説明

コーティングが施された触媒担体

【課題】プロピレンとアクロレインを高い収率で長期間にわたってアクロレインとアクリル酸にそれぞれ部分酸化する触媒担体を提供すること。
【解決手段】コーティング(3)が接着された表面(2)を有する触媒担体(1)であって、コーティング(3)が、総亀裂長さが少なくとも500m/mとなる長さ(5)を有する複数の亀裂(4)を有すると共に、少なくとも500N/mの接着引張強度を有する触媒担体(1)、触媒担体のためのコーティングの製造方法、少なくとも1つの二重結合と酸素を含む有機分子の製造方法、吸水性ポリマーの製造方法、吸水性衛生用品の製造方法、化学製品、(メタ)アクリル酸の化学製品における使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングが設けられた表面を有する触媒担体に関する。そのような触媒担体は、例えば、プロピレンとアクロレインの部分酸化によってアクロレインとアクリル酸をそれぞれ生成する際における反応物質の触媒反応に有用である。また、本発明は、触媒担体のためのコーティングの製造方法、少なくとも1つの二重結合と酸素を含む有機分子の製造方法、吸水性ポリマーの製造方法、吸水性衛生用品の製造方法、化学製品、(メタ)アクリル酸の化学製品における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒吸熱/発熱反応を行うための様々な反応器が知られている。工業規模での触媒法では、流動触媒粒子(流動材料)が配置された反応室内を反応物質が通過する。反応物質は、反応を促進する触媒と接触する。そのような反応では、(比較的低い温度領域だが)一定の温度領域でなければ高い転化率を達成することができない場合が多いため、できるだけ長い時間にわたって温度を正確に維持することが特に重要である。特に、発熱を伴う化学反応の場合には、化学反応が非制御下で進行することを防止するために熱を十分に消散させることが重要である。発熱反応の場合に熱の消散が不十分であったり、吸熱反応の場合に熱の供給が不十分であると、反応器内の温度分布が不均一になる。触媒法では異なる温度で異なる反応が発生する場合が非常に多いため、上述したように温度分布が不均一な場合には、選択性が損なわれ、望ましくない副生成物が生じることになる。従って、可能な限り均一な温度分布が望ましく、等温反応が理想である。その結果、反応を正確に制御することができ、副生成物の生成を抑制することができる。反応効率を数%向上させるだけで、反応器を使用する工業規模の生産ではかなりの経済的利点が得られる。
【0003】
上述した反応器の場合には、金属板からなる冷却仕切板を使用することが知られており、金属仕切板には、冷却を目的として、冷却媒体を支持・伝達するための流路としての空洞または隙間が設けられる。触媒粒子は2枚の仕切板の間に配置される。しかし、そのような反応器では、冷却面からの距離が離れていたり、冷却面への熱の伝導が悪いために、反応室内に流動状態で配置された触媒粒子を十分に冷却することができない。そのため、反応室内で温度勾配が生じることが多く、部分的に望ましくない不均一な温度分布が生じることになる。
【0004】
ドイツ特許出願第101 08 380号は、触媒化学反応を行うための反応器であって、ディンプルプレートによって分離された反応室と熱輸送室とを有する熱交換器を備えた反応器を開示している。触媒は、反応室に面するディンプルプレートの表面の少なくとも一部に薄層状に塗布されている。ドイツ特許出願第101 08 380号に開示されている反応器は、触媒粒子を備えた従来の反応器と比較して、反応物質上を通過する気体流による反応物質の触媒反応を開始させることができる熱交換のための表面積が非常に小さい。また、ドイツ特許出願第101 08 380号に開示されている反応器では、触媒がディンプルプレートの内面に塗布されているという不利な点を有する。特に、プロピレンからアクリル酸を製造するために触媒を使用する場合には、反応時に形成される炭素堆積物をディンプルプレートの内部から除去することが困難であるため、長期間の運転後には炭素堆積物がディンプルプレートの内部の流路を塞いでしまう場合がある。
【特許文献1】ドイツ特許出願第101 08 380号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、従来技術の技術的な問題点を解消することにある。
【0006】
特に、本発明の目的は、プロピレンとアクロレインを高い収率で長期間にわたってアクロレインとアクリル酸にそれぞれ部分酸化することのできる触媒担体を提供することにある。
【0007】
また、本発明の目的は、簡単かつ経済的に実施することができ、できる限り大きな表面積を有すると共に、担体に対する優れた接着性を示す触媒を有する有利な触媒担体を製造することができる触媒担体の製造方法を提供することにある。
【0008】
また、本発明の目的は、保守作業が容易であり、温度分布が均一な反応器を提供することにある。
【0009】
また、本発明の目的は、反応出発原料と触媒を効率的に接触させ、製造能力及び/または選択性を向上させることにある。
【0010】
また、本発明の目的は、高い転化率と高い選択性を達成しながら、衛生用品に使用することができる吸水性ポリマーを容易に製造することができる少なくとも1つの二重結合を含む有機分子を製造するための経済的な方法を提供することにある。
【0011】
また、本発明の目的は、対応する気相酸化における爆発点に近い温度で進行するオレフィンの気相酸化を可能とする触媒担体と方法を提供することにある。
【0012】
さらに、本発明の目的は、粉末触媒を充填する従来のチューブ型反応器と比較して、触媒の変更による反応器の閉塞が少ない効率的な触媒系を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
これらの課題は、各カテゴリを形成する独立請求項及び従属請求項によって解決される。その他の有利な実施形態は各従属請求項に記載されており、各従属請求項を任意に組み合わせることによってさらに有利な実施形態ともなり得る。
【0014】
本発明に係る触媒担体は、コーティングが接着された表面を有し、コーティングは、総亀裂長さが少なくとも500m/mとなる長さを有する複数の亀裂を有すると共に、少なくとも500N/mの接着引張強度を有する。
【0015】
別の実施形態によれば、触媒担体は第1の熱膨張係数を有し、コーティングは第2の熱膨張係数を有する。第1の熱膨張係数と第2の熱膨張係数とは、少なくとも20〜650℃の温度で少なくとも10%異なる。両者の差は、特に15〜95%、好ましくは15〜50%、さらに好ましくは15〜35%、特に好ましくは15〜25%である。
【0016】
なお、2つの成分(触媒担体とコーティング)はどちらが低い熱膨張係数を有していてもよいが、コーティングが低い熱膨張係数を有することが好ましい。
【0017】
