説明

ゴム組成物及びそれを用いたタイヤ

【課題】優れたウエット性能、耐摩耗性及び転がり抵抗を鼎立させたゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供する。
【解決手段】下記一般式(I):


(式I中、Mはランタノイド元素等、CpRはインデニル、Ra〜Rfはアルキル基、Lは中性ルイス塩基、wは0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体系触媒組成物により芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物から得られる、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、分子内に、1個以上のケイ素−酸素結合と1〜10個の硫黄原子を有し、且つケイ素原子から原子数で3〜8個離れた位置に窒素原子を1個以上有する有機ケイ素化合物(B)とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、特定構造の有機ケイ素化合物(B)とを含むゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関し、特にトレッドに用いることで、タイヤに優れたウェット性能、耐摩耗性及び転がり抵抗を付与することが可能なゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、スチレン−ブタジエン共重合体等の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、通常のアニオン系及びラジカル系重合開始剤等を用いた重合により合成され、その共役ジエン化合物部分の異性構造の一つである1,4構造は、トランス-1,4構造が一般に多く含まれる。また、該共役ジエン化合物部分の異性構造は、ビニル結合量以外の構造制御が困難であった。
【0003】
これに対し、共役ジエン化合物部分の立体規則性、例えば、シス-1,4構造の含有率を制御するため、配位子と金属原子とからなる金属触媒を用いて、芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を生成させる手法が知られている(例えば、特許文献1〜特許文献3参照)。しかしながら、該手法により得られる芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体は、芳香族ビニル化合物部分のブロック化や低分子量化等の問題を含む場合があった。
【0004】
また、昨今、車両の安全性の観点から、タイヤの湿潤路面における安全性を向上させることが求められている。また、環境問題への関心の高まりに伴う二酸化炭素の排出量の削減の観点から、車両を更に低燃費化することも求められている。
【0005】
これらの要求に対し、従来、タイヤの湿潤路面における性能の向上と転がり抵抗の低減とを両立する技術として、タイヤのトレッドに用いるゴム組成物の充填剤としてシリカ等の無機充填剤を用いる手法が有効であることが知られている。しかしながら、シリカ等の無機充填剤を配合したゴム組成物は、タイヤの転がり抵抗を低減し、湿潤路面における制動性を向上させ、操縦安定性を向上させるものの、未加硫粘度が高く、多段練り等を要するため、作業性に問題がある。そのため、シリカ等の無機充填剤を配合したゴム組成物においては、破壊強力及び耐摩耗性が大幅に低下し、加硫遅延や充填剤の分散不良等の問題を生じる。そこで、ゴム組成物にシリカ等の無機充填剤を配合した場合、ゴム組成物の未加硫粘度を低下させ、モジュラスや耐摩耗性を確保し、また、ヒステリシスロスを更に低下させるためには、シランカップリング剤を添加することが必須となっている(例えば、特許文献4〜特許文献5参照)。
【0006】
しかしながら、シランカップリング剤は高価であるため、シランカップリング剤の配合によって、配合コストが上昇してしまう。また、分散改良剤の添加によっても、ゴム組成物の未加硫粘度が低下し、作業性が向上するが、耐摩耗性が低下してしまう。更に、分散改良剤がイオン性の高い化合物の場合には、ロール密着等の加工性の低下も見られる。また更に、本発明者が検討したところ、充填剤としてシリカ等の無機充填剤を配合しつつ、従来のシランカップリング剤を添加しても、ゴム組成物のヒステリシスロスの低減と耐摩耗性の向上とを十分満足できるレベルにすることができず、依然として改良の余地が有ることが分かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3207502号公報
【特許文献2】特開2006−137897号公報
【特許文献3】特許第3738315号公報
【特許文献4】米国特許第3,842,111号明細書
【特許文献5】米国特許第3,873,489号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、従来の技術では、(1)タイヤのウェット性能の向上、(2)耐摩耗性の向上及び(3)タイヤの転がり抵抗の低減を十分に鼎立させることができなかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、上記従来技術の問題を解決し、タイヤに優れたウェット性能、耐摩耗性及び転がり抵抗を鼎立させることが可能なゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、特定のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させることにより、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の共重合体(A1)が得られ、該共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、特定構造の有機ケイ素化合物(B)とを含むゴム組成物をタイヤに適用することで、ウェット性能、耐摩耗性及び転がり抵抗を鼎立させる改良ができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明のタイヤは、下記一般式(I):
【化1】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化2】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化3】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られ、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、
分子内に、1個以上のケイ素−酸素結合と1〜10個の硫黄原子とを有し、且つケイ素原子から原子数で3〜8個離れた位置に窒素原子を1個以上有することを特徴とする有機ケイ素化合物(B)とを含むゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とする。
【0012】
ここで、メタロセン錯体は、一つ又は二つ以上のシクロペンタジエニル又はその誘導体が中心金属に結合した錯体化合物であり、特に、中心金属に結合したシクロペンタジエニル又はその誘導体が一つであるメタロセン錯体を、ハーフメタロセン錯体と称することがある。
【0013】
本発明のゴム組成物において、前記有機ケイ素化合物(B)における前記ケイ素−酸素結合の数が1〜6個であることが好ましい。
【0014】
本発明のゴム組成物において、前記有機ケイ素化合物(B)が下記一般式(IV):
【化4】

[式中、A1は、下記一般式(a−1)又は式(a−2):
【化5】

で表わされ、
式(IV)及び式(a−1)中のR1、R2及びR3は、少なくとも一つが下記一般式(a−3)又は式(a−4):
【化6】

(式中、Mは−O−又は−CH2−で、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−で、R6は−OR8、−NR89又は−R8で、R7は−NR89、−NR8−NR89又は−N=NR8で、但し、R8は−Cn2n+1であり、R9は−Cq2q+1であり、l、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である)で表わされ、その他が−M−Cl2l+1(ここで、M及びlは上記と同義である)で表わされ、但し、R1、R2及びR3の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(b−1)又は式(b−2):
【化7】

(式中、M、X、Y、R6、l及びmは上記と同義であり、R10は−NR8−、−NR8−NR8−又は−N=N−で、但し、R8は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
式(a−2)中のR5は上記一般式(a−3)又は式(a−4)或いは−Cl2l−R11(ここで、R11は−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8又は−M−Cm2m+1であり、但し、R8、R9、M、l及びmは上記と同義である)で表わされ、
xは1〜10である]で表わされることが好ましい。
【0015】
本発明のゴム組成物において、前記有機ケイ素化合物(B)が、下記一般式(V):
【化8】

[式中、A2は、下記一般式(a−5)又は式(a−2):
【化9】

で表わされ、
式(V)及び式(a−5)中のWは−NR8−、−O−又は−CR815−(ここで、R15は−R9又は−Cm2m−R7であり、但し、R7は−NR89、−NR8−NR89又は−N=NR8であり、R8は−Cn2n+1で、R9は−Cq2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である)で表わされ、
12及びR13はそれぞれ独立して−M−Cl2l−(ここで、Mは−O−又は−CH2−で、lは0〜10である)で表わされ、
14は−M−Cl2l+1又は−M−Cl2l−R7(ここで、M、R7及びlは上記と同義である)で表わされ、但し、R12、R13及びR14の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(b−1)又は式(b−2):
【化10】

(式中、M、l及びmは上記と同義であり、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−で、R6は−OR8、−NR89又は−R8で、R10は−NR8−、−NR8−NR8−又は−N=N−であり、但し、R8及びR9は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
式(a−2)中のR5は下記一般式(a−3)又は式(a−4):
【化11】

