説明

シンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物

【課題】耐熱性及び実用衝撃強度を有し、流動性、滞留安定性に優れ、しかも成形時の金型汚染性を低減した樹脂組成物及びその成形品を提供する。
【解決手段】(a)シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体22〜99.5質量%と、(b)水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体0.5〜78質量%との合計100質量部に対し、(c)結晶造核剤0.005〜6質量部、(d)リンを構造中に有していない酸化防止剤0.005〜6質量部、及び(e)繊維状強化剤3〜155質量部を含有し、さらに(f)メチル基及び/又はフェニル基を構造中に有し、かつ4量体以下オリゴマー成分が100ppm以下であるシリコーンオイルを(a)〜(e)成分の合計100質量部に対して、0.005〜6質量部含有するシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を成形してなる成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体樹脂組成物及びその成形品に関する。さらに詳しくは、成形品がシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体の優れた特徴である耐熱性及び実用衝撃強度を有し、流動性、滞留安定性に優れ、しかも成形時の金型汚染性を低減した樹脂組成物及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体樹脂組成物は、優れた耐熱性、耐薬品性、電気特性を有した樹脂組成物であり、自動車部品、食器・食品容器、電気・電子部品等に広く供されている。しかし、成形時の金型汚染性や滞留安定性等の成形性が不十分であるという課題があった。
シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体樹脂組成物として、例えば、特許文献1、2が挙げられる。しかしながら、これらの特許文献には、金型汚染を引き起こすリンを構造中に有した酸化防止剤を添加しないような工夫はみられない。また、特定のシリコーンオイルを用いることについての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−172061号公報
【特許文献2】特開平11−172062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、成形品がシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体の優れた特徴である耐熱性及び実用衝撃強度を有し、流動性、滞留安定性に優れ、しかも成形時の金型汚染性を低減した樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、前記目的を達成するために、鋭意研究を重ねた結果、下記の成分及び含有量の組成物とすることにより、上記の目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(a)シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体22〜99.5質量%と、
(b)水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体0.5〜78質量%との合計100質量部に対し、
(c)結晶造核剤0.005〜6質量部、
(d)リンを構造中に有していない酸化防止剤0.005〜6質量部、及び
(e)繊維状強化剤3〜155質量部
を含有し、さらに
(f)メチル基及び/又はフェニル基を構造中に有し、かつ4量体以下オリゴマー成分が100ppm以下であるシリコーンオイルを(a)〜(e)成分の合計100質量部に対して、0.005〜6質量部含有するシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物、並びに、該樹脂組成物を成形してなる成形品を提供するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物より得られる成形品はシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体の優れた特徴である耐熱性及び実用衝撃強度を有し、流動性、滞留安定性という生産性に優れ、しかも成形時の金型汚染性を低減できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物は、
(a)シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体(SPS)22〜99.5質量%と、
(b)水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体0.5〜78質量%との合計100質量部に対して、
(c)結晶造核剤0.005〜6質量部、
(d)リンを構造中に有していない酸化防止剤0.005〜6質量部、及び
(e)繊維状強化剤3〜155質量部
を含有し、さらに
(f)メチル基及び/又はフェニル基を構造中に有し、かつ4量体以下オリゴマー成分が100ppm以下であるシリコーンオイルを(a)〜(e)成分の合計100質量部に対して、0.005〜6質量部含有する。
【0008】
(a)成分は、(a)及び(b)成分合計量のうち、30〜99質量%であると好ましく、80〜99質量%であるとさらに好ましく、(b)成分は、1〜70質量%であると好ましく、1〜20質量%であるとさらに好ましい。(b)成分が0.5質量%以下であると、得られる成形品の耐衝撃性が低下し、78質量%以上であると成形時に金型汚染してしまう。
また、(a)及び(b)成分合計100質量部に対し、
(c)成分は、0.01〜4質量部であると好ましく、0.01〜5質量部であるとさらに好ましく、0.005質量部以下であると、結晶造核剤としての機能を発現せず、成形時の離型剛性確保が困難になり、6質量部以上であると金型を汚染してしまう。
(d)成分は、0.01〜5質量部であると好ましく、0.01〜4質量部であるとさらに好ましく、0.005質量部以下であると、滞留安定性が悪化し、6質量部以上であると金型を汚染してしまう。
