説明

サイドゲート式の射出成形金型およびそれを用いた成形部品の作製方法

【課題】光輝材を添加した樹脂材料製の成形部品に発生するウエルドラインの発生を防止して外観不良を改善するためのサイドゲート式の射出成形金型を提供する。
【解決手段】成形のための空間である製品部7と、製品部7に材料を射出するためのサイドゲート8とを備え、製品部7およびサイドゲート8の当接部9でサイドゲート8を略四角形状の横断面となるように形成しているサイドゲート式の射出成形金型において、サイドゲート8の当接部9で形成される横断面の角部9eのうち少なくとも1つを湾曲形状に形成し、光輝材を添加した樹脂材料をサイドゲート8から製品部7に射出して成形部品1を作製するように構成されていることを特徴とするサイドゲート式の射出成形金型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光輝材を添加した樹脂材料製の成形部品を作製するサイドゲート式の射出成形金型に関し、さらには、このような射出成形金型を用いた成形部品の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から樹脂成形部品のメタリック感および光輝感などの質感を出すために、部品の表面には、塗装が施され、またはメッキ処理が施されている。このような成形部品は車両の意匠部品としても用いられ、その代表的なものとしては車両ドアの車室内側に設けられるインサイドドアハンドルが挙げられる。しかしながら、最近では塗装などに用いられる揮発性有機化合物などは環境負荷物質として使用削減を求められている。そのため、アルミ粉およびマイカ粉などの光輝材を添加した材料を用いることにより、メタリック感などを有する成形部品が作製されている。
【0003】
このような成形部品を作製するための金型として、ゲートカットを自動化できるという利点からサブマリンゲート式の射出成形金型を用いられることが一般的に考えられる。射出成形金型は材料を射出するゲートと成形のための製品部とを備えており、ゲートと製品部とが連結している。そのため、作製される成形部品はこのゲートに樹脂材料を充填して形成されたゲート部と製品部に樹脂材料を充填して形成された本体部とを備えており、ゲート部と本体部とが一体に形成されている。射出成形の後このゲート部は不要となるため、本体部からゲート部を切り離す必要がある。そこで、ゲート部と本体部とを切り離すために、ゲート部が切断されるいわゆるゲートカットが行われる。サブマリンゲート式の射出成形金型では、このゲートカットが成形部品を金型から取外すために備えられたエジェクタピンの力を利用して自動的に行われている。
【0004】
このゲート部の横断面の面積は0.0007mm2〜1.1301mm2程度と小さく形成されており、ゲート部が切断され易くなっている。しかしながら、この断面積が小さいことにより樹脂材料を製品部内に充填する量が制限され、ショートショットおよびヒケなどの不具合が発生し易くなるおそれがある。さらに、材料の充填量の多い大物部品には適用できないという問題がある。また別の問題として、ゲート部の切断時に成形部品自体のゲート部周辺に剪断力が加えられるため、成形部品のゲート部周辺にジェッティングおよびシルバーストリークなどが発生し、外観不良の原因となっている。加えて、これらの外観不良は光輝材を添加した成形材料を用いるとより顕著になるという問題がある。
【0005】
そこで、ジェッティングおよびシルバーストリークの発生を防止するため、ゲートカットを自動化せずに手作業で精度良く行なうことが考えられる。この場合、主にサイドゲート式の射出成形金型を用いることとなる。サイドゲート式の射出成形金型では、ゲート部の横断面の面積がサブマリンゲート式の射出成形金型のゲート部の断面積と比較して大きく形成されている。従って、射出時の材料の充填量が多くなり、ショートショットおよびヒケなどの不具合が発生し難くなり、さらに大物部品に適用できるという利点がある。
【0006】
一方で、サイドゲート式の射出成形金型ではウエルドラインLが発生する問題がある。図7は、一般的な成形部品100の本体部101に設けられえたゲート部102のゲート残りの概略を拡大して示されており、ゲート部102を樹脂材料が通過して本体部101が射出成形される構造となっている。ゲート部102は本体部101と当接部104で結合しており、この当接部104の横断面は略四角形状となっている。ウエルドラインLは成形部品100と当接部104の横断面の角部104aから放射状に延在するように発生している。