(式中、M、X、Y、R6、R7、l及びmは上記と同義である)或いは−Cl2l−R11(ここで、R11は−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8又は−M−Cm2m+1であり、但し、R8、R9、M、l及びmは上記と同義である)で表わされ、
xは1〜10である]で表わされることも好ましい。
【0016】
本発明のゴム組成物において、上記好適な有機ケイ素化合物(B)における前記Mが−O−であることが好ましい。
【0017】
本発明のゴム組成物において、前記有機ケイ素化合物(B)における前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−R7(ここで、R7及びlは上記と同義である)で表わされ、その他が−O−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R4が−CH2−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−Cl2l−R11(ここで、R11及びlは上記と同義である)で表わされることが好ましい。
【0018】
本発明のゴム組成物において、前記有機ケイ素化合物(B)における前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−NR89(ここで、R8、R9及びlは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−CH2−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされることが更に好ましい。
【0019】
本発明のゴム組成物において、前記有機ケイ素化合物(B)における前記Wが−NR8−(ここで、R8は上記と同義である)で表わされ、
前記R12及びR13がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R14は−O−Cl2l−R7(ここで、R7及びlは上記と同義である)で表わされ、
前記R4が−CH2−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−CH2−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされることが好ましい。
【0020】
本発明のゴム組成物において、前記有機ケイ素化合物(B)における前記Wが−O−又は−CR89−(ここで、R8及びR9は上記と同義である)で表わされ、
前記R12及びR13がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R14は−O−Cl2l−NR89(ここで、R8、R9及びlは上記と同義である)で表わされ、
前記R4が−CH2−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−CH2−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされることも好ましい。
【0021】
また、本発明のゴム組成物において、前記共重合体(A1)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量は10%以下であることが好ましく、前記共重合体(A1)の芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることが好ましく、前記共重合体(A1)は、DSC測定において、融点(Tm)を有することが好ましい。
【0022】
本発明のゴム組成物において、前記共重合体(A1)の好適例は、スチレン−ブタジエン共重合体である。
【0023】
本発明のゴム組成物において、更に、無機充填剤(C)を配合してなることが好ましい。
【0024】
本発明のゴム組成物において、前記ゴム成分(A)100質量部に対して前記無機充填剤(C)を5〜140質量部を配合してなることが好ましく、前記有機ケイ素化合物(B)を前記無機充填剤(C)の配合量の1〜20質量%配合したことが更に好ましい。
【0025】
また、本発明のタイヤは、上記ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とし、該タイヤにおいて、前記タイヤ部材がトレッドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、特定の共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、特定構造の有機ケイ素化合物(B)とを含むことにより、タイヤに優れたウェット性能、耐摩耗性及び転がり抵抗を鼎立させることが可能なゴム組成物及び該ゴム組成物を用いたタイヤを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[ゴム組成物]
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明のゴム組成物及びタイヤは、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られ、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上である芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、分子内に、1個以上のケイ素−酸素結合と1〜10個の硫黄原子とを有し、且つケイ素原子から原子数で3〜8個離れた位置に窒素原子を1個以上有することを特徴とする有機ケイ素化合物(B)とを含むことを特徴とする。
【0028】
本発明のゴム組成物を用いたタイヤは、驚くべきことに、共重合体(A1)を含むゴム成分(A)単独や、有機ケイ素化合物(B)単独では、達成できなかった3つのタイヤ性能(ウエット性能、耐摩耗性及び転がり抵抗)を鼎立するという顕著な効果を奏するものである。
【0029】
[ゴム成分(A)]
上記ゴム成分(A)は、上記共重合体(A1)を含むことを要し、ゴム成分(A)100質量部の内、上記共重合体(A1)を10〜100質量部含むことが好ましい。また、上記ゴム成分(A)が、前記共重合体(A1)以外の他のゴム成分(A2)を含む場合、他のゴム成分(A2)としては、例えば、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、ポリブタジエンゴム(BR)、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム(SBR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブチルゴム(IIR)、スチレン−イソプレンゴム、スチレン−イソプレン−ブタジエンゴム、ブタジエン−イソプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素エラストマー、エチレン・アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンモノマー(EPDM)ゴム、水素化ニトリルゴムなどが挙げられ、天然ゴム及び/又はジエン系合成ゴムであることが好ましい。ジエン系合成ゴムの具体例としては、合成ポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴム等が挙げられる。なお、これら他のゴム成分(A2)は、単独で用いてもよいし、二種以上をブレンドして用いてもよい。
【0030】
[芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)]
上記共重合体(A1)は、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体である。
【0031】
上記共重合体(A1)は、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が非常に高く、該共重合体(A1)をゴム成分として用いたゴム組成物は、アニオン重合することで得られた従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体を用いたゴム組成物及び従来の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体とシス-1,4結合量が高い共役ジエン化合物の単独重合体とをブレンドして用いたゴム組成物と比較して、ウェット性能を高度に維持しながら、耐摩耗性を向上させることができる。この理由は、必ずしも明らかではないが、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量に由来する結晶性により耐摩耗性の向上効果があるためだと思われる。ここで、上記共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、80%以上であることを要し、90%以上であることが好ましい。該共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%未満では、シス連鎖が不十分なため、融点(Tm)は測定されず、耐摩耗性は低下する。なお、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量は、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求めることができ、その具体的な手法は特開2004−27179号公報に開示されている。
【0032】
また、上記共重合体(A1)は、共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%以下であることが好ましく、5%以下であることが更に好ましい。共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%を超えると、シス-1,4結合量が低下し、耐摩耗性の向上効果が十分に得られなくなる。なお、共役ジエン化合物部分のビニル結合量は、上述のシス-1,4結合量と同様、1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求めることができる。
【0033】
また、上記共重合体(A1)は、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることが好ましく、7%以下であることが更に好まく、0%であることが特に好ましい。上記重合触媒組成物を用いて得られる上記共重合体(A1)は、芳香族ビニル化合物がランダムに重合する傾向があり、芳香族ビニル化合物のブロック化を抑制することができる。ここで、ランダムとは、芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(以下、ブロック芳香族ビニル化合物含有率と称することがある)が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることをいい、ブロックとは、芳香族ビニル化合物−芳香族ビニル化合物の結合を有する芳香族ビニル化合物部分を指す。上記ブロック芳香族ビニル化合物含有率が10%を超えると、芳香族ビニル化合物の単独重合体としての挙動が現われ、ガラス転移温度が上昇し、耐摩耗性が低下する場合がある。なお、ブロック芳香族ビニル化合物含有率は、1H-NMRスペクトルの積分比より求めることができる。
【0034】
更に、上記共重合体(A1)は、DSC測定(示差走査熱量測定)において、融点(Tm)を示す。ここで、DSC測定における融点(Tm)は、共役ジエン化合物部分の連鎖に由来する静的結晶の融点を指す。
【0035】
上記共重合体(A1)は、後で詳細に説明する重合触媒組成物を用いる以外は特に制限されず、例えば、通常の配位イオン重合触媒を用いる付加重合体の製造方法と同様にして、単量体である芳香族ビニル化合物と共役ジエン化合物との混合物を共重合して得ることができる。なお、重合方法としては、溶液重合法、懸濁重合法、液相塊状重合法、乳化重合法、気相重合法、固相重合法等の任意の方法を用いることができる。また、重合反応に溶媒を用いる場合、用いられる溶媒は重合反応において不活性であればよく、該溶媒の使用量は任意であるが、重合触媒組成物に含まれる錯体の濃度を0.1〜0.0001mol/lとする量であることが好ましい。ここで、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、p-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、α-メチルスチレン、クロロメチルスチレン、ビニルトルエン等が挙げられ、これらの中でも、スチレンが好ましい。一方、共役ジエン化合物としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられ、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。従って、上記共重合体(A1)としては、スチレン−ブタジエン共重合体が特に好ましい。
【0036】
(共重合体(A1)の合成に用いる重合触媒組成物)
上記共重合体(A1)の合成に用いる重合触媒組成物は、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも一種の錯体を含むことを要し、更に、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物に含有される他の成分、例えば助触媒等を含むことが好ましい。
【0037】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体において、式中のCpRは、無置換インデニル又は置換インデニルである。インデニル環を基本骨格とするCpRは、C97-XX又はC911-XXで示され得る。ここで、Xは0〜7又は0〜11の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基又はメタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。置換インデニルとして、具体的には、2-フェニルインデニル、2-メチルインデニル等が挙げられる。なお、一般式(I)及び式(II)における二つのCpRは、それぞれ互いに同一でも異なっていてもよい。
【0038】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体において、式中のCpR’は、無置換もしくは置換のシクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルであり、これらの中でも、無置換もしくは置換のインデニルであることが好ましい。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’は、C55-XXで示される。ここで、Xは0〜5の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。シクロペンタジエニル環を基本骨格とするCpR’として、具体的には、以下のものが例示される。
【化12】

