説明

コンクリート構造物用伸縮継手の固定構造およびその固定方法

【課題】 伸縮継手の固定に必要な面修正部を確実かつ簡単に形成することができ、廃棄物の発生を抑えることができるコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造およびその固定方法を提供すること。
【解決手段】 コンクリート構造物11,11間の目地部12に跨って可撓性の伸縮継手13を配置して固定するコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造で、伸縮継手13の両端部の碇着部13b,13bが位置するコンクリート構造物11の表面の目地部12から離れた両側に、それぞれ面修正部14,14を2条形成し、これら2条の面修正部14,14上に碇着部13b,13bを配置して目地部12を跨って伸縮継手13を固定する。
これにより、2条の面修正部14,14の目地部12側の端部は、目地部12を挟んで間隔を隔てた状態となり、面修正部14,14を2条に分割して形成することで角隅部11d,11dの欠け落ちを防止でき、伸縮継手13の固定に必要な面修正部14,14を確実かつ簡単に形成して廃棄物の発生を抑えるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、コンクリート構造物用伸縮継手の固定構造およびその固定方法に関し、コンクリートで構築される、水路、水処理施設、トンネル、共同溝などのコンクリート構造物の目地部に可撓性の伸縮継手を設置して止水および相対変位を可能とするもので、特に伸縮継手の固定のための面修正部の形成の簡素化および廃棄物の発生抑制を図るようにしたものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートで構築されるコンクリート構造物である水路や水槽あるいは共同溝等の地中に構築される暗渠などの壁部分の目地部には、内外を止水するとともにその両側のコンクリート構造物の不等沈下や地震時変位並びに温度変化等に起因する壁部分の伸縮等を許容する必要があり、コンクリート構造物の内側にゴムや合成樹脂の止水板などの可撓性の伸縮継手を設置することが行われている。
【0003】
従来のコンクリート構造物では、例えば図5に示すように、コンクリート構造物1の目地部2の両側を一部切欠いて一連の凹溝3aを形成し、この1連の凹溝3aに特殊セメント系モルタルを打設して基準面1bとなる面修正部3を形成し、この面修正部3上に補強布4を目地部2を跨ぐように敷き、ゴムや合成ゴム等の弾性部材で製作され中間部に折り畳んだ伸縮部5aを備えた伸縮継手5の両端の碇着部5b,5bを配置して保護シート6で覆い、両端部の碇着部5b,5b等を押え板7を介して樹脂アンカー8で固定するようにしている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−144148号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなコンクリート構造物1の目地部2に伸縮継手5を固定する場合には、躯体内空面1aに基準面1bとなる面修正部3を形成する必要がある。
【0006】
このため、従来の施工工程は、例えば図6に示すように、目地部2を中心に所定幅(設計面修正幅)の両端縁にカッター加工を行って2条の切り込み1cを形成し、これら切り込み1c,1cの間をハツリ加工して一連の凹溝3aを形成した後、凹溝3a内に特殊セメント系モルタルを打設して表面を平坦に仕上げることで面修正部3を形成するようにしている。
【0007】
ところが、目地部近傍をハツリ加工しようとすると、図6(b)に示すように、角隅部1d,1dのコンクリートの欠け落ちが発生し易く、この部分のハツリ深さが深くなってコンクリート廃棄物(ロス)が多く出てしまうという問題があるとともに、面修正部3を形成するために必要な特殊セメント系モルタルの使用量も増大してしまうという問題がある。
【0008】
また、目地部2にシリコーンなどのゴム系の目地材9を充填する場合には、充填深さが深くなって充填量が増大してしまうという問題がある。
【0009】
この発明は、かかる従来技術の問題に鑑みてなされたものであって、伸縮継手の固定に必要な面修正部を確実かつ簡単に形成することができ、廃棄物の発生を抑えることができるコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造およびその固定方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するためこの発明の請求項1記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、コンクリート構造物間の目地部に跨って可撓性の伸縮継手を配置して固定するコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造であって、
前記伸縮継手の両端部の碇着部が位置する前記コンクリート構造物表面の前記目地部から離れた両側に、それぞれ面修正部を2条形成し、これら2条の面修正部上に前記碇着部を配置して前記目地部を跨って前記伸縮継手を固定してなることを特徴とするものである。
【0011】
また、この発明の請求項2記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項1記載の構成に加え、前記碇着部の前記面修正部への固定を、アンカーボルトで直接固定しまたはアンカーボルトを介して締め付けられる固定部材を介して固定してなることを特徴とするものである。
