説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】優れた耐摩耗性能及びウエット性能を付与することが可能なゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】下記一般式(I):


で表されるメタロセン錯体等から選択される特定のメタロセン錯体を少なくとも1種類含む重合触媒組成物の存在下において、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られる、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を含むゴム成分と、金属石鹸とを含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、金属石鹸(B)とを含むゴム組成物(C)及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関し、特にトレッドに用いることで、タイヤに優れた耐摩耗性能及びウエット性能を付与することが可能なゴム組成物(C)及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のタイヤ原料技術において、スチレン−ブタジエン共重合体等の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、通常のアニオン系及びラジカル系重合開始剤等を用いた重合により合成され、その共役ジエン化合物部分の異性構造の一つである1,4構造は、トランス-1,4構造が一般に多く含まれる。また、該共役ジエン化合物部分の異性構造は、ビニル結合量以外の構造制御が困難であった。
【0003】
これに対し、共役ジエン化合物部分の立体規則性、例えば、シス-1,4構造の含有率を制御するため、配位子と金属原子とからなる金属触媒を用いて、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を生成させる手法が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。しかしながら、該手法により得られる芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、芳香族ビニル化合物部分のブロック化や低分子量化等の問題を含む場合があった。
【0004】
また、車の安全性を高めるため、湿潤路面での制動距離を短くするタイヤが、従来より求められている。従来のタイヤ配合技術において、湿潤路面での制動距離を短くする、すなわちタイヤに優れたウエット性能を付与する技術として、(1)カーボン又はシリカ等の補強剤を増量する技術や(2)補強剤中のシリカ比率を高める技術等が一般的に行われているが、シリカはゴム中への分散性が低く、耐摩耗性能が低下してしまうという問題を含む場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3207502号公報
【特許文献2】特開2006−137897号公報
【特許文献3】特許第3738315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、本発明者が検討したところ、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が高い芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、他のミクロ構造を多く含む芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体より、タイヤの耐摩耗性能及びウエット性能を向上させる傾向にあることが分かった。さらに、金属石鹸(B)を併用することにより、ウエット性能を大幅に向上させる傾向があることを見出した。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤに優れた耐摩耗性能及びウエット性能を付与することが可能なゴム組成物(C)と、該ゴム組成物(C)を用いた耐摩耗性能及びウエット性能に優れたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させることにより、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の共重合体(A1)が得られ、該共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、金属石鹸(B)とを含むゴム組成物(C)をタイヤに適用することで、耐摩耗性能及びウエット性能を大幅に向上できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明のゴム組成物(C)は、下記一般式(I):
【化1】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化2】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化3】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、金属石鹸(B)とを含むことを特徴とする。
【0010】
ここで、メタロセン錯体は、一つ又は二つ以上のシクロペンタジエニル又はその誘導体が中心金属に結合した錯体化合物であり、特に、中心金属に結合したシクロペンタジエニル又はその誘導体が一つであるメタロセン錯体を、ハーフメタロセン錯体と称することがある。また、本発明において、金属石鹸とは、カルボン酸、好ましくは脂肪酸と、金属、好ましくはアルカリ金属以外の金属との塩を意味し、該金属は、ヒドロキシ基が結合されてもよい。
【0011】
本発明のゴム組成物(C)の好適例において、前記金属石鹸(B)を構成する金属が、アルミニウムである。更に、前記金属石鹸(B)としては、ジエチルへキサン酸のアルミニウム石鹸、ジラウリン酸のアルミニウム石鹸及びジオレイン酸のアルミニウム石鹸が好適に挙げられる。
【0012】
本発明のゴム組成物(C)において、前記金属石鹸(B)を構成するカルボン酸は、炭素数が、6〜20であることが好ましい。
【0013】
本発明のゴム組成物(C)の他の好適例においては、前記金属石鹸(B)が下記式(IV):
【化4】

[一般式(IV)中、M1は、酸化状態が+3価又は+4価の金属であり、Rは、それぞれ独立に選ばれた有機部分であり、nはM1の原子価である]で表される。
【0014】
前記式(IV)中、O2CR基は、炭素数が6以上であることが好ましく、更に、炭素数が6〜20であることがより好ましい。
【0015】
また、前記式(IV)中、Rが少なくとも1つの不飽和単位を有するアルキル鎖を含むことが好ましく、更に、Rが1つ又は複数の硫黄硬化可能な二重結合を有するアルキル鎖を含むことがより好ましく、また、前記二重結合が、アルキル鎖中の2つの非末端炭素の間にあることが一層好ましい。
【0016】
本発明のゴム組成物(C)の他の好適例においては、前記式(IV)中、前記金属M1が第III属(IUPACの第13属)元素金属又は遷移金属(亜鉛、銅及びニッケルを除く)であり、アルミニウム、鉄、チタン及びコバルトからなる群より選ばれることが更に好ましく、アルミニウム、鉄及びチタンからなる群より選ばれることが一層好ましく、アルミニウムであることが特に好ましい。
【0017】
本発明のゴム組成物(C)においては、前記ゴム成分(A)が、前記共重合体(A1)を50質量%以上含むことが好ましい。また、本発明のゴム組成物(C)の他の好適例においては、前記ゴム成分(A)が、更に、前記共重合体(A1)以外の他のゴム成分(A2)を含み、前記他のゴム成分(A2)は、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム及びポリイソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種類である。
【0018】
前記金属石鹸(B)が、水に溶解しないことが好ましい。また、前記金属石鹸(B)の含有量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、5〜100質量部であることが好ましく、5〜30質量部であることがより好ましい。
【0019】
本発明のゴム組成物(C)の他の好適例においては、前記金属石鹸(B)の分子が、非極性溶媒中、ミセル構造又は式(V):
【化5】

[一般式(V)中、M1は、酸化状態が+3価又は+4価の金属であり、Rは、それぞれ独立に選ばれた有機部分であり、xは自然数である。]で表される構造を形成する。
【0020】
本発明のゴム組成物(C)において、前記共重合体(A1)の前記共役ジエン化合物部分のビニル結合量は10%以下であることが好ましい。
【0021】
本発明のゴム組成物(C)において、前記共重合体(A1)の芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることが好ましい。
【0022】
本発明のゴム組成物(C)において、前記共重合体(A1)は、DSC測定において、融点(Tm)を有することが好ましい。
【0023】
本発明の本発明のゴム組成物(C)の他の好適例において、前記共重合体(A1)は、スチレン−ブタジエン共重合体である。
【0024】
更に、本発明のタイヤは、前記ゴム組成物(C)をタイヤ部材、とりわけトレッドに用いたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、特定の共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、金属石鹸(B)とを含むことにより、これらの相乗効果によって、タイヤに優れた耐摩耗性能及びウエット性能を付与することが可能なゴム組成物(C)を提供することができる。また、該ゴム組成物(C)を用いることで、耐摩耗性能及びウエット性能に優れたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のゴム組成物(C)は、下記一般式(I):
