説明

サイドマッドガード

【課題】カーブを走行中に内輪側にのみダウンフォースを発生させるサイドマッドガードを提供する。
【解決手段】筒状部16に導入された走行風AFは、図2に示すようにダウンフォースDFを発生させサイドマッドガード12を車体下側に付勢する。これによりイン側ではサイドマッドガード12に発生するダウンフォースDFにより接地荷重が増加し、車体10のアウト側へのロールを抑制する。一方、図5に示すように車体10が右にカーブしているとき、アウト側の前輪30Aは右に向いているため、前輪30Aの外側側面は後方へ行くに従い車体10から離れる方向に向く。このため車体10前方より前輪30Aの外側側面を流れる走行風AFOは、導風板22に達することなく車体10の側面へと流れ去る。このためアウト側のサイドマッドガード12では筒状部16に走行風AFOが導入されないのでダウンフォースDFが発生せず、アウト側の接地荷重は増加しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサイドマッドガードに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、走行安定性や燃費性能の向上等のために、自動車の車体に各種の整流装置や空力部材が設けられることがある(例えば、特許文献1、2参照)。また、床下全体を覆うアンダーカバーでダウンフォースを発生させる、所謂ウイングカーが存在する。あるいは車両の底面を保護すると共に、車両の直進安定性を向上するサイドマッドガードが開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【特許文献1】実開昭64−19585号公報
【特許文献2】実開昭64−21083号公報
【特許文献3】特開2006−160162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
図7に平面図で示すように、車体110が図中黒矢印のように右へカーブする際、遠心力によりアウト側(左側)の車輪(130A、132A)にはイン側(右側)の車輪(130B、132B)よりも荷重が大きく掛かり、車体がアウト側(左側)に傾く所謂ロール状態となり、アウト側のサスペンションが圧縮され、イン側のサスペンションは伸びて接地性が低下するため、左右のホイールアライメントがアンバランスとなり車体の挙動における安定性が低下する虞がある。
【0004】
前述の特許文献1、2、3に開示されている、サイドスカート/エアダクト等を利用して発生させるダウンフォースで車体を路面に押し付けて安定させる方法では、発生するダウンフォースが左右で略均等であるため、カーブを走行中に発生する左右輪への非対称な荷重を解消することはできないという問題がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮し、カーブを走行中に内輪側にのみダウンフォースを発生させるサイドマッドガードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の本発明におけるサイドマッドガードは、車体の車幅方向外側下部を車体前後方向に連続的に覆う略筒状の本体と、前記本体の車体前方端に設けられた空気流入口と、前記本体の車体後方端に設けられた空気排出口と、前記本体の車体上方側内壁に設けられ、側面視で長手方向中央が長手方向両端部よりも車体下方側に膨らんだ翼形状部と、前記空気流入口の車幅方向内側から外側へ斜め前方に向けて設けられ、前記空気流入口の車幅方向開口幅が車体前方へ行くほど小さくなるように絞る導風板と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
上記構成によれば、車体前後方向に延設された略筒状の本体内を流れる走行風が、下に凸となる翼形状部によってダウンフォースを発生させ、車体を安定させる。このとき本体前端に設けられた導風板が、空気流入口の断面形状を車幅方向外側に向けて先細りに規制することで、カーブを走行時に舵角を与えられたアウト側(外輪側)の前輪は空気流入口への走行風の導入を遮断し、イン側(内輪側)の前輪は空気流入口への走行風の導入を遮断しないので、カーブを走行中はイン側のみダウンフォースが発生し、イン側の荷重を増やすことで左右輪の接地荷重の偏りを解消し車体の挙動を安定させることができる。
【0008】
請求項2に記載の本発明におけるサイドマッドガードは、請求項1に記載の構成において、前記本体は車体下方向が開放された逆U字型断面をもつ形状であることを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、本体の車体下方向が開放されることにより翼形状部と路面との間を流れる気流が単一のものとなり、翼形状部と路面との間に対地効果(グランドエフェクト)が生じるため、より効果的にダウンフォースを発生させることができる。
【0010】
