説明

シール付車輪支持用軸受ユニット

【課題】ラジアルリップが内輪の外周面と摺接する構造の軸受ユニットにおいても、ラジアルリップの反転やシールリップの締め代寸法のばらつきを抑制し、製造が容易で良好なシール性能を発揮するシール付車輪支持用軸受ユニットを提供する。
【解決手段】ラジアルリップ21aは、芯金15に支持された基端部から内輪4の外周面側に傾斜して軸受外方側に一旦延びた後、屈曲部22を経てその先端部が軸受内方側に傾斜する断面「く」の字形の屈曲形状に形成され、回転円筒部23aの軸受内方側の端部の外周面縁に傾斜部25を形成し、この傾斜部25と、ラジアルリップ21aの軸受外方側の側面とを全周に亙り近接対向させている。ラジアルリップ21aの屈曲部22は、径方向において傾斜部25よりも外径側(シールリング側)に位置している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両(自動車)の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持する為の車輪支持用軸受ユニットにおいて、軸受ユニットの開口端部を塞ぐ組み合わせシールリングを備えたシール付車輪支持用軸受ユニットの改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、軸受外部に存在する泥水、塵埃等の異物の侵入を防止すると共に、軸受内部に封入された潤滑剤が外部に漏洩する事を防止することを目的とした、シールリングとスリンガから成る組み合わせシールリングを備え、自動車の車輪を懸架装置に対して回転自在に支持するシール付車輪支持用軸受ユニットが使用されている。
図4〜6は、従来構造のシール付車輪支持用軸受ユニットの1例を示している。車輪(不図示)と共に回転するハブ1は、その軸方向外端部に車輪固定用の回転フランジ2を設け、軸方向中間部外周面には内輪軌道3aを形成している。又、前記ハブ1の軸方向内端部外周面の小径部には内輪軌道3bを有する内輪4を外嵌固定しており、この内輪4が、前記ハブ1と共に一体となり回転する回転軌道輪を構成している。
尚、軸方向に関して外とは、車体に装着した場合に幅方向外側になる側を言い、各図の左側。各図の右側で、車体に装着した場合に幅方向中央側になる側を内と言う。
【0003】
又、静止軌道輪である外輪5の外周面には、この外輪5を図示しない懸架装置に支持する為の取付部6を、同じく内周面には複列の外輪軌道7a、7bを、それぞれ形成している。これら各外輪軌道7a、7bと前記各内輪軌道3a、3bとの間には、それぞれ複数個ずつの転動体8、8を設けて、前記取付部6により懸架装置に支持された外輪5の内側に、前記ハブ1及び前記内輪4を回転自在に支持している。
【0004】
上述の様な車輪支持用軸受ユニットのうちで、前記各転動体8、8を設置した内部空間9内にはグリースを封入し、これら各転動体8、8の転動面と、前記各外輪軌道7a、7b及び各内輪軌道3a、3bとの転がり接触部を潤滑する様にしている。又、前記外輪5の軸方向外端部内周面と、前記ハブ1の軸方向中間部外周面との間にはシールリング10を設けて、内部空間9の軸方向外端開口部を塞いでいる。一方、外輪5の軸方向内端部内周面と、前記内輪4の軸方向内端部外周面との間には、本発明の対象となる組み合わせシールリング11を設けて、内部空間9の軸方向内端開口部を塞いでいる。
【0005】
前記組み合わせシールリング11は、図5(特許文献1)に示す様に、静止軌道輪である前記外輪5の軸方向内端部に内嵌固定されるシールリング12と、回転軌道輪である前記内輪4の軸方向内端部に外嵌固定されるスリンガ13とを備えている。
【0006】
シールリング12は、芯金15と、シール材16とから成る。このうちの芯金15は、軟鋼板等の金属板により、断面略L字形で全体を円環状に成形して成り、前記外輪5の軸方向内端部内周面に締り嵌めにより内嵌固定される固定円筒部17と、この固定円筒部17の軸方向外端縁から、前記内輪4の外周面に向け、径方向内方に折れ曲がった固定円輪部18とを有する。又、前記シール材16は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製で、それぞれの基端部を前記芯金15に全周に亙って添着支持された3本のシールリップ19、19、21を有する。又、前記シール材16により、前記固定円筒部17の内周面、軸方向内端部外周面及び軸方向内端面を覆っている。一般的には、シール材16は、芯金15に対し、焼き付け或いは加硫接着等により結合している。
【0007】
