説明

コーティング組成物および光学物品

【課題】 高屈折率プラスチックレンズや発色を機能とする高屈折率のフォトクロミックプラスチックレンズなどの光透過性部材上に塗布し硬化させて得られるハードコート膜に好適に使用される、高屈折率、耐擦傷性および光学基材との優れた密着性を保持したまま、著しく耐候性(変色防止)を向上したコーティング組成物を提供する。
【解決手段】 特定の光照射試験方法により選択され異なる性質を持つ(A)酸化チタンを含む金属酸化物微粒子と(B)酸化チタンを含む金属酸化物微粒子とを併用し、且つ、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランなどの(C)エポキシ基含有有機珪素化合物、(D)水、メチルアルコールなどの(E)有機溶媒、及びアルミニウムアセチルアセトナートや過塩素酸マグネシウムなどの(F)硬化触媒を、各々特定の組成で含んでなるコーティング組成物である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック製の高屈折率レンズ、特に高屈折率フォトクロミックレンズなどの光透過性部材の表面に、耐擦傷性、耐候性、耐久性を付与するために設けられるハードコート層を形成するためのコーティング組成物、並びに当該ハードコート層を有する光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックレンズは、軽さ、安全性、易加工性、ファッション性などのガラスレンズにはない特徴を有し、現在眼鏡レンズ分野では主流となっている。また、近年プラスチックレンズは、薄型化を図って高屈折率化が進んでいる。
【0003】
一方、プラスチックレンズは傷が付きやすい欠点があるために、シリコーン系のハードコート層を表面に設けることで、かかる欠点を改善している。しかしながら、基材のプラスチックレンズが高屈折率化しているため、ハードコート層も高屈折率化させないと、レンズ基材とハードコート層の屈折率の差による干渉縞が発生して外観上好ましくないという問題が生じる。このハードコート層の形成に使用されるコーティング組成物(「コート液」または「コート材」とも称される)は、一般に金属酸化物微粒子、重合可能な有機官能基を有するアルコキシシラン化合物、硬化触媒、酸水溶液及び有機溶媒を主成分とする液状組成物であり、基材に塗布後、加熱して硬化させると共に溶媒を揮発させることにより膜とするものである。
【0004】
上記問題を解決するために、コーティング組成物に配合される無機酸化物微粒子として、高屈折率を有する酸化チタンや酸化ジルコニウムを用いる技術が提案された(特公昭63-37142号公報)。更には、これらの複合酸化物を用いる技術も提案されている(特開平11-310755号公報)。ところが、このような高屈折率用のハードコート層は紫外線の照射を受けて青色や黄色に変色するという問題を有することが明らかとなってきた。ハードコート層の変色は、プラスチックレンズが着色することに繋がり、長期間使用した際に外観不良の原因となる。
【0005】
上記ハードコート層の着色、即ち耐候性を改良する技術として,酸化チタンと酸化スズを、更にはこれらに酸化ジルコニアを原子レベルで結合させた複合金属酸化物を用いる技術が提案されている(特許第3069330号公報、特許第4022970号公報、特許第4069330号公報)。これらの技術においては、酸化チタンを含む複数の金属酸化物が原子レベルで複合化され、紫外線照射による耐候性能の向上を図っているが、未だ不十分であった。また、酸化チタンを含む微粒子を核として、その周囲を酸化ジルコニウム、酸化ケイ素などの微粒子で被覆する技術も提案されているが(特許第3203142号公報)、前記の技術同様にその耐候性能は未だ不十分である。
【0006】
さらに、酸化チタンが還元されて青色に変色する問題を解決するために、酸化チタンを含む微粒子と、酸化チタンを含まない微粒子とを組み合わせる方法も提案されている(特開2008−310005号公報)。しかしながら、この方法では、酸化チタンを含まない微粒子を使用するため、高屈折レンズへの適用ができなくなる場合があり、さらに、青色に変色する問題を解決することはできるが、黄色に変色する酸化チタンを含む微粒子に対してはその変色を防止する効果が発揮されない欠点があり、改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭63-37142号公報
【特許文献2】特開平11-310755号公報
【特許文献3】特許第3069330号公報
【特許文献4】特許第4022970号公報
【特許文献5】特許第4069330号公報
【特許文献6】特許第3203142号公報
【特許文献7】特開2008−310005号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上記金属酸化物微粒子の改良とは異なる観点で変色の問題を検討した結果、金属酸化物微粒子を含む分散液の「YI」(JIS K7103に規定される黄色味の指数)値に着目し、それを含む分散液が異なる「YI」を示す金属酸化物微粒子の選択とその併用により、紫外線の照射後の変色が防止できることを見出し、本発明を完成するに至った。この種の観点からのハードコート層の変色防止の解決思想は未だ存在しない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
即ち、本発明によれば、
(A)下記の光照射試験により、形成されるコート膜のΔYIの値が0.5〜10.0となる酸化チタンを含む金属酸化物微粒子、
(B)下記の光照射試験により、形成されるコート膜のΔYIの値が−0.1〜−1.0となる酸化チタンを含む金属酸化物微粒子、
(C)エポキシ基含有有機珪素化合物、
(D)水、
(E)有機溶媒、及び
(F)硬化触媒
を含んでなるコーティング組成物であって、
(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部に対して、(D)水を5〜70質量部、(E)有機溶媒を100〜350質量部、(F)硬化触媒を0.2〜10質量部含み、
(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部の内訳が、(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子との総量が20〜60質量部であり、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物が40〜80質量部であり、且つ、(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子との質量比(B/A)が0.2〜6.0であることを特徴とするコーティング組成物が提供される。
[光照射試験]
1)コート液の調製;γ−グリシドキシプロピルトリメチルメトキシシラン60質量部に、0.05N塩酸水溶液13.4質量部を温度15〜30℃の範囲に保ち、攪拌しながら添加する。その後、約2時間撹拌を継続し、これにシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名「L−7001」)0.2質量部、t−ブチルアルコール120質量部、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)0.7質量部を順次添加する。この溶液を室温で30分撹拌した後、分散媒に分散された金属酸化物微粒子40質量部(分散媒を除く)を加え、更に室温で2時間撹拌し、コート液とする。
2)コーティング方法;上記で得られたコート液にガラスプレートを浸し、最終的に得られるコート膜の膜厚が約2μmになるように10〜30cm/分の速度でガラスプレートをコート液から引き上げる。その後、70℃で10分、110℃で2時間硬化し、ガラスプレート上に膜厚約2μmのコート膜を有する積層体を得る。
3)積層体の光照射試験;窒素雰囲気下で、得られた積層体に405nmの波長の紫外線を強度150mW/cmで5分間照射した際の黄色度(YI)を測定し、該紫外線を照射する前の積層体の黄色度(YI)との差(ΔYI=YI−YI)を求める。
上記コーティング組成物において
(B)金属酸化物微粒子が、シランカップリング剤で表面が被覆された酸化チタン微粒子を含む複合金属酸化物微粒子であること
が好適である。
【0010】