【0012】
さらに、この発明の請求項3記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項1または2記載の構成に加え、前記面修正部と前記碇着部との間に止水処理部を設けて構成したことを特徴とするものである。
【0013】
また、この発明の請求項4記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造は、請求項3記載の構成に加え、前記止水処理を、前記面修正部の端縁部と前記目地部の端縁部との間に、V溝を形成して構成したことを特徴とするものである。
【0014】
さらに、この発明の請求項5記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法は、コンクリート構造物間の目地部に跨って配置される可撓性の伸縮継手をコンクリート構造物に固定するに際し、前記伸縮継手の両端部の碇着部が位置する前記コンクリート構造物表面の前記目地部から離れた両側にそれぞれ面修正部を2条形成した後、これら2条の面修正部上に、前記目地部を跨って前記碇着部を配置して締め付けて固定するようにしたことを特徴とするものである。
【0015】
また、この発明の請求項6記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法は、請求項5記載の構成に加え、前記2条の面修正部を、それぞれ2条のカッター加工を行ってその間をハツリ加工して2条の凹溝を形成し、次いで、これら2条の凹溝にセメント系モルタル材を充填して形成するようにしたことを特徴とするものである。
【0016】
さらに、この発明の請求項7記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法は、請求項5または6記載の構成に加え、前記面修正部の表面の前記目地部側の端縁部に、止水処理を施すようにしたことを特徴とするものである。
【0017】
また、この発明の請求項8記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法は、請求項7記載の構成に加え、前記止水処理を、前記面修正部の端縁部と前記目地部の端縁部との間に、V溝を形成して構成したことを特徴とするものである。
【0018】
さらに、この発明の請求項9記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法は、請求項5〜8のいずれかに記載の構成に加え、前記碇着部の前記面修正部への固定を、前記面修正部にアンカーボルトを植設して行うか、あるいはアンカーボルトに締め付ける固定部材を介して行うようにしたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明の請求項1記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、コンクリート構造物間の目地部に跨って可撓性の伸縮継手を配置して固定するコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造であって、前記伸縮継手の両端部の碇着部が位置する前記コンクリート構造物表面の前記目地部から離れた両側に、それぞれ面修正部を2条形成し、これら2条の面修正部上に前記碇着部を配置して前記目地部を跨って前記伸縮継手を固定してなるので、2条の面修正部の目地部側の端部は、目地部を挟んで間隔を隔てた状態となり、面修正部を2条に分割して形成することで角隅部の欠け落ちを防止することができ、伸縮継手の固定に必要な面修正部を確実かつ簡単に形成することができ、廃棄物の発生を抑えることができる。
【0020】
また、この発明の請求項2記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、前記碇着部の前記面修正部への固定を、アンカーボルトで直接固定しまたはアンカーボルトを介して締め付けられる固定部材を介して固定してなるので、アンカーボルトによって直接固定することやアンカーボルトを介して締め付ける固定部材を介して固定することで、確実に伸縮継手を固定することができ、特に固定部材を介して固定する場合には、伸縮継手の碇着部に孔加工をすることなく固定することができる。
【0021】
さらに、この発明の請求項3記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、前記面修正部と前記碇着部との間に止水処理部を設けて構成したので、防水シートや止水材による止水処理部を設けることで、一層確実に止水することができる。
【0022】
また、この発明の請求項4記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造によれば、前記止水処理部を、前記面修正部の端縁部と前記目地部の端縁部との間にV溝を形成して構成したので、V溝によって面修正部と碇着部との間への浸水を防止してV溝に導くことができ、確実に止水することができるとともに、伸縮継手の取付前に予め施工することができる。
【0023】
