コーティングダイス、該コーティングダイスを用いた光ファイバテープ心線の製造方法及び該製造方法で得られた光ファイバテープ心線
【課題】平行に並べて配された複数の光ファイバと、前記光ファイバをテープ状に被覆する被覆層とからなる光ファイバテープ心線の製造において、該光ファイバ同士が接触した部位に付着される樹脂の量を増加させることで、複数の光ファイバを平坦な被覆層で被覆することが可能なコーティングダイスを提供すること。
【解決手段】筺体1と、筐体1を貫通するように設けられたキャビティ2とから少なくともなり、キャビティ2に複数の光ファイバが平行にシート状に並べて挿通され、キャビティ2に樹脂液が供給されて該樹脂からなる被覆層が形成される光ファイバテープ心線の製造に用いられるコーティングダイス10であって、キャビティ2の壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面2a,2bには、それぞれ前記光ファイバの接触した部位間に位置するよう、外方に向けて突出する凸部3が配されていること。
【解決手段】筺体1と、筐体1を貫通するように設けられたキャビティ2とから少なくともなり、キャビティ2に複数の光ファイバが平行にシート状に並べて挿通され、キャビティ2に樹脂液が供給されて該樹脂からなる被覆層が形成される光ファイバテープ心線の製造に用いられるコーティングダイス10であって、キャビティ2の壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面2a,2bには、それぞれ前記光ファイバの接触した部位間に位置するよう、外方に向けて突出する凸部3が配されていること。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティングダイス、該コーティングダイスを用いた光ファイバテープ心線の製造方法及び該製造方法で得られる光ファイバテープ心線に係り、より詳しくは、キャビティの上面と下面とに凸部を設けたコーティングダイスを用いて光ファイバテープ心線を作製することで、得られる光ファイバテープ心線の側圧特性の向上を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
直径260μm程度の光ファイバを用い、厚さ320μm程度のテープ心線を作製する場合、通常320μm程度の厚さの孔を持つコーティングダイスを用いて樹脂をコートする。そのため、図10(a)に示すように、十分な量の樹脂102が光ファイバ101に付着することができるため、光ファイバ101間であっても、樹脂が十分量付着し、表面102a,102bに凹みのない光ファイバテープ心線100を得ることができる。
一方、着色心線径+40μm以下の厚さの光ファイバテープ心線を作製する場合(光ファイバの直径に近い厚さのテープ心線を作製する場合)は、光ファイバの直径に近い厚さのコーティングダイスを用いて樹脂をコートしテープ化が行なわれている。この製造方法では、図10(b)に示すような断面形状の光ファイバテープ心線110が得られる。すなわち、樹脂112の付着する量が少量であるため、光ファイバ101間には、表面112a,112bに凹み113が形成される。これは、光ファイバ101の中心から離れた位置にある樹脂(光ファイバ101同士の接触面に付着される樹脂)は、光ファイバ101に樹脂112を付着させる際に、光ファイバ101の速度から若干遅れて付着されること、また、樹脂が硬化する際に収縮するため、光ファイバ101間における樹脂の厚さが薄くなってしまうこと等の原因が考えられる。
【0003】
図10(b)に示す、光ファイバ101の直径に近い厚さの光ファイバテープ心線110は、光ファイバ101上の樹脂112の厚さが非常に薄いため、図10(a)に示すような例えば厚さ320μmの光ファイバテープ心線100と比較し、側圧特性が劣る。さらに、光ファイバ101間の樹脂112の表面112a,112bに凹み113があるため、光ファイバテープ心線110の上面112aあるいは下面112bから圧力を受けた場合、図11(b)に示すように、圧力が加わる部位が主に光ファイバ101上となり、圧力が分散していかない。そのため、図11(a)に示すような、十分な厚みを有した樹脂102で被覆された光ファイバテープ心線100に圧力が加わった場合と比較し、側圧特性の劣化を招くこととなる。すなわち、該圧力によって各光ファイバに線長差が生じてしまい、伝送損失変動が増加してしまう。なお、図11中、矢印は圧力が主に加わる部位と、その大きさを示している。
【0004】
テープ厚(樹脂厚)が薄い光ファイバテープ心線であっても、側圧特性を上げるために、光ファイバ間におけるテープ厚を、光ファイバの中心部位でも同じ厚さにする(表面を平坦とする)必要がある。そのため、樹脂不足分を埋めるよう、追加で樹脂を塗布できるコーティングダイスがさまざま報告されている。例えば特許文献1には、光ファイバテープ心線の両側部における被覆の厚みを増すため、コーティングダイスのキャビティの両側方に、外側に突出した小溝を形成したものを用い、光ファイバテープ心線を作製することが開示されている。特許文献2には、光ファイバ心線間に隙間を設け、かつ光ファイバ心線間における樹脂厚が、光ファイバ心線上の樹脂厚よりも厚い光ファイバテープ心線を作製するためのダイスが開示されている。特許文献3には、ファイバ1本当たりに付着するテープ樹脂の量を、テープ心線内のどの光ファイバでも均一にするための製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたダイスを用いた場合では、光ファイバテープ心線の両側方に配される樹脂量しか、制御できない。そのため、依然として光ファイバテープ心線に圧力が加わった際には、圧力がかかる点が光ファイバ上のみとなり、圧力が分散せず、該圧力によって伝送損失変動が増加してしまう虞がある。特許文献2に記載のダイスでは、光ファイバ心線間のテープ厚が、光ファイバ心線上のテープ厚よりも厚いテープ心線を作製するためのダイスに関する記載であるが、この方法では光ファイバ心線間に多くの樹脂が必要とされ、高密度に光ファイバを実装することが困難である。特許文献3に記載のダイスを用いた製造方法では、線長差を低減することはできるが、表面に複数の凸部が配されているため、平坦な光ファイバテープ心線を得ることができない。ゆえに、複数のテープ心線を積層する際など、そのサイズが大きくなってしまい、光ファイバの高密度化を図ることは困難である。
【特許文献1】特開平08−211236号公報
【特許文献2】特開2000−231043号公報
