説明

サスペンション制御装置

【課題】サスペンションのストロ−ク速度の推定精度を向上可能とする。
【解決手段】制御装置20が、車輪速ωsが含んでいる成分のうち、サスペンションのストロ−クに伴う車輪14の車両前後方向への変位に起因する成分である車輪前後変位成分ωzyに基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vzを推定する。そして、推定したストロ−ク速度Vzに基づいてサスペンションのストロ−ク状態を制御する。この構成によれば、例えば、サスペンションがストロ−クすると、車輪14に車両前後方向への変位が発生するところ、サスペンションのストロ−クに伴う車輪前後変位成分ωzyに基づくことで、サスペンションのストロ−ク速度Vzの推定精度を向上できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サスペンション制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の技術としては、例えば、特許文献1に記載の技術がある。
この特許文献1に記載の技術では、車輪速センサによって車輪速を検出し、検出した車輪速に基づいて車輪速の変動量を算出する。そして、算出した変動量に基づいてバネ上部材とバネ下部材との相対的な変位速度、つまり、サスペンションのストロ−ク速度を算出し、算出したストロ−ク速度に基づいてサスペンションのストロ−ク状態を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6―48139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術では、車輪速の変動量に基づいてサスペンションのストロ−ク速度を算出する。そのため、サスペンションのジオメトリが変化し、車輪速が変動すると、サスペンションのストロ−ク速度の推定精度が低下する可能性があった。このように、サスペンションのストロ−ク状態の制御が困難となる可能性があった。
本発明は、上記のような点に着目し、サスペンションのジオメトリが変化しても、サスペンションのストロ−ク速度の推定精度を向上可能とすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明では、車輪速が含んでいる成分のうち、サスペンションのストロ−クに伴う車輪の車両前後方向への変位に起因する成分である車輪前後変位成分に基づいて、サスペンションのストロ−ク速度を算出する。そして、算出したストロ−ク速度に基づいてサスペンションのストロ−ク状態を制御する。
【発明の効果】
【0006】
この構成によれば、例えば、サスペンションがストロ−クすると、車輪に車両前後方向への変位が発生するところ、車輪前後変位成分に基づくことで、サスペンションのジオメトリが変化しても、サスペンションのストロ−ク速度の推定精度を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態の車両Aの構成を表す概念図である。
【図2】プログラムの構成を表すブロック図である。
【図3】プログラムの構成を表すフロ−チャ−トである。
【図4】状態推定部22の構成を表すブロック図である。
【図5】基準車輪速演算部27の構成を表すブロック図である。
【図6】ジオメトリ変化上下成分変換部の構成を表すブロック図である。
【図7】車輪の車両前後方向への変位とアクスルのワインドアップ角との関係を表す図である。
【図8】前後方向変位Y、アクスルワインドアップ角θw、およびサスペンションのストロ−ク量Zの関係を表すグラフである。
【図9】車両Aの走行制御装置の実験結果を表すタイムチャ−トである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に、本発明に係る実施形態について図面を参照して説明する。
(構成)
車両Aの構成について図1を参照して説明する。
本実施形態の車両Aは、前輪および後輪のそれぞれを操舵可能な4輪操舵車両とする。
図1は、本実施形態の車両Aの構成を表す概念図である。
図1に示すように、車両Aは、加速度センサ1、車輪速センサ2、前輪操舵角センサ3、後輪操舵角センサ4、マスタ圧センサ5、エンジントルクセンサ6、エンジン回転数センサ7、AT入力軸センサ8、AT出力軸センサ9、および車体速センサ10を備える。また、車両Aは、車体横速センサ11、およびヨ−レイトセンサ12を備える。
【0009】
加速度センサ1は、バネ上の平面視で互いに異なる3箇所以上の位置それぞれに配設され、バネ上上下加速度Gs1、Gs2、Gs3を検出する。バネ上上下加速度Gs1、Gs2、Gs3とは、加速度センサ1を配設した位置におけるバネ上の上下方向の加速度である。そして、加速度センサ1は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
【0010】
車輪速センサ2は、車輪14のアクスルそれぞれに配設されている。車輪速センサ2は、車輪速ωsFL、ωsFR、ωsRL、ωsRRを検出する。車輪速ωsFL、ωsFR、ωsRL、ωsRRとは、車輪14それぞれの単位時間当たりの回転角である。車輪速センサ2としては、例えば、アクスルの加速度を検出する加速度センサ、および加速度センサの検出結果を積分し積分結果を車輪速ωsFL、ωsFR、ωsRL、ωsRRとするディジタルフィルタを含むものを採用できる。そして、車輪速センサ2は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
