説明

シール構造及び遠心圧縮機

【課題】励振力を抑制すると共に、構成を簡素にして加工に要する労力を軽減する。
【解決手段】中心軸P周りに回転すると共に主流を通過させる回転体20と回転体20に隙間31,32を有して配された静止体10とで構成された流路を対象として、隙間31,32をシールするシール構造50,60であって、隙間31,32に設けられ、前記主流から前記隙間31,32に流入した流体を高圧側と低圧側とに区分するシール部材51A,51Bと、前記隙間31,32のうち前記流体の高圧側に設けられ、前記流体を通過させると共に前記流体の速度成分のうち前記回転体20の回転方向の速度成分を小さくする変速部材52A,52Bとを備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール構造及び遠心圧縮機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周知のように、多段遠心圧縮機においては、回転軸に複数のインペラが取り付けられてロータが構成されると共に、このロータを収容するケーシング内において軸方向に相互に隣接する二つのインペラを連通させる縦断面略U字状のU字状流路が構成されており、上流から下流に進むに従って作動ガス主流の圧力が増加するようになっている。
【0003】
この多段遠心圧縮機においては、例えば流路を主流の低圧側(上流側のU字状流路)と高圧側(下流側のU字状流路)とに仕切る内部仕切壁と、主流を通過させてエネルギを付与するインペラとの間に隙間を形成しているが、このような隙間をシールするためにシール部材(例えば、ラビリンスシール)を設けている。
上記シール部材を有する多段遠心圧縮機は、旋回流(スワール)となる周方向速度成分を持つ流体がシール部材を通過する際にロータに励振力を作用させることから、ロータが不安定振動し、その結果、騒音が発生したり、周辺部品の接触によって破損が生じたりする恐れがある。
【0004】
下記特許文献1には、上記U字状流路のうちディフューザ部から、該ディフューザ部を画定する内部仕切壁に配設されたシール部材に高圧流体を供給している。より具体的には、内部仕切壁にディフューザ部とシール部材とに連通する流体通路を形成し、ディフューザ部における高圧の流体をシール部材に供給することで、旋回流を打ち消すと共にロータに作用する励振力を抑えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−148397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術においては、内部仕切壁に流体通路を形成しなければならないために、構成が複雑となって加工に労力を要するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、励振力を抑制すると共に、構成を簡素にして加工に要する労力を軽減することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を採用している。
すなわち、本発明に係るシール構造は、中心軸周りに回転すると共に主流を通過させる回転体と前記回転体に隙間を有して配された静止体とで構成された流路を対象として、前記隙間をシールするシール構造であって、前記隙間に設けられ、前記主流から前記隙間に流入した流体を高圧側と低圧側とに区分するシール部材と、前記隙間のうち前記流体の高圧側に設けられ、前記流体を通過させると共に前記流体の速度成分のうち前記回転体の回転方向の速度成分を小さくする変速部材とを備えることを特徴とする。
この構成によれば、回転体と静止体との隙間のうち流体の高圧側に設けられ、流体を通過させると共に回転体の回転方向(以下、単に正回転方向という。)の速度成分を小さくする変速部材を備えるので、変速部材を通過してシール部材に到達する流体の正回転方向の速度成分が小さくなる。これにより、正回転方向の速度成分が小さくなった状態で流体がシール部材を通過するので、回転体に作用する励振力を抑制することができる。
さらに、変速部材を設けるだけで、回転体に作用する励振力を抑制するので、静止体に流体通路を形成する場合に比べて、構成が簡素になって加工に要する労力を軽減することができる。
また、静止体に流体通路を形成してシール部材に高圧流体を供給した場合には、シール部材が区分する流体の高圧側と低圧側とで差圧が大きくなるので、シール部材を通過する流体の量が大きくなるが、上記の構成によれば、シール部材に高圧流体を供給した場合に比べて前記差圧が小さくなるので、シール部材を通過する流体を少量に抑えることができる。
なお、「回転方向の速度成分を小さくする」とは、回転方向の速度成分を0に近づけることに加えて、負の値にすることを含む意味で用いている。
【0009】
また、前記変速部材は、前記回転方向の逆方向の速度成分を前記流体に付与することを特徴とする。
