説明

コーティングを評価するための熱画像化方法および装置

【課題】大きな表面積または変化する表面積を覆うコーティングの絶対的な厚さを定量的に測定可能な技術を提供する。
【解決手段】コーティング表面において熱パルスを発生させることができるフラッシュランプ光源11と、コーティング表面の連続画像フレームをキャプチャすることができる画像キャプチャ13および処理装置16とを部分的に使用する、基材表面上のコーティング4の不定の厚さを求めるための装置を提供し、各連続画像フレームは経過時間に対応し、ピクセルアレイを含み、そのアレイの各ピクセルはコーティング表面上の位置に対応する。コーティング4の厚さを計算する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
特定の実施形態による本発明は、対象物の表面上のコーティング厚さを求めるための、サーモグラフィ非破壊検査技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、赤外線(IR)過渡サーモグラフィとは、対象物を通過する熱移動の時間的測定値に依拠して、その対象物の構造および完全性に関する情報をもたらす汎用非破壊検査技術である。対象物を通る熱流量は、対象物の材料の微細構造および単結晶方位により実質的に影響を受けないので、赤外線過渡サーモグラフィ解析は、材料の微細構造および単結晶方位が超音波測定に関して生み出す制限が本質的にない。加えて過渡サーモグラフィ解析手法は、検査する対象物の大きさ、輪郭、または形状によって大きく妨げられることはなく、さらに、大きな表面積を有する検査対象物の場合はとりわけ、従来の大抵の超音波法よりも10〜100倍速く行うことができる。
【0003】
従来、加熱後の対象物表面の連続熱画像(フレーム)を記録/保存するために赤外線(IR)ビデオカメラが使用されてきた。各ビデオ画像は、ピクセルアレイとして画定することができる一定数のピクセルから構成され、各ピクセルは、画像アレイまたはフレーム内の小画素を表す。各ピクセルは、画像化される対象物の表面上の解像要素(resolution element)と呼ばれる矩形領域に対応する。各解像要素の温度は、対応するピクセルの強度に直接関係するので、対象物表面上の各解像要素の温度変化は、ピクセルのコントラスト変化の点から解析可能である。
【0004】
過渡サーモグラフィの知られている1つの現代の応用例は、固体の非金属複合材内部の欠陥の大きさおよび相対位置(深度)を求めることができることであり、過渡サーモグラフィの別の応用例は、金属対象物の厚さを求めることである。絶縁コーティングの厚さを測定する試みもなされている。これらの試みには、コーティングデータをモデルに適合させ、それを既知の厚さ標準と比較することにより絶縁コーティング厚さを得ることができるモデリング技術が含まれる。残念ながら、これらの技術はコーティング厚さを一点ずつ測定することを含む結果、時間がかかり計算的に複雑であり、または画像内にコーティング厚さ標準があることを要し、これは可能ではないことも実現できないこともある。絶縁コーティングの厚さ測定の別の側面は、コーティングが古くなるにつれてコーティングの熱伝導率が変化し、コーティングの厚さ測定に影響を及ぼすことである。
【0005】
コーティング厚さを求める際に、1つの要素として熱伝導率を使用することが行われている。その方法は、絶縁コーティングおよび基材のそれぞれの時間−温度応答を得るステップを含み、その絶縁コーティングは基材上に塗布される。その方法は、コーティングおよび基材に関するそれぞれの時間−温度応答から、デルタログ値を測定し、変曲点の値を測定するステップも含む。これらの値については、本明細書の以下の等式を参照してより詳細に説明する。デルタログ値または変曲点の値を使用し、1つまたは複数のコーティング特性を計算することができる。そのコーティング特性値の両方を使用する、熱伝導率の値およびコーティング厚さの値を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第7549789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、コーティングされた部品の表面に沿った特定の点において計算が行われるので、この方法は限定的である。大きな表面積または幾何学的に複雑な部品に沿ってコーティング厚さのばらつきを解析する能力が限られている。