説明

シールド掘削機及びこれを用いたトンネル築造方法

【課題】 カッタ周囲の地山の緩みを少なくして掘削する。
【解決手段】 シールド掘削機1には、シールド機本体3に設けられているカッタリング7に適宜数の伸縮ジャッキ10が固定され、すべての伸縮ジャッキ10の先端がカッタ4に回転自在に取り付けられてカッタ傾斜機構5が構成されている。カッタ4は、回転軸に設けられたセンターシャフト11との取付部を支点Oとして、伸縮ジャッキ10によりシールド掘削機1の進行方向に対して傾斜角度θをもって傾斜する。カッタ4の傾斜時に、カッタ4とスキンプレート2との間の開放部15を覆うスライドフード14を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下トンネルの掘削におけるシールド掘削機及びこれを用いたトンネル築造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シールド工法によるシールド掘削機の発進では、発進箇所の土被りが小さいと、カッタ周囲の地盤の崩落や地表面沈下などを引き起こす可能性が高い。このため、通常は安全性を重視して、必要な土被りを確保した立坑から発進するのが一般的である。なお、上記に示す必要な土被りとは、地表面からシールド掘削機上端までの高さで、通常シールド掘削機外径の0.5〜1.0倍である。
さらに、鉄道や道路のトンネルの場合には、地上からトンネルに移行するまでのアプローチトンネルが必要となり、このアプローチトンネルとなる地上から立坑までの掘削を通常は開削工法によって施工している。
立坑による発進方法は、立坑の構築後に、シールド掘削機で切削する発進箇所に地山改良を施して、地山崩落や地下水の流出を抑える。そして、立坑の坑壁のコンクリートを人力により切削しておき、シールド掘削機を所定の発進位置に段取りして発進準備をする。
このような立坑の発進工程を短縮するために、例えば特許文献1では、シールド掘削機によって立坑の坑壁を切削しながら発進できる方法が提案されている。これによると、シールド掘削機で切削する範囲の坑壁のコンクリートは、立坑構築時に予め鉄筋の代わりにシールド掘削機のカッタで切削可能な繊維樹脂製の部材を使用する。こうして形成されたコンクリート壁体により、シールド掘削機は、立坑から直接坑壁を切削しながら発進できるため、発進工程を簡略化でき工期を短縮できる。
【特許文献1】特開平1−203590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、特許文献1の立坑を切削する発進方法を含め、立坑をシールド掘削機の発進基地とする方法では、立坑を構築するための作業工程と工事費が必要となる欠点がある。さらに、アプローチトンネルを必要とする場合には、開削工事の工程が増えるために、工期が長期化し、工事費が増加するという問題がある。
それにもかかわらず、上述したように、現状のシールド掘削機によって地上や低土被り区間から発進して掘削すると、切羽の崩落や地表面沈下といった問題を引き起こす可能性が高いため、工期やコストが増加しても従来のように立坑から発進する方法をとらざるを得なかった。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、カッタ周囲の地山の緩みを少なくして掘削するシールド掘削機及びこれを用いたトンネル築造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係るシールド掘削機は、掘削面にカッタを備えて地下トンネルを掘削するシールド掘削機であって、シールド機本体に設けられているカッタ傾斜機構によって、カッタはシールド掘削機の進行方向に直交する垂直面に対して所定の傾斜角度に傾斜可能とされていることを特徴としている。
本発明では、カッタは、シールド掘削機の進行方向に直交する垂直面に対して傾斜角度をもって傾斜することができる。例えば、カッタをシールド掘削機の進行方向に直交する垂直面の上部を前進側に、下部を後退側にした前傾姿勢の傾斜位置として掘削した場合に、掘削地山がカッタの下方に位置することから、カッタ周囲の地山の緩みを小さくでき、地表面沈下を抑えることができる。これにより、低土被り区間のトンネルを安全に掘削することができる。
