説明

ゴムホース

【課題】接液層を形成するフッ素系樹脂と、その外側の内面ゴム層を形成するゴムとが強固に接着され、耐油性、耐薬品性及び耐熱性に優れると共に、耐久性にも優れるゴムホース、特に自動車の燃料系統等に好適に用いることのできる燃料輸送用のゴムホースを提供する。
【解決手段】少なくとも内面ゴム層と、該内面ゴム層の外側に形成された補強層と、該補強層の外側に形成された外面ゴム層とを備えたゴムホースにおいて、上記内面ゴム層の更に内側にフッ素系樹脂よりなる接液層が形成され、かつこの接液層が、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂であり、上記内面ゴム層が、架橋サイトとしてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)を、ポリアミンよりなる架橋剤で架橋したゴムであることを特徴とするゴムホース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐油性、耐薬品性及び耐熱性に優れるゴムホース、特に自動車の燃料系統や家庭用コージェネレーションシステム等に好適に用いられる燃料輸送用のゴムホースに関する。
【背景技術】
【0002】
ゴムホースは、配合ゴムと繊維、ワイヤー等の補強材とを組み合わせて管状に加硫成形されたものであり、流体の輸送や圧力の伝達等を担う工業資材として欠かすことのできない部材である。その用途は建設、農業、自動車、食品など多岐にわたっており、最近では、機器類及びシステム等の高度化・高寿命化に伴い、耐薬品性、耐圧性、耐摩耗性、柔軟性、耐熱性等の品質要求が更に高まり、より耐久性の高いホースが求められている。
【0003】
上記ゴムホースは、その要求特性から、通常、内側から流体が流通あるいは充填されるゴム製の内面ゴム層と、流体の圧力に耐えるための補強層と、前記補強層及び内面ゴム層が外部から損傷を受けるのを防止する外面ゴム層とを順次積層した積層構造を有している。また、必要に応じて上記補強層を複数層設けることも一般的に行われ、耐久性の向上が図られている。このように、ゴムホースの耐久性を向上させることは、接続される機器のメンテナンス期間を延ばすことにつながり、ホースの交換に伴うコスト、廃棄物の排出量及び処分費用等を削減することができるため、コスト的、環境的な見地からも好ましいことである。
【0004】
例えば、ガソリンや灯油等の燃料を輸送する燃料ホースでは、自動車のエンジンルーム内等の使用環境から、主に優れた耐油性、耐薬品性及び耐熱性を有することが求められている。そのため、該燃料ホースを形成するゴム(特に内面ゴム層)として耐油性に優れるアクリロニトリル−ブタジエンゴム(NBR)等が一般的に用いられている。また、従来、該内面ゴム層の更に内側に化学的に安定なフッ素系樹脂からなる接液層を形成して耐油性を更に向上させることも一般的に行われている。しかしながら、一般的に該フッ素系樹脂は、その化学的性質から内面ゴム層を形成するゴム材料と強固に接着させることが困難であった。
【0005】
また、上記燃料ホースには、自動車のエンジンルーム等の狭いスペースにおいても容易な施工を可能とする柔軟性と、最小曲げ半径が小さいことが要求される。即ち、該燃料ホースは、その施工の際に、無理に曲げられたり、周囲の部材に接触して外力が加わったりする場合があり、その場合にはホースが屈曲してキンクが発生してしまうことがある。キンクが生じると、流路が狭まって燃料の輸送が制限されるおそれがあり、更には流路が完全に塞がってしまった場合には輸送そのものができなくなるおそれもある。また、フッ素系樹脂と内面ゴム層との接着が不十分であった場合、キンクが発生した部分で両者に剥離を生じて早期の損傷を招くおそれもある。
【0006】
一般的にフッ素系樹脂は柔軟性に乏しいため、該フッ素系樹脂を柔軟性が重要な商品要素となるホースの接液層として使用する場合、ホースの柔軟性及び耐久性を損なうことがないように、該接液層を可能な限り薄く形成すると共に、内面ゴム層を形成するゴムに強固に接着させることが重要となる。従来、フッ素系樹脂とゴム材料とを強固に接着する方法としては、フッ素系樹脂表面にコロナ放電処理等の化学的な前処理を施した後に、一液型接着剤あるいは下塗り接着剤と上塗り接着剤とからなる二液式接着剤を塗布する方法が採用されることが多い。しかし、上記の方法は生産において多くの工程を必要とすることから、技術的な課題も多く、コスト的な負担も大きかった。
【0007】
