説明

シリンダ位置検出装置

【課題】ピストンロッドが回転したとしても誤差のないストローク位置検出を行うこと。
【解決手段】ピストンロッドの表面において、該ピストンロッドの直線的ストローク変位の方向に沿って面積が漸増又は漸減する区間を有する所定のパターンで配置された少なくとも1つの磁気応答部と、シリンダ本体の側に固定され、前記磁気応答部のパターンの夫々に対応して設けられたコイルとを具備する。ピストンロッドの直線的ストローク変位に応じて、該コイルに対する磁気応答部の対応面積が変化し、この対応面積の変化に応じて該コイルに生じる電気的インピーダンスが変化する。コイルは、ピストンロッドの回転によって磁気応答部のコイルに対する対応位置が相対的に円周方向に変位することを許容すべく、該磁気応答部に対向する該コイル端部の幅員を、該磁気応答部のパターンの円周方向についての最大幅よりも所定角度範囲だけ幅広に構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体圧シリンダ等のピストンストローク位置を検出するシリンダ位置検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体圧シリンダ等のストローク位置を検出する位置検出装置には、従来より種々の方式のものが知られている。そのうち、コイルを使用した誘導型のシリンダ位置検出装置としては、例えば、特開平11−336713号公報には、ピストンロッドの表面に、軸線方向に対して所定角度だけスキューさせて長手状に延びた磁気応答部を形成し、ロッド本体側に設けられたコイルセンサにおいて、ロッドの直線的ストローク位置の変化に対応する磁気応答部の相対的な変位を検出するものが開示されている。また、特開2001−174206号公報には、ピストンロッドの表面において、磁気応答部が該ロッドの直線変位方向に沿って面積が漸増又は漸減する区間を有するパターンで配置され、ロッドの直線的ストローク位置の変化に応じてコイルに対する磁気応答部の対応面積が変化し、この対応面積の漸増又は漸減変化に応じて、ピストンロッドの直線変位を検出するものが開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
このような従来から知られるシリンダ位置検出装置においては、ピストンロッドが回転すると直線位置の検出データが不正確になってしまうので、ピストンロッドの不所望な回転によって生じる検出誤差の対策が重要な課題である。この点について、例えば、上記特開平11−336713号公報に開示されたものには、互いに逆向きのスキュー角度で形成した2つの磁気応答部を具備することで、ピストンロッドの回転による誤差を相殺できるようにした例が示されている。しかし、そのような従来の技術では、依然として、検出誤差対策として不十分であった。
【0004】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、ピストンロッドが回転したとしても誤差のないストローク位置検出を行うことができるシリンダ位置検出装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、ピストンロッドの表面において、該ピストンロッドの直線的ストローク変位の方向に沿って面積が漸増又は漸減する区間を有する所定のパターンで配置された少なくとも1つの磁気応答部と、シリンダ本体の側に固定され、前記磁気応答部のパターンの夫々に対応して設けられたコイルとを具備し、前記ピストンロッドの直線的ストローク変位に応じて、該コイルに対する磁気応答部の対応面積が変化し、この対応面積の変化に応じて該コイルに生じる電気的インピーダンスが変化するようにしたシリンダ位置検出装置であって、前記コイルは、前記ピストンロッドの回転によって前記磁気応答部のコイルに対する対応位置が相対的に円周方向に変位することを許容すべく、前記磁気応答部に対向する該コイル端部の幅員を、該磁気応答部のパターンの円周方向についての最大幅よりも所定角度範囲だけ幅広に構成されることを特徴とする。
【0006】
コイル端部の幅員が、該磁気応答部のパターンの円周方向についての最大幅よりも所定角度範囲だけ幅広に構成されることで、ピストンロッドが回転したときコイルに対する前記磁気応答部の対応位置が円周方向に変位したとしても、磁気応答部がコイル対応面から外れない(はみ出さない)ようロッド回転分を考慮した「逃げ」を確保することができる。これにより、コイルに対する磁気応答部の対応位置が多少円周方向に変位したとしても、コイルに対する磁気応答部の対応面積が変化することなく、該コイルに生じる電気的インピーダンスに影響(誤差)を及ぼさない。従って、ピストンロッドの回転によって生じる検出誤差の影響を受けない直線位置の検出を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、添付図面を参照してこの発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0008】
図1はこの発明の一実施例に係るシリンダ位置検出装置を適用したシリンダ装置1の外観を略示する斜視図である。シリンダ装置1は、油圧または空気圧シリンダなど、どのようなタイプのシリンダであってもよい。このシリンダ装置1は、通常知られるように、シリンダ本体2と、このシリンダ本体2内に収納されて該シリンダ本体2に対して相対的に直線変位するピストン3と、このピストン3に一端が連結され、他端がシリンダ本体2の端部開口から外部に突出していて、ピストン3の直線変位に伴って軸方向(図示の矢印x)に直線変位するピストンロッド4とを含んでいる。なお、シリンダ本体2に関連する油圧または空気圧回路等の図示は省略してある。
【0009】
図2(a)は図1に示すシリンダ装置1をシリンダ本体2の端部開口側から見た概念的断面図であり、図2(b)はピストンロッド4の表面展開図である。シリンダ装置1は、ピストンロッド4のシリンダ本体2に対する相対的な直線ストローク位置を検出するための直線変位検出手段(図2(a)において符号10a,10bで示す)と、ピストンロッド4のシリンダ本体2に対する相対的な回転角度を検出するための回転角度検出手段(図2(a)において符号20a,20bで示す)を具える。直線変位検出手段10aに対して、円周方向に略々180度ずれた位置に(つまり中心軸oに関して対称に)直線変位検出手段10bが配置されており、また、回転角度検出手段20aに対して、円周方向に略々180度ずれた位置に(つまり中心軸oに関して対称に)回転角度検出手段10bが配置されている。
