説明

シリコン含有物のエッチング方法

【課題】被処理物が有機物にて汚染されている場合でも、シリコン含有物を効率良くエッチングする。
【解決手段】原料ガスを大気圧近傍のプラズマ空間23に導入してエッチングガスを生成する(生成工程)。エッチングガスを、温度を10℃〜50℃とした被処理物90に接触させる(エッチング反応工程)。原料ガスは、フッ素含有成分と、水(HO)と、窒素(N)と、酸素(O)と、キャリアガスを含む。原料ガス中の窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量(A)とフッ素含有成分の体積流量(B)との比は、(A):(B)=97:3〜60:40である。原料ガス中の窒素と酸素の合計体積流量は、窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量の2分の1以下である。窒素と酸素の体積流量比は、N:O=1:4〜4:1である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理物のシリコン含有物をエッチングする方法に関し、特に被処理物の表面に有機物やパーティクル等の汚染物質が付着している場合に適したエッチング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のエッチング方法として、CF等のフッ素含有成分を含む原料ガスを一対の電極間の大気圧プラズマ放電空間にてプラズマ化し、更にオゾンを加えて、被処理物に接触させる方法が知られている(下記特許文献1〜5等参照)。原料ガスには水(HO)を添加する。プラズマ化によってHF、COF、O等のフッ素系反応成分が生成される(式1)。被処理物の表面上では、シリコン膜がオゾンにて酸化される(式2)。この酸化膜にHF等のフッ素系反応成分が接触することで、エッチング反応が起きる(式3)。特許文献2では、原料ガスとして、CF等のフッ素含有成分と、窒素(N)と、酸素(O)を含み、かつ水(HO)を含まないガスを用いている。この原料ガスをプラズマ化することによってNOx、COF、O等を生成し、エッチング反応を起こしている(式4〜式8)。
CF+2HO → 4HF+CO (式1)
Si+2O → SiO+2O (式2)
SiO+4HF→SiF+2HO (式3)
Si+2COF → SiF+2CO (式4)
Si+2O → SiF+2O (式5)
Si+NOx → SiO+N (式6)
SiO+2COF → SiF+2CO (式7)
SiO+2O → SiF+3O (式8)
【0003】
特許文献6、7では、例えばCFとOの混合ガスを真空チャンバー内でプラズマ励起して、ウェハの表面の酸化膜をエッチングすると同時に、有機物汚染物を除去している。ウェハの温度は、約600℃(特許文献6)又は約300℃(特許文献7)の高温にしている。
特許文献8では、シリコン基板を収容した自然酸化膜除去室内にHClガスを導入するとともに、シリコン基板を200℃〜700℃に加熱し、かつシリコン基板に紫外線を照射することにより、シリコン基板の表面の自然酸化膜を除去し、その後、シリコン基板をエッチング室に移してシリコン基板の表面のポリシリコンをエッチングしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開WO2009/044681号
【特許文献2】国際公開WO2011/027515号
【特許文献3】特開2007−294642号公報
【特許文献4】特開2000−58508号公報
【特許文献5】特開2002−270575号公報
【特許文献6】特開平09−162143号公報(0019)
【特許文献7】特開2002−134454号公報(0025)
【特許文献8】特開平02−001913号公報(5頁左下欄〜右下欄)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
シリコン含有物のエッチングの際、被処理物の表面が有機物で汚染されていることがある。例えば、被処理物の表面に前工程(ウェットプロセス)での有機溶剤が残留していたり、レジスト残渣が付いていたりすることがある。また、クリーンルーム外で被処理物の搬送中に空気中の塵埃等の環境パーティクルが被処理物の表面に付着することもある。このような有機汚染された状態のままでエッチングを行うと、汚染物がマスクになり、汚染物が付着した部分のエッチングが進まなくなってしまう。汚染の状況によって、シリコン含有膜が斑状に残ったり全体的に残ったりする。
