説明

シリコンの溶解方法、シリコン溶解装置及びシリコン単結晶製造装置

【課題】改良された予備加熱機構を用いてシリコン原料を予備加熱した後、誘導加熱によってシリコン原料を溶解させる。
【解決手段】シリコン原料2を収容する溶解容器11と、シリコン原料2を取り囲む筒状の予備加熱機構14と、予備加熱機構14の周囲に巻回された誘導コイル12と、誘導コイル12に交流電流を供給する電源回路13と、予備加熱機構の着脱を行う着脱機構15とを備えている。そして、予備加熱機構14を取り付けた状態で誘導コイル12に交流電流を流すことによりシリコン原料2を予備加熱した後、予備加熱機構14を取り外した状態で誘導コイル12に交流電流を流すことにより、予備加熱されたシリコン原料2を誘導加熱する。これにより、シリコン原料2を誘導加熱する前に効率よく予備加熱を行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンの溶解方法及びシリコン溶解装置に関し、特に、シリコン原料を誘導加熱によって溶融させる方法及び装置に関する。また、本発明はこのようシリコン溶解装置を用いたシリコン単結晶製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
チョクラルスキー法(CZ法)を用いたシリコン単結晶の製造においては、石英ガラスルツボ内のシリコン融液に種結晶を浸漬し、ルツボを回転させながら徐々にシリコン単結晶を引き上げる。シリコン融液を得る方法としては、ルツボ内にシリコン原料(ポリシリコン)を充填し、ルツボの周囲に配置されたヒータの輻射熱によって加熱する方法が一般的である。しかしながら、輻射熱による加熱ではシリコン原料の加熱が間接的であることから、高い加熱効率を得ることは困難である。
【0003】
これに対し、被加熱体を直接加熱する方法として誘導加熱が知られている。誘導加熱とは、被加熱体の周囲に巻回した誘導コイルに交流電流を流すことによって被加熱体に交流磁束を通過させ、内部で発生する密度の高い渦電流によって被加熱体を自己加熱させる方法である。したがって、シリコン原料を溶解させる方法として誘導加熱を利用すれば、シリコン融液を効率よく生成できるものと考えられる(特許文献1〜6参照)。
【0004】
しかしながら、シリコンの抵抗率は温度依存性が大きく、室温では高抵抗である。このため、室温で誘導コイルに交流電流を流しても、シリコンには誘導電流が発生せず、自己加熱しない。このため、予備加熱によってシリコンをある程度の温度まで加熱し、その後、誘導加熱を行う必要がある。特許文献1では、棒状のカーボン発熱体をるつぼ内に挿入し、カーボン発熱体を誘導加熱することにより生じる輻射熱でシリコンを予備加熱する方法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−130581号公報
【特許文献2】特開平11−180798号公報
【特許文献3】特開2001−19593号公報
【特許文献4】特開2001−19594号公報
【特許文献5】特開平5−15950号公報
【特許文献6】特開平5−18677号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたカーボン発熱体は、棒状であることから誘導コイルとカーボン発熱体との距離が遠くなり、その結果、十分な予備加熱ができないという問題がある。また、棒状のカーボン発熱体をルツボ内に挿入する必要があることから、その分シリコン原料のチャージ量が減少するという問題もある。さらに、シリコン原料とカーボン発熱体との接触を避けるためには、カーボン発熱体をシリカ製容器に収容する必要もあり、構造が複雑となる。
【0006】
しかも、特許文献1に記載された装置は、シリコン原料が導電性材料からなる水冷ルツボで覆われていることから、中央部のカーボン発熱体によって予備加熱されたシリコン原料が外側から冷却されてしまう。このため、高い加熱効率を得ることは困難である。
【0007】
したがって、本発明の目的は、改良された予備加熱機構を用いてシリコン原料を予備加熱した後、誘導加熱によって溶解させることが可能なシリコンの溶解方法及びシリコン溶解装置を提供することである。
【0008】