【0010】
先ず、直線位置検出手段(10a,10b)の一例について、直線位置検出手段10aを一例に詳細な構成を説明すると、直線位置検出手段10aは、ピストンロッド4の表面に配置された直線位置検出用の磁気応答部11aと、シリンダ本体2に対して固定的に設置された複数(図示の例では4つ)のコイルL1a〜L4a(コイル部)を具える。
(a)に示すように、コイルL1a〜L4aは、所定の配置範囲内において、ピストンロッド4の軸周方向に配列され、且つ、各コイルL1a〜L4aから発生した磁束が該ロッド4表面に対して略直交するよう配置される。磁気応答部11aは、(b)に示すように、ピストンロッド4の表面において、軸線方向(図において矢印Xで示す)に対して所定角度φだけスキューさせて長手状に延びた帯状に形成される。磁気応答部11aは、例えば銅等の非磁性良導電体の金属素材からなり、ピストンロッド4表面の他の部分と磁気応答特性を異ならせた部分であり、例えば、全体が鉄等の磁性体からなるピストンロッド4の表面にて、帯状に銅メッキを施すことで非磁性良導電体からなる磁気応答部11aを形成できる。また、反対に、鉄製ピストンロッド4の表面全体に磁気応答部11aの設置個所のみ帯状に抜いて銅メッキを施すことで、磁気応答部の部分が磁性体の特性を示すようにしてもよい。以下では、磁気応答部は銅のような非磁性良導電体からなるものとする。なお、磁気応答部11aの幅員は、対応するコイルのサイズ、コイル配列等の相関関係に応じて適宜に設定する。図示の例では、1つのコイル幅をWとすると、各コイルL1a〜L4aの相互間隔がコイル幅Wに略々等しく設定されており、磁気応答部11aは、コイル幅Wに対して略々2倍の幅員2Wを有する。このため、図示のように磁気応答部11aが何れか1つのコイル(例えばL1a)対向面全面に位置する状態では、磁気応答部11aは他のコイル(L2a等)の対向面に侵入しない。
【0011】
磁気応答部11aがピストンロッド4の軸線方向に対して所定角度φだけスキューしていることにより、ピストンロッド4の直線的ストローク位置の変化(図2(b)においてx軸方向の変化)に伴い、シリンダ本体2側に固定的に設けられたコイルL1a〜L4aに対する磁気応答部11aの対応位置は、コイルL1a〜L4aからの見かけ上、円周方向(図2(b)においてy軸方向)の変位する。磁気応答部11aのスキュー角度φは、ロッド4の直線的ストローク変位を、磁気応答部11aの相対的な円周方向の変位に変換すべく、検出するストローク変位の範囲に応じて適宜に設定され、典型的には、ストローク変位の範囲全長にわたるロッド4の変位が、各コイルL1a〜L4a配置範囲全長に対する磁気応答部11aの円周方向の移動に相当するように設定する。図2(a)において、直線ストローク変位に伴い移動した磁気応答部11aを点線で示す。
例えば、図2(b)において、x0〜x3で示す範囲がピストンロッド4の1ストローク範囲に相当するとすると、磁気応答部11aは、該ロッド4の直線ストローク変位に伴いストローク開始位置x0からx3まで移動したとき、各コイルL1a〜L4a上を順次Y方向に移動する。なお、図2(b)では、各地点x1,x2,x3における磁気応答部11aを一点鎖線で示す。このように、磁気応答部11aのコイルL1a〜L4aに対する円周方向(Y方向)への移動量を検出することで、ピストンロッド4の比較的長い直線ストロー範囲をアブソリュートで検出することができる。
【0012】
所定の相互間隔(この例では幅W)で配列された個別のコイルL1a〜L4aに対して、所定の幅員(この例では2W)を有する磁気応答部11aが相対的に円周方向へ変位すると、磁気応答部11aに対応するコイル(L1a〜L4a)が、コイルL1a〜L4aの円周方向の配列順に順次遷移する。すなわち、磁気応答部11aの個別のコイルL1a〜L4aに対する相対的な近接位置関係(磁気応答部11aの個別のコイルL1a〜L4aに対する対応面積)は、磁気応答部11aの該相対的変位に伴って変化する。
この磁気応答部11aの個別のコイルL1a〜L4aに対する相対的な近接位置関係の変化に伴い、個別のコイルL1a〜L4aにおける磁気応答部11aとの磁気的結合が変化し、これに応じて、各コイルL1a〜L4aの自己インダクタンスが変化する、つまり、各コイルL1a〜L4aの電気的インピーダンスが変化する。この実施例では、磁気応答部11aが非磁性良導電体であるため、個々のコイルL1a〜L4aに対する磁気応答部11aの近接量(対応面積)が大きいほど、渦電流損によって該個々のコイルL1a〜L4aの自己インダクタンスが減少し、該コイルLa〜L4aの電気的インピーダンスは小さくなる。反対に、個々のコイルL1a〜L4aに対する磁気応答部11aの近接量(対応面積)が小さいほど、個々のコイルL1〜L6におけるインダクタンスが増加し、該コイルL1〜L6の電気的インピーダンスは増加する。
【0013】
例えば、(b)に示すように、磁気応答部11aがストローク開始位置x0(=位置y0)に在るとき、コイルL1aでは磁気応答部11aの近接量が最大(対応面積が最大)になるため、インピーダンスが最小値になる。そして、ロッド4のストローク変位に伴い磁気応答部11aがコイルL1aから遠ざかれば、コイルL1aのインピーダンスが増大する。他のコイルL2a,L3a,L4aも同様に磁気応答部11aの近接量に応じてコイルL2aに対する近接量インピーダンスが増減変化する。ロッド4が略々1/3ストローク変位した状態(地点x1)では、コイルL2aに生じるインピーダンスは最小値になり、ロッド4が略々2/3ストローク変位した状態(地点x2)では、コイルL3aに生じるインピーダンスは最小値であり、ロッド4が1ストローク完了した状態(地点x3)では、コイルL4aに生じるインピーダンスは最小値である。これらコイルL1a〜L4aのインピーダンス変化の特性は、後述するようにコイルL1a〜L4aは1相の交流信号で共通に励磁されるため電気的位相が同相であり、ピストンロッド4の1ストロークに相当する変位量(ストローク位置)θを1サイクル(例えば位相角270度の範囲)とする振幅関数になぞらえることができる。
【0014】