【0011】
前輪操舵角センサ3は、前輪14の操舵角δfを検出する。そして、前輪操舵角センサ3は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
後輪操舵角センサ4は、後輪14の操舵角δrを検出する。そして、後輪操舵角センサ4は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
マスタ圧センサ5は、マスタシリンダ圧Pを検出する。そして、マスタ圧センサ5は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
【0012】
エンジントルクセンサ6は、エンジントルクTeを検出する。そして、エンジントルクセンサ6は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
エンジン回転数センサ7は、エンジン回転数TACHOを検出する。そして、エンジン回転数センサ7は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
AT入力軸センサ8は、AT入力軸回転数INREVを検出する。AT入力軸回転数INREVとは、自動変速機の入力軸の単位時間当たりの回転数である。そして、AT入力軸センサ8は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
【0013】
AT出力軸センサ9は、AT出力軸回転数OUTREVを検出する。AT出力軸回転数OUTREVとは、自動変速機の出力軸の単位時間当たりの回転数である。そして、AT出力軸センサ9は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
車体速センサ10は、車体速Vを検出する。そして、車体速センサ10は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
【0014】
車体横速センサ11は、車体横速Vxを検出する。そして、車体横速センサ11は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
ヨ−レイトセンサ12は、ヨ−レイトγを検出する。そして、ヨ−レイトセンサ12は、検出結果を表す検出信号を制御装置20に出力する。
なお、本実施形態では、バネ上上下加速度Gs1、Gs2、Gs3等、サスペンション制御装置で用いる各種物理量をセンサ1〜12で検出する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、各種物理量をオブザ−バ等で推定する構成としてもよい。
【0015】
車両Aは、ショックアブソ−バ13を備える。
ショックアブソ−バ13は、バネ上と車輪14との間それぞれに介装されている。
ショックアブソ−バ13は、アクチュエ−タ15を備える。アクチュエ−タ15は、制御装置20からの指令に従って、オリフィスの大きさを変更する。これにより、ショックアブソ−バ13は、オリフィスの大きさを小さくすることで減衰力を増大できる。一方、オリフィスの大きさを大きくすることで減衰力を低減できる。制御装置20が出力する指令としては、アクチュエ−タ指令信号、または指令電流を採用できる。
【0016】
車両Aは、制御装置20を備える。
制御装置20は、マイクロプロセッサからなる。マイクロプロセッサは、A/D変換回路、D/A変換回路、中央演算処理装置およびメモリ等から構成した集積回路を備える。制御装置20は、メモリが格納するプログラムに従って、各種センサ1〜12が出力する検出信号、つまり、ドライバ操作量、車両の状態に基づき、ショックアブソ−バ13の減衰力を算出する。ドライバ操作量とは、操舵角δf、δr、マスタシリンダ圧Pである。また、車両の状態量とは、エンジントルクTe、エンジン回転数TACHO、AT入力軸回転数INREV、AT出力軸回転数OUTREVである。そして、制御装置20は、算出した減衰力を実現可能なオリフィス径に変更する指令をアクチュエ−タ15に出力する。これにより、ストロ−ク速度やストロ−ク量等、サスペンションのストロ−ク状態を制御する。
【0017】
図2は、プログラムの構成を表すブロック図である。
図2に示すように、制御装置20は、マイクロプロセッサが実行するプログラムにより、図2の制御ブロックを構成する。この制御ブロックは、目標値演算部21、状態推定部22、姿勢偏差演算部23、バネ上姿勢制御力演算部24、目標制御力マネジメント部25、および制御信号変換部26を備える。
目標値演算部21は、各種センサ1〜10が出力する検出信号に基づいて、車両Aの目標姿勢および目標ドライバ制御力Pdを算出する(図3ステップS101、S102)。目標ドライバ制御力Pdとは、目標姿勢を実現するためのショックアブソ−バ13の減衰力(フィ−ドフォワ−ド値)である。そして、目標値演算部21は、算出した目標姿勢を姿勢偏差演算部23に出力し、目標ドライバ制御力Pdを目標制御力マネジメント部25に出力する。
【0018】
状態推定部22は、加速度センサ1および車輪速センサ2が出力する検出信号に基づいて、バネ上の状態量を算出する(図3ステップS103)。バネ上の状態量とは、バネ上の上下速度、ロ−ル速度、ピッチ速度、およびバウンス速度である。また、状態推定部22は、車輪速センサ2が出力する検出信号に基づいて、サスペンションのストロ−ク速度であるストロ−ク速度推定値VzSHを算出する(図3ステップS104)。ストロ−ク速度推定値VzSHの算出方法としては、例えば、加速度センサ1の検出値に基づきディジタルフィルタを用いて疑似積分を行うことで、速度次元の物理量を推定する方法を採用できる。また、車輪速センサ2が検出した車輪速ωs等からバネ上およびバネ下の状態を検出することで、速度次元の物理量を推定する方法も採用できる。そして、状態推定部22は、算出したバネ上の状態を車両Aの実姿勢として姿勢偏差演算部23に出力し、ストロ−ク速度推定値VzSHを制御信号変換部26に出力する。
