説明

シュレッダーダストの溶融処理方法

【課題】シャフト炉式ガス化溶融炉でシュレッダーダストを溶融処理する際に、タール分の滞留を防止するとともに炉内雰囲気温度の低下を防止して確実に安定した操業ができるようにする。
【解決手段】炉内の被処理物充填層内に空気又は酸素を吹き込む上段羽口3a、3bの位置をストックラインから下方の位置で、且つストックラインからストックラインと下段羽口2との距離の40%未満の位置に1段以上設置するとともに、同様に40%〜60%の位置に1段以上設置し、朝顔及びシャフト部の炉内雰囲気を全域に亘り、500℃以上に維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シュレッダーダストをシャフト炉式ガス化溶融炉にて溶融処理する際にタール分の滞留を抑えて安定して操業できるシュレッダーダストの溶融処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄された自動車、家電製品等の解体処理時には、シュレッダマシン等により細かく裁断されたシュレダーダストが発生する。シュレダーダストの処理方法として、シャフト炉式ガス化溶融炉においてシュレッダーダストを溶融処理して再資源化する方法が知られている。この溶融処理は、シャフト炉式ガス化溶融炉へシュレッダーダスト、その他の廃棄物とともにコークス、石灰石等の副原料を投入し、炉底部の下段羽口から空気及び酸素が吹き込まれ、シャフト部上部での乾燥帯で廃棄物を乾燥させ、可燃性物質をシャフト部下部から朝顔部の熱分解帯で熱分解し、熱分解残渣を熱分解帯の下方の燃焼溶融帯で燃焼溶融するものである。
【0003】
シュレッダーダストはウレタンなどのプラスチック系材料を多く含む。そのため、シュレッダーダストをシャフト炉式ガス化溶融炉に投入すると、乾燥帯の上方の温度が500℃以下となっているので、タール分の発生割合が高くなる。発生したタール分は、固液状化し乾燥帯の上方に滞留し、投入されている廃棄物や炉壁に付着して通気抵抗層となる結果、操業が不安定になる。また、排ガスを排気するガス管内にタール分が付着してガス管を閉塞させるという問題も発生する。
【0004】
そこで、本出願人は、シュレッダーダストの溶融処理方法において、発生するタール分が乾燥帯の上方に滞留するのを防止する技術を提案した(特許文献1参照)。
【0005】
図4は前記特許文献1のシュレッダーダストの溶融処理方法において、(a)は羽口の位置を示し、(b)は炉内雰囲気温度の変化を示す図である。
【0006】
図4(a)において、シャフト炉式ガス化溶融炉1は、被処理物が上下にシール弁を備えた装入装置8から廃棄物が炉内に投入され、下段羽口2からエア+酸素が吹き込まれて溶融処理される。炉内の温度は温度計5、炉頂温度計6、耐火物内の温度は耐火物温度計7で計測される。シャフト炉式ガス化溶融炉1のストックラインに近接し、且つ、ストックラインを越えない位置に配置した羽口4から、ストックライン近傍の炉内雰囲気温度が550℃〜650℃になるように炉内の被処理物充填層内に空気又は酸素を吹き込むものである。
【特許文献1】特開2003−247708号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前記特許文献1により操業した場合、図4(b)に示すように、炉床部の燃焼溶融帯が約1800℃、ソリューションロス反応帯が約1000℃と高いが、朝顔から上方のシャフト部の熱分解帯・乾燥帯においては、ごみ充填上端部は600℃以上あっても、ソリューションロス反応の吸熱により一旦550℃未満に温度が低下する部分があった。その結果、ストックライン近傍は羽口からの送風により550〜650℃でタール分の滞留の防止はできても、ストックライン近傍より下部でタールが滞留し残渣が炉内で凝着し、棚つりをおこす結果、荷下がりが不良となり、処理量が低下する場合があった。また、棚つりが解消した際にはチャーが飛散し、後流の燃焼室温度が急激に上昇し、燃焼室内にクリンカが生成するため、炉を停止して定期的に除去する必要があった。
【0008】
そこで、本発明は、シャフト炉式ガス化溶融炉でシュレッダーダストを溶融処理する際に、タール分の滞留を防止するとともに炉内雰囲気温度の低下を防止して確実に安定した操業ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のシャフト炉式ガス化溶融炉によるシュレッダーダストの溶融処理方法は、シャフト部又は朝顔部においてソリューションロス反応の吸熱により炉内雰囲気温度が低下する領域又はそれよりも下方から、空気又は酸素を吹き込んで炉内雰囲気を全域に亘り500℃以上として、温度の部分的な低下(500℃未満)を防止するものである。
【0010】
