説明

シリンダ装置

【課題】高速伸縮時にあっても充分な減衰力を発生することができるとともに、モータによる回生を効率的に行うことができるシリンダ装置を提供することである。
【解決手段】上記した目的を達成するため、本発明のシリンダ装置Cは、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されてシリンダ1内を二つの圧力室R1,R2に区画するピストン2と、二つの圧力室R1,R2を連通する流路3と、当該流路3の途中に設けられてモータ4によって駆動される双方向吐出型のポンプ5と、流路の途中に設けたポンプ5に対して並列あるいは直列、あるいは、並列およびに直列に可変絞り弁6,7を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダ装置の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
この種のシリンダ装置としては、たとえば、車両の車体と車軸との間に介装されるアクティブサスペンション等に適用され、具体的には、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの圧力室に区画するピストンと、ピストンに連結されるロッドと、二つの圧力室を連通する流路と、当該流路の途中に設けられモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを備えて構成される(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、このシリンダ装置をアクティブサスペンションに適用する場合、シリンダを車体と車軸の一方に、ロッドを車体と車軸の他方に連結し、ポンプをモータによって駆動することによってシリンダ装置を駆動して車両走行中における車体姿勢を制御する。
【0004】
このシリンダ装置にあっては車体姿勢制御にあたり、シリンダ装置が外部入力によって強制的に伸縮する際に、流路を通過する作動油の流れに抵抗を与えるようにポンプを駆動して外部入力に抗する減衰力を発生するようになっており、外部入力の大きさに応じてモータのトルクを調整することで車体振動を抑制することが可能となっている。
【特許文献1】特開2000−264033号公報(第4頁左欄第8行目から第24行目まで、および図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したシリンダ装置では、ポンプを介することによってモータのトルクをシリンダ装置の制御力として利用するものであるが、モータの特性上、回転速度が高速となればなるほど発生トルクが小さくなる傾向があり、シリンダ装置が外部入力によって高速で伸縮させられる場合には振動抑制に必要な減衰力を得られない虞がある。
【0006】
また、上記シリンダ装置では、モータが負担すべきトルク自体を独立してコントロールすることができず、シリンダ装置の伸縮速度とコントローラの指令によってモータの回転数とトルクが一義的に決まるシステムとなっているため、モータによる回生を効率的に行うことができない。
【0007】
なお、従来のシリンダ装置では、流路の途中にポンプに対して直列して絞り弁が配置されており、この絞り弁によってある程度モータの負担が軽減されているとはいっても、上記した問題は解決できない。
【0008】
そこで、上記不具合を改善するために創案されたものであって、その目的とするところは、高速伸縮時にあっても充分な減衰力を発生することができるとともに、モータによる回生を効率的に行うことができるシリンダ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した目的を達成するため、本発明の第一の課題解決手段におけるシリンダ装置は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの圧力室に区画するピストンと、二つの圧力室を連通する流路と、当該流路の途中に設けられてモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを備えたシリンダ装置において、流路の途中にポンプに対して並列あるいは直列に可変絞り弁を設けた。
【0010】
