説明

シリンダライナ及びシリンダライナの製造方法

【課題】要求結合強度に応じた周方向溝を適切に設定することでシリンダブロック本体との結合強度を適切に確保しつつ製造コストの抑制が可能なシリンダライナ及びシリンダライナの製造方法を提供する。
【解決手段】比較的大きな結合強度が要求されるシリンダライナ10の一方端部10aから軸方向中央部10cの範囲10Aに断面略ω字状の第1周方向溝15を形成し、比較的要求結合強度が少ない軸方向中央部10cから他方の軸方向端部10bの範囲10Aに断面略J字状の第2周方向溝20に形成する。要求結合強度に応じたシリンダブロック本体50との結合強度が適切に確保される。シリンダライナ10が簡単な形状であり、シリンダライナ10の製造コストの抑制が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンに用いられるシリンダライナ及びシリンダライナの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンのシリンダブロックを軽量化して燃費を向上させるという観点から、鋳鉄製のシリンダライナをアルミニウム合金からなるシリンダブロック本体で鋳包んでシリンダブロックを製造することが実用化されている。
【0003】
しかし、このように鋳鉄製のシリンダライナをアルミニウム合金で鋳包んだシリンダブロックを用いたエンジンは、シリンダライナとシリンダブロック本体との界面の随所に空間、即ち隙間が生じることがある。
【0004】
このようにシリンダライナとシリンダブロック本体との界面に隙間が生じると、シリンダライナとシリンダブロック本体との間の熱伝導効率が低下してエンジンの冷却性能に影響を及ぼすと共に、シリンダライナの周方向において熱伝導率にバラツキが発生する。シリンダライナの周方向の位置によって熱伝導率にバラツキがあると、シリンダライナの熱膨張率も周方向の位置によってバラツキが生じることになる。この熱膨張率のバラツキによりシリンダライナが真円に膨張しなくなり、シリンダライナによって形成されるシリンダボア内面が歪んだ円筒形状となり、シリンダボア内を往復運動するピストンとの摩擦係数が高くなる。この摩擦係数の増大に起因してオイルの消費が増大すると共に、ピストンリングの摩耗が激しくなりエンジンの燃費、性能、耐久性等が低下する要因となる。
【0005】
この対策として、シリンダライナの外周面に溝或いは突起を多数一体に設け、このシリンダライナをアルミニウム合金で鋳包むことによりシリンダライナとシリンダブロック本体との結合強度を高くするシリンダライナが種々知られている。
【0006】
例えば、特許文献1のシリンダライナは、シリンダライナの外周面にシリンダブロック本体の鋳造時における溶湯の凝固の進行度合いに従って、溶湯の凝固が遅いクランクケース部側の形状を細かくし、あるいは溝深さを深くするなど異なる形状の凹凸部を備える。
【0007】
また、特許文献2のシリンダライナは、シリンダライナの外周面に、アンダーカットを有して周方向に連続する断面略J字状に形成された第1周方向溝部と、この第1周方向溝部に連続すると共にアンダーカットを有する断面略J字状に形成された第2周方向溝部によって周方向に連続する断面略ω字状の周方向溝を複数形成する。このシリンダライナをアルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするにあたり、周方向溝によって溶湯の移動が抑制されて凝固及び収縮時に発生する残留応力が均等に分散されてシリンダブロック本体の割れ等が防止できると共に、シリンダブロック本体とシリンダライナとの結合強度が確保できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−13836号公報
【特許文献2】特開2010−59909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献1のシリンダライナによると、シリンダライナの外周面に形状の異なる凹凸部を形成することで、シリンダブロック本体との結合強度の向上を図っている。しかし、シリンダライナの外周面のほぼ全長範囲に亘って形状を細かくし、あるいは溝深さを深くするなど形状の異なる凹凸部を形成することから、その製造が極めて複雑になり、製造コストの増大が懸念される。
【0010】
特許文献2のシリンダライナによると、アンダーカットを有する断面略J字状の第1周方向溝部及び第2周方向溝部によって断面略ω字状の周方向溝を外周面のほぼ全長範囲に亘って複数形成することでシリンダライナとシリンダブロック本体と結合強度が確保できる。
【0011】
しかし、シリンダライナの外周面のほぼ全長範囲に亘って断面略J字状の第1周方向溝部及び第2周方向溝部によって構成される断面略ω状の周方向溝を複数形成することからその製造コストの増大が懸念される。
【0012】
ここで、発明者は鋭意検討したところ、シリンダライナをシリンダブロック本体のシリンダボア部に鋳包みする鋳造成形時には、溶湯がクランクケース部側から流入されてシリンダボア部に対応する部位に流れ込む。このとき溶湯の冷却による凝固はシリンダボア部の先端側付近から始まり、シリンダボア部におけるクランクケース部側が最後に凝固することから、この凝固過程において最後に凝固するシリンダボア部におけるクランクケース部側に内部応力が残存と共に、シリンダブロック本体にシリンダヘッドをボルト締結する際にシリンダボア部におけるクランクケース部側の範囲において局部的な変形が誘発されることから、該部におけるシリンダライナとシリンダブロック本体との間に比較的大きな結合強度が要求される一方、初期過程に凝固するシリンダボア部の先端側においては要求結合強度が比較的小さいことが判明した。
【0013】
従って、かかる点に鑑み成された本発明の目的は、要求結合強度に応じた周方向溝を適切に設定することでシリンダブロック本体との結合強度を適切に確保しつつ製造コストの抑制が可能なシリンダライナ及びシリンダライナの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載のシリンダライナの発明は、鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する環状の平坦面が軸方向に間隔を有して複数形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第2周方向溝が形成されたアルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナであって、上記第1周方向溝は、軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第1周方向溝部と、上記第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端縁が連続する上記平坦面に対してアンダーカットされた第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部とを有し、上記第2周方向溝は、軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成されたことを特徴とする。
【0015】
