説明

ジクロロヒドリン類を回収する多段法及び装置

ジクロロヒドリン類と、ジクロロヒドリン類のエステル類、モノクロロヒドリン類及び/若しくはそのエステル並びにマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物類及び/若しくはそのエステル類から選ばれる1種若しくはそれ以上の化合物とそして任意的に水、塩素化剤類、触媒類及び/又は触媒類のエステル類を含む1種若しくはそれ以上の物質とを含む混合物から、ジクロロヒドリン類を回収する方法及び装置を開示する。混合物を蒸留又は分留することによって混合物からジクロロヒドリン(類)を含む低沸点フラクションを分離させて、蒸留又は分留の残留物を含む高沸点フラクションを形成する。高沸点フラクションを蒸留又は分留することによって前記混合物から残留ジクロロヒドリン(類)を分離させて、蒸留又は分留の残留物を含む更に高沸点のフラクションを形成する。低沸点フラクションの少なくとも一部及びジクロロヒドリン(類)を回収する。利点としては、所定の蒸留カラムに対するジクロロヒドリン類のより効率的な回収底;重質副生成物の形成につながる条件を回避することによる、より少ない廃棄物;回収装置への低い資本投資;並びに生成するジクロロヒドリン生成物の品質を保持しながら、そして形成される不所望な副生成物の量を増加させることなく、エネルギー利用が削減されることが挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)からクロロヒドリン類への転化プロセスによって発生する流出物のような、ジクロロヒドリン類を含む混合物からジクロロヒドリン類を回収する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ジクロロヒドリン類は、エピクロロヒドリン類のようなエポキシドの製造に有用である。エピクロロヒドリンはエポキシ樹脂の前駆体として広く用いられている。エピクロロヒドリンは、パラ−ビスフェノールAのアルキル化によく用いられるモノマーである。得られるジエポキシドは、遊離モノマー又はオリゴマージエポキシドのいずれであっても、例えば電気用積層板、缶用コーティング、自動車トップコート及び透明コートに使用する高分子量樹脂へと増成できる。
【0003】
グリセリンは、燃料を製造するためのバイオディーゼルプロセスの副産物である低コストの再生可能原料と考えられている。フルクトース、グルコース及びソルビトールのような他の再生可能原料を水素化分解することによって、グリセリン、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコールなどのようなビシナルジオール及びトリオールの混合物を生成できることが知られている。豊富で低コストのグリセリン又は混合グリコールを用いて、前記方法によって生じる流出物からジクロロヒドリン類を回収する経済的に魅力的な方法が望まれている。
【0004】
下記図式1に示すような、グリセロール(本明細書中では「グリセリン」とも称する)をジクロロプロパノール類、化合物I及びIIの混合物に転化する方法が知られている。この反応は、無水HCl及び酢酸(HOAc)触媒の存在下で水を除去しながら実施する。化合物I及びIIは、次に苛性アルカリ又は石灰で処理することによって、エピクロロヒドリンに転化することができる。
【0005】
【化1】