【0006】
また、本発明に係るシールド掘削機では、シールド機本体に設けられている回転可能なカッタリングに適宜数の伸縮ジャッキが固定され、伸縮ジャッキの先端がカッタに回転自在に取り付けられてカッタ傾斜機構が構成され、カッタは、伸縮ジャッキの伸縮によって、シールド掘削機の進行方向に直交する垂直面に対して上部又は下部が進行方向前方に突出するよう所定の傾斜角度に傾斜可能とされ、カッタが傾斜状態で回転する場合に、傾斜角度を維持できるように各々の伸縮ジャッキが連動して伸縮することが好ましい。
本発明では、カッタ傾斜機構によってカッタを傾斜させて掘削するときに、すべての伸縮ジャッキが連動して伸縮するため、カッタを一定の傾斜角度に維持して回転することができる。
また、カッタは、回転モーメントの大きな周方向に近い位置で伸縮ジャッキによって支持されているため、カッタが中心で支持される場合と比べ回転モーメントに対して強度の高い構造とすることができる。
【0007】
また、本発明に係るシールド掘削機では、カッタの回転軸にはセンターシャフトが設けられ、センターシャフトとカッタとの取付部、又はセンターシャフトとシールド機本体との取付部を支点として、カッタが傾斜角度で傾斜することが好ましい。
本発明では、カッタの回転軸にセンターシャフトを備えたことにより、カッタは傾斜角度にかかわらず、ぶれることなく安定した回転によって掘削することができる。
【0008】
また、本発明に係るシールド掘削機では、カッタが傾斜状態にある場合において、シールド機本体の外殻とカッタとの間に形成される開放部を覆う張出部材が設けられていることが好ましい。
本発明では、前記開放部からシールド掘削機のカッタ内側に掘削土砂が流入することを防止できるため、カッタ周囲の地山の緩みを抑えて安全に掘削することができる。
【0009】
また、本発明に係るトンネル築造方法は、上述するシールド掘削機を用いて地下トンネルを掘削するトンネル築造方法であって、カッタを、シールド掘削機の進行方向に対して上部が突出する傾斜角度をもって傾斜させて掘削するようにしたことを特徴としている。
本発明では、カッタを傾斜させて掘削でき、例えばシールド掘削機の進行方向に対して前傾姿勢として掘削する場合には、掘削地山がカッタの下方に位置することから、カッタ周囲の地山の緩みを小さくし、地表面沈下を抑えた掘削ができる。これにより、低土被り区間のトンネルを安全に掘削することができる。
また、シールド掘削機を地上から発進させることが可能となり、立坑の構築が不要となることから、工事工程を短縮でき、工事費の低減を図ることができる。さらに、鉄道や道路のように地上からトンネル区間までのアプローチトンネルが必要な場合に地上から発進できる。そのため、従来のような地上から立坑までの開削工事を施工する必要がなくなり、工事費の削減を図ることができる。
さらにまた、地上から発進する場合には、立坑から発進する場合と比較して、地上のスペースに余裕があることが多いため、予めシールド掘削機と後続設備を連結して発進することができ、初期掘進時の盛替え作業を簡略化できる。
【0010】
また、本発明に係るトンネル築造方法は、深度が所定の深さになったトンネル区間では、カッタをシールド掘削機の進行方向に直交する垂直位置にして掘削するようにしたことが好ましい。
本発明では、従来と同様にカッタを垂直位置として掘削することもできる。このため、トンネル深度などのトンネル条件に適合させてカッタの傾斜位置を変えることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシールド掘削機及びこれを用いたトンネル築造方法によれば、カッタをシールド掘削機の進行方向に直交する垂直面に対して上部が進行方向前方に突出するように所定の傾斜角度に傾斜させることにより、掘削地山がカッタの下方に位置することから、カッタ周囲の地山の緩みを抑えることができる。これにより、地表面沈下を抑えた掘削ができ、低土被り区間のトンネルを、掘削による崩落などを最小限にした安全性の高い施工を実現できる。例えばシールド掘削機1の上方の土被りでシールド掘削機の直径の1.0倍以下の深度の浅いトンネルでも安全に掘削することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態によるシールド掘削機及びこれを用いたトンネル築造方法について、図1乃至図5に基づいて説明する。