(e)成分は、15〜100質量部であると好ましく、15〜80質量部であるとさらに好ましく、樹脂組成物の剛性向上のため添加され、155質量部以上では成形時の流動性が不足する。
さらに、(a)〜(e)成分の総和100質量部に対して、(f)成分は、0.01〜4質量部であると好ましく、0.01〜3質量部であるとさらに好ましく、0.005質量部以下であると離型性が悪化し、6質量部以上であると金型を汚染してしまう。
【0009】
以下、これら各成分の具体例について説明する。
(a)シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂
シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂におけるシンジオタクチック構造とは、立体化学構造がシンジオタクチック構造、即ち炭素−炭素結合から形成される主鎖に対して側鎖であるフェニル基が交互に反対方向に位置する立体構造を有するものであり、そのタクティシティーは同位体炭素による核磁気共鳴法(13C−NMR法) により定量される。13C−NMR法により測定されるタクティシティーは、連続する複数個の構成単位の存在割合、例えば2個の場合はダイアッド、3個の場合はトリアッド、5個の場合はペンタッドによって示すことができるが、前記シンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂とは、通常はラセミダイアッドで75%以上、好ましくは85%以上、若しくはラセミペンタッドで30%以上、好ましくは50%以上のシンジオタクティシティーを有するポリスチレン、ポリ(アルキルスチレン)、ポリ(ハロゲン化スチレン) 、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン) 、ポリ(アルコキシスチレン)、ポリ(ビニル安息香酸エステル)、これらの水素化重合体及びこれらの混合物、あるいはこれらを主成分とする共重合体を指称する。なお、ここでポリ(アルキルスチレン)としては、ポリ(メチルスチレン)、ポリ(エチルスチレン)、ポリ(イソピルスチレン)、ポリ(t−ブチルスチレン)、ポリ(フェニルスチレン)、ポリ(ビニルナフタレン)、ポリ(ビニルスチレン)などがあり、ポリ(ハロゲン化スチレン)としては、ポリ(クロロスチレン)、ポリ(ブロモスチレン)、ポリ(フルオロスチレン)などがある。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)としては、ポリ(クロロメチルスチレン)など、またポリ(アルコキシスチレン)としては、ポリ(メトキシスチレン)、ポリ(エトキシスチレン)などがある。
なお、これらのうち特に好ましいポリスチレン系樹脂としては、ポリスチレン、ポリ(p−メチルスチレン)、ポリ(m−メチルスチレン)、ポリ(p−t−ブチルスチレン)、ポリ(p−クロロスチレン)、ポリ(m−クロロスチレン)、ポリ(p−フルオロスチレン)、水素化ポリスチレン及びこれらの構造単位を含む共重合体が挙げられる。
このようなシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂は、例えば、不活性炭化水素溶媒中又は溶媒の不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒として、スチレン系単量体(上記ポリスチレン系樹脂に対応する単量体) を重合することにより製造することができる(特開昭62―187708号公報) 。また、ポリ(ハロゲン化アルキルスチレン)については特開平1−46912号公報、これらの水素化重合体は特開平1−178505号公報記載の方法などにより得ることができる。
これらのシンジオタクチック構造を有するポリスチレン系樹脂は一種のみを単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0010】
(b)ゴム状弾性体
ゴム状弾性体としては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ポリイソブチレン、ネオプレン、ポリスルフィドゴム、チオコールゴム、アクリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エピクロロヒドリンゴム、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIR)、水素添加スチレン−イソプレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、水素添加スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SEPS);エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、エチレン・オクテン共重合体系エラストマー等のオレフィン系ゴム;ブタジエン−アクリロニトリル−スチレン−コアシェルゴム(ABS)、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン−コアシェルゴム(MBS)、メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−スチレン−コアシェルゴム(MAS)、オクチルアクリレート−ブタジエン−スチレン−コアシェルゴム(MABS)、アルキルアクリレート−ブタジエン−アクリロニトリル−スチレン−コアシェルゴム(AABS)、ブタジエン−スチレン−コアシェルゴム(SBR)、メチルメタクリレート−ブチルアクリレート−シロキサンをはじめとするシロキサン含有コアシェルゴム等のコアシェルタイプの粒子状弾性体、これらを変性したゴム等が挙げられる。このうち特に、SBR、SEB、SBS、SEBS、SIR、SEP、SIS、SEPS又はこれらを変性したゴムが好ましく用いられる。これらのスチレン含量は20〜80wt%が好ましく、流動性は200℃、10kgのMFRで流れないものも含め、1g/10min以下のものが好ましい。スチレン含量が20wt%以下では、シンジオタクチックポリスチレンとの充分な界面強度が得られず、80wt%以上ではゴム状弾性体添加による伸び向上効果が小さい。また200℃、10kgのMFRで1g/10minを超えると、引張物性向上の効果が小さい。
なお、これらのゴム状弾性体は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0011】
(c)結晶造核剤