また、本発明の第二の課題解決手段におけるシリンダ装置は、シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの圧力室に区画するピストンと、二つの圧力室を連通する流路と、当該流路の途中に設けられてモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを備えたシリンダ装置において、流路の途中にポンプに対して並列および直列に可変絞り弁を設けた。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシリンダ装置によれば、モータの回転数と負担すべきトルクの交点を可変絞り弁の絞り係数を変更することで出力可能トルク範囲内に収めることができるので、高速伸縮時にあっても充分な減衰力を発生することができるのである。
【0012】
また、モータの回転数と負担すべきトルクの交点を可変絞り弁の絞り係数を変更することで回生領域に収めることができるので、モータを制動領域で使用する際には回生できるので、モータによる回生を効率的に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図に示した実施の形態に基づき、本発明を説明する。図1は、一実施の形態におけるシリンダ装置の概念図である。図2は、一実施の形態におけるシリンダ装置の流量と差圧の関係を示したモデル図である。図3は、モータの回転数にポンプの通過流量に対応させるとともに、モータのトルクに流体がポンプを通過する際の差圧(圧力損失)に対応させたグラフである。図4は、制動領域でのモータの出力可能トルク範囲を示す図である。図5は、モータの回生領域を示す図である。図6は、モータのトルクと回生電流値との関係を示す図である。
【0014】
一実施の形態におけるシリンダ装置Cは、図1に示すように、シリンダ1と、シリンダ1内に移動自在に挿入されてシリンダ1内を二つ圧力室R1,R2に区画するピストン2と、二つの圧力室R1,R2を連通する流路3と、当該流路3の途中に設けられモータ4によって駆動される双方向吐出型のポンプ5と、流路3の途中にポンプ5に対して直列および並列に設けられる可変絞り弁6,7とを備えて構成され、シリンダ1内には流体が充填され密閉されている。
【0015】
また、ピストン2はシリンダ1内に移動自在に挿通されるロッド8に連結されており、このシリンダ装置Cの場合、シリンダ1の両端からロッド8が突出する、いわゆる、両ロッド型のシリンダ装置とされている。
【0016】
そして、シリンダ装置Cを車両に適用する場合、シリンダ1を車両のバネ上部材およびバネ下部材のうち一方に連結し、ロッド8をバネ上部材およびバネ下部材のうち他方に連結して、バネ上部材とバネ下部材との間に介装すればよい。なお、シリンダ装置Cは、図示したところでは、両ロッド型に設定されているが、片ロッド型に設定されてもよい。
【0017】
ポンプ5は、双方向吐出型に設定され、たとえば、ベーンポンプ、ギアポンプやアキシャルポンプ等、図示しない回転軸を備えて当該回転軸の回転によって流体を吸込んで吐出することができるとともに、逆に流体の流れによって回転軸を強制的に駆動することができるものであればよい。
【0018】
さらに、ポンプ5の回転軸は、モータ4に接続されており、モータ4は、通電によって駆動することができるとともに、ポンプ5側からの入力によって強制的に回転駆動させられると発電してポンプ5の回転を抑制するトルクを発生するモータであればよく、直流、交流を問わず、種々の形式のモータ、たとえば、ブラシレスモータ、誘導モータ、同期モータ等を採用することができる。
【0019】
そして、モータ4は、制御装置10に接続されており、モータ4を駆動してポンプ5で流体を圧力室R1から圧力室R2へ、あるいは、圧力室R2から圧力室R1へ送り込むことで、シリンダ装置Cを伸縮させることができ、また、シリンダ装置Cが外部入力によって強制的に伸縮させられる場合、圧力室R1から圧力室R2へ、あるいは、圧力室R2から圧力室R1へ、流路3を介して移動する流体の流れにモータ4のトルクが伝達されるポンプ5で抵抗を与えて減衰力を発生することができる。
【0020】
さらに、シリンダ装置Cが強制的に伸縮させられる場合、流路3を行き来する流体の流れによってポンプ5を介してモータ4が強制的に駆動されるため、モータ4によって流体の運動エネルギを電気エネルギに変換する回生を行うことができるようになっている。なお、モータ4によって回生した電力は、外部機器へ送電してもよいし、蓄電器に蓄電するようにしてもよい。
【0021】