【化6】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化7】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化8】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、金属石鹸(B)とを含むことを特徴とする。
【0027】
[ゴム成分(A)]
上記ゴム成分(A)は、上記共重合体(A1)を含むことを要し、50質量%以上含むことが好ましい。また、上記ゴム成分(A)が、前記共重合体(A1)以外の他のゴム成分(A2)を含む場合、他のゴム成分(A2)としては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素エラストマー、エチレン・アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマー(EPDM)ゴム、水素化ニトリルゴムなどが挙げられ、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム及びポリイソプレンゴムが好ましい。なお、これら他のゴム成分(A2)は、単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0028】
[芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)]
上記共重合体(A1)は、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体である。
【0029】
上記共重合体(A1)は、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が非常に高く、該共重合体(A1)をゴム成分として用いたゴム組成物は、アニオン重合することで得られた従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を用いたゴム組成物及び従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体とシス-1,4結合量が高い共役ジエン化合物の単独重合体とをブレンドして用いたゴム組成物と比較して、ウエット性能を高度に維持しながら、耐摩耗性能を向上させることができる。この理由は、必ずしも明らかではないが、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量に由来する結晶性により耐摩耗性能の向上効果があるためだと思われる。ここで、上記共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、80%以上であることを要し、90%以上であることが好ましい。該共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%未満では、シス連鎖が不十分のため、融点(Tm)は測定されず、耐摩耗性能は低下する。なお、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求めることができ、その具体的な手法は特開2004−27179号公報に開示されている。
【0030】
また、上記共重合体(A1)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましい。共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%を超えると、シス-1,4結合量が低下し、耐摩耗性能の向上効果が十分に得られなくなる。なお、共役ジエン化合物部分のビニル結合量は、上述のシス-1,4結合量と同様、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求めることができる。
【0031】
また、上記共重合体(A1)は、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることが好ましく、7%以下であることが更に好まく、0%であることが特に好ましい。上記重合触媒組成物を用いて得られる上記共重合体(A1)は、芳香族ビニル化合物がランダムに重合する傾向があり、芳香族ビニル化合物のブロック化を抑制することができる。ここで、ランダムとは、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(以下、ブロック芳香族ビニル化合物含有率と称することがある)が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることをいい、ブロックとは、芳香族ビニル化合物−芳香族ビニル化合物の結合を有する芳香族ビニル化合物部分を指す。上記ブロック芳香族ビニル化合物含有率が10%を超えると、芳香族ビニル化合物の単独重合体としての挙動が現われ、ガラス転移温度が上昇し、耐摩耗性能が低下する場合がある。なお、ブロック芳香族ビニル化合物含有率は、1H-NMRスペクトルの積分比より求めることができる。
【0032】
更に、上記共重合体(A1)は、DSC測定(示差走査熱量測定)において、融点(Tm)を示す。ここで、DSC測定における融点(Tm)は、共役ジエン化合物部分の連鎖に由来する静的結晶の融点を指す。
【0033】
上記共重合体(A1)は、後で詳細に説明する重合触媒組成物を用いる以外は特に制限されず、例えば、通常の配位イオン重合触媒を用いる付加重合体の製造方法と同様にして、単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との混合物を共重合して得ることができる。なお、重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、気相重合法、固相重合法等の任意の方法を用いることができる。また、重合反応に溶媒を用いる場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であればよく、該溶媒の使用量は任意であるが、重合触媒組成物に含まれる錯体の濃度を0.1〜0.0001mol/lとする量であることが好ましい。ここで、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。一方、共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。従って、上記共重合体(A1)としては、スチレン−ブタジエン共重合体が特に好ましい。
【0034】
[共重合体(A1)の合成に用いる重合触媒組成物]
上記共重合体(A1)の合成に用いる重合触媒組成物は、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも一種の錯体を含むことを要し、更に、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物に含有される他の成分、例えば助触媒等を含むことが好ましい。
【0035】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体において、式中のCpRは、無置換インデニル又は置換インデニルである。インデニル環を基本骨格とするCpRは、C97-XX又はC911-XXで示され得る。ここで、Xは0〜7又は0〜11の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基又はメタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。置換インデニルとして、具体的には、2-フェニルインデニル、2-メチルインデニル等が挙げられる。なお、一般式(I)及び式(II)における二つのCpRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0036】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体において、式中のCpR’は、無置換もしくは置換のシクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルであり、これらの中でも、無置換もしくは置換のインデニルであることが好ましい。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’は、C55-XXで示される。ここで、Xは0〜5の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’として、具体的には、以下のものが例示される。
【化9】

(式中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
【0037】
一般式(III)において、上記インデニル環を基本骨格とするCpR’は、一般式(I)のCpRと同様に定義され、好ましい例も同様である。
【0038】
一般式(III)において、上記フルオレニル環を基本骨格とするCpR’は、C139-XX又はC1317-XXで示され得る。ここで、Xは0〜9又は0〜17の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。
【0039】
一般式(I)、式(II)及び式(III)における中心金属Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムである。ランタノイド元素には、原子番号57〜71の15元素が含まれ、これらのいずれでもよい。中心金属Mとしては、サマリウムSm、ネオジムNd、プラセオジムPr、ガドリニウムGd、セリウムCe、ホルミウムHo、スカンジウムSc及びイットリウムYが好適に挙げられる。
【0040】