結晶造核剤としては、高融点ポリマー、芳香族スルホン酸塩もしくはその金属塩、有機リン酸化合物もしくはその金属塩、ジベンジリデンソルビトールもしくはその誘導体、ロジン酸部分金属塩、無機微粒子、イミド酸、アミド酸、キナクリドン類、キノン類又はこれらの混合物が挙げられる。
前記高融点ポリマーとしては、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。高融点ポリマーとして使用されるポリマーは、通常、融点が、100℃以上、好ましくは、120℃以上のポリマーであり、特にポリプロピレンが好ましい。
前記有機リン酸金属塩としては、(株)ADEKA製のアデカスタブNA−11等が挙げられる。
前記ジベンジリデンソルビトール又はその誘導体としては、ジベンジリデンソルビトール、1,3:2,4−ビス(o−3,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス(o−2,4−ジメチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス(o−4−エチルベンジリデン)ソルビトール、1,3:2,4−ビス(o−4−クロロベンジリデン)ソルビトール及び1,3:2,4−ジベンジリデンソルビトール等、具体的には、新日本理化(株)製のゲルオールMDやゲルオールMD−R等が挙げられる。
前記ロジン酸部分金属塩としては、荒川化学工業(株)製のパインクリスタルKM1600及びパインクリスタルKM1500、パインクリスタルKM1300等が挙げられる。
前記無機微粒子としては、タルク、クレイ、マイカ、アスベスト、ガラス繊維、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ケイ酸カルシウム、モンモリロナイト、ベントナイト、グラファイト、アルミニウム粉末、アルミナ、シリカ、ケイ藻土、酸化チタン、酸化マグネシウム、軽石粉末、軽石バルーン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、塩基性炭酸マグネシウム、ドロマイト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、亜硫酸カルシウム及び硫化モリブデン等が挙げられる。
なお、これらの結晶造核剤は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0012】
(d)酸化防止剤
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、チオエーテル化合物等が挙げられる。
前記ヒンダードフェノール系化合物としては、2,6−ジ−t−4−メチルフェノール(BHT)、2,6−ジ−t−4−エチルフェノール(ノクラック M−17)、2,6−ジ−t−4−フェニルフェノール(ノクライザー NS−260)、2,2'−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)(Sumilizer MDP−S、ノクラック NS−6)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)(ノクラック NS−5)、2,2'−メチレンビス(4−エチル−6−n−ノニルフェノール)(ノクライザー NS−90)、4,4'−ブチリデンビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(Sumilizer BBM−S、ノクラック NS−30、Adekastab AO−40)、4,4'−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)(Sumilizer WX−R、ノクラック 300)、1,1,3−トリス(5−t−ブチル−4−ヒドロキシ−2−メチルフェニル)ブタン(Adekastab AO−30)、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(Sumilizer GM)、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート(Sumilizer GS)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(IRGANOX 1076、Adekastab AO−50、Sumilizer BP−76)、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンジルホスフォネート−ジエチルエステル(IRGANOX 1222)、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX 245)、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX 249)、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX 1035)、N,N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGANOX 1098)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β{(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン(Sumilizer GA−80、Adekastab AO−80)、N,N'−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン(IRGANOX MD1024)、ペンタエルスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX 1010、Adekastab AO−60、Sumilizer BP−101)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン(IRGANOX 565)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(IRGANOX 1330、Adekastab AO−330)、トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト(IRGANOX 3114、Adekastab AO−20)及びトリス(4−t−ブチル−2,6−ジメチル−3−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレイト(Cyanox 1790)が好ましい。