図1は実施の形態によるカッタ傾斜機構を備えたシールド掘削機を示す図、図2(a)、(b)は地上発進における発進準備を示す図、図3(a)、(b)は開削区間から低土被り区間の掘削を示す図、図4は所定の深度を確保したトンネルの掘削を示す図、図5(a)〜(e)は図3に示すトンネル築造後の覆工体の断面図である。
ここで、以下の説明では、トンネル進行方向で切羽向きを「前方」、その反対向きを「後方」とする。
【0013】
図1に示すように、本実施の形態におけるシールド掘削機1は、外殻を形成する円筒状のスキンプレート2(外殻)を有するシールド機本体3と、円形の面盤からなるカッタ4を備えたカッタ傾斜機構5とから構成されている。
スキンプレート2の内側には、切羽の水や土砂がシールド機本体3の内側へ流入しないように切羽側と機内側を隔離するため、トンネル進行方向に直交した略円盤状を形成する隔壁6が設けられている。この隔壁6は、外周側にリング状に形成された外周隔壁6aと、外周隔壁6aの内周側に円盤状に形成された内周隔壁6bとから構成されている。そして、この外周隔壁6aの内周面6cと内周隔壁6bの外周面6dとの間には、環状に形成されたカッタリング7が回転可能に設けられている。
このカッタリング7は、内周面に歯7aが形成されていて、シールド機本体3に固定されたカッタ駆動モータ8の歯8aと噛合することによってトンネル周方向に回転する。
また、隔壁6の内側面6eには、シールド掘削機1の後方に組み立てられる覆工体に反力を取って推進するためのシールドジャッキ9が適宜数配置されている。
【0014】
次に、図1に示すように、カッタ傾斜機構5は、カッタリング7の前方側面7bの周方向に所定間隔で複数固定されている伸縮ジャッキ10と、これら各々の伸縮ジャッキ10の先端に自在継手10aによって取り付けられたカッタ4と、カッタ4の回転中心と隔壁6の中心との間に設けられたセンターシャフト11とから構成されている。
【0015】
カッタ4は、前面4aにカッタビット(図示省略)が設けられた円盤形状を形成し、この中心に設けられているセンターシャフト11を回転軸としてトンネル周方向に旋回する。そして、シールド掘削機1と同芯でその半径方向の略中間に位置するカッタリング7に、伸縮ジャッキ10が設けられていることから、カッタ4はいわゆる中間支持方式によって支持されていることになる。
また、カッタ4の外周面4bには、カッタ4の径方向に伸縮するコピーカッタ12が周方向に適宜数設けられている。
【0016】
次に、図1に示すように、センターシャフト11は、一端11aがボール継手13によってカッタ4の回転中心に取り付けられ、その他端側11bが隔壁6の中心に回転可能に取り付けられている。
これにより、カッタ4は、伸縮ジャッキ10によって、ボール継手13の中心を支点Oとして、シールド掘削機1の進行方向に直交する垂直面に対して上部を進行方向前方に突出させるように、所定の傾斜角度θをもって傾斜することができる。
【0017】
ここで、カッタ4がシールド掘削機1の進行方向に直交する位置を垂直位置Xとする。そして、上述したように、カッタ4が支点Oを軸にしてシールド掘削機1の進行方向に対して所定の傾斜角度θをもって傾斜する位置を傾斜位置Yとして、以下説明する。
【0018】
次に、図1及び図2(b)に示すように、スキンプレート2の切羽側の内周には、スキンプレート2の内周径とほぼ同径の周面をなす半円筒形状で側面視で先端を傾斜角度θをもって斜めに切除して形成したスライドフード14(張出部材)が設けられ、トンネル進行方向にスライド可能に取り付けられている。