一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、ビストリアルキルシリルアミド配位子[−N(SiR3)2]を含む。ビストリアルキルシリルアミドに含まれるアルキル基R(一般式(I)におけるRa〜Rf)は、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基であることが好ましい。
【0041】
一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、シリル配位子[−SiX3]を含む。シリル配位子[−SiX3]に含まれるXは、下記で説明される一般式(III)のXと同様に定義される基であり、好ましい基も同様である。
【0042】
一般式(III)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基及び炭素数1〜20の炭化水素基からなる群より選択される基である。ここで、上記アルコキシド基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の脂肪族アルコキシ基;フェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェノキシ基等のアリールオキシド基が挙げられ、これらの中でも、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基が好ましい。
【0043】
一般式(III)において、Xが表すチオラート基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオプロポキシ基、チオn-ブトキシ基、チオイソブトキシ基、チオsec-ブトキシ基、チオtert-ブトキシ基等の脂肪族チオラート基;チオフェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルチオフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルチオフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基等のアリールチオラート基が挙げられ、これらの中でも、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基が好ましい。
【0044】
一般式(III)において、Xが表すアミド基としては、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジイソプロピルアミド基等の脂肪族アミド基;フェニルアミド基、2,6-ジ-tert-ブチルフェニルアミド基、2,6-ジイソプロピルフェニルアミド基、2,6-ジネオペンチルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2,4,6-tert-ブチルフェニルアミド基等のアリールアミド基;ビストリメチルシリルアミド基等のビストリアルキルシリルアミド基が挙げられ、これらの中でも、ビストリメチルシリルアミド基が好ましい。
【0045】
一般式(III)において、Xが表すシリル基としては、トリメチルシリル基、トリス(トリメチルシリル)シリル基、ビス(トリメチルシリル)メチルシリル基、トリメチルシリル(ジメチル)シリル基、トリイソプロピルシリル(ビストリメチルシリル)シリル基等が挙げられ、これらの中でも、トリス(トリメチルシリル)シリル基が好ましい。
【0046】
一般式(III)において、Xが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれでもよいが、塩素原子又は臭素原子が好ましい。また、Xが表す炭素数1〜20の炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分枝鎖の脂肪族炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基等のアラルキル基等の他;トリメチルシリルメチル基、ビストリメチルシリルメチル基等のケイ素原子を含有する炭化水素基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基、エチル基、イソブチル基、トリメチルシリルメチル基等が好ましい。
【0047】
一般式(III)において、Xとしては、ビストリメチルシリルアミド基又は炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。
【0048】
一般式(III)において、[B]で示される非配位性アニオンとしては、例えば、4価のホウ素アニオンが挙げられる。該4価のホウ素アニオンとして、具体的には、テトラフェニルボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート等が挙げられ、これらの中でも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0049】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、更に0〜3個、好ましくは0〜1個の中性ルイス塩基Lを含む。ここで、中性ルイス塩基Lとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアニリン、トリメチルホスフィン、塩化リチウム、中性のオレフィン類、中性のジオレフィン類等が挙げられる。ここで、上記錯体が複数の中性ルイス塩基Lを含む場合、中性ルイス塩基Lは、同一であっても異なっていてもよい。
【0050】
また、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、単量体として存在していてもよく、二量体又はそれ以上の多量体として存在していてもよい。
【0051】
上記一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びビス(トリアルキルシリル)アミドの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(I)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
【化10】

(式中、X’’はハライドを示す。)
【0052】
上記一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びシリルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(II)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
【化11】

(式中、X’’はハライドを示す。)
【0053】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、例えば、次の反応により得ることができる。
【化12】

【0054】
ここで、一般式(VI)で表される化合物において、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、それぞれ独立して無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物において、[A]は、カチオンを示し、[B]は、非配位性アニオンを示す。
【0055】
[A]で表されるカチオンとしては、例えば、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アミンカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。カルボニウムカチオンとしては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ(置換フェニル)カルボニウムカチオン等の三置換カルボニウムカチオン等が挙げられ、トリ(置換フェニル)カルボニルカチオンとして、具体的には、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン等が挙げられる。アミンカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジイソプロピルアンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオン等が挙げられる。ホスホニウムカチオンとしては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオン等が挙げられる。これらカチオンの中でも、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオン又はカルボニウムカチオンが好ましく、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオンが特に好ましい。
【0056】
上記反応に用いる一般式[A][B]で表されるイオン性化合物としては、上記の非配位性アニオン及びカチオンからそれぞれ選択し組み合わせた化合物であって、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が好ましい。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物は、メタロセン錯体に対して0.1〜10倍モル加えることが好ましく、約1倍モル加えることが更に好ましい。なお、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を重合反応に用いる場合、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそのまま重合反応系中に提供してもよいし、上記反応に用いる一般式(IV)で表される化合物と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物を別個に重合反応系中に提供し、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させてもよい。また、一般式(I)又は式(II)で表されるメタロセン錯体と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物とを組み合わせて使用することにより、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させることもできる。
