説明

シュウ酸バリウムチタニルの製造方法及びチタン酸バリウムの製造方法

【解決課題】全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さいシュウ酸バリウムチタニルを提供すること。更に、本発明は結晶性に優れたチタン酸バリウムを提供すること。
【解決手段】シュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(A1液)と、塩化バリウム水溶液(B1液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うことを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、圧電体、オプトエレクトロニクス材、誘電体、半導体、センサー等の機能性セラミックの原料として有用なシュウ酸バリウムチタニルの製造方法、及びそれを用いるチタン酸バリウムの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、チタン酸バリウムは、固相法、水熱合成法、アルコキシド法、シュウ酸塩法等により製造されている。
【0003】
固相法では、構成原料粉末等を混合し、該混合物を高温で加熱する乾式方法により製造するため、得られた粉末は不規則な形状を呈する凝集体を成し、また、所望の特性を達成するために高温焼成が必要である。また、水熱合成法は、粉体の特性が良好との長所にもかかわらず合成工程が複雑で、オートクレーブを用いるため生産性が劣り、製造粉末の値段が高く工業的に有利でない。また、アルコキシド法も同様、出発物質の取り扱いが難しく、値段が高く工業的に有利でない。
【0004】
シュウ酸塩法で得られるチタン酸バリウムは、水熱合成法やアルコキシド法に比べ、組成が均一なものを安価に製造することができ、また、固相法で製造したチタン酸バリウムに比べ、組成が均一であるという特徴を有する。従来のシュウ酸塩法としては、TiClとBaClとの水溶液を、H水溶液に攪拌下に滴下して、シュウ酸バリウムチタニルを得、該シュウ酸バリウムチタニルを焼成する方法が一般的である(例えば、非特許文献1及び特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−500239号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】W.S.Clabaugh et al.,J.Res.Nat.Bur.Stand.,56(5),289−291(1956)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
シュウ酸塩法により得られるチタン酸バリウムは、誘電体セラミックの材料として、優れた性能を発揮するものの、近年の要求性能の高まりから、更なる性能向上が求められている。チタン酸バリウムの誘電体セラミックとしての特性は、一般的には結晶性が高いものが誘電特性もよいことが知られている(例えば、特開2006−117446号公報参照)。また、シュウ酸塩法では、粒径が小さいものが得られ難く、得られたとしても結晶性が高いものが得られ難いという問題もある。
【0008】
そこで、本発明者らは、従来の方法で得られるシュウ酸バリウムチタニルについて検討したところ、これらのシュウ酸バリウムチタニルは、バルクのBa/Tiモル比は0.998〜1.002の略1であるものの、粒径毎のBa/Tiモル比にはバラツキがあり、粒径が小さいもの程(言い換えると、「比表面積が大きいもの程」)Ba/Tiモル比が小さく、一方、粒径が大きいもの程(言い換えると、「比表面積が小さいもの程」)Ba/Tiモル比が大きくなっていることを見出した。
【0009】
そして、本発明者らは、全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さいシュウ酸バリウムチタニルを用いれば、より結晶性が高い優れた性能を有するチタン酸バリウムを製造することができると推測した。
【0010】
従って、本発明の目的は、全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さいシュウ酸バリウムチタニルを提供することにある。更に、本発明は結晶性に優れたチタン酸バリウムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、(1)シュウ酸バリウムチタニルの反応原料水溶液を、反応容器に供給しつつ、反応液を反応容器から排出しながら、反応を行うことにより、全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが少ないシュウ酸バリウムチタニルが得られること、(2)このようにして得られたシュウ酸バリウムチタニルを用いることにより、粒径が小さいにもかかわらず結晶性が高いチタン酸バリウムが得られるので、優れた性能を有する誘電体セラミック材料を提供できること等を見出した。更には、従来のシュウ酸バリウムチタニルを焼成して得られるチタン酸バリウムは、焼成後、各粒子が焼結等により接合し全体的にタラコ状のバルクとして得られ易いが、本発明の方法によれば、各粒子が分散した形状で得られ易いため、従来のものに比べ、各粒子が焼結により結合された粗大粒子が少ない分散性に優れたものになることを見出し、本発明を完成させるに到った。
【0012】
即ち、本発明(1)はシュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(A1液)と、塩化バリウム水溶液(B1液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うことを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0013】
また、本発明(2)は、シュウ酸水溶液(A2液)と、四塩化チタン及び塩化バリウムを水に混合して得られる水溶液(B2液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うことを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明(3)は、シュウ酸水溶液(A3液)と、塩化バリウム水溶液(B3液)と、四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(C3液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うことを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を提供するものである。