また、図1及び図2(b)に示すように、カッタ4が傾斜位置Yとなったときに、カッタ4とスキンプレート2との間には開放部15が形成される。そして、カッタ4が傾斜角度θで固定された傾斜位置Yとなるとき、スライドフード14が前方に突出してカッタ4の上部とスキンプレート2との間の開放部15を覆うようにしている。
【0019】
次に、上記シールド掘削機1のカッタ傾斜機構5の作用について、図1を参照して説明する。
図1に示すように、カッタ4を傾斜位置Yに傾斜させるときは、カッタリング7に固定されている各々の伸縮ジャッキ10をカッタ4が傾斜角度θとなるように伸縮させる。例えば、カッタ4の支点Oより上部側に配置される伸縮ジャッキ10を伸ばし、下部側に配置される伸縮ジャッキ10を縮めることにより、カッタ4はシールド掘削機1の進行方向に対して斜角度θをもたせた傾斜位置Yとなる。
【0020】
続いて、カッタ4は、その傾斜角度θにかかわらずカッタリング7の旋回によってトンネル周方向に回転する。
傾斜位置Yでカッタ4を回転させる場合には、上述したカッタリング7による旋回と同時に、カッタ4が所定の傾斜角度θを維持できるように全ての伸縮ジャッキ10の伸縮を制御して連動させる。
一方、垂直位置Xでカッタ4を回転させる場合には、すべての伸縮ジャッキ10が同じ伸張量となるため、カッタ4の回転と同時に伸縮ジャッキ10を伸縮する必要はない。
また、カッタ4の回転については、全周回転させずに、カッタ4を支点Oを通る垂線に対して左右周方向に所定角度で往復動させて揺動させることでも掘削できる。
【0021】
上述したカッタ4を傾斜位置Yとする掘削は、掘削による地山の緩みが大きいトンネル区間に適用することがよく、掘削方向やトンネルの勾配に適合させてカッタ4の傾斜角度θを設定すればよい。そして、周辺地山に緩みの影響を小さくして掘削する場合には、カッタ4を揺動させて掘削することもできる。
また、土被りがあり掘削による周辺地山への影響が少ないトンネル区間では、通常のシールド掘削機と同様に、カッタ4をシールド掘削機1の進行方向に直交する垂直位置Xに保持して掘削すればよい。
このように、本シールド掘削機1では、カッタ4の傾斜角度θをトンネルの掘削条件に適応させて、傾斜位置Yや垂直位置Xに変化させて掘削することができる。
【0022】
なお、図2(b)に示すように、カッタ4の傾斜位置Yの時に、カッタ4の下方部はスキンプレート2の内側に入るため、スキンプレート2がカッタ4より先行して地山に押し込まれて掘削される。
【0023】
また、コピーカッタ12は、カッタ径方向に張り出して、トンネルの曲線部を掘削する場合などに、シールド掘削機1の外径より大きく掘削する際に使用されるのが一般的である。
本シールド掘削機1では、カッタ4が傾斜位置Yにある場合に、シールド掘削機1の外径をなすスキンプレート2とカッタ4の外周面4bとの間にクリアランスMが形成される(図1参照)。このクリアランスMは、カッタ4の前面4aにあるカッタビット(図示省略)で掘削できない領域であるため、コピーカッタ12を用いて掘削する。
【0024】
次に、カッタ傾斜機構5を備えたシールド掘削機1を用いて地上から発進する方法について図2乃至図4に基づいて説明する。
はじめに、図2(a)及び(b)に示すように、発進準備の工程について説明する。
先ず、シールド掘削機1の発進箇所に、シールド掘削機1の推進反力を受ける反力受16を地上に設置する。そして、シールド掘削機1の据付箇所を、シールド掘削機1の略下半分が地中に埋まる程度の深さまで地盤を下げて掘削しておき、その場所に、シールド掘削機1をトンネル掘進方向と同方向をなす斜め下向きに向けて架台(図示省略)上に設置する。
なお、このシールド掘削機1の発進箇所の地盤下げ掘削は、実施しなくてもよい。
【0025】
続いて、図2(b)に示すように、カッタ4に所定の傾斜角度θをもたせて傾斜位置Yとし、スライドフード14をカッタ4の外周面4bの端部まで進退機構(図示省略)によって突出させて、カッタ4とスキンプレート2との間に形成される開放部15を覆う。