さらに、この発明の請求項5記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法によれば、コンクリート構造物間の目地部に跨って配置される可撓性の伸縮継手をコンクリート構造物に固定するに際し、前記伸縮継手の両端部の碇着部が位置する前記コンクリート構造物表面の前記目地部から離れた両側にそれぞれ面修正部を2条形成した後、これら2条の面修正部上に、前記目地部を跨って前記碇着部を配置して締め付けて固定するようにしたので、2条の面修正部の目地側の端部は、目地部と間隔を隔てた状態となり、面修正部を2条に分割して形成することで角隅部の欠け落ちを防止することができ、伸縮継手の固定に必要な面修正部を確実かつ簡単に形成することができ、廃棄物の発生を抑えることができるとともに、伸縮継手の碇着部を確実に固定することができる。
【0024】
また、この発明の請求項6記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法によれば、前記2条の面修正部を、それぞれ2条のカッター加工を行ってその間をハツリ加工して2条の凹溝を形成し、次いで、これら2条の凹溝にセメント系モルタル材を充填して形成するようにしたので、2条の凹溝のための4条のカッター加工により、ハツリ加工によって目地部の角隅部の欠け落ちを確実に防止することができ、簡単に2条の面修正部を形成することができる。
【0025】
さらに、この発明の請求項7記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法によれば、前記面修正部の表面の前記目地部側の端縁部に、止水処理を施すようにしたので、防水シートや止水材を塗布するなどの止水処理により一層確実に止水することができる。
【0026】
また、この発明の請求項8記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法によれば、前記止水処理を、前記面修正部の端縁部と前記目地部の端縁部との間に、V溝を形成して構成したので、V溝によって面修正部と碇着部との間への浸水を防止してV溝に導くことができ、確実に止水することができるとともに、伸縮継手の取付前に予め施工することができる。
【0027】
さらに、この発明の請求項9記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法によれば、前記碇着部の前記面修正部への固定を、前記面修正部にアンカーボルトを植設して行うか、あるいはアンカーボルトに締め付ける固定部材を介して行うようにしたので、アンカーボルトによって直接固定することやアンカーボルトを介して締め付ける固定部材を介して固定することで、確実に伸縮継手を固定することができ、特に固定部材を介して固定する場合には、伸縮継手の碇着部に孔加工をすることなく固定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の一実施の形態にかかる横断面図である。
【図2】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法の一実施の形態にかかる概略工程図である。
【図3】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造およびその固定方法の一実施の形態にかかる止水処理の説明図である。
【図4】この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の他の一実施の形態にかかる横断面図である。
【図5】この発明が適用されるコンクリート構造物の一例に横断面図およびコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の横断面図である。
【図6】従来のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法の概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明を実施するための形態について、図面に基づき詳細に説明する。
このコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造(以下、単に固定構造とする。)10では、例えば図1に示すように、既設のコンクリート構造物11,11の目地部12に跨るように設置することで止水するとともに、目地部12の両側のコンクリート構造体11,11の不等沈下や地震時変位並びに温度変化等に起因する壁部分の伸縮等を許容するゴムや合成樹脂などの可撓性の伸縮継手13の固定のための面修正部14に特徴があり、コンクリート構造体11、11の目地部12側の角隅部11d、11dの欠け落ちを防止して躯体内空面11aに基準面11bとなる面修正部14を形成することで、容易に施工できるようにしたものである。
【0030】
この固定構造10では、伸縮継手13の伸縮部13aの両端部の碇着部13b,13bを取り付けるための面修正部14を、図1および図2に示すように、目地部12を挟む両側に目地部12から離して形成してあり、2条に分割した面修正部14,14が形成してある。
【0031】
これら2条の面修正部14,14はそれぞれの幅方向両縁部に沿ってカッター加工が施されてハツリ深さに対応する切り込み(カッター溝)11c、11cが所定幅(設計面修正幅:伸縮継手の固定に必要な幅)で形成され、合計4条の切り込み11cが形成される(図2(a)参照)。
【0032】
そして、4条の切り込みのうち2条の面修正部14,14に対応するそれぞれ2条の切り込み11c,11cの間がハツリ加工によって2条の凹溝14a,14aが形成される(図2(b)参照)。