(式中、Rは水素原子、メチル基又はエチル基を示す。)
【0039】
一般式(III)において、上記インデニル環を基本骨格とするCpR’は、一般式(I)のCpRと同様に定義され、好ましい例も同様である。
【0040】
一般式(III)において、上記フルオレニル環を基本骨格とするCpR’は、C139-XX又はC1317-XXで示され得る。ここで、Xは0〜9又は0〜17の整数である。また、Rはそれぞれ独立してヒドロカルビル基;メタロイド基であることが好ましい。ヒドロカルビル基の炭素数は1〜20であることが好ましく、1〜10であることが更に好ましく、1〜8であることが一層好ましい。該ヒドロカルビル基として、具体的には、メチル基、エチル基、フェニル基、ベンジル基等が好適に挙げられる。一方、メタロイド基のメタロイドの例としては、ゲルミルGe、スタニルSn、シリルSiが挙げられ、また、メタロイド基はヒドロカルビル基を有することが好ましく、メタロイド基が有するヒドロカルビル基は上記のヒドロカルビル基と同様である。該メタロイド基として、具体的には、トリメチルシリル基等が挙げられる。
【0041】
一般式(I)、式(II)及び式(III)における中心金属Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムである。ランタノイド元素には、原子番号57〜71の15元素が含まれ、これらのいずれでもよい。中心金属Mとしては、サマリウムSm、ネオジムNd、プラセオジムPr、ガドリニウムGd、セリウムCe、ホルミウムHo、スカンジウムSc及びイットリウムYが好適に挙げられる。
【0042】
一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、ビストリアルキルシリルアミド配位子[−N(SiR3)2]を含む。ビストリアルキルシリルアミドに含まれるアルキル基R(一般式(I)におけるRa〜Rf)は、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、メチル基であることが好ましい。
【0043】
一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、シリル配位子[−SiX3]を含む。シリル配位子[−SiX3]に含まれるXは、下記で説明される一般式(III)のXと同様に定義される基であり、好ましい基も同様である。
【0044】
一般式(III)において、Xは水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基及び炭素数1〜20の炭化水素基からなる群より選択される基である。ここで、上記アルコキシド基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等の脂肪族アルコキシ基;フェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェノキシ基等のアリールオキシド基が挙げられ、これらの中でも、2,6-ジ-tert-ブチルフェノキシ基が好ましい。
【0045】
一般式(III)において、Xが表すチオラート基としては、チオメトキシ基、チオエトキシ基、チオプロポキシ基、チオn-ブトキシ基、チオイソブトキシ基、チオsec-ブトキシ基、チオtert-ブトキシ基等の脂肪族チオラート基;チオフェノキシ基、2,6-ジ-tert-ブチルチオフェノキシ基、2,6-ジイソプロピルチオフェノキシ基、2,6-ジネオペンチルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルチオフェノキシ基、2-tert-ブチル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2-イソプロピル-6-チオネオペンチルフェノキシ基、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基等のアリールチオラート基が挙げられ、これらの中でも、2,4,6-トリイソプロピルチオフェノキシ基が好ましい。
【0046】
一般式(III)において、Xが表すアミド基としては、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基、ジイソプロピルアミド基等の脂肪族アミド基;フェニルアミド基、2,6-ジ-tert-ブチルフェニルアミド基、2,6-ジイソプロピルフェニルアミド基、2,6-ジネオペンチルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-イソプロピルフェニルアミド基、2-tert-ブチル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2-イソプロピル-6-ネオペンチルフェニルアミド基、2,4,6-tert-ブチルフェニルアミド基等のアリールアミド基;ビストリメチルシリルアミド基等のビストリアルキルシリルアミド基が挙げられ、これらの中でも、ビストリメチルシリルアミド基が好ましい。
【0047】
一般式(III)において、Xが表すシリル基としては、トリメチルシリル基、トリス(トリメチルシリル)シリル基、ビス(トリメチルシリル)メチルシリル基、トリメチルシリル(ジメチル)シリル基、トリイソプロピルシリル(ビストリメチルシリル)シリル基等が挙げられ、これらの中でも、トリス(トリメチルシリル)シリル基が好ましい。
【0048】
一般式(III)において、Xが表すハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子のいずれでもよいが、塩素原子又は臭素原子が好ましい。また、Xが表す炭素数1〜20の炭化水素基として、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、オクチル基等の直鎖又は分枝鎖の脂肪族炭化水素基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等の芳香族炭化水素基;ベンジル基等のアラルキル基等の他;トリメチルシリルメチル基、ビストリメチルシリルメチル基等のケイ素原子を含有する炭化水素基等が挙げられ、これらの中でも、メチル基、エチル基、イソブチル基、トリメチルシリルメチル基等が好ましい。
【0049】
一般式(III)において、Xとしては、ビストリメチルシリルアミド基又は炭素数1〜20の炭化水素基が好ましい。
【0050】
一般式(III)において、[B]で示される非配位性アニオンとしては、例えば、4価のホウ素アニオンが挙げられる。該4価のホウ素アニオンとして、具体的には、テトラフェニルボレート、テトラキス(モノフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トリル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、[トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル]ボレート、トリデカハイドライド-7,8-ジカルバウンデカボレート等が挙げられ、これらの中でも、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートが好ましい。
【0051】
上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、更に0〜3個、好ましくは0〜1個の中性ルイス塩基Lを含む。ここで、中性ルイス塩基Lとしては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジメチルアニリン、トリメチルホスフィン、塩化リチウム、中性のオレフィン類、中性のジオレフィン類等が挙げられる。ここで、上記錯体が複数の中性ルイス塩基Lを含む場合、中性ルイス塩基Lは、同一であっても異なっていてもよい。
【0052】
また、上記一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、単量体として存在していてもよく、二量体又はそれ以上の多量体として存在していてもよい。
【0053】
上記一般式(I)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びビス(トリアルキルシリル)アミドの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(I)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
【化13】

(式中、X’’はハライドを示す。)
【0054】
上記一般式(II)で表されるメタロセン錯体は、例えば、溶媒中でランタノイドトリスハライド、スカンジウムトリスハライド又はイットリウムトリスハライドを、インデニルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)及びシリルの塩(例えばカリウム塩やリチウム塩)と反応させることで得ることができる。なお、反応温度は室温程度にすればよいので、温和な条件で製造することができる。また、反応時間は任意であるが、数時間〜数十時間程度である。反応溶媒は特に限定されないが、原料及び生成物を溶解する溶媒であることが好ましく、例えばトルエンを用いればよい。以下に、一般式(II)で表されるメタロセン錯体を得るための反応例を示す。
【化14】

(式中、X’’はハライドを示す。)
【0055】
上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体は、例えば、次の反応により得ることができる。
【化15】

