説明

ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法及び再生熱可塑性樹脂組成物

【課題】生産工程上発生する不良品や市場から回収されるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を処理して高純度のラクチドとゴム含有熱可塑性樹脂組成物とに効率的に分離、回収する。
【解決手段】ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部と、アルカリ土類金属酸化物(B)0.005〜20重量部と、硬質(共)重合体(C)5〜200重量部とを(ただし、(B)成分と(C)成分との合計100重量部中の(B)成分の割合は0.1〜10重量部)、シリンダー設定温度180〜250℃の押出機に連続的に投入してラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を分離・回収するゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物のケミカル・マテリアルリサイクル技術に関するものである。
即ち、本発明はゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を処理して効率的にラクチドとゴム含有熱可塑性樹脂組成物を分離、回収する方法に関する。本発明はまた、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物から回収されたラクチド及びゴム含有熱可塑性樹脂組成物と、このゴム含有熱可塑性樹脂組成物を用いた再生熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化の要因として、大気中における炭酸ガス濃度の上昇が指摘され、地球規模での炭酸ガス排出規制の必要性が唱えられている。炭酸ガス排出源としては、生物の呼吸、バクテリアによる腐敗・醗酵等も有るが、燃焼による部分が大きく、現状の大気中の炭酸ガス濃度上昇現象は、人間による産業革命以後の石油資源を浪費した経済活動によってもたらされたものと一般的には考えられている。
【0003】
ところで、最近、カーボンニュートラルとして、炭酸ガスを吸収、固定する植物資源の有効活用が注目されている。即ち、植生によって、炭酸ガスの吸収を図る一方で、将来枯渇が予想される石油資源の代替を図るというものである。
【0004】
プラスチックにおいても、従来の原油を基礎原料とするものから、バイオマスを利用したプラスチックが開発され、これらは植物由来樹脂としてその活用が推進されている。
【0005】
一方、昨今の原油価格高騰により、原油から製造するプラスチックやガソリン等の価格上昇が止まらず、社会問題となっている。使用済みの各種プラスチックをケミカル・マテリアルリサイクルすることは、近い将来、危惧される原油枯渇に備えるために必要な技術開発分野であり、企業の社会的責任を果たす観点からもその重要性は高まっている。
【0006】
現在、植物由来樹脂としては、ラクチドを開環重合してなるポリ乳酸(PLA)が主流であり、他の化石由来樹脂とのアロイ体が工業化されている。
【0007】
従来、ポリ乳酸の熱分解関連の技術として、例えば、以下のようなものが提案されている。
特許文献1には、廃棄された高分子量ポリ乳酸からラクチドを高純度で回収する方法として、廃棄された高分子量ポリ乳酸を、スズ又はスズ化合物からなる触媒の存在下にラクチドに変換し、回収する技術が開示されている。
特許文献2には、乳酸エステルをモノブチルスズの存在下で、120〜230℃に加熱することによって、高純度のラクチドを得る技術が開示されている。
特許文献3には、分子量400〜3000の乳酸オリゴマーに酸化銅を添加して、130℃〜260℃に加熱することによって、生成するラクチドのラセミ化を抑制した上でラクチドを得る方法が開示されている。
更に特許文献4には、周期律表IA,IIIA,IVA,IIB,及びVA族の触媒を用いた乳酸オリゴマーの解重合反応系内に、水蒸気を吹き込みながら130〜260℃に加熱することによって、ラセミ化を抑制するラクチドの製造方法が開示されている。
しかしながら、これらの方法であってもラクチドのラセミ化が進み、回収されるラクチドの光学純度が低いという問題がある。
【0008】
特許文献5には、ポリ乳酸に、熱分解触媒としてのスズ化合物の他に高沸点のアルコール類を添加して、加アルコール分解の後に解重合させるラクチドの回収方法が開示されている。また、特許文献6には、酸化第一鉄を触媒とする方法、特許文献7には、アルカリ金属の水酸化物やアルコキシド、及びカルボン酸との塩などを触媒とする方法が開示されているが、これらはいずれも乳酸オリゴマーからのラクチド合成の方法である。
【0009】
特許文献8には、ポリ乳酸を含有するポリマーから高純度のラクチドを回収する方法として、解重合触媒に酸化マグネシウムを用い、反応器としてエクストルーダーを用い、エクストルーダーのベント口からラクチドを回収する方法が開示されている。
この特許文献8では、ポリ乳酸を含有するポリマーとして、ポリ乳酸と直鎖状ポリエチレンとのブレンド物を適用した実施例が記載されているが、ポリ乳酸からのラクチドの分解生成の確認にとどまり、ラクチドとポリエチレンとを分離して、ラクチドだけでなく、ポリエチレンを回収することは行われていない。
即ち、従来の技術はいずれもポリ乳酸からのラクチドの回収を目的としており、従来において、ポリ乳酸含有熱可塑性樹脂組成物からラクチドを回収すると共に、熱可塑性樹脂組成物をもその物性の低下を抑えた上で効率的に分離、回収する技術は提案されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−77904号公報
【特許文献2】特開平11−209370号公報
【特許文献3】特開平11−292871号公報
【特許文献4】特開平10−306091号公報
【特許文献5】特開平9−241417号公報
【特許文献6】特開平8−119961号公報
【特許文献7】特開平6−65230号公報