これによると、シリンダライナにおける外周面の一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲に周方向に連続する第1周方向溝を複数設け、かつ各第1周方向溝を一方の軸方向端部側の平坦面の端縁に、この平坦面に対してアンダーカットされた断面J字状に形成された第1周方向溝部と、第1周方向溝部に連続すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に、この平坦面に対してアンダーカットされて連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部とによって形成することで、シリンダライナを鋳包むアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時にアルミニウム合金溶湯の軸方向の移動が抑制されてアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する軸方向応力が均等に分散されて収縮後のアルミニウム合金に生じる残留応力が軽減及び均等に分散されてシリンダブロック本体の割れ等が防止できる。更に、シリンダライナを鋳包むシリンダブロック本体に発生する剥離応力及び残留応力等の種々の応力がシリンダライナの外周面に断面J字状の第1周方向溝部及び第2周方向溝部によって形成された断面略ω字形状の第1周方向溝部によって受け止められてシリンダライナとシリンダブロック本体との界面における隙間の発生が防止できてシリンダライナとシリンダブロック本体との界面の密着状態が安定した結合強度が確保できる。
【0016】
一方、シリンダライナの軸方向中央部から他方の軸方向端部の範囲においては、シリンダライナの外周面からシリンダブロック本体を剥離する方向の剥離応力に対してシリンダライナの第2周方向溝のアンダーカットされた第1曲面の外周端近傍から第1傾斜面によって受け止められる抗力が作用し、シリンダライナとシリンダ本体との密着力が確保される。
【0017】
従って、シリンダ本体との要求結合強度に応じて比較的大きな結合強度が要求されるシリンダライナの一方端部から軸方向中央部の範囲に多数の断面略ω字状の第1周方向溝を形成し、比較的要求結合強度が少ない軸方向中央部から他方の軸方向端部の範囲には断面略J字状の簡単な形状の第2周方向溝を形成することで、シリンダライナの軸方向における要求結合強度範囲に応じたシリンダブロック本体との結合強度が適切に確保され、かつシリンダライナが、その外周面に一方軸方向端部から軸方向中央部の範囲に多数の第1周方向溝を形成し、軸方向中央部から他方の軸方向端部の範囲に形状の簡単な第2周方向溝に形成する形状であり、シリンダライナの製造コストの抑制が得られる。
【0018】
請求項2に記載のシリンダライナの発明は、鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する螺旋状の平坦面が軸方向に間隔を有して連続して形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲において上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲おいて上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナであって、上記第1周方向溝は、軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第1周方向溝部と、上記第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端縁が連続する上記平坦面に対してアンダーカットされた第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部とを有し、上記第2周方向溝は、軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成されたことを特徴とする。
【0019】
これによると、シリンダライナにおける外周面の一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲に亘って周方向に連続する螺旋状の第1周方向溝が形成され、かつ第1周方向溝が軸方向断面形状において一方の軸方向端部側の平坦面の端縁に、この平坦面に対してアンダーカットされて断面J字状に形成された第1周方向溝部と、第1周方向溝部に連続すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に、この平坦面に対してアンダーカットされて連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部とによって断面略ω字状に形成することで、シリンダライナを鋳包むアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時にアルミニウム合金溶湯の移動が抑制されてアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する応力が均等に分散されて収縮後のアルミニウム合金に生じる残留応力が軽減及び均等に分散されてシリンダブロック本体の割れ等が防止できる。更に、シリンダライナを鋳包むシリンダブロック本体に発生する剥離応力及び残留応力等の種々の応力がシリンダライナの外周面に断面J字状の第1周方向溝部及び第2周方向溝部によって形成された螺旋状の第1周方向溝部によって受け止められてシリンダライナとシリンダブロック本体との界面の密着状態が安定して結合強度が確保できる。
【0020】
一方、シリンダライナの軸方向中央部から他方の軸方向端部の範囲においては、シリンダライナの外周面からシリンダブロック本体を剥離する方向の剥離応力に対してシリンダライナの第2周方向溝のアンダーカットされた螺旋状に連続する第1曲面の外周端近傍から第1傾斜面によって受け止める抗力が作用し、シリンダライナとシリンダ本体との密着力が確保される。
【0021】
従って、シリンダブロック本体との要求結合強度に応じて比較的大きな結合強度が要求されるシリンダライナの一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲に断面略ω字状で螺旋状に連続する第1周方向溝を形成し、比較的要求結合強度が少ない軸方向中間部から他方の軸方向端部の範囲に断面略J字状で連続する螺旋状の第2周方向溝に形成することで、シリンダライナの軸方向における要求結合強度範囲に対応してシリンダブロック本体との結合強度が適切に確保される。更に、シリンダライナが一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲に断面略ω字状で連続する螺旋状の第1周方向溝を形成し、軸方向中間部から他方の軸方向端部の範囲に断面略J字状で連続する螺旋状の第2周方向溝に形成する簡単な形状でありシリンダライナの製造コストの抑制が得られる。
【0022】
請求項3に記載のシリンダライナの製造方法の発明は、鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する環状の平坦面が軸方向に間隔を有して複数形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第2周方向溝が形成されたアルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナの製造方法において、筒状に鋳造されたシリンダライナの素材を中心軸回りに回転駆動させ、該素材の外周面に第1加工工具を当て環状でかつ上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状の第2周方向溝と環状で上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状で上記第2周方向溝と同形の第2周方向溝部を上記一方の軸方向端部側から他方の軸方向端部側に順に軸方向に間隔を有して複数切削加工し、該複数の第2周方向溝及び第2周方向溝部が切削加工された素材を中心軸回りに回転駆動させ、該素材の外周面に上記他方の軸方向端部側から軸方向中央部側に順に軸方向に間隔を有して第2加工工具を当てて、上記各第2周方向溝部の第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端が連続する第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部を切削加工して複数の第1周方向溝を形成することを特徴とする。