【0057】
一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体の構造は、X線構造解析により決定することが好ましい。
【0058】
上記重合触媒組成物に用いることができる助触媒は、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の助触媒として用いられる成分から任意に選択され得る。該助触媒としては、例えば、アルミノキサン、有機アルミニウム化合物、上記のイオン性化合物等が好適に挙げられる。これら助触媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
上記アルミノキサンとしては、アルキルアルミノキサンが好ましく、例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、修飾メチルアルミノキサン等が挙げられる。また、修飾メチルアルミノキサンとしては、MMAO−3A(東ソーファインケム社製)等が好ましい。なお、上記重合触媒組成物におけるアルミノキサンの含有量は、メタロセン錯体の中心金属Mと、アルミノキサンのアルミニウム元素Alとの元素比率Al/Mが、10〜1000程度、好ましくは100程度となるようにすることが好ましい。
【0060】
一方、上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライド、ジアルキルアルミニウムハイドライド等が挙げられ、これらの中でも、トリアルキルアルミニウムが好ましい。また、トリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が挙げられる。なお、上記重合触媒組成物における有機アルミニウム化合物の含有量は、メタロセン錯体に対して1〜50倍モルであることが好ましく、約10倍モルであることが更に好ましい。
【0061】
更に、上記重合触媒組成物においては、一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそれぞれ、適切な助触媒と組み合わせることで、シス-1,4結合量や得られる共重合体の分子量を増大できる。
【0062】
[共重合体(A1)の製造方法]
上記共重合体(A1)の製造方法は、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させる工程を含むことを特徴とする。また、該製造方法は、重合触媒として上述した重合触媒組成物を用いること以外は、従来の配位イオン重合触媒を用いる付加重合反応による付加重合体の製造方法と同様とすることができる。ここで、該製造方法は、例えば、(1)単量体として芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を含む重合反応系中に、重合触媒組成物の構成成分を別個に提供し、該反応系中において重合触媒組成物としてもよいし、(2)予め調製された重合触媒組成物を重合反応系中に提供してもよい。また、(2)においては、助触媒によって活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することも含まれる。なお、重合触媒組成物に含まれるメタロセン錯体の使用量は、単量体に対して1/10000〜1/100倍モルの範囲が好ましい。
【0063】
また、上記付加重合反応は、不活性ガス、好ましくは窒素ガスやアルゴンガスの雰囲気下において行われることが好ましい。
【0064】
上記付加重合反応の重合温度は、特に制限されないが、例えば−100℃〜200℃の範囲が好ましく、室温程度とすることもできる。なお、重合温度を上げると、重合反応のシス-1,4選択性が低下することがある。一方、上記付加重合反応の反応時間も特に制限されず、例えば1秒〜10日の範囲が好ましいが、重合される単量体の種類、触媒の種類、重合温度等の条件によって適宜選択することができる。
【0065】
[共重合体(A1)の平均分子量及び分子量分布]
また、得られる上記共重合体(A1)の数平均分子量(Mn)は、特に限定されず、低分子量化の問題が起きることもない。更に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、3以下が好ましく、2以下が更に好ましい。ここで、平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレンを標準物質として求めることができる。
【0066】
[金属石鹸(B)]
本発明において、金属石鹸(B)は、カルボン酸、好ましくは脂肪酸と、金属、好ましくはアルカリ金属以外の金属との塩を意味し、該金属は、ヒドロキシ基が結合されてもよい。なお、本明細書において、「モノ−石鹸」、「ジ−石鹸」及び「トリ−石鹸」とは、それぞれ、1つ、2つ及び3つのカルボン酸基を有する石鹸を意味する。
金属石鹸(B)は、水等の極性溶媒に溶解してもよく、また、好ましくは、水等の極性溶媒に溶解せず、水等の極性溶媒中でイオンに解離しなくてもよい。これら金属石鹸(B)は、ゴム組成物(C)を用いたタイヤのウエット性能を向上させ、さらに、特定の共重合体(A1)を含むゴム成分(A)との相乗効果によって、予想を超えて優れた耐摩耗性能及びウエット性能をタイヤに付与することが可能である。特に、水に溶解しない金属石鹸(B)は、上記ゴム成分(A)に溶解するため、ウエット性能の向上効果に大きく寄与するものと考えられる。
【0067】
[金属石鹸(B)を構成する金属]
上記金属石鹸(B)を構成する金属は特に限定されないが、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、アクチニウム(Ac)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)及び鉛(Pb)等の+3又は+4の酸化状態を有する金属が挙げられる。特には、水等の極性溶媒に溶解せず、水等の極性溶媒中でイオンに解離しない金属石鹸(B)が好ましい。
また、水等の極性溶媒に溶解する金属石鹸(B)を形成し得る金属を用いてもよく、具体的には、リチウム(Li)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、ルビジウム(Rb)、セシウム(Cs)及びフランシウム(Fr);ベリリウム(Be)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)及びラジウム(Ra)等のアルカリ金属及び大部分のアルカリ土類金属や、亜鉛(Zn)、水銀(Hg)及びカドミウム(Cd)等の幾つかの遷移金属が挙げられる。
これらの金属の中でも、III属(IUPACの13属)の金属や、亜鉛、ニッケル及び銅を除く遷移金属が好ましく、アルミニウム、鉄、チタン及びコバルトが更に好ましく、アルミニウム、鉄及びチタンが一層好ましく、アルミニウムが特に好ましい。アルミニウムのジ−石鹸等の特定の金属石鹸は、それらの予想外の特性がゴム組成物中での効果の増進に寄与するものと考えられる特別な性質を示すことが見出されたためである。
【0068】
[金属石鹸(B)を構成するカルボン酸]
上記金属石鹸(B)を構成するカルボン酸としては、例えば、炭素数が2〜5の酸、炭素数が6〜20の脂肪酸、或いは炭素数が21〜50の高級脂肪酸が挙げられる。ここで、上記金属石鹸(B)を構成するカルボン酸は、炭素数が6以上のものが好ましく、炭素数が6〜20、炭素数が7〜15、炭素数が8〜13のものが更に好ましい。具体的には、ラウリン酸(炭素数12)、エチルヘキサン酸(炭素数8)及びオレイン酸(炭素数18)等が挙げられる。
したがって、金属石鹸(B)は、ジエチルへキサン酸のアルミニウム石鹸、ジラウリン酸のアルミニウム石鹸、ジオレイン酸のアルミニウム石鹸等が好ましい。なお、これらの金属石鹸(B)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
[上記式(IV)で表される金属石鹸(B)]
本発明のゴム組成物(C)に用いる金属石鹸(B)としては、上記式(IV)で表される金属石鹸が好ましい。例えば、理論に束縛されるものではないが、式(IV)の金属M1及び有機部分Rは、それぞれ、金属M1及び有機部分Rのどんな組み合わせでもよく、それら金属M1及び有機部分Rは、非極性溶媒中で、ミセル様の構造や上記式(V)で表わされる構造のようなクラスター様の構造を形成していてもよいし、並びに/或いは形成可能である。
上記式(IV)中、M1は、酸化状態が+3又は+4の金属であり、第III属(IUPACの13属)元素金属又は遷移金属(亜鉛、銅及びニッケルを除く)であることが好ましい。具体例としては、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、アクチニウム(Ac)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、チタン(Ti)、マンガン(Mn)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、アルミニウム(Al)及び鉛(Pb)が挙げられ、アルミニウム、鉄、チタン及びコバルトが好ましく、アルミニウム、鉄及びチタンが一層好ましく、アルミニウムが特に好ましい。アルミニウムのジ−石鹸等の特定の金属石鹸は、それらの予想外の特性がゴム組成物中での効果の増進に寄与するものと考えられる特別な性質を示すことが見出されたためである。
【0070】