【0006】
一般に、液晶パネルや半導体装置などの製造工程では、有機汚染によるシリコン含有膜のエッチングムラを抑制するために、エッチング工程の前に有機汚染物の除去工程を行っている。そのため、工程数が増え、処理時間が長くかかっている。
本発明は、上記事情に鑑み、被処理物がウェットプロセスを経た後であったりクリーンルーム外の雰囲気に晒されたりしたことによって有機物にて汚染されている場合でも、該被処理物のシリコン含有物を効率良く、しかも室温に近い温度条件でエッチングすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究考察を行い、シリコン膜のエッチングと同時併行して有機汚染物を除去することを検討した。
上掲特許文献1等では、エッチングガスにオゾンを混ぜている。オゾンは有機物を除去する作用があるが、その作用を発現させるには、エキシマランプなどの光エネルギーによるアシストが必要であり、オゾンのみによる有機物の除去性能は極めて低い。
上掲特許文献2では、プラズマ化によってNOxが生成される。このNOxによって有機物を除去可能であるが、NOxでシリコンをエッチングするには60℃以上に加熱する必要があり、室温付近ではエッチングが進まない。また、被処理物が耐熱性の弱い樹脂層を含む場合は加熱できないため、NOxによる有機物除去は困難である。
上掲特許文献6〜8では、被処理物を数百度の高温に加熱する必要がある。
【0008】
本発明は、上記研究考察の結果なされたものであり、シリコン含有物を有する被処理物をエッチングするエッチング方法において、
原料ガスを大気圧近傍のプラズマ空間に導入してエッチングガスを生成する生成工程と、
前記エッチングガスを、温度を10℃〜50℃とした被処理物に接触させるエッチング反応工程と、
を備え、前記原料ガスが、フッ素含有成分と、水(HO)と、窒素(N)と、酸素(O)と、キャリアガスを含み、前記原料ガス中の窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量(A)と前記フッ素含有成分の体積流量(B)との比が、(A):(B)=97:3〜60:40であり、かつ前記原料ガス中の窒素と酸素の合計体積流量が窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量の2分の1以下であり、かつ窒素と酸素の体積流量比が、N:O=1:4〜4:1であることを特徴とする。
【0009】
これによって、被処理物がウェットプロセスを経た後であったりクリーンルーム外の雰囲気に晒されたりしたことによって有機物にて汚染されている場合でも、シリコン含有物をムラなく効率良く、しかも室温に近い温度条件(10℃〜50℃)でエッチングできる。有機汚染物の除去と併行してシリコン含有物をエッチングできるから、工程数を削減でき、処理時間を短縮できる。
前記原料ガス中の窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量(A)と前記フッ素含有成分の体積流量(B)との比を(A):(B)=97:3〜60:40とし、かつ前記原料ガス中の窒素と酸素の合計体積流量が窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量の2分の1以下とすることで、キャリアガスの配合比を確保してプラズマ放電を確実に形成でき、かつHF、COF等のフッ素系反応成分の生成量を確保できる。窒素と酸素の体積流量比をN:O=1:4〜4:1とすることによって、有機汚染物を確実に除去でき、ひいてはシリコン含有物のエッチングレートを高くできる。
【0010】
前記エッチングガスがオゾンを更に含んでいてもよい。これによって、上記シリコン含有物としてアモルファスシリコン、単結晶シリコン、多結晶シリコン等のシリコンを酸化させてエッチングすることができる。
【0011】
前記原料ガスの露点が15〜20℃であることが好ましい。これによって、HF等のフッ素系反応成分を確実に生成でき、シリコン含有物を確実にエッチングすることができる。
【0012】
前記フッ素含有成分としては、PFC(パーフルオロカーボン)やHFC(ハイドロフルオロカーボン)等のフッ素含有化合物が挙げられる。PFCとして、CF、C、C、C等が挙げられる。HFCとして、CHF、CH、CHF等が挙げられる。更に、フッ素含有成分として、SF、NF、XeF等のPFC及びHFC以外のフッ素含有化合物を用いてもよく、Fを用いてもよい。