本発明によれば、また、
光透過性部材と該光透過性部材の表面に形成されたハードコート層とからなり、該ハードコート層が、上記記載のコーティング組成物を硬化させて得られた層であることを特徴とする光学物品が提供される。
上記光学物品において、
(1)光透過性部材が、フォトクロミック性を有する光透過性部材であること
(2)フォトクロミック性を有する光透過性部材が、光学基材の表面にフォトクロミック化合物を含む硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミックコート層を有するものであり、該フォトクロミックコート層の表面にハードコート層が形成されていること
が好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明のコーティング組成物を光透過性部材上に塗布し硬化させて得られるハードコート層は、高屈折率、耐擦傷性および光透過性部材との優れた密着性を保持したまま、著しく耐候性(変色防止)を向上しうる。従って、通常の高屈折率プラスチックレンズのみならず発色を機能とする高屈折率、更には超高屈折率のフォトクロミックプラスチックレンズに好適にも適用される。また、本発明のコーティング組成物は、その解決手段からして既存のものが利用できるので簡便な方法であり、その工業的利用価値は極めて高いものである。
【0012】
なお、本発明において、外観上変色が防止できる理由については明確に解明されているわけではないが、本発明者らは次のように推定している。
即ち、紫外線照射により黄変する(A)金属酸化物微粒子と青変する(B)金属酸化物微粒子とを混合して用いた結果、形成されたコート層中で(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子両者間にて酸化・還元されることで色調変化が抑制されていると推定している。つまり、酸化チタンは、一般的に光還元されて青色を呈するが、酸化チタンの表面および近傍に光還元された酸化チタンを酸化する金属酸化物を共存させることにより、色調変化が抑制されているものと推定している。黄変する(A)金属酸化物微粒子は酸化チタンを酸化する金属酸化物が多い状態、青変する(B)金属酸化物微粒子は酸化チタンを酸化する金属酸化物が少ない状態と推定しており、この両者が共存することで酸化チタンを含む金属酸化物の酸化・還元反応が抑制され、色調変化が抑制されているものと推定している。
【0013】
さらに、(A)金属酸化物微粒子、および(B)金属酸化物微粒子を前記特定の割合で組み合わせることにより、耐擦傷性および耐候性も改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のコーティング組成物は、(A)分散液の「YI」の値が0.5〜10.0となる酸化チタンを含む金属酸化物微粒子(以下、「(A)金属酸化物微粒子」ともいう)、(B)分散液の「YI」の値が−0.1〜−1.0となる酸化チタンを含む金属酸化物微粒子(以下、「(B)金属酸化物微粒子」ともいう)、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物および(F)硬化触媒を主成分として液中に分散してなるものであり、(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子を予め下記の方法で選択し、次いでこの両者を所定の比率で組み合わせることが重要である。
【0015】
各金属酸化物微粒子の選択は、以下の光照射試験によって実施される。
[光照射試験]
1)コート液の調製;γ−グリシドキシプロピルトリメチルメトキシシラン60質量部に、0.05N塩酸水溶液13.4質量部を温度15〜30℃の範囲に保ち、攪拌しながら添加する。その後、約2時間撹拌を継続し、これにシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名「L−7001」)0.2質量部、t−ブチルアルコール120質量部、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)0.7質量部を順次添加する。この溶液を室温で30分撹拌した後、分散媒に分散された金属酸化物微粒子40質量部(分散媒を除く)を加え、更に室温で2時間撹拌し、コート液とする。
2)コーティング方法;上記で得られたコート液にガラスプレートを浸し、最終的に得られるコート膜の膜厚が約2μmになるように10〜30cm/分の速度でガラスプレートをコート液から引き上げる。その後、70℃で10分、110℃で2時間硬化し、ガラスプレート上に膜厚約2μmのコート膜を有する積層体を得る。
3)積層体の光照射試験;窒素雰囲気下で、得られた積層体に405nmの波長の紫外線を強度150mW/cmで5分間照射した際の黄色度(YI)を測定し、該紫外線を照射する前の積層体の黄色度(YI)との差(ΔYI=YI−YI)を求める。
なお、該光照射試験は、窒素雰囲気下で実施しているため再現性よく黄色度を求めることができる。さらに、窒素雰囲気下で実施しているため、該積層体のコート膜上に酸素を遮断する反射防止膜を形成したものと同じ評価が可能となる。
【0016】
(A)金属酸化物微粒子は、上記のとおりの光照射試験により選択されるものであり、市販の、有機溶媒などの分散媒中に分散された酸化チタンを含む金属酸化物微粒子のゾルから選ぶのが最も好適である。ゾルの場合の上記光照射試験方法は、以下のとおりに実施する。
ゾル中の金属酸化物微粒子の含有量を予め把握しておき、その量を基準にして添加するγ−グリシドキシプロピルトリメチルメトキシシランその他の量を決定し上記記載の方法に準じて測定する。当該試験液中には、ゾル由来のメタノールなどの有機溶媒、水、硬化触媒、レベリング剤(界面活性剤)等が存在するが、有機溶媒及び水は加熱工程でほとんど揮発する。また、他の配合物は、前記耐候性試験結果に影響しない程度の配合量である。これらの理由により、本光照射試験ではその測定値に関与しないことを確認した。
【0017】
このようなゾルとしては、
・酸化チタン(56.6質量%)、酸化ジルコニウム(17.7質量%)、酸化珪素(11.0質量%)および五酸化アンチモン(14.7質量%)を含む複合金属酸化物微粒子がメタノールに分散されてなる「HIT-335M6」{日産化学工業(株)製、固形分濃度30%;ΔYI=1.3}、
・酸化チタン(30.0質量%)、酸化スズ(36.7質量%)、酸化ジルコニウム(10.0質量%)、酸化珪素(6.7質量%)(6.7質量%)を含む複合金属酸化物微粒子がメタノールに分散されてなる「HIT-317M6」{日産化学工業(株)製、固形分濃度30%;ΔYI=6.0}
等がある。なお、この(A)金属酸化物微粒子は、例えば特許4069330号に記載の製法に従って調製し、前記「光照射試験」方法によりΔYIを測定して、選択することもできる。
【0018】
同様に、(B)金属酸化物微粒子も光照射試験により選択されるものであり、市販の、酸化チタンを含む金属酸化物微粒子のゾルから選ぶのが最も好適である。このようなゾルとしては、
・酸化チタン(66.6質量%)、酸化ジルコニウム(4.7質量%)および酸化珪素(32.2質量%)を含む複合金属酸化物微粒子がメタノールに分散されてなる「TY106」{触媒化成(株)製、固形分濃度30%;ΔYI=−0.3}、
・酸化チタン(78.0質量%)、酸化ジルコニウム(1.6質量%)および酸化珪素(19.6質量%)を含む複合金属酸化物微粒子がメタノールに分散されてなる「TY108」{触媒化成(株)製、固形分濃度30%;ΔYI=−0.5}、
・酸化チタン(81.7質量%)、酸化ジルコニウム(1.5質量%)および酸化珪素(16.1質量%)を含む複合金属酸化物微粒子がメタノールに分散されてなる「TY109」{触媒化成(株)製、固形分濃度25%;ΔY=−0.5}
等がある。なお、この(B)金属酸化物微粒子は、例えば特許3203142号に記載の製法に従って調製し、前記「光照射試験」方法によりΔYIを測定して、選択することもできる。
【0019】
(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子は、何れも酸化チタンを含む微粒子であるが、ΔYIが異なるのは、酸化チタンの近傍に存在する金属酸化物の結合状態や種類等により、酸化チタンの酸化・還元状態が変化することが影響しているものと考えられる。或いは、酸化チタン自体は青変するものの、酸化チタン以外に黄変する金属酸化物が配合されているからとも考えられる。
