説明

コンプレッサ、真空ポンプ、圧縮・真空複合機、及び酸素濃縮器

【課題】 パッキンの摩耗によるコンプレッサ等の機器の性能の低下を防止し、長寿命のコンプレッサ、真空ポンプ、圧縮・真空複合機、及び酸素濃縮器を提供すること。
【解決手段】 シリンダ133、135の内周面、即ちカップパッキン71、73が摺動する内周面には、摺動抵抗を低減するように、ダイアモンドライクカーボン(DLC)コーティングが施されて、保護膜(DLCコーティング膜)133aが形成されている。また、カップパッキン71、73の表面、特にシリンダ133、135の内周面と接触する部分には、同様に、DLCコーティングが施されて、保護膜(DLCコーティング膜)71aが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば酸素より窒素を優先的に吸着する吸着剤を用い、圧力変動吸着法等により高濃度の酸素を患者等に供給する酸素濃縮器、及びその酸素濃縮器などに用いることができるコンプレッサ、真空ポンプ、圧縮・真空複合機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば呼吸器疾患の患者等に、高濃度の酸素を供給することができる装置として、医療用の酸素濃縮器が、在宅酸素療法などに使用されている。
この種の酸素濃縮器としては、酸素富化膜を用いた膜型酸素濃縮器や、窒素を選択吸着して得られる吸着型酸素濃縮器などがあり、吸着型酸素濃縮器としては、コンプレッサを用いた圧力変動吸着型の酸素濃縮器が知られている。
【0003】
この圧力変動吸着型酸素濃縮器では、酸素より窒素を優先的に吸着する吸着剤を充填した吸着筒を用いて、酸素濃縮を行っている。具体的には、コンプレッサによって吸着筒に空気を供給して筒内を加圧状態にすることにより、空気中の窒素を吸着剤に吸着させ、酸素を濃縮して取り出す吸着行程と、吸着筒を大気開放して減圧することにより、吸着剤から吸着窒素を脱離させて吸着剤を再生する脱着工程(再生行程:排気行程)とを、交互又は順次繰り返し、連続的に酸素濃縮ガスを生成している。
【0004】
上述した圧力変動吸着型酸素濃縮器のコンプレッサには、例えばインダクション(誘導)モータが使用されており、このモータの両軸には、シリンダとピストンが設けられている。また、通常、ピストンの表面は硬質アルマイト処理されている(参考文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−211708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したコンプレッサには、シリンダとピストンとの間に、シール材として例えば樹脂製のカップパッキンが使用されているが、コンプレッサを長期間使用すると、カップパッキンが摩耗するので、エア漏れが生じ、コンプレッサの性能(排気流量)が低下してしまう。そのため、酸素濃縮器の発生酸素濃度が低下するので、酸素濃縮器の寿命が低下するという問題があった。
【0006】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、パッキンの摩耗によるコンプレッサ等の機器の性能の低下を防止し、長寿命のコンプレッサ、真空ポンプ、圧縮・真空複合機、及び酸素濃縮器を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)請求項1の発明は、シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンと、を備えたコンプレッサにおいて、(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであること、(B)前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、(C)前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする。
【0008】
本発明では、パッキンの表面やシリンダの少なくとも内周面に、上述した(A)〜(C)のいずれか1種の様な摩擦を低減する処理がされているので、コンプレッサを長期間使用した場合でも、パッキンが摩耗しにくい。よって、エア漏れが生じにくいので、コンプレッサの性能(排気流量)の低下を抑制できる。そのため、このコンプレッサを酸素濃縮器に使用した場合には、発生酸素濃度が低下しにくいので、酸素濃縮器の寿命が向上するという効果がある。
【0009】
ここで、DLCコーティングとは、ダイヤモンドライクコーティングのことである(以下同様)。
なお、硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングする技術としては、タフラム処理(登録商標)を採用できる。また、フッ素樹脂としては、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のテフロン(登録商標)が挙げられる(以下同様)。
【0010】
(2)請求項2の発明は、シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンと、を備えたコンプレッサにおいて、(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、(B)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする。
【0011】