また、本発明の他の目的は、シリコン融液を誘導加熱によって得る改良されたシリコン単結晶製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるシリコンの溶解方法は、筒状の予備加熱機構によってシリコン原料を取り囲んだ状態で誘導コイルに交流電流を流すことにより、シリコン原料を予備加熱する予備加熱工程と、予備加熱機構を前記シリコン原料の周囲から取り外した状態で誘導コイルに交流電流を流すことにより、予備加熱されたシリコン原料を誘導加熱する誘導加熱工程と、を備えることを特徴とする。また、本発明によるシリコン融解装置は、シリコン原料を収容する溶解容器と、シリコン原料を取り囲む筒状の予備加熱機構と、予備加熱機構の周囲に巻回された誘導コイルと、誘導コイルに交流電流を供給する電源回路と、予備加熱機構の着脱を行う着脱機構と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、筒状の予備加熱機構を用いていることから、誘導コイルと予備加熱機構との距離を近づけることができる。このため、予備加熱機構を効率的に誘導加熱することが可能となる。しかも、シリコン原料が外周側から予備加熱されるため、保温性の高い状態で予備加熱を行うことが可能となる。
【0011】
本発明においては、シリコン原料を収容する溶解容器の外周を取り囲むように予備加熱機構を配置することが好ましい。これによれば、シリコン原料と予備加熱機構とが接しないことから、シリコン原料の汚染を防止することができる。しかも、予備加熱機構が溶解容器の外部に配置されることから、シリコン原料のチャージ量が減少することもない。
【0012】
本発明においては、交流電流の周波数を100kHz以上、2MHz未満とすることが好ましい。これによれば、シリコン原料を誘導加熱によって効率よく溶解させることが可能となる。しかも、誘導コイルが放電を起こす危険性も少ないため、放電の発生による電源回路などの停止などもほとんど無く、作業効率を高めることも可能となる。
【0013】
本発明においては、交流電流の周波数を100kHz以上、300kHz未満とすることが好ましい。これによれば、シリコン原料に浸透する電流の深さが最適となることから、より効率よくシリコン原料を全融させることが可能となる。また、交流電流の周波数を上記の範囲に設定すれば、誘導コイルが放電を起こすことはほとんど無くなる。
【0014】
また、本発明によるシリコン単結晶製造装置は、上記のシリコン溶解装置と、溶融容器内のシリコン融液を石英ルツボに供給する供給機構と、石英ルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ機構とを備えることを特徴とする。本発明によれば、効率よくシリコン融液を生成することができることから、シリコン単結晶の製造効率を高めることが可能となる。
【0015】
この場合、供給機構は引き上げ機構によるシリコン単結晶の引き上げ中にシリコン融液を石英ルツボに追加供給するものであることが好ましい。これによれば、石英ルツボにシリコン融液を効率よく連続的に供給できることから、サイクルタイムのさらなる短縮及び製造コストのさらなる低減を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
このように、本発明によれば、シリコン原料を誘導加熱する前に、効率よく予備加熱を行うことが可能となる。また、このようにして得られたシリコン融液を石英ルツボに供給することにより、シリコン単結晶の製造効率を高めることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるシリコン溶解装置の構成を示す模式図である。
【0019】
図1に示すように、本実施形態によるシリコン溶解装置10は、シリコン原料2が収容される溶解容器11と、溶解容器11の周囲に巻回された誘導コイル12と、誘導コイル12に交流電流を供給する電源回路13と、シリコン原料2を予備加熱する予備加熱機構14と、予備加熱機構14の着脱を行う着脱機構15とを備えている。
【0020】
溶解容器11は、シリコン原料2を収容し、予備加熱機構14による予備加熱及び誘導コイル12による誘導加熱によって溶解したシリコン融液を保持するための容器である。溶解容器11の材料は、耐熱性及び絶縁性を有しシリコン融液との反応性の低い材料であれば特に限定されないが、石英ガラスを用いることが特に好ましい。
【0021】
誘導コイル12は、溶解容器11に充填されたシリコン原料2又は予備加熱機構14を誘導加熱するためのコイルであり、溶解容器11の周囲に巻回されている。誘導コイル12の一端及び他端は電源回路13に接続されており、電源回路13から交流電流が供給されると誘導加熱を行う。電源回路13は、供給する電力量及び周波数の切り替えが可能に構成されている。