【0006】
図式1の前記化学反応を用いる種々の方法が先行技術において報告されている。例えばエピクロロヒドリンは2,3−ジクロロ−1−プロパノール又は1,3−ジクロロ−2−プロパノールのようなジクロロプロパノールを塩基と反応させることによって製造できる。ここでジクロロプロパノールは大気圧においてグリセロール、無水塩酸及び酸触媒から製造できる。反応過程において形成される水の共沸除去を促進するために、大過剰の塩化水素(HCl)が推奨された。
【0007】
特許文献1は、有機酸触媒の存在下でマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物、マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素のエステル又はそれらの混合物を過大気圧分圧の塩化水素の供給源と接触させて、クロロヒドリン類、クロロヒドリン類のエステル又はそれらの混合物を生成する工程を含んでなる、グリセロール若しくはそのエステル又はそれらの混合物の、クロロヒドリンへの転化方法を記載している。この方法は乾燥塩化水素を使用し且つこの方法における水供給源は、本質的には、反応において副産物として発生する水のみであるので、この方法をここでは「乾式プロセス」と称する。この乾式プロセスにおいては、高収率のクロロヒドリン類を得るのに、大過剰の塩化水素による水の共沸除去は必要ない。特許文献1は反応混合物からの生成物流の分離を、1つ又はそれ以上の蒸留カラム、フラッシュ容器、抽出カラム又は吸着カラムのような適当な分離容器を用いて実施できることを更に教示している。特許文献1はジクロロヒドリン類を効率的に回収するための具体的な蒸留方法及び装置も、重質副生成物の形成を最小限に抑えるための方法も記載していない。
【0008】
特許文献2は、大気圧分圧の塩化水素、触媒としての酢酸及びループ、好ましくは3つのループのカスケード(各ループは、反応器と、反応流出物から反応水、残留塩化水素及びジクロロプロパノールを除去する蒸留カラムからなる)を用いる方法を記載している。反応器/蒸留ループのカスケードを必要とするこの蒸留方法は、方法にいくつかの反応器/カラムループを必要とするので、非常に費用がかかる。特許文献2も具体的な蒸留方法も、重質副生成物の形成を最小限に抑えるための方法も記載していない。更に、蒸留中に留出物と共に貴重な酢酸が失われ、その結果、方法における酢酸消費率が大きくなり、プロセス操作に費用がかかる。
【0009】
特許文献3及び4は、大気条件下においてグリセロールと塩化水素水溶液とを反応させてジクロロヒドリン類を生成させることによる、クロロヒドリン類の他の製造方法を開示している。この方法は、反応によって水を生成するだけでなく、塩化水素反応体水溶液によって、この方法に多量の水を加えるので、ここでは「湿式プロセス」と称する。この湿式法は、3つの分離カラム、即ちこの方法において塩化水素を保持しながら反応媒体から大過剰の水を除去する、反応器の気相を蒸留するための蒸留カラム;反応器の液相から水及び塩化水素をストリップするストリッパーカラム;ストリッパーから出た液相からジクロロプロパノールを回収する更に別の蒸留又はストリッピングカラムを必要とする。ジクロロプロパノール、水及び塩化水素の間に擬共沸混合物が存在するため、一部のジクロロプロパノールは第1及び第2の分離カラムにおいて反応媒体から除去される。ジクロロプロパノールの主フラクションは蒸留又はストリッピングカラムである第3のカラムの上部から収集される。この方法は、この方法から多量の水を蒸発させる必要があるため、エネルギー消費が非常に大きい。この方法は、乾式プロセスの反応流出物からジクロロヒドリン類を効率的に回収するには不適当である。同様に、ジクロロプロパノールに相当量の水を加えることによって、下流操作の廃水処理要件が実質的に増える。
【0010】
特許文献5は、直列の2つの反応器(第1の反応器として管型反応器を用い、第2の反応器として発泡槽型反応器を用いる)を用いて湿式プロセスと乾式プロセスを組合せる別の方法を記載している。塩化水素水溶液、グリセリン、カルボン酸触媒を混合して第1の反応器に供給し、気体状塩化水素を第2の反応器に供給する。発泡槽型反応器中における反応混合物からの水のストリップ効率を改善するために、気体状塩化水素供給物に不活性不純物を加える。発生した水、ジクロロプロパノール及び塩化水素並びに触媒の一部の共沸組成物を発泡槽型反応器の上部から蒸発させる。発泡槽型反応器の液体塔底生成物は、分離のための精留塔に入る。精留塔留出物からジクロロプロパノール生成物が得られ、塔底残留物は発泡槽型反応器に循還させる。この方法は、乾式プロセスより低い塩化水素転化率を示し、また、過剰の水を発生するので、乾式プロセスよりも大きいプロセス装置を伴う水の共沸除去が必要である。特許文献5も重質副生成物の形成を最小限に抑える具体的な蒸留法を記載していない。
【0011】
特許文献6は、反応器の流出物流からジクロロヒドリン類を分離するためのデュアルカラム分離法を記載しているが、混合物からジクロロヒドリン(ジクロロプロパノール)を蒸発させるためにストリッピング剤を用いる。この場合、このストリッピング剤は、ストリッピング剤として循環させるか又は環境に排出させるのに充分に清浄となるように、その後の分離単位操作を必要とする。このようなその後の分離単位操作は、典型的には、追加の蒸留/分留単位操作であり、方法全体のエネルギー利用を著しく増大させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO2006/020234A1
【特許文献2】WO2005/021476A1
【特許文献3】EP1752435A1(WO2005/054167としても公開)
【特許文献4】EP1762556A1
【特許文献5】CN101007751A
【特許文献6】米国仮特許出願第60/923108号(出願日:2007年4月12日;発明者:Tirtowidjojoら;発明の名称:MULTI-STAGE PROCESS AND APPARATUS FOR RECOVERING DICHLOROHYDRINS)(代理人整理番号65690)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
例えばエピクロロヒドリンへの転化のような、その後の転化に使用できる形態での、ジクロロヒドリン類含有流からのジクロロヒドリン類の回収を更に改善し、且つ生成されるジクロロヒドリン生成物の品質を保持するが、形成される不所望な副生成物の量を増加させることなく、エネルギー利用を削減する可能性がまだ残されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一面は、ジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)、クロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)のエステル(単数又は複数、以下同じ)、モノクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)並びに/或いはマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(単数又は複数、以下同じ)及び/又はそのエステル(単数又は複数、以下同じ)から選ばれる、1種若しくはそれ以上の化合物及び、任意的に、水、塩素化剤(単数又は複数、以下同じ)、触媒(単数又は複数、以下同じ)、触媒(単数又は複数、以下同じ)のエステル(単数又は複数、以下同じ)及び/又は重質副生成物(単数又は複数、以下同じ)を含む1種若しくはそれ以上の物質を含む混合物から、ジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)を回収する方法であって、前記方法は、
(a)ジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)、クロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)のエステル(単数又は複数、以下同じ)、モノクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)並びに/或いはマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(単数又は複数、以下同じ)及び/又はそのエステル(単数又は複数、以下同じ)から選ばれる1種若しくはそれ以上の化合物並びに、任意的に、水、塩素化剤(単数又は複数、以下同じ)、触媒(単数又は複数、以下同じ)、触媒(単数又は複数、以下同じ)のエステル(単数又は複数、以下同じ)及び/又は重質副生成物(単数又は複数、以下同じ)を含む、1種若しくはそれ以上の物質を含む混合物を供給し;
(b)前記工程(a)の混合物を1つ又はそれ以上の単位操作で蒸留又は分留することによって前記工程(a)の混合物から混合物中に存在するジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)及び他の低沸点成分を含む低沸点フラクションを分離させて、蒸留又は分留の残留物を含む高沸点フラクションを形成し;
(c)前記工程(b)で生成された高沸点フラクションを1つ又はそれ以上の単位操作で蒸留又は分留することによって、前記工程(b)の混合物から残留ジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)を分離させて、蒸留又は分留の残渣を含む更に高沸点のフラクションを形成し;そして
(d)前記工程(c)のジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)及び前記工程(b)の低沸点フラクションの少なくとも一部を回収する
ことを含んでなる。
【0015】
本発明の別の面は、工程(a)で供給される混合物が、モノクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)及び/又はそのエステル(単数又は複数、以下同じ)並びに/或いはマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(単数又は複数、以下同じ)及び/又はそのエステル(単数又は複数、以下同じ)の塩化水素化によって生成されるか又はそれに由来する、ジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)の製造方法である。
【0016】
本発明の更に別の面は、マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(単数又は複数、以下同じ)及び/又はそのエステル(単数又は複数、以下同じ)からジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)を製造するのに適当な装置であって、
(1)少なくとも1つの反応器;
(2)第1の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用する底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第1の気液接触装置を含む少なくとも1つの第1の分離装置;並びに
(3)第2の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用する底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第2の気液接触装置を含む少なくとも1つの第2の分離装置
を含んでなり、
前記の少なくとも1つの反応器(10)が前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)に直接的又は間接的に接続されて、反応器流出物供給流(13)が前記の少なくとも1つの反応器(10)から前記の少なくとも1種の第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に、蒸留及び/又は分留のために通流され;
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)が前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)に直接的又は間接的に接続されて、蒸留又は分留残留物供給流(23)が、前記の少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置から前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)に、蒸留又は分留のために通流され;
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)が、ジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)を含む留出物を回収する第1のポート(21)を有し;そして
前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)がジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)を回収する少なくとも1つの第2のポート(31)を有する
装置である。
【0017】
本発明の更なる第三の面は、マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(単数又は複数、以下同じ)及び/又はそのエステル(単数又は複数、以下同じ)から、ジクロロヒドリン(単数又は複数、以下同じ)を製造するのに適した装置であって、
(1)少なくとも1つの反応器;
(2)第1の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用する底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第1の気液接触装置を含む少なくとも1つの第1の分離装置;並びに
(3)第2の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用する底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第2の気液接触装置を含む少なくとも1つの第2の分離装置
を含んでなり、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)を出た蒸気流が前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)の上部においてその装置に入り、前記第2の分離装置(30)の下部からの液体流の一部が前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)に戻される装置である。
【0018】
本発明の一態様においては、分離装置(20)の底部端から出た液体流も、第2の装置(30)の下部において第2の分離装置(30)に入ることができる。
【0019】
本発明の別の態様において、流出物流は、例えばカラムであることができる分離装置(30)上の少なくとも3つの位置において分離装置(30)を出ていくことができる。これらの位置の少なくとも1つは、分離装置(20)からの蒸気が入る位置より上方であり、少なくとも1つは、分離装置(20)からの液体が入る位置より下方の分離装置(30)の底部端部であり、少なくとも1つは、分離装置(20)から分離装置(30)に送り込まれるこれらの流れが入る位置の中間の分離装置(30)上に位置する。
【0020】
一般に、本発明の異った面の全てにおける本発明の驚くべき利点としては以下のものが挙げられる:
(a)塩素化剤及び転化不充分のMAHC成分からの目的とするジクロロヒドリン生成物の分離を、単一の大型カラム又は並列で操作される同じ大きさ(合わせた領域)の2つのカラムを用いる場合よりもエネルギー効率の良いやり方で実施する;
(b)不所望の副生成物の形成が制限される充分に低いリボイラー温度を引き続き保持しながら蒸留カラム底部の温度を低下させるために、工程(c)における蒸発の駆動に水蒸気ストリッピング又は非凝縮性ガスによるストリッピングを用いる場合に比べて、処理を必要とする廃水又はベントガスの発生が少ない;
(c)構造材の制約のために最大直径の2つのカラムを直列に運転することによって、同一の2つのカラムを並列に運転するよりも高い処理量が可能となる;
(d)蒸留生成物の品質を保持しながらカラムをより高圧で運転できるので、方法の大規模実施がより簡単になる;
(e)第1のカラムにおいて腐蝕性がはるかに高い塩素化剤及び水を除去することによって、第2のカラムをそれほど耐腐蝕性でない、従って低コストの材料で作ることができる;そして
(f)目的とするジクロロヒドリン生成物のほとんどの分離から水を予め除去することによって、いわゆる工業グレードグリセリンのような、水分含量がより多い、それほど純粋でないグリセリンのグレードを塩化水素化プロセスに使用できるのでより経済的である。
【0021】
本発明の他の更なる利点としては、以下のものも挙げられる:
(1)真空装置をより幅広く選択し且つより経済的なスチームジェットエジェクターを使用できるので、資本コスト及び運転コストが削減される;
(2)より高圧で運転できるために所定の供給容量に対するカラムサイズが縮小され、必要な資本投資が更に削減される;そして
(3)生成物の収率増大のために蒸留塔底液温度を低下させることによって重質副生成物の形成が減少し、副生成物廃棄処分のためのエネルギー必要量が減少する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1は本発明の方法の一態様を示すプロセス図である。
図2は本発明の方法の別の態様を示すプロセス図である。
図3は本発明の方法の別の態様を示すプロセス図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
定義
本明細書中で使用する用語「マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物」(以下「MAHC」と略す)は、2つの別のビシナル(隣接)(vicinal)炭素原子に共有結合した少なくとも2つのヒドロキシル基を含むがエーテル結合基を含まない化合物を意味する。これらは、それぞれがOH基を有する少なくとも2つのsp3混成炭素を含む。MAHC類は、より高次の近接又はビシナル反復単位を含む、任意のビシナル−ジオール(1,2−ジオール)又はトリオール(1,2,3−トリオール)含有炭化水素を含む。MAHCの定義は、例えば1種又はそれ以上の1,3−、1,4−、1,5−及び1,6−ジオール官能基も同様に含む。例えばジェミナル−ジオールは、この種のMAHC類からは除外される。
【0024】
MAHC類は、炭素数が少なくとも約2、好ましくは少なくとも約3であって、約60以下、好ましくは約20以下、より好ましくは約10以下、更に好ましくは約4以下、更に好ましくは約3以下であり、脂肪族炭化水素の他に、芳香族部分又はヘテロ原子、例えばハライド、硫黄、リン、窒素、酸素、珪素及びホウ素ヘテロ原子並びにそれらの混合物を含むことができる。MAHC類はポリビニルアルコールのようなポリマーであることもできる。
【0025】
用語「グリセリン(glycerin)」、「グリセロール」及び「グリセリン(glycerine)」並びそのエステルは化合物1,2,3−トリヒドロキシプロパン及びそのエステルと同義語として使用できる。
【0026】
本明細書中で使用する用語「クロロヒドリン」は、2つの別のビシナル脂肪族炭素原子に共有結合した少なくとも1つのヒドロキシル基及び少なくとも1つの塩素原子を含むがエーテル結合基を含まない化合物を意味する。クロロヒドリン類は、MAHC類の1つ又はそれ以上のヒドロキシル基を塩化水素化によって共有結合塩素原子と置き換えることによって得ることができる。クロロヒドリン類は、炭素数が少なくとも約2、好ましくは少なくとも約3であって、約60以下、好ましくは約20以下、より好ましくは約10以下、更に好ましくは約4以下、更に好ましくは約3以下であり、脂肪族炭化水素の他に、芳香族部分又はヘテロ原子、例えばハライド、硫黄、リン、窒素、酸素、珪素及びホウ素ヘテロ原子並びにそれらの混合物を含むことができる。少なくとも2つのヒドロキシル基を含むクロロヒドリンもMAHCである。
【0027】
本明細書中で使用する用語「モノクロロヒドリン」は、1つの塩素原子及び少なくとも2つのヒドロキシル基を有し且つその塩素原子及び少なくとも1つのヒドロキシル基が2つの別のビシナル脂肪族炭素原子に共有結合しているクロロヒドリンを意味する(以下において略語「MCH」で言及する)。グリセリン又はグリセリンエステル類の塩化水素化によって生成されるMCHには、例えば3−クロロ−1,2−プロパンジオール及び2−クロロ−1,3−プロパンジオールがある。
【0028】
本明細書中で使用する用語「ジクロロヒドリン」は、2つの塩素原子及び少なくとも1つのヒドロキシル基を有し且つ少なくとも1つの塩素原子及び少なくとも1つのヒドロキシル基が2つの別のビシナル脂肪族炭素原子に共有結合しているクロロヒドリンを意味する(以下において略語「DCH」と言及する)。グリセリン又はグリセリンエステルの塩化水素化によって生成されるジクロロヒドリン類には、例えば1,3−ジクロロ−2−プロパノール及び2,3−ジクロロ−1−プロパノールがある。
【0029】
本明細書中で使用する表現「塩化水素化条件下において」は、混合物及び/又は供給流中に存在する、MAHC類、MCH類並びにMAHC類及びMCH類のエステル類の少なくとも約1重量%、好ましくは少なくとも約5重量%、より好ましくは少なくとも約10重量%をDCH(類)及び/又はそのエステル(類)に転化できる条件を意味する。
【0030】
本明細書中で使用する用語「副生成物(類)」は、クロロヒドリン(類)及び/若しくはそのエステル(類)並びに/又は塩素化剤(類)ではなく、且つ本発明に従って選択された塩化水素化条件下においてクロロヒドリン(類)及び/又はそのエステル(類)を形成しない化合物(類)を意味する。
【0031】
