説明

シート搬送装置

【課題】 重送されたシートを、紙間距離をほとんど変えることなく搬送する。
【解決手段】 シートを搬送するシート搬送装置であって、搬送速度がV1の上流側ローラ34と、上流側ローラから下流に距離D1離れた位置P1でシートの前後端を検出する上流側センサ50と、上流側センサから下流に距離D2離れた位置P2でシートの前後端を検出する下流側センサ52と、2つのセンサに基づきローラを制御するローラ制御手段とを有する。ローラ制御手段が、上流側センサが先行シートWpの後端を検出した場合、その第1の時間後に上流側ローラによる搬送速度V1での後続シートWsの搬送を開始する。上流側センサが先行シート後端を検出する前に下流側センサが該後端を検出した場合、後続シートが位置P1を部分的に越えたと判定し、この判定から第2の時間後に、上流側ローラによる搬送速度V1より低速の搬送速度V1mでの後続シートの搬送を開始する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数のシートを1枚ずつ順番に搬送するシート搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えばプリンタやスキャナなどに搭載されている、複数のシート(用紙)を1枚ずつ順番に搬送するシート搬送装置は、シート搬送経路上の所定の位置でシートを検出するセンサを備えている。
【0003】
このようなセンサは、その検出位置にシートが存在するときに信号を出力するように構成されている。したがって、センサの検出位置をシートの前端(搬送方向下流側の端)が通過すると、センサは信号の出力を開始する。また、センサの検出位置をシートの後端(搬送方向上流側の端)が通過すると、センサは信号の出力を停止する。このようなセンサの出力に基づいて、シートが正常に搬送されていることを確認する。
【0004】
具体的には、センサによって搬送異常、例えばジャム(シートの詰まり)を検出することができる。正常であればセンサが信号の出力を開始するタイミングに該センサが信号の出力を開始しなければ、センサの検出位置にシートが到達しない、すなわち検出位置より上流側でジャムが発生していることがわかる。また、正常であればセンサが信号の出力を停止するタイミングに該センサが信号の出力を停止しなければ、センサの検出位置でシートが滞留するジャムが発生していることがわかる。
【0005】
ジャム以外に、シートの搬送に関するトラブルとして、重送がある。
【0006】
なお、本明細書で言う「重送」は、先行するシートに後続するシートが、少なくとも部分的に先行シートに重なった状態で該先行シートとともに搬送されることを言う。
【0007】
重送が発生すると、搬送経路の終端まで先行シートと後続シートとが重送される場合と、搬送経路の途中で重送が解消される場合とがある。当然ながら前者は好ましくなく、問題である。一方後者は、重送が解消される位置によって問題になる。
【0008】
重送が解消されたときに起こる問題について、具体的に説明する。まず、先行シートと後続シートとの重送が発生し、センサによって先行シートの前端が検出される。次に、後続シートの前端がそのセンサの検出位置を通過し、その後に先行シートと後続シートとの重送が解消される。その結果、先行シートのみが下流側に搬送され、後続シートがそのセンサの検出位置に置き残される。すなわち、後続シートが、センサの検出位置を部分的にオーバーランして停止する。
【0009】
この場合、先行シートは、後続シートがセンサの検出位置に存在することにより、そのセンサによって後端を検出されずに移動する。そのために、本来であれば先行シートの後端が検出されるタイミングに該後端が検出できなかったことにより、実際にはジャムが発生していないにもかかわらず、ジャムが発生していると判定される。そして、ユーザに対して、ジャムの発生を報知し、ジャムの解消作業を要求する。そして、後続シートは、取り除く必要がないにもかかわらず、装置から取り除かれる。その結果、シート搬送装置(言い換えるとシート搬送装置を含むプリンタやスキャナ)の生産性(単位時間あたりの搬送枚数)が低下する。
【0010】
この対処方法がいくつか提案されている。
【0011】
例えば、特許文献1のシート搬送装置は、シートを搬送するローラの下流側近傍に、シートを検出するセンサを有する。センサがシートの前端を検出し、その後シートサイズに対応する時間を経過してもそのセンサによってシートの後端が検出されないときは、重送が発生し、その結果として重送された後続のシートがセンサの検出位置を部分的にオーバーランして停止していると判定する。そして、その判定後、ローラを逆回転させ、後続のシートを上流側に戻す。これにより、実際にはジャムが発生していないにもかかわらずジャムの発生を報知することが抑制され、後続のシートが取り除かれることなくそのままにされる。その結果、シート搬送装置の生産性が維持される。
【0012】
また、例えば、特許文献2に記載のシート搬送装置は、シートを搬送するレジストローラの上流側と下流側のそれぞれに、シートを検出するスイッチを有する。また、レジストローラは、下流側のスイッチがシートの後端を検出すると停止する。そして、レジストローラがシートの搬送を開始して所定時間経過後のタイミングに、上流側スイッチがシートを検出し、且つ下流側センサがシートを検出していないときは、重送が発生し、その結果として重送された後続のシートが下流側スイッチの検出位置を部分的にオーバーランして停止していると判定する。このオーバーランしたシートは、レジストローラが再び回転したときに下流側に搬送される。これにより、特許文献1と同様に、実際にはジャムが発生していないにもかかわらずジャムの発生を報知することが抑制され、後続のシートが取り除かれることなくそのままにされる。その結果、シート搬送装置の生産性が維持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−156811号公報
【特許文献2】特開平6−72592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかし、特許文献1の場合、重送の結果としてセンサの検出位置を部分的にオーバーランして停止しているシートを上流側に戻せるように、シートを搬送するローラを逆回転可能に構成する必要がある。
【0015】
また、特許文献2の場合、重送の結果としてレジストローラの上流側のスイッチの検出位置を部分的にオーバーランして停止したシートが、オーバーランが発生していないときと同様にレジストローラによって搬送されるため、これに先行するシートとの紙間距離が、オーバーラン非発生時に比べて短くなる。その結果、再び重送が発生し、その重送を原因として実際にジャムが発生する可能性がある。
【0016】
そこで、本発明は、先行のシートと後続のシートとの重送が発生し、後続のシートがセンサの検出位置に部分的にオーバーランして停止し、それによって先行のシートの後端がセンサに検出されずに該先行のシートが下流側に搬送されてもジャムとせず、後続のシートを、上流側に戻すことなく、また先行のシートとの紙間距離を通常時(オーバーラン非発生時)の紙間距離からほとんど変えずに、下流側に搬送することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題を解決するために、本願の請求項1に記載の発明は、
シートを1枚ずつ順番に搬送するシート搬送装置であって、
シートを搬送速度V1で搬送する上流側搬送ローラと、