【特許文献3】特開2005−043719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、平行に並べて配された複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバをテープ状に被覆する被覆層とからなる光ファイバテープ心線の製造において、該光ファイバ同士が接触した部位に付着される樹脂の量を増加させることで、複数の光ファイバを平坦な被覆層で被覆することが可能なコーティングダイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載のコーティングダイスは、筺体と、該筐体を貫通するように設けられたキャビティとから少なくともなり、該キャビティに複数の光ファイバが平行にシート状に並べて挿通され、前記キャビティに樹脂液が供給されて該樹脂からなる被覆層が形成される光ファイバテープ心線の製造に用いられるコーティングダイスであって、前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面には、それぞれ前記光ファイバの接触した部位間に位置するよう、外方に向けて突出する凸部が配されていることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のコーティングダイスは、請求項1において、前記凸部が、前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの厚み部分に対向する面にも配されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光ファイバテープ心線の製造方法は、光ファイバを複数本平行に並べ、該光ファイバを樹脂で被覆する光ファイバテープ心線の製造方法であって、前期光ファイバを複数本平行に並べ、請求項1または2に記載のコーティングダイスのキャビティに前記複数本の光ファイバを挿通する工程と、前記キャビティに樹脂液を供給し、該樹脂液で前記光ファイバ素線を一括被覆する工程とを少なくとも有していることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光ファイバテープ心線は、請求項3に記載の光ファイバテープ心線の製造方法で得られ、平行に並べて配された複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバをテープ状に被覆する被覆層とからなる光ファイバテープ心線であって、前記被覆層の一面と他面とが、略一面となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコーティングダイスによれば、キャビティに形成され凸部により、光ファイバ間に形成される被覆層の厚さを厚くすることができる。この際、凸部の面積を調節して設けることで、被覆層の表面が平坦となった光ファイバテープ心線を得ることができる。このように被覆層の表面を平坦とすることで、光ファイバテープ心線に応力が加わった際は、該応力は被覆層で分散される。したがって、該応力によって生じる光ファイバの伝送損失変動の減少を図った光ファイバテープ心線を得ることができる。従来では光ファイバ間における被覆層の表面に凹みが形成されており、該光ファイバテープ心線に圧力が加わった際は、該圧力は光ファイバに集中的に加わり、伝送損失変動の増加が生じていたが、本発明のコーティングダイスを用いて被覆層の表面を平坦とすることで、上述したように、伝送損失変動の増加を解消することができる。また、本発明のコーティングダイスを用いれば、被覆層の表面を平坦とし、伝送損失変動を低減することができるため、光ファイバは互いに接触させて配することができ、高密度化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0010】
<コーティングダイス>
図1は、本発明のコーティングダイス10A(10)の一例を模式的に示した断面図である。本発明のコーティングダイス10Aは、筺体1と、筺体1を貫通するように設けられたキャビティ2とから概略構成されている。また、キャビティ2の上面2aと下面2bとには、複数の凸部3が外方に突出して設けられている。以下、コーティングダイス10Aについて、詳細に説明する。
【0011】
筐体1は、通常光ファイバ素線に樹脂を塗布する際に用いられるものであれば特に限定することなく用いることができる。
【0012】
キャビティ2は、平行に配された複数本の光ファイバが挿通され、かつ、例えば紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂等の樹脂液が供給される部位である。すなわち、光ファイバに樹脂液が塗布される部位である。キャビティ2の面積は、挿通される光ファイバのサイズや本数により、適宜調節して設けることができる。また、その形状は図1に示すように方形に限定されるものではなく、例えば図2に示すようにキャビティ2の側方2c,2dが曲面を有したものであってもよい。
【0013】
キャビティ2の壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面(キャビティ2の上面2aと下面2b)とには、複数の凸部3が設けられている。この凸部3は、キャビティ2に複数の光ファイバが挿通された際に、光ファイバ間に配置するように、上面2aと下面2bとに対称に設けられている。また、その形状は、図1に示す半円状に限定されるものではなく、図3のコーティングダイス10C〜10Fに示すように、方形や三角形、先端が円形等であってもよい。この凸部3の形状は、用いる樹脂液の種類や粘度、光ファイバ素線の線速等に応じて選択することができる。
【0014】
凸部3がキャビティ2に開口している幅が大きいと、キャビティ2に挿入された光ファイバを挟みこむ可能性が生じるため、その幅を狭くすることで、光ファイバの入り込みを防ぐことができる。この際、光ファイバの直径をRとすると、凸部3がキャビティ2に開口している幅(Wa)は、Wa≦R×2/3を満たすことが好ましい。
特に、キャビティ2を図3(c)や(d)に示す形状とすることで、凸部3がキャビティ2に開口している幅(Wa)を狭くし、かつ凸部3全体の面積を自由度高く調整することができる。
【0015】
この凸部3の面積は、光ファイバの直径(R)や、被覆する樹脂の厚さ(コーティングダイス10Aの厚さ:t)等によって適宜調節することができる。例えば直径245μm以上270μm以下の光ファイバを用いて、光ファイバの直径+40μm以下(t≦R+40μm)の光ファイバテープ心線を作製する際は、各凸部3の面積は100μm2以上6500μm2以下とすることが好ましい。
より具体的には、直径260μmの光ファイバを用いて、厚さ270μm以上300μm以下の光ファイバテープ心線を作製する際は、各凸部3の面積は2000μm2である。凸部3の面積を上述の範囲とすることで、本発明のコーティングダイス10を用いて光ファイバテープ心線を作製した際に、得られる光ファイバテープ心線の一面及び他面において、各光ファイバ素線間に配された表面の樹脂に凹みが発生せず、平坦な面とすることができる。
【0016】