【0023】
これによると、筒状に鋳造されたシリンダライナの素材を中心軸回りに回転駆動させて外周面に第1加工工具を当て環状でかつ断面J字状の第2周方向溝及び第1周方向溝部を軸方向に間隔を有して複数切削加工し、この複数の第2周方向溝及び第1周方向溝部が切削加工された素材を中心軸回りに回転駆動させて外周面に第2加工工具を当てて断面J字状に形成された第2周方向溝部を切削加工して第1周方向溝を形成する機械加工により請求項1のシリンダライナを効率的に製造することができ、シリンダライナの製造コストの低減が得られる。
【0024】
請求項4に記載のシリンダライナの製造方法の発明は、鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する螺旋状の平坦面が軸方向に間隔を有して連続して形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲において上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲おいて上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナの製造方法において、筒状に鋳造されたシリンダライナの素材を中心軸回りに回転駆動させ、該素材の外周面に第1加工工具を当て中心軸線と平行に一方の軸方向端部側から他方の軸方向端部側に移動させて他方の軸方向端部側から軸方向中央部に亘って螺旋状でかつ軸方向断面形状が一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状の第2周方向溝を切削加工し、該軸方向中央部から上記一方の軸方向端部側に上記第2周方向溝に連続する螺旋状でかつ軸方向断面形状が一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状の第1周方向溝部を切削加工し、該螺旋状の第2周方向溝及び第1周方向溝部が切削加工された素材を中心軸回りに上記回転方向と逆回転方向に回転駆動させ、該素材の外周面に加工工具を当て中心軸線と平行に一方の軸方向端部側から軸方向中央部まで移動させて螺旋状でかつ軸方向断面形状が上記第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端が連続する第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部を切削加工して螺旋状の第1周方向溝を形成することを特徴とする。
【0025】
これによると、筒状に鋳造されたシリンダライナの素材を中心軸回りに回転駆動させて外周面に第1加工工具を当て中心軸線と平行に他方の軸方向端部側から一方の軸方向端部側に移動させて連続する螺旋状でかつ断面J字状の第2周方向溝及び第1周方向溝部を切削加工し、この螺旋状の第2周方向溝及び第1周方向溝部が切削加工された素材を中心軸回りに上記回転方向と逆回転方向に回転駆動させ、素材の外周面に第2加工工具を当て中心軸線と平行に一方の軸方向端部側から軸方向中央部に移動させて螺旋状でかつ断面J字状に形成された第2周方向溝部を切削加工して第1周方向溝を形成する機械加工により請求項2のシリンダライナを効率的に製造することができ、シリンダライナの製造コストの低減が得られる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、シリンダ本体との要求結合強度に応じて比較的大きな結合強度が要求されるシリンダライナの一方端部から軸方向中央部の範囲に断面略ω字状の第1周方向溝を形成し、比較的要求結合強度が少ない軸方向中央部から他方の軸方向端部の範囲に断面J字状の第2周方向溝に形成することで、要求結合強度に応じたシリンダブロック本体との結合強度が適切に確保され、かつシリンダライナが、その外周面に一方端部から軸方向中央部の範囲に第1周方向溝を形成し、軸方向中央部から他方の軸方向端部の範囲に第2周方向溝に形成する簡単な形状でありシリンダライナの製造コストの抑制が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】第1実施の形態に係り、シリンダブロックの平面図である。
【図2】同上、図1のII−II線断面図である。
【図3】同上、シリンダライナの斜視図である。
【図4】同上、シリンダライナの側面図である。
【図5】同上、図3のV−V線断面の要部拡大図である。
【図6】同上、図5のVI部拡大図である。
【図7】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図8】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図9】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図10】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図11】第2実施の形態に係り、シリンダライナの斜視図である。
【図12】同上、図11のXII−XII線断面の要部拡大図である。
【図13】同上、図12のXIII部拡大図である。
【図14】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図15】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図16】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図17】同上、シリンダライナの周方向溝の加工方法の概要説明図である。
【図18】同上、シリンダブロックの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明によるシリンダライナ及びシリンダライナの製造方法の実施の形態を図を参照して説明する。
【0029】
(第1実施の形態)
図1乃至図10を参照して本発明の第1実施の形態を説明する。
【0030】
図1は、鋳鉄製のシリンダライナ10を溶融金属となるアルミニウム合金のシリンダブロック本体50で鋳包んだシリンダブロック1の平面図、図2は図1のII−II線断面図、図3はシリンダライナ10の斜視図、図4はシリンダライナ10の側面図、図5は図3のV−V線断面図、図6は図5のVI部拡大図である。
【0031】
図1及び図2に示すようにシリンダライナ10を鋳包みするリンダブロック50は、オープンデッキ型であって、複数、本実施の形態ではシリンダライナ10を鋳包みする2つの筒状のシリンダボア部51が並列して一体形成され、シリンダボア部51の外周はウォータジャケット52を介在してシリンダ外壁部53によって囲まれ、シリンダ外壁部53はウォータジャケット52の底部を構成するクランクケース部54を介してシリンダボア部51に一体結合される。シリンダボア部51の頂面51a及びシリンダ外壁部53の頂面53aによって図示しないガスケットを介在してシリンダヘッドが取り付けられるシリンダヘッド取付面が形成される。
【0032】
シリンダライナ10は、図3乃至図5に示すように中心軸10Lを中心としてクランクケース部54側の軸方向端部10aからシリンダボア部51の頂面51a側、即ち先端側の軸方向端部10bに延在する断面円形のシリンダボア内面11及び外周面12を有する円筒状に形成されている。