上流側搬送ローラから下流側に距離D1離れた位置P1でシートの前端と後端とを検出する上流側センサと、
上流側センサから下流側に距離D2離れた位置P2でシートの前端と後端とを検出する下流側センサと、
下流側センサから下流側に距離D3離れた位置に配置されてシートを搬送速度V1に比べて低速の搬送速度V2で搬送する下流側搬送ローラと、
上流側および下流側センサの検出結果に基づいて上流側および下流側搬送ローラを制御する搬送ローラ制御手段とを有し、
搬送ローラ制御手段が、
上流側センサが先行のシートの後端を検出した場合は、
この検出タイミングから第1の時間経過後に、上流側搬送ローラによる搬送速度V1での後続のシートの搬送を開始し、
上流側センサが先行のシートの後端を検出する前に下流側センサが該先行のシートの後端を検出した場合は、
後続のシートが位置P1を部分的にオーバーランして停止していると判定し、このオーバーランの判定タイミングから第2の時間経過後に、上流側搬送ローラによる搬送速度V1に比べて低速の搬送速度V1mでの後続のシートの搬送を開始することを特徴とする。
【0018】
また、請求項2に記載の発明は、
第1の時間が、距離D1〜D3と搬送速度V1,V2に基づいて算出され、
第2の時間が、距離D3と搬送速度V1m,V2に基づいて算出されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上流側センサが先行のシートの後端を検出する前に下流側センサが該先行のシートの後端を検出することにより、後続のシートが上流側センサの検出位置P1を部分的にオーバーランして停止していることを検出する。そして、オーバーランした後続のシートを、上流側搬送ローラにより、通常時(上流側センサが先行のシートの後端を検出したとき)の搬送速度V1に比べて低速の搬送速度V1mで搬送する。これにより、先行のシートの後端が上流側センサに検出されずに該先行のシートが下流側に搬送されてもジャムとせず、且つ、後続のシートを、上流側に戻すことなく、また先行のシートとの紙間距離を通常時の紙間距離からほとんど変えずに、下流側に搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るシート搬送装置を含む画像読取装置の構成を概略的に示す図である。
【図2】シート搬送装置の制御系を概略的に示している。
【図3】タイミングチャートを示す図である。
【図4】給紙ローラ、レジストローラ、分離後センサ、およびレジスト前センサの位置関係を示す図である。
【図5】正常なシート分離を説明するための図である。
【図6】異常なシート分離を説明するための図である。
【図7】重送(オーバーラン)発生時のタイミングチャートを示す図である。
【図8】オーバーランの発生を検出し、その検出結果に基づいて給紙ローラの給紙速度を変更する制御の流れを示すフローチャートの図である。
【図9】図8に示すフローチャートの制御に並行して実行される、オーバーランの発生を検出し、その検出結果に基づいて給紙ローラの給紙速度を変更する制御の流れを示すフローチャートの図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るシート搬送装置を備えた画像読取装置の構成を概略的に示している。
【0022】
図1に符号10に示す画像読取装置は、いわゆるフラットベッド型のスキャナであって、ADF(Automatic Document Feeder)と呼ばれるシート搬送装置12を備えている。
【0023】
画像読取装置10は、シート搬送装置12が搬送するシート(原稿)Wに形成されている画像を、シートWの搬送経路R(一点鎖線)上の画像読取位置PSで読取るように構成されている。
【0024】
そのために、画像読取装置10は、画像読取位置PSを通過するシートWを露光する露光ユニット14と、画像読取位置PSを通過するシートW上の画像を対応する電気信号に変換するCCDイメージセンサ16と、CCDイメージセンサ16からの電気信号に基づいて画像データを作成する画像処理部18と、画像読取位置PSを通過するシートW上の画像をCCDイメージセンサ16に結像する複数のミラー20およびレンズ22とを有する。
【0025】
シート搬送装置12は、重なった状態の複数のシートWを1枚ずつ順番に画像読取装置10の画像読取位置PSを通過させるように構成されている。
【0026】
そのために、シート搬送装置12は、読取り前の複数のシートWが重ねた状態で載置されるトレイ30と、トレイ30のシートWをピックアップして下流側に搬送するピックアップローラ32と、ピックアップローラ32からのシートWを下流側に搬送する給紙ローラ(特許請求の範囲に記載の「上流側搬送ローラ」に対応)34と、給紙ローラ34と搬送経路Rを挟んで対向する分離ローラ36と、給紙ローラ34からのシートWの斜行を補正する一対のレジストローラ(特許請求の範囲に記載の「下流側搬送ローラ」に対応)38と、画像読取位置PSの上流側に配置されて所定の副走査速度でシートWを搬送する一対の走査送りローラ40と、画像読取位置PSの下流側に配置されて所定の副走査速度でシートWを搬送する一対の走査送りローラ42と、読取りが完了したシートWを外部に排出する一対の排出ローラ44とを有する。
【0027】
なお、搬送経路R上において、上流側と下流側とに隣接し合うローラの間隔(例えば給紙ローラ34とレジストローラ38との間の距離)は、シートWの搬送方向長さに比べて短くされている。
【0028】
ピックアップローラ32は、トレイ30に重ねた状態で載置されている複数のシートWの中の最頂のシートWと当接し、回転することにより該最頂のシートWを下流側に搬送する。また、ピックアップローラ32は、後述するように、共通のモータによって給紙ローラ34と分離ローラ36とともに駆動される。特に、ピックアップローラ32は、給紙ローラ34と略同一の速度でシートWを下流側に搬送することができるように、給紙ローラ34に対して所定の回転比で回転するようにされている。なお、ピックアップローラ32は、モータによって駆動されていないとき(モータの停止中)、自由回転するようにされている。これは、他のローラによって搬送されているシートWが、ピックアップローラ32を通過して下流側にスムーズに移動できるようにするためである。
【0029】
給紙ローラ34は、ピックアップローラ32とともに、シートWを所定の給紙速度(搬送速度)で下流側に搬送する。この所定の給紙速度は、後述するように、状況に応じて、V1からV1mに減速される、またはV1mからV1に増速される。なお、給紙ローラ34も、モータの停止中、自由回転する。
【0030】
分離ローラ36は、シートWの搬送経路Rを挟んで該給紙ローラ34に対向配置されている。また、分離ローラ36は、給紙ローラ34と同一方向に回転する。これにより、ピックアップローラ32によって給紙ローラ34と分離ローラ36との間に2枚のシートWが重なって移動してきたとき、給紙ローラ34側のシートWが給紙ローラ34によって下流側に搬送され、一方、分離ローラ36側のシートWは分離ローラ36によって下流側への移動が規制される。すなわち、給紙ローラ34と分離ローラ36とによってシートWが一枚だけ分離され(さばかれ)、下流側に搬送される。
【0031】
なお、確認しておくと、必ず、複数枚のシートWがピックアップローラ32によって給紙ローラ34と分離ローラ36との間に移動するわけではない。ほとんどの場合、1枚のシートWが給紙ローラ34と分離ローラ36との間を通過し、この通過したシートWに続くシートWは、給紙ローラ34と分離ローラ36との間より上流側のスタート位置P0にその前端が位置する状態で待機する。