【0013】
前記キャリアガスとしては、Ar、He、Ne、Kr、Xe等の希ガスが挙げられる。キャリアガスとしてAr等の希ガスを用いることによって、プラズマ空間において安定した放電状態を得ることができる。
【0014】
ここで、大気圧近傍とは、1.013×10〜50.663×10Paの範囲を言い、圧力調整の容易化や装置構成の簡便化を考慮すると、1.333×10〜10.664×10Paが好ましく、9.331×10〜10.397×10Paがより好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、被処理物が有機物にて汚染されている場合でも、シリコン含有物を効率良く、しかも室温に近い温度条件でエッチングすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1実施形態に係る表面処理装置を解説的に示す側面図である。
【図2】実施例1及び比較例1−1、1−2の結果を示すグラフである。
【図3】実施例2の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図1は、被処理物90を大気圧近傍下でエッチングするエッチング装置1を示したものである。被処理物90は、例えば液晶表示装置や半導体装置であるが、これらに限定されるものではない。被処理物90の基材91は、特に限定がなく、ガラス基板でもよく、半導体ウェハでもよく、連続状又は枚葉状の樹脂フィルムでもよい。基材91には、エッチング対象のシリコン膜92(シリコン含有物)が被膜されている。シリコン膜92は、例えばアモルファスシリコンにて構成されているが、多結晶シリコンでもよく、単結晶シリコンでもよい。
【0018】
被処理物90の表面には有機汚染物93が付着している。有機汚染物93は、例えば、前工程(ウェットプロセス)での有機溶剤やレジスト残渣であってもよく、空気中を浮遊していた環境パーティクル等であってもよい。被処理物90を搬送等の際に、クリーンルーム外の清浄化していない通常環境に晒すと、上記環境パーティクルが付着しやすい。
【0019】
エッチング装置1は、支持部2と、エッチングガス供給系3を備えている。支持部2に被処理物90が支持されている。支持部2は、ローラコンベアにて構成され、被処理物90の搬送手段を兼ねている。支持部は、ローラコンベアに限られず、ベルトコンベア、移動ステージ、浮上ステージ、マニピュレータ(ロボットアーム)、ガイドロール等にて構成されていてもよい。
【0020】
支持部2上の被処理物90を、温度調節手段(図示省略)によって温度調節してもよい。被処理物90の設定温度は、好ましくは10℃〜50℃である。温度調節手段は、電熱ヒータでもよく、輻射ヒータでもよい。支持部がステージにて構成されている場合、ステージの内部に上記温度調節手段として、温調媒体を流通させる温調路を形成してもよい。
【0021】
エッチングガス供給系3は、原料ガス供給系10と、プラズマ生成部20と、オゾナイザー30(オゾン含有ガス生成部)を含む。原料ガス供給系10は、フッ素含有成分供給部11と、窒素供給部12と、酸素供給部13と、キャリアガス供給部14と、水添加部15を含む。
【0022】
供給部11はフッ素含有成分を送出する。フッ素含有成分としてCFが用いられている。フッ素含有成分は、CFに限られず、C、C、C等の他のPFC(パーフルオロカーボン)であってもよく、CHF、CH、CHF等のHFC(ハイドロフルオロカーボン)であってもよく、SF、NF、XeF等のPFC及びHFC以外のフッ素含有化合物であってもよい。
【0023】
供給部12は、窒素(N)ガスを送出する。供給部13は、酸素(O)を送出する。窒素及び酸素源として空気を用いてもよい。供給部14は、キャリアガスを送出する。キャリアガスとしてArが用いられている。キャリアガスは、Arに限られず、He、Ne、Kr、Xe等の他の希ガスであってもよい。キャリアガスは、フッ素含有成分(CF)を希釈する希釈ガスとしての役割や、後記プラズマ放電を安定的に生成するための放電生成ガスとしての役割をも果たす。これら供給部11〜14からのガスが適宜な流量ずつ混合され、加湿前の原料ガス(CF+N+O+Ar)が生成される。
【0024】