【0033】
外周面12に軸方向端部10aから他方の軸方向端部10bに亘って中心軸10Lと平行で周方向Rに連続する環状の平坦面14が軸方向に等間隔を有して複数形成され、シリンダライナ10の一方の軸方向端部10aから軸方向10Lにおける中央部10cの範囲10Aにおいては隣接する平坦面14間に周方向Rに連続する第1周方向溝15が形成され、軸方向中央部10cから他方の軸方向端部10bの範囲10Bにおいては隣接する平坦面14間に周方向に連続する第2周方向溝20が形成されている。
【0034】
図6に図5のVI部拡大図を示すように、第1周方向溝15は、軸方向断面形状において、軸方向端部10a側の平坦面14の端縁となる第1外周端15aから軸方向端部10a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面16a、第1傾斜面16aの内周端16bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第1曲面16c、第1曲面16cの内周端16dから軸方向端部10b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面16aと対向するテーパ状の第2傾斜面16eが連続する断面略J字状に形成された第1周方向溝部16と、第2傾斜面16eの周端となる稜線17に周端が連続すると共に軸方向端部10b側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第3傾斜面18e、第3傾斜面18eの内周端18dから円弧状に次第に拡径する第2溝底部となる第2曲面18c、第2曲面18cの外周端18bから軸方向端部10a側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面18eと対向するテーパ状で周端が軸方向端部10b側の平坦面14の端縁となる第2外周端15bに連続する第4傾斜面18aによって断面略J字状に形成された第2周方向溝部18とにより稜線17に関して対称に形成される。
【0035】
この第1傾斜面16a及び第4傾斜面18aは中心軸10Lと直交する径方向基準10L1に対して3°から35°の傾斜角θであって、第1傾斜面16a及び第4傾斜面18aの範囲がアンダーカットを形成している。即ち各第1周方向溝15は軸方向端部10a側の溝底部から軸方向端部10bに向かって傾斜する第1周方向溝部16と軸方向端部10b側の溝底部から軸方向端部10aに向かって傾斜する第2周方向溝部18が稜線17を介して対称形状に連続する断面略ω字状に形成されて隣接する平坦面14間に開口して形成される。
【0036】
次に、第2周方向溝20について説明する。なお、第2周方向溝20は第1周方向溝15の第1周方向溝部16と略同様の形状であり、対応する部分には同一符号付して説明する。
【0037】
第2周方向溝20は、軸方向断面形状において軸方向端部10a側の平坦面14の端縁となる第1外周端20aから軸方向端部10a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面16a、第1傾斜面16aの内周端16bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第1曲面16c、第1曲面16cの内周端16dから軸方向端部10b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面16aと対向するテーパ状の第2傾斜面16eが連続する断面略J字状に形成されて外周端が軸方向端部10b側の平坦面14の端縁となる第2外周端20bに連続する。
【0038】
この第2周方向溝20の第1傾斜面16aは中心軸10Lと直交する径方向基準10L1に対して3°から35°の傾斜角θであって、第1傾斜面16aの範囲がアンダーカットを形成している。即ち各第2周方向溝20は第1周方向溝15の第1周方向溝部16と略同一断面形状に形成される。
【0039】
この外周面12に第1周方向溝15及び第2周方向溝20を形成したシリンダライナ10の製造方法を図7乃至図9を参照して説明する。
【0040】
図7乃至図10は、円筒状の素材の外周面に周方向溝を旋盤等の機械加工により形成するシリンダライナ10の製造方法の概要説明図である。
【0041】
図7はシリンダライナ10に第1周方向溝15の第1周方向溝部16及び第2周方向溝20を旋盤等で機械加工する際に使用する第1加工工具25の説明図であり、第1加工工具25と第1周方向溝部16及び第2周方向溝20の相関関係を説明する図である。
【0042】
第1加工工具25は、シリンダライナ10の中心軸10Lに対する刃先25aの中心線25bの角度、即ち切刃角αにおいて、アンダーカットが形成されるシリンダライナ10の外周面12と垂直をなす面12cと刃先25aの中心線25bとなす角度βが刃先25aのノーズ角γの半分より大きい角(β>(γ/2))をなす。より詳細に刃先25aのコーナ半径rが第1曲面16cの半径に相当し、ノーズ角γが第1傾斜面16aと第2傾斜面16eとがなす角度に相当する。
【0043】
図8は、シリンダライナ10に第1周方向溝15の第2周方向溝部18を機械加工する際に使用する第2加工工具26の説明図であり、第2加工工具26と第2周方向溝部18の相関関係を説明する図である。
【0044】
第2加工工具26は、第1加工工具25と同一形状であって、シリンダライナ10の中心軸10Lに対する刃先26aの中心線26bの角度、即ち切刃角αにおいて、アンダーカットが形成されるシリンダライナ10の外周面12と垂直をなす面12cと刃先26aの中心線26bとなす角度βが刃先26aのノーズ角γの半分より大きい角(β>(γ/2))をなす。より詳細に刃先26aのコーナ半径rが第2曲面18cの半径に相当し、ノーズ角γが第3傾斜面18eと第4傾斜面18aとがなす角度に相当する。
【0045】
そして、図9(a)に概要を示し、同図(b)に加工時の第1加工工具25を模式的に示すように、筒状に鋳造されて予めシリンダボア内面11が加工されたシリンダライナ10の素材Wを中心軸10L回りに回転駆動させ、かつ軸方向端部10b側から軸方向端部10a側に予め設定された軸方向間隔で外周面12に切刃角αで第1加工工具25を当てて軸方向端部10bと軸方向中央部10cとの間に複数の第2周方向溝20、即ち平坦面14の端縁となる第1外周端20aから軸方向端部10a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面16a、第1傾斜面16aの内周端16bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第1曲面16c、第1曲面16cの内周端16dから軸方向端部10b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面16aと対向して平坦面14の端縁となる第2外周端20bにするテーパ状の第2傾斜面16eが連続する断面略J字状に形成された第2周方向溝20を切削加工する。同様に、軸方向中央部10cと軸方向端部10aとの間に各周方向溝15の第1周方向溝部16、即ち平坦面14の端縁となる第1外周端15aから軸方向端部10a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面16a、第1傾斜面16aの内周端16bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第1曲面16c、第1曲面16cの内周端16dから軸方向端部10b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面16aと対向するテーパ状の第2傾斜面16eが連続する断面略J字状に形成された第1周方向溝部16を切削加工する。