何れにしても、(A)金属酸化物微粒子および(B)金属酸化物微粒子は、少なくとも酸化チタンを含むことが、得られるハードコート層の高屈折率化の目的のために必要であるが、他の金属酸化物との複合化の形態は問わない。例えば、酸化チタンと他の金属酸化物を原子レベルで複合化させた複合金属酸化物微粒子、或いは酸化チタン微粒子の周囲を他の金属酸化物微粒子で被覆した状態の複合金属酸化物微粒子、更には、前記2種類の状態を併用したような状態(酸化チタンと他の金属酸化物を原子レベルで複合化させた複合金属酸化物微粒子の周囲を、他の金属酸化物微粒子で被覆した状態の複合金属酸化物微粒子)などが挙げられる。
【0020】
酸化チタン以外の金属酸化物としては、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化スズ、五酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化鉄、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化亜鉛、酸化セリウム、酸化タリウム、酸化ランタンなどが挙げられ、これらは、上記のとおり、酸化チタン微粒子をコアとしてその外周表面にさらに小さい微粒子状で積層構造にして存在させたり、更には原子レベルで複合化させて一体の複合金属酸化物微粒子とすることができる。
【0021】
これらの金属酸化物微粒子の大きさは、ハードコート層の透明性や保存安定性を勘案して任意に選択しうるが、通常、平均粒子径が1〜300nm、好ましくは1〜200nmのものが採用される。
【0022】
上記のとおり、各金属酸化物微粒子は、その金属酸化物の種類、複合構造、微粒子の粒子径などをその目的に応じて任意に組み合わせることができるが、酸化チタンの光安定性、保存安定性などを向上させるために、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化スズなどの金属酸化物と併用することが好ましい。
【0023】
これら金属酸化物微粒子は、通常、水やメタノールなどの分散媒中に分散されて保存される。また、当該分散媒中での分散安定性を向上させる目的で、シランカップリング剤として公知の有機珪素化合物、或いはアミン化合物やカルボン酸などで被覆しても良い。
【0024】
これら金属酸化物微粒子は、構成する金属酸化物の種類、被覆処理する化合物の種類、およびその処理の度合い等が異なるため、一概に限定することはできないが、シランカップリン剤で表面が被覆された酸化チタン微粒子を含む金属酸化物微粒子が(B)金属酸化物微粒子に該当する傾向にあり、シランカップリング剤で表面被覆されておらず、アミン化合物で表面修飾されたものが(A)金属酸化物微粒子に傾向にある。
【0025】
金属酸化物微粒子{(A)または(B)}の分散媒としては、水もしくは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、n−ブチルアルコール、変性アルコールなどのアルコール系有機溶媒が好ましく、特にメタノールが好ましい。
【0026】
また、この時の分散媒中に占める金属酸化物微粒子の比率は、20質量%〜50質量%が好ましく、より好ましくは25質量%〜45質量%である。20質量%未満では、ハードコート層の屈折率を高く、また高固形分濃度のコーティング組成物を作る原料として適せず、その結果屈折率、膜厚及び擦傷性等を満足することが出来なくなる傾向にある。それに対し、50質量%より多い場合には、分散媒中における金属酸化物微粒子が不安定となり、安定したコーティング組成物を作る原料として適しなくなる。
【0027】
(A)金属酸化物微粒子、および(B)金属酸化物微粒子の含有量およびその含有比は、(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部に対して、(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子との総量が20〜60質量部であり、且つ、(A)成分と(B)成分の質量比(B/A)が0.2〜6.0とする。
(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子との総量が20質量部未満であると、得られるハードコート膜の高屈折率化が困難となる。同じく60質量部を超えると得られるハードコート膜と高屈折率レンズ基材との密着性が低下したり、ハードコート膜にクラックなどの外観不良が生じて好ましくない。
【0028】
また、両者の質量比(B/A)が、0.2未満である場合には、紫外線照射後のハードコート層の色が黄変しやすくなり、さらに、耐擦傷性が低下するため好ましくない。一方、6.0を超える場合には青変しやすくなり、さらに、耐候性が低下し、促進試験後の密着性が低下するため好ましくない。黄変・青変の問題、耐擦傷性、および耐候性等を考慮すると、両者の質量比(B/A)は、より好ましくは0.25〜5.0であり、さらに好ましくは0.5〜5.0である。
なお、(A)金属酸化物微粒子並びに下記の(B)金属酸化物微粒子の上記含有量は、ゾルから調製される場合は、ゾル中の有機溶媒や水などの分散媒を除いた値であり、実質的には分散媒が揮発した後に残存する固形分を意味する。
【0029】
(C)エポキシ基含有有機珪素化合物は、上記の金属酸化物微粒子のバインダーとしての機能を有し、しかもハードコート層中でマトリックスとなる透明な硬化体を形成し、更にプラスチックレンズ基材との密着性を向上させるものである。一般にシランカップリング剤として知られている従来公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0030】
具体的には、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。これらの化合物は一部加水分解したり縮合する場合があるので、エポキシ基含有有機珪素化合物中の加水分解性基の一部或いは全部が加水分解したもの又は一部縮合したものも含まれる。
【0031】
本発明においては、広く知られるシランカップリング剤の中から、有機官能基としてエポキシ基を有する上記の(C)エポキシ基含有有機珪素化合物が、得られるハードコート層とプラスチックレンズ基材のような光透過性部材との密着性、ハードコート層の硬度などのバランス等の観点から好適に使用される。
【0032】
(C)エポキシキ含有有機珪素化合物の含有量は、((A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部に対して、40〜80質量部である。この値が40質量部未満である場合は、得られるハードコート層と高屈折率レンズのような光透過性部材との密着性が低下したり、ハードコート層にクラックなどの外観不良が生じて好ましくない。また、80質量部を超えると得られるハードコート層の高屈折率化が困難となる。なお、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物は一部加水分解したり縮合したりするので、上記含有量は調製時の値であり、コーティング組成物中には時間の経過と共に当該(C)エポキシ基含有有機珪素化合物由来の加水分解物や縮合物が含まれることもある。
【0033】
(D)水は、上記(C)エポキシキ含有有機珪素化合物の加水分解を促進させるために必要な成分である。即ち、本発明のコーティング組成物では、前記(C)エポキシ基含有有機珪素化合物が加水分解し、この加水分解物が金属酸化物微粒子を取り込んだ形で重合硬化してマトリックスとなる硬化体を形成し、金属酸化物微粒子が緻密にマトリックス中に分散したハードコート層が形成される。この加水分解を促進させるために、水の配合が必要となる。
上記水の配合量は、(C)エポキシキ含有有機珪素化合物などのシランカップリング剤に含まれる加水分解性基(アルコキシシリル基)に相当する総モル数の1.0倍〜4.0倍モル数となるように配合するのが好適である。
【0034】