この中でも、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート(Sumilizer GM)、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)エチル]−4,6−ジ−t−ペンチルフェニルアクリレート(Sumilizer GS)、n−オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート(IRGANOX 1076、Adekastab AO−50、Sumilizer BP−76)及びペンタエルスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](IRGANOX 1010、Adekastab AO−60、Sumilizer BP−101)がより好ましい。
なお、「ノクラック」及び「ノクライザー」は大内新興化学工業社製品の商品名、「Sumilizer」は住友化学工業社製品の商品名、「Adekastab」は旭電化工業社製品の商品名、「IRGANOX」はチバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製品の商品名、「Cyanox」はサイテックインダストリー社製品の商品名であり、これらは後述する3価の有機リン化合物及びチオエーテル系化合物においても同様である。
【0013】
チオエーテル系化合物としては、ジラウリル 3,3'−チオジプロピオネート(Sumilizer TPL−R、ノクラック 300)、ジトリデシル 3,3'−チオジプロピオネート(Sumilizer TL)、ジミリスチル 3,3'−チオジプロピオネート(Sumilizer TPM)、ジステアリル 3,3'−チオジプロピオネート(Sumilizer TPS)、ジステアリル 3,3'−メチル−3,3'−チオジプロピオネート、ビス[2−メチル−4−(3−n−アルキル(C12 or C14)チオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル]サルファイド((Adekastab AO−503A)、テトラキス[メチレン−3−(ヘキシルチオ)プロピオネート]メタン、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン(Sumilizer TP−D、Adekastab AO−412S)、テトラキス[メチレン−3−(オクタデシルチオ)プロピオネート]メタン、2−メルカプトベンゾイミダゾール(Sumilizer MB、ノクラック MB)及び2−メルカプトメチルベンゾイミダゾール(ノクラック MMB)が好ましい。この中でも、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン(Sumilizer TP−D、Adekastab AO−412S)がより好ましい。
本発明においては、リンを構造中に有している酸化防止剤の分解物が成形時に金型に付着し、金型汚染を招く事を防ぐという理由から、リンを構造中に有していない酸化防止剤を用いる。
なお、これらの酸化防止剤は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0014】
(e)繊維状強化剤
繊維状強化材としては、ガラス繊維,炭素繊維,ウィスカー,セラミック繊維,金属繊維などが挙げられる。具体的に、ウィスカーとしてはホウ素,アルミナ,シリカ,炭化ケイ素など、セラミック繊維としてはセッコウ,チタン酸カリウム,硫酸マグネシウム,酸化マグネシウムなど、金属繊維としては銅,アルミニウム,鋼等がある。本発明においては、シンジオタクチックポリスチレン樹脂組成物との界面接着強度の高い表面処理が可能であるという理由からガラス繊維が好ましい。ここで、繊維状強化材の形状としてはクロス状,マット状,集束切断状,短繊維,フィラメント状のものなどがある。集束切断状の場合、長さが0.05〜50mm,繊維径が5〜20μmのものが好ましい。また、クロス状,マット状の場合、長さが1mm以上、好ましくは5mm以上が好ましい。
なお、これらの繊維状強化剤は一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
(f)シリコーンオイル
本発明で用いるシリコーンオイルとしては、シロキサン骨格を有し、かつ、メチル基及び/又はフェニル基を含有する構造であり、例えば、信越化学工業株式会社製KF−54やKF−96、東レ・ダウコーニング社製SH200等が挙げられ、本発明においては、25℃での粘度が10000〜15000cstであり、かつ4量体以下のオリゴマー成分が100ppm以下であるシリコーンオイルを用いる。
(f)成分の25℃での粘度が10000cst未満であると、成形時の発生ガスが増加し金型を汚染してしまい、15000cstを超えると、混練前の事前混合時に均一にペレット表面を覆うことが困難である。
(f)成分中の4量体以下のオリゴマー成分が100ppmを超えると金型を汚染してしまう。
【0016】
また、本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、(e)成分の繊維状強化材以外の充填剤、紫外線吸収剤、耐熱安定剤、耐光(耐候)剤、滑剤、離型剤、(d)成分以外の結晶造核剤、染料及び顔料を含む着色剤などを配合することができる。
【0017】
本発明の樹脂組成物の調製方法については特に制限はなく公知の方法により調製することができる。例えば、上記成分を常温で混合、あるいは溶融混練など様々な方法でブレンドすればよく、その方法は特に制限はされない。これらの混合・混練方法の中でも二軸押出機を用いた溶融混練が好ましく用いられる。二軸押出機を用いた溶融混練においては、用いるSPSの融点以上、350℃未満での混練が好ましい。混練温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、SPSの粘度が高くなりすぎることがないため、生産性が低下することがない。また、350℃未満とすることにより、SPSが熱分解するおそれがない。
【0018】
