説明

ゴマ発酵組成物およびその製造方法

【課題】ゴマ発酵組成物およびその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明のゴマ発酵組成物は、アグリコンゴマリグナンを95%以上含み、総抗酸化能力、DHHPフリーラジカル消去能力、脂質抗酸化能力およびヒトLDL過酸化抑制能力が未発酵のものに比べて著しく向上する。さらに、本発明のゴマ発酵組成物は、胃癌細胞、子宮頚癌細胞、乳癌細胞、肝臓癌細胞および大腸癌細胞の増殖を抑制する能力をも備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リグナンの製造方法に関し、特にアグリコンゴマリグナン組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴマ種子中には大量のリグナン(lignans)およびそのリグナン配糖体(lignan glycosides)が含まれている。このうちリグナン配糖体は、主に油除去後のゴマ粕中に存在し、セサミノールグルコシド(sesaminol glucosides)、ピノレジノールグルコシド(pinoresinol glucosides)およびセサモリノールグルコシド(sesamolinol glucosides)などからなり(K. I. Kuriyama、K. Y. TsuchiyaおよびT. Murui、「Nippon Nogeikagaku Kaishi」、1993年、第67巻、p.1693−1700:非特許文献1参照)、その総含量は約0.2〜1%(w/w)で、セサミノールグルコシドが95%以上を占める(Y. S. ShyuおよびL. S. Hwang、「Food Res.Int,.」2002年、第35巻、p.357−365:非特許文献第2参照)。
【0003】
天然のフェノール化合物は大部分がグリコシル化された形態で存在しているが、これら化合物は、腸内細菌の分泌する酵素によりグリコシル基が切りはなされて、アグリコンの形態とならなければ人体には吸収されず、その生体利用率は個体の腸内菌叢の種類組成による。
【0004】
さて、目下、低密度リポ蛋白(LDL)の酸化が動脈硬化の重要な発病因子であることが既に証明されている(Y. Fukuda、M. Nagata、T. OsawaおよびM. Namiki、「Agric. Biol. Chem.,」、1986年、第50巻、p.857−862:非特許文献3参照)。LDLの多価不飽和脂肪酸がフリーラジカルまたは活性酸素の攻撃を受けると、酸化型LDL(ox−LDL)が形成される。そのox−LDLがマクロファージに貪食されることで泡沫細胞が形成され、血管に沈着して脂肪線条ができる。そして、平滑筋細胞の増殖と間質細胞の繊維化を経て徐々に硬化斑に変わってゆき、粥状動脈硬化となるのである。既に多くの抗酸化剤、例えばビタミンEおよびブチルヒドロキシトルエン(BHT)などに、LDL酸化を抑える効果があることは実証されている(H. Katsuzaki、S. KawakishiおよびT. Osawa、「Phytochem., 」、1994年、第35巻、p.773−776:非特許文献4参照)。また同時に数多くの研究により、無糖体のセサミノールが銅イオンに誘発されるヒトのLDL酸化を抑制でき、その抑制効果はエピガロカテキンガレート((-)-Epigallocatechin gallate,EGCG)、ビタミンEおよびブチルヒドロキシトルエン(BHT)よりも優れ、かつ濃度依存性を備えるということが示されてもいる(H. Katsuzaki、S. KawakishiおよびT. Osawa、「Phytochem., 」、1994年、第35巻、p.773−776;I. C. Sheih、H. Y. Wu、Y. J. LaiおよびC. F. Lin、「Food Sci. Agric. Chem.」、2000年、第2巻、p.35−40;S. S. Tzean、J. L. Chen、G. Y. Liou、C. C. Chenおよび W. H. Hsu、「Food Industry Research and Development Institute, Taiwan」、1990年、第1巻、p. 2−16:非特許文献4、5および6参照)。
【0005】
近年ゴマに関してなされている研究の大部分は、ゴマ種子中に含まれるリグナンとリグナン配糖体の組成およびその抗酸化作用に重点が置かれている(K. I. Kuriyama、K. Y. TsuchiyaおよびT. Murui、「Nippon Nogeikagaku Kaishi」、1993年、第67巻、p.1693−1700;M. H. Kang、Y. Kawai、M. NaitoおよびT. Osawa、「J. Nutr.,」、1999年、第129巻、p.1885−1890;Y. Fukuda、M. Nagata、T. OsawaおよびM. Namiki、「Agric. Biol. Chem.,」、1986年、第50巻、p.857−862:非特許文献1、7および3参照)。しかし、これまでに、ゴマ中のリグナン配糖体のグリコシル基を予め切りはなしておくことで人体に吸収されやすいリグナン製品を作り出す、ということについての開示は全くない。