コイルL1のインピーダンスが最小値の地点x0から1/3ストローク変位した地点x1にてコイルL2aのインピーダンスが最小値になるので、コイルL2aのインピーダンス変化は、コイルL1aに生じるインピーダンス変化に対して1/3サイクル(位相角で90度)ずれた特性を示すことになる。
コイルL1aに生じるインピーダンス変化がサイン関数(後述の図4(a)でSを付記する)に相当するとすると、コイルL2aに生じるインピーダンス変化はコサイン関数(同図でC)に相当する。また、コイルL3aのインピーダンス変化は、コイルL1aのインピーダンス変化に対して2/3サイクル(位相角で180度)ずれた特性を示すので、コイルL1aのインピーダンス変化に対して差動的なマイナスサイン関数(同図で/S(Sバー))に相当する。また、コイルL4aのインピーダンス変化は、コイルL1aのインピーダンス変化に対して1サイクル(位相角にして270度)ずれた(つまりコイルL3aのインピーダンス変化に対して差動的な)特性を示すので、これは、マイナスコサイン関数(同図で/C(Cバー))に相当することになる。なお、明細書中では、表記の都合上、反転を示すバー記号は「/(スラッシュ)」で表記するが、これは図中のバー記号に対応する。
【0015】
一方、直線位置検出手段10bは、直線位置検出手段10aと同様に、所定角度φスキューした磁気応答部11bと、これに対応するコイルL1b〜L4bを具え、ロッド4の直線位置に関して各コイルL1b〜L4bにて生じるインピーダンス値が、直線位置検出手段10bのそれと等しくなるよう設計される。ピストンロッド4の直線ストローク変位に応じて各コイルL1b〜L4bに生じるインピーダンス変化は、コイルL1bがサイン関数特性(S)、コイルL2bがコサイン関数特性(C)、コイルL3bがマイナスサイン関数特性(/S)、コイルL4bがマイナスコサイン関数特性(/C)に夫々相当する。
【0016】
ここで、シリンダ本体2に対するピストンロッド4の直線ストローク位置を、変数θを用いて示し、コイルL1a(及びコイルL1b)に生じる理想的なサイン関数特性のインピーダンス変化A(θ)を示すと、
A(θ)=P0+Psinθ
のような式で等価的に表せる。インピーダンス変化は負の領域に入らないため、上記式においてオフセット値P0は振幅関数Pよりも大きく(P0≧P)、「P0+Psinθ」は負の値を取らない。これに対して、コイルL1a(L1b)に生じるインピーダンス変化A(θ)に対して差動的変化を示すコイルL3a(及びコイルL3b)に生じる生じる理想的なマイナスサイン関数特性のインピーダンス変化C(θ)を示すと、
C(θ)=P0−Psinθ
のような式で等価的に表せる。
一方、コイルL2a(及びコイルL2b)に生じる理想的なコサイン関数特性のインピーダンス変化B(θ)を示すと、
B(θ)=P0+Pcosθ
のような式で等価的に表せる。これに対して、このコイルL2a(及びL2b)に生じるインピーダンス変化B(θ)に対して差動的変化を示すコイルL4a(及びコイルL4b)に生じる理想的なマイナスコサイン関数特性のインピーダンス変化D(θ)を示すと、
D(θ)=P0−Pcosθ
のような式で等価的に表せる。
なお、上記「P」は1と見なして省略しても説明上不都合はないので、以下の説明ではこれを省略することにする。
【0017】
図3は、コイルL1a〜L4a及びコイルL1b〜L4bの電気回路の一実施例を示す。なお、図3ではコイルL1a〜L4aのみを示し、コイルL1b〜L4bについては図示及び説明を省略する。図3に示すように、各コイルL1a〜L4a(及びコイルL1b〜L4b)は、可変インダクタンス要素として等価的に示されており、電源30から与えられる所定の交流信号(便宜上sinωtで示す)によって1相で定電圧励磁される。各コイルL1a〜L4aに生じる電圧をVA,VB,VC,VDで表すとすると、取り出される電圧VA〜VDは、下記のように、シリンダ本体2に対するピストンロッド4のストローク位置(すなわち、各コイルL1a〜L4aに対する磁気応答部11aの相対位置)に対応する変数θに応じた各コイルL1a〜L4a毎のインピーダンス値に応じた大きさを示す。
VA=A(θ)sinωt=(P0+sinθ)sinωt
VB=B(θ)sinωt=(P0+cosθ)sinωt
VC=C(θ)sinωt=(P0−sinθ)sinωt
VD=D(θ)sinωt=(P0−cosθ)sinωt
図4(a)は、各コイルL1a〜L4aに生じる電圧VA,VB,VC,VDをθ成分についてのみ模式的に示すグラフである(時間tの成分は示していない)。なお、(a)において、磁気応答部11aの相対的ストローク位置(X0〜X3)を明確に示す。
【0018】
コイルL1a〜L4aで生じた出力電圧VA〜VDは、演算器31,32に入力される。演算器31には、コイルL1aに生じた出力電圧VAと、これに対して差動変化するコイルL3aに生じた出力電圧VCが入力され、演算器32には、コイルL2aに生じた出力電圧VBと、これに対して差動変化するコイルL4aに生じた出力電圧VDが入力される。
演算器31では、下記のように、出力電圧VAと出力電圧VCの差を求め、変数θのサイン関数特性の振幅係数を持つ交流出力信号を生成する。
VA−VC=(P0+sinθ)sinωt−(P0−sinθ)sinωt
=2sinθsinωt
一方、演算器32では、下記のように、出力電圧VBと出力電圧VDの差を求め、変数θのコサイン関数特性の振幅係数を持つ交流出力信号を生成する。
VB−VD=(P0+cosθ)sinωt−(P0−cosθ)sinωt
=2cosθsinωt
【0019】
こうして、ピストンロッド4のストローク位置に対応する変数θを含む2つの周期的振幅関数(sinθ及びcosθ)によってそれぞれ振幅変調された、2相の交流出力信号「2sinθsinωt」と「2cosθsinωt」が得られる(以下係数「2」は省略する)。これは、従来からレゾルバとして知られた検出器のサイン相出力信号sinθsinωt及びコサイン相出力信号cosθsinωtと同等のものである。図4(b)は、演算器31及び32から出力されるサイン相出力信号sinθsinωt及びコサイン相出力信号cosθsinωtを、θ成分についてのみ模式的に示すグラフである(時間tの成分は示していない)。各交流出力信号の振幅成分であるサイン及びコサイン関数における位相角θは、ピストンロッド4の直線ストローク位置に対応しているので、位相角θの値を検出することでロッド4の直線ストローク位置をアブソリュートで検出できる。なお、サイン相及びコサイン相という呼称、及び2つの交流出力信号の振幅関数のサイン、コサインの表し方は便宜的なものであり、一方がサインで他方がコサインでありさえすれば、どちらをサインまたはコサインと称してもよい。すなわち、VA−VC=cosθsinωt、VB−VD=sinθsinωtである、と表現してもよい。