【特許文献8】特開2008−231048号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、その目的は、生産工程上発生する不良品や市場から回収されるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を処理して、高純度のラクチドとゴム含有熱可塑性樹脂組成物とに効率的に分離、回収する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、従来の技術の検証・改良に鋭意努力した結果、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)に特定量のアルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)を添加して押出機で熱処理することにより、高純度のラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)とを効率的に分離、回収することができることを見出し、本発明に至った。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0013】
[1] ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を処理して、ラクチドとゴム含有熱可塑性樹脂組成物とを分離、回収する方法であって、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部と、アルカリ土類金属酸化物(B)0.005〜20重量部と、硬質(共)重合体(C)5〜200重量部とを(ただし、(B)成分と(C)成分との合計100重量部中の(B)成分の割合は0.1〜10重量部とする)、シリンダー設定温度180〜250℃の押出機に連続的に投入してラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を分離、回収することを特徴とするゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【0014】
[2] [1]において、前記ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)は、樹脂成分としてポリ乳酸とゴム含有熱可塑性樹脂とを含み、ポリ乳酸の含有量が25〜95重量%の複合樹脂組成物であるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【0015】
[3] [1]又は[2]において、前記押出機は少なくとも1箇所以上のベント口を有し、該ベント口よりラクチド(D)を回収し、ダイ部よりゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を回収するゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【0016】
[4] [3]において、前記押出機のベント口より回収されるラクチド(D)の光学純度が、L−ラクチド90%以上であるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【0017】
[5] [3]又は[4]において、前記押出機のダイ部より回収されるゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の樹脂流動性が、ISO1133に準ずるメルトボリュームフローレート(MVR)の測定値で、220℃×98Nの条件下、10〜80cm/10分であるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【0018】
[6] [1]ないし[5]のいずれかに記載のゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法で回収されたラクチド(D)。
【0019】
[7] [1]ないし[4]のいずれかに記載のゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法で回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(F)。
【0020】
[8] [7]に記載のゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)と他の熱可塑性樹脂(F)とを混合してなることを特徴とする再生熱可塑性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、生産工程上発生する不良品や市場から回収されるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)から高純度のラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)とを効率的に分離、回収して再利用することができる。従って、地球環境負荷低減、循環型社会構築において、本発明の工業的価値は極めて大きい。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
なお、本発明において、「(共)重合」の文言は「重合」と「共重合」の双方を含む意味で用いる。
【0023】
[ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)]
まず、本発明における処理対象であるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)について説明する。
本発明に係るゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)は、樹脂成分としてポリ乳酸とゴム含有熱可塑性樹脂とを含む複合樹脂(アロイ体)組成物である。
【0024】
<ポリ乳酸>