この構成によれば、変速部材が正回転方向の逆方向の速度成分を流体に付与するので、流体の正回転方向の速度成分をより小さくすることができ、回転体に作用する励振力をさらに抑制することができる。
【0010】
また、前記変速部材は、前記主流側から前記隙間に前記流体が流入する流体流入部に設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、変速部材が流体流入部に設けられているので、隙間に流入する際に流体の正回転方向の速度成分を小さくすることで、流体流入部からシール部材に向かう流体の正回転方向の速度成分が小さくなる。これにより、正回転方向の速度成分を有する流体が流体流入部からシール部材の間を通過する際に生じる励振力を低下させると共に、シール部材を通過する際に生じる励振力を低下させる。これにより、回転体に作用する励振力を大幅に抑制することができる。
【0011】
また、前記変速部材は、前記静止体側に設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、変速部材が静止体側に設けられているので、変速部材を回転体側に設けた場合のように回転体の回転バランスを調整する必要がなく、加工に要する労力をさらに軽減することができる。
【0012】
また、前記変速部材は、前記回転体側に形成され、前記流体の通過を阻止する通過阻止部と、前記静止体側に形成され、前記主流側と前記シール部材側とに貫通すると共に前記主流側の開口部が前記シール部材側の開口部に対して前記回転方向の逆方向にずらされた位置に形成された貫通孔を備える変速部とを有することを特徴とする。
この構成によれば、変速部材が、流体の通過を阻止する通過阻止部と、主流側とシール部材側とに貫通する貫通孔が形成された変速部とを備えるので、簡素な構成で、正回転方向の逆方向の速度成分を流体に付与することができる。
【0013】
また、前記変速部材は、前記隙間のうち前記回転体と前記静止体とが前記回転体の径方向に対向する位置に設けられていることを特徴とする。
この構成によれば、隙間のうち回転体と静止体とが径方向に対向する位置に変速部材が設けられているので、回転体の軸方向のスラスト力によって隙間の大きさが変動せず、流体の正回転方向の速度成分を継続して小さくすることができ、励振力抑制効果を安定して得ることができる。
【0014】
さらに、本発明に係る遠心圧縮機は、前記回転体と前記静止体とで構成された流路を有する遠心圧縮機であって、前記回転体は、円盤状のハブと前記ハブから延出する複数のブレードと前記複数のブレードの外周端を被覆するシュラウドとを有するインペラを備え、前記静止体は、前記インペラを収容するケーシングと、前記流路を前記主流の低圧側と高圧側とに仕切る内部仕切壁とを備え、前記インペラのシュラウドと前記内部仕切壁との間に形成された第一の隙間をシールするシール構造として、上記のうちいずれか一に記載のシール構造を備えることを特徴とする。
【0015】
また、前記回転体と前記静止体とで構成された流路を有する遠心圧縮機であって、前記回転体は、円盤状のハブと前記ハブから延出する複数のブレードとを有するインペラを備え、前記静止体は、前記インペラを収容するケーシングと、前記ケーシングの内部と外部とを仕切る端部仕切壁とを備え、前記インペラのハブと前記端部仕切壁との間に形成された第二の隙間をシールするシール構造として、上記のうちいずれか一に記載のシール構造を備えることを特徴とする。
【0016】
また、前記回転体と前記静止体とで構成された流路を有する遠心圧縮機であって、前記回転体は、円盤状のハブと前記ハブから延出する複数のブレードと前記複数のブレードの外周端を被覆するシュラウドとを有するインペラを備え、前記静止体は、前記インペラを収容するケーシングと、前記流路を前記主流の低圧側と高圧側とに仕切る内部仕切壁と、前記ケーシングの内部と外部とを仕切る端部仕切壁とを備え、前記インペラのシュラウドと前記内部仕切壁との間に形成された第一の隙間と、前記インペラのハブと前記端部仕切壁との間に形成された第二の隙間とをそれぞれシールするシール構造として、上記のうちいずれか一に記載のシール構造を備えることを特徴とする。
上記各構成によれば、回転体に作用する励振力を抑制して安定して稼働させることができると共に、製造の労力を軽減することができる。
さらに、シール部材に高圧流体を供給した場合に比べて、シール部材が区分する流体高圧側と流体低圧側とで差圧が小さくなるので、シール部材を通過する流体を少量に抑えることができると共に体積効率を維持して遠心圧縮機の効率を良好に維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係るシール構造によれば、励振力を抑制すると共に、構成を簡素にして加工に要する労力を軽減することができる。
【0018】