【0020】
本実施例では、演算器31,32から出力される2つの交流出力信号sinθsinωt及びcosθsinωtに基づき、位相検出方式で位置検出を行えるうようになっている。この場合の位相検出方式としては例えば本出願人に係る特開平9−126809号公報に示された技術を用いて構成するとよい。例えば、一方の交流出力信号sinθsinωtをシフト回路33で電気的に90度シフトすることで、交流信号sinθcosωtを生成し、これと他方の交流出力信号cosθsinωtを加算器34及び減算器35で加算合成及び減算合成することで、sin(ωt+θ)及びsin(ωt−θ)なる、θに応じて進相及び遅相方向に位相シフトされた2つの交流信号(位相成分θを交流位相ズレに変換した信号)を生成する。そして、位相シフトされた交流信号sin(ωt+θ)及びsin(ωt−θ)のゼロクロスをコンパレータ36,37で検出し、進相の検出交流信号sin(ωt+θ)のゼロクロス検出パルスLpと、遅相の検出交流信号sin(ωt−θ)のゼロクロス検出パルスLmとを生成して、ディジタル処理装置38に入力する。ディジタル処理装置38では、上記ゼロクロス検出パルスLp及びLmに基づき、基準信号sinωtのゼロ位相時点から進相のゼロクロス検出パルスLpの発生時点までの時間差を計測することで、進相の位相ズレ量+θをディジタル検出し、基準信号sinωtのゼロ位相時点から遅相のゼロクロス検出パルスLmの発生時点までの時間差を計測することで、遅相の位相ズレ量−θをディジタル検出する。ディジタル処理装置38において、進相及び遅相の位相検出値+θ,−θ同士を加算又は減算することを含む所定の演算を行うことで、位相検出データθを得ることができる。こうして、ディジタル処理装置38にて生成した位相検出データθは、直線位置検出信号θとして出力される。
【0021】
なお、ディジタル処理装置38は、専用回路(例えば集積回路装置)で構成してもよいし、プロセッサまたはコンピュータを使用して所定のソフトウェアを実行することにより位相検出処理を行うようにしてもよい。また、上述実施例において、コイル出力を差動演算したことで、コイルの温度ドリフト誤差が完全に補償され、温度ドリフトによるコイルインピーダンス変化の影響を受けないものとなり、更に、進相及び遅相の位相検出値+θ,−θを演算したことで、前記コイル出力を差動演算することで除去しきれなかった温度ドリフト誤差成分を完全に除去することができるので、温度ドリフト特性が補償されることになる。
【0022】
こうして、直線位置検出手段10a及び10bでは、ピストンロッド4のシリンダ本体2に対する相対的な直線ストローク位置を検出できる。
【0023】
当該シリンダ装置1において、直線位置検出手段10aと直線位置検出手段10bは、中心軸oに関して対称に設置されているので、結合部における機械的ガタ等によりロッド4の軸芯ずれ(径方向へのたわみ)が生じた場合、一方の直線位置検出手段にてコイルと磁気応答部(ロッド4表面)の空隙が狭まるならば、他方では該空隙が広がる。このため、直線位置検出手段10a及び10bの各コイルに生じるインダクタンス値は、互いに逆向きの(一方で増加、他方で減少する)誤差が生じてしまい、直線位置検出手段10a及び10bから夫々出力される出力信号θは不正確なものとなってしまう。然るに、この検出誤差は直線位置検出手段10a,10bにて夫々正負逆向きに生じるため、直線位置検出手段10a及び10bから夫々出力される出力信号θ同士を、平均化若しくは加算合成し、その平均値若しくは加算合成値を直線位置検出信号とすることで、ピストンロッド4の軸芯ズレによって生じる検出誤差を相殺した直線ストローク位置を得ることができる。よって、ロッド4の軸芯ズレの影響を受けない位置検出が行える。なお、こうした平均化若しくは加算合成処理は、例えば、ディジタル処理装置38で行うよう構成することができる。
【0024】
ところで、上述の図3の例では、コイルL1a〜L4a(及びコイルL1b〜L4b)を1相で励磁する電気回路の構成例を示したが、これに限らず、コイルL1a〜L4a(及びコイルL1b〜L4b)が2相で励磁されるよう構成することも可能であり、この場合の電気回路は例えば図5のようである。図5において、振幅特性がサイン関数に相当するコイルL1aとマイナスサイン関数に相当するコイルL3aとが逆相直列接続(差動接続)され、コイルL1a,L3aを電源40から与えられる所定の交流信号(便宜上sinωtで示す)によって励磁する。他方、振幅特性がコサイン関数に相当するコイルL2aとマイナスコサイン関数に相当するコイルL4aとが逆相直列接続(差動接続)され、コイルL2a,L4aを電源41から与えられる所定の交流信号(便宜上sinωtで示す)によって励磁する。ピストンロッド4の直線ストローク位置をθとすると、コイルL1a,L3aが差動接続された回路から取り出される電圧は、「sinθcosωt」となり、コイルL2a,L4aが差動接続された回路から取り出される電圧は、「sinθcosωt」となる。これら2つの交流信号「sinθcosωt」と「sinθcosωt」に対して前述の位相検出方式を適用することで変数θに基づく位置検出が可能である。すなわち、加算器42、減算器43及びコンパレータ44,45で処理され、ストローク位置θに応じた進相のゼロクロス検出パルスLpと遅相のゼロクロス検出パルスLmとが生成される。ディジタル処理装置46では、ゼロクロス検出パルスLp及びLmに基づき、前述と同様に、進相の位相ズレ量+θ及び遅相の位相ズレ量−θをディジタル検出し、これに基づき直線位置検出データθ、つまり直線位置検出信号θを得ることができる。
【0025】