(D)水の含有量は、(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部に対して、5〜70質量部である。含有量が5質量部より少ない場合には、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物に含まれるアルコキシシリル基の加水分解が不十分であるため、密着性や硬度が低下する。70質量部より多い場合は、塗れ性が低下するためハードコート層に外観不良が生じる。
【0035】
また、使用される(D)水は、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の加水分解を促進するために酸水溶液の形で添加されても構わない。例えば、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸等の無機酸、または酢酸、プロピオン酸等の有機酸を水溶液の形で添加することができる。これらの中でも、コーティング組成物の保存安定性、加水分解性の観点から、塩酸及び酢酸が好適に使用される。この場合、酸水溶液の濃度は、0.001〜0.5N、特に0.01〜0.1Nであるのが好適である。
【0036】
なお、前述の通り、本発明において使用される金属酸化物微粒子は、水や後述する有機溶媒に分散させた分散液(ゾル)の形態で提供されることが一般的である。このような場合には、金属酸化物微粒子の分散液に含まれる水の量を考慮して、コーティング組成物中に存在する水の量が、上記範囲となるように調製される。
【0037】
本発明のコーティング組成物には、コーティング組成物の塗れ性、保存安定性などの観点から(E)有機溶媒を含有させることが好適である。本発明の前記(A)成分および(B)成分の金属酸化物微粒子は、一般にアルコールなどの有機溶媒を分散媒とするゾルとして市販されているので、当該ゾルを用いてコーティング組成物を調製する場合は、この(E)有機溶媒が必然的に含まれる。
【0038】
(E)有機溶媒は、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の溶剤となり且つ金属酸化物微粒子の分散媒となるものであるが、このような機能を有していると同時に、揮発性を有するものであれば公知の有機溶媒が使用できる。
このような(E)有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、2−ブタノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル等の低級カルボン酸の低級アルコールエステル類;セロソルブ、ジオキサン、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトンなどのケトン類;メチレンクロライド等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、その他にもN−メチルピロリドン、シクロヘキサノンなどが挙げられる。これら(E)有機溶媒は単独もしくは2種以上混合して使用することができる。
【0039】
これら(E)有機溶媒の中でも、必須成分の水との相溶性を有し、しかもコーティング組成物を塗布して硬化させる際に、容易に蒸発し、平滑なハードコート層が形成されるという観点から、特にメタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、ジアセトンアルコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、アセチルアセトンを使用するのが好ましい。また、このような(E)有機溶媒の一部は、先に述べたように、金属酸化物微粒子の分散媒として、予め該金属酸化物微粒子と混合されて供されることもできる。
【0040】
(E)有機溶媒の含有量は、(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部に対して、100〜350質量部である。100重量部より少ない場合はコーティング組成物中の固形分{(A)、(B)及び(C)成分}濃度が高くなり過ぎ、コーティング組成物の保存安定性の低下やコーティング時の外観不良(膜厚の不均一化)などを引き起こしやすくなる。また、350質量部より多い場合はコーティング組成物中の固形分濃度が低くなりすぎ、ハードコート層の膜厚が薄すぎたり、膜の硬度が不十分となる。なお、上記(E)有機溶媒の含有量は、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物が加水分解していない状態のものを基準とするものであり、該有機珪素化合物が加水分解して生じたアルコールは含まないものとする。
【0041】
(D)水は、一部分散媒としても機能し、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物中のアルコキシシリル基の加水分解によって生じたシラノールの安定化をする役目も果たす。また、(D)水と(E)有機溶媒の混合比(質量部比)は、D/E=0.014〜0.7とするのが好適であるが、ハードコート層の外観や保存安定性の観点から、特に0.06〜0.6の範囲が好ましい。
【0042】
(F)硬化触媒は、前述した(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の加水分解物の重合硬化を促進する機能を有し、それ自体公知のもの、例えば、アセチルアセトナート錯体、過塩素酸塩、有機金属塩、各種ルイス酸が使用され、これらは1種単独で使用することもできるし、2種以上を併用することもできる。
【0043】
アセチルアセトナート錯体としては、例えば特開平11−119001号公報に記されているもの、具体的には、アルミニウムアセチルアセトナート、リチウムアセチルアセトナート、インジウムアセチルアセトナート、クロムアセチルアセトナート、ニッケルアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、亜鉛アセチルアセトナート、コバルトアセチルアセトナート、銅アセチルアセトナート、ジルコニウムアセチルアセトナート等を挙げることができる。これらの中で、アルミニウムアセチルアセトナートやチタンアセチルアセトナートが好適である。
【0044】
過塩素酸塩としては、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸アルミニウム、過塩素酸亜鉛、過塩素酸アンモニウム等を例示することができる。有機金属塩としては、酢酸ナトリウム、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オクチル酸亜鉛等を例示することができる。ルイス酸としては、塩化第二錫、塩化アルミニウム、塩化第二鉄、塩化チタン、塩化亜鉛、塩化アンチモン等を例示することができる。
【0045】
本発明においては、比較的低温でも短時間で耐擦傷性の高いハードコート層が得られるという観点から、アセチルアセトナート錯体、或いは過塩素酸塩が特に好適であり、(F)硬化触媒の50質量%以上、特に70質量%以上、最適には(F)硬化触媒の全量がアセチルアセトナート錯体、或いは過塩素酸塩であるのがよい。
【0046】
(F)硬化触媒の含有量は、その特性によって変更し得るものであるが、通常(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部に対して、0.2〜10質量部の範囲から選択される。
【0047】
本発明のコーティング組成物は、上記の各種成分に加え、本発明の目的を損なわない限り、それ自体公知の添加剤を任意的に配合することができる。このような添加剤の例としては、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等を挙げることができる。また、本発明のコーティング組成物においては、(C)成分以外の有機珪素化合物として、加水分解可能なアルコキシ基が2個以上珪素原子に結合している公知の有機珪素化合物を好ましく配合することができる。
【0048】