「重質副生成物(類)」は、混合物(a)成分のオリゴマー類、例えばMAHC類及び/若しくはそのエステル類のオリゴマー類並びにクロロヒドリン類及び/若しくはそのエステル類のオリゴマー類、更にこのようなオリゴマー類の誘導体類、例えばそのエステル類、塩素化オリゴマー類及び/若しくはその塩素化エステル類であって、塩素化オリゴマー類のような、オリゴマーの数平均分子量に等しいか又はそれ以上の数平均分子量を有するものを意味する。クロロヒドリン(類)、MCH(類)及びDCH(類)並びそれらのエステル(類)は、重質副生成物類を含むことを意図するものではない。
【0032】
用語「エポキシド」は、炭素−炭素結合上に少なくとも1つの酸素ブリッジを含む化合物を意味する。一般に、炭素−炭素結合の炭素原子は隣接しており、この化合物は、例えば水素及びハロゲンのような、炭素原子及び酸素原子以外の原子を含むことができる。好ましいエポキシドはエチレンオキシド、プロピレンオキシド、グリシドール及びエピクロロヒドリンである。
【0033】
本明細書中で使用する用語「液相」は、微量の気体及び/又は固体不連続相(類)を、任意的に含むことができる気相と固相の間の連続中間相を意味する。液相は1つ又はそれ以上の非混和性液相を含むことができ、1種又はそれ以上の酸類、塩基類又は塩類のような、1種又はそれ以上の溶解固体類を含むことができる。
【0034】
本明細書中で使用する用語「蒸気相」(vapor phase)は、微量の液体及び/又は固体不連続相(類)(例えばエアロゾル)を、任意的に含むことができる連続ガス相(gaseous phase)を意味する。蒸気相は単一の気体或いは2種若しくはそれ以上の気体、2種若しくはそれ以上の液体不連続相及び/又は2種若しくはそれ以上の固体不連続相の混合物のような混合物であることができる。
【0035】
用語「低沸点フラクション」は、工程(a)において供給される同一混合物から同一単位操作で得られる高沸点フラクションの成分よりも単位操作条件下で揮発性である、工程(a)において供給される混合物から得られるフラクションを意味し、低沸点フラクションの成分の総量の1/2超は混合物の成分であるか又は混合物から得られる。
【0036】
用語「高沸点フラクション」は、工程(a)において供給される同一混合物から同一単位操作で得られる低沸点フラクションの成分ほど揮発性でない、工程(a)において供給される混合物から得られるフラクションを意味し、高沸点フラクションの成分の総量の1/2超は混合物の成分であるか又は混合物から得られる。
【0037】
本明細書中で使用する用語「気液接触装置」は、装置内における液体と蒸気との間の少なくとも1つの界面の接触及び形成を可能にする働きをする装置を意味する。気液接触装置の例としてはプレートカラム、充填カラム、濡れ壁(流下膜式)カラム、噴霧室、熱交換器又はそれらの任意の組合せが挙げられる。プレートカラム及び充填カラムを含む装置の例としては蒸留カラム、分留カラム及びストリッピングカラムが挙げられる。
【0038】
本明細書中で使用する用語「凝縮器」は、プロセス流体から物理的に離隔された二次流体によってプロセス流体から熱を除去する非断熱システムを意味する。プロセス流体及び二次流体はいずれも蒸気、液体又は液体と蒸気の組合せであることができる。凝縮器は、一般に、蒸留又は分留カラムの一部に付随する。凝縮器は、蒸留カラム外部の単位操作であることもできるし、蒸留カラム内部の単位操作であることもできる。物理的離隔は管の形態であることができ、凝縮は管の内側又は外側で実施できる。凝縮器は、蒸留カラム分留トレイのデッキ上の冷却要素の形をとることもできるし、蒸留カラム充填床間の冷却要素の形を取ることもできる。
【0039】
混合物(a)
混合物(a)は、当業界でよく知られた任意の塩化水素化プロセスによって、直接的又は間接的に得ることができる。例えばドイツ国特許第197308号は無水塩化水素を用いたグリセリンの触媒的塩化水素化によるクロロヒドリンの製造方法を教示している。WO2005/021476はカルボン酸の触媒作用を用いた気体状塩化水素によるグリセリン及び/又はモノクロロプロパンジオール類の塩化水素化による、ジクロロプロパノール類の連続的製造方法を開示している。WO2006/020234 A1は水を実質的に除去せずに有機酸触媒の存在下でMAHC、MAHCのエステル又はそれらの混合物を過圧分圧の塩化水素の供給源と接触させてクロロヒドリン、クロロヒドリンのエステル又はそれらの混合物を生成させる工程を含んでなる、グリセロール若しくはそのエステル又はそれらの混合物のクロロヒドリンへの転化方法を記載している。前記参考文献を、前記開示に関して引用することによって、本明細書中に組み入れる。
【0040】
例示的な塩化水素化プロセスにおいては、MAHC及び塩化水素化触媒を塩化水素化反応器に装入する。次いで、塩化水素のような塩素化剤を反応器に加える。反応器の圧力を所望の圧力に調整し、反応器の内容物を所望の温度に所望の時間加熱する。塩化水素化反応の完了後又は塩化水素化反応を実施しながら、反応器内容物を反応流出物流として反応器から排出し、直接的に又は別の反応器若しくは他の介在工程を経て間接的に、本発明に係るDCH回収システムを含み且つ任意的に他の分離システム又は装置(フラッシュ容器及び/又はリボイラー)を含む分離システムに供給する。
【0041】
前記塩化水素化反応は、1つ又はそれ以上の塩化水素化反応器、例えば単一若しくは複数の連続撹拌槽型反応器(以下において略語「CSTR」と言及する)、単一若しくは複数の管型反応器(類)、プラグフロー型反応器(以下において略語「PFR」と言及する)又はそれらの組合せ中で実施することができる。塩化水素化反応器は、例えば1つの反応器又は互いに直列若しくは並列に接続された複数の反応器、例えば1つ若しくはそれ以上のCSTR、1つ若しくはそれ以上の管型反応器、1つ若しくはそれ以上のPFR、1つ若しくはそれ以上のバブルカラム(気泡塔)反応器及びそれらの組合せであることができる。
【0042】
好ましい一態様においては、塩化水素化流出物流の一部又は全てがPFRからの供給流である。PFRは、長さ/直径(L/D)比が大きく且つ反応器の長手方向に組成プロファイルを有する型の反応器である。PFR中に供給されている反応体の濃度はPFRの流路に沿って入口から出口に向かって減少し、DCH類の濃度はPFRの流路に沿って入口から出口に向かって増加する。グリセロールの塩化水素化の場合には、HCl及びグリセロールの濃度はPFRの入口から出口に向かって減少し、1,3−ジクロロ−2−プロパノール及び2,3−ジクロロ−1−プロパノールの総濃度はPFRの入口から出口に向かって増加する。
【0043】
塩化水素化反応の実施に有用な装置は、当業界でよく知られた任意の装置であることができ、塩化水素化条件において反応混合物を収容できるものでなければならない。適当な装置は、プロセス成分による腐蝕に対して抵抗性の材料から製造でき、例えばタンタルのような金属、適当な金属合金(特にニッケル−モリブデン合金、例えばHastelloy C(登録商標))又はガラス内張装置などであることができる。
【0044】
DCH(類)の他に、1種又はそれ以上の未反応MAHC(類)及び/又は塩素化剤(類)、反応中間体(例えばMCH(類)、MCHエステル(類)、及び/又はDCHエステル(類))、触媒(類)、触媒(類)のエステル(類)、水及び/又は重質副生成物(類)も混合物(a)中に存在することができる。1種又はそれ以上の未反応MAHC(類)、MAHC(類)のエステル(類)及び/又は塩素化剤(類)、反応中間体(例えばMCH(類)、MCHエステル(類)、DCHエステル(類))及び他の物質(例えば触媒(類)、触媒(類)のエステル(類)及び水)を、好ましくはこの方法の前の工程に、例えば少なくとも1つの塩化水素化反応器に更なる塩化水素化のために循還させる循還法が好ましい。特に、1種又はそれ以上のMAHC(類)、MCH(類)、触媒(類)並びに/又は1種若しくはそれ以上のMAHC(類)、MCH(類)、DCH(類)及び/若しくは触媒(類)のエステル(類)、好ましくはそれらの2種又はそれ以上の組合せを含むストリピング工程残留物を含む液体の高沸点フラクションを、例えば1つ又はそれ以上の反応器(類)にこの高沸点フラクションを循還させることよって、塩化水素化工程に循還させる。このような循還法(類)は好ましくは連続的である。このようにして、原料効率を最大にし且つ/又は触媒を再利用する。
【0045】
このような方法の方式で触媒類を再利用する場合には、ワンパス方法で用いるよりも高濃度で触媒を使用するのが望ましいかもしれない。これにより、より速い反応が可能になるか又はより小さいプロセス装置を使用でき、結果として使用する装置に対する資本コストがより少なくて済む。
【0046】
連続循還法においては、不所望な不純物及び/又は反応副生成物がこの方法において蓄積する可能性がある。従って、このような不純物を、例えば1つ若しくはそれ以上のパージ出口を経て、又は分離工程によって、プロセスから除去する手段を設けるのが望ましい。それに加えて、パージ流の有用な部分を回収するために、パージ流を更に処理することができる。
【0047】
本発明に従って処理される混合物中に、任意的に、存在することができる塩素化剤は、好ましくは塩化水素又は塩化水素供給源であり、気体、液体若しくは溶液又はそれらの混合物であることができる。塩化水素は好ましくは気体の状態で導入し、塩化水素化反応混合物が液相にある場合には、塩化水素ガスの少なくとも一部が好ましくは液体反応混合物中に溶解されている。しかし、塩化水素は、所望ならば、アルコール(例えばメタノール)若しくは塩素化炭化水素のような溶媒中で、又は窒素のようなキャリヤガス中で、稀釈することができる。
【0048】
本発明の一態様において、本発明の塩化水素化工程は、過大気圧条件下で実施できるが、本発明はそれには限定されない。即ち本発明の塩化水素化工程は減圧、大気圧及び過大気圧条件下で実施できる。本明細書中で、「過大気圧(superatmospheric pressure)」は、塩化水素(HCl)分圧が大気圧より高い、即ち約15psia(103kPa)又はそれ以上であることを意味する。一般に、好ましい態様において、塩化水素化プロセスで使用する塩化水素分圧は少なくとも約15psia(103kPa)又はそれ以上である。好ましくは塩化水素化プロセスで使用する塩化水素分圧は約25psia(172kPa)以上、より好ましくは約35psia(241kPa)以上、最も好ましくは約55psia(379kPa)以上であって、好ましくは約1000psia(6.9MPa)以下、より好ましくは約600psia(4.1MPa)以下、最も好ましくは約150psia(1.0MPa)以下である。
【0049】
塩化水素化工程は、工程(b)及び(c)において回収される反応混合物の液相中で塩化水素化の間、クロロヒドリン(類)が生成及び転化され続けるように、塩化水素化工程中の所定の圧力条件の場合に最も低い沸点を有する反応混合物中のクロロヒドリン(類)の沸点よりも低い、塩化水素化に充分な温度において、実施するのも好ましい。この好ましい温度範囲の上限は、圧力条件の調整によって調整することができる。塩化水素化において、より高い圧力を選択することによって反応混合物中のクロロヒドリン(類)の沸点温度を増加させることができるので、圧力条件を増加させることによってDCH(類)を液相に保持するのに好ましい温度範囲を増加させることができる。
【0050】
塩化水素化流出物中に存在するDCHの好ましくは約50%未満、より好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満、更に好ましくは約1%未満を、工程(b)の前に塩化水素化流出物から除去する。
【0051】
塩化水素化流出物は、1種又はそれ以上のDCH(類)、1種又はそれ以上の化合物(DCH(類)のエステル(類)、MCH(類)及び/若しくはそのエステル(類)並びにMAHC(類)及び/若しくはそのエステル(類)を含む)並びに、任意的に、1種又はそれ以上の物質(水、塩素化剤(類)、触媒(類)及び/又は触媒(類)のエステル(類)を含む)を含む。本発明によれば、出発原料、反応条件及び塩化水素化反応とDCHの回収の間に介在する任意のプロセス工程によっては、更なる任意成分も流出物流中に存在できる。塩化水素化流出物は、好ましくは塩化水素化工程及び/又は反応器から取り出される際に液相に存在し、工程(a)において供給される混合物は塩化水素化工程の液相流出物の少なくとも一部を含む。
【0052】
好ましい一態様においては、少なくとも1種のMAHC及び/又はそのエステルは、工程(a)において供給される混合物中に存在する。MAHC(類)及び/又はそのエステル(類)が工程(a)において供給される混合物中に存在する場合には、同じMAHC(類)及び/又はそのエステル(類)が工程(b)の高沸点フラクション中にも存在し得る。
【0053】
本発明に従って処理される流出物中に含まれるMAHC類には、例えば1,2−エタンジオール;1,2−プロパンジオール;1,3−プロパンジオール;3−クロロ−1,2−プロパンジオール;2−クロロ−1,3−プロパンジオール;1,4−ブタンジオール;1,5−ペンタンジオール;シクロヘキサンジオール類;1,2−ブタンジオール;1,2−シクロヘキサンジメタノール;1,2,3−プロパントリオール(「グリセリン」又は「グリセロール」としても知られ、本明細書中ではそれらと同義で用いる);及びそれらの混合物などがある。好ましくは、本発明に従って処理される流出物中のMAHC類は、例えば1,2−エタンジオール;1,2−プロパンジオール;1,3−プロパンジオール;及び1,2,3−プロパントリオールであり、1,2,3−プロパントリオールが最も好ましい。
【0054】
本発明に従って処理される流出物中に含まれるMAHC類のエステル類の例には、例えばエチレングリコールモノアセテート、プロパンジオールモノアセテート類、グリセリンモノアセテート類、グリセリンモノステアレート類、グリセリンジアセテート類及びそれらの混合物がある。一態様において、このようなエステルは、MAHCと完全にエステル化されたMAHCとの混合物、例えばグリセロールトリアセテートとグリセロールとの混合物から生成されることができる。
【0055】
同じ又は別の好ましい態様において、少なくとも1種のMCH及び/又はそのエステルが、工程(a)において供給される混合物中に存在する。MCH(類)及び/又はそのエステル(類)が工程(a)において供給される混合物中に存在する場合には、同じMCH(類)及び/又はそのエステル(類)が工程(b)の高沸点フラクション中にも存在し得る。
【0056】
MCH類は、一般に、2つの別のビシナル炭素原子に共有結合した1対のヒドロキシル基の一方が共有結合塩素原子で置き換えられた塩化水素化MAHC類に相当する。MCHのエステル(類)は、例えばMAHCエステル(類)の塩化水素化又は酸触媒との反応の結果として得られると可能性がある。
【0057】
DCH類は、一般に、2つの別の炭素原子(少なくともその一方はヒドロキシル基を有する第3の炭素原子に隣接している)に共有結合した2つのヒドロキシル基がいずれも共有結合塩素原子で置き換えられた塩化水素化MAHC類に相当する。DCHのエステル(類)は、例えばMAHCエステル(類)、MCHエステル(類)の塩化水素化又は酸触媒(類)との反応の結果として得られる可能性がある。
【0058】
MAHC(類)のエステル(類)又はMAHC(類)とそのエステル(類)との混合物を出発原料とするのではなく、MAHC(類)がプロセスに供給される出発原料である本発明の一態様においては、クロロヒドリンの形成は1種又はそれ以上の触媒(類)及び/又はそのエステル(類)の存在によって促進するのが一般に好ましい。MAHC(類)のエステル(類)又はMHAC(類)とそのエステル(類)との混合物が出発原料である場合には、塩化水素化反応を更に加速するために触媒(類)及び/又はそのエステル(類)も存在できる。
【0059】
カルボン酸RCOOHは、MAHC類のクロロヒドリン類への塩化水素化を触媒する。具体的なカルボン酸触媒は、例えば触媒としてのその効力、そのコスト、反応条件に対するその安定性及びその物理的性質を含む多数の要因に基づいて選択されることができる。触媒を使用すべき個々の方法及び方法の方式も、個々の触媒の選択における要因と考えられる。カルボン酸の「R」基は水素又はアルキル、アリール、アラルキル及びアルカリールを含むヒドロカルビル基から独立して選ぶことができる。ヒドロカルビル基は直鎖、分岐鎖又は環状であることができ、置換されていても非置換であってもよい。許容される置換基は、触媒の性能をひどく妨害しない任意の官能基であり、ヘテロ原子を含むことができる。許容される官能基の非限定的例としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物、ヒドロキシル、フェノール、エーテル、アミド、第一アミン、第二アミン、第三アミン、第四アンモニウム、スルホネート、スルホン酸、ホスホネート及びホスホン酸が挙げられる。
【0060】
塩化水素化触媒類として有用なカルボン酸類は、一塩基酸、例えば酢酸、蟻酸、プロピオン酸、酪酸、イソ酪酸、ヘキサン酸、4−メチル吉草酸、ヘプタン酸、オレイン酸若しくはステアリン酸;又は多塩基酸、例えばコハク酸、アジピン酸若しくはテレフタル酸であることができる。アラルキルカルボン酸の例としては、フェニル酢酸及び4−アミノフェニル酢酸が挙げられる。置換カルボン酸の例としては、4−アミノ酪酸、4−ジメチルアミノ酪酸、6−アミノカプロン酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、6−クロロヘキサン酸、6−アミノヘキサン酸、4−アミノフェニル酢酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、乳酸、グリコール酸、4−ジメチルアミノ酪酸及び4−トリメチルアンモニウム酪酸が挙げられる。更に、反応条件下でカルボン酸に転化することができる材料、例えばカルボン酸ハロゲン化物(例えば塩化アセチル、塩化6−クロロヘキサノイル、塩化6−ヒドロキシヘキサノイル、6−ヒドロキシヘキサン酸及び4−トリメチルアンモニウム酪酸塩化物);カルボン酸無水物(例えば無水酢酸及び無水マレイン酸);カルボン酸エステル(例えば酢酸メチル、プロピオン酸メチル、ピバル酸メチル、酪酸メチル、エチレングリコールモノアセテート、エチレングリコールジアセテート、プロパンジオールモノアセテート類、プロパンジオールジアセテート類、グリセリンモノアセテート類、グリセリンジアセテート類、グリセリントリアセテート及びカルボン酸のグリセリンエステル類(グリセリンモノ−、ジ−及びトリ−エステルを含む);MAHCアセテート類(例えばグリセロール1,2−ジアセテート);カルボン酸アミド類(例えばε−カプロラクタム及びγ−ブチロラクタム);並びにカルボン酸ラクトン類(例えばγ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン及びε−カプロラクトン)も本発明において使用できる。酢酸亜鉛は金属有機化合物の一例である。前記触媒及び前記触媒前駆体の混合物も使用できる。
【0061】
触媒を過大気圧プロセスで用いる場合には、触媒は、例えばカルボン酸;無水物;酸塩化物;エステル;ラクトン;ラクタム;アミド;金属有機化合物(例えば酢酸ナトリウム);又はそれらの組合せであることができる。塩化水素化反応条件下でカルボン酸又は官能基化カルボン酸に転化し得る任意の化合物も使用できる。過大気圧プロセスに好ましいカルボン酸はハロゲン、アミン、アルコール、アルキル化アミン、スルフヒドリル、アリール基若しくはアルキル基又はそれらの組合せからなる官能基(この部分はカルボン酸基に立体障害を与えない)を有する酸である。
【0062】
一部の触媒は、過大気圧、大気圧又は減圧(sub-atmospheric pressure)において、特に、本発明に従ってDCH(類)を回収する場合に状況に応じて望ましいより高いレベルまで転化を駆動するために反応混合物から連続的に又は定期的に水を除去する環境においても有利に使用できる。例えばMAHC(類)の塩化水素化反応は、塩化水素ガスを導入して、MAHC(類)と触媒(類)との混合物と接触させることによって、例えば塩化水素ガスを液相反応混合物を通してスパージすることによって実施できる。このようなプロセスにおいては、揮発しにくい触媒、例えば6−ヒドロキシヘキサン酸、4−アミノ酪酸;ジメチル4−アミノ酪酸;6−クロロヘキサン酸;カプロラクトン;カルボン酸アミド、例えばε−カプロラクタム及びγ−カプロラクタム;カルボン酸ラクトン、例えばγ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン及びε−カプロラクトン;カプロラクタム;4−ヒドロキシフェニル酢酸:6−アミノ−カプロン酸;4−アミノフェニル酢酸;乳酸;グリコール酸;4−ジメチルアミノ−酪酸;4−トリメチルアンモニウム酪酸;並びにそれらの組合せなどの使用が好ましいと考えられる。これらの大気圧又は減圧条件下では、生成及び回収されるDCH(類)よりも揮発しにくい触媒を使用するのが最も望ましい。
【0063】
本発明において使用する好ましい触媒としては、カルボン酸、カルボン酸のエステル類及びそれらの組合せ、特に、触媒を除去せずにDCH(類)を除去できるように反応混合物中において形成される、目的とする最高沸点のDCHよりも高い沸点を有するエステル類及び酸類(即ち触媒(類)は好ましくは混合物中のDCH(類)よりも揮発しにくい)が挙げられる。この定義に適合し且つ本発明において有用な触媒としては、例えばポリアクリル酸、カルボン酸のグリセリンエステル(グリセリンモノ−、ジ−及びトリ−エステルを含む)、アクリル酸でグラフトされたポリエチレン、ジビニルベンゼン/メタクリル酸コポリマー、6−クロロヘキサン酸、4−クロロブタン酸、カプロラクトン、ヘプタン酸、4−ヒドロキシフェニル酢酸、4−アミノフェニル酢酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、4−アミノ酪酸、4−ジメチルアミノ酪酸、4−トリメチル−アンモニウム酪酸塩化物、ステアリン酸、5−クロロ吉草酸、6−ヒドロキシヘキサン酸、4−アミノフェニル酢酸及びそれらの混合物が挙げられる。カルボン酸基の周囲において立体障害を与えないカルボン酸が一般に好ましい。
【0064】
更に、触媒(類)は使用するMAHC(類)と混和性であるのが好ましい。このため、触媒(類)は、反応混合物中において触媒をMAHC(類)(例えばグリセロール)と混和性にするヒドロキシル、アミノ若しくは置換アミノ又はハロゲン化物基のような極性ヘテロ原子置換基を含むことができる。
【0065】
存在できる触媒の一態様は、一般に、下記式(a):
【0066】
【化2】