【0046】
しかる後、図10(a)に概要を示し、同図(b)に加工時の第2加工工具26を模式的に示すように、各第1周方向溝部16及び第2周方向溝20が切削加工された素材Wを中心軸10L回りに回転駆動させ、軸方向端部10a側から軸方向中央部10c側に亘って予め設定された軸方向間隔で外周面12に切刃角αで第2加工工具26を当てて、各第1周方向溝部16の第2傾斜面16eに第3傾斜面18eが連続する第2周方向溝部18、即ち第1周方向溝部16の第2傾斜面16eの周端となる稜線17に周端が連続すると共に軸方向端部10b側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第3傾斜面18e、第3傾斜面18eの内周端18dから円弧状に次第に拡径する第2溝底部となる第2曲面18c、第2曲面18cの外周端18bから軸方向端部10a側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面18eと対向するテーパ状で外周端が軸方向端部10a側の平坦面14の端縁となる第2外周端15bに連続する第4傾斜面18aによって断面J字状に形成された第2周方向溝部18を切削加工することによって効率的に、かつ良好な周方向溝15を形成する。
【0047】
このように形成されたシリンダライナ10は、鋳包み工程において、軸方向端部10a側をクランクケース部54側に軸方向端部10b側をシリンダボア部51の先端側として2本を並列配置して鋳型内にセットし、アルミニウム合金溶湯で鋳包むことによって図1及び図2に示すようにシリンダライナ10がアルミニウム合金のからなるシリンダブロック本体50によって鋳包みされてシリンダライナ10とシリンダブロック本体50が一体化されたシリンダブロック1が得られる。
【0048】
この鋳包み工程において、特に結合強度が要求されるシリンダボア部51のクランクケース部54側である範囲10Aにあっては、アルミニウム合金溶湯が各第1周方向溝15内にも進入し、シリンダライナ10を鋳包むアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に、収縮応力が平坦面14と直交して作用し、かつ凝固に伴う軸方向の収縮がシリンダライナ10の外周面12に多数形成された各第1周方向溝15の第1周方向溝部16及び第2周方向溝部18によって均等に受け止められてアルミニウム合金溶湯の軸方向の移動が抑制される。これによりアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する軸方向応力がシリンダライナ10の外周面12に沿って均等に分散されて収縮後のアルミニウム合金に生じる残留応力を軽減及び均等に分散することができる。この残留応力の軽減及び均等化によってシリンダブロック本体50の残留応力が緩和されてシリンダブロック本体50、特に隣接するシリンダライナ10間に形成されるシリンダブロック本体50の薄肉部の残留応力が緩和されてシリンダブロック本体50の割れ等が防止できる。
【0049】
更に、このように鋳鉄製のシリンダライナ10を鋳包むアルミニウム合金製のシリンダブロック本体50には、アルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する残留応力や熱膨張差によって高い負荷が加わり、シリンダライナ10の外周面12からシリンダブロック本体50を剥離する方向の剥離応力が発生するが、この剥離応力に対してシリンダライナ12の第1周方向溝15内に進入したシリンダブロック本体50の部分が、シリンダライナ10の各第1周方向溝15の第1周方向溝部16及び第2周方向溝部18、特にアンダーカットされた第1曲面16cの外周端近傍から第1傾斜面16a及び第2曲面18cの外周端近傍から第4傾斜面18aによって受け止められて抗力が作用し、シリンダライナ10とシリンダ本体50との密着力が確保される。
【0050】
一方、シリンダボア部51の上端付近では、エンジン運転時での高温によりシリンダライナ10の熱膨張量がシリンダボア部51の熱膨張量よりも大きいことから、シリンダライナ10がシリンダボア部51に対して迫り出そうとするが、この迫り出す方向シリンダライナ10の範囲10Bにおける各第2周方向溝20が開口することでシリンダライナ10の迫り出しに効率的に対抗でき、シリンダライナ10とシリンダボア部51との密着力を高めることができる。また、シリンダライナ10の外周面12からシリンダブロック本体50を剥離する方向の剥離応力に対して各第2周方向溝20のアンダーカットされた第1曲面16cの外周端近傍から第1傾斜面16aによって受け止められて抗力が作用し、シリンダライナ10とシリンダ本体50との密着力が確保される。
【0051】
従って、このように形成されたシリンダブロック1は、特に結合強が要求されるシリンダライナ10のクラックケース部53側の範囲10Aにおいてシリンダブロック本体50との界面に隙間が発生することなく、熱伝導率が向上してエンジンの冷却性能が確保できると共に、シリンダライナ10の熱膨張にバラツキがなくなる。その結果、シリンダライナ10が真円に膨張してシリンダボア内面11が真円の円筒状となり、シリンダボア内を往復動するピストンとの摩擦係数が抑制できる。このシリンダライナ10とピストンとの摩擦係数の抑制に伴ってオイルの消費が減少すると共にピストンリングの磨耗が回避されてエンジンの燃費、性能、耐久性等が向上する。
【0052】
このように、本実施の形態によると、シリンダライナ10の軸方向における要求結合強度範囲に対応して比較的大きな結合強度が要求されるシリンダライナ10のクランクケース部53側の範囲10Aに多数の第1周方向溝15を形成し、比較的要求結合強度が少ないシリンダボア部51の先端側となる範囲10Bに第2周方向溝20に形成することで、シリンダブロック本体50との結合強度を適切に確保される。
【0053】
更に、シリンダライナ10の第1周方向溝15及び第2周方向溝20が、シリンダライナ10の素材Wを中心軸10L回りに回転駆動させ、かつ軸方向端部10b側から軸方向端部10a側に予め設定された軸方向間隔で外周面12に第1加工工具25を当てて軸方向端部10bと軸方向中央部10cとの間に複数の第2周方向溝20を形成すると共に、軸方向中央部10cと軸方向端部10aとの間に複数の第1周方向溝15の第1周方向溝部16を軸方向端部10b側から軸方向端部10a側に向かって一連の工程において形成し、しかる後、この素材Wを中心軸10L回りに回転駆動させ、予め設定された軸方向間隔で第2加工工具26を当てて、各第1周方向溝部16に連続する第2周方向溝部18を軸方向端部10a側と軸方向中央部10cの間に軸方向端部10a側から軸方向中央部10c側へ向かって切削加工することで、第1周方向溝15が形成するため、軸方向に結合強度が異なる複数種類の溝部を効率的に形成することができるため、シリンダライナ10の製造コストを抑制することができる。
【0054】
なお、上記実施の形態では複数の第1周方向溝15が形成される軸方向端部10aと軸方向中央部10cとの範囲10Aと複数の第2周方向溝20が形成される軸方向端中央部10cと軸方向端部10bとの範囲10Bが軸方向においてほぼ同一であるが、この範囲10Aと範囲10Bの割合はエンジンの仕様等の要求に応じて適宜変更することができる。
【0055】
(第2実施の形態)
次に、図11乃至図18を参照して本発明の第2実施の形態を説明する。
【0056】
図11は、本実施の形態における鋳鉄製のシリンダライナ30の斜視図、図12は図11のXII−XII線断面、図13は図12のXIII部拡大図である。
【0057】