このような有機珪素化合物を具体例に例示すれば、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシランの4量体、テトラエトキシシランの5量体、ビニルトリメトキシシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、n−オクチルトリエトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン、1,6−ビストリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、ビス[3−(ジエトキシメチルシリル)プロピル]カーボネート、トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリ(β−メトキシ−エトキシ)シラン、アリルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ−メルカプトプロピルトリアルコキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等及びこれらが一部或いは全部加水分解したもの又は一部縮合したもの等が挙げられる。
【0049】
これらの中でも、プラスチックレンズのような光透過性部材との密着性、架橋性をより向上させる有機珪素化合物としては、ビス[3−(ジエトキシメチルシリル)プロピル]カーボネートなどが挙げられる。また、形成されるハードコート層を緻密にし、得られる光学物品の耐擦傷性をより向上させる有機珪素化合物としては、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン等の加水分解が可能なアルコキシ基が4つ存在するもの、テトラエトキシシラン、またはテトラメトキシシランの2〜4量体(4量体の場合は、1分子にアルコキシ基が10個存在する)、メチルトリエトキシシラン、1,2−ビス(トリメトキシシリル)エタンなどが挙げられる。なお、上記有機珪素化合物は、(C)成分であるエポキシ基含有有機珪素化合物に加えて添加することが可能であり、1種類のみを追加使用することもできるし、2種類以上のものを併用して使用することもできる。特に、これらの中でも、上記密着性、架橋性を向上させる好ましい有機珪素化合物として例示した化合物と、耐擦傷性を向上させる好ましい有機珪素化合物として例示した化合物とを組み合わせて使用することが好ましい。
【0050】
これら有機珪素化合物を組み合わせて使用する場合、その種類に応じて配合量を決定すればよいが、密着性、架橋性をより向上させるためには、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物100質量部に対して、当該有機珪素化合物を0〜150質量部、さらに5〜120質量部使用することが好ましい。なお、該有機珪素化合物を使用する場合も、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物と同じく、上記(E)有機溶媒の含有量は、該有機珪素化合物が加水分解して生じたアルコールは含まないものとする。
【0051】
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、プラスチックレンズ基材への濡れ性の観点からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン系界面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール・ペンタエリスリトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンフィトステロール・フィトスタノール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油・硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン・ラノリンアルコール・ミツロウ誘導体、ポリオキシエチレンアルキルアミン・脂肪酸アミド、ポリオキシエチレンアルキルフェニルホルムアルデヒド縮合物、単一鎖ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。
界面活性剤の添加量は、前述した必須成分の(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部当たり、0.001〜1質量部の範囲が好ましい。
【0052】
更に、ヒンダードフェーノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル捕捉剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物やベンゾフェノン系化合物の紫外線吸収剤等も必要に応じて配合できる。これらの添加剤の配合量は、通常(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部当たり、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0053】
本発明のコーティング組成物は、各成分を既定量秤取り、次いで混合することにより調製することができる。しかしながら、前述のとおり、本発明に使用する金属酸化物微粒子は、一般に、水や有機溶媒中に分散したゾルとして提供されることが多いので、このゾル中の各成分の量比を把握した上で、最終的に、本発明の構成を満たすように計算して調製することもできる。
【0054】
各成分の添加順序は特に限定されず、全ての成分を同時に添加してもよいし、(C)エポキシキ含有有機珪素化合物及び任意に添加される(C)成分以外の有機珪素化合物を予め酸水溶液と混合して少なくとも一部が加水分解された形、あるいは加水分解物が一部縮合した部分縮合物の状態で、他の成分と混合することもできる。この場合、加水分解は、ハードコート層の物性に悪影響を与えず且つ保存安定性を低下させないようにするために10〜40℃の温度で行うことが好ましい。
【0055】
上記のようにして調製されて得られたコーティング組成物は、必要に応じて異物を取り除くための濾過を行った後、プラスチックレンズ等の光透過性部材の表面に塗布され、乾燥後、硬化することによりハードコート層が形成される。
このコーティング組成物の塗布方法としては、ディッピング法、スピンコート法、ディップスピンコーティング法、スプレー法、刷毛塗り法あるいはローラー塗り法などを採用できる。
【0056】
塗布後の硬化は、通常の加熱処理により行うことができる。加熱温度は基材によっても異なるが、60〜80℃で5〜30分程度の予備硬化を行い、その後、90℃〜120℃の温度で1〜3時間程度の硬化を行うのがよい。
上記のようにして形成されるハードコート層は、0.5〜10μm程度の厚みとすればよく、一般に、眼鏡レンズでは1.0〜5.0μmの厚みが好適である。
【0057】
本発明のコーティング組成物は、ハードコート層が設けられる公知の光透過性部材に適用することができる。光透過性部材を形成する材質を具体的に例示すれば、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、アリル系樹脂、チオウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、およびチオエポキシ系樹脂のようなプラスチックが挙げられる。さらに、下記に詳述するフォトクロミック性を有する光透過性部材のハードコート層に適用することができる。次に、このフォトクロミック性を有する光透過性部材について説明する。
【0058】
フォトクロミック性を有する光透過性部材(以下、フォトクロミック部材とする場合もある)は、紫外線照射時に発色するため、非常に色調が重要となる。本発明のコーティング組成物は、色調の変化が少ないため、該フォトクロミック部材表面のハードコート層に適用できる。フォトクロミック部材は、フォトクロミック化合物が光透過性部材内部に分散されたもの、或いは、例えば、上記に例示したプラスチックよりなる光学基材の表面に、フォトクロミック化合物が分散されたフォトクロミックコート層を有するものであってもよい。より具体的には、本発明のコーティング組成物は、(メタ)アクレート系モノマーなどの重合性単量体とフォトクロミック化合物とを含む重合硬化性組成物を練り込み法によりフォトクロミック部材としたもの、又は該光学基材の表面に、(メタ)アクレート系モノマーなどの重合性単量体とフォトクロミック化合物とを含む重合硬化性組成物を塗布し、次いで、硬化させてフォトクロミックコート層を形成してフォトクロミック部材としたもののハードコート層に好適に適用できる。
【0059】
