説明

ジャケット中に形状安定剤を含んだ引張部材およびポリマジャケットアセンブリ

一例のアセンブリが少なくとも一つの長尺の引張部材(26)を含む。ジャケット(34)が引張部材(32)の少なくとも一部を被覆する。ポリマジャケット(34)は、アセンブリが高温条件に曝された場合に引張部材近傍のジャケット材料の維持を促進するメラミンベースの形状安定剤を含んだポリマ材料を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータ荷重支持部材、乗用コンベヤの移動手すり、乗用コンベヤに用いられる駆動ベルト等の、ポリマジャケットアセンブリに関し、特に、形状安定剤を備えたポリマジャケットアセンブリに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、エレベータ荷重支持部材すなわちロープ機構や、乗用コンベヤ等の装置用駆動ベルト、乗用コンベヤの移動手すりなど、長尺の可撓性アセンブリには様々な用途が存在する。こうしたアセンブリはポリウレタンジャケットで被覆される複数のコードを考慮して設計される。例えば、特許文献1および特許文献2は、エレベータシステム内のエレベータかごおよびつり合いおもりの懸垂用のベルトを示す。一例の乗用コンベヤの移動手すりの構造が特許文献3に示される。一例の乗用コンベヤの駆動ベルトが特許文献4に示される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6295799号明細書
【特許文献2】米国特許第6739433号明細書
【特許文献3】米国特許第4982829号明細書
【特許文献4】米国特許第6540060号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
こうしたアセンブリでは、アセンブリ付近で火災が起きた場合などの極度に高い温度条件下でポリマジャケットが溶融する場合がある。溶融したジャケット材料は他のシステムコンポーネントや構造体に不必要に滴り落ちる場合がある。例えば、エレベータ荷重支持部材の溶融したジャケット材料はエレベータかごの頂部やエレベータピットの床面に滴り落ちる可能性がある。乗用コンベヤの場合、移動手すりが欄干もしくはコンベヤのトラスに関連するその他のコンポーネント上に落ちる可能性がある。同様に、乗用コンベヤの駆動ベルトが溶融し、駆動コンポーネント上に滴り落ちる場合がある。
【0005】
火災時等の高温条件の際にポリマジャケット材料のこうした滴下や流出を最小限に抑えるもしくは回避できることが有用である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一例のアセンブリが少なくとも一つの長尺のコード引張部材を含む。ジャケットが引張部材の少なくとも一部を被覆する。ジャケットは、アセンブリが高温条件に曝された場合に引張部材近傍のジャケット材料の維持を促進するメラミンベースの形状安定剤(geometry stabilizer)を含んだポリマ材料を備える。
【0007】
ポリマジャケットにより少なくとも部分的に被覆された少なくとも一つの長尺のコード引張部材を有するアセンブリの一例の製造方法が、メラミンベースの形状安定剤と基礎ジャケット樹脂とを混合して、混合材料のマスターバッチを用意することを含む。その混合材料が基礎ポリマと混合されてジャケット材料を提供する。次いでジャケット材料が所望の形状のジャケットに成形される。
【0008】
本発明の様々な特徴および利点が以下の詳細な説明から当業者にとって明らかとなるであろう。詳細な説明に添付の図面を、以下のように簡単に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例により設計された荷重支持部材を含むエレベータシステムの選択された部分の概略図。
【図2】一例のエレベータ荷重支持部材アセンブリの概略端面図。
【図3】別の例のエレベータ荷重支持部材アセンブリの概略端面図。
【図4】本発明の実施例により設計された駆動ベルトおよび移動手すりを含んだ乗用コンベヤの概略図。
【図5】一例の駆動ベルトの構成を示す概略図。
【図6】一例の移動手すりの構成を示す概略図。
【図7】本発明の実施例により設計された一例のアセンブリの製造方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は一例のエレベータシステム20の選択された部分を概略的に示す。エレベータかご22およびつり合いおもり24が荷重支持アセンブリ26によって懸架される。一例では、荷重支持部材アセンブリ26は複数のフラットベルトを備える。別の例では、荷重支持アセンブリ26は複数の円形ロープを備える。
【0011】
荷重支持アセンブリ26がエレベータかご22およびつり合いおもり24の重量を支持し、綱車28,30に沿って移動することにより、エレベータかご22の所望の位置への移動を容易にする。綱車の一つは、エレベータかご22を所望のように移動および配置させるように、エレベータ装置により周知の方法で駆動される駆動綱車である。一例のもう一つの綱車は遊び車である。
【0012】
