説明

シャフト型溶解炉および溶銑製造方法

【課題】送風空気を炉径方向に対して均一に供給することで、炉腹断面積当たりの炭材の燃焼・発熱状態を均一化させ、溶銑を高い生産性で製造することができるシャフト型溶解炉を提供する。
【解決手段】炉下部周方向において異なる箇所に設けられた複数の羽口は、少なくとも2種類の異なる羽口管挿入深さL(但し、炉壁内面と羽口管先端との間の水平方向距離)を有する羽口からなる。異なる羽口管挿入深さLを有する羽口から送風を行うので、送風空気を局部的な領域(例えば、炉壁寄り領域、炉中心部領域)に偏らせることなく、炉径方向に対して均一に供給することができる。このため、炉腹断面積当たりの炭材の燃焼・発熱状況を均一化させ、溶銑を高い生産性で製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄源を炭材の燃焼熱により溶解して溶銑を製造するシャフト型溶解炉と、このシャフト型溶解炉を用いた溶銑製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シャフト型溶解炉を用いて鉄系スクラップなどの鉄源を溶解するプロセスが知られている(例えば、特許文献1)。このプロセスでは、シャフト型溶解炉の炉頂部から鉄系スクラップなどの鉄源とコークスを装入し、炉下部に設けられた複数の羽口(送風羽口)から熱風を吹き込み、コークスの燃焼熱で鉄源を溶解することにより溶銑が得られる。
【特許文献1】特開昭56−156709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
シャフト型溶解炉による溶銑の製造プロセスでは、炉腹断面積当たりの生産性を高めることが重要である。このような生産性の観点からは、炉腹断面全体がコークスの燃焼、発熱に有効に利用されることが望ましい。
上記のようなシャフト型溶解炉では、各羽口を構成する羽口管の先端側が、炉壁内面から炉内方向に挿入された構造(炉内方向に突き出た構造)となっている。このような構造とすることにより、炉壁への熱負荷が小さくなるので、炉壁構造を簡便にすることができ、鉄皮と簡単な水冷構造だけで設備の長期耐久性を保持できる利点がある。
【0004】
また、充填物のサイズに対して相対的に炉径が大きい場合、炉中心部領域まで送風空気が届きにくくなり(充填物のサイズが小さくなるほど、充填物による送風空気の流速を減衰させる効果が大きくなるので、送風空気が炉中心部に到達しにくくなる)、同領域ではコークスの燃焼・発熱が不十分になりやすく、生産性を高める上で問題となる。このような問題に対しては、羽口管挿入深さL(=炉壁内面と羽口管先端との間の水平方向距離)と炉稼働面の半径Rとの比L/Rを大きくすることが有効であるが、L/Rをあまり大きくすると、炉壁近傍部分への酸素供給が少なくなるため、炉壁近傍でのコークスの燃焼・発熱が不十分となり、この場合も生産性などに問題を生じる。
【0005】
このため従来の溶解炉(特に、充填物のサイズに対して相対的に炉径が大きい溶解炉)では、炉中心部まで送風空気が届きにくいために、炉腹断面内ではコークスの燃焼・発熱が活発な領域がリング状となって、炉中心部でのコークスの燃焼・発熱が遅滞し、炉腹断面積当たりの生産性を向上させる上での阻害要因となっている。
したがって本発明の目的は、このような従来技術の課題を解決し、送風空気を炉径方向に対して均一に供給することで、炉腹断面積当たりの炭材の燃焼・発熱状態を均一化させ、溶銑を高い生産性で製造することができるシャフト型溶解炉を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、そのようなシャフト型溶解炉を用いて、溶銑を高い生産性で安定的に製造することができる溶銑製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、以下を要旨とするものである。
[1]炉下部周方向の複数箇所に羽口を有し、炉頂部から鉄源と炭材を装入し、前記複数の羽口から熱風を吹き込み、炭材の燃焼熱で鉄源を溶解することにより溶銑を製造するシャフト型溶解炉において、
炉下部周方向において異なる箇所に設けられた複数の羽口は、少なくとも2種類の異なる羽口管挿入深さL(但し、炉壁内面と羽口管先端との間の水平方向距離)を有する羽口からなることを特徴とするシャフト型溶解炉。