また、触媒担体の表面はコーティングによって完全に被覆されていなくてもよいが、少なくとも反応室と接触する表面の部分(外面(環境と接する部分))にコーティングが設けられていれば有利である。点、ストライプまたはサブ領域(例えば、少なくとも50%または少なくとも70%)のみにコーティングを設けることもできるが、完全に被覆された外面を有することが好ましい。
【0018】
熱膨張係数は、特に縦膨張係数を意味するものである。縦膨張係数αは長さの相対変化Δl/lと温度の変化ΔTの比であり、Δlは温度変化の前の担体の初期長さ(l)と温度変化後の担体の最終長さ(l)についての変化であり、ΔTは温度変化である(担体の最終長さと温度変化前の担体の初期長さの測定時の温度から得られる差)。この関係は下記式によって表される。
【0019】
【数1】

【0020】
材料等の違いを考慮するために、ここで与えられる熱膨張係数は触媒担体またはコーティングの平均値とする。材料等の違いをさらに考慮するためには、熱膨張係数は、長さの変化だけではなく、表面積の変化(表面の二次元的な考慮)または体積の変化とも関連付けられたものであってもよい。特に、複数の成分からなる触媒担体に関しては、膨張係数はコーティングが設けられる表面を形成する成分または構成要素に関連する。
【0021】
両者の熱膨張係数は、少なくとも20〜650℃の温度で特定の差を有する。そのような差は、好ましくは温度領域全体にわたって適用され、少なくとも200〜500℃の温度領域で差が発生しなければならない。膨張係数は、顕微鏡を使用し、加熱プラットホーム上において適温でサンプルの角部と端におけるできるだけ離れた点間の距離を測定することによって決定する。統計的なばらつきを最小化するために、10回以上の測定を行うことが好適であることが分かっている。
【0022】
差は実質的に温度領域全体にわたって一定である(例えば、5%、特に2%の許容範囲)ことが望ましいが、絶対的な要件ではない。
【0023】
触媒担体の温度が上昇すると、異なる熱膨張係数によって、コーティングまたは触媒担体とコーティングとの間の境界層に応力が生じる。好ましくは、触媒担体はコーティングよりも高い熱膨張係数を有する(すなわち、温度が上昇した場合にコーティングよりも膨張する)。コーティングよりも膨張することによって、引張応力がコーティングに伝達される。触媒担体の表面に対するコーティングの接着力(密着性)は十分に大きく、大気条件下での使用においてコーティングが触媒担体から剥がれることが防止される。この場合、引張応力はコーティングの内側領域に伝達される。例えば、従来技術に関して説明したように、コーティングが完全な表面である場合、引張応力によってコーティング内での凝集力が打ち消され、コーティングの内部または外側境界層まで延びる亀裂、細孔または同様な構造が形成される。その結果、コーティング内を伝播する複数の亀裂が生じることになり、外面上を流れる例えば反応媒体に接触するコーティングの外面が大きくなる。また、「膨張接合部(expansion joint)」が形成され、幅が大きくなることによって異なる熱膨張挙動を補償する。
【0024】
これらの効果によって、そのような触媒担体は反応媒体の反応に関して特に効率的となる。形成された亀裂は鋸歯状の拡大された接触面の形成に寄与すると共に、交互の熱応力下での触媒担体の耐用性を増加させる。その結果、保守作業を行う必要が比較的減少し、長期間にわたって連続して製造することができる。
【0025】
触媒担体の有利な実施形態によれば、コーティングは総亀裂長さが少なくとも500m/mとなる長さを有する亀裂を有する。総亀裂長さは、特に少なくとも1,000m/m、好ましくは少なくとも2,000m/m、特に好ましくは少なくとも4,000m/mである。本発明に係る一実施形態では、最大総亀裂長さは10m/m以下、好ましくは10m/mであることが好ましい。
【0026】
「亀裂」は、特に、コーティング内の少なくとも200μm、特に少なくとも500μmの長さを有する形状を含む。そのような亀裂は、好ましい伸張方向での材料の膨張を伴う。すなわち、材料は全ての方向に等しく伸張しないようになる。亀裂の幅は、通常は亀裂の長さの1/10以下である。亀裂の深さ(コーティングの厚み方向の長さ)は、コーティングの厚みに実質的に依存する。ここでは、深さが層の厚み(層厚)の少なくとも80%、特に少なくとも90%の場合に亀裂という。触媒層を研摩することによって深い層が露出し、亀裂の深さを繰り返し再現することができる。
【0027】
通常、コーティングは連続した亀裂を有さず、分散され、異なる長さを有する亀裂を有する。「総亀裂長さ」、すなわち、全ての亀裂の長さの合計は、1×1mの単位表面積に関連付ける。総亀裂長さを決定するためには、コーティングの(任意の寸法の)表面を、例えば顕微鏡を使用して観察する。表面の像は、例えば画像処理ソフトウエアを使用することによって測定・解析することができる。各亀裂の長さは自動または手動で測定・合計することができ、絶対総亀裂長さが得られる。次に、絶対総亀裂長さを1×1mの単位表面積に関連付け、相対総亀裂長さを決定する。この値は統計的な平均値であってもよく、より正確な(絶対または相対)総亀裂長さを得るためにコーティングの複数の小さな表面を測定・解析することができる。ここで与えられる単位表面積あたりの総亀裂長さは特定の亀裂頻度(fissure frequency)となる。亀裂頻度は、コーティングの表面が使用時に拡大される程度、すなわち、亀裂によって熱応力を補償することができる程度を特徴付けるものである。後者は、使用時に熱膨張係数の違いによってさらなる亀裂が形成されず、製造時のみに亀裂が形成されるコーティングの場合に特に有利である。通常運転時には、コーティング内の凝集力が打ち消されることはない。
【0028】
触媒担体の別の構成によれば、コーティングは少なくとも0.02mmの層厚を有する。層厚は、好ましくは0.1〜3mm、特に好ましくは0.5〜2mm、さらに好ましくは0.7〜1.2mmである。層厚は使用される触媒担体の材料についても比較的大きく、例えば、プロピレンとアクロレインをアクリル酸に部分酸化する場合に十分な触媒表面を設けるために必要である。
【0029】
単位断面表面積あたりの(相対)総亀裂長さと大きな層厚の組み合わせによって顕著な効果が得られる。すなわち、異なる熱膨張挙動を補償する機能の効果が増加する。従って、層厚が大きい場合には総亀裂長さが大きくなる。なお、層厚はコーティング全体で平均した数値である。層厚は、触媒担体の表面と対向するコーティングの境界層との間隔である。
【0030】
コーティングは、少なくとも500N/m、好ましくは少なくとも10,000N/mの接着引張強度を有する。接着引張強度は、特に500〜100,000N/mであり、好ましくは1,000〜25,000N/mである。通常、接着引張強度は触媒の安定性によって上限に制限される。
【0031】
接着引張強度は、接着力、すなわち、触媒担体に対するコーティングの表面密着性の尺度となる。接着引張強度は、コーティング内部の凝集力よりも大きいことが好ましい。
【0032】