凸部3は、キャビティ2の壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの厚み部分に対向する面(キャビティ2の側面2c,2d)にも配することができる。図4は、キャビティ2の側面2c,2dにも凸部3が設けられたコーティングダイス10Gの一例を模式的に示した断面図である。凸部3をキャビティ2の側面2c,2dにも配することで、光ファイバテープ心線の側方に樹脂を多く配することが可能となるため、図4に示すコーティングダイス10Gで作製された光ファイバテープ心線は、上面、下面及び側面から加わる圧力を効率よく分散させることができ、より伝送損失変動の低減を図ることができる。
【0017】
<光ファイバテープ心線の製造方法>
次に、本発明のコーティングダイス10を用いた光ファイバテープ心線の製造方法について説明する。図5は、光ファイバテープ心線の製造の際に用いる製造装置の一例を模式的に示した図である。図5に示す製造装置は、複数本の光ファイバ31を供給する送り出し装置21と、この送り出し装置21から供給される複数本の光ファイバ31を平行に接した状態に整列させるローラ22と、整列された複数本の光ファイバ31がキャビティ2内に導入され、その外周に樹脂液タンク23から供給された紫外線硬化型樹脂を塗布する本発明のコーティングダイス10と、コーティングダイス10から出された樹脂液塗布済みの光ファイバ31aに紫外線を照射して該樹脂液を硬化させて被覆層を形成するように光ファイバ31の流れ方向に設けられた紫外線照射器24と、その樹脂液の硬化により得られた光ファイバテープ心線31bを巻き取る巻き取り装置25とから概略構成されている。
【0018】
まず、複数本の光ファイバ31を送り出し装置21内のリール(不図示)にそれぞれセットし、それぞれの先端部をローラ22に通して整列させ、コーティングダイス10のキャビティ2内に挿入し、紫外線照射器24を通して巻き取り装置25に巻きつける。
【0019】
光ファイバ31としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0020】
送り出し装置21としては、複数のボビンに巻かれた光ファイバ31を送り出すことができれば特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。なお、図示してはいないが、この送り出し装置21は、各々の光ファイバにかかる張力を独立して調整できる機構を有している。
ローラ22としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
【0021】
次に、樹脂液タンク23内に未硬化の紫外線硬化型樹脂液を入れ、コーティングダイス10内に供給可能な状態とする。さらに、紫外線照射装置24の紫外線ランプを点灯する。その後、送り出し装置21による複数本の光ファイバ31の送り出し動作、紫外線硬化型樹脂液のコーティングダイス10への供給、および巻き取り装置25の巻き取り動作をそれぞれ開始する。
【0022】
紫外線硬化型樹脂液としては、従来から石英系光ファイバの被覆層の形成に用いられている各種の紫外線硬化型樹脂の中から、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができ、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂等が挙げられる。この樹脂液は、図示していない圧送機構によりコーティングダイス10に供給される。
【0023】
樹脂液タンク23、紫外線照射装置24、巻き取り装置25としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
【0024】
送り出し装置21から出た複数本の光ファイバ31は、ローラ22で整列され、コーティングダイス10のキャビティ2内に挿入される。コーティングダイス10を通過する際に、整列された光ファイバ31の外周に紫外線硬化型樹脂液が塗布される。この際、キャビティ2の上面2aと下面2bとには、各光ファイバ31同士が接触している部位に凸部3が形成されているため、該光ファイバ31同士の接触部位に塗布される紫外線硬化型樹脂液の量は、従来のものよりも多く塗布される。コーティングダイス10を出た樹脂液塗布済みの光ファイバ31aは、紫外線照射器24を通過する際に紫外線が照射され、該紫外線硬化型樹脂液が硬化する。以上で、光ファイバテープ心線31b(30)が得られる。
【0025】
本発明のコーティングダイス10を用いて作製することで、得られる光ファイバテープ心線31b(30)の上面32a及び下面32bにおいて、各光ファイバ素線間に配された表面の樹脂に凹みが発生せず、平坦な面とすることができる(図6参照)。特に、本発明のコーティングダイス10を既存の光ファイバテープ心線の製造装置に備えられた従来のコーティングダイスと置換するだけでよいので、低コストで簡便に、平坦な面を有した光ファイバテープ心線31b(30)を得ることができる。
【0026】
<光ファイバテープ心線>
図6は、本発明のコーティングダイス10を用いて作製された光ファイバテープ心線30A(30)を模式的に示した断面図である。図6は、4本の光ファイバ31が平行に密接状態に並べられ、それらが樹脂からなる被覆層32で被覆され、テープ状に構成された光ファイバテープ心線(4心テープ心線)を例示している。なお、光ファイバ31の本数は本例示に限定されず、複数本であればよい。
【0027】
本発明のコーティングダイス10を用いて作製された光ファイバテープ心線30は、その上面32aと下面32bとが略一面をなしている。そのため、光ファイバテープ心線30に、図11に示したように圧力が加わった際に、該圧力が加わる部位が従来のように光ファイバ31上にのみ集中することなく、被覆層32にも均一に加わる(図11(a)と同様な圧力の加わり方となる)。そのため、該圧力は効果的に分散され、該圧力によって生じる光ファイバテープ心線の伝送損失変動の減少を図った光ファイバテープ心線30Aを得ることができる。また、特許文献2に記載の光ファイバテープ心線とは異なり、光ファイバ31は互いに接触させて配することが可能なため、より高密度に光ファイバ31が配された光ファイバテープ心線30とすることができる。
また、図10(b)に示す従来の光ファイバテープ心線110を積層してケーブルを作製した際には、光ファイバテープ心線間に凹み113に由来する隙間が生じる。このような隙間があると、該隙間に水が浸入した場合、毛細管現象で隙間を伝って水が流れてしまい、ケーブルの伝送特性の低下につながる。本発明の光ファイバテープ心線30は、その上面32aと下面32bとが平坦であるため、光ファイバテープ心線を隙間なく積層することができる。ゆえに、光ファイバテープ心線間に水等の不要なものの侵入を防ぐことができ、伝送特性の低下を抑制することができる。
さらに、光ファイバテープ心線30を、直接シースで被覆した際には、図10(b)に示す従来の凹み113があった光ファイバテープ心線110よりも、シースと接触する面積が少ないため、容易にシースを剥離することが可能となる。ゆえに、シースから光ファイバテープ心線30の取出しが容易となる。
【0028】