【0032】
また、分離ローラ36も、モータの停止中、自由回転する。
【0033】
一対のレジストローラ38は、シートWの搬送経路Rを挟んで対向し、シートWを挟持して所定の搬送速度V2で下流側に搬送する。この搬送速度V2は、給紙ローラ34の給紙速度V1に比べて低速に設定されている。
【0034】
厳密に言えば、走査送りローラ40,42の所定の副走査速度に対応したレジストローラ38の搬送速度V2に対して、給紙ローラ34の給紙速度V1が高速に設定されている。これは、詳細は後述するが、シート間の距離(紙間距離)を短くするためである。
【0035】
また、一対のレジストローラ38は、後述するように共通のモータによって駆動される。
【0036】
さらに、一対のレジストローラ38は、給紙ローラ34と協働してシートWの斜行を補正する。具体的に説明すると、停止状態の一対のレジストローラ38の間にシートWの前端が位置する状態で、そのシートWを給紙ローラ34が下流側に所定時間(斜行補正時間Ta)搬送し続けることにより、そのシートWの斜行を補正する。
【0037】
なお、一対のレジストローラ38は、モータの停止中、自由回転する。ただし、斜行の補正中は回転しないようにされている。
【0038】
一対の走査送りローラ40は、シートWを所定の副走査速度で搬送する。また、同様に、一対の走査送りローラ42も、シートWを所定の副走査速度で搬送する。これらの4つの走査送りローラは、後述するように、共通のモータによって駆動される。なお、これらの4つの走査送りローラも、モータ停止中は、自由回転する。
【0039】
一対の排紙ローラ44は、画像読取位置PSでの読取りが完了したシートWをシート搬送装置12の外部に排出する。また、一対の排紙ローラ44は、後述するように共通のモータによって駆動される。
【0040】
また、シート搬送装置12は、搬送経路R上の所定の位置でシートWの前端と後端とを検出する複数のセンサ50〜56を有する。
【0041】
分離後センサ(特許請求の範囲に記載の「上流側センサ」に対応)50は、給紙ローラ34(分離ローラ36)の下流側近傍位置P1でシートWの前端と後端とを検出する。
【0042】
この分離後センサ50は、位置P1にシートWが存在し続ける間は信号を出力し続けるように構成されている。すなわち、分離後センサ50は、シートWの前端を検出したタイミングから信号の出力を開始し、シートWの後端を検出したタイミングに信号の出力を停止する(これは、後述する他のセンサも同様である)。
【0043】
レジスト前センサ(特許請求の範囲に記載の「下流側センサ」に対応)52は、一対のレジストローラ38の上流側近傍位置P2でシートWの前端と後端とを検出する。
【0044】
読取前センサ54は、一対の走査送りローラ40の上流側近傍位置P3でシートWの前端と後端とを検出する。
【0045】
排紙センサ56は、一対の排紙ローラ44の下流側近傍位置P4でシートWの前端と後端とを検出する。
【0046】
さらに、シート搬送装置12は、複数のセンサ50〜56からの信号に基づいて、複数のローラ32〜44を制御する制御部を有する。
【0047】
この制御部を中心とする、シート搬送装置12の制御系を図2に概略的に示す。
【0048】
シート搬送装置12の制御部100は、図2に示すように、複数のセンサ50〜56からの信号と複数のタイマ102〜110とに基づいて、複数のモータ70〜76を介して、複数のローラ32〜44を制御するように構成されている。
【0049】
モータ70は、ピックアップローラ32、給紙ローラ34、および分離ローラ36を駆動するモータである。
【0050】
モータ72は、一対のレジストローラ38を駆動するモータである。
【0051】
モータ74は、一対の走査送りローラ40と、一対の走査送りローラ42を駆動するモータである。
【0052】
モータ76は、一対の排紙ローラ44を駆動するモータである。
【0053】
位置P1未逹ジャム判定タイマ102は、分離後センサ50の検出位置P1より上流側でジャムが発生したか否かを判定するときに使用されるタイマである。この位置P1未逹ジャム判定タイマ102は、図3のタイミングチャートに示すように、給紙ローラ34(ピックアップローラ32)による給紙開始タイミング、すなわちモータ70の回転の開始タイミングをトリガとして時間のカウントを開始する。
【0054】
なお、図3は、本実施形態の実施に必要な構成要素の作動開始タイミングおよび作動停止タイミングを示すタイミングチャート図である。この図3において、「Wn」(nは1以上の整数)は、連続給紙が開始されてからn枚目のシートを示す。また、「Wnf」はn枚目のシートの前端を示し、「Wnr」はn枚目のシートの後端を示している。
【0055】
また、図3において、分離後センサ50、レジスト前センサ52の「ON」は、センサが信号を制御部100に出力していること(すなわちシートWを検出していること)を示し、「OFF」は信号を出力していないこと(すなわちシートWを検出していないこと)を示している。さらに、タイマの「ON」は、タイマが時間をカウント中(作動中)であることを示し、「OFF」は時間をカウントしていない(停止中である)ことを示す。
【0056】
位置P1未逹ジャム判定タイマ102はまた、カウントを開始してから所定のカウント時間T1経過(タイムアウト)までに分離後センサ50がシートWの前端を検出すると(分離後センサ50からの信号を制御部100が受信すると)、時間のカウントを停止し、カウントをゼロにリセットする(カウントクリア)。
【0057】
この所定のカウント時間T1は、図4を参照しながら説明すると、例えば、スタート位置P0に位置するシートWの前端が位置P1に到達するまでの時間、または余裕をみてそれよりわずかに長い時間に設定されている。例えば、カウント時間T1は、数式1の形で表現される。
【数1】

【0058】
なお、数式1において、「n」は、シートWと給紙ローラ34との間で発生するスリップなどを原因とする搬送遅れを考慮した搬送遅れ係数であって、1以上(例えば、1.1)の数値である。また、「D0」は、図4に示すように、スタート位置P0から給紙ローラ34と分離ローラ36との間までの搬送経路R上の距離である。「D1」は、給紙ローラ34と分離ローラ36との間から位置P1までの搬送経路R上の距離である。
【0059】
一方、位置P1未逹ジャム判定タイマ102がタイムアウトすると、ジャム発生報知部112が、搬送経路Rの位置P1の上流側でジャムが発生したことを、例えばスピーカ(図示せず)を介してアラーム音によってユーザに報知する。そして、制御部100は、複数のモータ70〜76全てを停止させる。
【0060】
図2に戻り、位置P1滞留ジャム判定タイマ104は、位置P1にシートWが滞留しているか否かを判定するときに使用されるタイマである。この位置P1滞留ジャム判定タイマ104は、図3に示すように、分離後センサ50がシートWの前端を検出したタイミング(分離後センサ50からの信号を制御部100が受信し始めたタイミング)をトリガとして時間のカウントを開始する。
【0061】
また、位置P1滞留ジャム判定タイマ104は、カウントを開始してから所定のカウント時間T2経過(タイムアウト)までに分離後センサ50がシートWの後端を検出すると(分離後センサ50からの信号が停止すると)、時間のカウントを停止し、カウントをゼロにリセットする(カウントクリア)。
【0062】