【0015】
また、本発明(4)は、前記本発明(1)〜(3)いずれかのシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成することを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さいシュウ酸バリウムチタニルを提供することができる。そして、このようなシュウ酸バリウムチタニルを用いることにより、結晶性が高く、優れた性能を有する誘電体セラミック材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】オーバーフロー方式の反応容器の模式的な断面図である。
【図2】シュウ酸バリウムチタニルの粒径と、Ba/Tiモル比の関係を示す模式的なグラフである。
【図3】実施例1で得られたチタン酸バリウムのSEM写真である。
【図4】実施例2で得られたチタン酸バリウムのSEM写真である。
【図5】実施例3で得られたチタン酸バリウムのSEM写真である。
【図6】比較例1で得られたチタン酸バリウムのSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明する。
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応の反応原料であるシュウ酸(H)、塩化バリウム(BaCl)及び四塩化チタン(TiCl)の水溶液を、反応容器に供給しつつ、反応液を反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うシュウ酸バリウムチタニルの製造方法である。そして、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法には、反応原料水溶液の種類により、以下の形態がある。
【0019】
なお、本発明において、反応液とは、反応原料水溶液が供給された反応容器内の液であり、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応が起こっている液であり、生成したシュウ酸バリウムチタニルの沈澱物を含有する液である。
【0020】
本発明の第一の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、シュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(A1液)と、塩化バリウム水溶液(B1液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うシュウ酸バリウムチタニルの製造方法である。
【0021】
本発明の第二の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、シュウ酸水溶液(A2液)と、四塩化チタン及び塩化バリウムを水に混合して得られる水溶液(B2液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うシュウ酸バリウムチタニルの製造方法である。
【0022】
本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、シュウ酸水溶液(A3液)と、塩化バリウム水溶液(B3液)と、四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(C3液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うシュウ酸バリウムチタニルの製造方法である。
【0023】
つまり、本発明の第一の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、反応原料水溶液として、シュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(A1液)と、塩化バリウム水溶液(B1液)と、を用いる形態である。
【0024】
本発明の第一の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るA1液は、シュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液であるが、例えば、先ず四塩化チタンを水に混合し、次いで得られた水溶液にシュウ酸を混合することや、シュウ酸水溶液に四塩化チタンを混合することにより調製される。A1液中のTi元素に対するシュウ酸イオンのモル比(シュウ酸イオンのモル数/Ti元素のモル数)は、2.0〜3.8、好ましくは2.8〜3.8、更に好ましくは3.0〜3.3である。A1液中のTi元素に対するシュウ酸イオンのモル比が上記範囲にあることにより、Ba/Tiモル比が0.998〜1.002の略1のチタン酸バリウムを得易くなる。また、A1液中のTi元素の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.04〜3.0mol/L、特に好ましくは0.2〜0.6mol/Lである。A1液中のシュウ酸イオンの濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜7.0mol/L、特に好ましくは0.6〜1.4mol/Lである。
【0025】
本発明の第一の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るB1液は、塩化バリウム水溶液である。B1液中のBa元素の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜6.5mol/L、特に好ましくは0.5〜1.3mol/Lである。
【0026】
本発明の第一の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A1液及びB1液を反応容器に供給することにより、反応容器内で、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行う。
【0027】