図7は、本発明のコーティングダイス10を用いて作製された光ファイバテープ心線30B(30)の他の一例を模式的に示した断面図である。図7に示した光ファイバテープ心線30Bは、1層の被覆層32で形成された光ファイバテープ心線30Aが複数、一括被覆されてなるものである。本発明のコーティングダイス10を用いて、光ファイバの直径+40μm以下の厚さの光ファイバテープ心線30Bを作製することで、図7に示すように、複数の光ファイバテープ心線30Aを被覆する際にも、その上面33a及び下面33bを平坦とすることができる。そのため、上述したように圧力によって生じる伝送損失変動の低減を図ることができる。
また、図8は、従来のコーティングダイスで被覆層を形成した複数の光ファイバテープ心線110が、本発明のコーティングダイス10で形成された被覆層33により被覆された光ファイバテープ心線30C(30)の例を模式的に示したものである。図8に示すように、最外層の被覆層33を本発明のコーティングダイス10で形成することによって、光ファイバの直径+40μm以下の厚さの光ファイバテープ心線であっても、最外層33の上面33a及び下面33bを平坦とすることができる。ゆえに、上述したように圧力によって生じる伝送損失変動の低減を図ることができる。
【実施例】
【0029】
<実施例>
図1に示すコーティングダイスを用いて、270μm厚の光ファイバテープ心線の作製を行なった。光ファイバテープ心線として、直径が260μmの着色心線を4本用いた。また、コーティングダイスのキャビティのサイズは、縦265μm、横1060μmとした。各凸部の面積は、それぞれ2000μm2とした。
【0030】
<比較例1>
実施例において、各凸部の面積を0μm2、すなわち、凸部が配されていないキャビティを備えたコーティングダイスを用いたこと以外は、実施例と同様にして光ファイバテープ心線を作製し、これを比較例1とした。
【0031】
<比較例2>
実施例において、各凸部の面積を1300μm2としたこと以外は実施例と同様にして光ファイバテープ心線を作製し、これを比較例2とした。
【0032】
上述した実施例及び比較例1〜2で得られた光ファイバテープ心線において、その上面と他面とに形成された凹みの面積を測定した。なお、凹みの面積は、該凹みの面積が最大となるように、光ファイバ素線の長手方向と垂直な方向で光ファイバテープ心線を切断して測定した。その結果を、表1に示す。また、実施例及び比較例1〜2で得られた光ファイバテープ心線の断面を図9に模式的に示す。なお、図9(a)は比較例1、図9(b)は比較例2、図9(c)は実施例で得られた光ファイバテープ心線90A,90B,90Cをそれぞれ示している。また、図中、91は光ファイバ、92は被覆層、93a(93),93b(93)は凹みをそれぞれ示している。
【0033】
【表1】
【0034】
表1及び図9より、キャビティに凸部が配されたコーティングダイスを用いることで、得られた光ファイバテープ心線90の上面と下面とに生じる凹み93の面積を減少させることができた。特に、凸部の面積を2000μm2としたコーティングダイスを用いることで、得られた光ファイバテープ心線90Cは、その上面及び下面に凹みが観察されず、一面をなしていた。
【0035】
<比較例3>
次に、比較例3として直径260μmの光ファイバを用い、図10(a)に示すような320μ厚の光ファイバテープ心線を作製し、これを比較例3とした。
【0036】
実施例と比較例3で得られた光ファイバテープ心線において、490N/10cmまたは980N/10cmの側圧を印加し、印加時と印加後とにおける伝送損失変動の測定を行なった。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2より、いずれの光ファイバテープ心線においても、伝送損失の変動は0.005dB以下であった。このことより、本発明の光ファイバテープ心線は、テープ化材が厚い320μm厚の光ファイバテープ心線と同等の側圧特性をもち、信頼性の高い光ファイバテープ心線が得られていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、表面が平坦で、かつ伝送損失変動の生じ難い光ファイバテープ心線の製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のコーティングダイスの一例を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明のコーティングダイスの他の一例を模式的に示した断面図である。
【図3】本発明のコーティングダイスの他の一例を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明のコーティングダイスの他の一例を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の光ファイバテープ心線の製造に用いることができる製造装置の一例を模式的に示した図である。
【図6】本発明の光ファイバテープ心線の一例を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の光ファイバテープ心線の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図8】本発明の光ファイバテープ心線の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図9】実施例及び比較例における光ファイバテープ心線の断面を模式的に示した図である。
【図10】従来の光ファイバテープ心線を模式的に示した断面図である。
【図11】従来の光ファイバテープ心線に圧力が加わった際の様子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0041】
1 筐体、2 キャビティ、3 凸部、10(10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G) コーティングダイス、21 送り出し装置、22 ローラ、23 樹脂液タンク、24 紫外線照射装置、25 巻き取り装置、30(30A,30B) 光ファイバテープ心線、31 光ファイバ、32 一括被覆層、33 樹脂層。
【技術分野】
【0001】
本発明はコーティングダイス、該コーティングダイスを用いた光ファイバテープ心線の製造方法及び該製造方法で得られる光ファイバテープ心線に係り、より詳しくは、キャビティの上面と下面とに凸部を設けたコーティングダイスを用いて光ファイバテープ心線を作製することで、得られる光ファイバテープ心線の側圧特性の向上を図ったものである。
【背景技術】
【0002】
直径260μm程度の光ファイバを用い、厚さ320μm程度のテープ心線を作製する場合、通常320μm程度の厚さの孔を持つコーティングダイスを用いて樹脂をコートする。そのため、図10(a)に示すように、十分な量の樹脂102が光ファイバ101に付着することができるため、光ファイバ101間であっても、樹脂が十分量付着し、表面102a,102bに凹みのない光ファイバテープ心線100を得ることができる。
