説明

シリンダブロックとシリンダブロックの周期構造体加工方法とシリンダブロックの周期構造体加工装置

【課題】 シリンダの新規な構造に特化するとともに、この周期構造(ナノ周期性溝やディンプル溝)を多気筒シリンダに対しても高精度に効率良く整列加工できるようにした加工方法とその装置を提供するものである。
【解決手段】 単気筒シリンダC1又は多気筒シリンダC2において、該シリンダ内周面でピストンが往復動する上死点P1と下死点P2間にわたるピストン摺動面60Aに周期構造MK等を加工するとともに、上死点付近と下死点付近の周期溝密度を高め途中の周期溝密度を荒く形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェムト秒レーザ加工機でシリンダブロックのシリンダ内周面に周期構造体(ナノ単位の微細周期性溝やディンプル)を加工する加工方法とその装置に係り、特に、エンジンのシリンダ内周面に対する周期構造体を合理的に加工するシリンダブロック及びシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化防止策の最も重要課題として大気汚染の低減を図ることが掲げられている。特に、大気汚染を起している主原因に自動車が出す排気ガスにあることが知られており、国際的な協定が結ばれる中で自動車メーカは競って低公害車を開発している。その行き着くところは、ハイブリッド車、電気自動車、燃料電池車等の開発と実用化による世界的普及が期待されている。このような状況の中で、自動車の燃費改善対策とエンジンの性能・耐久性の向上対策として、エンジンにおけるピストンとシリンダ間の摩擦低減、ベアリングの回転摩擦低減、ギアの噛合い摩擦の低減等の摩擦抵抗を極限まで減らすことが望まれている。上記エンジンの摺動部(摩擦面)又は回転部(転がり面)の表面の摩擦抵抗を極限まで減らす加工方法には、刃具の機械的な外力により表面に微細な凹凸筋の溝加工を施すものと、フェムト秒レーザ加工機でナノ周期構造体(連続した微細周期性溝や不連続のディンプル)を施す加工技術が注目を集め旺盛に開発されている。また、上記周期構造体が正しく生成されているか・否か・を判定する観測装置も開発されている。
【0003】
上記フェムト秒レーザ加工機において、周期構造体(例えば微細周期性溝)を加工する加工方法は、固体材料表面に、低フルーエンスの超短パルスレーザ(フェムト秒レーザ)を偏光制御して照射することで、照射したレーザの波長より小さいサイズの微細構造を形成する。即ち、超短パルスレーザを直線偏光させて固体材料表面に照射することで、偏光方向とは直交する方向に沿って細長い微細構造が形成でき、また、円偏光させて照射することで微細構造のディンプルが形成される。こうした微細構造のサイズは、照射するレーザの波長と正の相関関係があり、波長を選択することで微細構造のサイズを制御するものが提供されている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0004】
また、フェムト秒レーザがレーザ駆動部から入射されたとき、レーザを複数の光束に分離する回折格子3と、回折格子3によって分離された光束を互いに干渉させるための凸レンズ4,5と、光束が互いに交差し干渉する干渉領域と凸レンズ5との間に配設された円柱レンズ6と、レーザによって加工するため、加工用基材7を干渉領域に配設することができるXYZステージ8を備え、円柱レンズ6が、干渉領域を扁平な領域に整形するとともにエネルギ密度を集中し、加工用基材7と該干渉領域の物質レーザ相互作用によって微細加工することができるものが提供されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0005】
更に、互いに干渉したフェムト秒レーザ・パルスを、基材に照射することにより、最小平均寸法5〜200nmを有する周期微細構造を基材中に作成するフェムト秒レーザの照射による一次元及び/または二次元周期微細構造の作成方法であり、特に近赤外領域の発振波長で、0.1TW/cm2以上の高密度エネルギーを有し、互いに干渉した2つのフェムト秒レーザ・パルスをシリカガラスに照射することにより、シリカガラス中に、平均幅5〜50nmを有する周期溝を作成するフェムト秒レーザの照射による一次元周期微細構造の作成方法が提供されている(例えば、特許文献3を参照。)。
【0006】
また、更には、溶接ヘッドの旋回駆動機構に、ロータリエンコーダからなる位置センサを取り付け、他方、各層毎の溶接工程におけるアークスタートおよびアークエンドの位置をあらかじめラップすることがないように設定できる位置決めユニットを設け、この位置決めユニットに前記位置センサを接続し、位置決めユニットには、前記各層毎の溶接工程を順に制御するシーケンスコントローラを接続し、前記位置センサからの検出信号に基いて位置決めユニットおよびシーケンスコントローラを介して多層溶接により継手溶接を行うようにしたものが提供されている(例えば、特許文献4を参照。)。
【0007】
そして、本発明の目的により近い技術として、金属対象表面の摩擦抵抗を現状以上に低減することを可能としたものが提供されている。この金属摺動面表面処理装置によると、金属対象物の摺動面にフェムト秒レーザを照射して微細周期構造を形成し、これにより当該摺動面の摩擦抵抗を低減させる構成となっているので、その性質上、加工サイズの均一性が大きく制御性も高いことから、金属対象物の摺動面の摩擦抵抗を現状以上に低減することが可能になる。また、どのような大きさ、形状、材質の金属対象物であってもその摺動面の摩擦抵抗を低減させることが可能であることから、摺動面を有する機械部品の性能を向上させる上で大きなメリットがある。(例えば、特許文献5を参照。)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−211400号公報
【特許文献2】特開2003−334683号公報
【特許文献3】特開2003−57422号公報
【特許文献4】特開平6−320270号公報