【0033】
このようにしてハツリ加工を行うことで、目地部12の角隅部11dの目地部12よりコンクリート構造体11の内側に切り込み11cが形成してあるので、ハツリ加工の力が切り込み11cから目地部12側へは伝達されず、角隅部11dの欠け落ちを防止することができる。
【0034】
こうして目地部12を挟んで間隔をあけて2条の凹溝14a,14aを形成した後、これら凹溝14a,14a内に特殊セメント系モルタルなどセメント系モルタル材を打設充填し、表面を平坦に仕上げる。これにより、2条の面修正部14,14が完成する(図2(c)参照)。
【0035】
コンクリート構造体11,11にそれぞれ面修正部14,14が完成した後、伸縮継手13の固定がこれまでと同様に行われ、たとえば図1に示すように、この面修正部14,14上にポリエステルなどの補強布15を目地部12を跨ぐように敷き、ゴムや合成ゴム等の弾性部材で製作され中間部に折り畳んだ伸縮部13aを備えた伸縮継手13の両端の碇着部13b,13bを配置して保護シート16で覆い、両端部の碇着部13b,13b等を押え板17を介して樹脂アンカー18およびナット18aで固定する。また、目地部12には、必要に応じて目地材19を装着する。
【0036】
なお、この伸縮継手13を固定する場合には、必要に応じて、例えば図1に示すように、碇着部13b、13bと面修正部14,14との間に止水材を介在させる止水処理を施すようにすることもできる。
【0037】
また、止水処理としては、図3に示すように、面修正部14の目地部12側の端縁部とコンクリート構造体11とに跨るように水膨張ゴムやブチルゴムなどの止水材21を取り付けることで、止水性を向上するようにすることもできる。
【0038】
さらに、止水処理としては、図3(b)に示すように、面修正部14の目地部12側の端縁部とコンクリート構造体11との間にV溝22を形成し、浸水をV溝22に導くようにすることで、止水性を向上するようにすることもでき、V溝22による止水処理は、伸縮継手13の取付前に予め施工しておくことができる。
【0039】
この固定構造10に用いられる可撓性の伸縮継手13は、長尺帯状の幅方向中間部に略Ω字状に折り畳んだ折り畳み部13aを備えるとともに、幅方向両端部に平板状の碇着部13bが設けられてゴムや合成樹脂などの弾性部材で構成され、必要に応じて補強部材が一層ないし複数層埋設される。
【0040】
なお、伸縮継手13としては、図1に示したものに限らず、例えば図2(d)に示すように、伸縮部13aの形状が略逆U字状などの異なるものであっても良く、これら図示例のものに限らず、他の形状のものであっても良い。
【0041】
このように構成したコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造10およびその固定方法によれば、コンクリート構造物11,11間の目地部12に跨って可撓性の伸縮継手13を配置して固定するコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造で、伸縮継手13の両端部の碇着部13b,13bが位置するコンクリート構造物11の表面の目地部12から離れた両側に、それぞれ面修正部14,14を2条形成し、これら2条の面修正部14,14上に碇着部13b,13bを配置して目地部12を跨って伸縮継手13を固定したので、2条の面修正部14,14の目地部12側の端部は、目地部12を挟んで間隔を隔てた状態となり、面修正部14,14を2条に分割して形成することで角隅部11d,11dの欠け落ちを防止することができ、伸縮継手13の固定に必要な面修正部14,14を確実かつ簡単に形成することができ、廃棄物の発生を抑えることができる。
【0042】
さらに、このコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造およびその固定方法によれば、前記面修正部と前記碇着部との間に止水処理部を設けて止水処理を行うようにしたので、防水シートや止水材21による止水処理部を設けることで、一層確実に止水することができるとともに止水処理部を、面修正部14,14の端縁部と目地部12の端縁部との間にV溝22で構成することで、V溝22によって面修正部14,14と碇着部13b,13bとの間への浸水を防止してV溝22に導くことができ、確実に止水することができるとともに、V溝22は伸縮継手13の取付前の面修正部の施工時に予め施工することができる。
【0043】
次に、この発明のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造の他の一実施の形態について、図4により説明するが、すでに説明した上記の実施の形態と同一部分には、同一記号を記し、重複する説明は省略する。
【0044】
このコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造 (以下、単に固定構造とする。)30では、伸縮継手13の碇着部13bの面修正部14,14への固定方法が異なるもので、アンカーボルトで直接固定することなく、押え部材31を介して固定部材32で固定することで、アンカーボルト用の孔加工を省略するようにしたものである。
【0045】