上述した通り、直線位置検出手段10a(10b)は、ピストンロッド4の軸方向の直線的ストローク位置を、磁気応答部11a(11b)のコイルL1a〜L4a(L1b〜L4b)に対する円周方向への相対的な変位として検出する。ところで、ピストンロッド4ができるだけ回動しないよう設置、若しくは、そのような環境で当該シリンダ装置1を使用したとしても、例えばロッド4がストローク変位する際等には、取り付け部における機械的遊び等によって多少の回転(回動)が生じ得る。ピストンロッド4が回動した場合、その回動に応じて磁気応答部11a(11b)がコイルL1a〜L4a(L1b〜L4b)に対して相対的に円周方向に変位してしまう。このロッド4の回動による磁気応答部11a(11b)の変位は、直線位置検出手段10a(10b)にてロッド4の直線ストローク位置の変位として検出されてしまい、その回動分だけ直線位置検出信号に検出誤差が生じ得る。
この点、当該シリンダ装置1によれば、次に説明するように、回転角度検出手段(20a,20b)により、ピストンロッド4の回転角度を検出し、検出した回転角度(回転量)に基づき直線位置検出信号を修正することで、ロッド4の回転により生じる誤差を補正することができる。
【0026】
回転角度検出手段(20a,20b)の構成について回転角度検出手段20aを例に説明すると、図2(a)に示すように、回転角度検出手段20aは、ピストンロッド4表面に配置された回転角度検出用の磁気応答部21a(非磁性良導電体部分)と、シリンダ本体2において円周方向に沿って所定角度範囲内(配置範囲P)に配列されたコイルC1a〜C4aとを具える。図2(b)に示すように、回転角度検出用の磁気応答部21aは、ピストンロッド4の表面において軸線方向(矢印X方向)に沿って直線的に長手状に延びた帯状に形成される。各コイルC1a〜C4aの配置範囲Pは、検出したいロッド4の機械的回転角度の範囲に応じて設定される。ここで、図2(a)においてピストンロッド4の回転基準位置(つまり機械的回転角度0°の位置)をHで表すと、図示の例では、コイルC1a〜C4aの配置範囲Pは該基準位置Hを中心にして概ね機械的角度±10°の範囲に設定されており、個々のコイルC1a〜C4aが該範囲Pを4分割するよう配置される。ロッド4の回動はロッド4の結合部における機械的ガタや機械的遊び等によって生じ得るものであるため、コイルC1a〜C4aの配置範囲Pは、比較的狭い機械的角度範囲(例えば±10°程度)に設定してよい。また、磁気応答部21aの長さは、ピストンロッド4の直線ストローク変位の全長に相当することが望ましい。
【0027】
磁気応答部21aがピストンロッド4の軸線方向に沿って直線的に延びているので、該ロッド4が中心軸oを軸にして回動(図2(a)に示す矢印z方向)すると、該回動の回転角度に応じて磁気応答部21aの個別のコイルC1a〜C4aに対する対応位置が変化し、磁気応答部21aの個別のコイルC1a〜C4aに対する近接位置関係(対応面積)が変化する。これに応じて、個別のコイルC1a〜C4aにおける磁気的結合が変化するため、各コイルC1a〜C4aの電気的インピーダンスが変化する。この例では、磁気応答部21aが非磁性良導電体からなるため、コイルC1a〜C4aに対する磁気応答部21aの近接量が大きいほど、該コイルC1a〜C4aの電気的インピーダンスは小さくなる。反対に、個々のコイルC1a〜C4aに対する磁気応答部11aの近接量が小さいほど、該コイルC1〜C6の電気的インピーダンスは増加する。
【0028】
例えば、(b)に示すように、磁気応答部21aの回転位置がy0の時、コイルC1aに対する磁気応答部21aの近接量が最大になり、コイルC1aのインピーダンスは最小値になる。同様に、磁気応答部21aが回転位置y0から、1/3P回転した位置y1の時コイルC2aのインピーダンスが最小値になり、2/3P回転した位置y2(回転基準位置H)の時コイルC3aのインピーダンスが最小値になり、P回転した位置y3の時コイルC4aのインピーダンスが最小値になる。これらコイルC1a〜C4aのインピーダンス変化の特性は、ピストンロッド4のシリンダ本体2に対する回転範囲Pに相当する変位量(回動角)θを1サイクル(位相角270度の範囲)とする振幅関数になぞらえることができる。
【0029】
例えば、コイルC1aに生じるインピーダンス変化がサイン関数(S)に相当するよう設定すると、これに対して、コイルC2aに生じるインピーダンス変化は1/3サイクル(位相角90度)ずれたコサイン関数(C)、コイルC3aのインピーダンス変化は2/3サイクル(位相角180度)ずれたマイナスサイン関数(/S)、コイルL4aのインピーダンス変化は1サイクル(位相角270度)ずれたマイナスコサイン関数(/C)に、夫々相当する。
【0030】
コイルC1a〜C4aを前記図3のように1相の交流信号(sinωt)で励磁すると、各コイルC1a〜C4aから取り出される電圧V1〜V4は、下記のように、シリンダ本体2に対するピストンロッド4の回転角度(すなわち、各コイルL1a〜L4aに対する磁気応答部11aの相対位置)に対応する角度変数θに応じた各コイルC1a〜C4a毎のインピーダンス値に応じた大きさを示す。なお、下記式においてP0はオフセット値を示す。
V1=(P0+sinθ)sinωt
V2=(P0+cosθ)sinωt
V3=(P0−sinθ)sinωt
V4=(P0−cosθ)sinωt
但し、角度変数(θ)は、便宜上、上述の直線位置も回転角度も同じθを用いて示すが、実際は夫々異なる。
【0031】
各コイルC1a〜C4aに生じる出力電圧V1〜V4は、前記図4(a)に示すコイルL1a〜L4aに生じる出力電圧VA〜VDと概ね同様な変化特性のカーブを示す。サイン相出力電圧V1とマイナスサイン相出力電圧V3とを差動的に合成することでサイン関数の振幅関数を持つ出力交流信号(2sinθsinωt)が得られ、また、コサイン相出力電圧V2とマイナスコサイン相出力電圧V4とを差動的に合成することでコサイン関数の振幅関数を持つ出力交流信号(2cosθsinωt)が得られる。こうして、回転角度検出手段20aでは、ピストンロッド4の回動角θに対応する2相の交流出力信号「sinθsinωt」と「cosθsinωt」が得られる。この2相の交流出力信号を、前述の直線位置検出手段10aでの説明と同様に、図3に示したシフト回路33、加算器34、減算器35及びコンパレータ36,37と同様の回路で処理して、回転角θに応じた進相のゼロクロス検出パルスLpと遅相のゼロクロス検出パルスLmとを生成し、これをディジタル処理装置38にて、上記ゼロクロス検出パルスLp及びLmに基づき、前述と同様に、回転角の進相の位相ズレ量+θ及び遅相の位相ズレ量−θをディジタル検出し、これに基づき回転角度用の位相検出データθを生成し、これが回転角度検出信号θとして出力される。
なお、この回転角度検出の場合も、上述の図4に示した2相励磁タイプの電気回路を適用してよい。