【0067】
[式中、官能基R’はアミン、アルコール、ハロゲン、スルフヒドリル、エーテル;又は前記官能基を含む炭素数1〜約20のアルキル、アリール若しくはアルカリール基;或いはそれらの組合せを含み;官能基Rは水素、アルカリ、アルカリ土類金属若しくは遷移金属又は炭化水素官能基を含むことができる]
で表される。
【0068】
触媒を循還させて、繰り返し使用する場合には、このような循還触媒は、存在するMAHCの量(モル)に基づき、約0.1モル%から、好ましくは約1モル%から、より好ましくは約5モル%から、約99.9モル%以下、好ましくは約70モル%以下、より好ましくは約50モル%以下の量で存在できる。反応時間を短縮し且つプロセス装置の大きさを最小化するためには、より高い触媒濃度を用いるのが望ましいと考えられる。
【0069】
好ましい態様において、工程(a)において蒸留又は分留される混合物は、水、例えば塩化水素化反応の副産物として生成される水、塩化水素化反応の出発原料中に存在する水及び/又はストリッピング剤として導入される水を含む。混合物(a)は、少なくとも約1重量%、より好ましくは少なくとも約5重量%であって、約80重量%以下、好ましくは約50重量%以下、より好ましくは約20重量%以下、最も好ましくは約10重量%以下の水を含むことができる。
【0070】
工程(a)の混合物は、液相と蒸気相との組合せであることができる。工程(a)の混合物は好ましくは、気相又は蒸気相ではなく、液相として分離工程に供給する。
【0071】
一態様において、工程(a)の混合物は、工程(b)の前に塩化水素化反応流出物流を蒸気相流出物流と液相流出物流に分離し、そして液相流出物流を、又は蒸気相流出物流と液相流出物流の両者を別々に若しくは合して、工程(b)に導入することによって、工程(b)に供給する。反応流出物流の分離は、例えば工程(b)とは別の又は工程(b)と一体化されたフラッシュ容器中で実施できる。
【0072】
混合物(a)からのDCHの回収:
本発明によるDCHの回収は、2工程で行われる。最初に、混合物(a)を蒸留及び/又は分留することによって工程(a)の混合物からジクロロヒドリン(類)を含む低沸点フラクションを分離させて、蒸留又は分留の残留物を含む高沸点フラクションを形成する。工程(b)の低沸点フラクションからは、DCH(類)及び好ましくは水を回収できる。
【0073】
次に、最初の蒸留及び/又は分留の残留物を蒸留及び/又は分留する(c)ことによって工程(b)の高沸点フラクションの混合物からジクロロヒドリン(類)を分離させて、DCH(類)が濃縮された蒸気フラクションを生成させる。蒸留及び/又は分留工程(c)は、好ましくは工程(b)において生成された高沸点フラクションを蒸留又は分留工程(b)から除去した後に、工程(b)において生成された高沸点フラクションについて実施する。
【0074】
最初の蒸留残留物を蒸留又は分留工程(c)において蒸留及び/又は分留するので、工程(b)は、DCH回収の最適化に必要な条件よりも穏やかな分離条件下で実施できる。工程(b)の低沸点フラクションからは、DCH(類)及び好ましくは水を回収できる。工程(b)の温度及び圧力は、工程(b)において生成される低沸点フラクションによって、工程(a)において供給された混合物中のDCHの総量の少なくとも約1重量%、より好ましくは少なくとも約10重量%、更に好ましくは少なくとも約25重量%、更に好ましくは少なくとも約50重量%であって、約99重量%以下、より好ましくは約95重量%以下、更に好ましくは約90重量%以下、更に好ましくは約80重量%以下、更に好ましくは約70重量%以下を回収するように、調整するのが望ましい。
【0075】
より穏やかな分離条件は、工程(b)におけるエネルギー消費を減少させ且つ重質副生成物の形成速度を低下させるために蒸留塔底液の温度を低下させることを含むことができる。蒸留カラムをより低い塔底温度で操作する場合には、安全性及び効率が改善される。
【0076】
蒸留又は分留工程(b)は、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約50℃、更に好ましくは少なくとも約80℃、更に好ましくは少なくとも約100℃、更に好ましくは少なくとも約110℃であって、約200℃以下、より好ましくは約160℃以下、更に好ましくは約140℃以下、更に好ましくは約139℃以下、更に好ましくは約135℃以下、更に好ましくは約132℃以下、更に好ましくは約125℃以下、更に好ましくは約120℃以下の温度(蒸留底液中で測定)で実施するのが望ましい。
【0077】
より穏やかな分離条件は、反応器流出物からDCH(類)を分離するための従来の方法において用いられる条件よりも高い圧力条件下での工程(b)の操作を含むこともできる。より高い圧力条件のプロセスは、エネルギーを節約すると共に、真空装置のより広範な選択を可能にする。より経済的なスチームジェットエジェクター又は真空ポンプを使用でき、それにより固定資本コスト及び運転コストが削減される。低圧高真空操作には回転オイルシール真空ポンプ又は多段スチームジェットエジェクターの使用が一般に必要であるが、スチームジェットエジェクターは可動部分を有さないので、スチームジェットエジェクターの使用によって操作信頼性も改善される。また、蒸留カラム圧がより高い操作によりカラムサイズが縮小され、その結果として償却される資本投資が削減される。
【0078】
蒸留又は分留工程(b)は、少なくとも約0.1kPa、より好ましくは少なくとも約1kPa、更に好ましくは少なくとも約3kPa、更に好ましくは少なくとも約6kPa、更に好ましくは少なくとも約10kPaであって、約1MPa以下、より好ましくは約0.12MPa以下、更に好ましくは約0.05MPa以下、更に好ましくは約0.02MPa以下の圧力において実施するのが望ましい。
【0079】
工程(b)に導入する混合物から回収されるDCH(類)の割合は、一般に、選択される温度条件と圧力条件の組合せによって異なる。工程(b)において所定のDCH回収率を得るためには、温度低下は一般に操作圧力の低下を必要とし、逆に操作圧力の増加は一般に操作温度の上昇を必要とする。選択される具体的な温度条件及び圧力条件は、低温及び高い圧力での操作に関連する各利益の実現が望まれる程度によって異なるであろう。
【0080】
工程(b)は、工程(b)の高沸点フラクション中の重質副生成物類の量が工程(a)において供給される混合物中の重質副生成物類の量の約110%以下、より好ましくは約108%以下、更に好ましくは約105%以下、更に好ましくは約102%以下となるような条件下で実施するのが望ましい。
【0081】
工程(b)における条件は、工程(a)において供給される混合物中に存在する塩素化剤(類)の約50%未満、より好ましくは約20%未満、更に好ましくは約10%未満、更に好ましくは約5%未満を含む高沸点フラクションを生成するように調整するのが好ましい。温度及び圧力のような、工程(b)の1つ又はそれ以上の条件を調整して、工程(b)に供給される混合物(a)から塩素化剤(類)を除去することができる。
【0082】
一態様において、塩化水素の一部を、液体流出物中に溶解された塩化水素の逃散を可能にする圧力の低下によって、工程(b)の前に液体流出物から除去し、好ましくは塩化水素の少なくとも50%を、工程(b)の前に液相流出物から除去する。
【0083】
塩素化剤が、例えば塩化水素である場合には、塩化水素は、工程(b)の間、工程(a)において供給される混合物中に存在する塩化水素の溶解を保持するのに必要な圧力より低い圧力を保持し且つ/又は工程(b)の間、工程(a)に供給される混合物中に存在する塩化水素の溶解を保持するのに必要な温度より高い温度を保持することによって、工程(b)の間に混合物(a)から除去することができる。
【0084】
好ましい態様において、工程(a)において供給する混合物は、混合物の蒸留及び/又は分留の前に、混合物をガス抜きするための圧力降下工程に通す。蒸留及び/又は分留工程の上流に流量変動及びサージがある場合には、蒸留及び/又は分留工程への混合物の流れの調節を助けるために、圧力降下工程及び/又はサージ容器を用いることもできる。
【0085】
工程(b)は、好ましくは分別蒸留カラムのような蒸留カラム中で実施する。適当な蒸留カラムの例としては、プレート又はトレイカラム、バブルキャップカラム及び充填カラムが挙げられる。好ましくは、本発明の方法の工程(b)は、充填蒸留カラムを用いて実施する。
【0086】
一態様において、追加のMAHC(類)及び/又はそのエステル(類)を、反応蒸留/分留のために工程(b)に導入することができる。追加のMAHC(類)及び/又はそのエステル(類)は塩素化剤と反応して、更なるMCH(類)及び/又はそのエステル(類)を生成できる。追加のMAHC(類)は、DCH(類)及びMCH(類)のエステル(類)と反応することによって、それらを非エステル(類)に転化させて、DCH(類)の回収も促進できる。追加のMAHC(類)及び/又はそのエステル(類)を好ましくは、還流に液相として導入して、還流のための追加の液相を供給する。
【0087】
好ましい態様において、工程(b)は、
(b1)工程(a)の混合物からDCH(類)及び水を含む共沸混合物を気化させて、工程(a)の混合物から少なくともDCH(類)及び水を含む低沸点フラクションを分離させ;そして
(b2)工程(b1)の低沸点フラクションを凝縮させて、液体水性相とDCH(類)を含む液体有機相を形成する
ことを含む。
【0088】
凝縮工程(b2)は分別蒸留カラム及び/又は充填蒸留カラムのような蒸留カラム中で還流させることを含むことができる。
【0089】
一態様において、追加のMAHC(類)及び/又はそのエステル(類)を、前述の理由で、反応蒸留/分留のための凝縮工程(b2)に導入することができる。このような追加は、蒸留/分留の間に還流に利用できる液体の量も増加させ、それが工程(b)に供給される混合物(a)の他の成分からDCH及び水を分離させる工程(b)の効率を増加させる。
【0090】
工程(b)は、
(b3)工程(b2)の液体有機相から工程(b2)の液体水性相を分離させ;そして
(b4)工程(b3)の液体水性相の少なくとも一部を工程(b1)及び/又は工程(b2)に循還させる
ことを更に含むことができる。
【0091】
工程(b1)への液体水性相の循還を用いて、反応混合物からのDCH(類)の共沸及び/又はストリッピングによるDCHの回収を促進できる。
【0092】
工程(b2)への液体水性相の循還を用いて、工程(b)において還流のための追加液体を供給できる。充分な液体水性相が工程(b2)に循還されると、液体水性相は蒸留/分留装置の底部へと流れることができ、その結果、同じ液体水性相の少なくとも一部が工程(b1)にも循還され、それが反応混合物からのDCH(類)の共沸及び/又はストリッピングによるDCHの回収も促進できる。
【0093】
工程(c)においては、工程(b)において生成された高沸点フラクションを、工程(b)よりも高い又は低い圧力で蒸留又は分留することができる。蒸留又は分留工程(c)は、少なくとも約25℃、より好ましくは少なくとも約50℃、更に好ましくは少なくとも約80℃、更に好ましくは少なくとも約100℃、更に好ましくは約110℃であって、約200℃以下、より好ましくは約170℃以下、更に好ましくは約140℃以下、更に好ましくは約139℃以下、更に好ましくは約135℃以下、更に好ましくは約132℃以下、更に好ましくは約125℃以下、更に好ましくは約120℃以下の温度(蒸留塔底液中で測定)において実施するのが好ましい。
【0094】
蒸留又は分留工程(c)は、少なくとも約0.1kPa、より好ましくは少なくとも約1kPa、更に好ましくは少なくとも約3kPa、更に好ましくは少なくとも約6kPa、更に好ましくは少なくとも約10kPaであって、約1MPa以下、より好ましくは約0.12MPa以下、更に好ましくは約0.05MPa以下、更に好ましくは約0.02MPa以下の圧力において実施するのが好ましい。経済的理由から、工程(c)は大気圧において実施することができる。
【0095】
一態様において、本発明の方法の工程(b)及び(c)は、約0.1kPa〜約0.2MPaの範囲、好ましくは約1kPa〜約0.05MPaの範囲の圧力において実施し、工程(b)又は(c)における高沸点フラクションの温度は約50〜約169℃の範囲、好ましくは約90〜約139℃の範囲である。
【0096】
工程(c)は、ジクロロヒドリン(類)及び/又はストリッピング剤を単離するために、工程(c)の蒸気フラクションを蒸留又は分留することを更に含む。
【0097】
工程(b)によって生成された低沸点フラクション及び工程(c)において生成され、工程(d)で回収された蒸気フラクションは、別々に回収して更なる処理工程に供することもできるし、合することもできる。前記の更なる処理工程によっては、低沸点フラクション及び/又は蒸気フラクションは別々に用いることもできるし、或いは合して、更なる処理を行わずに他の化合物への化学転化のためにDCH類を供給することもできる。低沸点フラクション/蒸気フラクション混合物は、DCH(類)を他の工業的に有用な化学製品に転化するための方法に使用できる。
【0098】
工程(d)において回収された低沸点フラクション及び/又は蒸気フラクションは、例えば工程(b3)における水性相の循還のための前記の任意の液液相分離による又は工程(c)において生成された蒸気フラクションの前記の任意の蒸留又は分留による以外のジクロロヒドリン(類)の追加の精製を行わずに、エポキシ化に供して、エピクロロヒドリンを形成することができる。
【0099】
前記プロセス工程の任意の組合せは、互いに独立して又は同時に、実施できる。好ましい態様においては、前記プロセス工程の1つ又はそれ以上を互いに同時に実施する。
【0100】
前記プロセス工程の1つ又はそれ以上は、連続的に又は非連続的に実施できる。前記プロセス工程の1つ又はそれ以上は、所定の時間、例えば少なくとも1時間、連続的に(即ち中断せずに)実施するのが好ましい。好ましくは、前記プロセス工程の全てを、一定時間、例えば少なくとも1時間、連続的に実施する。
【0101】
工程(c)において処理された高沸点フラクションの少なくとも一部は、好ましくは塩化水素化工程に循還させる。より好ましい態様においては、工程(c)において処理された高沸点フラクションの実質的に全てを塩化水素化工程に循還させる。この塩化水素化工程は、好ましくは混合物(a)の成分を含む塩化水素化流出物の生成に使用する塩化水素化プロセスの第1の工程である。
【0102】
処理された高沸点フラクションの循還により、MAHC(類)及び/若しくはそのエステル(類)並びに/又はMCH(類)及び/若しくはそのエステル(類)を更に反応させて追加のDHCを形成することが可能となり、それによって全体的な塩化水素化転化率及び回収率が一般的に増加する。その場合には、本発明に係る方法は、塩化水素化の間に生成されるDCH(類)の少なくとも80%、より好ましくは少なくとも約90%、更に好ましくは少なくとも約95%、更に好ましくは少なくとも約99%、更に好ましくは少なくとも約99.9%を回収することができる。
【0103】
前記方法は、本発明に係る装置を用いて実施できる。この装置について、図1を参照して以下により詳細に説明する。
【0104】
図1は、使用できる例示的な装置及び各供給流の主な特徴を示すブロック流れ図である。図1中で数字100で一般的に示される装置は、少なくとも1つの反応器(10);少なくとも1つの第1の分離装置(20)(分離装置(20)内において物質に底部端から頂部端の漸減温度勾配を適用するための底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第1の気液接触装置を含む);及び少なくとも1つの第2の分離装置(30)(分離装置(20)において生成された高沸点フラクションを更に分離させるための少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)を含む)を含む。
【0105】
前記の少なくとも1つの反応器(10)は、種々の既知の反応器、例えばCSTR、管型反応器、カラム反応器及びPFR並びにそれらの組合せから選ぶことができる。複数の反応器が存在する場合には、反応器は互いに直列又は並列に接続することができる。前記の少なくとも1つの反応器(10)は、MAHC(類)及び、任意的に、触媒供給材料を含む第1の供給流(11)、並びに塩素化剤を含む第2の供給流(12)に直接的又は間接的に接続する。
【0106】
前記の少なくとも1つの反応器(10)は、反応器流出物供給流(13)の少なくとも一部を前記の少なくとも1つの反応器(10)から前記分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に通流させて蒸留及び/又は分留させるために、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)に直接的又は間接的に接続する。前記の少なくとも1つの反応器(10)からの反応器流出物供給流(13)を通流させるための接続は、好ましくは少なくとも1つの反応器(10)からの液相供給流を通流するように構成する。少なくとも1つの反応器(10)中の蓄積不活性ガスは、全て、反応器のベントガス流(14)によってパージする。
【0107】
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)は、反応器流出物供給流(13)から分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置によって分離されたDCH(類)を含む流出物流を回収するための第1のポート(21)を含み、好ましくは分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置の上部において気体を除去するための第1のベント(22)を含む。
【0108】
一態様において、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)は、好ましくは少なくとも1つの第1の分離装置(20)中の圧力を周囲大気圧未満に低下させるために、少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に真空を適用する手段を含む。この手段は好ましくはスチームジェットエジェクターである。
【0109】
別の態様において、前記の少なくとも1つの分離装置(20)は、ほぼ大気圧又は大気圧以上で操作する。
【0110】
本発明の一態様において、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置は、好ましくは蒸留又は分別蒸留カラム、例えば充填蒸留カラム及び/又は精留を実施するための還流ゾーンを有する、還流条件下における分別蒸留の実施に適した蒸留カラムである。
【0111】
本発明の別の例示的な態様において、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)は好ましくは、少なくとも1つのフラッシュ容器を含み、この少なくとも1つのフラッシュ容器によって、前記の少なくとも1つの反応器(10)を少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続する。それによって、少なくとも1つの反応器(10)から通流された供給流がフラッシュ容器中で、液相に対する圧力を低下させることによって、蒸気相と液相に分離し、分離した液相は、蒸留又は分留のために、分離装置(20)の第1の気液接触装置に導入する。