【0006】
【非特許文献1】K. I. Kuriyama、K. Y. TsuchiyaおよびT. Murui、「Nippon Nogeikagaku Kaishi」、1993年、第67巻、p.1693−1700
【非特許文献2】Y. S. ShyuおよびL. S. Hwang、「Food Res.Int,.」2002年、第35巻、p.357−365
【非特許文献3】Y. Fukuda、M. Nagata、T. OsawaおよびM. Namiki、「Agric. Biol. Chem.,」、1986年、第50巻、p.857−862
【非特許文献4】H. Katsuzaki、S. KawakishiおよびT. Osawa、「Phytochem., 」、1994年、第35巻、p.773−776
【非特許文献5】I. C. Sheih、H. Y. Wu、Y. J. LaiおよびC. F. Lin、「Food Sci. Agric. Chem.」、2000年、第2巻、p.35−40
【非特許文献6】S. S. Tzean、J. L. Chen、G. Y. Liou、C. C. Chenおよび W. H. Hsu、「Food Industry Research and Development Institute, Taiwan」、1990年、第1巻、p. 2−16
【非特許文献7】M. H. Kang、Y. Kawai、M. NaitoおよびT. Osawa、「J. Nutr.,」、1999年、第129巻、p.1885−1890
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ゴマ発酵組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、セサミノールを含む油抽出後のゴマ粕廃棄物を利用し、菌株をスクリーニングして発酵を行い、セサミノール(式1)のグリコシル基を予め切りはなしておくことで、個体の腸内菌叢の種類組成の影響を受けないような、人体に吸収され易いセサミノール(式2)を形成しようとするものである。
【化1】

【化2】

【0009】
よって本発明は、少なくとも1種のアスペルギルス菌株で発酵させ、アグリコンゴマリグナン(aglycon sesame lignans)の含量を95%以上とさせるゴマ発酵組成物の製造方法の提供を目的としている。
【0010】
その目的を達成するため、本発明の提供するゴマ発酵組成物の製造方法は、ゴマまたはその他ゴマリグナンを含む物質を原料とし、少なくとも1種の菌株で発酵させた後に抽出して得るという工程を含む。
【0011】
本発明(1)は、ゴマまたはその他ゴマリグナンを含む物質を原料とし、少なくとも1種の菌株で発酵させてから抽出してゴマ発酵組成物を得る工程を含む、ゴマ発酵組成物の製造方法である。
本発明(2)は、原料が、ゴマ粕またはゴマを含む、本発明(1)の製造方法である。
本発明(3)は、ゴマ発酵組成物が、ゴマリグナン配糖体(sesame lignan glycosides)およびアグリコンゴマリグナン(aglycon sesame lignans)を含む、本発明(1)の製造方法である。
本発明(4)は、アグリコンゴマリグナンの含量が80%以上である本発明(3)の製造方法である。
本発明(5)は、アグリコンゴマリグナンの含量が95%以上である本発明(3)の製造方法である。
本発明(6)は、菌株が、アスペルギルス属(Aspergillus)を含む、本発明(1)の製造方法である。
本発明(7)は、アスペルギルス属(Aspergillus)が、アスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)および/またはアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)を含む、本発明(6)の製造方法である。
本発明(8)は、アスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)が、ATCC14895、ATCC20423、ATCC1011、ATCC11489およびATCC14156からなる群より選択される、本発明(7)の製造方法である。
本発明(9)は、アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)が、ATCC16888、ATCC42418、ATCC6275、ATCC9029およびATCC9642からなる群より選択される、本発明(7)の製造方法である。
本発明(10)は、菌株が、バチルス属(Bacillus)を含む、本発明(1)の製造方法である。
本発明(11)は、バチルス属(Bacillus)が、バチルスサーキュランス(Bacillus circulans)を含む、本発明(10)の製造方法である。
