説明

ゴム成形品の加硫方法及び装置

【課題】ゴム成形品の加硫時間を短縮することができる加硫方法及び装置を提供する。
【解決手段】代表的なゴム成形品であるタイヤの場合において、金型2に装着された未加硫タイヤ1の厚肉部であるショルダー部1aを、導波管3を通じてマイクロ波12であらかじめ加熱してから、ブラダー10に高圧水蒸気を充填して膨張させて通常の加硫成形を行なうようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はゴム成形品の加硫方法及び装置に関し、更に詳しくは、ゴム成形品の加硫時間を短縮することができるゴム成形品の加硫方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム成形品の加硫成形工程においては、未加硫のゴム成形品を金型内において高温で加圧成形する方法が一般的に採用されている。しかしながら、ゴム組成物は熱伝導度が低いため、ゴム成形品の表面から加えられた熱が各部に均一に伝達されるまで長時間を要することになる。
【0003】
このような問題を解決するため、例えば代表的なゴム成形品であるタイヤでは、金型内の未加硫タイヤにマイクロ波を照射することで、未加硫タイヤを均一に加熱して加硫成形を行なうことが提案されている(例えば特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、タイヤのように各部に大きな肉厚差を有する形状であると、上記特許文献1のようにマイクロ波加熱による場合でも、全体に均一に熱を伝達させるには時間がかかるため、加硫時間を短縮するには限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実開昭59−75028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ゴム成形品の加硫時間を短縮することができる加硫方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成する本発明のゴム成形品の加硫方法は、金型内に未加硫のゴム成形品を装着し、前記金型内のゴム成形品の厚肉部にシングルモードのマイクロ波を照射し、前記マイクロ波照射後のゴム成形品を高圧熱流体を用いて加硫成形する工程を含むことを特徴とするものである。
【0008】
また、上記の目的を達成する本発明のゴム成形品の加硫装置は、回転中心軸に沿って貫通孔を形成した金型と、該貫通孔内に位置しかつ一端部が前記金型に設置された未加硫のゴム成形品の厚肉部の表面に近接可能になるよう構成された導波管と、前記導波管の他端部にシングルモードの整合用開口部を通じて接続するマイクロ波発振機とを備えることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明のゴム成形品の加硫方法及び装置によれば、ゴム成形品の厚肉部をマイクロ波であらかじめ加熱してから、通常の高圧熱流体による加硫成形を行なうようにしたので、厚肉部が加硫温度まで短時間で昇温するため、加硫時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態からなるゴム成形品の加硫装置の断面図である。
【図2】本発明の実施形態からなるゴム成形品の加硫方法における初期工程を説明する加硫装置の断面図である。
【図3】中間工程を説明する加硫装置の断面図である。
【図4】最終工程を説明する加硫装置の断面図である。
【図5】本発明の別の実施形態からなるゴム成形品の加硫装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、本発明の実施形態からなるゴム成形品の加硫装置を示す。
【0013】
このゴム成形品の加硫装置(以下、単に「加硫装置」という。)は、代表的なゴム成形品であるタイヤを加硫成形するものであり、未加硫タイヤ1が装着される金型2と、その金型2の内部から外部へ続く導波管3と、導波管3の端部に接続するマイクロ波発振機4を備えている。
【0014】
金型2は、上型2A及び下型2Bから構成され、その回転軸中心には貫通孔5が形成されている。導波管3は、断面が矩形又は円形の中空管構造を有しており、貫通孔5内に回転軸方向に沿って設置された金属製の第1中空管6と、その第1中空管6の途中から分岐して未加硫タイヤ1のショルダー部1aに指向する金属製の第2中空管7とから構成されている。第1中空管6は、回転台8上に立設され、図示しない駆動装置により軸方向の周りに回転可能になっている。第2中空管7は、蛇腹式又は多段式からなる伸縮自在の構造を有している。なお、第2中空管7の本数は限定するものではないが、未加硫タイヤ1の両ショルダー部1a、1aに指向するように少なくとも2本を設ける必要がある。また、それらの第2中空管7と第1中空管6との分岐部9は、互いに回転対称となる位置にすることが好ましい。第1中空管6の上部と第2中空管7とは、膨縮自在なゴム袋体であるブラダー10の内側に位置するようになっている。
【0015】
金型2の外部に設置されたマイクロ波発振機4は、シングルモードの整合用開口部11を介して第1中空管6の端部に接続しており、マイクロ波発振機4から発振されたマイクロ波12は、時間平均で一定のエネルギー分布を持つ定在波となって導波管3内を伝達することになる。このマイクロ波発振機4としては、マグネトロン又はクライストロンが用いられる。
【0016】
このような加硫装置を用いたタイヤの加硫成形工程を、図2〜4に基づいて以下に説明する。
【0017】
まず、金型2内に未加硫タイヤ1を設置し、ブラダー10を加圧膨張させて未加硫タイヤ1の内表面を押圧する(図2)。
【0018】
次に、第2中空管7を伸長させて、その開口端部7aがブラダー10を介して未加硫タイヤ1の厚肉部であるショルダー部1aの内表面に近接するようにする。そして、マイクロ波発振機4を起動して、第1中空管6を回転させながら第2中空管7によりシングルモードのマイクロ波12をショルダー部1aの内表面に照射する(図3)。このマイクロ波12の照射により、未加硫タイヤ1のショルダー部1aは、肉厚方向に均一に加熱される。マイクロ波12による加熱は、ショルダー部1aの温度が加硫温度に近い温度になるまで行なうようにする。
【0019】
マイクロ波12による加熱が終了した後は、第2中空管7を収縮させてから、ブラダー10に高圧水蒸気13を充填させて通常の加硫成形を実施する(図4)。
【0020】
このように、ゴム成形品の厚肉部をマイクロ波12であらかじめ加熱してから、通常の高圧熱流体による加硫成形を行なうようにしたので、厚肉部が加硫温度まで短時間で昇温するため、加硫時間を短縮することができる。また、シングルモードのマイクロ波12を用いているため、厚肉部のみを効果的に加熱することが可能となり、その他の部分が過加硫となることを防止することができる。
【0021】
なお、マイクロ波12の波長を適切に設定することで、マイクロ波12照射よるブラダー10の熱損傷を回避することができるため、加硫装置の使用寿命が短くなることはない。
【0022】
図5は、本発明の別の実施形態からなる加硫装置を示す。
【0023】
この実施形態では、第2中空管7は、第1中空管6との分岐部9を支点として上下方向に回動自在な構造となっている。そのため、ショルダー部1a以外の厚肉部の加熱を行なうことが可能になるので、更に加硫時間を短縮することできる。また、導波管3を、タイヤサイズが異なる他の金型2にも使用することができるようになる。
【0024】
また、第1中空管6の少なくとも一部分6aが、蛇腹式又は多段式からなる伸縮自在の構造となっている。そのため、第2中空管7を金型1の中空部外へ退避させることができるので、タイヤの装着及び取出し作業を妨げないようにすることができる。
【0025】
本発明の加硫方法及び加硫装置は、代表的なゴム成形品であるタイヤの製造に好適に用いられるが、肉厚が不均一な形状である他のゴム成形品にも適用することができる。例えば、防舷材の製造に適用する場合には、厚肉部であるコーナ部分などをあらかじめマイクロ波により加熱するようにする。
【実施例】
【0026】
ゴム成形品をタイヤサイズが235/40R18の空気入りタイヤとし、図1に示す加硫装置を用いて加硫成形を行う場合において、高圧水蒸気による加硫成形前におけるショルダー部へのマイクロ波の照射の有無、照射時間及びマイクロ波の種類の3つの条件を異ならせた本発明の加硫方法(実施例1〜3)、比較となる加硫方法(比較例1、2)を実施した。
【0027】
これら5つの加硫方法による加硫成形を行った空気入りタイヤのブローポイントを評価し、その結果を表1に示した。なお、ブローポイントとは、加硫成形後の圧力開放時にタイヤ表面にバブルの発生が観察されなくなる最小の加硫時間を意味する。ブローポイントの評価結果は、比較例1を100とする指数値で示し、この指数値が小さいほど加硫時間が短いことになる。また、比較例2では、マルチモードのマイクロ波を照射した。
【0028】
【表1】