【0112】
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)は、好ましくは少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に通流された供給流を加熱するために、少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続されたリボイラーを更に含む。
【0113】
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)は、蒸留又は分留された液体の塔底液供給流(23)を分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置から少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)に通流させて更に蒸留及び/又は分留するために、前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)に直接的又は間接的に接続する。少なくとも1つの第1の分離装置(20)は、ジクロロヒドリン(類)含有留出物を回収する第1のポート(21)を有する。
【0114】
少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)を含む少なくとも1つの第2の分離装置(30)は、液体残留物供給流(23)に直接接続する。少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)は、液体残留物供給流(23)によって第2の気液接触装置(30)に送出された蒸留又は分留液体残留物からストリップされたジクロロヒドリン(類)含有生成物を回収するための少なくとも1つの第2のポート(31)を有する。第2の気液接触装置(30)は、好ましくは第2の気液接触装置(30)から液体残留物供給流を取り出すための第3のポート(32)を有する。
【0115】
第3のポート(32)は、好ましくは蒸留フラクションを含む循還材料供給流を少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)から少なくとも1つの反応器(10)に通流させるために、循還導管(33)によって少なくとも1つの反応器(10)に接続する。循還導管(33)は、好ましくは循還材料供給流から重質副生成物を除去するためのパージ(34)を有する。
【0116】
第2の気液接触装置(30)は、好ましくは少なくとも1つのカラムであり、より好ましくは蒸留カラムである。蒸留カラムは、好ましくは還流条件下で分別蒸留を実施するのに適し、精留を実施するための還流ゾーンを有する。流出流(31)は、好ましくはこのような蒸留カラムによって得ることができる留出物である。
【0117】
一態様において、本発明の装置は、凝縮液体有機相から凝縮液体水性相を分離するために、且つ液体水性相を液液相分離装置から蒸留カラムの還流ゾーンに通流させるために、蒸留カラムの還流ゾーンに直接接続された又は冷却装置を経て接続された液液相分離装置を含む。
【0118】
この装置は、少なくとも1つの反応器(10)及び/又は少なくとも1つの第1カラム(20)に接続された、1つ又はそれ以上の蒸留カラム、抽出カラム、吸収カラム、リボイラー及び凝縮器並びにそれらの組合せを更に含むことができる。第2の気液接触装置(30)はスチームストリッパーを含むことができる。
【0119】
本発明の少なくとも1つの第1の分離装置(20)は、少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に通流された供給流を加熱するために、少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続されたリボイラーを含むことができる。
【0120】
第2の気液接触装置(30)は、好ましくは、第2の気液接触装置(30)の上部からの蒸気相流出物を通流させるために、第2のベント(35)を有する。
【0121】
本発明の別の態様を図2に示す。図2において、数字200で一般的に示される装置は、少なくとも1つの反応器(10)を示すブロック(10)が反応器(10)から出るベントガス(14)のための吸収システム(40)も含むことができる以外は、図2の場合と本質的に同じである。図2に示されるプロセス態様は、米国仮特許出願第60/923019(出願日:2007年4月12日;発明者:Hookら;発明の名称:PROCESS AND APPARATUS FOR VAPOR PHASE PURIFICATION DURING HYDROCHLORINATION OF MULTI-HYDROXYLATED ALIPHATIC HYDROCARBON COMPOUNDS)(代理人整理番号65647)に記載されたシステムと同様であり、この特許文献を引用することによって本明細書中に組み入れる。
【0122】
図2は、吸収システム(40)、吸収システム液体流出物流(41)及び吸収システムベント流(42)が好ましくはシステムに加えられた図1の拡張を示している。図2に具体的に示された態様は循還導管(33)を含み、循還導管(33)は、前記米国仮特許出願第第60/923019号に記載されるような、少なくとも1つの反応器(10)から出た反応器ベントガス(14)中の塩素化剤を吸収するための吸収システム(40)を経て、少なくとも1つの反応器(10)に接続されることもできる。吸収システム(40)からの吸収システム液体流出物(41)は、少なくとも1つの反応器(10)への供給材料の一部として、少なくとも1つの反応器(10)に供給する。吸収システム(40)中の非吸収性ガス及び不活性ガスは、全て、吸収システムベントガス流(42)によってパージすることができる。図2に示される他のプロセス装置及びプロセス流は、図1に記載されたのと同じであることができる。
【0123】
図3は、ジクロロヒドリン(類);クロロヒドリン(類)のエステル(類)、モノクロロヒドリン(類)並びに/又はマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/若しくはそのエステル(類)を含む混合物;更に任意的に、水、塩素化剤(類)、触媒(類)、触媒(類)のエステル(類)及び/若しくは重質副生成物(類)を含む1種若しくはそれ以上の物質を含む混合物;或いは軽質沸騰成分、中間留出物成分および重質沸騰成分を含む同様な混合物から、ジクロロヒドリン(類)を分離するために使用できる、例示的装置およびその各供給流の主な特徴を示すプロセス流れ図である。ジクロロヒドリン類は、これらの3つの流れのいずれかの一部を構成できる。図3に示される配置の利点は、供給材料の同等な分離に対するエネルギー消費を削減することである。
【0124】
再び図3を参照すると、数字300で一般的に示される装置は、少なくとも1つの反応器(10);少なくとも1つの第1の分離装置(50)(カラム内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用するための底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第1の気液接触装置を含む);及び少なくとも1つの第2の分離装置(60)(液相材料を、分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置から分離装置(60)の少なくとも1つの第2の気液接触装置への塔底液供給流(52)の蒸気相と又はストリッピング剤と接触させて、更に蒸留及び/又は分留させるための少なくとも1つの第2の気液接触装置(60)を含む)を含む。図3に示される本発明の特定の実施は分離装置(50)中に少なくとも1つの内部又は外部リボイラー(51)も含む。図3に示される第2の分離装置(60)は、少なくとも1つの外部又は内部リボイラー(61)を有することもできる。分離装置(60)には、少なくとも1つの内部又は外部凝縮器(62)も使用できる。第2の分離装置(60)から流れ71を経て第1の分離装置(50)に液体流(69)を誘導するために、圧力変更装置(70)、例えばポンプ(70)を使用できる。
【0125】
少なくとも1つの反応器(10)は、種々の既知の反応器、例えばCSTR、管型反応器、カラム反応器及びPFR並びにそれらの組合せから選ぶことができる。複数の反応器が存在する場合には、反応器は互いに直列又は並列に接続することができる。少なくとも1つの反応器(10)は、MAHC(類)を含む第1供給流(11)及び塩素化剤を含む第2の供給流(12)に直接的又は間接的に接続する。少なくとも1つの反応器(10)中の蓄積不活性ガスは、全て、反応器ベントガス流(14)によってパージすることができる。
【0126】
前記の少なくとも1つの反応器(10)は、反応器流出物供給流(13)の少なくとも一部を前記の少なくとも1つの反応器(10)から分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に通流させて蒸留及び/又は分留させるために、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(50)に直接的又は間接的に接続する。前記の少なくとも1つの反応器(10)からの反応器流出物供給流(13)を通流させるための接続は、好ましくは少なくとも1つの反応器(10)からの液相供給流を通流するように構成する。
【0127】
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(50)は、反応器流出物供給流(13)から分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置によって分離された低沸点蒸気を含む流出物流(53)を回収するための第1のポートを含み、好ましくは少なくとも1つの第2の分離装置(60)のような少なくとも1つの追加分離装置の上段から液体流(69,71)を引き出し且つ分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置の上部に液体をポンプによって戻すための第2のポートを含む。
【0128】
前記の少なくとも1つの分離装置(50)は、好ましくは少なくとも1つの第1の分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置中の圧力を周囲大気圧未満に低下させるために少なくとも1つの第1の分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に真空を適用する手段を含む。この真空適用手段は好ましくはスチームジェットエジェクターである。
【0129】
一態様において、前記の少なくとも1つの分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置は、好ましくは蒸留又は分別蒸留カラム、例えば充填蒸留カラム及び/又は還流を実施するための還流ゾーンを有する、還流条件下における分別蒸留の実施に適した蒸留カラムである。この態様において、還流は、カラム(50)の上部に戻る液体流(69,71)である。
【0130】
本発明の別の例示的な態様において、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(50)は、好ましくは少なくとも1つのフラッシュ容器を含み、この少なくとも1つのフラッシュ容器によって前記の少なくとも1つの反応器(10)を前記の少なくとも1つの分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続する。それによって、反応器(10)から通流した供給流をフラッシュ容器中で、液相に対する圧力を低下させることによって、蒸気相と液相に分離し、分離した液相は、蒸留又は分留のために分離装置(50)の第1の気液接触装置に導入する。
【0131】
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(50)は、好ましくは少なくとも1つの分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に通流された供給流を加熱するために、少なくとも1つの分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続されたリボイラーも含む。
【0132】
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(50)は、蒸留又は分留された塔底液供給流(52)を分離装置(50)の少なくとも1つの第1の気液接触装置から分離装置(60)の少なくとも第2の気液接触装置に通流させて、更に蒸留及び/又は分留するために、前記の少なくとも1つの第2の分離装置(60)に直接的又は間接的に接続する。少なくとも1つの第2の分離装置(60)は、ジクロロヒドリン(類)含有留出物を含むことができる中間沸点留出物(63)を回収するためのポートを有する。
【0133】
前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(60)は、液体残留物供給流(52)に直接接続する。少なくとも1つの第2の気液接触装置(60)は、液体残留物供給流(52)によって第2の気液接触装置(60)に送出された蒸留又は分留液体残留物からストリップされた流れ(63)中のジクロロヒドリン(類)含有生成物を回収するための少なくとも1つの第2のポートを有する。第2の気液接触装置(60)は、好ましくは第2の気液接触装置(60)から液体残留物供給流(64)を取り出すための第3のポートを有する。
【0134】
第3のポートからの液体流(64)は、好ましくは循還導管(65)を経て少なくとも1つの反応器(10)に接続して、蒸留フラクションを含む循還材料供給流が少なくとも1つの第2の気液接触装置(60)から少なくとも1つの反応器(10)に通流する。循還導管(65)は、好ましくは循還材料供給流から重質副生成物を除去するためのパージ(66)を有する。
【0135】
循還導管(65)は、前記の米国仮特許出願第60/923019号に記載されるような、反応器から出たベントガスのための吸収システムを経て、少なくとも1つの反応器(10)に接続させることもできる。
【0136】
一態様において、第2の気液接触装置(60)は、好ましくはカラム、より好ましくは蒸留カラムである。蒸留カラムは、好ましくは還流条件下で分別蒸留を実施するのに適し、還流を実施するための還流ゾーンを有する。流出物流(67)及び(68)は、好ましくはこのような蒸留カラムによって得ることができる留出物である。
【0137】
第2の気液接触装置(60)は、好ましくは第2の気液接触装置(60)の上部から蒸気相流出物を通流させるための第2のベント(68)を有する。
【0138】
前記装置の構成要素が腐蝕性物質に暴露される限り、このような構成要素は、好ましくはプロセス成分による腐蝕に対して抵抗性である材料から製造する。Kirk-Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,2ndEdition(John Wiley and Sons,1966),volume 11,pages 323-327は、塩酸及び塩化水素供給において使用できる金属及び非金属の耐蝕性に関する広範囲にわたる解説を示している。適当な材料の具体例は、WO2006/020234及び米国仮特許出願第60/923055号(出願日:2007年4月12日;発明者:Briggsら;発明の名称:CONVERSION OF A MULTIHYDROXYLATED-ALIPHATIC HYDROCARBON OR ESTER THEREOF TO A CHLOROHYDRIN)(代理人整理番号65851)に開示されており、これらの特許文献を引用することによって本明細書中に組み入れる。具体例としては、タンタルのような金属若しくは適当な金属合金(特にニッケル−モリブデン合金、例えばHastelloy C(登録商標));フルオロエラストマー内張装置;又はガラス内張装置が挙げられる。
【0139】
本発明に係るDCHの回収に比較的穏やかな温度条件を用いる場合には、反応器の下流の装置の1つ又はそれ以上の構成要素(例えば蒸留又は分別カラム(50)、第2の気液接触装置(60)並びに/又はこれらの成分を互いに若しくは他の下流構成要素に連結する構成要素及び導管)にそれほど高価でない耐蝕性材料を使用できる。これにより、償却される生産設備を作るための資本投資コストが削減され、その結果、本発明に係る方法の総コストが削減される。
【実施例】
【0140】
以下の実施例は、説明のためのみに記載するのであって、本発明の範囲を限定することを目的としない。
実施例中で使用する装置
蒸留は、2つの充填床区画を含む、6mmセラミックインターロック(Intalox)サドルが充填されたガラス蒸留カラムを用いて実施する。カラムへの供給は、2つの充填床区画の間で行う。カラムは、ガラスリボイラーと、カラムから出た蒸気流を冷却するための、直列の2つの分縮器(これもガラス製である)を具備する。第1の凝縮器は冷却グリコールで冷却する。第1の凝縮器からの凝縮液の一部は、還流としてカラムに戻し、残りの凝縮液は生成物として収集する。
【0141】
第1の凝縮器からの非凝縮蒸気は、より低温で操作され且つ冷却グリコールで冷却される第2の凝縮器中で凝縮される。第2の凝縮器から出た非凝縮蒸気は、一組の冷却トラップを通ってから、システム全体に真空をもたらす真空ポンプに入る。第2の凝縮器からの第2の凝縮液相流出物を生成物として収集する。
【0142】
実施例1においては、2つのカラムを直列に接続する。これは、第1の蒸留残留物が第2の蒸留カラムに供給されることを意味する。第2の蒸留カラムは、前記蒸留カラムと同じ寸法を有する。この実施例1のデータは、ガラス蒸留カラムから得られた実データに基づくコンピューター・シミュレーションから作成される。
【0143】
実施例2においては、2つのカラムは熱統合配置(heat integrated configuration)で接続される。推奨される配置は、蒸気が分割されない、いわゆるPetlyuk蒸留方式の非断熱的変更と考えられる。推奨される配置は、第1の蒸留カラム、いわゆる予備分留カラムに追加リボイラーが組み込まれるため、Petlyuk蒸留方式とも隔壁蒸留方式とも異なる。この相違が、既知のPetlyuk型蒸留方式において必要とされる予備分留カラムへの主カラムからの蒸気流を排除する。これは、予備分留カラム及び主カラムにおいて異なる圧力で順番に方法を行う。これは、この例で記載される分離方式の主要な利点の1つである。予備分留カラムと主カラムで圧力が異なる条件で古典的なPetlyuk分離方式を実施するには、圧縮機又は送風機が必要である。この実施例2のデータは、ガラス蒸留カラムから得られた実データに基づくコンピューター・シミュレーションから作成される。
【0144】
実施例3においては、実施例1において得られたコンピューター・シミュレーション・データを証明するために、ガラス蒸留カラムから2つの異なる操作条件で実データを得る。
【0145】
供給流混合物(A)の組成及び条件
下記表Iに示した供給流組成及び条件を用いて、各実施例の混合物(a)を供給する:
【0146】
【表1】