一方、着色心線径+40μm以下の厚さの光ファイバテープ心線を作製する場合(光ファイバの直径に近い厚さのテープ心線を作製する場合)は、光ファイバの直径に近い厚さのコーティングダイスを用いて樹脂をコートしテープ化が行なわれている。この製造方法では、図10(b)に示すような断面形状の光ファイバテープ心線110が得られる。すなわち、樹脂112の付着する量が少量であるため、光ファイバ101間には、表面112a,112bに凹み113が形成される。これは、光ファイバ101の中心から離れた位置にある樹脂(光ファイバ101同士の接触面に付着される樹脂)は、光ファイバ101に樹脂112を付着させる際に、光ファイバ101の速度から若干遅れて付着されること、また、樹脂が硬化する際に収縮するため、光ファイバ101間における樹脂の厚さが薄くなってしまうこと等の原因が考えられる。
【0003】
図10(b)に示す、光ファイバ101の直径に近い厚さの光ファイバテープ心線110は、光ファイバ101上の樹脂112の厚さが非常に薄いため、図10(a)に示すような例えば厚さ320μmの光ファイバテープ心線100と比較し、側圧特性が劣る。さらに、光ファイバ101間の樹脂112の表面112a,112bに凹み113があるため、光ファイバテープ心線110の上面112aあるいは下面112bから圧力を受けた場合、図11(b)に示すように、圧力が加わる部位が主に光ファイバ101上となり、圧力が分散していかない。そのため、図11(a)に示すような、十分な厚みを有した樹脂102で被覆された光ファイバテープ心線100に圧力が加わった場合と比較し、側圧特性の劣化を招くこととなる。すなわち、該圧力によって各光ファイバに線長差が生じてしまい、伝送損失変動が増加してしまう。なお、図11中、矢印は圧力が主に加わる部位と、その大きさを示している。
【0004】
テープ厚(樹脂厚)が薄い光ファイバテープ心線であっても、側圧特性を上げるために、光ファイバ間におけるテープ厚を、光ファイバの中心部位でも同じ厚さにする(表面を平坦とする)必要がある。そのため、樹脂不足分を埋めるよう、追加で樹脂を塗布できるコーティングダイスがさまざま報告されている。例えば特許文献1には、光ファイバテープ心線の両側部における被覆の厚みを増すため、コーティングダイスのキャビティの両側方に、外側に突出した小溝を形成したものを用い、光ファイバテープ心線を作製することが開示されている。特許文献2には、光ファイバ心線間に隙間を設け、かつ光ファイバ心線間における樹脂厚が、光ファイバ心線上の樹脂厚よりも厚い光ファイバテープ心線を作製するためのダイスが開示されている。特許文献3には、ファイバ1本当たりに付着するテープ樹脂の量を、テープ心線内のどの光ファイバでも均一にするための製造方法が開示されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示されたダイスを用いた場合では、光ファイバテープ心線の両側方に配される樹脂量しか、制御できない。そのため、依然として光ファイバテープ心線に圧力が加わった際には、圧力がかかる点が光ファイバ上のみとなり、圧力が分散せず、該圧力によって伝送損失変動が増加してしまう虞がある。特許文献2に記載のダイスでは、光ファイバ心線間のテープ厚が、光ファイバ心線上のテープ厚よりも厚いテープ心線を作製するためのダイスに関する記載であるが、この方法では光ファイバ心線間に多くの樹脂が必要とされ、高密度に光ファイバを実装することが困難である。特許文献3に記載のダイスを用いた製造方法では、線長差を低減することはできるが、表面に複数の凸部が配されているため、平坦な光ファイバテープ心線を得ることができない。ゆえに、複数のテープ心線を積層する際など、そのサイズが大きくなってしまい、光ファイバの高密度化を図ることは困難である。
【特許文献1】特開平08−211236号公報
【特許文献2】特開2000−231043号公報
【特許文献3】特開2005−043719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、平行に並べて配された複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバをテープ状に被覆する被覆層とからなる光ファイバテープ心線の製造において、該光ファイバ同士が接触した部位に付着される樹脂の量を増加させることで、複数の光ファイバを平坦な被覆層で被覆することが可能なコーティングダイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1に記載のコーティングダイスは、筺体と、該筐体を貫通するように設けられたキャビティとから少なくともなり、該キャビティに複数の光ファイバが平行にシート状に並べて挿通され、前記キャビティに樹脂液が供給されて該樹脂からなる被覆層が形成される光ファイバテープ心線の製造に用いられるコーティングダイスであって、前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面には、それぞれ前記光ファイバの接触した部位間に位置するよう、外方に向けて突出する凸部が配されていることを特徴とする。
本発明の請求項2に記載のコーティングダイスは、請求項1において、前記凸部が、前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの厚み部分に対向する面にも配されていることを特徴とする。
本発明の請求項3に記載の光ファイバテープ心線の製造方法は、光ファイバを複数本平行に並べ、該光ファイバを樹脂で被覆する光ファイバテープ心線の製造方法であって、前期光ファイバを複数本平行に並べ、請求項1または2に記載のコーティングダイスのキャビティに前記複数本の光ファイバを挿通する工程と、前記キャビティに樹脂液を供給し、該樹脂液で前記光ファイバ素線を一括被覆する工程とを少なくとも有していることを特徴とする。
本発明の請求項4に記載の光ファイバテープ心線は、請求項3に記載の光ファイバテープ心線の製造方法で得られ、平行に並べて配された複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバをテープ状に被覆する被覆層とからなる光ファイバテープ心線であって、前記被覆層の一面と他面とが、略一面となっていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のコーティングダイスによれば、キャビティに形成され凸部により、光ファイバ間に形成される被覆層の厚さを厚くすることができる。この際、凸部の面積を調節して設けることで、被覆層の表面が平坦となった光ファイバテープ心線を得ることができる。このように被覆層の表面を平坦とすることで、光ファイバテープ心線に応力が加わった際は、該応力は被覆層で分散される。したがって、該応力によって生じる光ファイバの伝送損失変動の減少を図った光ファイバテープ心線を得ることができる。従来では光ファイバ間における被覆層の表面に凹みが形成されており、該光ファイバテープ心線に圧力が加わった際は、該圧力は光ファイバに集中的に加わり、伝送損失変動の増加が生じていたが、本発明のコーティングダイスを用いて被覆層の表面を平坦とすることで、上述したように、伝送損失変動の増加を解消することができる。また、本発明のコーティングダイスを用いれば、被覆層の表面を平坦とし、伝送損失変動を低減することができるため、光ファイバは互いに接触させて配することができ、高密度化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を、図面を参照して詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【0010】