【0056】
ここで、一般式(VI)で表される化合物において、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、それぞれ独立して無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物において、[A]は、カチオンを示し、[B]は、非配位性アニオンを示す。
【0057】
[A]で表されるカチオンとしては、例えば、カルボニウムカチオン、オキソニウムカチオン、アミンカチオン、ホスホニウムカチオン、シクロヘプタトリエニルカチオン、遷移金属を有するフェロセニウムカチオン等が挙げられる。カルボニウムカチオンとしては、トリフェニルカルボニウムカチオン、トリ(置換フェニル)カルボニウムカチオン等の三置換カルボニウムカチオン等が挙げられ、トリ(置換フェニル)カルボニルカチオンとして、具体的には、トリ(メチルフェニル)カルボニウムカチオン等が挙げられる。アミンカチオンとしては、トリメチルアンモニウムカチオン、トリエチルアンモニウムカチオン、トリプロピルアンモニウムカチオン、トリブチルアンモニウムカチオン等のトリアルキルアンモニウムカチオン;N,N-ジメチルアニリニウムカチオン、N,N-ジエチルアニリニウムカチオン、N,N-2,4,6-ペンタメチルアニリニウムカチオン等のN,N-ジアルキルアニリニウムカチオン;ジイソプロピルアンモニウムカチオン、ジシクロヘキシルアンモニウムカチオン等のジアルキルアンモニウムカチオン等が挙げられる。ホスホニウムカチオンとしては、トリフェニルホスホニウムカチオン、トリ(メチルフェニル)ホスホニウムカチオン、トリ(ジメチルフェニル)ホスホニウムカチオン等のトリアリールホスホニウムカチオン等が挙げられる。これらカチオンの中でも、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオン又はカルボニウムカチオンが好ましく、N,N-ジアルキルアニリニウムカチオンが特に好ましい。
【0058】
上記反応に用いる一般式[A][B]で表されるイオン性化合物としては、上記の非配位性アニオン及びカチオンからそれぞれ選択し組み合わせた化合物であって、N,N-ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が好ましい。また、一般式[A][B]で表されるイオン性化合物は、メタロセン錯体に対して0.1〜10倍モル加えることが好ましく、約1倍モル加えることが更に好ましい。なお、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を重合反応に用いる場合、一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそのまま重合反応系中に提供してもよいし、上記反応に用いる一般式(IV)で表される化合物と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物を別個に重合反応系中に提供し、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させてもよい。また、一般式(I)又は式(II)で表されるメタロセン錯体と一般式[A][B]で表されるイオン性化合物とを組み合わせて使用することにより、反応系中で一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を形成させることもできる。
【0059】
一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体の構造は、X線構造解析により決定することが好ましい。
【0060】
上記重合触媒組成物に用いることができる助触媒は、通常のメタロセン錯体を含む重合触媒組成物の助触媒として用いられる成分から任意に選択され得る。該助触媒としては、例えば、アルミノキサン、有機アルミニウム化合物、上記のイオン性化合物等が好適に挙げられる。これら助触媒は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
上記アルミノキサンとしては、アルキルアルミノキサンが好ましく、例えば、メチルアルミノキサン(MAO)、修飾メチルアルミノキサン等が挙げられる。また、修飾メチルアルミノキサンとしては、MMAO−3A(東ソーファインケム社製)等が好ましい。なお、上記重合触媒組成物におけるアルミノキサンの含有量は、メタロセン錯体の中心金属Mと、アルミノキサンのアルミニウム元素Alとの元素比率Al/Mが、10〜1000程度、好ましくは100程度となるようにすることが好ましい。
【0062】
一方、上記有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリアルキルアルミニウム、ジアルキルアルミニウムクロライド、アルキルアルミニウムジクロライド、ジアルキルアルミニウムハイドライド等が挙げられ、これらの中でも、トリアルキルアルミニウムが好ましい。また、トリアルキルアルミニウムとしては、例えば、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム等が挙げられる。なお、上記重合触媒組成物における有機アルミニウム化合物の含有量は、メタロセン錯体に対して1〜50倍モルであることが好ましく、約10倍モルであることが更に好ましい。
【0063】
更に、上記重合触媒組成物においては、一般式(I)及び式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体をそれぞれ、適切な助触媒と組み合わせることで、シス-1,4結合量や得られる共重合体の分子量を増大できる。
【0064】
(共重合体(A1)の製造方法)
上記共重合体(A1)の製造方法は、上記一般式(I)及び一般式(II)で表されるメタロセン錯体、並びに上記一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合させる工程を含むことを特徴とする。また、該製造方法は、重合触媒として上述した重合触媒組成物を用いること以外は、従来の配位イオン重合触媒を用いる付加重合反応による付加重合体の製造方法と同様とすることができる。ここで、該製造方法は、例えば、(1)単量体として芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を含む重合反応系中に、重合触媒組成物の構成成分を別個に提供し、該反応系中において重合触媒組成物としてもよいし、(2)予め調製された重合触媒組成物を重合反応系中に提供してもよい。また、(2)においては、助触媒によって活性化されたメタロセン錯体(活性種)を提供することも含まれる。なお、重合触媒組成物に含まれるメタロセン錯体の使用量は、単量体に対して1/10000〜1/100倍モルの範囲が好ましい。
【0065】
また、上記付加重合反応は、不活性ガス、好ましくは窒素ガスやアルゴンガスの雰囲気下において行われることが好ましい。
【0066】
上記付加重合反応の重合温度は、特に制限されないが、例えば−100℃〜200℃の範囲が好ましく、室温程度とすることもできる。なお、重合温度を上げると、重合反応のシス-1,4選択性が低下することがある。一方、上記付加重合反応の反応時間も特に制限されず、例えば1秒〜10日の範囲が好ましいが、重合される単量体の種類、触媒の種類、重合温度等の条件によって適宜選択することができる。
【0067】
(共重合体(A1)の平均分子量及び分子量分布)
また、得られる上記共重合体(A1)の数平均分子量(Mn)は、特に限定されず、低分子量化の問題が起きることもない。更に、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比で表される分子量分布(Mw/Mn)は、3以下が好ましく、2以下が更に好ましい。ここで、平均分子量及び分子量分布は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によりポリスチレンを標準物質として求めることができる。
【0068】
[有機ケイ素化合物(B)]
本発明で用いる有機ケイ素化合物(B)は、分子内に、1個以上のケイ素−酸素結合(Si−O)と1〜10個の硫黄原子(S)とを有し、且つケイ素原子(Si)から原子数で3〜8個離れた位置に窒素原子(N)を1個以上有することを特徴とする。該有機ケイ素化合物(B)は、分子構造中のケイ素原子(Si)から3〜8原子離れた位置に、シリカ等の無機充填剤(C)の表面との親和性が高いアミノ基、イミノ基、置換アミノ基、置換イミノ基等の含窒素官能基を含むため、窒素原子の非共有電子対が、シランカップリング剤とシリカ等の無機充填剤(C)の反応に関与でき、カップリング反応の速度が速い。そのため、従来のシランカップリング剤に代えて、式(IV)の有機ケイ素化合物(B)を無機充填剤配合ゴム組成物に添加することで、カップリング効率が向上し、その結果として、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることが可能となる。また、本発明の有機ケイ素化合物(B)は、添加効率が高いため、少量でも高い効果が得られ、配合コストの低減にも寄与する。
【0069】
なお、ケイ素原子(Si)と窒素原子(N)との間の原子数が3個未満又は8個を超えると、カップリング効率が十分に向上せず、ゴム組成物のヒステリシスロスを大幅に低下させつつ、耐摩耗性を大幅に向上させることができなくなる。また、本発明の有機ケイ素化合物(B)は、上記ケイ素−酸素結合(Si−O)を1〜6個有することが好ましく、この場合、シリカ等の無機充填剤(C)との反応性が高く、カップリング効率が更に向上する。
【0070】
本発明の有機ケイ素化合物(B)として、より具体的には、上記一般式(IV)で表わされる化合物及び上記一般式(V)で表わされる化合物が好ましい。これら有機ケイ素化合物(B)は、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0071】
(式(IV)の化合物)
上記一般式(IV)において、A1は、上記一般式(a−1)又は式(a−2)で表わされ、xは1〜10である。ここで、xは2〜4の範囲が好ましい。
【0072】
上記式(IV)及び(a−1)において、R1、R2及びR3は、少なくとも一つが上記一般式(a−3)又は式(a−4)で表わされ、その他が−M−Cl2l+1(ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜10である)で表わされる。但し、R1、R2及びR3の一つ以上は、Mが−O−である。なお、−Cl2l+1は、lが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0073】
上記式(a−3)及び(a−4)において、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜10である。また、上記式(a−3)において、mは0〜10である。
【0074】
上記式(a−3)において、X及びYは、それぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−である。ここで、R8は−Cn2n+1であり、nは0〜10である。なお、−Cn2n+1は、nが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0075】
上記式(a−3)において、R6は、−OR8、−NR89又は−R8である。ここで、R8は−Cn2n+1であり、R9は−Cq2q+1であり、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である。なお、−Cn2n+1については、上述の通りであり、−Cq2q+1は、qが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0076】
上記式(a−4)において、R7は、−NR89、−NR8−NR89又は−N=NR8である。ここで、R8は−Cn2n+1であり、R9は−Cq2q+1であり、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である。なお、−Cn2n+1及び−Cq2q+1については、上述の通りである。
【0077】
また、上記式(IV)及び(a−1)において、R4は、上記一般式(b-1)又は式(b-2)、或いは−M−Cl2l−で表わされ、特には−CH2−Cl2l−で表わされることが好ましく、ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜10である。なお、−Cl2l−は、lが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。
【0078】
上記式(b-1)又は式(b-2)において、Mは−O−又は−CH2−であり、l及びmは0〜10である。また、上記式(b-1)において、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−であり、R6は−OR8、−NR89又は−R8である。なお、R8及びR9については、上述の通りである。更に、上記式(b-2)において、R10は、−NR8−、−NR8−NR8−又は−N=N−であり、ここで、R8は−Cn2n+1であり、−Cn2n+1については、上述の通りである。
【0079】
また、上記式(a−2)中のR5は、上記一般式(a−3)又は式(a−4)、或いは−Cl2l−R11で表わされ、特には−CH2−Cl2l+1で表わされることが好ましく、ここで、R11は、−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8又は−M−Cm2m+1であり、但し、R8、R9、M、l及びmは上記と同義である。なお、−Cl2l−及び−Cl2l+1については上述の通りであり。また、−Cm2m+1は、mが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基であり、ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0080】
上記式(IV)の化合物において、Mは−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、Mが−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤(C)との反応性が高い。
【0081】
また、上記式(IV)の化合物において、上記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−R7で表わされ、その他が−O−Cl2l+1で表わされ、上記R4は−CH2−Cl2l−で表わされ、上記R5は−Cl2l−R11で表わされることが好ましい。
【0082】
更に、上記式(IV)の化合物において、上記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−NR89で表わされ、上記R5は−CH2−Cl2l+1で表わされることが好ましく、また、上記R4は−CH2−Cl2l−で表わされることが更に好ましい。
【0083】
(式(V)の化合物)
上記一般式(V)において、A2は、上記一般式(a−5)又は式(a−2)で表わされ、xは1〜10である。ここで、xは2〜4の範囲が好ましい。
【0084】
上記式(V)及び(a−5)において、Wは、−NR8−、−O−又は−CR815−で表わされ、ここで、R15は−R9又は−Cm2m−R7であり、但し、R7は−NR89、−NR8−NR89又は−N=NR8であり、R8は−Cn2n+1で、R9は−Cq2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である。なお、−Cm2m−は、mが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基である。ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。また、−Cn2n+1及び−Cq2q+1は、n及びqが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基である。ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0085】
上記式(V)及び(a−5)において、R12及びR13はそれぞれ独立して−M−Cl2l−で表わされ、R14は−M−Cl2l+1又は−M−Cl2l−R7で表わされ、ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、R7は−NR89、−NR8−NR89又は−N=NR8であり、R8は−Cn2n+1で、R9は−Cq2q+1で、l、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である。但し、R12、R13及びR14の一つ以上は、Mが−O−である。なお、−Cl2l−は、lが0〜10であるため、単結合又は炭素数1〜10のアルキレン基であり、ここで、炭素数1〜10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等が挙げられ、該アルキレン基は、直鎖状でも分岐状でもよい。また、−Cl2l+1は、lが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基であり、ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。なお、−Cn2n+1及び−Cq2q+1については、上述の通りである。
【0086】
また、上記式(V)及び(a−5)において、R4は上記一般式(b-1)又は式(b-2)、或いは−M−Cl2l−で表わされ、特には−CH2−Cl2l−で表わされることが好ましく、ここで、Mは−O−又は−CH2−であり、lは0〜10である。なお、−Cl2l−については、上述の通りである。
【0087】
上記式(b−1)及び(b−2)において、Mは−O−又は−CH2−であり、l及びmは0〜10である。また、上記式(b−1)において、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−であり、R6は−OR8、−NR89又は−R8であり、ここで、R8は−Cn2n+1で、R9は−Cq2q+1である。更に、上記式(b−2)において、R10は、−NR8−、−NR8−NR8−又は−N=N−であり、ここで、R8は−Cn2n+1である。なお、−Cn2n+1及び−Cq2q+1については、上述の通りである。
【0088】
また、上記式(a−2)中のR5は、上記一般式(a−3)又は式(a−4)、或いは−Cl2l−R11で表わされ、特には−CH2−Cl2l+1で表わされることが好ましく、ここで、R11は、−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8又は−M−Cm2m+1であり、但し、R8、R9、M、l及びmは上記と同義である。なお、−Cl2l−及び−Cl2l+1については、上述の通りであり、また、−Cm2m+1は、mが0〜10であるため、水素又は炭素数1〜10のアルキル基であり、ここで、炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基等が挙げられ、該アルキル基は、直鎖状でも、分岐状でもよい。
【0089】
上記式(V)の化合物において、Mは−O−(酸素)であることが好ましい。この場合、Mが−CH2−である化合物と比べてシリカ等の無機充填剤(C)との反応性が高い。
【0090】
また、上記Wが−NR8−で表わされる場合、上記R12及びR13はそれぞれ独立して−O−Cl2l−で表わされ、上記R14は−O−Cl2l−R7で表わされ、上記R4は−CH2−Cl2l−で表わされ、上記R5は−CH2−Cl2l+1で表わされることが好ましい。
【0091】
一方、上記Wが−O−又は−CR89−で表わされる場合、上記R12及びR13はそれぞれ独立して−O−Cl2l−で表わされ、上記R14は−O−Cl2l−NR89で表わされ、上記R4は−CH2−Cl2l−で表わされ、上記R5は−CH2−Cl2l+1で表わされることが好ましい。
【0092】
(有機ケイ素化合物の合成方法)
本発明の有機ケイ素化合物(B)は、例えば、上記一般式(IV)で表わされ、R1、R2及びR3が−M−Cl2l+1で表わされ、R1、R2及びR3中のMの一つ以上が−O−である化合物に対し、2-(ジメチルアミノ)エタノール、2-(ジエチルアミノ)エタノール、2-(ジメチルアミノ)プロパノール、2-(ジエチルアミノ)プロパノール、N-メチルジエタノールアミン等のアミン化合物を加え、更に触媒としてp-トルエンスルホン酸、塩酸等の酸や、チタンテトラn-ブトキシド等のチタンアルコキシドを添加し、加熱して、R1、R2及びR3の一つ以上を式(a−3)又は式(a−4)で表わされる一価の窒素含有基で置換、或いはR1及びR2を−R12−W−R13−で表わされる二価の窒素含有基で置換することで合成できる。
【0093】
(有機ケイ素化合物の具体例)
本発明の有機ケイ素化合物(B)として、具体的には、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(ジジメチルアミノエトキシ)モノエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピルトリジメチルアミノエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジエチルアミノエトキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジメチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(モノジエチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシラン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-5-メチルアザ-2-シラシクロヘキサン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-5-エチルアザ-2-シラシクロヘキサン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキサン、3-オクタノイルチオ-プロピル(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキサン、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(ジジメチルアミノエトキシ)モノエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(トリジメチルアミノエトキシ)シリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(ジジメチルアミノエトキシ)モノエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(トリジメチルアミノエトキシ)シリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノエトキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジメチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(モノジエチルアミノプロピロキシ)ジエトキシシリル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-5-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-5-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)ジスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-5-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-5-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-メチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル) テトラスルフィド、ビス(3-(エトキシ)1,3-ジオキサ-6-エチルアザ-2-シラシクロヘキシル-プロピル)テトラスルフィドが挙げられる。
【0094】
(有機ケイ素化合物の使用量)
本発明で用いる有機ケイ素化合物(B)の使用量は、好ましくは無機充填剤(C)の配合量の1〜20質量%が好ましい。有機ケイ素化合物(B)の含有量が無機充填剤(C)の配合量の1質量%未満では、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させる効果、並びに耐摩耗性を向上させる効果が不十分であり、一方、20質量%を超えると、効果が飽和してしまうからである。
【0095】
[無機充填剤(C)]
本発明のゴム組成物は、更に、無機充填剤(C)を配合してなることが好ましい。該ゴム組成物に用いる無機充填剤(C)としては、シリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、クレー、炭酸カルシウム等が挙げられ、これらの中でも、補強性の観点から、シリカ及び水酸化アルミニウムが好ましく、シリカが特に好ましい。無機充填剤(C)がシリカの場合は、有機ケイ素化合物(B)は、シリカ表面のシラノール基との親和力の高い官能基及び/又はケイ素原子(Si)との親和性が高い官能基を有するため、カップリング効率が大幅に向上して、ゴム組成物のヒステリシスロスを低下させ、耐摩耗性を向上させる効果が一層顕著になる。なお、シリカとしては、特に制限はなく、湿式シリカ(含水ケイ酸)、乾式シリカ(無水ケイ酸)等を使用することができ、一方、水酸化アルミニウムとしては、ハイジライト(登録商標、昭和電工製)を用いることが好ましい。
【0096】
上記シリカは、BET表面積が40〜350 m2/gであることが好ましい。シリカのBET表面積が40 m2/g以下の場合、該シリカの粒子径が大きすぎるために耐摩耗性が大きく低下してしまい、また、シリカのBET表面積が350 m2/g以上の場合、該シリカの粒子径が小さすぎるためにヒステリシスロスが大きく増加してしまう。
【0097】
上記無機充填剤(C)の配合量は、上記ゴム成分(A)100質量部に対して5〜140質量部の範囲が好ましい。無機充填剤(C)の配合量が上記ゴム成分(A)100質量部に対して5質量部未満では、ヒステリシスを低下させる効果が不十分な場合があり、一方、140質量部を超えると、作業性が著しく悪化するおそれがあるためである。
【0098】
[カーボンブラック]
本発明のタイヤに用いるゴム組成物では、有機ケイ素化合物(B)と共にカーボンブラック(D)を補強用充填剤として用いることができる。カーボンブラック(D)を配合することによって、ゴム組成物の耐摩耗性を向上することができる。なお、カーボンブラック(D)としては、GPF,FEF,SRF,HAF,ISAF,SAFグレードのものが好ましく、HAF,ISAF,SAFグレードのものが更に好ましい。
カーボンブラック(D)の使用量は、好ましくはゴム成分(A)100質量部に対して80質量部以下で、無機充填剤(C)とカーボンブラック(D)を合わせた総配合量が200質量部以下であることが好ましい。総配合量をゴム成分(A)100質量部に対して200質量部以下とすることで、低発熱性及び耐摩耗性を十分に向上させることができる。
【0099】
本発明のタイヤに用いるゴム組成物には、上記芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)、有機ケイ素化合物(B)の他に、前述のシリカ等の無機充填剤(C)及びカーボンブラック(D)等の充填剤に加えて、ゴム工業界で通常使用される配合剤、例えば、老化防止剤、軟化剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、加硫剤等を、本発明の目的を害しない範囲内で適宜選択して配合することができる。これら配合剤としては、市販品を好適に使用することができる。本発明のゴム組成物は、上記共重合体(A1)を含むゴム成分(A)及び有機ケイ素化合物(B)に、必要に応じて適宜選択した各種配合剤を配合して、混練り、熱入れ、押出等することにより製造することができる。上記ゴム組成物は、タイヤをはじめ、コンベアベルト等の各種ゴム製品に使用することができる。
【0100】
[タイヤ]
本発明のタイヤは、上記ゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とし、上記ゴム組成物をトレッドに用いることが好ましい。上記ゴム組成物をトレッドに用いたタイヤは、優れたウェット性能、耐摩耗性及び転がり抵抗を鼎立する。なお、トレッドがいわゆるキャップ/ベース構造の場合、本発明のゴム組成物は、キャップゴム及びベースゴムのいずれに用いてもよい。なお、本発明のタイヤは、上述のゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いる以外特に制限は無く、常法に従って製造することができる。また、該タイヤに充填する気体としては、通常の或いは酸素分圧を調整した空気の他、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガスを用いることができる。
【実施例】
【0101】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0102】
<ハーフメタロセンカチオン錯体の合成>
まず、実施例1〜5及び比較例2〜3及び5において、共通して使用した一般式(III)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体を合成し、その構造を1H-NMR及びX線結晶構造解析により確認した。なお、1H-NMRはTHF-d8を溶媒とし、室温で測定を行った。X線結晶構造解析は、RAXIS CS(リガク)を用いて行った。
窒素雰囲気下、(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2(0.150g,0.260mmol)のTHF溶液5mLに、トリエチルアニリニウムテトラキスフェニルボレート(Et3NHB(C66)4)(0.110g,0.260mmol)を添加し室温で12時間攪拌した。その後、THFを減圧留去し、得られた残査をヘキサンで3回洗浄したところ、オイル状化合物を得た。その残査をTHF/ヘキサン混合溶媒で再結晶を行い、白色結晶として[(2-MeC96)GdN(SiMe3)2(THF)3][B(C65)4](150mg,59%)を得た。構造確認はX線結晶解析で行った。
【0103】
(実施例1〜5及び比較例2〜3及び5に用いる重合体の合成)
窒素雰囲気下のグローブボックス中で、十分に乾燥した1L耐圧ガラスボトルに、スチレン104g(1mol)及びトルエン50gを添加し、ボトルを打栓した。その後、グローブボックスからボトルを取り出し、1,3-ブタジエンを54g(1mol)仕込み、モノマー溶液とした。一方、窒素雰囲気下のグローブボックス中で、ガラス製容器に、ビス(2-メチルインデニル)ガドリニウム(トリメチルシリルアミド)[(2-MeC96)2GdN(SiMe3)2]を40μmol、トリフェニルカルボニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート(Ph3CB(C65)4)を40μmol、ジイソブチルアルミニウムハライドを0.8mmol仕込み、トルエン10mlで溶解させ触媒溶液とした。その後、グローブボックスから触媒溶液を取り出し、モノマー溶液へ添加し、70℃で30分間重合を行った。重合後、2,6-ビス(t-ブチル)-4-メチルフェノール(BHT)の10質量%のメタノール溶液10mlを加えて反応を停止させ、さらに大量のメタノール/塩酸混合溶媒で重合体を分離させ、60℃で真空乾燥した。得られた重合体(A1)の収量は46gであった。
【0104】
(他のゴム成分及び比較例1、4に用いた対照の重合体)
他のゴム成分(A2)及び比較例1、4に用いた対照の重合体(A3)として、以下の市販品を用いた。
他のゴム成分(A2a):天然ゴム RSS#3
他のゴム成分(A2b):JSR社製,ポリブタジエンゴム、商品名「BR01」
対照の重合体(A3):旭化成ケミカルズ社製,SBR、商品名「タフデン1000」
【0105】
上記のようにして製造した実施例1〜5及び比較例2〜3及び5に用いる重合体(A1)、市販品である他のゴム成分(A2a、A2b)及び比較例1、4に用いる対象の重合体(A3)について、数平均分子量(Mn)、分子量分布(Mw/Mn)、ミクロ構造、結合スチレン量、ブロックスチレン含有率、ガラス転移点(Tg)、融点(Tm)を下記の方法で測定した。結果を表1に示す。
【0106】
【表1】