【0147】
前記表Iに示されるように、1,3−ジクロロ−2−プロパノールの速度は供給速度5.15kg/時の32.6重量%、即ち1.67kg/時であり、2,3−ジクロロ−1−プロパノールの供給速度は5.15kg/時の7.0重量%、即ち0.36kg/時である。1,3−ジクロロ−2−プロパノールの供給速度(1.67kg/時)と2,3−ジクロロ−1−プロパノールの供給速度(0.36kg/時)の合計は2.03kg/時である。
【0148】
実施例1
この実施例1においては、本発明に従って、前記表Iに示した供給材料の組成及び条件を用いて、DCH回収方法を実施する。第1の蒸留を中真空条件下で実施した後、第2の蒸留を低真空条件下で実施する。
【0149】
実施例1で使用する蒸留カラムのプロセス条件を下記表IIに示す:
【0150】
【表2】

【0151】
表IIIに示した第1の蒸留データは、比較例Aにおいて得られた実データに基づくコンピューター・シミュレーションを用いて得られる。
【0152】
【表3】

【0153】
前記表IIIにおいて、「ベント」は図1の流れ22を意味する。「塔頂留出物」は図1の流れ21を意味する。「塔底液」は図1の流れ23を意味する。アスタリスク「*」は、重量%値が0.01未満であったことを示す。「熱負荷」は、対応する流れに加えられた又は対応する流れから除去されたエネルギーを意味する。数字の前の負号(−)は、対応する流れからのエネルギーの除去を意味する。
【0154】
前記表Iに示されるように、1,3−ジクロロ−2−プロパノールの速度は供給速度4.20kg/時の34.54重量%、即ち1.45kg/時であり、2,3−ジクロロ−1−プロパノールの供給速度は供給速度4.20kg/時の8.30重量%、即ち0.35kg/時である。1,3−ジクロロ−2−プロパノールの供給速度(1.45kg/時)と2,3−ジクロロ−1−プロパノールの供給速度(0.35kg/時)の合計は1.80kg/時である。
【0155】
第1の蒸留工程(b)によって塔頂留出物からDCHを回収する速度は、DCHの供給速度(表Iの説明において示されるように2.03kg/時)とDCH塔底液の供給速度(1.80kg/時)との差、即ち0.23kg/時と計算できる。
【0156】
従って、第1の蒸留におけるDCH回収率は11.3%(0.23÷2.03×100)である。
【0157】
表IIIにおいて「塔底液」と称する蒸留残留物を、コンピュータ・シミュレート第2の蒸留カラムの供給流として用いる。コンピュータ・シミュレート第2の蒸留カラムの圧力は1.3kPaに保持する。得られた結果を、下記表IVに示す。
【0158】
【表4】