転じて、可変絞り弁6は、流路3の途中であってポンプ5に直列して設けられ、可変絞り弁7は、ポンプ5を迂回する迂回路9の途中に設けられ、ポンプ5および可変絞り弁6に対して並列に配置されている。これら可変絞り弁6,7は、開度や弁通路長を変更することで、圧力損失に対する通過流量の比である絞り係数を変更することができるようになっており、具体的にはたとえば、可変チョークや可変オリフィスといった種々の弁を使用することができ、また、図示しない弁体をソレノイドやモータ等の駆動源で駆動することによって絞り係数を変更できるようになっている。これら可変絞り弁6,7は、絞り係数を変更する駆動源は制御装置10に接続されており、モータ4とともに制御装置10によって駆動される。
【0022】
さて、このように構成されたシリンダ装置Cは、モータ4に外部から電力供給してポンプ5を駆動させる場合には、自ら伸縮するアクチュエータとして機能することができるが、反対に、シリンダ装置Cに外部入力で伸縮させられる場合、モータ4のトルクでポンプ5の回転を抑制する、すなわち、モータを制動領域で使用してモータ4にポンプ5の回転方向とは逆のトルクを発生させるようにし、モータ4と可変絞り弁6,7とで協働して減衰力を発生することができるようになっている。そして、これら可変絞り弁6,7を制御して当該可変絞り弁6,7における絞り係数を調節することによってモータ4の負担をコントロールすることが可能である。
【0023】
なお、シリンダ装置Cをアクチュエータとして機能させる場合、可変絞り弁7を全閉として迂回路9を介しての圧力室R1,R2同士の連通を断つとともに、可変絞り弁6を全開として可変絞り弁6によって流体の流れに無用な抵抗を与えてエネルギ損失を生じないように配慮される。
【0024】
ここで、シリンダ装置Cが外部入力で伸縮させられる場合におけるモータ4の負荷(回転数と負担すべきトルク)のコントロールについて、図2に示すモデル図を使用して説明する。
【0025】
なお、ポンプ5は、モータ4から伝達されるトルクによって流体の流れに抵抗を与え、流体通過時に圧力損失を生じさせることから、可変絞り弁と同等に取り扱うことができるため、図2中では、モータ4およびポンプを一つの可変絞り弁Mとして記載している。
【0026】
そして、シリンダ装置Cの伸縮時における一方の圧力室R1と他方の圧力室R2との差圧をPとし、一方の圧力室R1から流出する流体の単位時間当たりの流量(以下、単に流量という)をQとし、可変絞り弁7を通過する流体の流量q1を可変絞り弁7で生じる差圧(圧力損失)Pで除した比である絞り係数をC1とし、可変絞り弁6を通過する流体の流量q2を可変絞り弁6で生じる差圧(圧力損失)p2で除した比である絞り係数をC2とし、モータ4とポンプ5でなる可変絞り弁Mを通過する流体の流量q2を可変絞り弁Mで生じる差圧(圧力損失)pmで除した比である絞り係数をCmとすると、下記(1)式が得られる。
【数1】

ここで、C=C2×Cm/(C2+Cm)とおくと、(1)式は下記(2)式と書くことができる。
【数2】

さらに、全体の流量Q=q1+q2が成り立ち、可変絞り弁7で生じる差圧Pは、可変絞り弁6とモータ4とポンプ5でなる可変絞り弁Mの全体で生じる差圧に等しいので、以下の(3)式が成立する。
【数3】

(3)式を(2)式に代入してまとめると、以下の(4)式を得る。
【数4】

そして、上記(4)式から理解できるように、流量Qおよび差圧Pを変化させない場合、絞り係数C1を変更することで、流量q2を変更することができる。
【0027】
つまり、絞り係数C1を変更することによってポンプ5を迂回する可変絞り弁7における流量q1を調整することで、可変絞り弁Mを通過する流量q2を変更することができ、たとえば、可変絞り弁7を全閉状態から全開状態に移行する場合、流量q2を増減させて、モータ4の回転数を増減させることができる。
【0028】
また、可変絞り弁6と可変絞り弁Mにおける流量はq2であり、全体の差圧はPであり、可変絞り弁Mにおける差圧(圧力損失)はpmであり、可変絞り弁6と可変絞り弁Mの合成絞り係数Cは、上述のようにC=C2×Cm/(C2+Cm)となるため、可変絞り弁6と可変絞り弁Mにのみ着目して整理すると、下記(5)式を得る。
【数5】

そして、上記(5)式から理解できるように、流量q2および差圧Pを変化させない場合、絞り係数C2を変更することで、可変絞り弁Mにおける差圧pmを変更することができる。
【0029】