前記特許文献1のシュレッダーダストの溶融処理方法において、操業が不安定となる現象が見られた原因を究明したところ、(1)ストックライン近傍の羽口よりも上方で完全に乾留できなかった一部のシュレッダーダストが炉内を降下した際に、ソリューションロス反応の吸熱により温度の低下したガスでは固体の昇温が進まず、低温領域がシャフト部あるいは朝顔部に形成さることがわかった。この低温領域は、揮発しきれないタール分が滞留して炉内チャー(乾留残渣)とまじって通気抵抗層となったり、(2)前記低温領域で熱分解速度が低下することにより体積収縮が抑制され、荷下がりが不良となったりすることが分かった。
【0011】
そこで、ソリューションロス反応の吸熱による部分的な低温領域が形成されるのを防止するため、雰囲気温度が低下する領域またはそれよりも下方に、羽口を設置し空気又は酸素を吹込み炉内のタール、ガス、乾留残渣中の可燃分を燃やすことにより、溶融炉内雰囲気温度を500℃以上に確保することにより揮発しきれない、タール分の滞留による通気抵抗層の形成を防止し、また、熱分解速度が低下することにより体積収縮が抑制されて荷下がりが不良となることを防止する。
【0012】
そのため、本発明は、炉内の被処理物充填層内に空気又は酸素を吹き込む上段羽口の位置をストックラインから下方の位置で、且つストックラインからストックラインと下段羽口との距離の40%未満の位置に1段以上設置するとともに、同様に40%〜60%の位置に1段以上設置し、朝顔及びシャフト部の炉内雰囲気を全域に亘り、500℃以上に維持する。なお、ストックラインは、定常運転時に、炉内に投入される被処理物で形成される被処理物充填層の表面レベルであり、下段羽口は炉床部に設けられるエア+酸素を吹き込む羽口である。
【0013】
図3のグラフに示すようにシャフト炉式ガス化溶融炉では上段羽口から吹き込む酸素量を増やすと炉内の温度が上昇することがわかった。従って上記上段羽口から吹き込む酸素量は全体に吹き込む酸素量の50体積%以上とし、シュレッダーダストの処理割合を被処理量の80質量%以下にして、温度の部分的な低下(500℃未満)を防止することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、シャフト炉式ガス化溶融炉でシュレッダーダストの溶融処理する際に、ソリューションロス反応の吸熱による温度低下領域に位置する羽口から酸素又は空気を送風することにより、溶融炉炉内雰囲気を500℃以上とすることができるので、タール分の滞留による通気抵抗層の形成を防止することができ、炉内の差圧は低下した。また、熱分解速度の低下を防止できるので、安定操業が可能となる。さらに、詰まり、荷下がりが安定し、処理量が増加するとともに、燃焼室温度変動は小さくなり、燃焼室内のクリンカの生成が大きく抑制され、クリンカ除去作業の負荷も低くなった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の実施例について図を参照して説明する。図1は本発明のシュレッダーダストの溶融処理方法において、(a)は羽口の位置を示し、(b)は炉内雰囲気温度の状態を示す図、図2は本発明において上部羽口位置における水平断面部の羽口構成を示す図で、前述の図4と同一構成には同一符号を付す。
【0016】
上段羽口3aはストックラインから下方の方向で、充填層全体の高さ(下段羽口〜ストックラインの距離)Lの0%から40%の距離(L)に少なくとも1段以上設置し、上段羽口3bは、同様に40%超の距離(L超)から60%の距離(L+L)に少なくとも1段以上設置する。上段羽口3a、3bから吹き込む空気や酸素から換算した上段羽口部酸素量は、総酸素量の50体積%以上とする。
【0017】
図1(a)に示すように、酸素富化空気を吹き込む下段羽口2からシャフト炉式ガス化溶融炉1でシュレッダーダストを溶融処理する際に、低温領域の形成を防止するために、ソリューションロス反応の吸熱により炉内雰囲気温度が低下する領域近傍に配置された羽口3a、3bから空気又は酸素を吹き込む。
【0018】
図1(b)に示すように、炉内雰囲気温度は、炉床部の燃焼溶融帯が約1800℃、ソリューションロス反応帯が約1000℃、朝顔部1aから上方のシャフト部1bは熱分解帯・乾燥帯となり、ソリューションロス反応により温度が低下していくが、羽口3a、3bから空気又は酸素富化空気を吹き込むことによりシャフト部1bの炉内雰囲気温度が昇温して熱分解帯・乾燥帯を500℃以上の範囲に維持することができる。なお、今回はシャフト中間部、朝顔上部から温度計5を差し込み複数点で温度測定を行い、平均したが、測定箇所はシャフト部、朝顔部であればどこでもよい。また、温度実測結果と代表点、例えば耐火物内温度を測定する耐火物温度計7や炉頂部の温度計6の測定値との相関を予め把握し、間接的に耐火物温度や炉頂部のガス温度で管理・制御しても良い。
【実施例】
【0019】
表1に本実施例で溶融処理したA社のシュレッダーダストの性状を示す。
【0020】
表2に同B市の一般ごみの性状を示す。
【表1】