これに対し、上記の接着における問題を解消する技術が種々提案されている。例えば、上記ゴム(内面ゴム層)及び/又はフッ素系樹脂(接液層)に対して、特定の構造を有するカルボン酸を配合した処方(特許文献1:特開昭58−162335号公報)や、エポキシ樹脂とイミダゾールとを配合した処方(特許文献2:特開平2−85591号公報)、テトラアルキルホッソニウムベンゾチアゾリウム(TRP−BT)を配合した処方(特許文献3:特開平5−193053号公報)等を採用した燃料輸送用ホースが挙げられる。これらの技術により、押出成形等を用いて接液層、内面ゴム層、補強層及び外面ゴム層を積層した後、得られた積層体を加硫することにより、上記の前処理工程及び接着剤塗布工程を経ずにゴムとフッ素系樹脂とを強固に加硫接着することが可能となったが、現状要求されている耐久性を達成するためには更なる接着性の向上が必要である。
【0008】
なお、出願人はフッ素系樹脂とゴム材料とを強固に接着する技術として、給湯給水ホースあるいは冷媒輸送用ホースに関して、接液層としてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂と、内面ゴム層として、架橋サイトとしてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するアクリルゴム及びポリアミンよりなる架橋剤を含むゴム組成物とを用いることにより、両層間にアミン架橋による強固な化学結合を形成させて接着性を改善し、ホースの耐久性等を大幅に向上させる技術を提案している(特許文献4:特開2007−326248号公報、特許文献5:特開2008−94947号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭58−162335号公報
【特許文献2】特開平2−85591号公報
【特許文献3】特開平5−193053号公報
【特許文献4】特開2007−326248号公報
【特許文献5】特開2008−94947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、接液層を形成するフッ素系樹脂と、その外側の内面ゴム層を形成するゴムとが強固に接着され、耐油性、耐薬品性及び耐熱性に優れると共に、耐久性にも優れるゴムホース、特に自動車の燃料系統等に好適に用いることのできる燃料輸送用のゴムホースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の課題を解決するため、フッ素系樹脂材料とゴムとの新しい接着方法に着目した結果、無水マレイン酸等の酸無水物により化学修飾したフッ素系樹脂と、カルボキシル基を架橋サイトとして有する水素添加NBR(HNBR)にポリアミンを架橋剤として配合したゴム組成物とを密着した状態で加硫接着することにより、極めて良好な接着性を容易に得られることを知見した。
【0012】
本発明者は更に検討を進め、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂と、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を架橋サイトとして有する水素添加NBR(HNBR)、及びジアミン等のポリアミンよりなる架橋剤を含むゴム組成物とを密着させて加硫接着することにより、該ゴム組成物の加熱加硫時に、フッ素系樹脂とゴムとの間でイミド結合等よりなる架橋構造が形成され、上記フッ素系樹脂と上記HNBRとを強固に接着し得ることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は下記の(1)〜(4)の発明を提供する。
(1)少なくとも内面ゴム層と、該内面ゴム層の外側に形成された補強層と、該補強層の外側に形成された外面ゴム層とを備えたゴムホースにおいて、上記内面ゴム層の更に内側にフッ素系樹脂よりなる接液層が形成され、かつこの接液層が、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂であり、上記内面ゴム層が、架橋サイトとしてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)を、ポリアミンよりなる架橋剤で架橋したゴムであることを特徴とするゴムホース。
(2)上記フッ素系樹脂が、無水マレイン酸変性エチレン−四フッ化エチレン共重合体(無水マレイン酸変性ETFE)である上記(1)記載のゴムホース。
(3)上記HNBRが、マレイン酸又はその無水物で変性されたものである上記(1)又は(2)記載のゴムホース。
(4)上記架橋剤が、ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及びヘキサメチレンジアミンカルバメートから選ばれる1又は2以上の架橋剤である上記(1)〜(3)のいずれか1項記載のゴムホース。