つまり、絞り係数C2を変更することによってポンプ5を流体が通過する際に生じる差圧pmを変更することができ、たとえば、可変絞り弁6を全閉状態から全開状態に移行する場合、差圧pmを増減させて、モータ4で負担すべきトルクを増減させることができる。
【0030】
以上のことを、流量Qおよび差圧Pを一定にした状態において、モータ4の回転数にポンプ5の通過流量に対応させるとともに、モータ4のトルクに流体がポンプ5を通過する際の差圧(圧力損失)に対応させた図3に示すグラフを参照して説明すると、可変絞り弁6の絞り係数C2を変更することでモータ4の負担すべきトルク(負担トルク)を縦軸に沿って調節でき、可変絞り弁7の絞り係数C1を変更することでモータ4の回転数を横軸に沿って調節することができるということになる。
【0031】
詳しくは、図3中の点aは、可変絞り弁6を全開にして絞り係数C2を最大にし、可変絞り弁7を全閉にして絞り係数C1を最小にした状態におけるモータ4の回転数と負担トルクとの関係を示し、点bは、可変絞り弁6を全開にして絞り係数C2を最大にし、可変絞り弁7を全開にして絞り係数C1を最大にした状態におけるモータ4の回転数と負担トルクとの関係を示し、点cは、可変絞り弁6を全閉にして絞り係数C2を最小にし、可変絞り弁7を全閉にして絞り係数C1を最小にした状態におけるモータ4の回転数と負担トルクとの関係を示し、点dは、可変絞り弁6を全閉にして絞り係数C2を最小にし、可変絞り弁7を全開にして絞り係数C1を最大にした状態におけるモータ4の回転数と負担トルクとの関係を示している。すなわち、可変絞り弁6,7における絞り係数C1,C2を変更することで点a,b,c,dで囲まれる範囲でモータ4の回転数と負担トルクを調節することができる。
【0032】
具体的には、モータ4の回転数と負担トルクの交点が点aにあるときに、可変絞り弁7における絞り係数C1を大きくしていくと、点b側へシフトさせることができ、可変絞り弁6における絞り係数C2を小さくしていくと、点c側へシフトさせることができ、可変絞り弁7における絞り係数C1を大きくし可変絞り弁6における絞り係数C2を小さくしていくと点d側へシフトさせることができるのである。つまり、可変絞り弁6,7を制御することで、モータ4の回転数と負担トルクをコントロールすることができるのである。
【0033】
なお、図3の説明において流量Qおよび差圧Pを一定にした状態を仮定しているため、モータ4の負担トルクが0であるのに回転している状態や回転数が0であるのに負担トルクがある状態は生じないので、点bと点dを結ぶ線および点dと点cを結ぶ線は、モータ4における回転数と負担トルクの交点が採りえる範囲の境界を示しており、モータ4における回転数と負担トルクの交点は、上記線上の値を採ることは無い。
【0034】
ところで、制動領域においてモータ4の任意の回転数に対して出力することが可能なトルク範囲は、トルクを縦軸に採り回転数を横軸に採ると、図4に示すように、縦軸と、横軸と、横軸に平行な線eと、線eに連なる曲線fとで囲まれる斜線で示す領域となる。なお、線eは、モータ4のトルクの上限を示しており、制御装置10内に設けられる図示しない電流リミッタによって電流が制限されることに起因して生じる境界である。曲線fもまた、発生可能なトルク領域と不可能なトルク領域とを仕切る線であり、図示しない電源電圧、モータ4の誘起電力等の特性によって決せられる境界線である。この図4から理解できるように、モータ4は、回転数が高くなればなるほど出力可能なトルクの上限が小さくなる。すなわち、流路3を通過する全流量をポンプ5に流す場合、シリンダ装置Cの伸縮速度が高くなればなるほど、モータ4の回転数も高くなりモータ4の出力トルクが小さくなることになる。
【0035】
ここで、可変絞り弁7を全閉し、可変絞り弁6を全開状態として、シリンダ装置Cの伸縮によって生じる流体流れの全流量をポンプ5へ流すことを考える。すると、ポンプ5を全流量が通過することからシリンダ装置Cの伸縮速度からモータ4の回転数が決せられ、シリンダ装置Cの伸縮を抑制する際に要求される減衰力からモータ4が負担すべきトルクが決せられることになる。
【0036】
このように、モータ4に求められる回転数と負担トルクの交点である点gが、図4に示した出力可能トルク範囲を逸脱している場合、モータ4を如何に制御しても、そのままでは要求される減衰力を発揮することができない。
【0037】