【0107】
(数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn))
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー[GPC:東ソー製HLC−8020、カラム:東ソー製GMH−XL(2本直列)、検出器:示差屈折率計(RI)]で単分散ポリスチレンを基準として、各重合体のポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)を求めた。
【0108】
(ミクロ構造及び結合スチレン量)
重合体のミクロ構造を1H-NMRスペクトル及び13C-NMRスペクトルの積分比より求め、重合体の結合スチレン量を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。なお、1H-NMR及び13C-NMRは1,1,2,2-テトラクロロエタンを溶媒とし、120℃で測定を行った。
【0109】
(ブロックスチレン含有率)
スチレン部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量(ブロックスチレン含有率)が全スチレン部分に占める割合を1H-NMRスペクトルの積分比より求めた。
【0110】
(ガラス転移点(Tg)(℃)及び融点(Tm)(℃))
サンプルを10mg±0.5mg秤量し、アルミニウム製の測定パンに入れ蓋をしたものを、DSC装置(TAインスツルメント社製)にて、室温から50℃まで加温し、10分間安定させた後、-80℃まで冷却し、-80℃で10分間安定させてから、10℃/minの昇温速度で50℃まで昇温しながらガラス転移点(Tg)及び融点(Tm)を測定した。
【0111】
なお、サンプルの詳細NMRデータから、特にスチレン−スチレン結合が確認されなかった。
【0112】
(実施例1〜5及び比較例4に用いる有機ケイ素化合物の製造)
<有機ケイ素化合物の製造例1>
室温で、200 mLのナスフラスコに、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド[式(IV)で表わされ、A1が式(a−1)であり、R1が−O−CH2CH3で、R2が−O−CH2CH3で、R3が−O−CH2CH3で、R4が−CH2CH2CH2−であり、xが2である化合物]40 g、2-(ジメチルアミノ)エタノール 7.5g、p-トルエンスルホン酸 0.5 gを投入した。得られた赤色の溶液を145〜150℃で、気泡が発生しなくなるまで加熱した。次いで、滴下ロートにて、2-(ジメチルアミノ)エタノール 7.5 gを30分かけて滴下した後、ロータリーエバポレーターを用い、85℃、45 mmHgでエタノールを除去して、有機ケイ素化合物(B1a)を得た。得られた有機ケイ素化合物(B1a)を1H−NMRで分析したところ、0.7(t;2H), 1.2(t;9H), 1.8(m;2H), 2.3(s;6H), 2.5(t;2H), 2.7(t;2H), 3.8(m;6H)であり、式(IV)で表わされ、A1が式(a−1)であり、R1が−O−CH2CH3で、R2が−O−CH2CH3で、R3が−O−CH2CH2N(CH3)2[即ち、式(a−4)で表わされ、Mが−O−で、lが2で、R7が−N(CH3)2]であり、R4が−CH2CH2CH2−であり、xが2である化合物であることが分かった。
【0113】
<有機ケイ素化合物の製造例2>
室温で、200 mLのナスフラスコに、3-オクタノイルチオ-プロピルトリエトキシシラン[式(IV)で表わされ、A1が式(a−2)であり、R1が−O−CH2CH3で、R2が−O−CH2CH3で、R3が−O−CH2CH3で、R4が−CH2CH2CH2−で、R5が−C715であり、xが1である化合物]40 g、2-(ジメチルアミノ)エタノール 4.9g、p-トルエンスルホン酸 0.5 gを投入した。得られた赤色の溶液を145〜150℃で、気泡が発生しなくなるまで加熱した。次いで、滴下ロートにて、2-(ジメチルアミノ)エタノール 4.9 gを30分かけて滴下した後、ロータリーエバポレーターを用い、85℃、45 mmHgでエタノールを除去して、有機ケイ素化合物(B1b)を得た。得られた有機ケイ素化合物(B1b)を1H−NMRで分析したところ、0.7(t;2H), 0.9, (t;3H), 1.2(t;6H), 1.4(m;8H), 1.7(m;4H), 2.3(s;6H), 2.5(m;4H), 2.9(t;2H), 3.8(m;6H)であり、式(IV)で表わされ、A1が式(a−2)であり、R1が−O−CH2CH3で、R2が−O−CH2CH3で、R3が−O−CH2CH2N(CH3)2[即ち、式(a−4)で表わされ、Mが−O−で、lが2で、R7が−N(CH3)2]であり、R4が−CH2CH2CH2−で、R5が−C715であり、xが1である化合物であることが分かった。
【0114】
<有機ケイ素化合物の製造例3>
500 mLの四つ口ナスフラスコに、3-オクタノイルチオ-プロピルトリエトキシシラン[式(IV)で表わされ、A1が式(a−2)であり、R1が−O−CH2CH3で、R2が−O−CH2CH3で、R3が−O−CH2CH3で、R4が−CH2CH2CH2−で、R5が−C715であり、xが1である化合物]60 g、N-メチルジエタノールアミン 20g、チタンテトラn-ブトキシド 0.8 g、トルエン 220mLを計量した。次に、メカニカルスターラーで撹拌しながら、乾燥窒素を流しつつ(0.2 L/分)、フラスコをオイルバスで加熱し、ジムロートコンデンサーを取り付け、11時間還流を行なった。その後、20 hPa/40℃にてロータリーエバポレーターにより溶媒を除去し、続いて、ロータリーポンプ(10 Pa)とコールドトラップ(ドライアイス+エタノール)にて残存する揮発分を除去し、70 gの黄色透明の液体を得た。得られた有機ケイ素化合物(B1c)を1H−NMRで分析したところ、0.7(t;2H), 0.9 (t;3H), 1.2(t;3H), 1.4(m;8H), 1.7(m;4H), 2.4(s;3H), 2.5(m;6H), 2.9(t;2H), 3.8(m;6H)であり、式(V)で表わされ、A2が式(a−2)であり、Wが−N(CH3)−で、R12が−O−CH2CH2−で(但し、O側がSiに連結)、R13が−O−CH2CH2−で(但し、O側がSiに連結)、R14が−O−CH2CH3で、R4が−CH2CH2CH2−で、R5が−C715であり、xが1である化合物であることが分かった。
【0115】
(比較例1〜3に用いたシランカップリング剤)
比較例1〜3に用いたシランカップリング剤(B2a、B2b)として、以下の市販品を用いた。
シランカップリング剤(B2a):信越化学社製,商品名「ABC856」,化学名:ビス(トリエトキシシリルプロピル)ポリスルフィド
シランカップリング剤(B2b):Momentive Performance Materials社製,商品名「NXT」,化学名:3−オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン
【0116】
(ゴム組成物の調製及びタイヤの成形)
上記重合体(A1)を含むゴム成分(A)及び上記有機ケイ素化合物(B)を用いて、表2上欄に示す配合処方のゴム組成物を調製し、該ゴム組成物をタイヤ部材としてトレッド部材に用い、通常の加硫条件で加硫して、サイズ195/65R15のタイヤを試作し、下記に示す方法でタイヤ性能を評価した。その結果を表2下欄に示す。
【0117】
(ウェット性能)
サイズ195/65R15のタイヤにつき、排気量2000ccの乗用車にタイヤ4本を装着して、水深1mmの湿潤路面上で制動距離を測定した。下記に示す式により、ウェット性能を確認した。得られた値が大きいほど、湿潤路面上で制動距離が短く、ウェット性能が優れることを示す。
ウェット性能=(対照タイヤの制動距離/試験タイヤの制動距離)×100
【0118】
(耐摩耗性能)
サイズ195/65R15のタイヤにつき、実地耐摩耗試験にて摩耗量を測定し、耐摩耗性能を評価した。対照タイヤ(比較例1)の摩耗量の逆数を100として指数表示し、指数値が大きいほど、摩耗量が少なく、耐摩耗性能が優れることを示す。
【0119】
(転がり抵抗性能)
サイズ195/65R15のタイヤにつき、回転ドラムにより80km/hの速度で回転させ、荷重を4.41kNとして、転がり抵抗を測定した。対照タイヤ(比較例1)の転がり抵抗の逆数を100として指数表示した。指数値が大きいほど、転がり抵抗が低く、転がり抵抗性能が優れることを示す。
【0120】
【表2】

