説明

サイドブレーキ戻し忘れ防止装置

【課題】サイドブレーキの戻し忘れに原因するサイドブレーキなどの劣化を防止する。
【解決手段】変速機3が低速段、かつクラッチ2が接続状態、かつアクセル操作量が所定値以下、かつサイドブレーキ10が作動中、という条件が成立するかどうかを判定する手段(ステップ1〜ステップ4)と、その条件成立の判定時にエンジンへの燃料供給量を通常のアイドル制御よりも絞るトルクカット制御を実行する手段(ステップ5)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、車両のサイドブレーキ戻し忘れ防止装置に関する。
【0002】
【従来の技術】自動車のサイドブレーキ(パーキングブレーキ)は、プロペラシャフトに設けられるブレーキドラムを制動するセンタブレーキ式と、リヤホイールを制動するホイールブレーキ式と、が知られている。いずれの場合も、メカニカルな操作機構によって、運転席のサイドレバーを引くと、ブレーキドラムが締め付けられるようになっている(特公昭6−59802号参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、運転席には、サイドブレーキの作動時に点灯する警報ランプが設けられる。それでも、車両の発進に際してサイドブレーキの解除を忘れることはよくある。アクセルを踏み込むときは、エンジン回転速度が思うように上昇しないことから、運転者はサイドブレーキの戻し忘れに気付きやすいが、アクセルを踏まないときは、それも特に変速機のギヤ段が1速やリバースなどギヤレシオが大きい場合は、クラッチを接続してもエンストも殆ど発生することがなく、サイドブレーキの戻し忘れに気付きにくいものである。ディーゼルエンジンにおいては、アイドル回転を一定に保つよう、サイドブレーキの負荷に伴うエンジン回転速度の低下分を補償するように燃料噴射量が増加され、これによって増大するエンジン出力に大きなギヤレシオが作用するため、変速機の出力軸に過大な回転トルクが発生する。その結果、サイドブレーキの戻し忘れに気付かずに走行させると、サイドブレーキおよびクラッチなどの摩耗や破損を早めかねないという不具合が考えられる。
【0004】この発明は、このような不具合を解決するための有効な対策手段の提供を目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】第1の発明では、サイドブレーキ戻し忘れ防止装置として、変速機が低速段、かつクラッチが接続状態、かつアクセル操作量が所定値以下、かつサイドブレーキが作動中、という条件が成立するかどうかを判定する手段と、その条件成立の判定時にエンジンへの燃料供給量を通常のアイドル制御よりも絞るトルクカット制御を実行する手段と、を備える。
【0006】第2の発明では、第1の発明におけるトルクカット制御を実行する手段は、サイドブレーキの発生トルクTsに対して、エンジントルクTeを変速機が低速段のときのギヤレシオGrを加味し、Te×Gr<Tsの関係に制御する。
【0007】
【発明の効果】変速機が低速段、かつクラッチが接続状態、かつアクセル操作量が所定値以下、かつサイドブレーキが作動中、という条件のときは、車両の発進に際してサイドブレーキの戻し忘れを生じやすい。
【0008】第1の発明では、これらの条件成立を判定すると、その間はエンジンへの燃料供給量を通常のアイドル制御よりも絞るトルクカット制御が実行される。エンジン出力は抑えられ、サイドブレーキの負荷(締付トルク)によってエンストも発生しやすくなるため、サイドブレーキの戻し忘れに運転者は容易に気付くことができる。
【0009】第2の発明では、トルクカット制御によって変速機の出力する回転トルクは、サイドブレーキの締付トルク以下に抑えられるため、車両は走り出すこともなく、エンストが生じるようになる。このため、サイドブレーキの戻し忘れに運転者は容易に気付くことができる。
【0010】
【発明の実施の形態】図1において、1はディーゼルエンジン、2は摩擦クラッチ、3はトランスミッションであり、エンジン1の回転はクラッチ2を介してトランスミッション3に入力され、ギヤセット段の変速比(ギヤレシオ)に応じて減速され、トランスミッション3からプロペラシャフト4を介して車両のリヤアクスル(図示せず)へと伝達される。
【0011】エンジン1の燃料噴射ポンプ5には後述のように燃料噴射量を調整する電子ガバナ6が、クラッチ2にはクラッチペダル7の操作量(踏角)に応じてクラッチを断方向へストロークさせるクラッチブースタ8が、トランスミッション3にはシフトレバー(図示せず)に連動するギヤシフト機構9が備えられる。
【0012】サイドブレーキ10として、この例ではセンタブレーキ式が採用される。プロペラシャフト4にブレーキドラムが取り付けられ、運転席のサイドレバー11を引くと、その操作力によってブレーキドラムが締め付けられる。また、サイドレバー11にラチェット12が設けられ、サイドレバー11を適切な制動位置に保持するようになっている。
【0013】燃料噴射ポンプ5の電子ガバナ6は、エンジンコントロールユニット15により、アクセルペダル16の踏角(アクセル開度)に応じて、燃料噴射ポンプ5のコントロールレバーを駆動すると共に、エンジン回転速度を要求回転と一致させるように燃料噴射量を調整する。そのため、アクセル操作量(アクセルペダル16の踏角)を検出するアクセル開度センサ17が設けられ、その検出信号はエンジンコントロールユニット15に入力される。
【0014】エンジンコントロールユニット15には、後述する所定の条件が成立すると、燃料噴射量を通常のアイドル制御よりも絞るトルクカット制御を実行する機能が付加される。トルクカット制御に必要な検出手段として、トランスミッション3にはシフト段が1速のときに作動する1速スイッチS3と、同じくリバースのときに作動するリバーススイッチS4が、クラッチペダル7にはクラッチ2の接続位置(ペダル解放位置)で作動するクラッチスイッチS1が、サイドレバー11にはその制動位置で作動するサイドブレーキスイッチS2が付加される。