このとき、反応容器へのTi元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比(Ba元素の供給速度/Ti元素の供給速度)は、0.5〜3.0、好ましくは1.0〜1.5である。反応容器へのTi元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比が、上記範囲にあることにより、Ba/Tiモル比が0.998〜1.002の略1のチタン酸バリウムを得ることができる。
【0028】
本発明の第一の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A1液中のTi元素の濃度、B1液中のBa元素の濃度、A1液の供給速度(L/時間)及びB1液の供給速度(L/時間)を適宜選択することにより、反応容器へのTi元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比を調節することができる。
【0029】
なお、本発明において、反応容器への、Ti元素の供給速度とは、単位時間当たりのTi元素の供給モル数(モル/時間)を指し、また、Ba元素の供給速度とは、単位時間当たりのBa元素の供給モル数(モル/時間)を指し、シュウ酸イオンの供給速度とは、単位時間当たりのシュウ酸イオンの供給モル数(モル/時間)を指す。
【0030】
そして、本発明の第一の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A1液及びB1液を反応容器に供給しつつ、反応容器内で生成したシュウ酸バリウムチタニルの沈澱物を含有する反応液を、反応容器から排出する。このとき、反応容器に供給するA1液及びB1液の合計量と、反応容器から排出する反応液の量を、同量にすることが、安定した反応が行える点で好ましい。例えば、反応容器に、A1液をa1(L/時間)、B1液をb1(L/時間)の供給速度で供給しつつ、且つ反応容器から、反応液をa1+b1(L/時間)の排出速度で排出することが好ましい。
【0031】
また、本発明の第二の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、反応原料水溶液として、シュウ酸水溶液(A2液)と、四塩化チタン及び塩化バリウムを水に混合して得られる水溶液(B2液)と、を用いる形態である。
【0032】
本発明の第二の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るA2液は、シュウ酸水溶液である。A2液中のシュウ酸イオンの濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜7.0mol/L、特に好ましくは0.6〜1.4mol/Lである。
【0033】
本発明の第二の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るB2液は、四塩化チタン及び塩化バリウムを水に混合して得られる水溶液であるが、例えば、先ず四塩化チタンを水に混合し、次いで得られた水溶液に塩化バリウムを混合することや、塩化バリウム水溶液に四塩化チタンを混合することにより調製される。B2液中のTi元素に対するBa元素のモル比(Ba元素のモル数/Ti元素のモル数)は、0.5〜3.0、好ましくは1.0〜1.5である。B2液中のTi元素に対するBa元素のモル比が上記範囲にあることにより、Ba/Tiモル比が0.998〜1.002の略1のチタン酸バリウムを得ることができる。また、B2液中のTi元素の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.04〜4.0mol/L、特に好ましくは0.2〜0.8mol/Lである。B2液中のBa元素の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.08〜6.5mol/L、特に好ましくは0.4〜1.3mol/Lである。
【0034】
本発明の第二の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A2液及びB2液を反応容器に供給することにより、反応容器内で、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行う。
【0035】
このとき、反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比(シュウ酸イオンの供給速度/Ti元素の供給速度)は、2.0〜3.8、好ましくは2.8〜3.8、特に好ましくは3.0〜3.3である。反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比が、上記範囲にあることにより、Ba/Tiモル比が0.998〜1.002の略1のチタン酸バリウムを得ることができる。
【0036】
本発明の第二の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A2液中のシュウ酸イオンの濃度、B2液中のTi元素の濃度、A2液の供給速度(L/時間)及びB2液の供給速度(L/時間)を適宜選択することにより、反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比を調節することができる。
【0037】
そして、本発明の第二の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A2液及びB2液を反応容器に供給しつつ、反応容器内で生成したシュウ酸バリウムチタニルの沈澱物を含有する反応液を、反応容器から排出する。このとき、反応容器に供給するA2液及びB2液の合計量と、反応容器から排出する反応液の量を、同量にすることが、安定な反応が行える点で好ましい。例えば、反応容器に、A2液をa2(L/時間)、B2液をb2(L/時間)の供給速度で供給しつつ、且つ反応容器から、反応液をa2+b2(L/時間)の排出速度で排出することが好ましい。
【0038】
また、本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法は、反応原料水溶液として、シュウ酸水溶液(A3液)と、塩化バリウム水溶液(B3液)と、四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(C3液)と、を用いる形態である。
【0039】