接着引張強度を決定するためには、例えば以下の方法が好適である。所定の寸法の型を、触媒担体に塗布・接合されたコーティングの上に配置する。接合は、機械的アンカリング、接着接合または同様の方法で行うことができる。次に、コーティングに作用する引張力を示す除去装置に型を接続する。次に、コーティングが実質的に触媒担体の表面から引き離されるまで引張力を段階的または連続的に上昇させる。このようにして得られた値が接着引張強度を表す。
【0033】
接着引張強度は以下のように決定することもできる。1cmの底部表面積(base surface area)Aを有する立方形の型を、同じ表面積Aを有する両面接着要素によって触媒層に固定する。ばねばかりによって、層に垂直な張力下での力の吸収を監視する。支持板からの触媒層の剥離直前の最大印加力F(型の重量G未満)によって接着引張強度(HZF)が与えられる(HZF=(F−G)/A)。触媒層上の接着要素が支持板上の層よりも低い接着引張強度を有する場合には、低い方の境界値のみを示すことができる。ただし、そのような場合の触媒層の接着引張強度は通常は十分である。
【0034】
触媒担体の別の実施形態によれば、コーティングはプロピレンをアクロレイン及びアクリル酸に部分酸化するための触媒活性コーティングである。コーティングは、金属または金属塩、特に金属酸化物であることが好ましい。好ましい金属は、遷移金属とランタノイドである。V族及びVI族の金属が好ましく、Mo、V、Nb、Wが特に好ましく、Mo、W、Vがさらに好ましい。好適な触媒の別の構成では、触媒は上記金属に加えてNiを含む。アクロレインとアクリル酸の製造のための好適な触媒と従来の反応器、反応条件、精製方法については、「Stets Geforscht」,第2巻,Chemieforschung im Degussa−Forschungszentrum Wolfgang 1988,8〜126頁,「Acrolein und Derivate」,Dietrich Arntz,Ewald Nollを参照するものとし、上記文献はこの参照によって本発明の開示の一部をなすものとする。金属は、酸化物、純粋金属、混合物、合金または金属間化合物であってもよい。
【0035】
コーティングは、触媒に加えて、少なくとも1種の不活性(非触媒性)成分を含む。不活性成分はX線無定形であることが好ましく、アルミニウムまたはシリコンの酸化物が好ましい。
【0036】
本発明によれば、コーティングに使用される有機助剤は水溶性であることが好ましい。有機助剤は、特に乾燥前にコーティングに導入する。この操作は、表面をコーティングする前に、助剤をその他の成分に接触させることによって行うことができる。例えば、コーティングのその他の成分を含むスラリーを、混合・均質化によって助剤を含むコーティング懸濁液として調製することができる。ポリマー物質が有機助剤として好ましい。5,000g/モル、好ましくは20,000g/モル、特に好ましくは100,000g/モルを超える分子量(Mn)が好適であることが判明している。多糖類またはその誘導体がポリマーとして好ましい。多糖類は、分岐多糖類、特にセルロースとその誘導体を含む。誘導体としては、特にエーテルなどの酸素誘導体が挙げられる。特に、Tylose(登録商標)等のセルロースエーテルが好ましい。
【0037】
触媒担体の別の構成によれば、コーティングは少なくとも1種のシリコン−酸素含有成分を含む。シリコン−酸素含有成分は、好ましくはAerosil(アエロジル)である。
【0038】
触媒担体は金属材料を使用して形成することもできる。金属材料は、好ましくはアルミニウム、鉄、ニッケルの少なくとも1つを含む。金属材料は特に優れた熱伝導特性を有し、熱の急速な消散または触媒または触媒活性コーティングへの熱の急速な供給が可能である。また、金属材料には優れた成形性を有するという利点がある。すなわち、触媒担体の調製において用途に応じたパラメータ(例えば、特定の場合の空間的条件)を容易に考慮に入れることができ、反応器内での配置に関しても適宜変更することができる。反応室内の条件を考慮すると、触媒担体は耐高温性と耐食性を有することが有利である。そのため、金属材料はアルミニウム、鉄及び/またはニッケルの十分な含有量を有することが有利である。例えば、以下の鋼が特に好ましい。18.5×10−6/Kのα(20〜400℃)を有する1.4571(V2A);18.5×10−6/Kのα(20〜400℃)を有する1.4401;14×10−6/Kのα(20〜400℃)を有する1.4903;12×10−6/Kのα(20〜400℃)を有する1.4713;11.4×10−6/Kのα(20〜400℃)を有するNi合金2.4617;14.5×10−6/Kのα(20〜400℃)を有する2.4816(登録商標Iconel600);9.3×10−6/Kのα(20〜400℃)を有するTi合金3.7025,3.7035。
【0039】
特に、触媒担体は、物質が流れることができる少なくとも1つの流路を含む多壁(multi−walled)シート構造を有することが有利である。すなわち、そのような多壁シート構造は、単純な熱交換壁であるだけではなく、例えば冷媒を内部で供給するためにも好適である。好ましくは、外側に向かってシート構造と接する表面全体は、コーティング及び発生する化学反応を促進するために使用することができる。
【0040】
「多壁」とは、内部にリブ、スリーブ、ガイド面、チューブ等を有する2枚の平行なシートの組み合わせを意味し、2枚のシートは間隔を置いて配置され、内部を流路または流室(flow chamber)に分割している。通常、そのようなシート構造は流入口と流出口を備え、冷媒または熱媒体が内部を通過することができる。冷媒または熱媒体(「物質」と呼ぶ)は、通常は気体または液体である。ただし、そのような物質は気体または液体成分を含むこともでき、気体及び/または液体物質が固体を支持していてもよい。
【0041】
流路は物質を自由に通過させることが好ましく、すなわち、別の材料が流路に設けられていないことが好ましい。シート構造の断面全体にわたって流れ抵抗ができるだけ同一でなければならないため、シート構造の表面全体での熱の均一な消散と熱の均一の供給を容易にするために、通常は流路の内部に別の材料または構成要素を使用することは不利である。
【0042】
好ましい実施形態によれば、触媒担体は、流体が流れることができる開口部(opening)を形成する複数のプレートを含む。「開口部」とは、特に、そのようなプレート構造の断面で観察することができる通路を意味する。シート構造は、物質の別の部分的な流れとは独立して物質がシート構造を介して部分的に流れる流路を形成するが、物質が流れることができる開口部を有する複数のプレートを含む変形には必ずしも必要ではない。むしろ、好ましくは互いに連通する(流れを交換する)複数の空洞をプレート間に設けることができる。
【0043】
プレートは、テクスチャ(texture)を有することができる実質的に平面的なシートを形成する。そのようなテクスチャは、シートの長さまたは幅よりも小さい(特に10未満%)高さを有することが好ましい。プレートのテクスチャによって触媒担体の表面積が大きくなり、より多くのコーティング材料を塗布することができる。好適なテクスチャの例は、リブ、波形、塊状等である。