【特許文献5】特開2004−360011号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記各公知例において、フェムト秒レーザによる周期構造体(例えば微細周期性溝)の加工方法は、一次元の平面板の表面にフェムト秒レーザを照射して上記周期性構造体を生成させる技術内容であるから、三次元形状をしているシリンダ内壁面やベアリングの内輪・外輪の摺動面に対する上記微細周期性溝を生成させることはできない。また、他の公知例(特開平6−320270)は、鉄筋の継手溶接を多層溶接により自動溶接する方法であって、各層毎の溶接アークのスタート位置およびエンド位置がラップすることがないように制御するものであり、溶接ヘッドを旋回駆動機構により円柱状ワークの周り、即ち、外周を旋回移動させるものであるから、本願発明のように比較的細い筒径からなる筒内周面に微細周期性溝を加工する省スペースを要求される加工ヘッドには、直ちに適用できないという問題点がある。
【0010】
そして、上記フェムト秒レーザ発振器の出力が高くなれば加工点での集光スポット径を大きくすることができ、ナノ周期構造を一度に広範囲に加工できる。しかし、ディンプル加工など一点を集中的に加工しようとすれば、通常の加工方法では機械軸や光学径がその都度加工したい位置に集光点が届くように移動する必要がある。この方法では、加工時間が長くなって加工を短縮させることが困難になる。更に、金属摺動面表面処理装置では、平面状の金属板の表面にナノ周期構造を成形させるに止まっている。これがために、シリンダ内周面のような三次元曲面内にナノ周期構造体を成形させることが出来ない。
【0011】
本発明の課題は、上記従来のフェムト秒レーザにより周期構造体を加工する加工方法やその装置、更には金属摺動面表面処理装置が持つ問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、特に、シリンダブロックにおけるシリンダ内周面の新規な構造に特化するとともに、この周期構造体(微細周期性溝やディンプル)を単気筒シリンダや多気筒シリンダに対しても高精度に効率良く整列加工できるようにした加工方法とその装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の請求項1のシリンダブロックは、シリンダ内周面でピストンが往復動する上死点と下死点間にわたるピストン摺動面に同一方向に整列された周期構造体が加工されたシリンダブロックにおいて、上記周期構造体は上死点付近と下死点付近の密度を高め中間部分の密度を粗く形成されたものであることを特徴とするものである。
【0013】
請求項2のシリンダブロックの周期構造体加工方法は、フェムト秒レーザ発振器から発射される直線偏光のフェムト秒レーザを回転可能に設けた第一回転筒体内に導き、上記第一回転筒体内に配置したλ/2板により直線偏光の偏光方向を変化させるとともに、上記第一回転筒体に対して軸芯を合わせて回転可能に設けられた第二回転筒体内に配置された集光レンズと反射ミラーとによりフェムト秒レーザを集光しつつ外径方向に進ませ、上記反射ミラーの外周囲にチャック手段で把持されたシリンダブロックの内周面を対面させて上記フェムト秒レーザを照射させ、上記反射ミラーを備えた上記第二回転筒体の回転1回転に対して上記λ/2板を備えた上記第一回転筒体を1/2回転させ、上記両筒体の回転に同期させながら上記チャック手段を上記シリンダブロックの内周面の軸芯方向へシリンダ内周面のピストンが往復動する上死点付近及び下死点付近の移動速度を速め中間部分の移動速度を遅くして周期性溝を同一方向に整列加工させることを特徴とするものである。
【0014】
請求項3のシリンダブロックの周期構造体加工方法は、請求項2記載のシリンダブロックの周期構造体加工方法において、上記反射ミラーに向かうフェムト秒レーザを、第二回転筒体内に備える集光レンズの前側に配置されたディンプル加工用ホモジナイザーまたは混合加工用ホモジナイザーに入射させることにより、上記シリンダ内周面にディンプルまたは混合の周期構造体を形成することを特徴とするものである。
【0015】
請求項4のシリンダブロックの周期構造体加工装置は、フェムト秒レーザ発振器と、上記フェムト秒レーザ発振器からの直線偏光のフェムト秒レーザを導入する回転可能な第一回転筒体と、上記第一回転筒体の筒内に設けられ直線偏光のフェムト秒レーザの偏光方向を変化させるλ/2板と、上記第一回転筒体に回転軸芯を合わせて配置される第二回転筒体と、上記第二回転筒体内に配置されフェムト秒レーザを集光させる集光レンズと、上記第二回転筒体の先端側に配置されフェムト秒レーザを外径方向に屈折させる反射ミラーと、上記第二回転筒体の回転1回転に対して上記第一回転筒体を1/2回転させる回転駆動手段と、上記反射ミラーの外周囲にシリンダ内周面の軸芯を合わせたシリンダブロックを把持するチャック手段と、上記チャック手段を上記シリンダブロックの内周面の軸芯方向へシリンダ内周面のピストンが往復動する上死点付近及び下死点付近の移動速度を速め中間部分の移動速度を遅く進退させるZ軸駆動手段と、を具備したことを特徴とするものである。
【0016】
請求項5のシリンダブロックの周期構造体加工装置は、請求項4記載のシリンダブロックの周期構造体加工装置において、上記反射ミラーに向かうフェムト秒レーザを第二回転筒体内に設けた集光レンズの前側に配置されたディンプル加工用ホモジナイザーまたは混合加工用ホモジナイザーに入射させることにより、上記シリンダ内周面にディンプルまたは混合の周期構造体を形成することを特徴とするものである。
【0017】
請求項6のシリンダブロックの周期構造体加工装置は、請求項4または5記載のシリンダブロックの周期構造体加工装置において、上記第二回転筒体の先端部に、多気筒シリンダの各シリンダ内周面に周期構造体を一斉に整列加工する反射ミラーユニットを具備したことを特徴とするものである。
【0018】
本発明のシリンダブロック及びシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置は、上記構成要件からなり以下のように作用する。
第1に、請求項1に記載のシリンダブロックは、ピストンが往復動する上死点と下死点間のピストン摺動面に周期構造体を加工するとともに、上死点付近と下死点付近の周期溝の密度を高め、ピストン・ストロークの中間部分の周期溝の密度を粗く加工されている。これで、ピストンは、シリンダ内で往復動する上死点付近と下死点付近における速度が折り返し点で減速され摩擦係数が増加傾向になっても、周期溝密度を高めた加工が施されていることから、上記摩擦係数は低減されてエネルギーロスが低減される。また、ピストンのストローク途中の摩擦係数は、ピストンの移動速度が速いことから減少傾向となり周期溝密度を荒く加工しても増加しない。しかして、ピストンの往復運動に対してストローク全体の摩擦係数を均一に低下させられ、シリンダの耐久性が高めらる上に、単気筒シリンダ又は多気筒シリンダに対する加工コストの低減や加工時間の短縮化が図れる。