<コーティングダイス>
図1は、本発明のコーティングダイス10A(10)の一例を模式的に示した断面図である。本発明のコーティングダイス10Aは、筺体1と、筺体1を貫通するように設けられたキャビティ2とから概略構成されている。また、キャビティ2の上面2aと下面2bとには、複数の凸部3が外方に突出して設けられている。以下、コーティングダイス10Aについて、詳細に説明する。
【0011】
筐体1は、通常光ファイバ素線に樹脂を塗布する際に用いられるものであれば特に限定することなく用いることができる。
【0012】
キャビティ2は、平行に配された複数本の光ファイバが挿通され、かつ、例えば紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂等の樹脂液が供給される部位である。すなわち、光ファイバに樹脂液が塗布される部位である。キャビティ2の面積は、挿通される光ファイバのサイズや本数により、適宜調節して設けることができる。また、その形状は図1に示すように方形に限定されるものではなく、例えば図2に示すようにキャビティ2の側方2c,2dが曲面を有したものであってもよい。
【0013】
キャビティ2の壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面(キャビティ2の上面2aと下面2b)とには、複数の凸部3が設けられている。この凸部3は、キャビティ2に複数の光ファイバが挿通された際に、光ファイバ間に配置するように、上面2aと下面2bとに対称に設けられている。また、その形状は、図1に示す半円状に限定されるものではなく、図3のコーティングダイス10C〜10Fに示すように、方形や三角形、先端が円形等であってもよい。この凸部3の形状は、用いる樹脂液の種類や粘度、光ファイバ素線の線速等に応じて選択することができる。
【0014】
凸部3がキャビティ2に開口している幅が大きいと、キャビティ2に挿入された光ファイバを挟みこむ可能性が生じるため、その幅を狭くすることで、光ファイバの入り込みを防ぐことができる。この際、光ファイバの直径をRとすると、凸部3がキャビティ2に開口している幅(Wa)は、Wa≦R×2/3を満たすことが好ましい。
特に、キャビティ2を図3(c)や(d)に示す形状とすることで、凸部3がキャビティ2に開口している幅(Wa)を狭くし、かつ凸部3全体の面積を自由度高く調整することができる。
【0015】
この凸部3の面積は、光ファイバの直径(R)や、被覆する樹脂の厚さ(コーティングダイス10Aの厚さ:t)等によって適宜調節することができる。例えば直径245μm以上270μm以下の光ファイバを用いて、光ファイバの直径+40μm以下(t≦R+40μm)の光ファイバテープ心線を作製する際は、各凸部3の面積は100μm2以上6500μm2以下とすることが好ましい。
より具体的には、直径260μmの光ファイバを用いて、厚さ270μm以上300μm以下の光ファイバテープ心線を作製する際は、各凸部3の面積は2000μm2である。凸部3の面積を上述の範囲とすることで、本発明のコーティングダイス10を用いて光ファイバテープ心線を作製した際に、得られる光ファイバテープ心線の一面及び他面において、各光ファイバ素線間に配された表面の樹脂に凹みが発生せず、平坦な面とすることができる。
【0016】
凸部3は、キャビティ2の壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの厚み部分に対向する面(キャビティ2の側面2c,2d)にも配することができる。図4は、キャビティ2の側面2c,2dにも凸部3が設けられたコーティングダイス10Gの一例を模式的に示した断面図である。凸部3をキャビティ2の側面2c,2dにも配することで、光ファイバテープ心線の側方に樹脂を多く配することが可能となるため、図4に示すコーティングダイス10Gで作製された光ファイバテープ心線は、上面、下面及び側面から加わる圧力を効率よく分散させることができ、より伝送損失変動の低減を図ることができる。
【0017】
<光ファイバテープ心線の製造方法>
次に、本発明のコーティングダイス10を用いた光ファイバテープ心線の製造方法について説明する。図5は、光ファイバテープ心線の製造の際に用いる製造装置の一例を模式的に示した図である。図5に示す製造装置は、複数本の光ファイバ31を供給する送り出し装置21と、この送り出し装置21から供給される複数本の光ファイバ31を平行に接した状態に整列させるローラ22と、整列された複数本の光ファイバ31がキャビティ2内に導入され、その外周に樹脂液タンク23から供給された紫外線硬化型樹脂を塗布する本発明のコーティングダイス10と、コーティングダイス10から出された樹脂液塗布済みの光ファイバ31aに紫外線を照射して該樹脂液を硬化させて被覆層を形成するように光ファイバ31の流れ方向に設けられた紫外線照射器24と、その樹脂液の硬化により得られた光ファイバテープ心線31bを巻き取る巻き取り装置25とから概略構成されている。
【0018】
まず、複数本の光ファイバ31を送り出し装置21内のリール(不図示)にそれぞれセットし、それぞれの先端部をローラ22に通して整列させ、コーティングダイス10のキャビティ2内に挿入し、紫外線照射器24を通して巻き取り装置25に巻きつける。
【0019】
光ファイバ31としては、特に限定されず、従来公知のものを用いることができる。
【0020】
送り出し装置21としては、複数のボビンに巻かれた光ファイバ31を送り出すことができれば特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。なお、図示してはいないが、この送り出し装置21は、各々の光ファイバにかかる張力を独立して調整できる機構を有している。
ローラ22としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
【0021】
次に、樹脂液タンク23内に未硬化の紫外線硬化型樹脂液を入れ、コーティングダイス10内に供給可能な状態とする。さらに、紫外線照射装置24の紫外線ランプを点灯する。その後、送り出し装置21による複数本の光ファイバ31の送り出し動作、紫外線硬化型樹脂液のコーティングダイス10への供給、および巻き取り装置25の巻き取り動作をそれぞれ開始する。