ポリ乳酸には、L体、D体、DL体の3種の光学異性体が存在し、市販されているポリ乳酸としては、L体の純度が100%に近いものがあるが、本発明で処理するゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)に含まれるポリ乳酸は、特にその純度を規定するものではなく、また、本発明の効果を損なわない範囲で、他の共重合成分を含んだ共重合体でも構わない。
【0025】
ポリ乳酸に含まれる他の共重合成分としては、エチレングリコール、ブロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノ−ル、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノ−ルA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類などを挙げることができる。このような共重合成分の含有量は、ポリ乳酸中の全単量体成分中通常30モル%以下の含有量とするのが好ましく、10モル%以下であることがより好ましい。
【0026】
ポリ乳酸の分子量や分子量分布については、実質的に成形加工が可能であれば特に制限されるものではないが、重量平均分子量(Mw)としては、通常1万以上、好ましくは5万以上、さらに10万以上であることが望ましい。ポリ乳酸の重量平均分子量の上限については特に制限はないが、通常40万以下である。
【0027】
なお、分子量の測定はGPC(溶媒THF:テトラヒドロフラン)にて測定することができるが、ポリ乳酸がペレット状の場合、THFに溶解し難い場合があり、その場合は、クロロホルムに溶解させた後、メタノールを用いてポリマー成分を析出させ、そのポリマー成分を乾燥させたものをTHFに溶解させて可溶分の分子量を測定することができる。また、必要に応じて加温するなどして溶解させることもできる。
【0028】
ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)に含まれるポリ乳酸は、1種のみであっても良く、2種以上が含まれていても良い。
ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)に用いられるポリ乳酸の具体例としては、例えば、市販品のネイチャーワークス社製「インジオ」、中国海生生物材料公司社製「レヴォダ」などが挙げられる。
【0029】
ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)中のポリ乳酸の含有量は、好ましくは、25〜95重量%の範囲であるが、より好ましくは30〜95重量%、更に好ましくは50〜90重量%であることが、カーボンニュートラルの観点や、物性バランスの点で好ましい。この範囲よりも、ポリ乳酸の含有量が少ないとケミカルリサイクルできるL−ラクチド(D)の回収量が極めて少なくなる一方、多いとマテリアルリサイクルされるゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)中に劣化したポリ乳酸が残存し、再利用する際、材料設計の阻害要因となる。
【0030】
<ゴム含有熱可塑性樹脂>
一方、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)に含まれるゴム含有熱可塑性樹脂は、基本的にゴム質重合体に共重合可能なモノマー(以下、「(共)重合性モノマー」と称す。)がグラフト重合したグラフト共重合体(以下、「ゴム含有グラフト共重合体」と称す。)である。
【0031】
ゴム含有グラフト共重合体のゴム質重合体としては、例えばポリブタジエン、スチレン/ブタジエン共重合体、アクリル酸エステル/ブタジエン共重合体等のブタジエン系ゴム;スチレン/イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム;ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム;エチレン/プロピレン共重合体等のオレフィン系ゴム;ポリオルガノシロキサン等のシリコン系ゴムなどが挙げられる。これらゴム質重合体は1種を単独で、又は2種以上を混合して使用することができる。
【0032】
なお、これらゴム質重合体は、モノマーから使用することができ、ゴム質重合体の構造がコア/シェル構造をとっていてもよい。例えば、ポリブタジエンをコアにして、アクリル酸エステルをシェルにしたゴム質重合体とすることもできる。
【0033】
ゴム質重合体にグラフト重合する(共)重合性モノマーとしては、例えば、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、α,β−不飽和カルボン酸、α,β−不飽和カルボン酸エステル、α,β−不飽和ジカルボン酸無水物類、α,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物類等が挙げられる。
【0034】
これらのうち芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。
また、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。
α,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
α,β−不飽和カルボン酸エステル類としては、メチル(メタ)アクリレート(「(メタ)アクリレート」は「アクリレート及びメタクリレート」を示す)、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート等が挙げられる。
α,β−不飽和ジカルボン酸無水物類としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸等が挙げられる。
α,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物類としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド等が挙げられる。
これらのビニル系単量体は1種を単独で用いても良く、2種以上を混合して用いても良い。
【0035】