したがって、大きな表面積または変化する表面積を覆うコーティングの絶対的な厚さを定量的に測定可能な技術が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、基材上に塗布されるコーティングの不定の厚さを求めるための装置が提供される。この装置は、コーティング表面において熱パルスを発生させることができるフラッシュランプ光源と、フラッシュランプ光源に結合され、フラッシュランプの発光を開始することができる光トリガと、フラッシュランプ光源に結合され、熱パルスを冷却(quench)することができるトランジスタと、フラッシュランプからの余熱がコーティング表面を加熱することを防ぐことができる、フラッシュランプ光源とコーティング表面との間に位置する反射フィルタとを備える。この装置は、コーティング表面の連続画像フレームをキャプチャするためのIR画像キャプチャであって、各連続画像フレームは経過時間に対応し、ピクセルアレイを含み、そのアレイの各ピクセルはコーティング表面上の位置に対応する、IR画像キャプチャと、ランプの動作を制御し、フラッシュランプの発光開始時におよびその後逐次的にコーティング表面の画像フレームを受け取り、その受け取ったデータを使用し、基材に沿った様々な点におけるコーティングの厚さを計算するためのプロセッサとをさらに備える。
【0009】
本技術の別の態様によれば、基材の表面に沿った様々な点におけるコーティングの厚さを求めるための方法が提供される。この方法は、フラッシュランプからの余熱がコーティング表面を加熱することを防ぐための反射フィルタを備えるフラッシュランプ光源を使用し、コーティング表面において短期間の熱パルスを発生させるステップと、IRキャプチャ装置を使用してコーティング表面の連続画像フレームをキャプチャするステップであって、各連続画像フレームは経過時間に対応し、ピクセルアレイを含み、そのアレイの各ピクセルはコーティング表面上の位置に対応する、キャプチャするステップとを含む。次いで、そのピクセルアレイの2個以上のピクセルについて時間−温度応答曲線を独立して生成することにより、コーティングの厚さおよび熱伝導率が計算される。
【0010】
同じ文字が複数の図面を通して同じ箇所を示す添付図面を参照して以下の詳細な説明を読めば、本発明のこれらのおよび他の特徴、態様、および利点がより良く理解されよう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一態様による、絶縁コーティングの厚さおよび熱伝導率を求めて表示するための、例示的赤外線過渡サーモグラフィシステムの図表示である。
【図2】本発明の一態様による、絶縁コーティングの厚さおよび熱伝導率を求めるための非破壊検査方法の例示的ステップを示す流れ図である。
【図3】本発明の一態様による、図2に示すステップに続く例示的ステップを引き続き示す流れ図である。
【図4】基材のコーティング厚さのばらつきについての図であり、Aは参照画像であり、Bは図1のシステムを使用して得たコーティング画像である。
【図5】対数(時間)に対する対数(温度)の導関数曲線の最小勾配の点として、図4の中で特定したピクセル位置におけるコーティングの変曲点応答についてシミュレートした別のグラフ表示である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
例として、本発明は、高速赤外線(IR)過渡サーモグラフィを使用することにより、対象物表面に沿ったコーティングの実際の厚さおよび熱伝導率の値を求めて表示するための非破壊検査方法および装置に関する。光による表面のフラッシュ、およびその結果生じる熱パルス発生に続く表面温度の時間応答が解析され、コーティング厚さが得られる。副産物は、コーティングの熱伝導率である。
【0013】
図1は、対象物1のコーティング厚さおよび熱伝導率を求めるための装置10の図表示である。より詳細には、図1の例示的装置は、過渡IRサーモグラフィを使用して、対象物の表面上に塗布されたコーティング4の厚さおよび熱伝導率を求めるために使用することができる。その対象物は、これだけに限定されないが、航空機部品やタービン部品が含まれる組立部品とすることができる。特定の実施形態では、その組立部品はエーロフォイル、リブ、またはスパーの構成とすることができ、コーティング厚さを測定することは重要な品質管理であり、リブ状構造または間隔が狭い後壁もしくは内部構造が原因で正確な測定が邪魔される場合がある。一例におけるコーティング4は、遮熱コーティング(TBC)であり、別の例ではコーティング4は、耐環境コーティング(EBC)である。
