説明

シート材洗浄装置

【課題】 洗浄力が高く、かつ、洗浄後のシート材にシート厚みやシート強度のムラを生じないシート材洗浄装置の提供。
【解決手段】 シート材洗浄装置は、洗浄槽1内に円筒状のバスケット4を回転自在に設け、バスケット4内にドラム体2をバスケット4よりも高速で同方向に回転するように設け、バスケット4の周壁外面に巻き付けられながら搬送されるシート材をバスケット4の周壁の通水孔から出し入れされる洗浄液によって洗浄する装置であって、回転駆動源23とバスケット4とを、回転駆動源23からバスケット4への回転力伝達を可能としバスケット4からの回転力伝達を止めるセルフロック機構36を介して連結した構成にされている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布帛、紙、フィルムなどのシート材を洗浄するシート材洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば精錬、漂白、染色および捺染等の処理をした布帛や、コーティング処理をしたタルクコート紙等の洗浄に用いられるシート材洗浄装置を図6および図7に示す。図示のシート材洗浄装置S1は、例えば下記の特許文献1に記載されている。このシート材洗浄装置S1では、洗浄液(水など)が満たされた洗浄槽1内で、縦断面花びら形に形成されたドラム体2aが水平軸心回りに回転駆動されるようになっている。このドラム体2aは、凸部2Aと凹部2Bが周方向に繰り返し形成された凹凸周壁13を有している。そして、ドラム体2aは、多数の通水孔40,40,40,・・・が形成された多孔周壁を有する円筒状のケーシング3に囲繞されている。更に、ケーシング3は、多数の通水孔39,39,39,・・・が形成された多孔周壁4Aを有する円筒状のバスケット4に囲繞されている。ケーシング3は洗浄槽1の両側の側壁1a,1bに固定されており、バスケット4はドラム体2aと同軸心で洗浄槽1に対して回転自在に枢支されている。
【0003】
そして、洗浄槽1の側壁1a,1bの外側にはブラケット8a,8bを介して軸受9a,9bが取着されており、ドラム体2aはその回転軸10の両端を軸受9a,9bに枢支され、かつ、モータ(不図示)により回転駆動されるようになっている。また、側壁1a,1bから内方に向けて円筒体11a,11bが突設されており、円筒体11a,11bの内周面にケーシング3の両端が挿入され固着されている。
【0004】
バスケット4の側壁1a側には全周にわたる補強リング12Aが固設されている。この補強リング12Aにはリング状の摺動部材18がボルト止めされている。摺動部材18はその内周端部が円筒体11aの外周凹溝21に嵌め込まれた状態で、円筒体11aに対し周方向に摺動自在となっている。一方、バスケット4の側壁1b側にも補強リング12bが固設されている。この補強リング12bにボルト止めされたリング状の摺動部材18は円筒体11bの外周面に周方向摺動自在に支持されている。そして、バスケット4の多孔周壁4Aの、通水孔39,39,39,・・・が形成されていない両端近傍部分に、洗浄液中のバスケット4に浮力を与えて摺動部材18,18にかかる荷重を軽減する環状中空体15a,15bが全周にわたって設けられている。符号の14a,14bは側壁1a,1bと回転軸10との間に設けられた水漏れ防止用のメカニカルシールである。
【0005】
このシート材洗浄装置S1において、ドラム体2aの凹凸周壁13の凸部2Aが接近しつつある部分では洗浄液がケーシング3の通水孔40およびバスケット4の通水孔39から外部へ吐出され、凹凸周壁13の凹部2Bが接近しつつある部分では通水孔39,40から内部へ吸入される。すなわち、ドラム体2aの高速回転に伴って、洗浄液は前記のような吐出と吸入とが極めて短い周期で反復される状態で流動する(図7参照)。尚、ドラム体2aの凸部2Aの最外端からバスケット4の内周面までの隙間寸法はG2となっている。
【0006】
そこで、シート材洗浄装置S1を図4のように構成して、シート材Aを各ガイドロール7およびバスケット4に掛け渡し、搬送方向下流側に設けられた1対の絞りロール16,16により搬送させると、シート材Aはこれに接する各ガイドロール7を回転させながら矢印方向に搬送され、前記のようにバスケット4から出し入れされる洗浄液Tの流動によって効果的に洗浄される。図4中、符号の5は洗浄槽1に常時水を供給する給水管、6はオーバーフローした水を排出する排水口である。
制御部22はシート材Aの搬送速度が所定となるようにモータ17を駆動して絞りロール16の回転速度を制御する。バスケット4はその外周面に接するシート材Aによって連れ回りしている。