また、本発明に係る遠心圧縮機によれば、回転体に作用する励振力を抑制して安定して稼働させることができると共に、製造の労力を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1の概略構成断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1の要部拡大断面図であって、図1における要部Iの拡大図である。
【図3】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1の要部拡大断面図であって、インペラ22Fの流出部22b近傍を示している。
【図4】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1の要部拡大断面図であって、図2におけるII−II線断面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1の第一の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1の第二の変形例を示す要部拡大断面図である。
【図7】本発明の実施形態に係るシール構造50の変形例であるシール構造50aを示す要部拡大図である。
【図8】本発明の実施形態に係るシール構造60の変形例であるシール構造60aを示す要部拡大図である。
【図9】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1において、シール構造50aとシール構造60aとを適用した例を示す要部拡大断面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1において、シール構造50とシール構造60aとを適用した例を示す要部拡大断面図である。
【図11】本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機1において、シール構造50aとシール構造60とを適用した例を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態について説明する。なお、以下の説明に用いる各図面では、各部材や構成要素を認識可能な大きさとするため、各部材の縮尺を適宜変更している。
(遠心圧縮機)
図1は、本発明の実施形態に係る多段遠心圧縮機(遠心圧縮機)1の概略構成断面図であり、図2は、図1における要部Iの拡大図である。
図1に示すように、この多段遠心圧縮機1は、ケーシング11と複数のダイヤフラム12(12A〜12F),13(13A〜13E),14(14A,14B)とを備える静止体10と、回転軸21と複数のインペラ22(22A〜22F)とを備える回転体20とで概略構成されている。
なお、多段遠心圧縮機1の中心軸P(回転軸21の中心軸)の延在方向を単に「軸方向」という。
【0021】
図1に示すように、ケーシング11は、筒状に形成されたものであって筒軸を中心軸Pに重ねている。
ケーシング11は、軸方向両端に形成された開放部11aがダイヤフラム14A、開放部11aがダイヤフラム14Bによってそれぞれ閉塞されている。このケーシング11には、軸方向一端側において作動ガス(流体)Gが外部から導入される導入部11cが形成され、軸方向他端側において作動ガスGを外部に吐出する吐出部11dが形成されている。
このケーシング11は、内部にダイヤフラム12(12A〜12F),13(13A〜13E)を収容している。
【0022】
図1に示すように、ダイヤフラム(内部仕切壁)12A〜12E,13A〜13Eは、それぞれ対となってインペラ収容室17A〜17Eと、作動ガスGの主流の流路の一部とを画定している。また、ダイヤフラム12Fは、ダイヤフラム14Bと共に、インペラ収容室17Fと主流の流路の一部とを画定している。
本明細書においては、対となるダイヤフラム12,13に同一のアルファベットを付すと共に、収容・被収容関係にあるダイヤフラム12,13及びインペラ収容室17と、インペラ22とに同一のアルファベットを付す。
【0023】
図1に示すように、ダイヤフラム12A〜12Eは、円板環状の部材であり、他端面(軸方向他方側)の中央側に収容凹部12aが形成されている(図2参照)。このダイヤフラム12A〜12Eの収容凹部12aの中心側には、インペラ22A〜22Eのシュラウド25の形状に合わせて形成された縮径凹部12bが更に深く形成されている。
また、ダイヤフラム12Fは、円板環状の部材であり、他端面(軸方向他方側)の中央側にインペラ22Fのシュラウド25の形状に合わせて形成された縮径凹部12bが形成されている。
これらダイヤフラム12A〜12Fは、図1に示すように、それぞれの縮径凹部12bを軸方向他方側に向けた状態で、軸方向に連接収容されている。
【0024】