請求項3に記載の本発明におけるサイドマッドガードは、請求項1に記載の構成において、前記本体は車体下方向が閉鎖された角パイプ形状であることを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、前記翼形状部の下方向は閉鎖されているので、路面からの泥ハネ、雪詰まりなどの影響を受けにくくなり、安定してダウンフォースを発生させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るサイドマッドガードは上記構成としたので、カーブを走行中に内輪側にのみダウンフォースを発生させることができるという優れた効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
<構造の概要>
【0014】
本発明に係るサイドマッドガードの実施形態を図1〜図3に従って説明する。
【0015】
なお、各図において、図中矢印FRは車体前部方向を、矢印REは車体後方方向を、矢印UPは車体上方方向を、矢印INは内側を、矢印OUTは外側を示す。
【0016】
図1には、本実施形態に係るサイドマッドガードを備えた車両が示されている。
【0017】
図1(A)に示すように、本実施形態では車体10の車幅方向外側の下端部、具体的にはドア下部の前輪30と後輪32との間の所謂サイドシル10Aの部分に、車体前後方向に当該部分を連続的に覆う略筒形状のサイドマッドガード12が設けられている。
【0018】
サイドマッドガード12を含む、車体10のA−A断面を図1(B)に示す。サイドマッドガード12はオレフィンポリマーなどのポリプロピレンやウレタン樹脂など柔軟性・耐候性のある素材で形成され、サイドシル10Aの車幅方向外側下を車体10の形状に沿う形で覆っている。
【0019】
図2、3に示すように、サイドマッドガード12は車体下側が開放された逆U字型断面をもつ略筒状の形状であり、車体前後方向に延設され、前端に設けられた空気流入口18より後端に設けられた空気排出口20に至るまで筒状部16が形成され、全体として中空構造をしている。筒状部16の車体上側内壁は、なだらかに車体下方向に膨らんだ、所謂翼状の形状をした翼形状部14となっている。
【0020】
図3に示すように、空気流入口18の車体幅方向内側には導風板22が設けられている。導風板22は車体幅方向内側から外側に向けて斜め前方に伸びた板であり、図3(B)の平面視に示すように空気流入口18に車体幅方向内側から外側へ向けて斜めに延設され、空気流入口18への走行風AFの導入を規制するようになっている。
【0021】
<作用効果>
【0022】
次に本実施形態の作用および効果について説明する。
【0023】
図2には、本実施形態に係るサイドマッドガード12の側方視における断面が示されている。
【0024】
図2に示すように、走行中に車体前方から吹き付ける走行風AFは空気流入口18より筒状部16へ流れ込み、空気排出口20より車体後方へ排気される。走行風AFは翼形状部14の車体下側面に沿って流れるため、流速が速くなり負圧が発生する。これにより図中白矢印で示すダウンフォース(DF)が発生し、サイドマッドガード12および車体10を車体下方向(路面)に押し付ける。
【0025】
このダウンフォースの発生によって走行中の車体10は前輪30および後輪32もまた車体下方向(路面)に押し付けられるため、前輪30および後輪32の接地性が向上し、走行時の安定性が改善される。
【0026】
このとき、車体10が右カーブを走行中であった場合、前述のように遠心力でアウト側(左側)の車輪にはイン側(右側)の車輪よりも接地荷重が大きく掛かり、車体がアウト側(左側)に傾く所謂ロール状態となる。
【0027】
そこで本実施形態においては、カーブを走行中に舵角を付与された前輪のヨー方向の傾きを利用し、イン側にのみダウンフォースを発生させることでカーブを走行中に発生する左右輪への非対称な荷重を解消する。これによりカーブを走行中の車体のイン側接地荷重を増やし、ロールを抑制して車体を安定させることができる。
【0028】
図4に示すように、車体10が左(図中白矢印)にカーブするときイン側の前輪30Bは左に向くため、前輪30Bの外側側面は導風板22へと続く面を形成する。車体10前方より前輪30Bの外側側面を流れる走行風AFIは、導風板22に導かれ筒状部16に導入される。
【0029】
筒状部16に導入された走行風AFは、図2に示すようにダウンフォースDFを発生させサイドマッドガード12を車体下側に押し付ける。これによりイン側ではサイドマッドガード12に発生するダウンフォースDFにより接地荷重が増加し、車体10のアウト側へのロールを抑制する。
【0030】
一方、図5に示すように車体10が右にカーブしているとき、アウト側の前輪30Aは右に向いているため、前輪30Aの外側側面は後方へ行くに従い車体10から離れる方向に向く。このため車体10前方より前輪30Aの外側側面を流れる走行風AFOは、導風板22に達することなく車体10の側面へと流れ去る。
【0031】
このためアウト側のサイドマッドガード12では筒状部16に走行風AFOが導入されないのでダウンフォースDFが発生せず、アウト側の接地荷重は増加しない。
【0032】
上記のように、舵角を付与された前輪30の向きによって、イン側とアウト側で選択的にダウンフォースを発生させることができる。すなわちイン側のサイドマッドガード12でダウンフォースDFを発生させ、アウト側のサイドマッドガード12でダウンフォースDFを発生させないことで、イン側のみ接地荷重を増加させ、車体10のアウト側へのロールを抑制することができる。