【0019】
第2に、請求項2または4のシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置は、フェムト秒レーザをシリンダ内周面に向けて照射して周期構造体を加工するに際して、レーザ加工ヘッドには、第一回転筒体と第二回転筒体とを備え、第一回転筒体のλ/2板にフェムト秒レーザを通過させて偏光可能な直線偏光とし、上記第二回転筒体に備える反射ミラー等によりフェムト秒レーザを外径方向となるシリンダ内周面に向けて進ませ、上記第二回転筒体の先端外周側に配置したシリンダの内周面に向けて照射される。このとき、上記第一回転筒体と第二回転筒体とは、回転駆動手段により回転軸芯を一致させて1回転されるに際して、上記λ/2板を上記反射ミラーの1/2の回転量として両筒体が回転される。これにより、上記フェムト秒レーザをシリンダ内周面の全周に照射回転して周期構造体の微細周期性溝が同一方向に整列加工される。そして、シリンダの軸芯方向への加工幅は、該シリンダを把持するチャック手段をZ軸駆動手段により移動させて行なわれる。上記シリンダを軸芯方向に進退移動させるに際して、シリンダ内周面でピストンが往復動する上死点付近と下死点付近の周期溝密度を高めるべく送り速度を低下させ、中間部分の周期溝密度を粗くするべく送り速度を速くする制御が行なわれる。かくして、シリンダ内周面におけるピストンの上死点付近と下死点付近の周期溝密度が高められ、途中の周期溝密度が荒く加工される。
【0020】
第3に、請求項3または5において、λ/2板と反射ミラーとの間に配置したディンプル加工用ホモジナイザーまたは混合加工用ホモジナイザーにより、フェムト秒レーザの直線偏光を集束させることができるから、微細周期性溝またはディンプルまたは混合溝がシリンダに加工させられる。
【0021】
第4に、請求項6のシリンダブロックの周期構造体加工装置は、多気筒シリンダの加工に対して、上記第二回転筒体の先端部に反射ミラーユニットを備えて、この反射ミラーユニットの各反射ミラーから各シリンダのシリンダ内周面に一斉に照射回転させられるから、多気筒シリンダに対する周期構造体が一斉に整列加工される。
【発明の効果】
【0022】
本発明のシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置によれば、先ず、単気筒シリンダ又は多気筒シリンダにおいて、ピストンが往復動する上死点付近と下死点付近の周期構造体の密度を特に高めたから、ピストンの往復運動に対してストローク全体の摩擦係数を均一に低下でき、シリンダの耐久性が高められ、加工コストの低減や加工時間の短縮化ができる。
また、シリンダ内周面におけるピストンの上死点付近と下死点付近の周期構造体の密度を高め、中間部分の密度を粗く加工する加工方法が確立でき、且つこの加工方法を確実に遂行する装置が提供できる。
そして、多気筒シリンダにおいて、各反射ミラーから各シリンダ内周面の全周にフェムト秒レーザを照射回転して周期構造体一斉に整列加工でき、多気筒シリンダに対する加工コストの低減や加工時間の短縮化ができる。
【0023】
しかして、エンジンにおいて、エネルギロスの低減による燃費向上がもたらす省エネ効果や耐寿命効果と地球環境の維持及び地球温暖化防止対策に大きく貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明によるシリンダブロック及びシリンダブロックの周期構造加工方法とその装置について、図面に示す第1の実施の形態により説明する。図1は単気筒シリンダの斜視図と展開図、図2は多気筒シリンダの斜視図と展開図、図3はシリンダブロックの周期構造体加工装置の全体構成図、図4は反射ミラー部の拡大断面図、図5と図6はビームエキスパンダ部の詳細断面図、図7はホモジナイザーの拡大写真図、図8はλ/2板の作用図、図9は微細周期性溝を加工する基本構成図、図10はディンプルを加工する基本構成図、図11は各ホモジナイザーの機能説明図、図12はZ軸駆動手段の移動方法と加工軌跡の説明図、図13は微細周期性溝の拡大写真図、図14はディンプルの拡大写真図である。
【0025】
はじめに、本発明のシリンダブロックの周期構造加工装置により加工された単気筒シリンダのシリンダブロックCB1と、多気筒シリンダのシリンダブロックCB2とを、図1及び図2で説明する。上記単気筒シリンダC1及び多気筒シリンダC2は、そのシリンダ内周面60でピストンが往復動する上死点P1と下死点P2間にわたるピストン・ストロークSOの摺動面60Aに周期構造(微細周期性溝KM又はディンプルDP)が加工されているとともに、上死点付近と下死点付近の周期溝密度を高め、ストローク途中の周期溝密度が荒く形成されている。
これにより、ピストンは、単気筒シリンダC1及び多気筒シリンダC2の内面で往復動する上死点P1付近と下死点P2付近における速度が折り返し点で減速され摩擦係数が増加傾向になっても、周期溝密度を高めた加工が施されているから、上記摩擦係数は低減されてエネルギーロスが低減される。また、ピストン・ストロークSOの途中の摩擦係数は、ピストンの移動速度が速いことから減少傾向となり周期溝密度を荒く形成しても増加しない。
【0026】
続いて、図3〜図6により、本発明の第1の実施の形態のシリンダブロックの周期構造体加工装置100を説明する。その構成は、直線偏光のフェムト秒レーザLOを発振するフェムト秒レーザ発振器10と、加工装置の中枢部となるレーザ加工ヘッド20と、シリンダブロックCB1を把持するとともに三次元方向(X軸,Y軸,Z軸の三方向)に移動させるワーク制御テーブル3と、からなる。まず、上記フェムト秒レーザ発振器10とレーザ加工ヘッド20とは、防振台1の基盤2上に水平姿勢の横向きに搭載されている。上記フェムト秒レーザ発振器10は、公知なものであるから詳細構成を省略して概要説明すれば、発振源となるレーザ発振部10Aとこの発振を調整するファイバーレーザ発振器10Bとパルスストレッチャー10CとTi:sapphire再生増幅器10Dとパルスコンプレッサー10Eとレーザパワー減衰器10Fと励起用パルスグリーンレーザ10Gと電源制御部10Hと筐体温度安定化用冷却装置10Iとにより構成されている。上記レーザ加工ヘッド20は、その入力側にフェムト秒レーザLOを受け入れ任意に出力遮断(出力制御)する電磁式のシャッターSTを装備したレーザ出力部20Aが繋がれている。また、上記レーザ加工ヘッド20の出力側には、外筒49Aと内筒49Bとを備え、シリンダブロックCB1を外側から被せている。