ダイヤフラム13A〜13Eは、ダイヤフラム12A〜12Eよりも小径に形成された円板環状の部材であり、それぞれ一端面(軸方向一方側)の中央側に円形凹部13aが形成されている(図2参照)。このダイヤフラム13A〜13Eは、対をなすダイヤフラム12A〜12Eの収容凹部12aに同軸状に収容されている。この状態において、ダイヤフラム13A〜13Eは、ダイヤフラム12A〜12Eに間隙を形成することで流路を画定していると共に、円形凹部13aが縮径凹部12b側に向くことでインペラ収容室17A〜17Eを画定している。
同様に、円板環状の部材からなるダイヤフラム14Bは、一端面(軸方向一方側)の中央側に円形凹部14aが形成されており、円形凹部14aがダイヤフラム12Fの縮径凹部12b側に向くことでインペラ収容室17Fを画定している。なお、この円形凹部14aの中心側には、後述するバランスピストン26の配置空間が形成されている。
【0025】
ダイヤフラム(端部仕切壁)14Aには、図1に示すように、ジャーナル軸受16a及びスラスト軸受16bが配設され、ダイヤフラム(端部仕切壁)14Bには、ジャーナル軸受16aが配設されており、回転軸21を回転可能に支持している。
【0026】
(回転体)
回転軸21は、図1に示すように、ケーシング11及びダイヤフラム12A〜12F,13A〜13E,ダイヤフラム14A,14Bを挿通しており、中心軸P周りに回転可能に支持されている。
この回転軸21の他端側には、バランスピストン26が配設されている。
【0027】
インペラ22A〜22Fは、図1に示すように、回転軸21に軸方向に間隔を開けて六つ設けられており、上述したインペラ収容室17A〜17Fにそれぞれ収容されている。
各インペラ22は、図2に示すように、作動ガスGの流入部22aから流出部22bに進むにつれて漸次拡径した円盤状のハブ23と、ハブ23の外周から放射状に延出する複数のブレード24と、これら複数のブレード24の外周端を被覆するシュラウド25とを備えている。
【0028】
(流路)
上記構成からなる多段遠心圧縮機1は、図1に示すように、軸方向において互いに隣接する二つのインペラ22がU字状流路15で接続されている。なお、一段目のインペラ22Aの流入部22aはケーシング11の導入部11cに連通しており、最終段のインペラ22Fの流出部22bはケーシング11の吐出部11dに連通している(図1参照)。
【0029】
各U字状流路15は、図1に示すように、ダイヤフラム13が、対をなすダイヤフラム12及び隣接するダイヤフラム12に間隙を形成することで画定されたものである。
各U字状流路15は、図2に示すように、インペラ22の流出部22bに接続されてインペラ22から流出した作動ガスGの主流の速度エネルギを圧力エネルギに変換するディフューザ部15aと、ディフューザ部15aの下流側に連続して形成され、径方向外周側に向かって流れる主流の向きを反転させて径方向中心側に向けるリターンベンド部15bと、リターンベンド部15bの下流側に連続して形成され、主流を下流側のインペラ22に導くリターン部15cとを備えている。
【0030】
(第一隙間、第二隙間)
上記構成からなる多段遠心圧縮機1においては、図2に示すように、インペラ22のシュラウド25とダイヤフラム12との間に、シュラウド25とダイヤフラム12との接触を避けるための第一隙間(隙間、第一の隙間)31が形成されている。
この第一隙間31は、図2に示すように、インペラ22の流入部22aの上流側において径方向に開口する上流側開口31aから、インペラ22の流出部22bの下流側において軸方向に開口する下流側開口31bまで延在しており、断面視で湾曲状に形成されている。より具体的には、上流側開口31aから径方向外周側に延在した後に、シュラウド25に沿って漸次拡径し、軸方向他方側に延在して下流側開口31bまで延在している。
【0031】
同様に、最終段のインペラ22Fのハブ23と回転軸21とバランスピストン26と、ダイヤフラム14Bとの間には、第二隙間(隙間、第二の隙間)32が形成されている。
この第二隙間32は、最終段のインペラ22Fにおける流出部22bの下流側において軸方向に開口する内側開口32bから、ケーシング11の外部に連通する外側開口32aまで延在しており、断面視で屈曲状のものである。より具体的には、内側開口32bから軸方向他方側に延在した後に、ハブ23及びダイヤフラム14Bに沿って径方向中心側に延在した後に屈曲して、バランスピストン26及びダイヤフラム14Bに沿って軸方向他方側に延在し、最終的に外側開口32aに連通している。
【0032】
(シール構造)
多段遠心圧縮機1は、上記の第一隙間31と第二隙間32とを封止するシール構造50とシール構造60とを有している。なお、図1においては、シール構造50,60の図示を省略している。
【0033】
シール構造50は、ラビリンスシール(シール部材)51Aと、変速部材52Aとを備えている。
ラビリンスシール51Aは、ダイヤフラム12に固定された複数の円環状のフィン部材からなる。このラビリンスシール51Aは、第一隙間31のうちシュラウド25に沿って漸次拡径する部分の下流側開口31b側に配設されている。ラビリンスシール51Aは、各フィン部材がダイヤフラム12から径方向中心側に向けて延出し、各フィン部材の先端とシュラウド25との間に径方向の微小間隙を形成している。