【0019】
図4は、状態推定部22の構成を表すブロック図である。
図4に示すように、状態推定部22は、基準車輪速演算部27、加減算器28、ジオメトリ変化上下成分変換部29、ストロ−ク速度校正部30、振動周波数演算部31、および信号処理部32を備える。
基準車輪速演算部27は、各種センサ2、3、4、11、12が出力する検出信号に基づいて、車輪速ωs(=[ωsFL、ωsFR、ωsRL、ωsRR]T)、操舵角δf、δr、車体横速Vx、およびヨ−レイトγ等の物理量を読み込む。続いて、基準車輪速演算部27は、読み込んだ物理量に基づいて、基準車輪速成分ω0(=[ω0FL、ω0FR、ω0RL、ω0RR]T)を算出する。基準車輪速成分ω0とは、車輪速ωsから車両平面運動成分および路面外乱成分を除去した車輪速である。車両平面運動成分とは、車輪速ωsが含む成分のうち、車両Aの平面運動に起因する成分である。例えば、操舵角δf、δrおよびヨ−レイトγに起因する成分である。路面外乱成分とは、車輪速ωsが含む成分のうち、路面の凹凸等、路面状態によって発生した車両Aのロ−ル運動、およびピッチ運動に起因する外乱成分である。そして、基準車輪速演算部27は、算出結果を加減算器28に出力する。
【0020】
また、基準車輪速演算部27は、読み込んだ物理量に基づいて、基準車体速成分Vb0(=[Vb0FL、Vb0FR、Vb0RL、Vb0RR]T)を算出する。基準車体速成分Vb0とは、車輪速ωsから車両平面運動成分および路面外乱成分を除去して得た車体速である。そして、基準車輪速演算部27は、算出結果を振動周波数演算部31に出力する。
図5は、基準車輪速演算部27の構成を表すブロック図である。
具体的には、図5に示すように、基準車輪速演算部27は、平面運動成分抽出部33、路面外乱除去部34、および基準車体速再配分部35を備える。
【0021】
平面運動成分抽出部33は、車輪速センサ2が出力する検出信号が表す車輪速ωsに基づいて、車輪14の単位時間当たりの移動距離を表す車輪速Vs(=[VFL、VFR、VRL、VRR]T)を算出する。続いて、平面運動成分抽出部33は、各種センサ3、4、11、12が出力する検出信号に基づいて、操舵角δf、δr、車体横速Vx、ヨ−レイトγ等の物理量を読み込む。ここで、操舵角δf、δr、車体横速Vxは運転者の操作状態である。また、車体横速Vx、ヨ−レイトγは車両Aの状態量である。続いて、平面運動成分抽出部33は、算出した車輪速Vs、および読み込んだ物理量(運転者の操作状態、車両Aの状態量)に基づき、下記(1)式に従って平面運動除去後成分V0を算出する。平面運動除去後成分V0とは、車両平面運動成分を除去した車体速の成分である。そして、平面運動成分抽出部33は、算出した運動除去後成分V0を路面外乱除去部34に出力する。
【0022】
V0FL={VFL−(Vx+Lf・γ)sinδf}/cosδf+Tf/2・γ
V0FR={VFR−(Vx+Lf・γ)sinδf}/cosδf−Tf/2・γ
V0RL={VRL−(Vx−Lr・γ)sinδf}/cosδf−Tr/2・γ
V0RR={VRR−(Vx−Lr・γ)sinδf}/cosδf−Tr/2・γ ・・・(1)
但し、Lfは車両重心点と前車軸との間の距離、Lrは車両重心点と後車軸との間の距離、Tfは前輪側のトレッド、Trは後輪側のトレッドである。
【0023】
なお、上記(1)式は車両Aの平面運動モデルを表す下記(2)式の逆モデルである。
VFL=(V−Tf/2・γ)cosδf+(Vx+Lf・γ)sinδf
VFR=(V+Tf/2・γ)cosδf+(Vx+Lf・γ)sinδf
VRL=(V−Tr/2・γ)cosδr+(Vx−Lr・γ)sinδr
VRR=(V−Tr/2・γ)cosδr+(Vx−Lr・γ)sinδr ・・・(2)
【0024】
例えば、車輪14の操舵角δf、δrが0であると、車体速度Vの大きさおよび方向は車輪速Vsとの大きさおよび方向と一致する。ここで、運転者が操舵操作を行い、車輪14に操舵角δf、δrが発生すると、車体速度Vに対し車輪速Vsの大きさおよび方向が変動する。それゆえ、車両Aの平面運動モデルの逆モデルを用いて運動除去後成分V0を算出することで、この変動を除去でき、平面運動成分、つまり、操舵角δf、δrおよびヨ−レイトγに起因する成分を除去した車体速の成分を抽出できる。
これにより、車両平面運動成分および外乱成分が混入した車輪速ωsから、車両平面運動成分を除去した車体速の成分である平面運動除去後成分V0を抽出できる。
【0025】
路面外乱除去部34は、平面運動抽出部33が出力する平面運動除去後成分V0に基づき、下記(3)式に従って前輪側平均車体速VbFav、後輪側平均車体速VbRavを算出する。前輪側平均車体速VbFavとは、左右の前輪14(2輪)の平面運動除去後成分V0FL、V0FRの平均値である。後輪側平均車体速VbRavとは、左右の後輪14(2輪)の平面運動除去後成分V0RL、V0RRの平均値である。
VbFav=1/2・(V0RL+V0RR)
VbRav=1/2・(V0FL+V0FR) ・・・(3)
【0026】