式(IV)中、Rはそれぞれ独立して選択された有機部分であり、水素原子を含み得、少なくとも1つ以上の不飽和単位を有するアルキル鎖を含んでいてもよい。「有機部分」とは、主として炭素、酸素、窒素又は水素からなる任意の化学基を意味し、ヘテロ原子を含み得る有機基をも包含する。各R基は、それぞれ独立して選択することができることから、例えば、1つのR基を6つの炭素原子の炭化水素鎖とすることができ、また、他のR基を7つの炭素原子の炭化水素鎖とすることができる。具体的には、例えば、水素、直鎖若しくは分岐鎖状の炭化水素鎖が挙げられ、また、種々の有機若しくは無機の官能基を含む直鎖若しくは分岐鎖状の炭化水素鎖が挙げられる。
【0071】
式(IV)中、カルボン酸基(O2CR基)は、例えば、C2〜C5の酸、C6〜C20の脂肪酸から誘導されるものでもよく、或いはC21〜C50のような高級脂肪酸を使用してもよく、C6以上の脂肪酸から誘導されるものが好ましく、C6〜C20、C7〜C15、C8〜C13の脂肪酸から誘導されるものが更に好ましい。具体例としては、ラウリン酸(C12)及びエチルヘキサン酸(C8)が挙げられ、M(O2CR)n基はこれらカルボン酸誘導体と金属とから形成されたものであるのが好ましい。すなわち、金属石鹸(B)は好適には金属とカルボン酸誘導体との石鹸であり、アルミニウムとカルボン酸誘導体との石鹸が一層好ましい。例えば、ジラウリン酸のアルミニウム石鹸、ジエチルへキサン酸のアルミニウム石鹸及びジオレイン酸のアルミニウム石鹸が挙げられる。
【0072】
上記R基中に少なくとも1つの不飽和単位、すなわち1つ以上の二重結合を含むO2CR基を含む金属石鹸(B)が、ゴムマトリックスと組み合わせ、加硫した場合、特に効果的である。理論に束縛されるものではないが、二重結合は、ゴム成分(A)のマトリックスとの架橋を向上させるのに寄与するものと考えられる。かかる酸は、少なくとも1つの不飽和単位を含むのが望ましい。例えば、該酸は、C2〜C5の一価不飽和酸であってもよいし、C6〜C20の一価不飽和脂肪酸であってもよいし、C21〜C50のような一価不飽和高級脂肪酸であってもよい。具体的には、オレイン酸(C18の一価不飽和脂肪酸)が挙げられる。また、該酸は、アルキル鎖中に複数の二重結合、例えば、2つ又は3つの二重結合を含んでもよい。この場合、一つ又は複数の二重結合は、硫黄硬化可能な二重結合であることが好ましい。複数の二重結合を含む例において、該二重結合は共役していてもよい。少なくとも1つの二重結合又は総ての二重結合は、アルキル鎖中の2つの非末端炭素の間にあってもよい。例えば、二重結合は、オレイン酸中でのように、アルキル鎖の中央にあってもよいし、末端炭素近傍にあってもよい。理論に束縛されるものではないが、R基中の二重結合に起因して架橋が向上すると、良好な転がり抵抗を維持したまま、25℃及び100℃での引っ張り強さ、170℃での引き裂き強度、ウェットトラクション特性が向上する。
【0073】
式(IV)中、nはM1の原子価であり、使用する金属元素によって、例えば、1、2、3、4、5、又は6とすることができる。n−1はO2CR基の数を示し、例えば、M1がアルミニウムの場合、n−1は2、M1がチタンの場合、n−1は2又は3となり得る。
【0074】
金属石鹸(B)として上記一般式(IV)で表わされる金属石鹸(B)を用いることによって、耐摩耗性能及びウエット性能の向上効果の他、引っ張り強さ、引き裂き強度、及びウェットトラクション特性において、著しい向上が得られ、更に、転がり抵抗は、同程度のレベルに維持される。かかる金属石鹸(B)としては、好適にはアルミニウムのジ−石鹸等が挙げられ、非極性の有機溶媒に分散させた場合、上記式(IV)で表わされる金属石鹸(B)は、弾性液体のポリマーに幾分似た挙動を示し、さらに、非極性溶媒において、下記式(V)で表わされる構造のような幾分クラスター様の集合体を形成する。
【0075】
【化13】

ここで、式(V)中、M1及びRは上記と同義であり、xは自然数である。
【0076】
式(V)で表わされる水素結合は、さらに金属石鹸(B)の分子の集合体がミセルや他の形態になるのを可能とする。これによって、非常に粘稠な弾性液体又はゲルが生じる。金属石鹸(B)がアルミニウムのジ−石鹸である場合、隣接するジ−石鹸の鎖は、炭化水素鎖の間のファンデルワールス力と、共有されたヒドロキシルイオンの水素とカルボキシル基の酸素原子との間の水素結合との両方によって一緒に保たれている。上記アルミニウム石鹸のほか、+3又は+4の酸化状態を有する他の金属石鹸(B)も、同様に非極性溶媒中で類似タイプの特有の集合体を呈するものと考えられる。これら金属M1の中でも好ましい金属M1は、金属石鹸(B)を形成した時、非極性溶媒に溶解でき、クラスター様の集合体を形成できるものである。式(V)の構造又は他のクラスター様の構造を形成可能である金属M1の具体例は、アルミニウムのほか、鉄及びチタンである。かかる構造を形成可能かもしれない他の金属M1は、+3又は+4の酸化状態の金属である。なかでも、ジオレイン酸のアルミニウム石鹸等のアルミニウムのジ−石鹸は、前記式(V)の構造に会合することが知られている唯一のアルミニウム石鹸である。
【0077】
[金属石鹸(B)の調製]
金属石鹸(B)は、例えば、以下の方法により調製される。極性溶媒と、塩基と、カルボン酸を含む有機化学種とを組み合わせ、それらを一緒に混合して、溶液Aを形成する。塩基を添加して、酸を中和し、溶解を促進する。塩基は、金属イオン源の溶液を加える前の溶液AのpHが塩基性になるように、加えてもよい。該金属は、例えば、酸化状態が+3又は+4であり、他の実施態様では、III属(IUPACの13属)であってもよいし、亜鉛、ニッケル及び銅を除く遷移金属であってもよい。該金属は、アルミニウム、鉄、チタン及びコバルトからなる群から選択してもよい。
【0078】
極性溶媒の例としては、特に限定されるものではないが、水、THF、アセトン、アセトニトリル、DMF、DMSO、酢酸、n−ブタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、エタノール、又はメタノールが挙げられる。典型的な塩基としては、特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム及びアンモニアが挙げられる。カルボン酸基を含む典型的な化学種は、金属石鹸の議論で上述したものに対応し、C2〜C5の酸、C6〜C20の脂肪酸、C21〜C50の酸等の高級脂肪酸、好適にはC6以上の脂肪酸が挙げられる。具体例としては、ラウリン酸とエチルヘキサン酸等が挙げられる。
【0079】
次いで、金属イオン源の溶液を溶液Aに加え、混合して、生成物Aを形成する。金属イオン源の溶液の調製は、水等の極性溶媒にかかる金属M2のイオン源を加え、溶液Bを形成することで行ってもよい。金属イオン源は、例えば、式(VII);
2lm ・・・(VII)
に対応してもよく、ここで、M2は上記の金属であり、Zは、カリウムの硫酸塩、水酸化物、硫酸塩及びリン酸塩からなる群から選択され、l及びmはそれそれ独立して1〜20の整数である。例えば、硫酸アルミニウムカリウムは、安価で、アルミニウムの金属イオン源として有効であることが知られている。
【0080】
次に、溶液A及び溶液Bを一緒に混合して、生成物Aを形成する。撹拌及び加熱を用いて、溶液Bの金属イオンがカルボン酸基含有化学種と結合するのを促してもよく、それによって、極性溶媒に不溶な金属石鹸を作ることができる。生成物Aは、金属石鹸(B)を含み、硫酸カリウム及び/又は水等の他の反応残留物を含んでいてもよい。
【0081】
金属石鹸(B)は、分子の高い割合がミセルタイプの構造や式(V)の構造のようなクラスター様の構造を形成するのを促進する手法で合成してもよい。例えば、アルミニウム石鹸において、ジ−石鹸は、式(V)の構造を形成するものと考えられている分子である。しかしながら、モノ−及びトリ−アルミニウム石鹸は、これらの構造に会合しない。従って、この点で、アルミニウムのジ−石鹸の形成を最大化することが有益である。式(IV)で一般に表わされる他の金属石鹸に対しては、金属イオンからぶら下がっているOHが1つで、残りの原子価が有機部分で満たされていることが好ましい。
【0082】
アルミニウムのジ−石鹸の分子は、溶液Bを溶液Aにゆっくり加えることによって、2つの溶液を急に組み合わせるのとは対照的に、生成を促すことができる。溶液A及びBの温度及び濃度を変えることは、モノ−、ジ−、又はトリ−石鹸の生成に影響を及ぼす他の方法である。また、O2CR基の数は、金属イオン及びO2CR分子の相対量を変化させることで、調節することができる。例えば、アルミニウムのジ−石鹸の生成は、アルミニウム源とO2CR分子源を、アルミニウムイオン対O2CR分子を約1:2の比、例えば、1:1.5〜1:2.5の比で加えることで、促すことができる。
【0083】
さらなる工程において、生成物Aを溶媒から単離する。例えば、ジラウリン酸のアルミニウム石鹸、ジエチルヘキサン酸のアルミニウム石鹸、及びジオレイン酸のアルミニウム石鹸の場合、生成物Aを水で洗い、それを乾燥することによって、単離することができ、それによって、純度約99%の粉状製品が生成する。生成物A中の他の全ての反応残留物を水で洗い流す。
【0084】
他の工程において、単離した金属石鹸(B)を非極性溶媒に溶解させ、溶液Xを形成する。非極性溶媒は、例えば、ヘキサン、ベンゼン、シクロヘキサン又はトルエンとすることができる。撹拌及び加熱を用いて、溶解を促してもよい。上記金属石鹸(B)分子は、塩基性の非極性溶媒中でクラスター様の構造、例えば、式(V)で表される構造を形成してもよく、その結果、非常に粘稠な弾性材料が生成することとなる。
【0085】
さらなる工程においては、溶液Xと前記ゴム成分(A)を含むゴム組成物(C)とを組み合わせる。再度、撹拌及び加熱を用いて、ゴム組成物(C)中に金属石鹸(B)溶液が溶解するのを促してもよい。
【0086】
[金属石鹸(B)の含有量]
金属石鹸(B)は、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、通常1〜200質量部の量、好ましくは5〜100質量部の量、さらに好ましくは5〜30質量部の量で、ゴム組成物中に含有される。1質量部未満では、ウエット性能が充分に得られない場合があり、200質量部を超えると、ブルーム(金属石鹸がゴムの表面に浮上する現象)のおそれがある。