【0014】
図1に示すように、測定する対象物の表面を素早く加熱するために、フラッシュランプ熱パルス源11を使用する。この熱パルス源は、コーティング内に伝播する熱パルスをコーティング表面において発生させる。
【0015】
フラッシュランプ熱パルス源11のある適切な構成は、例えば1組の4個または8個の高速高出力の写真用フラッシュランプであり、それぞれが約4.8キロジュールの出力が可能であり、個別の電源を有する(例えば、イリノイ州シカゴのSpeedotron,Corp.製のフラッシュランプなど)。
【0016】
金属は、非金属よりも著しく速い熱伝導速度を有するため、金属の熱流の特性時間は、例えばプラスチックや複合材料の熱流の特性時間よりもはるかに速い。その結果、(大抵は非金属に限定される)従来のIRサーモグラフィ技術を金属に適合させようと試みる際、加える熱を急に遮断する必要がある。この急な遮断を実現するために、フラッシュランプが照射後に冷めるときに対象物が余熱にさらされるのを防ぐよう、フラッシュランプ11と関心対象物1との間で3〜5ミクロンの反射フィルタ18を使用する。特定の実施形態では、この反射フィルタは、レンズカバーとしてフラッシュランプに組み込むことができる。
【0017】
実際には、1つまたは複数のフィルタを使用することができる(例えばフラッシュランプごとに1つ)。これらのフィルタは、典型的にはフラッシュランプX内の過熱した金属要素の「残光」から発生する直接長波放射Xが、いつまでもフラッシュランプを離れ、目標物に影響を及ぼすのを防ぎ、あるいは焦点面アレイカメラ13内に反射して戻るのを防ぐように機能する。フラッシュランプ11からのそのような一次残光放射は、初期の熱データ取得中に、目標とする対象物からの長波IR放射と競合/干渉し、それにより目標物が発生させる真のIR放射を不明瞭にし、最終的な画像コントラストおよび画像品質を低下させることがある。したがって、これらの特殊フィルタを使用することは、検知しようとする金属内の熱移動時間をより短くできるようにする、十分鋭い熱パルスを生み出す。
【0018】
図1に示す実施形態例では、反射フィルタ18は、Pyrex(商標)、溶融石英、BK7(商標)、B270(商標)、または可視光およびUV光に対して透過性のある他の光学材料からなることができ、3〜5ミクロン範囲の全ての放射をフラッシュランプに反射して戻すために、フラッシュランプに面した側が赤外線反射コーティングを使って被覆される。特定の実施形態では、光学ガラスおよび被覆されたフィルタは、例えばコネチカット州ストラトフォードのOrielなど、汎用科学レンズおよび光学ガラス製造業者から入手することができ、またはそのような業者が特別に製造することができる。
【0019】
FLIR(マサチューセッツ州ボストン)から入手できるSCシリーズカメラなどの、赤外線(IR)を感知可能な焦点面アレイカメラ13と、制御電子回路14と、フレームデータメモリ15と、制御コンピュータ/画像プロセッサ16と、表示モニタ17とを備える、IRを感知可能な画像化システムを使用して、熱パルスを照らした対象物1の表面温度測定値が取得される。
【0020】
熱データの取得は、好ましくは光トリガリングまたは他の適切な手段による、フラッシュランプの発光時に開始される。フラッシュランプの発光は、従来のフレーム取得およびフラッシュランプ制御ソフトウェアによって提供されるものなど、システムコンピュータおよび画像プロセッサ16上で実行される、従来のビデオフレーム取得ソフトウェアが管理する制御電子回路14によって制御される。
【0021】
フラッシュの持続時間を能動的に制御するために冷却も使用する。特定の実施形態では、ランプに結合され、プロセッサによって制御されるトランジスタを使用して冷却を行うことができる。このトランジスタは、ランプ制御電子回路14(図1)の中に含まれてよい。このトランジスタは、短い発光パルスを作り出すためにプリセット時間に発光した後、フラッシュランプへの電流を遮断することができる。好ましくは、短い発光パルスの持続時間は4ミリ秒未満であり、より好ましくは2〜3ミリ秒の間である。遮断時間は、ランプおよび電子システムの効率に基づいて異なり得る。冷却することは、制御された短い発光パルスを与え、このことは、コーティングの熱応答をいっそう制御し、その結果、全ピクセルアレイにわたるデータ取得の精度が増すことに関係する。
