説明

シート材料及びそれを用いたクリーニングシート

【課題】耐熱性及び強度が高く、均一性に優れ、且つ摩擦による基材繊維の脱落が少ないアラミド樹脂コーティングシート状物を提供するものである。
【解決手段】メタフェニレンイソフタルアミド繊維を含む耐熱性繊維シートの少なくとも片面にアラミド樹脂コーティング層を有するシート状物であって、下記要件を満足することを特徴とするアラミド樹脂コーティングシート状物。
a)メタフェニレンイソフタルアミド繊維の含有量が耐熱性繊維シート全重量に対して10〜99%であること。
b)ガーレー透気度が1〜1000秒/100ccであること。
c)アラミド樹脂コーティング層が、アミド系溶媒に溶解したアラミド樹脂溶液を耐熱性繊維シートにコーティングして形成されたものであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱性及び強度が高く、均一性に優れたアラミド樹脂コーティングシート状物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、乾式複写機やレーザビームプリンタは、定着ロールによってトナーを用紙に加熱融着させて印刷する。この定着ロールにトナーが付着した場合、印刷物が汚れたり、用紙が定着ロールに巻き付く等の問題が生じる。これらの問題を解決する方法として定着ロール表面に離型オイルを塗布し、トナーと用紙に剥離性を高めた後、定着ロール表面をクリーニングする方法がある。このオイル塗布およびクリーニングを行う方法として、オイル塗布とクリーニングの機能を一体化したオイル塗布クリーニングロールが使用されている。
【0003】
オイル塗布クリーニングロールは、定着ロール表面にトナーと用紙の剥離性を高めるための離型オイルを塗布するとともに、定着ロール表面を傷つけずにクリーニングするために、定着ロールと接触しながら回転するよう配置されたものであり、その構造は、塗布する離型オイル(通常、シリコーンオイル)を蓄えておく中空円筒体と、その外周面に繊維集積材よりなるオイル保持層と、更にその外側に必要に応じて同じく繊維集積材よりなるオイル塗布量制御層を設けた構造よりなり、該中空円筒体の筒壁に穿設された複数の小孔を介して外側のオイル保持層へ毛細管現象によりオイルを浸透させるようになっている。
【0004】
このようなオイル塗布クリーニングロールのオイル保持層に用いられる繊維集積材としては、電子写真装置に適したクリーニングシートの多くの検討がなされており、例えばアラミド繊維と未延伸ポリエステル繊維とを配合した乾式繊維ウェブを熱カレンダーロールによって加熱・加圧して製造された不織布が開示されている(例えば特許文献1参照)。
【0005】
しかしながら、かかる製法による繊維ウェブではシートの均一性が不十分であり、そこで、より均一な繊維ウェブを得る製法として、アラミド繊維とポリエステル繊維とを湿式抄造法によりウェブ化し、カレンダー処理を施した不織布が開示されている(例えば特許文献2参照)。しかしながら、電子写真装置内の加熱ロールに用いた場合、ポリエステル繊維が溶融フィルム化し、トナー除去性能が低下するという問題点を有していた。
【0006】
かかる問題を解決するため、パラ系アラミド繊維等の耐熱性繊維と融点が200℃以上の熱可塑性樹脂からなる湿式抄造シートが開示されている(例えば特許文献3参照)。かかる構成であれば、トナー除去性能の温度依存性が小さくなるものの、しかしながら近年電子写真装置の高速化が急激に進むにつれ、シートとローラーとの摩擦が高くなる傾向であるが、湿式抄造ゆえに比較的繊維長が短いものが用いられるため、摩擦によってシートから脱落して発生する繊維屑や熱可塑性接着繊維の溶融物等がローラーに付着し、これによる印刷不良が発生するという問題点を有するものであった。
【0007】
このようなローラーへの異物付着に対し、耐熱性熱可塑性樹脂であるポリフェニレンサルファイド繊維からなる長繊維不織布により改善する方法が開示されている(例えば特許文献4参照)。しかしながら、かかる発明の長繊維不織布はスパンボンド法で作成されるため湿式抄造法による繊維ウェブと比べ均一性が劣るといった問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−3999号公報