本発明(12)は、バチルスサーキュランス(Bacillus circulans)が、ATCC11590およびDSM596からなる群より選択される、本発明(11)の製造方法である。
本発明(13)は、本発明(1)の方法によって製造されるゴマ発酵組成物であって、アグリコンゴマリグナンの含量が80%以上であるゴマ発酵組成物である。
本発明(14)は、アグリコンゴマリグナンを有効量含む、癌を予防または治療するために用いられる組成物である。
本発明(15)は、ゴマリグナン配糖体およびアグリコンゴマリグナンを含む、本発明(14)の組成物である。
本発明(16)は、アグリコンゴマリグナンの含量が80%以上である本発明(14)の組成物である。
本発明(17)は、アグリコンゴマリグナンの含量が95%以上である本発明(14)の組成物である。
本発明(18)は、癌が、子宮頚癌、肝臓癌、乳癌、胃癌および大腸癌を含む、本発明(14)の組成物である。
本発明(19)は、経口で所要の個体に投薬される、本発明(14)の組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により製造されるゴマ発酵組成物は、そのアグリコンゴマリグナンの含量が95%以上となり、抗酸化効果、ヒト低密度リポ蛋白(LDL)酸化抑制効果および癌細胞成長抑制効果を備える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の上述およびその他の目的、特徴ならびに長所がより明らかに理解されるよう、以下に好ましい実施例を挙げ、図面と対応させながら詳細に説明する。
【0014】
本発明は、ゴマを搾油した後に得られるゴマ粕またはゴマリグナン配糖体(sesame lignan glycosides)を豊富に含むその他のゴマ抽出液、例えば、原料としてのゴマを蒸留水と混合したものを用いる。原料はコールドプレスを使用したゴマ粕抽出液とするのが好ましい。混合割合は1:1〜1:5とする。上記混合物を110℃〜130℃で10分〜20分加熱した後、少なくとも1種の菌株を加えて発酵させる。菌株としては、アスペルギルス属(Aspergillus)のアスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)および/またはアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)を挙げることができる。アスペルギルスオリゼーとして好ましいのは、ATCC14895、ATCC20423、ATCC1011、ATCC11489およびATCC14156などの菌株であり、最も好ましいのはATCC20423である。また、アスペルギルスニガーとして好ましいのはATCC16888、ATCC42418、ATCC6275、ATCC9029およびATCC9642などの菌株であり、最も好ましいのはATCC16888である。さらに、必要に応じて、バチルス属(Bacillus)の菌株、好ましくはバチラスサーキュランス(Bacillus circulans)を追加することもでき、バチラスサーキュランスのうちで最も好ましいのは、ATCC11590およびDSM596である。発酵過程においては、1種または1種よりも多い微生物を使用することができ、1種よりも多い微生物を用いる場合は順次または同時に添加する方式で発酵させる。発酵は25℃〜35℃の温度下、48時間〜72時間培養するという条件下で行われる。最後に、発酵抽出液を60℃〜100℃中に置き、24時間〜48時間加熱して乾燥させてから、加熱または照射により滅菌すれば、本発明のゴマ発酵組成物が得られる。
【0015】
本発明のゴマ発酵組成物は、ゴマリグナン配糖体(sesame lignan glycosides)と、アグリコンゴマリグナン(aglycon sesame lignans)とを含み、アグリコンゴマリグナンの含量が80%以上、好ましくは95%以上であり、抗酸化効果、低密度リポ蛋白(LDL)酸化抑制効果および癌細胞成長抑制効果を備える。
【0016】
未発酵のゴマ組成物と比較して、本発明にかかる発酵組成物は、総抗酸化能(Trolox equivalent antioxidant capacity;TEAC)および1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl;DPPH)消去能が共に3倍以上高く、脂質過酸化抑制能(thiobabituric acid reactive substance;TBARS)が57%以上向上し、また、LDL酸化のラグフェーズタイム(lag phase time)が2.8倍以上高い。このことより、本発明の発酵組成物が、フリーラジカル消去作用、ヒトLDL酸化抑制作用および細胞保護作用を備えていることがわかる。
【0017】
さらに、本発明の発酵組成物は癌細胞成長抑制能をも備えている。本発明の発酵組成物の子宮頚癌細胞(Hela)、胃腺癌細胞(AGS)、乳癌細胞(MCF−7)を抑制する能力は、未発酵のものの3倍〜6倍もあり、肝臓癌細胞(Hep G2)および大腸腺癌細胞(Caco−2)を抑制する能力は60%以上の向上を示す。よって、本発明の発酵組成物は癌治療時の補充剤として使用することが可能である。