例えば、車両Aにロ−ル運動が発生すると、平面運動除去後成分V0FL、V0FRに互いに反対方向で且つほぼ同程度の大きさの変動が発生する。それゆえ、左右の前輪14の平面運動除去後成分V0FL、V0FRの平均値を算出することで、この変動を除去でき、車両Aのロ−ル運動に起因する外乱成分を除去した車体速の成分を抽出できる。同様に、平面運動除去後成分V0RL、V0RRについても当該成分を抽出できる。
【0027】
また、路面外乱除去部34は、算出した前輪側平均車体速VbFav、後輪側平均車体速VbRavに基づき、下記(4)式に従って基準車体速成分Vb0を算出する。基準車体速成分Vb0は、前輪側平均車体速VbFav、後輪側平均車体速VbRavから、車両Aのピッチ運動およびバウンス運動に起因する外乱成分を除去した車体速である。そして、路面外乱除去部34は、算出した基準車体速成分Vb0を基準車体速再配分部35に出力する。
Vb0FL=VbRav
Vb0FR=VbRav
Vb0RL=VbFav
Vb0RR=VbFav ・・・(4)
【0028】
ここで、前輪側平均車体速VbFav、後輪側平均車体速VbRavを算出すると、前輪側平均車体速VbFavには位相が遅れが発生し、後輪側平均車体速VbRavには位相進みが発生する。それゆえ、前輪14の基準車体速成分Vb0FL、Vb0FRとして後輪側平均車体速VbRavを用い、後輪14の基準車体速成分Vb0RL、Vb0RRとして前輪側平均車体速VbFavを用いることで、ピッチ運動に起因する外乱成分を除去した車体速を抽出できる。
【0029】
このように、本実施形態のサスペンション制御装置では、車輪速ωsに基づいて、車輪速ωsから平面運動成分および路面外乱成分を除去した車体速の成分である基準車体速成分Vb0を算出する。それゆえ、例えば、車両平面運動成分や路面外乱成分が混入し、車輪速ωsの検出精度が低下しても、基準車体速成分Vb0の推定精度の低下を抑制できる。それゆえ、サスペンションのストロ−ク速度Vzをより精度良く算出できる。
【0030】
なお、本実施形態では、路面状態によって発生したロ−ル運動、ピッチ運動、バウンス運動に起因する外乱成分すべてを除去する例を示したが、他の構成を採用してもよい。例えば、車両Aの目標性能や演算負荷等、各種目的に基づいて路面外乱成分を除去するための演算を簡略化する構成としてもよい。少なくとも2輪以上において、上述した平面運動除去後成分V0の比較や差分除去を行うことで、路面外乱成分のうち、ロ−ル運動、ピッチ運動、およびバウンス運動に起因する外乱成分のいずれかを除去できる。
【0031】
基準車体速再配分部35は、路面外乱除去部34が出力する基準車体速成分Vb0、およびセンサ3、4、11、12が出力する検出信号に基づいて、操舵角δf、δr、車体横速Vx、ヨ−レイトγ等の物理量を読み込む。続いて、基準車体速再配分部35は、読み込んだ物理量に基づき、下記(5)式に従って基準車輪速成分ω0を算出する。
ω0FL=[(Vb0FL−Tf/2・γ)cosδf+(Vx+Lf・γ)sinδf]/r0
ω0FR=[(Vb0FR+Tf/2・γ)cosδf+(Vx+Lf・γ)sinδf]/r0
ω0RL=[(Vb0RL−Tr/2・γ)cosδr+(Vx−Lr・γ)sinδr]/r0
ω0RR=[(Vb0RR−Tr/2・γ)cosδr+(Vx−Lr・γ)sinδr]/r0
・・・(5)
但し、r0は車輪14の半径である。
ここで、上記(5)式は、車両平面モデルである。
【0032】
なお、本実施形態では、平面運動除去後成分V0に基づいて基準車体速成分Vb0を算出する例を示したが、他の構成を採用してもよい。例えば、平面運動除去後成分V0に代えて、本実施形態の方法とは異なる方法で車両平面運動成分を除去した車体速、または車両平面運動成分を除去していない車体速である各輪車体速を用いてもよい。すなわち、車輪速ωsに基づいて車輪14それぞれの車体速である各輪車体速を算出し、算出した各輪車体速のうち、少なくとも2輪以上の各輪車体速に基づいて、路面外乱成分を除去した車体速の成分である基準車体速成分Vb0を算出する構成としてもよい。
【0033】
図4に戻り、加減算器28は、車輪速センサ2が出力する検出信号が表す車輪速ωs、および基準車輪速演算部27が出力する基準車輪速成分ω0に基づき、下記(6)式に従って車輪速変動成分ωd(=[ωdFL、ωdFR、ωdRL、ωdRR]T)を算出する。そして、加減算器28は、算出結果をジオメトリ変化上下成分変換部29に出力する。
ωd=ωs−ω0 ・・・(6)
ジオメトリ変化上下成分変換部29は、加減算器28が出力する車輪速変動成分ωdに基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vz(=[VzFL、VzFR、VzRL、VzRR]T)を算出する。そして、ジオメトリ変化上下成分変換部29は、算出結果をストロ−ク速度校正部30に出力する。
【0034】
図6は、ジオメトリ変化上下成分変換部の構成を表すブロック図である。
具体的には、ジオメトリ変化上下成分変換部29は、図6に示すように、車輪前後変位成分算出部33、およびストロ−ク速度算出部34を備える。
車輪前後変位成分算出部33は、加減算器28が出力する車輪速変動成分ωdに基づき、下記(7)式に従って車輪前後変位成分ωzy(=[ωzyFL、ωzyFR、ωzyRL、ωzyRR]T)を算出する。車輪前後変位成分ωzyとは、図7に示すように、サスペンションのストロ−クに伴う車輪14の車両前後方向への変位に起因する成分である。そして、車輪前後変位成分算出部33は、算出結果をストロ−ク速度算出部34に出力する。