本発明では、パッキンの表面やシリンダの少なくとも内周面に、上述した(A)又は(B)の様な摩擦を低減する処理がされているので、コンプレッサを長期間使用した場合でも、一層パッキンが摩耗しにくい。よって、エア漏れが生じにくいので、コンプレッサの性能(排気流量)の低下を抑制できる。そのため、このコンプレッサを酸素濃縮器に使用した場合には、発生酸素濃度が低下しにくいので、酸素濃縮器の寿命が向上するという効果がある。
【0012】
(3)請求項3の発明は、前記パッキンが、カップパッキンであることを特徴とする。
本発明は、パッキンを例示したものである。このカップパッキンとは、外周側が一方の側に皿状に湾曲したパッキンである(以下同様)。
【0013】
(4)請求項4の発明は、前記パッキンが、樹脂製であることを特徴とする。
本発明は、パッキンの材質を例示したものである。この樹脂としては、例えば柔軟性を有するフッ素樹脂、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のテフロン(登録商標)が挙げられる(以下同様)。
【0014】
(5)請求項5の発明は、前記コンプレッサが、酸素濃縮器用であることを特徴とする。
本発明は、コンプレッサの用途を例示したものである。このコンプレッサにより、吸着剤を充填した吸着筒内の空気を圧縮することが可能である。
【0015】
(6)請求項6の発明は、シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンと、を備えた真空ポンプにおいて、(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであること、(B)前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、(C)前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする。
【0016】
本発明では、パッキンの表面やシリンダの少なくとも内周面に、上述した(A)〜(C)のいずれか1種の様な摩擦を低減する処理がされているので、真空ポンプを長期間使用した場合でも、パッキンが摩耗しにくい。よって、エア漏れが生じにくいので、真空ポンプの性能(排気流量)の低下を抑制できる。そのため、この真空ポンプを酸素濃縮器に使用した場合には、発生酸素濃度が低下しにくいので、酸素濃縮器の寿命が向上するという効果がある。
【0017】
(7)請求項7の発明は、シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、前記ピストンと前記シリンダとの間をシールするパッキンと、を備えた真空ポンプにおいて、(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、(B)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであることのいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする。
【0018】
本発明では、パッキンの表面やシリンダの少なくとも内周面に、上述した(A)又は(B)の様な摩擦を低減する処理がされているので、真空ポンプを長期間使用した場合でも、一層パッキンが摩耗しにくい。よって、エア漏れが生じにくいので、真空ポンプの性能(排気流量)の低下を抑制できる。そのため、この真空ポンプを酸素濃縮器に使用した場合には、発生酸素濃度が低下しにくいので、酸素濃縮器の寿命が向上するという効果がある。
【0019】
(8)請求項8の発明は、前記パッキンが、カップパッキンであることを特徴とする。
本発明は、パッキンを例示したものである。
(9)請求項9の発明は、前記パッキンが、樹脂製であることを特徴とする。
【0020】
本発明は、パッキンの材質を例示したものである。
(10)請求項10の発明は、前記真空ポンプが、酸素濃縮器用であることを特徴とする。
【0021】
本発明は、真空ポンプの用途を例示したものである。この真空ポンプにより、酸素富化膜を減圧することが可能である。
(11)請求項11の発明は、シリンダを備えピストンを収容するヘッド、及び前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンを有するコンプレッサと、同様に、前記シリンダ、ピストン、ヘッド、及びパッキンを有する真空ポンプと、
を備えた圧縮・真空複合機において、(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであること、(B)前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、(C)前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明は、コンプレッサにより空気を圧縮する機能と真空ポンプにより減圧する機能を備えた圧縮・真空複合機に関するものであり、コンプレッサ用のシリンダと真空ポンプ用のシリンダのように、それぞれの機能に対応した2以上のシリンダ及びピストンを備えている。
【0023】
本発明では、パッキンの表面やシリンダの少なくとも内周面に、上述した(A)〜(C)のいずれか1種の様な摩擦を低減する処理がされているので、圧縮・真空複合機を長期間使用した場合でも、パッキンが摩耗しにくい。よって、エア漏れが生じにくいので、圧縮・真空複合機の性能(排気流量)の低下を抑制できる。そのため、この圧縮・真空複合機を酸素濃縮器に使用した場合には、発生酸素濃度が低下しにくいので、酸素濃縮器の寿命が向上するという効果がある。
