説明

サブフレーム構造

【課題】 車体フレームの曲折変形をより効果的に抑制して軸圧壊の促進による効率的な衝撃吸収を可能にするとともに、格納スペアタイヤの下方への脱落促進やシート取付部の保持強度の向上も可能にするサブフレーム構造を提供する。
【解決手段】 フローティングブッシュ6、7の筒部を介してサブフレーム3とサポート部材8の両端部とを車体フレーム1、2に対して共締め構成とするとともに、前記サポート部材8の中間部を後方にオフセットLしたことにより、フローティングブッシュ6、7の内筒倒れを抑制して剛性比を上げ、相対的にブッシュの硬度を下げて、操縦安定性の向上と乗心地・ドラミング性能の改善との相反する性能が確保でき、オフセットLにて車体フレームの曲折変形をより効果的に抑制して、軸圧壊の促進による効率的で安定した衝撃吸収を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の前後方向に延びる左右一対の車体フレーム間をフローティングブッシュを介して連結されるサブレームを備え、フローティングブッシュ間にサポート部材を渡設したサブフレーム構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両において、直進走行や操舵走行の際の迅速な応答での安定した運転が可能な操縦安定性は、車体フレームの剛性や懸架装置の硬さに左右される。一方、走行中の乗心地は適度の柔軟性を有する懸架装置が好適である。しかしながら、懸架装置が柔らか過ぎたり、車体剛性が低すぎると不快感が生じる。また、車体の剛性が低いと、荒れた路面での走行時に振動によりドラミングが発生する虞れがあった。このような操縦安定性に大きな影響をもたらす懸架装置のアーム等の支持は、通常、車体フレームに付設されたサブフレームが受け持つ。そして、サブフレームは車体フレームに対してフローティングブッシュを介して固定される。
【0003】
したがって、操縦安定性と乗心地・ドラミング性能は、サブフレームのフローティングブッシュ硬度に大きく影響され、相反する性能が求められている。ブッシュ硬度を上げれば操縦安定性に効果を発揮するが、振動入力が大きくなって、剛性の低い部分にて振動が増幅して乗心地・ドラミング性能を著しく悪化させた。また、後面衝突時に、サブフレームの後方で車体フレームが折れ曲がると、衝撃吸収ストローク量や周辺の変形制御に悪影響を与える虞れがあった。そのようなことから、本件出願人は、車体フレームの座屈を防止し、サブフレームの軸ずれを防止して、車体の操縦安定性や操縦応答性を確保できる車体の後部構造を提案した(下記特許文献参照)。
【特許文献1】特開2001−151144号公報(請求項1参照)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図6を用いて、前記特許文献1に開示された車両の後部構造について説明する。図6(A)に示すように、車体の両側に前後方向に延びて配置された一対の車体フレーム21A、21Bと、この一対の車体フレーム21A、21Bにおける後輪サスペンションを構成する湾曲部分21Aa、21Baに両端部がそれぞれマウント部22A、22Bによって連結されることにより、一対の車体フレーム21A、21B間に架け渡されたリヤサスペンションフレーム22とを備え、車体の幅方向に延びて配置されたテンションバー30が、その両端部を車体の両側に位置する前記一対のマウント部22A、22Bにそれぞれ連結されている。また、図6(B)に示すように、テンションバー30の中間部がリヤフロアパン31のスペアタイヤ格納凹部31Aの底部にボルトBにより締結される。
【0005】
このように構成されたことによって、前記テンションバー30によって構成されるテンション構造により、後面衝突の際にその衝撃によって、車体フレーム21A、21Bに、その湾曲部分21Aa、21Baの後方部分が外向きに折れ曲がる座屈が生じるのが防止され、車体フレーム21A、21Bに軸方向の圧壊が生じるようにして、衝突の衝撃を効率的に吸収できるようにした。また、テンションバー30が、その中間部分をマウント部22A、22Bに連結された両端部とほぼ同じ高さ位置において車体のリヤフロアパン31に締結されているので、マウント部22A、22Bの横倒れが防止され、マウント部22A、22Bの支持強度が充分に確保されて、軸ずれの発生が防止され、後輪サスペンションにおける操縦安定性や操縦応答性を向上させることが可能になった。
【0006】