このような場合、シリンダ装置Cでは、制御装置10が、可変絞り弁6の絞り係数C2を小さく調節するか、可変絞り弁7の絞り係数C1を大きく調節するか、または、その両方の調節を行い、図4に示すように、モータ4に求められる回転数と負担トルクの交点を、出力可能トルク範囲に誘導し、たとえば、当該範囲内の点g’にまで変更するようにする。すなわち、このシリンダ装置Cでは、モータ4の回転数に対して負担すべきトルクが出力し得ない状態となると、上述のような可変絞り弁6,7の制御によって、モータ4の回転数あるいは負担すべきトルクあるいはその両方を調節して、モータ4が負担すべきトルクを出力可能なトルク範囲内に収めることができ、シリンダ装置Cの発生減衰力が不足となる事態を阻止できる。
【0038】
したがって、このシリンダ装置Cでは、高速伸縮時にあっても充分な減衰力を発生することができるのである。
【0039】
ところで、シリンダ装置Cが外部入力により伸縮され、流体がポンプ5を回転駆動することによって、モータ4の図示しないロータが回転すると、モータ4の図示しない巻線に誘導起電力が生じて回生電流が流れることになるが、モータ4の巻線の誘導起電力によって回生を行うことができる回生領域は、図5に示すように、トルクを縦軸に採り回転数を横軸に採ると、原点を通りモータ4の短絡特性Tにおける回転数トルク曲線に対して接する接線Sと横軸とで囲まれる図5中の斜線部分の範囲となる。なお、モータ4をPWM駆動することを念頭にする場合、モータ4の回転数が無負荷最大回転数を超える領域では、PWM出力が飽和した状態でモータ4をコントロールできない状態となってトルクを発生できない領域が発生し、誘起電力が生じても電力を回生できなくなってしまうため、図5中曲線hより右側では電力を回生できない領域が生じている。また、本明細書で短絡特性という場合、モータ4の巻線を短絡した状態におけるモータ4の回転数に対して出力するトルクの関係を言う。
【0040】
上記したところから理解できるように、モータ4を制動領域で使用する際に、上記した可変絞り弁6,7の制御を行って、回生領域でモータ4を使用すれば、電力を回生してエネルギを回収することが可能となる。このことから、制御装置10は、モータ4に求められる回転数と負担トルクの交点が、出力可能トルク範囲を逸脱している場合、単に、この交点を出力可能トルク範囲内に位置するように調節するのみならず、さらに、当該交点を狭い回生領域に誘導して、電力を回生できるようにしている。したがって、このシリンダ装置Cによれば、モータ4が制動領域で使用される際には、必ずモータ4による回生を実現することができ、回生を効率的に行うことができるのである。
【0041】
さらに、回生効率を高めるには、回生電流値が最大となるライン上にモータ4の回転数と負担トルクの交点を乗せるようにすればよい。具体的には、モータのトルクに対する回生電流値の関係を示した図6から理解できるように、回生電流値が0以上となるトルク範囲で回生電流値が最大値をとるのは、最大トルクの半分のトルクのときであり、回生領域における最大トルクは図5中の接線S上にあることから、回生効率が最大となるのは、接線Sの2分の1の傾きの図5中直線iとなる。つまり、この直線i上にモータ4の回転数と負担トルクの交点が来るように可変絞り弁6,7の絞り係数C1,C2を制御すれば、回生電流値が最大となって回生効率を高めることができる。
【0042】
このため、制御装置10は、回生効率が最大となるモータ4の回転数とトルクをマップとして保有しており、このマップを参照して、可変絞り弁6,7の制御を行って、モータ4の回転数と負担トルクの交点が図5に示した直線i上に乗るように調節するようになっている。
【0043】
具体的には、モータ4の回転数か負担トルクのいずれか一方を優先させて回生効率が最大となる可能性がある範囲内に誘導し、その後、回転数か負担トルクのいずれかの他方を調節してモータ4の回転数と負担トルクの交点を直線i上に乗せるようにすればよい。
【0044】
また、上記の如く、モータ4の回転数と負担トルクの交点を直線i上に乗せると回生効率が最大となるのであるが、モータ4の回転数と負担トルクの交点を直線jと直線kで囲まれた回生効率50%以上となる範囲内に誘導するようにしても回生効率を高めることができる。
【0045】
なお、回生効率が50%以上であることは、図6に示すように、モータ4が任意の回転数で発生するトルクに対して生じる回生電流値が最大値となることをもって100%とすると、回生電流値が回生電流最大値の50%以上の値となることであって、図5中、直線jと直線kは、回転数と回生効率50%を実現するトルクとで決まる点の軌跡である。なお、この回生効率50%以上の範囲内にモータ4の回転数と負担トルクの交点を誘導するに際しては、上記回生効率100%の直線i上に誘導するのと同様にすればよい。