一方、前記スリンガ13は、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成したもので、前記内輪4の軸方向内端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定される回転円筒部23と、この回転円筒部23の軸方向内端縁から、前記外輪5の内周面に向け、径方向に折れ曲がった回転円輪部24とを備える。そして、前記各シールリップ19、19、21のうちで、軸方向内方に突出する状態で設けられた、2枚のサイドリップ19、19の先端縁を、前記回転円輪部24の軸方向外側面に全周に亙り摺接させている。これに対して、残りの、ラジアルリップ21の先端縁を、前記内輪4の外周面に全周に亙り摺接させている。又、スリンガ13は、弾性材を備えず、回転円筒部23の内周面で、前記内輪4と嵌合する部分をシェービング等の加工で粗さを整えた平滑面としている。
【0008】
ところで、前記組み合わせシールリング11においては、金属環である固定円筒部17及び回転円筒部23が、それぞれ金属部材である外輪5及び内輪4に嵌合されている。そこで、密封性の維持向上を図るために、前記シールリング12では固定円筒部17の軸方向内端部外周面をシール材16で覆うことにより、ノーズガスケット26を形成している。ノーズガスケット26は、その外周面の一部を径方向外方に膨出させて前記外輪5の内周面に押圧させることにより、固定円筒部17と外輪5の嵌合面から泥水等が浸入する事を防止している。
【0009】
一方、前記スリンガ13では回転円筒部23のみが内輪4に金属接触しており、シール作用を発揮するゴム等の弾性材は存在しない。従って、金属同士の圧入嵌合により回転円筒部23及び内輪4の嵌合面に発生する傷や、これら嵌合面の粗さの谷部を通過して、泥水等の異物浸入が発生する懸念がある。このため、前記シールリング12のシール材16にラジアルリップ21が設けられ、このラジアルリップ21は、スリンガ13よりも軸受内部側にて内輪4に摺接し、リップ先端の向きを軸受内部側へ向けたものとしている。従って、回転円筒部23と内輪4との嵌合部を通過してくる泥水等の異物があっても、ラジアルリップ21によってシールする事で、異物が前記内部空間9に侵入する事を防止可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−308730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ここで、特許文献1の図8に示されている様な、スリンガと摺接するラジアルリップを設けた組み合わせシールリングを、車輪支持用軸受ユニットに組み込む公知の方法を概略説明する。組み合わせシールリングは組立てタイプのシールであるため、内部にグリースを充填し、シールリングとスリンガを組み合わせた状態でシール工場から出荷される。そして、組み合わされた状態のまま、スリンガの回転円輪部の軸方向内側面と、シールリングの固定円筒部の軸方向内端面とに当接するリング状の圧入冶具を介して、スリンガとシールリングを組立て完了した内外輪4、5間に一挙に圧入する。従って、スリンガとシールリングの軸方向における相対位置は、単一の圧入冶具によって精度良く維持された状態で内外輪4、5間にセットされるようになる。
【0012】
一方、図5に示す前記組み合わせシールリング11は、スリンガ13の回転円輪部24と摺接する2枚のサイドリップ19、19と、内輪4の外周面と摺接するラジアルリップ21とを備えている。サイドリップ19、19は低トルク且つ泥水耐久性に優れ、ラジアルリップ21は内輪4に締め代を持って摺接しているため、上述した様に、回転円筒部23と内輪4との嵌合部をシールする効果があり、低トルクと高耐久性を両立するものである。しかし、組み合わせシールリングとしての取扱いや、軸受ユニットへの組み込みに課題がある。
即ち、前記組み合わせシールリング11の構造では、2枚のサイドリップ19、19がシールリング12とスリンガ13を軸方向に引き離す力を作用させるのに対して、ラジアルリップ21がスリンガ13と接触していない為、シールリング12とスリンガ13が一体構造を維持する事ができない。従って、上述した様なシールリングとスリンガが一体構造での取扱いや組み込みが出来ず、シールリング12とスリンガ13を別々に内外輪4、5に組付ける必要がある。
【0013】