【0027】
上記シリンダブロックCB1は、上記レーザ加工ヘッド20に対して別設したワーク制御テーブル3のチャック手段7に把持されている。上記ワーク制御テーブル3は、シリンダブロックCB1をX軸方向(図示の前後方向)に移動させるX軸駆動手段30と、これに搭載されてシリンダブロックC1をZ軸方向(図示の左右方向)に移動させるZ軸駆動手段9と、このZ軸駆動手段9上のコラム9Aに搭載されてY軸方向(図示の上下方向)に移動させるY軸駆動手段5と、この前壁面に配置したワーク保持ベース5Aと、この前部に配置したチャック手段7とからなる。しかして、上記シリンダブロックCB1は、上記レーザ出力部20Aの軸芯(回転中心)O1に対してその軸芯O2を一致させるべく、Y軸駆動手段5と、これを左右X軸の方向に移動させるX軸駆動手段30との合成された微動送りで位置合わせが行われる。また、上記レーザ出力部20Aに対するシリンダブロックCB1のシリンダ60内への挿入深さ位置ZAは、上記X軸駆動手段30に搭載されたZ軸駆動手段9を前後方向となる−Z軸方向(図示の左側方向)又は+Z軸方向(図示の右側方向)へ微動させて行う。更に、上記シリンダブロックCB1は、ワーク保持手段5A上のチャック手段7に把持・固定されていて、上記レーザ加工ヘッド20の先端における内筒49Bの外周でフェムト秒レーザLOの照射を受ける。尚、上記上下のY軸と左右のX軸と前後のZ軸の各駆動は、ガイドレール部材G1, G2, G3とY軸送りのモータM1及びZ軸送りのモータM2、X軸送りのモータM3により行われる。
【0028】
また、上記シリンダブロックCB1の周期構造体加工装置100には、上記各モータM1,M2,M3やシャッターST及び後記する回転駆動手段SDの駆動モータMO等を駆動制御する制御手段200を備えている。この制御手段200の概要構成と機能につてい説明する。まず、周期構造体加工装置100の全体を総括的にコンピュータ管理するとともに装置全体の運転制御を支配する中央制御部CPUと、この中央制御部CPUからの指令で各モータMO,M1,M2,M3やSTの駆動制御をプログラム及び運転させるPC制御機能を備えたNC制御部NCと、NC制御部NCからの指令を受けて各モータMO,M1,M2,M3やSTを駆動する駆動部DDとからなる。これらの機能を備えた上記制御手段200の制御のもとに、各ユニット3,5,9,10,20,30,M1,M2,M3やSTの駆動部DDを作動させる。これで、上記光学偏光素子となるλ/2板Pが設けられた第一回転筒体41を、反射ミラーMが設けられた第二回転筒体49に対して1/2の回転角で回転駆動させる回転駆動手段SD(詳細は後記する)が駆動モータMOで駆動される。これで、フェムト秒レーザLOの直線偏光の偏光方向の向きを変えることなくシリンダブロックCB1のシリンダ面60に照射して周期性溝KMが同一方向に整列加工される。更に、上記シリンダブロックCB1は、これをチャック手段7で把持するY軸駆動手段5を乗せたZ軸駆動手段9により第二回転筒体49の軸芯方向O1にシリンダブロックCB1の軸芯方向O2を移動させることで、上記フェムト秒レーザLOを外シリンダブロックCB1のシリンダ面60に所定幅だけ照射させ、微細周期性溝が所定幅だけ整列加工される。更には、Y軸駆動手段5やX軸駆動手段30とを合成したり、第一回転筒体41及び第二回転筒体49とを、一定の関係の基に回転させることも可能であるから、Z軸駆動手段9の進退制御と絡めての三次元形状のシリンダブロックCB1のシリンダ面60に倣う制御運転が可能である。例えば、ロータリーエンジンのお結び型(三角形)のシリンダのように真円ではないシリンダ等の加工が行える。
【0029】
次に、上記レーザ加工ヘッド20について、図5と図6でその中枢部となる第一回転筒体41を第二回転筒体49の1/2の回転で両筒体を回転駆動させる回転駆動手段SDと、両筒体内に設けた光学系を説明する。先ず、上記防振台1の基盤2上には、上記レーザ加工ヘッド20を水平姿勢に支持する支持体40がその回転軸芯O1を水平方向にして、座板40AをボルトBにより固着されている。上記支持体40内の後端側(図示の右端)には、短身で回転自在な第一回転筒体41が軸受手段を介して支持されており、この第一回転筒体41のレーザ光源側が軸受手段を介した連絡筒42によりレーザ出力部20Aに繋がれている。上記連絡筒42には、光学系となる平凹レンズR1を備え、上記第一回転筒体41の筒内先端には、平凸レンズR2・光学偏光素子となるλ/2板Pが取り付けられている。更に、上記支持体40内の先端側(図示の左端)には、第二回転筒体49が軸受手段を介して支持されており、第一回転筒体41と第二回転筒体49とは、回転駆動手段SDにより回転される。即ち、第一回転筒体41の外周にプーリー43を備え、これが駆動モータMOの回転軸47に取り付けたプーリー44(プーリー43の1/4の歯数)と確動ベルトKB1で繋がれている。尚、上記駆動モータMOは、支持体40から突設したフランジ46に保持され、回転軸47が上記支持体40に取り付けた軸受体48に回転自在に支持されている。上記支持体40内の先端側には、短身で回転自在な第二回転筒体49が軸受手段を介して支持されている。上記第二回転筒体49の外周にプーリー50を備え、これが駆動モータMOの回転軸47に取り付けたプーリー51(プーリー50の1/2の歯数)と確動ベルトKB2で繋がれている。これにより、第二回転筒体49は第一回転筒体41の1/2の回転量で両筒体が回転駆動される。上記第二回転筒体49の筒内の後端側には、光学系のアイリスA2・三連スライド式のホモジナイザーH(エネルギー効率を改善する周期性溝用ホモジナイザーH1とディンプル加工用ホモジナイザーH2と両者の混合加工用ホモジナイザーH3の三種類に切替え選択される)・平凸レンズR3が順次に配置されている。また、上記第二回転筒体49の先端部には、外筒49Aとこの軸芯O1方向にスライドする内筒49Bとが連設され、この内筒49Bの先端には、反射ミラーMがフェムト秒レーザLOを外径方向へ屈折するようにダイアル取付具Dにより角度調節可能に配置されている。しかして、上記反射ミラーMは、シリンダ面60に向けた外径方向にフェムト秒レーザLOを直線偏光として照射される。尚、外筒49Aに対してスライドする内筒49Bは、反射ミラーMに対するフェムト秒レーザLOの焦点距離を調節させる機能を持たせている。