【特許文献2】特開平6−128893号公報
【特許文献3】特開2005−266470号公報
【特許文献4】特開2008−31600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記のようなウェブの均一性とローラーへの異物付着といった問題を解決すべくなされたものであり、耐熱性及び強度が高く、均一性に優れ、且つ摩擦による基材繊維の脱落が少ないクリーニングロール用シート状物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、従来技術における上記課題を解決するため鋭意研究した結果、耐熱性繊維であるアラミド繊維を主成分とした湿式抄造法により作成した均一な繊維ウェブを基材とし、その表面に耐熱性樹脂であるアラミド樹脂溶液をコーティングし、コーティングシート状物のガーレイ透気度を特定範囲以下とすることにより、オイル保持性に優れ、均一性かつ摩擦による繊維脱落を抑制したクリーニングロール用シート状物が得られることを見出した。
【0011】
さらに、コーティングする際のアラミド樹脂の溶剤にアミド系溶剤を使用することにより、基材繊維ウエッブのメタフェニレンイソフタルアミド繊維が該アミド系溶剤に溶解または可塑化または膨潤し、コーティング層と基材層の接着性が向上し、摩擦による繊維脱落がさらに抑制されたものとなることを見出した。
また、上記のようなアラミド樹脂コーティング層を設けることで、シート状物の機械的強度が飛躍的に向上することも見出した。
【0012】
かくして本発明によれば、
耐熱性有機高分子繊維からなる基材シートの少なくとも片面にアラミド樹脂コーティング層を有し、ガーレー透気度が1〜1000秒/100ccであることを特徴とするアラミド樹脂コーティングシート状物、
特にアラミド樹脂コーティング層が多孔質層であることが好ましく、又耐熱性有機高分子繊維からなる基材シートが、長さ加重平均繊維長として0.1〜100mmであるアラミド繊維及び/又は有機繊維パルプを含む湿式抄造紙であるアラミド樹脂コーティングシート状物、
が提供される。
【発明の効果】
【0013】
耐熱性繊維基材シート表面に多孔質アラミド樹脂がコーティングされているため、摩擦による繊維の脱落が少なく、又透気度が特定値以下のコーティング層(好ましくは表面が多孔)であるためクリーニングロール用として使用した場合、孔を通して複写機等の定着ロールに付着したトナーの払拭性つまりクリーニング性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のアラミド樹脂コーティングシート状物について説明する。
本発明に使用する耐熱性繊維としては、融点が300℃以上の有機高分子、例えばポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズアミド、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタレート、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンイソフタルアミド等もしくはこれらの共重合体、又はこれらに第3成分を共重合した共重合体コポリパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレン・テレフタラミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)ホモポリマー、および実質的に85%以上のPBO成分を含みポリベンザゾール類とのランダム、シーケンシャルあるいはブロック共重合ポリマー、ポリアリレートなどの耐熱性繊維を指し、ポリメタフェニレンイソフタルアミドを少なくとも含む耐熱性繊維であることが必要である。
【0015】
本発明のアラミド樹脂コーティングシート状物に使用する基材シートは、上記耐熱性繊維を公知加工法によってシート化したものであるが、シートの均一性の点から湿式抄造法によりシート化されたものが好ましい。
【0016】