【0087】
[充填剤]
更に、本発明のゴム組成物(C)は、充填剤を含有することが好ましい。ここで、充填剤の配合量は、特に限定されるものではないが、上記共重合体(A1)を含むゴム成分(A)100質量部に対して10〜200質量部の範囲が好ましく、また、30〜80質量部の範囲がより好ましく、40〜70質量部の範囲がより一層好ましい。充填剤の配合量が10質量部未満では、充分な補強性が得られない場合があり、200質量部を超えると、加工性が悪化する場合がある。ここで、充填剤としては、カーボンブラック及びシリカが好ましい。
【0088】
[カーボンブラック]
好適なカーボンブラックとしては、一般に入手可能な市販のカーボンブラックのどんなものをも挙げることができるが、表面積が少なくとも20m2/g、好ましくは少なくとも35m2/gで、最大200m2/g又はそれ以上のものが好ましい。有用なカーボンブラックの中には、ファーネスブラック、チャンネルブラック及びランプブラックがある。2種以上の前記ブラックの混合物を用いることもできる。典型的なカーボンブラックとしては、特に限定させるものではないが、ASTM D−1765−82aで規定されているN−110、N−220、N−339、N−330、N−352、N−550、N−660が挙げられる。なお、カーボンブラックとしては、GPF,FEF,SRF,HAF,ISAF,SAFグレードのものが好ましく、HAF,ISAF,SAFグレードのものが更に好ましい。
【0089】
[シリカ]
一方、シリカとしては、特に限定されないが、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾燥シリカ(無水ケイ酸)、ケイ酸カルシウム等が挙げられ、湿式シリカ及び乾式シリカ等が好ましく、湿式シリカが更に好ましく、これらの中でも、沈降アモルファス湿式プロセスによる含水シリカが好ましい。これら補強性の充填剤は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。有用な使用量の上限値は、このタイプの充填剤によってもたらされる高い粘度によって制限される。使用可能で市販のシリカの幾つかとしては、特に限定されるものではないが、PPG工業社(ピッツバーグ、ペンシルバニア)によって生産されているHiSil(登録商標)190、HiSil(登録商標)210、HiSil(登録商標)215、HiSil(登録商標)233、HiSil(登録商標)243等が挙げられる。また、多くの有用な市販グレードの種々のシリカが、Evonik社(例えば、VN2、VN3)、ローディア社(例えば、Zeosil(登録商標)1165MP0)、及びJ.M.フーバー社から入手できる。
【0090】
[シランカップリング剤]
上記シリカを使用する場合、シリカをポリマーに結合させるために、カップリング剤を使用してシラン処理を施すのが望ましい。多数のカップリング剤が公知であり、特に限定されるものではないが、有機スルフィドのポリスルフィドが挙げられる。どのような有機シランのポリスルフィドを使用してもよい。
【0091】
好適な有機シランのポリスルフィドとしては、特に限定されるものではないが、3,3’−ビス(トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’-ビス(トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’−ビス(トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(トリエトキシシリルプロピル)オクタスルフィド、3,3’−ビス(トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、2,2’−ビス(トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’−ビス(トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’−ビス(トリブトキシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’−ビス(トリメトキシシリルプロピル)ヘキサスルフィド、3,3’−ビス(トリメトキシシリルプロピル)オクタスルフィド、3,3’−ビス(トリオクトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(トリヘキソキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’−ビス(トリ−2”−エチルヘキソキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’−ビス(トリイソオクトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(トリ−t−ブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、2,2’−ビス(メトキシジエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、2,2’−ビス(トリプロポキシシリルエチル)ペンタスルフィド、3,3’−ビス(トリシクロネオキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(トリシクロペントキシシリルプロピル)トリスルフィド、2,2’−ビス(トリ−2”−メチルシクロヘキソキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(トリメトキシシリルメチル)テトラスルフィド、3−メトキシエトキシプロポキシシリル3’−ジエトキシブトキシ−シリルプロピルテトラスルフィド、2,2’−ビス(ジメチルメトキシシリルエチル)ジスルフィド、2,2’−ビス(ジメチルsecブトキシシリルエチル)トリスルフィド、3,3’−ビス(メチルブチルエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(ジt−ブチルメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、2,2’−ビス(フェニルメチルメトキシシリルエチル)トリスルフィド、3,3’−ビス(ジフェニルイソプロポキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(ジフェニルシクロヘキソキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’−ビス(ジメチルエチルメルカプトシリルプロピル)テトラスルフィド、2,2’−ビス(メチルジメトキシシリルエチル)トリスルフィド、2,2’−ビス(メチルエトキシプロポキシシリルエチル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(ジエチルメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(エチルジ−secブトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’−ビス(プロピルジエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、3,3’−ビス(ブチルジメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、3,3’−ビス(フェニルジメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、3’−トリメトキシシリルプロピルテトラスルフィド、4,4’−ビス(トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、6,6’−ビス(トリエトキシシリルヘキシル)テトラスルフィド、12,12’−ビス(トリイソプロポキシシリルドデシル)ジスルフィド、18,18’−ビス(トリメトキシシリルオクタデシル)テトラスルフィド、18,18’−ビス(トリプロポキシシリルオクタデセニル)テトラスルフィド、4,4’−ビス(トリメトキシシリル−ブテン−2−イル)テトラスルフィド、4,4’−ビス(トリメトキシシリルシクロヘキシレン)テトラスルフィド、5,5’−ビス(ジメトキシメチルシリルペンチル)トリスルフィド、3,3’−ビス(トリメトキシシリル−2−メチルプロピル)テトラスルフィド、3,3’−ビス(ジメトキシフェニルシリル−2−メチルプロピル)ジスルフィド、及び3−オクタノイルチオ−1−プロピルトリエトキシシラン(NXT)が挙げられる。またこれら種々の有機シランのポリスルフィド化合物の混合物を用いることができる。
【0092】
上記ゴム組成物(C)中のカップリング剤の量は、ゴム組成物(C)中のシリカの質量を基準とする。かかるカップリング剤の量は、シリカの0.1質量%〜20質量%、好ましくは1質量%〜15質量%、より好ましくは1質量%〜10質量%である。
【0093】
[追加の充填剤]
また、ある種の追加の充填剤を利用してもよく、例えば、クレー、タルク、アルミニウム水和物、水酸化アルミニウム及びマイカ等の鉱物系充填剤が挙げられる。これら追加の充填剤は、任意であり、例えばゴム成分(A)100質量部に対して、0.5〜40質量部の量で利用できる。
【0094】
[ゴム組成物(C)]
本発明のゴム組成物(C)には、前記共重合体(A1)を含むゴム成分(A)、金属石鹸(B)、充填剤、シランカップリング剤、追加の充填剤の他に、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤(オイル)、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。本発明のゴム組成物(C)は、前記共重合体(A1)を含むゴム成分(A)及び金属石鹸(B)に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。この組成物を基に、タイヤ及びパワーベルト等の種々のゴム製品を製造することができる。