【実施例】
【0018】
実施例1:ゴマ発酵組成物の作製
250mLの三角フラスコに40%〜60%(w/v)のゴマ粕原料を入れ、1kg/cmで15分間蒸気滅菌した後、38℃まで冷却し、0.5%(v/w)アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)の胞子(10/mL)を接種し、30℃下72時間培養してから、60℃で一晩乾燥させた。
【0019】
実施例2:ゴマリグナンの含量分析
ゴマ粕発酵物1gを取り、70%エタノール10mLを加え、室温下3時間抽出した後、ろ過し、高速液体クロマトグラフシステム(日立社製、L-7000)でサンプル中のゴマリグナンの含量を分析した。分析は、内径250mm×4.6mmのクロマトカラム(フェノメネックス社製、C18 RP-100)を用い、波長280nm、流速0.8ml/分に設定した。移動相はA=水およびB=メタノールとし、直線濃度勾配を60分間行い徐々にB溶液を90%まで増加させると共にA溶液を10%まで減少させてから、5分間でA溶液を90%まで戻すことにより行った。図1aおよび図1bに示されるように、未発酵ゴマ粕中には、セサミノールトリグリコシド(sesaminol triglycosides)93%、セサミノールジグリコシド(sesaminol diglycosides)5%、セサミノールグリコシド(sesaminol glycosides)1.5%、および非糖部分のセサミノール(sesaminol)0.5%が含まれているが、特定の菌株で発酵させることによって、非糖部分のセサミノール(sesaminol)の含量を98%まで上げることができた。
【0020】
実施例3:抗酸化能の分析
ゴマ粕発酵物を1g取り、70%エタノール10mLを加え、室温下3時間抽出してから、減圧濃縮機により45℃で濃縮し、乾燥した濃縮抽出物を得た。重量計量後、適量のジメチルスルホキシド(DMSO)溶剤(10 mg/mL)を加え、下記する各抗酸化能分析をそれぞれ行った。
【0021】
(a)総抗酸化能(trolox equivalent antioxidant capacity ; TEAC) 測定
Artsらの提示した方法(M. J. T. J. Arts、J. S. Dallinga、H. -P. Voss、 G. R. M. M. HaenenおよびA. Bast、「Food Chem」、88:567-570 (2004))を参考にして発酵物を分析した。適度な濃度のゴマ粕発酵物抽出液を5μlを取り、使用直前に調製したABTS(2,2-Azino-di-3-ethyl-benzthi-azoline sulphonate)陽イオンラジカル溶液200μlを加えてから均一に振盪混合し、その波長734nmにおける吸光度を測定した。また、ゴマ粕発酵物抽出液をビタミンE誘導体(6-hydroxy-2,5,7,8-tetramethylchroman-2-carboxylic acid;Trolox)に置き換えて上述の実験手順を繰り返し、これを対照群とした。得られる吸光度が低いほど、その被験サンプルの水素供給能力はより優れているということを意味する。得られた実験データはビタミンE誘導体(Trolox)に相当する濃度として表され、ビタミンE誘導体(Trolox)濃度が高いほど、そのサンプルの抗酸化能力はより強いということを示す。なお、測定値はすべて3重測定によるものである。
【0022】
(b)1,1−ジフェニル−2−ピクリルヒドラジル(DPPH)消去能の測定
Shimadaらの提示した方法(K. Shimada、K. Fujikwa、K. YaharaおよびT. Nakamura、「J. Agric. Food Chem.,」、40: 945-948 (1992))を参考にして発酵物の分析を行った。適度な濃度のゴマ粕発酵物抽出液を1mL取り、使用直前に調製した0.5mM DPPHメタノール溶液0.25mLを加えてから、均一に振盪混合し、室温下で30分静置した後、分光光度計で波長517nmにおける吸光度を測定した。上記反応中の発酵物質をメタノールに置き換えてブランク群とした。かつ、ゴマ粕発酵物抽出液をビタミンE誘導体(Trolox)に置き換えて上述の実験手順を繰り返し、対照群とした。得られた実験データはビタミンE誘導体(Trolox)に相当する濃度として表され、ビタミンE誘導体(Trolox)濃度が高いほど、そのサンプルの抗酸化能はより強いということを示す。なお、測定値はすべて3重測定によるものである。
【0023】
(c) 脂質過酸化抑制能の測定(thiobabituric acid reactive substance;TBARS)