なお、シールド掘削機1の動力設備や掘進に必要な付帯設備などを搭載した後続設備17は、地上に設置するスペースがある場合には、発進の準備段階からシールド掘削機1の後方に連結して配置しておけばよく、スペースに余裕が無い場合には、シールド掘削機の前進とともに順次連結すればよい(図3(a)参照)。
【0026】
次に、カッタ4を傾斜位置Yにして掘削する工程は、図3(a)に示すように発進からシールド掘削機1の全体が地中に埋まるまでの開削区間と、図3(b)に示すようにトンネル深度の浅い低土被り区間とを掘削する工程である。ここで、低土被り区間とは、例えば地表からシールド掘削機1の上端までの深さで、シールド掘削機1の外径の0.5〜1.0倍程度である。
発進準備が完了したシールド掘削機1は、反力受16に推進反力を取って掘進し、シールド掘進機1と反力受16との間に本設又は仮設のセグメントなどの覆工体18を形成しながらトンネルの深度を増大させる方向に掘進する。
シールド掘削機1のカッタ4は回転又は揺動により掘削できるが、図3(a)及び(b)に示す開削区間や低土被り区間を掘削する場合は、カッタ4の周辺地山に与える影響を少なくするため、カッタ4を回転させずに揺動により掘削する。
このように、カッタ4を傾斜位置Yとする掘削では、掘削地山がカッタ4の前面4aの下側となるため、カッタ4の垂直位置Xにある場合と比較して、カッタ4の上方の地山がカッタ4及びスライドフード14で支えられ崩れにくくなる。
また、上述したカッタ4を傾斜位置Yとして掘削するトンネル区間では、土被りの大小だけでなく、土質や地下水位などの現場の施工条件に合わせて計画することがよい。
【0027】
続いて、図4に示すように、シールド掘削機1が所定のトンネル深度に達して低土被り区間を掘削し終えた後に、カッタ4を垂直位置Xにして掘削する工程では、カッタ4を傾斜位置Yから垂直位置Xに戻し、同時に切羽側に突出していたスライドフード14をスキンプレート2内に戻して掘削する。
【0028】
次に、本実施の形態によるシールド掘削機1を用いて地上から発進して築造されたトンネルの覆工体18について、図5に基づいて説明する。
図5(a)は図3(a)に示す発進区間トンネルのA−A線断面図、図5(b)は図5(a)の仮設覆工体を撤去した図、図5(c)は図3(b)に示す開削区間トンネルのB−B線断面図、図5(d)は図5(c)の仮設覆工体を撤去した図、図5(e)は図3(b)に示す低土被り区間トンネルのC−C線断面図である。
図5(a)〜(e)に示すように、地上から発進した場合では、トンネル区間によって覆工体18の構成が異なる。この覆工体18は、本設として残す本設覆工体18aと、トンネル掘削後に撤去させる仮設覆工体18bとから構成されている。
図5(a)及び(b)に示す発進区間では、トンネル掘削後に、地下となる本設覆工体18aを残し、地上部となる仮設覆工体18bを撤去する。
また、図5(c)及び(d)に示す開削区間では、地上の一部となる仮設覆工体18bを撤去する。そして、撤去後に残った本設覆工体18aに補強が必要な場合は、図5(b)に示すように残った円弧状の覆工体18aの天井部分に梁19を取り付けて構造を強化する。ここで、梁19の位置については、トンネル内空を確保するなどのトンネル条件を検討して設置する。
さらに、図5(e)に示すように、地下に埋まったトンネルの覆工体18は、従来のシールド工法と同様、撤去されずに残して本設覆工体18aとして構築される。
なお、本実施の形態による覆工体18の築造方法について図5に示しているが、これらの方法に限定されることはない。
【0029】
上述のように本実施の形態によるシールド掘削機及びこれを用いたトンネル築造方法では、シールド掘削機1のカッタ4を傾斜位置Yとすることで、カッタ4の周囲地山の緩みを抑えることができ安全に施工できるため、低土被りのトンネルを掘削することができる(図1参照)。
これにより、図2乃至図4に示すように、シールド掘削機1は地上から発進することが可能となり、その結果、立坑の構築が不要となることから、全体工期を短縮でき、工事費の低減を図ることができる。