【0034】
図3は、図2の要部拡大断面図であり、図4は、図2のII−II線断面図である。なお、図4においては、ラビリンスシール51Aの図示を省略している。
変速部材52Aは、円環状の部材であり、第一隙間31のうち下流側開口31bから軸方向一方側に延在する部分(ガス流入部31c)に配設されている(図3参照)。すなわち、変速部材52Aは、図3及び図4に示すように、第一隙間31のうち、インペラ22のシュラウド25とダイヤフラム12とが径方向に対向する位置に配設されている。
【0035】
この変速部材52Aは、インペラ22側(外周側)に形成された通過阻止部53と、ダイヤフラム12側(内周側)に形成された変速部54とを有している。
通過阻止部53は、変速部54と連続して形成されており、変速部54からインペラ22のシュラウド25に向けて延出し、先鋭状に形成された一つの先端とシュラウド25との間に径方向の微小間隙を形成している。
【0036】
変速部54は、図3に示すように、外周側をダイヤフラム12に固定されており、図4に示すように、主流側とラビリンスシール51A側とに貫通する貫通孔55が複数形成されている。これら複数の貫通孔55は、周方向に等しい間隔を空けて穿孔されている。
図4に示すように、各貫通孔55は、断面形状が円形に形成され、主流側の開口部55aからラビリンス側の開口部55bまで真直状に延びている。また、各貫通孔55は、ラビリンスシール51A側の開口部55bが主流側の開口部55aに対して正回転方向の逆方向にずらされた位置に形成されている。なお、図3中の貫通孔55は、本来であれば破線で図示すべきであるが理解容易のために実線で図示している。
【0037】
シール構造60は、ラビリンスシール(シール部材)51Bと、変速部材52Bとを備えている。
ラビリンスシール51Bは、図2に示すように、ラビリンスシール51Aと同様の構成からなり、バランスピストン26の外周に固定されており、バランスピストン26からダイヤフラム14Bに向けて延出する複数の円環状のフィン部材の先端とダイヤフラム14Bとの間に径方向の微小間隙を形成している。
【0038】
変速部材52Bは、図3に示すように、変速部材52Aと同様の構成からなり、図2に示すように、第二隙間32のうち内側開口32bから軸方向他方側に延在する部分(ガス流入部32c)に配設されている。すなわち、変速部材52Bは、第二隙間32のうちインペラ22Fとダイヤフラム14Bとが、インペラ22Fの径方向に対向する位置に配設されている。
【0039】
次に上記構成からなるシール構造50,60の励振力低減作用について図を用いて説明する。
図1に示すように、回転体20を回転駆動すると、導入部11cから流入した作動ガスGがインペラ22A〜22FとU字状流路15とを交互に流れて段階的に圧縮され、高圧となった作動ガスGが吐出部11dから外部に吐出される。
【0040】
インペラ22を通過する主流は、インペラ22の回転によって速度エネルギ及び圧力エネルギが付与されることから、インペラ22に流入前の圧力に比べてインペラ22から流出後の圧力のほうが高くなり、第一隙間31の下流側開口31bと上流側開口31aとにおいて圧力勾配が生じる。
このため、インペラ22から流出した主流における一部の作動ガスGが、下流側開口31b及び変速部材52Aを介して第一隙間31に流入する。そして、第一隙間31に流入した作動ガスGは、ラビリンスシール51Aによって上流側開口31a側への通過が阻害されることにより、高圧側と低圧側とに区分されることとなる。
【0041】
ところで、作動ガスGが第一隙間31に流入する際には、図3に示すように、上記変速部材52Aの通過阻止部53がインペラ22のシュラウド25と微小間隙を形成して、作動ガスGの通過を阻止する。このため、作動ガスGは、変速部54の貫通孔55を通過して第一隙間31に流入することとなる。
ここで、インペラ22から流出した作動ガスGは、インペラ22の回転によって正回転方向の速度成分を有しているが、変速部54の貫通孔55を通過することで正回転方向とは逆方向の速度成分が付与される。より詳細には、正回転方向の接線ベクトルに対して逆方向に向かう速度成分を付与する。
そうすると、作動ガスGの正回転方向の速度成分が打ち消されて小さくなる。
【0042】
変速部材52Aを通過した作動ガスGは、第一隙間31を流れてラビリンスシール51Aに到達する。
この際、作動ガスGの正回転方向の速度成分が打ち消されて小さくなっていることから、第一隙間31を流れる作動ガスGが回転体20に作用させる励振力が僅かなものとなる。
さらに、ラビリンスシール51Aに到達した作動ガスGの正回転方向の速度成分が小さくなることから、ラビリンスシール51Aを通過する作動ガスGが回転体20に作用させる励振力が僅かなものとなる。