本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るA3液は、シュウ酸水溶液である。A3液中のシュウ酸イオンの濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜7.0mol/L、特に好ましくは0.6〜1.4mol/Lである。
【0040】
本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るB3液は、塩化バリウム水溶液である。B3液中のBa元素の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.1〜6.5mol/L、特に好ましくは0.5〜1.3mol/Lである。
【0041】
本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法に係るC3液は、四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液である。C3液中のTi元素の濃度は、特に制限されないが、好ましくは0.04〜6.0mol/L、特に好ましくは0.2〜3.0mol/Lである。
【0042】
本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A3液、B3液及びC3液を反応容器に供給することにより、反応容器内で、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行う。
【0043】
このとき、反応容器へのTi元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比(Ba元素の供給速度/Ti元素の供給速度)は、0.5〜3.0、好ましくは1.0〜1.5である。反応容器へのTi元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比が、上記範囲にあることにより、Ba/Tiモル比が0.998〜1.002の略1のチタン酸バリウムを得ることができる。また、反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比(シュウ酸イオンの供給速度/Ti元素の供給速度)は、2.0〜3.8、好ましくは2.8〜3.8である。反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比が、上記範囲にあることにより、Ba/Tiモル比が0.998〜1.002の略1のチタン酸バリウムを得ることができる。
【0044】
本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A3液中のシュウ酸イオンの濃度、B3液中のBa元素の濃度、C3液中のTi元素の濃度、A3液の供給速度(L/時間)、B3液の供給速度(L/時間)及びC3液の供給速度(L/時間)を適宜選択することにより、反応容器へのTi元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比及び反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比を調節することができる。
【0045】
そして、本発明の第三の形態のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、A3液、B3液及びC3液を反応容器に供給しつつ、反応液を反応容器から排出する。このとき、反応容器に供給するA3液、B3液及びC3液の合計量と、反応容器から排出する反応液の量を、同量にすることが好ましい。例えば、反応容器に、A3液をa3(L/時間)、B3液をb3(L/時間)、C3液をc3(L/時間)の供給速度で供給しつつ、且つ反応容器から、反応液をa3+b3+c3(L/時間)の排出速度で排出することが好ましい。
【0046】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を、例えば、図1で示すオーバーフロー方式の反応容器を用いて行うことができる。図1は、オーバーフロー方式の反応容器の模式的な断面図である。図1中、オーバーフロー方式の反応容器1は、反応容器の側壁上部に取り付けられているオーバーフロー管2を有する。そして、オーバーフロー方式の反応容器1では、オーバーフロー管2が反応液の排出口となるため、反応液3の液面4の高さは、常に、オーバーフロー管2の取り付け位置の高さとなり、反応原料水溶液を供給した分だけ、反応液3がオーバーフロー管2からオーバーフローして、オーバーフロー方式の反応容器1から排出される。つまり、オーバーフロー方式の反応容器1では、反応容器への反応原料水溶液の供給量と、反応容器からの反応液の排出量を、常に同量にすることができる。よって、オーバーフロー方式の反応容器を用いれば、反応原料水溶液を反応容器に供給しつつ、反応液を反応容器から排出することができる。なお、図1では、オーバーフロー方式の反応容器1は、実際には、他に、例えば、撹拌装置、加熱装置、反応原料の供給管等を有するが、説明の都合上、反応容器の輪郭のみ記載し、他の記載を省略した。
【0047】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行うための反応容器は、オーバーフロー方式の反応容器に限定されず、他には、例えば、撹拌装置が内部に設置され、反応原料水溶液の供給量が調節できるポンプ等が付設されている供給管及び反応液の排出量が調節できる弁等が付設されている排出管が取り付けられている密閉式反応容器或いは撹拌装置が内部に設置され、反応原料水溶液の供給量が調節できるポンプ等が付設されている供給管及び反応液からポンプ等で一定速度で排出させる排出管が取り付けられている密閉式反応容器等が挙げられる。
【0048】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法において、反応液の温度、つまり、反応温度は、50〜90℃、好ましくは50〜70℃である。
【0049】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法において、生成したシュウ酸バリウムチタニルの滞留時間は、好ましくは1〜60分間、特に好ましくは10〜30分間である。生成したシュウ酸バリウムチタニルの滞留時間が上記範囲にあることにより、全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さいという効果を工業的に有利に高めることができる。一方、滞留時間が上記範囲未満だと、得られるシュウ酸バリウムチタニルのBa/Tiのモル比の制御が困難になりBa/Tiのモル比が0.998〜1.002の略1のものが得られ難くなる傾向があり、滞留時間が上記範囲を超えると、シュウ酸バリウムチタニルの生成速度が遅くなり、工業的に有利でない。