本発明は、本件出願人による前記発明をさらに改良して、車体フレームの曲折変形をより効果的に抑制して軸圧壊の促進による効率的な衝撃吸収を可能にするとともに、格納スペアタイヤの下方への脱落促進やシート取付部の保持強度の向上も可能にするサブフレーム構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このため本発明は、車両の前後方向に延びる左右一対の車体フレーム間をフローティングブッシュを介して連結されるサブレームを備え、フローティングブッシュ間にサポート部材を渡設したサブフレーム構造において、前記フローティングブッシュの筒部を介してサブフレームとサポート部材の両端部とを車体フレームに対して共締め構成とするとともに、前記サポート部材の中間部を後方にオフセットしたことを特徴とする。また本発明は、前記サポート部材の中間部を車体フロアに締結したことを特徴とする。また本発明は、前記サポート部材のサブフレームへの連結部に対して、サポート部材の車体フロアへの締結部が上下方向に僅かにオフセットして構成されたことを特徴とする。また本発明は、前記サポート部材の車体フロアへの締結部に、スペアタイヤ吊設用ブラケットを共締めしたことを特徴とする。また本発明は、前記サポート部材の車体フロアへの締結部に、乗員シート取付部を共締めしたことを特徴とするもので、これらを課題解決のための手段とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、車両の前後方向に延びる左右一対の車体フレーム間をフローティングブッシュを介して連結されるサブレームを備え、フローティングブッシュ間にサポート部材を渡設したサブフレーム構造において、前記フローティングブッシュの筒部を介してサブフレームとサポート部材の両端部とを車体フレームに対して共締め構成とするとともに、前記サポート部材の中間部を後方にオフセットしたことにより、フローティングブッシュの内筒倒れを抑制してブッシュと取付部の剛性比を上げることができるので、相対的にブッシュの硬度を下げることで、操縦安定性の向上と乗心地・ドラミング性能の改善との相反する性能が確保できることはもとより、オフセット衝突時の左右荷重伝達部材として、非衝突側に荷重を伝達できる。さらに、前記オフセット近傍の車体フレームの曲折変形をより効果的に抑制して、軸圧壊の促進による効率的で安定した衝撃吸収を可能にする。
【0009】
また、前記サポート部材の中間部を車体フロアに締結した場合は、車体フレームとフロアとが一体に連結されることになり、フロア振動と車体フレームの捩れとが互いに抑制され、乗心地の向上とドラミング発生の防止がより効果的になされる。さらに、前記サポート部材のサブフレームへの連結部に対して、サポート部材の車体フロアへの締結部が上下方向に僅かにオフセットして構成された場合は、前記互いの連結部と締結部との間の落差を必要最小限にて設けることで、車体フロア底面と車体フレーム底面との間の落差がある場合でも、サポート部材のフロア面への締結部の倒れを可及的に抑制することができる上に、サポート部材の重量増加を少しでも抑制することができる。そして、フロア高さの制約の中で排気管との干渉を避けるレイアウトの実現が可能となる。
【0010】
さらにまた、前記サポート部材の車体フロアへの締結部に、スペアタイヤ吊設用ブラケットを共締めした場合は、後面衝突時に格納スペアタイヤが後方から押されると、スペアタイヤは車体フロアへの締結部を支点としてスペアタイヤ吊設用ブラケットが円弧状に動くことで下方へ脱落するので、衝撃吸収ストロークを阻害することがなく、車体による円滑な衝撃吸収が可能になる。また、前記サポート部材の車体フロアへの締結部に、乗員シート取付部を共締めした場合は、サポートにより補剛された乗員シート取付部が効果的に補強され、ベルトアンカ保持強度、シート保持強度が向上し、特に、3列シート車のシート取付部の強度向上に効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。図1は本発明のサブフレーム構造の1つの実施例を示す要部底面図、図2は図1のA−A矢視図の側面図、図3はスペアタイヤの脱落状態を示す側面図、図4はシート取付部のサポート部材による補剛状態を示す斜視図、図5はフローティングブッシュによる各部材の取付状態を示す側面図である。本発明のサブフレーム構造の基本的な構成は、図1に示すように、車両の前後方向に延びる左右一対の車体フレーム1、2間をフローティングブッシュ4、5、6、7を介して連結されるサブレーム3を備え、フローティングブッシュ6、7間にサポート部材8を渡設したサブフレーム構造において、前記フローティングブッシュ6、7の筒部を介してサブフレーム3とサポート部材8の両端部とを車体フレーム1、2に対して共締め構成とするとともに、前記サポート部材8の中間部を後方にオフセット(L)したことを特徴とする。
【0012】