シリンダライナ30は、図11及び図12に示すように中心軸30Lを中心としてクランクケース部54側の軸方向端部30aからシリンダボア部51の頂面51a側、即ち先端側の軸方向端部30bに延在する断面円形のシリンダボア内面31及び外周面32を有する円筒状に形成されている。
【0058】
外周面32に、一方の軸方向端部30aから他方の軸方向端部30bに亘って中心軸30Lと平行で周方向Rに連続する螺旋状の平坦面34が軸方向に間隔を有して連続して形成され、シリンダライナ30の一方の軸方向端部30aから軸方向30Lにおける中央部30cの範囲30Aにおいて螺旋状の平坦面34間に螺旋状で連続する第1周方向溝35が形成され、軸方向中央部30cから他方の軸方向端部30bの範囲30Bにおいては螺旋状の平坦面34間に螺旋状で連続する第2周方向溝40が形成される。
【0059】
図13に図12のXIII部拡大図を示すように、第1周方向溝35は、軸方向断面形状において軸方向端部30a側の平坦面34の端縁となる第1外周端35aから軸方向端部30a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面36a、第1傾斜面36aの内周端36bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第1曲面36c、第1曲面36cの内周端36dから軸方向端部30b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面36aと対向するテーパ状の第2傾斜面36eが連続する断面J字状に形成された第1周方向溝部36と、第2傾斜面36eの周端となる稜線37に周端が連続すると共に軸方向端部30b側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第3傾斜面38e、第3傾斜面38eの内周端38dから円弧状に次第に拡径する第2溝底部となる第2曲面38c、第2曲面38cの外周端38bから軸方向端部30a側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面38eと対向するテーパ状で外周端が軸方向端部30b側の平坦面34の端縁となる第2外周端35bに連続する第4傾斜面38aによって断面J字状に形成された第2周方向溝部38とが稜線37に関して対称に形成される。
【0060】
この第1傾斜面36a及び第4傾斜面38aは中心軸30Lと直交する径方向基準30L1に対して3°から35°の傾斜角θであって、第1傾斜面36a及び第4傾斜面38aの範囲がアンダーカットを形成している。即ち螺旋状の第1周方向溝35は軸方向端部30a側の溝底部から軸方向中央部30c側に向かって傾斜する第1周方向溝部36と、軸方向中央部30c側の溝底部から軸方向端部30a側に向かって傾斜する第2周方向溝部38が稜線37を介して対称に連続する断面略ω字状に形成されて隣接する平坦面34間に開口して形成される。
【0061】
第2周方向溝40は、第1周方向溝30の第1周方向溝部36に連続する断面形状であって、第1周方向溝部16と断面形状においてほぼ同一であり、対応する部位に同一符号を付す。第2周方向溝40は、軸方向断面形状において軸方向端部30a側の平坦部34の端縁となる第1外周端40aから軸方向端部30a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面36a、第1傾斜面36aの内周端36bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第1曲面36c、第1曲面36cの内周端36dから軸方向端部30b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面36aと対向するテーパ状の第2傾斜面36eが連続する断面略J字状に形成されて外周端が軸方向端部30a側の平坦面34の端縁となる第2外周端40bに連続する。
【0062】
この第1傾斜面36aは中心軸30Lと直交する径方向基準30L1に対して3°から35°の傾斜角θであって、第1傾斜面36aの範囲がアンダーカットを形成している。
【0063】
この外周面32に連続する螺旋状の第1周方向溝35及び第2周方向溝40を形成したシリンダライナ30の製造方法を図14乃至図17を参照して説明する。
【0064】
図14は、シリンダライナ30に第1周方向溝35の第1周溝部36及び第2周方向溝40を機械加工する際に使用する第1加工工具45の説明図であり、第1加工工具45と第1周方向溝部36及び第2周方向溝40の相関関係を説明する図である。
【0065】
第1加工工具45は、シリンダライナ30の中心軸30Lに対する刃先45aの中心線45bの角度、即ち切刃角αにおいて、アンダーカットが形成されるシリンダライナ30の外周面32と垂直をなす面32cと刃先45aの中心線45aとなす角度βが刃先45aのノーズ角γの半分より大きい角(β>(γ/2))をなす。より詳細に刃先45aのコーナ半径rが第1曲面36cの半径に相当し、ノーズ角γが第1傾斜面36aと第2傾斜面36eとがなす角度に相当する。
【0066】
図15は、シリンダライナ30に第1周方向溝35の第2周方向溝部38を機械加工する際に使用する第2加工工具46の説明図であり、第2加工工具46と第2周方向溝部38の相関関係を説明する図である。
【0067】
第2加工工具46は、第1加工工具45と同一形状であって、シリンダライナ30の中心軸30Lに対する刃先46aの中心線46bの角度、即ち切刃角αにおいて、アンダーカットが形成されるシリンダライナ30の外周面32と垂直をなす面32cと刃先46aの中心線46aとなす角度βが刃先46aのノーズ角γの半分より大きい角(β>(γ/2))をなす。より詳細に刃先46aのコーナ半径rが第2曲面18cの半径に相当し、ノーズ角γが第3傾斜面18eと第4傾斜面18aとがなす角度に相当する。
【0068】
そして、図16(a)に概要を示し、同図(b)に加工時の第1加工工具45を模式的に示すように、筒状に鋳造されて予めシリンダボア内面31が加工されたシリンダライナ30の素材Wを中心軸30L回りに回転駆動させ、外周面32に切刃角αで第1加工工具45を当てて軸方向端部30b側から軸方向端部30a側に予め設定された一定送り速度で移動して、螺旋状に連続する第2周方向溝40及び第1周方向溝35の第1周方向溝部36を切削加工する。具体的には軸方向端部30bと軸方向中央部30cとの間に螺旋状の第2周方向溝40、即ち平面部34の端縁となる第1外周端40aから軸方向端部30a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面36a、第1傾斜面36aの内周端36bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第2曲面36c、第1曲面36cの内周端36dから軸方向端部30b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面36aと対向するテーパ状の第2傾斜面36eが平面部34の端縁となる第2外周端40bに連続する断面J字状で螺旋状に連続する第2周方向溝40を切削加工する。
【0069】
こ第2周方向溝40に連続して軸方向中央部30cから軸方向端部30a側に連続する螺旋状の第1周方向溝35の第1周方向溝部36、即ち平面部34の端縁となる第1外周端36aから軸方向端部30a側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第1傾斜面36a、第1傾斜面36aの内周端36bから円弧状に次第に縮径する第1溝底部となる第2曲面36c、第1曲面36cの内周端36dから軸方向端部30b側に移行するに従って拡径して第1傾斜面36aと対向するテーパ状の第2傾斜面36eが連続する断面J字状で螺旋状に連続する第1周方向溝部36を切削加工する。