水添加部15は、気化器にて構成されている。気化器内に水(HO)が液状態で蓄えられている。この水を気化させて上記原料ガスに添加する。添加方法は、上記原料ガスを水中にバブリングするバブリング方式でもよく、水の液面より上側の飽和水蒸気を上記原料ガスにて押し出す押し出し方式でもよい。水を温度調節することで水の蒸気圧ひいては添加量を調節してもよい。或いは、原料ガスの一部を気化器内に導入し、原料ガスの残部は気化器に通さずに気化器より下流側で上記一部の原料ガスと合流させ、上記一部と残部の流量比を調節することによって、水の添加量を調節してもよい。
【0025】
プラズマ生成部20は、互いに対向する一対の電極21,21を有している。図において、電極21,21は平行平板電極にて構成されているが、これに限定されるものではなく、同軸円筒電極でもよく、一対のロール電極でもよく、ロール電極と平板電極又は円筒凹面電極との組み合わせであってもよい。少なくとも一方の電極21の対向面には固体誘電体層(図示せず)が設けられている。これら電極21,21のうち一方は、電源22に接続され、他方は、電気的に接地されている。電源22からの供給電圧は、パルス等の間欠波状でもよく、交流正弦波等の連続波でもよい。電源22からの電圧供給によって電極21,21間に大気圧近傍下でプラズマ放電が生成され、電極間空間23が大気圧近傍のプラズマ空間となる。
【0026】
プラズマ空間23の上流端に原料ガス供給系10が連なっている。原料ガス供給系10とプラズマ空間23との接続部には、ガスを幅方向(図1において紙面と直交する方向)に均一な流れにする整流部(図示せず)が設けられていてもよい。
【0027】
プラズマ空間23の下流端から導出路24が延びている。導出路24にオゾナイザー30が接続されている。オゾナイザー30に酸素供給部31が接続されている。酸素(O)が、供給部31からオゾナイザー30に供給され、その一部がオゾン化される。これによって、オゾン含有ガス(O+O)が生成される。原料ガス供給系10の酸素供給部13とオゾナイザー30の酸素供給部31が互いに共通の酸素供給部にて構成されていてもよい。
【0028】
導出路24の下流端に噴出ノズル40が連なっている。噴出ノズル40には、プラズマ空間23からのガスを上記幅方向に均一な流れにする整流部が設けられていてもよい。ノズル40が、コンベア2に面し、ひいては被処理物90に対面する。ノズル40のコンベア2を向く面に噴出孔41が形成されている。
ノズル40が、プラズマ生成部20と一体になっていてもよい。ノズル40に処理済みのガスを吸い込んで排出する吸引部(図示省略)が設けられていてもよい。
【0029】
上記構成のエッチング装置1による被処理物9のエッチング方法を説明する。
原料ガス供給系10において、フッ素含有成分供給部11のCFと、窒素供給部12のNと、酸素供給部13のOと、キャリアガス供給部14のArを互いに所定の流量比で混合し、加湿前の原料ガスを生成する。原料ガス中のNとOとArの合計体積流量とCFの体積流量との比は、(N+O+Ar):(CF)=97:3〜60:40であることが好ましい。原料ガス中のNとOの合計体積流量は、NとOとArの合計体積流量の2分の1以下であることが好ましい。原料ガス中のNとOの体積流量比は、N:O=1:4〜4:1であることが好ましい。
【0030】
水添加部15において、上記の原料ガスに水を添加して加湿する。加湿後の原料ガスの露点は、15〜20℃程度であることが好ましい。
【0031】
上記加湿後の原料ガスをプラズマ生成部20のプラズマ空間23に導入してプラズマ化する。これによって、HF、COF、OF、O、酸素プラズマ、窒素プラズマ、NOx等の反応成分を含む反応ガスが生成される。
【0032】
別途、オゾナイザー30においてオゾン含有ガス(O+O)を生成する。このオゾン含有ガスを導出路24に合流させて上記反応ガスと混合することによって、エッチングガスを生成する。上記反応ガスひいては原料ガスとオゾン含有ガスの体積流量比は、(原料ガス):(オゾン含有ガス)=1:5〜5:1が好ましく、(原料ガス):(オゾン含有ガス)=1:1〜3:1がより好ましい。エッチングガスは、HF、COF、OF、O、酸素プラズマ、窒素プラズマ、NOx、O等の反応成分を含む。このエッチングガスをノズル40の噴出孔41から吹き出し、ノズル40の下方を横切る被処理物90に接触させる。被処理物90の温度は、10℃〜50℃程度になるよう調節する。被処理物90の温度は、室温又は室温近傍であってもよい。
【0033】