この固定構造30では、図4に示すように、伸縮継手13の碇着部13bに当てられる押え部材31が用いられ、上方が開口した略コ字状のリップ溝型形状の横断面形状のもので構成され、例えば溝幅を50mm、溝高さを25mm、厚さを2mm、リップ幅を10mmとする。このリップ溝型形状の横断面形状により、幅50mm、厚さ16.7mmの平板状とする場合に比べ、同一の剛性を確保しながら、重量を1/3.73に軽量化することができる。
【0046】
なお、さらに剛性を上げる必要がある場合には、溝底部上に平板状の板を介在させるようにすれば良い。
【0047】
このような押え部材31を用いる固定構造30では、押え部材31を面修正部14,14に植設したアンカーボルト18およびナット18aで直接コンクリート構造物11、11に固定することなく、伸縮継手13の外側の面修正部14,14に植設するアンカーボルト18およびナット18を介して固定部材32を締め付け、この固定部材32を介して押え部材31を固定する。
【0048】
この固定部材32は、アンカーボルトにて挿通固定される中間板状部32aを備えてアンカーボルト18用の取り付け穴32bが形成され,この中間板状部32aの両側を内側に曲げ起こすように曲げ加工して両側板部32c、32cが形成してある。これら両側板部32cのそれぞれの先端部に押え部材31を押える押えアーム部32dが突き出すように形成されるとともに、両側板部32cのそれぞれの基端部に中間板状部32aと空間を隔てて同一面をなしコンクリート構造物11に当接されるように内側に突き出した弾性当接部32fを一体に形成して構成してある。
【0049】
そして、この固定部材32では、押えアーム部32dの突き出し長さが押え部材31の溝幅に対応する長さとされ、押えアーム部32dの先端部に係止突起部32eが形成してあり、係止突起部32eが押え部材31の外側に位置する状態(押え部材31を乗り越えた状態)で係止できるようにしてある。
【0050】
また、この固定部材32では、中間板状部32aの下面から両側板部32cの押えアーム部32dの下面までの距離(側板部の高さに相当)をアンカーボルト18に締め付けたときに、押え部材31を介して伸縮継手13の碇着部13bをコンクリート構造物11に圧着するのに必要な面圧を発生できるように設定してある。
【0051】
次に、このような固定部材32を用いる伸縮継手13の固定方法は、予め、伸縮継手13、押え部材31および固定部材32を工場で製作するとともに、施工現場では、伸縮継手13の碇着部13b、13bの外側となるコンクリート構造物11、11の面修正部14,14にアンカーボルト18を植設する。
【0052】
この後、まず、コンクリート構造物11,11の2条の面修正部14,14および目地部12に跨るように補強布15を敷き、その上に伸縮継手13を配置し、その外側を保護カバー16で覆って伸縮部材13を設置する。
【0053】
そして、伸縮継手13の碇着部13b、13b上に押え部材31を配置し、押え部材31の両端部など仮固定に必要な位置において、アンカーボルト18を利用して固定部材32を締め付けて押え部材31を介して伸縮継手13を仮固定する。
【0054】
なお、碇着部13b上に押え部材31を配置する場合の連結部では、これまでのアンカーボルトで直接固定する場合のようなボルト穴の位置調整のための隙間(クリアランス)が必要でなく、密着させた状態で押え部材31を配置することができ、特にコーナ部分でも隙間(クリアランス)を設けることなく連結して配置することができ、これによって面圧を均一にして締め付けることができる。
【0055】
こうして仮固定した後、固定部材32の中間板状部32aの取り付け穴32bにアンカーボルト18を挿通してナット18aで仮止めして回転できる状態あるいは移動できる状態とした後、アンカーボルト18を中心に回転したり、移動して固定部材32の先端部の係止突起部32eが押え部材31を乗り越えるようにして押えアーム部32dを押え部材31上に位置させるとともに、基端部の弾性当接部32fをコンクリート構造物11に当接させる。
【0056】
この後、ナット18aをアンカーボルト18に締め付けることで固定部材32を締め付けて押え部材31を介して伸縮継手13の碇着部13bをコンクリート構造物11の面修正部14,14に圧着する。
【0057】
なお、アンカーボルト18としては、例えばケミカルアンカーが用いられ、ステンレス製のM16のボルトが使用される。
【0058】
このようなアンカーボルト18への固定部材32の仮固定、固定部材32の回転または移動、固定部材32の締め付け作業を繰り返すことで伸縮継手13の固定が完了する。
【0059】
この固定構造30での固定部材32による締付け状態では、固定部材32の中間板状部32aに加えられた締付け力が、両側板部32cの押えアーム部32dの2箇所と弾性当接部32fの2箇所の合計4箇所に分散されて加わることになり、これまでのアンカーボルトに直接固定する場合などに比べ締付け面圧を均一にすることができる。これにより、アンカーボルト18のボルトピッチを大きくすることもでき、工数削減を図ることができる。
【0060】
また、この固定構造30では、締付け力によって、固定部材32の両側板部32cが外側に広がるように弾性変形するとともに、弾性当接部32fが弾性変形することおよび締付け力によって押え部材31の両側部が倒れるように弾性変形した状態で固定されるので、コンクリート構造物11に変位が生じた場合でもこれらの弾性変形によるばね効果によって締付面圧の低下を低減して固定状態を保持することができる。
【0061】