[2]上記[1]のシャフト型溶解炉において、異なる羽口管挿入深さLを有する羽口は、羽口管挿入深さLと羽口レベルでの炉稼働面の半径Rとの比L/Rの差が0.05以上であることを特徴とするシャフト型溶解炉。
【0007】
[3]上記[1]または[2]のシャフト型溶解炉において、異なる羽口管挿入深さLを有する羽口として、少なくとも、羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rが0以上0.2未満の羽口と、羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rが0.2以上0.4以下の羽口を備えることを特徴とするシャフト型溶解炉。
[4]上記[1]〜[3]のいずれかのシャフト型溶解炉において、羽口を炉径方向で対向するように設け、該対向する羽口は同一の羽口管挿入深さLを有し、炉周方向で隣接する羽口は異なる羽口管挿入深さLを有することを特徴とするシャフト型溶解炉。
[5]上記[1]〜[4]のいずれかのシャフト型溶解炉において、羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rが0〜0.05の羽口を有し、炉壁が断熱構造を有することを特徴とするシャフト型溶解炉。
[6]上記[1]〜[5]のいずれかのシャフト型溶解炉を用いた溶銑製造方法であって、鉄源として、鉄系スクラップ、鉄含有ダストおよび/または鉄含有スラッジの塊成化物の1種以上を炉に装入することを特徴とする溶銑製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のシャフト型溶解炉では、異なる羽口管挿入深さLを有する羽口から送風を行うので、送風空気を局部的な領域(例えば、炉壁寄り領域、炉中心部領域)に偏らせることなく、炉径方向に対して均一に供給することができる。このため、炉腹断面積当たりの炭材の燃焼・発熱状態を均一化させ、且つ炭材充填層の有効発熱面積を広くできるので、溶銑を高い生産性で製造することができる。
また、異なる羽口管挿入深さLを有する羽口について、羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rを最適化すること、さらには、羽口を炉径方向で対向するように設け、該対向する羽口が同一の羽口管挿入深さLを有し、炉周方向で隣接する羽口が異なる羽口管挿入深さLを有するように構成することにより、送風空気を炉径方向に対してより均一に供給することができ、炉腹断面積当たりの燃焼・発熱状況をより均一化させ且つ炭材充填層の有効発熱面積をより広くすることができる。
また、以上のようなシャフト型溶解炉を用いた本発明の溶銑製造方法によれば、溶銑を高い生産性で安定的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明が対象とするシャフト型溶解炉は、炉下部周方向の複数箇所に羽口を有し、炉頂部から鉄源と炭材を装入し、前記複数の羽口から熱風を吹き込み、炭材の燃焼熱で鉄源を溶解することにより溶銑を製造するシャフト型溶解炉である。
使用する鉄源としては、鉱石類、鉄系スクラップ、鉄含有ダストまたは/および鉄含有スラッジの塊成化物などの1種以上が使用され、また炭材としては、一般にコークスが用いられる。したがって、本発明が対象とするシャフト型溶解炉には高炉も含まれるが、特に本発明は、後述するような理由により、鉄源として鉄含有ダストまたは/および鉄含有スラッジの塊成化物(以下、説明の便宜上「鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物」という。)を用いるシャフト型溶解炉に好適なものである。なお、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物などの炉装入物については後に詳述する。
【0010】
図1は、本発明が適用されるシャフト型溶解炉とその基本的な操業形態を模式的に示したもので、この例では、鉄系スクラップ、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物の1種以上を主たる鉄源とするシャフト型溶解炉を示している。
図において、1は炉体、2は炉頂に設けられる原料装入部、3は炉下部の周方向において適当な間隔で設けられる複数の羽口(送風羽口)、4はこの羽口3に熱風を供給する熱風管、5は炉体上部に接続される排気ダクト、6は前記排気ダクト5の途中に設けられる集塵装置である。