【0024】
(12)請求項12の発明は、シリンダを備えピストンを収容するヘッド、及び前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンを有するコンプレッサと、同様に、前記シリンダ、ピストン、ヘッド、及びパッキンを有する真空ポンプと、
を備えた圧縮・真空複合機において、(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、(B)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする。
【0025】
本発明では、パッキンの表面やシリンダの少なくとも内周面に、上述した(A)又は(B)の様な摩擦を低減する処理がされているので、圧縮・真空複合機を長期間使用した場合でも、一層パッキンが摩耗しにくい。よって、エア漏れが生じにくいので、圧縮・真空複合機の性能(排気流量)の低下を抑制できる。そのため、この圧縮・真空複合機を酸素濃縮器に使用した場合には、発生酸素濃度が低下しにくいので、酸素濃縮器の寿命が向上するという効果がある。
【0026】
(13)請求項13の発明は、前記パッキンが、カップパッキンであることを特徴とする。
本発明は、パッキンを例示したものである。
【0027】
(14)請求項14の発明は、前記パッキンが、樹脂製であることを特徴とする。
本発明は、パッキンの材質を例示したものである。
(15)請求項15の発明は、前記圧縮・真空複合機が、酸素濃縮器用であることを特徴とする。
【0028】
本発明は、圧縮・真空複合機の用途を例示したものである。ここでは、コンプレッサにより、吸着剤を充填した吸着筒内の空気を圧縮することが可能であり、また、真空ポンプにより、吸着筒内を減圧することが可能である。
【0029】
(16)請求項16の発明(酸素濃縮器)は、前記請求項1〜5のいずれかに記載のコンプレッサ、前記請求項6〜10のいずれかに記載の真空ポンプ、前記請求項11〜15のいずれかに記載の圧縮・真空複合機のうち、1種以上を備えたことを特徴とする。
【0030】
本発明の酸素濃縮器では、上述した構成のコンプレッサ、真空ポンプ、及び圧縮・真空複合機の3種類の機器のうち、1種類の機器を使用するか又は2種類以上の機器を組み合わせて使用する。よって、生成する酸素濃度の低下を防止でき、酸素濃縮器の寿命を伸ばすことができる。ここで、上述した機器を使用する場合には、それぞれの種類の機器を1台又は複数台使用することができる。
【0031】
尚、上述した酸素濃縮器としては、例えば酸素より窒素を優先的に吸着する吸着剤を充填した少なくとも1個の吸着筒と、吸着筒に空気を圧縮して供給する空気供給手段と、吸着筒内の圧力の加減圧を制御する加減圧切換手段と、を備え、空気から酸素濃縮ガスを生成する圧力変動吸着型の酸素濃縮器を採用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、本発明の最良の形態の例(実施例)について説明する。
【実施例1】
【0033】
本実施例では、コンプレッサを利用し、空気中から、例えば窒素吸着剤としてゼオライト(以下吸着剤と記す)を用いて窒素を吸着して除去することにより、酸素を濃縮し、この高濃度の酸素を含む製品ガス(以下酸素濃縮ガスと記す)を、患者に対して供給する圧力変動吸着型の医療用酸素濃縮器(以下酸素濃縮器と記す)を例に挙げる。
【0034】
a)まず、本実施例の酸素濃縮器の構成について説明する。
本実施例の酸素濃縮器は、略直方体の筐体内に、以下に示す様な酸素濃縮のための各構成が配置されている。
【0035】
具体的には、図1に示す様に、酸素濃縮器1には、空気を外部から導入する酸素取入口11から、空気の流路に沿って、上流側より、防塵フィルタ13と、防塵フィルタより目の細かい吸気フィルタ15と、空気の圧縮を行うコンプレッサ17とを備えており、コンプレッサ17の近傍にはコンプレッサ17を冷却する一対の冷却ファン19、21が配置されている。
【0036】
前記コンプレッサ17の下流には、吸着筒27、29に加圧空気を供給する第1供給弁23及び第2供給弁25と、吸着剤を充填した一対の吸着筒(第1吸着筒27、第2吸着筒29)とが設けられている。また、各供給弁23、25と各吸着筒27、29との間の流路31、33から分離した流路(分岐流路35、37)には、吸着筒27、29から排気を行う第1排気弁39及び第2排気弁41が設けられ、窒素を排気する排気路43に接続されている。尚、排気路43にはサイレンサ45が設けられている。
【0037】
更に、前記一対の吸着筒27、29の下流側には、両吸着筒27、29間を連通する連通路47と、連通路47に設けられて両吸着筒27、29間の圧力を調節する二方弁(パージ弁)49と、その両端に設けられた径が同一のオリフィス51、53と、酸素濃縮ガスの逆流を防止する一対の逆止弁55、57とが設けられている。また、それらの流路が合流する下流側には、酸素濃縮ガスを溜める製品タンク59と、酸素濃縮ガスの圧力を調節する圧力調整器(レギュレータ)61と、酸素濃縮ガスの流量を設定する流量設定器63とが設けられ、加湿器64を介して酸素濃縮ガスを外部に供給する酸素出口65に接続されている。
【0038】
なお、コンプレッサ17や冷却ファン19、21などは、防音のために、板金室67内に収容されている。
b)次に、本実施例の要部であるコンプレッサ17の構成について説明する。