なお、(共)重合性モノマーの使用比率(重量比)としては、特に制限はないが、例えば、芳香族ビニル系単量体/シアン化ビニル系単量体として80/20〜60/40の範囲で用いることが好ましい。
また、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体以外のその他の(共)重合性モノマーは、全(共)重合性モノマー中30重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
【0036】
ゴム含有グラフト共重合体中のゴム含有量は好ましくは20〜80重量%、より好ましくは30〜70重量%、さらに好ましくは40〜60重量%の範囲となるように調整する。この範囲よりもゴム含有量が低い場合には、十分な耐衝撃性が得られず、また、この範囲より多くても耐衝撃強度の向上は望めず、分散性不良や、剛性などの機械的特性の低下を招くおそれがある。
【0037】
なお、ゴム含有グラフト共重合体のゴム含有量は、赤外分光測定装置を使用することにより測定することができる。
【0038】
グラフト重合は、公知の乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合により行うことができ、これらの重合方法を組み合わせた方法でもよいが、不純物中に含まれる金属成分を低減するためには、溶液重合、塊状重合が好ましい。
【0039】
ゴム含有グラフト共重合体は、重合方法や成分組成の異なるゴム含有グラフト共重合体の2種以上を混合して用いても良い。
【0040】
また、本発明におけるゴム含有グラフト共重合体は、前述の(共)重合性モノマーがゴム質重合体にグラフト重合したものであるが、グラフト重合反応系においては、ゴム質重合体にグラフト重合せずに(共)重合性モノマー同士が(共)重合した硬質(共)重合体も生成する。この硬質(共)重合体と同様に耐熱性や流動性、光沢、艶消し、発色性などの特性改良のため他の硬質(共)重合体を配合しても良く、これらを含めて、ゴム含有グラフト共重合体として用いることができる。
【0041】
硬質(共)重合体に用いられる単量体成分としては、先のゴム含有グラフト共重合体で紹介した(共)重合性モノマーを(共)重合したものを用いることができる。具体的には、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、(メタ)アクリル酸エステル、マレイミド化合物が好ましく用いられる。
硬質(共)重合体についても1種を単独で用いても良く、異なる組成、分子量のものを2種以上混合して用いても良い。
【0042】
なお、ゴム含有グラフト共重合体として用いる成分のアセトン可溶分の重量平均分子量は、50,000〜600,000、特に60,000〜300,000、とりわけ80,000〜250,000の範囲であることが好ましい。
このアセトン可溶分の重量平均分子量が、上記下限よりも低い場合には、本発明のゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度低下を引き起こし、上記上限を超えるとゴム含有グラフト共重合体の分散性を悪化させる。
【0043】
本発明に係るゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)において、ゴム含有グラフト共重合体の含有量は、通常60重量%以下であり、好ましくは5〜60重量%の範囲であり、さらに好ましくは10〜40重量%であることが、本発明の目的を達成する観点及びカーボンニュートラルの観点から好ましい。
【0044】
<その他の成分>
本発明に係るゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)には、ポリ乳酸、ゴム含有熱可塑性樹脂(ゴム含有グラフト共重合体又はゴム含有グラフト共重合体と硬質(共)重合体)の他、樹脂成分として、ポリカーボネート樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂などの他の熱可塑性樹脂の1種又は2種以上が含まれていてもよい。
【0045】
また、本発明に係るゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)には、各種の添加剤を配合することができる。この場合、各種添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤(顔料、染料など)、炭素繊維やガラス繊維、タルクやウォラストナイト、炭酸カルシウム、シリカなどの充填剤、難燃剤(ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、アンチモン化合物など)、ドリップ防止剤、抗菌剤、防カビ剤、シリコ−ンオイル、カップリング剤などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0046】
[アルカリ土類金属酸化物(B)]
次に、本発明におけるアルカリ土類金属酸化物(B)について説明する。
【0047】
アルカリ土類金属酸化物(B)としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化バリウム、酸化ストロンチウム等が挙げられ、コストと供給性、さらに、ラクチド回収率の点から、特に、酸化カルシウム(CaO)、酸化マグネシウム(MgO)の使用が好ましい。
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0048】
[硬質共重合体(C)]
次に、本発明における硬質共重合体(C)について説明する。
【0049】
硬質共重合体(C)は、芳香族ビニル系単量体、シアン化ビニル系単量体、及び必要に応じて用いられるこれらと共重合可能なその他の単量体から選ばれた1種以上の単量体を(共)重合してなる硬質(共)重合体である。
【0050】