【0007】
【特許文献1】特開平8−120558号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、ケーシング3を省略しバスケット4の内方にドラム体2aを近づけて配置すると、凹凸周壁13を有するドラム体2aの高速回転により洗浄液は前記した吐出と吸入が発生するが、洗浄液の吐出と吸入の方向はドラム体2aの軸心から半径方向に放射状に発生するものではない。その方向は、図5のように、ドラム体2aの軸心からの半径方向と回転に伴う円周方向とのベクトル和の方向である。また、ドラム体2aの回転が高速になる程、バスケット4はドラム体2aの回転の影響を受け随伴トルクは強くなる。これらにより、バスケット4外周におけるシート材Aの搬送速度が絞りロール16における搬送速度よりも速くなるため、シート材Aはバスケット4よりも搬送方向下流側の部位で弛み、バスケット4よりも上流側の部位で緊張する。これによって、洗浄後のシート材Aに、シート厚みやシート強度の搬送方向のムラが生じる。そこで、高速回転するドラム体2aからの随伴トルクの影響を防ぐため、ドラム体2aとバスケット4との間に、ケーシング3を配備し洗浄槽1に固定していたのである。因みに、ケーシング3の働きは、吐出の時は半径方向外向きに流れる洗浄液のみを通過させ、吸入の時は半径方向軸心向きに流れる洗浄液のみを通過させるものであり、それら以外はシャットアウトさせていた。このことは、ケーシング3はドラム体2aで発生させた振動流を弱める邪魔板の役目をすることにもなる。そのため、ケーシング3の存在自体がせっかくの洗浄力を損なわせることとなる。
【0009】
一方で、本発明者による試験研究の結果、シート材Aに対する洗浄力はドラム体2aの凸部2Aとバスケット4の内周面との隙間寸法に反比例することが判っている。しかしながら、上記した事情によりドラム体2aとバスケット4の間にケーシング3を配備した分、このシート材洗浄装置S1では、ドラム体2aの凸部2Aとバスケット4の内周面との隙間寸法G2が大きくならざるを得ず、これにより洗浄力の向上が見込めないという問題があった。そこで、洗浄力を向上させるためには、バスケット4とケーシング3との隙間をできるだけ狭くしなければならないことから、この隙間に毛羽などのゴミが溜まりやすくなり、ゴミの除去掃除に手間がかかる。あるいはバスケット4またはケーシング3の製作に高い寸法精度が要求されて製作に手間がかかるという問題もある。
【0010】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、洗浄力が高く、かつ、洗浄後のシート材にシート厚みやシート強度のムラを生じないシート材洗浄装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するために、本発明は、洗浄液が収容された洗浄槽内に、周壁に多数の通水孔が形成された円筒状のバスケットを回転自在に設け、バスケット内に、凹部と凸部が周方向に繰り返し形成された凹凸周壁を有するドラム体をバスケットよりも高速で同方向に回転するように設け、回転駆動源の駆動により回転するバスケットの周壁外面に巻き付けられながら搬送されるシート材を、ドラム体の回転によりバスケット周壁の通水孔から出し入れされる洗浄液によって洗浄するシート材洗浄装置において、回転駆動源とバスケットとを、回転駆動源からバスケットへの回転力伝達を可能としバスケットからの回転力伝達を止めるセルフロック機構を介して連結した構成にしてある。
【0012】
また、前記構成におけるセルフロック機構が、回転駆動源に連結されたウォームと、バスケットに連結されて前記ウォームと噛合するウォームホイールとから成るものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るシート材洗浄装置によれば、従来例のケーシングを省略し、ドラム体をバスケットの近くに配備したので、ドラム体の凸部とバスケットの内周面間の隙間寸法が小さくなる。従って、洗浄力を向上させることができる。また、従来例のケーシングを使用しないので、構成が簡素になりゴミが詰る問題も解消される。そして、回転駆動源とバスケットはセルフロック機構を介して連結されており、回転駆動源からバスケットへの回転力は伝達され、バスケットからの回転力は伝達されない。従って、凹凸周壁を有するドラム体が高速回転してバスケットに同方向のトルクがかかっても、該トルクによるバスケットの回転はセルフロック機構により阻止される。一方、回転駆動源からの回転駆動力はセルフロック機構を経てバスケットに伝達され、バスケットの回転速度が制御される。これにより、バスケットの外周面、シート材洗浄装置のバスケットよりも上流側部位、または下流側部位のいずこでも、シート材の搬送速度が均一になるので、洗浄後のシート厚およびシート強度にムラのない一様なシート材を得ることができる。