【0039】
図2に示す様に、このコンプレッサ17は、左右一対の圧縮室141、143により、それぞれ空気を圧縮する装置である。以下詳細に説明する。
コンプレッサ17は、側面から見て略T字状であり、下部には、コンプレッサ17を駆動するモータ(DCブラシレスモータ)113と、そのモータ113等を収容するハウジング115を備えており、上部の中央には、モータ113の駆動軸(回転軸)117や偏芯軸(カム)119や左右のコネロッド121、123等の(ピストン125、127を駆動するための)駆動機構129と、その駆動機構129等を収容するケーシング131を備えている。
【0040】
また、ケーシング131の左右には、それぞれヘッド83、85を備えており、各ヘッド83、85は、ピストン125、127と、ピストン125、127が摺動するシリンダ133、135とを備えている。なお、シリンダ133、135とピストン125、127とに囲まれることにより、圧縮室141、143が形成されている。
【0041】
このコンプレッサ17では、モータ113の駆動軸117は垂直であり、駆動軸117と直交する様に(即ち水平に)コネロッド121、123等が配置されている。尚、左右のピストン125、127は、一方が空気を圧縮する場合には他方が排気を行うように移動する。即ち、一方のピストン125が例えば左方向移動する場合には、他方のピストン127も同じ方向に移動する。
【0042】
更に、本実施例では、コンプレッサ17の外壁を構成するモータ113のハウジング115と、駆動機構129のケーシング131と、シリンダ133、135及びヘッドカバー137、139を有するヘッド83、85とは、アルミダイキャスト製で、一体に組み付けられている。尚、モータ113のハウジング115とケーシング131とは、上下方向に配置されたボルト(図示せず)等により一体に固定されている。
【0043】
このうち、前記モータ113は、駆動軸117と、駆動軸117を支持するベアリング161、163と、ロータ165と、ステータ(電機子)167等を備えており、円筒状のハウジング115内に配置されている。尚、駆動軸117の上端は、ケーシング131のベアリング169により支持されている。
【0044】
また、モータ113の駆動軸117の上部には、偏芯軸119が外嵌されており、その偏芯軸119には、下方より、バランサ177、右側コネロッド123、左側コネロッド121、バランサ179が外嵌されている。尚、バランサ179とベアリング169との間にはスペーサ181が外嵌されている。
【0045】
更に、図3に示す様に、左右のヘッド83、85の先端部(ヘッドカバー)137、139には、圧縮室141、143に連通する各一対の吸気孔145、147及び排気孔149、151が設けられている。このうち、第1、第2吸気孔145、147は、それぞれコンプレッサ17に空気を供給するために、分岐空気配管(図示せず)に接続され、第1、第2排気孔149、151は、それぞれ吸着筒27、29に圧縮空気を供給するために、他の分岐空気配管(図示せず)に接続されている。
【0046】
また、図4に(一方のヘッド83側を)示す様に、ヘッド83、85は、円筒状のシリンダ133、135の先端側を円盤状のシリンダカバー137、139で覆ったものであり、シリンダ133、135のケーシング131側の先端には、外周方向に垂直伸びるフランジ状の脚部183、185が全円周に沿って設けられている。また、ヘッド83、85とケーシング131は、左右方向に配置されたボルト(図示せず)等により一体に固定されている。
【0047】
そして、前記各ピストン125、127の先端面には、皿状のカップパッキン71、73が、開口側(凹部側)をヘッドカバー137、139側にして配置されている。このカップパッキン71、73は、フッ素樹脂製(例えばテフロン(登録商標)製)である。
【0048】
特に本実施例では、図5に模式的示す様に、前記シリンダ133、135の内周面、即ちカップパッキン71、73が摺動する内周面には、摺動抵抗を低減するように、ダイアモンドライクカーボン(DLC)コーティングが施されて、保護膜(DLCコーティング膜)133aが形成されている。
【0049】
また、カップパッキン71、73の表面、特にシリンダ133、135の内周面と接触する部分には、同様に、DLCコーティングが施されて、保護膜(DLCコーティング膜)71aが形成されている。
【0050】
c)次に、DLCコーティングの処理方法について簡単に説明する。
カップパッキン71、73の表面やシリンダ133、135の内周面にDLCコーティングを施す方法としては、周知の処理方法を採用できる。
【0051】
例えば(アルミニウム合金からなる)シリンダ133、135の内周面に対するDLCコーティング方法としては、プラズマCVD法、イオンビーム蒸着法、陰極アーク蒸着法、UBMスパッタ法など、各種の方法を採用できる。
【0052】
また、フッ素樹脂材料からなるカップパッキン71、73の表面に対するDLCコーティング方法としては、下記の方法を採用できる。
まず、プラズマを利用し、活性が高くエッチング効果のある水素ラジカルで、基材表面を暴露する。これにより、基材表面に存在する炭素のフリーボンドが確保され、この部分が水素と結合する。
【0053】
次に、基材表面をメチル基で暴露することにより、表面の水素がメチル基と反応し、メタンとなって離脱する。そして、基材表面のフリーボンドにメチル基が反応し、この繰り返しでDLCコーティング膜71aが形成される。