なお、本発明において、生成したシュウ酸バリウムチタニルの滞留時間とは、反応容器内の反応液の体積(L)を、反応容器からの反応液の排出速度(L/時間)で除した値(反応液の体積/反応液の排出速度)である。
【0050】
本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法では、反応容器から排出させた反応液を固液分離して、沈澱物を得、次いで、必要に応じて、洗浄及び乾燥して、シュウ酸バリウムチタニルを得ることができる。また、得られたシュウ酸バリウムチタニルを、必要に応じて粉砕してもよい。
【0051】
このようにして、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルは、全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さい。そして、全粒径に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さいシュウ酸バリウムチタニルを焼成することにより、粒径が小さいにもかかわらず結晶性が高いチタン酸バリウムが得られるので、優れた性能を有する誘電体セラミック材料が得られる。
【0052】
生成するシュウ酸バリウムチタニルの粒径と、Ba/Tiモル比のバラツキの関係について説明する。反応原料の反応により生成したシュウ酸バリウムチタニルを、篩を用いて、例えば、10μm以上50μm未満(第一グループ)、50μm以上90μm未満(第二グループ)、90μm以上130μm未満(第三グループ)、130μm以上170μm未満(第四グループ)、170μm以上210μm未満(第五グループ)の粒径範囲のグループに分ける。次いで、各グループのBa/Tiモル比を求める。次いで、各グループの粒径の中間値をそのグループの粒径として(例えば、第一グループの粒径の中間値は30μm、第二グループの粒径の中間値は70μm、第三グループの粒径の中間値は110μm、第四グループの粒径の中間値は150μm、第五グループの粒径の中間値は190μm)、横軸にプロットし、各グループのBa/Tiモル比を縦軸にプロットして、生成したシュウ酸バリウムチタニルの粒径と、Ba/Tiモル比の関係を示すグラフを作成する。
【0053】
図2には、上記のようにして作成されたシュウ酸バリウムチタニルの粒径と、Ba/Tiモル比の関係を示す模式的なグラフを示す。図2中、符号11は、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法により製造されたシュウ酸バリウムチタニルのグラフであり、符号12は、従来のバッチ式のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法により製造されたシュウ酸バリウムチタニルのグラフである。図2に示すように、従来の製造方法により製造されたシュウ酸バリウムチタニルは、粒径が小さい程Ba/Tiモル比が小さく、一方、粒径が大きい程Ba/Tiモル比が大きくなっている。それに対して、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法により製造されたシュウ酸バリウムチタニルは、全粒径範囲に亘ってBa/Tiモル比が一定、つまり、全粒径範囲に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さくなっている。
【0054】
また、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルのバルクのBa/Tiモル比は、0.998〜1.002であり、より1に近似するものがより好ましい。シュウ酸バリウムチタニルのバルクのBa/Tiモル比とは、シュウ酸バリウムチタニル全体のBa/Tiモル比の平均値を指す。つまり、生成したシュウ酸バリウムチタニルの篩分けをせずに、そのまま分析して得られるBa/Tiモル比である。
【0055】
本発明のチタン酸バリウムの製造方法は、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルを焼成することにより、チタン酸バリウムを得るチタン酸バリウムの製造方法である。なお、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い、シュウ酸バリウムチタニルを得る方法については、前述のとおりである。
【0056】
すなわち、本発明のチタン酸バリウムの製造方法は、シュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(A1液)と、塩化バリウム水溶液(B1液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルを、焼成することにより、チタン酸バリウムを得るチタン酸バリウムの製造方法である。
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法は、シュウ酸水溶液(A2液)と、四塩化チタン及び塩化バリウムを水に混合して得られる水溶液(B2液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルを、焼成することにより、チタン酸バリウムを得るチタン酸バリウムの製造方法である。
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法は、シュウ酸水溶液(A3液)と、塩化バリウム水溶液(B3液)と、四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(C3液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行い得られるシュウ酸バリウムチタニルを、焼成することにより、チタン酸バリウムを得るチタン酸バリウムの製造方法である。
【0057】
最終製品に含まれるシュウ酸由来の有機物は、材料の誘電特性を損なうとともに、セラミック化のための熱工程における挙動の不安定要因となるので好ましくい。従って、本発明では焼成によりシュウ酸バリウムチタニルを熱分解して目的とするチタン酸バリウムを得ると共に、シュウ酸由来の有機物を十分除去する必要がある。