この所定のカウント時間T2は、図4を参照しながら説明すると、例えば、位置P1に前端が位置するシートWの後端が位置P2までに到達するまでの時間、または余裕をみてそれよりわずかに長い時間に設定されている。例えば、カウント時間T2は、数式2の形で表現される。
【数2】

【0063】
なお、数式2において、「FD」は、シートWの搬送方向長さである。また「D2」は、位置P1から位置P2までの搬送経路R上の距離である。
【0064】
一方、位置P1ジャム滞留判定タイマ104がタイムアウトすると、ジャム発生報知部112が、搬送経路Rの位置P1でジャムが発生したことを、例えばスピーカ(図示せず)を介してアラーム音によってユーザに報知する。そして、制御部100は、複数のモータ70〜76全てを停止させる。
【0065】
図2に戻り、位置P2未逹ジャム判定タイマ106は、レジスト前センサ52の検出位置P2より上流側でジャムが発生したか否かを判定するときに使用されるタイマである。この位置P2未逹ジャム判定タイマ106は、図3に示すように、分離後センサ50がシートWの前端を検出したタイミング(分離後センサ50からの信号を制御部100が受信し始めたタイミング)をトリガとして時間のカウントを開始する。
【0066】
また、位置P2未逹ジャム判定タイマ106は、カウントを開始してから所定のカウント時間T3経過(タイムアウト)までにレジスト前センサ52がシートWの前端を検出すると(レジスト前センサ523からの信号を制御部100が受信すると)、時間のカウントを停止し、カウントをゼロにリセットする(カウントクリア)。
【0067】
この所定のカウント時間T3は、図4を参照しながら説明すると、例えば、位置P1に位置するシートWの前端が位置P2に到達するまでの時間、または余裕をみてそれよりわずかに長い時間に設定されている。例えば、カウント時間T3は、数式3の形で表現される。
【数3】

【0068】
一方、位置P2未逹ジャム判定タイマ106がタイムアウトすると、ジャム発生報知部112が、搬送経路Rの位置P2の上流側でジャムが発生したことを、例えばスピーカ(図示せず)を介してアラーム音によってユーザに報知する。そして、制御部100は、複数のモータ70〜76全てを停止させる。
【0069】
通常用の次給紙開始タイマ108は、給紙ローラ34によるシートWの給紙の開始タイミング、すなわちモータ70の回転開始タイムミングを生成するタイマである。この通常用の次給紙開始タイマ108は、図3に示すように、分離後センサ50がシートWの後端を検出したタイミング(分離後センサ50からの信号が止んだタイミング)をトリガとして時間のカウントを開始する。
【0070】
また、通常用の次給紙開始タイマ108は、カウントを開始してから所定のカウント時間T4経過(タイムアウト)すると、モータ70の回転開始タイミングを生成する。制御部100は、この回転開始タイミングをトリガとしてモータ70の回転を開始する。これにより、給紙ローラ34によるシートの搬送が開始される。なお、この所定のカウント時間T4は、特許請求の範囲に記載の「第1の時間」に対応し、その詳細は後述する。
【0071】
オーバーラン用の次給紙開始タイマ110は、詳細は後述するが、先行シートWpとともに重送された後続シートWsに対する、給紙ローラ34による給紙の開始タイミングを生成するタイマである。このオーバーラン用の次給紙開始タイマ110の詳細については後述する。なお、本明細書では、シートWを、先行するシートと後続するシートとに区別して説明する場合、前者を「先行シートWp」とし、後者を「後続シートWs」としている。
【0072】
制御部100は、図2に示すタイマ以外にも、タイマを備えている。しかしながら、図2に示すタイマ以外のタイマは、本発明に大きく関与しないので、説明は省略する。
【0073】
制御部100は、これらのタイマ102〜110と複数のセンサ50〜56とを用いて、以下のように複数のローラ32〜44を制御する。
【0074】
制御部100は、例えば、図3に示すように、レジスト前センサ52がシートWの前端を検出すると(レジスト前センサ52からの信号を制御部100が受信すると)、その検出タイミングから所定の待機時間T5待機した後、モータ70を停止することにより、ピックアップローラ32、給紙ローラ34、および分離ローラ36を停止させる。
【0075】
この所定の待機時間T5は、図4を参照しながら説明すると、例えば、位置P2に位置するシートWの前端が一対のレジストローラ38の間に到達するまでの時間と上述の斜行補正時間Taとの和から算出される時間、または余裕をみてそれよりわずかに長い時間に設定されている。例えば、所定の待機時間T5は、数式4の形で表現される。
【数4】

【0076】
なお、数式4において、「D3」は、位置P2から一対のレジストローラ38の間までの搬送経路R上の距離である。
【0077】
また、制御部100は、例えば、図3に示すように、給紙ローラ34(ピックアップローラ32)を停止させると(モータ70を停止させると)、所定の待機時間T6経過した後、モータ72の作動を開始し、レジストローラ38の回転を開始する。
【0078】
この所定の待機時間T6は、モータ70が停止することによって発生した該モータ70の振動が収まるまでの時間に比べて長い時間に設定されている。このモータ70の振動が微小である場合は、この所定の待機時間T6を省略してもよい。
【0079】
さらに、制御部100は、図3に示すように、レジスト前センサ52がシートWの後端を検出すると(レジスト前センサ52からの信号が停止すると)、その検出タイミングから所定の待機時間T7待機した後、モータ72を停止することにより、レジストローラ38を停止させる。
【0080】
この所定の待機時間T7は、図4を参照しながら説明すると、例えば、位置P2に位置するシートWの後端が一対のレジストローラ38の間を通過するまでの時間、または余裕をみてそれよりわずかに長い時間に設定されている。例えば、所定の待機時間T7は、数式5の形で表現される。
【数5】

【0081】
これ以外にも、制御部100は、複数のセンサを用いて種々の制御を実行するが、すなわち走査送りローラ40,42、排紙ローラ44に対する制御を実行するが、これらの制御は、本発明に関与しないので、説明は省略する。
【0082】
以上の説明を踏まえた上で、ここからは、本発明に係る、重送の結果としてオーバーランが発生したときに制御部100が実行する制御について説明する。
【0083】
まず、重送について、図5および図6を参照しながら説明する。
【0084】
本実施形態が対象とする重送は、図5および図6に示すように、シートWの搬送経路R上の位置P1近傍で起こる重送である。
【0085】
図5(A)は、給紙ローラ34と分離ローラ36とよる分離(さばき)の様子を示している。この図に示すように、給紙ローラ34によって先行シートWpが一対のレジストローラ38に向かって搬送され、分離ローラ36によって後続シートWsが下流側への移動を規制される。そして、図5(B)に示すように、正常に分離が完了すると、先行シートWpは一対のレジストローラ38によって下流側に搬送される。一方、後続シートWsは、次に給紙ローラ34が回転するまで、その前端が給紙ローラ34と分離ローラ36との間に位置する状態で待機する。
【0086】
これに対し、図6(A)は、重送が発生している様子を示している。図に示すように、先行シートWpと後続シートWsとが、先行シートWpの後端側と後続シートWsの前端側とが重なった状態で、給紙ローラ34と分離ローラ36との間を通過している。
【0087】