図2は一例の荷重支持アセンブリ26の一例のフラットベルトの構造を概略的に示す端面図である。この例では、フラットベルトは、複数の長尺のコード引張部材32と、引張部材32と接触するポリマジャケット34と、を含む。この例では、ジャケット34が引張部材32を被覆する。一例では、引張部材32は、スチール等の巻かれた金属コードを備える。一例ではポリマジャケット34は熱可塑性エラストマを備える。一例では、ジャケット34は熱可塑性ポリウレタンを備える。
【0013】
別の例を図3に概略的に示す。荷重支持アセンブリ26の一部として用いられるロープの端面図が少なくとも1つの引張部材32と、ポリマジャケット34と、を含む。図3の例では、上記のものと同一の材料が用いられる。
【0014】
図4は一例の乗用コンベヤ40を概略的に示す。この例では、複数の踏段42が乗降口44,46間で乗員を運ぶように周知のように移動する。コンベヤ40を移動する際に乗客が掴まるための移動手すり48が設けられる。
【0015】
図6に示すように、移動手すり48はポリマジャケット34で少なくとも部分的に被覆されたスチールコードなどの複数の引張部材32を含む。この例のポリマジャケットはグリップ面および移動手すり48の本体を形成する。
【0016】
図4の例は、踏段42を所望の方向に推進させる駆動機構50を含む。モータ52が駆動滑車54を回転させて駆動ベルト56を移動させる。図5に示すように、一例の駆動ベルト56は、ジャケット34で被覆された複数の長尺のコード引張部材32を有する。ジャケット材料は、駆動滑車54の対応する面と相互に作用する複数の歯57を形成する。ステップチェーン58(図4)が駆動ベルト56上の歯59と係合して踏段42を所望のように移動させる。
【0017】
実施例の引張部材32のいずれかに金属が用いられる場合、金属材料は保護金属で被覆してもしなくてもよく、保護金属でめっきしてもよい。例えば、主要鉄類は亜鉛、スズ、もしくは銅で被覆もしくはめっきしてもよい。
【0018】
上記の実施例の各アセンブリでは、ジャケット材料は、アセンブリ付近の火災に関連した高温条件下においてさえ、1つもしくは複数の引張部材近傍のジャケット材料の維持を促進する形状安定剤を含む。一部の例の形状安定剤は、ジャケット材料と架橋結合することにより、もしくは、ジャケット材料の熱可塑性ポリマの流動を抑制する粘性炭化物(flow−resistant char)もしくはゲルを形成させることにより作用する。一例の形状安定剤は、リン酸メラミンおよびポリリン酸メラミンを含み、これらはジャケットが熱可塑性ポリウレタンなどの熱可塑性エラストマを備えた場合に有用である。別の例の形状安定剤は、炭化水素リン酸塩(hydrocarbon phosphate)であり、これはジャケットが、溶融加工が可能なゴム(melt−processible rubber)など、弾性合金を備えた場合に有用である。
【0019】
実施例の形状安定剤は、その膨張および炭化物の形成を通じて、ジャケット材料が溶融しそれに関連する引張部材からジャケット材料が滴り落ちるのを防ぐ、難燃性を提供する。換言すれば、形状安定剤は、ジャケット材料がその付近の面に滴り落ちるもしくは流出する可能性を防ぐ膨張殻(intumescent shell)を提供する。実施例の形状安定剤がジャケットの可撓性を低下させず、さもなければ特定の設置の際に選択されたジャケットの特性に支障を及ぼさないように、それらの形状安定剤がジャケットの基材と同様の化学的性質を有している点で有用である。
【0020】
図7はアセンブリの一例の製造方法60を概略的に示す。上述したリン酸ベースの形状安定剤のうちの1つなどの、選択された形状安定剤62の供給物がマスターバッチミキサ66内で基礎高分子樹脂64の供給物と混合される。マスターバッチの混合材料中に供給された形状安定剤62の量は、混合材料の50重量%までを構成する。一例では、20〜50重量%の形状安定剤62を用いることを含む。
【0021】
次いで、この例で得られた混合材料のマスターバッチがジャケット材料ミキサ70中で基礎ポリマ材料68と混合される。符号70の混合後に得られるジャケット材料は20重量%までの形状安定剤を含みうる。一例ではジャケット材料中に2%〜20%(重量)の形状安定剤を含みうる。
【0022】
次いで、成形装置などのジャケット成形ステーション72内で所望の形状のジャケットを提供するように実施例のジャケット材料が成形される。図示の例では、複数のスプール74がジャケット成形ステーション72に引張部材32を供給し、ここで所望のアセンブリをもたらすようにジャケットが引張部材32の少なくとも1つの外側表面上にモールドされる。図7の場合、結果としてもたらされるアセンブリはエレベータ荷重支持部材26である。
【0023】
上記の記載は本質的に限定的なものではなく例示に過ぎない。本発明の真意を逸脱することなく開示の実施例に対する種々の変形や修正が当業者にとって明らかとなるであろう。本発明に付与される法的保護の範囲は付記の特許請求の範囲を検討することによってのみ決定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの長尺の引張部材と、