【0043】
一方、最終段のインペラ22Fを通過した作動ガスGの主流は(図3参照)、大気圧よりも高圧となるために、第二隙間32の内側開口32bと外側開口32aとで圧力勾配が生じ、作動ガスGが、内側開口32b及び変速部材52Bを介して第二隙間32に流入する。
この第二隙間32に流入する作動ガスGは、変速部54の貫通孔55を通過して第二隙間32に流入することで正回転方向とは逆方向の速度成分が付与され、正回転方向の速度成分が打ち消されて小さくなる(図2,図3参照)。
【0044】
変速部材52Bを通過した作動ガスGは、第二隙間32を流れてラビリンスシール51Bに到達する。
この際、作動ガスGの正回転方向の速度成分が打ち消されて小さくなっていることから、第二隙間32を流れる作動ガスGが回転体20に作用させる励振力が僅かなものとなる。
さらに、ラビリンスシール51Bに到達した作動ガスGの正回転方向の速度成分が小さくなることから、ラビリンスシール51Bを通過する作動ガスGが回転体20に作用させる励振力が僅かなものとなる。
【0045】
以上説明したように、シール構造50,60によれば、作動ガスGを通過させると共に正回転方向の速度成分を小さくする変速部材52A,52Bを備えるので、変速部材52A,52Bを通過してラビリンスシール51A,51Bに到達する作動ガスGの正回転方向の速度成分が小さくなる。これにより、ラビリンスシール51A,51Bを通過する作動ガスGの正回転方向の速度成分が小さくなるので、回転体20に作用する励振力を抑制することができる。
さらに、変速部材52(52A,52B)を設けるだけで、回転体20に作用する励振力を抑制するので、ダイヤフラム12,14Bに作動ガスGの通路を形成する場合に比べて、構成が簡素になって加工に要する労力を軽減することができる。
また、作動ガスGの通路を形成してラビリンスシール51A,51Bに高圧の作動ガスGを供給して作動ガスGの正回転方向の速度成分を小さくした場合には、ラビリンスシール51A,51Bが区分する作動ガスGの高圧側と低圧側とで差圧が大きくなるので、ラビリンスシール51A,51Bを通過する作動ガスGの量が大きくなるが、シール構造50,60によれば、ラビリンスシール51A,51Bに高圧作動ガスGを供給した場合に比べて前記差圧が小さくなるので、ラビリンスシール51A,51Bを通過する作動ガスGを少量に抑えることができる。これにより、体積効率を維持して多段遠心圧縮機1の効率を良好に維持することができる。
【0046】
また、変速部材52A,52Bが正回転方向の逆方向の速度成分を作動ガスGに付与するので、作動ガスGの正回転方向の速度成分をより小さくすることができ、回転体20に作用する励振力をさらに抑制することができる。
【0047】
また、変速部材52A,52Bが、主流側から第一隙間31と第二隙間32とに作動ガスGが流入するガス流入部31c,32cに設けられているので、第一隙間31と第二隙間32とに作動ガスGが流入する際に正回転方向の速度成分を小さくすることで、ガス流入部31c,32cからラビリンスシール51A,51Bに向かう作動ガスGの正回転方向の速度成分が小さくなる。これにより、正回転方向の速度成分を有する作動ガスGがガス流入部31c,32cからラビリンスシール51A,51Bに向かう際に生じる励振力を低下させると共に、ラビリンスシール51A,51Bを通過する際に生じる励振力を低下させる。これにより、回転体20に作用する励振力を大幅に抑制することができる。
【0048】
また、変速部材52A,52Bがダイヤフラム12,14B側に設けられているので、変速部材52A,52Bをインペラ22側に設けた場合のように回転体20の回転バランスを調整する必要がなく、加工に要する労力をさらに軽減することができる。
【0049】
また、変速部材52A,52Bが、作動ガスGの通過を阻止する通過阻止部53と、主流側とラビリンスシール51A,51B側とに貫通する貫通孔55が形成された変速部54とを備えるので、変速部材52A,52Bの構成をより簡素にすることができる。
【0050】
また、貫通孔55が主流側の開口部55aがラビリンスシール51A,51B側の開口部55bに対して回転方向の逆方向にずらされているので、簡素な構成で、正回転方向の逆方向の速度成分を作動ガスGに付与することができる。
【0051】
また、第一隙間31のうちインペラ22とダイヤフラム12とが径方向に対向する位置に変速部材52Aが設けられているので、遠心力や熱伸びによるインペラ22とダイヤフラム12との径方向の相対変位が、スラスト力や熱伸びによる軸方向の相対変位よりも小さい場合に、変速部材52Aがインペラ22に接触する可能性を低減することができる。 また、インペラ22とダイヤフラム12とが軸方向に対向する位置に配設した場合に比べて、組み立て時においてダイヤフラム12に配設された変速部材52Aとインペラ22との相対位置を定め易くなり、製造の労力を軽減することができる。