【0044】
そのような触媒担体は、「ディンプルプレート(dimple plate)」であることが好ましい。「ディンプルプレート」は、所定の点または所定のラインに沿って接続領域を形成する溶接された金属板またはその他の接合成形技術で接合された金属板を含み、接続領域間に流路が形成されている。これは、接合成形技術によって接合部が形成された後に、金属板の間の空間に圧力を加え、金属板の互いに接合されていない領域を塑性変形させることによって通常は行われる。その結果、クッション状の突出部が形成され、楕円形の流れ開断面が通常形成される。そのような「ディンプルプレート」は好ましくは自己支持型であり、大きな加熱表面積を有するコンパクトな熱交換器となる。
【0045】
「ディンプルプレート」を触媒担体として使用する場合には、コーティングの亀裂が少なくとも500m/mの総亀裂長さを有する本発明に係る触媒担体の実施形態では、コーティングはクッション状の突出部の内面ではなく外面に塗布される(変形A)。ディンプルプレートの「外面」とは、図1において参照番号2で示すディンプルプレートの面である。変形Aでは、冷媒は、所定の点または所定のラインに沿って金属板を溶接することによって「ディンプルプレート」の内部に形成された流路内を流れる。本発明に係る触媒担体の別の実施形態では、複数の「ディンプルプレート」を使用する場合には、コーティングは上述した流路の表面に塗布され、冷媒は隣接する2枚の隣接する「ディンプルプレート」の隙間、従って複数の「ディンプルプレート」のクッション状の突出部の外面に沿って流れる(変形B)。
【0046】
「ディンプルプレート」を触媒担体として使用する場合には、本発明では変形Aが特に好ましい。
【0047】
一実施形態によれば、触媒担体はセラミック材料を使用して形成される。この目的に使用されるセラミック材料は、コージェライト、炭化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化シリコン、酸化チタンの少なくとも1つを含むことが好ましい。セラミック材料の触媒担体は、例えば、比較的小さな触媒担体が必要である場合や、触媒担体を押出法で容易に製造することができる場合の代替手段である。また、そのようなセラミック触媒担体は、多孔性を利用すると共に、コーティングに対する接着強度または触媒活性コーティングの有効性を増加させるために触媒担体の材料を使用する可能性を有する。原則として、金属材料とセラミック材料とを含む触媒担体も使用することができる。
【0048】
さらに、表面に接着されたコーティングが設けられた表面を有する触媒担体によって上述した問題を解決することもでき、触媒担体はディンプルプレートであり、コーティングはディンプルプレートの外側に塗布され、ディンプルプレートの「外面」とは図1において参照番号2で示すディンプルプレートの面である。コーティングとしては上述したコーティングが好ましく、プロピレンとアクロレインの部分酸化のための触媒活性コーティングが特に好ましい。コーティングの層厚と接着引張強度も、触媒担体のコーティングに関連して上述したコーティングの層厚と接着引張強度に対応することが好ましい。
【0049】
外面にコーティングが設けられたディンプルプレートを含む上述した触媒担体の実施形態では、コーティングは、総亀裂長さが500m/m、好ましくは250m/m、より好ましくは100m/m、特に好ましくは10m/m、さらに好ましくは1m/m以下となる長さの亀裂を有し、亀裂のないコーティングが最も好ましい。総亀裂長さは上述した方法で測定することが好ましい。
【0050】
本発明の別の態様によれば、重合性モノマーを製造するための反応器であって、流体が流れることができる少なくとも1つの反応室を有し、少なくとも1つの反応室が少なくとも1つの上述した触媒担体を含むことを特徴とする反応器を提案する。反応室は、1〜50バール、好ましくは2〜40バール、特に好ましくは10〜35バールの圧力に耐え得るカラム、貯槽、その他の好ましくは密封できる空間であってもよい。そのような反応室は複数の触媒担体を有することが好ましく、触媒担体は互いに平行に配置され、反応混合物が流れる副室を形成している。アクロレインまたはアクリル酸等の重合性モノマーを製造するための反応室は、隣接して配置された少なくとも2つの触媒担体を通常は有する。好ましくは、触媒担体は実質的に等しい間隔で配置されている。従って、熱の消散と供給が反応室全体で均一となり、均一な温度分布が得られる。
【0051】
本発明の別の態様によれば、触媒担体の表面にコーティングを形成するための方法であって、以下の工程を含む方法を提案する。
少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造に好適な触媒を有する固体/流体相を調製する工程
触媒担体に固体/流体相を塗布する工程
総亀裂長さが少なくとも500m/mとなる長さを有する複数の亀裂を有するコーティングを形成する工程
【0052】
単位断面表面積あたりの総亀裂長さは、好ましくは少なくとも1,000m/m、より好ましくは少なくとも2,000m/m、特に好ましくは少なくとも4,000m/mである。
【0053】
本発明の別の態様によれば、触媒担体としてのディンプルプレートの表面にコーティングを形成するための方法であって、以下の工程を含む方法を提案する。
少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造に好適な触媒を有する固体/流体相を調製する工程
ディンプルプレートに固体/流体相を塗布する工程
ディンプルプレートの外面にコーティングを形成する工程
【0054】
この場合、コーティング内の単位断面表面積あたりの総亀裂長さは、好ましくは500m/m以下、特に好ましくは250m/m以下、より好ましくは100m/m以下、さらに好ましくは10m/m以下、最も好ましくは1m/m以下または亀裂を有さない。
【0055】
好ましい固体/流体相は、少なくとも触媒と任意の少なくとも1種の上述した添加剤とを含むスラリーである。スラリーは、原料触媒粉末が得られる1種以上の触媒前駆体、少なくとも1種の原料触媒粉末または少なくとも1種の触媒前駆体と少なくとも1種の原料触媒粉末とを、そのままあるいはスラリー状で、固体/流体相に基づいて、10〜90重量%、好ましくは30〜80重量%、特に好ましくは40〜70重量%の量で含むことが好ましい。流体相としては、当業者に公知の流体相が好適である。特に、水、エタノール、アセトンまたはヘキサン等のアルコール、それらの少なくとも2種の混合物が好ましく、水またはアルコールが特に好ましく、水がさらに好ましい。
【0056】
第2の工程では、固体/流体相を触媒担体に塗布する。塗布は、スプレー塗布、蒸着、スプレッド、貼り付け、接着接合、焼成または同様の方法を含む。また、触媒は、CVD、PVD、スパッタリング、反応性スパッタリング、ガルヴァニック法等の少なくとも1つを使用して塗布することもできる。また、上述した製造方法を組み合わせて使用することも使用できる。さらに、上述した製造方法を繰り返しまたは交互に複数回行うこともできる。場合によっては塗布を非連続的に行うことも有利であり、塗布工程の間には熱処理を行うこともできる。