【0121】
*1 東海カーボン社製、商品名「シースト7HM」
*2 東ソーシリカ工業社製, 商品名「ニップシールAQ」 BET表面積=220 m2/g
*3 N―(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン
*4 ジフェニルグアニジン
*5 N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
*6 ジ-2-ベンゾチアゾリルジスルフィド
【0122】
上記共重合体(A1)を含むゴム成分(A)を用い、且つ、上記有機ケイ素化合物(B)を配合したゴム組成物を用いたタイヤ(実施例1〜5)は、上記共重合体(A1)を含まないゴム成分を用い、且つ、上記有機ケイ素化合物(B)を配合しないゴム組成物を用いたタイヤ(比較例1)と比較して、3つのタイヤ性能[(1)ウエット性能(2)耐摩耗性(3)転がり抵抗]を鼎立することができ、性能向上していることが分かる。
【0123】
一方、比較例2と3は、上記有機ケイ素化合物(B)を含まないため、3つのタイヤ性能を鼎立することができず、比較例2は転がり抵抗が、比較例3は耐磨耗性が悪化した。
また、比較例4は、上記共重合体(A1)を含まないため、3つのタイヤ性能を鼎立することができず、ウエット性能が劣っていた。
さらに、比較例5は、充填剤としてカーボンブラック(D)のみを用いて、上記有機ケイ素化合物(B)を含まないため、3つのタイヤ性能を鼎立することができず、転がり抵抗が悪化した。
【0124】
また、実施例1〜5は、上記有機ケイ素化合物(B)の添加量が、好適範囲である無機充填剤(C)の配合量の1〜20質量%の範囲内にあるため、3つのタイヤ性能を鼎立しており、性能向上していることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Ra〜Rfは、それぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、及び下記一般式(II):
【化2】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpRは、それぞれ独立して無置換もしくは置換インデニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示す)で表されるメタロセン錯体、並びに下記一般式(III):
【化3】