【0022】
予備加熱機構14は、輻射熱によって溶解容器11に収容されたシリコン原料2を予備加熱するための機構であり、本実施形態では溶解容器11の外周を取り囲む筒状部材によって構成されている。筒状部材の材料としては、耐熱性及び導電性の高い材料を用いる必要があり、カーボン材料を用いることが特に好ましい。本実施形態のように、溶解容器11の外周を取り囲む筒状部材によって予備加熱機構14を構成すれば、シリコン原料2と予備加熱機構14とが直接接しないことから、シリコン原料2に混入する不純物を低減することが可能となる。
【0023】
予備加熱機構14は、着脱機構15によって溶解容器11から着脱可能に構成されている。図1に示すように、着脱機構15によって予備加熱機構14が装着された状態においては、誘導コイル12とシリコン原料2との間に予備加熱機構14が位置する。このため、この状態で誘導コイル12に交流電流を流すと、予備加熱機構14が誘導加熱され、これによって生じる輻射熱によってシリコン原料2が間接的に加熱される。一方、図2に示すように、着脱機構15によって予備加熱機構14が取り外された状態においては、誘導コイル12とシリコン原料2との間に予備加熱機構14が存在しないことから、この状態で誘導コイル12に交流電流を流すと、シリコン原料2が誘導加熱される。
【0024】
次に、本実施形態によるシリコン溶解装置10を用いたシリコンの溶解方法について説明する。
【0025】
図3は、本実施形態によるシリコンの溶解方法を説明するためのフローチャートである。
【0026】
まず、溶解容器11にシリコン原料2を充填する(ステップS1)。充填するシリコン原料2の形状やサイズについては特に限定されないが、後述するステップS5の誘導加熱において効率よく加熱を行うためには、個々のチップ原料の最大長が2mm以上、100mm未満であることが好ましい。これは、2mm未満であると誘導電流の浸透深さからチップ原料にパワーが入らず高周波溶解ができないからだからであり、100mm以上であると原料内部に大きな熱応力が生じて割れる可能性があるからである。
【0027】
シリコン原料2を溶解容器11に充填した後、予備加熱機構14を装着した状態で誘導コイル12に交流電流を流す。その結果、予備加熱機構14が誘導加熱され、これによって生じる輻射熱によりシリコン原料2が予備加熱される(ステップS2)。予備加熱時における電力量及び周波数は、シリコン原料2の重量及び予備加熱機構14を構成する筒状部材の材料によって定められ、例えばシリコン原料2の重量が1.5kgであり、予備加熱機構14を構成する筒状部材がカーボン材料からなる場合には、25kW、100〜200kHzの範囲に設定することが好ましい。
【0028】
予備加熱によってシリコン原料2が所定の温度に達した後(ステップS3:YES)、着脱機構15を用いて予備加熱機構14を取り外す(ステップS4)。これによりシリコン原料2が直接誘導加熱され、融点まで上昇する(ステップS5)。誘導加熱は、輻射熱による加熱と比べて重量に対する溶解速度が非常に速いため、シリコン原料2を効率よく全融させることが可能となる。
【0029】
予備加熱機構14を取り外すための「所定の温度」については特に限定されないが、700℃以上、800℃以下の範囲に設定することが好ましい。これは、700℃未満ではシリコン原料2の電気抵抗が十分に下がっておらず、シリコン原料2を効率よく誘導加熱することが困難だからであり、800℃を超える場合には輻射熱による加熱よりも誘導加熱の方が効率よくシリコン原料2を加熱できるからである。
【0030】
また、シリコン原料2を誘導加熱する際の周波数は、100kHz以上、2MHz未満とすることが好ましい。これは、周波数を100kHz未満に設定すると加熱効率が低下するからであり、また、周波数を2MHz以上に設定すると誘導コイル12が放電を起こす確率が高まるからである。誘導コイル12に放電が発生すると、電源回路13に含まれる安全装置が作動し、一時的に電力の供給が停止することから溶解作業が中断してしまう。これに対し、誘導コイル12に流す交流電流の周波数を100kHz以上、2MHz未満に設定すれば、放電の発生を防止しつつ、効率よくシリコン原料2を加熱することが可能となる。
【0031】