【0057】
最後に、上述した亀裂頻度(総亀裂長さ)を有する亀裂を有するコーティングを形成する。第2の工程を一度行った後にコーティングが必要な総亀裂長さを有していない場合には、上述した総亀裂長さが達成されるまで第2の工程を繰り返す。この場合、以下に詳述するように、触媒担体の熱処理またはコーティングを有する触媒担体の機械的変形の組み合わせが有効である。
【0058】
本発明に係る方法の別の構成によれば、固体/流体相を塗布する前に、触媒担体に対して密着性向上処理を行う。上述したように、触媒担体とコーティングとの表面密着性が比較的高く、持続的であることが有利である。従って、固体/流体相を塗布する前に、触媒担体とコーティングとの間の熱的・力学的に高い応力結合(stressable bond)の形成が促進されるように触媒担体の表面を処理することが有利である。
【0059】
この場合、密着性向上工程(特に金属材料の触媒担体の場合)として、以下の工程の少なくとも1つを行うことができる。
a)表面の研磨ブラスト(abrasive blasting)
b)表面の機械加工
c)表面のクリーニング
d)表面の熱処理
【0060】
「研磨ブラスト」とは、圧力またはスピニング法においてエネルギー担体によって処理表面に吹き付けられる研磨剤を使用して材料を除去するためのブラスト機械加工である。圧力ブラスト時に使用される研磨剤(例えば研磨作用粒子)は、液体または気体エネルギー担体によって輸送・加速される。これらの方法は、特に表面を粗面化または平滑化するために使用され、表面近傍の強度を変化させたり、表面を変形させる。また、研磨ブラストは同時に複数の機能を充足することもできる。この場合、表面を粗面化する研磨ブラスト法が好ましい。例としては、サンドブラストが挙げられる。
【0061】
表面の「機械加工」も、触媒担体の表面の外形を処理する。研磨ブラストでは研磨媒体または研磨剤を液体または気体エネルギー担体によって表面に「自由に」接触させるが、「機械加工」では固定された切削エッジを有する媒体を使用する。例えば、砥粒または研摩粒子が基準表面(研摩紙、砥石、フライス)に強固に固定された砥粒が挙げられる。そのような方法を使用することによって、コーティングと触媒担体との接合の障害となる触媒担体表面の不純物を除去することができると共に、望ましい表面の外形(表面仕上げ)を得ることができる。また、コーティングは、表面とコーティングとの間に位置する密着性促進構造によって表面に強く接着されることが好ましい。そのような構造はロッド状であり、コーティングとかみ合い、表面に接着されるとげを有することが好ましい。そのような構造は、表面を加工するか、コーティングよりも表面に対して高い密着性を有する別の材料によって中間層として形成することができる。接着性を向上させる別の方法は表面のガルヴァニック処理であり、印加電流に応じて、表面を粗面化したり、上述したロッド状構造を形成することができる。
【0062】
表面の「クリーニング」は、例えば、表面に付着した油、溶媒、ゴミ、酸化物または同様な不純物を除去することができるあらゆる方法を意味する。例としては、洗浄またはエッチング法が挙げられる。
【0063】
また、表面の熱処理を行うこともできる。その結果、コーティングの接合に効果がある触媒担体の材料の構造変化を引き起こすことができる。同時に、水分を除去するか、仮焼操作を行うこともできる。
【0064】
原則として、各「密着性向上」方法のあらゆる組み合わせが可能であり、少なくとも以下の組み合わせが有利であることが判明している(ここでは方法を符号のみで示す);a)+c),a)+c)+d),a)+d),b)+c),b)+c)+d),c)+d)。
【0065】
本発明に係る方法の一実施形態によれば、固体/流体相は、スプレー塗布工程、スプレッド(spreading)工程、注ぎ塗り(pouring)工程、浸漬工程の少なくとも1つによって塗布する。好ましくは、少なくとも1つの工程を少なくとも一度繰り返す。「スプレー塗布」では、固体/流体相を、好ましくは細かく分散された固体/流体相の均一な分布を触媒担体の表面に生じさせるノズルによって塗布する。「スプレッド」では、固体/流体相を表面に注ぎ、適当な手段を使用して分散させることができる。また、固体/流体相を分散装置に直接塗布し、触媒担体の表面に接触させることもできる。「注ぎ塗り」では、固体/流体相を単純に表面に注ぎ、次に、必要に応じて触媒担体を移動させることによって固体/流体相を均一に分布させる。また、固体/流体相を例えば貯槽に保持し、触媒担体の表面を固体/流体相に浸漬することもできる。浸漬は、好ましくは50℃よりも高い温度の触媒担体に対して行い、均一な厚みの外皮(crust)が形成される。触媒コーティングを塗布する別の方法として、スクリーン印刷が挙げられる。この場合、スクリーンとメッシュの構造によって亀裂の空間構成が予め決定される。
【0066】
原則として、触媒担体は塗布時に室温よりも高い温度であることが有利であり、特に40〜800℃、好ましくは40〜500℃、特に好ましくは40〜250℃であることが好ましい。また、塗布時に触媒担体を固体/流体相の供給源と相対的に移動させることが有利であり、それによって固体/流体相が表面上に均一に分散される。
【0067】
本発明に係る方法の有利な実施形態によれば、固体/流体相を塗布した後に触媒担体を乾燥させる。乾燥は20〜200℃の温度で行い、乾燥時間は好ましくは0.5〜168時間である。触媒担体の乾燥は、必要に応じて真空下で酸化雰囲気または不活性雰囲気内で行う。その結果、例えば、次の塗布工程を開始する前にコーティングを多少乾燥させることができる。このようにして、特に大きな層厚を得ることができる。また、コーティングは表面全体にわたって比較的均一な層厚を有する。
【0068】
本発明に係る方法の一実施形態によれば、コーティングは仮焼によって形成される。仮焼は、200〜1,000℃、好ましくは210〜600℃、特に好ましくは350〜550℃の温度で、0.5〜24時間、好ましくは1〜10時間、特に好ましくは1.1〜5時間行うことが好ましい。仮焼操作は、必要に応じて酸化雰囲気または不活性雰囲気内で行う。例えば、必要な総亀裂長さを達成するためには、仮焼操作時に、特に比較的高い温度変化率で温度を変化させることが有利である。高い変化率の温度シーケンス後には、温度を一定に維持するエージング期間を必要に応じて設ける。最後に、コーティング内の亀裂の形成を促進するために、比較的高い冷却速度で冷却工程を行うことが好ましい。
【0069】
原則として、塗布・仮焼操作を複数回行うこともできる。塗布されたコーティングまたは熱処理を行ったコーティングは、コーティングが好ましくは0.2mm未満の平均表面粗さを有する表面を有するように、(再び)少なくとも1つの「密着性向上」工程を任意に行う必要がある場合がある。
【0070】
本発明に係る方法の一実施形態によれば、塗布されたコーティングは、触媒活性材料の含浸のために少なくとも1種の別の固体/流体相と接触させる。