【0033】
<第2実施形態>
【0034】
次に、図6を用いて、本発明に係るサイドマッドガードの第2実施形態について説明する。なお、前述した第1実施形態と同一構成部分については同一番号を付して、その説明を省略する。
【0035】
図6に示すように本発明の第2実施形態に係るサイドマッドガード13は、車体前後方向に延設され、前端に設けられた空気流入口18より後端に設けられた空気排出口20に至るまで四角断面をもつ略角筒状の形状筒状部16が形成され、全体として中空構造をしている。
【0036】
すなわち前述の第1実施形態と異なり本実施形態では筒状部16の車体下方向が閉鎖された、所謂角パイプ形状の構造とされている。これにより筒状部16の内部構造は路面と物理的に隔絶され、路面など車体下方向からの物体の侵入を防いでいる。
【0037】
<作用効果>
【0038】
上記構成においても前述した第1実施形態と同様、イン側のサイドマッドガード13でダウンフォースDFを発生させ、アウト側のサイドマッドガード13でダウンフォースDFを発生させないことで、イン側のみ接地荷重を増加させ、車体10のアウト側へのロールを抑制することができる。
【0039】
さらに本実施形態に係るサイドマッドガード13の場合は、筒状部16の車体下方向が閉鎖され、翼形状部14が路面に対して露出していない。
【0040】
これにより本実施形態では前述の第1実施形態に係るサイドマッドガード12の効果に加え、さらに路面と翼形状部14との間に路面から跳ねた泥、雪などの異物が詰まることを防ぎ、筒状部16内部を抜ける走行風AFを阻害する異物の影響を受けにくくなる効果がある。
【0041】
以上、実施形態を挙げて本発明の実施の形態を説明したが、これらの実施形態は一例であり、要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。また、本発明の権利範囲がこれらの実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは言うまでもない。
【0042】
すなわち上記実施形態ではサイドマッドガードを例に挙げて説明したが、これ以外にも車体両側端近傍に前後方向にわたって設けられる部材であれば、本発明を適用することが可能である。例えばアンダーカバーの車体幅方向両端部を筒状に形成し、カーブを走行中に内輪側にのみダウンフォースを発生させる構成としてもよい。
【0043】
あるいは導風板22をアクチュエータ等で可動とし、速度やハンドル舵角に応じて角度を可変とすることで最適な左右の接地加重バランスをとるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の第1実施形態に係るサイドマッドガードを備える車体を示す斜視図およびサイドマッドガードの断面図である。
【図2】図1に示されるサイドマッドガードを拡大して作用効果を示した断面図である。
【図3】図1に示されるサイドマッドガードを拡大して構造を示した斜視図および三面図である。
【図4】本発明に係るサイドマッドガードとカーブ走行中の前輪との関係を示した平面図である。
【図5】本発明に係るサイドマッドガードとカーブ走行中の前輪との関係を示した平面図である。
【図6】本発明の第2実施形態に係るサイドマッドガードを示す斜視図である。
【図7】従来の車両におけるカーブ走行中の前輪と荷重の関係を示した平面図である。
【符号の説明】
【0045】
10 車体
10A サイドシル
12 サイドマッドガード
13 サイドマッドガード
14 翼形状部
16 筒状部
18 空気流入口
20 空気排出口
22 導風板
30 前輪
32 後輪
AF 走行風
DF ダウンフォース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の車幅方向外側下部を車体前後方向に連続的に覆う略筒状の本体と、
前記本体の車体前方端に設けられた空気流入口と、
前記本体の車体後方端に設けられた空気排出口と、
前記本体の車体上方側内壁に設けられ、側面視で長手方向中央が長手方向両端部よりも車体下方側に膨らんだ翼形状部と、
前記空気流入口の車幅方向内側から外側へ斜め前方に向けて設けられ、前記空気流入口の車幅方向開口幅が車体前方へ行くほど小さくなるように絞る導風板と、を備えたことを特徴とするサイドマッドガード。
【請求項2】
前記本体は車体下方向が開放された逆U字型断面をもつ形状であることを特徴とする請求項1に記載のサイドマッドガード。
【請求項3】
前記本体は車体下方向が閉鎖された角パイプ形状であることを特徴とする請求項1に記載のサイドマッドガード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−126265(P2009−126265A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301426(P2007−301426)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】