TamuraおよびShibamotoの提示した方法(H. TamuraおよびT. Shibamoto、「J. Am. Oil Chem. Soc.」、68: 941-943 (1991))を参考にしてゴマ粕発酵物抽出液の分析を行った。レシチンを0.75g量り取り、20mMのリン酸緩衝液(pH7.4)300mLを加え、Omni Mixer 2ホモナイザー(GA、USA)を用いてリポソーム懸濁液(2.5mg/mL)を調製した。調製したリポソーム懸濁液を2mL取り、25mMのFeCl0.1mLと、25mMのビタミンC(L−(+)−アスコルビン酸)0.1mLと、20mMのリン酸緩衝液(pH 7.4)1.2mLおよび0.5mLと、100μMのゴマ粕発酵物抽出液とをそれぞれ加え、遮光して37℃下2時間反応させた。その後、さらに20mg/mLのブチルヒドロキシトルエン(BHT)1mLと、1%のターシャリーブチルアルコール(TBA)2mLと、2.8%のトリクロル酢酸(TCA)1mLとをそれぞれ加え、100℃の湯浴で20分加熱してから、波長532nmにおけるその吸光度を測定した。また、ゴマ粕発酵物抽出液をビタミンE誘導体(Trolox)に置き換えて上述の実験手順を繰り返し、これを対照群とした。波長532nmにおける吸光度が低いほど、生成されるマロンジアルデヒド(malondialdehyde, MDA) 生成物が少ない、つまり、サンプルの脂質過酸化抑制能が高いということを意味する。得られた実験データはビタミンE誘導体に相当する濃度として表され、それは脂質過酸化抑制能力を示す。なお、測定値はすべて3重測定によるものである。
【0024】
表1を参照されたい。ゴマ粕発酵抽出液の総抗酸化能およびDPPH消去能は、未発酵ゴマ粕のそれぞれ3.07および3.12倍であった。また、ゴマ粕発酵抽出液の脂質過酸化抑制能は、未発酵ゴマ粕より57.6%向上していた。このことは、本発明のゴマ粕発酵抽出液が、フリーラジカルを消去して細胞が傷つかないよう保護することができると共に、脂質の抗酸化剤としても機能し得ることを示している。
【0025】
(表1)発酵および未発酵ゴマ粕の総抗酸化能試験(TEAC)、DPPHフリーラジカル消去能試験および脂質過酸化抑制能(TBARS)試験の比較

【0026】
実施例4:ヒト低密度リポ蛋白(LDL)過酸化抑制の分析
ShyuおよびHwangが提示した方法(Y. S. ShyuおよびL. S. Hwang, Food Res. Int., 35: 357-365 (2002))を参考にして発酵物の分析を行った。一晩絶食した健常成人男性から血清を採取し、超高速遠心分離によりLDLを分離した。分離したLDLをpH7.4のリン酸緩衝液(125mM NaClを含む)で4℃にて一晩透析した後、電気泳動によりLDLの分離効果を確認した。LDLコレステロールの濃度は、コレステロール酵素アッセイキットで検出した。さらに、上述の分離したLDLコレステロール(100μg/mL)を150μl取り、適度な濃度のゴマ粕発酵物抽出液20μlおよびPBS緩衝液60μlを加え、最後に、硫酸銅(CuSO)溶液を加えて、最終濃度を5μMとした。得られた混合溶液中に含まれる共役ジエンの波長232nmにおける吸光度の変化を、分光光度計(PowerWave(登録商標))で10分毎に連続して測定すると共に、そのLDL酸化のラグフェーズ(曲線の最大勾配と初期吸光値とのインターバル)を計算して分で表した。酸化のラグフェーズタイムが長いほど、その被験サンプルの抗酸化能は高いということを意味する。図2を参照すると分かるように、発酵させたゴマ粕抽出液のLDL酸化ラグフェーズタイム(lag phase time)(462±20分)は、未発酵の酸化ラグフェーズタイム(120±8.6分)に比べて約2.85倍も高まっており、ひいては1.25μMビタミンE誘導体の酸化ラグフェーズタイム(170±10分)よりも長かった。このことは、本発明による発酵させたゴマ抽出液がヒトのLDL抗酸化剤となり得、動脈硬化前期の予防用補充剤としての使用が可能であることを示す。
【0027】
実施例5:癌細胞成長抑制の分析
正常ヒト肺線維芽細胞(WI−38)、ヒト乳癌細胞(MCF−7)、子宮頚癌細胞 (Hela)、肝臓癌細胞(Hep G2)、大腸腺癌細胞(Caco−2)および胃腺癌細胞(AGS)を、好ましい培地を含む96穴培養プレート(3×10cells/well)中で接種し、37℃、5%COの培養箱中で一日培養した。その後、適度な濃度のサンプルを20μl加え72時間作用させてから、培地を吸い取って捨て、培地100μlおよびMTS試剤20μlを加えて1時間反応させ、色が褐色に変わるのを待って、波長490nmにおける吸光度を測定し、その細胞生存率を計算した。測定値はすべて3重測定によるものである。図3を参照すると分かるように、発酵させたゴマ組成物の子宮頚癌細胞(Hela)、胃腺癌細胞(AGS)および大腸腺癌細胞(Caco−2)の増殖に対する抑制能は、それぞれ未発酵のものの3.3倍、6.3倍および4.2倍であった。肝臓癌細胞(Hep G2)および乳癌細胞(MCF−7)については、未発酵のゴマ粕抽出液は癌細胞抑制能力を備えず、発酵させたゴマ粕抽出液の増殖抑制能力はそれぞれ65.4%および63.6%向上していた。さらに、発酵させたゴマは正常ヒト肺繊維芽細胞(WI−38)に対して細胞毒性を持たないため、癌治療の補充剤ともなり得る。