【0007】
このようなウエルドラインLは、角部104a付近で異なる方向から流れてきた樹脂材料同士が衝突し、この樹脂材料同士が混ざり合わない場合に発生することとなる。樹脂材料が従来から用いられている光輝材を添加しない樹脂材料である場合、これらの衝突した樹脂材料同士は混ざり合うため、ウエルドラインLが発生することはほとんどなかった。しかしながら、光輝材を添加した樹脂材料を用いる場合、この衝突した樹脂材料同士に添加された光輝材が配向し、樹脂材料同士が混ざり合わず、ウエルドラインLが発生することとなる。このようなウエルドラインLにより成形部品100の外観は著しく損なわれ、ウエルドラインLの発生した部分で成形部品100の強度が不足するという問題がある。
【0008】
ウエルドラインの発生を抑制するために、材料に対策を施すことが行われている。特許文献1では、樹脂材料に添加する光輝材の形状や粒子径を選定することにより、ウエルドラインの発生が抑制されている。また、特許文献2では、光輝材の粒子径や添加量の選定とウエルド消去剤と呼ばれる酸化チタン、酸化鉛、酸化亜鉛、酸化アンチモンを添加することによりウエルドラインの発生が抑制されている。
【特許文献1】特開平8−41284号公報
【特許文献2】特開平8−239505号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に開示された対策では、光輝材の形状、粒子径、添加量の制約があり、その制約に合わせて光輝感、メタリック感などの質感が限定されることとなる。そのため、質感の高い塗装およびメッキに代わるメタリック感の高い色調を得ることが難しくなっている。さらに、完全にウエルドラインの発生は防止されず、また材料の配合条件によってコストアップにつながるおそれがある。
【0010】
そこで、本発明の課題は、光輝材を添加した樹脂材料製の成形部品に発生するウエルドラインの発生を防止して外観不良を改善するためのサイドゲート式の射出成形金型を提供し、さらには、このような射出成形金型を用いた成形部品の作製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
課題を解決するために本発明は、成形のための空間である製品部と、該製品部に材料を射出するためのサイドゲートとを備え、前記製品部および前記サイドゲートの当接部で前記サイドゲートを略四角形状の横断面となるように形成しているサイドゲート式の射出成形金型において、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の角部のうち少なくとも1つを湾曲形状に形成し、光輝材を添加した樹脂材料を前記サイドゲートから前記製品部に射出して成形部品を作製するように構成されていることを特徴とする。
【0012】
また、本発明のサイドゲート式の射出成形金型では、前記湾曲形状の曲率半径をRとし、前記横断面のゲート高さをh、ゲート幅をwに設定し、前記ゲート高さhと前記ゲート幅wとの関係がh≦wとなり、前記曲率半径Rと前記ゲート高さhとの比が0.25≦R/h≦0.75となるように形成されている。
【0013】
さらに、本発明のサイドゲート式の射出成形金型では、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の一辺に沿ってパーティングラインが設けられ、該パーティングラインに対向する辺および前記パーティングラインに交差する辺により形成された2つの角部が前記湾曲形状に形成されている。
【0014】
本発明の成形部品の作製方法は、成形のための空間である製品部と、該製品部に材料を射出するためのサイドゲートとを備え、前記製品部および前記サイドゲートの当接部で前記サイドゲートを略四角形状の横断面となるように形成し、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の角部のうち少なくとも1つを湾曲形状に形成しているサイドゲート式の射出成形金型を用いて、光輝材を添加した樹脂材料を前記サイドゲートから前記製品部に射出することを含んでいる。
【0015】
また、本発明の成形部品の作製方法では、前記湾曲形状の曲率半径をRとし、前記横断面のゲート高さをh、ゲート幅をwに設定し、前記ゲート高さhと前記ゲート幅wとの関係がh≦wとなり、前記曲率半径Rと前記ゲート高さhとの比が0.25≦R/h≦0.75となるように形成されている前記サイドゲート式の射出成形金型を用いることを含んでいる。
【0016】