【表2】

【0021】
表1に示すシュレッダーダストに表2に示す一般ごみを混合した時の溶融処理条件及び処理結果を表3に示す。
【表3】

【0022】
本実施例では、シャフト部、朝顔部の温度が550℃〜650℃に維持され、タール分の滞留が防止され、棚つりを起こすことなく安定した操業を行うことができた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a)は本発明における羽口の位置を示し、(b)は炉内雰囲気温度の状態を示す図である。
【図2】本発明において上部羽口位置における水平断面部の羽口構成を示す図である。
【図3】上段羽口から吹き込む酸素割合と平均溶融炉内温度との関係を示すグラフである。
【図4】従来のシュレッダーダストの溶融処理方法において、(a)は羽口の位置を示し、(b)は炉内雰囲気温度の変化を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
1:シャフト炉式ガス化溶融炉
1a:朝顔部
1b:シャフト部
2:下段羽口
3a、3b:上部羽口
4:上部羽口
5:温度計
6:炉頂部温度計
7:耐火物温度
8:装入装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下段羽口を設けた炉床部、朝顔及びシャフト部を有するシャフト炉式ガス化溶融炉によるシュレッダーダストの溶融処理方法において、
炉内の被処理物充填層内に空気又は酸素を吹き込む上段羽口の位置をストックラインから下方の位置で、且つストックラインからストックラインと下段羽口との距離の40%未満の位置に1段以上設置するとともに、同様に40%〜60%の位置に1段以上設置し、朝顔及びシャフト部の炉内雰囲気を全域に亘り、500℃以上に維持することを特徴とするシュレッダーダストの溶融処理方法。
【請求項2】
上記上段羽口から吹き込む酸素量を、全体に吹き込む酸素量の50体積%以上とすることを特徴とする請求項1記載のシュレッダーダストの溶融処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−70033(P2008−70033A)
【公開日】平成20年3月27日(2008.3.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−248425(P2006−248425)
【出願日】平成18年9月13日(2006.9.13)
【出願人】(306022513)新日鉄エンジニアリング株式会社 (897)
【Fターム(参考)】