説明

シラン変性エチレン系ポリマーからなる成形体の製造方法および、樹脂組成物

【課題】安価で長期耐熱水性に優れるシラングラフトエチレン系ポリマーからなる成形体の製造法および、かかる用途に供せられる樹脂組成物を提供する。
【解決手段】
パイプや電線被覆材料を成形する際、ビニルシラン化合物をグラフト反応させる為に使用する過酸化物と、ラジカルを補足する耐熱安定剤を同時に添加してもビニルシラン化合物のグラフト反応率を減じることない成形体の製造方法および組成物について規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安価で長期耐熱性に優れ、焼け焦げ等の異物混入も少ないシラングラフト エチレン系ポリマーからなる成形体の成形法および該成形用樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィンからなる成型体のうち、特に耐熱性や耐水性が要求されるパイプや等の電線被覆材料の分野では、ポリオレフィンに架橋点となるシラン化合物をグラフトし、成型後に架橋させることが行われている。
【0003】
特開2000-343583号公報(特許文献1)には、ポリエチレン、ビニルシラン化合物を含
むマスターバッチと、過酸化物、シラノール縮合触媒とを溶融混錬し、押出機にて管状に押出し成型した後、ついで水分存在下でシラノール架橋させる技術が記載されている。過酸化物は、ビニルシランをポリエチレンにグラフトさせるためのラジカル発生剤として用いられている。
【0004】
ところで、パイプ・電線被覆材などの成形品は、製品の長期耐久性も要求される。長期耐久性を向上させるためには、フェノール系・リン系に代表される酸化防止剤を配合することが広く行われている。酸化防止剤は他の添加剤と同じく、通常押出ないし射出成型機で樹脂を溶融混錬する際に添加される。
【0005】
しかしながら本発明者らの検討に拠れば、ポリエチレンを溶融混錬する際に過酸化物とフェノール系の酸化防止剤が共存すると、過酸化物から発生するラジカルを酸化防止剤がトラップしてしまい、グラフト化が十分におきないことがわかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000-343583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような従来技術に伴う問題を解決しようとするものであって、シラングラフト体の製造時にビニルシラン化合物をグラフトさせる過酸化物と、ラジカルを補足する耐熱安定剤を同時に添加してもビニルシラン化合物のグラフト率を減じない組成物、ならびに該組成物を用いて成型体を成型する方法に関する。
【0008】
本発明では過酸化物と硫黄系耐熱安定剤を併用し、グラフト反応と成形を同時に行う事で効率的に安価で高性能のグラフト化PE成形品が製造できる。本発明はとりわけパイプや被覆材料の成型に好適に用いることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討の結果、硫黄系酸化防止剤を用いる事で過酸化物と同時に添加してもグラフト反応の進行を妨げる事が無く、製品の長期耐熱性を付与する事ができることを見出して本発明を完成させた。すなわち本発明は、
(A)ポリエチレン系樹脂 100重量部に対して
(B)過酸化物 0.01〜0.50重量部
(C)ビニルシラン化合物 0.1〜5.0重量部
(D)硫黄系酸化防止剤0.05〜1.0重量部
からなる樹脂組成物、ならびに同樹脂組成物を、成形機を用いて溶融混練し、ビニルシラン化合物がグラフトされたエチレン系ポリマーからなる成形品を得る方法、に関する。
【0010】
ビニルシラン化合物はポリエチレン系樹脂の過酸化物によるラジカル生成によりグラフト反応で、グラフト化する。グラフトしたビニルシラン化合物は水架橋処理により、架橋反応をおこし、網目構造を有する高分子量体となる事で高強度化される。さらに長期の耐熱性は、酸化反応による劣化を抑制する酸化防止剤により達成される。特に、硫黄系酸化防止剤は、グラフト反応を阻害しないので、上記過酸化物と同時に添加できる。なお、長期の耐熱性はフェノール系、リン系等の酸化防止剤でも付与する事ができるが、フェノール系酸化防止剤と過酸化物を同時に用いて押出混練すると過酸化物がフェノール系酸化防止剤と反応し、ビニルシラン化合物のグラフト反応が進行しないことがある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシラングラフトエチレン系ポリマーの成形方法によれば、特定の酸化防止剤を用いることで溶融混錬時に過酸化物の作用を阻害せずに酸化防止剤を配合できる。よって本発明で得られるシラングラフトエチレン系ポリマーは、架橋点となるビニルシラン化合物が十分にグラフトされ、かつ酸化防止剤を配合しているため長期耐久性が優れる。
【0012】