【発明の効果】
【0014】
本発明のゴムホースは、耐油性、耐薬品性及び耐熱性に優れるものである。また、上記接液層と上記内面ゴム層とが架橋構造を形成して強固に接着されているため、両者間の剥離を生じることがなく耐久性にも優れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のゴムホースの構造の一実施例を示す概略斜視図である。
【図2】本発明のゴムホースの構造の別の実施例を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のゴムホースは、少なくとも内面ゴム層と、該内面ゴム層の外側に形成された補強層と、該補強層の外側に形成された外面ゴム層とを備えたゴムホースにおいて、上記内面ゴム層の更に内側にフッ素系樹脂よりなる接液層を形成したものである。
【0017】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明のゴムホースの構造の一実施例を示す概略斜視図である。本発明のゴムホース1は、内側からフッ素系樹脂よりなる接液層2、内面ゴム層3、補強層4及び外面ゴム層5が順次積層された積層構造を有している。なお、図1中のゴムホースの径は、ホースの使用箇所や目的等に応じて適宜設定され、特に制限されるものではないが、ここでは外径10〜16mm程度のものとする。
【0018】
接液層2は、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂で形成されたものであり、該フッ素系樹脂としては、公知のものを用いることができ、特に制限されるものではなく、具体例として、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化エチレン、ポリ塩化三フッ化エチレン、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン共重合体、エチレン−四フッ化エチレン共重合体、エチレン−塩化三フッ化エチレン共重合体、四フッ化エチレン−六フッ化プロピレン−フッ化ビニリデン三元共重合体、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、あるいはフッ素樹脂ゴムに結晶性フッ素樹脂をグラフト重合した軟質系フッ素樹脂等が挙げられる。本発明では、柔軟性と耐熱性の観点からエチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)を好適に用いることができる。
【0019】
また、上記カルボキシル基及び酸無水物基は、マレイン酸等のカルボン酸、あるいはその酸無水物により上記フッ素系樹脂を化学修飾することにより形成される。この場合、後述するゴム成分とイミド結合よりなる架橋構造をとるために、上記カルボン酸の酸無水物基であることが好ましい。なお、上記カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂は、1種単独で用いてもよく、異なるカルボン酸あるいはその酸無水物で化学修飾されたものや、化学修飾度の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0020】
なお、上記接液層2の厚さは、薄過ぎると耐油性、耐薬品性、耐熱性等が不十分となるおそれがあり、一方、厚過ぎるとホースの柔軟性が損なわれる場合があるため、本発明では50〜300μmとすることが好ましい。
【0021】
内面ゴム層3を形成するゴムは、耐油性等の観点から、ゴム成分として、架橋サイトとしてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)を用い、ポリアミンよりなる架橋剤を配合して加硫(架橋)したものである。
【0022】
上記HNBRのアクリロニトリル含量(AN含量)は、耐油性等の観点から20〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜35質量%である。上記AN含量が20質量%未満の場合は、十分な耐油性を得る事ができないおそれがあり、一方50質量%を超えるとゴム組成物の低温性の低下(脆化温度の上昇)や、樹脂的性質が強くなりゴム特有の弾性を損なうおそれがある。
【0023】
上記HNBRの水素化率は、特に制限されるものではないが、耐熱性の観点から95%以上であることが好ましく、より好ましくは98%以上である。水素化率が95%未満の場合、耐熱性が損なわれるおそれがある。