ωzy=1/(1+Kwuy・r0)・ωd ・・・(7)
但し、Kwuyは、後述するアクスルワインドアップ角θwと前後方向変位Yとの間の比例定数である。また、r0は車輪14の半径である。
【0035】
ストロ−ク速度算出部34は、車輪前後変位成分算出部33が出力する車輪前後変位成分ωzyに基づき、下記(8)式に従ってストロ−ク速度Vzを算出する。そして、ストロ−ク速度算出部34は、算出結果をストロ−ク速度校正部30に出力する。
Vz=Kzy・r0・ωzy ・・・(8)
但し、Kzyは、後述する前後方向変位Yとサスペンションのストロ−ク量Zとの間の比例定数である。
【0036】
なお、本実施形態では、車輪速変動成分ωdを基に車輪前後変位成分ωzyを算出し、算出結果を基にストロ−ク速度Vzを算出する例を示したが、他の構成を採用してもよい。例えば、車輪速変動成分ωdに基づき、予め設定した制御マップからストロ−ク速度Vzを検索する構成としてもよい。制御マップとしては、例えば、車輪速変動成分ωdに応じたストロ−ク速度Vzをマッピングしたものを採用できる。このような方法によれば、車輪速変動成分ωdに対するストロ−ク速度Vzの非線形性を考慮できる。
【0037】
このように、本実施形態のサスペンション制御装置では、サスペンションのストロ−クに伴う車輪前後変位成分ωzyに基づいて、当該サスペンションのストロ−ク速度Vzを推定する。それゆえ、例えば、サスペンションがストロ−クすると、車輪14に車両前後方向への変位が発生するところ、車輪前後変位成分ωzyに基づくことで、サスペンションのストロ−ク速度Vzを精度良く算出できる。
【0038】
ここで、上記(7)(8)式の導出方法を説明する。
図8は、車輪14の車両前後方向への変位とアクスルのワインドアップ角との関係を表す図である。
図8に示すように、サスペンションがストロ−クすると、車輪14の車両前後方向への変位Vzy(=[VzyFL、VzyFR、VzyRL、VzyRR]T)、およびアクスルのワインドアップ角の変位ωw(=[ωwFL、ωwFR、ωwRL、ωwRR]T)が発生する。それゆえ、アクスルからみると、車輪14の車両前後方向への変位Vzyに伴う車輪14とアクスルとの間の相対角(相対回転角)、およびアクスルのワインドアップ角の変位ωwに伴う車輪14とアクスルとの間の相対角が発生する。そのため、これらの相対角、つまり、サスペンションのストロ−クに伴う相対角に着目し、これを検出することで、車輪速ωsからストロ−ク速度Vzを算出する。
【0039】
ここで、車輪速センサ2は、アクスルに配設されている。それゆえ、アクスルの回転角を検出する。また、車輪速センサ2の検出値ωsは、下記(9)式のように、基準車輪速成分ω0、車輪前後変位成分ωzy、アクスルワインドアップ角成分ωw、および未知外乱成分ω?(=[ω?FL、ω?FR、ω?RL、ω?RR]T)を含むと仮定できる。車輪前後変位成分ωzyは、サスペンションのストロ−クに伴う車輪14の車両前後方向への変位によって発生する車輪回転である。すなわち、車輪14の車両前後方向への変位Vzyに伴う車輪14とアクスルとの間の相対角である。アクスルワインドアップ角成分ωwは、サスペンションのストロ−クに伴うアクスルのワインドアップ角変化によって発生する成分であって、車輪速センサ2自身の回転である。すなわち、アクスルのワインドアップ角の変位ωwに伴う車輪14とアクスルとの間の相対角である。そのため、車輪速センサ2の検出値ωsから車輪前後変位成分ωzy、アクスルワインドアップ角成分ωwを抽出することで、ストロ−ク速度Vzを算出できる。
【0040】
ωs=ω0+ωzy+ωw+ω? ・・・(9)
ここで、車輪前後変位成分ωzy、アクスルワインドアップ角成分ωwはどちらも、サスペンションのストロ−クの関数となる。それゆえ、上記(9)式は、サスペンションのストロ−クが冗長となるために陽に解くことができない。そのため、サスペンションのストロ−クに伴う車輪前後変位成分ωzyとアクスルワインドアップ角成分ωwとの関係式を用いて、未知数を減少させ、車輪速変動から推定式である(7)(8)式を導出する。
【0041】
具体的には、サスペンションのストロ−クに伴う車輪14の車両前後方向への変位Yである前後方向変異Yと、当該前後方向変位Yによって発生する車輪回転の回転角である前後変位時車輪回転角θzyとの関係は、下記(10)式の関係となる。
Y=r0・θzy ・・・(10)
また、前後方向変位Yと、当該前後方向変位Yが発生したときのアクスルワインドアップ角θwとの関係は、下記(11)式の関係となる。
θw=Kwuy・Y ・・・(11)
【0042】
但し、Kwuyは、図8に示すように、前後方向変位Yとアクスルワインドアップ角θwとの関係を一次関数で表した場合に比例定数となる数値である。
それゆえ、上記(10)式に上記(11)式を代入することで、下記(12)式を導出できる。(12)式は、前後変位時車輪回転角θzyとアクスルワインドアップ角θwとの関係式である。
θw=Kwuy・r0・θzy ・・・(12)
【0043】
また、上記(12)式の両辺を時間微分すると、下記(13)式を導出できる。(13)式は、車輪前後変位成分ωzyとアクスルワインドアップ角成分ωwとの関係式である。
ωw=Kwuy・r0・ωzy ・・・(13)
それゆえ、上記(9)式に上記(13)式を代入し、さらに、未知外乱ω?を「0」とすることで、下記(14)式を導出できる。
ωs=ω0+ωzy+Kwuy・r0・ωzy ・・・(14)
【0044】
また、上記(14)式の両辺からω0を減算した後、両辺を(1+Kwuy・r0)で除算すると、下記(15)式を導出できる。