そして、図6(B)は、後続シートWsの前端が位置P1を通過した後に重送が解消された様子を示している。通常時(図5(B))と異なり、後続シートWsは、位置P1から距離Lだけ部分的にオーバーランして停止している。
【0088】
このようなオーバーランの発生を、制御部100は、分離後センサ50がシートWの前端を検出した後において、そのシートWの後端を分離後センサ50が検出せずにレジスト前センサ52が検出することにより、確認する。
【0089】
制御部100がオーバーランの発生を確認すると、その確認タイミングをトリガとして、位置P1滞留ジャム判定タイマ104は、図7に示すようにカウントを停止する(カウントクリア)。すなわち、位置P1滞留ジャム判定タイマ104は、通常時(オーバーランが発生していないとき)は分離後センサ50がシートWの後端を検出したタイミングをトリガとし、一方、オーバーラン発生時はレジスト前センサ52がシートWの後端を検出したタイミングをトリガとして、カウントを停止する(カウントクリア)。
【0090】
また、制御部100がオーバーランの発生を確認すると、その確認タイミングをトリガとして、オーバーラン用の次給紙開始タイマ110は、時間のカウントを開始する。
【0091】
オーバーラン用の次給紙開始タイマ110は、所定のカウント時間T8経過(タイムアウト)すると、モータ70の回転開始タイミングを生成する。制御部100は、この回転開始タイミングをトリガとしてモータ70の回転を開始する。これにより、給紙ローラ34による、図6(B)に示すように位置P1を部分的にオーバーランしたシートWの搬送が開始される。なお、所定のカウント時間T8は、特許請求の範囲に記載の「第2の時間」に対応し、その詳細は後述する。
【0092】
このとき、給紙ローラ34は、図7に示すように、位置P1を部分的にオーバーランして停止したシートW(W3)を、オーバーランが発生していないとき(通常時)の給紙速度V1に比べて低速な給紙速度V1mで搬送する(そのように、モータ70は制御部100によって制御される)。
【0093】
理由を説明すると、オーバーランが発生することは給紙ローラ34の搬送性が低下していることを示している。したがって、給紙速度V1でオーバーランしたシートWを送ると、その後に続くシートWも位置P1を部分的にオーバーランする可能性がある。そして、シートのオーバーランが繰り返し発生する可能があり、その結果、給紙ローラ34の搬送性をさらに低下させる可能性がある。この対処として、給紙ローラ34が、オーバーランしたシートWを、通常時の給紙速度V1に比べて低速な給紙速度V1mで搬送する。
【0094】
また、図7に示すように、オーバーラン用の次給紙開始タイマ110がタイムアウトすると、そのタイムアウトのタイミングをトリガとして、位置P2未逹ジャム判定タイマ106が時間のカウントを開始する(作動を開始する)。これにより、オーバーランしたシートWが位置P2に到達したか否かの判定が可能になる。
【0095】
給紙ローラ34による、位置P1を部分的にオーバーランしたシートW(W3)の給紙が開始されると、その開始タイミングをトリガとして、位置P1滞留ジャム判定タイマ104が時間のカウントを開始する(作動を開始する)。これにより、オーバーランしたシートWが位置P1で滞留しているか否かの判定が可能になる。
【0096】
なお、これらに対し、図7に示すように、位置P1を部分的にオーバーランしたシートW(W3)に対して、位置P1未逹ジャム判定タイマ102は作動しない。このシートW(W3)が、既に位置P1に到達しているからである。
【0097】
ここからは、制御部100による、重送の発生(図6(B)に示すような、シートWの位置P1の部分的なオーバーランの発生)を確認して、給紙ローラ34の給紙速度をV1からV1mに(またはその逆に)変更する制御の流れについて、図8,9のフローチャートを参照しながら説明する。また、図3,7のタイミングチャートも参照しながら説明する。なお、図8,9に示すフローチャートの制御は、並行して実行される。
【0098】
図8に示すように、まず、S100において、分離後センサ50が位置P1でシートWの前端を検出したか否かが判定される。分離後センサ50がシートWの前端を検出した場合、ステップS110に進む。そうでない場合はステップS130に進む。
【0099】
ステップS100で分離後センサ50が位置P1でシートWの前端を検出したと判定されると、ステップS110において、図3に示すように、位置P1未逹ジャム判定タイマ102の作動が停止する(カウントクリア)。
【0100】
ステップS120において、図3に示すように、位置P1滞留ジャム判定タイマ104と位置P2未逹ジャム判定タイマ106とが、作動を開始する(カウント開始)。そして、ステップS160に進む。
【0101】
一方、ステップS100で分離後センサ50がシートWの前端を検出していないと判定された場合、ステップS130において、分離後センサ50が位置P1でシートWの後端を検出したか否かが判定される。分離後センサ50がシートWの後端を検出した場合、ステップS140に進む。そうでない場合はステップS160に進む。
【0102】
ステップS140において、図3に示すように、位置P1滞留ジャム判定タイマ104の作動が停止する(カウントクリア)。
【0103】
ステップS150において、通常用の次給紙開始タイマ108が作動を開始する(カウント開始)。そして、ステップS160に進む。
【0104】
ステップS160において、位置P1滞留ジャム判定タイマ104が作動中(カウント中)であるか否かが判定される。カウント中である場合はステップS170に進む。そうでない場合はリターンに進み、スタートに戻る。
【0105】
ステップS170において、レジスト前センサ52が位置P2でシートWの後端を検出したか否かが判定される。レジスト前センサ52がシートWの後端を検出した場合、ステップS180に進む。そうでない場合はステップS200に進む。
【0106】
ステップS170でレジスト前センサ52が位置P2でシートWの後端を検出したと判定されると、ステップS180において、図7に示すように、位置P1滞留ジャム判定タイマ104の作動が停止する(カウントクリア)。
【0107】
ステップS190において、図7に示すように、オーバーラン用の次給紙開始タイマ110が作動を開始する。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0108】
一方、ステップS170でレジスト前センサ52が位置P2でシートWの後端を検出していないと判定された場合、ステップS200において、位置P1滞留ジャム判定タイマ104がタイムアウトか否かが判定される。タイムアウトの場合、ステップS210に進む。そうでない場合、リターンに進み、スタートに戻る。
【0109】
ステップS210において、ジャム発生報知部112が、位置P1でのジャムの発生を報知する。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0110】
次に、図9に示すフローチャートの制御について説明する。
【0111】
まず、ステップS300において、通常用の次給紙開始タイマ108がタイムアウトか否かが判定される。タイムアウトの場合、ステップS310に進む。そうでない場合ステップS320に進む。
【0112】
ステップS300で通常用の次給紙開始タイマ108がタイムアウトしたと判定されると、制御部100はモータ70を制御し、給紙ローラ34による、給紙速度V1での給紙を開始する。また、位置P1未逹ジャム判定タイマ102が作動を開始する(カウント開始)。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0113】