【0024】
上記カルボキシル基及び酸無水物基は、マレイン酸等のカルボン酸、あるいはその酸無水物によりHNBRを化学修飾することにより形成される。この場合、上記フッ素系樹脂とイミド結合よりなる架橋構造をとるために、上記カルボン酸の酸無水物基であることが好ましく、特にマレイン酸の酸無水物基であることが好ましい。なお、上記カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するHNBRは、1種単独で用いてもよく、異なるカルボン酸あるいはその酸無水物で化学修飾されたものや、化学修飾度の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0025】
架橋剤としては、公知のポリアミンを用いることができ、特に制限されるものではないが、具体的には、ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート等のジアミン、トリエチレンテトラミン等が挙げられる。これらのポリアミンは1種を単独で、又は2種以上を混合して用いることができ、本発明では、ジアミノジフェニルメタン及び2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパンを好適に用いることができる。上記ポリアミンの配合量は、ゴムの加硫と上記架橋構造を形成するために十分な量であればよく、特に制限されるものではないが、ゴム成分100質量部に対して1〜8質量部、好ましくは2〜6質量部とされる。配合量が1質量部未満であると、十分な架橋密度を得られないばかりか、酸変性ETFE等のフッ素系樹脂との十分な接着が得られないおそれがあり、一方8質量部を超えると、架橋密度が上がり過ぎてゴム硬度が上昇し、脆性が増す場合があり好ましくない。また、コストの上昇を招き、経済性を損なうおそれもある。
【0026】
本発明では、上述したカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂と、架橋サイトとしてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するHNBR及び架橋剤としてのポリアミンを含むゴム組成物とを接触させて、当該ゴムの加硫温度に加熱することにより、ゴム組成物が加硫硬化されると共に、フッ素系樹脂のカルボキシル基及び/又は酸無水物基と、HNBRの架橋サイトのカルボキシル基及び/又は酸無水物基と、架橋剤のポリアミンとがイミド結合等よりなる架橋構造を形成し、フッ素系樹脂とゴムとが強固に結合して接着したフッ素系樹脂/ゴム複合材料を得ることができる。
【0027】
また、本発明では上記ゴム成分に対して、公知の加硫剤、加硫促進剤及び加硫促進助剤や、通常使用されているカーボン、老化防止剤、可塑剤、石油樹脂、加硫遅延剤、ワックス類、酸化防止剤、充填剤、オイル、滑剤、粘着付与剤、紫外線吸収剤、分散剤、相溶化剤、均質化剤等の添加剤を適宜配合することができる。
【0028】
カーボンとしては、公知のSRF、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF、FT、MT等のカーボンブラックを使用することができる。また、これらのカーボンブラックは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記カーボンブラックの配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して40〜80質量部とされる。
【0029】
可塑剤としては、公知のアロマティック油、ナフテニック油、パラフィン油等のプロセスオイルや、やし油、ヒマシ油等の植物油、アルキルベンゼンオイル等の合成油、エステル系可塑剤、エーテル系可塑剤等を使用することができる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。上記可塑剤の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して5〜25質量部とされる。
【0030】
加硫促進剤としては、公知のものを用いることができ、特に限定されるものではないが、例えば、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N−t−ブチル−2−ベンゾチアジルスルフェンイミド等のスルフェンアミド系の加硫促進剤、1,3−ジ−o−トリルグアニジン、ジフェニルグアニジン等のグアニジン系の加硫促進剤、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド等のチウラム系加硫促進剤、ジアルキルジチオリン酸亜鉛等の加硫促進剤等が挙げられる。上記加硫促進剤の配合量は、上記ゴム成分100質量部に対して1〜4質量部とされる。