【0159】
表IVの前記データから、(1,3−ジクロロ−2−プロパノールの重量%値+2,3−ジクロロ−1−プロパノールの重量%値)÷100×塔頂留出物速度1.46kg/時によって、DCH塔頂留出物速度を1.46kg/時と計算ができる。
【0160】
第2の蒸留カラムへのDCH供給速度は、第1のカラムのDCH塔底液速度に等しい(表IIIに関する説明に示されるように、1.80kg/時)。
【0161】
従って、第2のカラムからのDCH回収率は81.1%(1.46÷1.80×100)である。
【0162】
第1の蒸留工程(b)及び第2の蒸留工程(c)によってDCHが塔頂留出物中に回収される総DCH速度は1.69kg/時(0.23+1.46)である。
【0163】
従って、第1の蒸留と第2の蒸留カラムを組合せて得られたDCH回収率は83.3%(1.69÷2.03×100)である。
【0164】
表III及びIVから、第2の蒸留カラム塔底液と組み合わされた第1の蒸留カラム塔底液の総熱負荷は、0.632kW(0.438+0.194)である。回収された総DCH kg当たりの総蒸留カラム塔底液の総熱負荷は0.374kWh/kg(DCH)(0.632/1.69)である。同様に、第2の蒸留カラム塔頂留出物と組み合わされた第1の蒸留カラム塔頂留出物の総熱負荷は−0.298kW(−0.049−0.249)である。回収された総DCH kg当たりの総蒸留カラム塔頂留出物の総熱負荷は−0.176kWh/kg(DCH)(−0.298/1.69)である。
【0165】
比較例A
この比較例Aにおいては、DCH回収率及び熱負荷を、従来の高真空蒸留法に基づき、実施例1の蒸留装置及び蒸留供給流を用いて測定する。2つの同一蒸留カラムが並列に接続され、各カラムが実施例1において供給された供給材料の1/2を受ける。蒸留条件は、下記表Vに示すように同一の塔底温度を保持しながら凝縮器圧力を低下させ且つ凝縮器温度を調整して、より低い凝縮器圧力を考慮することによって、蒸留中のDCH回収率を最大化するように変更する。
【0166】
【表5】

【0167】
前記蒸留条件下においてガラス蒸留カラムに供給された表IIの供給材料の1/2を用いて得られたデータを下記表VIに示す。
【0168】
【表6】

【0169】
DCH塔頂留出物速度は、0.80kg/時と計算できる(DCH供給速度1.02kg/時−DCH塔底液速度0.21kg/時)。DHC回収率は78.4%と計算できる(0.80kg/時÷1.02kg/時×100)、即ち、実施例1の場合よりも4.8%低い。
【0170】
表VIから、回収された総DCH kg当たりの蒸留カラム塔底液の熱負荷は0.448kWh/kg(DCH)(0.359/0.80)であり、即ち、実施例1の同様な熱負荷の1.20倍(0.448/0.374)である。同様に、回収された総DCH kg当たりの蒸留カラム塔頂留出物の熱負荷は−0.482kWh/kg(DCH)(−0.386/0.80)であり、即ち、実施例1の同様な熱負荷の2.74倍(−0.482/−0.176)である。
【0171】
前述の記載からわかるように、本発明に係る実施例1は、第1の蒸留カラムに高真空条件を課さずに、比較例Aによって得られるよりも高いDCH回収率を得ることができる。比較的低い熱負荷を加えることによって低沸点成分を塔底液中に除去できる中真空条件で第1のカラムを操作することによって、実施例1の方がエネルギー効率が著しく高い。
【0172】
実施例2
この実施例2においては、本発明に従って、前記表Iに示した供給材料組成及び条件を用いて、DCH回収方法を実施する。第1の蒸留を予備分留装置中で中真空条件下で実施した後、主蒸留カラムを低真空条件下で操作する。この実施例2に記載した配置は、図3に示したものである。
【0173】
例は、実データに基づき、コンピューター・シミュレーションを用いてモデル化された。このシミュレーションの流れの結果を、下記表VIIに示す。
【0174】
【表7】

【0175】
流れ53、69、52、13、68、67、63及び64は、図3に示した流れを意味する。
【0176】
Petlyuk主蒸留工程(c)による塔頂留出物へのDCHの回収速度は、DCH供給速度(表Iの説明において示されるように、2.03kg/時)と主蒸留カラム流64のDCH塔底液速度(0.35kg/時)の差、即ち1.68kg/時と計算できる。
【0177】
従って、Petlyuk蒸留プロセスからのDCH回収率は82.7%(1.68÷2.03×100)であり、即ち比較例Aの場合よりも4.4%高い。
【0178】
表VIIIは、68、67及び63の総計塔頂留出物回収率、表VIIのデータに基づくPetlyuk蒸留プロセスの熱負荷及び組成、並びにコンピューター・シミュレーションの結果を示す。
【0179】
【表8】

【0180】
前記表VIIIから、回収された総DCH kg当たりのPetlyuk蒸留カラム塔底液の熱負荷は、0.367kWh/kg(DCH)(0.617/1.68)である。比較例Aには、1.22倍(0.448/0.367)の同様な熱負荷が必要であろう。同様に、回収された総DCH kg当たりのPetlyuk蒸留カラム塔頂留出物の熱負荷は、−0.167kWh/kg(DCH)(−0.281/1.68)である。比較例Aには、2.88倍(−0.482/−0.177)の同様な熱負荷を必要であろう。
【0181】
Petlyukカラムのエネルギー消費は、従来の蒸留方式におけるエネルギー消費に比較して著しく少ない。この例における他の利点には、2つのカラムに対して凝縮器を1つだけ使用することによってユニットの資本コストが削減されることがある。意外なことに、これらの結果は、第1のカラム中で温度を上昇させずに上昇させた圧力において達成された。第1のカラム中の条件は前記例と同じである。上昇させた圧力において予備分留装置を操作できることにより、装置の大きさが縮小され、資本の節約につながる。
【0182】
実施例3
この実施例3においては、本発明に従って、前記比較例Aに記載したのと同じガラスカラム上で、下記表IXに示した供給材料組成及び条件を用いて、DCH回収方法を実施する。第1の蒸留は中真空条件下で実施する。実施例1に記載したコンピューター・シミュレーションと同様な低真空条件下で第2蒸留データを得るために、第1の蒸留カラム塔底液を収集し、同じガラス蒸留カラムへの供給材料として用いる。
【0183】
【表9】

【0184】
前記表IXに示されるように、1,3−ジクロロ−2−プロパノールの速度は、供給速度2.66kg/時の34.7重量%、即ち0.92kg/時であり、2,3−ジクロロ−1−プロパノールの速度は供給速度2.66kg/時5.0重量%、即ち0.13kg/時である。1,3−ジクロロ−2−プロパノールの供給速度(0.92kg/時)と2,3−ジクロロ−1−プロパノールの供給速度(0.13kg/時)の合計は1.05kg/時である。
【0185】
実施例3において用いた蒸留カラムのプロセス条件を、下記表Xに示す。
【0186】
【表10】

【0187】
前記操作条件に基づき、下記表XIに示すような第1の蒸留データが得られる。
【0188】
【表11】

【0189】
前記表XIにおいて、「塔頂留出物」は図1の流れ21を意味する。「塔底液」は図1の蒸留残留物流23を意味する。アスタリスク「*」は、重量%値が0.01未満であったことを示す。
【0190】
前記表XIに示されるように、1,3−ジクロロ−2−プロパノール塔頂留出物の速度は塔頂留出物速度0.33kg/時の30.01重量%、即ち0.10kg/時であり、2,3−ジクロロ−1−プロパノールの速度は塔頂留出物速度0.33kg/時の1.42重量%、即ち0.005kg/時である。1,3−ジクロロ−2−プロパノール供給速度(0.10kg/時)と2,3−ジクロロ−1−プロパノール供給速度(0.005kg/時)の合計は0.10kg/時である。
【0191】
従って、第1の蒸留のDCH回収率は供給材料中のDCHの10.0%(0.10÷1.05×100)である。
【0192】
第1の蒸留のDCH塔底液の速度は前記の同じ方法によって計算できる。前記表XIにおいて、1,3−ジクロロ−2−プロパノール塔底液の速度は塔底液速度2.27kg/時の35.30重量%、即ち0.80kg/時であり、2,3−ジクロロ−1−プロパノールの速度は塔底液速度2.27kg/時の5.6重量%、即ち0.13kg/時である。第1の蒸留のDCH塔底液の速度は1,3−ジクロロ−2−プロパノール塔底液速度(0.80kg/時)と2,3−ジクロロ−1−プロパノール塔底液速度(0.13kg/時)の合計、即ち0.93kg/時である。
【0193】
実施例1と同様な直列配置の2つのカラムをモデル化するために、実施例3における第2の蒸留カラムの供給材料組成を、表XIにおいて「塔底液」と称する実施例3の第1の蒸留残留物と同様な組成を有するようにした。実施例3の第2のカラム圧も、表X中に示すように、実施例1の第2カラム圧と同様な1.2kPaに保つ。データ及び結果を下記表XIIに示す。
【0194】
【表12】