【0058】
本発明のチタン酸バリウムの製造方法において、シュウ酸バリウムチタニルを焼成する際の焼成温度は、600〜1300℃、好ましくは700〜1200℃である。シュウ酸バリウムチタニルを焼成する際の焼成温度が上記範囲にあることにより、粒径のバラツキが小さく、高い結晶性を有したX線回折分析において単一相のチタン酸バリウムとなる。一方、焼成温度が上記範囲未満だと、X線回折分析において単一相のチタン酸バリウムが得られ難く、また、上記範囲を超えると、得られるチタン酸バリウムの粒径のバラツキが大きくなる傾向があり好ましくない。
また、焼成時間は、好ましくは2〜30時間、特に好ましくは5〜27時間である。また、焼成雰囲気は、特に制限されず、不活性ガス雰囲気下、真空雰囲気下、酸化性ガス雰囲気下、大気中のいずれであってもよく、或いは水蒸気を導入しながら前記雰囲気中で焼成を行ってもよい。
【0059】
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法では、シュウ酸バリウムチタニルの焼成を、焼成温度を変えた多段階の焼成で行ってもよい。また、粉体特性を均一にする目的で、一度焼成したものを粉砕し、次いで再焼成や再粉砕を行ってもよい。
【0060】
本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られるチタン酸バリウムを、必要に応じて、粉砕又は分級することができる。
【0061】
このようにして、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られるチタン酸バリウムの物性は、Ba/Tiのモル比が0.998〜1.002の略1であり、上述のとおり粒径が小さいものでも、結晶性が高いものである。
【0062】
更には、従来のシュウ酸バリウムチタニルを焼成して得られるチタン酸バリウムは、焼成後、各粒子が焼結等により接合した粗粒子として得られ易い(図6参照)が、本発明のチタン酸バリウムの製造方法によれば、各粒子が分散した形状で得られ易いため、従来のものに比べ、各粒子が焼結により結合された粗大粒子が少ない分散性にも優れたものになる(図3〜図5参照)。
【0063】
従って、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られるチタン酸バリウムは誘電体セラミックスとして、優れた性能を有する。
【0064】
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られるチタン酸バリウムには、必要により誘電特性や温度特性を調製する目的で、副成分元素含有化合物を本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られるチタン酸バリウムに添加して、副成分元素を含有させることができる。用いることができる副成分元素含有化合物としては、例えば、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luの希土類元素、Ba、Li、Bi、Zn、Mn、Al、Si、Ca、Sr、Co、Ni、Cr、Fe、Mg、Ti、V、Nb、Mo、W及びSnからなる群より選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物が挙げられる。
【0065】
副成分元素含有化合物は、無機物又は有機物のいずれであってもよい。例えば、前記の元素を含む酸化物、水酸化物、塩化物、硝酸塩、蓚酸塩、カルボン酸塩及びアルコキシド等が挙げられる。副成分元素含有化合物がSi元素を含有する化合物である場合は、酸化物等に加えて、シリカゾルや珪酸ナトリウム等も用いることができる。副成分元素含有化合物は1種又は2種以上適宜組み合わせて用いることができる。その添加量や添加化合物の組み合わせは、常法に従って行えばよい。
【0066】
チタン酸バリウムに副成分元素を含有させるには、例えば、チタン酸バリウムと副成分元素含有化合物を均一混合後、焼成を行えばよい。或いは、シュウ酸バリウムチタニルと副成分元素含有化合物を均一混合後、焼成を行ってもよい。
【0067】
本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られたチタン酸バリウムを用いて、例えば積層セラミックコンデンサを製造する場合には、先ず、チタン酸バリウムの粉末を、副成分元素を含め従来公知の添加剤、有機系バインダ、可塑剤、分散剤等の配合剤と共に適当な溶媒中に混合分散させてスラリー化し、シート成形を行う。これにより、積層セラミックコンデンサの製造に用いられるセラミックシートを得る。該セラミックシートから積層セラミックコンデンサを作製するには、先ず、該セラミックシートの一面に内部電極形成用導電ペーストを印刷する。乾燥後、複数枚の前記セラミックシートを積層し、厚み方向に圧着することにより積層体とする。次に、この積層体を加熱処理して脱バインダ処理を行い、焼成して焼成体を得る。さらに、該焼成体にNiペースト、Agペースト、ニッケル合金ペースト、銅ペースト、銅合金ペースト等を塗布し焼き付けて、積層セラミックコンデンサが得られる。
【0068】
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られたチタン酸バリウムの粉末を、例えばエポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂に配合して、樹脂シート、樹脂フィルム、接着剤等とすると、プリント配線板や多層プリント配線板等の材料、内部電極と誘電体層との収縮差を抑制するための共材、電極セラミック回路基板、ガラスセラミックス回路基板、回路周辺材料及び無機EL用の誘電体材料として用いることができる。
【0069】
また、本発明のチタン酸バリウムの製造方法を行い得られたチタン酸バリウムは、排ガス除去、化学合成等の反応時に使用される触媒や、帯電防止、クリーニング効果を付与する印刷トナーの表面改質材として好適に用いられる。
【実施例】
【0070】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0071】
(実施例1)