また、シールリング12の組付け作業に伴って、ラジアルリップ21が反転してしまうという問題がある。これを、図6に示す概略の組付け作用図を参照して説明する。図6(a)に示すように、組立てが完了した内外輪4、5の間に、矢印Aが示す方向から、シールリング12を圧入すると、ラジアルリップ21の傾斜方向と、圧入に伴うシールリング12の進行方向とは逆向きとなり、内輪4の軸方向内端部に押されてしまい、ラジアルリップ21が反転して(裏返って)しまう。
【0014】
従って、前記組み合わせシールリング11を軸受ユニットに組み込む場合には、図6(b)に示すように、シールリング12が嵌合固定された状態の外輪5に対して、スリンガ13が嵌合固定された状態の内輪4をスライド(矢印B)させて、ラジアルリップ21の反転を防ぎながら、内輪4をハブ1の軸方向内端部外周面に外嵌固定する。
このため、軸受ユニットの組立工程が複雑となる上、各部品の取り扱いも煩雑となり、製造コストが増大する。さらに、組み合わせシールリングを一体に圧入した場合と比較して、シールリング12とスリンガ13の軸方向における相対位置の誤差が大きくなるので、サイドリップ19、19の締め代がばらつき、シール性能を確保できなくなる虞がある。
【0015】
本発明は、上述のような組み合せシールリングの問題点を克服し、ラジアルリップが内輪の外周面と摺接する構造の軸受ユニットにおいても、ラジアルリップの反転やシールリップの締め代寸法のばらつきを抑制し、製造が容易で良好なシール性能を発揮するシール付車輪支持用軸受ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットは、回転側周面に回転側軌道を有する回転軌道輪と、静止側周面に静止側軌道を有する静止軌道輪と、これら回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記回転側周面と前記静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐ組み合わせシールリングとを備える。
前記組み合わせシールリングは、前記静止側周面に固定されるシールリングと、前記回転側周面に固定されるスリンガとを備えたものであり、前記スリンガは、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成し、前記回転側周面に嵌合固定される回転円筒部と、この回転円筒部の軸方向端縁から前記静止側周面に向けて折れ曲がった回転円輪部とを備える。
前記シールリングは、芯金と、シール材とから成り、このうちの芯金は、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成し、前記静止側周面に嵌合固定される固定円筒部と、この固定円筒部の軸方向端縁から前記回転側周面に向けて折れ曲がった固定円輪部とを備え、前記シール材は、弾性材製で、少なくとも1つの先端部が前記回転円輪部に摺接するサイドリップと、先端部が前記回転円筒部に摺接するメインリップと、先端部が前記回転側周面に摺接するラジアルリップとを備えている。
特に、本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットは、前記ラジアルリップの前記スリンガ側の側面と、これに対向する前記回転円筒部の軸受内方側の端部周面縁に形成された傾斜部とを全周に亙り近接対向させ、前記ラジアルリップは、その基端部から前記回転側周面側に傾斜して軸受外方側に一旦延びた後、屈曲部を経てその先端部が軸受内方側に傾斜する屈曲形状に形成されており、前記屈曲部は、径方向において前記傾斜部よりも前記シールリング側に位置している。
【発明の効果】
【0017】
上述の様に構成する本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットによれば、内輪の外周面に摺接するラジアルリップがスリンガと内輪の嵌合面からの浸水を防止しつつ、回転円筒部に摺接するメインリップがシールリングとスリンガの分離を防止することにより、組み合わせシールリングの軸受ユニットへの組み込み及び取扱いを容易としている。さらに、ラジアルリップの反転を防止することにより、高いシール性能を維持したシール付車輪支持用軸受ユニットを提供する事が出来る。
即ち、本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットの場合には、シールリングにスリンガの回転円筒部に摺接するメインリップを設け、このメインリップの緊迫力によりスリンガを支持することにより、シールリングとスリンガが分離する事を防止して、組み合わせシールリングとして一体化することを可能にしている。従って、組み合わせシールリングの取扱いが容易で有ると共に、従来と同様に、一体の状態で組立て完了後の軸受ユニットに圧入可能であり、高精度に軸方向の位置決めが可能であるので、シール締め代のばらつきが小さい安定したシール性能を得る事ができる。