この製法にて製造されたパイプや電線は耐熱性や耐久性を要求される用途で好適に使用する事が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について、説明する。
【0014】
本発明に係る成形品の製造方法は、以下の原料を成形機内で溶融混練後、押出成形することを特徴とする。
【0015】
すなわち、(A)ポリエチレン系樹脂 100重量部に対して
(B)過酸化物 0.01〜0.50重量部
(C)ビニルシラン化合物 0.1〜5.0重量部
(D)硫黄系酸化防止剤0.05〜1.0重量部
からなる樹脂組成物を、成形機を用いて溶融混練し、成形することで、ビニルシラン化合物をポリエチレン系樹脂にグラフトしながら 成形品を得る方法である。
【0016】
本発明では、上記樹脂組成物を構成する成分を一度に成形機へ投入することが好ましい。このようにすれば、汎用の成形機を用いることが可能であり、工程上の操作を極めて簡略化できるため、製造効率を高めることが可能となる。
【0017】
以下に、本発明で使用される樹脂組成物について詳しく解説する。
【0018】
樹脂組成物
<<ポリエチレン系樹脂>>
本発明で使用されるポリエチレン系樹脂は、その構成成分種や構成比、構成方法を特に限定するものではないが、通常は後述するポリエチレン系樹脂を必須成分として、ポリエチレン系樹脂単体もしくは、2種以上のエチレン系重合体をブレンドすることによって調
製される。
【0019】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体、エチレンと炭素原子数3〜20のα−オレフィン、たとえばプロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル
-1-ペンテン、1−ヘプテン、1-オクテン、1−デセンなどのα−オレフィンとの共重合体などが挙げられる。
【0020】
2種以上のエチレン系樹脂を組合わせる場合、HDPEとLLDPEとの組合わせが望ましい。
【0021】
次に、本発明に係るポリエチレン系樹脂の製造方法について説明する。
【0022】
ポリエチレン系樹脂の製造方法は公知の触媒、例えば特開昭60−88016号公報等に記載のいわゆるチーグラー触媒または特開平6−65443号公報等に記載のいわゆるメタロセン触媒等を用いて、エチレン、必要に応じて炭素原子数3〜20のα−オレフィンとを共重合させる事により生成製造する事ができる。
【0023】
また、重合を円滑に進行させる目的で、帯電防止剤やアンチファウリング剤などを併用したり、担体上に担持しても良い。重合は溶解重合、懸濁重合などの液相重合法または気相重合法のいずれにおいても実施できる。
【0024】
液相重合法において用いられる不活性炭化水素媒体として具体的には、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、灯油などの脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;エチレンクロリド、クロルベンゼン、ジクロロメタンなどのハロゲン化炭化水素またはこれらの混合物などを挙げることができ、オレフィン自身を溶媒として用いることもできる。
【0025】
また、このようなオレフィン重合用触媒を用いた重合温度は、通常-50〜+250℃
、好ましくは0〜200℃、特に好ましくは60〜170℃の範囲である。重合圧力は、通常常圧〜100kg/cm2 、好ましくは常圧〜50kg/cm2の条件下であり、重
合反応は、回分式(バッチ式)、半連続式、連続式のいずれの方法においても行うことができる。このうち、バッチ式で行うことが好ましい。重合は気相または重合粒子が溶媒中に析出しているスラリー相で行う。また、スラリー重合または気相重合の場合、重合温度は好ましくは75〜90℃、より好ましくは80〜85℃である。この温度範囲で重合することで、より組成分布が狭いポリエチレン系樹脂が得られる。
【0026】
得られた重合体は数十〜数千μmφ程度の粒子状である。
【0027】
また、重合器が二つからなる連続式で重合した場合には、良溶媒に溶解後に貧溶媒に析出させる、特定の混練機で十分に溶融混練するなどの操作が必要となる。
【0028】
また、ポリエチレン系樹脂は、通常、MFR 0.01〜20g/10min 好ましくは 0.1〜10g/10minのものが用いられる。この範囲のMFRであれば、成形
時に樹脂圧力が低く済み、また溶融押出時に所望の形状に保つことができる。
【0029】
剛性の指標となる密度については、通常、905kg/m3〜960kg/m3、好ましくは915kg/m3〜950kg/m3の範囲にあるものが用いられる。密度がこの範囲にあると、剛直と柔軟性がバランスよく、パイプなどの成形体としての施工性が高く、また、十分な強度の成形体が得られる。
【0030】
なお2種以上のエチレン系重合体を使用する場合、上記MFRおよび密度範囲となるように調整される。
【0031】