図1の車体底面図に示すように、車両の前後方向に延びる左右一対の車体フレーム1、2間に、前部の左右フローティングブッシュ4、5および後部の左右フローティングブッシュ6、7を介して台形状のサブレーム3が連結される。このサブフレーム3には、懸架装置であるサスペンションの下端部を支持するサスペンションアームの基端部等が支持設置される。前記サブフレーム3の車体フレーム1、2に対する連結部のうち、後部の左右のフローティングブッシュ6、7に対してサポート部材であるサポートサブフレームリヤ8の両端部が共締め構成にて連結される。図5に示すように、車体フレーム2に対してサブフレーム3をフローティングブッシュ7を介して連結するに際して、ブッシュ内筒7A内に連結ボルト7Cが挿通される。この連結ボルト7Cによりサポート部材であるサポートサブフレームリヤ8の端部が共締めされる。
【0013】
両端部がサブフレーム3の車体フレーム1、2に対するフローティングブッシュ6、7に共締めされたサポートサブフレームリヤ8は、中間部に平面視で後方に向いたオフセット部が形成される。オフセット量がLで示されている。オフセットされた中間部が、車体フロアFの底部にブラケット等を介して締結ボルト等により締結される。これらの締結部が符号9、10にて示されている。このような構成により、フローティングブッシュ6、7の内筒倒れを抑制してブッシュと取付部の剛性比を上げることができるので、相対的にブッシュの硬度を下げることで、操縦安定性の向上と乗心地・ドラミング性能の改善との相反する性能が確保できる。また、サポートサブフレームリヤ8がオフセット衝突時の左右荷重伝達部材として、非衝突側に荷重を伝達できる。さらに、前記オフセット近傍の距離Lの範囲にて車体フレーム1、2の曲折変形をより効果的に抑制して、軸圧壊の促進による効率的で安定した衝撃吸収を可能にする。
【0014】
このように、前記サポートサブフレームリヤ8の中間部が締結部9、10により車体フロアFに締結されていることによって、車体フレーム1、2とフロアFとが一体に連結されて、フロアFの振動と車体フレーム1、2の捩れとが互いに抑制され、乗心地の向上とドラミング発生の防止がより効果的になされる。図2では、前記サポートサブフレームリヤ8のサブフレーム3への連結部6、7に対して、サポートサブフレームリヤ8の車体フロアFへの締結部9、10(図2では、車体フレーム2に対する連結部7および締結部10のみが示されている)が上下方向に僅かにオフセット(オフセット量M)して構成される。これにより、前記互いの連結部6、7と締結部9、10との間の落差Mを必要最小限にて設けることで、車体フロアF底面と車体フレーム1、2底面との間の落差がある場合でも、サポートサブフレームリヤ8のフロアF面への締結部9、10の倒れを抑制することができる上に、サポートサブフレームリヤ8の重量増加を少しでも抑制することができる。
【0015】
図3はスペアタイヤの脱落状態を示す側面図である。前記サポート部材であるサポートサブフレームリヤ8の中間部の車体フロアFへの締結部9、10(図3では、車体フレーム2に対する締結部10のみが示されている)に、スペアタイヤSTの吊設用ブラケット11の前端部を共締め構成とした。このように構成したことにより、後面衝突時に格納スペアタイヤSTが後方から押されると、スペアタイヤSTは車体フロアFへの締結部10を支点としてスペアタイヤ吊設用ブラケット11が円弧状に動くことで下方へ脱落するので、格納スペアタイヤSTが衝撃吸収ストロークを阻害することがなく、車体フレーム2等による円滑かつ安定した衝撃吸収が可能になる。
【0016】
図4はシート取付部のサポート部材による補剛状態を示す斜視図である。図では、車体フロアFを介して表裏にシートSとサポート部材であるサポートサブフレームリヤ8とが組み付けられる前の状態が示されている。サポートサブフレームリヤ8の車体フロアFへの締結部9、10に、乗員シートSの取付部を共締めする。これにより、サポートサブフレームリヤ8により補剛された乗員シートSの取付部が効果的に補強され、シート保持強度が向上し、図示省略のベルトアンカ保持部の強度も向上する。特に、フロアの長さが長くなり剛性低下が生じ易い3列シート車のシート取付部の強度向上に効果的である。
【0017】
以上述べたように、サポート部材であるサポートサブフレームリヤ8を、サブフレーム3の車体フレーム1、2への連結部のフローティングブッシュ6、7間に渡設することによって、車体の剛性が高く、直進付近のリヤ追従性が向上する上、旋回操舵時の操縦安定性が向上する。しかも、過度入力時におけるステアリングの追従性・安定性も向上する。また、サポートサブフレームリヤ8の上下方向のオフセットがあまり大きいとサブフレーム3への連結部および車体フロアFへの締結部における倒れが生じ易くなり、好ましくない。そして、サポートサブフレームリヤ8の中間部を前後方向のオフセットを設けて車体フロアFに締結することによって、車体フレーム1、2とフロアFとが一体に連結されて、フロアFの振動と車体フレーム1、2の捩れとが互いに抑制され、乗心地の向上とドラミング発生の防止がより効果的になされるとともに、オフセット近傍の車体フレーム1、2の曲折変形をより効果的に抑制して、軸圧壊の促進による効率的で制御可能な安定した衝撃吸収を可能にすることとなった。