さらに、組み合わせシールリングの圧入時において、スリンガの回転円筒部に設けた傾斜部がラジアルリップと接触する事により、ラジアルリップの反転を阻止する。これにより、ラジアルリップを正常な位置及び形状に保った状態で、圧入完了する事が出来るので、良好なシール性能を得る事が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態の第1例を示す、図5に相当する図
【図2】組み合わせシールリングの組み込み作用図。
【図3】本発明の実施の形態の第2例を示す、図1と同様の図。
【図4】従来構造のシール付車輪支持用軸受ユニットの断面図。
【図5】組み合わせシールリングの部分拡大断面図。
【図6】シールリング及びスリンガの組み込み作用図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
[実施の形態の第1例]
図1は、本発明の実施の形態の第1例を示している。本例のシール付車輪支持用軸受ユニットを構成する組み合わせシールリング11aは、前記図4に示した様な、互いに相対回転する回転軌道輪であるハブ1及び内輪4と、静止軌道輪である外輪5との間に装着され、これらハブ1及び内輪4の外周面とこの外輪5の内周面との間部分に存在する内部空間9のうちの軸方向内端開口部を塞いでいる。この内部空間9の軸方向外端開口部を塞ぐシールリング10を含め、前記組み合わせシールリング11a以外の部分の構成及び作用・効果に就いては、図4に示した従来構造のシール付車輪支持用軸受ユニットの場合と同様である。この為、重複する部分の図示並びに説明は省略若しくは簡略にし、以下、組み合わせシールリング11aを中心に説明する。
【0020】
本例の組み合わせシールリング11aは、シールリング12aと、スリンガ13aと、エンコーダ14とを備える。このうちのシールリング12aは、芯金15と、シール材16とから成る。この芯金15は、軟鋼板等の金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成したもので、前記外輪5の軸方向内端部内周面に締り嵌めにより内嵌固定される固定円筒部17と、この固定円筒部17の軸方向外端縁から、前記内輪4の内周面に向け、径方向内方に折れ曲がった固定円輪部18とを有する。
【0021】
又、前記シール材16は、ゴムの如きエラストマー等の弾性材製であり、それぞれの基端部を前記芯金15に全周に亙って添着支持された3本のシールリップ(サイドリップ19、メインリップ20、ラジアルリップ21a)と、前記固定円筒部17の軸方向内端部外周面を全周に亙って覆うノーズガスケット26とを有している。
【0022】
又、前記スリンガ13aは、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成したもので、前記内輪4の軸方向内端部外周面に締り嵌めにより外嵌固定される回転円筒部23aと、この回転円筒部23aの軸方向内端縁から、前記外輪5の内周面に向け、径方向外方に折れ曲がった回転円輪部24aとを備える。
前記サイドリップ19は、その先端部を回転円輪部24aの軸方向外側面に全周に亙って摺接させ、さらに、メインリップ20は、その先端部を回転円筒部23aの外周部に全周に亙って摺接させる事により、軸受外部の異物が軸受内部に侵入しないようにシールしている。更に、ラジアルリップ21aの先端部を内輪4の外周面に全周に亙って摺接する事により、異物の軸受内部への侵入防止に加えて、軸受内部に充填されたグリースが外部に漏洩する事を防止している。
【0023】
又、前記エンコーダ14は、ゴム又は熱可塑性樹脂中にフェライト等の磁性体粉末を混入したゴム磁石を円輪状に形成したもので、軸方向に亙って着磁している。着磁方向は、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で変化させている。従って、前記エンコーダ14の軸方向側面(内側面)には、S極とN極とが、円周方向に亙って交互に且つ等間隔で配置されている。そして、このエンコーダ14を、前記回転円輪部24aの外径側端部を全周に亙り覆った状態で、回転円輪部24aの軸方向内側面に支持固定している。
【0024】