さらに、この固定構造30では、伸縮継手13の碇着部13bを直接アンカーボルトで固定する場合に比べ、アンカーボルト18での締め付けは固定部材32の中間板状部の厚さだけとなって伸縮継手13の厚さ分だけ締付高さを低くすることができ、コンクリート構造物11の内部空間への影響を抑えることができる。
【0062】
また、固定部材32の押えアーム部32dの係止突起部32eによって、例えコンクリート構造物11に変位が生じても固定部材32の押えアーム部32dが外れ難く、抜け防止効果を増大することができる。
【0063】
このような固定構造30およびその固定方法によれば、これまでのアンカーボルトの位置が決まってからボルトピッチを測定し、これに基づいて可撓性の伸縮継手、押え部材、保護カバーなどの孔加工をする必要がなく、アンカーボルト18の設置と並行して可撓性の伸縮継手13、押え部材31、固定部材32の製作を行うことができ、固定構造30の施工を短期間に完了することができる。
【符号の説明】
【0064】
10 コンクリート構造物用伸縮継手の固定構造
11 コンクリート構造物
11a 躯体内空面
11b 基準面
11c 切り込み
11d 角隅部
12 目地部
13 可撓性の伸縮継手
13a 伸縮部
13b 碇着部
14 面修正部
14a 凹溝
15 補強布
16 保護カバー
17 押え部材
18 アンカーボルト
18a ナット
19 目地材
21 止水材(止水処理)
22 V溝(止水処理)
30 コンクリート構造物用伸縮継手の固定構造
31 押え部材
32 固定部材
32a 中間板状部
32b 取り付け穴
32c 両側板部
32d 押えアーム部
32e 係止突起部
32f 弾性当接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート構造物間の目地部に跨って可撓性の伸縮継手を配置して固定するコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造であって、
前記伸縮継手の両端部の碇着部が位置する前記コンクリート構造物表面の前記目地部から離れた両側に、それぞれ面修正部を2条形成し、これら2条の面修正部上に前記碇着部を配置して前記目地部を跨って前記伸縮継手を固定してなることを特徴とするコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項2】
前記碇着部の前記面修正部への固定を、アンカーボルトで直接固定しまたはアンカーボルトを介して締め付けられる固定部材を介して固定してなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項3】
前記面修正部と前記碇着部との間に止水処理部を設けて構成したことを特徴とする請求項1または2記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項4】
前記止水処理を、前記面修正部の端縁部と前記目地部の端縁部との間に、V溝を形成して構成したことを特徴とする請求項3記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定構造。
【請求項5】
コンクリート構造物間の目地部に跨って配置される可撓性の伸縮継手をコンクリート構造物に固定するに際し、
前記伸縮継手の両端部の碇着部が位置する前記コンクリート構造物表面の前記目地部から離れた両側にそれぞれ面修正部を2条形成した後、
これら2条の面修正部上に、前記目地部を跨って前記碇着部を配置して締め付けて固定するようにしたことを特徴とするコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法。
【請求項6】
前記2条の面修正部を、それぞれ2条のカッター加工を行ってその間をハツリ加工して2条の凹溝を形成し、次いで、これら2条の凹溝にセメント系モルタル材を充填して形成するようにしたことを特徴とする請求項5記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法。
【請求項7】
前記面修正部の表面の前記目地部側の端縁部に、止水処理を施すようにしたことを特徴とする請求項5または6記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法。
【請求項8】
前記止水処理を、前記面修正部の端縁部と前記目地部の端縁部との間に、V溝を形成して構成したことを特徴とする請求項7記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法。
【請求項9】
前記碇着部の前記面修正部への固定を、前記面修正部にアンカーボルトを植設して行うか、あるいはアンカーボルトに締め付ける固定部材を介して行うようにしたことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のコンクリート構造物用伸縮継手の固定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−99233(P2011−99233A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−253886(P2009−253886)
【出願日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【出願人】(000196624)西武ポリマ化成株式会社 (60)
【Fターム(参考)】