重合反応により得られた重合体粒子は、以下の方法によりペレット化してもよい。
[1] エチレン系重合体粒子および所望により添加される他の成分を、押出機、ニーダ
ー等を用いて機械的にブレンドして、所定の大きさにカットする方法。
[2] エチレン系重合体および所望により添加される他の成分を適当な溶媒(たとえば
;ヘキサン、ヘプタン、デカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンおよびキシレン等の炭化水素溶媒)に溶解し、次いで溶媒を除去、しかる後に押出機、ニーダー等を用いて機械的にブレンドして、所定の大きさにカットする方法。
<<過酸化物>>
成形時にラジカル発生源として用いる過酸化物はジクミルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5,−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、 2,5−ジメチル−2,5,ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、ビス−(tert-
ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼン等の有機過酸化物が挙げられる。これらの化合物の中では2,5−ジメチル−2,5,−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン、 2,5−ジメチル−2,5,ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3、ビス−(tert-ブチ
ルジオキシイソプロピル)ベンゼン等が好ましい
過酸化物は、(A)ポリエチレン系樹脂 100重量部に対して、0.01〜0.50重量部、好ましくは0.02〜0.20重量部の量で含まれる。この範囲で含まれていると、得られる成形体、特にパイプのクリープ性が向上し、かつ酸化防止剤の作用を阻害しない点で好ましい。
<<ビニルシラン化合物>>
シラン変性に使用するシラン化合物としては、末端ビニル基およびアルコキシ基等の加水分解可能な有機基を有するビニルアルコキシシラン化合物が好ましく、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン、γ―メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ―メタクリロキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0032】
(C)ビニルシラン化合物は、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、0.1〜5.0重量部好ましくは0.5〜3.5重量部の量で含まれる。この範囲で含まれていると、架橋度が適切となり、得られる成型体、特にパイプのクリープ性が向上すため好ましい。
<<硫黄系酸化防止剤>>
硫黄系酸化防止剤としては、酸化防止性能を有する硫黄系有機化合物が使用されるが、本発明ではチオアルカン酸のエステルが好ましい。チオアルカン酸としては、炭素数1〜10程度のチオアルカン酸、チオジアルカン酸ないしジチオジアルカン酸が挙げられ、具体的には、チオジプロピオン酸、ジチオジプロピオン酸、チオプロピオン酸、などが挙げられ、このうち、チオジプロピオン酸、チオプロピオン酸が好ましい。
【0033】
エステルとしては、ジラウリルエステル、ジミリスチルエステル、ジステアリルエステル、ジドコシルエステルなどや、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレートなどの多価アルコールとのエステルがあげられる。
【0034】
本発明で使用される硫黄系酸化防止剤として、好ましくは、ジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ミリスチルチオプロピオネート)、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ステアリルチオプロピオネート)があげられる。中でもジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートが好ましい。
【0035】
これら硫黄系酸化防止剤は、(A)ポリエチレン系樹脂 100重量部に対して0.0
5〜1.0部、好ましくは0.1重量部〜0.8重量部加えられる。この範囲にあれば、耐熱性と耐久性をともに高くすることができる。
【0036】
硫黄系酸化防止剤を用いると、グラフト化工程において過酸化物の効果を著しく阻害しない。このため、過酸化物とビニルシラン化合物を同時に添加してパイプや電線などを成形する一段階法を採用することが可能である。さらに、かかる硫黄系酸化防止剤を用いると、特にパイプに用いた際に耐温水性に優れた成形体を得ることが可能となる。
【0037】