本発明の成形部品の作製方法では、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の一辺に沿ってパーティングラインが設けられ、該パーティングラインに対向する辺および前記パーティングラインに交差する辺により形成された2つの角部が前記湾曲形状に形成されている前記サイドゲート式の射出成形金型を用いることを含んでいる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を得ることができる。本発明は、成形のための空間である製品部と、該製品部に材料を射出するためのサイドゲートとを備え、前記製品部および前記サイドゲートの当接部で前記サイドゲートを略四角形状の横断面となるように形成しているサイドゲート式の射出成形金型において、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の角部のうち少なくとも1つを湾曲形状に形成し、光輝材を添加した樹脂材料を前記サイドゲートから前記製品部に射出して成形部品を作製するように構成されていることを特徴とする。このような構造の前記金型を用いることによって、前記成形部品は、前記樹脂材料に特殊な配合を行わなくとも、前記サイドゲートにより成形されるゲート部の周辺でウエルドラインの発生を防止できる。従って、前記樹脂材料の配合を変更する必要がなく、前記樹脂材料の配合の変化による成形条件の変化がほとんどない。よって、前記金型の寸法精度などに影響を与えずにウエルドラインの発生を防止できる。さらに、特殊な配合の樹脂材料を用いることによるコストアップを防ぐことができる。
【0018】
本発明のサイドゲート式の射出成形金型では、本発明のサイドゲート式の射出成形金型では、前記湾曲形状の曲率半径をRとし、前記横断面のゲート高さをh、ゲート幅をwに設定し、前記ゲート高さhと前記ゲート幅wとの関係がh≦wとなり、前記曲率半径Rと前記ゲート高さhとの比が0.25≦R/h≦0.75となるように形成されているので、前記サイドゲートの当接部の断面積が十分確保されることとなる。従って、前記製品部への前記樹脂材料の充填量が著しく減少せず、前記金型の成形条件の変化がほとんどない。よって、前記金型の寸法精度などに影響を与えず、ショートショットおよびヒケなどの発生を防止しながら効果的にウエルドラインの発生を防止できる。
【0019】
本発明のサイドゲート式の射出成形金型では、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の一辺に沿ってパーティングラインが設けられ、該パーティングラインに対向する辺および前記パーティングラインに交差する辺により形成された2つの角部が前記湾曲形状に形成されているので、前記サイドゲートの形状変更箇所が少なくなり、前記サイドゲートの当接部の断面積がさらに十分確保されることとなる。従って、前記製品部への前記樹脂材料の充填量が著しく減少せず、前記金型の成形条件の変化がほとんどない。よって、前記金型の寸法精度などに影響を与えず、ショートショットおよびヒケなどの発生を防止しながらより効果的にウエルドラインの発生を防止できる。
【0020】
本発明の成形部品の作製方法では、成形のための空間である製品部と、該製品部に材料を射出するためのサイドゲートとを備え、前記製品部および前記サイドゲートの当接部で前記サイドゲートを略四角形状の横断面となるように形成し、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の角部のうち少なくとも1つを湾曲形状に形成しているサイドゲート式の射出成形金型を用いて、光輝材を添加した樹脂材料を前記サイドゲートから前記製品部に射出する。このような構造の前記金型を用いることにより、前記樹脂材料に特殊な配合を行わなくとも、前記成形部品のゲート部周辺でウエルドラインの発生を防止できる。そのため、前記樹脂材料の配合に制約がなくなり、要求される光輝感、メタリック感などに合わせて光輝材の形状、粒子径、添加量が選定でき、質感の高い塗装およびメタリック感の高い色調を有しながら、ウエルドラインの発生していない成形部品を作製することができる。また、強度不足の要因となるウエルドラインが発生しないことにより、成形部品の強度不足が解消されることとなる。さらに、特殊な配合の樹脂材料を用いることによるコストアップを防ぐことができる。
【0021】