【0028】
本発明を好ましい実施形態によって以上のように開示したが、これは本発明を限定しようとするものではなく、当業者であれば、本発明の精神と範囲を逸脱しない限りにおいて変更および修飾を施すことができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲で定義されたものが基準とされる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1a】未発酵ゴマ組成物中のゴマリグナンの液体クロマトチャートである。
【図1b】ゴマ発酵組成物中のゴマリグナンの液体クロマトチャートである。
【図2】未発酵ゴマ組成物と発酵させたゴマ組成物のヒトLDLに対する影響を比較する図である。
【図3】未発酵ゴマ組成物と発酵させたゴマ組成物の抗癌能力を比較する図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴマまたはその他ゴマリグナンを含む物質を原料とし、少なくとも1種の菌株で発酵させてから抽出してゴマ発酵組成物を得る工程を含む、ゴマ発酵組成物の製造方法。
【請求項2】
原料が、ゴマ粕またはゴマを含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
ゴマ発酵組成物が、ゴマリグナン配糖体(sesame lignan glycosides)およびアグリコンゴマリグナン(aglycon sesame lignans)を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項4】
アグリコンゴマリグナンの含量が80%以上である請求項3記載の製造方法。
【請求項5】
アグリコンゴマリグナンの含量が95%以上である請求項3記載の製造方法。
【請求項6】
菌株が、アスペルギルス属(Aspergillus)を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
アスペルギルス属(Aspergillus)が、アスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)および/またはアスペルギルスニガー(Aspergillus niger)を含む、請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
アスペルギルスオリゼー(Aspergillus oryzae)が、ATCC14895、ATCC20423、ATCC1011、ATCC11489およびATCC14156からなる群より選択される、請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
アスペルギルスニガー(Aspergillus niger)が、ATCC16888、ATCC42418、ATCC6275、ATCC9029およびATCC9642からなる群より選択される、請求項7記載の製造方法。
【請求項10】
菌株が、バチルス属(Bacillus)を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項11】
バチルス属(Bacillus)が、バチルスサーキュランス(Bacillus circulans)を含む、請求項10記載の製造方法。
【請求項12】
バチルスサーキュランス(Bacillus circulans)が、ATCC11590およびDSM596からなる群より選択される、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法によって製造されるゴマ発酵組成物であって、アグリコンゴマリグナンの含量が80%以上であるゴマ発酵組成物。
【請求項14】
アグリコンゴマリグナンを有効量含む、癌を予防または治療するために用いられる組成物。
【請求項15】
ゴマリグナン配糖体およびアグリコンゴマリグナンを含む、請求項14記載の組成物。
【請求項16】
アグリコンゴマリグナンの含量が80%以上である請求項14記載の組成物。
【請求項17】
アグリコンゴマリグナンの含量が95%以上である請求項14記載の組成物。
【請求項18】
癌が、子宮頚癌、肝臓癌、乳癌、胃癌および大腸癌を含む、請求項14記載の組成物。
【請求項19】
経口で所要の個体に投薬される、請求項14記載の組成物。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−319157(P2007−319157A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−308519(P2006−308519)
【出願日】平成18年11月15日(2006.11.15)
【出願人】(596032694)財団法人食品工業発展研究所 (9)
【Fターム(参考)】