【0071】
また、含浸コーティングに対して熱処理を行うことができ、含浸コーティングを200〜1,000℃で1〜24時間仮焼することが特に有利である。
【0072】
本発明に係る方法の別の構成によれば、塗布されたコーティングを還元することができる。還元は、還元雰囲気内で、50〜650℃の温度で0.5〜24時間行うことが好ましい。
【0073】
また、触媒担体を少なくとも部分的に弾性変形させ、コーティングに亀裂を形成することもできる。「弾性」変形とは、触媒担体の永久的な変形をもたらさないことを意味する。例えば、弾性変形は曲げ応力に関係し、触媒担体の材料には弾性限界を超える応力は与えない。場合によっては、コーティングを含む触媒担体のさらなる調整(customisation)を行うこともできる。また、触媒担体を少なくとも部分的に「塑性」変形する、すなわち、永久的な新しい形状を与えることもできる。変形(弾性及び/または塑性)によって、応力(特に引張応力)が触媒担体とコーティングに発生し、コーティングの亀裂の形成が促進される。
【0074】
別の態様は、少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造方法であって、本発明に係る触媒担体の存在下で、少なくとも1つの二重結合を含む有機分子を酸素と接触させることを特徴とする方法を提案する。二重結合を有する分子としては、特にα−オレフィンが挙げられる。α−オレフィンとしては、プロピレンが特に好ましい。
【0075】
また、少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造方法であって、少なくとも1つの上述した反応器内で、少なくとも1つの二重結合を含む有機分子を酸素と接触させることを特徴とする方法を提案する。
【0076】
また、吸水性ポリマーの製造方法であって、本発明に係る方法によって少なくとも1つの二重結合を含む有機分子として得られるアクリル酸を重合することを特徴とする方法を提案する。
【0077】
吸水性衛生用品の製造方法に関しては、上述した方法によって調製した吸水性ポリマー、好ましくは超吸収体を、少なくとも1つの衛生用品の構成要素に導入することを特徴とする方法を提案する。衛生用品の構成要素は、特におむつまたは生理用ナプキンのコアである。超吸収体は非水溶性架橋ポリマーであり、膨潤とヒドロゲルの形成によって、大量の水、水性液体、特に体液、特に尿または血液を吸収し、それらの流体を圧力下で保持することができる。超吸収体は、超吸収体の重量の少なくとも100倍の重量の液体を水中で吸収する。超吸収体の詳細は、F.L.ブーフホルツ(Buchholz)、A.T.グレアム(Graham)著「現代の超吸収性ポリマー技術(Modern Superabsorbent Polymer Technology)」、ワイリー(Wiley)VCH社、1998年に記載されている。これらの特性のために、吸水性ポリマーは、おむつ、失禁用品または生理用ナプキン等の衛生用品に主として使用されている。
【0078】
また、上述した方法によって得られる少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子、好ましくは(メタ)アクリル酸を少なくとも含む、繊維、成形品、フィルム、発泡体、超吸収性ポリマー、洗浄剤、廃水処理、分散染料、化粧品、織物、皮革処理または製紙用の特殊ポリマー、衛生用品を提案する。
【0079】
最後に、本発明に係る方法によって得られる少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子、好ましくは(メタ)アクリル酸、特に好ましくはアクリル酸の、少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造または繊維、成形品、フィルム、発泡体、超吸収性ポリマー、衛生用品、洗浄剤または廃水処理、分散染料、化粧品、織物、皮革処理産業または製紙用の特殊ポリマーの製造のための使用を提案する。
【0080】
以下、図面を参照して本発明をさらに詳細に説明する。図面は特に好ましい実施形態を示しているが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0081】
図1は、多壁シート構造8の形態の触媒担体1の斜視図である。触媒担体1の表面2にコーティング3が塗布されており、コーティング3は複数の亀裂4を有する。シート構造8は、所定の接続領域18で接合された2枚のシートを含む。その結果、接続領域18間には、少なくとも1つの流路9、好ましくは実質的に平行に配置された複数の流路9が形成されている。表面2とコーティング3は反応媒体(特に酸素と少なくとも1つの二重結合を含む有機分子)に接触しており、流路9は触媒反応の所望の温度を確立する冷媒15の流れを案内する。図示する変形では、シート構造8には規則的な構造を選択しており、横方向に接続されていない隣接する流路9の間隔は等しく距離24である。ただし、これは絶対的な要件ではない。
【0082】
図2は、本発明に係る触媒担体1の別の実施形態の詳細を示す図である。図2に示す触媒担体1は、流体が流れることができる開口部11を形成する複数のプレート10を含む。図1に係る触媒担体1は互いに分離された流路9を含むが、図2では複数の相互接続空洞が設けられ、プレート10間を流れる冷媒15の流れを混合することができる。プレート10は、ここでは点状の接続領域18で接合され、枕形の空洞または開口部10を形成しており、「ディンプルプレート」が形成されている(図1も同様)。図2ではディンプルプレート17である触媒担体1によれば、点線矢印で示すように、ディンプルプレート17内で均一に冷媒15を流すことが容易となる。コーティング3が触媒担体1の表面2に設けられており、反応物質を含む気体21は、コーティング3上を冷媒15の流れとできるだけ交差する方向(「クロスフロー」及び/又は「逆流熱交換器」)に流れる。その結果、特に表面2全体にわたって均一な温度を達成することができる。
【0083】
図3は、壁16に固定された反応室12を有する反応器25の詳細を示す図である。壁16は、規則的な間隔23で配置された複数のディンプルプレート17を固定している。ディンプルプレート17は、冷媒15が(図示するように)流れることができる開口部11を形成している。酸素と少なくとも1つの二重結合を含む有機分子を含む気体21の流れは、ディンプルプレート17のコーティング3上をできるだけ横切って流れ、発熱反応を促進する。図3に示す実施形態では、ディンプルプレート17の接続領域18は、クッション状の開口部11が実質的に平面22に配置されるように設けられている。開口部11または接続領域18は、例えば表面2全体で一定の間隔23を達成するために、隣接するディンプルプレート17の開口部11が互いにオフセットして配置されるように設けることもできる。間隔は、好ましくは50μm〜1.5cm、特に好ましくは500μm〜5mm、さらに好ましくは750μm〜2mmである。
【0084】