【0032】
回転角度検出手段10bにおいても回転角度検出手段10aと同様な構成によりピストンロッド4の回転角度を検出でき、前記直線位置検出手段10a,10bにおいて説明したのと同様に、回転角度検出手段20a及び20bからの出力信号を平均化若しくは加算合成し、その平均値若しくは加算合成値を回転角度検出信号とすることで、ロッド4の軸芯ズレによって生じ得る検出誤差の影響を受けない回転角度を得ることができる。
【0033】
当該シリンダ位置検出装置1によれば、直線位置検出手段10a及び10bと共に、回転角度検出手段20a及び20bを具えることで、該回転角度検出手段20a及び20bによって検出するピストンロッド4の回転角度検出データに基づき、ピストンロッド4の不所望な回転による検出誤差を修正することができる。図6(a)は誤差修正処理を機能的に示すブロック図である。直線位置検出手段10a及び10bからの直線位置検出出力Xと回転角度検出手段20a及び20bからの回転角度検出出力θが修正部50に供給される。修正部50では、回転角度検出出力θに応じた回転誤差ΔX(θ)に基づき、直線位置検出出力Xを修正する演算処理を行う。回転誤差ΔX(θ)は、回転角度検出出力θを変数とし、θ=0(ピストンロッド4の回転角度0°)のときに所定の基準値0となる値である。修正部50から出力される出力データが誤差修正したピストンロッド4のストローク位置Sの位置データを示している。例えば、図6(b)において、直線位置検出出力XがXaであって、回転角度検出出力θ=0のとき、ストローク位置SはXaであるとする。直線位置検出手段10a及び10bからの直線位置検出出力XがXbであったとき、回転角度検出手段20a及び20bからの回転角度検出出力θ≠0(ロッド4が回転した)であれば、そのピストンロッド4の回転量に応じた誤差ΔX(θ)に基づく演算処理(加算又は減算処理)を行うことで検出出力X=Xbを補正する(例えばXb−ΔX(θ))。これにより回転誤差を修正したストローク位置データS=Xaを得る。なお、上記回転誤差修正処理は、ディジタル処理装置38にてソフトウェアプログラムを実行することで実施可能である。また、必要に応じて、修正部50からの出力データをロッド4のストローク位置に変換するためのメモリ又はテーブルを更に具備してもよい。なお、修正部50は前述のような演算処理による構成に限らず、誤差修正のための所定のメモリ又はテーブルで構成しても差し支えない。
【0034】
なお、上記実施例に係るシリンダ位置検出装置1において、回転角度検出手段と直線位置検出手段との構成は上述の例に限定されず、少なくとも、ピストンロッド4の回転角度を検出して該検出した回転角度に基づき直線位置検出手段からの出力信号を修正部50にて回転誤差を補正できるような構成であればよい。
【0035】
次に、この発明に係るシリンダ位置検出装置の別の実施形態について説明する。前述の実施例では、磁気応答部として、直線位置検出用として所定角度スキューしたものと回転角度検出用として軸線方向に直線的なものとの2つの帯状の磁気応答部が設けられる例を示したが、当該別の実施形態においては、磁気応答部として、ピストンロッド4の表面において該ロッド4のストローク変位方向x(図1参照)に沿って面積が漸増又は漸減する区間を有する所定のパターンで配置された複数の磁気応答部を具える。図7(a)は、この別の実施形態に係るシリンダ装置1の一例を示す概念的断面図である。ピストンロッド4の表面には夫々異なる4つのパターン100a,100b,100c,100dからなる磁気応答部100が配置されており、シリンダ本体2には、磁気応答部の4つのパターン100a〜100dの各々に対応して4つのコイルL10,L11,L12,L13が設けられている。各コイルL10〜L13は、シリンダ本体2を円周方向に4分割した90度範囲内に対応して配置され、また、各コイルL10〜L13にて発生する磁束がロッド4表面に対して略垂直に通るよう配置される。なお、磁気応答部100の各パターン100a〜100dは、例えば銅メッキ加工することで非磁性良導電体により形成できる。
【0036】
図7(b)は、(a)に示すピストンロッド4表面における磁気応答部100のパターンの配置例を示す展開図である。(b)に示すようにパターン100a〜100dは、ロッド4の側面を円周方向に4分割した範囲に対応して配置される。説明の便宜上、(b)において、ロッド4をストローク変位方向X(長さ方向)において4分割し、4分の1の区間をそれぞれP1,P2,P3,P4と称する。なお、図において、導電体部分(すなわち磁気応答部の配置部分)を斜線で示している。パターン100aは、区間P1及び区間P2において導電体部分(すなわち磁気応答部パターン)が最小面積から最大面積へ漸増し、区間P3及び区間P4において導電体部分が最大面積から最小面積へ漸減するような、ロッド4軸線方向に底辺をとる2等辺三角形状のパターンを有する。これに対してパターン100cは、区間P1及び区間P2において導電体部分が最大面積から最小面積へ漸増するパターンと、区間P3及び区間P4において導電体部分が最小面積から最大面積へ漸増するパターンとからなり、パターン100aとパターン100cとでは、導電体部分の面積の漸増及び漸減の関係が反転している。また、パターン100bは、区間P1において導電体部分が、パターン最大面積の半分の面積(以下単に「半分の面積」という)から最小面積に漸減するパターンと、区間P2及びP3において、導電体部分が最小面積から最大面積へ漸増するパターンと、区間P4において導電体部分が最大面積から半分の面積に漸減するパターンとからなる。これに対して、パターン100dは、区間P1において導電体部分が、半分の面積から最大面積に漸増するパターンと、区間P2及びP3において、導電体部分が最大面積から最小面積へ漸減するパターンと、区間P4において導電体部分が最小面積から半分の面積に漸増するパターンとからなり、パターン100bとパターン100dとでは、導電体部分の面積の漸増及び漸減の関係が反転している。
【0037】