同様に、第二隙間32のうちインペラ22Fとダイヤフラム14Bとが径方向に対向する位置に変速部材52Bが設けられているので、上述した効果と同様の効果を得ることができる。
【0052】
上述した構成においては、第一隙間31にシール構造50を、第二隙間32にシール構造60を適用する構成としたが、シール構造50,60のうちいずれか一方を省略して、図5に示すようにシール構造50のみを適用してもよいし、図6に示すようにシール構造60のみを適用してもよい。
【0053】
図7は、シール構造50の変形例であるシール構造50aを示す要部拡大図である。
シール構造50aは、シール構造50と比べて変速部材52Aの配設箇所が異なっている。具体的には、シール構造50が第一隙間31のうちインペラ22のシュラウド25とダイヤフラム12とが径方向に対向する位置に変速部材52Aを配設したのに対して、シール構造50aは、第一隙間31のうちインペラ22のシュラウド25とダイヤフラム12とが軸方向に対向する位置に変速部材52Aを配設している点で異なる。
【0054】
このシール構造50aによれば、スラスト力や熱伸びによるインペラ22とダイヤフラム12との軸方向の相対変位が、遠心力や熱伸びによる径方向の相対変位よりも小さい場合に、変速部材52Aがインペラ22に接触する可能性を低減することができる。
【0055】
図8は、シール構造60の変形例であるシール構造60aを示す要部拡大図である。
図8に示すように、シール構造60aは、シール構造60が第二隙間32のうちインペラ22のハブ23とダイヤフラム14Bとが径方向に対向する位置に変速部材52Bを配設したのに対して、第二隙間32のうちインペラ22のハブ23とダイヤフラム14Bとが軸方向に対向する位置に変速部材52Bを配設している点で異なる。
この構成によっても、上述したシール構造50aと同様の効果を得ることができる。
【0056】
図9〜図11は、シール構造50,50aとシール構造60,60aとのバリエーションを示す要部拡大断面図である。
例えば、上述した構成においては、第一隙間31にシール構造50を、第二隙間32にシール構造60を適用する構成としたが、図9に示すように、第一隙間31にシール構造50aを、第二隙間32にシール構造60aを適用してもよい。
また、図10に示すように、第一隙間31にシール構造50を、第二隙間32にシール構造60aを適用してもよく、図11に示すように、第一隙間31にシール構造50aを、第二隙間32にシール構造60を適用してもよい。
【0057】
なお、上述した実施の形態において示した動作手順、あるいは各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上述した実施の形態では、変速部材52A,52Bが、正回転方向の逆方向の速度成分を作動ガスGに付与する構成としたが、正回転方向の速度成分を小さくさえすれば、ラビリンスシール51A,51Bを通過する作動ガスGの正回転方向の速度成分が小さくなるので、回転体20の励振力抑制効果を得ることが可能である。
【0058】
また、上述した実施の形態では、貫通孔55の断面形状を円形に形成したが、楕円形や多角形等に形成してもよい。同様に、貫通孔55は、直線状である必要はなく、曲線状であってもよい。
また、貫通孔55は、軸方向から見た場合において、回転接線方向のみに延在させてもよい。さらに、上述したように、正回転方向の速度成分を小さくさえすれば、回転体20の励振力抑制効果を得ることが可能であるため、貫通孔55を径方向だけに延在させてもよい。
【0059】
また、上述した実施の形態では、変速部材52A,52Bの位置をそれぞれ下流側開口31b側、内側開口32b側に位置させたが、ラビリンスシール51A,51Bよりも作動ガスGの高圧側に位置することを条件として、上流側開口31a側、外側開口32a側に位置させてもよい。
なお、ラビリンスシール51A,51Bの位置は、適宜変更が可能である。
【0060】
また、上述した実施の形態では、通過阻止部53の先鋭状に形成された先端を一つとしたが二つ以上にしてもよい。
【0061】
また、上述した実施の形態では、シール部材としてラビリンスシールを用いたが、シール部材であれば他の構成のものでもよく、ブラシシールやハニカムシール、あるいは、薄板を周方向に積層した軸シール機構を用いてもよい。
【0062】
また、上述した実施の形態では、変速部材52A,52Bを静止体10側に配設したが、回転体20側に配設してもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態では、多段遠心圧縮機1に本発明を適用したが、単段の遠心圧縮機に本発明を適用してもよい。
また、上述した実施の形態では、本発明に係るシール構造を遠心圧縮機に適用したが、他の流体機械に適用してもよい。
【符号の説明】
【0064】
1…多段遠心圧縮機(遠心圧縮機)