【0022】
システム制御コンピュータ/画像プロセッサ16は、本発明の方法によりデジタル画像を処理して表示することに加え、周辺装置を制御することができ、通信機能の能力がある、特別にプログラムされた汎用デジタルコンピュータである。システムプロセッサ16は、冷却することを含む、カメラおよびランプ用の電子回路14を制御し、将来解析するためにメモリ15内に保存/記録される、対象物表面の所定数の連続熱画像フレームを取得するためにフレームデータメモリを制御する。
【0023】
特定の実施形態では、熱画像化プロセスを開始する前に、「フルフィールド」デュアル画像較正を使用してIRアレイカメラ13を較正することができる。他の実施形態では、高コントラストの画像化を行い、向上した熱精度を得るために重要な、画像フィールドの最大限の均質性を作り出すことになる任意の較正技術を使用することができる。
【0024】
画像化プロセス中に取得される各画像フレームはNxNピクセルからなり、各ピクセルは対象物表面上の解像要素に対応し、ただしNは、所望の分解能および精度に応じて典型的には256、512、または1024である。各ピクセルは、約2バイトの記憶メモリを占有し、例えば12ビット以上の二進数によって表すことができる。保存される画像フレームは、増加していくフレーム番号値により順次識別され、これらの画像フレームは合わせて、フラッシュランプ11によって与えられる熱衝撃を加えた後の所定期間にわたる、対象物1前面の温度対時間(T−t)特性の履歴記録を提供する役割を果たす。特定の実施形態では、二次元または三次元のデカルト座標系を使用して、対象物表面上のピクセル位置を登録し、または位置付けることができる。
【0025】
対象物を評価する間、プロセッサ16が1つまたは複数のフラッシュランプ11の発光をトリガした後、カメラ13から画像データフレームが取得され、画像上の各解像要素におけるIR強度が、フレームデータメモリ15内にデジタルに記録/保存される。データの取得は、対象物の材料の少なくとも1つの推定「特性時間」の間にわたり、有意味のT−t履歴を得るのに十分な所定数の連続画像フレームが終わるまで続く。取得する画像フレームの総数は、所望の精度および画像分解能に応じて異なってよく、数千フレーム/秒もの多さでデータを取得することができる。
【0026】
フレームデータメモリ15は、プロセッサ16内部の従来型デジタルメモリ、またはプロセッサ16がアクセス可能な任意の適切なビデオフレームデータ記憶装置とすることができる。取得される各連続熱画像フレームには、実時間の経過に対応する、増加していくフレーム番号Zが割り当てられる。その後、上記に概説したように、結果として生じるデータフレーム「スタック」を一次元熱流解析手法を利用して解析する。この手法によれば、本発明の方法は、「変曲点」の位置または最高勾配時、すなわちT−tデータ曲線上の最大勾配時点を特定することに依拠する、連続IR画像フレームXにわたる各画像ピクセルの温度対時間(T−t)履歴で証明される既知の熱不変特性を活用する。
【0027】
次に図2を参照すると、本発明の熱画像化技術を使用する過渡IRサーモグラフィを実施するための処理ステップの例を示す流れ図が示されている。これらのステップは、例えば既知の従来のプログラミング技術を使用し、プロセッサ16(図1)を適切にプログラミングすることによって実装することができる。
【0028】
ブロック20に示すように、最初に対象物上の関心領域を特定し、例えば関心領域をキャプチャするようにIRカメラの焦点を合わせ、システムオペレータが、対象物を調べるための関連パラメータに関する情報を選択しまたは入力する。その関連パラメータには、例えば材料の熱拡散係数が含まれ得る。次に、図2のブロック20に示すように、フラッシュランプ11を発光させ、短い発光パルスを作り出すためにランプを冷却し、焦点面アレイIRカメラ13から画像フレームデータを取得し始めるようにシステム制御コンピュータがフラッシュランプ電子回路に命令する。データの取得は所定数の連続画像フレームが終わるまで続行し、次いで21に示すように、連続したフレーム番号Zにより、取得した各画像フレームを識別した後、画像シーケンスまたはIRスタックを(図1に示す)フレームメモリ15内に保存してIR画像スタックを作成する。