【0029】
表1に示す実験結果から、本発明の加硫方法は、比較例に比べて加硫時間を短縮できることが分かった。また、マルチモードに比べてシングルモードのマイクロ波の方が、効果的に加熱ができることが分かった。
【符号の説明】
【0030】
1 未加硫タイヤ
1a ショルダー部
2 金型
3 導波管
4 マイクロ波発振機
5 貫通孔
6 第1中空管
6a 伸縮自在部
7 第2中空管
7a 開口端部
8 回転台
9 分岐部
10 ブラダー
11 整合用開口部
12 マイクロ波
13 高圧水蒸気

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型内に未加硫のゴム成形品を装着し、前記金型内のゴム成形品の厚肉部にシングルモードのマイクロ波を照射し、前記マイクロ波照射後のゴム成形品を高圧熱流体を用いて加硫成形する工程を含むことを特徴とするゴム成形品の加硫方法。
【請求項2】
前記ゴム成形品がタイヤ又は防舷材であって、前記高圧熱流体が高圧水蒸気である請求項1に記載のゴム成形品の加硫方法。
【請求項3】
回転中心軸に沿って貫通孔を形成した金型と、該貫通孔内に位置しかつ一端部が前記金型に設置された未加硫のゴム成形品の厚肉部の表面に近接可能になるよう構成された導波管と、前記導波管の他端部にシングルモードの整合用開口部を通じて接続するマイクロ波発振機とを備えることを特徴とするゴム成形品の加硫装置。
【請求項4】
前記導波管が、前記貫通孔内に配置された軸方向の周りに回転可能な第1の中空管と、前記第1の中空管の途中から分岐した長手方向に伸縮自在な第2の中空管とから構成された請求項3又は4に記載のゴム成形品の加硫装置。
【請求項5】
前記第2の中空管が、前記第1の中空管との分岐部を支点として上下に回動自在である請求項4に記載のゴム成形品の加硫装置。
【請求項6】
前記第1の中空管が長手方向に伸縮自在である請求項4又は5に記載のゴム成形品の加硫装置。
【請求項7】
前記ゴム成形品がタイヤ又は防舷材であって、前記導波管の一端部が高圧水蒸気により膨張するゴム袋体を介して前記ゴム成形品の厚肉部の内表面に近接可能である請求項3〜6のいずれかに記載のゴム成形品の加硫装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−218703(P2011−218703A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−91687(P2010−91687)
【出願日】平成22年4月12日(2010.4.12)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】