【0011】
この溶解炉の大きさ等に本質的な制限はないが、実質的に操業可能若しくは操業上有利なサイズとして、通常は、羽口位置での炉内径が2〜4m程度、炉高が5〜10m程度である。羽口数に制限はないが、通常、炉内径が2〜4m程度であれば4〜12本程度である。この炉下部周方向の複数箇所に設けられる羽口は、炉高方向での位置(高さ位置)が異なっていてもよいが、一般に炉内赤熱コークス層の厚みは1〜1,5m程度であるので、羽口高さ位置が羽口によって大きく異なると、一部の羽口で吹き抜けを生じる恐れがある。このため炉下部周方向の複数箇所に設けられる羽口は、炉高方向で1m以内、望ましくは0.5m以内の範囲に設けることが望ましく、このような設置形態であれば、実質的に同一平面内に羽口が設置されていると言ってよい。
【0012】
このような溶解炉では、炉頂の原料装入部2から鉄源(鉄系スクラップ、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物の1種以上を主体とする鉄源)とコークスを装入するとともに、複数の羽口3から熱風を吹き込み、コークスの燃焼ガスの熱で鉄源を溶解し、溶銑とする。生成した溶銑は炉底部の出銑口から炉外に取り出される。また、炉内では上昇する熱風に伴いダストも生成し、このダストは排気ダクト5を経由して集塵装置6で捕集される。
【0013】
本発明では、炉下部周方向において異なる箇所に設けられた複数の羽口3が、少なくとも2種類の異なる羽口管挿入深さL(但し、炉壁内面と羽口管先端との間の水平方向距離)を有する。これにより、異なる羽口管挿入深さLを有する羽口3から送風を行うことになるので、送風空気を局部的な領域に偏らせることなく、炉径方向に対して均一に供給することができる。
ここで、炉腹断面内でのガス流れの偏りを抑制するためには、羽口の設定位置を、炉の中心軸に対する回転対称ないしは炉の中心軸を含む面を対称面とする対称形とすることが望ましい。また、より好ましくは、羽口数を偶数本とし、この複数の羽口を炉周方向に等間隔で設けることである。
このため、炉腹断面積当たりの炭材の燃焼・発熱状態を均一化させ且つ炭材充填層の有効発熱面積を広くすることができる。
【0014】
図2は、本発明の一実施形態を示すもので、羽口位置での炉体1の水平断面図である。図において、10が炉壁(通常は鉄皮)、100が炉壁内面、30が羽口管、31が羽口先端である。
この実施形態では、炉周方向において等間隔で8本の羽口3が設けられているが、羽口管挿入深さLが異なる羽口3a(羽口管挿入深さL:大)と羽口3b(羽口管挿入深さL:小)が炉周方向で交互に配置されている。したがって、この実施形態では、炉径方向で対向する羽口3a(または3b)は同一の羽口管挿入深さL(またはL)を有し、且つ同じ羽口管挿入深さL(またはL)を有する4本の羽口3a(または3b)は炉周方向で90°の関係で配置されていることになる。図中、4本の羽口3aからなる羽口群の炉径方向での送風位置をAで、また、4本の羽口3bからなる羽口群の炉径方向での送風位置をBで示す。
【0015】
本実施形態のように、羽口3を炉径方向で対向するように設け、この対向する羽口3が同一の羽口管挿入深さLを有し、炉周方向で隣接する羽口3が異なる羽口管挿入深さLを有するように構成すれば、送風空気を炉径方向に対して均一に供給するのに有利である。
なお、本実施形態では、2種類の異なる羽口管挿入深さL,Lを有する羽口3a,3bを配置したが、3種類以上の異なる羽口管挿入深さLを有する羽口3を配置してもよい。
【0016】
送風空気を炉径方向に対して均一に供給するという観点から、本発明では、異なる羽口管挿入深さLを有する羽口3について、羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rを、以下のようにすることが好ましい。
(a)異なる羽口管挿入深さLを有する羽口3は、それらのL/Rの差を0.05以上とする。
(b)異なる羽口管挿入深さLを有する羽口として、少なくとも、L/Rが0以上0.2未満の羽口と、L/Rが0.2以上0.4以下の羽口を備える。
ここで、炉の稼働面の半径とは、新炉の状態での炉内半径を指す。水冷構造であれば、旧炉でも稼働面位置が変わらないが、耐火物面の場合には、耐火物の損耗によって稼働面が羽口近傍レベルでは変化する。しかしながら、竪型炉の充填層の大部分を構成する上部から中間部分までに関しては、旧炉でも稼働面に殆ど変化がないので、充填層内のガス流れの状況を羽口管挿入深さLで設定・調整するという意味で、新炉稼働面をベースとすればよい。