一方、ステップS300で通常用の次給紙開始タイマ108がタイムアウトしていないと判定されると、ステップS320において、オーバーラン用の次給紙開始タイマ110がタイムアウトか否かが判定される。タイムアウトの場合、ステップS330に進む。そうでない場合、リターンに進み、スタートに戻る。
【0114】
ステップS330において、制御部100は、モータ70を制御し、給紙ローラ34による、給紙速度V1mでの給紙を開始する。また、位置P1滞留ジャム判定タイマ104と位置P2未逹ジャム判定タイマ106とが、作動を開始する(カウント開始)。そして、リターンに進み、スタートに戻る。
【0115】
ここからは、上述した、通常用の次給紙開始タイマ108の所定のカウント時間T4と、オーバーラン用の次給紙開始タイマ110の所定のカウント時間T8について説明する。その後、給紙ローラ34の給紙速度V1,V1mの決定方法についても説明する。
【0116】
通常用の次給紙開始タイマ108のカウント時間T4は、例えば、位置P1に位置する先行シートWpの後端が一対のレジストローラ38を通過して、それに続いてレジストローラ38が停止した後に、給紙ローラ34と分離ローラ36との間に位置する後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に到達するような時間に設定されている。これは、レジストローラ38の停止前(回転中)に、後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に突入すると、この後続シートWsの斜行を補正できないからである。斜行の補正が可能になるカウント時間T4は、例えば数式6によって算出される。
【数6】

【0117】
数式6において、右辺および左辺は、分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出してからの時間を示している(図3参照)。
【0118】
左辺は、レジストローラ38によって搬送中の先行シートWpの後端が位置P1を通過してから(分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出してから)、レジストローラ38が停止するまでの、実現可能な最小の時間である。左辺の第1項は、先行シートWpの後端が位置P1から一対のレジストローラ38の間に到達するまでの時間である。左辺の第2項の「Trs」は、レジストローラ38の搬送速度がV2からゼロになるまでの、すなわち停止に要する時間である。
【0119】
一方、右辺は、分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出してから所定のカウント時間T4待機した後、給紙ローラ34が後続シートWsの給紙を開始し、後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に到達するまでの、実現可能な最小の時間である。そのため、後続シートWsの前端が、スタート位置P0ではなく、給紙ローラ34と分離ローラ36との間に位置することを想定している。
【0120】
なお、数式6により、所定のカウント時間T4の下限値(実現可能な最小の値)が算出される。当然ながら、シート搬送装置12の生産性を考えると、所定のカウント時間T4は下限値が好ましい。ただし、下限値は給紙ローラ34および/またはレジストローラ38とシートWとの間に発生するスリップなどを原因とする搬送遅れを考慮した値でないので、搬送遅れを考慮する場合、所定のカウント時間T4は、下限値よりわずかに大きい値が好ましい。
【0121】
オーバーラン用の次給紙開始タイマ110のカウント時間T8は、例えば、位置P2に位置する先行シートWpの後端が一対のレジストローラ38を通過して、それに続いてレジストローラ38が停止した後に、位置P1をオーバーランしている後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に到達するような時間に設定されている。通常用の次給紙開始タイマ108のカウント時間T4と同様に、後続シートWsの斜行の補正を可能とするためである。斜行の補正が可能になるカウント時間T8は、例えば数式7によって算出される。
【数7】

【0122】
数式7において、右辺および左辺は、レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出してからの時間を示している(図7参照)。
【0123】
左辺は、レジストローラ38によって搬送中の先行シートWpの後端が位置P2を通過してから(レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出してから)、レジストローラ38が停止するまでの、実現可能な最小の時間である。左辺の第1項は、先行シートWpの後端が位置P2から一対のレジストローラ38の間に到達するまでの時間である。
【0124】
一方、右辺は、レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出してから所定のカウント時間T8待機した後、給紙ローラ34が後続シートWsの給紙を開始し、位置P2から上流側に距離(D2−L)離れた位置に存在する後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に到達するまでの、実現可能な最小の時間である。なお、後続シートWsの位置P1でのオーバーラン量Lは、数学的、理論的に求められるものでなく、実験的、統計的に求められる推定量または平均量である。
【0125】
なお、数式7により、所定のカウント時間T8の下限値(実現可能な最小の値)が算出される。当然ながら、シート搬送装置12の生産性を考えると、所定のカウント時間T8は下限値が好ましい。ただし、下限値は給紙ローラ34および/またはレジストローラ38とシートWとの間に発生するスリップなどを原因とする搬送遅れを考慮した値でないので、搬送遅れを考慮する場合、所定のカウント時間T8は、下限値よりわずかに大きい値が好ましい。
【0126】
次に、給紙ローラ34の通常時の給紙速度V1と、重送(オーバーラン発生時)、すなわち位置P1を部分的にオーバーランしたシートW用の給紙速度V1mの決定方法について説明する。
【0127】
この給紙速度V1,V1mは、以下の2つの条件を満たす値でなければならない。
【0128】
まず、第1の条件は、一対のレジストローラ38が停止しているときに、給紙速度V1またはV1mで搬送されているシートWの前端が、一対のレジストローラ38の間に到達することである。そのために、モータ72がレジストローラ38を駆動しているときに、給紙ローラ34によって搬送中のシートWの前端が一対のレジストローラ38の間に突入しないように、給紙ローラ34の給紙速度の上限を決定する。給紙速度V1の上限速度をV1maxとすると、上限速度V1maxは、例えば数式8によって算出される。
【数8】

【0129】
数式8において、右辺および左辺は、分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出してからの時間を示している。
【0130】
左辺は、数式6の左辺と同一である。
【0131】