【0030】
上記レーザ加工ヘッド20において、光学系の全体構成の概要を説明する。
まず、上記シリンダブロックCB1のシリンダ面60に微細周期性溝KMを加工する場合は、図5と図8〜図11に示すように、フェムト秒レーザ発振器10のレーザ出力部20Aからのフェムト秒レーザLOは、アイリスA1・シャッターST・平凹レンズR1を介して進行し、更に、レーザ加工ヘッド20の第一回転筒体41内の平凸レンズR2とλ/2板PとアイリスA2を介して進み、更に、第二回転筒体49内の周期性溝用ホモジナイザーH1から平凸レンズ(集光レンズ)R3を介して先端の反射ミラーMに至る。上記周期性溝用ホモジナイザーにする理由は、上記フェムト秒レーザ光LOのエネルギー波形は、図11(b)に示す山形の二次曲線のもので両裾のエネルギーが利用されない。そこで、図11(c)に示すように、その特性を改善する周期性溝用ホモジナイザーH1によりエネルギー分布を矩形に整形し、エネルギー効率を限り無く100%にすることが可能だからである。従って、エネルギー効率を問題にしなければ、上記周期性溝用ホモジナイザーH1は省略することも可能である。続いて、反射ミラーMで外径方向に曲げられたフェムト秒レーザLOは、シリンダブロックCB1のシリンダ面60に直線偏光の形(直径2mm前後)で照射される。即ち、フェムト秒レーザ光LOによる微細周期性溝KMの溝方向と加工面積は、フェムト秒レーザの偏光方向とフル−エンス(レーザ出力のエネルギー)に依存されるから、これらを制御しなければならない。従って、本発明の周期構造体加工装置100のように、三次元形状のシリンダブロックCB1のシリンダ面60を加工するに際して、フル−エンス(レーザ出力のエネルギー)が一定した状態では、フェムト秒レーザ光LOの直線偏光の方向を反射ミラーMの回転に伴って制御しなければならない。具体的には、上記第一回転筒体41の光学経路上に入れた上記λ/2板Pを、第二回転筒体49内の反射ミラーMとの回転位置の調節により、フェムト秒レーザLOの直線偏光の方向が制御される。即ち、図6に示すように、反射ミラーMの1回転(θh )に対して、λ/2板Pを半回転θp
させることでシリンダブロックCB1のシリンダ面60に一様な方向(図示では、シリンダブロックCB1のシリンダ面60の軸芯方向O2にほぼ向けて整列させた方向)に微細周期性溝KMが加工される。(図9を参照)
【0031】
上記λ/2板Pの追記説明をすれば、上記フェムト秒レーザLOは、光束に直交する方向の偏光成分(S成分とP成分)を持っている。この偏光成分に位相差(1/4 波長と1/2 波長分に変化)を与えるものが位相板である。位相差π/2(90°)を与えるものをλ/4板と言い、直線偏光を円偏光に、逆に円偏光を直線偏光に変換する。また、位相差π(180 °)を与えるものをλ/2板と言い、直線偏光の偏光方向のみを90°方向の向きに変える。本発明では、λ/2板Pが使用される。このλ/2板Pは、例えば、図7の拡大写真に示すように、平面ガラス板Gの一部分に屈折率、厚さの等方性の透明薄膜G1を付けたもの、または透明薄膜の付いた部分と付かない部分とを透過する光の間に位相差ができるようにしたものである。従って、上記直線偏光のフェムト秒レーザLOが、λ/2板Pと反射ミラーMを通過してシリンダブロックCB1のシリンダ面60に照射される直線偏光との関係を図8で説明する。フェムト秒レーザ光LOの偏光方向に対して、λ/2板Pを回転させることでこのλ/2板Pを通過するフェムト秒レーザ光LOの偏光方向をその回転角量だけ変えられる。従って、反射ミラーMを回転させて、円筒ワークWの内周面W1を加工するには、図8に示すように、反射ミラーMの2回転(θh )に対して、λ/2板Pを1回転(θp )させることで内周面に一様な方向に整列された微細周期性溝KMが加工される。
【0032】
次に、上記シリンダブロックCB1のシリンダ面60にディンプルDPを加工する場合は、図5と図8と図10と図11に示すように、フェムト秒レーザ発振器10のレーザ出力部20Aからのフェムト秒レーザ光LOは、アイリスA1・シャッターST・平凹レンズR1を介して進み、更に、レーザ加工ヘッド20の第一回転筒体41内の平凸レンズR2とλ/2板P、アイリスA2・ディンプル加工用ホモジナイザーH2を介して進み、更に、第二回転筒体49内の平凸レンズ(集光レンズ)R3を介して先端の反射ミラーMに至る。この後、反射ミラーMで外径方向に曲げられたフェムト秒レーザ光LOは、シリンダブロックCB1のシリンダ面60に照射される。即ち、フェムト秒レーザLOによるディンプルDPは、シリンダブロックCB1のシリンダ面60を加工するに際して、光学経路上の第二回転筒体49内にディンプル加工用ホモジナイザーH2を入れたフェムト秒レーザLOにより、ディンプルDPが加工される。上記ディンプル加工用ホモジナイザーH2は、図11(a)に示すように、一種のホログラムであり、集光部のエネルギー分布を制御する。即ち、ディンプル加工用ホモジナイザーH2は、その表面に微細な凹凸があり、この凹凸を通過するフェムト秒レーザLOの光が回折し、多数のエネルギー分布(エネルギー密度の高い複数のスポットS1〜S6)を生じさせる。このエネルギー分布により、図10に示すようなディンプルDPが加工される。尚、微細周期性溝KMとディンプルDPとを混合加工する混合加工用ホモジナイザーH3に切替えれば、図11(d)に示すように、均一なエネルギー分布SOとエネルギー密度の高い複数のスポットS1〜S6とが存在し、微細周期性溝KMとディンプルDPとが混在した複合加工ができる。
【0033】
しかして、再度、レーザ加工ヘッド20の構成を簡潔に説明すれば、図9(a)に示すように、シリンダブロックCB1のシリンダ面60に一様な方向に微細周期性溝KMを整列加工するには、図9(b)に示すレーザ加工ヘッド20の光学系の構成とする。また、図10(a)に示すディンプルDPを一様な方向に整列加工するときは、図10(b)に示すレーザ加工ヘッド20の光学系の構成とする。そして、シリンダブロックCB1のシリンダ内周面60に、所定幅の微細周期性溝またはディンプルDPを加工するには、図12に示すように、Z軸駆動手段9の2通りの移動方法とその加工軌跡K1,K2による加工が行なわれる。即ち、第二旋回筒体49の1回転θ3毎に、Z軸駆動手段9を所定量毎の1ピック送りを繰り返した間欠移動の加工軌跡K1により実施するか、Z軸駆動手段9を所定の1ピック送りをネジ棒送りのように連続移動したスパイラル状の加工軌跡K2で加工される。図13に微細周期性溝KMを拡大した顕微鏡写真、図14にディンプルDPを拡大した顕微鏡写真を示している。