図4は、実施例2で製造された亀裂4を有するコーティング3の図表化した写真を示す。各亀裂4は長さ5を有する。総亀裂長さを決定するために、写真の亀裂4の長さ5を合計し、得られた絶対総亀裂長さを1×1mの基準表面積に関連付けた。図4に示す写真では、亀裂は比較的長く、互いに接続されている場合もある。
【0085】
図2の構造に実質的に対応する触媒担体にスラリーを塗布した。
【0086】
この場合、観察する表面積は32mmとした。像の当該部分で、亀裂をトレースして合計することによって亀裂を測定した。像の当該部分で亀裂を合計したところ、絶対総亀裂長さは27,512μmであった。絶対総亀裂長さを1mの単位表面積に関連付けると、(相対)総亀裂長さは848 1/mとなった。
【0087】
図5は、実施例3に係る亀裂4を有するコーティング3の図表化した写真を示す。図5に示す亀裂4の長さは明らかに短いが、亀裂4の数は図4よりもかなり多い。
【0088】
図5の写真はコーティング3の一部を示している。
【0089】
図5に示す写真では、亀裂4の長さ5が短いため、わずかに異なる倍率を選択した。図4と図5で使用した2つのスケールは、500μmの参照長さによって比較することができる。図5の測定表面積は9mmである。得られた絶対総亀裂長さは24,596μmであった。すなわち、(相対)総亀裂長さは2,515 1/mであった。
【0090】
図6は、触媒担体1の変形の詳細を示す図であり、コーティング3が表面2に設けられたプレート10の一部を示している。コーティング3は、幅19を有し、層の高さ6の少なくとも80%に及ぶ複数の亀裂4を有する。コーティング3は、少なくとも1つの二重結合を含む有機分子と酸素との間の触媒反応を促進する各種成分7を含む。プレート10は、100μm〜50mmのシート厚14を有する。
【0091】
プレート10のコーティング3から離れた側には、プレート10の内面に沿って流れ、触媒反応によって生成される熱を均一に消散させる冷媒20が設けられている。
【0092】
本発明を実施例を参照してさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
1.原料触媒粉末の調製
【0094】
ドイツ特許第16 18 744号に従って、前駆体として、424gのパラモリブデン酸アンモニウム、47gのメタバナジウム酸アンモニウム、27gのパラタングステン酸アンモニウムを別々に蒸留水に溶解した。得られた溶液を混合し、236gのシリカゾルを混合物に添加した。得られたスラリーを乾燥し、固体ケークをボールミル内での粉砕によって粉末化し、原料触媒粉末を得た。
【0095】
2.コーティングの比較例(図4)
【0096】
100gの原料触媒粉末と5gのAerosil(登録商標)(Degussa社(ドイツ)製)を混合し、撹拌下で120gの完全脱イオン水を使用して均質化し、鋼シート(DIN EN 10 027の1.457;シート厚:0.5mm、表面積:50×300mm)のコーティング対象面に注いだ。表面を、表面から1mmの高さを有する側面境界によって取り囲んだ。境界の高さは最大コーティング厚を決定する。表面はコーティング前に脱脂し、サンドブラストを行った。側面境界から突出するコーティング分散体を除去し、1mmの均一な層厚を得た。室温で乾燥した後、仮焼を行った。120K/分で550℃まで加熱し、次に2K/分で570℃まで加熱した。570℃で30分間維持した後、5K/分の冷却速度で10分間冷却し、次に急激に室温まで冷却した。密着性は10N/m未満であった。
【0097】
3.本発明に係るコーティング(図4)
【0098】
上記実施例において、コーティング懸濁液を調製するために0.5gのTylose(登録商標)(セルロースエーテル)をさらに使用した。密着性は500N/mであった。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】触媒担体の第1の実施形態を示す。
【図2】触媒担体の変形を示す。
【図3】複数の触媒担体を含む反応器の構造を示す図である。
【図4】触媒担体の別の実施形態における亀裂を有するコーティング表面を示す図である。
【図5】別の変形に係る触媒担体のコーティング表面を示す図である。
【図6】触媒担体の別の変形の詳細を示す図である。
【符号の説明】
【0100】
1 触媒担体
2 表面
3 コーティング
4 亀裂
5 長さ
6 層厚
7 成分
8 シート構造
9 流路
10 プレート
11 開口部
12 反応室
13 表面仕上げ
14 シート厚
15 冷媒の流れ
16 壁
17 ディンプルプレート
18 接触領域
19 幅
20 冷媒
21 気体の流れ
22 平面
23 間隔
24 距離
25 反応器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング(3)が接着された表面(2)を有する触媒担体(1)であって、前記触媒担体(1)は、ディンプルプレートであり、前記コーティングが前記ディンプルプレートの外面に塗布されていることを特徴とする触媒担体(1)。
【請求項2】
前記コーティング(3)が、総亀裂長さが500m/m以下となる長さ(5)を有する亀裂(4)を有することを特徴とする請求項1に記載の触媒担体(1)。
【請求項3】
前記コーティング(3)が少なくとも500N/mの接着引張強度を有することを特徴とする請求項1または2に記載の触媒担体。
【請求項4】
コーティング(3)が接着された表面(2)を有する触媒担体(1)であって、前記コーティング(3)が、総亀裂長さが少なくとも500m/mとなる長さ(5)を有する亀裂(4)を有すると共に、少なくとも500N/mの接着引張強度を有することを特徴とする触媒担体(1)。
【請求項5】
前記コーティング(3)が少なくとも0.02mmの層厚(6)を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項6】
前記コーティング(3)が、総亀裂長さが少なくとも1,000m/mとなる長さ(5)を有する亀裂(4)を有することを特徴とする請求項4または5に記載の触媒担体(1)。
【請求項7】
前記触媒担体が第1の熱膨張係数を有し、前記コーティング(3)が第2の熱膨張係数を有し、両者の熱膨張係数が20〜650℃の温度範囲で少なくとも10%異なることを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項8】
前記コーティング(3)が、プロピレンとアクロレインの部分酸化のための触媒活性コーティング(3)であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項9】
前記コーティング(3)が少なくとも1種の不活性成分(7)を含むことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項10】
前記コーティング(3)が、シリコンまたはアルミニウムの少なくとも1つと、酸素とを含む成分(7)を含むことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項11】