シリコン原料2を誘導加熱する際の周波数は、100kHz以上、300kHz未満とすることが特に好ましい。これは、周波数が高くなるほど電流浸透深さが浅くなることから、被加熱体がシリコンである場合には周波数を100kHz以上、300kHz未満に設定することにより、非常に効率よく全融させることが可能となるからである。しかも、交流電流の周波数をこの範囲に設定すれば、誘導コイル12が放電を起こす可能性もほとんど無くなる。尚、大気圧下では、300kHz以上、2MHz未満の周波数範囲においても誘導コイル12が放電を起こす確率は高くないが、実際にシリコン単結晶を製造するためにシリコン融液を生成する場合には、減圧下で加熱作業が行われることが多く、このような減圧環境下においても確実に放電の発生を防止するためには、周波数を100kHz以上、300kHz未満の範囲に設定することが望ましい。
【0032】
一方、シリコン原料2を誘導加熱する際の電力量は、溶解させるシリコン原料2の重量によって定められ、例えばシリコン原料2の重量が1.5kgであれば、15〜30kWの範囲に設定することが好ましい。シリコン原料2を誘導加熱する際に必要となる電力量は、周波数が100kHz以上、300kHz未満の範囲において低い周波数であるほど少なくなる。また、周波数を高くすると、溶解容器11の上部でブリッジが形成されることがあり、シリコン原料2を上部から連続的に供給する場合にはこれが問題となり得る。これらの点を考慮すれば、シリコン原料2を誘導加熱する際の周波数は100kHz以上、150kHz以下とすることが特に好ましい。
【0033】
以上のプロセスにより溶解容器11内のシリコン原料2が全融し、シリコン融液を得ることができる。このように、本実施形態によるシリコンの溶解方法によれば、まず予備加熱機構14からの輻射熱によってシリコン原料2を予備加熱し、これによりシリコン原料2が所定の温度まで加熱されてからシリコン原料2への直接的な誘導加熱を行っていることから、効率よくシリコン融液を生成することが可能となる。
【0034】
しかも、予備加熱機構14が筒状であることから、誘導コイル12と予備加熱機構14との近接させることができる。このため、予備加熱機構14効率的に誘導加熱することが可能となる。しかも、シリコン原料2が外周側から予備加熱されるため、保温性の高い状態で予備加熱を行うことも可能となる。さらに、本実施形態では、溶解容器11の外周を取り囲むように予備加熱機構14を配置していることから、シリコン原料2と予備加熱機構14とが接することがなく、シリコン原料2の汚染を防止することができる。しかも、予備加熱機構14が溶解容器11の外部に配置されることから、シリコン原料2のチャージ量が減少することもない。
【0035】
本実施形態によるシリコン溶解装置10は、連続CZ法によるシリコン単結晶の引き上げが可能なシリコン単結晶製造装置に用いることが好適である。
【0036】
図4は、連続CZ法によるシリコン単結晶の引き上げが可能なシリコン単結晶製造装置20の構成を示す模式図である。
【0037】
図4に示すシリコン単結晶製造装置20では、シリコン融液4を収容する石英ルツボ21がチャンバ22の内部に設けられている。この石英ルツボ21の外周面および外底面はグラファイトサセプタ23により保持される。グラファイトサセプタ23は鉛直方向に平行な支持軸24の上端に固定され、この支持軸24を介して石英ルツボ21を回転させるとともに、上下方向に移動できるように構成されている。
【0038】
石英ルツボ21およびグラファイトサセプタ23の外周面はヒータ25により囲繞され、このヒータ25はさらに保温筒26により包囲される。シリコン単結晶の育成における原料溶解の過程では、ヒータ25の加熱により石英ルツボ21内に充填された高純度の多結晶シリコン原料が加熱、溶解されてシリコン融液4になる。
【0039】
一方、チャンバ22の上端部には引き上げ機構27が設けられる。この引き上げ機構27には石英ルツボ21の回転中心に向かって垂下されたワイヤケーブル28が取り付けられ、ワイヤケーブル28を巻き取りまたは繰り出す引上げ用モータ(図示せず)が配備される。ワイヤケーブル28の下端には種結晶8が取り付けられる。
【0040】
育成中のシリコン単結晶6を囲繞するように、シリコン単結晶6と保温筒26との間に円筒状の熱遮蔽部材29が設けられる。この熱遮蔽部材29はコーン部29aとフランジ部29bとからなり、このフランジ部29bを保温筒26に取り付けることにより熱遮蔽部材29が所定位置に配置される。
【0041】