さらに、鉄道や道路トンネルのように地上からトンネル区間までのアプローチトンネルが必要となる場合に、本実施の形態によると地上から発進できるため、従来のような地上から立坑までの開削工事を施工する必要がなくなり、工事費の削減を図ることができる。
また、地上から発進する場合には、立坑から発進するときと比較してスペースに余裕がある場合が多く、予めシールド掘削機1と後続設備17とを連結して発進できるため、このような初期掘進時の盛替え作業を簡略化できる。
【0030】
次に、本実施の形態によるシールド掘削機におけるカッタ傾斜機構の変形例について図6に基づいて説明する。
図6(a)及び(b)は、実施の形態の変形例によるカッタ傾斜機構を備えたシールド掘削機を示す図である。
本変形例では、上述した実施の形態によるシールド掘削機1のカッタ傾斜機構5と同様の構造、作用をなす部品については同様の記号を使用し説明は省略する。
図6(a)に示すように、シールド掘削機1のカッタリング20は、隔壁6の内周面6cに環状にして形成されたリング部20aと、隔壁6の前方側面6fで円板状をなす円形部20bとから形成されている。
【0031】
そして、図6(a)に示すように、センターシャフト11は、一端11aがカッタ4の回転中心に固定され、他端側11bがカッタリング20の円形部20bの中心にボール継手21によってトンネル周方向に回転可能に取り付けられている。
また、ボール継手21は、実施の形態と同様にカッタ4がボール継手21を支点Oとして傾斜角度θをもって傾斜位置Yに傾斜できるようにカッタリング20に取り付けられている。
さらに、伸縮ジャッキ10は、ベース側がカッタリング20の前方側面20cに回転可能となるように自在継手10bによって取り付けられ、伸縮ジャッキ10の先端はカッタ4に固定されている。
【0032】
また、図6(a)及び(b)に示すように、スキンプレート2の切羽側の内周には、スキンプレート2の内周径と同径の周面をなすスライドフード22が設けられている。このスライドフード22は、内外に二重に形成され、外側に円筒形状に形成された円筒部22aと、内側に側面視で先端を傾斜角度θをもって斜めに切除して形成されている傾斜部22bとから構成され、夫々トンネル進行方向にスライドする。
なお、図6(a)に示すように、カッタ4が垂直位置Xにあるとき、カッタ4とスキンプレート2との間に全周に亘って形成される開放部15はスライドフード円筒部22a、によって覆われている。
また、図6(b)に示すように、カッタ4が傾斜位置Yとなる場合に、スライドフード円筒部22aは傾斜したカッタ4の下端部4cと干渉しないように後方側に引き込まれる。そして、このときカッタ4の上方に形成される空間は、垂直位置Xと比べて開放部15aが広くなるため、スライドフード傾斜部22bが進行方向前方に突出して、この開放部15aを覆う。
【0033】
このような構成から、上述した変形例では、実施の形態と同様にカッタ4を垂直位置Xや傾斜位置Yにして掘削することができる。
また、本変形例におけるシールド掘削機1を用いたトンネルの築造方法及び効果については、実施の形態と同様となることから説明を省略する。
【0034】
以上、本発明によるシールド掘削機及びこれを用いたトンネル築造方法の実施の形態及び変形例について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上記の実施の形態では、シールド掘削機1の発進時に、カッタ4に傾斜角度θをもたせて傾斜位置Yとして掘削するトンネル築造方法としているが、発進時に限定されることはなく、到達時や低土被り区間などのトンネル掘削に適用してもよい。要は、土被りが小さい場合など、カッタ周囲の地山の緩みの影響によって地表面の沈下などが想定されるトンネル区間に、カッタ傾斜機構5を備えたシールド掘削機1を用いることができればよいのである。