【0095】
[加硫剤]
加硫剤の例としては、硫黄、及び硫黄供与性化合物が挙げられる。かかる加硫剤の配合量は、ゴム成分(A)100質量部に対して、0.1〜10質量部、好ましくは1〜5質量部である。具体例としては、1.3質量部、1.5質量部、1.7質量部、1.87質量部、及び2.0質量部が挙げられる。
【0096】
[加硫促進剤]
加硫促進剤は、特に限定されない。多数の促進剤が当該技術分野で公知であり、特に限定されるものではないが、ジフェニルグアニジン(DPG)、テトラメチルチウラムジスルフィド(TMTD)、4,4’−ジチオジモルホリン(DTDM)、テトラブチルチウラムジスルフィド(TBTD)、ベンゾチアジルジスルフィド(MBTS)、2−(モルホリノチオ)ベンゾチアゾール(MBS)が挙げられる。かかる促進剤の配合量の例としては、ゴム成分(A)100質量部に対して、0.2質量部、0.25質量部、0.5質量部、0.9質量部、1.0質量部、1.5質量部、1.65質量部、及び2.0質量部が挙げられる。これら促進剤を2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0097】
[オイル]
オイルは、ゴム組成物(C)において、配合助剤として、従来から使用されている。オイルの例としては、特に限定されるものではないが、芳香族系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイル、及び/又はパラフィン系プロセスオイルが挙げられる。幾つかの用途では、低多環芳香族(PCA)オイル、特には、PCA含量が3%未満のオイルを使用することが好ましい。オイルの好適な使用量は、ゴム組成物(C)中のゴム成分(A)100質量部に対して、通常0〜100質量部、好ましくは0〜70質量部、より好ましくは0〜50質量部の広い範囲に渡り、例えば、15質量部、20質量部、又は30質量部の量とすることができる。典型的な実施態様においては、金属石鹸(B)を用いて、ゴム配合物中のオイルの一部を置き換えたり、オイルの全部を置き換えたりする。例えば、オイルの1%から100%、5%から50%、又は10%から40%を、金属石鹸(B)で置き換えてもよい。
【0098】
[老化防止剤]
また、老化防止剤を、例えばゴム成分(A)100質量部に対して、0.5質量部、1質量部、1.5質量部、2.0質量部、及び2.5質量部等の量で使用してもよい。かかる老化防止剤の2種以上を同時に使用してもよい。
【0099】
[ゴム組成物(C)の調製]
上記ゴム成分(A)、金属石鹸(B)、場合によってはさらに充填剤のほか、加硫剤、加硫促進剤、オイル、粘着付与樹脂、老化防止剤、脂肪酸、ワックス、素練り促進剤、加硫遅延剤、活性剤、加工添加剤、可塑剤、顔料及びオゾン劣化防止剤からなる群から選択される1種以上の成分を、ゴムの配合技術の分野で一般に知られた方法で、例えば、標準的なゴムの混合設備及び手法を用い、上記成分を所望の使用量で一緒に混合することによって、配合してもよい。また例えば、ゴム組成物(C)は、公知の適切な方法に従って、乳化重合、溶液重合、又はバルク重合で調製してもよい。一般に、ブラベンダーや小型のバンバリーミキサー等の内部ミキサー中で、成分の混合を達成することができ、せん断力が含まれるので、配合プロセスは、一般に、発熱し、高温が通常である。
【0100】
一実施態様において、ゴム組成物(C)は、(1)約130℃から約200℃(落下温度)の温度で、添加された硫黄及び硬化剤が存在しない状況下、エラストマー、シリカ又はシリカとカーボンブラックの混合物を含む補強性充填剤を一緒に混合する工程、(2)混合物を混合温度よりも低く冷却する工程、(3)工程(2)で得られた混合物を加硫温度よりも低い温度で、硬化剤及び満足のいく硬化を実現するのに有効な量の硫黄と共に混合する工程、及び(4)工程(3)で得られた混合物を硬化させる工程によって、調製する。配合物は、通常、約140℃から約190℃で、約5から約120分間硬化させる。また、成分を一緒に混合するための落下温度は、約145℃から約190℃、又は約155℃から約180℃とすることもできる。
【0101】
最初の混合工程は、少なくとも2つのサブ工程を含むことができる。即ち、最初の混合工程は、(i)約130℃から約180℃の温度で、エラストマー、少なくとも充填剤の一部を一緒に混合するサブ工程、(ii)混合温度よりも低い温度に混合物を冷却するサブ工程、及び(iii)有る場合は、残りの充填剤と、サブ工程(ii)で得られた混合物を混合するサブ工程を含むことがきる。少なくとも2つのサブ工程によって達成される温度は、上記温度範囲内で、互いに同一でも異なってもよい。
【0102】
上記方法は、配合物の粘度を下げ、補強性充填剤の分散を向上させるために、更に、第一の混合物に成分を全く加えない、或いは、非硬化成分を加えるリミル工程を含んでもよい。上記金属石鹸(B)は、該リミル工程で添加することができる。リミル工程の落下温度は、通常、約130℃から約175℃で、例えば、約145℃から約165℃である。
【0103】
混合プロセスの最終工程は、最終配合物に満足のいく硬化を実現するのに有効な量の硫黄を含む硬化剤の混合物への添加である。最終混合物を混合する温度は、配合物の望まない予備硬化を避けるために、加硫温度未満にしなければならない。そのため、最終混合工程の温度は、約120℃を超えるべきではなく、通常、約40℃から約120℃、好ましくは、約60℃から約110℃、特には、約75℃から約100℃である。
【0104】
[タイヤ]
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物(C)を用いたことを特徴とし、上記ゴム組成物をトレッドに用いることが好ましい。上記ゴム組成物(C)をトレッドに用いたタイヤは、耐摩耗性能及びウエット性能に優れる。なお、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物(C)をタイヤ部材のいずれかに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。例えば、それらは、タイヤのトレッドストック、サイドウォールストック、又は他のタイヤ部材ストック配合物等の種々のゴム製品に使用することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0105】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0106】
(ハーフメタロセンカチオン錯体の合成)
まず、実施例1、2及び比較例3、4において、共通して使用した一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を合成し、その構造を1H-NMR及びX線結晶構造解析により確認した。なお、1H-NMRはTHF-d8を溶媒とし、室温で測定を行った。X線結晶構造解析は、RAXIS CS(リガク)を用いて行った。
窒素雰囲気下、(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2(0.150g,0.260mmol)のTHF溶液5mLに、トリエチルアニリニウムテトラキスフェニルボレート(Et3NHB(C66)4)(0.110g,0.260mmol)を添加し室温で12時間攪拌した。その後、THFを減圧留去し、得られた残査をヘキサンで3回洗浄したところ、オイル状化合物を得た。その残査をTHF/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、白色結晶として[(2-MeC96)GdN(SiMe3)2(THF)3][B(C65)4](150mg,59%)を得た。構造確認はX線結晶解析で行った。
【0107】
(実施例1及び比較例3に用いる重合体A1−Aの合成)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、十分に乾燥した1L耐圧ガラスボトルに、スチレン104g(1mol)及びトルエン50gを添加し、ボトルを打栓した。その後、グローブボックスからボトルを取り出し、1,3-ブタジエンを54g(1mol)仕込み、モノマー溶液とした。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、ビス(2-メチルインデニル)ガドリニウム(トリメチルシリルアミド)[(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2]を40μmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C65)4)を40μmol、ジイソブチルアルミニウムハライドを1mmol仕込み、トルエン10mlで溶解させ触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、70℃で30分間重合を行った。重合後、2,6-ビス(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)の10質量%のメタノール溶液10mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノール/塩酸混合溶媒で重合体を分離させ、60℃で真空乾燥した。得られた重合体の収量は47gであった。
【0108】
(実施例2及び比較例4に用いる重合体A1−Bの合成)
触媒溶液におけるジイソブチルアルミニウムハライドの使用量を0.8mmolとした以外は、実施例1と同様の方法で重合を行った。得られた重合体の収量は46gであった。
【0109】
(比較例1、2に用いる重合体C1及びC2)
比較例1、2には、下記の市販重合体(C1及びC2)を用いた。
*C1 ポリブタジエン,旭化成工業社製,商品名:NF35.
*C2 スチレン−ブタジエン共重合体,旭化成工業社製,商品名:タフデン1000.