本発明の成形部品の作製方法では、前記湾曲形状の曲率半径をRとし、前記横断面のゲート高さをh、ゲート幅をwに設定し、前記ゲート高さhと前記ゲート幅wとの関係がh≦wとなり、前記曲率半径Rと前記ゲート高さhとの比が0.25≦R/h≦0.75となるように形成されている前記サイドゲート式の射出成形金型を用いているので、前記サイドゲートの当接部の断面積を十分に確保できることとなり、前記金型の前記製品部に樹脂材料を充填する量が大きく減少しない状態で、前記成形部品を作製することができる。従って、前記成形部品に、ショートショットおよびヒケなどの発生を防止しながらウエルドラインの発生を効果的に防止できる。
【0022】
本発明の成形部品では、本発明の成形部品の作製方法では、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の一辺に沿ってパーティングラインが設けられ、該パーティングラインに対向する辺および前記パーティングラインに交差する辺により形成された2つの角部が前記湾曲形状に形成されている前記サイドゲート式の射出成形金型を用いているので、前記サイドゲートの形状変更箇所が少なくなっている。そのため、前記サイドゲートの当接部の断面積をさらに十分に確保できることとなり、前記金型の前記製品部に樹脂材料を充填する量が大きく減少しない状態で、前記成形部品を作製することができる。従って、前記成形部品に、ショートショットおよびヒケなどの発生を防止しながらウエルドラインの発生をさらに効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明は、メタリック感および光輝感を有する成形部品を対象とするものであり、主に車両の意匠部品を対象とするものである。本発明の実施形態は、車両のドア(図示せず)の車室内側に設けられるインサイドドアハンドル1(以下、「ドアハンドル」という)に適用され、このドアハンドル1を以下に説明する。
【0024】
図1は本発明の実施形態におけるドアハンドル1の概略を示しており、図1に示すようにドアの前側方向をFとし、ドアの上側方向をUとし、車室内側方向をIとして示す方向が用いられている。ドアハンドル1は、メタリック調の外観を有しており、光輝材を添加した樹脂材料から作製されている。また、ドアハンドル1は本体部2を備え、本体部2はドアの開閉の際に乗員に握られるハンドル部3とドアへの取付部4とを備えている。ハンドル部3はドア前後方向に延在するような形状に形成されており、取付部4はハンドル部3のドア前後方向の前側に配置されている。ハンドル部3のすべての外表面および取付部4の車室内側の表面は、乗員に視認される位置にあり、優れた外観を維持する必要のある本体部2の意匠面2aとして構成されている。
【0025】
ドアハンドル1を射出成形するために、樹脂材料の通過する通路としてゲート部5が取付部4の前側部4aからドアの前側方向Fに向かって延在するように設けられている。この樹脂材料の射出方向を矢印Aとする。ゲート部5は成形後にカットされるが、ゲート部5の一部は、いわゆるゲート残りとして本体部2に残った状態となっている。このようなゲート残りは外観を悪化させるため、ゲート部5は通常意匠面2aから離れた箇所に配置されている。そのため、ゲート部5は、取付部4のドア前後方向の前側部4aに配置され、かつ前側部4aのドア上下方向の下側寄りに配置されている。
【0026】
このようなドアハンドル1を成形するサイドゲート式の射出成形金型6(以下、「ドアハンドル型」という)は図2で示されるように構成されている。図2より、ドアハンドル型6は、製品部7およびサイドゲート8を備えており、製品部7はドアハンドル1の本体部2と略同形状の空間を有するように形成され、サイドゲート8はドアハンドル1のゲート部5と略同形状の空間を有するように形成されている。そのため、ドアハンドル型6の説明はドアハンドル1の方向に合わせて行うものとする。
【0027】
ドアハンドル型6は、製品部7でドアハンドル1の本体部2を成形し、サイドゲート8でドアハンドル1のゲート部5を成形するような構成となっている。また、サイドゲート8は当接部9で製品部7に接続されている。ドアハンドル型6では、サイドゲート8の車両外側面8aに沿ってパーティングライン10が設けられており、ドアハンドル型6はこのパーティングライン10で分割されている。
【0028】
図3はサイドゲート8の当接部9の横断面である。当接部9の横断面は、車室内側辺9a、車室外側辺9b、上側辺9c、および下側辺9dにより略長方形状に形成されている。また、車室外側辺9bはパーティングライン10に沿って設けられている。そのため、車室内側辺9aはパーティングライン10に対向し、上側辺9cおよび下側辺9dはパーティングライン10に交差することとなる。この略長方形状の寸法は、車室内側辺9aと車室外側辺9bとの距離であるゲート高さをh=2.0mmとし、上側辺9cと下側辺9dとの距離であるゲート幅をw=5.0mmとしており、ゲート高さhとゲート幅wとの関係がh≦wとなっている。