【0070】
しかる後、螺旋状の第2周方向溝40及び第1周方向溝部36が切削加工された素材Wを図17(a)に概要を示し、同図(b)に加工時の第2加工工具46を模式的に示すように、素材Wを中心軸30L回りに逆方向に回転駆動させ、切刃角αで第2加工工具46を当てて中心軸30Lに沿って第2加工工具46を逆方向、即ち、一方の軸方向端部30a側から軸方向中間部30cまで予め設定された一定速度で移動させて第1周方向溝部36の第2係斜面36eに第3傾斜面38eが連続する螺旋状に連続する第2周方向溝部38、即ち、第2傾斜面36eの周端となる稜線37に周端が連続すると共に軸方向端部30b側に移行するに従って次第に縮径するテーパ状の第3傾斜面38e、第3傾斜面38eの内周端38dから円弧状に次第に拡径する第2溝底部となる第2曲面38c、第2曲面38cの外周端38bから軸方向端部30a側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面38eと対向するテーパ状で外周端が軸方向端部30b側の平坦面34の端縁となる第2外周端35bに連続する第4傾斜面38aによって断面J字状に形成された第2周方向溝部38を切削加工することによって良好な第1周方向溝35が形成できる。
【0071】
このように形成されたシリンダライナ30は、第1実施の形態と同様に鋳包み工程において、軸方向端部30a側をクランクケース部54側に軸方向端部30bをシリンダボア部51に先端側として2本を並列配置して鋳型内にセットし、アルミニウム合金溶湯で鋳包むことによって、図18に示すようにシリンダライナ30がアルミニウム合金からなるシリンダブロック本体50によって鋳包みされてシリンダライナ30とシリンダブロック本体50が一体化されたシリンダブロック1が得られる。
【0072】
この鋳包み工程において、シリンダボア部51のクランクケース部54側である範囲30Aにあっては、軸方向端部30aから軸方向中央部30cに亘る螺旋状で第1周方向溝35が軸方向端部30a側の溝底部から軸方向中央部30cに向かって傾斜する第1周方向溝部36と軸方向端部30b側の溝底部から軸方向端部30aに向かって傾斜する第2周方向溝部38が稜線37を介して対象に連続して形成されて隣接する平坦面34間に開口して形成されることから、アルミニウム合金溶湯が第1周方向溝35内にも進入してシリンダライナ30を鋳包むアルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に収縮応力が平坦面34と直交して作用し、かつ凝固に伴う軸方向の収縮がシリンダライナ30の外周面32に螺旋状に形成された第1周方向溝35の第1周方向溝部36によって軸方向に均等に受け止められてアルミニウム合金溶湯の軸方向の移動が抑制される。この結果、アルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する軸方向応力がシリンダライナ30の外周面32に沿って均等に分散されて収縮後のアルミニウム合金に生じる残留応力を軽減及び均等に分散することができる。この残留応力の軽減及び均等化によってシリンダブロック本体50の残留応力が緩和されてシリンダブロック本体50、特に隣接するシリンダライナ30間に形成されるシリンダブロック本体50の薄肉部の残留応力が緩和されてシリンダブロック本体50の割れ等が防止できる。
【0073】
更に、このように鋳鉄製のシリンダライナ30を鋳包むアルミニウム合金製のシリンダブロック本体50には、アルミニウム合金溶湯の凝固及び収縮時に発生する残留応力や熱膨張差によって高い負荷が加わり、シリンダライナ30の外周面32からシリンダブロック本体50を剥離する方向の剥離応力が発生するが、この剥離応力に対し、シリンダライナ30の第1周方向溝35内に進入したシリンダブロック本体50の部分が、第1周方向溝部36及び第2周方向溝部38、特にアンダーカットされた第1曲面36cの外周端近傍から第1傾斜面30a及び第2曲面38cの外周端近傍から第4傾斜面38aによって受け止められて抗力が作用し、シリンダライナ30とシリンダ本体50との密着力が確保される。
【0074】
一方、シリンダボア部51の上端付近では、エンジン運転時での高温によりシリンダライナ30の熱膨張量がシリンダボア部51の熱膨張量よりも大きいことから、シリンダライナ30がシリンダボア部51に対して迫り出そうとするが、この迫り出す方向に螺旋状に形成された第2周方向溝40が開口することで、シリンダライナ30の迫り出しに効率的に対抗できてシリンダライナ30とシリンダボア部51との密着力を高めることができる。また、シリンダライナ30の外周面32からシリンダブロック本体50を剥離する方向の剥離応力に対してシリンダライナ30の第2周方向溝20のアンダーカットされた螺旋状に連続する第1曲面36cの外周端近傍から第1傾斜面36aによって受け止められて抗力が作用し、シリンダライナ30とシリンダ本体50との密着力が確保される。
【0075】
従って、本実施の形態によると シリンダライナ30の軸方向における要求結合強度に応じて、比較的大きな結合強度が要求されるシリンダライナ30のクランクケース53側の範囲30Aに螺旋状の第1周方向溝35を形成し、比較的要求結合強度が少ないシリンダボア部51の先端側となる範囲30Bに第2周方向溝40に形成することで、シリンダブロック本体50との結合強度が適切に確保され、鋳鉄製のシリンダライナ30とアルミニウム合金製のシリンダブロック本体50との界面の密着状態が安定し、界面に隙間の発生がなくシリンダライナ30とシリンダブロック本体50の結合強度に優れ安定した高品質のシリンダブロック1が得られる。
【0076】
更に、シリンダライナ30の外周面32に螺旋状に連続して形成される第1周方向溝35及び第2周方向溝40は、第1実施の形態における溝加工を断続して形成する方法に比べ、筒状に鋳造されたシリンダライナ30を中心軸30L回りに回転駆動させ、外周面32に第1加工刃具45を当てて中心軸30L方向に沿って軸方向端部30b側から軸方向端部30a側に移動させて螺旋状に連続する第2周方向溝40及び第1周方溝36の第1周溝部36を機械加工し、しかる後、シリンダライナ30を中心軸30L回りに逆回転駆動し、中心軸30Lに沿って第2加工工具46を軸方向端部30a側から軸方向中央部30cまで移動させて第1周方向溝36の第2傾斜面26eに第3傾斜面38eが連続する第2周方向溝38を機械加工により効率的に形成することができ、生産性の向上が得られ、製造コストの低減が得られる。
【0077】
なお、上記実施の形態では螺旋状に第1周方向溝35が形成される軸方向端部30aと軸方向中央部30cとの範囲30Aと、螺旋状に第2周方向溝40が形成される軸方向端中央部30cと軸方向端部30bとの範囲30Bが軸方向においてほぼ同一であるが、この範囲30Aと範囲30Bの割合はエンジンの仕様等の要求に応じて適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0078】
1 シリンダブロック
10 シリンダライナ
50 シリンダブロック本体
51 シリンダボア部
51a 頂面
52 ウォータジャケット
53 シリンダ外壁部
53a 頂面
54 クランクケース部
10L 中心軸
10a 一方の軸方向端部
10b 他方の軸方向端部
10c 軸方向中央部
10A 範囲
10B 範
11 シリンダボア内面
12 外周面
14 平坦面
15 第1周方向溝
15a 第1外周端
15b 第2外周端
16 第1周方向溝部
16a 第1傾斜面
16b 内周端
16c 第1曲面
16d 内周端
16e 第2傾斜面
17 稜線
18 第2周方向溝部
18e 第3傾斜面
18d 内周端
18c 第2曲面
18b 外周端
18a 第4傾斜面