中でも、後者のフォトクロミック部材は、フォトクロミックコート層が、通常、多量のフォトクロミック化合物を含むため、該フォトクロミック部材は耐候性が低下する(長期間の使用で黄変するなど)場合があったが、本発明のコーティング組成物よりなるハードコート層を該フォトクロミックコート層上に形成することにより、耐候性をも改善することができる。
【0060】
このフォトクロミック化合物としては、公知のクロメン化合物、スピロオキサジン化合物、フルギミド化合物などのフォトクロミック化合物が採用でき、紫外線照射時に発色する色調、発色濃度、退色速度、耐候性や溶解性などを勘案して複数組み合わせて使用してもよい。
【0061】
代表的なフォトクロミック化合物としては、特開平2−28154号公報、特開昭62−288830公報、WO94/22850号明細書、WO96/14596号明細書などに記載されている化合物が好適に使用できる。
また、優れたフォトクロミック性を有する化合物として、WO2008/023828号、WO2004/078364号、WO2005/028465号、WO02/090342号、WO03/042203号、WO01/60811号、特開2008-074832号、特開2004-262837号、特開2004-339184号、特開2004-203813号、特開2005−112772号、特開2005-187420号、特開2001-114775号、特開2001-031670号、特開2001-011067号、特開2001-011066号、特開2000-347346号、特開2000-344762号、特開2000-344761号、特開2000-327676号、特開2000-327675号、特開2000-256347号、特開2000-229976号、特開2000-229975号、特開2000-229974号、特開2000-229973号、特開2000-229972号、特開2000-219687号、特開2000-219686号、特開2000-219685号、特開平11-322739号、特開平11-286484号、特開平11-279171号、特開平10-298176号、特開平09-218301号、特開平09-124645号、特開平08-295690号、特開平08-176139号、特開平08-157467号等に記載の化合物も好適に使用することができる。
【0062】
これらフォトクロミック化合物の中でも、クロメン系フォトクロミック化合物は、他のフォトクロミック化合物に比べ、フォトクロミック特性の耐久性がよく、発色濃度が高く、さらに退色速度が速いため、好適に使用できる。さらに、これらクロメン系フォトクロミック化合物の中でも、その分子量が540以上の化合物は、他のクロメン系フォトクロミック化合物に比べ、より発色濃度が高く、より退色速度が早いため、特に好適に使用できる。
【0063】
本発明のコーティング組成物よりなるハードコート層が表面に形成された光透過性部材(光学物品)は、眼鏡レンズ、カメラレンズ、液晶ディスプレー、家屋や自動車の窓等の用途に使用することができ、中でも、眼鏡レンズの用途に好適に使用できる。
【0064】
本発明においては、前記コーティング組成物よりなるハードコート層が表面に形成された光学物品、特に眼鏡レンズのような光学物品には、さらに必要に応じて、該ハードコート層上に、酸化珪素、酸化チタニウム、酸化ジルコニウム等の無機酸化物から成る薄膜の蒸着や有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工及び2次処理を施すことも可能である。特に、本発明のコーティング組成物より形成されるハードコート層は、窒素雰囲気下において色調の変化が少ないため、該ハードコート層上に酸素を遮断する反射防止膜を設ける用途のもの、例えば、眼鏡レンズに好適に適用できる。
【0065】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。また、実施例の中で説明されている特徴の組み合わせすべてが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【実施例】
【0066】
以下に、本実施例及び比較例で使用した光透過性部材(プラスチックレンズ基材)、並びにコーティング組成物の調製に用いた各成分と略号を示す。
〔プラスチックレンズ基材:光透過性部材〕・・厚み2.0mm
レンズ1:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.60
レンズ2:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.67
レンズ3:チオエポキシ系樹脂プラスチックレンズ、屈折率=1.71
レンズ4:プラスチックレンズ基材表面にフォトクロミックコート層を有するレンズ
〔レンズ4の作製方法〕
ラジカル重合性単量体である平均分子量776の2, 2-ビス(4-アクリロイルオキシポリエチレングリコールフェニル)プロパン/ポリエチレングリコールジアクリレート(平均分子量532)/トリメチロールプロパントリメタクリレート/ポリエステルオリゴマーヘキサアクリレート/グリシジルメタクリレートを、それぞれ40質量部/15質量部/25質量部/10質量部/10質量部の配合割合で配合した。次に、このラジカル重合性単量体の混合物100質量部に対して、3重量部のフォトクロミック化合物(1)を加え、70℃で30分間の超音波溶解を実施した。その後、得られた組成物に重合開始剤であるCGI1870:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルーペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(重量比3:7)を0.35質量部、安定剤であるビス(1,2,2,6,6−ペンタメチルー4-ピペリジル)セバケートを5質量部、トリエチレングリコール−ビス〔3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートを3質量部、シランカップリング剤であるγ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを7質量部、及びレベリング剤である東レ・ダウコーニング株式会社製シリコーン系界面活性剤L−7001を0.1質量部添加し、十分に混合することによりフォトクロミック硬化性組成物を調製した。
【0067】
【化1】

【0068】
プラスチックレンズ基材として、厚さ2.0mmのレンズB(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60)を用い、このプラスチックレンズ基材をアセトンで十分に脱脂し、50℃の5%水酸化ナトリウム水溶液で4分間処理、4分間の流水洗浄、そして40℃の蒸留水で4分間洗浄した後、70℃で乾燥させた。次いで、プライマーコート液として、竹林化学工業株式会社製湿気硬化型プライマー『タケシールPFR402TP−4』及び酢酸エチルをそれぞれ50質量部となるように調合し、更にこの混合液に対して東レ・ダウコーニング株式会社製レベリング剤FZ−2104を0.03質量部添加し、窒素雰囲気下で均一になるまで充分に撹拌した液を用いた。このプライマーコート液を、MIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、レンズB表面にスピンコートした。このレンズを室温で15分間放置することにより、膜厚7ミクロンのプライマー層を有するレンズ基材を作成した。
【0069】
次いで、前述のフォトクロミック硬化性組成物 約1gを、前記プライマー層を有するレンズ基材の表面にスピンコートした。前記フォトクロミック硬化性組成物により表面がコートされたレンズを、窒素ガス雰囲気中、レンズ表面の405nmにおける出力が150mW/cmになるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF3000SQを用いて、3分間光照射し、塗膜を硬化させた。その後。さらに110℃の恒温器にて、1時間の加熱処理を行うことでフォトクロミックコート層を形成させた。フォトクロミックコート層の膜厚は、スピンコートの条件によって調整が可能である。本発明においては、フォトクロミックコート層の膜厚を40±1μmとなるように調整した。
【0070】
〔(A)成分;金属酸化物微粒子〕
A1:酸化ジルコニウム3.0質量%、酸化スズ76.0質量%、二酸化チタン20.