【0195】
表XIIの前記データから、(1,3−ジクロロ−2−プロパノールの重量%値(82.5重量%)+2,3−ジクロロ−1−プロパノールの重量%値(12.9重量%))÷100×塔頂留出物速度0.90kg/時によって、DCH塔頂留出物速度を0.86kg/時と計算できる。
【0196】
第2の蒸留へのDCH供給速度は、第1の蒸留の塔底液速度に等しい(0.93kg/時)。従って、第2のカラムからのDCH回収率は92.4%(0.86÷0.93×100)である。
【0197】
第1の蒸留カラムからのDCH塔頂留出物速度(0.10kg/時)と第2の蒸留カラムからのDCH塔頂留出物速度(0.86kg/時)の合計は0.96kg/時(0.10+0.86)である。
【0198】
第1の蒸留と第2の蒸留カラムを組合せて得られた総DCH回収率は91.4%(0.96÷1.05×100)であり、これは比較例Aから得られる総DCH回収率(78.4%)よりも13.0%高い。
【0199】
前記実施例3からわかるように、結果は、実施例1において示されたコンピューター・シミュレーションの結果を裏付けている。
【0200】
実施例3において得られたDCH回収率は、実施例1の場合よりも高く、それは主に、より高温で操作される実施例3の蒸留カラムによる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジクロロヒドリン(類)、クロロヒドリン(類)のエステル(類)、モノクロロヒドリン(類)並びに/或いはマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)を含む1種若しくはそれ以上の化合物、約45重量%未満の濃度の水並びに、任意的に、塩素化剤(類)、触媒(類)、触媒(類)のエステル(類)及び/又は重質副生成物(類)を含む1種若しくはそれ以上の物質を含む混合物からジクロロヒドリンを回収する方法であって、
(a)ジクロロヒドリン(類)、クロロヒドリン(類)のエステル(類)、モノクロロヒドリン(類)並びに/或いはマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)を含む1種若しくはそれ以上の化合物、約43重量%未満の濃度の水並びに、任意的に、塩素化剤(類)、触媒(類)、触媒(類)のエステル(類)及び/又は重質副生成物(類)を含む1種若しくはそれ以上の物質を含む混合物を供給し;
(b)工程(a)の混合物を1つ又はそれ以上の単位操作で蒸留又は分留することによって工程(a)の混合物から混合物中に存在するジクロロヒドリン(類)及び他の低沸点成分を含む低沸点フラクションを分離させて、蒸留又は分留の残留物を含む高沸点フラクションを形成し;
(c)工程(b)で生成された高沸点フラクションを、工程(b)の混合物から蒸留又は分留することによって、高沸点フラクションを接触させ且つ前記混合物に存在する高沸点フラクション成分からジクロロヒドリン(類)を分留させて、蒸留又は分留の残留物を含む更に高沸点のフラクションとジクロロヒドリン(類)を含む蒸気フラクションを形成し;そして
(d)工程(b)の低沸点フラクションの少なくとも一部及び工程(c)の蒸気フラクションを回収する
ことを含んでなる方法。
【請求項2】
工程(c)において生成された蒸気フラクションを予め蒸留又は分留することなく、工程(b)によって生成された低沸点フラクションを、工程(c)において生成された蒸気フラクションと合することを含む請求項1に記載の方法。
【請求項3】
少なくとも1種の塩素化剤が工程(a)において供給される混合物中に存在し;且つ少なくとも1種の塩素化剤が塩化水素を含む請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
混合物(a)中に存在する塩素化剤(類)の少なくとも約50%を、工程(c)の前に混合物(a)から除去する請求項3に記載の方法。
【請求項5】
工程(a)において供給される混合物中のジクロロヒドリン(類)の総量の約10〜約95%が、工程(b)の低沸点フラクション中に回収される請求項1に記載の方法。
【請求項6】
工程(b)又は(c)を、約0.1kPa〜約0.2MPaの範囲の圧力において、実施し且つ工程(b)又は(c)における高沸点フラクションの温度が約50〜約169℃の範囲である請求項1に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種のモノクロロヒドリン及び/又はそのエステルが、工程(a)において供給される混合物中及び工程(b)の高沸点フラクション中に存在し;且つ少なくとも1種のマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物及び/又はそのエステルが、工程(a)において供給される混合物中及び工程(b)の高沸点フラクション中に存在する請求項1に記載の方法。
【請求項8】
工程(a)において供給される混合物が、モノクロロヒドリン(類)及び/若しくはそのエステル(類)並びに/又はマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/若しくはそのエステル(類)を塩化水素化する触媒を更に含み;且つ触媒が、工程(b)の間、最高沸点のジクロロヒドリンの沸点よりも高い沸点を工程(b)の間有する、少なくとも1種のカルボン酸、少なくとも1種のカルボン酸の少なくとも1種のエステル又はそれらの組合せである請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記触媒が、(i)アミン、アルコール、ハロゲン、スルフヒドリル、エーテル、エステル又はそれらの組合せからなる群から選ばれた、少なくとも1つの官能基を含む炭素数2〜約20のカルボキシレート誘導体(前記官能基の酸官能基への結合はα−炭素ほど近くない)又はそれへの前駆体であり;(ii)ジクロロヒドリン(類)より低揮発性で;且つ(iii)へテロ原子置換基を含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
工程(b)の高沸点フラクションを蒸留又は分留しながら、ストリッピング剤も工程(b)の同高沸点フラクション中に導入して、蒸留又は分留されている高沸点フラクションと接触させ且つ高沸点フラクションからジクロロヒドリン(類)をストリップする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
工程(a)において供給される混合物が液相にある請求項1に記載の方法。
【請求項12】
工程(a)の混合物が水を含み;且つ工程(b)が、
(b1)工程(a)の混合物からジクロロヒドリン(類)及び水の共沸混合物を気化させて、工程(a)の混合物から少なくともジクロロヒドリン(類)及び水を含む低沸点フラクションを分離させ;そして
(b2)工程(b1)の低沸点フラクションを凝縮させて、液体水性相とジクロロヒドリン(類)を含む液体有機相を形成する
ことを含む請求項1に記載の方法。
【請求項13】
追加のマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)を凝縮工程(b2)に導入する請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程(b)が、
(b3)工程(b2)の液体有機相から工程(b2)の液体水性相を分離させ;そして
(b4)工程(b3)の液体水性相の少なくとも一部を工程(b1)及び/又は工程(b2)に循還させる
ことを更に含む請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程(b)の高沸点フラクション中の重質副生成物の量が工程(a)において供給する混合物中の重質副生成物の量の110%を超えない請求項1に記載の方法。
【請求項16】
ジクロロヒドリン(類)を、工程(b)の低沸点フラクション及び/又は工程(d)の蒸気フラクションから回収する請求項1に記載の方法。
【請求項17】
工程(d)において回収された低沸点フラクション及び蒸気フラクションを、任意的に、液−液相分離による以外に、又は、任意的に、蒸留若しくは分留による以外に、ジクロロヒドリン(類)の追加の精製を行わずに、エポキシ化に供してエピクロロヒドリンを形成する請求項1に記載の方法。
【請求項18】
工程(a)において供給される混合物が、塩素化剤の存在下において、モノクロロヒドリン(類)及び/又はそのエステル(類)並びに/又はマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)の塩化水素化によって製造されるか或いは由来する請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記塩化水素化工程を液相中で、混合物中の最低沸点のクロロヒドリンの沸点より低い温度において実施し、且つ工程(a)において供給される混合物が塩化水素化工程の液相流出物の少なくとも一部を含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記塩素化剤が塩化水素であり;且つ前記塩化水素化を、過大気圧分圧の塩化水素の供給源を塩素化剤として用いて実施する請求項18に記載の方法。
【請求項21】
塩化水素の少なくとも一部を、工程(b)の前に液体流出物から、液体流出物中に溶解された塩化水素の逃散を可能にする圧力降下によって除去し;且つ1%未満のジクロロヒドリンを、工程(b)の前に、液相流出物から除去する請求項20に記載の方法。
【請求項22】
塩素化剤の少なくとも一部を工程(b)の間に混合物から除去して、前記塩化水素化工程に循還させ;且つ工程(c)において処理された高沸点フラクションの少なくとも一部を塩化水素化工程に循還させる請求項18に記載の方法。
【請求項23】
前記塩化水素化を、モノクロロヒドリン(類)及び/又はそのエステル(類)を塩化水素化する触媒(類)の存在下で、実施し、且つ/或いはマルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)並びに触媒(類)が混合物(a)中に存在する請求項18に記載の方法。
【請求項24】
前記方法の工程の全てを互いに同時に実施し、且つ前記方法を所定の時間、連続的に実施する請求項18に記載の方法。
【請求項25】
塩化水素化中に生成されたジクロロヒドリン(類)の少なくとも約95%を工程(d)において回収する請求項22に記載の方法。
【請求項26】
マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)からジクロロヒドリン(類)を製造するのに適した装置であって、
(1)少なくとも1つの反応器;
(2)第1の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用するための底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第1の気液接触装置を含む少なくとも1つの第1の分離装置;並びに
(3)第2の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用するための底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第2の気液接触装置を含む少なくとも1つの第2の分離装置
を含んでなり、
前記の少なくとも1つの反応器(10)が前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)に直接的又は間接的に接続されて、反応器流出物供給流(13)が前記の少なくとも1つの反応器(10)から前記の少なくとも1種の第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に、蒸留又は分留のために通流され;
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)が前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)に直接的又は間接的に接続されて、蒸留又は分留液体残留物供給流(23)が、前記の少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置から前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)の少なくとも1つの第2の気液接触装置に、蒸留又は分留のために通流され;前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)が、ジクロロヒドリン(類)含有留出物を回収する第1のポート(22)を有し;そして
前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)の少なくとも1つの第2の気液接触装置が液体残留物供給流(23)に直接的又は間接的に接続され、前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)が、液体残留物供給流(21)によって第2の気液接触装置(30)に送出された蒸留又は分留液体残留物からストリップされたジクロロヒドリン(類)含有生成物を回収するための少なくとも1つの第2のポート(31)を有する
装置。
【請求項27】
前記の少なくとも1つの反応器(10)から反応器流出物供給流(13)を通流させるための接続が、前記の少なくとも1つの反応器(10)からの液相供給流を通流させるように適応され;前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)が少なくとも1つのフラッシュ容器を含み、且つ前記の少なくとも1つの反応器(10)が前記の少なくとも1つのフラッシュ容器によって前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続され、それによって前記反応器(10)から通流された供給流がフラッシュ容器中で、液相に対する圧力を低下させることによって蒸気相と液相とに分離され、且つ分離された液相が蒸留又は分留のために分離装置(20)の第1の気液接触装置に導入され;前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)が循還導管(33)によって前記の少なくとも1つの反応器(10)に接続されて、蒸留−及びストリッパー−処理フラクションを含む循還供給流が、前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)から前記の少なくとも1つの反応器(10)に通流される請求項26に記載の装置。
【請求項28】
マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素化合物(類)及び/又はそのエステル(類)から、ジクロロヒドリン(類)を製造するのに適した装置であって、
(1)少なくとも1つの反応器;
(2)第1の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用するための底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第1の気液接触装置を含む少なくとも1つの第1の分離装置;並びに
(3)第2の気液接触装置内において物質に底部端から頂部端への漸減温度勾配を適用するための底部端及び頂部端を有する少なくとも1つの第2の気液接触装置を含む少なくとも1つの第2の分離装置
を含んでなり、前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)から出た蒸気流が前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)の上部においてこの分離装置に入り、前記の少なくとも1つの第2の分離装置(30)の下部からの液体流の一部が前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)に戻される装置。
【請求項29】
前記分離装置(20)の底部端から出た液体流が前記第2の分離装置(30)の底部において前記第2の分離装置(30)にも入り;前記流出物流が、前記第2の分離装置(30)上の少なくとも3つの位置(少なくとも1つは、少なくとも1つの第1の分離装置(20)からの蒸気が入る位置より上方であり;少なくとも1つは、第1の分離装置(20)からの液体が入る位置より下方の第2の分離装置(30)の底端部であり;少なくとも1つは、第1の分離装置(20)から第2の分離装置(30)に送り込まれるこれらの流れが入る位置の中間の第2の分離装置(30)上に位置する)で前記の少なくとも1つの第2の分離装置(90)から出る請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記の少なくとも1つの反応器(10)から反応器流出物供給流を通流させる接続が、前記の少なくとも1つの反応器(10)からの液相供給流を通流させるように適応され;前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)が少なくとも1つのフラッシュ容器を含み、且つ前記の少なくとも1つの反応器(10)が前記の少なくとも1つのフラッシュ容器によって前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続され、それによって前記反応器(10)から通流された供給流がフラッシュ容器中で、液相に対する圧力を低下させることによって蒸気相と液相とに分離され且つ分離された液相が蒸留又は分留のために第1の分離装置(20)の第1の気液接触装置に導入され;前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)が循還導管によって前記の少なくとも1つの反応器(10)に接続されて、蒸留−及びストリッパー−処理フラクションを含む循還供給流が、前記の少なくとも1つの第2の気液接触装置(30)から前記の少なくとも1つの反応器(10)に通流される請求項28に記載の装置。
【請求項31】
重質副生成物を除去するためのパージを循還導管中に更に含み、;且つ前記の少なくとも1つの分離装置(2)の少なくとも1つの第1の気液接触装置中の圧力を周囲大気圧未満に低下させるために、前記の少なくとも1つの分離装置(2)の少なくとも1つの第1の接触装置に真空を適用する手段を更に含み;且つ真空を適用するための前記手段がスチームジェットエジェクターである請求項26又は28に記載の装置。
【請求項32】
前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置の頂部端が、少なくとも1つの第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置の上部に気体を除去するためのベントを有し;前記の少なくとも1つの第1の分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置が充填蒸留カラムである請求項26又は28に記載の装置。
【請求項33】
前記の第2の気液接触装置(30)がカラムを含み、前記の少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つのカラム及び/又は前記第2の気液接触装置(30)が、還流を実施するための還流ゾーンを有する、還流条件下で分別蒸留を実施するのに適した蒸留カラムである請求項26又は28に記載の装置。
【請求項34】
液液相分離装置が、凝縮液体有機相から凝縮液体水性相を分離するために、且つ液体水性相を液液相分離装置から蒸留カラムの還流ゾーンに通流させるために、蒸留カラム(単数又は複数)の還流ゾーンに直接、又は冷却装置を経て接続された、請求項26又は28に記載の装置。
【請求項35】
前記装置が、前記の少なくとも1つの反応器(10)及び/又は前記の少なくとも1つのカラム(20)に接続された、1つ又はそれ以上の蒸留カラム、抽出カラム、吸収カラム、リボイラー及び凝縮器並びにそれらの組合せを更に含む請求項29又は31に記載の装置。
【請求項36】
前記の少なくとも1つの分離装置(20)が、前記の少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に通流された供給流(単数又は複数)を加熱するために、前記の少なくとも1つの分離装置(20)の少なくとも1つの第1の気液接触装置に接続されたリボイラーを含む請求項29又は31に記載の装置。
【請求項37】
前記の少なくとも1つの反応器(10)がプラグフロー型反応器を含み;且つ前記の第2の気液接触装置(30)がスチームストリッパーである請求項29又は31に記載の装置。
【請求項38】
前記の少なくとも1つの反応器(10)が、反応器から出たベントガスのための吸収システムを含み;且つ前記の少なくとも1つの反応器(10)から出たベントガスのための吸収システムに使用される吸収液が、マルチヒドロキシル化脂肪族炭化水素類、そのエステル類、有機酸触媒又は前記第2の気液接触装置(30)からの循還流を含む請求項29又は31に記載の装置。

【公表番号】特表2011−516553(P2011−516553A)
【公表日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−504042(P2011−504042)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【国際出願番号】PCT/US2009/037487
【国際公開番号】WO2009/126415
【国際公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(502141050)ダウ グローバル テクノロジーズ リミティド ライアビリティ カンパニー (1,383)
【Fターム(参考)】