ωzy=1/(1+Kwuy・r0)・(ωs−ω0)
=1/(1+Kwuy・r0)・ωd ・・・(15)
これにより、車輪速変動成分ωdを基に車輪前後変位成分ωzyを算出可能な上記(7)式を導出できる。
【0045】
一方、前後方向変位Yと、当該前後方向変位Yが発生したときのサスペンションのストロ−ク量Zとの関係は、下記(16)式の関係となる。
Z=Kzy・Y ・・・(16)
但し、Kwuyは、図8に示すように、前後方向変位Yとサスペンションのストロ−ク量Zとの関係を一次関数で表した場合に比例定数となる数値である。
また、上記(16)式の両辺を時間微分すると、下記(17)式を導出できる。
Vz=Kzy・Vzy
=Vzy・r0・ωzy ・・・(17)
但し、Kzyは、予め設定した比例定数である。
【0046】
これにより、車輪前後変位成分ωzyを基にストロ−ク速度Vzを算出可能な上記(8)式を導出できる。
さらに、上記(17)式に上記(15)式を代入することで、下記(18)式を導出できる。(18)式は、ストロ−ク速度Vzの算出のための数式である。
Vz=Kwuy・r0・(ωs−ω0)/(1+Kwuy・r0)
=Kzy・r0/(1+Kwuy・r0)・ωd ・・・(18)
【0047】
このように、本実施形態のサスペンション制御装置では、車輪速ωsが基準車輪速成分ω0、車輪前後変位成分ωzy、アクスルワインドアップ角成分ωw、および未知外乱成分ω?を含むとする仮定のもとに導出したモデル式に基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vzを算出する。それゆえ、車輪前後変位成分ωzyを考慮した数式に基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vzを推定できる。そのため、比較的容易な構成によって、車輪前後変位成分ωzyに基づくストロ−ク速度Vzの算出を実現できる。
【0048】
また、本実施形態のサスペンション制御装置では、ストロ−ク速度Vzの算出のための数式として、車輪前後変位成分ωzyとアクスルワインドアップ角成分ωwとの関係式をもとに導出した数式を用いる。それゆえ、車輪前後変位成分ωzyとアクスルワインドアップ角成分ωwとの関係式をもとに数式を導出することで、当該数式における未知の変数を低減でき、ストロ−ク速度Vzの算出のための数式を陽に導出できる。
【0049】
図4に戻り、ストロ−ク速度校正部30は、基準車輪速演算部27が算出した基準車輪速成分ω0に基づいて、ジオメトリ変化上下成分変換部29が算出したストロ−ク速度Vzを校正する。そして、ストロ−ク速度校正部30は、校正したストロ−ク速度Vzを信号処理部32に出力する。ここで、ジオメトリ変化上下成分変換部29では、車輪速変動成分ωd、つまり、車輪速ωsと基準車輪速成分ω0との差に基づいてサスペンションのストロ−ク速度Vzを算出している。それゆえ、サスペンションのストロ−ク速度Vzは車輪速ωsに応じて分解能が変動する。そのため、基準車輪速成分ω0に応じてストロ−ク速度Vzを校正することで、ストロ−ク速度Vzの精度を向上できる。
【0050】
振動周波数演算部31は、基準車輪速演算部27が出力する基準車体速Vbに基づいて、後述する信号処理部32の帯域除去フィルタの目標周波数fc(=[fcFL、fcFR、fcRL、fcRR]T)を算出する。目標周波数fcとは、車輪速ωsが含んでいる成分のうち、車輪14の回転振動に伴う成分の周波数である。そして、振動周波数演算部31は、算出結果を信号処理部32に出力する。ここで、車輪14では、タイヤ、R/W、アクスル等の回転に伴って回転振動を発生している。この回転振動は、通常、車両の品質基準以下のアンバランス振動となる。しかしながら、本実施形態のサスペンション制御装置のように、車輪速ωsからサスペンションのストロ−ク速度Vzを算出する方法では、車輪14のアンバランス振動があると、サスペンションのストロ−ク速度Vzの推定精度が低下する。それゆえ、車輪14のアンバランス振動、つまり、目標周波数fc近傍の成分を除去することで、ストロ−ク速度Vzの精度を向上できる。
【0051】
信号処理部32は、ストロ−ク速度校正部30が出力するストロ−ク速度Vz、および振動周波数演算部31が出力する目標周波数fcに基づき、帯域除去フィルタを用いてストロ−ク速度推定値VzSH(=[VzSHFL、VzSHFR、VzSHRL、VzSHRR]T)を算出する。ストロ−ク速度推定値VzSHとは、ストロ−ク速度Vzから目的とするサスペンションのストロ−ク状態の制御に必要のないノイズ成分を除去したストロ−ク速度である。ノイズ成分を除去する方法としては、例えば、ディジタルフィルタ等を用いる方法を採用できる。そして、信号処理部32は、算出結果を制御信号変換部26に出力する。
【0052】
図2に戻り、姿勢偏差演算部23は、目標値演算部21が出力する目標姿勢と、状態推定部22が出力する実姿勢との差である姿勢偏差を算出する(図3ステップS105)。そして、姿勢偏差演算部23は、算出結果をバネ上姿勢制御力演算部24に出力する。
バネ上姿勢制御力演算部24は、目標値演算部21が算出した目標姿勢と実姿勢との間に仮想的に設定した減衰係数を有する。実姿勢とは、バネ上のロ−ル運動、ピッチ運動およびバウンス運動の各運動自由度、またはバネ上の平面視で互いに異なる3箇所以上の位置における上下運動自由度の実際の姿勢である。そして、バネ上姿勢制御力演算部24は、減衰係数および姿勢偏差演算部23が出力する姿勢偏差に基づいて目標バネ上姿勢制御力Psを算出する(図3ステップS106)。目標バネ上姿勢制御力Psとは、目標姿勢を実現するためのショックアブソ−バ13の減衰力(フィ−ドバック値)である。そして、バネ上姿勢制御力演算部24は、算出結果を目標制御力マネジメント部25に出力する。