前記触媒担体(1)が金属材料を使用して形成されていることを特徴とする請求項4〜10のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項12】
前記触媒担体(1)が、流体が流れることができる少なくとも1つの流路(9)を有する多壁シート構造(8)を含むことを特徴とする請求項4〜11のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項13】
前記触媒担体(1)が、流体が流れることができる開口部(11)を形成する複数のプレート(10)を含むことを特徴とする請求項11または12に記載の触媒担体(1)。
【請求項14】
前記触媒担体(1)がセラミック材料を使用して形成されていることを特徴とする請求項4〜10のいずれか1項に記載の触媒担体(1)。
【請求項15】
重合性モノマーを製造するための反応器(25)であって、流体が流れることができる少なくとも1つの反応室(12)を有し、前記少なくとも1つの反応室(12)が請求項1〜15のいずれか1項に記載の触媒担体(1)を少なくとも1つ含むことを特徴とする反応器(25)。
【請求項16】
触媒担体(1)としてのディンプルプレートの表面(2)にコーティング(3)を形成するための方法であって、少なくとも以下の工程;
少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造に好適な触媒を有する固体/流体相を調製する工程、
ディンプルプレートの外面に前記固体/流体相を塗布する工程、
前記ディンプルプレートの前記外面に前記コーティング(3)を形成する工程、を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
触媒担体(1)の表面(2)にコーティング(3)を形成するための方法であって、少なくとも以下の工程;
少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造に好適な触媒を有する固体/流体相を調製する工程、
前記触媒担体(1)に前記固体/流体相を塗布する工程、
総亀裂長さが少なくとも500m/mとなる長さ(5)を有する亀裂(4)を有するコーティング(3)を形成する工程、を含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
前記固体/流体相を塗布する前に、前記触媒担体(1)に対して密着性向上処理を行うことを特徴とする請求項16または17に記載の方法。
【請求項19】
特に金属材料の触媒担体(1)の場合に、以下の工程;
a)表面(2)の研磨ブラスト、
b)表面(2)の機械加工、
c)表面(2)のクリーニング、
d)表面(2)の熱処理、の少なくとも1つを行うことを特徴とする請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記固体/流体相を、スプレー塗布工程、塗り広げ工程、注ぎ塗り工程、浸漬工程の少なくとも1つによって塗布することを特徴とする請求項16〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記固体/流体相を塗布した後に前記触媒担体(1)を乾燥させることを特徴とする請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
前記コーティング(3)が仮焼によって形成されることを特徴とする請求項16〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
塗布された前記コーティング(3)を、触媒活性材料の含浸のために少なくとも1種の別の固体/流体相と接触させることを特徴とする請求項16〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
含浸させた前記コーティング(3)に対して熱処理を行うことを特徴とする請求項23に記載の方法。
【請求項25】
塗布された前記コーティング(3)を還元することを特徴とする請求項16〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
前記触媒担体(1)を少なくとも部分的に弾性変形させ、前記コーティング(3)に亀裂(4)を形成することを特徴とする請求項16〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造方法であって、請求項1〜14のいずれか1項に記載の触媒担体の存在下で、少なくとも1つの二重結合を含む有機分子を酸素と接触させることを特徴とする方法。
【請求項28】
少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造方法であって、少なくとも1つの請求項15に記載の反応器(25)内で、少なくとも1つの二重結合を含む有機分子を酸素と接触させることを特徴とする方法。
【請求項29】
吸水性ポリマーの製造方法であって、請求項27または28に記載の方法によって少なくとも1つの二重結合を含む有機分子として得られる精製アクリル酸を重合することを特徴とする方法。
【請求項30】
吸水性衛生用品の製造方法であって、請求項29に記載の方法によって得られる吸水性ポリマーを、少なくとも1つの衛生用品の構成要素と組み合わせることを特徴とする方法。
【請求項31】
請求項27または28に記載の方法によって得られる少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子を少なくとも含む、繊維、成形品、フィルム、発泡体、超吸収性ポリマー、洗浄剤、廃水処理、分散染料、化粧品、織物、皮革処理または製紙用の特殊ポリマー、衛生用品。
【請求項32】
請求項27または28に記載の方法によって得られる少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の、少なくとも1つの二重結合と酸素とを含む有機分子の製造または繊維、成形品、フィルム、発泡体、超吸収性ポリマー、衛生用品、洗浄剤または廃水処理、分散染料、化粧品、織物、皮革処理産業または製紙用の特殊ポリマーの製造のための使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−500588(P2007−500588A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521544(P2006−521544)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008590
【国際公開番号】WO2005/011858
【国際公開日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(504341139)ストックハウゼン ゲーエムベーハー (35)
【出願人】(503249256)デグッサ アーゲー (1)
【氏名又は名称原語表記】DEGUSSA AG
【Fターム(参考)】