ロッド4が1ストローク変位するとき、パターン100a〜100dの各コイルL10〜L13に対するの対応面積が漸増及び漸減変化するので、これに応じて、各コイルL10〜L13と各々が対応するパターン100a〜100dとの磁気結合の度合いが変化し、各コイルL10〜L13の自己インダクタンスが変化する、つまり、電気的インピーダンスが変化する。図7(b)において、ロッド4の1ストローク変位(0〜1ストローク)を4分割して、各ストローク位置におけるコイルL10〜L13に対するパターン100a〜100dの対応位置関係を明確に示す。ロッド4が1ストローク変位する際の、各コイルL10〜L13に生じるインピーダンス変化は、各パターン100a〜100dの面積漸増及び漸減変化に応じて、最大値から最小値の間で周期的な変化特性を示す。この例では、磁気応答部100は銅メッキ(非磁性良導電体)により形成されているので、各パターン100a〜100dの最大面積に対して、各パターンに対向するコイルL10〜L13毎に生じるインピーダンス値は最小値となり、反対に各パターン100a〜100dの最小面積に対して、各パターンに対向するコイルL10〜L13毎に生じるインピーダンス値は最大値となる。こうしたコイルL10〜L13のインピーダンス変化の特性は、ロッド4の1ストロークに相当する変位量θを1サイクル(位相角360度の範囲)とする振幅関数になぞらえることができる。
【0038】
各パターン100a〜100dの面積漸増及び漸減態様からも明らかなように、コイルL10のインピーダンス変化に対して、コイルL12のインピーダンス変化は、逆相(位相角にして180度)の、つまり差動的な特性を示す。また、コイルL11のインピーダンス変化に対して、コイルL13のインピーダンス変化は、逆相つまり差動的である。そして、コイルL10のインピーダンス変化に対して、コイルL11のインピーダンス変化は、1/4サイクル(位相角にして90度)ズレた特性を示す。例えば、コイルL10に生じるインピーダンス変化がサイン関数(S)に相当するものとすると、これに対して差動的なコイルL12に生じるインピーダンス変化は、マイナスサイン関数(/S)、コイルL11に生じるインピーダンス変化はコサイン関数(C)、コイルL13に生じるインピーダンス変化はマイナスコサイン関数(/C)に、夫々相当する。
【0039】
コイルL10〜L13に生じる電圧をV10〜V13は、各コイルL10〜L13毎のインピーダンス値に応じて概ね下記のように表せる。
V10=(P0+sinθ)sinωt
V11=(P0+cosθ)sinωt
V12=(P0−sinθ)sinωt
V13=(P0−cosθ)sinωt
図8(a)は、各電圧V10〜V13をθ成分についてのみ模式的に示す(時間tの成分は示していない)。なお、(a)においてピストンロッド4のストローク位置を明確に示す。
各コイルL10〜L13に生じる出力電圧V10〜V13は、サイン相出力電圧V10とマイナスサイン相出力電圧V12とを差動的に合成することでサイン関数の振幅関数を持つ出力交流信号(2sinθsinωt)が得られ、また、コサイン相出力電圧V11とマイナスコサイン相出力電圧V13とを差動的に合成することでコサイン関数の振幅関数を持つ出力交流信号(2cosθsinωt)が得られる。この2相の交流出力信号(sinθsinωt及びcosθsinωt)は、図8(b)に示すような位相角360度範囲でのサイン関数及びコサイン関数特性の変化カーブを示す。交流出力信号sinθsinωt及びcosθsinωtは、例えば、図3に示したシフト回路33、加算器34、減算器35及びコンパレータ36,37と同様の回路で処理して、回転角θに応じた進相のゼロクロス検出パルスLpと遅相のゼロクロス検出パルスLmとを生成し、これをディジタル処理装置38にて、上記ゼロクロス検出パルスLp及びLmに基づき、変位量の進相の位相ズレ量+θ及び遅相の位相ズレ量−θをディジタル検出し、これに基づき位相検出データθを生成し、これが直線位置検出信号θとして出力される。
なお、コイルL10〜L13に関連する電気回路は、図3に示す1相励磁タイプ、或いは、図5に示す2相励磁タイプの何れも適用可能である。
【0040】
図7(a)に示すように、磁気応答部100(つまりロッド4の表面)に対向する各コイルL10〜L12の端部は、磁気応答部100のパターン最大幅(円周方向)よりも、幅広になるように構成されている。例えば、図6(a)において、ピストンロッド4が図7(b)に示す0ストローク位置に位置しているとすると、コイルL12に対するパターン100cの対応面積は最大である。(a)に示すように、コイルL12の端部の幅員は、パターン100cがピストンロッド4の回転によって円周方向に変位した場合にもコイルL12のインピーダンス値に影響(誤差)を与えないよう、円周方向について両側に概ね機械角度15°程度(図において符号R及びR’)づつ、パターン100cの最大幅よりも幅広に設定される。コイルが磁気応答部100の最大幅個所に対して概ね15°程度の幅(範囲R,R’内)であれば、例えばロッド4の伸縮ストローク時に生じる多少の回転については十分にその変位を許容できる。これにより、ロッド4が多少回転した場合にも、パターン100cがコイルL12の対向面からはみ出さない(つまりコイルL12に対するパターン100cの対応面積に変化が生じない)ので、コイルL12では、ロッド4の直線位置を反映した適切なインピーダンス値が生じる。従って、ピストンロッド4が回転の影響を受けないロッド4の直線位置検出が可能となる。
また、磁気応答部100のパターンと、これに対応する複数のコイルL10〜L13とは、ピストンロッド4の全周を覆っているため、ロッド4の軸芯ずれによる検出誤差が生じないようにすることができる。従って、ロッド4の軸芯ずれによる検出誤差のない直線位置検出が可能である。
【0041】
なお、図7の例において、なお、磁気応答部100の配置パターンは、図示の例に限らず、対応するコイルに生じるインピーダンス変化が、所望の周期的な変化特性を示し得るものであればよく、ピストンロッド4の1ストローク範囲を、例えば、270度の範囲,180度の範囲或いは90度の範囲等、適宜の位相角範囲に換算して位置検出できるよう構成でき、その場合も、図7の例と同様に、各コイルの端部の幅員を適宜の範囲で幅広に設定することで、ロッド4の回転による影響を受けない直線位置検出ができる。また、磁気応答部100のパターンは、磁性体からなるものであってもよく、その場合は、例えば鉄製ロッド4において、磁気応答部パターンの個所を除いてロッド4全体に銅メッキを施す等して構成してよい。
【0042】