【0029】
図3のステップ22に示すように、各IRスタックは、各位置におけるピクセル値を記録する。スタック内の各画像上の同一位置から得られるピクセル値は、フレーム番号に基づく温度時間曲線(TT曲線)を展開するために使用することができ、対象物表面上の関心領域にわたる各解像要素の位置に対応する熱画像内のピクセルごとに、1組のT−t曲線データが特定される。
【0030】
特定の実施形態では、オフセットTt曲線23が生成され、オフセット値はゼロである。この時点で、このステップにおいてオプションのオフセットおよびスケール(振幅)調節24を行って、例えば熱雑音の影響など、任意の減損効果を補償することを助けることもできる。
【0031】
特定の実施形態では、24に示すように、ガウス関数によるコントラスト曲線データの時間平滑化(time smoothing)を実行することもできる。好ましい実施形態では、ガウス平滑化アルゴリズムで使用される「時間窓」は、コントラストデータに対応する画像フレーム番号Zに比例させることにより、時間に応じて変化するように作られる。本質的に、この平滑化「窓」は、ガウス分布の全幅を最大値の半分(すなわち「2σ」の幅)に調整する。記載した可変幅フレーム番号平滑化は、材料内部のいっそうの深度において熱拡散の影響を補償する傾向があるので、この可変幅フレーム番号平滑化を使用することは、従来のガウス平滑化よりも有利である。好ましくはこのステップでは、選択されるデータ点における平滑化窓の幅を、その点における画像フレーム番号の平方根に比例させる。記載した可変幅フレーム番号ガウス時間平滑化に加え、空間平滑化、初期/終了雑音抑圧、ネガティブコントラスト抑圧、およびコントラスト閾値処理が含まれる、いくつかのソフトウェアによって実装される「画像化フィルタ」も、この段階でコントラスト曲線データに適用することができる。
【0032】
次に、25に示すように、温度対時間曲線を、対数(温度)対対数(時間)曲線へと変換する。対数(時間)に対する対数(温度)の導関数を計算し(26)、等式(12)に示すことができる。この導関数は、変曲点時間(inflection point time)と呼ばれる、導関数曲線の最小値(またはT−tデータ曲線上の最大勾配)における時間を求めること(27)を可能にする。
【0033】
他の特定の実施形態では、変曲点を示す、コントラスト曲線の数学的導関数が求められる。曲線に沿った3つの連続する等間隔のデータ点がサンプリングされ、第2の(中央の)データ点における曲線の勾配を計算するために使用される、従来の3連続点導出関数アルゴリズム(3−consecutive−point derivative algorithm)を使用することにより、曲線上の最大勾配の点を求めることが可能であることがよく知られている。本発明によれば、コントラスト曲線の導出関数を求めるために3つの点を使用することができるが、第1のサンプルの導関数の点と第3のサンプルの導関数の点との離隔距離(すなわち導関数ベース間隔の幅)は、画像フレーム番号により、画像発展(image evolution)における実時間に関連付けられる。特に、コントラスト曲線に沿った任意の選択点における導関数ベース間隔の幅は、IR画像フレーム番号Zの平方根に比例させる。
【0034】
このようにして、高い雑音レベルのさなかでさえ、信号対雑音(S/N)特性が最大化される。S/N比におけるこの改善は、より大きい間隔にわたって「サンプリング」することの結果として生じ、よって、固定幅の3点微分法によって従来より得られる微分変化ではなく、最大信号変化を検出する。サンプル点の離隔距離が全ガウス幅に等しいときに最大S/N比が得られるので、本発明のフレーム番号比例幅手法を使用することにより、可能な最大S/N比が常に達成される。
【0035】
システム10から得られる測定データからコーティングの厚さの値を求めるために、反射係数Rによって定められるコーティングの拡散率ならびにコーティングの密度ρおよび比熱ccと組み合わせ、ステップ27で求めた変曲点時間を使用し、プロセッサ16により一定の計算が行われる。
【0036】
コーティングの密度および比熱は経時変化で著しく変わることはないので、以下の等式(1)によって示すように、これらの2つの値の積は定数であると考えることができる。
【0037】
【数1】