【0018】
以上、本発明の各実施の形態について説明してきたが、本発明の趣旨の範囲内で、車体フレームの形状(車両前方に対して後方が狭く形成、フレームの断面形状、車体フレームに対するフローティングブッシュの設置形態等)、形式、サブレームの形状(台形、X字形、方形等)、形式およびその車体フレームへの連結形態(フローティングブッシュの内筒により共締め形態とするのが好適であるが、可能なら適宜の形態が採用され得る)、フローティングブッシュの形状、形式(内外筒間に介設されるゴムの特性等)、前後および上下方向のオフセット量およびそのオフセット形態(台形状、円弧状、W字形等)を含むサポート部材の形状、形式、サブフレームへの懸架装置の支持形態、フローティングブッシュへの筒部を介した車体フレームおよびサブフレームならびにサポート部材の共締め形態、サポート部材の中間部の車体フロアへの締結形態(適宜形状のブラケットを介したボルト締結、該ブラケットがスペアタイヤ吊設用ブラケット締結部を兼用してもよい)、サポート部材の車体フロアへの締結部におけるスペアタイヤ吊設用ブラケットおよび乗員シート取付部の共締め形態(車体フロアに締結ボルト挿入のための補強構造、例えば周縁リブの形成等を形成してもよい)、等については適宜選定できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明のサブフレーム構造の1つの実施例を示す要部底面図である。
【図2】同、図1のA−A矢視図の側面図である。
【図3】同、スペアタイヤの脱落状態を示す側面図である。
【図4】同、シート取付部のサポート部材による補剛状態を示す斜視図である。
【図5】同、フローティングブッシュによる各部材の取付状態を示す側面図である。
【図6】従来の車両の後部構造の平面および横断面図である。
【符号の説明】
【0020】
1 左車体フレーム
2 右車体フレーム
3 サブフレーム
4 左前フローティングブッシュ
5 右前フローティングブッシュ
6 左後フローティングブッシュ
7 右後フローティングブッシュ
7A 内筒
7B 外筒
7C 連結ボルト
8 サポートサブフレームリヤ(サポート部材)
9 左車体フロア締結部
10 右車体フロア締結部
11 スペアタイヤ吊設ブラケット
F 車体フロア
M 上下オフセット
L 前後オフセット
S 乗員シート


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後方向に延びる左右一対の車体フレーム間をフローティングブッシュを介して連結されるサブレームを備え、フローティングブッシュ間にサポート部材を渡設したサブフレーム構造において、前記フローティングブッシュの筒部を介してサブフレームとサポート部材の両端部とを車体フレームに対して共締め構成とするとともに、前記サポート部材の中間部を後方にオフセットしたことを特徴とするサブレーム構造。
【請求項2】
前記サポート部材の中間部を車体フロアに締結したことを特徴とする請求項1に記載のサブレーム構造。
【請求項3】
前記サポート部材のサブフレームへの連結部に対して、サポート部材の車体フロアへの締結部が上下方向に僅かにオフセットして構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のサブレーム構造。
【請求項4】
前記サポート部材の車体フロアへの締結部に、スペアタイヤ吊設用ブラケットを共締めしたことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のサブレーム構造。
【請求項5】
前記サポート部材の車体フロアへの締結部に、乗員シート取付部を共締めしたことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のサブレーム構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−290272(P2006−290272A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−116721(P2005−116721)
【出願日】平成17年4月14日(2005.4.14)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】