0質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメタノール分散ゾル{固形分濃度(複合無
機酸化物微粒子の濃度)30質量%、ΔYI=1.0}[日産化学工業製、HIT
−30M1]
A2:酸化ジルコニウム17.7質量%、五酸化アンチモン14.7質量%、二酸化ケ
イ素11.0質量%、二酸化チタン56.6質量%を含む複合金属酸化物微粒子の
メタノール分散ゾル{固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度)30質量、ΔY
I=1.3}[日産化学工業製、HT−335M6]
A3:酸化ジルコニウム10.0質量%、酸化スズ36.7質量%、五酸化アンチモン
10.0質量%、二酸化ケイ素6.7質量%、酸化タングステン6.7質量%、二
酸化チタン30.0質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメタノール分散ゾル{固
形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度)30質量%、ΔYI=4.6}[日産化
学工業製、HIT−317M6]
A4:酸化ジルコニウム14.3質量%、酸化スズ12.0質量%、二酸化ケイ素12
.3質量%、二酸化チタン61.3質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメタノー
ル分散ゾル{固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度)30質量%、ΔYI=0
.6}[日産化学工業製、HT−355M7]
【0071】
〔(B)成分;金属酸化物微粒子〕
B1:酸化ジルコニウム1.6質量%、二酸化ケイ素19.6質量%、二酸化チタン7
8.0質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメタノール分散ゾル{固形分濃度(複
合無機酸化物微粒子の濃度)30質量%、ΔYI=−0.8}[日揮触媒化成工業
製、TY108]
B2:酸化ジルコニウム4.8質量%、二酸化ケイ素26.6質量%、二酸化チタン6
6.6質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメタノール分散ゾル{固形分濃度(複
合無機酸化物微粒子の濃度)30質量%、ΔYI=−0.6}[日揮触媒化成工業
製、TY106]
【0072】
〔(C)成分;エポキシ基含有有機珪素化合物〕
C1:γ―グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
C2:γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン
〔(D)成分;水〕
D1:蒸留水
D2:0.05N塩酸水溶液
〔(E)成分;有機溶媒〕
E1:メタノール
E2:t−ブタノール
E3:イソプロパノール
E4:エチレングリコールモノイソプロピルエーテル
E5:ジアセトンアルコール
E6:アセチルアセトン
E7:N−メチルピロリドン
〔(F)成分;硬化触媒〕
F1:トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)
〔A,B成分以外の金属酸化物微粒子〕
【0073】
SOL1:酸化ジルコニウム11.7質量%、酸化スズ77.7質量%、二酸化ケイ素
3.6質量%、五酸化アンチモン7.0質量%を含む複合金属酸化物微粒子のメ
タノール分散ゾル{固形分濃度(複合無機酸化物微粒子の濃度)30質量%、Δ
YI=1.0}[日産化学工業製、HT−355M7]
〔(C)成分以外の有機珪素化合物〕
SC1:テトラエトキシシラン
SC2:メチルトリエトキシシラン
SC3:ビス(トリエトキシシリル)エタン
SC4:ビス[3−(ジエトキシメチルシリル)プロピル]カーボネート
【0074】
〔コーティング組成物の調製〕
コーティング組成物(1):
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン123.8g、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン32.0g、テトラエトキシシラン47.0g、t−ブチルアルコール61.7g、ジアセトンアルコール204.0g、シリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング株式会社製、商品名「L−7001」)1.0gを混合した。この液を十分に撹拌しながら、水104.0gと0.05N塩酸52.0gの混合物を添加し、添加終了後から20時間撹拌を継続した。次いで、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)9.8gを混合し、1時間撹拌させた。次いで、金属酸化物微粒子「A2」115gと金属酸化物微粒子「B1」340gを加え、更に24時間撹拌させて、本発明のコーティング組成物(1)を得た。その配合を表1に示した。
【0075】
コーティング組成物(2)〜(16):
表1に示す金属酸化物微粒子{(A)成分}、金属酸化物微粒子{(B)成分}、エポキシ基含有有機珪素化合物{(C)成分}、水{(D)成分}、有機溶媒{(E)成分}、硬化触媒{(F)成分}、(A)、(B)成分以外の金属酸化物微粒子、及び(C)成分以外の有機珪素化合物を用いた以外は、コーティング組成物(1)と同様な方法で調製した。その配合を表1、および表2に示した。
【0076】
実施例1
プラスチックレンズ基材として厚さ2mmのレンズ1(チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ)を、60℃の20重量%の水酸化ナトリウム水溶液に10分間、超音波洗浄器を用いて、アルカリエッチングを行った。その後、蒸留水および50℃の温水で洗浄し、残余のアルカリ分を取り除いた後、室温で10分間乾燥を行った。アルカリエッチング済みの該レンズ基材に、前記コーティング組成物(1)を、20℃で、引き上げ速度20cm/分の速さで、ディップコートした。70℃のオーブンにて10分間予備硬化した後、110℃で2時間の硬化を行い、屈折率1.69、膜厚2.8μmのハードコート層を両面に有するハードコートレンズ(光学物品)を得た。
上記ハードコートレンズについて、下記(1)〜(5)に示す各評価項目について評価を行った。
その結果、当該ハードコートレンズは、外観:〇、スチールウール耐擦傷性:B、凸面の密着性:100/100、耐候密着性:100/100、黄変度:0.3を示した。結果を表3に示した。
【0077】
〔評価項目〕
(1)外観
目視検査でコート膜の透明性、硬化時のクラックなどの有無を観察した。外観良好なものを〇、外観不良なものを×として評価した。
(2)スチールウール耐擦傷性
スチールウール(日本スチールウール(株)製ボンスター#0000番)を用い、1kgの荷重で10往復レンズ表面を擦り、傷ついた程度を目視で評価した。評価基準は次の通りであり、五段階評価を行った。