更に、この発明の別の実施形態として、ピストンロッド4の表面に設置される磁気応答部を、ロッド4の1ストローク全長範囲で該ロッド4の周面を1周する帯状に形成し、他方、シリンダ本体2の端部開口に配置される複数(例えば10個)のコイルの夫々を、ロッド4の円周方向について等間隔に分割した範囲(例えばロッド4の全周を10分割した範囲)に対応して、ロッド4の全周囲に配列することで、複数のコイルを交流励磁し、個別のコイルにおいてロッド4に設けた磁気応答部帯の近接に応じたインピーダンス変化に応じた検出出力を得るようにすることで、個別のコイルに対する磁気応答部の近接量を検知するようにしてよい。この場合、ロッド4の全周(機械角360度の範囲)に複数のコイルが配置されているので、個々のコイルの周方向における配置位置が夫々固有の角度範囲(コイル設置数が10個の場合は各々36度の範囲)に対応しており、どのコイルに磁気応答部が最も近接したかを検出することで、ロッド4の直線ストローク位置を等価的に検出できる。
更に別の実施形態として、帯状の磁気応答部がロッド4表面で螺旋を描くよう配置されてなるものも可能である。この場合、検出用コイルとしては、コイルの中心空間内にピストンロッド4が侵入する構成の(コイルの内部磁束の向きがロッド4の軸線方向を指向している)ものを採用し、これをロッド4の長さ方向(軸線方向)に沿って4つ配列して、この4つのコイルを1組のコイルセンサ部とする。このようなコイルセンサ部が、検出すべきストローク範囲に応じて複数並列配置される。螺旋状の磁気応答部は、1つのコイルセンサ部の長さ(ロッド4の軸線方向についての長さ)に対応する範囲に設置され、また、螺旋のピッチは、コイルセンサ部における個々のコイルの幅、配置間隔等に応じて適切に設定される。このような構成にあって、コイルセンサ部の個々のコイルに生じるインピーダンス変化が4相(サイン、コサイン、マイナスサイン、マイナスコサイン)の関数特性に相当するようにすることで、検出対象位置に応じてサイン及びコサイン関数特性に従う振幅を示す2つの交流信号を生成することができ、ロッド4の直線ストローク位置を等価的に検出できる。磁気応答部が螺旋状になっていること、及び、ロッド4の全周を覆っていることから、ロッド4の回転及び軸芯ずれによる検出誤差を生じないようにすることができる。
【0043】
以上のとおり、この発明によれば、ピストンロッドの直線位置の変化を検出する直線位置検出手段と共に、ピストンロッドの回転角度を検出する回転角度検出手段を具備することで、ピストンロッドの回転によって生じ得る直線位置の検出誤差を該回転角度位置に基づき補正でき、簡単な構成によりピストンロッドの回転誤差を除去した、信頼性の高い直線位置検出が行えるという優れた効果を奏する。また、この発明の別の観点によれば、コイルの一端部を対応する磁気応答部パターンの最大幅よりも所定角度範囲だけ幅広に形成することで、前記ピストンロッドが回転した場合にもピストンロッドの直線位置を反映した直線位置検出出力を得ることができ、極めてシンプルな構成でありながらピストンロッドの回転の影響を受けない信頼性の高い直線位置検出が行えるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】この発明の一実施例に係るシリンダ装置を示す概略斜視図。
【図2】(a)は同実施例に係るシリンダ装置をシリンダ本体の端部開口から見た概略断面図、(b)は同実施例に係るピストンロッド表面展開図。
【図3】同実施例に係るコイルに関連する電気回路図。
【図4】(a)は図2に示す直線位置検出手段の各コイルに生じる電圧をθ成分についてのみ模式的に示すグラフ、(b)はサイン相に対応する合成出力例及びコサイン相に対応する合成出力例を示すグラフ。
【図5】同実施例に係るコイルに関連する電気回路の変更例を示す図。
【図6】(a)同実施例に係る誤差補正処理の機能ブロック図、(b)同実施例に係る誤差補正の一例を示すグラフ。
【図7】(a)本発明の別の実施例に係るシリンダ装置をシリンダ本体の端部開口から見た概略断面図、(b)は同実施例に係る磁気応答部パターンの一例を示すピストンロッド表面展開図。
【図8】(a)は図7に示す各コイルに生じる電圧をθ成分についてのみ模式的に示すグラフ、(b)はサイン相に対応する合成出力例及びコサイン相に対応する合成出力例を示すグラフ。
【符号の説明】
【0045】
1 シリンダ装置、2 シリンダ本体、3 ピストン、4 ピストンロッド、10a,10b 直線位置検出手段、20a,20b 回転角度検出手段、11a,11b 直線位置検出用の磁気応答部、21a,21b 回転角度検出用の磁気応答部、L1a〜L4a,L1b〜L4b 直線位置検出用のコイル、C1a〜C4a,C1b〜C4b 回転角度検出用のコイル、30 交流電源、31,32 演算器、33 シフト回路、34 加算器、35 減算器、36,37 コンパレータ、38 ディジタル処理装置、50 修正部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンロッドの表面において、該ピストンロッドの直線的ストローク変位の方向に沿って面積が漸増又は漸減する区間を有する所定のパターンで配置された少なくとも1つの磁気応答部と、
シリンダ本体の側に固定され、前記磁気応答部のパターンの夫々に対応して設けられたコイルとを具備し、前記ピストンロッドの直線的ストローク変位に応じて、該コイルに対する磁気応答部の対応面積が変化し、この対応面積の変化に応じて該コイルに生じる電気的インピーダンスが変化するようにしたシリンダ位置検出装置であって、
前記コイルは、前記ピストンロッドの回転によって前記磁気応答部のコイルに対する対応位置が相対的に円周方向に変位することを許容すべく、前記磁気応答部に対向する該コイル端部の幅員を、該磁気応答部のパターンの円周方向についての最大幅よりも所定角度範囲だけ幅広に構成されることを特徴とするシリンダ位置検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−36783(P2009−36783A)
【公開日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287100(P2008−287100)
【出願日】平成20年11月7日(2008.11.7)
【分割の表示】特願2003−116792(P2003−116792)の分割
【原出願日】平成15年4月22日(2003.4.22)
【出願人】(597156971)株式会社アミテック (20)
【Fターム(参考)】