【0038】
図1を参照して説明したように、熱波はコーティングに侵入し、コーティング/基材の界面から反射され、反射係数または反射率の値Rは、以下の等式(2)によって与えられる。
【0039】
【数2】

【0040】
上式で、EcおよびEsは、それぞれ次式によって与えられるコーティングおよび基材の「浸透率(effusivity)」である。
【0041】
【数3】

【0042】
上式で、Kcはコーティングの熱伝導率であり、Ksは基材の熱伝導率である。一実施形態では、測定単位には、密度(ρ)のためのg/cm3、比熱cのためのcal/g−℃、および熱伝導率のためのcal/s−cm−℃が含まれる。
【0043】
発光させた後の、コーティング表面におけるコーティング/基材系の温度−時間応答は、次式で数学的に表すことができる。
【0044】
【数4】

【0045】
上式で、T1/2cは発光パルスに対するコーティングの「半空間」応答であり、等式(6)によって与えられ、τcは厚さL、熱拡散率αcのコーティングの「特性時間」であり、次式によって与えられる。
【0046】
【数5】

【0047】
等式(6)および(7)に示す半空間関数は、コーティングまたは基材の無限「半空間」表面における、熱衝撃に対する「時間の平方根分の1」の温度応答である。等式(4)によって示した応答関数は、等式(6)のt=0によって示すコーティング半空間から、等式(7)のt=∞によって示す基材半空間まで動く。
【0048】
【数6】

【0049】
【数7】

【0050】
このことは、等式(2)のRの定義を使用して、t−>0およびt−>∞の極限における等式(4)の無限和をとることによって示すことができる。
【0051】
一例では、t=0近傍での対数の差を「デルタログ」として定義する。
【0052】
【数8】

【0053】
等式(6)および(7)から、デルタログに関連して、基材拡散に対するコーティング拡散の比率は次式で表される。
【0054】
【数9】

【0055】
反射率の値は、デルタログからでも定義することができる。
【0056】
【数10】

【0057】
時間における変曲点は、等式(4)によって示されるT−t曲線を微分し、結果をゼロに設定することにより理論的に導き出すことができる。次いで変数「q」を使用することにより、以下に示す等式(12)を解いて、最大勾配の時点(変曲時間、「tinflection」)を見出す。「q」は次式のように定義されることに気付かれよう。
【0058】
【数11】

【0059】
上式で、τcはコーティングの特性時間である。
【0060】
「q」について解くための等式は次式によって与えられる。
【0061】
【数12】

【0062】
そのため、等式(12)への入力はRの値であり、この値は等式(10)から得られる。図3にさらに示すように、Rはコーティングおよび基材の材料特性から求め(ステップ28)、等式10に従って計算することができる。特定の実施形態では、Rは同じコーティングおよび基材の組合せならびに発光パルスから得られる、以前の実験データから入力することもできる。次いでqについて解くために、Rの値を入力することができる(ステップ29)。等式(12)の変数q、およびT−t曲線の変曲点または変曲時間「tinflection」を実験的に見出すと、次いでその変曲時間は、コーティングの特性時間τcを求めるために等式(11)において使用することができる。
【0063】
コーティングの熱拡散率αcは、次式のように定義される。
【0064】
【数13】