【0046】
上記したところから、制御装置10においてモータ4の回転数と負担トルクの交点を調節するのに必要な情報は、モータ4および可変絞り弁6,7の特性以外には、流量Qとモータ4を制動領域で使用する際に発生が要求される減衰力を実現する圧力室R1と圧力室R2の差圧Pである。
【0047】
しかるに、制御装置10は、上記した制御を実現するため、モータ4と可変絞り弁6,7とを駆動することができるよう図示しない駆動回路を備えるとともに、シリンダ装置Cの伸縮速度あるいは流路3を通過する流量をモニタするセンサ11を備え、伸縮速度あるいは流量とシリンダ装置Cが発生すべき減衰力とから、モータ4の回転数と負担トルクの交点を出力可能トルク範囲内、あるいは、回生領域内、あるいは、回生効率50%以上の範囲内へ誘導可能な絞り係数C1,C2を算出して、モータ4の回転数と負担トルクを求め、可変絞り弁6,7およびモータ4を制御すればよい。
【0048】
また、モータ4については、制御装置10で求められた回転数と負担すべきトルクを実現すべく、駆動回路を介して制御されることになるが、絞り係数C1,C2を演算する際に、単に、モータ4の回転数と負担トルクの交点を出力可能トルク範囲に収めるには、モータ4の特性をマップ化して保有しておき、マップ演算によって求めてもよいし、予め、出力可能トルク範囲内や回生領域内に設定した点に誘導するように絞り係数C1,C2を求めてもよい。
【0049】
モータ4の制御に当たっては、トルク制御となるので、可変絞り弁6,7とは別に、モータ4の電流をフィードバックする周知の制御体系で制御すればよい。なお、モータ4がブラシレスモータの場合には、制御に当たり、電流のほかロータの電気角を取り込むようにすればよい。可変絞り弁6,7については、たとえば、駆動源がソレノイドである場合には、制御装置10でソレノイドへ供給する電流と絞り係数C1,C2との関係をマップとして保有しておき、演算によって求めた絞り係数C1,C2からマップ演算してソレノイドへ供給すべき電流を求め、駆動回路を通じて当該求めた電流を供給するようにすれば良く、ソレノイドに流れる電流をフィードバックして制御するようにしてもよい。なお、制御装置10は、シリンダ装置Cをアクティブに駆動する場合は、上述したように、可変絞り弁7を全閉にし可変絞り弁6を全開にし、シリンダ装置Cで出力すべき推力と速度に基づいてモータ4の回転数とトルクを制御するようにすればよい。また、制御装置10は、シリンダ装置Cが発生すべき減衰力を自身で求めるようにしてもよいし、外部装置からの入力を受けてもよい。
【0050】
ちなみに、制御装置10は、ハードウェアとして、具体的にはたとえば、センサ11が出力する信号を増幅するためのアンプと、アナログ信号をデジタル信号に変換する変換器と、CPU(Central Processing Unit)と、上記CPUに記憶領域を提供するRAM(Synchronous Dynamic Random Access Memory)と、上記各部の処理を行うためCPUが実行するアプリケーションやオペレーティングシステム等のプログラムを格納するROM(Read Only Memory)と、モータ4および可変絞り弁6,7の駆動源を駆動する駆動回路とを備えて構成されればよく、上記制御を行う上で必要となる処理をCPUがアプリケーションプログラムを実行することで実現するようにすればよい。
【0051】
なお、迂回路9および可変絞り弁7を廃止してポンプ5に直列する可変絞り弁6のみを設けることでも、モータ4の負担トルクを変更することができるため、モータ4の回転数と負担トルクの交点を回生領域や出力可能トルク範囲内に収めることができ、本願発明の効果は失われず、また、可変絞り弁6を廃止してポンプ5に並列される可変絞り弁7のみを設けることでも、モータ4の回転数を変更することができるため、モータ4の回転数と負担トルクの交点を回生領域や出力可能トルク範囲内に収めることができ、本願発明の効果は失われず、さらには、上述したところでは、可変絞り弁7が可変絞り弁6およびポンプ5に対して並列配置されているが、可変絞り弁7を可変絞り弁6に対しては直列配置しポンプ5のみに対して並列配置しても、モータ4の回転数と負担トルクの交点を回生領域や出力可能トルク範囲内に収めることができ、本願発明の効果は失われない。