【0017】
これらの条件を図2の実施形態で説明すると、まず、羽口3aと羽口3bは、それらのL/Rの差が0.05以上であることが好ましい。羽口3aと羽口3bのL/Rにある程度の差がないと、送風空気を炉径方向に対して均一に供給するという効果が小さい。また、3種類以上の異なる羽口管挿入深さLを有する羽口3を配置した場合も同様である。
さらに、羽口3bのL/Rが0以上0.2未満、羽口3aのL/Rが0.2以上0.4以下であることが好ましい。羽口3aのL/Rを0.2以上とすることにより、炉内径Dが充填層の炭材粒径(調和平均粒径)dpに対して相対的に大きい、D/dp≧30のような条件であっても、炉中心部領域に送風空気・酸素を到達させることができる。L/Rが0.4を超えるような条件では、充填層中を流れ落ちてくる流鉄による羽口へのアタックで羽口が損耗しやすく、また、水冷羽口からの抜熱量も大きくなる。一方、羽口3bのL/Rに関しては、炉壁近傍に送風空気が回るようにするには、羽口管挿入深さLをできるだけ小さくすることが望ましいが、炉壁への熱負荷が大きくなる。炉壁を断熱構造とする場合には、L/R≒0近傍まで小さくすることが可能であるが、簡易的水冷壁においては、炉壁近傍から少し離して、炉壁熱負荷を軽減できる範囲となる、L/Rが0より大きく0.2未満の領域が好ましい。
【0018】
また、L/Rが0〜0.05の羽口を有する場合には、炉壁に対する熱負荷が大きくなるので、炉壁(通常、鉄皮)の内側に耐火煉瓦を設けるなどして炉壁を断熱構造とすることが好ましい。
図3は、図2に示す実施形態において、羽口3aのL/Rを0.25、羽口3bのL/Rを0.15とした場合における羽口送風による炉径方向での酸素供給量の分布を模式的に示したものである。図において、aが羽口3aからの送風による酸素供給量、bが羽口3bからの送風による酸素供給量である。この両羽口3a、3bの酸素供給量分布を合わせたのがxであり、炉径方向で酸素供給量が均一化していることが判る。
【0019】
また、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物を構成するダストやスラッジは、鉄系スクラップに較べて酸化鉄を多く含んでいる。したがって、溶解炉の鉄源として鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物を用いる場合、コークスおよび炉内のCOガスにより塊成化物中の酸化鉄が還元され、この還元反応部分では吸熱が生じ、そのままでは温度降下して燃焼・発熱反応が遅滞する恐れがある。これに対して本発明では、上述したように炉径方向で酸素供給量が均一化し、コークスの燃焼・発熱作用を高めることができるので、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物を鉄源として使用する際の上記課題を有利に解決できる。
【0020】
また、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物は亜鉛化合物やアルカリ化合物を比較的多く含んでおり、それら化合物が炉壁に付着・堆積すると充填層の閉塞等のトラブルを引き起こし、操業の阻害要因となる場合がある。これに対して本発明では、上述したように炉径方向で酸素供給量が均一化し、コークスの燃焼・発熱作用を高めることができるので、炉壁近傍を含めたガス流速が大きくなり、亜鉛化合物やアルカリ化合物の炉外への排出が促進され、それら化合物が炉壁に付着・堆積することを防止できる。また、特に、羽口先端を炉壁近傍に配置できるので、この点からも炉壁近傍でのガス流れを促進でき、亜鉛化合物やアルカリ化合物の炉壁への付着を抑制できる。
【0021】
次に、以上述べたようなシャフト型溶解炉を用いた溶銑製造方法について説明する。
この溶銑製造方法では、炉頂部2から鉄源と炭材を装入し、羽口3から熱風を吹き込み、炭材の燃焼熱で鉄源を溶解することにより溶銑を製造する。