【0053】
目標制御力マネジメント部25は、目標値演算部21が出力する目標ドライバ制御力Pd、およびバネ上姿勢制御力演算部24が出力する目標バネ上姿勢制御力Psに基づき、下記(19)式に従って目標制御力(減衰力)を算出する(図3ステップS106)。そして、目標制御力マネジメント部25は、算出結果を制御信号変換部26に出力する。
目標制御力=Kd・Pd+K*・Ps ・・・(19)
但し、Kd、K*は、制御モ−ド、運転者の車速に対する感覚、ロ−ル運動方向、ピッチ運動方向、バウンス運動方向に対する振動感覚に基づいて、目標ドライバ制御力Pd、目標バネ上姿勢制御力Psを補正するための制御ゲイン、またはフィルタである。
【0054】
制御信号変換部26は、目標制御力マネジメント部25が出力する目標制御力(減衰力)、および状態推定部22が出力するサスペンションストロ−ク速度に基づき、指令信号マップからアクチュエ−タ指令信号を検索する(図3ステップS107)。指令信号マップとは、目標制御力およびサスペンションストロ−ク速度の組み合わせ毎に当該組み合わせに応じたアクチュエ−タ指令信号をマッピングしたマップである。また、アクチュエ−タ指令信号とは、ショックアブソ−バ13のオリフィスの大きさが目標状態となるように、アクチュエ−タ15を制御するための信号である。なお、本実施形態では、アクチュエ−タ指令信号を出力する例を示したが、他の構成を採用することもできる。例えば、アクチュエ−タ15を制御するための指令電流を出力するようにしてもよい。
【0055】
(動作その他)
次に、車両Aの走行制御装置の動作について説明する。
車両Aの走行中に、車輪14が路面の凹凸を踏んだとする。すると、凹凸を踏んだ車輪14のサスペンションがストロ−クし、図7に示すように、車輪14に車両前後方向への変位が発生する。これにより、制御装置20が、車輪速ωsと基準車輪速成分ω0との差である車輪速変動成分ωdに基づいて、サスペンションのストロ−クに伴う車輪前後変位成分ωzyを算出する(図6の車輪前後変位成分算出部33)。
【0056】
このように、本実施形態のサスペンション制御装置では、制御装置20が、車輪速ωsが含んでいる成分のうち、基準車輪速成分ω0と車輪速ωsとの差である車輪速変動成分ωdに基づいて、車輪前後変位成分ωzyを算出する。それゆえ、基準車輪速成分ω0と車輪速ωsとの差である車輪速変動成分ωdに基づいて車輪前後変位成分ωzyを算出することで、フィルタを用いて算出した車輪速変動成分ωdと異なり、車輪前後変位成分ωzyの位相の変化を防止できる。そのため、スラロ−ム走行や車両Aの加減速に起因する低周波の車輪速ωsの変化に伴うストロ−ク速度Vzの推定精度の低下を防止できる。
【0057】
続いて、制御装置20が、算出した車輪前後変位成分ωzyに基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vzを算出する(図6のストロ−ク速度算出部34)。続いて、制御装置20が、算出したストロ−ク速度Vzに基づいてショックアブソ−バ13の減衰力を性御する指令をアクチュエ−タ15に出力する(図2の制御信号変換部26)。これにより、ストロ−ク速度やストロ−ク量等、サスペンションのストロ−ク状態を制御する。
【0058】
このように、本実施形態のサスペンション制御装置では、例えば、サスペンションがストロ−クすると、車輪14に車両前後方向への変位が発生する。それゆえ、サスペンションのストロ−クに伴う車輪前後変位成分ωzyに基づくことで、サスペンションのジオメトリが変化しても、サスペンションのストロ−ク速度Vzの推定精度を向上できる。
【0059】
次に、車両Aの走行制御装置の実験結果について説明する。
図9は、車両Aの走行制御装置の実験結果を表すタイムチャ−トである。
図9に示すように、本実験では、本実施形態のサスペンション制御装置で算出したストロ−ク速度Vzと、比較例1、2の方法で算出したストロ−ク速度との比較を行った。比較例1の方法とは、バネ下に配設した加速度センサを用いてサスペンションのストロ−ク速度を算出する方法である。比較例2の方法とは、本実施形態の方法と異なる従来の方法により、バネ上に配設した車輪速センサ2の検出結果を用いてサスペンションのストロ−ク速度を算出する方法である。この実験によれば、本実施形態のサスペンション制御装置で算出したストロ−ク速度Vzは、比較例1の方法で算出したストロ−ク速度と同等の推定精度となることが確認できた。また、ストロ−ク速度Vzは、比較例2の方法で算出したストロ−ク速度よりも推定精度が良いことが確認できた。
【0060】
本実施形態では、図1の車輪速センサ2が車輪速検出部を構成する。以下同様に、図1の制御装置20、図2の状態推定部22、図4のジオメトリ変化上下成分変換部29、および図6の車輪前後変位成分算出部33が車輪前後変位成分算出部を構成する。また、図1の制御装置20、図2の状態推定部22、図4のジオメトリ変化上下成分変換部29、および図6のストロ−ク速度算出部34がストロ−ク速度算出部を構成する。また、図1のアクチュエ−タ15、制御装置20、および図2の制御信号変換部26がストロ−ク状態制御部を構成する。
【0061】
(本実施形態の効果)
本実施形態は、次のような効果を奏する。