10…静止体
11…ケーシング
12(12A〜12F)…ダイヤフラム(内部仕切壁)
14(14A,14B)…ダイヤフラム(端部仕切壁)
20…回転体
21…回転軸
22(22A〜22F)…インペラ
23…ハブ
24…ブレード
25…シュラウド
31…第一隙間(隙間、第一の隙間)
31c,32c…ガス流入部(流体流入部)
32…第二隙間(隙間、第二の隙間)
50,50a,60,60a…シール構造
51A,51B…ラビリンスシール(シール部材)
52(52A,52B)…変速部材
53…通過阻止部
54…変速部
55…貫通孔
55a…開口部
55b…開口部
G…作動ガス(流体)
P…中心軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸周りに回転すると共に主流を通過させる回転体と前記回転体に隙間を有して配された静止体とで構成された流路を対象として、前記隙間をシールするシール構造であって、
前記隙間に設けられ、前記主流から前記隙間に流入した流体を高圧側と低圧側とに区分するシール部材と、
前記隙間のうち前記流体の高圧側に設けられ、前記流体を通過させると共に前記流体の速度成分のうち前記回転体の回転方向の速度成分を小さくする変速部材とを備えることを特徴とするシール構造。
【請求項2】
前記変速部材は、前記回転方向の逆方向の速度成分を前記流体に付与することを特徴とする請求項1に記載のシール構造。
【請求項3】
前記変速部材は、前記主流側から前記隙間に前記流体が流入する流体流入部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のシール構造。
【請求項4】
前記変速部材は、前記静止体側に設けられていることを特徴とする請求項1から3のうちいずれか一項に記載のシール構造。
【請求項5】
前記変速部材は、前記回転体側に形成され、前記流体の通過を阻止する通過阻止部と、
前記静止体側に形成され、前記主流側と前記シール部材側とに貫通すると共に前記主流側の開口部が前記シール部材側の開口部に対して前記回転方向の逆方向にずらされた位置に形成された貫通孔を備える変速部とを有することを特徴とする請求項4に記載のシール構造。
【請求項6】
前記変速部材は、前記隙間のうち前記回転体と前記静止体とが前記回転体の径方向に対向する位置に設けられていることを特徴とする請求項1から5のうちいずれか一項に記載のシール構造。
【請求項7】
前記回転体と前記静止体とで構成された流路を有する遠心圧縮機であって、
前記回転体は、円盤状のハブと前記ハブから延出する複数のブレードと前記複数のブレードの外周端を被覆するシュラウドとを有するインペラを備え、
前記静止体は、前記インペラを収容するケーシングと、前記流路を前記主流の低圧側と高圧側とに仕切る内部仕切壁とを備え、
前記インペラのシュラウドと前記内部仕切壁との間に形成された第一の隙間をシールするシール構造として、請求項1から6のうちいずれか一項に記載のシール構造を備えることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項8】
前記回転体と前記静止体とで構成された流路を有する遠心圧縮機であって、
前記回転体は、円盤状のハブと前記ハブから延出する複数のブレードとを有するインペラを備え、
前記静止体は、前記インペラを収容するケーシングと、前記ケーシングの内部と外部とを仕切る端部仕切壁とを備え、
前記インペラのハブと前記端部仕切壁との間に形成された第二の隙間をシールするシール構造として、請求項1から6のうちいずれか一項に記載のシール構造を備えることを特徴とする遠心圧縮機。
【請求項9】
前記回転体と前記静止体とで構成された流路を有する遠心圧縮機であって、
前記回転体は、円盤状のハブと前記ハブから延出する複数のブレードと前記複数のブレードの外周端を被覆するシュラウドとを有するインペラを備え、
前記静止体は、前記インペラを収容するケーシングと、前記流路を前記主流の低圧側と高圧側とに仕切る内部仕切壁と、前記ケーシングの内部と外部とを仕切る端部仕切壁とを備え、
前記インペラのシュラウドと前記内部仕切壁との間に形成された第一の隙間と、前記インペラのハブと前記端部仕切壁との間に形成された第二の隙間とをそれぞれシールするシール構造として、請求項1から6のうちいずれか一項に記載のシール構造を備えることを特徴とする遠心圧縮機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−57726(P2012−57726A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−201803(P2010−201803)
【出願日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(310010564)三菱重工コンプレッサ株式会社 (45)
【Fターム(参考)】