説明

ジメチルクロロシランの製造方法

【解決手段】a)パラジウム、b)3級アミン及びc)水素以外の官能基を少なくとも1つ有するフェニル基を1つ以上有する3級ホスフィンの混合触媒下で、1,2−テトラメチルジクロロジシランと塩化水素とを反応させる下記一般式
H−Si−(CH32Cl
で表されるジメチルクロロシランの製造方法。
【効果】本製造方法により、低温下で塩化水素と接触しても触媒機能が失活することなく、1,2−テトラメチルジクロロジシランから高収率でジメチルクロロシランが製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルクロロシランの製造方法に関し、更に詳述すると、a)パラジウム、b)3級アミン及びc)水素以外の官能基を少なくとも1つ有するフェニル基を1つ以上有する3級ホスフィンの混合触媒下で、1,2−テトラメチルジクロロジシランと塩化水素とを反応させるジメチルクロロシランの製法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅触媒を用いて250〜300℃で珪素及びクロロメタンからミュラーロショウ(Mueller−Rochow)によるメチルクロロシラン直接合成において副生成物としてジシランが生じる。主に、1,1,2,2−テトラクロロジメチルジシラン、1,1,2−トリクロロトリメチルジシラン、1,1−ジクロロテトラメチルジシラン、1,2−ジクロロテトラメチルジシラン、クロロペンタメチルジシラン、ヘキサメチルジシランが生じる。これらの内、1,1,2,2−テトラクロロジメチルジシラン、1,1,2−トリクロロトリメチルジシラン及び1,1−ジクロロテトラメチルジシランは、カラス等(非特許文献1:R.Calas; J.Organometall.Chem.225,117,1982)において、3級アミン又はアミドによって、塩化水素との接触反応により、モノシランに切断が可能である。主生成物として、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルジクロロシランが生じる。
【0003】
1,2−ジクロロテトラメチルジシランは、前記触媒及び塩化水素では切断されない。特開昭54−9228号公報(特許文献1)の明細書において、テトラキストリフェニルホスフィンパラジウム(0)を1,2−ジクロロテトラメチルジシランの切断のための触媒として使用することが提案されているが、ジメチルクロロシランの空時収量は非常に僅かである。また、特開平8−81477号公報(特許文献2)の明細書では、A)パラジウム(0)及び白金(0)及びB)3級アミン、カルボン酸アミド、アルキル尿素、3級ホスフィン、燐酸アミド、4級ハロゲン化アンモニウム、4級ハロゲン化ホスホニウム等の混合触媒を使用しているが、ジメチルクロロシランの空時収量は、非常に僅かである。
【0004】
また、上記特許文献2の実施例にて使用している3級ホスフィンとして、トリフェニルホスフィンが使用されている。このトリフェニルホスフィンは、パラジウムと塩化水素の存在下、温度が90℃以下になると、trans−ジクロロビストリフェニルホスフィンパラジウム(II)が生成され、触媒機能が低下してしまうことが分かった。そのため、反応終了時に、系内温度を下げる前に、系内に残存する塩化水素を除去する必要があった。
【0005】
しかし、塩化水素を完全に除去することは困難であり、触媒機能が徐々に低下すると考えられた。また、トリフェニルホスフィンを使用した場合、トリフェニルホスフィンが熱分解することで、ベンゼンが副生される。このベンゼンとジメチルクロロシランとは別に副生されるジメチルジクロロシランと沸点が近いため、分離が困難となり、分離のためには、段数の多い蒸留塔のような分離装置が必要となると考えられた。
【0006】
【特許文献1】特開昭54−9228号公報
【特許文献2】特開平8−81477号公報
【非特許文献1】J.Organometall.Chem.225,117,1982
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、長期間触媒機能を低下させることなく、しかも1,2−テトラメチルジクロロジシランを高収率で切断し、シリコーン工業界において重要な位置を占めるモノマー原料であるジメチルクロロシランを高収率で供給できるジメチルクロロシランの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、a)パラジウム、b)3級アミン及びc)水素以外の官能基を少なくとも1つ有するフェニル基を1つ以上有する3級ホスフィンの混合触媒下で、1,2−テトラメチルジクロロジシランと塩化水素とを反応させることで、触媒機能を低下させることなく、ジメチルクロロシランを高収率で提供することが可能になることを見いだし、本発明をなすに至ったものである。
【0009】
従って、本発明は、
[1]a)パラジウム、
b)3級アミン及び
c)水素以外の官能基を少なくとも1つ有するフェニル基を1つ以上有する3級ホスフィン
の混合触媒下で、1,2−テトラメチルジクロロジシランと塩化水素とを反応させることを特徴とする下記一般式
H−Si−(CH32Cl
で表されるジメチルクロロシランの製造方法、