(1)制御装置20が、車輪速ωsが含んでいる成分のうち、サスペンションのストロ−クに伴う車輪14の車両前後方向への変位に起因する成分である車輪前後変位成分ωzyに基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vzを推定する。そして、制御装置20が、推定したストロ−ク速度Vzに基づいてサスペンションのストロ−ク状態を制御する。
この構成によれば、例えば、サスペンションがストロ−クすると、車輪に車両前後方向への変位が発生するところ、車輪前後変位成分ωzyに基づくことで、サスペンションのジオメトリが変化しても、サスペンションのストロ−ク速度Vzを精度良く算出できる。
【0062】
(2)制御装置20が、車輪速ωsが基準車輪速成分ω0、車輪前後変位成分ωzy、アクスルワインドアップ角成分ωw、および未知外乱成分ω?を含むとする仮定のもとに導出したモデル式に基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vzを算出する。
この構成によれば、車輪前後変位成分ωzyを考慮した数式に基づいて、サスペンションのストロ−ク速度Vzを推定できる。それゆえ、比較的容易な構成によって、車輪前後変位成分ωzyに基づくストロ−ク速度Vzの算出を実現できる。
【0063】
(3)制御装置20が、ストロ−ク速度Vzの算出のための数式として車輪前後変位成分ωzyとアクスルワインドアップ角成分ωwとの関係式をもとに導出した数式を用いる。
この構成によれば、車輪前後変位成分ωzyとアクスルワインドアップ角成分ωwとの関係式をもとに数式を導出することで、当該数式における未知の変数を低減でき、ストロ−ク速度Vzの算出のための数式を陽に導出できる。
【0064】
(4)制御装置20が、車輪速ωsが含んでいる成分のうち、車輪速ωsから車両平面運動成分および路面外乱成分を除去した成分である基準車輪速成分ω0と、車輪速ωsとの差に基づいて、車輪前後変位成分ωzyを算出する。
この構成によれば、基準車輪速成分ω0と車輪速ωsとの差ωdに基づいて車輪前後変位成分ωzyを算出することで、フィルタを用いる方法と異なり、車輪前後変位成分ωzyの位相の変化を防止できる。そのため、スラロ−ム走行や車両Aの加減速に起因する低周波の車輪速ωsの変化に伴うストロ−ク速度Vzの推定精度の低下を防止できる。
【符号の説明】
【0065】
2は車輪速センサ(車輪速検出部)
15はアクチュエ−タ(ストロ−ク状態制御部)
20は制御装置(車輪前後変位成分算出部、ストロ−ク速度算出部、ストロ−ク状態制御部)
22は状態推定部(車輪前後変位成分算出部、ストロ−ク速度算出部)
26は制御信号変換部(ストロ−ク状態制御部)
29はジオメトリ変化上下成分変換部(車輪前後変位成分算出部、ストロ−ク速度算出部)
33は車輪前後変位成分算出部(車輪前後変位成分算出部)
34はストロ−ク速度算出部(ストロ−ク速度算出部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪速を検出する車輪速検出部と、
前記車輪速検出部が検出した前記車輪速に基づいて、当該車輪速が含んでいる成分のうち、サスペンションのストロ−クに伴う車輪の車両前後方向への変位に起因する成分である車輪前後変位成分を算出する車輪前後変位成分算出部と、
前記車輪前後変位成分算出部が算出した前記車輪前後変位成分に基づいて、前記サスペンションのストロ−ク速度を算出するストロ−ク速度算出部と、
前記ストロ−ク速度算出部が算出した前記サスペンションのストロ−ク速度に基づいて前記サスペンションのストロ−ク状態を制御するストロ−ク状態制御部と、を備えたことを特徴とするサスペンション制御装置。
【請求項2】
前記ストロ−ク速度算出部は、前記車輪速検出部が検出した前記車輪速が、車輪速から車両平面運動成分および路面外乱成分を除去した成分である基準車輪速成分、前記車輪前後変位成分、サスペンションのストロ−クに伴うアクスルワインドアップ角変化によって発生する成分であるアクスルワインドアップ角成分、未知外乱を含むとする仮定のもとに導出した数式に基づいて、前記サスペンションのストロ−ク速度を算出する請求項1に記載のサスペンション制御装置。
【請求項3】
前記ストロ−ク速度算出部は、前記数式として、前記車輪前後変位成分と前記アクスルワインドアップ角成分との関係式をもとに導出したモデル式を用いる請求項2に記載のサスペンション制御装置。
【請求項4】
前記車輪速検出部が検出した前記車輪速に基づいて、当該車輪速が含んでいる成分のうち、当該車輪速から車両平面運動成分および路面外乱成分を除去した成分である基準車輪速成分を算出する基準車輪速成分算出部を備え、
前記車輪前後変位成分算出部は、前記車輪速検出部が検出した前記車輪速と前記基準角速成分算出部が算出した前記基準車輪速成分との差に基づいて、前記車輪前後変位成分を算出することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のサスペンション制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−10427(P2013−10427A)
【公開日】平成25年1月17日(2013.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−144467(P2011−144467)
【出願日】平成23年6月29日(2011.6.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】