また、過酸化物の効果を著しく阻害しない範囲では、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤を添加する事も可能である。
リン系、フェノール系、ヒンダードアミン系の酸化防止剤を併用する場合でも、ポリエチレン系樹脂 100重量部に対して0.1重量部以下が好ましい。この範囲であれば、耐クリープ性が阻害されることもない。
【0038】
さらに、ポリエチレン系樹脂ないし組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、耐候性安定剤、帯電防止剤、スリップ防止剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、核剤、可塑剤、老化防止剤、塩酸吸収剤、酸化防止剤などの添加剤やカーボンブラック、酸化チタン、チタンエロー、フタロシアニン、イソインドリノン、キナクリドン化合物、縮合アゾ化合物、群青、コバルトブルー等の顔料、滑剤、有機系あるいは無機系顔料、カーボンブラック、目やに防止剤、難燃剤、耐電防止剤、充填剤等が必要に応じて配合されていてもよい。
<<シラノール縮合触媒>>
本発明では、必要に応じてシラノール縮合触媒を含んでいてもよい。
【0039】
シラノール縮合触媒を含んでいると、グラフトしたビニルシラン化合物のシラノール基間の脱水縮合が促進され、架橋が促進される。このように架橋することによって、強度、耐水性、耐熱性を向上でき、特にパイプなどの強度が要求される成形品を成形する場合、シラノール縮合触媒を含んでいることが望ましい。シラノール縮合触媒の添加量は、ポリエチレン系樹脂100重量部に対して、0.001〜5重量部、好ましくは0.01〜2重量部の量
で配合することが望ましい。
【0040】
シラノール基縮合触媒としては、シラノール基間の脱水縮合を促進する触媒として用いられている公知の化合物を使用する事ができる。代表的なシラノール縮合触媒としては、ジブチル錫ジラウリレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジオクトエートが挙げられる。また、シラノール縮合用触媒および変性前のポリエチレン系樹脂を用いてマスターバッチを別途作成し、添加しても良い。
【0041】
本発明では、ポリエチレン系樹脂に上記成分を予めブレンドして調製してもよく、また、予め組成物を調製することなく、全ての成分を、同時に成形機に投入して溶融混練して押出し成形してもよい。
【0042】
また、硫黄系酸化防止剤およびまたはシラノール基縮合触媒は、ポリエチレン系樹脂でマスターバッチ化して添加することも可能である。
成形体の製造方法
本発明の成形体の製造方法は、上記樹脂組成物を、成形機を用いて溶融混練し、成形することでビニルシラン化合物がポリエチレン系樹脂にグラフトされたエチレン系ポリマーからなる成形品の製造する。すなわち、本発明では、グラフト反応率が高くできるだけでなく、工程が一段であるため、熱履歴を少なくすることができる。
<<成形方法>>
成形方法は、通常、押出成形ないし射出成形が採用される。かかる成形に使用される成
型機および成型条件は公知のものを用いることができる。
【0043】
また、例えば特開2004-235117号公報に開示されたシラン架橋ポリエチレンを用いた被
覆材料の押出成形、特開平11-141790号公報に開示された射出成形などと、同様の成形条
件を本発明に適用する事が可能である。さらに、特開2000-26616号公報に開示されたポリオレフィン系樹脂の異形押出と同様の成形条件を本発明に適用する事も可能である。
【0044】
本発明では、前記成形品がパイプまたは電線被覆材料に好適である。その理由としては、酸化防止剤(耐熱安定剤)が含まれていても、グラフト反応率が高く、しかも熱履歴が少ないので、成形品外観に優れ、長期の耐熱性を有ししかも、製品強度も高くできる。特に、本発明にかかる上記組成物は、パイプ成形用に好適である。
【0045】
パイプを押出する方法としては多くの公知記載があるが、例えば、特開2004-24
4573号公報などに記載がある方法を適用する事が可能である。また、射出成形によるパイプ継手を成形する方法としては例えば 特開平10−332069等に記載されている方法を適用する事も可能である。
<<架橋パイプ>>
本発明で得られる架橋パイプは前記ポリエチレン系樹脂、過酸化物、ビニルシラン化合物、硫黄系酸化防止剤、さらにはシラノール縮合触媒をパイプ成形機に投入しながら押出しないし射出成形する事で、パイプ状に成形される。
【0046】
成形されたパイプは通常次のような方法で架橋される。すなわち、パイプを常温(25℃)〜130℃程度、好ましくは40〜100℃にて水中、水蒸気中または多湿雰囲気下で1分間〜1週間程度、好ましくは10分間〜1日間程度水分と接触させる。これにより、シラノール触媒によりシラン架橋反応が進行し、架橋パイプが得られる。なお、本発明はパイプの架橋方法、例えば水分との接触方法等により制約を受けるものではない。