炉に装入する炭材(コークスなど)の調和平均粒径dpは、炉内径Dに対してD/dp≧30、好ましくはD/dp≧40、より好ましくはD/dp≧50を満足することが望ましい。dpの小さい炭材の方が安価であるので、できるだけD/dpの大きい条件で操業することが、経済性の面からは好ましい。一方で、D/dpが大きいほど、炉中心部側には送風空気(酸素)が届きにくくなるので、炉中心部側での燃焼・発熱が不十分となるとともに、カーボンソリューションロス反応による吸熱が進みやすくなり、炉腹断面積当たりの生産性が低減傾向となる。したがって、本発明はこのようなD/dpの大きい条件において、その有用性が特に大きいと言える。
【0022】
鉄源としては、例えば、鉱石類、鉄系スクラップ、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物などの1種以上が使用され、また炭材としては、一般にコークスが使用されるが、さきに述べたように、本発明のシャフト型溶解炉は、特に、鉄系スクラップ、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物の1種以上を主たる鉄源とする溶銑製造プロセスに好適なものであるので、以下、この溶銑の製造プロセスについて説明する。
【0023】
鉄源として鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物を装入すると、鉄系スクラップ単独装入の場合に比べてコークス原単位が増加するため、排ガス量が増加するが、送風酸素富化を実施することにより、排ガス量を低減できる。鉄系スクラップと鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物を併せて装入する場合、炉内への装入方法は任意であるが、なるべく均一に装入する方が操業の安定性には良い。送風酸素富化は、送風空気中に酸素を添加する方法の他に、例えば、羽口内に酸素噴射管を配置し、この酸素噴射管から炉内に向けて酸素を噴射することにより行うこともできる。
鉄源とコークスは、炉内に同時に装入してもよいし、交互に装入してもよい。また、主たる炉装入原料は、鉄系スクラップ、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物の1種以上の鉄源とコークスであるが、それ以外に、例えば、銑鉄、還元鉄、鉄鉱石等の鉄源、木炭や無煙炭等の炭材などを装入してもよい。
【0024】
鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物は、鉄含有ダスト、鉄含有スラッジの1種以上またはこれを主体とする原料を塊状に固めたものであればよく、したがって塊成化物の種類や製法を問わないが、一般には、鉄含有ダスト、鉄含有スラッジの1種以上に水硬性バインダーを配合し、さらに必要に応じて還元用の炭材粉などを配合した原料に水を加えて混合した後、成形し、この成形物を水和硬化させて塊成化物としたものが用いられる。
【0025】
前記鉄含有ダストは、酸化鉄及び/又は金属鉄を含むダストであり、その種類に特に制限はないが、代表的なものとしては、鉄鋼製造プロセスで生じる製鋼ダストを挙げることができる。この製鋼ダストには、溶銑予備処理工程で生じる溶銑予備処理ダスト、転炉脱炭工程で生じる転炉ダスト、電気炉で生じる電気炉ダストなどが含まれる。これらの製鋼ダストは、製鋼工程で発生した排ガスから集塵することにより回収されたものである。また、これらの中でも、転炉脱炭工程で生じる転炉ダスト、いわゆるOGダストが、不純物の含有量が少なく、したがって鉄含有量が高いため特に好ましい。また、製鋼ダスト以外の鉄含有ダストとしては、例えば、高炉ダスト、圧延ダストなどがある。
また、前記鉄含有スラッジは、酸化鉄及び/又は金属鉄を含むスラッジであり、その種類に特に制限はないが、上述したような各種ダストが湿式集塵機で捕集されることでスラッジ化したものが、代表例として挙げられる。
【0026】
さきに述べたように、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物は、一般には、鉄含有ダストまたは/および鉄含有スラッジに水硬性バインダーを配合し、さらに必要に応じて還元用の炭材粉などを配合した原料に水を加えて混合した後、成形し、この成形物を水和硬化させることにより得られる。
前記水硬性バインダーとしては、例えば、ポルトランドセメント、高炉セメント、アルミナセメント、フライアッシュセメントなどの各種セメント、高炉水砕スラグ微粉末、生石灰などの1種以上を用いることができる。原料中の水硬性バインダーの配合量は、強度の発現及びスラグ生成量の抑制の観点から、一般に2〜25mass%程度とすることが好ましい。