これらのうち、芳香族ビニル系単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、パラメチルスチレン、ブロムスチレン等が挙げられ、特にスチレン、α−メチルスチレンが好ましい。また、シアン化ビニル系単量体としては、アクリロニトリル、メタクリルニトリル等が挙げられ、特にアクリロニトリルが好ましい。これらと共重合可能なその他の単量体としてメタクリル酸エステル系単量体、アクリル酸エステル単量体、マレイミド化合物等が挙げられる。メタクリル酸エステル系単量体としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル及びこれらの誘導体等が挙げられる。アクリル酸エステル系単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル及びこれらの誘導体等が挙げられる。マレイミド化合物としては、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド等が挙げられ、N−フェニルマレイミドが好ましい。上記単量体はそれぞれ、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0051】
なお、硬質共重合体(C)を構成する単量体の比率(重量比)としては、芳香族ビニル系単量体/シアン化ビニル系単量体として80/20〜60/40の範囲で用いることが好ましい。
また、シアン化ビニル系単量体及び芳香族ビニル系単量体以外のその他の共重合可能な単量体は、全単量体成分中30重量%以下の範囲で使用することが好ましい。
【0052】
また、硬質共重合体(C)の分子量は特に制限されるものではないが、GPC測定による標準ポリスチレン換算法による重量平均分子量として4万〜20万程度であることが好ましい。この範囲よりも分子量が大き過ぎると押出機中の樹脂粘度が上がりすぎて、ゴム含有グラフト共重合体の劣化を引き起こす。一方、小さ過ぎるとラクチドの回収量が低下する。
【0053】
[処理方法]
本発明においては、押出機のホッパー部から、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部と、アルカリ土類金属酸化物(B)0.005〜20重量部と、硬質(共)重合体(C)5〜200重量部(ただし、(B)成分と(C)成分の合計100重量部中の(B)成分の割合は0.1〜10重量部)とを連続的に投入して、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)中のポリ乳酸の熱分解で生成したラクチド(D)を回収すると共に、ポリ乳酸が分離されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を回収する。
【0054】
この処理において、アルカリ土類金属酸化物(B)は、ポリ乳酸の熱分解の触媒として作用するものであり、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部に対するアルカリ土類金属酸化物(B)の添加量が上記下限未満ではポリ乳酸の熱分解、それによるラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の分離、回収を十分に行えず、上記上限を超えると回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の表面状態や機械物性が悪化する傾向にある。アルカリ土類金属酸化物(B)は、好ましくはゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部に対して0.1〜10重量部の割合で用いられる。
【0055】
また、硬質(共)重合体(C)は、アルカリ土類金属酸化物(B)の混練作業性の向上、回収されるゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の物性向上に有効な成分であり、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部に対する硬質(共)重合体(C)の添加量が上記下限未満では硬質(共)重合体(C)を用いることによる上記効果を十分に得ることができず、上記上限を超えると回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の物性が損なわれるおそれがある。硬質(共)重合体(C)は、好ましくはゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部に対して50〜150重量部の割合で用いられる。
【0056】
また、アルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)とはその合計100重量部において、アルカリ土類金属酸化物(B)の割合が0.1〜10重量部となるように用いるが、この範囲よりもアルカリ土類金属酸化物(B)が少ないと、ポリ乳酸の熱分解、それによるラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の分離回収を十分に行えず、多いと回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の表面状態や機械物性が悪化する傾向にある。アルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)におけるアルカリ土類金属酸化物(B)の割合は、特に1〜5重量部であることが好ましい。
【0057】
特に、アルカリ土類金属酸化物(B)は、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)中のポリ乳酸に対して0.5〜5重量%の割合で用い、硬質(共)重合体(C)はゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)中のゴム含有グラフト共重合体に対して60〜120重量%の割合で用いることが好ましい。
【0058】
ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)とアルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)とを押出機に連続的に投入する方法としては、上記(A)〜(C)成分を一旦、ヘンシェル等で均一に混合して同時に投入しても良く、複数の重量式フィーダーを用いて別々に定量フィードしても良い。あるいは、ハンドリング性のために、例えば、アルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)の全部又は一部を予備混合し、ペレット化したものを所定の添加範囲内となるように供給する方法を採用することも可能である。
【0059】
用いる押出機のシリンダー設定温度は180〜250℃、好ましくは190〜220℃とする。この温度が180℃未満ではラクチド(D)の回収量が著しく低下し、250℃を超えると回収されるゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の劣化が激しく再利用に適さなくなる。
【0060】
本発明においては、好ましくは、1箇所以上、例えば1〜3箇所のベント口を備える押出機を用い、ベント口よりラクチド(D)を回収し、ダイ部よりゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を回収する。これにより効率的にラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を分離、回収することができる。1箇所以上のベント口から回収されるラクチド(D)は、複数の冷却トラップにより捕集される。
【0061】
用いる押出機のサイズ、スクリュー、シリンダー構成など特に制限は無いが、工業的にはシリンダー径30mm以上、例えば45〜100mmで、L/Dが25以上、例えば28〜35であることが好ましい。
【0062】
[回収ラクチド(D)]
本発明の方法により回収されるラクチド(D)は、好ましくはL−ラクチド90%以上、より好ましくは92%以上の光学純度を有するものであり、回収されたラクチド(D)はポリ乳酸原料として再利用することができる。
【0063】
[回収ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)]
本発明の方法で回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)は、好ましくは、その樹脂流動性が、ISO1133に準ずるメルトボリュームフローレート(MVR)の測定値で、220℃×98Nの条件下、10〜80cm/10分、好ましくは20〜50cm/10分であるものである。
ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の流動性が上記下限未満では、回収されるゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)のゴム成分の劣化を生じ、上記上限を超えるとラクチドの回収率が悪化する。
【0064】
[再生熱可塑性樹脂組成物]
本発明の方法により回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)は、これに他の熱可塑性樹脂(F)又は熱可塑性樹脂(F)組成物を混合して再生熱可塑性樹脂組成物として各種用途に用いることができる。
【0065】
この再生熱可塑性樹脂組成物の調製のために、回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)に混合する他の熱可塑性樹脂(F)又は熱可塑性樹脂(F)組成物としては特に制限はないが、本発明に係るゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)に含まれるゴム含有グラフト共重合体(ゴム含有グラフト共重合体と共に硬質(共)重合体を含んでいてもよい)或いはこのようなゴム含有グラフト共重合体にゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)に含まれる他の樹脂成分や各種の添加剤として前述したものを配合してなる熱可塑性樹脂組成物などが挙げられる。
回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)に混合する他の熱可塑性樹脂(F)又は熱可塑性樹脂(F)組成物には、通常、新品の樹脂又は樹脂組成物が用いられる。
【0066】
回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の混合量としては特に制限はないが、これを混合して得られる再生熱可塑性樹脂組成物中の回収ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の割合として20重量%以上、例えば30〜70重量%程度となるように用いることが好ましい。この回収ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の割合が少な過ぎると回収ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を回収再利用することによる資源再利用の効果が少なく、多過ぎると再生熱可塑性樹脂組成物の機械物性が劣るものとなり、その用途が制限されることになる。
【実施例】
【0067】
以下に、使用材料例、合成例、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」及び「%」は、特に断わらない限り重量基準である。
【0068】
<ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)>
本発明におけるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)としては、UMG ABS(株)社製エコペレット(登録商標)Lシリーズ「LA13A」(ポリ乳酸含有量30%),「LA17B」(ポリ乳酸含有量64%),「LA18B」(ポリ乳酸含有量78%)を、それぞれ射出成形して得られた成形品を粉砕機により破砕して用いた。
【0069】
<硬質共重合体(C)>
実施例及び比較例で用いた硬質共重合体(C)の合成例を下記に示す。
【0070】
合成例1:硬質共重合体(C−1)(AN/ST=20/80、Mw=5万)の製造法
