmの穴14が400mm×100mmあたり1つ設けられた連続繊維シート52が固着されたものである。
【0024】
いずれも、連続繊維シート1,52の上に保持材20が固着され、保持材20には水酸化ナトリウム水溶液が噴霧されて吸水性高分子21に保持された。
試験供試体2,51のそれぞれのチタン線13,13,13は、分配材23に連結される。電気防食の持続性の調査は、分配材23を直流電源DCの陽極に、丸鋼22Cを直流電源DCの陰極に接続して、チタン線13,13,13と丸鋼22Cとの間に電流を流し、オン電位(防食電位)の経時変化等を計測(照合電極としてCSEを使用)することにより行った。
【0025】
試験供試体2,51は、その高さ(100mm)の下から3分の1の位置まで1重量%の食塩水に浸してコンクリート19の劣化および丸鋼22Cの腐食を促進させた。また、チタン線13,13,13と丸鋼22Cとの間の電流密度は、通常の電気防食における値の45倍である890mA/m2として、チタン線13,13,13の劣化を促進させた。
図7は試験供試体2における各電位の経時変化を示す図、図8は試験供試体51における各電位の経時変化を示す図である。図7,8では、時間経過を積算電流密度(mV vs CSE)として横軸に表されている。
【0026】
図7から、穴14の数が8個の試験供試体2(連続繊維シート1の単位面積(1m2)当たりの穴14の総面積が5.7×10-32)は、積算電流量4400Ah/m2(実使用レベルで25年相当の積算電流量)を通電しても陽極電位および陰極電位の上昇は認められず、通電性能は低下しないことがわかる。このとき、付加電圧の上昇も見られなかった。
一方、穴14の数が1個の試験供試体51(連続繊維シート1の単位面積(1m2)当たりの穴14の面積が7.1×10-42)では、図8に示されるように、積算電流量4400Ah/m2程度通電した時点で陽極電位が上昇し始め、最終的にチタン線13が溶解して断線し、通電不可能となった。つまり穴14の数が少ない(1個の)ものは十分なチタン線13の耐久性が確認されず、穴14の数が8個のものは25年相当以上のチタン線13の耐久性が確認された。
【0027】
鉄筋コンクリート構造物における一般的な外部電源方式の電気防食では、コンクリート表面に配置した電極を陽極および鉄筋を陰極とし、コンクリート中のアルカリ性細孔溶液である電解質溶液が電気分解されることによって電流が流れる。このとき、陽極側で生ずる酸化反応によりコンクリートが劣化する。この酸素発生反応平衡電位E(E=0.994−0.059pH)は、高いpHでは小さくなって低い電位でアノード反応が起こる。
試験供試体2においてコンクリート19の細孔溶液と吸水性高分子21に保持された電解質(水酸化ナトリウム水溶液)とは穴14によって連続しており、これらは一体の電解溶液と考えられる。そのため、電解質のpHを高く保てば、コンクリート19と連続繊維シート1との接着面よりも、(電解質を保持する)保持材20に接する連続繊維シート1の表面でアノード反応が起きやすくなる。
【0028】
穴14の数が多く、配置間隔が密となった試験供試体2では、アノード反応が保持材20に接する連続繊維シート1の表面で生じやすいために、陽極電位等の上昇が抑えられたものと考えられる。
一方、試験供試体51では、穴14の数(総面積)が少ないために、アノード反応が保持材20に接する連続繊維シート1の表面で生じにくく、コンクリート19と連続繊維シート1との接着面で反応が起き、陽極電位が上昇してチタン線表面の皮膜が劣化したと推測される。
【0029】
また、試験供試体51では、コンクリート19と連続繊維シート1との接着面でアノード反応により水酸イオン(OH-)が消費され、相対的に水素イオン(H+)の濃度が増加して(pHが低下して)、コンクリート19の強度低下を引き起こす。さらに、試験供試体51では、コンクリート19と連続繊維シート1との接着面で生じる酸素のために、これらの接着面が剥離しやすくなる。チタン線13の劣化、接着面の剥離、およびコンクリート19の強度低下等の試験供試体51における現象は、従来の(穴14を有しない)連続繊維シートにも当てはまるものである。
【0030】
試験供試体2は、連続繊維シート1に多数の穴14,…,14が設けられていることにより、電気防食を行うためのアノード反応を低電位で生じさせることができ陽極に与える負荷が小さく、かつ、コンクリート19と連続繊維シート1との接着面の剥離が生じにくい。また、試験供試体2は、併せてコンクリート19の細孔と穴14とを連続する電解質内を水酸イオンが拡散しやすいためにコンクリート19の強度低下を防止することができる。