一方、右辺は、分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出してからすぐに給紙ローラ34が後続シートWsの給紙を開始し、後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に到達するまでの、実現可能な最小の時間である。そのため、後続シートWsの前端が、スタート位置P0ではなく、給紙ローラ34と分離ローラ36との間に位置することを想定している。また、待機時間(所定のカウント時間T4)がゼロであるときの時間である。右辺の第2項「Tfr」は、停止している給紙ローラ34の立ち上がり時間である。
【0132】
オーバーラン発生時の給紙速度V1mの上限も同様に考えることができる。この給紙速度V1mの上限速度V1mmaxは、例えば数式9によって算出される。
【数9】

【0133】
数式9において、右辺および左辺は、レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出してからの時間を示している。
【0134】
左辺は、数式7の左辺と同一である。
【0135】
一方、右辺は、レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出してからすぐに給紙ローラ34が後続シート(すなわち、位置P1をオーバーラン量Lだけ越えた後続シート)Wsの供給を開始し、位置P2から上流側に距離(D2−L)離れた位置に存在する後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に到達するまでの、実現可能な最小の時間である。すなわち、待機時間(所定のカウント時間T8)がゼロであるときの時間である。
【0136】
なお、この数式9を見れば、オーバーラン量Lが大きいほど、給紙速度V1mmaxを、小さくしなければならないことがわかる。
【0137】
次に、第2の条件は、先行シートWpと後続シートWsの紙間距離を、シート搬送装置12の生産性を考慮した所定の紙間距離にすることである。後続シートWsの搬送が開始されるまでは、先行シートWpと後続シートWsの紙間距離は拡大する一方である。したがって、給紙ローラ34の給紙速度V1,V1mは、拡大した紙間距離が所定の紙間距離になるような速度である必要がある。そのために、紙間距離を所定の紙間距離にすることができる給紙ローラ34の給紙速度の下限を決定する。給紙速度V1の下限速度をV1minとすると、下限速度V1minは、例えば数式10によって算出される。
【数10】

【0138】
数式10において、右辺および左辺は、分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出してからの時間を示している。
【0139】
また、数式10は、レジストローラ38が後続シートWsの搬送を開始するタイミングに、先行シートWpの後端が後続シートWsの前端(すなわち一対のレジストローラ38の間)から下流側に所定の紙間距離BW離れた位置に存在することができる、下限の給紙速度V1minを算出する式である。
【0140】
数式10の右辺は、分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出してから、先行シートWpと後続シートWsとの間の紙間距離がBWになるまでの、最大の時間である。そのため、後続シートWsの前端がスタート位置P0に位置することを想定している。右辺の第2項「Trr」は、停止しているレジストローラ38の立ち上がり時間である。
【0141】
オーバーラン発生時の給紙速度V1mの下限も同様に考えることができる。給紙速度V1mの上限速度V1mminは、例えば数式11によって算出される。
【数11】

【0142】
数11の式において、右辺および左辺は、レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出したからの時間を示している。
【0143】
また、数式11は、レジストローラ38が後続シートWsの搬送を開始したときに、先行シートWpの後端が後続シートWsの前端(すなわち一対のレジストローラ38の間)から下流側に所定の紙間距離BW離れた位置に存在することができる、下限の給紙速度V1mminを算出する式である。
【0144】
数式11の右辺は、レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出してから、先行シートWpと後続シートWsとの間の紙間距離がBWになるまでの、最大の時間である。
【0145】
ここからは、レジストローラ38の通常時の給紙速度V1と、オーバーラン発生時の給紙速度V1mの具体的な決定方法を、一例を挙げて説明する。
【0146】
例えば、図4に示す関係において、レジストローラ38の搬送速度V2が200mm/s、距離D0が15mm、距離D1が10mm、距離D2が30mm、距離D3が10mmであるとする。また、レジストローラ38の必要停止時間Trsが0.02s、給紙ローラ34の立ち上がり時間Tfrが0.04s、レジストローラ38の立ち上がり時間Trrが0.04s、搬送遅れ係数nが1.1とする。さらに、オーバーラン量Lの推定値(または実測値の平均)が10mmとする。さらにまた、紙間距離BWを30mmと設定する。
【0147】
この場合、通常時の給紙速度V1の上限速度V1maxは、数式8を用いて算出すると、約278mm/s未満である必要がある。一方、オーバーラン発生時の給紙速度V1mの上限速度V1mmaxは、数式9を用いて算出すると、1000mm/s未満である必要がある。
【0148】
また、給紙速度V1の下限速度V1minは、数式10を用いて算出すると、約265mm/s以上である必要がある。一方、給紙速度V1mの下限速度V1mminは、数式11を用いて算出すると、約275mm/s以上である必要がある。
【0149】
したがって、通常時の給紙速度V1は約265〜278mm/s、オーバーラン発生時の給紙速度V1mは約275〜1000mm/sになる。
【0150】
また、オーバーラン量Lを20mmとすると、オーバーラン発生時の給紙速度V1mは約184〜667mm/sになる。
【0151】
さらに、オーバーラン量Lを30mmとすると、オーバーラン発生時の給紙速度V1mは、約92〜334mm/sになる。
【0152】
通常時の給紙速度V1は、下限速度V1minから上限速度V1maxまでの範囲において、シート搬送装置の生産性を考慮し、可能な限り最大の値に設定される。一方、オーバーラン発生時の給紙速度V1mは、下限速度V1mminから上限速度V1mmaxまでの範囲において、オーバーランが発生していることから給紙ローラ34の搬送性が低下していると判断し、可能な限り最小の値に設定される。
【0153】
例えば、通常時の給紙速度V1を275mm/sとし、オーバーラン発生時の給紙速度V1mを100mm/sと設定する(オーバーラン量Lを30mmとした場合)。
【0154】
この場合、通常用の次給紙開始タイマ108のカウント時間T4は、数式6を用いて算出すると、約38msである。
【0155】
一方、オーバーラン用の次給紙開始タイマ110のカウント時間T8は、数式7を用いて参照すると、約(−30)msである。なお、このように、カウント時間の値がマイナス値の場合、タイマのカウント開始タイミングに次給紙を開始してもよいことを示している。すなわち、この場合、図7に示すように、レジスト前センサ52が先行シートWpの後端を検出したタイミングに、位置P1をオーバーランした後続シートWsを給紙ローラ34によって搬送し始めても、レジストローラ38の停止前に後続シートWsの前端が一対のレジストローラ38の間に到達しないことを意味する。