耐熱性繊維を湿式抄造法によりシート化するためには、長繊維状の耐熱性有機高分子繊維を公知のカット法にて短繊維状に切断したものが利用でき、長さ加重平均繊維長として0.1〜100mmが好ましく、0.5〜10mmがより好ましく、1〜6mmがさらに好ましい。長さ加重平均繊維長が0.1mmに満たない場合は湿式抄造法によりシート化した際の機械的強度の点で取り扱い性が難しく、100mmを超える場合は、抄造時の繊維の水分散性が悪化し、均一なシートが得られない。
【0017】
また上記の基材シートには、湿式抄造法によりシート化された耐熱性繊維シートの繊維間の絡み合いを増加させてシートの機械的強度を向上させる目的で、有機繊維パルプを併用することが好ましい。
【0018】
耐熱性繊維中のポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維の含有量としては10〜99重量%含まれることが必要で、30〜95重量%含まれることがより好ましく、50〜90重量%含まれることがさらに好ましい。
【0019】
ポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維が10重量%に満たない場合は、アラミドコーティング層形成に用いるアラミド樹脂溶液に用いるアミド系溶剤との親和性が小さく、アラミド多孔膜との接着性が不十分となり、クリーニングシートとして使用する際に摩擦による劣化が発生する。一方、99重量%を超える場合は、併用する有機繊維パルプの配合比が相対的に小さくなり十分なシート強度が得られない。
【0020】
本発明に好ましく使用される「有機繊維パルプ」とは、有機高分子繊維をリファイナーやビーター、ミル、高圧ホモジナイザー、摩砕装置等の装置により高度にフィブリル化させたもの、または特表2007−514066号公報、特表2007−515564号公報、特公昭35−11851号公報、特公昭37−5732号公報等に記載された方法により、有機高分子重合体溶液を該高分子重合体溶液の沈澱剤と剪断力の存在する系において混合することにより製造される微小のフィブリルを有する薄葉状、鱗片状の小片、又は、ランダムにフィブリル化した微小短繊維を指すが、有機繊維パルプは上述した耐熱性繊維からなることが好ましい。
【0021】
本発明における「コーティングするアラミド樹脂溶液」とは、例えばポリパラフェニレンテレフタラミド、ポリパラアミノベンズアミド、ポリパラアミノベンズヒドラジドテレフタレート、ポリテレフタル酸ヒドラジド、ポリメタフェニレンイソフタラミド等もしくはこれらの共重合体、又はこれらに第3成分を共重合した共重合体コポリパラフェニレン・3、4’オキシジフェニレン・テレフタラミドなどのアラミドポリマーがこれらの良溶媒であるN−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)などのアミド系溶剤に溶解したものを指す。
【0022】
基材繊維シート材料表面に上記アラミド樹脂溶液層を形成し、このアラミド樹脂溶液層を凝固させることでアラミド樹脂コーティング層を形成することが出来る。
基材繊維シート材料表面へのアラミド樹脂溶液層を形成させる方法としては特に限定しないが、例えば上記基材繊維シート材料の表面にドクターブレード法などの公知の製膜法を用いて塗工、もしくはアラミド樹脂溶液を一旦離型材上に塗工した後、塗工面を基材繊維シート材料に転写する方法などが例示されるが、特にこれらに限定しない。基材繊維シート表面にアラミド樹脂コーティング層を形成することで、シート状物全体の強度が増し、また、表面の摩擦耐久性も向上させることが出来る。
【0023】
また、形成されたアラミド樹脂コーティング層の多孔性(表面及び内部多孔性)は該アラミド樹脂コーティングシート状物をクリーニングシートとして使用する際、離型オイルの定着ロールへの供給性や拭き取り性に影響するため重要である。
アラミド樹脂の多孔質密度は0.1〜0.9g/m、より好ましくは0.2〜0.8g/m、更に好ましくは0.3〜0.6g/mである。0.1g/m未満であれば耐摩耗性が悪く、0.9g/mを超える場合は透気度が低下し、拭き取り性が低下する。
【0024】