【0015】これらスイッチS1〜S4は図2のような回路18に構成され、エンジンコントロールユニット15に接続される。このスイッチ回路18において、クラッチスイッチS1とサイドブレーキスイッチS2は直列に配線され、これらに対して互いに並列の1速スイッチS3とリバーススイッチS4が直列に接続される。そして、クラッチスイッチS1がオン(作動)、かつサイドブレーキスイッチS2がオン(作動)、かつ1速スイッチS3がオン(作動)またはリバーススイッチS4がオン(作動)、のときにエンジンコントロールユニット15へオン信号を入力するようになっている。
【0016】エンジンコントロールユニット15は、アクセル開度センサ17の検出信号およびスイッチ回路18のオンーオフ信号に基づいて、アクセル操作量が所定値(たとえば、10%)以下、かつスイッチ信号がオン(クラッチスイッチS1がオン、かつサイドブレーキスイッチS2がオン、かつ1速スイッチS3がオンまたはリザーバスイッチS4がオン)のときに既述のトルクカット制御を選択的に実行する。
【0017】このように構成すると、トランスミッション3のギヤ位置が1速またはリバース、かつクラッチ2が接続状態、かつアクセル操作量が所定値以下、かつサイドブレーキ10が作動中、という条件の成立(車両の発進に際してサイドブレーキの戻し忘れを生じやすい)が判定されると、その間はトルクカット制御が実行され、燃料噴射量が通常のアイドル制御よりも絞られる。このため、エンジン出力は抑えられ、サイドブレーキ10の負荷(締付トルク)によってエンストも発生しやすくなり、したがってサイドブレーキの戻し忘れに運転者は容易に気付くことができる。
【0018】その結果、サイドブレーキ10を戻し忘れてそのまま走り出すのが規制され、サイドブレーキ10の戻し忘れに原因するサイドブレーキ10やクラッチ2などの摩耗や破損を防止できるという効果が得られる。トルクカット制御において、サイドブレーキ10の発生する締付トルクTsに対し、エンジントルクTeが、変速機のそのときのギヤレシオGr(1速またはリバースの変速比)を加味し、Te×Gr<Tsの関係になるよう、燃料噴射ポンプ5の電子ガバナ6を制御すると、サイドブレーキ10の作動中に車両が走り出すこともなく、エンストが生じるようになるため、サイドブレーキ10やクラッチ2などの耐久性を良好に確保できる。
【0019】各スイッチS1〜S4はそれぞれエンジンコントロールユニット15に接続してもよい。その場合、エンジンコントロールユニット15は、図3のような制御フローに設定される。すなわち、アクセル開度センサ17の検出信号からアクセル操作量が所定値を越える(アクセルペダル7の踏み量が所定値以下でない)かどうかを判定する(ステップ1)。クラッチスイッチS1からクラッチ接続(スイッチオン)かどうかを判定する(ステップ2)。サイドブレーキスイッチS2からサイドブレーキオン(スイッチオン)かどうかを判定する(ステップ3)。トランスミッション3のギヤ位置は1速またはリバース(1速スイッチS3のオンまたはリバーススイッチS4のオン)かどうかを判定する(ステップ4)。そして、ステップ1がno、かつステップ2〜ステップ4がすべてyesのときにステップ5へ進み、トルクカット制御を実行する。ステップ1がyesのとき、ステップ2〜ステップ4の1つでもnoのときは、少なくともステップ5(トルクカット制御)をパスする。つまり、通常のアイドル制御を行うことになる。
【0020】なお、サイドブレーキとしてリヤホイールを制動するホイールブレーキ式を採用する場合、既述の制御特性:Te×Gr<Tsにおける、ギヤレシオGrはトランスミッション3の1速またはリバースのギヤレシオばかりでなく、ファイナルギヤのギヤレシオを加味する値に設定される。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の実施形態を表す全体的な構成図である。
【図2】同じくスイッチ回路の構成図である。
【図3】他の実施形態を説明するフローチャートである。
【符号の説明】
5 燃料噴射ポンプ
10 サイドブレーキ
11 サイドレバー
15 エンジンコントロールユニット
17 アクセル開度センサ
S1 クラッチスイッチ
S2 サイドブレーキスイッチ
S3 1速スイッチ
S4 リバーススイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】変速機が低速段、かつクラッチが接続状態、かつアクセル操作量が所定値以下、かつサイドブレーキが作動中、という条件が成立するかどうかを判定する手段と、その条件成立の判定時にエンジンへの燃料供給量を通常のアイドル制御よりも絞るトルクカット制御を実行する手段と、を備えることを特徴とするサイドブレーキ戻し忘れ防止装置。
【請求項2】トルクカット制御を実行する手段は、サイドブレーキの発生トルクTsに対して、エンジントルクTeを変速機が低速段のときのギヤレシオGrを加味し、Te×Gr<Tsの関係に制御することを特徴とする請求項1に記載のサイドブレーキ戻し忘れ防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2001−27140(P2001−27140A)
【公開日】平成13年1月30日(2001.1.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−201337
【出願日】平成11年7月15日(1999.7.15)
【出願人】(000003908)日産ディーゼル工業株式会社 (1,028)
【Fターム(参考)】