エッチングガス中の酸素プラズマ、窒素プラズマ、NOx等のN/O系のプラズマガスは、有機成分に対して高い除去作用及び改質作用を有する。すなわち、これらN/O系のプラズマガスは、被処理物90の有機汚染物93と反応し、有機汚染物93を酸化させて二酸化炭素に変換して除去する。しかも、反応速度が高く、短時間で有機成分と反応してこれを除去する。したがって、シリコン膜92における有機汚染物93で覆われていた汚染箇所を速やかに露出させることができる。(なお、Oも有機物に対して酸化除去作用があるが、熱又は光エネルギーのアシストが無い条件下では短時間で酸化除去するのは難しい。)更に、上記N/O系プラズマガスは、有機汚染物93の表面を親水化する。
【0034】
そして、シリコン膜92がエッチングガス中のOと反応して酸化される(式2)。この酸化物が上記エッチングガス中のHF、COF等のフッ素系反応種と反応してエッチングされる(式3〜式5)。シリコン膜92の非汚染箇所では勿論のこと、汚染箇所においても有機汚染物93を上記N/O系のプラズマガスにて速やかに除去することによって、上記の酸化反応及びエッチング反応を確実に起こすことができる。したがって、エッチングムラを解消又は低減できる。更には、上記NOx等のN/O系プラズマガスによる親水化作用によってHF及び水分の吸着が促進され、ひいては、シリコン膜92の上記酸化反応及びエッチング反応が促進される。
【0035】
このように、本発明によれば、被処理物90に有機汚染物93が付着している場合でも、有機汚染物93の除去とシリコン膜92のエッチングを同時併行して行なうことで、シリコン膜92をムラなくエッチングすることができる。したがって、有機汚染物93の除去工程を前置する必要が無く、工程数を削減でき、処理時間を短縮できる。しかも、被処理物90を高温に加熱する必要が無く、室温に近い温度条件(10℃〜50℃程度)でエッチングできる。したがって、被処理物90が弱耐熱層を含んでいても、充分に対応可能である。勿論、有機汚染物93が付着していなくても、エッチングガス中のHF、COF、O等の反応成分によってシリコン膜92を確実にエッチングすることができる。よって、有機汚染物93の有無を問わず、エッチング処理が可能である。
【0036】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、エッチング対象のシリコン含有物は、酸化シリコン、窒化シリコンであってもよい。酸化シリコンをエッチングする場合、オゾナイザー30を省略してもよく、エッチングガスにオゾンを混合しなくてよい。
装置構成は適宜改変できる。例えば、被処理物90を静止させ、ノズル40を移動させてもよい。
【実施例1】
【0037】
実施例を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1として、 図1に示す装置1と実質的に同様の装置を用い、被処理物90のエッチングを行った。基材91は、370mm(図1の紙面直交方向)×470mm(図1の左右方向)のガラス基板であり、その表面にはアモルファスシリコン膜92が被膜されており、更にアモルファスシリコン膜92上には有機溶剤やパーティクル等の有機物汚染物93が付着していた。
被処理物90の温度は、20℃であった。
原料ガスの組成は以下の通りであった。
CF 1SLM
5SLM
5SLM
Ar 10SLM
したがって、原料ガス中のNとOとArの合計体積流量とCFの体積流量との比は、(N+O+Ar):(CF)=95.2:4.7であった。原料ガス中のNとOの合計体積流量は、NとOとArの合計体積流量の2分の1であった。原料ガス中のNとOの体積流量比は、N:O=1:1であった。
水添加部15にて加湿後の原料ガスの露点は、16℃であった。
プラズマ放電条件は以下の通りであった。
放電圧力:大気圧
放電空間の厚さ:1mm
電極21の幅(図1の紙面と直交する方向の寸法):200mm
電極間電圧: Vpp=13kV
パルス電源23の供給周波数: 25kHz
オゾナイザー30からのオゾン含有ガスの流量は、10SLMであった。オゾン含有ガスのオゾン濃度は、10vol%であった。
噴出孔41の吹出し幅(図1の紙面と直交する方向の寸法)は、600mmであった。
被処理物90をノズル40の下方を横切るように往復搬送しながら、エッチングガスを被処理物90に吹き付けた。
搬送速度は、6m/minであった。
1回の往方向又は復方向の搬送を1スキャンとし、スキャン回数とエッチング量との関係を調べた。
【0038】