前記少なくとも1つの引張部材の少なくとも一部を被覆するジャケットと、
を備え、
前記ジャケットが、ポリマ材料と、高温条件に曝された場合に前記引張部材近傍のジャケット材料の維持を促進するメラミンベースの形状安定剤と、を備えたアセンブリ。
【請求項2】
前記形状安定剤が、リン酸メラミンを備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項3】
前記形状安定剤が、ポリリン酸メラミンを備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項4】
前記形状安定剤が、炭化水素リン酸塩を備えることを特徴とする請求項2に記載のアセンブリ。
【請求項5】
前記ジャケット材料が熱可塑性ポリウレタンを備え、前記形状安定剤がリン酸メラミンもしくはポリリン酸のうち少なくとも1つを備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項6】
前記ジャケット材料が弾性合金を備え、前記形状安定剤が炭化水素リン酸塩を備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項7】
前記ジャケットにより少なくとも部分的に被覆された複数の長尺のコード引張部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項8】
前記アセンブリが、エレベータ荷重支持部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項9】
前記エレベータ荷重支持部材が、フラットベルトを備えることを特徴とする請求項8に記載のアセンブリ。
【請求項10】
前記アセンブリが、乗用コンベヤの駆動部材もしくは乗用コンベヤの移動手すりのうちの1つを備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項11】
前記駆動部材が、駆動ベルトを備えることを特徴とする請求項10に記載のアセンブリ。
【請求項12】
前記ポリマ材料が、50重量%までの前記形状安定剤を備えることを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項13】
前記ポリマ材料が、2〜20重量%の前記形状安定剤を備えることを特徴とする請求項12に記載のアセンブリ。
【請求項14】
前記形状安定剤は、高温条件に反応して前記ジャケットの外表面に安定した膨張殻を提供するように作用することを特徴とする請求項1に記載のアセンブリ。
【請求項15】
ポリマジャケットにより少なくとも部分的に被覆された少なくとも1つの長尺のコード引張部材を有するアセンブリの製造方法であって、
ポリマ材料を用意し、
メラミンベースの形状安定剤を用意し、
前記ポリマ材料および前記形状安定剤を所望の形状のジャケットに成形するステップを備えた、アセンブリの製造方法。
【請求項16】
高分子樹脂と前記形状安定剤を混合させることにより一群の混合材料を用意し、
前記一群の混合材料を前記ポリマ材料と混合させることにより一群のジャケット材料を用意することを備え、
前記成形ステップが、前記一群のジャケット材料を用いることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項17】
前記形状安定剤が、リン酸ベースであることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項18】
前記リン酸ベースの形状安定剤が、炭化水素リン酸塩、リン酸メラミン、もしくはポリリン酸メラミンのうちの少なくとも1つを備えることを特徴とする請求項17に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項19】
前記混合材料の用意が、該混合材料のマスターバッチ中に50重量%までの量に対応する前記形状安定剤を用いることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。
【請求項20】
前記ジャケット材料の用意が、前記ジャケット材料中の2〜20重量%の量に対応する前記形状安定剤を用いることを特徴とする請求項15に記載のアセンブリの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公表番号】特表2012−500340(P2012−500340A)
【公表日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522955(P2011−522955)
【出願日】平成20年8月15日(2008.8.15)
【国際出願番号】PCT/US2008/073234
【国際公開番号】WO2010/019150
【国際公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【出願人】(591020353)オーチス エレベータ カンパニー (402)
【氏名又は名称原語表記】OTIS ELEVATOR COMPANY
【Fターム(参考)】