特に、本例の場合には、前記ラジアルリップ21aは、前記芯金15に支持された基端部から内輪4の外周面側に傾斜して軸方向内側(軸受外方側)に一旦延びた後、屈曲部22を経てその先端部が軸方向外側(軸受内方側)に傾斜する断面「く」の字形の屈曲形状に形成されている。そして、前記回転円筒部23aの軸方向外側(軸受内方側)の端部の外周面縁に傾斜部25を形成し、この傾斜部25と、前記ラジアルリップ21aの軸方向内側の側面とを全周に亙り近接対向させている。前記傾斜部25は、軸方向外側に向かうにつれて小径となる部分円錐面形状であり、その傾斜角度は対向するラジアルリップ21aの傾斜角度と略同一とすることで、一定の隙間を保ってラジアルリップ21aと近接対向している。上記隙間は、部品及び圧入の各公差内において前記グリースリップ21aと前記傾斜部25とが最も接近した場合に接触する寸法とし、一般的な公差では0〜1mm程度の隙間となる。更に、前記ラジアルリップ21aの前記屈曲部22は、径方向において前記傾斜部22よりも外径側(シールリング側)に位置している。
【0025】
この様な構成を有する本例の組み合わせシールリング11aを、車輪支持用軸受ユニットに組み込む方法を図2により説明する。組み合わせシールリング11aは、前記サイドリップ19がシールリング12aとスリンガ13aを軸方向に引き離す力を作用させるのに対して、前記メインリップ20がスリンガ13aの回転円筒部23aと締め代を持って摺接している為、その緊迫力によりシールリング12aとスリンガ13aが分離する事無く、一体構造での取扱いや組み込みを可能にしている。そして、一体に組み合わされた状態のまま、前記回転円輪部24aの軸方向内側面に支持固定された前記エンコーダ14と、シールリング15の固定円筒部17の軸方向内端面とに当接するリング状の圧入冶具30を介して、組立て完了した内外輪4、5の間に圧入される。圧入時において、ラジアルリップ21aは内輪4の軸方向内端部に押されて反転しようとするが、ラジアルリップ21aの前記屈曲部22から先端部にかけての部分が、回転円筒部23aに形成された前記傾斜部25に接触することで反転を阻止される。従って、ラジアルリップ21は反転することなく、正常な形状を保ちながら圧入され、内輪4の外周面と摺接する。
【0026】
以上のような構成を有する本例の場合には、内輪4の外周面に摺接するラジアルリップ21aがスリンガ13aと内輪4の嵌合面からの浸水を防止しつつ、回転円筒部23aに摺接するメインリップ20がシールリング12aとスリンガ13aの分離を防止することにより、組み合わせシールリング11aの軸受ユニットへの組み込み及び取扱いを容易としている。さらに、ラジアルリップ21aの反転を防止することにより、高いシール性能を維持したシール付車輪支持用軸受ユニットを提供する事が出来る。
【0027】
即ち、本発明のシール付車輪支持用軸受ユニットの場合には、シールリング12aにスリンガ13aの回転円筒部23aに締め代を持って摺接するメインリップ20を設け、このメインリップ20の緊迫力によりスリンガ13aを支持することにより、シールリング12aとスリンガ13aが分離する事を防止して、組み合わせシールリング11aとして一体化することを可能にしている。従って、組み合わせシールリング11aの取扱いが容易であると共に、従来と同様に、一体の状態で組立て完了後の軸受ユニットに圧入可能であり、高精度に軸方向の位置決めが可能であるので、シール締め代のばらつきが小さい安定したシール性能を得る事ができる。
【0028】
更に、ラジアルリップ21aの先端部を内輪4の外周面に全周に亙って摺接する事により、グリースの漏洩防止に加えて、スリンガ13aと内輪4の嵌合面からの浸水に対してシール効果を発揮して、軸受内部への浸水を防止することが出来る。又、ラジアルリップ21aの先端部は内輪4の外周面に摺接しているので、先端部を回転円筒部23aの外周面に摺接させた場合と比較して、リップの全長を長くする事ができるので、より安定したシール性能を得る事が出来る。
【0029】
しかも、組み合わせシールリング11aの圧入時において、スリンガ13aの回転円筒部23aに設けた傾斜部25がラジアルリップ21aと接触する事により、ラジアルリップ21aの反転を阻止する事が出来る。又、傾斜面25は、ラジアルリップ21aと略同一の傾斜角度を有する部分円錐形状の面であるので、傾斜面25との接触によりラジアルリップ21aが傷つく事を防止している。これにより、ラジアルリップ21aを正常な形状に保った状態で、正規の位置に圧入が可能となり、良好なシール性能を得る事が出来る。
その他の構成及び作用・効果については、前述した従来構造の場合と同様である。
【0030】
[実施の形態の第2例]