水2154gにシュウ酸2水和物250gを加えた水溶液にTiが2.56mol/Lの濃度である四塩化チタン水溶液332gを混合し、シュウ酸が0.79mol/L、Tiが0.26mol/Lであるシュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(A1液)を作製した。すなわち、A1液におけるTi元素に対するシュウ酸イオンのモル比は3.1である。また、塩化バリウム195gを水963gに溶解させ、Baが0.80mol/Lである塩化バリウム水溶液(B1液)を作製した。次いで、反応容器に純水を入れ55℃に保持し、攪拌下にA1液及びB1液をそれぞれ0.9L/時間、0.4L/時間の速度で反応容器に供給した。すなわち反応容器へのTi元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比は1.3であり、生成するシュウ酸バリウムチタニルの滞留時間は14分として反応を行った。
反応容器から排出させた反応液から、固液分離して、沈澱物を得、洗浄後、乾燥して、シュウ酸バリウムチタニルを得た。
得られたシュウ酸バリウムチタニルのBa/Tiモル比を測定するために、シュウ酸バリウムチタニルを焼成後、蛍光X線分析を行ったところ、バルクのBa/Tiモル比は1.001であった。
さらに、得られたシュウ酸バリウムチタニルを、篩を用いて、45μm以上75μm未満(第一グループ)、75μm以上100μm未満(第二グループ)、100μm以上150μm未満(第三グループ)、150μm以上(第四グループ)の粒径範囲のグループに分け、バルクのBa/Tiモル比の測定方法と同様の方法で第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比を求めた。第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比はそれぞれ1.001、1.001であった。
得られたシュウ酸バリウムチタニルのうち、篩分けする前のものを1000℃で21時間焼成し、チタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムについて、結晶性の指標であるc軸とa軸の長さの比(c軸/a軸比)をXRDによって測定したところ1.011であり、BET法による比表面積を測定したところ1.2m/gであった。また、得られたチタン酸バリウムのSEM写真を図3に示す。
【0072】
(実施例2)
シュウ酸2水和物250gを水2628gに溶解させ、シュウ酸が0.89mol/Lであるシュウ酸水溶液(A2液)を作製した。水963gに塩化バリウム195gを加えた水溶液にTiが2.56mol/Lの濃度である四塩化チタン水溶液を332g混合し、塩化バリウムが0.63mol/L、Tiが0.53mol/Lである塩化バリウム及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(B2液)を作製した。すなわち、B2液におけるTi元素に対するBa元素のモル比は1.3である。次いで、反応容器に純水を入れ55℃に保持し、攪拌下にA2液及びB2液をそれぞれ1.0L/時間、0.5L/時間の速度で反応容器に供給した。すなわち反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比は3.1であり、生成するシュウ酸バリウムチタニルの滞留時間は12分として反応を行った。
反応容器から排出させた反応液から、固液分離して、沈澱物を得、洗浄後、乾燥して、シュウ酸バリウムチタニルを得た。
得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成後、蛍光X線分析を行ったところ、バルクのBa/Tiモル比は0.998であった。
更に、得られたシュウ酸バリウムチタニルを、篩を用いて、45μm以上75μm未満(第一グループ)、75μm以上100μm未満(第二グループ)、100μm以上150μm未満(第三グループ)、150μm以上(第四グループ)の粒径範囲のグループに分け、バルクのBa/Tiモル比の測定方法と同様の方法で第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比を求めた。第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比はそれぞれ0.997、0.998であった。
得られたシュウ酸バリウムチタニルのうち篩分けする前のものを1000℃で21時間焼成し、チタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムのXRDによるc軸/a軸比が1.010であり、BET法による比表面積が1.5m/gであった。また、得られたチタン酸バリウムのSEM写真を図4に示す。
【0073】
(実施例3)
シュウ酸2水和物250gを水2628gに溶解させ、シュウ酸が0.89mol/Lであるシュウ酸水溶液(A3液)を作製した。塩化バリウム195gを水963gに溶解させ、Baが0.80mol/Lである塩化バリウム水溶液(B3液)を作製した。Tiが2.56mol/Lの濃度である四塩化チタン水溶液(C3液)を332g用意した。次いで、反応容器に純水を入れ55℃に保持し、攪拌下にA3液、B3液及びC3液をそれぞれ1.0L/時間、0.4L/時間、0.1L/時間の速度で反応容器に供給した。すなわち反応容器へのTi元素の供給速度に対するシュウ酸イオンの供給速度の比は3.1であり、Ti元素の供給速度に対するBa元素の供給速度の比は1.3であり、生成するシュウ酸バリウムチタニルの滞留時間は12分として反応を行った。
反応容器から排出させた反応液から固液分離して、沈澱物を得、洗浄後、乾燥して、シュウ酸バリウムチタニルを得た。
得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成後、蛍光X線分析を行ったところ、バルクのBa/Tiモル比は0.999であった。
更に、得られたシュウ酸バリウムチタニルを、篩を用いて、45μm以上75μm未満(第一グループ)、75μm以上100μm未満(第二グループ)、100μm以上150μm未満(第三グループ)、150μm以上(第四グループ)の粒径範囲のグループに分け、バルクのBa/Tiモル比の測定方法と同様の方法で第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比を求めた。第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比はそれぞれ0.998、0.999であった。