【0014】
また、セルフロック機構としてウォームとウォームホイールを採用した場合、ウォームとウォームホイールは比較的簡素な構成であり入手が容易であるため、安価で確実に作動するセルフロック機構を備えたシート材洗浄装置を提供することができる。また、かかるウォームとウォームホイールを用いた場合は、バスケットにかかるトルクを検出するトルクセンサを用いなくて済む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の最良の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下に述べる実施形態は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。ここに、図1は本発明の一実施形態に係るシート材洗浄装置の要部断面図、図2は前記シート材洗浄装置の要部を示す正断面図、図3は前記シート材洗浄装置の要部を示す部分側面図である。但し、図6および図7に示した従来のシート材洗浄装置S1と同一の構成要素には、同一の符号を付すとともにその詳細な説明を省略することがある。
各図において、この実施形態に係るシート材洗浄装置Sでは、9組の凸部2Aと凹部2Bが周方向に交互に繰り返し形成された凹凸周壁13を有するドラム体2がバスケット4の内方間近に配備され、従来装置S1におけるケーシング3(図6,7参照)が省略されている。この場合、ドラム体2は、凹凸周壁13の凸部2Aの最外位置からバスケット4の内周面までの隙間寸法がG1(図5参照)となる大きさに形成されている。かかる隙間寸法G1は従来装置S1における隙間寸法G2よりも大幅に小さくなっている。
【0016】
そして、洗浄槽1の側壁1aの上部に水封シール付きの軸受部24が設けられ、ドラム体2の回転軸10と平行に側壁1aを貫通して配備された軸26が軸受部24のベアリング25,25に回転自在に軸支されている。側壁1a内における軸26の一端側にはバスケット4の補強リング兼用歯車12aと噛合する歯車27が固着され、軸26の他端側には歯車28が固着されている。洗浄槽1の側壁1aの近傍に立設された支柱29Aの上部には、基台29が横設されている。この基台29上には電動モータなどに代表される回転駆動源23とギヤボックス30が設置されている。ギヤボックス30には前記の軸26と平行する軸31が回転自在に軸支されている。軸31はギヤボックス30内の部位にウォームホイール33が固着されている。軸31の洗浄槽1側端部には、前記の歯車28と噛合する歯車32が固設されている。ギヤボックス30内のウォームホイール33下方位置には、軸31と直交する軸34が回転自在に軸支されている。この軸34にウォームホイール33と噛合するウォーム35が固設されている。軸34はカップリング37を介して回転駆動源23の駆動軸38と連結されている。このシート材洗浄装置Sにおいて、上記以外の構成は図6,7に示した従来装置S1と同じ構成である。
【0017】
上記のように構成された本実施形態のシート材洗浄装置Sは、図4に示すように、各ガイドロール7およびバスケット4に掛け渡されたシート材Aをバスケット4および絞りロール16の回転駆動力により矢印方向に搬送し、最高600rpmで回転するドラム体2の凹凸周壁13から生じた30〜90ヘルツの洗浄液Tの振動流をバスケット4の通水孔39から出し入れしてシート材Aを効果的に洗浄する。
その際、制御部22はシート材Aの搬送速度が目標搬送速度となるようにモータ17を駆動して絞りロール16の回転速度を制御する。同時に、制御部22はバスケット4におけるシート材Aの周速が絞りロール16における目標搬送速度と等しくなるように回転駆動源23の出力を制御する。回転駆動源23から出力された回転駆動力はウォームホイール33およびウォーム35を経てバスケット4に伝達される。一方、高速回転するドラム体2から生じてバスケット4を回転させようとするトルクはセルフロック機構36のウォームホイール33で止められる。従って、シート材Aの搬送速度は、バスケット4の外周面、シート材洗浄装置Sのバスケット4より上流側部位、または下流側部位のどこであっても均一になる(すなわち均一な力で引っ張られる)。これにより、洗浄されたシート材Aのシート厚およびシート強度は搬送方向についてムラがなく一様となる。