【0027】
前記炭材粉とは炭素を主成分とする粉体のことであり、竪型溶解炉中で酸化鉄の還元材となる。一般に、製鉄用の竪型溶解炉では還元材として塊コークスが用いられるが、塊コークスよりもコークス粉などの炭材粉の方が価格が安く、コスト的に有利なことに加え、酸化鉄と炭素の接触面積が増大するため、酸化鉄の還元反応も速やかに進行する利点がある。炭材粉としては、コークス粉、石炭粉(好ましくは無煙炭粉)、プラスチック粉などの1種以上を用いることができるが、特に、コークス粉などのように揮発分が少ないものが好ましい。また、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物中に大きな炭材が存在すると、その部分から亀裂が生じ、強度を低下させる原因となるため、炭材粉は粒径3mm以下が好ましい。原料中の炭材粉の配合量は、一般に2〜25mass%程度が好ましい。
【0028】
また、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物の原料中には、上述した鉄含有ダストまたは/および鉄含有スラッジ、水硬性バインダーおよび炭材粉以外の材料を必要に応じて適宜配合してもよい。例えば、硬化速度調整剤、界面活性剤、ベントナイト、さらには、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物の圧縮強度を高めるための塩化物、原料に適度な粒度分布を与えて成型性を高めるための材料として焼結篩下粉、ミルスケールなどの鉄含有粉粒物、スラグの塩基度を調整するための石灰石、硅石などの粉粒物などの1種以上を配合してもよい。
また、生成するスラグ量をなるべく少なくするという観点から、原料中でのSiO、Al、CaO、MgOの合計量を25mass%以下とすることが好ましい。当然、これら成分は水硬性バインダーなどに含有されるものも含まれる。
【0029】
水硬性バインダーを用いて鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物を得るには、上述した原料に水を加えて混合した後、成形し、この成形物を水和硬化させる。
水の量は原料の配合によっても異なるが、成形時に圧縮しても水がしみ出てこない最大水量が望ましい。定量的には、JIS−A−1101(コンクリートのスランプ測定方法)に準じた測定においてスランプが0である最大水量となるように調整することが好ましい。水の量が少なすぎると適切に成形できず、また水硬性バインダーの硬化も進行しない。一方、水の量が多すぎて成形時に水がしみ出てくると、その水の処理などに特別な対応が必要になるからである。
【0030】
成形工程は、型枠を用いた成形、押し出し成形、ロールプレス成形など任意の方式で行うことができるが、成形物を高密度にすると鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物は高強度化する傾向があるため、できるだけ高密度化に成形することが好ましい。このため原料と水の混合物を圧縮成形し、または加振しつつ圧縮成形することが好ましい。具体的には、ブリケット成形機、プレス成形機、押出成形機などのような圧縮成形機や、これに加振機能を持たせたものなどを用いて成形することが好ましい。
成形物の形状は任意であるが、炉に装入した際の粉化をなるべく抑えるために角部が少ない方が好ましい。また、成形物の大きさも任意であるが、あまり小さいと竪型溶解炉に装入した際に炉の圧力損失を増大させ、一方、あまり大きいと竪型溶解炉に装入した際に塊成化物の中心部の昇温遅れによる還元・溶解遅れを生じるので、一般には容積で20〜2000cm程度のサイズが好ましい。
【0031】
原料と水の混合物を成形して得られた成形物は、水硬性バインダーにより水和硬化させるため、一定期間養生させる。この養生の方法や期間は任意であり、例えば、蒸気による一次養生を行った後、大気下での二次養生を行ってもよい。養生期間は、養生スペースや生産性などの面からはなるべく短い方が好ましいが、養生後の必要強度に応じて適宜選択すればよい。一般には1〜7日間程度が好ましい。
また、鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物としては、上述したような水硬性バインダーを用いて成形体を水和硬化させる製法以外の方法で製造されたものでもよい。