得られたシュウ酸バリウムチタニルのうち篩分けする前のものを1000℃で21時間焼成し、チタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムのXRDによるc軸/a軸比が1.010であり、BET法による比表面積が1.4m/gであった。また、得られたチタン酸バリウムのSEM写真を図5に示す。
【0074】
(比較例1)
バッチ式反応容器を用意し、55℃にした水1400gにシュウ酸2水和物325gを溶解させ、シュウ酸が1.73mol/Lであるシュウ酸水溶液(A11液)を作製した。水1830gに塩化バリウム325gを加えた水溶液にTiが2.6mol/Lの濃度である四塩化チタン水溶液を630g混合し、塩化バリウムが0.55mol/L、Tiが0.52mol/Lである塩化バリウム及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(B11液)を作製した。すなわち、B11液におけるTi元素に対するBa元素のモル比は1.1である。次いで、55℃にしたA11液に撹拌下にB11液を0.7L/時間の速度で滴下して反応容器に供給した。すなわちB11液滴下完了時の反応容器内のTi元素に対するシュウ酸イオンの比は2.1である。
0.5時間熟成した後、反応液を、固液分離して、沈澱物を得、洗浄後、乾燥して、シュウ酸バリウムチタニルを得た。
得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成後、蛍光X線分析を行ったところ、バルクのBa/Tiモル比は0.999であった。
更に、得られたシュウ酸バリウムチタニルを、篩を用いて、45μm以上75μm未満(第一グループ)、75μm以上100μm未満(第二グループ)、100μm以上150μm未満(第三グループ)、150μm以上(第四グループ)の粒径範囲のグループに分け、バルクのBa/Tiモル比の測定方法と同様の方法で第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比を求めた。第一グループ、第三グループのBa/Tiモル比はそれぞれ0.997、1.000であった。
得られたシュウ酸バリウムチタニルのうち篩分けする前のものを1000℃で21時間焼成し、チタン酸バリウムを得た。得られたチタン酸バリウムのXRDによるc軸/a軸比が1.009であり、BET法による比表面積が1.1m/gであった。また、得られたチタン酸バリウムのSEM写真を図6に示す。
【0075】
【表1】

【0076】
表1から、比較例1より、従来の製造方法により製造されたシュウ酸バリウムチタニルは、粒径が小さい程Ba/Tiモル比が小さく、一方、粒径が大きい程Ba/Tiモル比が大きくなっている。それに対して、実施例1、実施例2、実施例3より、本発明のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法により製造されたシュウ酸バリウムチタニルは、全粒径範囲に亘ってBa/Tiモル比が一定、つまり、全粒径範囲に亘ってBa/Tiモル比のバラツキが小さくなっている。
【0077】
【表2】

1)表中の分散性の評価は、10000倍のSEM写真において、粒子が焼結により結合された5μmの粒子径の存在個数が3個未満である場合には「○」、3個以上である場合には「×」として評価した。
【0078】
表2から、得られたチタン酸バリウムに関して、実施例1、実施例2、実施例3では、比較例1よりも比表面積が大きい、すなわち粒径が小さいものが得られている。また、実施例1、実施例2、実施例3では、比較例1よりもc軸/a軸比が大きい、すなわち結晶性が高いものが得られている。すなわち、表2より、実施例1、実施例2、実施例3で得られたチタン酸バリウムは、従来の製造方法により製造されたチタン酸バリウムよりも、粒径が小さく、結晶性が高いものが得られているといえる。また、本発明の製造方法で得られるチタン酸バリウムは、粒子が焼結により結合された粗大粒子が少ない分散性等の粉体特性に優れているものであることが分かる。
【符号の説明】
【0079】
1 オーバーフロー方式の反応容器
2 オーバーフロー管
3 反応液
4 液面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュウ酸及び四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(A1液)と、塩化バリウム水溶液(B1液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うことを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項2】
シュウ酸水溶液(A2液)と、四塩化チタン及び塩化バリウムを水に混合して得られる水溶液(B2液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うことを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項3】
シュウ酸水溶液(A3液)と、塩化バリウム水溶液(B3液)と、四塩化チタンを水に混合して得られる水溶液(C3液)と、を反応容器に供給しつつ、反応液を該反応容器から排出しながら、シュウ酸バリウムチタニルの生成反応を行うことを特徴とするシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項4】
生成するシュウ酸バリウムチタニルの前記反応容器内の滞留時間が、1〜60分間であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項記載のシュウ酸バリウムチタニルの製造方法を行い得られたシュウ酸バリウムチタニルを焼成することを特徴とするチタン酸バリウムの製造方法。
【請求項6】
焼成温度が600〜1300℃であることを特徴とする請求項5記載のチタン酸バリウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−202610(P2010−202610A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−51878(P2009−51878)
【出願日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【出願人】(000230593)日本化学工業株式会社 (296)
【Fターム(参考)】