【0110】
上記のようにして製造した実施例1、2及び比較例3,4に用いる重合体A1―A及びA1−B、市販品である比較例1、2に用いる重合体C1及びC2について、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ミクロ構造、結合スチレン量、ブロックスチレン含有率、ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0111】
(数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、各重合体のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0112】
(ミクロ構造及び結合スチレン量)
重合体のミクロ構造を1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求め、重合体の結合スチレン量を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。なお、1H-NMR及び13C-NMRは1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒とし、120℃で測定を行った。
【0113】
(ブロックスチレン含有率)
スチレン部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(ブロックスチレン含有率)が全スチレン部分に占める割合を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。
【0114】
(ガラス転移点(Tg)(℃)及び融点(Tm)(℃))
サンプルを10mg±0.5mg秤量し、アルミニウム製の測定パンに入れ蓋をしたものを、DSC装置(TAインスツルメント社製)にて、室温から50℃まで加温し、10分間安定させた後、-80℃まで冷却し、-80℃で10分間安定させてから、10℃/minの昇温速度で50℃まで昇温しながらガラス転移点(Tg)及び融点(Tm)を測定した。
【0115】
なお、サンプルの詳細NMRデータから、特にスチレン−スチレン結合が確認されなかった。
【0116】
(金属石鹸(B)の合成)
1.9Lのガラス瓶に、2000mLの水及び40g(1mol)の水酸化ナトリウム(純度99+%、アルドリッチ製)を加えた。水酸化ナトリウムが完全に溶けた後、201gのラウリン酸(純度99%、アルドリッチ製)を加えた。次に、混合物を、溶液が完全に透明になるまで、75℃で1時間激しく混合した。この溶液を、溶液Aと呼ぶことにする。
【0117】
もう一つの1.9Lのガラス瓶に、2000mLの水及び238gの硫酸アルミニウムカリウム(純度99+%、アルドリッチ製)を加えた。次に、混合物を、溶液が完全に透明になるまで、75℃で1時間激しく混合した。この溶液を、溶液Bと呼ぶことにする。
【0118】
次に、暖かいままの溶液A及びBを組み合わせ、激しい撹拌の下、この組み合わせによりゲル様の材料が生成した。このケースでは、溶液Bを、約0.38L/分の速度で、溶液Aにゆっくりと加えた。この材料を脱イオン水で8回洗浄し、次に、65℃で一晩、真空乾燥した。最終生成物(ジラウリン酸アルミニウム石鹸)は、白色の粉体であり、トルエンへの溶解や、ゴム成分(A)への混合が容易であった。
【0119】
(ゴム組成物(C)の調製)
次に、上記重合体(A1)を含むゴム組成物(A)及び上記金属石鹸(B)を用いて、表1に示す処方にて配合し、通常の条件で加硫し、ゴム組成物(C)を調製した。該ゴム組成物(C)のウエット性能及び耐摩耗性能を下記の方法により測定して評価した。結果を表1に示す。
【0120】
(ウエット性能)
BPST(British Portable Skid Resistance Tester)を用いて、湿潤路面での耐ウエットスキッド性能に関する測定を行い、比較例1を100として指数表示した。指数値が大きい程、ウエット性能が良好であることを示す。
【0121】
(耐摩耗性能)
ランボーン型摩耗試験機を使用して、JIS K 6264に従い、室温におけるスリップ率60%の摩耗量を測定し、該摩耗量の逆数を算出し、比較例1を100として指数表示をした。指数値が大きい程、摩耗量が少なく、耐摩耗性能が良好であることを示す。
【0122】
【表1】

【0123】
*1 東海カーボン社製,シーストKH/N339
*2 N-(1,3-ジメチルブチル)-N-フェニル-p-フェニレンジアミン
*3 ジフェニルグアニジン
*4 ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド
*5 N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
【0124】
上記共重合体(A1−A,A1−B)を含むゴム成分(A)を用い、且つ、上記金属石鹸(B)を配合したゴム組成物(C)(実施例1、2)は、従来のBR又はSBRからなるゴム成分(前記共重合体(A1−A,A1−B)を含まないゴム成分)を用い、且つ、上記化合物(B)を配合しないゴム組成物(比較例1、2)との比較から、性能[(1)ウエット性能及び(2)耐摩耗性能]が高度にバランスされ、大幅に性能向上していることが分かる。
【0125】
また、上記実施例1、2は、上記共重合体(A1−A,A1−B)を含むゴム成分(A)を用い、且つ、上記金属石鹸(B)を配合しないゴム組成物(比較例3、4)との比較から性能[(1)ウエット性能及び(2)耐摩耗性能]が高度にバランスされ、さらに性能向上していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化2】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化3】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、
金属石鹸(B)と
を含むことを特徴とするゴム組成物(C)。
【請求項2】
前記金属石鹸(B)を構成する金属が、アルミニウムであることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項3】
前記金属石鹸(B)を構成するカルボン酸は、炭素数が、6〜20であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項4】
前記金属石鹸(B)が下記式(IV):
【化4】

[一般式(IV)中、M1は、酸化状態が+3価又は+4価の金属であり、Rは、それぞれ独立に選ばれた有機部分であり、nはM1の原子価である]で表されることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項5】
前記式(IV)中、O2CR基は、炭素数が6以上であることを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物(C)。
【請求項6】
前記式(IV)中、O2CR基は、炭素数が6〜20であることを特徴とする請求項5に記載のゴム組成物(C)。
【請求項7】
前記式(IV)中、Rが少なくとも1つの不飽和単位を有するアルキル鎖を含むことを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物(C)。
【請求項8】
前記式(IV)中、Rが1つ又は複数の硫黄硬化可能な二重結合を有するアルキル鎖を含むことを特徴とする請求項7に記載のゴム組成物(C)。
【請求項9】
前記二重結合が、アルキル鎖中の2つの非末端炭素の間にあることを特徴とする請求項8に記載のゴム組成物(C)。
【請求項10】
前記式(IV)中、前記金属M1が第III属(IUPACの第13属)元素金属又は遷移金属(亜鉛、銅及びニッケルを除く)であることを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物(C)。
【請求項11】
前記式(IV)中、前記金属M1がアルミニウム、鉄、チタン及びコバルトからなる群より選ばれることを特徴とする請求項10に記載のゴム組成物(C)。
【請求項12】
前記式(IV)中、前記金属M1がアルミニウム、鉄及びチタンからなる群より選ばれることを特徴とする請求項11に記載のゴム組成物(C)。
【請求項13】
前記式(IV)中、前記金属M1がアルミニウムであることを特徴とする請求項12に記載のゴム組成物(C)。
【請求項14】
前記ゴム成分(A)が、前記共重合体(A1)を50質量%以上含むことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項15】
前記ゴム成分(A)が、更に、前記共重合体(A1)以外の他のゴム成分(A2)を含み、前記他のゴム成分(A2)は、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム、天然ゴム、ポリブタジエンゴム及びポリイソプレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種類であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項16】
前記金属石鹸(B)が、水に溶解しないことを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項17】
前記金属石鹸(B)の含有量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、5〜100質量部であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項18】
前記金属石鹸(B)の含有量が、前記ゴム成分(A)100質量部に対して、5〜30質量部であることを特徴とする請求項17に記載のゴム組成物(C)。
【請求項19】
前記金属石鹸(B)が、ジエチルへキサン酸のアルミニウム石鹸及びジラウリン酸のアルミニウム石鹸からなる群より選ばれることを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物(C)。
【請求項20】
前記金属石鹸(B)が、ジオレイン酸のアルミニウム石鹸であることを特徴とする請求項2に記載のゴム組成物(C)。
【請求項21】
前記金属石鹸(B)の分子が、非極性溶媒中、ミセル構造又は式(V):
【化5】

[一般式(V)中、M1は、酸化状態が+3価又は+4価の金属であり、Rは、それぞれ独立に選ばれた有機部分であり、xは自然数である。]で表される構造を形成することを特徴とする請求項4に記載のゴム組成物(C)。
【請求項22】
前記共重合体(A1)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項23】
前記共重合体(A1)は、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項24】
前記共重合体(A1)が、DSC測定において、融点(Tm)を有することを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項25】
前記共重合体(A1)が、スチレン−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物(C)。
【請求項26】
請求項1〜24のいずれかに記載のゴム組成物(C)をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項27】
前記タイヤ部材がトレッドであることを特徴とする請求項25に記載のタイヤ。

【公開番号】特開2011−84634(P2011−84634A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−237695(P2009−237695)
【出願日】平成21年10月14日(2009.10.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】