【0156】
また、通常時の給紙速度V1が275mm/sの場合、先行シートWpと後続シートWsの紙間距離BWは、数式10を用いて算出すると、約28mmになる。
【0157】
一方、オーバーラン発生時の給紙速度V1mが100mm/sの場合(且つ、オーバーラン量Lを30mmとした場合)、先行シートWpと後続シートWsの紙間距離BWは、数式11を用いて算出すると、約28mmになる。
【0158】
すなわち、位置P1でシートWの部分的なオーバーランが発生しても、このオーバーランしたシートWを100mm/sの給紙速度で給紙ローラ34が搬送すれば、275mm/sの給紙速度で給紙ローラ34が搬送する通常時とほとんど変わらない紙間距離を実現することができる。すなわち、オーバーランが発生しても、シート搬送装置12の生産性を通常時と同様に維持することができる。
【0159】
本実施形態によれば、分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出する前にレジスト前センサ52が該先行シートWpの後端を検出することにより、後続シートWsが分離後センサ50の検出位置P1を部分的にオーバーランして停止していることを検出する。そして、オーバーランした後続シートWsを、給紙ローラ34により、通常時(分離後センサ50が先行シートWpの後端を検出したとき)の搬送速度V1に比べて低速の搬送速度V1mで搬送する。これにより、先行シートWpの後端が分離後センサ50に検出されずに該先行シートWpが下流側に搬送されてもジャムとせず、且つ、後続シートWsを、上流側に戻すことなく、また先行シートWpとの紙間距離を通常時の紙間距離からほとんど変えずに、下流側に搬送することができる。
【0160】
以上、上述の一実施形態を挙げて本発明を説明したが、本発明はこれに限定されない。
【0161】
例えば、上述の実施形態は、給紙ローラ34の下流側の分離後センサ50の検出位置P1を部分的にオーバーランして停止したシートに対するものであるが、本発明はこれに限らない。本発明は、広義には、シートの搬送経路上に連続して2つの搬送ローラが配置され、その2つの搬送ローラの間に、シートの前端と後端とを検出するセンサが2つ配置されているシート搬送装置であれば適用できる。
【0162】
また、上述の実施形態では、給紙ローラ34の給紙速度V1,V1mそれぞれは、一対のレジストローラ38が停止しているときにシートWの前端が該一対のレジストローラ38の間に到達する(第1の条件を満たす)上限速度V1max,V1mmaxと、紙間距離を所定の紙間距離にできる(第2の条件を満たす)下限速度V1min,Vmminとの間の速度に決定されている。この場合、上限速度V1max,V1mmaxが下限速度V1min,V1mminより大きい値であればよいが、逆の場合がある。
【0163】
例えば、図4に示す関係において、上述の数値例の距離D0が15mmでなく30mmであって、また距離D2が30mmでなく50mmである場合(それ以外のD1,D3,V2,n,BW,Trs,Trr,Tfrは同一)、給紙ローラ34の給紙速度V1の上限速度V1maxは、数式8を用いて算出すると250mm/sになる。一方、下限速度V1minは、数式10を用いて算出すると約297mm/sになる。すなわち、上限速度V1maxが下限速度V1minより低速になる。
【0164】
この場合、例えば、給紙ローラ34の給紙速度V1を250mm/s(上限速度V1max)に設定すると、シートWの前端はレジストローラ38が停止した後に該レジストローラ38に到達する。しかし、シートの紙間距離は拡大する。
【0165】
この対処として、例えば、レジストローラ38の搬送速度V2を、一時的に増速し、拡大した紙間距離を短縮するようにしてもよい。これにより、レジストローラ38の下流側において、拡大した紙間距離を所定の紙間距離にすることができる。
【0166】
一方、例えば、給紙ローラ34の給紙速度V1を297mm/s(下限速度V1min)に設定すると、紙間距離は拡大しないものの、レジストローラ38が停止する前にシートの前端が該レジストローラ38に到達する。
【0167】
この対処として、例えば、給紙ローラ34によって搬送されているシートWの前端がレジストローラ38に到達するまでの間に、その給紙速度V1を297mm/sから減速する、および/または給紙ローラ34を一時的に停止し、レジストローラ38が停止した後にシートWの前端が到達するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0168】
本発明によれば、本発明は、先行のシートと後続のシートとの重送が発生し、後続のシートがセンサの検出位置にオーバーランして停止し、それによって先行のシートの後端がセンサに検出されずに該先行のシートが下流側に搬送されてもジャムとせず、且つ、後続のシートを、上流側に戻すことなく、また先行のシートとの紙間距離を通常時の紙間距離からほとんど変えずに、下流側に搬送することができる。したがって、本発明は、上述したスキャナなどの画像読取装置以外にも、シートを1枚ずつ順番に搬送して該シートに画像を形成するプリンタや複写機などの画像形成装置にも適用可能である。
【符号の説明】
【0169】
34 上流側ローラ(給紙ローラ)
50 上流側センサ(分離後センサ)
52 下流側センサ(レジスト前センサ)
Wp 先行シート
Ws 後続シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを1枚ずつ順番に搬送するシート搬送装置であって、
シートを搬送速度V1で搬送する上流側搬送ローラと、
上流側搬送ローラから下流側に距離D1離れた位置P1でシートの前端と後端とを検出する上流側センサと、
上流側センサから下流側に距離D2離れた位置P2でシートの前端と後端とを検出する下流側センサと、
下流側センサから下流側に距離D3離れた位置に配置されてシートを搬送速度V1に比べて低速の搬送速度V2で搬送する下流側搬送ローラと、
上流側および下流側センサの検出結果に基づいて上流側および下流側搬送ローラを制御する搬送ローラ制御手段とを有し、
搬送ローラ制御手段が、
上流側センサが先行のシートの後端を検出した場合は、
この検出タイミングから第1の時間経過後に、上流側搬送ローラによる搬送速度V1での後続のシートの搬送を開始し、
上流側センサが先行のシートの後端を検出する前に下流側センサが該先行のシートの後端を検出した場合は、
後続のシートが位置P1を部分的にオーバーランして停止していると判定し、このオーバーランの判定タイミングから第2の時間経過後に、上流側搬送ローラによる搬送速度V1に比べて低速の搬送速度V1mでの後続のシートの搬送を開始することを特徴とするシート搬送装置。
【請求項2】
第1の時間が、距離D1〜D3と搬送速度V1,V2に基づいて算出され、
第2の時間が、距離D3と搬送速度V1m,V2に基づいて算出されていることを特徴とする請求項1に記載のシート搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−148589(P2011−148589A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11039(P2010−11039)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】