さらにまた、本実施の形態においてスライドフード14、22bは、トンネル進行方向にスライドする構成としているが、これに限定されることはない。例えば、カッタ4を傾斜位置Yとして掘削する区間が終了し、カッタ4を垂直位置Xに戻す際に、スライドフード14、22bを取り外してもよい。
また、本実施の形態及び変形例ではカッタ4を面盤型としているが、スポーク型などのカッタ4であっても構わない。そして、シールド掘削機1のカッタ支持方式を中間支持方式としているが、外周支持方式であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施の形態によるカッタ傾斜機構を備えたシールド掘削機を示す図である。
【図2】(a)、(b)は地上発進における発進準備を示す図である。
【図3】(a)、(b)は開削区間から低土被り区間の掘削を示す図である。
【図4】所定の深度を確保したトンネルの掘削を示す図である。
【図5】(a)〜(e)は図3に示すトンネル築造後の覆工体の断面図である。
【図6】(a)、(b)は実施の形態の変形例によるカッタ傾斜機構を備えたシールド掘削機を示す図である。
【符号の説明】
【0036】
1 シールド掘削機
2 スキンプレート(外殻)
3 シールド機本体
4 カッタ
5 カッタ傾斜機構
6 隔壁
7 カッタリング
10 伸縮ジャッキ
11 センターシャフト
12 コピーカッタ
13 ボール継手
14 スライドフード(張出部材)
16 反力壁
X 垂直位置
Y 傾斜位置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
掘削面にカッタを備えて地下トンネルを掘削するシールド掘削機であって、
シールド機本体に設けられているカッタ傾斜機構によって、前記カッタは前記シールド掘削機の進行方向に直交する垂直面に対して所定の傾斜角度に傾斜可能とされていることを特徴とするシールド掘削機。
【請求項2】
前記シールド機本体に設けられている回転可能なカッタリングに適宜数の伸縮ジャッキが固定され、
前記伸縮ジャッキの先端が前記カッタに回転自在に取り付けられてカッタ傾斜機構が構成され、
前記カッタは、前記伸縮ジャッキの伸縮によって、前記シールド掘削機の進行方向に直交する垂直面に対して上部又は下部が進行方向前方に突出するよう所定の傾斜角度に傾斜可能とされ、
前記カッタが傾斜状態で回転する場合に、前記傾斜角度を維持できるように各々の前記伸縮ジャッキが連動して伸縮することを特徴とする請求項1に記載のシールド掘削機。
【請求項3】
前記カッタの回転軸にはセンターシャフトが設けられ、
前記センターシャフトと前記カッタとの取付部、又は前記センターシャフトと前記シールド機本体との取付部を支点として、前記カッタが前記傾斜角度で傾斜することを特徴とする請求項1又は2に記載のシールド掘削機。
【請求項4】
前記カッタが前記傾斜状態にある場合において、前記シールド機本体の外殻と前記カッタとの間に形成される開放部を覆う張出部材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のシールド掘削機。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されるシールド掘削機を用いて地下トンネルを掘削するトンネル築造方法であって、
前記カッタを前記シールド掘削機の進行方向に対して上部が突出する傾斜角度をもって傾斜させて掘削するようにしたことを特徴とするトンネル築造方法。
【請求項6】
深度が所定の深さになったトンネル区間では、前記カッタを前記シールド掘削機の進行方向に直交する垂直位置にして掘削するようにしたことを特徴とする請求項5に記載のトンネル築造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−207140(P2006−207140A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16963(P2005−16963)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】