【0031】
内面ゴム層3の厚さは、本発明では0.8〜2mmであることが好ましく、薄過ぎるとホース加締め性能に悪影響を与えるおそれがあり、厚過ぎるとホース重量の増大と、ホース外径寸法の増大につながる場合がある。
【0032】
補強層4の構成材料としては、公知の材料を用いることができ、特に制限されるものでないが、具体的には、鉄、銅、アルミニウム等の金属単体、並びにステンレススチール等の合金よりなる金属硬線や、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、ナイロン繊維、アラミド繊維等の有機繊維よりなる補強糸を用いることができる。補強層4は、これらの1種を単独で編組又はスパイラル巻きしたり、2種以上を併用して編組又は互いに対をなす方向にスパイラル巻きすることにより形成される。
【0033】
この場合、上記金属硬線の線径は、特に制限されないが、本発明においては0.1〜0.5mmであることが好ましい。上記金属硬線の線径が0.1mm未満であると、内面ゴム層3外周面に巻き付けて補強層4を形成する際に食い込み易くなるため、ピンホールの原因となるおそれや、破断するおそれがある。また、上記金属硬線の線径が0.5mmを超えると太過ぎて加工性が低下し、補強層4を形成することが困難となるおそれがある。
【0034】
また、上記有機繊維の補強糸の繊度も、特に制限されるものではないが、本発明においては1100〜3300dtexであることが好ましい。補強糸の繊度が1100dtex未満であると強度及び耐久性が不十分となるおそれがあり、3300dtexを超えた場合には、成形後のゴムホース外周面に補強糸(補強層)の形状が浮き出て、ゴムホースの外観を損ねる場合がある。
【0035】
上記補強層4は、図1に示したように、金属硬線又は補強糸の編組層4aの1層で構成すればよく、また、必要に応じて図2に示したように、有機繊維の補強糸の編組層よりなる有機繊維補強層4bと金属硬線の編組層よりなる金属硬線補強層4cとで構成される2層構造としてもよい。なお、補強層4を2層構造とする場合、有機繊維補強層4bを該補強層4の内層側とし、金属硬線補強層4cを外層側とすることが製造上及び外観の点で好ましい。また、この場合、特に制限されるものではないが、1100〜3300dtex、撚り数6〜15回/10cmの補強糸を編組した有機繊維補強層4bと、線径が0.1〜0.5mmの金属硬線を編組した金属硬線補強層4cとで形成したり、1100〜3300dtex、撚り数0〜10回/10cmの補強糸をスパイラル状に巻回した有機繊維補強層4bと、線径が0.1〜0.5mmの金属硬線を編組した金属硬線補強層4cとで形成することが好ましい。本発明ではこのような2層構造の補強層4を形成することにより、優れた耐圧性、耐久性を得ることもできる。
【0036】
また、特に図示していないが、上記補強層4を上記内面ゴム層3外周面に形成する際に、必要に応じて接着剤層を介在させてもよい。該接着剤層は公知の接着剤を塗布することにより設けることができ、これにより補強層4の位置ずれ等を防止してゴムホースをより安定的に生産することができる。
【0037】
外面ゴム層5は、公知のゴム材料で形成することができ、その材質は特に制限されるものではないが、材料の調達や加熱加硫条件の設定のしやすさ等の観点から、上記内面ゴム層3の構成材料と同じ材料で形成することが好ましい。
【0038】
また、外面ゴム層5の厚みは、ホースの仕様等に応じて適宜設定することができ、特に制限されるものではないが、本発明では0.5〜1.5mmとされる。
【0039】
本発明のゴムホースは、公知の製造方法により生産することができ、その製造方法は特に限定されないが、具体的には以下の方法を挙げることができる。まず、上述のカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂を、離型剤を塗布したマンドレル上に押出機により押し出して、管状のフッ素系樹脂層(接液層2)を形成する。次いで、この接液層2の外周面に上記ゴム組成物を押出機により押し出して、所定の肉厚の内面ゴム層3を形成し、該内面ゴム層3の外周面に金属硬線や補強糸を巻き付けて補強層4を形成した後、更に該補強層4の外周面に上記内面ゴム層3と同様にして外面ゴム層5を形成して、得られた積層体(未加硫のゴムホース)を常法に従って加熱加硫して各層を接着一体化する。
【0040】