結果を図2に示す。同図から明らかな通り、本実施例によれば、有機汚染物の付着にも拘わらず、アモルファスシリコンを1スキャン目から充分にエッチングすることができた。スキャン回数とエッチング量がほぼ正比例する関係になった。
【0039】
[比較例1−1]
比較例1−1として、表面が汚染されていない被処理物90について、実施例1と同じ条件でエッチングを行った。図2に示すように、実施例1と比較例1−1とは、ほぼ同じ処理結果になった。
本発明の実施例によれば、有機物汚染された被処理物90に対し、汚染物の除去工程を前置しなくても、清浄な被処理物を処理するのと同様の処理性能が得られることが確認された。
【0040】
[比較例1−2]
比較例1−2では、実施例1と同程度に汚染された被処理物90に対しエッチングを行った。原料ガスの組成を以下の通りとし、原料ガスにO、Nを含ませないことにした。
CF 1SLM
Ar 20SLM
水添加部15にて加湿後の原料ガスの露点は、16℃であった。
それ以外の条件は、実施例1と同じとした。図2に示すように、比較例1−2では、5スキャンまではエッチングが進まなかった。これは、有機汚染物によってエッチングガスとシリコン膜との接触及び反応が阻害されたためと考えられる。そして、6スキャン目からエッチング量が立ち上がった。
【実施例2】
【0041】
実施例2では、実施例1と同じ装置を用い、実施例1と同程度に汚染された被処理物90のエッチングを行った。原料ガスの組成は以下の通りであり、NとOの流量を合計10SLMになるよう変化させた。
CF 1SLM
0〜10SLM、 O 10〜0SLM、 N+O=10SLM
Ar 10SLM
被処理物90の搬送速度は、6m/minであった。
それ以外の条件は実施例1と同じとした。
【0042】
そして、1スキャン当たりのシリコン膜92のエッチングレートを測定した。その結果、図3に示す通り、原料ガス中の窒素及び酸素の配合比がN:O=1:4〜4:1であれば、充分なエッチングレートを得られることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、例えばフラットパネルディスプレイや半導体基板等の製造に適用することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 エッチング装置
2 ローラコンベア(支持部、搬送手段)
3 エッチングガス供給系
4 温度調節手段
10 原料ガス供給系
11 フッ素含有成分供給部
12 窒素供給部
13 酸素供給部
14 キャリアガス供給部
15 水添加部
20 プラズマ生成部
21 電極
22 電源
23 プラズマ空間
24 導出路
30 オゾナイザー
31 酸素供給部
40 噴出ノズル
41 噴出孔
90 被処理物
91 基材
92 シリコン膜
93 有機汚染物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン含有物を有する被処理物をエッチングするエッチング方法において、
原料ガスを大気圧近傍のプラズマ空間に導入してエッチングガスを生成する生成工程と、
前記エッチングガスを、温度を10℃〜50℃とした被処理物に接触させるエッチング反応工程と、
を備え、前記原料ガスが、フッ素含有成分と、水(HO)と、窒素(N)と、酸素(O)と、キャリアガスを含み、前記原料ガス中の窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量(A)と前記フッ素含有成分の体積流量(B)との比が、(A):(B)=97:3〜60:40であり、かつ前記原料ガス中の窒素と酸素の合計体積流量が窒素と酸素とキャリアガスの合計体積流量の2分の1以下であり、かつ窒素と酸素の体積流量比が、N:O=1:4〜4:1であることを特徴とするエッチング方法。
【請求項2】
前記エッチングガスがオゾンを更に含むことを特徴とする請求項1に記載のエッチング方法。
【請求項3】
前記原料ガスの露点が15〜20℃であることを特徴とする請求項1又は2に記載のエッチング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−216582(P2012−216582A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79215(P2011−79215)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】