【0018】
すなわち、補強リング兼用歯車12a、歯車27、軸26、歯車28、歯車32、および軸31を介してバスケット4に連結された「ウォームホイール33」と、駆動軸38、カップリング37、および軸34を介して回転駆動源23に連結された「ウォーム35」との組合せ構成が、本実施形態に係るセルフロック機構36である。
【0019】
前記のように、このシート材洗浄装置Sでは、セルフロック機構36として比較的簡素な構造で入手が容易なウォーム35およびウォームホイール33を使用したので、安価で確実に作動するセルフロック機構付きの装置が提供される。そして、このシート材洗浄装置Sでは、従来装置S1のようなケーシング3を用いることなくドラム体2の外方に直ちにバスケット4を配備したので、ドラム体2の凸部2Aとバスケット4の内周面間の隙間G1を小さくできることから、従来装置S1と比べて洗浄力を格段に向上させることができる。また、ケーシング3を持たない分、構成が簡素で済みゴミ詰りの問題もなくなる。
【0020】
尚、上記の実施形態では、バスケット4を洗浄槽1に回転自在に支持させる支持部材としてリング状の摺動部材18を用いたが、これに替えて、例えばベアリングローラタイプの支持部材を複数用いたシート材洗浄装置であっても本発明を適用可能である。
また、長尺ネット体を2枚以上重ねたものをバスケットおよびガイドロールにかけ渡し、重ねたネット体の間に、シート材としての玄関マットなどを挟み搬送させて洗浄することも可能である。
【0021】
そして、上記ではセルフロック機構としてウォームとウォームホイールの組合せ構成を採用したが、それ以外に、本発明のセルフロック機構として、バスケットにかかるトルクを検出するトルクセンサを配備し、回転駆動源とバスケットとを電磁ブレーキを介して連結した構成を採用することも可能である。かかる構成では、トルクセンサにより検出されたバスケットにかかるトルクが所定値を超えたときに、電磁ブレーキが作動してバスケットの回転を規制する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るシート材洗浄装置の正断面図である。
【図2】前記シート材洗浄装置の要部を示す正断面図である。
【図3】前記シート材洗浄装置の要部を示す部分側面図である。
【図4】前記シート材洗浄装置の動作説明図である。
【図5】前記シート材洗浄装置の動作を示す部分拡大断面図である。
【図6】従来例に係るシート材洗浄装置の正断面図である。
【図7】前記従来例のシート材洗浄装置の動作を示す部分拡大断面図である。
【符号の説明】
【0023】
S シート材洗浄装置
A シート材
1 洗浄槽
2 ドラム体
2A 凸部
2B 凹部
4 バスケット
4A 多孔周壁(周壁)
13 凹凸周壁
23 回転駆動源
33 ウォームホイール
35 ウォーム
36 ウォームギヤ
39 通水孔
G1 隙間寸法
T 洗浄液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
洗浄液が収容された洗浄槽内に、周壁に多数の通水孔が形成された円筒状のバスケットを回転自在に設け、バスケット内に、凹部と凸部が周方向に繰り返し形成された凹凸周壁を有するドラム体をバスケットよりも高速で同方向に回転するように設け、回転駆動源の駆動により回転するバスケットの周壁外面に巻き付けられながら搬送されるシート材を、ドラム体の回転によりバスケット周壁の通水孔から出し入れされる洗浄液によって洗浄するシート材洗浄装置において、回転駆動源とバスケットとを、回転駆動源からバスケットへの回転力伝達を可能としバスケットからの回転力伝達を止めるセルフロック機構を介して連結したことを特徴とするシート材洗浄装置。
【請求項2】
セルフロック機構が、回転駆動源に連結されたウォームと、バスケットに連結されて前記ウォームと噛合するウォームホイールとから成る請求項1に記載のシート材洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−320811(P2006−320811A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−145128(P2005−145128)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【出願人】(591225419)株式会社小松原鉄工所 (2)
【Fターム(参考)】