A:ほとんど傷が付かない
B:極わずかに傷が付く
C:少し傷が付く
D:はっきりと傷が付く
E:塗膜が剥離している。
(3)密着性
ハードコート層とプラスチックレンズ基材の密着性をJISD−0202に準じてクロスカットテープ試験によって行った。すなわち、カッターナイフを使いレンズ表面に約1mm間隔に切れ目を入れ、マス目を100個形成させる。その上にセロファン粘着テープ(ニチバン(株)製セロテープ(登録商標))を強く貼り付け、次いで、表面から90°方向ヘ一気に引っ張り剥離した後、ハードコート層の残っているマス目を測定した。評価結果は、(残っているマス目数)/100で表した。該評価をレンズの凸面で行った。
(4)耐候密着性
以下の劣化促進試験を行った後、光照射による耐候劣化時の密着性を評価した。
スガ試験機(株)製キセノンウェザーメーターX25(2.5kWキセノンアークランプ)を用い、放射強度が40W/m、レンズ表面温度が50℃の条件下で、試料のハードコートレンズに100時間光照射を行い、促進劣化させた後、前記(3)密着性と同様にして、耐候密着性の評価を行った。
(5)黄変度
以下の劣化促進試験を行った後、光照射による耐候劣化時の黄変を評価した。
レンズ表面の405nmにおける出力が150mW/cmになるように調整したフュージョンUVシステムズ社製のDバルブを搭載したF3000SQを用い、窒素雰囲気下で得られたハードコートレンズに5分間光照射を行い、促進劣化させた。次いで、スガ試験機(株)製SMカラーコンピューター(SM−T)を用い、促進劣化前のYI(YI)及び促進劣化後のYI(YI)を測定し、下記式より黄変度を求め、黄変性の評価を行った。
黄変度(ΔYI)=YI−YI
この黄変度(ΔYI)が小さいほど、劣化後のレンズの黄変度が少なく、マイナスの値は青く変色していることを意味する。絶対値で1.0以下であれば実用上問題のないレベルである。
【0078】
実施例2〜14
表2に示すプラスチックレンズ基材、及びコーティング組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法でハードコート層を有するハードコートレンズ(光学物品)を作製し、その評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0079】
比較例1〜4
表2に示すプラスチックレンズ基材、及びコーティング組成物を用いた以外は、実施例1と同様の方法でハードコート層を有するハードコートレンズ(光学物品)を作製し、その評価を行った。評価結果を表3に示した。
【0080】
【表1】

【0081】
【表2】

【0082】
【表3】

【0083】
実施例1−14から明らかなように、本発明のコーティング組成物を用いた場合には、外観、耐擦傷性、密着性、耐候密着性、及び黄変度に優れた屈折率1.65以上のハードコート層を形成することが出来る。一方、比較例1−4に示すようなコーティング組成物を用いた場合には、外観、耐擦傷性、密着性、耐候密着性、黄変度、及び屈折率のうち少なくとも1つ以上の物性が不十分であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記の光照射試験により、形成されるコート膜のΔYIの値が0.5〜10.0となる酸化チタンを含む金属酸化物微粒子、
(B)下記の光照射試験により、形成されるコート膜のΔYIの値が−0.1〜−1.0となる酸化チタンを含む金属酸化物微粒子、
(C)エポキシ基含有有機珪素化合物、
(D)水、
(E)有機溶媒、及び
(F)硬化触媒
を含んでなるコーティング組成物であって、
(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部に対して、(D)水を5〜70質量部、(E)有機溶媒を100〜350質量部、(F)硬化触媒を0.2〜10質量部含み、
(A)金属酸化物微粒子、(B)金属酸化物微粒子、及び(C)エポキシ基含有有機珪素化合物の合計100質量部の内訳が、(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子との総量が20〜60質量部であり、(C)エポキシ基含有有機珪素化合物が40〜80質量部であり、且つ、(A)金属酸化物微粒子と(B)金属酸化物微粒子との質量比(B/A)が0.2〜6.0であることを特徴とするコーティング組成物。
光照射試験:
1)コート液の調製;γ−グリシドキシプロピルトリメチルメトキシシラン60質量部に、0.05N塩酸水溶液13.4質量部を温度15〜30℃の範囲に保ち、攪拌しながら添加する。その後、約2時間撹拌を継続し、これにシリコーン系界面活性剤(東レ・ダウコーニング(株)製、商品名「L−7001」)0.2質量部、t−ブチルアルコール120質量部、トリス(2,4−ペンタンジオナト)アルミニウム(III)0.7質量部を順次添加する。この溶液を室温で30分撹拌した後、分散媒に分散された金属酸化物微粒子40質量部(分散媒を除く)を加え、更に室温で2時間撹拌し、コート液とする。
2)コーティング方法;上記で得られたコート液にガラスプレートを浸し、最終的に得られるコート膜の膜厚が約2μmになるように10〜30cm/分の速度でガラスプレートをコート液から引き上げる。その後、70℃で10分、110℃で2時間硬化し、ガラスプレート上に膜厚約2μmのコート膜を有する積層体を得る。
3)積層体の光照射試験;窒素雰囲気下で、得られた積層体に405nmの波長の紫外線を強度150mW/cmで5分間照射した際の黄色度(YI)を測定し、該紫外線を照射する前の積層体の黄色度(YI)との差(ΔYI=YI−YI)を求める。
【請求項2】
(B)金属酸化物微粒子が、シランカップリング剤で表面が被覆された酸化チタン微粒子を含む複合金属酸化物微粒子であることを特徴とする請求項1記載のコーティング組成物。
【請求項3】
光透過性部材と該光透過性部材の表面に形成されたハードコート層とからなり、該ハードコート層が、請求項1に記載のコーティング組成物を硬化させて得られた層であることを特徴とする光学物品。
【請求項4】
光透過性部材が、フォトクロミック性を有する光透過性部材であることを特徴とする請求項3に記載の光学物品。
【請求項5】
フォトクロミック性を有する光透過性部材が、光学基材の表面にフォトクロミック化合物を含む硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミックコート層を有するものであり、該フォトクロミックコート層の表面にハードコート層が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の光学物品。

【公開番号】特開2010−270191(P2010−270191A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121572(P2009−121572)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】