【実施例】
【0032】
図1に示す構造を有する炉床径約3m、羽口数8本、羽口からの有効高さ約8mのシャフト型溶解炉を用いて、以下のような試験を行った。この試験の発明例では、図2に示すような形態で羽口3a,3bを設けるとともに、各発明例で羽口3a,3bのL/Rを変えた。比較例では全羽口を同じL/Rとした。
鉄源には鉄系スクラップ90mass%+鉄含有ダスト/スラッジ塊成化物10mass%を用い、炭材には鋳物コークス40mass%+篩目40mmで篩った篩上の高炉コークス60mass%を用い、出銑温度1500〜1550℃、コークス比130〜200kg/t・pigの条件で操業を行った。
また、発明例3,4と比較例2では、羽口内に酸素噴射管を配置し、この酸素噴射管から炉内に向けて酸素を噴射することにより送風酸素富化を行った。
【0033】
操業結果を、操業条件とともに表1に示す。表1において、生産インデックスとは、比較例1(従来例)の出銑量を100としたときの出銑量を指数化したものである。本発明例は、いずれも生産性が大きく向上していることが判る。
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明が適用されるシャフト型溶解炉とその基本的な操業形態を模式的に示す説明図
【図2】本発明の一実施形態を示す炉体の水平断面図
【図3】図2に示す実施形態において、羽口3aのL/Rを0.25、羽口3bのL/Rを0.15とした場合における羽口送風による炉径方向での酸素供給量の分布を模式的に示すグラフ
【符号の説明】
【0035】
1 炉体
2 原料装入部
3,3a,3b 羽口
4 熱風管
5 排気ダクト
6 集塵装置
10 炉壁
30 羽口管
31 羽口先端
100 炉壁内面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炉下部周方向の複数箇所に羽口を有し、炉頂部から鉄源と炭材を装入し、前記複数の羽口から熱風を吹き込み、炭材の燃焼熱で鉄源を溶解することにより溶銑を製造するシャフト型溶解炉において、
炉下部周方向において異なる箇所に設けられた複数の羽口は、少なくとも2種類の異なる羽口管挿入深さL(但し、炉壁内面と羽口管先端との間の水平方向距離)を有する羽口からなることを特徴とするシャフト型溶解炉。
【請求項2】
異なる羽口管挿入深さLを有する羽口は、羽口管挿入深さLと羽口レベルでの炉稼働面の半径Rとの比L/Rの差が0.05以上であることを特徴とする請求項1に記載のシャフト型溶解炉。
【請求項3】
異なる羽口管挿入深さLを有する羽口として、少なくとも、羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rが0以上0.2未満の羽口と、羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rが0.2以上0.4以下の羽口を備えることを特徴とする請求項1または2に記載のシャフト型溶解炉。
【請求項4】
羽口を炉径方向で対向するように設け、該対向する羽口は同一の羽口管挿入深さLを有し、炉周方向で隣接する羽口は異なる羽口管挿入深さLを有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のシャフト型溶解炉。
【請求項5】
羽口管挿入深さLと炉稼働面の半径Rとの比L/Rが0〜0.05の羽口を有し、炉壁が断熱構造を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のシャフト型溶解炉。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のシャフト型溶解炉を用いた溶銑製造方法であって、
鉄源として、鉄系スクラップ、鉄含有ダストおよび/または鉄含有スラッジの塊成化物の1種以上を炉に装入することを特徴とする溶銑製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−14320(P2010−14320A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−174029(P2008−174029)
【出願日】平成20年7月2日(2008.7.2)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】