【0034】
本発明のシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置は、上記構成要件からなり、以下のように作用する。
先ず、上記シリンダブロックの周期構造体加工方法は、ビームエキスパンダ部20において、λ/2板Pと反射ミラーMとの作用を受けてシリンダブロックCB1のシリンダ内周面60(具体的には、エンジンの単気筒シリンダC1)に向けて偏向照射光LOを照射して微細周期性溝KMが加工される。即ち、レーザ出力部20Aは、支持体40に第一旋回筒体41と第二旋回筒体49とを備え、第一旋回筒体41のλ/2板Pにフェムト秒レーザ光LOを通過させて制御可能な直線偏光となって、上記第二旋回筒体49の反射ミラーMによりフェムト秒レーザLOが旋回軸線O1の方向から外径方向の外周に向けて進み、シリンダブロックCB1のシリンダ内周面60に向けて照射される。このとき、上記第一旋回筒体41と第二旋回筒体49とが旋回駆動手段SDにより回転される。即ち、第二旋回筒体49のレーザ照射部49Cが1回転回転されるに際して、上記λ/2板Pを上記反射ミラーの1/2の回転量で回転させることで、上記フェムト秒レーザLOをシリンダ内周面60の全周に照射回転してナノ周期構造の微細周期性溝KMが同一方向に整列加工される。その加工結果は、上記作用において、シリンダブロックCB1のシリンダ内周面60の軸芯方向への加工幅は、該シリンダブロックCB1のZ軸駆動手段9を−Z軸方向または+Z軸方向へ移動させて行なわれる。しかして、シリンダブロックCB1のシリンダ内周面60には、図1に示すように、任意寸法の加工幅(上死点P1と下死点P2間にわたるピストン・ストロークSO)となる摺動面60Aに、ナノ周期構造の微細周期性溝KMが加工される。
【0035】
更に、上記シリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置100は、λ/2板Pと反射ミラーMとの間にホモジナイザーH2を配置した実施例とすることができる。この時のフェムト秒レーザ光LOのエネルギー断面は、図11に示すように、楕円形状となり、その中にエネルギー密度の高いスポットS1〜S6が数点見られる。これにより、上記微細周期性溝MK以外のディンプルDPがシリンダブロックCB1のシリンダ内周面60に効率良く加工される。勿論、ホモジナイザーH3を配置した実施例とすれば、微細周期性溝KMとディンプルDPとが混合された周期構造体が加工される。
【0036】
ここで、単気筒シリンダC1及び多気筒シリンダC2の内面で往復動する上死点P1付近と下死点P2付近の周期溝密度を高め、ピストン・ストロークSOの途中の周期溝密度を荒く加工する方法を説明する。
図15に示す周期構造体の密度特性図に見るように、加工開始点となる上死点P1付近のZ軸駆動手段9を−Z軸方向(軸芯方向)へ後退させる送りを最小として周期溝密度を高くする。そして、徐々に単気筒シリンダC1及び多気筒シリンダC2を−Z軸方向(軸芯方向)へ後退させる移動量とともに、送り速度を速め、ピストン・ストロークSOの途中の周期溝密度を幅広く荒く形成する。更に、加工終点となる下死点P2付近に接近すると、Z軸駆動手段9を−Z軸方向(軸芯方向)へ後退させる送りを最小として周期溝密度を高くする。上記周期溝密度の高い・荒い・その他のパターン形状は、Z軸駆動手段9を−Z軸方向(軸芯方向)へ後退させる送り速度特性・曲線により自由に変更可能である。その制御は、図3に示す制御手段200により行なわれる。即ち、中央制御部CPUからの指令でZ軸駆動手段9の駆動制御をプログラム及び運転するNC制御部NCにて送り速度特性・曲線を予めプログラム設定し、このプログラムにより駆動部DDがZ軸駆動手段9を−Z軸方向(軸芯方向)へ速度制御して実行される。勿論、Z軸駆動手段9の送りを+Z軸方向(軸芯方向)に移動させても良い。
【0037】
しかして、単気筒シリンダC1及び多気筒シリンダC2の内面で往復動する上死点P1付近と下死点P2付近における速度が折り返し点で減速され摩擦係数が増加傾向になっても、周期溝密度を高めた加工が施されているから、上記摩擦係数は低減されてエネルギーロスが低減される。また、ピストン・ストロークSOの途中の摩擦係数は、ピストンの移動速度が速いことから減少傾向となり周期溝密度を荒く形成しても増加しないこととなる。
【0038】
以上、本発明の第1の実施の形態となるシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置によれば、下記のような効果が発揮される。上記単気筒シリンダC1及び多気筒シリンダC2において、ピストンリングとの接触面積の低減及び多数の凹溝に潤滑油が溜まってエンジンにおけるピストンとシリンダ間の摩擦抵抗を極限まで減らすことが可能になり、自動車の燃費改善が最大限に図られる。
【0039】
更に、λ/2板と反射ミラーとの間に配置したホモジナイザーH(エネルギー効率を改善する周期性溝用ホモジナイザーH1とディンプル加工用ホモジナイザーH2と両者の混合加工用ホモジナイザーH3の三種類に切替え選択される)によりフェムト秒レーザ光の偏向光を集光させることができるから、各種模様の周期構造体を単気筒シリンダC1及び多気筒シリンダC2に効率良く加工でき、多数の溝に潤滑油が溜まってエンジンにおけるピストン往復運動の全ストロークSO区間において、シリンダ間の摩擦抵抗を極限まで効率良く減らすことができる。
【0040】