本発明のゴムホースでは、フッ素系樹脂の接着面に対して接着性向上を目的とする表面処理や接着剤の塗工等の工程を必要とせず、押出成形等により上記接液層2外周面に内面ゴム層3を形成して、加熱加硫を行うのみで上記接液層2のフッ素系樹脂と上記内面ゴム層3とがイミド結合等の架橋構造で強固に結合されるため、両層間に剥離を生じることのない耐久性に優れるゴムホースを効率的に製造することができる。
【0041】
なお、本発明のゴムホースにおいて、ゴムホースの径(内径,外径)、各層の肉厚及び構造等は、上記に限定されるものではなく、本発明の効果を損なわない範囲において、ゴムホースの仕様等に応じて適宜設定し得るものである。例えば、図1に示したように内側から、接液層2、内面ゴム層3、補強層4及び外面ゴム層5を順次積層した4層構造や、図2に示したように上記補強層4を2層とした5層構造とするほか、更に強度等が必要な場合は、図2に示したゴムホースの2層の補強層4b,4c間に中間層(中間ゴム層)を配した6層構造とすることもでき、これらの構造はホースの要求特性等に応じて適宜設定すればよい。
【0042】
本発明のゴムホースは、その優れた耐油性、耐薬品性、耐熱性、耐久性及び施工性(柔軟性)により、燃料輸送用ホース、給油ホース、薬品輸送用ホース、給水給湯ホース等の幅広い用途に使用することができ、特に優れた耐油性、耐薬品性及び耐熱性から自動車のエンジンルーム等で使用される燃料輸送用のホースとして好適に用いることができるものである。
【実施例】
【0043】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げて詳細に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0044】
[実験例1、比較実験例1〜4]
まず、以下の方法により、内面ゴム層を形成するゴム材料の物性及び該ゴム材料とフッ素系樹脂との接着性を確認した。
表1に示したゴム組成物を常法に従って調製した後、長さ120mm×幅120mm×厚さ2.2mmのシート状に成形した。次いで、得られたゴムシートを、160℃×45分間の一次加硫、及び160℃×4時間の二次加硫を行いゴム物性評価用の評価体1とした。また、接着性評価用の評価体として、前記ゴムシートに、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂として旭硝子(株)製の無水マレイン酸変性ETFE「LM−ETFE−AH−2000」、カルボキシル基及び酸無水物基を有さないフッ素系樹脂として旭硝子(株)製の「LM−ETFE」又は「PFR」のシート(厚さ300μm)を貼り合わせた後、上記と同様の条件で加熱加硫して評価体2を作製した。
【0045】
上記で作製した評価体については、以下の項目について試験を行った。結果を表1に示す。
《評価方法》
・硬度(JIS−A)
JIS K6253に準拠し、上記評価体1についてタイプAデュロメータにより測定した。
・引張強さ及び破断伸び
JIS K6251に準拠し、上記評価体1からダンベル状3号形試験片を作製し、引張強さと破断伸びを測定した。
・耐熱性(引張強さ保持率及び破断伸び保持率)
上記評価体1を150℃の恒温槽内で500時間保持した後、上記と同様にして引張強さと破断伸びを測定し、加熱前の条件で測定した結果に対する比率を算出した。この比率が100に近いほど熱による物性の低下が少なく、耐熱性に優れることを表す。
・接着性(樹脂/ゴム接着性)
上記評価体2について、50mm/分の引張速度で180°剥離試験を行って、引き剥がしたフッ素系樹脂シートの接着面のゴム付き状態を目視にて観察し、下記基準で評価した。
◎:表面積ゴム付き率100%
○:表面積ゴム付き率80%以上
△:表面積ゴム付き率50%以上
×:表面積ゴム付き率50%未満
【0046】
なお、表1中の各配合成分の詳細は次の通りである。
酸変性HNBR:日本ゼオン(株)製「ZPT−136」
HNBR:日本ゼオン(株)製「ZP2000L」
NBR:JSR(株)製「N230」
アクリルゴム:Dupont社製「Vamac−G」
カーボンブラック:東海カーボン(株)製「シースト6」
老化防止剤:大内新興化学工業(株)製「ノクラックMB」
オクタデシルアミン:「アーミン18D」
ポリオキシエステルエーテルリン酸:「フォスファノールRL210」
可塑剤1:(株)ADEKA製「アデカサイザーC8」
可塑剤2:DOA
可塑剤3:(株)ADEKA製「アデカサイザーRS735」
ジアミノジフェニルメタン:保土ヶ谷化学工業(株)製「DAM」
促進剤DOTG:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーDT」