【0022】
紫外線硬化型樹脂液としては、従来から石英系光ファイバの被覆層の形成に用いられている各種の紫外線硬化型樹脂の中から、1種又は2種以上を適宜選択して用いることができ、例えば、紫外線硬化型ウレタンアクリレート系樹脂等が挙げられる。この樹脂液は、図示していない圧送機構によりコーティングダイス10に供給される。
【0023】
樹脂液タンク23、紫外線照射装置24、巻き取り装置25としては、特に限定されるものではなく、従来公知のものを用いることができる。
【0024】
送り出し装置21から出た複数本の光ファイバ31は、ローラ22で整列され、コーティングダイス10のキャビティ2内に挿入される。コーティングダイス10を通過する際に、整列された光ファイバ31の外周に紫外線硬化型樹脂液が塗布される。この際、キャビティ2の上面2aと下面2bとには、各光ファイバ31同士が接触している部位に凸部3が形成されているため、該光ファイバ31同士の接触部位に塗布される紫外線硬化型樹脂液の量は、従来のものよりも多く塗布される。コーティングダイス10を出た樹脂液塗布済みの光ファイバ31aは、紫外線照射器24を通過する際に紫外線が照射され、該紫外線硬化型樹脂液が硬化する。以上で、光ファイバテープ心線31b(30)が得られる。
【0025】
本発明のコーティングダイス10を用いて作製することで、得られる光ファイバテープ心線31b(30)の上面32a及び下面32bにおいて、各光ファイバ素線間に配された表面の樹脂に凹みが発生せず、平坦な面とすることができる(図6参照)。特に、本発明のコーティングダイス10を既存の光ファイバテープ心線の製造装置に備えられた従来のコーティングダイスと置換するだけでよいので、低コストで簡便に、平坦な面を有した光ファイバテープ心線31b(30)を得ることができる。
【0026】
<光ファイバテープ心線>
図6は、本発明のコーティングダイス10を用いて作製された光ファイバテープ心線30A(30)を模式的に示した断面図である。図6は、4本の光ファイバ31が平行に密接状態に並べられ、それらが樹脂からなる被覆層32で被覆され、テープ状に構成された光ファイバテープ心線(4心テープ心線)を例示している。なお、光ファイバ31の本数は本例示に限定されず、複数本であればよい。
【0027】
本発明のコーティングダイス10を用いて作製された光ファイバテープ心線30は、その上面32aと下面32bとが略一面をなしている。そのため、光ファイバテープ心線30に、図11に示したように圧力が加わった際に、該圧力が加わる部位が従来のように光ファイバ31上にのみ集中することなく、被覆層32にも均一に加わる(図11(a)と同様な圧力の加わり方となる)。そのため、該圧力は効果的に分散され、該圧力によって生じる光ファイバテープ心線の伝送損失変動の減少を図った光ファイバテープ心線30Aを得ることができる。また、特許文献2に記載の光ファイバテープ心線とは異なり、光ファイバ31は互いに接触させて配することが可能なため、より高密度に光ファイバ31が配された光ファイバテープ心線30とすることができる。
また、図10(b)に示す従来の光ファイバテープ心線110を積層してケーブルを作製した際には、光ファイバテープ心線間に凹み113に由来する隙間が生じる。このような隙間があると、該隙間に水が浸入した場合、毛細管現象で隙間を伝って水が流れてしまい、ケーブルの伝送特性の低下につながる。本発明の光ファイバテープ心線30は、その上面32aと下面32bとが平坦であるため、光ファイバテープ心線を隙間なく積層することができる。ゆえに、光ファイバテープ心線間に水等の不要なものの侵入を防ぐことができ、伝送特性の低下を抑制することができる。
さらに、光ファイバテープ心線30を、直接シースで被覆した際には、図10(b)に示す従来の凹み113があった光ファイバテープ心線110よりも、シースと接触する面積が少ないため、容易にシースを剥離することが可能となる。ゆえに、シースから光ファイバテープ心線30の取出しが容易となる。
【0028】
図7は、本発明のコーティングダイス10を用いて作製された光ファイバテープ心線30B(30)の他の一例を模式的に示した断面図である。図7に示した光ファイバテープ心線30Bは、1層の被覆層32で形成された光ファイバテープ心線30Aが複数、一括被覆されてなるものである。本発明のコーティングダイス10を用いて、光ファイバの直径+40μm以下の厚さの光ファイバテープ心線30Bを作製することで、図7に示すように、複数の光ファイバテープ心線30Aを被覆する際にも、その上面33a及び下面33bを平坦とすることができる。そのため、上述したように圧力によって生じる伝送損失変動の低減を図ることができる。
また、図8は、従来のコーティングダイスで被覆層を形成した複数の光ファイバテープ心線110が、本発明のコーティングダイス10で形成された被覆層33により被覆された光ファイバテープ心線30C(30)の例を模式的に示したものである。図8に示すように、最外層の被覆層33を本発明のコーティングダイス10で形成することによって、光ファイバの直径+40μm以下の厚さの光ファイバテープ心線であっても、最外層33の上面33a及び下面33bを平坦とすることができる。ゆえに、上述したように圧力によって生じる伝送損失変動の低減を図ることができる。
【実施例】
【0029】
<実施例>
図1に示すコーティングダイスを用いて、270μm厚の光ファイバテープ心線の作製を行なった。光ファイバテープ心線として、直径が260μmの着色心線を4本用いた。また、コーティングダイスのキャビティのサイズは、縦265μm、横1060μmとした。各凸部の面積は、それぞれ2000μm2とした。
【0030】
<比較例1>
実施例において、各凸部の面積を0μm2、すなわち、凸部が配されていないキャビティを備えたコーティングダイスを用いたこと以外は、実施例と同様にして光ファイバテープ心線を作製し、これを比較例1とした。
【0031】
<比較例2>
実施例において、各凸部の面積を1300μm2としたこと以外は実施例と同様にして光ファイバテープ心線を作製し、これを比較例2とした。
【0032】
上述した実施例及び比較例1〜2で得られた光ファイバテープ心線において、その上面と他面とに形成された凹みの面積を測定した。なお、凹みの面積は、該凹みの面積が最大となるように、光ファイバ素線の長手方向と垂直な方向で光ファイバテープ心線を切断して測定した。その結果を、表1に示す。また、実施例及び比較例1〜2で得られた光ファイバテープ心線の断面を図9に模式的に示す。なお、図9(a)は比較例1、図9(b)は比較例2、図9(c)は実施例で得られた光ファイバテープ心線90A,90B,90Cをそれぞれ示している。また、図中、91は光ファイバ、92は被覆層、93a(93),93b(93)は凹みをそれぞれ示している。
【0033】
【表1】
【0034】