【0047】
本発明においては、変性前のポリエチレン系樹脂、あるいはパイプ成形時、いずれの段階でも本発明の目的を損なわない範囲で、硫黄系酸化防止剤、耐熱安定性、老化防止剤、耐候安定剤、塩酸吸収剤、活剤、有機系あるいは無機系含量、カーボンブラック、目やに防止剤、難燃剤、耐電防止剤、充填剤等を配合する事もできる。さらに、未変性のポリエチレン系樹脂を配合することもでき、その配合量は50%以下が好ましい。本発明に係るポリエチレン系樹脂は、パイプや異形などの押出成形体、射出成形体などに単体もしくは改質剤としてブレンドして成形することができる。これらの成形体には、エチレン系樹脂からなる部分と、他の樹脂からなる部分とを含む成形体(積層体等)が含まれる。
<<電線被覆材料>>
本発明で得られる電線被覆材料は、前記ポリエチレン系樹脂、過酸化物、ビニルシラン化合物、硫黄系酸化防止剤、さらにはシラノール縮合触媒を成形機に投入してコンパウンドを作製し、必要に応じて別途、非架橋樹脂からなるコンパウンドを作製し、特開2004-235117号公報などに記載の方法電線の導体表面に、押出機を用いて、必要に応じて非架橋
樹脂コンパウンドからなる内側絶縁層、本発明の樹脂組成物からなる外側絶縁層となるように、同時押出し、ダンデム押出しするなどにより成形される。
[実施例]
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
ポリエチレン系樹脂として、プライムポリマー社製(ハイゼックス 3300F MF
R=1.1g/10min、密度=950kg/m3)のペレット80重量部、パウダー
10重量部、メタロセンLLDPE(エボリューSP2040、MFR=3.8g/10min
、密度=924kg/m3)のペレット10重量部 を用い、さらに、ビニルトリメトキ
シシラン2重量部および2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン0.03重量部、ジステアリルチオジプロピオネート(DSTP) 0.5重量部、ジオクチル錫ジラウレート0.06重量部をドライブレンドし、口径65mm、L/D=25、圧縮比2.5の押出機を有するパイプ成形機のホッパー部に投入する事で JIS
K6769に規定されるPN15、1種、呼び径13のパイプを成形した。
なお、ハイゼックス 3300F:90重量部、エボリューSP2040:10重量部のみ
からなるエチレン系重合体のMFR=1.4g/10min、密度=945kg/m3
ある。
【0048】
この時のパイプ成形機押出部の設定温度は 210℃、口金部も210℃に設定して成形を行った。このように一工程から押出成形したパイプを80℃の温水中に24時間浸漬して架橋させ、架橋パイプを得た。
【0049】
上記架橋パイプのゲル分率、クリープ破壊時間および柔軟性を下記方法により調べた。
【0050】
ゲル分率の測定はJIS K6769に準拠して行った。
【0051】
クリープ破壊時間は、サンプル長さ50cm、温度95℃、応力4.6MPにて窒素ガスにて加圧して測定した。なお次式により試験内圧から応力を換算した。
応力=内圧*〔(外径/肉厚)−1〕/2
長期耐熱水性は上記パイプを長さ15cmで、半円状に二分割したものを試験片とし、耐圧容器中、110℃熱水に浸漬後、取り出し、両端を手で持ち上下に折り曲げて3回以内に割れた場合劣化したと判定し、この時の浸漬時間を長期耐熱水性の指標とした。各測定値を表1に記す。
[実施例2]
実施例1のビニルトリメトキシシランを3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシランにした以外は実施例1と同様に、調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルペルオキシ)ヘキサンに代えて、ビス−(tert ブチルジオキシイソプロピル)ベンゼンを用いた以外は実施例1と同様に調製を
行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表1に示す。[実施例4]
ジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)の代わりに、ジラウリルチオジプロピオネート(DLTP)を用いた以外は実施例1と同様に調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例5]
実施例1のジステアリルチオジプロピオネート(DSTP) 0.5重量部とともに、フェノール系酸化防止剤Irganox1010((株)チバ・スペシャリティーケミカルズ製)を
0.01重量部加えた以外はを用いた以外は実施例1と同様に調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表1に示す。。
[比較例1]