アラミド樹脂コーティング層の多孔性はJIS P8117で示されるガーレー透気度を指標とすることが出来る。ガーレー透気度が1秒/100cc未満である時はアラミド多孔膜の開孔部の孔径が大き過ぎるため、クリーニングシートとしての平滑性が損なわれ、拭き取り性が悪化し、一方、1000秒/100cc以上である場合は、開口部の孔径が小さすぎ、もしくは開孔度が不十分となり、離型オイルの供給が阻害されるため好ましくない。
【0025】
アラミド樹脂コーティング層を多孔化する方法としていかなる方法を用いても良いが、ポリマーのミクロ相分離法が適用できる。アラミドポリマーに対し貧溶媒である溶媒と良溶媒であるアミド系溶剤などの溶媒から主としてなる混合液(凝固液)中で凝固させ、その後水洗、乾燥する方法が例示される。アラミドポリマーの貧溶媒としては良溶媒であるアミド系溶剤と相溶化するものであれば使用することが可能であり、例えば、水やアルコール類、特に重合体を含むプロピレングリコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ポリエチレングリコールモノエチルエーテル、メタノール、エタノール、グリセリン等の多価アルコールなどが例示される。
【0026】
ミクロ層分離法はアミド系溶剤への溶解性が比較的大きいポリメタフェニレンイソフタラミドなどの多孔化に有効であるが、アミド系溶剤への溶解性が比較的小さいアラミドポリマーであるポリパラフェニレンテレフタラミドなどの多孔化の場合には、アラミドポリマーにアラミド溶剤可溶性ポリマーをブレンドしたものを凝固してミクロ相分離構造を形成し、その後、可溶性ポリマーをアラミドを溶解しない溶剤で抽出する方法で多孔化を調整することができる。
【0027】
アラミド溶剤可溶性ポリマーとしてはポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリビニルピロリドン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレンなどを使用することが出来る。このとき、溶液中のアラミドポリマーと可溶性ポリマーの比率を変化させることで、アラミド多孔膜表面の開孔部の孔径を調節することが可能である。
【0028】
本発明のアラミド樹脂コーティングシート状物の機械的強度として、100N/5cm以上であることが好ましく、かかる強度を有するシートであれば、クリーニングシートとして使用した際の定着ロールとの摩擦力に十分に耐え、安定して使用することが出来る。
【0029】
本発明のアラミド樹脂コーティングシート状物の目付、厚さは特に特に限定するものではないが、目付は20〜60g/m、厚さは0.02〜0.20mmであるのが好ましく、より好ましくは0.02〜0.15mmである。0.02mm以下だと、熱圧着を過多にかける、もしくは目付を下げることになり、上述の所望の引張強度を得ることが困難となる。また、0.20mm以下であれば、例えばクリーニングシート等をロール形状に一定量巻きつけて用いる場合、巻長さを大きくすることが可能となり、交換周期を延長することができる。
【0030】
本発明のコーティング用アラミド樹脂は融点が260℃以上であることが好ましい。融点が260℃以上であるシート状物であれば、コピー機等、高温で高摩擦を受ける過酷な使用環境においても、繊維屑や溶融劣化物等異物の発生が極めて少なく、機械の故障防止、印刷不良低減、部品交換周期の延長等、極めて有用な不織布となるからである。尚、本発明における「融点」とはJIS K7121に規定されている示差走査熱量測定(DSC曲線)から得られる温度をいう。
【0031】
本発明のアラミド樹脂コーティングシート状物は260℃で熱処理した際のガーレー透気度の上昇率(熱処理により多孔がつぶれるため多孔度の低下率)は熱処理前に比べて、40%以下であることが必要である。上述のようにガーレー透気度はクリーニングシートとして使用した際に離型オイルの定着ロールへの供給性や拭き取り性に影響するが、かかる性能を有するシート状物であれば、使用時の温度環境下においても、シート状物全体、特にアラミド多孔膜中の多孔性を維持し、安定して使用することが出来る。
【0032】