【0029】
車室内側辺9aと上側辺9cおよび下側辺9dとにより2つの角部9e,9eが形成され、この2つの角部9e,9eはそれぞれ曲率半径をR=0.5mmとする湾曲形状に形成されている。すなわち、曲率半径Rとゲート高さhとの比であるR/hは0.50となっている。一方で、車室外側辺9bと上側辺9cおよび下側辺9dとにより2つのパーティングライン側角部9f,9fが形成されている。
【0030】
次にドアハンドル型6を用いたドアハンドル1の製造方法について説明する。射出ユニット(図示せず)から光輝材を添加した樹脂材料が融解した液状の状態でサイドゲート8を通過する。その後、樹脂材料は製品部7に所定の射出速度および射出圧力などで射出される。射出された樹脂材料が、製品部7およびサイドゲート8内に充填され、樹脂材料は製品部7およびサイドゲート8の内部で所定の圧力および温度で保持される。樹脂材料がさらに所定時間冷却された後に、ドアハンドル型6からドアハンドル1が取り出される。
【0031】
このようなドアハンドル型6を用いてドアハンドル1を射出成形すると、ドアハンドル1のゲート部5のすべての角部9e,9e,9f,9fからウエルドラインLが発生しないという結果が得られることとなる。
【0032】
このような構造のドアハンドル型6を用いることにより、ドアハンドル1は、樹脂材料に特殊な配合を行わなくとも、ゲート部5の周辺でウエルドラインLの発生を防止できる。従って、樹脂材料の配合を変更する必要がなく、樹脂材料の配合の変化による成形条件の変化がほとんどない。よって、ドアハンドル型6の寸法精度などに影響を与えずにウエルドラインLの発生を防止できる。さらに、特殊な配合の樹脂材料を用いることによるコストアップを防ぐことができる。
【0033】
また、2つの角部9e,9eのみが湾曲形状に形成されていることにより、サイドゲート8の形状変更箇所が少なくなり、サイドゲート8の当接部9の断面積がさらに十分確保されることとなる。従って、製品部7への樹脂材料の充填量が著しく減少せず、ドアハンドル型6の成形条件の変化がほとんどない。よって、ドアハンドル型6の寸法精度などに影響を与えず、ショートショットおよびヒケなどの発生を防止しながらより効果的にウエルドラインLの発生を防止できる。
【0034】
このようなドアハンドル型6により作製されたドアハンドル1では、樹脂材料に特殊な配合を行わなくとも、ドアハンドル1のゲート部5周辺でウエルドラインLの発生を防止できる。そのため、樹脂材料の配合に制約がなくなり、要求される光輝感、メタリック感などに合わせて光輝材の形状、粒子径、添加量が選定でき、質感の高い塗装およびメタリック感の高い色調を有しながら、ウエルドラインLの発生していないドアハンドル1を作製することができる。また、強度不足の要因となるウエルドラインLが発生しないことにより、ドアハンドル1の強度不足が解消されることとなる。さらに、特殊な配合の樹脂材料を用いることによるコストアップを防ぐことができる。
【0035】
また、2つの角部9e,9eのみが湾曲形状に形成されていることにより、サイドゲート8の形状変更箇所が少なくなっている。そのため、サイドゲート8の当接部9の断面積をさらに十分に確保できることとなり、ドアハンドル型6の製品部7に樹脂材料を充填する量が大きく減少しない状態で、ドアハンドル1を作製することができる。従って、ドアハンドル1に、ショートショットおよびヒケなどが発生することを防止しながらウエルドラインLの発生をさらに効果的に防止できる。
【0036】
次に、ドアハンドル型6では角部9eの曲率半径Rとゲート高さhとの比であるR/hは0.50となっているが、このような値を変更した場合に、ゲート部5の周辺にウエルドラインLが発生するか否かを確認する。
【0037】
この確認を行うために、図4に示すようなテストピース11を用いるものとする。テストピース11は、光輝材を添加した樹脂材料から作製されており、部品重量約2g〜100gの成形部品を対象とした射出成形を評価するものとする。また、テストピース11は本体部12およびゲート部13を備えている。また、テストピース11は、樹脂材料がゲート部13を通過して本体部12に射出されて作製されており、この樹脂材料の射出方向を矢印Bとする。さらに、本体部12は射出方向Bに対して垂直な方向に横長の略直方体に形成されており、この本体部12の長手方向を左右方向とし、加えて、射出方向の矢印Bに垂直で、かつ左右方向に垂直な方向を上下方向として、テストピース11に関する説明を行う。
