説明

ゴニオメータの制御方法、ゴニオメータ、4軸ゴニオメータ、およびX線回折装置

【課題】 障害物との干渉を高精度に検出することができ、しかも各回転部の動作範囲を広げかつ自由度の高い回転動作を実現する。
【解決手段】 ω回転台13およびκ回転台14の回転角度をそれぞれ検出するとともに、これら各回転台13,14に関し、あらかじめ回転可能角度領域および回転規制角度領域を相対的に設定しておく。そして、検出された各回転角度情報を、あらかじめ設定した回転可能角度領域および回転規制角度領域と対比して、当該対比結果に基づき検出対象となっている各回転台13,14の回転動作を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数の回転軸を有するゴニオメータの制御方法と、同制御方法の実施に好適なゴニオメータ、および当該ゴニオメータを搭載するX線回折装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、κ(kappa)ゴニオメータと称する4軸ゴニオメータは、2θ軸周りに回転するとともにX線検出器を搭載するカウンタアームと、2θ軸と同軸上のω軸周りに回転するω回転台と、ω軸に斜め下方から交叉するκ軸周りにω回転台上で回転するκ回転台と、2θ軸と同軸上のθ軸周りにκ回転台上で回転する試料台と、を備えている(特許文献1参照)。
【0003】
この種の4軸ゴニオメータにおいては、κ回転台やω回転台が回転動作に伴い、周囲に存在するコリメータ等の障害物と干渉するため、この干渉を検出するリミッタとしてのセンサやリミットスイッチを障害物の周囲に設置しておく必要があった(特許文献2参照)。
【特許文献1】USP3,636,347号公報
【特許文献2】特開平8−75678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、センサやリミットスイッチで構成されるリミッタを設置した場合、当該リミッタ自体が障害物となってしまい、κ回転台やω回転台の回転可能角度範囲を狭めてしまうという問題があった。
さらに、センサやリミットスイッチでは、κ回転台やω回転台の360°以上の回転角度にわたる障害物との干渉を高精度に検出することができないため、もっとも安全な角度に設定せざるを得ず、κ回転台やω回転台の回転動作がいっそう限定されていた。
本発明は、このような事情に基づいてなされたもので、障害物との干渉を高精度に検出することができ、しかも各回転部の動作範囲を広げかつ自由度の高い回転動作を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るゴニオメータの制御方法は、複数の回転部を有するゴニオメータの制御方法であって、
回転部の少なくとも二つの回転角度をそれぞれ検出するとともに、
検出対象となっている各回転部に関し、あらかじめ回転可能角度領域および回転規制角度領域を相対的に設定しておき、
検出された各回転角度情報を、あらかじめ設定した回転可能角度領域および回転規制角度領域と対比して、当該対比結果に基づき検出対象となっている各回転部の回転動作を制御することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係るゴニオメータは、複数の回転部を有するゴニオメータであって、
回転部の少なくとも二つの回転角度をそれぞれ検出する回転角度検出手段と、
検出対象となっている各回転部に関し、あらかじめ回転可能角度領域および回転規制角度領域を相対的に設定しておく記憶手段と、
検出された各回転角度情報を、あらかじめ設定した回転可能角度領域および回転規制角度領域と対比して、当該対比結果に基づき検出対象となっている各回転部の回転動作を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明に係る4軸ゴニオメータは、X線検出器を搭載するカウンタアームを2θ軸周りに回転させるとともに、2θ軸と同軸上のω軸周りに回転するω回転台と、ω軸に斜め下方から交叉するκ軸周りにω回転台上で回転するκ回転台と、2θ軸と同軸上のφ軸周りにκ回転台上で回転する試料台と、を備えた4軸ゴニオメータであって、
ω回転台のω軸周りの回転角度を検出するω回転角度検出手段と、
κ回転台のκ軸周りの回転角度を検出するκ回転角度検出手段と、
ω回転台のω軸周りの回転角度、およびκ回転台のκ軸周りの回転角度に関し、あらかじめ回転可能角度領域および回転規制角度領域を相対的に設定しておく記憶手段と、