[2]触媒成分a)が、酸化段階0のパラジウム又は酸化パラジウム(II)の金属の形又は粉末担体上の金属である[1]記載の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本製造方法により、低温下で塩化水素と接触しても触媒機能が失活することなく、1,2−テトラメチルジクロロジシランから高収率でジメチルクロロシランが製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明で使用する1,2−テトラメチルジクロロジシランには、1,1,2,2−テトラクロロジメチルジシラン、1,1,2−トリクロロトリメチルジシラン、1,1−ジクロロテトラメチルジシラン、クロロペンタメチルジシラン、ヘキサメチルジシラン、ジメチルジクロロシラン、メチルジクロロシラン、トリクロロメチルシラン、エチルメチルジクロロシラン、炭化水素、クロロ炭化水素、シロキサン及びトリシランを含有していても良い。1,2−テトラメチルジクロロジシランの含有量は、有利に60〜80質量%、特に60〜100質量%が望ましいが、それ以上、それ以下でも使用できる。
【0012】
上記1,2−テトラメチルジクロロジシランと反応させて使用する塩化水素は、ガス状で供給することが好ましい。塩化水素の供給量は、1,2−テトラメチルジクロロジシラン1モルに対し、塩化水素1〜4モル量、特に1〜2モル量を使用するのが有利である。塩化水素は該当する温度及び圧力ではガス状で存在するので、容易にジメチルクロロシランより分離可能である。市販の塩化水素を使用することができる。
【0013】
次に、上記1,2−テトラメチルジクロロジシランと塩化水素を反応させる際に用いる触媒a成分としては、酸化段階0のパラジウム又は酸化パラジウム(II)を金属の形又は粉末担体上の金属として使用することができる。特に有利であるのは、粉末担体上に保持された金属である。
【0014】
担体材料としては、他の金属成分を含有しない有機物が有利である。特に有利であるのは、活性炭である。触媒a成分として特に有利であるのは活性炭上のパラジウムである。また、担体上の金属(パラジウム)濃度は、担体及び金属の総質量に対し、1〜10質量%が好ましく、より好ましくは5〜10質量%である。多すぎると触媒活性が低下する場合があり、少なすぎると投入量が増加するので撹拌効率が低下する場合がある。
【0015】
触媒b成分の3級アミンとしては、トリブチルアミン、トリオクチルアミン、トリフェニルアミンが挙げられる。
【0016】
触媒c成分の3級ホスフィンは、水素以外の官能基を少なくとも1つ有するフェニル基を1つ以上有するものであり、水素以外の官能基としては、メチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基等のアルコキシ基、メチレン基等のアルキレン基等が挙げられ、具体的には、トリトリルホスフィン、トリベンジルホスフィン、トリスメトキシフェニルホスフィンが例示される。
【0017】
本発明においては、上述した触媒a〜c成分を組み合わせて用いることにより、1,2−テトラメチルジクロロジシランと塩化水素とを反応させる際、低温下で塩化水素と接触させても触媒機能が低下しない、ジメチルクロロシランが高収率で得られる、副生するジメチルジクロロシランの分離が容易となる等の点から有利な効果を得ることができる。この場合、触媒a〜c成分の組み合わせとしては、特に有利には担体上のパラジウム金属、トリブチルアミン及びトリトリルホスフィンの組み合わせを使用する。
【0018】
触媒成分aは挿入されるジシラン混合物の質量に対し、パラジウム金属換算で0.0025〜0.5質量%、特に0.0025〜0.1質量%の量で使用するのが好ましい。触媒成分aの量が少なすぎると反応性が低下し、反応時間が長くなる場合があり、多すぎるとコスト的に不利となる場合がある。触媒成分bは、挿入されるジシラン混合物の質量に対し、0.75質量%以上、特に1.5質量%以上で使用するのが好ましい。上限は特に制限されないが、5.0質量%以下、特に3.0質量%以下が好ましい。また、触媒成分cは、挿入されるジシラン混合物の質量に対し、0.1質量%以上、特に0.2質量%以上で使用するのが好ましく、これも上限は特に制限されないが、1.0質量%以下、特に0.7質量%以下が好ましい。
【0019】
本発明の製造方法は、段階的に、半連続的に、又は完全連続的に実施できる。本発明における反応温度は、110〜140℃が望ましく、特に有利であるのは110〜130℃である。反応は、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。この場合、反応温度が高すぎるとジメチルクロロシランが脱水素され、ジメチルジクロロシランに変換されるので、ジメチルクロロシランの収量が低下する場合がある。また、反応温度が低すぎると、反応が開始されず、未反応の塩化水素が多く放出されるため非効率となる場合がある。
【0020】
反応終了後、触媒a成分は、高沸点残渣から、例えば遠心分離や濾過によって、容易に分離することができる。
【実施例】
【0021】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0022】
[実施例1]