(式中、Mは、ランタノイド元素、スカンジウム又はイットリウムを示し、CpR’は、無置換もしくは置換シクロペンタジエニル、インデニル又はフルオレニルを示し、Xは、水素原子、ハロゲン原子、アルコキシド基、チオラート基、アミド基、シリル基又は炭素数1〜20の炭化水素基を示し、Lは、中性ルイス塩基を示し、wは、0〜3の整数を示し、[B]は、非配位性アニオンを示す)で表されるハーフメタロセンカチオン錯体からなる群より選択される少なくとも1種類の錯体を含む重合触媒組成物の存在下、芳香族ビニル化合物及び共役ジエン化合物を付加重合して得られた、共役ジエン化合物部分のシス-1,4結合量が80%以上の芳香族ビニル化合物−共役ジエン化合物共重合体(A1)を含むゴム成分(A)と、
分子内に、1個以上のケイ素−酸素結合と1〜10個の硫黄原子とを有し、且つケイ素原子から原子数で3〜8個離れた位置に窒素原子を1個以上有することを特徴とする有機ケイ素化合物(B)と
を含むことを特徴とするゴム組成物。
【請求項2】
前記機ケイ素化合物(B)は、前記ケイ素−酸素結合の数が1〜6個であることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項3】
前記機ケイ素化合物(B)が、下記一般式(IV):
【化4】