次に、図16と図17により、第2の実施の態様となるシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置100´は、多気筒シリンダブロックCB2のシリンダC2に備える周期構造体(微細周期性溝KMまたはディンプルDPまたはこれらの混合溝)を同時加工する反射ミラーユニットMUを備えたものである。続いて、その具体的な構成を説明する。反射ミラーユニットMUは、上記支持体40にその筐体70が取り付けられている。上記筐体70の左右対称位置には、上記支持体40に備えた第二旋回筒体49及びこの先端の固定外筒49Aと可動内筒49Bと反射ミラーMとからなるレーザ照射部49´が3組一例として備えられている。これで、上記筐体70から下方に突出する3組のレーザ照射部49´は、下方位置に配置したシリンダブロックCB2の多気筒シリンダC2(60)の各シリンダ中心位置O3に合わせられている。上記中央位置のレーザ照射部49´内には、凸レンズR3の直下に2枚のハーフミラーMHを備え、このハーフミラーMHでフェムト秒レーザLOを、レーザ分配路LBとし、三方向分岐レーザL1,L2,L3に分岐照射させる。各レーザ照射部49´内には、分岐レーザL2,L3を受けて直下へ反射させるミラーMA,MBと、直下へ反射された分岐レーザL1,L2,L3を多気筒シリンダC2の内周面60に向けて反射させるミラーMとを配置としている。上記各レーザ照射部49´は、レーザ照射部49´の下端に配置したミラーMと同様に各々に配置したミラーMが連動・同期して旋回動するように、各可動内筒49B間にタイミングベルトTBが捲掛られている。尚、ハーフミラーMHとミラーMA,MBは、回転しないように適宜な固定手段で止められている。更に、上記3本のレーザ照射部49´は、λ/2板Pの下方にホモジナイザーH(エネルギー効率を改善する周期性溝用ホモジナイザーH1またはディンプル加工用ホモジナイザーH2または両者の混合加工用ホモジナイザーH3)を配置していなければ、内周面60には微細周期性溝KMが形成される。従って、ディンプルDPや混合溝を加工させたいときは、ホモジナイザーH2またはH3を配置すればよい。
【0041】
本発明の第2の実施の態様となる反射ミラーユニットMUは、上記のように構成されており、下記のように加工される。先ず、図16と図17に示すように、反射ミラーユニットMUの筐体70から下方に突出する3組のレーザ照射部49´の軸芯(回転中心)O1は、下方位置に配置したシリンダブロックCB2の多気筒シリンダC2の各シリンダ中心位置O3に合わせられるとともに、多気筒シリンダC2におけるピストンの上死点P1に合わせられる。続いて、フェムト秒レーザ発振器10とレーザ出力部20Aを起動するとともに、回転駆動手段SDで第一旋回筒体41と第二旋回筒体レーザ照射部49´とを回転駆動し、Z軸駆動手段9を+Z軸方向(軸芯方向)へ前進駆動させる。即ち、Z軸駆動手段9をシリンダの+Z軸方向(軸芯方向)へ上昇しての加工幅は、ピストン・ストロークSOに合わせられる。
【0042】
ここで、各多気筒シリンダC2の内面でのピストン・ストロークSOの上死点P1付近と下死点P2付近の周期溝密度を高め、途中の周期溝密度を荒く加工する方法を説明する。図15に示す周期構造体の密度特性図に見るように、加工開始点となる上死点P1付近のZ軸駆動手段9を+Z軸方向(軸芯方向)へ上昇させる送りを最小として周期溝密度を高くする。そして、徐々に多気筒シリンダC2を+Z軸方向(軸芯方向)へ上昇させる移動量とともに、送り速度を速め、ピストン・ストロークSOの途中の周期溝密度を幅広く荒く形成する。更に、加工終点となる下死点P2付近に接近すると、Z軸駆動手段9を+Z軸方向(軸芯方向)へ上昇させる送りを最小として周期溝密度を高くする。上記周期溝密度の高い・荒い・その他のパターン形状は、Z軸駆動手段9を+Z軸方向(軸芯方向)へ上昇させる送り速度特性・曲線により自由に変更可能である。その制御は、図3に示す制御手段200により行なわれる。即ち、中央制御部CPUからの指令でZ軸駆動手段9の駆動制御をプログラム及び運転するNC制御部NCにて送り速度特性・曲線を予めプログラム設定し、このプログラムにより駆動部DDがZ軸駆動手段9を+Z軸方向(軸芯方向)へ上昇させて実行される。勿論、レーザ照射部49´を、下死点P2から上死点P1へ向けての移動の場合は、Z軸駆動手段9の送りを−Z軸方向(軸芯方向)にされる。
【0043】
以上のように、多気筒シリンダ(例えば3気筒で図示したが、これ以外の気筒数でも良い)を加工する第2の実施の態様のシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置100´によれば、下記の効果が得られる。
即ち、反射ミラーユニットMUにより、各シリンダに対応して3組のレーザ照射部49´を備えた各反射ミラーからの直線偏光を各シリンダ内周面の全周に照射回転させて周期性溝またはディンプルまたはこれらの混合溝を一斉に整列加工することができ、加工コストの低減や加工時間の短縮化が飛躍的にできる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のシリンダブロック及びシリンダブロックの周期構造体加工方法とその装置は、自動車の燃費改善対策として、エンジンにおけるピストンとシリンダ間の摩擦低減に限定されず、エアーコンプレッサーにおけるシリンダブロック、即ち、ピストンとシリンダ間の摩擦低減にも適用される。これにより、エンジン及びその他の機器におけるシリンダ内周面の摩擦抵抗を極限まで減らすために加工することが可能である。更に、本発明の方法とその装置において、発明の要旨内での各部の設計変更や構成部材の変更・置換も自由に行い得るものである。具体的には、上記実施の形態では、横型の周期構造体加工装置100として説明したが、フェムト秒レーザ発振器10を上部に配置して下向きにレーザを発射し、この下部に配置したワークを加工する縦型の周期構造体加工装置としても良い。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の単気筒シリンダの斜視図と展開図である。
【図2】本発明の多気筒シリンダの斜視図と展開図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態を示し、シリンダ内周面の周期構造体加工装置の全体図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態を示し、ビームエキスパンダ部の概要断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態を示し、ビームエキスパンダ部の詳細断面図である。
【図6】本発明の第1の実施の形態を示し、ビームエキスパンダ部の詳細断面図である。
【図7】本発明の第1の実施の形態を示し、ホモジナイザーの拡大写真図である。
【図8】本発明の第1の実施の形態を示し、λ/2板の作用図である。
【図9】本発明の第1の実施の形態を示し、微細周期性溝を加工する基本構成図である。
【図10】本発明の第1の実施の形態を示し、ディンプルを加工する基本構成図である。
【図11】本発明の第1の実施の形態を示し、ホモジナイザーの機能説明図である。
【図12】本発明の第1の実施の形態を示し、進退テーブルの移動方法と加工軌跡の説明図である。