蒸留装置及び塩化水素のガス供給管を上部に備える500mLのガラス製フラスコ中に、触媒である5%パラジウムカーボン2.0g、トリトリルホスフィン1.3g、トリブチルアミン3.0g及び1,1−テトラメチルジクロロジシラン3.0質量%、1,2−テトラメチルジクロロジシラン57.9質量%を主成分とするジシランの混合物を200g挿入した。この混合物を窒素雰囲気下、常圧で、撹拌しながら、70℃まで加熱し、70℃の間、撹拌下で塩化水素を毎時10.8Lで導入した。2時間の反応時間後に、溜出物は得られなかった。
【0023】
次いで、反応生成物を反応フラスコの塔上から溜去し、凝縮し、且つガスクロマトグラフィー(島津製作所製 GC−2010)にて分析した。
続いて、2時間の反応時間後、塩化水素の供給を停止し、フラスコ内に残った混合物を、窒素雰囲気下、常圧で、攪拌しながら、115℃まで加熱し、115℃の間、攪拌下で再び塩化水素を毎時10.8Lで導入した。反応生成物を反応フラスコの塔上から溜去し、凝縮し、且つガスクロマトグラフィー(島津製作所製 GC−2010)にて分析した。2時間の反応時間後に溜出物169.6gが次の組成で得られた。
ジメチルクロロシラン: 31.4質量%
ジメチルジクロロシラン: 55.5質量%
メチルジクロロシラン: 1.8質量%
トリクロロメチルシラン: 4.8質量%
低温で塩化水素と接触させても、触媒機能を低下させることなく、再び所要の反応温度に上げることで、目的のジメチルクロロシランを高収率で得ることができる。
【0024】
[比較例1]
蒸留装置及び塩化水素のガス供給管を上部に備える500mLのガラス製フラスコ中に、触媒である5%パラジウムカーボン2.0g、トリフェニルホスフィン1.3g、トリブチルアミン1.5g及び1,1−テトラメチルジクロロジシラン5.0質量%、1,2−テトラメチルジクロロジシラン69.7質量%を主成分とするジシランの混合物を200g挿入した。この混合物を窒素雰囲気下、常圧で、撹拌しながら、90℃まで加熱し、90℃の間、撹拌下で塩化水素を毎時9.4Lで導入した。2時間の反応時間後に、溜出物は得られなかった。
【0025】
次いで、2時間の反応時間後、塩化水素の供給を停止し、フラスコ内に残った混合物を、窒素雰囲気下、常圧で、攪拌しながら、130℃まで加熱し、130℃の間、攪拌下で再び塩化水素を毎時11.4Lで導入した。反応生成物を反応フラスコの塔上から溜去し、凝縮し、且つガスクロマトグラフィー(島津製作所製 GC−14A)にて分析した。2時間の反応時間後に溜出物0.5gが次の組成で得られた。
ジメチルジクロロシラン: 3.0質量%
トリクロロメチルシラン: 2.5質量%
1,2−テトラメチルジクロロジシラン: 89.7質量%
目的のジメチルクロロシランは、検出されなかった。
【0026】
[比較例2]
蒸留装置及び塩化水素のガス供給管を上部に備える500mLのガラス製フラスコ中に、触媒である5%パラジウムカーボン2.0g、トリフェニルホスフィン1.3g、トリブチルアミン1.5g及び1,1−テトラメチルジクロロジシラン5.0質量%、1,2−テトラメチルジクロロジシラン69.7質量%を主成分とするジシランの混合物を200g挿入した。この混合物を窒素雰囲気下、常圧で、撹拌しながら、90℃まで加熱し、90℃の間、撹拌下で塩化水素を毎時9.4Lで導入した。2時間の反応時間後に、溜出物は得られなかった。
【0027】
次いで、2時間の反応時間後、塩化水素の供給を停止し、フラスコ内に残った混合物を、窒素雰囲気下、常圧で、攪拌しながら、30℃まで冷却し、フラスコ内に残った混合物に、触媒である5%パラジウムカーボン2.0g、トリフェニルホスフィン1.3g、トリブチルアミン1.5gを追加した。再びこの混合物を窒素雰囲気下、常圧で、撹拌しながら、130℃まで加熱し、130℃の間、攪拌下で再び塩化水素を毎時11.4Lで導入した。反応生成物を反応フラスコの塔上から溜去し、凝縮し、且つガスクロマトグラフィー(島津製作所製 GC−2010)にて分析した。2時間の反応時間後に溜出物7.0gが次の組成を有して得られた。
ジメチルジクロロシラン: 48.5質量%
メチルジクロロシラン: 1.9質量%
トリクロロメチルシラン: 22.6質量%
90℃以下の低温下で、塩化水素と接触させると、再び触媒を添加しても、反応性が低く、且つ目的のジメチルクロロシランは、得ることはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)パラジウム、
b)3級アミン及び
c)水素以外の官能基を少なくとも1つ有するフェニル基を1つ以上有する3級ホスフィン
の混合触媒下で、1,2−テトラメチルジクロロジシランと塩化水素とを反応させることを特徴とする下記一般式
H−Si−(CH32Cl
で表されるジメチルクロロシランの製造方法。
【請求項2】
触媒成分a)が、酸化段階0のパラジウム又は酸化パラジウム(II)の金属の形又は粉末担体上の金属である請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−201728(P2008−201728A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40256(P2007−40256)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】