ω回転角度検出手段およびκ回転角度検出手段により検出された各回転角度情報を、あらかじめ設定した回転可能角度領域および回転規制角度領域と対比して、当該対比結果に基づきω回転台およびκ回転台の回転動作を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
上述した構成の本発明によれば、センサやリミットスイッチなどのリミッタを障害物の周囲に設置する必要がなくなるので、広い角度範囲にわたる回転部の回転動作が可能となる。しかも、障害物との干渉を精細に検出することが可能となる。
【0009】
ここで、回転角度検出手段(例えば、ω回転角度検出手段、κ回転角度検出手段)は、それぞれアブソリュート型ロータリーエンコーダで構成することが好ましい。これにより、電源投入時に駆動モータを初期化(零点調節)する必要がなくなる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、障害物との干渉を高精度に検出することができ、しかも各回転部の動作範囲を広げかつ自由度の高い回転動作を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態に係るX線回折装置の全体構造を示す正面図である。
同図に示すX線回折装置は、4軸ゴニオメータ10と、X線検出器20と、X線源30とを備えている。4軸ゴニオメータ10は、基台11上にカウンタアーム12とω回転台13とを搭載しており、さらにω回転台13にκ回転台14を搭載するとともに、κ回転台14には試料台15を搭載した構成となっている。
【0012】
カウンタアーム12は、2θ軸周りに回転自在となっており、このカウンタアーム12にX線検出器20が搭載されている、X線検出器20としては、例えば、位置敏感型比例計数管(PSPC)等の一次元検出器のほか、イメージングプレート(IP)やCCD等の二次元検出器も適用することができる。
ω回転台13は、2θ軸と同軸上のω軸周りに回転自在であり、κ回転台14は、ω軸に斜め下方から交叉するκ軸周りに回転自在である。さらに、試料台15は、2θ軸と同軸上のφ軸周りに回転自在である。これら、カウンタアーム12、ω回転台13、κ回転台14、試料台15は、それぞれステッピングモータやサーボモータ等の駆動モータ(図1には示さず)によって回転駆動される。
【0013】
試料台15には、試料ホルダ16(試料保持手段)が着脱自在となっている。試料ホルダ16に保持された試料Sは、ω軸とκ軸との交点に配置される。X線源30から放出されるX線は、コリメータ17を通して試料Sに照射される。
4軸ゴニオメータ10は、試料台15をφ軸周りに回転させるとともに、κ回転台14をκ軸周りに回転させ、さらにω回転台13をω軸周りに回転させることで、試料Sの格子面を任意の方向に向けることができ、これにより試料Sの格子面に対して様々な角度からX線を照射させることができる。試料Sから反射又は透過してきた回折X線は、カウンタアーム12に搭載されたX線検出器20によりその強度が検出される。
このような構成の4軸ゴニオメータ10は、κ(kappa)ゴニオメータと称され、従来から知られている(例えば、USP3,636,347号公報参照)。
【0014】
図2は本実施形態に係る4軸ゴニオメータに特有の構成を示す図である。
本実施形態に係る4軸ゴニオメータ10は、ω回転台13を回転駆動する駆動モータ40に、ω回転角度検出手段としてのロータリーエンコーダ41を付設してあり、またκ回転台14を回転駆動する駆動モータ42にも、κ回転角度検出手段としてのロータリーエンコーダ43を付設してある。
ロータリーエンコーダ41は、ω回転台13の回転角度位置を検出し、その回転角度情報を出力する。また、ロータリーエンコーダ43は、κ回転台14の回転角度位置を検出し、その回転角度情報を出力する。
【0015】
これらのロータリーエンコーダ41,43には、多回転式のアブソリュート型ロータリーエンコーダが用いられている。アブソリュート型ロータリーエンコーダは、回転角度を絶対値として検出する機能を有しており、このため電源を切っても現在の回転角度情報を保持している。このアブソリュート型ロータリーエンコーダを採用することで、電源投入時に駆動モータを初期化(零点調節)する必要がなくなる。
【0016】