表1及び図9より、キャビティに凸部が配されたコーティングダイスを用いることで、得られた光ファイバテープ心線90の上面と下面とに生じる凹み93の面積を減少させることができた。特に、凸部の面積を2000μm2としたコーティングダイスを用いることで、得られた光ファイバテープ心線90Cは、その上面及び下面に凹みが観察されず、一面をなしていた。
【0035】
<比較例3>
次に、比較例3として直径260μmの光ファイバを用い、図10(a)に示すような320μ厚の光ファイバテープ心線を作製し、これを比較例3とした。
【0036】
実施例と比較例3で得られた光ファイバテープ心線において、490N/10cmまたは980N/10cmの側圧を印加し、印加時と印加後とにおける伝送損失変動の測定を行なった。その結果を表2に示す。
【0037】
【表2】
【0038】
表2より、いずれの光ファイバテープ心線においても、伝送損失の変動は0.005dB以下であった。このことより、本発明の光ファイバテープ心線は、テープ化材が厚い320μm厚の光ファイバテープ心線と同等の側圧特性をもち、信頼性の高い光ファイバテープ心線が得られていることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、表面が平坦で、かつ伝送損失変動の生じ難い光ファイバテープ心線の製造に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のコーティングダイスの一例を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明のコーティングダイスの他の一例を模式的に示した断面図である。
【図3】本発明のコーティングダイスの他の一例を模式的に示した断面図である。
【図4】本発明のコーティングダイスの他の一例を模式的に示した断面図である。
【図5】本発明の光ファイバテープ心線の製造に用いることができる製造装置の一例を模式的に示した図である。
【図6】本発明の光ファイバテープ心線の一例を模式的に示した断面図である。
【図7】本発明の光ファイバテープ心線の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図8】本発明の光ファイバテープ心線の他の一例を模式的に示した断面図である。
【図9】実施例及び比較例における光ファイバテープ心線の断面を模式的に示した図である。
【図10】従来の光ファイバテープ心線を模式的に示した断面図である。
【図11】従来の光ファイバテープ心線に圧力が加わった際の様子を模式的に示した図である。
【符号の説明】
【0041】
1 筐体、2 キャビティ、3 凸部、10(10A,10B,10C,10D,10E,10F,10G) コーティングダイス、21 送り出し装置、22 ローラ、23 樹脂液タンク、24 紫外線照射装置、25 巻き取り装置、30(30A,30B) 光ファイバテープ心線、31 光ファイバ、32 一括被覆層、33 樹脂層。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筺体と、該筐体を貫通するように設けられたキャビティとから少なくともなり、該キャビティに複数の光ファイバが平行にシート状に並べて挿通され、前記キャビティに樹脂液が供給されて該樹脂からなる被覆層が形成される光ファイバテープ心線の製造に用いられるコーティングダイスであって、
前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面には、それぞれ前記光ファイバの接触した部位間に位置するよう、外方に向けて突出する凸部が配されていることを特徴とするコーティングダイス。
【請求項2】
前記凸部が、前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの厚み部分に対向する面にも配されていることを特徴とする請求項1に記載のコーティングダイス。
【請求項3】
光ファイバを複数本平行に並べ、該光ファイバを樹脂で被覆する光ファイバテープ心線の製造方法であって、
前期光ファイバを複数本平行に並べ、請求項1または2に記載のコーティングダイスのキャビティに前記複数本の光ファイバを挿通する工程と、
前記キャビティに樹脂液を供給し、該樹脂液で前記光ファイバ素線を一括被覆する工程とを少なくとも有していることを特徴とする光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光ファイバテープ心線の製造方法で得られ、平行に並べて配された複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバをテープ状に被覆する被覆層とからなる光ファイバテープ心線であって、
前記被覆層の一面と他面とが、平坦となっていることを特徴とする光ファイバテープ心線。
【請求項1】
筺体と、該筐体を貫通するように設けられたキャビティとから少なくともなり、該キャビティに複数の光ファイバが平行にシート状に並べて挿通され、前記キャビティに樹脂液が供給されて該樹脂からなる被覆層が形成される光ファイバテープ心線の製造に用いられるコーティングダイスであって、
前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの上面と下面とに対向する面には、それぞれ前記光ファイバの接触した部位間に位置するよう、外方に向けて突出する凸部が配されていることを特徴とするコーティングダイス。
【請求項2】
前記凸部が、前記キャビティの壁面のうち、シート状に平行に挿通された光ファイバの厚み部分に対向する面にも配されていることを特徴とする請求項1に記載のコーティングダイス。
【請求項3】
光ファイバを複数本平行に並べ、該光ファイバを樹脂で被覆する光ファイバテープ心線の製造方法であって、
前期光ファイバを複数本平行に並べ、請求項1または2に記載のコーティングダイスのキャビティに前記複数本の光ファイバを挿通する工程と、
前記キャビティに樹脂液を供給し、該樹脂液で前記光ファイバ素線を一括被覆する工程とを少なくとも有していることを特徴とする光ファイバテープ心線の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載の光ファイバテープ心線の製造方法で得られ、平行に並べて配された複数の光ファイバと、前記複数の光ファイバをテープ状に被覆する被覆層とからなる光ファイバテープ心線であって、
前記被覆層の一面と他面とが、平坦となっていることを特徴とする光ファイバテープ心線。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−72316(P2010−72316A)
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−239367(P2008−239367)
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】
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