【0038】
本体部12は射出方向Bの手前側に位置するゲート側面12aを備え、テストピース11のゲート部13は、ゲート側面12aから射出方向Bと反対方向に延在するように形成されている。また、ゲート部13はゲート側面12aの左右方向の略中央部下端に配置されている。
【0039】
このようなテストピース11を作製するサイドゲート式の射出成形金型14(以下、「テストピース型」という)を図5に示す。テストピース型14は、製品部15およびサイドゲート16を備えており、製品部15はテストピース11の本体部12と略同形状の空間を有するように形成され、サイドゲート16はテストピース11のゲート部13と略同形状の空間を有するように形成されている。そのため、テストピース型14の説明は、テストピース11の方向に合わせて行うものとする。
【0040】
テストピース型14では、製品部15でテストピース11の本体部12が成形され、サイドゲート16でテストピース11のゲート部13が成形されるような構成となっている。また、サイドゲート16は製品部15との当接部17を有している。さらに、テストピース型14では、製品部15の下側面15aおよびサイドゲート16の下側面16aは略同一の平面として構成されており、製品部15の下側面15aおよびサイドゲート16の下側面16aに沿ってパーティングライン18が設けられており、テストピース型14はこのパーティングライン18で分割されている。
【0041】
図6はサイドゲート16の当接部17の横断面であり、ここで図6を参照してこの当接部17の横断面について説明する。当接部17の横断面は、上側辺17a、下側辺17b、左側辺17cおよび右側辺17dにより略長方形状に形成されている。また、下側辺17bはパーティングライン18に沿って設けられている。そのため、上側辺17aはパーティングライン18に対向した位置にあり、左側辺17cおよび右側辺17dはパーティングライン18に交差することとなる。さらに、一般的に部品重量約2g〜100gの成形部品を射出成形するサイドゲート式の射出成形金型では、横断面の面積は3mm2〜12mm2に形成されている。このことを踏まえて、本発明の実施形態では、上側辺17aと下側辺17bとの距離であるゲート高さをh=2.0mmとし、左側辺17cと右側辺17dとの距離であるゲート幅をw=5.0mmとし、横断面の断面積が約10mm2となるように形成しており、ゲート高さhとゲート幅wとの関係がh≦wとなっている。
【0042】
上側辺17aと左側辺17cおよび右側辺17dとにより2つの角部17e,17eが形成され、さらに、角部17e,17eは湾曲形状に形成されており、この湾曲形状の曲率半径をRとしている。一方で、下側辺17bと左側辺17cおよび右側辺17dとにより2つのパーティングライン側角部17f,17fが形成されている。
【0043】
テストピース型14を用いてテストピース11を作製する場合、射出ユニット(図示せず)から光輝材を添加した樹脂材料が融解した液状の状態でサイドゲート16を通過する。その後、樹脂材料は製品部15に所定の射出速度および射出圧力などで射出される。射出された樹脂材料は、製品部15およびサイドゲート16内に充填され、樹脂材料は製品部15およびサイドゲート16の内部で所定の圧力および温度で保持される。樹脂材料がさらに所定時間冷却された後に、テストピース型14からテストピース11が取り出される。
【0044】
このようにして作製されるテストピース11およびテストピース型14において、湾曲形状の曲率半径Rを変更して、本体部12にゲート部13から放射状に延在するウエルドラインLが発生することを防止することができるか否かの確認を行う。この確認に用いる成形機の仕様を表1に示す。
【0045】
【表1】

【0046】
この射出成形を行う際、射出速度を5%、95%のいずれかとし、射出圧力を75%、95%のいずれかとする。また、この確認に用いる樹脂材料には、AES樹脂、および平均粒子径5μmのアルミ顔料を用いるものとする。一般的にアルミ顔料の平均粒子径は、5μm〜120μmであり、小さいほどウエルドラインLが目立ち易いとされている。そのため、ここでは平均粒子径の最も小さいものを選定してウエルドラインLの発生を確実に防止できるか否かを確認する。
【0047】