本発明の樹脂組成物を用いた成形方法についても特に制限はなく、射出成形,押出成形等公知の方法により成形することができる。射出成形のときの成形温度は、用いるSPSの融点以上、350℃未満が好ましい。成形温度を用いるSPSの融点以上とすることにより、流動性が低下するおそれがなく、350℃未満とすることにより、SPSが熱分解するおそれがない。また金型温度としては、140〜200℃が好ましく、150〜180℃が更に好ましい。金型温度を140℃以上とすることにより、SPSが十分結晶化し、SPSの特徴が十分発揮される。また200℃以下とすることにより、離型時の剛性が低下することがないため、エジェクター割れや変形が発生するおそれがない。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されない。
実施例1〜10及び比較例1〜10
配合成分として下記のものを用いた。
(a)成分
SPS:1,2,4−トリクロロベンゼンを溶媒とし、150℃でGPC法にて測定したポリスチレン換算の重量平均分子量Mwが200,000、分子量分布Mw/Mnが2.20のホモシンジオタクチックポリスチレン
(b)成分
セプトン8006:SEBSタイプのエラストマー(クラレ社製)スチレン含量33wt%
(c)成分
NA−11(商品名、株式会社アデカ製)
(d)成分
(d)−1.IRGANOX1010(商品名、チバ・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製)
構造中にリンを含有しないフェノール系酸化防止剤
(d)−2.PEP36(商品名、株式会社アデカ製)
構造中にリンを含有する酸化防止剤
(e)成分
03 JA FT 164G:ガラス繊維(商品名、オーウェンスコーニング社製、チョップドストランドタイプ、平均繊維径10.5μm、平均繊維長3mm)
(f)成分
(f)−1.SH200CV(商品名、東レ・ダウコーニング株式会社製)
25℃における粘度が13000sctであり、4量体までのオリゴマー成分が100ppm以下であるシリコーンオイル
(f)−2.SH200(商品名、東レ・ダウコーニング株式会社製)
25℃における粘度が12500sctであり、4量体までのオリゴマー成分が500ppmであるシリコーンオイル
【0020】
上記配合成分をドライブレンドした後、二軸押出機を用いシリンダー温度290℃で、ガラス繊維をサイドフィードしながら溶融混練を行い、得られたストランドを水槽を通し冷却した後ペレット化し、樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物を用いて以下の評価を行った。表1に(a)成分と(b)成分の樹脂組成を、表2に(a)成分と(b)成分の総和100質量部に対する(c)成分、(d)成分、(e)成分の樹脂組成、表3に(a)〜(e)成分の総和100質量部に対する(f)成分量、表4に得られた樹脂組成物の組成及び評価結果を示す。
【0021】
<評価項目>
(1)融点(Tm)・結晶化温度(Tc)
結晶性樹脂の耐熱性の指標である融点と核剤性能の指標である結晶化温度を測定。示差走査熱量測定(DSC)法にて融解のピーク温度、結晶化のピーク温度を測定することで評価(昇温速度:20℃/min)。単位:℃。
(2)金型汚染性
住友重機械工業製100t成形機を用い、290℃で200shot成形した際の付着物を目視にて確認。エタノールでのふき取り易さも確認した。
○:付着物無し/ふき取り性良好
△:曇りあり/ふき取り性悪いが、ふき取り可能
×:液状、固体状付着物及び曇りあり/ふき取り不可
(3)滞留安定性
290℃にて3分溶融後、10分間溶融後の粘度をそれぞれ測定し、3分溶融後粘度に対する10分溶融後粘度の粘度保持率にて評価。単位:%。
(4)MFR
流動性の指標であるMFRをJIS−K7210に準拠し測定した。単位:g/10min。
(5)アイゾット(Izod)衝撃強度(ノッチ付き)
JIS−K7110に準拠し、規定された成形品形状にて測定した。単位:kJ/m2
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
【表4】

【0026】
表4から明らかなように、本発明の樹脂組成物は、耐熱性の指標である融点、離型剛性に重要な結晶化温度、滞留安定性、流動性の指標であるMFR、アイゾット衝撃強度、離型性を有し、しかも成形時の金型汚染性を低減可能であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
以上詳細に説明したように、本発明のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物より得られる成形品はシンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体の優れた特徴である耐熱性及び実用衝撃強度を有し、流動性、滞留安定性という生産性に優れ、しかも成形時の金型汚染性を低減できる。
このため、本発明のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物を成形してなる成形品は、例えば、成形数の多い自動車部品や良外観を求められる日用品用の材料、例えば箸等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)シンジオタクチック構造を有するスチレン系重合体22〜99.5質量%と、
(b)水素添加スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体0.5〜78質量%との合計100質量部に対して、
(c)結晶造核剤0.005〜6質量部、
(d)リンを構造中に有していない酸化防止剤0.005〜6質量部、
(e)繊維状強化剤3〜155質量部
を含有し、さらに
(f)メチル基及び/又はフェニル基を構造中に有し、かつ4量体以下オリゴマー成分が100ppm以下であるシリコーンオイルを(a)〜(e)成分の合計100質量部に対して、0.005〜6質量部含有するシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物。
【請求項2】
前記(e)が、ガラス繊維である請求項1記載のシンジオタクチックポリスチレン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の樹脂組成物を成形してなる成形品。
【請求項4】
請求項3に記載の成形品からなる箸。

【公開番号】特開2011−21076(P2011−21076A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165739(P2009−165739)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】