窒素置換した反応器に蒸留水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部と、ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM)3部、アクリルニトリル20部及びスチレン80部からなる単量体混合物を加え、開始温度60℃として5時間加熱後、120℃に昇温して4時間反応後、重合物を取り出した。転化率は98%で、重量平均分子量は50,000であった。
【0071】
合成例2:硬質共重合体(C−2)(AN/ST=20/80、Mw=15万)の製造法
窒素置換した反応器に蒸留水120部、アルキルベンゼンスルホン酸ソーダ0.002部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾイソブチルニトリル0.3部と、ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM)0.5部、アクリルニトリル20部及びスチレン80部からなる単量体混合物を加え、開始温度60℃として5時間加熱後、120℃に昇温して4時間反応後、重合物を取り出した。転化率は98%で、重量平均分子量は150,000であった。
【0072】
合成例3:硬質共重合体(C−3)(MMA/AN/ST=50/15/35、Mw=13万)の製造法
窒素置換した反応器に水120部、ポリビニルアルコール0.5部、アゾビスイソブチルニトリル0.3部、ターシャリードデシルメルカプタン(t−DM)0.5部と、メタクリル酸メチル50部、アクリロニトリル15部及びスチレン35部からなる単量体混合物を加え、開始温度60℃として5時間加熱後、120℃に昇温して、4時間反応後、重合物を取り出した。転化率は96%で、重量平均分子量は130,000であった。
【0073】
[実施例1〜9及び比較例1〜6]
日本製鋼所(株)社製のTEX44二軸押出し機(シリンダー径47mm、L/D=31)に、3箇所ベント口を設置し、シリンダーの設定温度を表1,2に示す温度として、重量式定量フィーダーより表1,2に示す割合のゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)、アルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)の混合物(ただし、比較例1ではアルカリ土類金属酸化物(B)不使用、比較例3では硬質(共)重合体(C)不使用)を定量フィードしてケミカル・マテリアルリサイクルを実施した。
【0074】
なお、実施例8では、2台の重量式定量フィーダーを用い、ホッパー上に並列に配置して、一方の重量式定量フィーダーからは、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)を投入し、他方の重量式定量フィーダーからはアルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)の混合物を投入する2系列フィード方式で投入した。
その他の実施例及び比較例では、1台の重量式定量フィーダーにより、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)とアルカリ土類金属酸化物(B)と硬質(共)重合体(C)の混合物(ただし、比較例1ではアルカリ土類金属酸化物(B)不使用、比較例3では硬質(共)重合体(C)不使用)を押出機のホッパーに一括投入した。
【0075】
ラクチド(D)は押出機のベント口から回収し、ダイ部からゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を回収した。ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)は、押出機のダイ部からストランド状に取り出した後、ペレタイザーにてカッティングした。
【0076】
[評価方法]
回収物について、以下の評価を行って、結果を表1に示した。
【0077】
{ラクチド(D)の評価}
<光学純度>
冷却トラップにより回収されたラクチド(D)を光学カラム:Varian社製cyclodextrine−β−236M−19キャピラリーカラムを装着した島津製作所製GC−2014を用いて分析した。キャリアーガスとしてヘリウムを用い、インジェクタ及びカラム温度はそれぞれ220及び150℃等温とし、回収ラクチド(D)約3mgをクロロホルム1mLに溶解した試料を全量注入して回収ラクチド(D)中のL体の割合を測定した。
【0078】
{ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の評価}
<表面外観>
押出機のダイ部から取り出されるストランドの表面状態と色を目視観察し、良否を評価した。
【0079】
<MVR>
得られたペレットを用いて、ISO1133に準ずるメルトボリュームフローレート(MVR)の測定方法に従って、220℃×98Nの条件下での値を求めた。この値が10〜80cm/10分の範囲であれば、再資源材料として有効に用いることができる。
【0080】
<衝撃強度保持率>
回収したゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)に混合する他の熱可塑性樹脂(F)組成物として、UMG ABS社製 UMGABS(登録商標)「EX120(一般ABS)」を用いた。まず、この「EX120」について、ISO 179に準ずる方法で常温のシャルピー衝撃試験を行い、衝撃強度(初期値)を測定した。
次にこの「EX120」に各々の回収ゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を混合物中の割合として30%となるように混合、混練、成形して同様にシャルピー衝撃試験を行い、衝撃強度(再生後)を測定した。
衝撃強度の初期値に対する再生後の衝撃強度の割合(百分率)を算出し、この値(衝撃強度保持率)が90%以上であればマテリアルリサイクル性が良好であると判断した。
【0081】
[評価結果]
【0082】
【表1】