さらに、本実施形態の4軸ゴニオメータ10は、記憶部45(記憶手段)と制御部46(制御手段)とを含む制御ユニット47を備えている(図2参照)。記憶部45は、ハードディスクやメモリ等の記憶媒体で構成することができる。この記憶部45には、ω回転台13のω軸周りの回転角度、およびκ回転台14のκ軸周りの回転角度に関する相対的な回転可能角度領域および回転規制角度領域が設定されている。このうち回転規制角度領域は、周囲に存在するコリメータ17やX線検出器20等の障害物あるいはX線源30からのX線とκ回転台14やω回転台13が干渉し、又は干渉するおそれのある角度領域である。これら回転可能角度領域および回転規制角度領域は、あらかじめ演算又は実験により求めておく。
【0017】
図3は記憶部に設定されるω回転台およびκ回転台の各回転角度に関する相対的な回転可能角度領域および回転規制角度領域の一例を示す図である。なお、同図に示す回転可能角度領域および回転規制角度領域はあくまで例示であり、実際にはκ回転台14およびω回転台13の回転可能領域に存在する障害物等の位置を考慮して個別具体的に設定される。
図3では、ω回転台13のω軸周りの回転角度を横軸に、κ回転台14のκ軸周りの回転角度を縦軸にとり、各回転台13,14の回転可能角度領域Aと回転規制角度領域Bとをマトリクスにて表示してある。すなわち、同図にハッチング表示された領域が回転規制角度領域Bであり、それ以外の領域が回転可能角度領域Aである。
【0018】
図4は制御部の動作を示すフローチャートである。
制御部46は、ロータリーエンコーダ41から出力されたω回転台13の回転角度情報、およびロータリーエンコーダ43から出力されたκ回転台14の回転角度情報をそれぞれ入力する(ステップS1)。そして、これら各回転角度情報を、記憶部45に設定してある回転可能角度領域Aおよび回転規制角度領域Bのマトリクスと対比する(ステップS2)。
対比の結果、各回転台13,14が回転可能角度領域Aに位置すると判断したときは(ステップS3)、そのまま各回転台13,14の回転移動を許容する(ステップS4)。一方、各回転台13,14が回転規制角度領域Bに入る直前と判断したときは(ステップS3)、その進入状況に応じて、各回転台13,14が回転規制角度領域Bを効率的に回避できる動作パターンを演算し(ステップS4)、その演算結果に基づき各回転台13,14の動作を制御する(ステップS5)。この演算プログラムは、記憶部45にあらかじめ記憶してある。
【0019】
なお、安全率を見込み、ω回転台13又はκ回転台14が障害物と干渉する手前の角度領域までを回転規制角度領域Bに含めて設定した場合は、各回転台13,14が回転規制角度領域Bに入った直後に、各回転台13,14が回避動作をするよう制御してもよい。
また、ω回転台13およびκ回転台14が回転可能角度領域Aから回転規制角度領域Bへ入ろうとする状況に応じた各種制御パターンをあらかじめ記憶部45に設定しておき、この制御パターンを参照して制御部46が各回転台13,14を制御する構成とすることもできる。
【0020】
本実施形態に係る4軸ゴニオメータ10は、次のごとき作用効果を奏する。
各ロータリーエンコーダ41,43から出力された各回転台13,14の回転角度情報を、記憶部45に設定してある回転可能角度領域Aおよび回転規制角度領域Bのマトリクスと対比することで、制御部46が障害物に対する各回転台13,14の干渉を認識することができるので、各回転台13,14の回転可能角度領域Aを狭める要因となるリミットスイッチの設置が不要となる。
【0021】
また、各回転台13,14と障害物との間の干渉を、リミットスイッチよりも細やかに検出できるので、各回転台13,14の障害物に対する回避動作を高精度に制御することが可能となる。例えば、障害物に対し、正逆両方向の回転に伴う各回転台13,14の干渉を検出することが可能となる。
【0022】
さらに、アブソリュート型ロータリーエンコーダとして、多回転式のものを採用すれば、360°以上の回転角度にわたる精細な障害物との干渉を検出することができる。
【0023】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
例えば、図1に示した4軸ゴニオメータ10のカウンタアーム12の回転角度についてもロータリーエンコーダ等の回転角度検出手段で検出することができる。この場合、ω回転台13およびκ回転台14のみならずカウンタアーム12の回転角度をも加味して、回転可能角度領域Aおよび回転規制角度領域Bを設定し、この設定と各回転角度検出手段からの回転角度情報との対比をもって、ω回転台13、κ回転台14およびカウンタアーム12の回転動作を制御するように制御部46を構成することもできる。
また、本発明は、κゴニオメータ以外の4軸ゴニオメータ10や、4軸以外のゴニオメータにも適用可能であることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施形態に係るX線回折装置の全体構造を示す正面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る4軸ゴニオメータに特有の構成を示す図である。