[式中、A1は、下記一般式(a−1)又は式(a−2):
【化5】

で表わされ、
式(IV)及び式(a−1)中のR1、R2及びR3は、少なくとも一つが下記一般式(a−3)又は式(a−4):
【化6】

(式中、Mは−O−又は−CH2−で、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−で、R6は−OR8、−NR89又は−R8で、R7は−NR89、−NR8−NR89又は−N=NR8で、但し、R8は−Cn2n+1であり、R9は−Cq2q+1であり、l、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である)で表わされ、その他が−M−Cl2l+1(ここで、M及びlは上記と同義である)で表わされ、但し、R1、R2及びR3の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(b−1)又は式(b−2):
【化7】

(式中、M、X、Y、R6、l及びmは上記と同義であり、R10は−NR8−、−NR8−NR8−又は−N=N−で、但し、R8は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
式(a−2)中のR5は上記一般式(a−3)又は式(a−4)或いは−Cl2l−R11(ここで、R11は−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8又は−M−Cm2m+1であり、但し、R8、R9、M、l及びmは上記と同義である)で表わされ、
xは1〜10である]で表わされることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項4】
前記機ケイ素化合物(B)が、下記一般式(V):
【化8】

[式中、A2は、下記一般式(a−5)又は式(a−2):
【化9】

で表わされ、
式(V)及び式(a−5)中のWは−NR8−、−O−又は−CR815−(ここで、R15は−R9又は−Cm2m−R7であり、但し、R7は−NR89、−NR8−NR89又は−N=NR8であり、R8は−Cn2n+1で、R9は−Cq2q+1で、m、n及びqはそれぞれ独立して0〜10である)で表わされ、
12及びR13はそれぞれ独立して−M−Cl2l−(ここで、Mは−O−又は−CH2−で、lは0〜10である)で表わされ、
14は−M−Cl2l+1又は−M−Cl2l−R7(ここで、M、R7及びlは上記と同義である)で表わされ、但し、R12、R13及びR14の一つ以上はMが−O−であり、
4は下記一般式(b−1)又は式(b−2):
【化10】

(式中、M、l及びmは上記と同義であり、X及びYはそれぞれ独立して−O−、−NR8−又は−CH2−で、R6は−OR8、−NR89又は−R8で、R10は−NR8−、−NR8−NR8−又は−N=N−であり、但し、R8及びR9は上記と同義である)或いは−M−Cl2l−(ここで、M及びlは上記と同義である)で表され、
式(a−2)中のR5は下記一般式(a−3)又は式(a−4):
【化11】

(式中、M、X、Y、R6、R7、l及びmは上記と同義である)或いは−Cl2l−R11(ここで、R11は−NR89、−NR8−NR89、−N=NR8又は−M−Cm2m+1であり、但し、R8、R9、M、l及びmは上記と同義である)で表わされ、
xは1〜10である]で表わされることを特徴とする請求項1に記載のゴム組成物。
【請求項5】
前記Mが−O−であることを特徴とする請求項3又は4に記載のゴム組成物。
【請求項6】
前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−R7(ここで、R7及びlは上記と同義である)で表わされ、その他が−O−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R4が−CH2−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−Cl2l−R11(ここで、R11及びlは上記と同義である)で表わされることを特徴とする請求項3又は5に記載のゴム組成物。
【請求項7】
前記R1、R2及びR3は、少なくとも一つが−O−Cl2l−NR89(ここで、R8、R9及びlは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−CH2−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされることを特徴とする請求項3、5又は6に記載のゴム組成物。
【請求項8】
前記Wが−NR8−(ここで、R8は上記と同義である)で表わされ、
前記R12及びR13がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R14は−O−Cl2l−R7(ここで、R7及びlは上記と同義である)で表わされ、
前記R4が−CH2−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−CH2−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされることを特徴とする請求項4又は5に記載のゴム組成物。
【請求項9】
前記Wが−O−又は−CR89−(ここで、R8及びR9は上記と同義である)で表わされ、
前記R12及びR13がそれぞれ独立して−O−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R14は−O−Cl2l−NR89(ここで、R8、R9及びlは上記と同義である)で表わされ、
前記R4が−CH2−Cl2l−(ここで、lは上記と同義である)で表わされ、
前記R5が−CH2−Cl2l+1(ここで、lは上記と同義である)で表わされることを特徴とする請求項4又は5に記載のゴム組成物。
【請求項10】
前記共重合体(A1)の共役ジエン化合物部分のビニル結合量が10%以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項11】
前記共重合体(A1)の芳香族ビニル化合物部分の繰り返し単位のNMR測定でのブロック量が、全芳香族ビニル化合物部分の10%以下であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項12】
前記共重合体(A1)が、DSC測定において、融点(Tm)を有することを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項13】
前記共重合体(A1)が、スチレン−ブタジエン共重合体であることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項14】
更に、無機充填剤(C)を配合してなる請求項1〜13のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項15】
前記無機充填剤(C)がシリカを含み、前記ゴム成分(A)100質量部に対して前記無機充填剤(C)を5〜140質量部を配合してなる請求項14に記載のゴム組成物。
【請求項16】
前記有機ケイ素化合物(B)を前記無機充填剤(C)の配合量の1〜20質量%配合したことを特徴とする請求項1〜15のいずれかに記載のゴム組成物。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のゴム組成物をタイヤ部材のいずれかに用いたことを特徴とするタイヤ。
【請求項18】
前記タイヤ部材がトレッドであることを特徴とする請求項17に記載のタイヤ。

【公開番号】特開2011−94031(P2011−94031A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−249335(P2009−249335)
【出願日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】