【0054】
d)次に、本実施例の酸素濃縮器1の基本動作について説明する。
本実施例の酸素濃縮器1では、基本的に、第1吸着筒27及び第2吸着筒29における加圧・減圧を交互に繰り返すことにより、酸素の濃縮及び吸着剤の再生を行う。
【0055】
例えば第1吸着筒27に関しては、第1供給弁23を開くとともに第1排気弁39を閉じ、コンプレッサ17により第1吸着筒27に圧縮空気を送りこみ、吸着剤に窒素を吸着させて酸素を濃縮する(吸着工程)。一方、第2吸着筒29に関しては、第2供給弁25を閉じるとともに第2排気弁41を開き、第2吸着筒27を大気側に接続し、吸着剤に吸着した窒素が減圧とともに排出されるようにする(再生工程)。
【0056】
そして、この吸着工程と再生工程とを、各両吸着筒27、29において、所定時間毎に交互に切り換えるようにする。
この様にして、第1、第2吸着筒27、29により、加圧時には酸素だけを抽出し、その酸素濃縮ガスを、下流の製品タンク59、圧力調整器61、流量設定器63、加湿器7、酸素出口65を介して、外部(従って患者)に供給する。
【0057】
e)次に、本実施例の酸素濃縮器1の効果について説明する。
本実施例の酸素濃縮器1に用いられるコンプレッサ17は、シール材であるカップパッキン71、73の表面及びシリンダ133、135の内周面にDLCコーティングが施されているので、コンプレッサ17を長期間使用した場合でも、カップパッキン71、73が摩耗しにくい。よって、コンプレッサ17のエア漏れが生じにくく、コンプレッサ17の性能(排気流量)の低下を抑制できるという効果がある。それによって、酸素濃縮器1の発生酸素濃度が低下しにくいので、酸素濃縮器1の寿命が向上するという顕著な効果を奏する。
【0058】
なお、本実施例では、シリンダ133、135の内周面とカップパッキン71、73の表面にDLCコーティングを施したが、どちらか一方のみにDLCコーティングを施しても効果はある。
【0059】
また、本実施例では、シリンダ133、135の内周面にDLCコーティングを施したが、タフラム処理(登録商標)を行ってもよい。このタフラム処理とは、アルミニウム合金の基材の表面に硬質アルマイト処理を行うとともに、硬質アルマイト処理によって生ずる表面の空孔にフッ素樹脂(例えばPTFEによるテフロン(登録商標))を含浸させる処理である。
【0060】
なお、シリンダ133、135の材質としては、アルミニウム又はアルミニウム合金を採用できるが、それ以外の材料としてステンレス等を採用してもよい。
【実施例2】
【0061】
次に、実施例2について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、板金室内に配置される圧縮・真空複合機と、その空気配管などの構成が、前記実施例1と大きく異なる。なお、前記実施例1と同じ構成には同じ図番を付した。
【0062】
図6に示す様に、本実施例の酸素濃縮器1では、吸着筒内の加圧及び減圧を行うために、圧縮・真空複合機205を用いる。この圧縮・真空複合機205は、左右一対のヘッド83、85を備えており、各ヘッド83、85は、それぞれコンプレッサ201及び真空ポンプ203として機能する構成を備えている。
【0063】
前記圧縮・真空複合機205のコンプレッサ201の吐出側は、第1吸着筒27及び第2吸着筒29に圧縮空気を送るために、第1供給弁23及び第2供給弁25に接続されており、真空ポンプ203の吸入側は 第1吸着筒27及び第2吸着筒29の減圧を行うために、第1排気弁39及び第2排気弁41に接続されている。
【0064】
従って、例えば第1吸着筒27に圧縮空気を送る場合には、第1排気弁39を閉じて第1供給弁23を開き、逆に、例えば第1吸着筒27内を減圧する場合には、第1供給弁23を閉じて第1排気弁39を開く。
【0065】
この動作を各吸着筒27、29毎に実施することにより、各吸着筒27、29内の減圧を(前記実施例1より)好適に行うことができるので、吸着剤の再生を一層好適に行うことができる。つまり、高い脱着性能(吸着剤から窒素や水分を除去する能力)を発揮することができる。
【0066】
特に本実施例では、コンプレッサ201は、前記実施例1と同様なシリンダ215、ピストン212、及びカップパッキン207を備えたものであるが、真空ポンプ203の構造が多少異なる。
【0067】
具体的には、図7に示す様に、コンプレッサ201では、カップパッキン207の外周部分は、同図の左側(ヘッドカバー209側)に湾曲しているが、真空ポンプ203では、カップパッキン211の外周部分は、同図の左側(ピストン213側)に湾曲している。
【0068】
また、本実施例では、前記実施例1と同様に、カップパッキン207、211の表面及びシリンダ215、217の内周面にDLCコーティングが施されているので、前記実施例1と同様な効果を奏する。
【0069】
なお、上述した様に、シリンダ215、217の内周面とカップパッキン207、211のどちらか一方のみにDLCコーティングを施しても効果はある。また、シリンダ215、217に、タフラム処理(登録商標)を行ってもよい。
【実施例3】
【0070】
次に、実施例3について説明するが、前記実施例1と同様な内容の説明は簡略化する。
本実施例では、2組のシリンダ及びピストンが共に真空ポンプとして機能する例を挙げる。
【0071】
図8に示す様に、本実施例の酸素濃縮器300では、ファン301により、高分子材料からなる酸素富化膜ユニット303に空気が供給される。