実施例1のジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)0.5重量部を、フェノール系酸化防止剤Irganox1010((株)チバ・スペシャリティーケミカルズ製)0.5重量部に変更した以外は実施例1と同様に調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表2に示す。
[比較例2]
実施例1のジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)0.5重量部を、リン系酸化防止剤Irgafos168((株)チバ・スペシャリティーケミカルズ製)0.5重量部に変更し
た以外は実施例1と同様に調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様
に評価した。結果を表2に示す。
[比較例3]
実施例1のジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)を使用しなかった(すなわち酸化防止剤無添加)以外は実施例1と同様に調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表2に示す。
[比較例4]
実施例1のジステアリルチオジプロピオネート(DSTP)0.5重量部を0.02重量部に変更した以外は実施例1と同様に調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表2に示す。
[比較例5]
実施例1のジステアリルチオジプロピオネート(DSTP) 0.5重量部を2.1重量部に変更した以外は実施例1と同様に調製を行い架橋パイプを得た。得られたパイプについて、同様に評価した。結果を表2に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
実施例1〜5では、過酸化物とともに硫黄系酸化防止剤を含む組成物を溶融混錬しているので、架橋点となるビニルシラン化合物が十分にグラフトされているため、ゲル分率が高い。またこれらの実施例1〜5は、長期耐熱水性が高く、クリープ破壊時間も長いため、耐久性にも優れる。
【0055】
これに対し、比較例1のようにフェノール系酸化防止剤を使用したものでは、ビニルシラン化合物の架橋点が減るため、ゲル分率が著しく低下している。また、長期耐熱水性、耐久性のいずれも不十分である。特に、クリープ破壊時間が短く、耐久性に劣っている。
【0056】
さらに、比較例2のリン系酸化防止剤では長期安定性に全く寄与しないため、耐熱水性が著しく低い。
【0057】
また、比較例3−5より、硫黄系酸化防止剤の量が少なすぎると長期安定性が不十分となり、多すぎると、耐久性が不十分となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリエチレン系樹脂 100重量部に対して
(B)過酸化物 0.01〜0.50重量部
(C)ビニルシラン化合物 0.1〜5.0重量部
(D)硫黄系酸化防止剤0.05〜1.0重量部
を含む樹脂組成物を、成形機を用いて溶融混練し、押出しないし射出成形することでビニルシラン化合物がポリエチレン系樹脂にグラフトされたエチレン系ポリマーからなる成形品の製造方法。
【請求項2】
前記成形品がパイプである請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記成形品が電線被覆材料である請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記樹脂組成物を一度に成形機へ投入することを特徴とする請求項1ないし3に記載の製造方法。
【請求項5】
硫黄系酸化防止剤(D)がチオアルカン酸のエステルである請求項1ないし4に記載の製造方法。
【請求項6】
硫黄系酸化防止剤(D)がジラウリルチオジプロピオネート、ジミリスチルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス(β−ラウリルチオプロピオネート)から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1ないし5に記載の製造方法。
【請求項7】
(A)ポリエチレン系樹脂 100重量部に対して
(B)過酸化物 0.01〜0.50重量部
(C)ビニルシラン化合物 0.1〜5.0重量部
(D)硫黄系酸化防止剤0.05〜1.0重量部
からなる成形用樹脂組成物。

【公開番号】特開2011−235486(P2011−235486A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107285(P2010−107285)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(505130112)株式会社プライムポリマー (180)
【Fターム(参考)】