20 第2周方向溝
20a 第1外周端
20b 第2外側端
25 第1加工工具
26 第2加工工具
W 素材
30 シリンダライナ
31 シリンダボア内面
32 外周面
34 平坦面
35 第1周方向溝
30a、30b 軸方向端部
30c 軸方向中央部
40 第2周方向溝
35a 第1外周端
35b 第2外周端
36 第1週方向溝部
36a 第1傾斜面
36b 内周端
36c 第1曲面
36d 内周端
36e 第2傾斜面
38e 第3傾斜面
38d 内周端
38c 第2曲面
38b 外周端
38a 第4傾斜面
37 稜線
40 第2周方向溝
40a 第1外周端
40b 第2外周端
45 第1加工工具
46 第2加工工具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する環状の平坦面が軸方向に間隔を有して複数形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第2周方向溝が形成されたアルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナであって、
上記第1周方向溝は、
軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第1周方向溝部と、
上記第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端縁が連続する上記平坦面に対してアンダーカットされた第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部とを有し、
上記第2周方向溝は、
軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された、ことを特徴とするシリンダライナ。
【請求項2】
鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する螺旋状の平坦面が軸方向に間隔を有して連続して形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲において上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲おいて上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナであって、
上記第1周方向溝は、
軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第1周方向溝部と、
上記第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端縁が連続する上記平坦面に対してアンダーカットされた第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部とを有し、
上記第2周方向溝は、
軸方向断面形状において上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する上記平坦面に対してアンダーカットされた第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された、ことを特徴とするシリンダライナ。

【請求項3】
鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する環状の平坦面が軸方向に間隔を有して複数形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲における上記各平坦面間にそれぞれ周方向に連続する第2周方向溝が形成されたアルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナの製造方法において、
筒状に鋳造されたシリンダライナの素材を中心軸回りに回転駆動させ、該素材の外周面に第1加工工具を当て環状でかつ上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状の第2周方向溝と環状で上記一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状で上記第2周方向溝と同形の第2周方向溝部を上記一方の軸方向端部側から上記他方の軸方向端部側に順に軸方向に間隔を有して複数切削加工し、
該複数の第2周方向溝及び第2周方向溝部が切削加工された素材を中心軸回りに回転駆動させ、該素材の外周面に上記他方の軸方向端部側から軸方向中央部側に順に軸方向に間隔を有して第2加工工具を当てて、
上記各第2周方向溝部の第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端が連続する第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部を切削加工して複数の第1周方向溝を形成することを特徴とするシリンダライナの製造方法。
【請求項4】
鋳鉄製の円筒状で一方の軸方向端部から他方の軸方向端部に連続する外周面に周方向に連続する螺旋状の平坦面が軸方向に間隔を有して連続して形成され、かつ上記一方の軸方向端部から軸方向中央部の範囲において上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、上記軸方向中央部から他方の軸端部の範囲おいて上記螺旋状の平坦面間に螺旋状で連続する第1周方向溝が形成され、アルミニウム合金製のシリンダブロック本体で鋳包みするシリンダライナの製造方法において、
筒状に鋳造されたシリンダライナの素材を中心軸回りに回転駆動させ、該素材の外周面に第1加工工具を当て中心軸線と平行に一方の軸方向端部側から他方の軸方向端部側に移動させて他方の軸方向端部側から軸方向中央部に亘って螺旋状でかつ軸方向断面形状が一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状の第2周方向溝を切削加工し、該軸方向中央部から上記一方の軸方向端部側に上記第2周方向溝に連続する螺旋状でかつ軸方向断面形状が一方の軸方向端部側の平坦面に連続する外周端縁から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第1傾斜面、該第1傾斜面の内周端から次第に縮径する第1曲面、該第1曲面の内周端から他方の軸方向端部側に移行するに従って拡径して第1傾斜面と対向する第2傾斜面が順に連続する断面J字状の第1周方向溝部を切削加工し、
該螺旋状の第2周方向溝及び第1周方向溝部が切削加工された素材を中心軸回りに上記回転方向と逆回転方向に回転駆動させ、該素材の外周面に加工工具を当て中心軸線と平行に一方の軸方向端部側から軸方向中央部まで移動させて螺旋状でかつ軸方向断面形状が上記第2傾斜面の周端に連続すると共に他方の軸方向端部側に移行するに従って次第に縮径する第3傾斜面、該第3傾斜面の内周端から次第に拡径する第2曲面、該第2曲面の外周端から上記一方の軸方向端部側に移行するに従って次第に拡径して第3傾斜面と対向すると共に隣接する軸方向端部側の平坦面の端縁に外周端が連続する第4傾斜面が順に連続する断面J字状に形成された第2周方向溝部を切削加工して螺旋状の第1周方向溝を形成することを特徴とするシリンダライナの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−211563(P2012−211563A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78404(P2011−78404)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】