連続繊維シート1は、上記した鉄筋コンクリート構造物の他に、SRC、PCおよびPRC等の、鋼材で強化したコンクリート構造物全般の耐荷力の向上および鋼材の腐食防止のために施工することができる。
【0031】
上述の実施形態において、連続繊維シート1,1Bの各構成または全体の構造、形状、寸法、個数、材質などは、本発明の趣旨に沿って適宜変更することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物の耐荷力の向上およびコンクリート構造物中の鋼材の腐食防止に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は繊維束の向きが1方向の連続繊維シートの概略図である。
【図2】図2は繊維束が縦横の2方向に織り込まれた連続繊維シートの概略図である。
【図3】図3は保持板に保持された連続繊維シートが鉄筋コンクリート構造物に固着される様子を示す図である。
【図4】図4は連続繊維シートが固着され耐荷力を向上させた鉄筋コンクリート構造物の概略を示す図である。
【図5】図5は連続繊維シートが固着された鉄筋コンクリート構造物の断面図である。
【図6】図6は電気防食の持続性を調べるための試験供試体の概要を示す図である。
【図7】図7は本発明に係る試験供試体における各電位の経時変化を示す図である。
【図8】図8は比較例の試験供試体における各電位の経時変化を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1,1B 連続繊維シート
13,13B 導電性金属線(チタン線)
14,14B 穴
18 接着剤(導電性接着剤)
20 保持材
DC 外部電源(直流電源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物中の鋼材に対する電気防食に使用される連続繊維シートであって、
合成樹脂繊維または無機物繊維のシートに導電性金属線が編み込まれて形成され、
前記シートにはその表裏を貫通する穴が複数設けられた
ことを特徴とする連続繊維シート。
【請求項2】
前記穴の総面積が前記シートの1m2あたりに1×10-32以上3.5×10-22以下である
請求項1に記載の連続繊維シート。
【請求項3】
前記シートは、
アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維またはガラス繊維のいずれかである
請求項1または請求項2に記載の連続繊維シート。
【請求項4】
前記導電性金属線は、その表面がニッケルメッキもしくは白金メッキされたチタン線、または酸化貴金属被膜チタン線である
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の連続繊維シート。
【請求項5】
合成樹脂繊維または無機物繊維のシートに導電性金属線が編み込まれ前記シートにその表裏を貫通する穴が複数設けられた連続繊維シートを、導電性を有する接着剤を使用して前記穴を塞ぐことなく鋼材が埋め込まれたコンクリート構造物の表面に固着し、
アルカリ性電解質水溶液を保持するまたは保持可能な保持材を前記連続繊維シートの表面に固着し、
前記保持材に前記アルカリ性電解質水溶液を保持させた状態で前記導電性金属線を外部電源の陽極に接続して通電する
ことを特徴とするコンクリート構造物中の鋼材に対する防食方法。
【請求項6】
前記穴は、
その総面積が前記シートの1m2あたりに1×10-32以上3.5×10-22以下である
請求項5に記載のコンクリート構造物中の鋼材に対する防食方法。
【請求項7】
前記シートは、
アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維、ポリプロピレン繊維、炭素繊維またはガラス繊維のいずれかである
請求項5または請求項6に記載のコンクリート構造物中の鋼材に対する防食方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−100921(P2010−100921A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−275662(P2008−275662)
【出願日】平成20年10月27日(2008.10.27)
【出願人】(000192626)神鋼鋼線工業株式会社 (44)
【Fターム(参考)】