真空ポンプ305によって酸素富化膜ユニット303の片側を減圧することにより、周囲の空気から酸素が濃縮されて酸素濃縮ガス(酸素富化空気)が生成され、熱交換器307及びドレイン309に送られ、排出される。
【0072】
本実施例においても、前記図7(b)に記載された様なカップパッキンが使用され、そのカップパッキンの表面やシリンダの内周面に、同様なDLCコーティングが施されているので、前記実施例と同様な効果を奏する。
【0073】
尚、本発明は前記実施例になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
(1)例えばシリンダにおいて、DLCコーティングされている箇所は、少なくとも内周面であることが必要であるが、他の箇所にもDLCコーティングが施されていてもよい。
【0074】
(2)また、本発明は、ピストンが水平に移動するコンプレッサ以外に、モータの駆動軸が水平に配置され、コネロッドが垂直に配置され、ピストンが垂直に移動するコンプレッサや真空ポンプなどにも適用できる。
【0075】
(3)更に、例えば一対のピストンがある場合、一対のピストンが同方向に移動するもの、或いは反対方向に移動するコンプレッサや真空ポンプを用いることができる。
(4)また、コンプレッサ、真空ポンプ、及び圧縮・真空複合機の3種類の機器は、1種類のみを使用したり、又は2種類以上の機器を組み合わせて使用することができる。更に、上述した機器を使用する場合には、それぞれの種類の機器を1台又は複数台使用することができる。例えば酸素濃縮器本体(親機)と、その酸素濃縮器本体に着脱自在な携帯型の酸素濃縮器(子機)とを備えた構成の場合には、親機側にコンプレッサ等を備えて酸素濃縮を可能とするとともに、子機側にもコンプレッサ等を備えて酸素濃縮を可能としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例1の酸素濃縮器の基本構成を示す説明図である。
【図2】酸素濃縮器に用いられるコンプレッサの断面(図3のA−A断面)を示す説明図である。
【図3】酸素濃縮器に用いられるコンプレッサを示す上面図である。
【図4】コンプレッサのヘッド部分を拡大し破断して示す説明図である。
【図5】カップパッキンの摺動部分を更に拡大して示す説明図である。
【図6】実施例2の酸素濃縮器の基本構成を示す説明図である。
【図7】(a)は圧縮・真空複合機のコンプレッサ側を示す説明図、(b)は圧縮・真空複合機の真空ポンプ側を示す説明図である。
【図8】実施例3の酸素濃縮器の基本構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0077】
1、300…酸素濃縮器
17、201…コンプレッサ
27、29…吸着筒
71、73、207、211…カップパッキン
83、85…ヘッド
113…モータ
125、127、212、213…ピストン
133、135、215、217…シリンダ
203、305…真空ポンプ
205…圧縮・真空複合機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、
前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンと、
を備えたコンプレッサにおいて、
(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであること、
(B)前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、
(C)前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも 内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたもの であること、
のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とするコンプレッサ。
【請求項2】
シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、
前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンと、
を備えたコンプレッサにおいて、
(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリン ダの少なくとも内周面DLCコーティングされたものであること、
(B)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリン ダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬 質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、
のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とするコンプレッサ。
【請求項3】
前記パッキンが、カップパッキンであることを特徴とする請求項1又は2に記載のコンプレッサ。
【請求項4】
前記パッキンが、樹脂製であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のコンプレッサ。
【請求項5】
前記コンプレッサが、酸素濃縮器用であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のコンプレッサ。
【請求項6】
シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、
前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンと、
を備えた真空ポンプにおいて、
(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであること、
(B)前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、
(C)前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも 内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたもの であること、
のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項7】
シリンダを備えピストンを収容するヘッドと、
前記ピストンと前記シリンダとの間をシールするパッキンと、
を備えた真空ポンプにおいて、
(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリン ダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、
(B)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリン ダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬 質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、
のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする真空ポンプ。
【請求項8】
前記パッキンが、カップパッキンであることを特徴とする請求項6又は7に記載の真空ポンプ。
【請求項9】
前記パッキンが、樹脂製であることを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項10】
前記真空ポンプが、酸素濃縮器用であることを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の真空ポンプ。
【請求項11】
シリンダを備えピストンを収容するヘッド、及び前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンを有するコンプレッサと、
同様に、前記シリンダ、ピストン、ヘッド、及びパッキンを有する真空ポンプと、
を備えた圧縮・真空複合機において、
(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであること、
(B)前記シリンダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、
(C)前記シリンダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも 内周面が硬質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたもの であること、
のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする圧縮・真空複合機。
【請求項12】
シリンダを備えピストンを収容するヘッド、及び前記ピストンとともに摺動して前記シリンダとの間をシールするパッキンを有するコンプレッサと、
同様に、前記シリンダ、ピストン、ヘッド、及びパッキンを有する真空ポンプと、
を備えた圧縮・真空複合機において、
(A)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリン ダの少なくとも内周面がDLCコーティングされたものであること、
(B)前記パッキンの表面がDLCコーティングされたものであり、且つ、前記シリン ダがアルミニウム又はアルミニウム合金である場合にその少なくとも内周面が硬 質アルマイト処理されるとともにフッ素樹脂コーティングされたものであること、
のいずれか1種の構成を備えていることを特徴とする圧縮・真空複合機。
【請求項13】
前記パッキンが、カップパッキンであることを特徴とする請求項11又は12に記載の圧縮・真空複合機。
【請求項14】
前記パッキンが、樹脂製であることを特徴とする請求項11〜13のいずれかに記載の圧縮・真空複合機。
【請求項15】
前記圧縮・真空複合機が、酸素濃縮器用であることを特徴とする請求項11〜14のいずれかに記載の圧縮・真空複合機。
【請求項16】
前記請求項1〜5のいずれかに記載のコンプレッサ、前記請求項6〜10のいずれかに記載の真空ポンプ、前記請求項11〜15のいずれかに記載の圧縮・真空複合機のうち、1種以上を備えたことを特徴とする酸素濃縮器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−144714(P2008−144714A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−334874(P2006−334874)
【出願日】平成18年12月12日(2006.12.12)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】