以上のように本発明によれば、耐熱性及び強度が高く、均一性に優れたアラミド樹脂コーティングシート状物を提供でき、その耐熱性シート状物を複写機やプリンタのクリーニングロールに使用すると、高温下で長期間使用しても物性変化が少なく、かつ基材繊維シート表面に多孔質アラミド樹脂がコーティングされているため、摩擦による基材繊維の脱落が少ないクリーニングシートとして有効である。
【実施例】
【0033】
以下に本発明を実施例に基づき具体的に説明する。なお本発明はこれらに限定されるものではない。
【0034】
(物性評価)
下記項目の物性評価は次の方法で行った。
1、短繊維の長さ加重平均繊維長
市販のパルプ繊維長測定装置(メッツォオートメーション製、Pulp Expert Fiber Analyzer)を用いて次の手順に従って行った。
1)繊維を絶乾重量で1.5g秤量し、水1.5LとともにJIS標準離解機にて3000rpmで1分間離解する。
2)Pulp Expert Fiber Analyzerの4本のサンプルチューブ離解スラリーを50ccずつに投入し、測定を開始。
尚、Pulp Expert Fiber Analyzerには顕微鏡とCCDカメラが併設されており、繊維スラリーを攪拌しながら繊維画像を撮影し、1水準につき約400枚の画像を元に画像解析により長さ加重平均繊維長などを算出する。
【0035】
2、アラミド樹脂コーティングシート状物の引張強度
シート状物の引張強度はJIS P8113に準拠して行った。
【0036】
3、アラミド樹脂コーティングシート状物の目付
シート状物の目付けはJIS P8124に準拠して測定した。
【0037】
4、アラミドコーティングシート状物の厚み
アラミド樹脂コーティングシート状物の厚みはJIS P8118に準拠して測定した。
【0038】
5、アラミド樹脂コーティングシート状物のガーレー透気度
260℃で10分間熱処理したときの熱処理前後のガーレー透気度の上昇率に関しては、下記の手順で行った。
1)熱処理前のガーレー透気度をJIS P8117に準拠して測定する。
2)1)で測定した試料を公知の熱風乾燥機にて260℃×10分間熱処理を行う。
3)2)で熱処理した試料のガーレー透気度をJIS P8117に準拠して測定する。
4)熱処理前後のガーレー透気度の上昇率は下記式により算出した。
[(熱処理後のガーレー透気度)−(熱処理前のガーレー透気度)]/(熱処理前のガーレー透気度)*100
【0039】
6、複写機クリーニングシート拭き取り性
カラー複写機(リコー製、imagio Neo 352)を用意し、このカラー複写機のクリーニング装置を取り除いた状態で、全面黒色画像の複写を連続して20枚行った。次いで、実施例及び比較例のアラミド樹脂コーティングシート状物の一端からシャフトに巻回されたクリーニングシート供給体を備えたクリーニング装置(発泡シリコーンゴムからなる円柱状の棒状体と定着ロールとの挟み幅:3mm)を前記のカラー複写機に設置した。その後、全面白色画像の複写を連続して3枚行い、3枚目の複写紙表面におけるトナーによる汚れを目視観察した。
観察結果
○ :トナーによる汚れが全くなく、良好
△ :トナーによる汚れ少し見られる。
× :トナーによる汚れ多く見られる。
【0040】
7、アラミドコーティング層の剥離性:
アラミドコーティング層の剥離性は、上記拭き取り性評価の後、クリーニング装置を取り出し、アラミドコーティングシート状物からのアラミド樹脂膜の剥離有無を目視観察した。
観察結果
○ :アラミド膜の剥離は全くなく、良好
△ :部分的にアラミド膜の剥離が見られる
× :全面的にアラミド膜の浮き状の剥離が発生
【0041】
[実施例1]
繊度0.9dtex、平均繊維径約10μmのポリメタフェニレンイソフタルアミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製;商品名「コーネックス」)を公知のギロチンカッターにてカット長6mmに切断し、ポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維を得た。この短繊維の長さ加重平均繊維長は約5.8mmであった。
該ポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維90重量部とポリパラフェニレンテレフタルアミドパルプ(帝人アラミド株式会社製;商品名「トワロンパルプ1094」)10重量部とを水1.5Lとともに公知の離解機にて離解し、25×25cm角のTAPPI式手漉きマシ−ンを用いて目付約20g/mの湿式抄造繊維ウェブを作成し、その後、温度=250℃、線圧=300kgf/cmでカレンダー処理を施し、厚み約70μmの基材シート材料を得た。
次に、ポリメタフェニレンイソフタルアミドポリマー粒子をジメチルアセトアミド:トリプロピレングリコール=85:15(重量比)である混合溶媒に9重量%となるように溶解し、コーティング用アラミドポリマー溶液を調整した。このアラミドポリマー溶液を該基材シート材料の片面に塗工し、この塗工物をジメチルアセトアミド:水=55:45(重量比)の組成である30℃の凝固浴に60秒間浸漬し、50℃の水浴中で10分間水洗し、次いで乾燥することでアラミド樹脂コーティングシート状物を得た。実施例1のシート状物の物性を表1に記載した。
【0042】
[実施例2]
基材シート材料は実施例1と同様に作成した。
次に、NMP100重量部に対し、3,4‘−ジアミノフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンを65:35(重量比)で混合したもの3.4重量部を溶解し、この溶液にテレフタル酸二塩化物を4.6重量部加えて窒素気流下で4時間重合した。これに水酸化カルシウム粉末1.7重量部を加えて中和し、アラミドポリマー溶液を得た。得られたアラミドポリマー溶液に、ポリエーテルスルホン(ソルベイアドバンストポリマーズ株式会社製;商品名「レーデルA−301」)の15%の濃度のNMP溶液を加え、アラミドとポリエーテルスルホンの比が 40:60(重量比)のブレンド溶液をコーティング用アラミドポリマー溶液とした。
このアラミドポリマー溶液を該基材シート材料の片面に塗工し、公知の熱風乾燥機にて130℃で15分間乾燥した後、冷水にて冷却し、さらに沸騰水で1時間煮沸した。その後150℃で乾燥後、ジクロロメタンに浸漬して、ポリエーテルスルホンのみを抽出し、次いで乾燥することでアラミド樹脂コーティングシート状物を得た。実施例2のシート状物の物性を表1に記載した。
【0043】
[実施例3]
基材シート材料は実施例1と同様に作成した。
NMP100重量部に塩化カルシウム2.5重量部を溶解させ、さらにパラフェニレンジアミン2.4重量部を溶解させた。次いでこの溶液を10℃に冷却し、テレフタル酸二塩化物4.6重量部を加え、攪拌してパラフェニレンジアミンとテレフタル酸二塩化物を重合させ、その後該重合により生成した塩化水素を中和するため、NMP2.5重量部に酸化カルシウム1.7重量部を添加した懸濁液を加え更に攪拌し、アラミドポリマー溶液が得られた。得られたアラミドポリマー溶液に、ポリエーテルスルホンの15%の濃度のNMP溶液を加え、アラミドとポリエーテルスルホンの比が 40:60(重量比)のブレンド溶液をコーティング用アラミドポリマー溶液とした。
このアラミドポリマー溶液の塗工以降の工程は実施例2と同様に行い、アラミド樹脂コーティングシート状物を得た。実施例3のアラミド樹脂コーティングシート状物の物性を表1に記載した。
【0044】
[実施例4]
実施例1において基材シート材料の構成として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維50重量部とポリパラフェニレンテレフタルアミドパルプ50重量部としたこと以外は同様の方法でアラミド樹脂コーティングシート状物を得た。実施例4のアラミド樹脂コーティングシート状物の物性を表1に記載した。
【0045】
[比較例1]
実施例1においてアラミド樹脂コーティングを行わない基材シート材料を比較例1とした。比較例1のアラミド樹脂コーティングシート状物の物性を表1に記載した。
【0046】
[比較例2]
実施例1において基材シート材料の構成として、ポリメタフェニレンイソフタルアミド短繊維5重量部とポリパラフェニレンテレフタルアミドパルプ95重量部としたこと以外は同様の方法でアラミド樹脂コーティングシート状物を得た。比較例2のアラミド樹脂コーティングシート状物の物性を表1に記載した。