【0052】
また、ポンプ5と可変絞り弁6の配置関係であるが、ポンプ5は圧力室R1と圧力室R2のいずれに側に配置してもよい。また、シリンダ1内に充填される流体は、たとえば、油、水、水溶液、気体等、どのような流体を使用しても良い。
【0053】
以上で、本発明の実施の形態についての説明を終えるが、本発明の範囲は図示されまたは説明された詳細そのものには限定されないことは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】一実施の形態におけるシリンダ装置の概念図である。
【図2】一実施の形態におけるシリンダ装置の流量と差圧の関係を示したモデル図である。
【図3】モータの回転数にポンプの通過流量に対応させるとともに、モータのトルクに流体がポンプを通過する際の差圧(圧力損失)に対応させたグラフである。
【図4】制動領域でのモータの出力可能トルク範囲を示す図である。
【図5】モータの回生領域を示す図である。
【図6】モータのトルクと回生電流値との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 シリンダ
2 ピストン
3 流路
4 モータ
5 ポンプ
6,7 可変絞り弁
8 ロッド
9 迂回路
10 制御装置
11 センサ
C シリンダ装置
R1,R2 圧力室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの圧力室に区画するピストンと、二つの圧力室を連通する流路と、当該流路の途中に設けられてモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを備えたシリンダ装置において、流路の途中にポンプに対して並列あるいは直列に可変絞り弁を設けたことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項2】
シリンダと、シリンダ内に移動自在に挿入されてシリンダ内を二つの圧力室に区画するピストンと、二つの圧力室を連通する流路と、当該流路の途中に設けられてモータによって駆動される双方向吐出型のポンプとを備えたシリンダ装置において、流路の途中にポンプに対して並列および直列に可変絞り弁を設けたことを特徴とするシリンダ装置。
【請求項3】
モータを制動領域で使用する際に、可変絞り弁を制御することでモータの回転数あるいはモータが負担すべきトルクあるいはその両方を制御することを特徴とする請求項1または2に記載のシリンダ装置。
【請求項4】
モータを制動領域で使用する際に、モータが負担すべきトルクがモータの出力可能トルク範囲内になるように可変絞り弁を制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のシリンダ装置。
【請求項5】
モータを制動領域で使用する際に、モータの回生効率を高めるように可変絞り弁を制御することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のシリンダ装置。
【請求項6】
モータを制動領域で使用する際に、モータの回生電流値が回生電流最大値の50%以上となるように可変絞り弁を制御することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のシリンダ装置。
【請求項7】
モータを制動領域で使用する際に、モータの回生電流値が最大になるように可変絞り弁を制御することを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のシリンダ装置。
【請求項8】
モータの回生電流値が最大となる回転数とトルクのマップを有し、モータを制動領域で使用する際に、モータの回生電流値が最大になるように可変絞り弁を制御することを特徴とする請求項7に記載のシリンダ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2009−196597(P2009−196597A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−43172(P2008−43172)
【出願日】平成20年2月25日(2008.2.25)
【出願人】(000000929)カヤバ工業株式会社 (2,151)
【Fターム(参考)】