加えて曲率半径Rの値は、0.0mm、0.3mm、0.5mm、1.0mm、1.5mm、2.0mmにそれぞれ変更するものとする。これらの値は、曲率半径Rと横断面のゲート高さh(=2.0mm)との比であるR/hに変換すると、0.00、0.15、0.25、0.50、0.75、1.00となる。なお、ウエルドラインLの発生の確認は、取り出したテストピース11を目視することにより行うものとする。以上の条件により確認を行い、得られた結果を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
表2よりR/hの値が0.25以上である場合、ウエルドラインLが発生せず、このようなサイドゲートの構造を有するドアハンドル型6およびテストピース型14などの射出成形金型により、ゲート部周辺のウエルドラインLの発生を防止できるという結果が得られた。
【0050】
一方で、ドアハンドル1において、前述した曲率半径Rを大きくした場合、サイドゲート8の横断面積が小さくなるという問題がある。この場合、サイドゲート8を通過して製品部7に射出される樹脂材料の量が制限され、ショートショットおよびヒケなどの要因となるおそれがある。そのため、角部9eに湾曲形状を有する横断面の面積が、角部9eに湾曲形状のない横断面の面積に対して、90%以上の比率となることが望ましい。ここで、湾曲形状を有さない横断面の面積に対する湾曲形状のない横断面の面積の比率を計算し、表3に示す。ここでは、ゲート高さh=2.0mmおよびゲート幅w=5.0mmの場合を想定して、ゲート高さhとゲート幅wとの比h:w=2:5として計算している。また、曲率半径Rと横断面のゲート高さhとの比であるR/hを、0.15、0.25、0.50、0.75、1.00とした場合で検討している。
【0051】
【表3】

【0052】
表3よゲート高さhとゲート幅wとの比h:w=2:5の断面形状を有するゲートでは、R/hの値が0.75以下である場合に、湾曲形状のない横断面の面積に対する湾曲形状を有する横断面の面積の比率が90%以上を確保できている。従って、R/hの値は、0.75以下であることが望ましく、さらには0.25≦R/h≦0.75となっていることが望ましい。さらに、h:wが様々な比を有する場合でも、サイドゲート8の横断面積が90%以上を確保できるような値にするようにR/hの値を定めるとよい。
【0053】
このような範囲にR/hの値を定めたドアハンドル型6では、サイドゲート8の断面積が十分確保されることとなる。従って、製品部7への樹脂材料の充填量が著しく減少せず、ドアハンドル型6の成形条件の変化がほとんどない。よって、ドアハンドル型6の寸法精度などに影響を与えず、ショートショットおよびヒケなどの発生を防止しながら効果的にウエルドラインLの発生を防止できる。
【0054】
さらに、このような範囲にR/hの値を定めたドアハンドル型6により作製されたドアハンドル1では、サイドゲート8の断面積を十分に確保できることとなり、ドアハンドル型6の製品部7に樹脂材料を充填する量が大きく減少しない状態で、ドアハンドル1を作製することができる。従って、ドアハンドル1に、ショートショットおよびヒケなどの発生を防止しながらウエルドラインLの発生を効果的に防止できる。
【0055】
また、本発明の別の実施形態として、サイドゲートの当接部の横断面は1つ、3つまたは4つの角部に湾曲形状を有する構造とすることも可能であり、金型の構造によりウエルドラインLの発生箇所が変化した場合でも、効果的にウエルドラインLの発生を防止することができる。
【0056】
本発明の別の実施形態として、約100gより大きな部品重量の成形部品に適用することも可能であり、様々な成形部品に適用することができる。
【0057】
以上、発明の実施形態について述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の実施形態におけるドアハンドルの概略である。
【図3】本発明の実施形態におけるドアハンドル型の概略である。
【図2】本発明の実施形態のドアハンドル型におけるサイドゲートと本体部との当接部の横断面である。
【図4】本発明の実施形態におけるテストピースの概略である。
【図5】本発明の実施形態におけるテストピース型の概略である。
【図6】本発明の実施形態のテストピース型におけるサイドゲートと本体部との当接部の横断面である。
【図7】一般的な成形部品のゲート部周辺に発生したウエルドラインを拡大した図である。
【符号の説明】
【0059】
1 インサイドドアハンドル(ドアハンドル)
2 本体部
2a 意匠面