有機過酸化物架橋剤:日油(株)製「パークミルD−40」
共架橋剤:大内新興化学工業(株)製「バルノックPM」
硫黄架橋剤:亜鉛華5%混合硫黄
促進剤DPG:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーD」
促進剤CZ:大内新興化学工業(株)製「ノクセラーCZ」
【0047】
【表1】

【0048】
上記表1の結果より、架橋サイトとしてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するHNBRが機械的強度に優れ、かつポリアミンよりなる架橋剤を配合することによりカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂と強固に接着し得ることが確認された。
【0049】
[実施例1]
常法により、押出成形機を用いてマンドレル上に形成した接液層の外周面に、押出成形機を用いて内面ゴム層を形成し、該内面ゴム層の外周面に補強糸をスパイラル構造に編組みして補強層を形成した後、更に押出成形機を用いて外面ゴム層を形成し、加硫して図1に示した構造の本発明のゴムホース(内径9mm)を作製した。加硫条件及びホースの詳細は以下の通りである。
<加硫条件>
一次加硫:160℃×45分
二次加硫:160℃×4時間
<ゴムホースの各部の材料及び寸法>
接液層の材料:無水マレイン酸変性ETFE「AH−2000」
接液層の厚さ:0.25mm
内面ゴム層の材料:マレイン酸変性HNBR「ZPT−136」(配合A)
内面ゴム層の厚さ:1.0mm
補強層:PET繊維、1100dtex/3撚り、打込み本数44本、スパイラル編組み、打込み角度50°
外面ゴム層の材料:マレイン酸変性HNBR「ZPT−136」(配合A)
外面ゴム層の厚さ:0.5mm
【0050】
[比較例1]
上記実施例1の内面ゴム層及び外面ゴム層を、表1の配合Aから配合Eに変更した以外は、実施例1と同様にして作製した。作製したゴムホースの各部の材料及び寸法は次の通りである。
<ゴムホースの各部の材料及び寸法>
接液層の材料:無水マレイン酸変性ETFE「AH−2000」
接液層の厚さ:0.25mm
内面ゴム層の材料:マレイン酸変性アクリルゴム「Vamac−G」(配合E)
内面ゴム層の厚さ:1.0mm
補強層:PET繊維、1100dtex/3撚り、打込み本数44本、スパイラル編組み、打込み角度50°
外面ゴム層の材料:マレイン酸変性アクリルゴム「Vamac−G」(配合E)
外面ゴム層の厚さ:0.5mm
【0051】
[比較例2]
上記実施例1の構成から接液層を除いた以外は、上記と同様にして作製した。作製したゴムホースの各部の材料及び寸法は次の通りである。
<ゴムホースの各部の材料及び寸法>
内面ゴム層の材料:マレイン酸変性HNBR「ZPT−136」(配合A)
内面ゴム層の厚さ:1.0mm
補強層:PET繊維、1100dtex/3撚り、打込み本数44本、スパイラル編組み、打込み角度50°
外面ゴム層の材料:マレイン酸変性HNBR「ZPT−136」(配合A)
外面ゴム層の厚さ:0.5mm
【0052】
[比較例3]
上記比較例1の構成から接液層を除いた以外は、上記と同様にして作製した。作製したゴムホースの各部の材料及び寸法は次の通りである。
<ゴムホースの各部の材料及び寸法>
内面ゴム層の材料:マレイン酸変性アクリルゴム「Vamac−G」(配合E)
内面ゴム層の厚さ:1.0mm
補強層:PET繊維、1100dtex/3撚り、打込み本数44本、スパイラル編組み、打込み角度50°
外面ゴム層の材料:マレイン酸変性アクリルゴム「Vamac−G」(配合E)
外面ゴム層の厚さ:0.5mm
【0053】
[比較例4]
接液層としてポリブテン樹脂、内面ゴム層及び外面ゴム層として熱可塑性エラストマー(TPE)を用い、実施例1と同様にして押出機により各層を形成して、図1に示した構造のゴムホース(内径9mm)を作製した。作製したゴムホースの各部の材料及び寸法は次の通りである。
<ゴムホースの各部の材料及び寸法>
接液層の材料:ポリブテン樹脂「ビューロンP5050」
接液層の厚さ:0.25mm
内面ゴム層の材料:TPE「サントプレーン201−73」
内面ゴム層の厚さ:1.0mm
補強層:PET繊維、1100dtex/3撚り、打込み本数44本、スパイラル編組み、打込み角度50°
外面ゴム層の材料:スチレン系TPE「ダイナロン2324P」
外面ゴム層の厚さ:0.5mm
【0054】
上記で作製したゴムホースについては、以下の項目について試験を行った。結果を表2に示す。
《評価方法》
・接着性(樹脂/ゴム接着性)