図4に示すシリコン単結晶製造装置20は、上述したシリコン溶解装置10をさらに備え、これによって石英ルツボ21へのシリコン融液4の追加供給が可能とされている。シリコン溶解装置10によって生成されたシリコン融液4は、供給機構30を介して石英ルツボ21に供給される。供給機構30は、引き上げ機構27によるシリコン単結晶6の引き上げ中にシリコン融液4を石英ルツボ21に追加供給することができ、これにより、シリコン単結晶6の連続的な引き上げが可能とされている。供給機構30は配管を有しており、配管へのシリコン融液4の供給は、溶解容器11の上部に設けた堰の上下動や、溶解容器11の傾転により行うことができる。また、溶解容器11の底部に配管を接続し、密閉したチャンバ22中の雰囲気の圧力を調整することによっても行うことができる。
【0042】
連続CZ法においてシリコン融液4を追加供給するためには、シリコン原料2を高速に溶解させる必要があるが、本実施形態によるシリコン溶解装置10を用いることによりこれを実現することが可能となる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施の形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更を加えることが可能であり、それらも本発明に包含されるものであることは言うまでもない。
【0044】
例えば上記実施形態では、シリコン溶解装置10の用途として、連続CZ法において追加供給するシリコン融液の生成に用いた例を示したが、本発明によるシリコン溶解装置の用途がこれに限定されるものではない。したがって、シリコン単結晶の引き上げにおいて初期チャージのシリコン原料2をあらかじめシリコン溶解装置10によって溶解させ、得られたシリコン融液を石英ルツボに移し替えるといった用途に用いることも可能である。このような用途は、近年のシリコン単結晶及び石英ルツボの大型化に伴って生じる大チャージ化の問題を解決する方法の一つとして有望であると考えられる。
【0045】
また、上記実施形態では、予備加熱機構14を構成する筒状部材を溶解容器11の外周部分に配置したが、図5に示すように、予備加熱機構14を溶解容器11の内部に配置しても構わない。これによれば、予備加熱効率を高めることが可能となる。
【実施例】
【0046】
図5に示す構成を有するシリコン溶解装置を用意した。溶解容器11としては、内径150mm、外径180mm、高さ180mmの石英蓋つき石英円筒容器を用い、これを耐熱レンガ上に載置した。予備加熱機構14としては、厚さ8mmのカーボン製の筒状部材(カーボン筒)を用い、これを溶解容器11内に配置した。
【0047】
次に、カーボン筒に囲まれた領域にチップ上の多結晶シリコン原料2を1.5kg充填した。シリコン原料2の平均直径サイズは20mmとした。さらに加熱中の断熱性を確保するため、厚さ35mmの断熱材16を容器全体に巻きつけた。誘導コイル12は6ターンとした。また、白金熱電対を溶解容器11に挿入し、シリコン原料2の温度を直接測定可能とした。
【0048】
以上の準備が整った後、誘導コイル12に交流電流を流すことによってカーボン筒を誘導加熱し、その輻射熱によってシリコン原料2を加熱した。交流電流の周波数は160kHz、電力は25kWとした。尚、シリコン原料2の加熱中は、常にアルゴン(Ar)ガスを溶解容器11内に導入し、これによってシリコン表層の酸化を抑制した。
【0049】
カーボン筒からの輻射熱によってシリコン原料2が750℃に加熱された時点で、カーボン筒を溶解容器11から取り出し、これによってシリコン原料2を直接誘導加熱した。シリコン原料2の誘導加熱においては、交流電流の周波数を20kHz〜150kHzまでの範囲において10kHz刻みで種々の周波数を印加し、周波数ごとに溶解状況を観察した。結果を図6に示す。図6の縦軸は、シリコンの全量に対する融液の割合を示している。したがって、全融状態が1である。
【0050】
図6に示すように、周波数が20kHz〜90kHzの範囲では溶解割合が0.5未満であったが、100kHz〜150kHzの範囲では溶解割合がほぼ1であった。このように、シリコン原料2の溶解割合は100kHzを境に顕著に変化することが確認された。
【0051】
また、シリコン原料2の誘導加熱においては、交流電流の周波数を50kHz及び100kHz〜2.5MHzまでの範囲において100kHz刻みで種々の周波数を印加し、周波数ごとに放電の発生頻度をカウントする実験も行った。実験の結果を図7に示す。
【0052】