【0065】
熱伝導率Kcは、等式(3)のコーティング浸透率の定義から見出され、
【0066】
【数14】

【0067】
ρccが(1)から、Ecが等式(9)から分かるので、等式(13)によって与えられるαcを求めることができる。
【0068】
最後にステップ30で、以下の等式15に示すように、解析されるピクセルに対応する解像要素の位置における、対象物の実際の厚さを示すコーティング厚さLが等式(5)から求められる。
【0069】
【数15】

【0070】
厚さの値Lは、プロセッサ16のメモリ内に保存することができる(ステップ31)。その後、31に示すように次のピクセルが選択され、IR画像を構成するピクセルごとに上記のステップを反復する。
【0071】
このプロセスは、選択された残り全部のピクセルについて繰り返される。特定の実施形態では、特定の厚さに対応する各色合いまたはグレーシェードを表示しもしくは印刷するために、保存した値を使用して、対象物表面上の関心領域のカラーマップ画像またはグレースケール画像を構築することができる。上記に概説したステップに加え、精度および一貫性を得るために、拡散係数、データ解析の開始点および範囲、時間平滑化窓の大きさの範囲、ならびにカラーマッピング範囲などの様々なパラメータ値の入力および選択が、システム制御コンピュータを従来の方法で適切にプログラミングすることによって自動化される。注目すべきことは、この方法は、関与する材料の熱特性および記載した測定値しか必要とせず「絶対的(absolute)」なので、参照コーティング標準が必要ないことである。
【0072】
上記に記載した本発明による装置と併せ、上記に記載した熱データを取得/解析するためのステップを使用して過渡サーモグラフィ解析を行うことにより、検査対象物、例えば(図1および図2に示す)タービンエーロフォイルでしばしば見られるリブ状構造の一部分を形成し得る間隔が狭い後壁または内部構造の間でさえ、コーティング厚さの値を正確に得ることができるのに対し、従来の熱または超音波的方法を使用すると、そのような密接に配置される後壁構造は、通常、歪曲されたデータをもたらし、または正確な測定値を得るために破壊検査が必要になる。
【0073】
図4および図5は、図1に記載した装置を使用したサーモグラフィ解析の結果を示す。0.02インチのおおよその厚さを有するコーティングを得るように、セラミック試片がEBCで吹付け塗布された。次いで、その塗布された試片は短期間の発光パルスにさらされた。図4Aは、このプロセスを使用して生成した参照画像である一方、図4Bは、生成した画像内の様々なグレートーンカラーによって示される、コーティング厚さのばらつきを示す。グレートーンは、画像の右側に表示される棒目盛の厚さ凡例内の同様の色または色調に対応する。図示のように、左下隅の象限内で層間剥離が生じており、こうした剥離が生じることは多くの場合、品質管理試験において批判的評価である。中央右側の強調表示された正方形として示す、試片上の個別のピクセル点(図4A)が選択され、この領域のコーティング厚さは0.0212インチであると計算された。この選択されたピクセルの変曲点を、図5に、対数(時間)に対する対数(温度)曲線の導関数の最小勾配の点として示す。この方法を使用し、絶対的なコーティング厚さの値およびばらつきが部品全体にわたって正確に得られる。
【0074】
本明細書では本発明の特定の特徴だけを記載し、説明してきたが、当業者なら多くの修正および変更を思い付くであろう。したがって、本発明の真の趣旨に含まれるとき、添付の特許請求の範囲はそのような全ての修正および変更を対象として含むことを意図する。
【符号の説明】
【0075】
1 対象物
4 コーティング
10 装置(全体)
11 フラッシュランプ
13 IRアレイカメラ
14 制御電子回路
15 メモリ
16 プロセッサ
17 表示モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材(1)上に塗布されるコーティング(4)の不定の厚さを求めるための装置であって、
前記コーティング表面において熱パルスを発生させることができるフラッシュランプ光源(11)と、
前記フラッシュランプ光源に結合され、前記フラッシュランプの発光を開始することができる光トリガと、
前記フラッシュランプ光源に結合され、前記熱パルスを冷却することができるトランジスタと、
前記フラッシュランプからの余熱が前記コーティング表面を加熱することを防ぐことができる、前記フラッシュランプ光源(11)と前記コーティング表面(4)との間に位置する反射フィルタ(18)と、
前記コーティング表面の連続画像フレームをキャプチャするように配置されるIR画像キャプチャ装置(13)であって、各連続画像フレームが経過時間に対応し、ピクセルアレイを含み、前記アレイの各ピクセルが前記コーティング表面上の位置に対応する、IR画像キャプチャ装置(13)と、
前記光トリガおよびトランジスタの動作を制御し、
前記フラッシュランプの発光開始時におよびその後逐次的に前記コーティング表面の前記画像フレームを受け取り、
前記連続画像フレームを部分的に使用し時間−温度応答を計算して、前記基材(1)に沿った様々な点における前記コーティングの前記厚さを求める
ことができる、前記IR画像キャプチャ装置に結合されるプロセッサ(16)と
を備える装置。
【請求項2】
前記反射フィルタが、前記フラッシュランプ光源上に直接コーティングされ、3〜5ミクロン範囲の放射を反射することができる、請求項1記載の装置。
【請求項3】
前記プロセッサが、前記時間−温度応答から、変曲点の値およびデルタログを計算するように構成される、請求項1記載の装置。
【請求項4】
基材の表面に沿った様々な点におけるコーティングの厚さを求めるための方法であって、
フラッシュランプからの余熱が前記コーティング表面を加熱することを防ぐための反射フィルタを備えるフラッシュランプ光源を使用し、前記コーティング表面において短期間の熱パルスを発生させるステップと、
IRキャプチャ装置を使用して前記コーティング表面の連続画像フレームをキャプチャするステップであって、各連続画像フレームが経過時間に対応し、ピクセルアレイを含み、前記アレイの各ピクセルが前記コーティング表面上の位置に対応する、ステップと、
前記連続画像フレームを保存するために、プロセッサを使用して前記連続画像フレームを処理するステップと、
前記ピクセルアレイの2個以上のピクセルについて時間−温度応答曲線を独立して計算するための前記連続画像フレームを構成する基材に沿った前記コーティングの前記厚さおよび熱伝導率を求めるステップとを含む
方法。
【請求項5】
前記時間−温度応答曲線上の最大勾配の時点が、変曲点時間(t inflection)として定義され、前記時間−温度応答曲線の等式が、
【数1】