図3は、本発明の実施の形態の第2例を示している。本例の場合、スリンガ13bに摺接するサイドリップ19の数を2枚としている。サイドリップ19を2枚とした事に伴い、シールリング12bとスリンガ13bを分離させようとする力(サイドリップ19の反発力)が増加するが、メインリップ20bを大型化して緊迫力を高める事により、シールリング12bとスリンガ13bが分離する事を防止している。又、傾斜面25bを、断面円弧形状の部分球面としている。
【0031】
以上の様な構成を有する本例の場合には、サイドリップ19の数を2枚にする事により、組み合わせシールリング11bのシール性能を向上する事が出来る。さらに、傾斜面25bの形状を角部がない断面円弧形状としているので、ラジアルリップ21aと傾斜部25bの接触により、ラジアルリップ21aが傷つく事をより防止している。
その他の部分の構成及び作用・効果については、前記第1例の場合と同様である。
【0032】
本発明を実施する場合、シール材に設けるサイドリップの数は3枚以上でも良い。又、前述した実施の形態の各例では、内輪回転型のシール付車輪支持用軸受ユニットに就いて示したが、外輪回転型のシール付車輪支持用軸受ユニットにも、本発明を適用する事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明に係るシール付車輪支持用軸受ユニットは、外輪とハブとの間に形成された環状空間の開口部にシールが装着された車輪支持用軸受ユニットに適用することができる。
【符号の説明】
【0034】
1 ハブ
2 回転フランジ
3a、3b 内輪軌道
4 内輪
5 外輪
6 取付部
7a、7b 外輪軌道
8 転動体
9 内部空間
10 シールリング
11、11a、11b 組み合わせシールリング
12、12a、12b シールリング
13、13a、13b スリンガ
14 エンコーダ
15 芯金
16 シール材
17 固定円筒部
18 固定円輪部
19 サイドリップ
20、20b メインリップ
21、21a ラジアルリップ
22 屈曲部
23、23a、23b 回転円筒部
24、24a 回転円輪部
25、25b 傾斜部
26 ノーズガスケット
30 圧入治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転側周面に回転側軌道を有する回転軌道輪と、静止側周面に静止側軌道を有する静止軌道輪と、これら回転側軌道と静止側軌道との間に転動自在に設けられた複数個の転動体と、前記回転側周面と前記静止側周面との間部分に存在する空間の端部開口を塞ぐ組み合わせシールリングとを備え、
前記組み合わせシールリングは、前記静止側周面に固定されるシールリングと、前記回転側周面に固定されるスリンガとを備えたものであり、
前記スリンガは、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成し、前記回転側周面に嵌合固定される回転円筒部と、この回転円筒部の軸方向端縁から前記静止側周面に向けて折れ曲がった回転円輪部とを備え、
前記シールリングは、芯金と、シール材とから成り、このうちの芯金は、金属板を曲げ成形する事により断面略L字形で全体を円環状に構成し、前記静止側周面に嵌合固定される固定円筒部と、この固定円筒部の軸方向端縁から前記回転側周面に向けて折れ曲がった固定円輪部とを備え、前記シール材は、弾性材製で、少なくとも1つの先端部が前記回転円輪部に摺接するサイドリップと、先端部が前記回転円筒部に摺接するメインリップと、先端部が前記回転側周面に摺接するラジアルリップとを備えている、
シール付車輪支持用軸受ユニットに於いて、
前記ラジアルリップの前記スリンガ側の側面と、これに対向する前記回転円筒部の軸受内方側の端部周面縁に形成された傾斜部とを全周に亙り近接対向させ、前記ラジアルリップは、その基端部から前記回転側周面側に傾斜して軸受外方側に一旦延びた後、屈曲部を経てその先端部が軸受内方側に傾斜する屈曲形状に形成されており、前記屈曲部は、径方向において前記傾斜部よりも前記シールリング側に位置している事を特徴とするシール付車輪支持用軸受ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−92206(P2013−92206A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234905(P2011−234905)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】