【0047】
[比較例3]
実施例2において、ポリエーテルスルホンを加えないアラミドポリマー溶液のみをコーティング用ポリマーとした以外は同様の方法でアラミド樹脂コーティングシート状物を得た。比較例3のアラミドコーティングシート状物の物性は表1に記載した。
【0048】
実施例1〜4、比較例3は比較例1に比べ、高い引張強力を示した。これは基材シート材料表面にアラミド樹脂コーティング層が強固に形成されているため、基材シートに加えアラミド樹脂コーティング層の強力も影響したためと思われる。
また、実施例1〜4、比較例2は熱処理後も多孔性が維持されており透気度が低いものであった。比較例3はコーティング層が多孔化していないため透気度値が高いものである。
【0049】
実施例1〜4及び比較例2は比較例1、3に比べ、トナーの拭き取り性が向上していた。この理由は、比較例1が湿式抄造紙基材シート表面にアラミド樹脂コーティング層を有していないため、表面の平滑性が悪く、定着ロールとの接触面積が小さくなったことが考えられる。また、比較例3はアラミド樹脂コーティング層を有してはいるが、これが多孔化していないため、離型オイルが定着ロール表面へ供給不十分であったためと考えられる。
【0050】
一方、アラミド樹脂コーティング層の剥離性に関しては、比較例2の基材シート中のメタフェニレンイソフタルアミド短繊維の量が少ないため、アラミ樹脂コーティング層のNMP(アミド系)溶剤により溶解する部分が少なくと基材シートとの接着性が不十分であったためと考えられる。
【0051】
【表1】

【0052】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明のアラミド樹脂コーティングシート状物を複写機やプリンタのクリーニングロールに使用すると、高温下で長期間使用しても物性変化が少なく、かつ基材繊維シート表面に多孔質アラミド樹脂がコーティングされているため、異物剥離性が良好で摩擦による基材繊維の脱落が少ないクリーニングロールとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタフェニレンイソフタルアミド繊維を含む耐熱性繊維シートの少なくとも片面にアラミド樹脂コーティング層を有するシート状物であって、下記要件を満足することを特徴とするアラミド樹脂コーティングシート状物。
a)メタフェニレンイソフタルアミド繊維の含有量が耐熱性繊維シート全重量に対して10〜99%であること。
b)ガーレー透気度が1〜1000秒/100ccであること。
c)アラミド樹脂コーティング層が、アミド系溶媒に溶解したアラミド樹脂溶液を耐熱性繊維シートにコーティングして形成されたものであること。
【請求項2】
該アラミド樹脂コーティング層が多孔質層である請求項1に記載のアラミド樹脂コーティングシート状物。
【請求項3】
メタフェニレンイソフタルアミド繊維の長さ加重平均繊維長が0.1〜100mmである請求項1〜2いずれかに記載のアラミド樹脂コーティングシート状物。
【請求項4】
耐熱性繊維シートがメタフェニレンイソフタルアミド繊維と有機繊維パルプを含む湿式抄造紙である請求項1〜3いずれかに記載のアラミド樹脂コーティングシート状物。
【請求項5】
基材シートの引張強力が100N/5cm以上である請求項1〜4いずれかに記載のアラミド樹脂コーティングシート状物。
【請求項6】
アラミド樹脂の融点が260℃以上である請求項1〜5いずれかに記載のアラミド樹脂コーティングシート状物。
【請求項7】
260℃で10分間熱処理後のガーレー透気度の上昇率が処理前に対して40%以下である請求項1〜6いずれかに記載のアラミド樹脂コーティングシート状物。
【請求項8】
請求項1〜7いずれかに記載のアラミド樹脂コーティングシート状物を含むコピー機用クリーニングロール。

【公開番号】特開2010−275658(P2010−275658A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128985(P2009−128985)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】