【0083】
【表2】

【0084】
[考察]
表1,2から次のことが明らかである。
本発明の請求項の要件を満たす実施例1〜9によれば、ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)を、目的とするラクチド(D)及びゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)としてケミカル・マテリアルリサイクルすることができる。
【0085】
これに対して、アルカリ土類金属酸化物(B)を用いない比較例1の方法では、押出機の運転そのものが不安定となりケミカル・マテリアルリサイクルできない。
アルカリ土類金属酸化物(B)の使用量が多過ぎる比較例2の方法においては、回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)のストランドの外観が悪く、衝撃強度保持率も低くなる。
硬質(共)重合体(C)を用いない比較例3においては、比較例1と同様に押出機の運転が不安定となり、マテリアルリサイクルできない。
硬質(共)重合体(C)の使用量が多過ぎる比較例4においては、目的とするラクチドが得られず、回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の樹脂流動性が高すぎ、しかも衝撃強度保持率が目標に達しない。
押出機のシリンダー設定温度が高過ぎる比較例5においては、回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の熱劣化が生じ、その結果、衝撃強度保持率も低下する。一方、押出機のシリンダー温度が低過ぎる比較例6においては、回収されたラクチド(D)の光学純度が目標に達しない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、市場で各種製品に使用されたゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物や生産工程から排出される不良品のゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を効率的にラクチドとゴム含有熱可塑性樹脂組成物に分離して回収することができる。その回収品ラクチドは、再びポリ乳酸に合成して再生することができる一方で、ゴム含有熱可塑性樹脂組成物は、ポストコンシューマ品としてマテリアルリサイクルに活用できる。
従って、地球環境負荷低減のため、また循環型社会構築のため、本発明の工業的有用性は極めて高い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物を処理して、ラクチドとゴム含有熱可塑性樹脂組成物とを分離、回収する方法であって、
ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)100重量部と、
アルカリ土類金属酸化物(B)0.005〜20重量部と、
硬質(共)重合体(C)5〜200重量部とを(ただし、(B)成分と(C)成分との合計100重量部中の(B)成分の割合は0.1〜10重量部とする)、
シリンダー設定温度180〜250℃の押出機に連続的に投入してラクチド(D)とゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を分離、回収することを特徴とするゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【請求項2】
請求項1において、前記ゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物(A)は、樹脂成分としてポリ乳酸とゴム含有熱可塑性樹脂とを含み、ポリ乳酸の含有量が25〜95重量%の複合樹脂組成物であるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記押出機は少なくとも1箇所以上のベント口を有し、該ベント口よりラクチド(D)を回収し、ダイ部よりゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)を回収するゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【請求項4】
請求項3において、前記押出機のベント口より回収されるラクチド(D)の光学純度が、L−ラクチド90%以上であるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【請求項5】
請求項3又は4において、前記押出機のダイ部より回収されるゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)の樹脂流動性が、ISO1133に準ずるメルトボリュームフローレート(MVR)の測定値で、220℃×98Nの条件下、10〜80cm/10分であるゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項に記載のゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法で回収されたラクチド(D)。
【請求項7】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載のゴム含有ポリ乳酸系熱可塑性樹脂組成物の処理方法で回収されたゴム含有熱可塑性樹脂組成物(F)。
【請求項8】
請求項7に記載のゴム含有熱可塑性樹脂組成物(E)と他の熱可塑性樹脂(F)とを混合してなることを特徴とする再生熱可塑性樹脂組成物。

【公開番号】特開2012−25855(P2012−25855A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−166031(P2010−166031)
【出願日】平成22年7月23日(2010.7.23)
【出願人】(502163421)ユーエムジー・エービーエス株式会社 (116)
【出願人】(504174135)国立大学法人九州工業大学 (489)
【Fターム(参考)】