として定義され、上式で、T1/2cは、
【数2】

および
【数3】

と定義される、発光パルスに対する前記コーティングの半空間応答であり、
Rは、
【数4】

として定義される反射係数であり、
次式で定義されるように、Ecは前記コーティングの浸透率であり、Esは、
【数5】

として定義される前記基材の浸透率であり、上式で、Kは熱伝導率であり、ρは密度であり、cは比熱である、
請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記変曲点時間(t inflection)が、前記時間−温度応答曲線から実験的に測定され、Rが前記コーティングおよび基材の材料特性から求められる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
コーティング厚さのばらつきを求めるステップが、前記ピクセルアレイの2個以上のピクセルにおいてLの値を計算するステップを含み、Lは、
【数6】

として定義され、上式で、αcは、
【数7】

として定義され、
τcは、
【数8】

として定義される前記コーティングの特性時間であり、
qは、
【数9】

として定義される、請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記時間−温度応答曲線を生成するために、ガウス関数による前記連続画像フレームデータの時間平滑化を使用する、請求項4記載の方法。
【請求項9】
前記連続画像フレームデータに画像化フィルタを適用し、前記画像化フィルタが、空間平滑化、初期/終了雑音抑圧、ネガティブコントラスト抑圧、コントラスト閾値処理、およびそれらの組合せを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記基材に沿った前記コーティングの厚さについての色分けされた画像、またはグレースケールで表現された画像を表示するステップをさらに含む、請求項4記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−47739(P2012−47739A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−181048(P2011−181048)
【出願日】平成23年8月23日(2011.8.23)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】