【図13】本発明の第1の実施の形態を示し、微細周期性溝の拡大写真図である。
【図14】本発明の第1の実施の形態を示し、ディンプルの拡大写真図である。
【図15】本発明の第1の実施の形態を示し、摺動面に加工される周期構造体の密度特性図である。
【図16】本発明の第2の実施の形態を示し、多気筒シリンダ用の反射ミラーユニットの斜視図である。
【図17】本発明の第2の実施の形態を示し、反射ミラーユニットによるシリンダ加工断面図である。
【符号の説明】
【0046】
1 防振台
2 基盤
3 ワーク制御テーブル
5 Y軸駆動手段
5A ワーク保持ベース
7 チャック手段
9 Z軸駆動手段
9A 垂直台
10 フェムト秒レーザ発振器
10A レーザ発生部
10B ファイバーレーザ発振器
10C パルスストレッチャー
10D Ti:sapphire再生増幅器
10E パルスコンプレッサー
10F レーザパワー減衰器
10G 励起用パルスグリーンレーザ
10H 電源制御部
10I 筐体温度安定化用冷却装置
20 ビームエキスパンダ部
20A レーザ出力部
30 X軸駆動手段
40 支持体
41 第一回転筒体
42 連絡筒
43 プーリー
44 プーリー
45 保持体
46 フランジ
47 回転軸
48 軸受体
49 第二回転筒体
49A 固定外筒
49B 可動内筒
49C,49D,49E レーザ照射部
50 プーリー
51 プーリー
60 シリンダ面
60A 摺動面
70 筐体
A1,A2 アイリス
CB1 単気筒シリンダブロック
CB2 多気筒シリンダブロック
C1 単気筒シリンダ
C2 多気筒シリンダ
CPU 中央制御部
DD 駆動部
DP ディンプル
KM 微細周期性溝
LO フェムト秒レーザ光
L1,L2,L3 分岐レーザ
G1,G2,G3 ガイドレール部材
KB1,KB2 確動ベルト
NC NC制御部
M1,M2,M3 モータ
MO 駆動モータ
MA,MB 反射ミラー
MU 反射ミラーユニット
TB タイミングベルト
MH ハーフミラー
H1 周期性溝用ホモジナイザー
H2 ディンプル加工用ホモジナイザー
H3 両者の混合加工用ホモジナイザー
P λ/2板
P1 上死点
P2 下死点
RO 回転
R1 平凹レンズ
R2,R3 平凸レンズ
SO ピストン・ストローク
S シャッター
S1〜S6 楕円スポット
SD 回転駆動手段
O1,O2 軸芯
ZA 挿入深さ位置
−Z、+Z Z軸方向
100 周期構造体加工装置
200 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダ内周面でピストンが往復動する上死点と下死点間にわたるピストン摺動面に同一方向に整列された周期構造体が加工されたシリンダブロックにおいて、上記周期構造体は上死点付近と下死点付近の密度を高め中間部分の密度を粗く形成されたものであることを特徴とするシリンダブロック。
【請求項2】
フェムト秒レーザ発振器から発射される直線偏光のフェムト秒レーザを回転可能に設けた第一回転筒体内に導き、上記第一回転筒体内に配置されたλ/2板により直線偏光の偏光方向を変化させるとともに、上記第一回転筒体に対して軸芯を合わせて回転可能に設けられた第二回転筒体内に配置された集光レンズと反射ミラーとによりフェムト秒レーザを集光しつつ外径方向に進ませ、上記反射ミラーの外周囲にチャック手段で把持されたシリンダブロックの内周面を対面させて上記フェムト秒レーザを照射させ、上記反射ミラーを備えた上記第二回転筒体の回転1回転に対して上記λ/2板を備えた上記第一回転筒体を1/2回転させ、上記両筒体の回転に同期させながら上記チャック手段を上記シリンダブロックの内周面の軸芯方向へシリンダ内周面のピストンが往復動する上死点付近及び下死点付近の移動速度を速め中間部分の移動速度を遅くして周期性溝を同一方向に整列加工させることを特徴とするシリンダブロックの周期構造体加工方法。
【請求項3】
上記反射ミラーに向かうフェムト秒レーザを、第二回転筒体内に備える集光レンズの前側に配置されたディンプル加工用ホモジナイザーまたは混合加工用ホモジナイザーに入射させることにより、上記シリンダ内周面にディンプルまたは混合の周期構造体を形成することを特徴とする請求項2記載のシリンダブロックの周期構造体加工方法。
【請求項4】
フェムト秒レーザ発振器と、上記フェムト秒レーザ発振器からの直線偏光のフェムト秒レーザを導入する回転可能な第一回転筒体と、上記第一回転筒体の筒内に設けられ直線偏光のフェムト秒レーザの偏光方向を変化させるλ/2板と、上記第一回転筒体に回転軸芯を合わせて配置される第二回転筒体と、上記第二回転筒体内に配置されフェムト秒レーザを集光させる集光レンズと、上記第二回転筒体の先端側に配置されフェムト秒レーザを外径方向に屈折させる反射ミラーと、上記第二回転筒体の回転1回転に対して上記第一回転筒体を1/2回転させる回転駆動手段と、上記反射ミラーの外周囲にシリンダ内周面の軸芯を合わせたシリンダブロックを把持するチャック手段と、上記チャック手段を上記シリンダブロックの内周面の軸芯方向へシリンダ内周面のピストンが往復動する上死点付近及び下死点付近の移動速度を速め中間部分の移動速度を遅く進退させるZ軸駆動手段と、を具備したことを特徴とするシリンダブロックの周期構造体加工装置。
【請求項5】
上記反射ミラーに向かうフェムト秒レーザを第二回転筒体内に設けた集光レンズの前側に配置されたディンプル加工用ホモジナイザーまたは混合加工用ホモジナイザーに入射させることにより、上記シリンダ内周面にディンプルまたは混合の周期構造体を形成することを特徴とする請求項4記載のシリンダブロックの周期構造体加工装置。
【請求項6】
上記第二回転筒体の先端部に、多気筒シリンダの各シリンダ内周面に周期構造体を一斉に整列加工する反射ミラーユニットを具備したことを特徴とする請求項4または5記載のシリンダブロックの周期構造体加工装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−200700(P2008−200700A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−37965(P2007−37965)
【出願日】平成19年2月19日(2007.2.19)
【出願人】(000121202)エンシュウ株式会社 (25)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591114803)財団法人レーザー技術総合研究所 (36)
【Fターム(参考)】