3 ハンドル部
4 取付部
4a 前側部
5 ゲート部
6 インサイドドアハンドルの射出成形金型(ドアハンドル型)
7 製品部
8 サイドゲート
8a 車両外側面
9 当接部
9a 車室内側辺
9b 車室外側辺
9c 上側辺
9d 下側辺
9e 角部
9f パーティングライン側角部
10 パーティングライン
11 テストピース
12 本体部
12a ゲート側面
13 ゲート部
14 テストピースの射出成形金型(テストピース型)
15 製品部
15a 下側面
16 サイドゲート
16a 下側面
17 当接部
17a 上側辺
17b 下側辺
17c 左側辺
17d 右側辺
17e 角部
17f パーティングライン側角部
18 パーティングライン
100 成形部品
101 本体部
102 ゲート部
103 当接部
103a 角部

L ウエルドライン
F ドア前側方向
U ドア上側方向
I 車室内側方向
A,B 矢印
h ゲート高さ
w ゲート幅
R 曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形のための空間である製品部と、該製品部に材料を射出するためのサイドゲートとを備え、前記製品部および前記サイドゲートの当接部で前記サイドゲートを略四角形状の横断面となるように形成しているサイドゲート式の射出成形金型において、
前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の角部のうち少なくとも1つを湾曲形状に形成し、光輝材を添加した樹脂材料を前記サイドゲートから前記製品部に射出して成形部品を作製するように構成されていることを特徴とするサイドゲート式の射出成形金型。
【請求項2】
前記湾曲形状の曲率半径をRとし、前記横断面のゲート高さをh、ゲート幅をwに設定し、前記ゲート高さhと前記ゲート幅wとの関係がh≦wとなり、前記曲率半径Rと前記ゲート高さhとの比が0.25≦R/h≦0.75となるように形成されていることを特徴とする請求項1に記載のサイドゲート式の射出成形金型。
【請求項3】
前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の一辺に沿ってパーティングラインが設けられ、該パーティングラインに対向する辺および前記パーティングラインに交差する辺により形成された2つの角部が前記湾曲形状に形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載のサイドゲート式の射出成形金型。
【請求項4】
成形のための空間である製品部と、該製品部に材料を射出するためのサイドゲートとを備え、前記製品部および前記サイドゲートの当接部で前記サイドゲートを略四角形状の横断面となるように形成し、前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の角部のうち少なくとも1つを湾曲形状に形成しているサイドゲート式の射出成形金型を用いて、光輝材を添加した樹脂材料を前記サイドゲートから前記製品部に射出することを含む成形部品の作製方法。
【請求項5】
前記湾曲形状の曲率半径をRとし、前記横断面のゲート高さをh、ゲート幅をwに設定し、前記ゲート高さhと前記ゲート幅wとの関係がh≦wとなり、前記曲率半径Rと前記ゲート高さhとの比が0.25≦R/h≦0.75となるように形成されている前記サイドゲート式の射出成形金型を用いることを含む請求項4に記載の成形部品の作製方法。
【請求項6】
前記サイドゲートの当接部で形成される横断面の一辺に沿ってパーティングラインが設けられ、該パーティングラインに対向する辺および前記パーティングラインに交差する辺により形成された2つの角部が前記湾曲形状に形成されている前記サイドゲート式の射出成形金型を用いることを含む請求項4または5に記載の成形部品の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−51168(P2009−51168A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222310(P2007−222310)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【特許番号】特許第4120701号(P4120701)
【特許公報発行日】平成20年7月16日(2008.7.16)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】