【図3】記憶部に設定されるω回転台およびκ回転台の回転角度に関する相対的な回転可能角度領域および回転規制角度領域の一例を示す図である。
【図4】制御部の動作を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0025】
10:4軸ゴニオメータ、11:基台、12:カウンタアーム、13:ω回転台、14:κ回転台、15:試料台、16:試料ホルダ、17:コリメータ、20:X線検出器、30:X線源、40,42:駆動モータ、41,43:ロータリーエンコーダ、45:記憶部、46:制御部、47:制御ユニット
A:回転可能角度領域、B:回転規制角度領域


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の回転部を有するゴニオメータの制御方法であって、
前記回転部の少なくとも二つの回転角度をそれぞれ検出するとともに、
前記検出対象となっている各回転部に関し、あらかじめ回転可能角度領域および回転規制角度領域を相対的に設定しておき、
前記検出された各回転角度情報を、前記あらかじめ設定した回転可能角度領域および回転規制角度領域と対比して、当該対比結果に基づき前記検出対象となっている各回転部の回転動作を制御することを特徴とするゴニオメータの制御方法。
【請求項2】
複数の回転部を有するゴニオメータであって、
前記回転部の少なくとも二つの回転角度をそれぞれ検出する回転角度検出手段と、
前記検出対象となっている各回転部に関し、あらかじめ回転可能角度領域および回転規制角度領域を相対的に設定しておく記憶手段と、
前記検出された各回転角度情報を、前記あらかじめ設定した回転可能角度領域および回転規制角度領域と対比して、当該対比結果に基づき前記検出対象となっている各回転部の回転動作を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とするゴニオメータ。
【請求項3】
前記回転角度検出手段を、アブソリュート型ロータリーエンコーダで構成したことを特徴とする請求項2のゴニオメータ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載されたゴニオメータと、当該ゴニオメータに搭載される試料保持手段と、この試料保持手段に保持された試料に対しX線を照射するX線源と、試料からの回折X線を検出するX線検出器とを備えたX線回折装置。
【請求項5】
X線検出器を搭載するカウンタアームを2θ軸周りに回転させるとともに、前記2θ軸と同軸上のω軸周りに回転するω回転台と、前記ω軸に斜め下方から交叉するκ軸周りに前記ω回転台上で回転するκ回転台と、前記2θ軸と同軸上のφ軸周りに前記κ回転台上で回転する試料台と、を備えた4軸ゴニオメータであって、
前記ω回転台の前記ω軸周りの回転角度を検出するω回転角度検出手段と、
前記κ回転台の前記κ軸周りの回転角度を検出するκ回転角度検出手段と、
前記ω回転台の前記ω軸周りの回転角度、および前記κ回転台の前記κ軸周りの回転角度に関し、あらかじめ回転可能角度領域および回転規制角度領域を相対的に設定しておく記憶手段と、
前記ω回転角度検出手段およびκ回転角度検出手段により検出された各回転角度情報を、前記あらかじめ設定した回転可能角度領域および回転規制角度領域と対比して、当該対比結果に基づき前記ω回転台およびκ回転台の回転動作を制御する制御手段と、を備えたことを特徴とする4軸ゴニオメータ。
【請求項6】
前記ω回転角度検出手段およびκ回転角度検出手段を、それぞれアブソリュート型ロータリーエンコーダで構成したことを特徴とする請求項5の4軸ゴニオメータ。
【請求項7】
請求項5又は6に記載された4軸ゴニオメータと、前記カウンタアームに搭載されるX線検出器と、前記試料台に保持された試料に対しX線を照射するX線源と、を備えたX線回折装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−29947(P2006−29947A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208409(P2004−208409)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000250339)株式会社リガク (206)
【Fターム(参考)】