図7に示すように、2MHz未満の範囲では放電の発生頻度が非常に少なく(0回〜2回)、特に、300kHz未満の範囲では放電は観測されなかった。これに対し、2MHz以上の範囲では10回以上の放電が発生した。このように、放電の発生頻度は2MHzを境に顕著に変化することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるシリコン溶解装置10の構成を示す模式図である。
【図2】着脱機構15によって予備加熱機構14が取り外された状態を示す図である。
【図3】本発明の好ましい実施形態によるシリコンの溶解方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】本発明の好ましい実施形態によるシリコン単結晶製造装置20の構成を示す模式図である。
【図5】変形例によるシリコン溶解装置の構成を示す模式図である。
【図6】交流電流の周波数と溶解割合との関係を示すグラフである。
【図7】交流電流の周波数と放電頻度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0054】
2 シリコン原料
4 シリコン融液
6 シリコン単結晶
8 種結晶
10 シリコン溶解装置
11 溶解容器
12 誘導コイル
13 電源回路
14 予備加熱機構
15 着脱機構
16 断熱材
20 シリコン単結晶製造装置
21 石英ルツボ
22 チャンバ
23 グラファイトサセプタ
24 支持軸
25 ヒータ
26 保温筒
27 引き上げ機構
28 ワイヤケーブル
29 熱遮蔽部材
29a コーン部
29b フランジ部
30 供給機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の予備加熱機構によってシリコン原料を取り囲んだ状態で誘導コイルに交流電流を流すことにより、前記シリコン原料を予備加熱する予備加熱工程と、前記予備加熱機構を前記シリコン原料の周囲から取り外した状態で前記誘導コイルに交流電流を流すことにより、予備加熱された前記シリコン原料を誘導加熱する誘導加熱工程と、を備えることを特徴とするシリコンの溶解方法。
【請求項2】
前記予備加熱工程は、前記シリコン原料を収容する溶解容器の外周を取り囲むように、前記予備加熱機構を配置して行うことを特徴とする請求項1に記載のシリコンの溶解方法。
【請求項3】
前記誘導加熱工程においては、前記交流電流の周波数を100kHz以上、2MHz未満とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンの溶解方法。
【請求項4】
前記誘導加熱工程においては、前記交流電流の周波数を100kHz以上、300kHz未満とすることを特徴とする請求項3に記載のシリコンの溶解方法。
【請求項5】
シリコン原料を収容する溶解容器と、前記シリコン原料を取り囲む筒状の予備加熱機構と、前記予備加熱機構の周囲に巻回された誘導コイルと、前記誘導コイルに交流電流を供給する電源回路と、前記予備加熱機構の着脱を行う着脱機構と、を備えることを特徴とするシリコン溶解装置。
【請求項6】
前記予備加熱機構は、前記溶解容器の外周を取り囲むように配置されることを特徴とする請求項5に記載のシリコン溶解装置。
【請求項7】
前記電源回路は、前記誘導コイルに100kHz以上、2MHz未満の交流電流を供給することを特徴とする請求項5又は6に記載のシリコン溶解装置。
【請求項8】
前記電源回路は、前記誘導コイルに100kHz以上、300kHz未満の交流電流を供給することを特徴とする請求項7に記載のシリコン溶解装置。
【請求項9】
請求項5乃至8のいずれか一項に記載のシリコン溶解装置と、前記溶融容器内のシリコン融液を石英ルツボに供給する供給機構と、前記石英ルツボ内のシリコン融液からシリコン単結晶を引き上げる引き上げ機構とを備えることを特徴とするシリコン単結晶製造装置。
【請求項10】
前記供給機構は、前記引き上げ機構によるシリコン単結晶の引き上げ中に前記シリコン融液を石英ルツボに追加供給するものであることを特徴とする請求項9に記載のシリコン単結晶製造装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2010−150100(P2010−150100A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332216(P2008−332216)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】