実施例1及び比較例1のゴムホースを長さ20cm程度に切断し、長手方向にファインカッター等を用いてホースを半割りした。次いで、ホース内周面のフッ素系樹脂(接液層)に対して、カッター等を用いて長手方向に深さ0.5mm程度の切込みを3mm程度の間隔で数本入れた。その後、ペンチ等の工具を用いて上記フッ素系樹脂のみを引き剥がし、該フッ素系樹脂のゴム付き状態を目視にて観察し、以下の基準により評価した。
◎:表面積ゴム付き率90%
○:表面積ゴム付き率70%以上
△:表面積ゴム付き率40%以上
×:表面積ゴム付き率40%未満
・耐熱性
作製したホースを120℃のオーブン中に500時間放置した後、破断伸びの残存率を測定し、以下の基準により評価した。
◎:破断伸び残存率80%以上
○:破断伸び残存率60%以上
△:破断伸び残存率40%以上
×:破断伸び残存率40%未満
・耐ガソリン性
作製したホース内にガソリンを封入し、40℃×72時間放置した後、内面ゴム層を切り出して体積膨潤率を測定し、以下の基準により評価した。
◎:体積膨潤率0〜20%
○:体積膨潤率21〜40%
△:体積膨潤率40〜55%
×:体積膨潤率56%以上
・耐塩素水性
長さ1mに切断した上記ホース内に、塩素濃度50pphm、温度80℃、流速0.3L/min.の条件で塩素水を循環させ、ホースが漏水を起こすまでの時間(日数)を測定し、以下の基準により評価した。
◎:120日以上
○:90〜119日
△:60〜89日
×:59日以下
・ホース柔軟性
長さ50mmに切断した上記ホースを支点(ローラー)間距離200mmの3点曲げ試験治具にセットし、該ホースの中心をロードセルにて500mm/min.で押し込み、押し込み加重を測定し、以下の基準により評価した。
◎:20N以下
○:21〜28N
△:29〜35N
×:36N以上
【0055】
なお、表2中の樹脂及びゴム成分の詳細は次の通りである。
フッ素系樹脂:旭硝子(株)製、無水マレイン酸変性ETFE「LM−ETFE−AH−2000」(酸無水物基を有する)
ポリブテン樹脂:三井化学(株)製、ポリ−1−ブテン樹脂「ビューロンP5050」
TPE:AES社製「サントプレーン201−73」
スチレン系TPE:JSR(株)製「ダイナロン2324P」
【0056】
【表2】

【0057】
上記表2の結果より、本発明のゴムホース(実施例1)は耐熱性、耐ガソリン性(耐油性)、耐塩素水性(耐薬品性)に優れることが確認された。また、接液層と内面ゴム層が強固に接着され、かつ良好な柔軟性も兼ね備えていることから、施工時に加わる外力等により大きく屈曲しても、両者が剥離しにくく、耐久性にも優れるものである。
【符号の説明】
【0058】
1 ゴムホース
2 接液層
3 内面ゴム層
4 補強層
4a 金属繊維又は補強糸の編組層
4b 有機繊維補強層
4c 金属硬線補強層
5 外面ゴム層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも内面ゴム層と、該内面ゴム層の外側に形成された補強層と、該補強層の外側に形成された外面ゴム層とを備えたゴムホースにおいて、
上記内面ゴム層の更に内側にフッ素系樹脂よりなる接液層が形成され、かつ
この接液層が、カルボキシル基及び/又は酸無水物基を有するフッ素系樹脂であり、上記内面ゴム層が、架橋サイトとしてカルボキシル基及び/又は酸無水物基を有する水素添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム(HNBR)を、ポリアミンよりなる架橋剤で架橋したゴムであることを特徴とするゴムホース。
【請求項2】
上記フッ素系樹脂が、無水マレイン酸変性エチレン−四フッ化エチレン共重合体(無水マレイン酸変性ETFE)である請求項1記載のゴムホース。
【請求項3】
上記HNBRが、マレイン酸又はその無水物で変性されたものである請求項1又は2記載のゴムホース。
【請求項4】
上記架橋剤が、ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン及びヘキサメチレンジアミンカルバメートから選ばれる1又は2以上の架橋剤である請求項1〜3のいずれか1項記載のゴムホース。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−216495(P2010−216495A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60772(P2009−60772)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】